IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤマハ発動機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-船舶推進システムおよび船舶 図1
  • 特開-船舶推進システムおよび船舶 図2
  • 特開-船舶推進システムおよび船舶 図3
  • 特開-船舶推進システムおよび船舶 図4
  • 特開-船舶推進システムおよび船舶 図5
  • 特開-船舶推進システムおよび船舶 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165066
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】船舶推進システムおよび船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/21 20060101AFI20241121BHJP
   B63B 39/08 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B63H21/21
B63B39/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080902
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】田形 彰大
(57)【要約】
【課題】波を乗り越える際に容易に減速させて船体を安定させることが可能な船舶推進システムおよび船舶を提供する。
【解決手段】この船舶推進システム102は、船体に設けられた推進機1と、推進機1に指示する船速である指示船速を変更して、推進機1の推力を調整するリモコンレバー3を含む推進機操作装置2と、推進機操作装置2に設けられたスイッチであり、船速を指示船速から一定速度だけ小さくする減速モードに入る操作を受け付ける減速スイッチ7と、備え、減速スイッチ7がオン操作されることにより、減速モードに入り船速を指示船速から一定速度だけ小さくするように構成され、減速モードを解除する操作が行われることにより、船速を減速モードに入る前の指示船速に戻すように構成されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に設けられた推進機と、
前記推進機に指示する船速である指示船速を変更して、前記推進機の推力を調整する船速指示装置を含む推進機操作装置と、
前記推進機操作装置に設けられたスイッチであり、前記船速を前記指示船速から一定速度だけ小さくする減速モードに入る操作を受け付ける減速スイッチと、備え、
前記減速スイッチがオン操作されることにより、前記減速モードに入り前記船速を前記指示船速から前記一定速度だけ小さくするように構成され、前記減速モードを解除する操作が行われることにより、前記船速を前記減速モードに入る前の前記指示船速に戻すように構成されている、船舶推進システム。
【請求項2】
前記減速スイッチは、前記減速モードに入るための前記オン操作、および、前記減速モードを解除するためのオフ操作を交互に受け付ける単一のスイッチである、請求項1に記載の船舶推進システム。
【請求項3】
単一の前記減速スイッチには、前記減速モードの間において点灯するとともに、前記減速モードが解除されている間において消灯する減速モードランプが設けられている、請求項2に記載の船舶推進システム。
【請求項4】
前記減速スイッチは、前記船体が波を乗り越える前のタイミングで、前記オン操作が行われるように構成されている、請求項1に記載の船舶推進システム。
【請求項5】
前記推進機操作装置に設けられたスイッチであり、前記船速を微調整するスピードコントロールモードに入る操作、および、前記スピードコントロールモードにおいて前記船速を微調整する操作を受け付けるスピードコントロールスイッチをさらに備え、
前記減速スイッチが前記オン操作されて前記減速モードに入る際に前記指示船速から小さくなる前記一定速度に相当する変動幅は、前記スピードコントロールスイッチが操作される前記スピードコントロールモードにおける前記船速の調整幅よりも大きい、請求項1に記載の船舶推進システム。
【請求項6】
前記減速スイッチが前記オン操作されることにより、前記減速モードに入るのと同時に前記船速を前記指示船速から前記一定速度だけ小さくするように構成されている、請求項1に記載の船舶推進システム。
【請求項7】
前記船速指示装置は、レバー部を有し、前記レバー部のレバー位置を変更することにより前記指示船速を調整するリモコンレバーであり、
前記減速スイッチは、前記リモコンレバーに設けられている、請求項1に記載の船舶推進システム。
【請求項8】
前記リモコンレバーは、前記減速モードにおいて、前記減速モードに入る際に前記指示船速から小さくなる前記一定速度に相当する変動幅よりも小さな変動幅により、前記船速を増減させて微調整する操作を受け付ける微調整スイッチを有する、請求項7に記載の船舶推進システム。
【請求項9】
前記減速スイッチと前記微調整スイッチとは、前記レバー部に並んで設けられている、請求項8に記載の船舶推進システム。
【請求項10】
前記推進機操作装置に設けられたスイッチであり、前記船速を微調整するスピードコントロールモードに入る操作、および、前記スピードコントロールモードにおいて前記船速を微調整する操作を受け付けるスピードコントロールスイッチをさらに備え、
前記微調整スイッチは、前記スピードコントロールスイッチと兼用され、
前記スピードコントロールモードに入ることなく、前記減速モードにおいて、前記微調整スイッチにより、前記船速を増減させて微調整することが可能に構成されている、請求項8に記載の船舶推進システム。
【請求項11】
前記リモコンレバーの前記レバー部の前記レバー位置を変更することによっても、前記減速モードを解除することが可能に構成されている、請求項7に記載の船舶推進システム。
【請求項12】
前記減速スイッチが前記オン操作されて前記減速モードに入る際に前記指示船速から小さくなる前記一定速度に相当する変動幅を変更可能に構成され、
前記推進機操作装置は、前記変動幅を変更する操作を受け付けるように構成されている、請求項1に記載の船舶推進システム。
【請求項13】
前記減速スイッチは、押圧操作される機械式のボタンである、請求項1に記載の船舶推進システム。
【請求項14】
船体と、
前記船体に設けられた船舶推進システムと、を備え、
前記船舶推進システムは、
推進機と、
前記推進機に指示する船速である指示船速を変更して、前記推進機の推力を調整する船速指示装置を含む推進機操作装置と、
前記推進機操作装置に設けられたスイッチであり、前記船速を前記指示船速から一定速度だけ小さくする減速モードに入る操作を受け付ける減速スイッチと、含み、
