(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165087
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ヘッドレスト及び車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/879 20180101AFI20241121BHJP
B60N 2/885 20180101ALI20241121BHJP
A47C 7/38 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B60N2/879
B60N2/885
A47C7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080934
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米持 光恭
(72)【発明者】
【氏名】金 東鉉
(72)【発明者】
【氏名】今成 勝利
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 利春
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
【Fターム(参考)】
3B084DA07
3B084DD07
3B087DC10
(57)【要約】
【課題】乗員の車酔いを抑制可能で且つ製造が容易なヘッドレストを得る。
【解決手段】ヘッドレスト20は、車両用シート10のシートバック14の上端部に連結されるステー22と、ステー22に支持されるパッド24と、パッド24に被せられるトリム30とを備える。パッド24は、乗員の頭部を前面で支持するパッド本体26を有すると共に、パッド本体26の下部における左右方向両端側から前方側へ膨出した左右の膨出部28を有しており、パッド本体26の前面の上部と同一面をなすパッド本体26の前面の下部が左右の膨出部28の間に配置されている。トリム30は、パッド本体26の前面を覆う部位と左右の膨出部28を覆う部位との間にそれぞれ縫製ラインS3が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートのシートバックの上端部に連結されるステーと、
前記ステーに支持され、乗員の頭部を前面で支持するパッド本体を有すると共に、前記パッド本体の下部における左右方向両端側から前方側へ膨出した左右の膨出部を有し、前記前面の上部と同一面をなす前記前面の下部が前記左右の膨出部の間に配置されたパッドと、
前記パッドを覆うと共に、前記パッド本体の前面を覆う部位と前記左右の膨出部を覆う部位との間にそれぞれ縫製ラインが設けられたトリムと、
を備えたヘッドレスト。
【請求項2】
前記左右の膨出部は、左右方向内方側の面が上方側へ向かうほど互いに離間するように傾斜又は湾曲している請求項1に記載のヘッドレスト。
【請求項3】
前記左右の膨出部は、左右方向外方側の面が左右方向外方側かつ前方側へ凸をなして湾曲している請求項1に記載のヘッドレスト。
【請求項4】
前記縫製ラインの上端部は、左右方向外方側へ延びており、前記縫製ラインの下端部は、下方側へ延びている請求項1に記載のヘッドレスト。
【請求項5】
前記パッド本体の前面の下部は、前方斜め上方側を向くように湾曲している請求項1に記載のヘッドレスト。
【請求項6】
前記トリムにおいて各前記膨出部を覆う部位には、各前記縫製ラインよりも左右方向外方側にそれぞれ別の縫製ラインが設けられており、各前記膨出部の頂部と前記別の縫製ラインとがずれて配置されている請求項1に記載のヘッドレスト。
【請求項7】
乗員が着座するシートクッションと、
前記乗員の背部を支持するシートバックと、
前記シートバックの上端部に前記ステーが連結され、前記乗員の頭部を支持する請求項1に記載のヘッドレストと、
