(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165057
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】サーボ加速度計
(51)【国際特許分類】
G01P 15/13 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
G01P15/13 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080885
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 茂高
(57)【要約】
【課題】組み立てやすく、組み立てによるセンサ性能誤差の少ないサーボ加速度計を提供する。
【解決手段】
一対のコイルと31、32と、一対のコイル31、32が巻かれた一対のトルカカップ33、34と、一対のトルカカップ33、34が固定される振子10を備えるサーボ加速度計であって、振子10は、中央部分に孔10gが設けられ、一対のトルカカップ33、34は、振子の孔10gに向かって貫通孔33a、34aが設けられ、一対のトルカカップの一方のトルカカップの貫通孔34aに嵌合するリング部材41と、一対のトルカカップの他方のトルカカップの貫通孔に嵌合する凸部材40と、を備え、凸部材40は振子の孔10gを貫通して、一方のトルカカップの貫通孔34aの内側でリング部材41と嵌合することを特徴とするサーボ加速度計。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のコイルと、
前記一対のコイルが巻かれた一対のトルカカップと、
前記一対のトルカカップが固定される振子を備えるサーボ加速度計であって、
前記振子は、中央部分に孔が設けられ、
前記一対のトルカカップは、前記振子の孔に向かって貫通孔が設けられ、
前記一対のトルカカップの一方のトルカカップの貫通孔に嵌合するリング部材と、
前記一対のトルカカップの他方のトルカカップの貫通孔に嵌合する凸部材と、を備え、
前記凸部材が前記振子の孔を貫通して、前記一方のトルカカップの貫通孔の内側でと前記リング部材と嵌合することを特徴とするサーボ加速度計。
【請求項2】
前記リング部材が前記一方のトルカカップの貫通孔の全体に渡って挿入され、前記凸部材が、前記他方のトルカカップの貫通孔の全体に渡って挿入されていることを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項3】
前記凸部材の凸部が、前記リング部材の貫通孔全体に渡って挿入されていることを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項4】
前記一対のトルカカップの貫通孔の周囲には、前記振子に向かって突出した凸部が設けられることを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項5】
前記一対のトルカカップの凸部の表面と、前記リング部材の表面と、前記凸部材の表面のうち、前記振子と接する面が平坦な面であることを特徴とする請求項4に記載のサーボ加速度計。
【請求項6】
前記一対のトルカカップの凸部の表面、及び、前記リング部材の表面、及び、前記凸部材の表面のうち、前記リング部材と前記振子と前記凸部材に接する面に接着溝を有することを特徴とする請求項5に記載のサーボ加速度計。
【請求項7】
前記振子は石英ガラスで構成され、
前記振子の孔の断面の形状が前記振子の厚み中心で対称な曲面となり、
前記振子の孔を貫通する前記凸部材の挿入部の径が、前記曲面の端部の径よりも小さいことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のサーボ加速度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
