IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジャパンエンジンコーポレーションの特許一覧

特開2024-165112ガスゲート弁、及び該ガスゲート弁を備えるガスエンジン
<>
  • 特開-ガスゲート弁、及び該ガスゲート弁を備えるガスエンジン 図1
  • 特開-ガスゲート弁、及び該ガスゲート弁を備えるガスエンジン 図2
  • 特開-ガスゲート弁、及び該ガスゲート弁を備えるガスエンジン 図3
  • 特開-ガスゲート弁、及び該ガスゲート弁を備えるガスエンジン 図4
  • 特開-ガスゲート弁、及び該ガスゲート弁を備えるガスエンジン 図5
  • 特開-ガスゲート弁、及び該ガスゲート弁を備えるガスエンジン 図6
  • 特開-ガスゲート弁、及び該ガスゲート弁を備えるガスエンジン 図7
  • 特開-ガスゲート弁、及び該ガスゲート弁を備えるガスエンジン 図8
  • 特開-ガスゲート弁、及び該ガスゲート弁を備えるガスエンジン 図9
  • 特開-ガスゲート弁、及び該ガスゲート弁を備えるガスエンジン 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165112
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ガスゲート弁、及び該ガスゲート弁を備えるガスエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02M 21/02 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
F02M21/02 301A
F02M21/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080990
(22)【出願日】2023-05-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンイノベーション基金事業/次世代船舶の開発/水素燃料船の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】303047034
【氏名又は名称】株式会社ジャパンエンジンコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 唯我
(57)【要約】
【課題】油圧によって作動するガスゲート弁内に溜まったエアを、効率よく外部に排出させる。
【解決手段】ガスゲート弁6は、弁箱60と、弁箱60に挿入され、該弁箱60の中心軸に沿って上下動する弁軸64と、弁軸64の作動に際して作動油が供給される油室S1と、油室S1に接続され、エア抜き弁によって閉塞されるエア室S2と、弁箱60内に区画され、作動油供給路42をエア室S2に接続する第1油路68と、弁箱60内に区画され、エア室S2を油室S1に接続する第2油路69と、を備え、弁箱60は、その少なくとも一部がシリンダカバー15の上面15aに挿入され、エア室S2は、上下方向においては油室S1の上方に配置されているとともに、径方向においては油室S1の外側に配置され、第2油路69は、油室S1とエア室S2とを結ぶように斜めに延びる直線状に形成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダの蓋となるシリンダカバーと、前記シリンダ内にガス燃料を噴射するガス噴射弁と、作動油が流れる作動油供給路と、を備えるガスエンジンに設けられ、前記作動油の油圧に応じて作動することで、前記ガス噴射弁への前記ガス燃料の供給を制御するガスゲート弁であって、
筒状の弁箱と、
前記弁箱に挿入され、該弁箱の中心軸に沿って上下動する弁軸と、
前記弁軸の作動に際して前記作動油が供給される油室と、
前記油室に接続され、エア抜き弁によって閉塞されるエア室と、
前記弁箱内に区画され、前記作動油供給路を前記エア室に接続する第1油路と、
前記弁箱内に区画され、前記エア室を前記油室に接続する第2油路と、を備え、
前記弁箱は、その少なくとも一部が前記シリンダカバーの上面に挿入され、
前記エア室は、前記弁箱の中心軸に沿った上下方向においては前記油室の上方に配置されているとともに、該中心軸に直交する径方向においては前記油室の外側に配置され、
前記第2油路は、前記油室と前記エア室とを結ぶように斜めに延びる直線状に形成されている
ことを特徴とするガスゲート弁。
【請求項2】
請求項1に記載されたガスゲート弁において、
前記エア室の天井部は、前記エア抜き弁によって構成され、