前記減速スイッチがオン操作されることにより、前記減速モードに入り前記船速を前記指示船速から前記一定速度だけ小さくするように構成され、前記減速モードを解除する操作が行われることにより、前記船速を前記減速モードに入る前の前記指示船速に戻すように構成されている、船舶。
【請求項15】
前記減速スイッチは、前記減速モードに入るための前記オン操作、および、前記減速モードを解除するためのオフ操作を交互に受け付ける単一のスイッチである、請求項14に記載の船舶。
【請求項16】
単一の前記減速スイッチには、前記減速モードの間において点灯するとともに、前記減速モードが解除されている間において消灯する減速モードランプが設けられている、請求項15に記載の船舶。
【請求項17】
前記減速スイッチは、前記船体が波を乗り越えるタイミングで、前記オン操作が行われるように構成されている、請求項14に記載の船舶。
【請求項18】
前記船舶推進システムは、前記推進機操作装置に設けられたスイッチであり、前記船速を微調整するスピードコントロールモードに入る操作、および、前記スピードコントロールモードにおいて前記船速を微調整する操作を受け付けるスピードコントロールスイッチをさらに含み、
前記減速スイッチが前記オン操作されて前記減速モードに入る際に前記指示船速から小さくなる前記一定速度に相当する変動幅は、前記スピードコントロールスイッチが操作される前記スピードコントロールモードにおける前記船速の調整幅よりも大きい、請求項14に記載の船舶。
【請求項19】
前記減速スイッチが前記オン操作されることにより、前記減速モードに入るのと同時に前記船速を前記指示船速から前記一定速度だけ小さくするように構成されている、請求項14に記載の船舶。
【請求項20】
前記船速指示装置は、レバー部を有し、前記レバー部のレバー位置を変更することにより前記指示船速を調整するリモコンレバーであり、
前記減速スイッチは、前記リモコンレバーに設けられている、請求項14に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、推進速度を制御する船舶推進システムおよび船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、減速スイッチを備える船舶推進システムおよび船舶が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、レバー部を有し、レバーを傾倒させて船速を調整するためのコントロールレバーと、コントロールレバー(リモコンレバー)に設けられた減速スイッチとを備える船舶が開示されている。この船舶は、減速スイッチが押圧された場合、シフトを前進から後進に、または、後進から前進に切り替えて減速するように構成されている。減速スイッチは、船舶の位置を保持する定点保持モードの際などに用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-241754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1には明記されていないが、波浪時において航行する場合、各波を乗り越える際に一時的に減速する操作を行うことにより、船体を安定させる場合がある。もし減速することなく波を乗り越えようとした場合、波に乗り上げた後の着水などにより船体が不安定になる場合がある。上記特許文献1に記載の船舶の減速スイッチを波を乗り越える際の減速に用いた場合、シフト切り替えによる推力の向きの逆転を伴うため、船体を安定させることができない。また、上記特許文献1には明記されていないが、コントロールレバー(リモコンレバー)のレバー部を各波に合わせて小まめに操作して船体を安定させる場合があるが、このようなレバー操作では、波毎のレバー位置(レバーによる減速量および減速後の戻し操作量)が同等になるような確実な操作が要求されるので、高い操船スキルが必要である。このため、従来より、波を乗り越える際に容易に減速させて船体を安定させることが望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、波を乗り越える際に容易に減速させて船体を安定させることが可能な船舶推進システムおよび船舶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明の第1の局面による船舶推進システムは、船体に設けられた推進機と、推進機に指示する船速である指示船速を変更して、推進機の推力を調整する船速指示装置を含む推進機操作装置と、推進機操作装置に設けられたスイッチであり、船速を指示船速から一定速度だけ小さくする減速モードに入る操作を受け付ける減速スイッチと、備え、減速スイッチがオン操作されることにより、減速モードに入り船速を指示船速から一定速度だけ小さくするように構成され、減速モードを解除する操作が行われることにより、船速を減速モードに入る前の指示船速に戻すように構成されている。
【0008】
この第1の局面による船舶推進システムでは、上記のように、船速を一定速度だけ小さくする減速モードに入る操作を受け付ける減速スイッチを設け、減速スイッチがオン操作されることにより、減速モードに入り船速を一定速度だけ小さくするように構成する。これによって、減速スイッチを操作するだけで、減速モードに入り一定速度だけ減速することができる。したがって、減速モードに入るために従来のレバー操作のような繊細な操作が要求されなくなるため、波を乗り越える際に容易に減速させて船体を安定させることができる。また、減速モードに入る際に船速を船速指示装置の指示船速から一定速度だけ小さくし、減速モードを解除する際に船速を減速モードに入る前の指示船速に戻すように構成することによって、波を乗り越える際に船速指示装置の指示船速を維持することができる。
【0009】
上記第1の局面による船舶推進システムにおいて、好ましくは、減速スイッチは、減速モードに入るためのオン操作、および、減速モードを解除するためのオフ操作を交互に受け付ける単一のスイッチである。このように構成すれば、減速スイッチが減速用スイッチおよび減速解除用スイッチを備える場合などの複数のスイッチで構成される場合とは異なり、部品点数を削減して装置構成が複雑化することを抑制することができる。また、減速モードに入る操作および減速モードを解除する操作を行う際に、操船者が複数のスイッチを操作するために指を動かす必要がないので、減速スイッチの操作を容易に行うことができる。このため、波を乗り越える際により容易に減速させて船体を安定させることができる。
【0010】
この場合、好ましくは、単一の減速スイッチには、減速モードの間において点灯するとともに、減速モードが解除されている間において消灯する減速モードランプが設けられている。このように構成すれば、操船者が減速モードに入っていることを容易に視覚的に把握することができる。
