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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165058
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】サーボ加速度計
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/13 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
G01P15/13 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080886
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 茂高
(57)【要約】      (修正有)
【課題】錫(Sn)を含む半田を用いて振子の表面の金(Au)配線と導線を接合すると、半田と配線が断線するか、接触不良を起こしやすい。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明のサーボ加速度計は、振子1に生じた慣性力と、トルカカップに巻き付けられたコイルに流れる電流及びポールピースを通る磁場で生じるローレンツ力が平衡するサーボ加速度計であって、慣性力により生じた電流が流れるAu層43として振子1の表面に形成された薄膜配線10eと、薄膜配線10eに流れる電流を導電する金属材料で構成された導線41と、を有し、薄膜配線10eと導線41に流れる電流の経路にNi層42が形成され、導線41は、Ni層42に接するSnを含む半田40でNi層42と固定されたことを特徴とする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振子に生じた慣性力と、
トルカカップに巻き付けられたコイルに流れる電流及びポールピースを通る磁場で生じるローレンツ力が平衡するサーボ加速度計であって、
慣性力により生じた電流が流れるAu層として前記振子の表面に形成された薄膜配線と、
前記薄膜配線に流れる電流を導電する金属材料で構成された導線と、を有し、
前記薄膜配線と前記導線に流れる電流の経路にNi層が形成され、
前記導線は、前記Ni層に接するSnを含む半田で前記Ni層と固定されたことを特徴とするサーボ加速度計。
【請求項2】
前記振子の表面と対向する前記Au層の面が前記Ni層と接していることを特徴とする、請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項3】
前記Au層が前記Ni層の下地であることを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項4】
前記Ni層の側面を前記Au層で覆うことを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項5】
前記Ni層または前記Au層の底面に、Cr、Tiまたはその合金によって構成される密着層を有することを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項6】
前記Ni層はNi-Cu、Ni-Sn、Ni-P、Ni-W、Ni-Moもしくはこれらに他の元素を含んで成る合金であり、
Ni含有量が80~70wt%であり、
飽和磁束密度が10-T以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のサーボ加速度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
振子を用いた力平衡サーボ加速度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のサーボ加速度計は、磁気回路を形成する上側ヨークユニットと下側ヨークユニットとの間に電極膜を形成した振子を備えている。振子表面にはトルカカップが固定され、トルカカップにはコイルが巻きつけられる。加速度の検出では、加速度で生じた振子の変位を、ヨークユニットと電極膜の間に生じる静電容量により検出し、電圧に変換・増幅してコイルに印加する。ヨークユニットが有する磁気空隙内の磁場と、コイルに流れる電流によって生じるローレンツ力(復元力)により、振子の変位をゼロに制御する。このときの復元力は慣性力と等しくなるので、加速度をコイル電流から検知できる。
【0003】
