(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165071
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】車両無線通信システム
(51)【国際特許分類】
B60C 23/04 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
B60C23/04 150K
B60C23/04 150G
B60C23/04 150H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080912
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡部 宣哉
(72)【発明者】
【氏名】福田 昌紘
(57)【要約】
【課題】複数の車輪それぞれに無線機を備えなくても、各車輪に備えたタイヤ側通信機から送信された電波を車両側通信機で的確に受信できる車両無線通信システムを提供する。
【解決手段】車両側通信機3に第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31bと第2整合回路32bを備える。そして、第2整合回路32bの回路定数を可変とし、受信する電波の位相を第2整合回路32bにて可変させられるようにする。これにより、車両側通信機3とタイヤ側通信機2a~2dとの間の電波伝搬における複数の伝搬パスの合成波が強め合うように、伝搬パスの位相差を変化させられ、ヌル点が移動またはヌル点での電波の伝搬レベルを変化させられる。よって、すべてのタイヤ側通信機2a~2dから送信されたフレーム、つまり電波の受信を的確に行うことが可能となる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両無線通信システムであって、
車両(1)に備えられる複数の車輪(5a~5d)それぞれに取付けられ、識別情報を含むデータを格納したフレームを繰り返し電波として送信するタイヤ側通信機(2a~2d)と、
車体(6)側に備えられ、前記タイヤ側通信機が送信した前記電波を受信する車両側通信機(3)と、を有し、
前記車両側通信機は、
複数のアンテナ(31a~31c)と、
前記複数のアンテナのうちの少なくとも1つに接続され、接続された前記アンテナが受信する電波の位相を設定する整合回路(32a~32c)と、
前記複数のアンテナが受信した前記電波を受信する通信回路(33)と、
前記通信回路が受信した前記電波を入力し、前記識別情報に基づいて、前記複数の車輪それぞれに取付けられた前記タイヤ側通信機が送信した前記電波をすべて受信したか否かを判定し、受信していなければ前記整合回路にて前記位相を変化させ、受信していれば前記整合回路が設定した前記電波の位相にて前記電波の受信を行わせる制御部(34)と、を有している、車両無線通信システム。
【請求項2】
前記タイヤ側通信機にて、該タイヤ側通信機が取付けられた前記車輪のタイヤ空気圧に関するデータを前記フレームに格納して定期送信周期毎に送信すると共に、前記車両側通信機にて前記フレームを受信して該フレームに格納された前記タイヤ空気圧に関するデータに基づいて前記車輪のタイヤ空気圧を検出するタイヤ空気圧監視システムに適用され、
前記制御部は、前記定期送信周期の間隔(ΔT)となる期間内に前記複数の車輪それぞれに取付けられた前記タイヤ側通信機が送信した前記電波をすべて受信したか否かを判定し、前記期間内に受信していなければ前記整合回路にて前記位相を変化させる、請求項1に記載の車両無線通信システム。
【請求項3】
前記整合回路は、前記少なくとも1つのアンテナと前記通信回路との間を繋ぐマイクロストリップライン(75a、75b)に接続される可変容量(76c)の容量値を変化させることによって該整合回路が接続された前記アンテナが受信する電波の位相を変化させる、請求項1に記載の車両無線通信システム。
【請求項4】
前記整合回路は、前記少なくとも1つのアンテナと前記通信回路との間を繋ぐマイクロストリップライン(75a、76a)の長さまたは該マイクロストリップラインに接続される整合素子を切替えるスイッチを備えた回路である、請求項1に記載の車両無線通信システム。
【請求項5】
前記整合回路によって前記位相を変化させる際に、該整合回路の定在波比が3以下となる範囲で行われる、請求項1に記載の車両無線通信システム。
【請求項6】
前記複数のアンテナは、互いに受信する電波の主偏波が互いに直交する第1アンテナ(31a)と第2アンテナ(31b)および第3アンテナ(31c)を含み、
前記整合回路は、前記第1アンテナに接続された第1整合回路(32a)と、前記第2 アンテナに接続された第2整合回路(32b)と、第3アンテナに接続された第3整合回路(32c)と、を有し、
前記第1整合回路にて前記第1アンテナが受信する電波の位相を変化させられ、前記第2整合回路にて前記第2アンテナが受信する電波の位相を変化させられ、前記第3整合回路にて前記第3アンテナが受信する電波の位相を変化させられる、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の車両無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばタイヤ空気圧監視システム(以下、TPMSという)に適用される車両無線通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイレクト式のTPMSでは、車輪側に、圧力センサ等のセンシング部を備えたタイヤ側通信機を直接取り付けると共に、車体側に、アンテナおよび車両側通信機を備え、無線によるデータ通信に基づき各車輪のタイヤ空気圧を検出している。センシング部の検出結果がタイヤ側通信機から送信されると、アンテナを介して車両側通信機でその検出結果が受信され、タイヤ空気圧検出が行われる。
【0003】
