(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165104
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】シリコンクラスレート電極活物質の製造方法、及びリチウムイオン電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20241121BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
C01B33/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080978
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】眞下 直大
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 光俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】湯川 加代子
(72)【発明者】
【氏名】原田 正則
(72)【発明者】
【氏名】山口 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】江口 達哉
【テーマコード(参考)】
4G072
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072AA02
4G072BB05
4G072BB15
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH01
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4G072LL03
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4G072MM36
4G072RR13
4G072UU30
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB11
5H050GA12
(57)【要約】
【課題】本開示は、I型シリコンクラスレートの少なくとも一部を除去することができ、かつ副生成物の少なくとも一部を除去することができるシリコンクラスレート電極活物質の製造方法、及びそのようなシリコンクラスレート電極活物質を製造することを含むリチウムイオン電池の製造方法を提供する。
【解決手段】シリコンクラスレート電極活物質を製造する本開示の方法は、(a)I型シリコンクラスレート及びII型シリコンクラスレートを含有する第一のシリコンクラスレート含有組成物を提供すること、(b)第一のシリコンクラスレート含有組成物をフッ化水素有機溶媒含有溶液に接触させて、I型シリコンクラスレートの少なくとも一部を除去して第二のシリコンクラスレート含有組成物を得ること、及び(c)第二のシリコンクラスレート含有組成物を、水又は水性溶媒に接触させて、工程(b)で生成した副生成物の少なくとも一部を除去することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む、シリコンクラスレート電極活物質の製造方法:
(a)I型シリコンクラスレート及びII型シリコンクラスレートを含有する第一のシリコンクラスレート含有組成物を提供すること、
(b)前記第一のシリコンクラスレート含有組成物を、フッ化水素有機溶媒含有溶液に接触させて、前記I型シリコンクラスレートの少なくとも一部を除去して第二のシリコンクラスレート含有組成物を得ること、及び
(c)前記第二のシリコンクラスレート含有組成物を、水又は水性溶媒に接触させて、工程(b)で生成した副生成物の少なくとも一部を除去すること。
【請求項2】
前記有機溶媒がアルコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記副生成物がケイフッ化ナトリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記シリコンクラスレート電極活物質がリチウムイオン電池の負極活物質用である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法によりシリコンクラスレート電極活物質を製造すること、及び
前記シリコンクラスレート電極活物質を含有する電極活物質層を形成すること
を含む、リチウムイオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリコンクラスレート電極活物質の製造方法、及びリチウムイオン電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電池の開発が盛んに行われている。例えば、自動車産業界では、電気自動車又はハイブリッド自動車に用いられる電池の開発が進められている。また、電池、特にリチウムイオン電池に用いられる活物質として、シリコンが知られている。
【0003】