【0011】
上記第1の局面による船舶推進システムにおいて、好ましくは、減速スイッチは、船体が波を乗り越える前のタイミングで、オン操作が行われるように構成されている。このように構成すれば、船体が波を乗り越える前に事前に減速しておくことができるので、船体が波を乗り越えた際に、船体が波からジャンプすることなどを抑制することができる。
【0012】
上記第1の局面による船舶推進システムにおいて、好ましくは、推進機操作装置に設けられたスイッチであり、船速を微調整するスピードコントロールモードに入る操作、および、スピードコントロールモードにおいて船速を微調整する操作を受け付けるスピードコントロールスイッチをさらに備え、減速スイッチがオン操作されて減速モードに入る際に指示船速から小さくなる一定速度に相当する変動幅は、スピードコントロールスイッチが操作されるスピードコントロールモードにおける船速の調整幅よりも大きい。このように構成すれば、スピードコントロールモードでの船速の調整と比較して、波を乗り越える際に比較的大きく船速を変化させて、船体を効果的に安定させることができる。
【0013】
上記第1の局面による船舶推進システムにおいて、好ましくは、減速スイッチがオン操作されることにより、減速モードに入るのと同時に船速を指示船速から一定速度だけ小さくするように構成されている。このように構成すれば、減速スイッチを一度操作するだけで、減速モードに入ることができるとともに、船速を指示船速から一定速度だけ小さくすることができる。したがって、波を乗り越える際により迅速に減速させて船体を安定させることができる。
【0014】
上記第1の局面による船舶推進システムにおいて、好ましくは、船速指示装置は、レバー部を有し、レバー部のレバー位置を変更することにより指示船速を調整するリモコンレバーであり、減速スイッチは、リモコンレバーに設けられている。このように構成すれば、操船時に操船者により握られるリモコンレバーに減速スイッチが設けられるので、リモコンレバーを操作する手により減速スイッチを容易に操作することができる。
【0015】
この場合、好ましくは、リモコンレバーは、減速モードにおいて、減速モードに入る際に指示船速から小さくなる一定速度に相当する変動幅よりも小さな変動幅により、船速を増減させて微調整する操作を受け付ける微調整スイッチを有する。このように構成すれば、減速モードに入り減速した状態で、微調整スイッチにより船速を微調整して船体をより安定させることができる。
【0016】
上記リモコンレバーが微調整スイッチを有する構成において、好ましくは、減速スイッチと微調整スイッチとは、レバー部に並んで設けられている。このように構成すれば、減速スイッチと微調整スイッチとが離れて配置されている場合と比較して、減速スイッチと微調整スイッチとを容易に操作することができる。
【0017】
上記リモコンレバーが微調整スイッチを有する構成において、好ましくは、推進機操作装置に設けられたスイッチであり、船速を微調整するスピードコントロールモードに入る操作、および、スピードコントロールモードにおいて船速を微調整する操作を受け付けるスピードコントロールスイッチをさらに備え、微調整スイッチは、スピードコントロールスイッチと兼用され、スピードコントロールモードに入ることなく、減速モードにおいて、微調整スイッチにより、船速を増減させて微調整することが可能に構成されている。このように構成すれば、微調整スイッチとスピードコントロールスイッチとが別々である場合と比較して、推進機操作装置のスイッチの数を少なくして、装置構成を簡素化することができる。
【0018】
上記減速スイッチがレバー部を有するリモコンレバーに設けられている構成において、好ましくは、リモコンレバーのレバー部のレバー位置を変更することによっても、減速モードを解除することが可能に構成されている。このように構成すれば、種々の方法により減速モードを解除することができるので、船舶推進システムの操作性を向上させることができる。
【0019】
上記第1の局面による船舶推進システムにおいて、好ましくは、減速スイッチがオン操作されて減速モードに入る際に指示船速から小さくなる一定速度に相当する変動幅を変更可能に構成され、推進機操作装置は、変動幅を変更する操作を受け付けるように構成されている。このように構成すれば、減速スイッチがオン操作されて減速モードに入る際に指示船速から小さくなる一定速度の大きさを、波の大きさおよび速さなどの波の状態を考慮して、調整することができる。
【0020】
上記第1の局面による船舶推進システムにおいて、好ましくは、減速スイッチは、押圧操作される機械式のボタンである。このように構成すれば、押圧操作される機械式のボタン(物理的なボタン)である減速スイッチを操作することによって、波を乗り越える際に容易に減速させて船体を安定させることができる。
【0021】
この発明の第2の局面による船舶は、船体と、船体に設けられた船舶推進システムと、を備え、船舶推進システムは、推進機と、推進機に指示する船速である指示船速を変更して、推進機の推力を調整する船速指示装置を含む推進機操作装置と、推進機操作装置に設けられたスイッチであり、船速を指示船速から一定速度だけ小さくする減速モードに入る操作を受け付ける減速スイッチと、含み、減速スイッチがオン操作されることにより、減速モードに入り船速を指示船速から一定速度だけ小さくするように構成され、減速モードを解除する操作が行われることにより、船速を減速モードに入る前の指示船速に戻すように構成されている。
【0022】
この第2の局面による船舶では、上記のように、船速を一定速度だけ小さくする減速モードに入る操作を受け付ける減速スイッチを設け、減速スイッチがオン操作されることにより、減速モードに入り船速を一定速度だけ小さくするように構成する。これによって、減速スイッチを操作するだけで、減速モードに入り一定速度だけ減速することができる。したがって、減速モードに入るために従来のレバー操作のような繊細な操作が要求されなくなるため、波を乗り越える際に容易に減速させて船体を安定させることが可能な船舶を提供することができる。また、減速モードに入る際に船速を船速指示装置の指示船速から一定速度だけ小さくし、減速モードを解除する際に船速を減速モードに入る前の指示船速に戻すように構成することによって、波を乗り越える際に船速指示装置の指示船速を維持することができる。
【0023】
上記第2の局面による船舶において、好ましくは、減速スイッチは、減速モードに入るためのオン操作、および、減速モードを解除するためのオフ操作を交互に受け付ける単一のスイッチである。このように構成すれば、減速スイッチが減速用スイッチおよび減速解除用スイッチを備える場合などの複数のスイッチで構成される場合とは異なり、部品点数を削減して装置構成が複雑化することを抑制することができる。また、減速モードに入る操作および減速モードを解除する操作を行う際に、操船者が複数のスイッチを操作するために指を動かす必要がないので、減速スイッチの操作を容易に行うことができる。このため、波を乗り越える際により容易に減速させて船体を安定させることができる。