このような構成を有するサーボ型加速度計においては、振子の表面に形成された金(Au)薄膜の配線を介して、復元力を制御する回路やコイル、電極膜などが電気的に接続される。そして、コイルを構成する導線を薄膜配線に固定し、電気的に接続させる接合用部材として、錫(Sn)を含む半田が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58-014024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献1の構成では、Snを含む半田を用いて振子の表面のAu薄膜配線と導線を接合すると、Au薄膜配線は溶融した半田に溶けて断線しやすい。また、Au薄膜配線と半田は接合強度が低いため、接触不良が起きやすい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のサーボ加速度計は、振子に生じた慣性力と、トルカカップに巻き付けられたコイルに流れる電流及びポールピースを通る磁場で生じるローレンツ力が平衡するサーボ加速度計であって、慣性力により生じた電流が流れるAu層として振子の表面に形成された薄膜配線と、薄膜配線に流れる電流を導電する金属材料で構成された導線と、を有し、薄膜配線と導線に流れる電流の経路にNi層が形成され、導線は、Ni層に接するSnを含む半田でNi層と固定されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
半田と薄膜配線が断線や接触不良を起こしにくいサーボ加速度計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】サーボ加速度計の分解斜視図
図2】サーボ加速度計の断面図
図3】本発明の一実施形態に係る振子の図
図4】振子の基部の平面図
図5】本発明の一実施形態に係る薄膜配線の断面模式図
図6】本発明の一実施形態に係るNi層とAu層の製作方法を示す断面模式図
図7】本発明の一実施形態に係る薄膜配線の断面模式図
図8】本発明の一実施形態に係るNi層とAu層の製作方法を示す断面模式図
図9】本発明の一実施形態に係る薄膜配線の断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。図1に本実施形態のサーボ加速度計の分解斜視図を示す。図2にはサーボ加速度計の断面図を示す。サーボ加速度計は円板や円筒形状の部品を重ねた装置である。これら部品群の中心軸は一致している。図3に振子1の斜視図を示す。
【0010】
振子1は、振子の基部10の表面にコイル11、12を巻回されたトルカカップ13、14が固定されている。固定の方法としては、エポキシ系接着剤による接着や、ネジなどを用いた機械的な固定、溶接などを用いた接合が挙げられる。トルカカップ13、14の材質は非磁性で軽量な材料が適しており、アルミ合金やチタン合金、樹脂材料などで構成される。コイル11、12は線形状で金属材料の導線41で構成される。導線41には高い導電性が必要となるため、銅や銅合金、アルミ、アルミ合金などが適している。導線41の外周に備わる絶縁層には絶縁性と耐熱性が求められるため、ポリウレタンやポリエステル、ポリエステルイミドなどで絶縁層は構成される。コイル11、12は、トルカカップ13、14に導線41を巻きつけて作られる。導線41の絶縁層の外周には融着層を備え、融着層同士が接着することで、巻回した後の形状が固定される。接着方法としては、溶剤を塗布する方法や、加熱による軟化・融解が挙げられる。融着層には加工のし易さと耐熱性が求められるので、主にポリビニルブチラルやポリアミド、ポリエステルなどで融着層は構成される。
【0011】
図4に振子1の基部10の平面図を示す。舌片形状の振子の錘部10aは、円筒状の枠体である支持部10bの枠内に位置する。錘部10aはヒンジ10cに連結し支持部10bに支持される。振子1に加速度が生じると、振子の支持部10bに対して薄肉のヒンジ10cが弾性変形し、加速度検知軸30方向に錘部10aが動く。コイル11、12から引き出された導線41は、合金材料で構成された半田40で、振子の基部10の表面にある薄膜配線10eに固定される。そして、コイル11、12は薄膜配線10eと電気的に接続する。
【0012】
振子1は、一対のヨーク15、16に挟みこまれている。そして、振子1は各ヨークに接する3つの取り付けパッド10fを支持部10bの両面に持つ。支持部10bとヨーク15、16の固定には、取り付けパッド10fとヨーク15、16の静止摩擦力を利用する方法や、取り付けパッド10fとヨーク15、16の接触面における金属結合や拡散結合を利用する方法がある。
【0013】