振子を用いた力平衡サーボ加速度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のサーボ加速度計は、磁気回路を形成する上側ヨークユニットと下側ヨークユニットとの間に金属膜を形成した振子を備えている。振子表面にはトルカカップが固定され、トルカカップにはコイルが巻きつけられる。加速度の検出では、加速度で生じた振子の変位を検出し、電圧に変換・増幅してコイルに印加する。ヨークユニットが有する磁気空隙内の磁場と、コイルに流れる電流によって生じるローレンツ力(復元力)により、振子の変位をゼロに制御する。このときの復元力は慣性力と等しくなるので、加速度をコイル電流から検知できる。
【0003】
このような構成を有するサーボ型加速度計においては、磁気空隙内でトルカカップはヨークユニットを構成する部品と接触しない。振子表面におけるトルカカップの固定位置がずれた場合、トルカカップはヨークユニットを構成する部品と接触して、加速度計は正常に動作しない。加えて、意図した磁場をコイルが受けられないため、センサ性能に誤差が生じる。例えば特許文献1では、2つのトルカカップ(ボビン)の中心の貫通孔の内壁に、台座の円板の外縁部を接着し、その2つの台座が振子に接着して固定されるサーボ加速度計が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、引用文献1の構成では振子に対する台座の位置決め作業と、振子表面の垂直方向に対するトルカカップの位置決め作業が必要となるため、組立にくい。本発明は、組み立てやすく、組み立てによるセンサ性能誤差の少ないサーボ加速度計を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のサーボ加速度計は、一対のコイルと、前記一対のコイルが巻かれた一対のトルカカップと、前記一対のトルカカップが固定される振子を備えるサーボ加速度計であって、前記振子は、中央部分に孔が設けられ、前記一対のトルカカップは、前記振子の孔に向かって貫通孔が設けられ、前記一対のトルカカップの一方のトルカカップの貫通孔に嵌合するリング部材と、前記一対のトルカカップの他方のトルカカップの貫通孔に嵌合する凸部材と、を備え、前記凸部材が前記振子の孔を貫通して、前記一方のトルカカップの貫通孔の内側でと前記リング部材と嵌合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
組み立てやすく、組み立てによるセンサ性能誤差の少ないサーボ加速度計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】本発明の一実施形態に係る振子および凸部材、リング部材、トルカカップの図
【
図4】本発明の一実施形態に係る凸部材およびリング部材、トルカカップの断面図
【
図5】本発明の一実施形態に係る凸部材およびリング部材、トルカカップの断面図
【
図6】本発明の一実施形態に係る接着溝および固定面の断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
図1に本実施形態のサーボ加速度計の分解斜視図を示す。
図2にはサーボ加速度計の断面図を示す。サーボ加速度計は円板や円筒形状の部品を重ねた装置である。これら部品群の中心軸は一致している。
【0010】
図3に振子10と、コイル31、32が巻回されたトルカカップ33とトルカカップ34、凸部材40、リング部材41とが機械的及び電気的に組み立てられた状態の平面図を示す。舌片形状の振子の錘部10aは、円筒状の枠体である支持部10bの枠内に位置する。錘部10aは、ヒンジ10cを介して支持部10bに連結されて支持される。コイル31が巻回されたトルカカップ33と、コイル32が巻回されたトルカカップ34とが、錘部10aの両板面にそれぞれ取り付けられる。図示されないコイル31とトルカカップ33は
図3に示す振子の錘部10aの裏面に固定される。トルカカップ33とトルカカップ34の中心には、凸部材40、リング部材41が嵌め合わされている。コイル33、34は振子10の表面に形成された配線10eに電気的に接続されている。電気的接続には、例えばはんだ付けが用いられる。振子10は、支持部10b、錘部10aに対して薄肉のヒンジ10cが弾性変形し、入力加速度により加速度検知軸30方向に変位する。
【0011】