【0024】
この場合、好ましくは、単一の減速スイッチには、減速モードの間において点灯するとともに、減速モードが解除されている間において消灯する減速モードランプが設けられている。このように構成すれば、操船者が減速モードに入っていることを容易に視覚的に把握することができる。
【0025】
上記第2の局面による船舶において、好ましくは、減速スイッチは、船体が波を乗り越える前のタイミングで、オン操作が行われるように構成されている。このように構成すれば、船体が波を乗り越える前に事前に減速しておくことができるので、船体が波を乗り越えた際に、船体が波からジャンプすることなどを抑制することができる。
【0026】
上記第2の局面による船舶において、好ましくは、船舶推進システムは、推進機操作装置に設けられたスイッチであり、船速を微調整するスピードコントロールモードに入る操作、および、スピードコントロールモードにおいて船速を微調整する操作を受け付けるスピードコントロールスイッチをさらに含み、減速スイッチがオン操作されて減速モードに入る際に指示船速から小さくなる一定速度に相当する変動幅は、スピードコントロールスイッチが操作されるスピードコントロールモードにおける船速の調整幅よりも大きい。このように構成すれば、スピードコントロールモードでの船速の調整と比較して、波を乗り越える際に比較的大きく船速を変化させて、船体を効果的に安定させることができる。
【0027】
上記第2の局面による船舶において、好ましくは、減速スイッチがオン操作されることにより、減速モードに入るのと同時に船速を指示船速から一定速度だけ小さくするように構成されている。このように構成すれば、減速スイッチを一度操作するだけで、減速モードに入ることができるとともに、船速を指示船速から一定速度だけ小さくすることができる。したがって、波を乗り越える際により迅速に減速させて船体を安定させることができる。
【0028】
上記第2の局面による船舶において、好ましくは、船速指示装置は、レバー部を有し、レバー部のレバー位置を変更することにより指示船速を調整するリモコンレバーであり、減速スイッチは、リモコンレバーに設けられている。このように構成すれば、船時に操船者により握られるリモコンレバーに減速スイッチが設けられるので、リモコンレバーを操作する手により減速スイッチを容易に操作することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、上記のように、波を乗り越える際に容易に減速させて船体を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施形態による船舶推進システムを備えた船舶を示した斜視図である。
図2】実施形態による船舶推進システムのブロック図である。
図3】実施形態による船舶推進システムの推進機を示した側面図である。
図4】実施形態による船舶推進システムのリモコンレバーを示した斜視図である。
図5】波浪時における減速モードのオンオフのタイミングについて説明するための図である。
図6】時間と、減速モードのオンオフ、エンジン回転数およびレバー部の指示船速との関係を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0032】
[実施形態]
(船舶の全体構成)
図1図6を参照して、本実施形態による船舶推進システム102を備えた船舶100の構成について説明する。なお、図1に示すFWDは船舶100の前進方向(船体101を基準とした前方)を示しており、BWDは船舶100の後進方向(船体101を基準とした後方)を示している。
【0033】
図1に示すように、船舶100は、船体101と、推進機1を含む船舶推進システム102とを備えている。船舶推進システム102は、船体101に設けられている。
【0034】
(船体の構成)
船体101のトランサムには、推進機1が取り付けられている。推進機1は船外機により構成されている。すなわち、船舶100は、推進機1としての船外機を有する船外機艇として構成されている。
【0035】
(船舶推進システムの構成)
図2に示すように、船舶推進システム102は、推進機1と、推進機操作装置2とを備えている。推進機操作装置2は、レバー部31を有するリモコンレバー3と、ジョイスティック4と、操作パネル5とを含んでいる。リモコンレバー3は、特許請求の範囲の「船速指示装置」の一例である。
【0036】
また、船舶推進システム102は、リモコンレバー3に設けられたスピードコントロールスイッチ6と、リモコンレバー3に設けられた減速スイッチ7と、制御部8とを備えている。
【0037】
本実施形態の船舶推進システム102(制御部8)は、波浪時の航行において、減速スイッチ7により一次的に船舶100の船速(エンジン回転数、スロットル開度)を小さくして、船体101の姿勢を安定させることが可能に構成されている。減速スイッチ7は、原則、各波が船体101に押し寄せるタイミング毎に、オン操作およびオフ操作が手動で行われる。詳細については後述する。
【0038】
(推進機の構成)
図3に示すように、推進機1は、エンジン10と、プロペラ11と、ドライブシャフト12と、プロペラシャフト13と、シフトアクチュエータ14とを備えている。
【0039】
エンジン10は、内燃機関であり、燃料を燃焼させて、クランクシャフト(図示せず)を回転させることにより、駆動力を発生させるように構成されている。エンジン10には、エンジン回転数を計測するクランク角センサ(図示せず)が設けられている。プロペラ11は、エンジン10において発生した駆動力により回転駆動するように構成されている。ドライブシャフト12およびプロペラシャフト13は、エンジン10において発生した駆動力をプロペラ11に伝達するように構成されている。
【0040】
シフトアクチュエータ14は、ドライブシャフト12とプロペラシャフト13との間に設けられたギヤユニット15を駆動させて、推進機1のシフト状態を前進状態(F状態)、ニュートラル状態(N状態)および後退状態(R状態)のいずれかに切り替えるように構成されている。
【0041】
(推進機操作装置の構成)
図4に示すリモコンレバー3は、推進機1の推力を調整するとともに、推進機1のシフト状態を切り替えるための装置である。
【0042】
詳細には、リモコンレバー3は、推進機1に指示する船速である指示船速を変更して、推進機1の推力を調整するように構成されている。リモコンレバー3は、リモコン本体30と、リモコン本体30に設けられたレバー部31とを含んでいる。
【0043】
