(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165048
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】遺伝子発現抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20241121BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241121BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241121BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241121BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20241121BHJP
A61Q 17/04 20060101ALI20241121BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20241121BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
A61K36/185
A61P29/00
A61P43/00 111
A61Q19/00
A61K8/9789
A61Q17/04
A61K8/92
C12N15/09 Z ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080868
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】507307260
【氏名又は名称】宇航人ジャパン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】309033932
【氏名又は名称】株式会社フィネス
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】清水 邦義
(72)【発明者】
【氏名】楊 建標
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 守恒
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA121
4C083AA122
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC06
4C083CC07
4C083CC13
4C083CC19
4C083CC23
4C083CC31
4C083CC39
4C083DD27
4C083DD30
4C083DD31
4C083EE11
4C083EE17
4C083FF01
4C088AB12
4C088AC04
4C088CA10
4C088ZB11
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】5-LOX遺伝子および/またはCOX2遺伝子の発現を抑制する、新規の遺伝子発現抑制剤を提供する。
【解決手段】サジー種子オイルを有効成分として含有する、5-LOX遺伝子の発現を抑制する遺伝子発現抑制剤。サジー種子オイルを有効成分として含有する、COX2遺伝子の発現を抑制する遺伝子発現抑制剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サジー種子オイルを有効成分として含有する、5-LOX遺伝子の発現を抑制する遺伝子発現抑制剤。
【請求項2】
COX2遺伝子の発現を抑制する、請求項1に記載の遺伝子発現抑制剤。
【請求項3】
サジー種子オイルを有効成分として含有する、COX2遺伝子の発現を抑制する遺伝子発現抑制剤。
【請求項4】
前記サジー種子オイルが、サジー種子の超臨界二酸化炭素抽出物および/または亜臨界二酸化炭素抽出物である、請求項1から3のいずれかに記載の遺伝子発現抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5-LOX遺伝子および/またはCOX2遺伝子の発現を抑制する遺伝子発現抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体の防御反応の一つである炎症反応は、様々な化学物質によって制御されている。炎症が起こると、細胞膜のリン脂質に結合しているアラキドン酸という物質から、酵素を介してロイコトリエン、プロスタグランジンという生理活性物質が作られ、それらの作用で痛みや発熱などの炎症反応が起こる。
【0003】
5-LOX(5-リポキシゲナーゼ)遺伝子は、炎症により誘導されるロイコトリエンの合成に関与する遺伝子である。COX2(シクロオキシゲナーゼ2)遺伝子は、炎症により誘導されるプロスタグランジンの合成に関与する遺伝子である。炎症反応は生体防御に不可欠な反応である一方で、過剰な炎症反応は生体に有害となることがある。過剰な炎症反応の抑制のためにこれらの遺伝子の発現を抑制する物質が研究されている。例えば、COX2遺伝子の発現抑制に関するものとして、特許文献1などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、5-LOX遺伝子および/またはCOX2遺伝子の発現を抑制する、新規の遺伝子発現抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> サジー種子オイルを有効成分として含有する、5-LOX遺伝子の発現を抑制する遺伝子発現抑制剤。
