(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165063
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20241121BHJP
H01J 37/30 20060101ALI20241121BHJP
G01N 1/32 20060101ALI20241121BHJP
G01N 23/04 20180101ALN20241121BHJP
【FI】
G01N1/28 F
H01J37/30 Z
G01N1/28 N
G01N1/28 G
G01N1/32 B
G01N23/04 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080896
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大月 崇史
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA11
2G001CA03
2G001RA04
2G052AD32
2G052AD52
2G052EC18
2G052FD06
2G052GA34
2G052JA11
5C101AA32
5C101FF23
5C101FF36
5C101FF50
(57)【要約】
【課題】薄片試料の湾曲を防止しつつ、イオンビームによる再加工が可能な透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法を得る。
【解決手段】集束イオンビーム装置100からイオンビーム4を薄片試料15の主面に照射して薄片試料15を加工する。加工した薄片試料15の主面の外周部の一部を避けるように主面に補強層20を形成する。補強層20を形成していない主面の外周部の一部を起点としてイオンビーム4により薄片試料15を再加工する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビーム装置からイオンビームを薄片試料の主面に照射して前記薄片試料を加工する工程と、
加工した前記薄片試料の前記主面の外周部の一部を避けるように前記主面に補強層を形成する工程と、
前記補強層を形成していない前記主面の外周部の一部を起点としてイオンビームにより前記薄片試料を再加工する工程とを備えることを特徴とする透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法。
【請求項2】
前記薄片試料の前記主面は四角形であり、
前記主面の3辺に沿って前記薄片試料の前記主面の外周部に前記補強層を形成することを特徴とする請求項1に記載の透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法。
【請求項3】
前記薄片試料の前記主面は、第1の辺と、前記第1の辺に隣接する第2の辺とを有する四角形であり、
前記第1の辺において前記薄片試料が試料台に接合され、
前記第1の辺と前記第2の辺に沿って前記薄片試料の前記主面の外周部に前記補強層をL字形に形成することを特徴とする請求項1に記載の透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法。
【請求項4】
前記薄片試料の前記主面は四角形であり、
前記薄片試料の前記主面の1辺において前記薄片試料が試料台に接合され、
前記試料台に接合された辺及び前記主面の対角線に沿って前記薄片試料の前記主面に前記補強層を形成することを特徴とする請求項1に記載の透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法。
【請求項5】
前記薄片試料の前記主面に材料ガスを吹き付けながら電子ビーム又は不活性ガスイオンビームを照射して材料をデポジションして前記補強層を形成することを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法。
【請求項6】
前記集束イオンビーム装置の成膜機能を用いて前記補強層を形成することを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、透過型電子顕微鏡で観察する薄片試料の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡(以下、TEMと称する)は、数十から数百ナノメートル程度の厚さに薄片化された試料(以下、薄片試料と称する)に対して電子を照射し、透過又は散乱した電子を観察する装置である。薄片試料の厚さが狙いの値よりも厚い場合、電子が試料を透過せず、適切な観察結果を得られない。従って、数十から数百ナノメートルの範囲で、できるだけ資料を薄くする必要がある。このような薄片試料を作製する方法として、収束イオンビーム装置(以下、FIB装置と称する)を用いた試料加工が一般的である。
【0003】
イオンビーム照射中に試料の正確な厚さを測ることはできず、薄片試料の厚さが判明するのは加工後の観察の段階である。従って、所望の厚さに達していない場合には再加工することになるため、一般には複数回の再加工が必要となる。
【0004】
イオンビームは照射源から遠くなると強度が低くなる。試料の片面のみにイオンビームを照射した場合、照射源から遠い部分(例えば試料上方からイオンビームを照射した場合は試料下方)でビーム強度が低くなり、くさび型で厚さが不均一な試料が形成される。この問題を解決するには、イオンビームを試料の両面に角度をつけて照射する必要がある。従って、再加工に際して、薄片試料面内の観察個所を均一な厚さに加工するには薄片試料の表裏両面からイオンビームを照射しなければならない。
【0005】
また、内部応力により薄片試料が湾曲するという課題がある。加工中に湾曲した場合、イオンビームを均一に照射することが難しくなり、薄片試料の厚さが不均一になる。湾曲することで最終的に薄片試料が破損する場合もある。湾曲による電子線の散乱(ベンドコンター)が発生し観察の妨げとなる場合もある。これに対して、薄片試料が応力によって湾曲しないようにするため、薄片試料にデポジション膜で補強層を形成する手法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先行技術では、補強層が薄片試料の主面全体を覆うか又は主面の外周部の全周に形成されていた。このため、イオンビームが補強層に遮られて再加工ができないという問題があった。
【0008】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は薄片試料の湾曲を防止しつつ、イオンビームによる再加工が可能な透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法は、集束イオンビーム装置からイオンビームを薄片試料の主面に照射して前記薄片試料を加工する工程と、加工した前記薄片試料の前記主面の外周部の一部を避けるように前記主面に、前記集束イオンビーム装置のデポジションの成膜機能を用いて、補強層を形成する工程と、前記補強層を形成していない前記主面の外周部の一部を起点としてイオンビームにより前記薄片試料を再加工する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示では、薄片試料の主面に補強層を形成するため、薄片試料の湾曲を防止することができる。また、薄片試料の主面の外周部の一部を避けるように補強層を形成するため、その補強層を形成していない部分を起点としてイオンビームにより薄片試料を再加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製に用いる集束イオンビーム装置を示す図である。
【
図2】実施の形態1に係る透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法を示す斜視図である。
【
図3】実施の形態1に係る透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法を示す斜視図である。
【
図4】実施の形態1に係る透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法を示す斜視図である。
【
図5】実施の形態1に係る透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法を示す斜視図である。
【
図6】実施の形態1に係る透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法を示す斜視図である。
【
図7】実施の形態1に係る透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法を示す斜視図である。
【
図8】実施の形態1に係る透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法を示す斜視図である。
【
図9】実施の形態2に係る透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法を示す斜視図である。
【
図10】実施の形態3に係る透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法について図面を参照して説明する。同じ又は対応する構成要素には同じ符号を付し、説明の繰り返しを省略する場合がある。
【0013】
実施の形態1.
