(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165097
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】チタン系金属溶融処理装置及びチタン系金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 9/22 20060101AFI20241121BHJP
C22B 9/16 20060101ALI20241121BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20241121BHJP
F27B 3/20 20060101ALI20241121BHJP
F27B 3/10 20060101ALI20241121BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20241121BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20241121BHJP
C22B 34/12 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C22B9/22
C22B9/16
C22C1/02 503E
F27B3/20
F27B3/10
F27D17/00 104G
F27D7/06 B
C22B34/12 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080963
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】児島 啓文
(72)【発明者】
【氏名】諸富 圭介
(72)【発明者】
【氏名】梅田 繁
【テーマコード(参考)】
4K001
4K045
4K056
4K063
【Fターム(参考)】
4K001AA27
4K001BA23
4K001FA12
4K001FA13
4K045AA04
4K045BA03
4K045CA02
4K045RB02
4K045RB06
4K045RB26
4K045RC20
4K056AA05
4K056BA02
4K056BB05
4K056BB08
4K056CA04
4K056DB04
4K063AA04
4K063AA12
4K063BA03
4K063CA03
4K063DA12
4K063DA19
4K063DA24
(57)【要約】
【課題】溶融処理中、蒸着物等の落下を抑制することが可能なチタン系金属溶融処理装置を提供する。
【解決手段】チタン系金属溶融処理装置100であって、チタン系金属を含有する被加熱材を内部に格納するための、内部の雰囲気を制御可能なチャンバー110と、被加熱材に溶融処理を施すための加熱ユニットと、加熱ユニットの溶融処理により生じる蒸着物を捕捉するための蒸着物捕捉用メッシュ130と、を備え、加熱ユニット及び蒸着物捕捉用メッシュ130がいずれも、被加熱材の上方側に設置され、所定の条件を満足する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン系金属を含有する被加熱材を内部に格納するための、該内部の雰囲気を制御可能なチャンバーと、
前記被加熱材に溶融処理を施すための加熱ユニットと、
前記加熱ユニットの溶融処理により生じる蒸着物を捕捉するための蒸着物捕捉用メッシュと、を備え、
前記加熱ユニット及び前記蒸着物捕捉用メッシュがいずれも、前記被加熱材の上方側に設置され、
下記式(1)の条件を満足する、チタン系金属溶融処理装置。
14≦M/(E/V)≦87・・・式(1)
M:蒸着物捕捉用メッシュの目開き(μm)
E:加熱ユニットの出力(MW・hr)
V:被加熱材の溶融体積(m3)
【請求項2】
前記加熱ユニットを複数備える、請求項1に記載のチタン系金属溶融処理装置。
【請求項3】
前記加熱ユニットが、電子ビーム銃及びプラズマアークトーチから選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のチタン系金属溶融処理装置。
【請求項4】
前記蒸着物捕捉用メッシュの上方側に、板材を更に備える、請求項1に記載のチタン系金属溶融処理装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のチタン系金属溶融処理装置を用いて前記被加熱材に前記加熱ユニットで溶融処理を施す工程を含む、チタン系金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン系金属溶融処理装置及びチタン系金属の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
純チタンやチタン合金等のチタン系金属の製造においては、その原料金属となる被加熱材を用いてインゴットを造るために溶湯にすること、或いは表面性状を制御するためにインゴット表面を溶融すること等の溶融処理を行うことがある。以上のチタン系金属を溶融する溶融処理では、チタンを含む金属成分が蒸発しうる。