振子10は、一対のヨーク13、14に挟みこまれている。そして、振子10は各ヨークに接する3つの取り付けパッド10fを支持部10bの両面に持つ。支持部10bとヨーク13、14の固定には、取り付けパッド10fとヨーク13、14の静止摩擦力を利用する方法や、取り付けパッド10fとヨーク13、14の接触面における金属結合や拡散結合を利用する方法がある。
【0012】
振子の錘部10aと支持部10b、ヒンジ10cの製作方法の一例を説明する。金属やガラス材料の母材から板材を切り出し、研磨することで所望の厚みと面精度となる基板を製作する。振子10の表面は、トルカカップ33、34や凸部材40、リング部材41、ヨーク13、14の位置の基準となる。そのため、振子表面の面精度が高いほど、各部品の組立精度は向上する。次に切削加工やウェットエッチング、レーザなどによって、母材の一部を除去することで、振子の錘部10aと支持部10b、ヒンジ10cの形状を製作する。
【0013】
ヨーク13、14の一端側は、円形状のヨーク15、16によって閉塞され、他の一端側である開放端面側が支持部10bに接している。ヨーク13と14の外周にはシールバンド21が接着剤により固定される。ヨーク13、14の内部には、それぞれポールピース17、18、及び円柱状の永久磁石19、20が収容されている。この構成により、ヨーク13、14の開放端内周面とポールピース17、18の外周面との間に環状の磁気空隙がそれぞれ形成される。
【0014】
永久磁石19、20の材料には、板厚方向に着磁されたネオジムやサマリウムコバルト、アルニコ磁石が用いられ、ヨーク13、14と円形状ヨーク15、16、ポールピース17、18は軟磁性材料が用いられる。永久磁石19、20と円形状ヨーク15、16、とポールピース17、18は、それぞれ接着材により固定され、ヨーク13、14と円形状ヨーク15、16はレーザ溶着によって接合固定される。
【0015】
錘部10aの上面及び下面には、静電容量電極10dが形成されて2つのコンデンサ板として機能する。静電容量電極10dに対向して形成されたヨーク13、14の電極面13e、14eは共通電位とされ、錘部10aの両板面の静電容量電極10dの検出信号は、ヒンジ10cと支持部10bの表面に形成された配線10eと、それに接続されている導線22、および端子23を介して、図示しないサーボアンプにより差動増幅される。そして、一対のコイル31、32に静電容量差に基づいた電流が、別の端子と配線10eを経由して流れる。
【0016】
振子の配線10eと静電容量電極10d、取り付けパッド10fは金の薄膜構造体である。薄膜構造体は成膜と形状加工により製作することができる。成膜方法は、物理蒸着法や化学蒸着法、電気めっき法、化学めっき法が挙げられる。形状加工では、成膜工程で意図した部分だけに薄膜を形成する方法、すなわち選択的成膜法を行う場合と、成膜した後に意図した部分を除去する方法、選択的除去法が挙げられる。選択的成膜法では、開口部を持つメタルマスクやフォトレジストパターン、マスキングテープ等(以下、マスク部品)を振子10表面に予め形成・固定することで、開口部に露出した振子10表面だけに薄膜構造体を成膜する。選択的除去法では、成膜した薄膜の表面にマスク部品を形成・固定することで、薄膜構造体として残す部分を保護する。次に、保護していない導電性薄膜の部分を物理的エネルギーや、エッチング液等で除去する。マスク部品を除去すると薄膜構造体は形成される。
【0017】
振子10の平面に垂直となる方向(加速度検知軸30)に加速度が印加されると、加速度を受けた錘部10aは変位するが、トルカ電流と磁気空隙内の磁界で生じるローレンツ力により変位は中立点へ戻り、加速度で生じる力とローレンツ力は平衡する。この時、トルカ電流の大きさは、加速度検知軸に沿った加速度の大きさに直接的に対応するため、加速度を検知することが出来る。
【0018】
トルカカップ33、34が振子10の中心からずれて固定されると、磁気空隙内においてトルカカップ33、34がヨーク13、14と接触して、錘部10aが正常に動作しなくなる。トルカカップの中心軸が、振子の垂直軸から傾くと、本来は中心軸に沿って生じる復元力は、中心軸から傾きをもって発生することになる。これは振子に不要な回転モーメントを生じさせる。これと平衡するために、連続的な復元力を錘部10aに与えることになるため、出力信号に回転モーメントに対応した誤差が生じる。振子に対するトルカカップの位置ずれと傾きを軽減すれば、それに起因する動作不良や精度の低下を抑制することができる。