そして、タイヤ側通信機と車両側通信機との間の通信を行う為に、特許文献1では、各車輪の近傍に、電波受信レベルを測定する受信手段を備えるようにしている。電波受信レベルが最大となる受信手段より得られる空気圧データをその受信手段に対応する車輪の空気圧データと判定することでその車輪のタイヤ空気圧を検出し、これを4輪分実施することで4輪それぞれのタイヤ空気圧を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように各車輪に受信手段を備える構成では、電波伝搬レベルは高いが各車輪の近傍に受信手段となる無線機が必要となり、部品点数増大およびコスト高を招く。
【0006】
一方、車輪1つ1つに対応してアンテナを備えるのではなく、複数の車輪に対して1つの無線機を備える構成とする技術もある。この場合、無線機の数を減らせるためコスト高を抑制できるが、電波伝搬レベルが低く、タイヤ側通信機が送信した電波を車両側通信機で的確に受信できない可能性がある。例えば、タイヤ側通信機と車両側通信機との間の双方向通信として用いられているBLE(Bluetooth Low Energyの略:「Bluetooth」は登録商標である)の周波数帯を用いる場合、特に電波伝搬レベルが低くなり、的確な通信が困難である。
【0007】
本開示は、複数の車輪それぞれに無線機を備えなくても、各車輪に備えたタイヤ側通信機から送信された電波を車両側通信機で的確に受信できる車両無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つの観点における車両無線通信システムは、
車両(1)に備えられる複数の車輪(5a~5d)それぞれに取付けられ、識別情報を含むデータを格納したフレームを繰り返し電波として送信するタイヤ側通信機(2a~2d)と、
車体(6)側に備えられ、前記タイヤ側通信機が送信した前記電波を受信する車両側通信機(3)と、を有し、
前記車両側通信機は、
複数のアンテナ(31a~31c)と、
前記複数のアンテナのうちの少なくとも1つに接続され、接続された前記アンテナが受信する電波の位相を設定する整合回路(32a~32c)と、
前記複数のアンテナが受信した前記電波を受信する通信回路(33)と、
前記通信回路が受信した前記電波を入力し、前記識別情報に基づいて、前記複数の車輪それぞれに取付けられた前記タイヤ側通信機が送信した前記電波をすべて受信したか否かを判定し、受信していなければ前記整合回路にて前記位相を変化させ、受信していれば前記整合回路が設定した前記電波の位相にて前記電波の受信を行わせる制御部(34)と、を有している。
【0009】
このように、車両側通信機に複数のアンテナを備えると共に、その少なくとも1つに、アンテナが受信する電波の位相を設定する整合回路を備えている。そして、整合回路の回路定数を可変とすることで、受信する電波の位相を整合回路にて可変させられるようにしている。このため、車両側通信機とタイヤ側通信機との間の電波伝搬における複数の伝搬パスの合成波が強め合うように、伝搬パスの位相差を変化させられ、ヌル点が移動またはヌル点での電波の伝搬レベルを変化させられる。これにより、すべてのタイヤ側通信機から送信される電波を車両側通信機で的確に受信できる車両用無線通信システムとすることが可能となる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態にかかる車両に実装したTPMSの概略構成を示した図である。
【
図2】タイヤ側通信機のブロック構成を示した図である。
【
図3】車両側通信機のブロック構成を示した図である。
【
図5】車両側通信機の制御部が実行する位相調整処理のフローチャートである。
【
図6】位相調整処理を行った場合の各タイヤ側通信機と車両側通信機との通信の様子を示した状態遷移図である。
【
図7】第2整合回路の回路定数を変化させたときの第2整合回路のVSWR(定在波比)の測定結果を示す図である。
【
図8】放射電界分布のシミュレーション結果を示した図である。
【
図9】
図8中の直線L1での位相差を示した図である。
【
図10】第2整合回路の回路定数を変化させて車輪1回転中の車両側通信機での受信電力の強度の変化を調べた結果を示す図である。
【
図11】第2実施形態にかかる車両側通信機のブロック構成を示す図である。
【
図12】第2整合回路の回路定数を変化させて車輪1回転中の車両側通信機での受信電力の強度の変化を調べた結果を示す図である。
【
図13】第2整合回路の回路定数を変化させることで得られる車輪1回転中の車両側通信機での実質的な受信電力の強度の変化を示す図である。
【
図14】第3実施形態にかかる車両側通信機のブロック構成を示す図である。
【
図15】第1~第3整合回路の位相調整の状態を示した図表である。
【
図16】第1~第3整合回路の回路定数を変化させて車輪1回転中の車両側通信機での受信電力の強度の変化を調べた結果を示す図である。
【
図17】第1~第3整合回路の回路定数を変化させることで得られる車輪1回転中の車両側通信機での実質的な受信電力の強度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0013】
(第1実施形態)
本開示の第1実施形態における車両無線通信システムとして、
図1に示すTPMSを例に挙げて説明する。なお、
図1の紙面左方向が車両1の前方、紙面右方向が車両1の後方、紙面上方向が車両1の右方向、紙面下方向が車両1の左方向に一致している。
【0014】
〔TPMSの構成〕
図1に示す、TPMSは、車両1に搭載されるもので、タイヤ側通信機2a~2d、車両側通信機3および表示器4を備え、タイヤ側通信機2a~2dと車両側通信機3とによる無線通信によってタイヤ空気圧を監視するシステムである。TPMSにおけるタイヤ側通信機2a~2dおよび車両側通信機3が車両無線通信システムを構成する部分となる。
【0015】
図1に示すように、タイヤ側通信機2a~2dは、車両1における各車輪5a~5dに取り付けられるもので、車輪5a~5dに取り付けられたタイヤの空気圧の検出に用いる各種データを取得すると共に、そのデータをフレーム内に格納して送信する。また、車両側通信機3は、車両1における車体6側に取り付けられるもので、タイヤ側通信機2a~2dから送信されるフレームを受信すると共に、その中に格納された検出信号に基づいて各種処理や演算等を行うことでタイヤ空気圧を検出する。
【0016】
図2に示すように、タイヤ側通信機2a~2dは、センシング部21、制御部22、通信回路23、電池24およびアンテナ25を備えた構成となっており、電池24からの電力供給に基づいて各部が駆動されるようになっている。