【0003】
チタンは酸素等のガス成分と反応しやすく、溶融処理では該ガス成分による酸化を避けるため、チャンバー内で典型的には真空条件下や不活性雰囲気下にて高温で処理される。この際に高温処理により生じた蒸気が、チャンバーの天井等で凝固して、そこに蒸着物として付着することで下記の問題が生じることがある。
【0004】
例えば蒸気がチャンバーの天井で凝固して付着した蒸着物は、高温処理中の被加熱材に落下すると、被加熱材の組成変動を引き起こすことや表面疵を生じさせること、或いは鍛造や圧延等後工程において圧延材における表面疵の発生原因になること等といった不具合を招くおそれがある。そこで、上記不具合を解消するため、様々な技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、水冷ルツボの上に冷却手段付きの回転体を設け、この回転体の下部に耐熱性金属製線材を織編したネットを配置することで、高融点金属の精製用原料金属中に大量に含まれた不純物をネットに付着させる技術が開示されている。また例えば、特許文献2では、天井壁を金属蒸気凝縮部材としてパンチングメタルで内張りした金属溶製用溶解装置により、溶解装置の構成材に起因する不純物汚染を少なくさせる技術が開示されている。このように、上記特許文献1~2に開示される発明は、被加熱材の蒸気をネット又はパンチングメタル等の部材に凝固させて蒸着物を捕捉することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-61288号公報
【特許文献2】特開2008-107008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、被加熱材の蒸気がネットを通過した後に蒸着物となり、さらには落下する前記蒸着物を捕捉することについて言及されていない。また、特許文献2では、被加熱材の蒸気がネット又はパンチングメタルを通過した後に落下する蒸着物を捕捉することについて言及されていない。即ち、特許文献1~2に開示される発明では、被加熱材の蒸気をネット又はパンチングメタル等の部材に凝固させることで蒸着物を捕捉するものの、前記ネットまたはパンチングメタル等の部材を通過する蒸気が存在し、これが凝固した前記蒸着物が粒状又は塊状等に成長して被加熱材上に落下することがある。すなわち、被加熱材の蒸気がこのようなネットやパンチングメタルを通過した後に落下する蒸着物への対策が望まれていた。
【0008】
ここで、以下に述べるような対策を実施することで、ネットやパンチングメタルを通過して形成された蒸着物の落下を適切に抑制できると考えられた。すなわち、チタン系金属への加熱密度と蒸着物捕捉用メッシュの目開きの関係を適切に規定し、一旦は蒸気を、蒸着物捕捉用メッシュを通過させて天井側で捕捉して蒸着物とし、該蒸着物が成長して落下する場合は天井よりも下方に配置された蒸着物捕捉用メッシュで受け止めることで、より効果的に上記蒸着物の落下に対処できることを見出した。すなわち、蒸着物捕捉用メッシュの上方で成長した蒸着物の封じ込めである。もちろん、被加熱材から生じた蒸気がメッシュを通過せずに、蒸着物捕捉用メッシュ自体に捕捉されることもある。すなわち、本発明者の知見に基づけば、蒸着物捕捉用メッシュでの捕捉と、天井側における板材等での捕捉及び成長による封じ込めと、を活用できる。
【0009】
そこで、本発明の一実施形態は、溶融処理中、蒸着物等の落下を抑制することが可能なチタン系金属溶融処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施態様は、以下によって例示される。
[1]
チタン系金属を含有する被加熱材を内部に格納するための、該内部の雰囲気を制御可能なチャンバーと、
前記被加熱材に溶融処理を施すための加熱ユニットと、
前記加熱ユニットの溶融処理により生じる蒸着物を捕捉するための蒸着物捕捉用メッシュと、を備え、
前記加熱ユニット及び前記蒸着物捕捉用メッシュがいずれも、前記被加熱材の上方側に設置され、
下記式(1)の条件を満足する、チタン系金属溶融処理装置。
14≦M/(E/V)≦87・・・式(1)
M:蒸着物捕捉用メッシュの目開き(μm)
E:加熱ユニットの出力(MW・hr)
V:被加熱材の溶融体積(m3)
[2]
前記加熱ユニットを複数備える、[1]に記載のチタン系金属溶融処理装置。
[3]
前記加熱ユニットが、電子ビーム銃及びプラズマアークトーチから選択される少なくとも1種を含む、[1]又は[2]に記載のチタン系金属溶融処理装置。
[4]
前記蒸着物捕捉用メッシュの上方側に、板材を更に備える、[1]~[3]のいずれかに記載のチタン系金属溶融処理装置。
[5]
[1]~[4]のいずれか一項に記載のチタン系金属溶融処理装置を用いて前記被加熱材に前記加熱ユニットで溶融処理を施す工程を含む、チタン系金属の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、溶融処理中、蒸着物等の落下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】本発明に係るチタン系金属溶融処理装置の一実施形態の内部構造を説明するための概略断面図である。