を備えた車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関し、特にヘッドレストに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示された車両用シートは、シートクッションとシートバックとヘッドレストとを備えている。ヘッドレストは、シートバックの上端部に連結されるヘッドレストステーと、ヘッドレストステーに支持されたヘッドレスト本体部と、ヘッドレスト本体部の前面の下部からシート前方側へ突出した頭部支持部とを有している。頭部支持部は、ヘッドレスト本体部よりも硬質なパッドを用いて形成されている。頭部支持部の左右方向両側部は、頭部支持部の左右方向中央部よりもシート前方側へ突出しており、乗員の後頭骨をシート左右方向両側から挟み込むように支持する。頭部支持部の左右方向中央部は、シート前方側へ向けてシート下方側へ下るように傾斜しており、乗員の後頭骨をシート後方側からシート前方斜め上方側へ向けて支持する。これにより、車両走行時における乗員頭部の揺動を効果的に抑制し、乗員の車酔いを抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記先行技術のヘッドレストでは、へッドレスト本体部の前面の下部から突出した頭部支持部は、左右方向両側部と左右方向中央部とが一体に繋がっており、左右方向中央部が左右方向両側部に対してシート後方側へ大きく凹んでいる。このヘッドレストにトリム(表皮)をカバーリングする場合、トリムにおいて頭部支持部の左右方向中央部を覆う部位に浮きが生じないようにするために、当該部位を頭部支持部に接着する必要があり、トリムのカバーリングが困難になる。また、このヘッドレストのパッドをトリムと一体発泡成形する場合、トリムの複雑な形状の関係でシワやボイド等の成形不良が発生し易くなる。このため、ヘッドレストの製造が煩雑になる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、乗員の車酔いを抑制可能で且つ製造が容易なヘッドレスト及び該ヘッドレストを備えた車両用シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様のヘッドレストは、車両用シートのシートバックの上端部に連結されるステーと、前記ステーに支持され、乗員の頭部を前面で支持するパッド本体を有すると共に、前記パッド本体の下部における左右方向両端側から前方側へ膨出した左右の膨出部を有し、前記前面の上部と同一面をなす前記前面の下部が前記左右の膨出部の間に配置されたパッドと、前記パッドを覆うと共に、前記パッド本体の前面を覆う部位と前記左右の膨出部を覆う部位との間にそれぞれ縫製ラインが設けられたトリムと、を備えている。
【0007】
第1の態様のヘッドレストでは、車両用シートのシートバックの上端部に連結されるステーにパッドが支持される。このパッドは、乗員の頭部を前面で支持するパッド本体を有すると共に、パッド本体の下部における左右方向両端側から前方側へ膨出した左右の膨出部を有している。これらの膨出部によって、乗員の後頭骨を左右方向両側から挟み込むように支持することができるので、乗員の車酔いを抑制することができる。パッド本体の前面の下部は、左右の膨出部の間に配置されており、パッド本体の前面の上部と同一面をなしている。このパッドを覆うトリムは、パッド本体の前面を覆う部位と、左右の膨出部を覆う部位との間にそれぞれ縫製ラインが設けられている。
【0008】
このヘッドレストでは、左右方向に離間して配置された左右の膨出部の間にパッド本体の前面の下部が配置されると共に、トリムにおいてパッド本体の前面を覆う部位と左右の膨出部を覆う部位との間にそれぞれ縫製ラインが設けられている。このヘッドレストでは、例えばトリムをパッドにカバーリングする場合、トリムにおいてパッド本体の前面を覆う部位に対して上下方向にテンションをかけてシワをなくすことができ、トリムにおいてパッド本体の前面の下部を覆う部位をパッドに接着する必要がなくなる。また、このヘッドレストでは、トリムにおいて左右の膨出部を覆う部位の形状を簡素化することができるので、例えばパッドをトリムと一体発泡成形する場合でも、シワやボイド等の成形不良が発生し難くなる。このため、ヘッドレストの製造が容易になる。
【0009】
第2の態様のヘッドレストは、第1の態様において、前記左右の膨出部は、左右方向内方側の面が上方側へ向かうほど互いに離間するように傾斜又は湾曲している。