シリコン電極活物質は理論容量が大きく、電池の高エネルギー密度化に有効である。その反面、シリコン電極活物質は、充電時の膨張が大きいという問題を有する。これに対して、シリコン電極活物質としてシリコンクラスレート電極活物質を用いることによって、充電時の膨張を抑制することが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有し、一次粒子の内部に空隙を有し、細孔直径が100nm以下である空隙の空隙量が、0.05cc/g以上、0.15cc/g以下である、シリコンクラスレート電極活物質を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリコンクラスレートの結晶の種類として、I型シリコンクラスレート及びII型シリコンクラスレートなどが存在し、特にII型シリコンクラスレートは、結晶が有するカゴ構造部分にリチウムが効率的に吸蔵されるため、電池の充放電の際の膨張収縮が小さい。
【0007】
したがって、電池の充放電の際の膨張を抑制する観点から、I型シリコンクラスレートは除去されることが望ましいが、I型シリコンクラスレートを除去するにあたり、副生成物が生成することがある。このような副生成物は電極活物質として機能しないため、II型シリコンクラスレートを電極活物質として用いた場合における、充放電時の膨張収縮の低減効果が制限される可能性がある。
【0008】
このような事情から、I型シリコンクラスレート及びII型シリコンクラスレートの両方が含まれるシリコンクラスレートから、I型シリコンクラスレートを除去する方法、及び副生成物の少なくとも一部を除去する方法の開発が望まれている。
【0009】
本開示は、I型シリコンクラスレートの少なくとも一部を除去することができ、かつ副生成物の少なくとも一部を除去することができるシリコンクラスレート電極活物質の製造方法、及びそのようなシリコンクラスレート電極活物質を製造することを含むリチウムイオン電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本件開示者等は、以下の手段により上記課題を解決することができることを見出した。
〈態様1〉
下記の工程を含む、シリコンクラスレート電極活物質の製造方法:
(a)I型シリコンクラスレート及びII型シリコンクラスレートを含有する第一のシリコンクラスレート含有組成物を提供すること、
(b)前記第一のシリコンクラスレート含有組成物を、フッ化水素有機溶媒含有溶液に接触させて、前記I型シリコンクラスレートの少なくとも一部を除去して第二のシリコンクラスレート含有組成物を得ること、及び
(c)前記第二のシリコンクラスレート含有組成物を、水又は水性溶媒に接触させて、工程(b)で生成した副生成物の少なくとも一部を除去すること。
〈態様2〉
前記有機溶媒がアルコールである、態様1に記載の方法。
〈態様3〉
前記副生成物がケイフッ化ナトリウムである、態様1又は2に記載の方法。
〈態様4〉
前記シリコンクラスレート電極活物質がリチウムイオン電池の負極活物質用である、態様1~3のいずれか一項に記載の方法。
〈態様5〉
態様1~4のいずれか一項に記載の方法によりシリコンクラスレート電極活物質を製造すること、及び
前記シリコンクラスレート電極活物質を含有する電極活物質層を形成すること
を含む、リチウムイオン電池の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
シリコンクラスレート電極活物質を製造する本開示の方法によれば、I型シリコンクラスレートの少なくとも一部を除去することができ、かつ副生成物の少なくとも一部を除去することができる。また、本開示では、そのようなシリコンクラスレート電極活物質を製造することを含むリチウムイオン電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、比較例4の第一のシリコンクラスレート含有組成物に対して、フッ化水素溶液を接触させる前後のX線回折(XRD)の測定結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、比較例4及び実施例1のシリコンクラスレート電極活物質のXRDの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0014】
《シリコンクラスレート電極活物質の製造方法》
シリコンクラスレート電極活物質を製造する本開示の方法は、(a)I型シリコンクラスレート及びII型シリコンクラスレートを含有する第一のシリコンクラスレート含有組成物を提供すること、(b)第一のシリコンクラスレート含有組成物を、フッ化水素有機溶媒含有溶液に接触させて、I型シリコンクラスレートの少なくとも一部を除去して第二のシリコンクラスレート含有組成物を得ること、及び(c)第二のシリコンクラスレート含有組成物を、水又は水性溶媒に接触させて、工程(b)で生成した副生成物の少なくとも一部を除去すること。
を含む。
【0015】