【0017】
センシング部21は、圧力センサや温度センサなどを備えた構成とされ、タイヤ空気圧に応じた検出信号やタイヤ内温度に応じた検出信号を出力し、それを制御部22に伝えている。
【0018】
制御部22は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えたマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどのメモリに記憶されたプログラムに従って、所定の処理を実行する。制御部22内のメモリには、各タイヤ側通信機2a~2dを特定するための送信機固有の識別情報と自車両を特定するための車両固有の識別情報とを含むID(Identification)情報が格納されている。
【0019】
制御部22は、センシング部21から出力された検出信号を受け取り、それを信号処理すると共に必要に応じて加工し、タイヤ空気圧の検出に用いる各種データとして各タイヤ側通信機2a~2dのID情報と共にフレーム内に格納する。そして、制御部22は、そのフレームを通信回路23に送る。なお、以下の説明では、タイヤ空気圧やタイヤ内温度の検出結果を示すデータのことをタイヤ空気圧に関するデータという。
【0020】
通信回路23は、アンテナ25を通じて、制御部22から送られてきたフレームを高周波の周波数帯域、例えばRF(Radio Frequency)帯の電波として車両側通信機3に向けて送信する送信部として機能する。また、タイヤ側通信機2a~2dと車両側通信機3とが双方向通信可能な形態とされる場合には、通信回路23は、車両側通信機3から送られてくる電波を受信する受信部としての機能も果たす。制御部22から通信回路23へ信号を送る処理は、上記プログラムに従って所定の送信周期毎に実行されるように設定されている。すなわち、タイヤ側通信機2a~2d側ではIGがオン中かオフ中かを判定できないため、基本的には所定の定期送信周期毎に繰り返しフレーム送信を行うようにしている。
【0021】
なお、制御部22は、各タイヤ側通信機2a~2dからのフレーム送信タイミングがバッティングしないように、送信タイミングを調整している。ただし、各車輪5a~5dのタイヤ側通信機2a~2dから異なるタイミングでフレームが送信されるようにするために、単に、各タイヤ側通信機2a~2dの制御部22に異なった送信タイミングを記憶させただけでは、各タイヤ側通信機2a~2dの記憶内容が異なったものとなってしまう。このため、例えば送信タイミングが毎回ランダムに変更されるように、制御部22に記憶させるプログラムを設定してある。これにより、すべてのタイヤ側通信機2a~2dの制御部22のプログラムを共通にしている。
【0022】
電池24は、センシング部21や制御部22などに対して電力供給を行っており、この電池24からの電力供給を受けて、センシング部21でのタイヤ空気圧に関するデータの収集や制御部22での各種演算などが実行される。
【0023】
このように構成されるタイヤ側通信機2a~2dは、例えば、各車輪5a~5dのホイールにおけるエア注入バルブに取り付けられ、センシング部21がタイヤの内側に露出するように配置される。これにより、タイヤ側通信機2a~2dは、該当車輪のタイヤ空気圧を検出し、各タイヤ側通信機2a~2dに備えられたアンテナ25を通じて、所定周期毎にフレームを送信するようになっている。
【0024】
また、
図3に示すように、車両側通信機3は、第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31b、第1整合回路32a、第2整合回路32b、通信回路33および制御部34を備えた構成となっている。
【0025】
第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31bは、各タイヤ側通信機2a~2dから送られてくるフレームを受信するためのものである。本実施形態では、第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31bは、各タイヤ側通信機2a~2dから送られてくるフレームを総括的に受け取る共通アンテナとなっており、車体6に固定されている。
【0026】
第1整合回路32aは、第1アンテナ31aに接続されている。また、第2整合回路32bは、第2アンテナ31bに接続されている。第1整合回路32aおよび第2整合回路32bは、それぞれ第1アンテナ31aや第2アンテナ31bが受信する電波の位相を設定するものである。第2整合回路32bについては、制御部34からの制御信号に基づいて第2アンテナ31bが受信する電波の位相を可変して設定させられるようになっている。なお、第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31bや第1整合回路32aおよび第2整合回路32bの詳細については後述する。
【0027】
通信回路33は、各タイヤ側通信機2a~2dから送信されたフレームが第1、第2アンテナ31a、31bで受信されると、それを受信して制御部34に送る受信部としての機能を果たすものである。また、タイヤ側通信機2a~2dと車両側通信機3とが双方向通信可能な形態とされる場合には、通信回路33は、制御部34から伝えられるコマンドなどを示す電波をタイヤ側通信機2a~2dに対して送信する送信部としての機能も果たす。
【0028】
制御部34は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えたマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って、タイヤ空気圧検出に関わる各種処理を実行する。制御部34は、基本的には、イグニッションスイッチ等の図示しない車両1の起動スイッチがオフ中にはオフ状態となっているが、起動スイッチがオンされるとオン状態となり、各車輪5a~5dのタイヤ空気圧の検出に関わる各種処理を行う。
【0029】