【
図2】本発明に係るチタン系金属溶融処理装置の他の実施形態の内部構造を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は以下に説明する各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除して発明を形成してもよい。
なお、本明細書において、「チタン系金属」は、金属チタン及びチタンを主成分とする合金を含む概念である。
【0014】
[1.チタン系金属溶融処理装置]
本発明に係るチタン系金属溶融処理装置(以下、単に「溶融処理装置」とも称する。)は、チタン系金属を含有する被加熱材を内部に格納するためのチャンバーと、加熱ユニットと、蒸着物捕捉用メッシュと、を備える。そして、加熱ユニット及び蒸着物捕捉用メッシュがいずれも、被加熱材の上方側に設置され、下記式(1)の条件を満足する。これにより、一実施形態においては、加熱ユニットにより加熱されて被加熱材から発生するチタンを含む金属成分の蒸気を直接、蒸着物捕捉用メッシュで凝固させて蒸着物として捕捉することができる他、蒸気が蒸着物捕捉用メッシュを通過してチャンバーの天井等で蒸着物が成長し該天井等から落下する蒸着物を蒸着物捕捉用メッシュで捕捉することもできる。また、蒸着物捕捉用メッシュは、加熱ユニットにより加熱された被加熱材から飛散した粒状の飛散物を捕捉することも可能である。
14≦M/(E/V)≦87・・・(1)
M:蒸着物捕捉用メッシュの目開き(μm)
E:加熱ユニットの出力(MW・hr)
V:被加熱材の溶融体積(m3)
【0015】
次に、加熱ユニットとして電子ビーム銃を備える溶融処理装置の一例について、図面を使用しながら説明する。なお、加熱ユニットは、電子ビーム銃及びプラズマアークトーチから選択される少なくとも1種を含めてもよい。プラズマアークトーチによる溶融処理法は、電子ビーム銃による溶解処理法と加熱原理が異なるが、本発明を適用すると同様の効果が得られる。
【0016】
図1Aに示す溶融処理装置100は、被加熱材としてチタン系スラブTSの表面Sに溶融処理を施すものであり、チャンバー110と、電子ビーム銃120と、蒸着物捕捉用メッシュ130と、板材140と、ステージ150と、真空機構のポンプ(不図示)とを備える。一実施形態において、蒸着物捕捉用メッシュ130は、チャンバー110の内部にて、チタン系スラブTSの上方であって該チタン系スラブTSと該チャンバー110の天井面111aとの間に配置されている。これにより、チタン系スラブTSの表面Sの溶融処理中、その溶融処理で発生する蒸着物の落下を適切に抑制できる。よって、前記蒸着物の落下に起因するチタン系スラブTSの疵の発生をも抑制できる。
なお、溶融処理の対象は、チタン系スラブTSの少なくとも一方の表面Sであり、チタン系スラブTSの両方の表面Sとすることがある。両方の表面Sを対象とする場合は、途中でステージ150上にてチタン系スラブTSの上下を反転させて配置することができる。また、チタン系スラブTSを溶融処理装置100から外に出し、チタン系スラブTSの上下を反転させ、その後再度溶融処理を行ってもよい。
【0017】
チタン系スラブTSの表面Sの溶融処理においては、表面性状を改善するため、内部を実質的に真空雰囲気に制御したチャンバー110内にて、電子ビーム銃120の照射部122から電子ビームをチタン系スラブTSの表面Sに照射する。この電子ビームの照射によりチタン系スラブTSの表層が溶融し、その後に速やかに凝固して再凝固層が形成される。当該溶融処理装置100において、このように被加熱材としてのチタン系スラブTSの表層が溶融するので、この場合の上記式(1)における被加熱材の溶融体積Vは、チタン系スラブTSの溶融処理がなされた表層の体積である。
このような溶融処理中、チタン系スラブTSの表面S側の表層からチタン等が蒸発し、これがチャンバー110の内面、特に天井面111a(チタン系スラブTSの表面Sに対向する面)で凝固して付着し、そこに蒸着物が形成される。天井面111aに形成された蒸着物は成長すると、粒状又は塊状となって自重により落下し、電子ビーム銃120の照射部122からの照射によって高温となったチタン系スラブTSの表面Sに突き刺さり、その蒸着物の一部が該チタン系スラブTSに溶けて融合する等してその表面に凹凸を生じさせるおそれがあった。
そこで、一実施形態における溶融処理装置100によれば、上記式(1)の条件を満足することで、蒸着物を蒸着物捕捉用メッシュ130で適切に捕捉することができる。即ち、上述したように、蒸着物捕捉用メッシュ130での捕捉と、天井側における板材等での捕捉及び成長による封じ込めと、を活用できる。これにより、溶融処理で発生する蒸着物のチタン系スラブTSへの落下を適切に抑制できる。その結果、チタン系スラブTSの不良品化を抑制し、さらに下流側の製造工程において、チタン系スラブTSに、平滑なロール表面を有する圧延ロールを使用して熱間圧延を実施されたとしても、チタン系スラブTSの圧延面に疵が発生することを抑制でき、これにより生産における歩留まりの低下を抑制することができる。