振子1の錘部10aと支持部10b、ヒンジ10cの製作方法を説明する。金属やガラス材料の母材から板材を切り出し、研磨することで所望の厚みと面精度となる基板を製作する。振子10の表面は、トルカカップ11、12やヨーク15、16の位置の基準となる。そのため、振子表面の面精度が高いほど、各部品の組立精度は向上する。次に切削加工やウェットエッチング、レーザなどによって、母材の一部を除去することで、振子の錘部10aと支持部10b、ヒンジ10cの形状を製作する。
【0014】
ヨーク15、16の一端側は、円形状のヨーク17、18によって閉塞され、他の一端側である開放端面側が支持部10bに接している。ヨーク15、16の内部には、それぞれポールピース19、20、及び円柱状の永久磁石21、22が収容されている。この構成により、ヨーク15、16の開放端内周面とポールピース19、20の外周面との間に環状の磁気空隙がそれぞれ形成される。シールバンド23は、ヨーク15と16の外周に接着剤などを用いて固定さる。それにより、振子1はヨーク15、16に対して固定される。
【0015】
永久磁石21、22は、板厚方向に着磁されたネオジウムやサマリウムコバルト、アルニコ磁石などで構成され、ヨーク15、16と円形状ヨーク17、18、ポールピース19、20は軟磁性材料で構成されている。永久磁石21、22と円形状ヨーク17、18と、ポールピース19、20は、それぞれ接着剤により固定され、ヨーク15、16と円形状ヨーク17、18はレーザ溶接によって接合される。
【0016】
錘部10aの上面及び下面には、静電容量電極10dが形成されて2つのコンデンサ板として機能する。静電容量電極10dに対向して形成されたヨーク15、16の電極面15e、16eは共通電位とされ、錘部10aの両板面の静電容量電極10dの検出信号は、ヒンジ10cと支持部10bの表面に形成された薄膜配線10eと、それに電気的に接続されている導線24、および端子25を介して、図示しないサーボアンプにより差動増幅される。そして、一対のコイル11、12に静電容量差に基づいたサーボ電流が、別の端子と薄膜配線10eを経由して流れる。
【0017】
振子10の平面に垂直となる方向(加速度検知軸30)に加速度が印加されると、加速度を受けた錘部10aは変位するが、トルカ電流と磁気空隙内の磁界で生じるローレンツ力により変位は中立点へ戻り、加速度で生じる力とローレンツ力は平衡する。この時、トルカ電流の大きさは、加速度検知軸に沿った加速度の大きさに直接的に対応するため、加速度を検知することが出来る。
【0018】
導線24は導線41と同様の材料で構成される。端子25は主に導電性が高い材料、例えば、銅やアルミ、鉄などの単一の金属か、その合金で構成される。特に、銅は電機伝導率が高いため適している。だだし銅は酸化し易いため、その表面に酸化防止のためにAu薄膜が形成することが好ましい。端子25と導線24の固定方法には、ワイヤーボンディングや半田付け、レーザ溶接が挙げられる。
【0019】
(実施例1)
図5に、本発明のサーボ型加速度計に用いられる半田40と導線41、薄膜配線10eを断面模式図で示す。この断面図は、図4のAからBまでを切断し、図4に示した面を上側にして示した図である。振子1の表面にあるAu層43で形成された薄膜配線10eと、薄膜配線10eと導線41との間にNi層42が形成され、導線41は、Ni層42に接するSnを含む半田40でNi層42と固定されている。導線41は半田40で覆われており、Ni層42の底面は振子の錘部10aと接している。
【0020】
Ni層42とAu層43は薄膜構造体である。薄膜構造体は成膜と形状加工により製作することができる。成膜方法は、物理蒸着法や化学蒸着法、電気めっき法、化学めっき法が挙げられる。形状加工では、成膜工程で意図した部分だけに薄膜を形成する方法、すなわち選択的成膜法を行う場合と、成膜した後に意図した部分を除去する方法、選択的除去法が挙げられる。選択的成膜法では、開口部を持つメタルマスクやフォトレジストパターン、マスキングテープ等(以下、マスク部品)を振子の基部10の表面に予め形成・固定することで、開口部に露出した振子の基部10の表面だけに薄膜構造体を成膜する。選択的除去法では、成膜した薄膜の表面にマスク部品を形成・固定することで、薄膜構造体として残す部分を保護する。次に、保護していない薄膜の部分を物理的エネルギーや、エッチング液等で除去する。マスク部品を除去すると振子の基部10の表面に薄膜構造体は形成される。
【0021】