【0010】
第2の態様のヘッドレストでは、パッド本体の下部における左右方向両端側から前方側へ膨出した左右の膨出部は、左右方向内方側の面が上方側へ向かうほど互いに離間するように傾斜又は湾曲している。これにより、左右の膨出部における左右方向内方側の面を乗員の後頭部にフィットさせ易くなる。
【0011】
第3の態様のヘッドレストは、第1の態様又は第2の態様において、前記左右の膨出部は、左右方向外方側の面が左右方向外方側かつ前方側へ凸をなして湾曲している。
【0012】
第3の態様のヘッドレストでは、パッド本体の下部における左右方向両端側から前方側へ膨出した左右の膨出部は、左右方向外方側の面が左右方向外方側かつ前方側へ凸をなして湾曲している。これにより、例えば左右の膨出部における左右方向外方側の面が左右方向内方側かつ後方側へ凹んでいる場合と比較して、トリムに浮き等が生じ難くなる。
【0013】
第4の態様のヘッドレストは、第1の態様~第3の態様の何れか1つの態様において、前記縫製ラインの上端部は、左右方向外方側へ延びており、前記縫製ラインの下端部は、下方側へ延びている。
【0014】
第4の態様のヘッドレストでは、トリムにおいて、パッド本体の前面を覆う部位と左右の膨出部を覆う部位との間にそれぞれ設けられた縫製ラインは、上端部が左右方向外方側へ延びており、下端部が下方側へ延びている。これにより、トリムにおいて左右の膨出部を覆う部位の形状を簡素化し易くなる。その結果、トリムのシワや浮き等を防止し易くなる。
【0015】
第5の態様のヘッドレストは、第1の態様~第4の態様の何れか1つの態様において、前記パッド本体の前面の下部は、前方斜め上方側を向くように湾曲している。
【0016】
第5の態様のヘッドレストでは、パッド本体の前面は、左右の膨出部の間に位置する下部が前方斜め上方側を向くように湾曲している。これにより、パッド本体の前面の下部を乗員の後頭部にフィットさせ易くなる。
【0017】
第6の態様のヘッドレストは、第1の態様~第5の態様の何れか1つの態様において、前記トリムにおいて各前記膨出部を覆う部位には、各前記縫製ラインよりも左右方向外方側にそれぞれ別の縫製ラインが設けられており、各前記膨出部の頂部と前記別の縫製ラインとがずれて配置されている。
【0018】
第6の態様のヘッドレストでは、トリムにおいてパッド本体の前面を覆う部位と左右の膨出部を覆う部位との間にそれぞれ縫製ラインが設けられており、トリムにおいてパッドの左右の膨出部を覆う部位には、上記各縫製ラインよりも左右方向外方側に別の縫製ラインが設けられている。そして、これら別の縫製ラインが各膨出部の頂部とずれて配置されている。これにより、乗員の後頭部が上記別の縫製ラインから異物感を受けることを防止又は抑制できる。
【0019】
第7の態様の車両用シートは、乗員が着座するシートクッションと、前記乗員の背部を支持するシートバックと、前記シートバックの上端部に前記ステーが連結され、前記乗員の頭部を支持する第1の態様~第6の態様の何れか1つの態様のヘッドレストと、を備えている。
【0020】
第7の態様の車両用シートでは、シートクッションに着座する乗員の背部がシートバックによって支持され、該乗員の頭部がヘッドレストによって支持される。このヘッドレストは、第1の態様~第6の態様の何れか1つの態様のものであるため、前述した効果が得られる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、乗員の車酔いを抑制可能で且つ製造が容易なヘッドレスト及び該ヘッドレストを備えた車両用シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係る車両用シートを示す斜視図である。
【
図2】実施形態に係る車両用シートのヘッドレストを示す斜視図である。
【
図3】実施形態に係るヘッドレストを示す正面図である。
【
図4】実施形態に係るヘッドレストを示す側面図である。
【
図5】実施形態に係るヘッドレストを示す背面図である。
【
図6】実施形態に係るヘッドレストを示す平面図である。
【
図7】実施形態に係るヘッドレストを示す下面図である。
【
図8】左右の膨出部の頂部が点状である例を示すヘッドレストの正面図である。