例えば、制御部34は、タイヤ空気圧検出に関わる各種処理として、通信回路33から受け取ったフレームに格納されたタイヤ空気圧に関するデータに基づいて各種信号処理および演算等を行うことでタイヤ空気圧を求める。そして、求めたタイヤ空気圧に応じた電気信号を表示器4に出力する。例えば、制御部34は、求めたタイヤ空気圧を所定の警報閾値Thと比較し、タイヤ空気圧が所定の警報閾値Th以下に低下したことを検知した場合には、その旨の信号を表示器4に出力する。また、制御部34は、4つの車輪5a~5dそれぞれのタイヤ空気圧を求め、そのタイヤ空気圧の数値を各車輪5a~5dと対応させて表示器4に出力することもできる。
【0030】
制御部34のメモリには、各車輪5a~5dに配置されているタイヤ側通信機2a~2dのID情報が各車輪5a~5dの位置と関連づけられて記憶されている。このため、制御部34は、フレームに格納されたID情報と照合することで、受信したフレームが車輪5a~5dのいずれに取り付けられたタイヤ側通信機2a~2dであるかを認識し、タイヤ空気圧が低下した車輪を特定できる。これに基づき、タイヤ空気圧低下が発生した場合に、低下した車輪を特定して表示器4に出力する。また、タイヤ空気圧低下が発生していない場合でも、求めたタイヤ空気圧を各車輪5a~5dと対応させて、表示器4に出力するようにしても良い。
【0031】
このようにして、4つの車輪5a~5dのいずれかのタイヤ空気圧が低下したこと、もしくは、4つの車輪5a~5dそれぞれのタイヤ空気圧が表示器4に伝えられる。
【0032】
表示器4は、
図1に示されるように、ドライバが視認可能な場所に配置され、例えば車両1におけるインストルメントパネル内に設置される警報ランプやディスプレイによって構成される。この表示器4は、例えば車両側通信機3における制御部34からタイヤ空気圧が低下した旨を示す信号が送られてくると、その旨の表示を行うことでドライバにタイヤ空気圧の低下を報知する。または、車両側通信機3から4つの車輪5a~5dそれぞれのタイヤ空気圧が伝えられると、各車輪5a~5dと対応させて各タイヤ空気圧を表示する。
【0033】
なお、本実施形態では、表示器4をドライバへの警告を行う警告手段として用いているが、表示器4のように視覚的に警告を行うものの他、スピーカなどの聴覚的に警告を行うものを警告手段として用いても良い。
【0034】
〔アンテナおよび整合回路の詳細〕
続いて、上記した第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31bと第1整合回路32aおよび第2整合回路32bの詳細について説明する。
【0035】
図4は、車両側通信機3の構成例を示している。この図に示すように、車両側通信機3は、回路基板7の一面に車両側通信機3の構成部品が備えられることで構成されている。具体的には、回路基板7の一面に導体パターン71が形成されている。この導体パターン71により、第1整合回路32aおよび第2整合回路32bと、第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31bが構成されている。また、図示していないが、回路基板7の一面側において、導体パターン71を覆うように絶縁性の保護膜などが形成されており、その上に通信回路33を構成するIC(Integrated Circuit)や制御部34が実装されている。そして、ワイヤボンディングなどによって通信回路33と制御部34との間や通信回路33と第1整合回路32aおよび第2整合回路32bとが電気的に接続されることで車両側通信機3が構成されている。
【0036】
導体パターン71には、接地電位(GND)パターン72が備えられ、このGNDパターン72に第1アンテナ31aを構成する第1アンテナパターン73および第2アンテナ31bを構成する第2アンテナパターン74が接続されている。GNDパターン72は、略四角形をなしており、四隅の1つにおいて、略四角形とされたGNDパターン72の一辺72aからそれに隣接する一辺72bに至る切欠き72cが形成されている。その切欠き72c内に第1、第2整合回路32a、32bが配置されると共に、一辺72aから第1アンテナパターン73が延設され、一辺72bから第2アンテナパターン74が延設されている。
【0037】
第1アンテナパターン73は、一辺72aに対して法線方向に引き出されたのち、一辺72aに沿う方向であって第2アンテナパターン74と反対方向に折れ曲がり、それから蛇行状とされたパターンにより構成されている。また、第2アンテナパターン74は、GNDパターン72の一辺72bに対して法線方向に引き出されたのち、一辺72bに沿う方向であって第1アンテナパターン73と反対方向に折れ曲がり、それから蛇行状とされたパターンにより構成されている。
【0038】
また、導体パターン71には、第1整合回路32aを構成する第1回路パターン75が備えられている。第1回路パターン75は、マイクロストリップライン75aと第1~第3エレメント75b~75dを有した構成とされる。マイクロストリップライン75aは、第1アンテナパターン73と通信回路33とを接続する配線である。このマイクロストリップライン75aに第1エレメント75bおよび第2エレメント75cが直列接続されている。また、マイクロストリップライン75aにおける第1エレメント75bと第2エレメント75cとの間とGNDパターン72との間に第3エレメント75dが接続されている。
【0039】
さらに、導体パターン71には、第2整合回路32bを構成する第2回路パターン76が備えられている。第2回路パターン76は、マイクロストリップライン76aと第4~第6エレメント76b~76dを有した構成とされる。マイクロストリップライン76aは、第2アンテナパターン74と通信回路33とを接続する配線である。このマイクロストリップライン76aに第4エレメント76bおよび第5エレメント76cが直列接続されている。また、マイクロストリップライン76aにおける第4エレメント76bと第5エレメント76cとの間とGNDパターン72との間に第6エレメント76dが接続されている。
【0040】
本実施形態の場合、第1整合回路32aを構成する第1~第3エレメント75b~75dについては固定容量とされている。第2整合回路32bを構成する第4~第6エレメント76b~76dのうち第4、第6エレメント76b、76dについては固定容量とされ、第5エレメント76cについては例えば電圧制御で容量を可変する可変容量とされている。各固定容量の容量値や可変容量における容量の可変範囲については任意に設定できる。ここでは、可変容量における容量の可変範囲について、a1~a7[pF]として説明する。なお、a1~a7では、添え字の「1」~「7」の数値が大きくなるほど容量値が大きくなることを示している。