前記第2油路は、該第2油路の中心軸線を前記エア室側に延長したときに、延長後の前記中心軸線と前記エア室の天井部とが交わるように構成されている
ことを特徴とするガスゲート弁。
【請求項3】
請求項1に記載されたガスゲート弁において、
前記第1油路は、前記作動油供給路に接続される前記作動油の流入口を有し、
前記第1油路は、前記流入口から前記エア室に向かって前記上下方向に沿って直線状に延びている
ことを特徴とするガスゲート弁。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載されたガスゲート弁において、
前記弁軸の上下動に応じて開閉し、前記ガス燃料を流通させるガス流通口と、
前記弁箱の内部に区画され、外部から供給されるシール油によって、前記弁箱の内壁と前記弁軸の外壁との間をシールするシール室と、
前記弁軸の基端部に取り付けられ、前記弁箱の内壁に摺接する摺接部と、を備え、
前記ガス流通口は、前記摺接部及び前記シール室を介して前記油室に通じている
ことを特徴とするガスゲート弁。
【請求項5】
請求項1に記載されたガスゲート弁を備えるガスエンジンであって、
前記弁軸の上下動に応じて開閉し、前記ガス燃料を流通させるガス流通口と、
前記弁箱の外周面に開口し、前記ガス流通口に連通する第2のガス流通口と、
前記第2のガス流通口をシールするシール部材と、
前記ガスエンジンのシリンダカバーに設けられ、前記ガスゲート弁が挿入される挿入孔と、を備え、
前記弁箱の外周面は、
前記上下方向に沿って延びる第1外周面と、
前記第1外周面より下方に配置され、該第1外周面よりも小径かつ前記上下方向に沿って延びる第2外周面と、を有し、
前記挿入孔の内周面は、
前記第1外周面に内接する第1内周面と、
前記第1内周面よりも下方に配置され、該第1内周面よりも小径かつ前記第2外周面に内接する第2内周面と、を有し、
前記第2のガス流通口は、前記第2外周面に開口し、
前記シール部材は、前記第2外周面と前記第2内周面との間に挟持されるように、前記第2外周面に装着される
ことを特徴とするガスエンジン。
【請求項6】
請求項5に記載されたガスエンジンにおいて、
ピストンを往復移動させるシリンダライナを備え、
前記シリンダカバーの上面には、該シリンダカバーを前記シリンダライナに締結するための締結具が挿入され、かつ前記ピストンの中心軸まわりの周方向に沿って配置される複数の締結孔が開口し、
前記挿入孔は、前記ピストンの中心軸に直交する径方向においては、前記複数の締結孔の外側に配置されている
ことを特徴とするガスエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスゲート弁、及び該ガスゲート弁を備えるガスエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ガス燃料を燃焼可能なガスエンジンの一例として、燃料油及びガス燃料(ガス)の両方を供給することができるディーゼルエンジンが開示されている。具体的に、このディーゼルエンジンは、作動油(制御油)の圧力に応じて開閉するガス弁と、ガス弁へのガスの供給を遮断する遮断弁と、を備えている。
【0003】
また、特許文献2には、いわゆるガスゲート弁を備えたガスエンジンの一例として、燃料油及びガス燃料(燃料ガス)の両方、又はガス燃料を燃焼させることができるディーゼル機関が開示されている。具体的に、このディーゼル機関は、各シリンダに対応して設けられたガスインジェクションバルブと、このガスインジェクションバルブへのガスの供給を制御するガスゲートバルブと、このガスゲートバルブを収容する筐体(ガスアキュームレータボックス)と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-209788号公報
【特許文献2】国際公開第2014/050269号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献2に記載されているようなガスゲート弁は、前記特許文献1に係るガス弁と同様に、作動油の油圧によって作動させることが通例とされている。この場合、ガスゲート弁の内部には作動油の油室及び油路が区画されるところ、それらのスペースにはエアが残留する可能性がある。