【
図9】左右の膨出部の頂部が線状である例を示すヘッドレストの正面図である。
【
図10】左右の膨出部の頂部が面状である例を示すヘッドレストの正面図である。
【
図11】トリムにおいてパッド本体の前面を覆う部位の引き方について説明するためのヘッドレストの斜視図である。
【
図12】トリムにおいてパッド本体の膨出部を覆う部位の引き方について説明するためのヘッドレストの側面図である。
【
図13】トリムにおいてパッド本体の膨出部を覆う部位の引き方について説明するためのヘッドレストの下面図である。
【
図14】比較例に係るヘッドレストを示す
図13に対応した下面図である。
【
図15】トリムの縫製ラインの引き込みについて説明するための説明図である。
【
図16】トリムの縫製ラインと膨出部の頂部との位置関係について説明するための説明図である。
【
図17】トリムの縫製ラインにおける縫い代の配置の第1例を示す断面図である。
【
図18】トリムの縫製ラインにおける縫い代の配置の第2例を示す断面図である。
【
図19】トリムの縫製ラインにおける縫い代の配置の第3例を示す断面図である。
【
図20】第1変形例に係るヘッドレストを示す斜視図である。
【
図21】第1変形例に係るヘッドレストを示す正面図である。
【
図22】第1変形例に係るヘッドレストを示す側面図である。
【
図23】第1変形例に係るヘッドレストを示す背面図である。
【
図24】第1変形例に係るヘッドレストを示す平面図である。
【
図25】第1変形例に係るヘッドレストを示す下面図である。
【
図26】第2変形例に係るヘッドレストを示す斜視図である。
【
図27】第2変形例に係るヘッドレストを示す正面図である。
【
図28】第2変形例に係るヘッドレストを示す側面図である。
【
図29】第2変形例に係るヘッドレストを示す背面図である。
【
図30】第2変形例に係るヘッドレストを示す平面図である。
【
図31】第2変形例に係るヘッドレストを示す下面図である。
【
図32】第3変形例に係るヘッドレストを示す斜視図である。
【
図33】第3変形例に係るヘッドレストを示す正面図である。
【
図34】第3変形例に係るヘッドレストを示す側面図である。
【
図35】第3変形例に係るヘッドレストを示す背面図である。
【
図36】第3変形例に係るヘッドレストを示す平面図である。
【
図37】第3変形例に係るヘッドレストを示す下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、
図1~
図19を参照して本発明の一実施形態に係る車両用シート10について説明する。なお、各図中においては、図面を見易くする関係から一部の符号を省略している場合がある。また、各図中に適宜記載された矢印FR、LH及びUPは、車両用シート10の前方、左方及び上方をそれぞれ示している。以下、単に前後左右上下の方向を用いて説明する場合、車両用シート10に対する方向を示すものとする。
【0024】
図1に示されるように、本実施形態に係る車両用シート10は、乗員が着座するシートクッション12と、乗員の背部を支持するシートバック14と、乗員の頭部を支持するヘッドレスト20とを備えている。この車両用シート10は、例えば車両のフロントシートである。シートクッション12は、周知のスライド機構16を介して車両の床部(図示省略)に連結されている。シートバック14の下端部は、周知のリクライニング機構18を介してシートクッション12の後端部に連結されている。ヘッドレスト20は、シートバック14の上端部に上下位置を調整可能に連結されている。ヘッドレスト20の前後左右上下の方向は、車両用シート10の前後左右上下の方向と一致している。
【0025】
図2~
図7に示されるように、ヘッドレスト20は、シートバック14の上端部に連結されるステー22と、ステー22に支持されるパッド24と、パッド24を覆うトリム30とを有している。ステー22は、例えば金属製のパイプ材が略逆U字状に曲げ加工されたものである。パッド24は、例えば発泡ポリプロピレン等の発泡体又は樹脂によって構成されている。このパッド24には、ステー22の上部が埋め込まれている。
【0026】