【0019】
<実施例1>
図4に、本発明のサーボ型加速度計に用いられる振子10と、コイル31が巻回されたトルカカップ33と、コイル32が巻回されたトルカカップ34と、凸部材40と、リング部材41とが、機械的に組み立てられた状態の断面を示す。
図4は、
図3の振子10の中心を通り、ヒンジ10cの長手方向と垂直であるAA破線で切断した面である。振子10は凸部材40が嵌合する振子の孔10gを錘部10aの中心に備える。凸部材40は、径が大きい固定部40aと径が小さい挿入部40bで構成され、凸部材の固定部40aが錘部10aの表面に接し、凸部材の挿入部40bは振子の孔10fに挿入され、逆側に貫通している。また、凸部材の中心には貫通孔40cを備えている。リング部材41は中心に貫通孔41cを備え、凸部材の挿入部40bの外壁とリング部材の貫通孔41cの内壁が接して嵌る構造である。トルカカップ33、34は中心に貫通孔33a、34aを備える。トルカカップの貫通孔33a、34aの内壁は、凸部材の固定部40aの外壁か、またはリング部材41の外壁と接して嵌る構造である。凸部材の固定部40aの厚みとリング部材41の厚みは、トルカカップの貫通孔33a、34aの深さよりも大きい。トルカカップ33、34は端板33b、34bと、端板端板33b、34bの一方の面にその外形よりも小さな外形の凸部33c、34cを備え、凸部33c、34cが錘部10a表面に固定されている。
【0020】
図4示す部品の組立方法の一例を説明する。初めに、凸部材の挿入部40bを振子の孔10gに挿入する。錘部10a表面に接する固定部40aの面には、予め接着剤を塗布しておき、凸部材の固定部40aを錘部10a表面に押し付けた後に接着剤を硬化させる。次に、リング部材の貫通孔41cを凸部材の挿入部40bに挿入する。貫通孔41cの内径側面と、錘部10aと接触する面に予め接着剤を塗布しておき、リング部材41を錘部10aに押し付けた後に接着剤を硬化させる。最後に、凸部材40とリング部材41にトルカカップの貫通孔33a、34aを挿入する。トルカカップの凸部33c、34cの表面と、貫通孔33aと34aの内面に接着剤を予め塗布しておき、錘部10a表面と凸部材40またはリング部材41を錘部10aに押し付けた後に接着剤を硬化させる。これら組立に使用する接着剤の材料としては、エポキシ系接着剤が挙げられる。
【0021】
組立作業では、凸部材40を振子の孔10gに挿入して固定し、リング部材41と一対のトルカカップ33、34を順番に嵌め合わせて、それぞれを振子表面へ押し付けるだけで完了する。振子と各部品の位置を同軸状に合わせる作業では、各部品の嵌め合いにより、振子10よりも上面で簡単に合わせられる。振子表面に対する垂直方向の位置決めでは、各部品を錘部10a表面への押し込むだけで容易に行われる。以上のように、本実施例1に係るサーボ加速度計は、振子とトルカカップの組立において良好な作業性を得られる。
【0022】
組立部品同士が接着剤を介して接する2つの面は、それぞれ同一面であり、旋盤加工などで同時加工を行うことができ、その構造は単純である。このため、各部品の接着面は高い寸法精度で製作することができる。本実施例1に係るサーボ加速度計は、高い寸法精度持つ部品により、高い組立精度を得られるため、振子10に対するトルカカップ33、34の位置ずれを小さくすることができる。
【0023】
凸部材40やリング部材41にトルカカップの貫通孔33a、34aを挿入するときには、凸部材40やリング部材41の外壁と、トルカカップの貫通孔33a、34aの中心軸は一致することが理想である。しかし、手作業でそれを達成することは困難であり、自動化された組立装置においても位置精度には限界がある。実際の組立では、凸部材40またはリング部材41と、トルカカップの貫通孔33a、34aの中心軸がずれた状態でそれぞれが接触するが、このままの状態では嵌合しない。中心軸のずれを補正するためにトルカカップ33、34の位置を調整すると、トルカカップ33、34の微動によって、トルカカップの凸部33c、34cに付着した接着剤が、錘部10aの意図しない箇所に接触する。例えば、トルカカップの端板34bと錘部10aの表面の隙間に接着剤が付着し残留すると、硬化した接着剤がトルカカップ34を変形させる。変形したトルカカップ34は、ヨーク14やポールピース18と接触して、振子の動作不良を引き起こす。