【0018】
(式(1)におけるM/(E/V))
蒸着物捕捉用メッシュの目開きMと、加熱ユニットの出力Eと、被加熱材の溶融体積Vとの関係を式(1)のように整理して、さらに特定の範囲内に制御することで、上述したように、蒸着物捕捉用メッシュでの捕捉と、天井側における板材等での捕捉及び成長による封じ込めと、を活用できる。
上記式(1)におけるM/(E/V)は、下限側として14以上、好ましくは18以上である。また、上記M/(E/V)は、上限側として87以下、好ましくは75以下である。このように、蒸着物捕捉用メッシュ130のメッシュ部材134(
図1B参照。)の孔部132の目開き(上記式(1)中のM)と加熱密度(上記式(1)中のE/V、すなわち被加熱材の溶融体積Vに対する加熱ユニットの出力Eの割合)とを好適な範囲内に調整した場合、蒸着物捕捉用メッシュ130のメッシュ部材134を構成する金属製等の線材131に蒸着物が形成されて成長することで孔部132が蒸着物で良好に埋まり、さらに、蒸着物捕捉用メッシュ130を通過した蒸気に由来する、天井面111a等から落下した蒸着物を捕捉することができる。
一方、上記M/(E/V)が14未満である場合、孔部132の目開き(上記式(1)中のM)が相対的に小さいことで、線材131の線径が細くかつ低強度になりやすいため、捕捉した蒸着物の重みでメッシュ部材134が変形しやすく、それにより、捕捉した蒸着物がメッシュ部材134から剥がれ落ちやすいか、又は天井面111a等から落下した蒸着物の一部を捕捉できないため、十分な効果が得られない。また、上記M/(E/V)が87を超える場合、孔部132の目開き(上記式(1)中のM)が相対的に大きいことで、該メッシュ部材134の線材131で蒸着物を捕捉しにくいか、又は天井側で成長し落下した蒸着物の一部を捕捉できないため、十分な効果が得られない。
【0019】
(チャンバー)
チャンバー110は、天井壁111と、チタン系スラブTSの入口側で天井壁111と連結された前壁112と、該前壁112に対向しチタン系スラブTSの出口側で天井壁111と連結された後壁113と、該天井壁111と該前壁112と該後壁113とそれぞれ連結された一対の側壁115(
図1C参照。)と、前壁112及び後壁113並びに該一対の側壁115のそれぞれと連結された底壁114とを備える。このチャンバー110は密閉可能であり、それにより、チャンバー110の内部は、チタン系スラブTSを格納した状態で、真空に維持することが可能である。更に、前壁112は、その底壁114側の部分に、チタン系スラブTSをチャンバー110内に対して搬入することに用いられる開閉扉112aを有する。また、後壁113は、その底壁114側の部分に、チタン系スラブTSをチャンバー110内から搬出することに用いられる開閉扉113aを有する。該開閉扉112aは少なくとも前壁112側の底壁114と連結され、該開閉扉113aは少なくとも後壁113側の底壁114と連結されている。開閉扉112aおよび開閉扉113aはさらに側壁115と連結されてもよい。なお、
図1に示すチャンバー110においては2つの開閉扉112a、113aを有しているが、例えば前壁112及び後壁113のいずれかにチタン系スラブTSの搬入と搬出の両方に用いられる開閉扉を1つ有してもよい。
天井壁111は、電子ビーム銃120を収容する収容部111bが形成されている。
開閉扉112a、113aの開閉構造は特段限定されず、例えばシャッター式構造とすることができる。該シャッター式構造を有する場合、チタン系スラブTSの出し入れのための開放及び外気との遮断を可能にするため、開閉扉112a、113aはX方向又はZ方向に沿って移動して開閉可能であればよい。当該開閉扉112a、113aは、シャッター式構造の他、ヒンジ式構造を有するものであってもよい。
なお、チャンバー110は、後述する真空機構により、内部の雰囲気を制御可能とすることができる。
【0020】
(電子ビーム銃)
電子ビーム銃120は、Z方向においてチャンバー110の上方(天井壁111)に設けられており、チタン系スラブTS側の先端に照射部122を備える。当該照射部122は熱源となり、前記電子ビーム銃120を使用してチャンバー110の内部のチタン系スラブTSを溶融処理する。前記照射部122は適宜の高さ位置に取り付けられ、例えば、Z方向において天井面111aよりも高い位置に配置されることがある。鋳造後のチタン系スラブTSはその表面Sや表層において改質の余地があるため溶融処理を実施する。すなわち、チタン系スラブTSの表面Sに電子ビームを照射することでその表層を溶融状態にする。
【0021】
電子ビーム銃120の数はチャンバー110の大きさ等に鑑み適宜決定すればよいが、例えば単数又は複数である。
【0022】
(加熱ユニットの出力E)
加熱ユニットの出力Eは、被加熱材に対する出力を対象とする。被加熱材の形状や溶融の目的等に鑑み、当該出力は電圧値、電流値及び照射時間に基づき適宜設定することが可能である。そこで、溶融処理中における加熱ユニットの出力Eの算出方法を以下に例示する。