【0006】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、油圧によって作動するガスゲート弁内に溜まったエアを、効率よく外部に排出させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、シリンダの蓋となるシリンダカバーと、前記シリンダ内にガス燃料を噴射するガス噴射弁と、作動油が流れる作動油供給路と、を備えるガスエンジンに設けられ、前記作動油の油圧に応じて作動することで、前記ガス噴射弁への前記ガス燃料の供給を制御するガスゲート弁に係る。このガスゲート弁は、筒状の弁箱と、前記弁箱に挿入され、該弁箱の中心軸に沿って上下動する弁軸と、前記弁軸の作動に際して前記作動油が供給される油室と、前記油室に接続され、エア抜き弁によって閉塞されるエア室と、前記弁箱内に区画され、前記作動油供給路を前記エア室に接続する第1油路と、前記弁箱内に区画され、前記エア室を前記油室に接続する第2油路と、を備える。
【0008】
そして、前記第1の態様によれば、前記弁箱は、その少なくとも一部が前記シリンダカバーの上面に挿入され、前記エア室は、前記弁箱の中心軸に沿った上下方向においては前記油室の上方に配置されているとともに、該中心軸に直交する径方向においては前記油室の外側に配置され、前記第2油路は、前記油室と前記エア室とを結ぶように斜めに延びる直線状に形成されている。
【0009】
前記第1の態様によると、ガスゲート弁をシリンダカバーに挿入したことで、ガスゲート弁の油室を、効率よく揺らすことができる。これにより、油室からのエア(気泡)の排出を促すことができる。そして、油室から延びる第2油路は、その中途の部位で折れ曲がることなく、エア室に向かってストレートに延びるように形成されている。このように第2油路を直線状に形成したことで、油室から排出されたエアは、第2油路の中途の部位に留まることなく、スムースにエア室まで到達することになる。このように、ガスゲート弁のレイアウトと、そのガスゲート弁の内部構造に工夫を凝らしたこととが相まって、ガスゲート弁の油室内に溜まったエアを、効率よく外部に排出させることができる。
【0010】
また、本開示の第2の態様によれば、前記エア室の天井部は、前記エア抜き弁によって構成され、前記第2油路は、該第2油路の中心軸線を前記エア室側に延長したときに、延長後の該中心軸線と前記エア室の天井面とが交わるように構成されている、としてもよい。
【0011】
前記第2の態様によると、第2油路に沿って流れたエアを、エア室の天井部へとスムースに導くことができる。その天井部をエア抜き弁によって構成することで、天井面に到達したエアを、より効率よく外部に排出させることができる。
【0012】
また、本開示の第3の態様によれば、前記第1油路は、前記作動油供給路に接続される前記作動油の流入口を有し、前記第1油路は、前記流入口から前記エア室に向かって前記上下方向に沿って直線状に延びている、としてもよい。
【0013】
前記第3の態様によると、第1油路に流入したエアを、エア室へとスムースに導くことができる。これにより、油室内のエアばかりでなく、前記流入口等を通じてガスゲート弁内に流入したエアをも、効率よく外部に排出することができるようになる。
【0014】
また、本開示の第4の態様によれば、前記ガスゲート弁は、前記弁軸の上下動に応じて開閉し、前記ガス燃料を流通させるガス流通口と、前記弁箱の内部に区画され、外部から供給されるシール油によって、前記弁箱の内壁と前記弁軸の外壁との間をシールするシール室と、前記弁軸の基端部に取り付けられ、前記弁箱の内壁に摺接する摺接部と、を備え、前記ガス流通口は、前記摺接部及び前記シール室とを介して前記油室に通じている、としてもよい。
【0015】
前記第4の態様によると、ガス流通口等から流入したエアを、摺接部及びシール室を介して油室へと導くとともに、その油室から第2油路を介してエア室へと導くことができる。これにより、油室内のエアばかりでなく、ガス流通口等を通じてガスゲート弁内に流入したエアをも、効率よく外部に排出することができるようになる。
【0016】
また、本開示の第5の態様は、前記ガスゲート弁を備えるガスエンジンに係る。このガスエンジンは、前記弁軸の上下動に応じて開閉し、前記ガス燃料を流通させるガス流通口と、前記弁箱の外周面に開口し、前記ガス流通口に連通する第2のガス流通口と、前記第2のガス流通口をシールするシール部材と、前記ガスエンジンのシリンダカバーに設けられ、前記ガスゲート弁が挿入される挿入孔と、を備える。
【0017】
そして、前記第5の態様によれば、前記弁箱の外周面は、前記上下方向に沿って延びる第1外周面と、前記第1外周面より下方に配置され、該第1外周面よりも小径かつ前記上下方向に沿って延びる第2外周面と、を有し、前記挿入孔の内周面は、前記第1外周面に内接する第1内周面と、前記第1内周面よりも下方に配置され、該第1内周面よりも小径かつ前記第2外周面に内接する第2内周面と、を有し、前記第2のガス流通口は、前記第2外周面に開口し、前記シール部材は、前記第2外周面と前記第2内周面との間に挟持されるように、前記第2外周面に装着される、としてもよい。