【0024】
本実施例1に係るサーボ加速度計は、リング部材41と凸部材40が、一対のトルカカップの貫通孔33a、34aの全体に渡って挿入されている。このため、錘部10aから離れた位置でリング部材41の外壁にトルカカップの貫通孔34aを挿入することができる。すなわち、凸部材40またはリング部材41とトルカカップの貫通孔33a、34aの中心軸を、錘部10aから離れた位置で合わせることができる。これにより、トルカカップの位置調整によってトルカカップの凸部33c、34cに付着した接着剤が、錘部10aの意図しない箇所に接触しにくい。加えて、トルカカップの貫通孔33a、34aの内径表面全てが凸部材40とリング部材41と接するため接着力が最も大きくなる。更には、凸部材40とリング部材41とトルカカップの貫通孔33a、34aが接する面の高さが大きければ、凸部材40やリング部材41の中心軸に対するトルカカップ33、34の中心軸の傾きは小さくなる。なぜなら、軸(凸部材40またはリング部材41)と孔(トルカカップの貫通孔33a、34a)の隙間寸法に対して、軸と孔が接する面の高さ寸法が増えれば、正接関数の関係に従って、この傾きの角度が減少するからである。凸部材の固定部40aとリング部材41の厚みの上限は、ポールピース17、18と接触しない厚みである。凸部材の固定部40aとリング部材41がポールピース17、18と接触すると、振子の動作を妨害するため加速度計は正常に動作しない。同様の理由で、本実施例1に係るサーボ加速度計は、凸部材の凸部40bが、リング部材の貫通孔41c全体に渡って挿入されている。
【0025】
コイル31、32は銅などの導線を巻きつけたものであり、そのばらつきにより導線の密度は場所ごとに変化する。また永久磁石19,20とヨーク13、14により磁気空隙で生じる磁場は、各部品の磁気特性のばらつきやヨーク形状の差によって、場所ごとに一様ではない。そのため、導線が磁場から受ける局所的な復元力はばらつきが生じる。このため、導線の集合体であるコイルが発生する復元力はコイル31、32の円周方向で差が生じる。本実施例2に係るサーボ加速度では、一対のトルカカップの貫通孔33a、34aの周囲には、振子10に向かって突出した凸部34cが設けられる。これにより、復元力はトルカカップの端板33b、34bの一方の面の凸部33c、34cを介して錘部10aに伝達される。凸部33c、34cは振子10の中心の周辺に固定されるため、コイル円周方向にバラつきを持つ復元力の合力は凸部33c、34cで集約され、振子の中心軸に沿った方向で働く。一方、トルカカップの凸部33c、34cが無く、トルカカップの端板33b、33cの一方の面の全面が振子の錘部10aに固定された場合、コイルが発生させる復元力の作用点は、トルカカップの凸部33c、34cがある場合に比べると、振子10の中心から遠ざかる。そして、振子10の中心を通る軸を回転軸としたモーメントは増加する。すなわち、トルカカップの凸部が振子の錘部に固定されることで、振子に生じる不要な回転モーメントを軽減することができる。
【0026】
一対のトルカカップの凸部33c、34cの表面と、リング部材41の表面と、凸部材の表面のうち、振子と接する面に凹凸があると、各部品の中心軸は振子表面の垂直軸から傾いて振子に固定される。各部品における振子10と接する面を平坦にすると、この傾きを小さくすることができる。
【0027】
温度変化により振子10やトルカカップ33、34、凸部材40、リング部材41の形状は変化し、振子10に対するトルカカップ33、34は本来の位置から移動する。同一の材料でこれらの部品を構成すれば、各部品の変形量は同じとなり、各部品の相対的な位置のずれは少なくなる。同じように、同一の材料で構成された部品同士の間に存在する接着層では、部品との界面で受ける応力は小さくなる。そのため、接着剤の界面剥離が生じにくい。振子10やトルカカップ33、34、リング部材41、凸部材40を同じ材料で構成すれば、温度変化で生じるトルカカップ33、34の位置ずれや脱離を抑制することができる。