(1)溶融処理装置100に加熱ユニットとしての電子ビーム銃が4本備わっており、溶融処理の開始時から終了時まで、4本の電子ビーム銃120で被加熱材に照射していた場合、加熱ユニットの出力Eは、4本の電子ビーム銃120について個別に電圧値に電流値を乗じ、さらにその得られた照射時間を乗じて個別の電子ビーム銃120の出力を求め、それらの電子ビーム銃120の出力を合計した値により算出される。
(2)上記(1)と異なり、溶融処理の開始時から終了時まで、4本の電子ビーム銃120のうち2本の電子ビーム銃120で被加熱材に照射していた場合、加熱ユニットの出力Eは、2本の電子ビーム銃120について個別に電圧値に電流値を乗じ、さらにその得られた照射時間を乗じて個別の電子ビーム銃120の出力を求め、それらの電子ビーム銃120の出力を合計した値により算出される。
(3)上記(1)と異なり、被加熱材の移動により4本の電子ビーム銃から被加熱材に照射していない時間が存在していた場合、4本の電子ビーム銃120について個別に電圧値に電流値を乗じ、さらにその得られた照射時間(すなわち、溶融処理時間から被加熱材に照射していない時間を差し引いた時間)を乗じて個別の電子ビーム銃120の出力を求め、それらの電子ビーム銃120の出力を合計した値により算出される。
【0023】
蒸着物捕捉用メッシュ130のメッシュ部材134の孔部132の目開き(上記式(1)中のM)と加熱密度(上記式(1)中のE/V、すなわち被加熱材の溶融体積Vに対する加熱ユニットの出力Eの割合)とを上記のように適切に制御することは、溶融処理中において蒸着物等の落下を抑制するために重要である。ここで、溶融処理を行う設備の現実的な操業条件を考慮し、前記加熱密度(E/V)の下限側は例えば4.0以上であり、また例えば4.3以上であり、また例えば4.6以上である。一方、前記加熱密度(E/V)の上限側は例えば6.5以下であり、また例えば6.0以下であり、また例えば5.4以下である。
【0024】
(蒸着物捕捉用メッシュの目開きM)
一例として、蒸着物捕捉用メッシュの目開きMは、
図1Bに示した蒸着物捕捉用メッシュ130のメッシュ部材134の孔部132の目開きの大きさD1に相当する。前記大きさD1は、被加熱材の溶融体積Vに対する加熱ユニットの出力Eの割合を勘案して適宜調整可能である。溶融処理を行う設備において現実的な操業条件を考慮すると、その大きさD1は、下限側として、例えば80μm以上、また例えば90μm以上、また例えば100μm以上である。また、上記目開きの大きさD1は、上限側として、例えば500μm以下、また例えば450μm以下、また例えば400μm以下である。なお、数値範囲は、かかる目開きが正方形状であるときのものである。
【0025】
図1A~Cに示す蒸着物捕捉用メッシュ130は、複数の線材131を網目状に織り込むことにより複数の孔部132が形成され、且つ、照射部122からの電子ビームが通過する開口部133が形成されたメッシュ部材134を備える。
また、メッシュ部材134において、図面では、その外周が外枠135で固定されているが、当該外枠135を使用せず他の固定方法を採用してもよい。
また、蒸着物捕捉用メッシュ130については、公知のものを適宜使用可能である。
なお、
図1Cにおいては、蒸着物捕捉用メッシュ130の開口部133の説明上、該蒸着物捕捉用メッシュ130の孔部132を図示していない。
【0026】
(線材)
線材131の線径D2は、上記目開きの大きさD1に応じて適宜調整可能である。なお、線材131の材質としては、例えば鋼製(さらにはステンレス鋼製)が挙げられる。
【0027】
(開口部)
また、
図1Cに示すように、XY平面における開口部133の内径は、電子ビームのビーム径BMよりも大きければよい。該開口部133を電子ビームが通過して被加熱材であるチタン系スラブTSが溶融処理される。通常、当該開口部133の数は溶融処理装置100が備える加熱ユニット(この実施形態では電子ビーム銃120)の数に対応する。
【0028】
一実施形態においては、天井面111a側に形成された蒸着物を、チタン系スラブTS上に落下させずに蒸着物捕捉用メッシュ130で適切に捕捉するため、Z方向における天井面111aから蒸着物捕捉用メッシュ130の天井壁111側の表面130bまでの距離L1は、蒸着物捕捉用メッシュ130のチタン系スラブTS側の表面130aからチタン系スラブTSの表面Sまでの距離L2より短いことが好ましい場合がある。このような構成とすることで蒸着物捕捉用メッシュ130を蒸気が通過して成長した蒸着物の落下距離を適切に短くするよう配置でき、前記蒸着物の落下による蒸着物捕捉用メッシュ130への衝撃を低減できる。なお、距離L2は、電子ビームで加熱されたチタン系スラブTSからの輻射熱で蒸着物捕捉用メッシュ130が溶けない程度の距離が確保され、かつ、成長した蒸着物が蒸着物捕捉用メッシュ130の天井壁111側の表面130bに落下した際の衝撃に耐えることを条件に適宜決定可能である。