半田40が薄膜配線10eから剥離する現象を抑制するには、半田40とNi層42の接合力を向上させると共に、Au層43とNi層42の接合力(密着力)や、Au層43と振子の基部10との密着力、各薄膜構造体の強度の向上も求められる。即ち、これら薄膜構造体の製作方法は良好な密着力や強度を得られる手法が好ましい。物理蒸着法の一つであるスパッタ法は、他の物理蒸着法と比較して有利である。スパッタ法では、真空中でArガスを導入し、電圧印加してArガスをプラズマ化させ、プラズマ中でArイオンが加速されて原材料に衝突する。そして、原材料表面の粒子がはじき飛ばされる(スパッタリング現象)により、原材料に対向する基材の表面に付着する。スパッタリング現象で飛来した粒子は高いエネルギーを持つため、堆積面の表面エネルギーは高くなる。そのため、堆積する表面に対して高い付着力を得られる。また、飛来した粒子が堆積面の表面で凝集し易いため、元素がより緻密な状態となる高強度な薄膜を得やすい。
【0022】
図6を用いて、薄膜配線10eとNi層42、Au層43の製作方法を説明する。振子の錘部10aの表面に半田40の土台となるNi層42を薄膜構造体として製作する。次に、Ni層42を覆う形でAu層43も同様に製作する。Au層43はNi層42を形成した部分の他に、振子のヒンジ部10cや支持部10bの表面にも堆積させる。Au層43は、薄膜配線10eの大部分を占める。
【0023】
半田40の製作方法を説明する。まず初めに、図6に示すNi層42の上面にあるAu層43を除去する。その方法とは、加熱した半田ゴテ等に溶融半田を付着させた後に、Ni層42の上面のAu層43に溶融半田と半田ゴテを接触させる。Ni層の表面にあるAu層43を溶融半田に溶解させた後に半田ゴテを加工部から離す。この時、Ni層の表面にあったAu層43は、溶融半田と共に除去される。そして、Ni層の表面には半田に含まれる元素とNiによる化合物層が形成される。その後に、コイル11、12から引き出した導線41をNi層42に半田付けで固定する。このとき、Ni層の表面に形成された酸化膜を除去するフラックスを必要に応じて加工部に塗布しておく。次に、溶解させた半田で導線41とNi層42の表面を覆う。そして、自然冷却により半田40は凝集し固体となり、Ni層42の表面に固定される。このとき、半田40は導線41や薄膜配線10eとの界面に金属間化合物層を形成することで、これらの部品を強固に固定することが出来る。後処理としては、残留したフラックスを溶剤などで除去することが挙げられる。
【0024】
振子1への熱影響を軽減するためと、加工を容易にするために、半田は低融点材料であることが好ましい。このため、半田は錫(Sn)を含有した合金で構成される。特に、共晶半田と呼ばれるSn37%、Pb63%の合金では、183℃の融点を持ち、貴金属系半田と比較して安価であり、主要な薄膜配線材料に対して良好な濡れ性を得られるため、経済性と信頼性が求められる半田40に適している。
【0025】
半田付けでは、溶融半田にNiの表面が溶け出すことで、主にSnとNiの金属間化合物を形成する。溶解速度が速いと溶け出す量も多くなるため、導線41や薄膜配線10eは断線し易くなる。引用文献1の薄膜配線に使用されているAuは、半田に溶ける速度が300℃で10μm/s程度である。半田付けでは加工に数秒はかかるため、溶解による断線を防ぐためにAuの厚みを数十μm程度にする必要がある。Auは高価なため、Au薄膜配線を用いると加速度計のコストは著しく増加する。
【0026】
半田付けにおいて溶融半田やAu薄膜配線の温度を低下させることで、厚みが薄いAu薄膜配線でも断線を抑制することが出来る。しかし溶融半田の温度が低いと、Au薄膜配線との濡れ性が低下するため、通称イモ半田と呼ばれる状態となり、Au薄膜配線と半田の接触面積が小さくなるため、接合部全体の接合力は低下する傾向にある。また、接合したとしても、単位面積当たりの接合強度を確保できない。なぜなら、SnとAuの金属間化合物であるAuSnは、半田材料に比べて体積が数倍になるためである。半田の形成時には、金属間化合物の膨張により半田には内部応力が発生し、それが大きい場合には金属間化合物の周囲にマイクロクラックが生じる。これは半田の破断の大きな原因となる。即ち、このような構成にすると加速度計は衝撃によって故障し易くなる。
【0027】
NiはAuに比べると、Snに溶ける速度が約1/1000である。そのため、半田付けによる薄膜配線の断線は生じにくい。そして、半田付けで形成される金属間化合物は、多くはNiSnである。AuSnのモル体積は75.0×10-6・mol-1に対して、NiSnは11.32×10-6・mol-1であり、相対的に小さい。Auのモル体積は10.21×10-6・mol-1で、Niは6.6×10-6・mol-1であるため、基になる元素からの膨張率は、AuSnで7.4倍となり、NiSnでは1.7倍となる。このようにNiの金属間化合物はAuと比べて、小さい体積と膨張率になる。即ち、Auと比較すると、Ni層と半田の界面では内部応力が小さく、マイクロクラックは起きにくい。また、薄膜配線10eであるAu層を薄くできるため、本実施に係る加速度計は、低コストで製作することが可能である。