<2> COX2遺伝子の発現を抑制する、前記<1>に記載の遺伝子発現抑制剤。
<3> サジー種子オイルを有効成分として含有する、COX2遺伝子の発現を抑制する遺伝子発現抑制剤。
<4> 前記サジー種子オイルが、サジー種子の超臨界二酸化炭素抽出物および/または亜臨界二酸化炭素抽出物である、前記<1>から<3>のいずれかに記載の遺伝子発現抑制剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、5-LOX遺伝子および/またはCOX2遺伝子の発現を抑制する、新規の遺伝子発現抑制剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】5-LOX遺伝子およびCOX2遺伝子の発現評価試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0010】
<遺伝子発現抑制剤>
本発明は、サジー種子オイルを有効成分として含有する、5-LOX遺伝子の発現を抑制する遺伝子発現抑制剤に関するものである。また、本発明は、サジー種子オイルを有効成分として含有する、COX2遺伝子の発現を抑制する遺伝子発現抑制剤に関するものである。すなわち、本発明の遺伝子発現抑制剤は、5-LOX遺伝子および/またはCOX2遺伝子の発現を抑制することができる。
【0011】
(サジー種子オイル)
サジー種子オイルは、サジーの種子から抽出された油分(疎水性成分)である。サジー(沙棘、学名:Hippophae rhamnoides L.、英語名:Sea buckthorn)は、ユーラシア大陸原産のグミ科ヒッポファエ属の植物である。サジーの種子は、果実そのものや果実を加工した後の残渣などから取り出して用いることができる。例えば、サジー果実を圧搾や裏ごしして液やピューレなどの果汁等に加工するときに除去される残渣から種子を選別しオイルの抽出に用いることができる。残渣等から選別した種子は、適宜、水で洗浄し乾燥させてからオイルの抽出に用いることができる。
【0012】
オイルの抽出方法は特に限定されず、公知の方法を利用することができ、サジーの種子を、適宜、破砕や粉砕した後、超臨界二酸化炭素抽出法や、亜臨界二酸化炭素抽出法、水蒸気蒸留法、有機溶媒抽出法、圧搾抽出法などの抽出方法により抽出し得られた抽出物をサジー種子オイルとして利用することができる。
【0013】
中でも、低温で抽出でき、熱に弱い成分も壊さずに抽出することができる超臨界二酸化炭素抽出法や亜臨界二酸化炭素抽出法を利用することが好ましく、サジー種子オイルは、サジー種子の超臨界二酸化炭素抽出物および/または亜臨界二酸化炭素抽出物であることが好ましい。具体的には、サジー種子オイルは、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を抽出溶媒として用い、サジー種子から油分を抽出し、二酸化炭素を除去する工程を有する方法により得ることが好ましい。抽出条件は、二酸化炭素が超臨界状態または亜臨界状態となる温度、圧力であればよく、例えば、温度20~80℃、圧力10~60MPaや、温度30~80℃、圧力10~50MPa、温度31~60℃、圧力15~40MPa、温度31~40℃、圧力20~30MPaである。
【0014】
(5-LOX遺伝子の発現抑制)
本発明の遺伝子発現抑制剤は、5-LOX遺伝子の発現を抑制することができ、5-LOX遺伝子発現抑制剤として用いることができる。5-LOXは、5-リポキシゲナーゼや、アラキドン酸5-リポキシゲナーゼ、ALOX5などといわれることもあり、ロイコトリエンの合成に関与する酵素である。刺激によって細胞が損傷すると、細胞膜リン脂質よりアラキドン酸が遊離する。5-LOXがアラキドン酸に働くとロイコトリエンが生成される。ロイコトリエンは炎症に関与することが知られており、炎症細胞の遊走、活性化に働くことや気道平滑筋の収縮、血管拡張作用などが知られている。5-LOX遺伝子は、5-LOXをコードする遺伝子であり、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)に記載のOfficial symbolはALOX5である。本発明の遺伝子発現抑制剤は、5-LOX遺伝子からmRNAへの転写や、mRNAから遺伝子にコードされた5-LOXへの翻訳を抑制または阻害して、転写産物や5-LOXを減少させることができる。
【0015】
(COX2遺伝子の発現抑制)
本発明の遺伝子発現抑制剤は、COX2遺伝子の発現を抑制することができ、COX2遺伝子発現抑制剤として用いることができる。COX2は、シクロオキシゲナーゼ2や、プロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ2、COX-2、PTGS2といわれることもあり、プロスタグランジンの合成に関与する酵素である。アラキドン酸にCOX2が働くとプロスタグランジンが生成される。プロスタグランジンは発熱作用や炎症促進作用、痛みを増強する作用などがあることが知られている。COX2遺伝子は、COX2をコードする遺伝子であり、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)に記載のOfficial symbolはPTGS2である。本発明の遺伝子発現抑制剤は、COX2遺伝子からmRNAへの転写や、mRNAから遺伝子にコードされたCOX2への翻訳を抑制または阻害して、転写産物やCOX2を減少させることができる。
【0016】