【0029】
蒸着物捕捉用メッシュ130の数は特に限定されず、チャンバー110の容積等に鑑み適宜決定すればよい。すなわち、Z方向において蒸着物捕捉用メッシュ130を複数配置してもよい。また、Z方向において蒸着物捕捉用メッシュ130と天井面111aとの間に後述の板材140が配置されている場合、蒸着物捕捉用メッシュ130と板材140との間に、別の蒸着物捕捉用メッシュを更に配置してもよい。
【0030】
(板材)
板材140は、チャンバー110の内部にて、蒸着物捕捉用メッシュ130の上方であって該蒸着物捕捉用メッシュ130と該チャンバー110の天井面111aとの間に配置されることが好ましい。これにより、板材のチタン系スラブTS側の表面でチタン系金属の蒸気が凝固された蒸着物として捕捉することで天井面111aへの蒸着物の付着量を低減させることができる。また、板材140の高さを適切に制御することで、蒸着物捕捉用メッシュ130を通過した細かい飛散物をも捕捉できる。さらに、板材140の取替により天井面111aの清掃等のメンテナンスによる負荷を軽減することができる。
なお、板材140の材質としては、例えば鋼製(さらにはステンレス鋼製)が挙げられる。
【0031】
板材140と蒸着物捕捉用メッシュ130とは近接して位置することが好ましい。なお、「近接」は、Z方向における蒸着物捕捉用メッシュ130の表面130bと板材140の表面140aとの距離L3が0.02mm以上であることを意味する。該距離L3は、好適な例として1mm以上であり、さらに1mm以上かつ5mm以下であってよい。
また、板材140の、少なくともチタン系スラブTS側の表面140a全体を蒸着物捕捉用メッシュ130で被覆してもよい。そうすることで、チタン系スラブTSの表面Sの溶融処理によって蒸着物が付着した蒸着物捕捉用メッシュ130及び板材140をともに、別の蒸着物捕捉用メッシュ及び板材に容易に交換することができる。その結果、溶融処理装置100のメンテナンス負荷を軽減できる。
なお、板材140は、照射部122から照射される電子ビームが通過するための開口部143が形成されている。開口部143が設けられる意義は蒸着物捕捉用メッシュ130と同様であるので、XY平面における開口部143の内径は、ビーム径BMよりも大きければよい。
【0032】
一実施形態においては、チタン系スラブTSからのチタン含有物の蒸気が蒸着物捕捉用メッシュ130の複数の孔部132を通過して板材140の表面140a上で蒸着物になった後、蒸着物捕捉用メッシュ130の表面130bに落下して捕捉される。すなわち、この蒸着物がチタン系スラブTSの表面Sに直接落下することを抑制できる。
【0033】
(ステージ)
ステージ150は、底壁114の底面114a上に設置されている。ステージ150はチャンバー110の開閉扉112a、113aより出入り可能であり、チタン系スラブTSを載置させた状態でチャンバー110内に進入できる。ステージ150のチタン系スラブTS側の表面である載置面150aには、チタン系スラブTSが載置される。ステージ150は、図示しない駆動機構により、XY平面上において移動可能である。ステージ150を移動させることにより、ステージ150の載置面150a上のチタン系スラブTSは、XY平面上において移動可能である。
【0034】
(真空機構)
真空機構は、減圧用ポンプと、圧力計とを備えることとしてよい。
減圧用ポンプは、チャンバー110の内部を真空状態にすることができるものであれば特に限定されない。減圧用ポンプは、チャンバー110内を直接又は配管等で間接的に真空引きできるように配置されていればよい。
また、圧力計としては公知のものを使用可能であるが、チャンバー110の内部圧力値の精確さを担保するために例えば冷陰極型電離真空計(コールドカソード)を使用すればよい。該圧力計は、内部圧力を計測することができれば設置箇所を問わない。
【0035】
図2に示す溶融処理装置200は、チャンバー210と、電子ビーム銃220と、蒸着物捕捉用メッシュ230と、板材240と、原料供給ユニット260と、ハース270と、鋳型280と、真空機構(不図示)とを備える。なお、当該溶融処理装置200の構成においては、先述した溶融処理装置100の構成と重複する説明を割愛する。
【0036】
被加熱材としてのチタン系溶解原料(以下、溶解原料とも称する。)の溶融処理においては、不純物を除去することで精製されたチタン系インゴットTIを得るため、内部が真空状態であるチャンバー210内にて、電子ビーム銃220の照射部222から電子ビームをチタン系溶解原料に照射する。この電子ビームの照射によりチタン系溶解原料が溶融し、ハース270内で溶湯TMとなってからその溶湯TMが鋳型280に注入されるまでの間に、例えばチタンやチタンの沸点よりも低い不純物等が蒸発し、その多くは蒸着物捕捉用メッシュ230を一旦通過して板材240の表面やチャンバー210の内面、更には天井面211aに凝固・付着して蒸着物が形成される。従来は、天井面211aに形成された蒸着物が成長すると、当該蒸着物は粒状又は塊状となって自重により溶湯TMに落下し、不純物としてチタン系インゴットTIに混入することがあった。