【0028】
コイルに流れる電流により加速度計は内部から温められるため、振子1の温度は上昇し易い。温度上昇によって、半田とその下地となる金属薄膜の界面では、金属拡散が促進される。AuはSnに拡散し易いので、小さな温度変化でもAuSnを新しく生成する。つまり、半田の下地にAu層を用いる加速度計は、温度変化によって故障し易い。一方、NiはSnに拡散しにくいため、温度上昇によって金属間化合物を新しく生成しにくい。Auを用いた場合と比較すると、半田の下地にNi層を用いた加速度計は、温度変化による故障が生じにくい。
【0029】
Niは表面に酸化膜を形成し易いので、溶融半田との濡れ性が低下、半田はイモ半田に成り易い。また、酸化膜がNiと半田の金属間化合物の形成を妨害するため、Ni層と半田の接合部の強度は低くなる。本発明では、Ni層表面に予めAu層を形成することで、酸化膜の形成を抑制する。そしてNi層表面のAu層を除去することで、半田にAuが混入する量を減らし、半田40に含まれるAuとSnの金属間化合物を減らすことができる。これにより、高い強度を持つ半田40を得ることができる。
【0030】
半田40の底面はNi層42の上面の領域内に存在し、はみ出ることはない。半田40の底面がNi層42の表面からはみ出てしまうと、はんだ付けの際に溶融半田が薄膜配線10eと接触して、構成するAu層43を溶かして、薄膜配線10eを断線させる。もしくは、Ni層42とAu層43の接触不良や界面の電気抵抗値を上昇させる。
【0031】
加速度計に温度変化が生じると、熱膨張や熱収縮によりサーボ加速度計を構成する部品の形状が変化する。それにより、振子10の形状の変化が起きて、加速度を反映する振子の動作が変化し、センサ精度の低下を招く。これを低減するには、構成部品の材料は可能な限り、低い線膨張係数を持つ材料を使用する必要がある。特に、各部品の位置の基準となり、振動子そのものである振子1は変形が少ないことが求められる。石英ガラスは0.5×10-6/K程度の線膨張係数を持つ。一般的な商用金属と比較して、線膨張係数は1/10程度である。また絶縁材料であるため、振子の表面に形成する薄膜配線10eと導通しない。更には、非磁性材料であるため、ヨーク15、16、円形状ヨーク17、18と磁石19、20、ポールピース17、18が形成する磁気空隙内の磁場に影響を与えない。振子10の材料として、石英ガラスは適している。
【0032】
ガラス材料と金属薄膜の密着性は低い傾向にある。またNi層は、半田付けで生じる熱応力で石英ガラスである振子の基部10bから剥離し易い。先に述べた成膜方法により作製されるチタン(Ti)やクロム(Cr)の密着層は、振子材料である石英ガラスの界面に、化学に安定で高強度の混合層を形成することができる。例えばチタンの場合、石英ガラスの酸素原子や珪素原子と結合して、界面に非晶質Si-Ti混合層や非晶質Si-O-Ti混合層を形成する。これらは準安定状態で高強度のため、チタンと石英ガラスは強い密着力を得ることができる。また、薄膜配線10eを構成するAu層やNi層についても、チタンとクロムは良好な混合層を生成することが可能である。即ち、チタンやクロムの密着層を使用すると、Ni層42と振子の基部10の剥離と、Au層43と振子の基部10の剥離を抑制することができる。
【0033】
(実施例2)
実施例2を図7に示す。本実施例に係るサーボ加速度では、振子の表面に対向するAu層43の面がNi層42に接している。そして、Ni層42の上面の一部には、Au層43が無く、半田40によって導線41がNi層42に固定されている。即ち、半田40が形成される部分を除いたAu層43の底面にはNi層42があり、Au層の底面にあるNi層はAu層と連続的に積層することが可能である。
【0034】
実施例1ではNi層42とAu層43は部分的にしか積層していないため、それぞれの層ごとに異なる成膜と形状加工を施さなければならない。このため、Ni層42を作製した後に、Au層43を積層するまでの時間が空くため、その途中で露出したNi層の表面に酸化膜や不純物が付着し易い。NiやNi合金の表面に形成される不動態皮膜は化学的に安定なため、半田付けで用いられるフラックスでは、これを十分に除去できない。Au層43を形成する直前に、強酸性の薬液を用いて化学的に酸化膜を除去(エッチング)することは可能だが、洗浄工程などの後工程で酸化膜が再度付着してしまう。更には、エッチング後に残留した物質によって、Ni層42とAu層42の密着性を低下させる場合がある。全ての工程を真空中か、不活性ガス中で実施すればNi層42の表面を清浄に維持できるが、工程数と使用となる部材が多いため、製造装置は複雑化・大規模化し、加速度計の製造コストは著しく増加する。