レバー部31は、傾倒操作されるように構成されている。一例ではあるが、レバー部31は、リモコン本体30の上方に延びる状態から、前後方向に傾倒操作されるように構成されている。
【0044】
レバー部31が上方に延びている場合、推進機1のシフト状態は、ニュートラル状態(N状態)になる。レバー部31が上方に延びる状態から前方に所定角度以上だけ傾倒された場合、推進機1のシフト状態は、前進状態(F状態)になる。レバー部31が上方に延びる状態から後方に所定角度以上だけ傾倒された場合、推進機1のシフト状態は、後進状態(R状態)になる。
【0045】
リモコンレバー3は、レバー部31のレバー位置(操作量)を変更することにより指示船速を調整するように構成されている。一例ではあるが、前進状態および後進状態において、レバー部31の傾倒角度が大きくなる程、指示船速が大きくなり、実際の船速(エンジン回転数、スロットルの開度)は大きくなる。反対に、前進状態および後進状態において、レバー部31の傾倒角度が小さくなる程、指示船速が小さくなり、実際の船速(エンジン回転数、スロットルの開度)は小さくなる。
【0046】
図1に示すジョイスティック4は、ジョイスティックレバーを傾倒することにより、傾倒方向に船体101を移動させることが可能に構成されている。ジョイスティックレバーは、リモコンレバー3のレバー部31とは異なり、前後方向だけでなく、左右方向および前後の斜め方向にも傾倒可能に構成されている。また、ジョイスティック4は、ジョイスティックレバーの傾倒角度に応じて、実際の船速(エンジン回転数、スロットルの開度)が調整される。
【0047】
図1に示す操作パネル5には、各種のスイッチが設けられている。操作パネル5は、各種の自動操船モード、後述するスピードコントロールモード、および、後述する減速モードに関する操作などを受け付けるように構成されている。操作パネル5は、減速モードで用いられる船速のパラメータ(減速モードに入る際に小さくする船速の変動幅)を調整可能に構成されている。操作パネル5は、機械式のスイッチを有するパネルである。なお、操作パネルは、タッチパネルなどであってもよい。
【0048】
(スピードコントロールスイッチの構成)
図4に示すように、スピードコントロールスイッチ6は、リモコンレバー3のレバー部31に設けられたスイッチである。スピードコントロールスイッチ6は、船速(エンジン回転数、スロットルの開度)を微調整するスピードコントロールモードに入る操作、および、スピードコントロールスイッチにおいて船速を微調整する操作を受け付けるように構成されている。
【0049】
スピードコントロールスイッチ6は、船速を大きくするUPスイッチ60と、UPスイッチ60の下側に配置された船速を小さくするDOWNスイッチ61との2つのスイッチを含んでいる。
【0050】
船舶100(図1参照)は、前進状態または後進状態でレバー部31が所定の指示船速を指示している状態で、DOWNスイッチ61が押されることにより、スピードコントロールモードに入るように構成されている。なお、スピードコントロールモードに入る際に、船速(エンジン回転数、スロットルの開度)は変化しない。
【0051】
また、スピードコントロールモードは、レバー部31のレバー位置(操作量)が変更されることにより解除される。すなわち、レバー部31が操作されて、レバー部31のスピードコントロールモードに入った際の指示船速が異なる指示船速に変更されることにより、スピードコントロールモードは解除される。このため、スピードコントロールモードに入っている間において、スピードコントロールモードを維持しながらレバー部31を操作して指示船速を変えることはできない。なお、DOWNスイッチ61およびUPスイッチ60を操作するだけでは、スピードコントロールモードは解除されない。
【0052】
したがって、スピードコントロールモードを解除した場合、スピードコントロールモードを解除する際にレバー部31が操作されて指示船速が変わるため、スピードコントロールモードに入る時点でのレバー部31の指示船速に戻ることはない。
【0053】
スピードコントロールモードに入った後、DOWNスイッチ61が押された場合、船速が僅かに小さくなる。一例ではあるが、レバー部31のスピードコントロールモードに入った際の指示船速が3000[rpm]である場合、DOWNスイッチ61が押されることにより、船速(エンジン回転数)は、50[rpm]だけ小さい2950[rpm]になる。さらにDOWNスイッチ61が繰り返し押される毎に、船速は、50[rpm]ずつ小さくなる。
【0054】
また、スピードコントロールモードに入った後、UPスイッチ60が押された場合、船速が僅かに大きくなる。一例ではあるが、レバー部31のスピードコントロールモードに入った際の指示船速が3000[rpm]である場合、船速(エンジン回転数)は、50[rpm]だけ大きい3050[rpm]になる。さらにUPスイッチ60が繰り返し押される毎に、船速は、50[rpm]ずつ大きくなる。当然、DOWNスイッチ61とUPスイッチ60とを交互に操作することも可能である。
【0055】
(減速スイッチの構成)
図4に示すように、減速スイッチ7は、リモコンレバー3のレバー部31に設けられたスイッチである。減速スイッチ7は、押圧操作される機械式のボタンである。減速スイッチ7は、船速をレバー部31により指示された指示船速から一定速度(一定エンジン回転数)だけ小さくする減速モードに入る操作を受け付けるように構成されている。減速スイッチ7は、減速モードに入るためのオン操作、および、減速モードを解除するためのオフ操作を交互に受け付ける単一のスイッチである。
【0056】
船舶推進システム102(制御部8)は、減速スイッチ7がオン操作されることにより、減速モードに入り船速を指示船速から一定速度だけ小さくするように構成されている。また、船舶推進システム102(制御部8)は、減速モードを解除する操作が行われることにより、船速を減速モードに入る前の指示船速に戻すように構成されている。
【0057】
図5に示すように、減速スイッチ7は、船体101が波を乗り越える前のタイミングで、オン操作が行われるように構成されている。詳細には、減速スイッチ7は、船体101が波の頂部を乗り越える前のタイミングでオン操作が行われるように構成されている。その結果、船舶100は、減速した状態で波を乗り越えることができるので、波を乗り越える際に、船体101が波から勢いよく飛び出して、ジャンプすることなどを抑制することができる。また、船舶推進システム102(制御部8)は、オン操作で船速を小さくしておくことによって、波を乗り越える際に船首を下げることができるので、波の頂部に向かう状態の船体101を安定させることができる。なお、図5では、向かい波の際に減速スイッチ7を操作する例について示しているが、追い波の際においても減速スイッチ7を操作してもよい。
【0058】