上記のパッド24は、乗員の頭部を前面26Aで支持するパッド本体26と、パッド本体26の下部における左右方向両端側から前方側へ膨出した左右の膨出部28とを有している。パッド本体26は、前後方向から見て略台形状をなしており、左右方向から見て略三角形状をなしている。パッド本体26の前面26Aの上部と下部は、同一面をなしており、前面26Aの下部が左右の膨出部28の間に配置されている。
【0027】
左右の膨出部28は、前後方向から見て略三角形状をなしており、互いに左右方向に離間して配置されている。左右の膨出部28の前面は、
図4に示されるように左右方向視で前方側へ凸をなして円弧状に湾曲すると共に、
図6及び
図7に示されるように上下方向視で前方側へ凸をなして円弧状に湾曲している。
図2及び
図3に示されるように、左右の膨出部28における左右方向内方側の面は、上方側へ向かうほど互いに離間するように湾曲している。また、
図6及び
図7に示されるように、左右の膨出部28は、左右方向外方側の面が左右方向外方側かつ前方側へ凸をなして湾曲している。
【0028】
トリム30は、例えば布材、皮革、合成皮革等からなる複数枚の表皮片が縫製されて袋状に形成されている。このトリム30は、パッド24にカバーリングされるか或いはパッド24と一体発泡成形されている。
図2及び
図3に示されるように、トリム30の前面の上端部及び左右両端部には、前方側から見て略逆U字状の縫製ラインS1が設けられている。この縫製ラインS1は、
図5及び
図7に示されるように、トリム30の下面の左右両端部を通ってトリム30の背面側へ延びている。トリム30の下面には、左右方向に延びる縫製ラインS2が設けられている。縫製ラインS2の左右方向両端部は、縫製ラインS1に繋がっている。
【0029】
このトリム30には、パッド本体26の前面26Aを覆う部位と左右の膨出部28を覆う部位との間にそれぞれ縫製ラインS3が設けられている。トリム30において左右の膨出部28を覆う部位は、略三角形状のドーム形に形成されている。左右の縫製ラインS3は、前方側から見て左右方向内方側かつ上方側へ向けて凸をなして湾曲しており、左右対称に設けられている。左右の縫製ラインS3の上端部は、トリム30の上下方向中央部付近において左右方向外方側へ延びており、縫製ラインS1に繋がっている。左右の縫製ラインS3の下端部は、パッド24の左右方向中央部付近において下方側へ延びており、トリム30の下面において縫製ラインS2に繋がっている。
【0030】
また、このトリム30においてパッド24の左右の膨出部28を覆う部位には、それぞれ縫製ラインS4が設けられている。左右の縫製ラインS4は、左右の縫製ラインS3よりも左右方向外方側に配置されている。左右の縫製ラインS4は、左右の縫製ラインS3に沿って延在しており、左右対称に設けられている。左右の縫製ラインS4の上端部は、トリム30の上下方向中央部付近で左右の縫製ラインS3の上端部に繋がっている。左右の縫製ラインS4の下端部は、トリム30の下面において左右の縫製ラインS3の下端部に繋がっている。左右の縫製ラインS4は、左右の膨出部28の頂部P(
図8参照)に対して僅かに左右方向外方側にずれて配置されている。
【0031】
なお
図8では、左右の膨出部28の頂部Pが点状である例を図示しているが、これに限るものではない。例えば
図9に示されるように、左右の膨出部28の頂部Pが線状であってもよい。また例えば
図10に示されるように、左右の膨出部28の頂部Pが面状であってもよい。
図8~
図10においてドットを付した部位、すなわちトリム30において縫製ラインS3と縫製ラインS4との間の部位は、乗員の後頭骨を支持する後頭骨支持面30Aとなる。縫製ラインS3は、本発明における「縫製ライン」に相当し、縫製ラインS4は、本発明における「別の縫製ライン」に相当する。
【0032】
上記構成の車両用シート10では、シートクッション12に着座する乗員の背部がシートバック14によって支持され、該乗員の頭部がヘッドレスト20によって支持される。このヘッドレスト20では、シートバック14の上端部に連結されるステー22にパッド24が支持されている。このパッド24は、乗員の頭部を前面26Aで支持するパッド本体26を有すると共に、パッド本体26の下部における左右方向両端側から前方側へ膨出した左右の膨出部28を有している。これら左右の膨出部28によって、乗員の後頭骨を左右方向両側から挟み込むように支持することができるので、乗員の車酔いを抑制することができる。