本件開示者等は、I型シリコンクラスレートとII型シリコンクラスレートとでは、フッ化水素溶液に対する溶解度に差があることを見出した。すなわち、I型シリコンクラスレートの方がフッ化水素溶液に対する溶解度が高いことから、I型シリコンクラスレート及びII型シリコンクラスレートを含有するシリコンクラスレートとフッ化水素溶液とを適切な条件で接触させることにより、このシリコンクラスレートからI型シリコンクラスレートを除去できると考えられる。
【0016】
しかしながら、本件開示者等は、フッ化水素溶液、特にフッ化水素有機溶媒含有溶液で処理を行った場合には、ケイフッ化ナトリウム(Na2SiF6)のような意図しない副生成物が生成することを見出した。
【0017】
これに対して、本件開示者等は、フッ化水素有機溶媒含有溶液による処理、及び水又は水性溶媒による処理を組み合わせることによって、フッ化水素有機溶媒含有溶液による処理でI型シリコンクラスレートを除去し、かつ水又は水性溶媒による処理でNa2SiF6のような副生成物を除去できることを見出した。
【0018】
なお、本開示に関して、「電極活物質」は、「正極活物質」としても「負極活物質」としても使用でき、特に「負極活物質」として用いられる。
【0019】
〈第一のシリコンクラスレート含有組成物の提供〉
本開示の方法は、I型シリコンクラスレート及びII型シリコンクラスレートを含有する第一のシリコンクラスレート含有組成物を提供することを含む。
【0020】
第一のシリコンクラスレート含有組成物は、ナトリウムシリコン(NaSi)合金を調製し、NaSi合金からナトリウムを除去することによって調製することができる。
【0021】
具体的には、まずシリコン源と水素化ナトリウムのようなナトリウム源とを反応させることにより、NaSi合金を調製する。その後、このようにして調製されたNaSi合金を加熱して、NaSi合金からナトリウムを除去してクラスレート化することにより、第一のシリコンクラスレート含有組成物を調製することができる。あるいは、このようにして調製されたNaSi合金とナトリウムトラップ剤としてのフッ化アルミニウムとを反応させてNaSi合金からナトリウムを除去してクラスレート化することにより、第一のシリコンクラスレート含有組成物を調製することができる。
【0022】
〈I型シリコンクラスレートの除去〉
本開示の方法は、第一のシリコンクラスレート含有組成物を、フッ化水素有機溶媒含有溶液に接触させて、I型シリコンクラスレートの少なくとも一部を除去して第二のシリコンクラスレート含有組成物を得ることを含む。
【0023】
有機溶媒は、フッ化水素を溶解できる任意の有機溶媒であってよい。有機溶媒は、好ましくはアルコールであり、より好ましくは低級アルコールであり、更に好ましくはエタノールである。
【0024】
有機溶媒含有溶液は、有機溶媒と水の混合溶媒であってもよい。有機溶媒を水と混合して用いる場合には、フッ化水素を溶解でき、かつ水に対して相溶性の任意の有機溶媒であってよい。
【0025】
接触の方法としては、攪拌などの混合操作が例示されるが、これに限定されない。
【0026】
接触の時間は、0.5時間以上、1時間以上、又は2時間以上であってよく、また、6時間以内、5時間以内、又は4時間以内であってよい。
【0027】
第一のシリコンクラスレート含有組成物におけるI型シリコンクラスレート及びII型シリコンクラスレートの含有割合は、例えば、X線回折(XRD)の測定結果におけるピーク強度比より算出することができる。
【0028】
〈副生成物の除去〉
本開示の方法は、第二のシリコンクラスレート含有組成物を、水又は水性溶媒に接触させて、工程(b)で生成した副生成物の少なくとも一部を除去することを含む。
【0029】
本開示において、「水性溶媒」とは、水と1種以上の他の水混和性溶媒との混合物を意味する。
【0030】
第二のシリコンクラスレート含有組成物を水又は水性溶媒に接触させる方法としては、シリコンクラスレートに対する水又は水性溶媒による洗浄操作が例示されるが、これに限定されない。
【0031】
第二のシリコンクラスレート含有組成物を水又は水性溶媒に接触させる方法が洗浄操作である場合、1回の洗浄に使用する水又は水性溶媒の量は10ml以上、15ml以上、又は20ml以上であってよい。また、洗浄の回数は、1回以上、2回以上、又は3回以上であってよい。
【0032】
副生成物は、ケイフッ化ナトリウム(Na2SiF6)であってよい。副生成物がNa2SiF6であると、上記の接触による除去が効率的に進行する。
【0033】
副生成物がNa2SiF6である場合に、本開示の方法において製造されるシリコンクラスレート電極活物質では、Na2SiF6の質量のシリコンクラスレート粒子の合計質量に対する割合が、0.8質量%以下、0.7量%以下、0.6質量%以下、0.5質量%以下、0.4質量%以下、又は0.3質量%以下であってよい。
【0034】
〈用途〉
本開示の方法におけるシリコンクラスレート電極活物質は、リチウムイオン電池の負極活物質用とすることができる。
【0035】
《リチウムイオン電池の製造方法》
リチウムイオン電池を製造する本開示の方法は、本開示の方法によりシリコンクラスレート電極活物質を製造すること、及びシリコンクラスレート電極活物質を含有する電極活物質層を形成することを含む。