図1は、透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製に用いる集束イオンビーム装置を示す図である。加工対象である試料を集束イオンビーム装置100の試料ホルダ1の上に載置する。試料室は図示しない真空装置によって真空引きされる。図示しない駆動機構によって試料ステージ2が所望の位置角度に設定される。駆動機構は一般にX,Y,Z方向変位とイオンビーム軸回転とイオンビーム軸に対する角度調整ができる。イオン源3からのイオンビーム4を静電光学系5により偏向して試料に照射する。イオンビーム4によるスパッタリングで試料をエッチング加工する。ガス銃6は試料にガスを供給する。
【0014】
電子源7からの電子ビーム8を電磁光学系9により偏向して、イオンビーム4とは異なる方向から電子ビーム8を試料に照射する。二次荷電粒子検出器10により二次荷電粒子11(電子)を検出して電子顕微鏡像を観察する。SEM/SIM切換器12が走査電子顕微鏡(SEM)と走査イオン顕微鏡(SIM)を切り換える。SEM像とSIM像は試料から放出される二次荷電粒子の種類が異なるため、異なる解像度の映像が得られる。双方の像をディスプレイ13上に比較表示することもできる。
【0015】
図2から
図8は、実施の形態1に係る透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法を示す斜視図である。まず、
図2に示すバルク試料14を集束イオンビーム装置100に投入する。次に、
図3に示すように、試料ステージ2を傾けながら、薄片化したい薄片試料15の周辺にイオンビーム4を照射して薄片試料15を削り出す。次に、
図4に示すように、削り出した薄片試料15を針状のプローブ16で保持し取り出す。この時点での薄片試料15の縦横の大きさと厚みは10μm×10μm×2μm程度である。
【0016】
次に、
図5に示すように、長さ数百マイクロメートルの金属柱17が複数並んだ櫛形の試料台18の金属柱17の側面又は先端部に薄片試料15を固定する。この際に、金属柱17と薄片試料15の間に白金などの金属を含む原料ガスを供給してイオンビーム4を照射する。金属柱17及び薄片試料15の表面から発生した二次電子で原料ガスを分解し、個体成分である金属を堆積させることでデポジション膜19を形成し、薄片試料15を金属柱17に固定する。
【0017】
次に、
図6に示すように、集束イオンビーム装置100からイオンビーム4を薄片試料15の主面及び裏面に照射して薄片試料15を加工する。加工した薄片試料15の厚みを均一にするために、薄片試料15の主面の垂直方向に対してイオンビーム4の入射方向を±1~2°傾ける。ただし、薄片試料15のサイズ又は材質により入射方向を設定する。
【0018】
イオンビーム4を薄片試料15に照射する際に、複数の金属柱17及び金属柱17を支える試料台18の根元などでイオンビーム4が遮蔽されないようにする。また、デポジション膜19で固定された部分は、薄片試料15を支える支柱の役割を果たすため、イオンビームが照射されないようにする。これらの加工は照射位置が高度に制御されたイオンビームを用いるため、特定の部分の薄片試料15を作製できる。例えばSi、GaNなどの半導体素子の故障個所などを狙った薄片試料15を作製できる。
【0019】
次に、
図7に示すように、集束イオンビーム装置100の成膜機能を用いて、加工した薄片試料15の主面の外周部の一部を避けるように、薄片試料15の主面に補強層20を形成する。本実施の形態では、薄片試料15の四角形の主面の3辺に沿って主面の外周部にコの字形の補強層20を形成する。具体的には、フェナントレン等の材料ガスを薄片試料15の主面に吹き付けながら電子ビームを照射してカーボンをデポジションして補強層20を形成する。電子ビームに代わりアルゴン等の不活性ガスイオンビームを照射してカーボンをデポジションして補強層20を形成してもよい。集束イオンビームを用いて補強層20を形成してもよい。
【0020】
なお、補強層20は、カーボンのデポジションに限らず、プラチナ又はシリコン酸化物のデポジションでもよい。補強層20の厚さは例えば30nm~50nm程度である。ただし、薄片試料15を十分に補強することができる程度に強固であれば補強層20の材質、厚さなどの寸法は問わない。
【0021】
次に、
図8に示すように、補強層20を形成していない主面の外周部の一部を起点としてイオンビーム4により薄片試料15を再加工する。例えば薄片試料15を再加工して厚さを減じる。
【0022】
以上説明したように、本実施の形態では、薄片試料15の主面に補強層20を形成するため、薄片試料15の湾曲を防止することができる。また、薄片試料15の主面の外周部の一部を避けるように補強層20を形成するため、その補強層20を形成していない部分を起点としてイオンビーム4により薄片試料15を再加工することができる。
【0023】