【0018】
仮に、第1外周面と第2外周面を同径とし、第1内周面と第2内周面を同径としたような構成を考える。このような構成を採用すると、シリンダカバーへのガスゲート弁の挿入に際し、そのガスゲート弁の第2外周面に装着されたシール部材は、第2内周面及び第1内周面の両方と擦れることになる。この場合、摩耗によるシール部材へのダメージが懸念される。
【0019】
これに対し、前記第5の態様によると、第1内周面は、第2内周面よりも大径とされている。したがって、シリンダカバーへのガスゲート弁の挿入に際し、そのガスゲート弁の第2外周面に装着されたシール部材と、第1内周面との接触を抑制することができる。これにより、当該接触によるシール部材へのダメージを抑制することができる。また、第1内周面の大径化に併せて、第1外周面を第2外周面よりも大径とすることで、挿入孔の内周面と、ガスゲート弁の外周面との接触を保持することができる。このことは、ガスゲート弁の位置決め、及びガス燃料のリークの抑制に資する。
【0020】
また、本開示の第6の態様によれば、前記シリンダカバーの上面には、該シリンダカバーを前記シリンダライナに締結するための締結具が挿入され、かつ前記ピストンの中心軸まわりの周方向に沿って配置される複数の締結孔が開口し、前記挿入孔は、前記ピストンの中心軸に直交する径方向においては、前記複数の締結孔の外側に配置されている、としてもよい。
【0021】
前述のように、ガスゲート弁をシリンダカバーに挿入することは、ガスゲート弁を効率よく揺らす上で有効に作用する。しかしながら、ガスゲート弁の挿入位置次第では、ガス燃料の燃焼に起因してシリンダカバーに伝わる熱によって、シール部材がダメージを受ける可能性がある。
【0022】
これに対し、前記第6の態様によると、ガスゲート弁を前記締結孔の外側に挿入することで、ガスゲート弁を効率よく揺らすことによるエアの排出と、熱によるダメージの抑制と、を両立することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本開示によれば、油圧によって作動するガスゲート弁内に溜まったエアを、効率よく外部に排出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、ガスエンジンの全体構成を例示する側面図である。
図2図2は、ガスエンジンの構成を例示する模式図である。
図3図3は、ガスエンジンの上部構造を模式的に例示する断面図である。
図4図4は、シリンダカバーの周辺構成を例示する斜視図である。
図5図5は、シリンダカバーの周辺構成を例示する平面図である。
図6図6は、図5のA-A断面図である。
図7図7は、ガスゲート弁の構成を例示する縦断面図である。
図8図8は、図7におけるエア抜き弁周辺の構成を例示する部分拡大図である。
図9図9は、第1油路と第2油路との交差部を例示する縦断面図である。
図10図10は、図7における先端周辺の構成を例示する部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は例示である。図1は、ガスエンジン(以下、単に「エンジン」ともいう)1の全体構成を例示する側面図であり、図2は、エンジン1の構成を例示する模式図であり、図3は、エンジン1の上部構造を模式的に例示する断面図である。
【0026】
<全体構成>
エンジン1は、そのシリンダ16内でガス燃料を燃焼可能なガスエンジンである。特に本実施形態では、ガス燃料は水素ガスである。なお、ガス燃料は、水素ガスには限定されない。メタンガス等、他のガス燃料を用いてもよい。また、エンジン1は、ガス燃料を単独燃焼させるものであってもよし、そのガス燃料と他の油燃料を併用(例えば、水素ガスと重油の混焼)するものであってもよい。
【0027】
エンジン1は、ユニフロー掃気方式の2ストローク1サイクル機関として構成されており、タンカー、コンテナ船、自動車運搬船等の大型の船舶に搭載される。このエンジン1は、搭載先の船舶を推進させるための主機関として用いられる。エンジン1の出力軸は、プロペラ軸(不図示)を介して船舶のプロペラ(不図示)に連結されている。エンジン1が運転することで、その出力がプロペラに伝達されて、船舶が推進するようになっている。
【0028】
<エンジンの主要構成>
図1図3に示されるように、エンジン1は、前述のシリンダ16を有する機関本体10と、ガス供給系統3と、油圧系統4と、を備えている。各シリンダ16は、ガス燃料を燃焼させるための燃焼室17を区画している。
【0029】