そこで、一実施形態における溶融処理装置200によれば、上記式(1)の条件を満足することで、落下した蒸着物を蒸着物捕捉用メッシュ230で捕捉することができる。これにより、不純物が適切に除去され、精製されたチタン系インゴットTIを得ることができる。
なお、上述した実施形態とは加熱ユニットを変更し、プラズマアークトーチを使用してチタン系インゴットTIを製造することもできる。この際、加熱ユニットの使用条件等を適宜考慮し、チャンバー210内の雰囲気状態も適宜変更できる。
また、後述する溶湯については、ハース270から鋳型280内に注湯することを一例として説明するにすぎない。
【0037】
(原料供給ユニット)
原料供給ユニット260は、その原料供給口がハース270の前壁側の上方に位置するよう設けられ、スポンジチタン等のスポンジ状やブリケット状の溶解原料をハース270内に供給するものである。また、原料供給ユニット260は、インゴットである溶解原料をチャンバー210内に配置するものであってもよい。この場合、インゴットである溶解原料は電子ビーム銃220等の加熱ユニットとハース270との間に配置され、加熱ユニットにより加熱されたインゴットが溶融してハース270内に溶湯が形成される。この実施形態では、上記式(1)中のVは、溶解される原料の合計体積である。また、上記式(1)中のVは、ハース270を上面から視て確認される溶湯TMの面積に溶湯の厚さ(すなわち、溶融処理装置200の高さ方向における溶湯TMの表面からスカル272の表面までの距離)を乗じて算出される体積に等しくなる場合もある。また、スカル272の表面が凹凸を有する場合、その凹凸具合を加味して、上記式(1)中のVを算出すればよい。
なお、原料供給ユニット260は公知のものを使用すればよい。
【0038】
(ハース)
ハース270は例えば水冷銅等で構成されており、その底部側においてスカル272を備えてよい。そして、ハース270の周壁の後壁側に溶湯TMを流出させる注湯口(不図示)を更に備えてもよい。
なお、ハース270としては、図示のような一段のハースでもよいが、例えば複数のハースを含む多段のハースとすることもできる。
【0039】
(鋳型)
鋳型280は、ハース270から流し込まれた溶湯TMを冷却して固化するため、例えば水冷銅製とする場合がある。鋳型280の下方には、通常、引き抜き台座282が設けられる。鋳型280内の溶湯TMは、鋳型280に設けられた図示省略の冷却手段により凝固され、引き抜き台座282の移動により下方に引き抜かれる。これにより、チタン系インゴットTIが得られる。なお、図面上、鋳型280は1つであるが複数でもよい。
また例えば、溶融処理装置200の操業においては加熱ユニットが前記ハース270内や前記鋳型280内に形成された溶湯TMを加熱する場合もある。加熱ユニットの出力のうち、既に形成された溶湯TMを加熱する分の出力は前記式(1)中のEに含まれない。また、溶湯TMを加熱しても被加熱材の溶融体積Vは増えないので、既に形成された溶湯TMを加熱しても前記式(1)中のVは増えないとして扱う。
【0040】
(変形例)
先述した溶融処理装置100、200において、電子ビーム銃120、220は可動式であってよい。この場合、電子ビーム銃120、220の可動域にあわせて蒸着物捕捉用メッシュ130の開口部133及び板材140の開口部143を形成すればよい。例えば、電子ビーム銃120がXY平面においてY方向に平行な線上を往復するように可動するのであれば、蒸着物捕捉用メッシュ130の開口部133及び板材140の開口部143を電子ビーム銃120のビームを阻害しないようY方向に延びた楕円形状や多角形状に形成すればよい。
【0041】
[2.チタン系金属の製造方法]
本発明に係るチタン系金属の製造方法の一実施形態によれば、例えば、先述した溶融処理装置100、200を用いて被加熱材に加熱ユニットで溶融処理を施す工程を含む。
なお、先述した溶融処理装置100、200の説明と重複する説明については割愛する。
【0042】
溶融処理を施す工程においては、蒸着物捕捉用メッシュ130、230のメッシュ部材134の目開きと、チャンバー110、210の内部に格納した被加熱材の溶融体積とに基づき、上記式(1)を満足するように加熱ユニットの出力を調整することを含む。
【0043】
溶融処理装置100を用いたチタン系金属の製造方法の一例について以下に説明する。
まず、開閉扉112aを開き、ステージ150の駆動機構により、チタン系スラブTSが配置されたステージ150をY方向に移動し、該ステージ150上のチタン系スラブTSをチャンバー110内に入れる。次に、開閉扉112aを閉じて、チャンバー110の内部を外気から遮断する。次に、真空機構のポンプでチャンバー110の内部を減圧し、圧力が絶対圧で例えば1.0×10-2~5.0×10-1Paの範囲の高真空状態となるように調整する。