【0041】
このような構成とされることで、第1アンテナ31aで受信する電波の位相は、第1整合回路32aの固定の回路定数に基づいて決まり、第2アンテナ31bで受信する電波の位相は、第2整合回路32bの可変の回路定数に基づいて決まるようになっている。
【0042】
〔TPMSの作動〕
以上のようにして、本実施形態にかかるTPMSが構成されている。続いて、本実施形態のTPMSの作動について説明する。
【0043】
まず、TPMSの基本的な作動について説明する。TPMSは、タイヤ側通信機2a~2dについては、所定のセンシング周期毎にセンシング部21によるタイヤ空気圧およびタイヤ内温度の検出を行い、制御部22でその検出結果を自身のID情報と共にフレームに格納し、所定の定期送信周期毎に送信する。
【0044】
一方、車両側通信機3については、車両1の起動スイッチがオンされたときに、図示しないバッテリから制御部34や通信回路33に電力供給されることで作動し、フレームの受信が行える受信待機状態となる。そして、受信待機状態中にタイヤ側通信機2a~2dからフレームが送信されてくると、それを受信して、タイヤ空気圧検出を行う。これに基づき、タイヤ空気圧検出の結果を表示器4に伝えることで、そのときのタイヤ空気圧を表示したり、タイヤ空気圧低下が生じていることが表示され、ドライバにタイヤ空気圧の状況が伝えられる。
【0045】
通常は、上記のような作動が行われることになる。しかしながら、電波伝搬レベルが低く、タイヤ側通信機2a~2dからの電波の送信タイミングがヌル点のタイミングだと電波を受信できない可能性がある。特許文献1のように、各車輪5a~5dに対して1つずつアンテナを備えれば対応できるが、部品点数増大およびコスト高を招くことになる。
【0046】
一方、車両側通信機3とタイヤ側通信機2a~2dとの間の電波伝搬には複数の伝搬パスがある。そして、その合成波は、位相が同位相に近い場合には強め合い、逆位相に近い場合には弱め合う。また、その伝搬パスの位相差を変化させることでヌル点が移動したり、ヌル点での電波の伝搬レベルが変化したりする。この現象を利用し、本実施形態では第1アンテナ31aと第2アンテナ31bという複数のアンテナを用いると共に第1整合回路32aおよび第2整合回路32bによって各アンテナで受信する電波の位相を可変させることで、ヌル点での電波の伝搬レベルを向上させる。
【0047】
具体的には、本実施形態では、車両側通信機3を上記構成としているため、第1アンテナ31aおよび第1整合回路32aにより所定の位相の電波を受信しつつ、第2アンテナ31bおよび第2整合回路32bにより受信する電波の位相を可変させられる。つまり、第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31bで受信する電波の位相を同じにしたり異ならせたりできる。これに基づき、制御部34では、タイヤ空気圧に関するデータをより的確に受信できるようにするための位相調整処理を行う。
【0048】
図5および
図6を参照して、位相調整処理について説明する。この位相調整処理は、例えば車両1の起動スイッチがオンされて制御部34に電力供給が行われると実行されるもので、上記したTPMSの基本的な作動と平行して実行される。
【0049】
まず、
図5のステップS100では、第2整合回路32bの回路定数を初期値に設定する。例えば第2整合回路32bに備えられた第5エレメント76cの容量値をa1[pF]に設定する。また、ステップS110に進み、受信待機状態となり、タイヤ側通信機2a~2dからのタイヤ空気圧に関するデータを格納したフレームの受信を待機する。
【0050】
続いて、ステップS120において、各タイヤ側通信機2a~2dから送信されたフレームの受信の可否について判定する。具体的には、制御部34は、フレームを受信するとフレーム内に格納されているデータを取得し、そのデータに含まれていたID情報がタイヤ側通信機2a~2dのいずれかのものであるか、また、タイヤ空気圧に関するデータが含まれていたかを判定する。そして、定期送信周期の間隔ΔTの期間内に、すべてのタイヤ側通信機2a~2dから送信されたフレームが受信されればステップS130に進み、いずれか1つでもタイヤ側通信機2a~2dから送信されたフレームが受信できなければステップS140に進む。
【0051】
そして、ステップ130では、そのときの第2整合回路32bの回路定数の設定値を初期値として記憶し、処理を終了する。また、ステップ140では、第2整合回路32bの回路定数の設定値を変更する処理を行う。すなわち、第5エレメント76cの容量値をa1[pF]の次に高いa2[pF]に設定する。その後、ステップS110に戻って上記各処理を繰り返す。
【0052】
これにより、第2整合回路32bの回路定数として、すべてのタイヤ側通信機2a~2dから送信されるフレームが受信できるような値が設定されたときに、ステップS120で肯定判定され、そのときの第2整合回路32bの回路定数の設定値が初期値として記憶される。
【0053】
例えば、
図6に示すように、車両側通信機3で右前輪5a、左前輪5bおよび右後輪5cのタイヤ側通信機2a~2cから送信されたフレームが受信され、左後輪5dのタイヤ側通信機2dから送信されたフレームが受信されない場合がある。これが定期送信周期の間隔ΔTの期間続けば、制御部34が制御信号を出力して第2整合回路32bにおける第5エレメント76cの容量値を変化させ、再び受信待機状態となる。そして、次の定期送信周期において、すべてのタイヤ側通信機2a~2dが送信したフレームを受信すると、そのときの第2整合回路32bにおける第5エレメント76cの容量値などの回路定数の設定値が初期値として記憶される。この後は、第5エレメント76cの容量値などの回路定数が記憶された初期値に設定された状態となり、各タイヤ側通信機2a~2dが送信したフレームを車両側通信機3で的確に受信できるようになる。
【0054】