【0033】
しかも、左右の膨出部28における左右方向内方側の面が上方側へ向かうほど互いに離間するように湾曲しているため、左右の膨出部28における左右方向内方側の面を乗員の後頭部にフィットさせ易くなる。また、シートバック14に対するヘッドレスト20の上下位置を調整することで、左右の膨出部28による後頭部の支持強度を調整することができる。具体的には、ヘッドレスト20の上下位置を高くするほど左右の膨出部28による後頭部の支持強度が増加し、ヘッドレスト20の上下位置を低くするほど左右の膨出部28の支持強度が低下する。これにより、シートバック14に対するヘッドレスト20の前後位置を調整する必要がなくなるので、ヘッドレスト20の構成を簡素化することができる。
【0034】
このヘッドレスト20では、パッド本体26の前面26Aの下部は、左右の膨出部28の間に配置されており、パッド本体26の前面26Aの上部と同一面をなしている。このパッド24に被せられるトリム30は、パッド本体26の前面26Aを覆う部位と、左右の膨出部28を覆う部位との間にそれぞれ縫製ラインS3が設けられている。
【0035】
つまり、このヘッドレスト20では、左右方向に離間して配置された左右の膨出部28の間にパッド本体26の前面の下部が配置されると共に、トリム30においてパッド本体26の前面26Aを覆う部位と左右の膨出部28を覆う部位との間にそれぞれ縫製ラインS3が設けられている。
【0036】
このヘッドレスト20では、例えばトリム30をパッド24にカバーリングする場合、
図11に矢印T1で示されるように、トリム30においてパッド本体26の前面26Aを覆う部位に対して上下方向にテンションをかけてシワをなくすことができ、トリムにおいてパッド本体の前面の下部を覆う部位をパッドに接着する必要がなくなる。また、このヘッドレスト20では、トリム30において左右の膨出部28を覆う部位の形状を簡素化することができるので、例えばパッド24をトリム30と一体発泡成形する場合でも、シワやボイド等の成形不良が発生し難くなる。このため、ヘッドレスト20の製造が容易になる。
【0037】
なお、パッド24とトリム30とのカバーリング或いは一体発泡成形の成形性と、車酔い防止のための後頭骨支持性能とを両立させるためには、左右の膨出部28のパッド本体26からの突出量H(
図6参照)を20~30ミリメートル程度に設定することが好ましい。
【0038】
上記のカバーリングについて補足すると、本実施形態では左右の膨出部28の前面が左右方向視で前方側へ凸をなして円弧状に湾曲しているため、トリム30において左右の膨出部28を覆う部位に対して上下方向にテンション(
図12の矢印T2参照)をかけてシワや浮き等をなくすことができる。また、本実施形態では左右の膨出部28の左右方向外方側の面が左右方向外方側かつ前方側へ凸をなして湾曲しているため、トリム30において左右の膨出部28を覆う部位に対して左右方向外方側のテンション(
図13の矢印T3参照)をかけてシワや浮き等をなくすことができる。なお、
図14に示されるように、左右の膨出部28の左右方向外方側の面が左右方向内方側かつ後方側へ凹んでいると、トリム30に浮きが生じ易くなるが、本実施形態では上記のような凹みがないため、トリム30に浮きが生じ難くなる。
【0039】
また、本実施形態では、トリム30において、パッド本体26の前面を覆う部位と左右の膨出部28を覆う部位との間にそれぞれ縫製ラインS3が設けられている。これらの縫製ラインS3は、上端部が左右方向外方側へ延びており、下端部が下方側へ延びている。これにより、トリム30において左右の膨出部28を覆う部位の形状を簡素化し易くなる。その結果、トリム30のシワや浮きを防止し易くなる。なお、縫製の成立性のため、左右の縫製ラインS3の上端部は、トリム30の左右の側面に対して垂直又は略垂直に延びることが好ましく、左右の縫製ラインS3の下端部は、トリム30の下面に対して垂直又は略垂直に延びることが好ましい。
【0040】