【0035】
本実施例では、Ni層42とAu層43が積層しているため、成膜において連続で堆積させることができる。そして、Ni層42の表面に酸化膜や残留物が付着することは無いか、実施例1と比較すると残留物が少ない状態となる。そのため、溶融半田とNi層42の良好な濡れ性を得ることが可能となり、半田40とNi層42の接合面積は大きくなる。更には、半田40に混入する不純物が少ないので、高い強度を持つ半田40を得られる。このように、本実施に係る加速度計は、実施例1と比較して、半田40とNi層の接合強度が高く、半田40の強度も高い。
【0036】
図8を用いて、薄膜配線10eの製作方法を説明する。選択的除去法では、物理蒸着法や化学蒸着法、電気めっき法、化学めっき法を用いて、振子1の表面にNi薄膜とAu薄膜を振子の基部10の表面に連続で堆積させる。次に、薄膜配線10eの形状を残すように、マスク部品を形成・固定し、薄膜配線10eとして残す部分を保護する。次に、保護していなNi薄膜とAu薄膜の部分を物理的エネルギーや、エッチング液等で除去する。選択的成膜方法では、振子1の表面に開口部を持つメタルマスクやフォトレジストパターン、マスキングテープ等(以下、マスク部品)を固定し、開口部に露出した振子の基部10の表面にNi層42とAu層43を連続で成膜する。Ni層42とAu層43の平面形状は等しいため、選択的成膜法および選択的除去法では一度に形状を加工することが可能である。そして、どちらの方法でも、Ni層42とAu層43は連続的に振子の基部10に堆積させることが可能である。
【0037】
半田40の製作方法は実施例1と同様である。半田ごてと溶融半田を用いてAu層43の一部を除去し、露出したNi層42の上面に導線41を半田40で固定する。
【0038】
永久磁石19、20は板厚方向に着磁されたネオジムやサマリウムコバルト、アルニコ磁石などで構成され、その残留磁束密度は1T前後である。ヨークユニット2、3(ヨーク15、16と円形状ヨーク17、18、ポールピース19~20、磁石21~22)の閉磁路によって制御される磁気空隙の磁束密度は、永久磁石の残留磁束密度からある程度減少した値となる。ヨークユニット2、3に近接する場所に磁性体があると、磁性体は磁気空隙の磁束に影響を与えて、磁気空隙の磁束密度は変化する。例えば、電気めっき法により製作したNi薄膜は0.6T程度の飽和磁束密度を有し、その厚みの分だけ残留磁束密度は上昇する。一方で、溶融半田によるNi層の消失を防ぐためには、Ni層は一定の厚みを確保しなければならない。このように、Ni層の厚みを減らして磁気空隙への影響を減らすことは難しい。加速度計が大型であり、その部品である永久磁石が大きければ無視できる現象であるが、小型、薄型の加速度計においては磁気空隙への影響は無視できない。また、Niでは外部磁界で生じる残留磁化にヒステリシスが生じる。コイル電流の増減によって生じる磁界の増減で、Ni薄膜の残留磁化は非線形に変化して、コイル電流や磁気空隙の磁束密度に影響を与える。この影響は、振子の変位に対する機械的なノイズ、またはコイル電流に生じる電気的ノイズになる。
【0039】
強磁性材料が振子の基部10の表面に存在するとセンサ精度の低下を招くため、Ni層42は非磁性であることが好ましい。その飽和磁束密度は、永久磁石19、20の残留磁束密度と比較して十分小さい10-3T以下が好ましい。こうした要請と、半田付けによる消失を防ぐためには、Niを多く含んで成る合金であるのことが望ましく、かかる合金の例としてはNi-Cu、Ni-Sn、Ni-P、Ni-W、Ni-Moもしくはこれらに他の元素を含んで成る合金があげられる。かかる金属、合金の類はいずれも電気めっき法や物理蒸着法で作成することができ、Ni含有量が80~70wt%で強磁性を失う。これらの合金をNi層に用いれば、高いセンサ精度を維持しながら、半田40とNi層42の密着力が高い加速度計を得られる。
【0040】
(実施例3)
実施例2を図9に示す。本実施例に係るサーボ加速度では、振子1の表面と対向するNi層42の面がAu層43に接し、Ni層42とAu層43の上面の半田40の周辺に第2のAu層44を備えている。即ち、薄膜配線10eであるAu層43の上面にNi層42が積層され、Ni層42の上面に導線41が半田40で固定されている。そして、半田40の周辺には、Au層43とは異なるAu層44が積層される。