【0028】
<実施例2>
振子10に対するトルカカップ33、34の位置ずれを小さくするためには、接着面同士の隙間を小さくして部品を嵌合させる必要がある。一方では、その隙間に形成される接着層の厚みは薄くなる。接着層のせん断強度と剥離強度は、接着層の厚みによって変化するため、接着層が薄くなると所望の接着力を得られない場合がある。飛行機やロケットなどに搭載する加速度計では、飛行や離陸、着陸などにより大きな衝撃や振動が生じるため、加速度計に高い耐衝撃性能が求められる。このように、トルカカップ33、34の位置ずれを小さくすることで生じてしまう接着面の強度の低下を改善する必要がある。
【0029】
本実施例2に係るサーボ加速度は、一対のトルカカップの凸部33c、34cの表面、及び、リング部材41の表面、及び、凸部材40の表面のうち、リング部材41と振子10と凸部材40に接する面に接着溝を有する。実施例2を
図5に示す。
図5は、
図3における錘部10aの中心付近のAA断面を振子10の中心で軸対称に示した図である。リング部材41の外壁と接するトルカカップの貫通孔34aの内壁には、リング部材41と接する固定面43と、凹形状となる接着溝42を備える。接着溝42には接着剤が充填され、接着溝42の深さが接着層の厚みとなる。接着溝42から突き出た固定面43は、リング部材41の外壁と接して嵌る構造である。固定面43は同一加工された同一面であり、リング部材41の外壁を基準にしてトルカカップ34の位置を決める。そのため、接着溝42によるトルカカップ34の位置ずれの低下は無い。
図5に示すように、凸部材40やリング部材41、またはトルカカップ33、34が、他の部品と接する面において、固定面43と接着溝42を必要に応じて備えても良い。なお、本実施例の組立方法は実施例1と同様である。
【0030】
本実施例2に係るサーボ加速度計は、振子の孔10gの端面の角部と、振子10の表面と接するトルカカップ33a、34aの貫通孔の端面の角部と、凸部材の挿入部40bの端面の角部と、振子10の表面と接するリング部材の貫通孔41cの端面の角部と、リング部材41の外壁の端面で前記振子と接しない角部の、いずれか一つ以上が面取り部、またはR面を備える。これらの軸と孔を嵌合させる際には、それぞれの端面の角部に傾斜を持つため、それを案内として、楽に嵌合させることができる。例えば、
図5における凸部材の固定部40aの外壁にトルカカップの貫通孔33aを挿入する際には、凸部材の固定部40aの外壁の面取り部44と、トルカカップの貫通孔33aの面取り部46が接触し、トルカカップ33が面取り部44、46の傾斜に従って、振子の錘部10a表面側に押し付けられる。このとき、面取り部44、46の傾斜を滑ることでトルカカップ33の貫通孔33aの中心軸と凸部材の固定部40aの外壁の中心軸が一致した状態で嵌合する。面取り部44、46の効果は、組立時に各部品の中心軸を合わせる為の作業が不要になるか省力化できることである。面取り部やR面が無い場合では軸と孔の端面の角部は直角に近い形状となるため、嵌合時に互いが接触すると応力集中が起き易く変形しやすい。変形した軸や孔を嵌合することは困難である。つまり、面取り部やR面は組立不良を抑制することができる。
【0031】
凸部材40が接着される面は、凸部材の固定部40aと振子の錘部10aが接する面と、嵌合凹部会の貫通孔41cの内壁の2面である。接着剤の硬化による収縮で、この2面が凸部材40へ曲げモーメントを与えて、隅部40dに応力が発生する。隅部40dが直角の形状や、逃げ溝加工などにより内部に切り欠きが形成される場合では、そこで応力集中が発生し、隅部40dが破断する可能性がある。本実施例2に係るサーボ加速度計は、隅部40dをR面にすることで応力集中を緩和させ、凸部材40の破壊を抑制することができる。
【0032】
図6に接着溝42と固定面43の例を示す。所望の接着層の厚みを得ることを目的として、接着溝42の形状は段差や曲面形状でも良い。同様に、対向する接着面の両方に接着溝42を形成しても良い。もしくは、固定面43に接着剤を塗布して接着面としても良い。このように、接着溝42や固定面43の表面に形成した接着層の厚みや面積を調整することで、所望の接着力を得ることができる。本実施例では、接着溝42の凹形状が曲面や段差となり、接着溝42の一方の接着溝と、他方の接着溝が対向して配置される。