また、減速スイッチ7は、船体101が波の頂部を乗り越えた後のタイミングで、オフ操作が行われるように構成されている。その結果、船舶推進システム102(制御部8)は、船体101が連続して複数の波を乗り越えた際に、船速が低下し続けることを抑制することができる。また、船舶推進システム102(制御部8)は、小さくなっていた船速をオフ操作で元に戻しておくことによって、波を乗り越えた際に船首を上げることができるので、波の頂部から下る状態の船体101を安定させることができる。
【0059】
ここで、減速モードに入り船速を指示船速から一定速度だけ小さくするとは、エンジン回転数を小さくすることを意味する。
【0060】
具体的な一例ではあるが、図6に示すように、レバー部31により指示されるエンジン回転数(指示船速)が3000[rpm]である場合、減速スイッチ7がオン操作されて減速モードに入る際に、船速は3000[rpm]から一定速度である500[rpm]だけ小さくなり、2500[rpm]になる。
【0061】
船舶推進システム102(制御部8)は、減速スイッチ7がオン操作されることにより、減速モードに入るのと同時に船速を指示船速から一定速度だけ小さくするように構成されている。すなわち、船舶推進システム102(制御部8)は、操船者の減速スイッチ7に対する一度の操作により、減速モードに入ること、および、船速を指示船速から一定速度だけ小さくすることの両方を行うことが可能に構成されている。
【0062】
そして、再び、減速スイッチ7がオフ操作されると、船速は減速モードに入る前の指示船速である3000[rpm]に戻る。上記「オン操作」および「オフ操作」とは、単に減速スイッチ7を押圧する操作である。また、減速スイッチ7のオン操作は減速モードに入るための操作であり、減速スイッチ7のオフ操作は減速モードを解除するための操作である。
【0063】
なお、スピードコントロールモードを解除する操作と同様にして、減速モードを解除することも可能である。すなわち、船舶推進システム102(制御部8)は、リモコンレバー3のレバー部31のレバー位置(操作量)を変更することによっても、減速モードを解除することが可能に構成されている。
【0064】
具体的には、図4を参照して、船速が増加するようにレバー部31が操作される場合、レバー部31が操作されて、レバー部31の減速モードに入った際の指示船速が異なる指示船速に変更されることにより、減速モードは即座に解除される。
【0065】
また、船速が低下するようにレバー部31が操作される場合、レバー部31の指示船速(エンジン回転数)が減速モードでの船速(エンジン回転数)以下になった場合に、減速モードは解除される。具体的な一例ではあるが、減速モードにおいてエンジン回転数が2500[rpm]であり、レバー部31の指示船速が3000[rpm]である場合、レバー部31が2500[rpm]以下の指示船速になるように操作されることにより、減速モードは解除される。
【0066】
減速スイッチ7がオン操作されて減速モードに入る際にレバー部31の指示船速から小さくなる一定速度(一定エンジン回転数)に相当する変動幅は、スピードコントロールスイッチ6が操作されるスピードコントロールモードにおける船速の調整幅よりも大きい。
【0067】
一例ではあるが、上記説明した例を挙げると、減速モードに入る際の一定速度に相当する船速(エンジン回転数)の変動幅は500[rpm]であり、スピードコントロールスイッチ6が操作されるスピードコントロールモードにおける船速の調整幅は50[rpm]である。
【0068】
単一の減速スイッチ7には、減速モードの間において点灯するとともに、減速モードが解除されている間において消灯する減速モードランプ70が設けられている。操船者は、減速モードランプ70が点灯していることにより、減速モードに入っていることを視覚的に把握することができる。上記点灯は、減速モードランプ70から光が継続的に出射される点灯である。なお、上記点灯は、減速モードランプから断続的に光が出射される点灯(点滅)であってもよい。また、操船者は、減速モードランプ70が消灯していることにより、減速モードが解除されていることを視覚的に把握することができる。
【0069】
リモコンレバー3は、減速モードにおいて、減速モードに入る際に指示船速から小さくなる一定速度(一定エンジン回転数)に相当する変動幅よりも小さな変動幅により、船速を増減させて微調整する操作を受け付ける微調整スイッチ71を有する。
【0070】
微調整スイッチ71は、スピードコントロールスイッチ6と兼用されるように構成されている。したがって、微調整スイッチ71は、UPスイッチ60と、UPスイッチ60の下側に配置された船速を小さくするDOWNスイッチ61との2つのスイッチを含んでいる。
【0071】
減速スイッチ7と微調整スイッチ71とは、レバー部31に並んで設けられている。減速スイッチ7と微調整スイッチ71とは、レバー部31の左側に配置されている。減速スイッチ7は、微調整スイッチ71の下側に配置されている。
【0072】
船舶推進システム102(制御部8)は、スピードコントロールモードに入ることなく、減速モードにおいて、微調整スイッチ71により、船速を増減させて微調整することが可能に構成されている。微調整スイッチ71による減速モードにおける船速の微調整は、スピードコントロールモードにおける船速の微調整と同様の操作により行われる。
【0073】
具体的な一例ではあるが、レバー部31により指示されるエンジン回転数(指示船速)が3000[rpm]である場合、減速スイッチ7がオン操作されて減速モードに入る際に、船速は3000[rpm]から一定速度(一定エンジン回転数)である500[rpm]だけ小さくなり、2500[rpm]になる。
【0074】
このエンジン回転数が2500[rpm]の状態で、減速スイッチ7のDOWNスイッチ61が押されることにより、船速(エンジン回転数)は、50[rpm]だけ小さい2450[rpm]になる。さらにDOWNスイッチ61が繰り返し押される毎に、船速は、50[rpm]ずつ小さくなる。なお、上記の通り、減速モードおよびスピードコントロールモードにおける船速の(微)調整幅がともに50[rpm]である例について説明したが、減速モードおよびスピードコントロールモードにおける船速の(微)調整幅は、互いに異なっていてもよい。すなわち、減速モードにおける船速の調整幅は、スピードコントロールモードにおける船速の調整幅よりも大きくてもよいし、小さくてもよい。
【0075】
また、エンジン回転数が2500[rpm]の状態で、減速スイッチ7のUPスイッチ60が押されることにより、船速(エンジン回転数)は、50[rpm]だけ大きい2550[rpm]になる。さらにUPスイッチ60が繰り返し押される毎に、船速は、50[rpm]ずつ大きくなる。当然、DOWNスイッチ61とUPスイッチ60とを交互に操作することも可能である。
【0076】