次に、チャンバー110の内部が高真空状態となったことを確認して、電子ビーム銃120の照射部122から電子ビームをチタン系スラブTSの表面Sに照射する。このとき、ステージ150を駆動機構により移動させ、例えばX方向又はY方向に移動させることがある。そうすることで、チタン系スラブTSの表面S全体に電子ビームを照射することができる。なお、溶融処理中、真空機構のポンプで引き続けることがある。表面Sの溶融及び凝固が終了した後、電子ビーム銃120の照射部122からの照射を停止する。次に、チャンバー110の内部圧力を外気と同一になるように上昇させる。その後、開閉扉113aを開き、ステージ150の駆動機構により該ステージ150をY方向に移動し、該ステージ150上のチタン系スラブTSをチャンバー110の内部から取り出す。これにより、熱間圧延用チタン系材が得られる。
なお、上記溶融処理後のチタン系スラブTSを熱間圧延に供するため、該チタン系スラブTSの取り出しに際し不活性ガス注入などの特段の配慮を払わなくてよい。
【0044】
溶融処理装置200を用いたチタン系金属の製造方法の一例について以下に説明する。
まず、真空機構のポンプでEB炉の内部を減圧し、圧力が絶対圧で1.0×10-2~5.0×10-1Paの範囲の高真空状態となるように調整する。次いで、原料供給ユニット260から、ハース270内にスポンジ状等適宜の形状の溶解原料を供給する。電子ビームの照射により溶解原料を溶解し、これにより形成された溶湯TMがハース270の前壁側から後壁側に流れる。そして、溶湯TMが後壁の注湯口から鋳型280に注入され、その溶湯TMを鋳型280の内部に設けられた冷却手段を利用して固化させる。そして、引き抜き台座282の移動により下方に引き抜き、チタン系インゴットTIを得る。
【実施例0045】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものではない。
【0046】
[実施例1]
まず、
図1A及び
図1Cに示すように、天井壁111、前壁112、後壁113、底壁114及び一対の側壁115で囲まれたチャンバー110と、加熱ユニットと、蒸着物捕捉用メッシュ130と、板材140と、ステージ150と、真空機構のポンプ(不図示)とを備えた溶融処理装置100を準備した。ステージ150上に被加熱材を載置した。
各条件については、以下のように設定した。
(条件)
チャンバー内部圧力:0.3Pa以下
加熱ユニット:電子ビーム銃
電子ビーム銃の数:4本
各照射時間:3.1時間
加熱ユニットの出力E:0.310MW・hr
蒸着物捕捉用メッシュ:複数のステンレス鋼製線材(SUS304)を平織し、複数の正方形状の孔部を形成
孔部の目開きM:200μm
板材の材質:ステンレス鋼製
Z方向における板材と蒸着物捕捉用メッシュとの距離:1mm以上かつ5mm以下の範囲内
被加熱材:純チタンスラブ
溶融処理を受けるチタンスラブの表面の面積:長さ1277mm×幅7.5m
【0047】
チタンスラブTSをチャンバー110内に移動し、開閉扉112aでチャンバー110の内部を閉じ、真空機構のポンプでチャンバー110の内部を減圧し、高真空状態が維持されるように調整した。目標とする溶融層の厚さにあわせて電子ビームのビーム径BMと加熱ユニットの出力Eを調整し、また、照射される電子ビームは開口部133および開口部143内を通過してチタンスラブTSの表面Sに照射された。ステージ150の移動によりチタンスラブTSの表面S全体に電子ビームを照射することで溶融処理した。
【0048】
下記式(2)にそれぞれ数値を代入して算出した結果を、表1に示す。
A=M/(E/V)・・・式(2)
M:蒸着物捕捉用メッシュの目開き(μm)
E:加熱ユニットの出力(MW・hr)
V:被加熱材の溶融体積(m3)
【0049】
[実施例2~4、比較例1~8]
実施例2~4及び比較例1~8については、表1に示す製造条件に変更したことを除き、実施例1と同様に、溶融処理装置を用いてチタンスラブに加熱ユニットで溶融処理を施した。
【0050】
(評価項目)
溶融処理後のチタンスラブTSの表面Sをエアブローした後、該チタンスラブTSの表面Sの全体を目視で観察し、疵の有無を確認した。これらの結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
(実施例による考察)
実施例1~4においては、溶融処理後のチタンスラブTSの表面Sに疵が確認されなかったので、溶融処理中、蒸着物捕捉用メッシュで被加熱材の蒸気を凝固させて蒸着物として捕捉できた他、蒸着物捕捉用メッシュは、被加熱材の蒸気が該蒸着物捕捉用メッシュを通過してチャンバーの天井面及び板材の表面等で成長し該天井等から落下した蒸着物を捕捉でき、かつ、加熱ユニットにより被加熱材から飛散した粒状の飛散物を捕捉できたと推察される。したがって、実施例1~4においては、加熱ユニット及び前記蒸着物捕捉用メッシュがいずれも、被加熱材の上方側に設置され、上記式(1)の条件を満足することが有用であったといえる。
【0053】
一方、比較例1~8においては、溶融処理後のチタンスラブTSの表面Sに疵が確認された。したがって、比較例1~8においては、上記式(1)の条件を満足していなかったことで、溶融処理中、蒸着物等の落下を抑制することができなかったと推察される。