このように、第2整合回路32bの回路定数を可変とすることで、第2整合回路32bが受信する電波の位相を可変にできる。このため、車両側通信機3とタイヤ側通信機2a~2dとの間の電波伝搬における複数の伝搬パスの合成波が強め合うように、伝搬パスの位相差を変化させられ、ヌル点が移動またはヌル点での電波の伝搬レベルを変化させられる。これにより、すべてのタイヤ側通信機2a~2dから送信されるフレームを車両側通信機3で的確に受信することが可能となる。
【0055】
なお、次に車両1の起動スイッチがオフされたのちオンされてTPMSが作動する際には、再び位相調整処理を実行することができる。その場合、前回の位相調整処理において、ステップS140で設定された初期値が今回の位相調整処理におけるステップS100の初期値として用いられる。これにより、第2整合回路32bの回路定数がよりすべてのタイヤ側通信機2a~2dが送信した電波を受信しやすい値に設定されている状態から位相調整処理が行われる。したがって、伝搬パスに変化がなければ、初めからすべてのタイヤ側通信機2a~2dから送信されたフレームを車両側通信機3で良好に受信することができ、伝搬パスに変化があったとしても、より速く位相調整処理を完了することが可能となる。なお、初期値がd1[pF]ではない場合も、順番に容量値を増加させ、a7[pF]になってもすべてのタイヤ側通信機2a~2dが送信したフレームを車両側通信機3で受信できないようであれば、最も小さいd1[pF]とする。その後も順番に容量値を増加させるようにすれば良い。
【0056】
参考として、第5エレメント76cの容量値を変化させて第2整合回路32bの回路定数を変化させたときの第2整合回路32bのVSWRを測定したところ、
図7に示す結果が得られた。この図に示されるように、第5エレメント76cの容量値の可変範囲となるa1~a7[pF]の範囲内において、例えば2.4~2.5GHzという電波として使用する高周波数帯域でのVSWRが2以下となっている。VSWRは、交流の伝送線路における進行波と反射波の関係を示しており、値が低いほど反射係数が小さく電波の送受信が良好に行われることを意味していて、3以下であれば電波の送受信が良好に行われていると言える。このため、VSWRが3以下となるように第5エレメント76cの容量値の可変範囲を設定すれば良い。加えて、本実施形態の場合、第5エレメント76cの容量値の可変範囲においてVSWRが2以下という低い値となる。したがって、第5エレメント76cの容量値を変化させて第2整合回路32bの回路定数を調整しても、反射定数の影響によって車両側通信機3とタイヤ側通信機2a~2dとの間の通信に不具合が生じることはない。
【0057】
なお、容量値がb1[pF]、b2[pF](ただし、b1、b2<a1)については、例えば2.4~2.5GHzという電波として使用する高周波数帯域でのVSWRが2以上になる。VSWRが3以下であれば電波の送受信が良好に行えると考えられるが、より良好な送受信が可能となるように、VSWRが2以下となるa1~a7[pF]の範囲を容量値の可変範囲としている。
【0058】
また、第5エレメント76cの容量値をa1~a7[pF]の範囲で変化させた場合に、車両側通信機3から電波を出力させたときの放射電界の位相差について、シミュレーションにより調べた。本実施形態では、車両側通信機3ではタイヤ側通信機2a~2dから送信されたフレームの受信を行っているが、送受信については可逆性があり、車両側通信機3から電波を出力させた場合の放射電界の位相差は、電波を受信する際の位相差と符合する。
【0059】
図8は、放射電界分布のシミュレーション結果を示しており、
図9は、
図8中の直線L1での位相差を示している。
図8中の白抜き部分が車両側通信機3であり、電界強度に合わせてハッチングを示してあり、電界強度が高いほど濃いハッチングで示してある。車両側通信機3から近いほど高電界になっている。
図8および
図9に示すように、直線L1状において位相差が発生しており、第5エレメント76cの容量値をa1~a7[pF]の範囲で変化させることで、第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31bで受信する電波の位相差を変えることができることが判る。第5エレメント76cの容量値の変化量が小さい場合には位相差の変化も小さいが、容量値の変化量を大きくすれば位相差の変化も大きくなる。シミュレーションを行ったところ、位相差が25°以上あると特にヌル点での電波の伝搬レベルの調整を的確に行えて好ましいことを確認しているが、第5エレメント76cの容量値をa1~a7[pF]の範囲で変化させる位相差を35°発生させられていた。このため、第5エレメント76cの容量値の可変範囲をa1~a7[pF]とすることで、的確にすべてのタイヤ側通信機2a~2dから送信されたフレームを受信することが可能となる。
【0060】
また、車輪5aを1回転させて、その回転中連続してタイヤ側通信機2aから電波を送信させた場合の車両側通信機3での受信電力の強度の変化を調べたところ、
図10に示す結果が得られた。
【0061】
タイヤ側通信機2aが車輪5aの最も上方に位置しているときの角度を0°とし、車輪5aが1回転したときに位置している角度を360°としてタイヤ側通信機2aの回転角度を定義すると、回転角度がd1、d2、d3[°]のときにヌル点となっている。そして、車両側通信機3での受信電力の強度の目標値をTv[dBm]とすると、第5エレメント76cの容量値がa1[pF]の場合には、回転角度がd1、d3[°]の場合に、受信電力が目標値Tvに満たない状態となる。しかしながら、回転角度d1、d3[°]のときに、第5エレメント76cの容量値がa3、a5、a7[pF]の場合には、受信電力が目標値Tv以上になっていた。
【0062】
一方、回転角度がd2[°]のときに、第5エレメント76cの容量値がa3、a5、a7[pF]の場合には受信電力が目標値Tvに満たなかったが、容量値がa1[pF]の場合には受信電力が目標値Tv以上であった。
【0063】