なお、薄片試料15の主面の外周において補強層20を形成しない部分は、薄片試料15の主面の外周の少なくとも一辺に形成し、薄片試料15の加工又は観察に適した向きに設定する。例えば、金属柱17を支える試料台18の根元がイオンビームの妨げになる場合は、補強層20を形成しない部分を当該根元側に設けないようにする。
【0024】
実施の形態2
図9は、実施の形態2に係る透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法を示す斜視図である。薄片試料15の主面は、第1の辺15aと、第1の辺15aに隣接する第2の辺15bとを有する四角形である。第1の辺15aにおいて薄片試料15が試料台18に接合されている。第1の辺15aと第2の辺15bに沿って薄片試料15の主面の外周部に補強層20をL字形に形成する。
【0025】
この補強層20により薄片試料15の湾曲を防止することができる。試料台18に接合された辺に沿って形成された補強層20が試料台18と薄片試料15の接合を強固なものとする。補強層20が形成されていない薄片試料15の主面の2辺の何れかを起点として薄片試料15の再加工を行うことができる。補強層20が占める面積が実施の形態1よりも小さくなるので、補強層20の材料及び形成時間を削減できる。薄片試料15の主面の2辺を観察できるため、面内での観察可能な範囲が広くなる。その他の構成及び効果は実施の形態1と同様である。
【0026】
実施の形態3
図10は、実施の形態3に係る透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法を示す斜視図である。薄片試料15の主面の辺15aにおいて薄片試料15が試料台18に接合されている。試料台18に接合された辺15a及び主面の四角形の対角線に沿って薄片試料15の主面に補強層20をレの字形に形成する。
【0027】
この補強層20により薄片試料15の湾曲を防止することができる。試料台18に接合された辺15aに沿って形成された補強層20が試料台18と薄片試料15の接合を強固なものとする。補強層20が形成されていない薄片試料15の主面の2辺の何れかを起点として薄片試料15の再加工を行うことができる。補強層20が占める面積が実施の形態1よりも小さくなるので、補強層20の材料及び形成時間を削減できる。薄片試料15の主面の2辺を観察できるため、面内での観察可能な範囲が広くなる。薄片試料15の主面の対角線に沿って形成した補強層20が筋交いとなるため、縦横の応力が合成されて薄片試料15がねじれるような応力が発生しても、強固な補強が可能になる。その他の構成及び効果は実施の形態1と同様である。
【0028】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
集束イオンビーム装置からイオンビームを薄片試料の主面に照射して前記薄片試料を加工する工程と、
加工した前記薄片試料の前記主面の外周部の一部を避けるように前記主面に補強層を形成する工程と、
前記補強層を形成していない前記主面の外周部の一部を起点としてイオンビームにより前記薄片試料を再加工する工程とを備えることを特徴とする透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法。
(付記2)
前記薄片試料の前記主面は四角形であり、
前記主面の3辺に沿って前記薄片試料の前記主面の外周部に前記補強層を形成することを特徴とする付記1に記載の透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法。
(付記3)
前記薄片試料の前記主面は、第1の辺と、前記第1の辺に隣接する第2の辺とを有する四角形であり、
前記第1の辺において前記薄片試料が試料台に接合され、
前記第1の辺と前記第2の辺に沿って前記薄片試料の前記主面の外周部に前記補強層をL字形に形成することを特徴とする付記1に記載の透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法。
(付記4)
前記薄片試料の前記主面は四角形であり、
前記薄片試料の前記主面の1辺において前記薄片試料が試料台に接合され、
前記試料台に接合された辺及び前記主面の対角線に沿って前記薄片試料の前記主面に前記補強層を形成することを特徴とする付記1に記載の透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法。
(付記5)
前記薄片試料の前記主面に材料ガスを吹き付けながら電子ビーム又は不活性ガスイオンビームを照射して材料をデポジションして前記補強層を形成することを特徴とする付記1~4の何れか1つに記載の透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法。
(付記6)
前記集束イオンビーム装置の成膜機能を用いて前記補強層を形成することを特徴とする付記1~5の何れか1つに記載の透過型電子顕微鏡用薄片試料の作製方法。
【符号の説明】
【0029】
4 イオンビーム、15 薄片試料、15a 第1の辺、15b 第2の辺、18 試料台、20 補強層、100 集束イオンビーム装置