【0036】
シリコンクラスレート電極活物質の製造方法については、本開示のシリコンクラスレート電極活物質の製造方法に関する上記の記載を参照できる。
【0037】
電極活物質層を形成する方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、負極活物質層が本開示のシリコンクラスレート電極活物質を含有する場合、シリコンクラスレート電極活物質を含有するスラリーを負極集電体に塗工し、乾燥することにより、負極集電体層上に形成された電極活物質層、すなわち負極活物質層を得ることができる。
【0038】
電池を形成する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。以下、負極活物質層が本開示のシリコンクラスレート電極活物質を含有する場合の電池の製造方法について記載する。
【0039】
本開示における電池の製造方法は、シリコンクラスレート電極活物質を製造すること、及びシリコンクラスレート電極活物質を含有する負極活物質層を形成することの他に、負極集電体層、負極活物質層、電解質層、正極活物質層、及び正極集電体層をこの順に配置すること、を含んでいてもよい。
【0040】
〈負極集電体層〉
負極集電体層に用いられる材料は、特に限定されず、電池の負極集電体として使用できるものを適宜採用することができ、例えば、銅、銅合金、並びに銅にニッケル、クロム、及び炭素等をめっき又は蒸着したものであってよいが、これらに限定されない。
【0041】
負極集電体層の形状は、特に限定されず、例えば、箔状、板状、又はメッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0042】
〈負極活物質層〉
本開示の負極活物質層は、負極活物質、並びに随意に電解質、導電助剤、及びバインダーを含有している層である。
【0043】
(負極活物質)
負極活物質は、本開示のシリコンクラスレート電極活物質を含む。
【0044】
(電解質)
固体電解質の材料は、特に限定されず、リチウムイオン電池に用いられる固体電解質として利用可能な材料を用いることができる。例えば、固体電解質は、硫化物固体電解質であってよい。
【0045】
硫化物固体電解質の例として、硫化物非晶質固体電解質、硫化物結晶質固体電解質、又はアルジロダイト型固体電解質等が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な硫化物固体電解質の例として、Li2S-P2S5系(Li7P3S11、Li3PS4、Li8P2S9等)、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-LiBr-Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-GeS2(Li13GeP3S16、Li10GeP2S12等)、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li7-xPS6-xClx等;又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0046】
硫化物固体電解質は、ガラスであっても、結晶化ガラス(ガラスセラミック)であってもよい。
【0047】
なお、負極活物質層が固体電解質を含有している場合、負極活物質層中におけるシリコンクラスレート電極活物質と固体電解質との質量比(シリコンクラスレート電極活物質の質量:固体電解質の質量)は、85:15~30:70が好ましく、より好ましくは80:20~40:60である。
【0048】
電解液は、支持塩及び溶媒を含有することが好ましい。
【0049】
リチウムイオン伝導性を有する電解液の支持塩(リチウム塩)としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6等の無機リチウム塩、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(FSO2)2、LiC(CF3SO2)3等の有機リチウム塩が挙げられる。
【0050】
電解液に用いられる溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状エステル(環状カーボネート)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状エステル(鎖状カーボネート)が挙げられる。電解液は、2種以上の溶媒を含有することが好ましい。
【0051】
(導電助剤)
導電助剤は、特に限定されない。例えば、導電助剤は、VGCF(気相成長法炭素繊維、Vapor Grown Carbon Fiber)及び、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等であってよいが、これらに限定されない。
【0052】
(バインダー)