本発明の遺伝子発現抑制剤は、5-LOX遺伝子およびCOX2遺伝子の発現を抑制するために用いることができる。ロイコトリエンとプロスタグランジンはともに炎症を引き起こす物質である。5-LOX遺伝子およびCOX2遺伝子の両方の発現を抑制することで、ロイコトリエンおよびプロスタグランジンの産生を抑制し、より強力な抗炎症作用が期待できるため好ましい。
【0017】
本発明の遺伝子発現抑制剤は、水溶液や乳化液、分散液、エマルジョンなどの液状;ゲル状や軟膏状、ペースト状、クリーム状などの半固形状;固形状など種々の形態で使用することができる。例えば、化粧水、化粧液、クリーム、乳液、日やけ止め、洗浄料、パック、化粧用油、ボディリンス、マッサージ料、頭皮料、洗髪料、ヘアリンス、リップケア化粧料等の任意の外用剤の形態とすることができる。外用剤の場合、1日1回~数回程度、各外用剤の形態で一般的な量を使用することができる。
【0018】
本発明の遺伝子発現抑制剤は、その形態などに応じて、サジー種子オイルのみで構成しても、サジー種子オイルに加えて、医薬品や、医薬部外品、化粧品等の技術分野で基材や添加剤などの他の成分を含んでもよい。本発明の遺伝子発現抑制剤中のサジー種子オイルの含有量は、本発明の効果を達成できる範囲であれば特に限定されないが、0.3v/v%以上や、0.35v/v%以上、0.4v/v%以上、0.45v/v%以上が好ましい。本発明の遺伝子発現抑制剤中のサジー種子オイルの含有量の上限は特に限定はなく、形態等に応じて、90v/v%以下や50v/v%以下、10v/v%以下、5v/v%以下などとすることができる。
【実施例0019】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0020】
1.試験試料(サジー種子オイル)
H.rhamnoidesの果実(内モンゴル産)を用いたサジー果汁加工後の残渣(種子、果皮の一部を含む)から種子を選別し、飲用水で洗浄した。その後、乾燥させたものを粉砕し、超臨界二酸化炭素抽出(圧力24~26MPa、温度31.25℃、時間3.5時間)により油分を溶解・分離し、褐色透明の抽出液を得た。充填は無菌条件で包装・密封を行った。
【0021】
2.試験方法
(1)評価サンプル
・サジー種子オイル
終濃度:0.2v/v%、0.4v/v%、0.5v/v%
・コントロール
エタノール、終濃度:0.5v/v%
【0022】
(2)実験方法
・細胞培養
HaCaT細胞は、1v/v%ペニシリン-ストレプトマイシンおよび10v/v%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(高グルコース)をφ10cmシャーレに加え、CO2インキュベーター(37℃,5%CO2)で培養を行った。コンフルエントになるまで培養したHaCaT細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗い、培地に再懸濁後、24穴プレートに1×105cells/wellの濃度で播種しCO2インキュベーターで培養した。
【0023】
・培養細胞へのサンプル添加
HaCaT細胞播種から24時間後、サンプルを含む無血清のダルベッコ改変イーグル培地(高グルコース)を各ウェル1mLずつ加え、CO2インキュベーター(37℃,5%CO2)にて24時間培養した。24時間培養後、LPS(100μg/mL)処理を実施した。
【0024】
・リアルタイムPCRによるCOX2遺伝子および5-LOX遺伝子の発現量の比較
LPS処理24時間後のHaCaT細胞を回収し、PureLink RNA Mini kit(Invitrogen)を用いてtotal RNAを抽出した。ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(TOYOBO)にて、抽出したtotal RNAからcDNAを合成した。合成したcDNAを鋳型としてAriaMX リアルタイムPCR装置(アジレント・テクノロジー)でリアルタイムPCRを行った。リアルタイムPCR反応には、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(TOYOBO)を用いた。COX2遺伝子用プライマーとして配列番号1(5’-AAGTTGGCAGCAAATTGAGCA-3’)で表されるフォワードプライマーおよび配列番号2(5’-TCCTTTTCTCCTGTGAAGGCG-3’)で表されるリバースプライマーを、5-LOX遺伝子用プライマーとして配列番号3(5’-TGGCGCGGTGGATTCATAC-3’)で表されるフォワードプライマーおよび配列番号4(5’-CCAGTCGTCATTCAGCCAGT-3’)で表されるリバースプライマーを、内部標準β-アクチン用プライマーとして配列番号5(5’-GGGTCAGAAGGACTCCTATG-3’)で表されるフォワードプライマーおよび配列番号6(5’-GTAACAATGCCATGTTCAAT-3’)で表されるリバースプライマーを使用した。リアルタイムPCR反応条件として、95℃、3分の初期変性後、95℃、3秒での変性、60℃、30秒のアニーリング/伸長という2ステップのPCR反応を40サイクル行った。
【0025】
3.評価結果
図1に、5-LOX遺伝子およびCOX2遺伝子の発現評価試験の結果を示す。
図1は、コントロールを1としたときの相対値を示す図(n=3、平均値±SD.、**はp<0.01)であり、コントロールおよびサジー種子オイル各濃度において、左から順に、COX2、5-LOXの評価結果である。5-LOX遺伝子の発現が0.4v/v%および0.5v/v%サジー種子オイル添加により有意に抑制されることが確認された。同様に、COX2遺伝子の発現も有意に抑制されていることが確認された。