また、本実施形態では、トリム30においてパッド本体26の前面26Aを覆う部位と左右の膨出部28を覆う部位との間にそれぞれ縫製ラインS3が設けられており、トリム30においてパッド24の左右の膨出部28を覆う部位には、上記各縫製ラインS3よりも左右方向外方側に別の縫製ラインS4が設けられている。そして、これら別の縫製ラインS4が各膨出部28の頂部Pとずれて配置されている(
図16の矢印D参照)。これにより、乗員の後頭部が上記別の縫製ラインS4から異物感を受けることを防止又は抑制できる。
【0041】
なお、
図15に概略的に示されるように、トリム30における縫製ラインS3の縫い代に矢じりフック(アローフック)32などを設定し、当該矢じりフック32が挿入されるスリット34などをパッド24に設定してもよい。それにより、縫製ラインS3周辺でのトリム30の浮きを効果的に防止することができる。
【0042】
また、トリム30をパッド24にカバーリングする場合、例えば
図17に示されるように、縫製ラインS3、S4の縫い代を後頭骨支持面30Aとは反対方向に倒すか、或いは
図18に示されるように、縫製ラインS3、S4の縫い代を挿入する溝をパッド24に形成することが好ましい。また、パッド24をトリム30と一体発泡成形する場合、
図19に示されるように、ステッチの縫製ラインS5、S6をトリム30に追加し、縫製ラインS3、S4の縫い代の倒れ方向を規制することが好ましい。
【0043】
次に、本実施形態の変形例について説明する。なお、上記実施形態と基本的に同様の構成及び作用については、上記実施形態と同符号を付与し、その説明を省略する。
【0044】
<第1変形例>
図20~
図25には、上記実施形態の第1変形例に係るヘッドレスト40が示されている。このヘッドレスト40では、パッド本体26の前面26Aの下部が、前方斜め上方側を向くように湾曲している。また、トリム30の縫製ラインS1、S3が上記実施形態とは異なる位置に設定されると共に、トリム30が縫製ラインS4を有していない。この第1変形例においても、上記実施形態と基本的に同様の効果が得られる。しかも、このヘッドレスト40では、パッド本体26の前面26Aの下部が上記のように湾曲しているため、パッド本体26の前面26Aの下部を乗員の後頭部にフィットさせ易くなる。
【0045】
<第2変形例>
図26~
図31には、上記実施形態の第2変形例に係るヘッドレスト50が示されている。このヘッドレスト50では、第1変形例に係るヘッドレスト40と同様に、パッド本体26の前面26Aの下部が、前方斜め上方側を向くように湾曲している。また、トリム30の縫製ラインS1~S4が上記実施形態とは異なる位置に設定されている。この第2変形例においても、上記実施形態と基本的に同様の効果が得られる。また、この第2変形例においても、第1変形例と同様に、パッド本体26の前面26Aの下部を乗員の後頭部にフィットさせ易くなる。
【0046】
<第3変形例>
図31~
図37には、上記実施形態の第3変形例に係るヘッドレスト60が示されている。このヘッドレスト60では、第1変形例に係るヘッドレスト40と同様に、パッド本体26の前面26Aの下部が、前方斜め上方側を向くように湾曲している。また、トリム30の縫製ラインS1~S4が上記実施形態とは異なる位置に設定されている。この第3変形例においても、上記実施形態と基本的に同様の効果が得られる。また、この第3変形例においても、第1変形例と同様に、パッド本体26の前面26Aの下部を乗員の後頭部にフィットさせ易くなる。
【0047】
以上、実施形態及びその変形例を挙げて本発明について説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態及び変形例に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
10 車両用シート
12 シートクッション
14 シートバック
20 ヘッドレスト
22 ステー
24 パッド
26 パッド本体
26A 前面
28 膨出部
30 トリム
40 ヘッドレスト
50 ヘッドレスト
60 ヘッドレスト
P 頂部
S3 縫製ライン(縫製ライン)
S4 縫製ライン(別の縫製ライン)