バインダーとしては、特に限定されない。例えば、バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ブタジエンゴム(BR)、若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の材料、又はこれらの組合せであってよいが、これらに限定されない。
【0053】
負極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm~1000μmであり、1μm~100umであることが好ましく、30μm~100μmであることが更に好ましい。
【0054】
〈電解質層〉
電解質層は、少なくとも電解質を含む。また、電解質層は、電解質以外に、必要に応じてバインダー等を含んでもよい。電解質及びバインダーについては、本開示の負極活物質層に関する上記の記載を参照できる。
【0055】
電解質層の厚さは、例えば、0.1~300μmであり、0.1~100μmであることが好ましい。
【0056】
〈正極活物質層〉
正極活物質層は、正極活物質、並びに随意の電解質、導電助剤、及びバインダー等を含有している層である。
【0057】
正極活物質の材料は、特に限定されない。例えば、正極活物質は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、Li1+xMn2-x-yMyO4(Mは、Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる1種以上の金属元素)で表される組成の異種元素置換Li-Mnスピネル、チタン酸リチウム(LixTiOy)、リン酸金属リチウム(LiMPO4、MはFe、Mn、Co、及びNiから選ばれる1種以上の金属)等であってよいが、これらに限定されない。
【0058】
正極活物質は、被覆層を有していることができる。被覆層は、リチウムイオン伝導性能を有し、正極活物質や固体電解質との反応性が低く、かつ活物質や固体電解質と接触しても流動しない被覆層の形態を維持し得る物質を含有している層である。被覆層を構成する材料の具体例としては、LiNbO3の他、Li4Ti5O12、Li3PO4等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0059】
正極活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。正極活物質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、正極活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0060】
電解質、導電助剤、及びバインダーについては、本開示の負極活物質層に関する上記の記載を参照できる。
【0061】
なお、正極活物質層が固体電解質を含有している場合、正極活物質層中における正極活物質と固体電解質との質量比(正極活物質の質量:固体電解質の質量)は、85:15~30:70が好ましく、より好ましくは80:20~50:50である。
【0062】
正極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm~1000μmであり、1μm~100umであることが好ましく、30μm~100μmであることが更に好ましい。
【0063】
〈正極集電体層〉
正極集電体層に用いられる材料は、特に限定されず、電池の正極集電体として使用できるものを適宜採用することができ、例えば、SUS、ニッケル、クロム、金、白金、アルミニウム、鉄、チタン、及び亜鉛等、並びにこれらの金属にニッケル、クロム、炭素等をめっき又は蒸着したものであってよいが、これらに限定されない。
【0064】
正極集電体層の形状は、特に限定されず、例えば、箔状、板状、又はメッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0065】
本開示の方法により製造されるリチウムイオン電池は、電解質層として電解液を含有する液系電池であってもよく、電解質層として固体電解質層を有する固体電池であってもよい。なお、本開示に関して、「固体電池」は、電解質として少なくとも固体電解質を用いる電池を意味しており、したがって固体電池は、電解質として、固体電解質と液体電解質との組み合わせを用いていてもよい。また、本開示の固体電池は、全固体電池、すなわち電解質として固体電解質のみを用いる電池であってもよい。
【0066】
本開示の方法により製造されるリチウムイオン電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよい。
【0067】
リチウムイオン電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、角型が挙げられる。
【実施例0068】
《シリコンクラスレート電極活物質の合成》
〈合金化〉
(合成例1~6及び比較合成例1~4)