【0033】
<実施例3>
加速度計に温度変化が生じると、熱膨張や熱収縮によりサーボ加速度計を構成する部品の形状が変化する。それにより、振子10の形状の変化が起きて、加速度を反映する振子の動作が変化し、センサ精度の低下を招く。これを低減するには、構成部品の材料は可能な限り、低い線膨張係数を持つ材料を使用する必要がある。特に、各部品の位置の基準となり、振動子そのものである振子10は変形が少ないことが求められる。石英ガラスは0.5×10-6/K程度の線膨張係数を持つ。一般的な商用金属に比較して、線膨張係数は1/10程度である。また絶縁材料であるため、振子の表面に形成する配線と導通しない。更には、非磁性材料であるため、ヨーク13、14、円形状ヨーク15、16と磁石19、20、ポールピース17、18が形成する磁気空隙内の磁場に影響を与えない。振子10の材料として、石英ガラスは適している。
【0034】
機械加工などの外力を用いる加工方法では、脆性材料である石英ガラスは割れやすい。割れない場合においても、加工面には微小な凹凸が発生するため、衝撃が与えられた時に凹部分を起点にして破断し易い。一方、対象を化学的に除去するエッチング法であれば、加工部分を一様に除去できるため、加工表面に微小な凹凸は発生しにくい。このため、石英ガラスを用いた振子の形状加工にはエッチング法が適している。エッチング法では、母材となる板状の石英ガラスの一部分を、フッ化水素酸などの薬液を用いて除去する。このとき、石英ガラスを除去しない部分の表面には、薬液に耐性を持つ薄膜構造体やフォトレジストなどで構成されるマスクパターンを形成する。表面にマスクパターンが形成された石英ガラス部分はエッチング後も残って振子10を形作る。マスクパターンが形成される箇所と、そうでない箇所の境界では、マスクパターンが無い部分の石英ガラスの表面から薬液が侵入して、マスクパターンの裏面側の石英ガラスを溶かしていく。石英ガラスを溶かす速度は一定であるため、マスクパターンがある部分と無い部分の境界の加工断面は曲面形状となる。
【0035】
石英ガラスを用いた振子の孔の加工方法を説明する。初めに、板状の石英ガラスの両面にマスクパターンを形成する。2つのマスクパターンには、振子の孔と同じか、それよりも小さい円形の開口部が設けられており、2つ開口部は石英ガラスの厚み中心で面対称の関係になっている。エッチングでは、石英ガラスの両面にある2つのマスクパターンの開口部から薬液が侵入して石英ガラスを溶かし、それぞれの開口部の端部で曲面形状を形成する。このような加工となるため、振子の貫通孔の断面形状は、振子の厚み方向で対称となる曲面を持ち、2つの曲面が交わる振子の厚み中心付近では、石英ガラスの厚みは非常に薄くなる。
【0036】
実施例3を
図7に示す。
図5と同様に、振子の中心の切断面であり、各部品を軸対称に示す。振子10は石英ガラスで構成され、振子の中心の孔10gの断面形状は、振子の厚み中心で対称な曲面となる。振子の孔10gの最も厚みが薄くなる端部10hと、凸部材40は接触しない。すなわち、振子の孔10gの径よりも凸部材の挿入部40bの径は小さい。凸部材の挿入部40bの径が振子の孔10gよりも等しいか大きい場合、凸部材40を振子の孔10gに挿入する際に、凸部材の挿入部40bは振子の孔の端部10gに接触し、曲げ応力を与える。石英ガラスの引張強度は50MPaであり、商用金属に比べて低い。例えばステンレスと比較すると1/10以下である。更には、振子の孔の端部10gの厚みは薄いため、曲げ応力に対して、非常に破断し易い構造である。振子の孔10gの径よりも凸部40の径を小さくすることで、組立における振子の破損を避けることが出来る。なお、本実施例の組立方法は実施例1と同様である。
【符号の説明】
【0037】
10 振子
10g 孔
10h 孔の端部
13、14 ヨーク
33、34 トルカカップ
33a、34a 貫通孔
33b、34b 端板
34c、34c 凸部
40 凸部材
40a 固定部
40b 挿入部
40c 貫通孔
40d 凸部材の挿入部の隅部
41 リング部材
41c リング部材の貫通孔
42 接着溝
43 固定面
44、46 面取り部