船舶推進システム102は、減速スイッチ7がオン操作されて減速モードに入る際に指示船速から小さくなる一定速度(一定エンジン回転数)に相当する変動幅(上記の500[rpm])を変更可能に構成されている。操作パネル5は、変動幅を変更する操作を受け付けるように構成されている。一例ではあるが、操作パネル5の所定のスイッチが押圧された場合に、減速モードに入る際に指示船速から小さくなる一定速度(エンジン回転数)を、増減させる調整を行う調整モードに入るように構成されている。調整モードでは、上記の500[rpm]を、450[rpm]、550[rpm]、および、600[rpm]などに変更することが可能である。
【0077】
(制御部の構成)
制御部8は、船体101に設けられている。制御部8は、減速スイッチ7および微調整スイッチ71の操作信号を取得するように構成されている。制御部8は、リモコンレバー3、操作パネル5およびジョイスティック4から操作信号を取得して、上記説明した減速スイッチ7の操作に基づく推進機1の各種駆動を制御するように構成されている。制御部8は、CPUおよびメモリを含んでいる。制御部8は、推進機1に接続され、推進機1に駆動を制御する信号を送信するリモコンECUにより構成されている。なお、制御部は、リモコンECUではなく、自動操船の制御などを行うBCU(ボートコントロールユニット)などにより構成されていてもよい。BCUは、船体に設けられる。
【0078】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0079】
本実施形態では、上記のように、船速を一定速度だけ小さくする減速モードに入る操作を受け付ける減速スイッチ7を設け、減速スイッチ7がオン操作されることにより、減速モードに入り船速を一定速度だけ小さくするように構成し、減速モードを解除する操作が行われることにより、船速を減速モードに入る前の船速に戻すように構成する。これによって、減速スイッチ7を操作するだけで、減速モードに入り一定速度だけ減速することができるとともに、減速モードを解除する操作によって船速を減速モードに入る前の船速に戻すことができる。したがって、従来のレバー操作のような繊細な操作が要求されなくなるため、波を乗り越える際に容易に減速させて船体101を安定させることができる。また、減速モードに入る際に船速をリモコンレバー3(船速指示装置)の指示船速から一定速度だけ小さくし、減速モードを解除する際に船速を減速モードに入る前の指示船速に戻すように構成することによって、波を乗り越える際にリモコンレバー3の指示船速を維持することができる。
【0080】
本実施形態では、上記のように、減速スイッチ7は、減速モードに入るためのオン操作、および、減速モードを解除するためのオフ操作を交互に受け付ける単一のスイッチである。これによって、減速スイッチ7が減速用スイッチおよび減速解除用スイッチを備える場合などの複数のスイッチで構成される場合とは異なり、部品点数を削減して装置構成が複雑化することを抑制することができる。また、減速モードに入る操作および減速モードを解除する操作を行う際に、操船者が複数のスイッチを操作するために指を動かす必要がないので、減速スイッチ7の操作を容易に行うことができる。このため、波を乗り越える際により容易に減速させて船体101を安定させることができる。
【0081】
本実施形態では、上記のように、単一の減速スイッチ7には、減速モードの間において点灯するとともに、減速モードが解除されている間において消灯する減速モードランプ70が設けられている。これによって、操船者が減速モードに入っていることを容易に視覚的に把握することができる。
【0082】
本実施形態では、上記のように、減速スイッチ7は、船体101が波を乗り越える前のタイミングで、オン操作が行われるように構成されている。これによって、船体101が波を乗り越える前に事前に減速しておくことができるので、船体101が波を乗り越えた際に、船体101が波からジャンプすることなどを抑制することができる。
【0083】
本実施形態では、上記のように、推進機操作装置2に設けられたスイッチであり、船速を微調整するスピードコントロールモードに入る操作、および、スピードコントロールモードにおいて船速を微調整する操作を受け付けるスピードコントロールスイッチ6をさらに備え、減速スイッチ7がオン操作されて減速モードに入る際に指示船速から小さくなる一定速度に相当する変動幅は、スピードコントロールスイッチ6が操作されるスピードコントロールモードにおける船速の調整幅よりも大きい。これによって、スピードコントロールモードでの船速の調整と比較して、波を乗り越える際に比較的大きく船速を変化させて、船体101を効果的に安定させることができる。
【0084】
本実施形態では、上記のように、減速スイッチ7がオン操作されることにより、減速モードに入るのと同時に船速を指示船速から一定速度だけ小さくするように構成されている。これによって、減速スイッチ7を一度操作するだけで、減速モードに入ることができるとともに、船速を指示船速から一定速度だけ小さくすることができる。したがって、波を乗り越える際により迅速に減速させて船体101を安定させることができる。
【0085】
本実施形態では、上記のように、船速指示装置は、レバー部31を有し、レバー部31のレバー位置(操作量)を変更することにより指示船速を調整するリモコンレバー3であり、減速スイッチ7は、リモコンレバー3に設けられている。これによって、操船時に操船者により握られるリモコンレバー3に減速スイッチ7が設けられるので、リモコンレバー3を操作する手により減速スイッチ7を容易に操作することができる。
【0086】
本実施形態では、上記のように、リモコンレバー3は、減速モードにおいて、減速モードに入る際に指示船速から小さくなる一定速度に相当する変動幅よりも小さな変動幅により、船速を増減させて微調整する操作を受け付ける微調整スイッチ71を有する。これによって、減速モードに入り減速した状態で、微調整スイッチ71により船速を微調整して船体101をより安定させることができる。
【0087】
本実施形態では、上記のように、減速スイッチ7と微調整スイッチ71とは、レバー部31に並んで設けられている。これによって、減速スイッチと微調整スイッチとが離れて配置されている場合と比較して、減速スイッチ7と微調整スイッチ71とを容易に操作することができる。
【0088】
本実施形態では、上記のように、推進機操作装置2に設けられたスイッチであり、船速を微調整するスピードコントロールモードに入る操作、および、スピードコントロールモードにおいて船速を微調整する操作を受け付けるスピードコントロールスイッチ6をさらに備え、微調整スイッチ71は、スピードコントロールスイッチ6と兼用され、スピードコントロールモードに入ることなく、減速モードにおいて、微調整スイッチ71により、船速を増減させて微調整することが可能に構成されている。これによって、微調整スイッチとスピードコントロールスイッチとが別々である場合と比較して、推進機操作装置2のスイッチの数を少なくして、装置構成を簡素化することができる。