シリコン(Si)源として、Si粉末(高純度科学、SIEPB32)を準備した。このSi粉末及び金属リチウム(Li)を、Li/Si=4.0のモル比で秤量し、秤量したSi粉末及びLiを、アルゴン雰囲気において乳鉢で混合して、リチウムシリコン(LiSi)合金を得た。得られたLiSi合金を、アルゴン雰囲気においてエタノールと反応させて、フッ化水素(HF)で処理することで、一次粒子の内部に空隙を有するSi粉末、すなわちポーラス構造を有するSi粉末を得た。
【0069】
ポーラス構造を有するSi粉末及び、ナトリウム(Na)源としての水素化ナトリウム(NaH)を用いて、ナトリウムシリコン(NaSi)合金を製造した。なお、NaHとしては、予めヘキサンで洗浄したものを用いた。NaH及びポーラス構造を有するSi粉末をモル比で1.05:1となるように秤量し、秤量したNaH及びポーラス構造を有するSi粉末を、カッターミルで混合した。得られた混合物を、加熱炉にてアルゴン雰囲気下、500℃、40時間の条件で加熱することにより、粉末状のNaSi合金を得た。
【0070】
〈クラスレート化〉
フッ化アルミニウム(AlF3)の物質量のNaSi合金の物質量に対する割合が0.36となるように秤量し、秤量したNaSi合金及びAlF3をカッターミルで混合して、反応原料を得た。得られた粉末状の反応原料をステンレススチール製の反応容器に入れ、加熱炉にてアルゴン雰囲気下、330℃、60時間の条件で加熱して、シリコンクラスレートを含む反応生成物を得た。得られた反応生成物を、HNO3及びH2Oを体積比10:90で混合した混合溶媒を用いて酸洗浄して、反応生成物中の副生成物を除去した。洗浄後、濾過し、濾別された固形分を120℃で3時間以上乾燥して、粉末状の第一のシリコンクラスレート含有組成物を得た。
【0071】
各例の製造条件、第一のシリコンクラスレート含有組成物における含有成分の割合、及びII型シリコンクラスレートの質量のI型シリコンクラスレート及びII型シリコンクラスレートの合計質量に対する割合を表1に示す。なお、含有成分の割合は、XRD測定結果におけるピーク強度比より算出した。また、表1及び後述する表2中における「II型」はII型シリコンクラスレートを示し、「I型」はI型シリコンクラスレートを示している。
【0072】
【0073】
〈I型シリコンクラスレートの除去及び副生成物の除去〉
(実施例1)
合成例1の第一のシリコンクラスレート含有組成物2.2gに対して、エタノール100mlを加えて攪拌した。そこに、46wt%HF水溶液3.71mlを加えた。この溶液を3時間にわたって攪拌することにより反応させて、I型シリコンクラスレートを除去した。得られた反応液を濾過することにより、第二のシリコンクラスレート含有組成物を得た。
【0074】
第二のシリコンクラスレート含有組成物をイオン交換水25mlで4回洗浄し、更にエタノール25mlで8回洗浄した。洗浄後、120℃で一晩乾燥することで、実施例1のシリコンクラスレート電極活物質を得た。
【0075】
(実施例2~6)
合成例2~6の第一のシリコンクラスレート含有組成物2.2gに対して、イオン交換水75ml、エタノール20mlを加えて攪拌した。そこに、46wt%HF水溶液4.5mlを加えた。この溶液を3時間にわたって攪拌することにより反応させて、I型シリコンクラスレートを除去した。得られた反応液を濾過することにより、第二のシリコンクラスレート含有組成物を得た。
【0076】
第二のシリコンクラスレート含有組成物をイオン交換水50mlで3回洗浄し、更にエタノール20mlで1回洗浄した。洗浄後、120℃で一晩乾燥することで、実施例2~6のシリコンクラスレート電極活物質を得た。
【0077】
(比較例1~4)
比較合成例1~4の第一のシリコンクラスレート含有組成物を用いたこと、並びに副生成物の除去においてイオン交換水による洗浄を実施しなかったこと、及び乾燥温度を60℃としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1~4のシリコンクラスレート電極活物質を得た。
【0078】
各例の製造条件、シリコンクラスレート電極活物質における含有成分の割合、及びII型シリコンクラスレートの質量のI型シリコンクラスレート及びII型シリコンクラスレートの合計質量に対する割合を表2に示す。
【0079】
また、比較例4の第一のシリコンクラスレート含有組成物に対して、フッ化水素溶液を接触させる前後のXRDの測定結果を
図1に示す。更に、比較例4、及び比較例4と第一のシリコンクラスレート含有組成物の含有成分の割合が同じである及び実施例1のシリコンクラスレート電極活物質のXRDの測定結果を
図2に示す。なお、各実施例及び比較例において、実施例の番号と合成例の番号、及び比較例の番号と比較合成例の番号がそれぞれ対応している。
【0080】
【0081】
表2、並びに
図1及び2に示されるように、第一のシリコンクラスレート含有組成物をエタノール含有溶液中でフッ化水素に接触させ、更に得られた第二のシリコンクラスレート含有組成物を水に接触させた実施例のシリコンクラスレート電極活物質は、I型シリコンクラスレートの含有割合が少なく、かつ副生成物であるNa
2SiF
6の含有割合が少なかった。