つまり、第5エレメント76cの容量値の初期値をa1[pF]に設定してタイヤ側通信機2aから送信されたフレームを車両側通信機3が受信しようとした場合に、回転角度がd1、d3[°]のときに送信されていると受信できない。しかしながら、第5エレメント76cの容量値をa2~a7[pF]に変化させることで、回転角度がd1[°]のときには受信電力を10[dB]増加させられ、d3[°]のときには受信電力を40[dB]増加させられる。このため、回転角度がd1、d3[°]のときにフレーム送信が行われても、第5エレメント76cの容量値を調製することで、車両側通信機3がフレームを受信することが可能になる。
【0064】
なお、ここでは右前輪5aのタイヤ側通信機2aを例として挙げたが、他の車輪5b~5dに取付けられたタイヤ側通信機2b~2dについても同様のことが言える。
【0065】
以上説明したように、本実施形態のTPMSでは、車両側通信機3に第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31bと第2整合回路32bを備えている。そして、第2整合回路32bの回路定数を可変とすることで、受信する電波の位相を第2整合回路32bにて可変させられるようにしている。このため、車両側通信機3とタイヤ側通信機2a~2dとの間の電波伝搬における複数の伝搬パスの合成波が強め合うように、伝搬パスの位相差を変化させられ、ヌル点が移動またはヌル点での電波の伝搬レベルを変化させられる。これにより、すべてのタイヤ側通信機2a~2dから送信されたフレーム、つまり電波を車両側通信機で的確に受信できる車両用無線通信システムとすることが可能となる。
【0066】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して車両側通信機3のアンテナ構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0067】
図11に示すように、本実施形態では、第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31bをダイポールアンテナ等で構成した直交二軸アンテナ、つまり受信する電波の主偏波が互いに直交する二軸とされたアンテナで構成している。そして、第2アンテナ31bについては第2整合回路32bによって受信する電波の位相を調整し、第1アンテナ31aが受信する電波との位相差を0、30度の可変範囲内で可変させられるようにしている。ここでは、可変範囲を0度と30度の2段階としたが、それ以上の段階に可変とされていても良い。
【0068】
このように直交二軸アンテナを適用する場合において、車輪5aを1回転させて、その回転中連続してタイヤ側通信機2aから電波を送信させた場合の車両側通信機3での受信電力の強度の変化を調べた。具体的には、第1アンテナ31aで受信する電波の位相については0度で一定としつつ、第2アンテナ31bで受信する電波の位相を0度と30度の2パターンに切替えた場合の受信電力の強度の変化を調べたところ、
図12に示す結果が得られた。
【0069】
この図に示すように、第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31bが受信する電波の位相差が0度の場合と30度の場合とで車両側通信機3での受信電力の強度が変化する。そして、位相差が0度の場合には回転角度がdb[°]のときに受信電力の強度が目標値Tvに満たなかったものの、位相差が30°の場合には回転角度がda[°]のときに受信電力の強度が目標値Tv以上となった。また、位相差が30度の場合には回転角度がda[°]のときに受信電力の強度が目標値Tvに満たなかったものの、位相差が0°の場合には回転角度がdb[°]のときに受信電力の強度が目標値Tv以上となった。
【0070】
このように、直交二軸アンテナによって第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31bを構成しても、第2整合回路32bの回路定数を可変とすることで車両側通信機3での受信電力の強度を高められる。本実施形態の場合、第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31bが受信する電波の位相差が0度の場合と30度の場合それぞれの受信電力の強度の高い値をなぞった
図13に示す特性を使用した通信が行われることになる。これにより、第1実施形態と同様の効果が得られ、すべてのタイヤ側通信機2a~2dから送信されるフレームを車両側通信機3で的確に受信することが可能となる。
【0071】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1、第2実施形態に対して車両側通信機3のアンテナ数や整合回路数を変更したものであり、その他については第1、第2実施形態と同様であるため、第1、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0072】
図14に示すように、本実施形態では、第1アンテナ31aおよび第2アンテナ31bに加えて、第3アンテナ31cを備えている。また、第1整合回路32aおよび第2整合回路32bに加えて、第3整合回路32cを備えている。そして、第1~第3アンテナ31a~31cをダイポールアンテナ等で構成したX軸、Y軸、Z軸の直交三軸アンテナ、つまり受信する電波の主偏波が互いに直交する三軸とされたアンテナで構成している。
【0073】
さらに、本実施形態では、第1~第3整合回路32a~32cのすべて回路定数を可変としている。第1~第3整合回路32a~32cは制御部34からの制御信号に基づいて回路定数を変化させるようになっている。第2整合回路32bの回路定数を可変にする構成として、第5エレメント76cに可変容量を用いる場合を例に挙げたが、第1、第3整合回路32a、32cについても同様に可変容量を用いて回路定数を可変にすることができる。これにより、第1~第3アンテナ31a~31cで受信される電波の位相がそれぞれ0、30度の可変範囲内で可変させられるようにしている。ここでも、可変範囲を0度と30度の2段階としたが、それ以上の段階に可変とされていても良い。
【0074】
このように直交三軸アンテナを適用する場合において、車輪5aを1回転させて、その回転中連続してタイヤ側通信機2aから電波を送信させた場合の車両側通信機3での受信電力の強度の変化を調べた。具体的には、