【0041】
薄膜配線10eの製作方法を説明する。実施例1と同様に、振子の基部10の表面にAu層43を選択的成膜法、または選択的除去法を用いて形成する。続いて、実施例2と同様に、Ni層42とAu層44を連続で成膜し積層する。その後の半田付けについては、実施例1と同様である。半田ごてと溶融半田を用いてAu層44の一部を除去し、露出したNi層42の上面に導線41を半田40で固定する。
【0042】
Auは酸化被膜が形成されない為、Au層43の上面にNi層42を堆積させても、その界面に酸化膜や不純物が混入しにくい。Ni層42にAu層44を堆積させる工程では、Ni層42とAu層44を連続で積層することができるので、実施例2で示した様に、その界面に酸化膜や不純物が混入しにくい。つまり、Au層43とNi層42、Au層44は良好な密着力を得られ、高い強度をもつ半田40を得られやすい。
【0043】
加速度計では、コイル電流と磁気空隙で生じるローレンツ力と、振子1が受ける慣性力が釣り合うことで加速度計を検出する。しかし、この力のつり合いには、ヒンジ10cで生じるバネ力も加わるため、バネ力がセンサ精度の誤差要因となる。つまり、ヒンジの剛性が小さいほど、加速度計のセンサ精度は高まる。このため、ヒンジ表面の薄膜配線10eも剛性が低いことが求められる。常温におけるAuの電気抵抗率は2.44×10-8Ω・mであり、Niは6.99×10-8Ω・mである。そして、Auのヤング率は78GPa程度、Niは200GPa程度である。つまり、本実施例に係る加速度計の薄膜配線10eは、実施例2と比べると、所定の導電性を得るために必要な薄膜配線の剛性を小さくすることが可能である。そして、薄膜配線10eを含んだ振子のヒンジ10cのバネ力は小さくなるので、加速度計は高いセンサ精度を得られる。
【0044】
半田付けによる熱でNi層は溶融半田に溶解する。Ni層が消失して溶融半田がAu層と接触しないためには、Ni層は十分な厚みが必要となる。共晶半田に代表されるSn-Pb半田を用いた半田付けでは、半田ごての温度は250~300℃程度が適している。このとき、Niが共晶半田に融解する速度は0.01μm/s程度である。即ち、数秒の半田付けでNi層が消失しないためには、数十nmの厚みは最低限必要となる。Ni層はAu層にも融解、または拡散することを考慮すると、その2倍の厚み確保することが好ましい。即ち、Ni層42の厚みは100nm以上を必要とする。加工温度を下げると溶解速度は低下するため、Ni層の厚みを減らすことは可能である。ただし、ぬれ性の低下や接合強度の低下を招いてしまう。良好な接合性を得るには、Ni層の厚みを100nm以上にして、適切な加工温度である250~300℃で加工することが求められる。
【0045】
Au層44は、Ni層42の酸化を抑制するためにNi層42の上面に形成される。実施例1と同様に、半田40を形成する半田付けにおいてAu層44の殆どは除去される。このとき、溶融半田の一部はNi層の表面に残留するため、溶融半田に含まれる溶解したAu層も微量ながらNi層の表面に残留する。Auの残留量を減らすためには、Au層44の体積を減らすことが求められる。一方、Ni層の酸化を抑制するためには、Au層44の厚みは少なくとも50nmは必要である。このようにAu層44の厚みは50nm程度が適している。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。具体的には、上記実施形態はコイル11、12の導線41と振子表面の薄膜配線10eの接合について示したに過ぎない。例えば、本発明は半田を用いて薄膜配線10eと導線24を接合し、薄膜配線10eと端子25を電気的に接続する工程にも適用される。このように、本発明は薄膜配線10eに半田を用いて導線を固定する加工部分の全てに適用されるものである。
【符号の説明】
【0047】
1 振子
10 基部
10a 錘部
10b 支持部
10c ヒンジ
10d 静電容量電極
10e ヒンジと支持部、錘部表面に形成される薄膜配線
10f 取り付けパッド
10g 孔
10h 孔の端部
11、12 コイル
13、14 トルカカップ
19、20 ポールピース
21、22 永久磁石
23 シールバンド
24 導線
25 端子
30 加速度検知軸
40 半田
41 導線
42 Ni層
43、44 Au層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9