【0089】
本実施形態では、上記のように、リモコンレバー3のレバー部31のレバー位置(操作量)を変更することによっても、減速モードを解除することが可能に構成されている。これによって、種々の方法により減速モードを解除することができるので、船舶推進システム102の操作性を向上させることができる。
【0090】
本実施形態では、上記のように、減速スイッチ7がオン操作されて減速モードに入る際に指示船速から小さくなる一定速度に相当する変動幅を変更可能に構成され、推進機操作装置2は、変動幅を変更する操作を受け付けるように構成されている。これによって、減速スイッチ7がオン操作されて減速モードに入る際に指示船速から小さくなる一定速度の大きさを、波の大きさおよび速さなどの波の状態を考慮して、調整することができる。
【0091】
本実施形態では、上記のように、減速スイッチ7は、押圧操作される機械式のボタンである。これによって、押圧操作される機械式のボタン(物理的なボタン)である減速スイッチ7を操作することによって、波を乗り越える際に容易に減速させて船体101を安定させることができる。
【0092】
[変形例]
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であり制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更(変形例)が含まれる。
【0093】
たとえば、上記実施形態では、本発明の推進機を船外機により構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、推進機を船内機や船内外機などにより構成してもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、減速スイッチを単一のスイッチにより構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、減速スイッチを複数のスイッチにより構成してもよい。たとえば、減速スイッチを、減速モードに入り減速するための減速用スイッチと、減速モードを解除するための減速解除用スイッチとの2つにより構成してもよい。
【0095】
また、上記実施形態では、本発明の船速指示装置を、リモコンレバーにより構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、船速指示装置を、ジョイスティックや操作パネルなどにより構成してもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、船体に1つの推進機を取り付けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、船体に2つ以上の推進機を取り付けてもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、減速スイッチがオン操作された際に小さくなる一定速度の船速(エンジン回転数)を500rpmとした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、減速スイッチがオン操作された際に小さくなる一定速度の船速(エンジン回転数)を500rpmとは異なるエンジン回転数にしてもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、減速スイッチがオン操作された際に小さくなる一定速度の船速を、エンジン回転数を基準に設定した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、減速スイッチがオン操作された際に小さくなる一定速度の船速を、GPSなどから得られる船速自体、または、スロットルの開度などを基準に設定してもよい。
【0099】
また、上記実施形態では、微調整スイッチがスピードコントロールスイッチと兼用される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、微調整スイッチと、スピードコントロールスイッチとが別々のスイッチであってもよい。
【0100】
また、減速スイッチの操作のタイミングは、押し寄せる波に対して操船者が自由に決定すればよく、上記実施形態において説明したタイミングに限られるものではない。
【0101】
また、上記実施形態では、船舶がスピードコントロールスイッチを備える例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、船舶がスピードコントロールスイッチを備えていなくてもよい。
【0102】
また、上記実施形態では、減速スイッチがリモコンレバーのレバー部に設けられた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、減速スイッチがリモコンレバーのリモコン本体や、ジョイスティック、操作パネルなどに設けられていてもよい。
【0103】
また、上記実施形態では、減速スイッチを押圧操作される機械式のボタンとした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、減速スイッチをタッチパネルに設けられるスイッチなどとしてもよい。
【0104】
また、上記実施形態では、減速スイッチおよび微調整スイッチの操作信号を船体に設けられた制御部が取得する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、減速スイッチおよび微調整スイッチの操作信号を推進機が直接取得してもよい。この場合、減速スイッチがオン操作されることにより、減速モードに入り船速を指示船速から一定速度だけ小さくする制御などを、推進機(推進機のECUなど)が行う。
【0105】
また、上記実施形態では、推進機をエンジン駆動式とした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、推進機を電気モータにより駆動する方式としてもよい。この場合、減速スイッチがオン操作されることにより、電気モータの駆動率(回転数)が小さくなる。
【符号の説明】
【0106】
1 推進機
2 推進機操作装置
3 リモコンレバー(船速指示装置)
6 スピードコントロールスイッチ
7 減速スイッチ
31 (リモコンレバーの)レバー部
70 減速モードランプ
71 微調整スイッチ
100 船舶
101 船体
102 船舶推進システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6