図15に示すように、第1~第3アンテナ31a~31cで受信する電波の位相をすべて0度とした場合と、いずれか1つについて30度とした4パターンで切替えた場合の受信電力の強度の変化を調べたところ、
図16に示す結果が得られた。なお、
図15におけるX、Y、Zは、X軸に相当する第1アンテナ31a、Y軸に相当する第2アンテナ31b、Z軸に相当する第3アンテナ31cをそれぞれ意味している。
【0075】
この図に示すように、第1~第3アンテナ31a~31cのいずれかが受信する電波の位相差を切替えられるようにすると、第1、第2アンテナ31a、31bの2つだけの場合より、さらに電波の伝搬レベルを変化させられる。そして、本実施形態の場合、第1~第3アンテナ31a~31cが受信する電波の位相差を4パターンに切替えた場合それぞれの受信電力の強度の高い値をなぞった
図17に示す特性を使用した通信が行われることになる。これにより、第1、第2実施形態と同様の効果を得つつ、さらにヌル点での電波の伝搬レベルを高めることが可能となり、よりすべてのタイヤ側通信機2a~2dから送信されるフレームを車両側通信機3で的確に受信することが可能となる。
【0076】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0077】
例えば、上記実施形態では、タイヤ空気圧に関するデータが格納されたフレームを用いて、すべてのタイヤ側通信機2a~2dが送信した電波が受信されるか否かを判定している。これに対して、タイヤ空気圧に関するデータが格納されていないフレーム、例えばダミーデータとID情報が格納されたフレームを用いるようにしても良い。
【0078】
また、上記実施形態では、TPMSに適用される車両無線通信システムを例に挙げて説明したため、タイヤ空気圧に関するデータの定期送信周期に合せて、車両側通信機3でタイヤ側通信機2a~2dが送信した電波をすべて受信したか否かを判定した。これに限らず、ID情報を格納したデータを繰り返し電波としてタイヤ側通信機2a~2dから送信させつつ、所定期間中に車両側通信機3でタイヤ側通信機2a~2dが送信した電波をすべて受信したか否かを判定すれば良い。
【0079】
また、第1、第2実施形態では、第1整合回路32aについて回路定数を可変としなかったが、第2整合回路32bに加えて第1整合回路32aについても回路定数を可変にできるようにしても良い。第1~第3整合回路32a~32cのいずれについても、第1~第3アンテナ31a~31cで受信する電波の位相を変化させる際に、第1~第3整合回路32a~32cのVSWRが3以下となる範囲で行うようにすると好ましい。
【0080】
また、位相調整処理では、ステップS130において、タイヤ側通信機2a~2dが送信した電波をすべて受信したときの第2整合回路32bの回路定数を初期値として記憶したが、これは第2アンテナ31bが受信する電波の位相値を初期値とすると同意である。勿論、第1、第3整合回路32a、32cについてもタイヤ側通信機2a~2dが送信した電波をすべて受信したときの回路定数を初期値として記憶することになるが、それも第1、第3アンテナ31a、31cが受信する電波の位相値を初期値とすると同意である。
【0081】
また、上記実施形態では、第1、第2アンテナ31a、31bもしくは第1~第3アンテナ31a~31cという少なくとも2つのアンテナを備える例を挙げたが、3つよりも覆い複数のアンテナを有した構成とされても良い。
【0082】
さらに、上記実施形態では、第2整合回路32bの回路定数を可変にする構成として第5エレメント76cを可変容量とする場合を例に挙げたが、他の構成とすることもできる。例えば、第1、第2アンテナ31、31と通信回路33との間を繋ぐマイクロストリップライン75a、76aに接続した可変容量の容量値を変化させることで第1、第2アンテナ31a、31bが受信する電波の位相値を可変として設定可能である。また、第1、第2整合回路32a、32bをマイクロストリップライン75a、76aの長さが可変できるスイッチを備えた構成とすることもできる。また、複数の整合素子を並列もしくは直列接続すると共に、どの整合素子がマイクロストリップライン75a、76aに接続されるようにするかの切り替えを行うスイッチを備えた回路によって第1、第2整合回路32a、32bを構成することもできる。その場合、整合素子として容量を用いても良いし、ダイオードなどの素子を用いても良い。勿論、第3整合回路32cについても、同様の構成を適用できる。
【0083】
また、上記実施形態では、車両無線通信システムとしてTPMSを例に挙げて説明したが、TPMS以外のもの、例えば車輪位置検出システムであっても良い。車輪位置検出システムは、各タイヤ側通信機2a~2dが車輪5a~5dのいずれに取付けられたものであるかを特定するものである。TPMSの一部として車輪位置検出機能が備えられるのが一般的であるが、その機能のみを備えた車輪位置検出システムであっても良い。
【0084】
また、上記各実施形態では、4つのタイヤ側通信機2a~2dに対して1つの車両側通信機3が備えられる形態を例に挙げて説明したが、少なくとも車両側通信機3の数がタイヤ側通信機2a~2dの数よりも少なくされていれば、部品点数の削減が図れる。例えば、4輪車両ではなく、それ以上の車輪数とされる大型車両などでは、複数の車両側通信機3が備えられる形態も考えられる。もしくは、第1、第2実施形態における第1、第2アンテナ31a、31b、もしくは第3実施形態における第1~第3アンテナ31a~31cのアンテナ部分のみタイヤ側通信機2a~2dの数よりも少ない複数備える形態も考えられる。そのような形態であっても本開示を適用できる。
【0085】
なお、本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…車両、2a~2d…タイヤ側通信機、3…車両側通信機、4…表示器、5a~5d…車輪、6…車体、21…センシング部、22…制御部、23…通信回路、25…アンテナ、31a~31c…第1~第3アンテナ、32a~32c…第1~第3整合回路、33…通信回路、34…制御部、71…導体パターン、73、74…第1、第2ナパターン、74…第2アンテナパターン、75、76…第1回路パターン、75a、76a…マイクロストリップライン、75b~75d、76b~76d…第1~第6エレメント