図1に示すように、シリンダ16は、所定方向に並ぶように複数(本実施形態では6つ)設けられている。以下、シリンダ16の並び方向を前後方向又は第1方向とし、この前後方向と、図3に例示するピストン軸(各シリンダ16に挿入されたピストン21の中心軸)Opと、に直交する方向を左右方向又は第2方向とする。
【0030】
(1)機関本体10
機関本体10は、前述のように複数のシリンダ16を有している。機関本体10は、2ストローク式の機関であり、船舶の機関室に設置されている。なお、以下の説明は、特段の記載を除き、6つのシリンダ16で共通である。
【0031】
図2に示すように、本実施形態に係る機関本体10は、そのロングストローク化を実現するべく、いわゆるクロスヘッド式の内燃機関として構成されている。すなわち、この機関本体10においては、下方からピストン21を支持するピストン棒22と、クランクシャフト23に連接される連接棒24と、がクロスヘッド25により連結されている。
【0032】
具体的に、機関本体10は、下方に位置する台板11と、台板11上に設けられる架構12と、架構12上に設けられるシリンダジャケット13と、シリンダライナ14と、シリンダカバー15と、を備えている。各シリンダ16は、シリンダジャケット13内に設けられている。機関本体10はまた、シリンダ16内に配置され、該シリンダ16内で往復運動するピストン21と、その往復運動に連動して回転する出力軸(例えばクランクシャフト23)と、を備えている。
【0033】
ここで、台板11は、エンジン1のクランクケースを構成するものであり、クランクシャフト23と、クランクシャフト23を回転自在に支持する軸受26と、を収容している。クランクシャフト23には、クランク27を介して連接棒24の下端部が連結されている。
【0034】
クロスヘッド25は、一対のガイド板28の間に配置されており、各ガイド板28に沿って上下方向に摺動する。すなわち、一対のガイド板28は、クロスヘッド25の摺動を案内する。クロスヘッド25は、クロスヘッドピン29を介してピストン棒22及び連接棒24と接続されている。クロスヘッドピン29は、ピストン棒22に対しては一体的に上下動するよう接続されている一方、連接棒24に対しては、連接棒24の上端部を支点として、連接棒24を回動させるように接続されている。
【0035】
シリンダジャケット13は、内筒として構成されかつピストン21を往復移動させるシリンダライナ14を支持している。詳しくは、シリンダライナ14の内部には、前述のピストン21が配置されている。シリンダライナ14は、ピストン21を、該シリンダライナ14の内壁に沿って上下方向に往復運動させる。シリンダライナ14の上端は、開口している。
【0036】
また、シリンダカバー15は、シリンダライナ14の上端に固定されている。シリンダカバー15は、シリンダライナ14とともにシリンダ16を構成している。シリンダカバー15は、シリンダライナ14の上端を閉塞することで、シリンダ16の蓋となる。
【0037】
また、シリンダカバー15には、不図示の動弁装置によって作動される排気弁18が設けられている。排気弁18は、シリンダライナ14及びシリンダカバー15から構成されるシリンダ16、並びに、ピストン21の頂面とともに燃焼室17を区画している。排気弁18は、その燃焼室17と排気管19との間を開閉するものである。排気管19は、燃焼室17に通じる排気口を有しており、排気弁18は、その排気口を開閉するように構成されている。
【0038】
また、図2及び図3に示すように、シリンダカバー15には、燃焼室17に水素ガスを供給するための1つ又は複数のガス噴射弁5が設けられている。このガス噴射弁5は、シリンダ16内に水素ガスを噴射するように構成されている。
【0039】
本実施形態では、ガス噴射弁5は、シリンダ16毎に2本ずつ設けられており、それぞれ、燃焼室17の室内に臨むような姿勢で設けられている。各ガス噴射弁5は、その先端に噴射口(不図示)を有しており、その噴射口から水素ガスを噴射するように構成されている。以下、2つのガス噴射弁5のうちの一方を「第1ガス噴射弁5A」とし、他方を「第2ガス噴射弁5B」とする場合がある。
【0040】
図3に示すように、各ガス噴射弁5は、それぞれ、ガス供給系統3に接続されている。このガス供給系統3から各ガス噴射弁5に、後述のガス供給路32を通じて水素ガスが供給されるようになっている。水素ガスが供給された状態で各ガス噴射弁5が開くことで、燃焼室17内に水素ガスが供給される。
【0041】
各ガス噴射弁5は、燃焼室17に水素ガスを供給し、燃焼室17内で燃焼を生じさせる。その燃焼によって、ピストン21が上下方向に往復運動をする。このとき、排気弁18が作動して燃焼室17が開放されると、燃焼によって生じた排ガスが排気管19に押し出されるとともに、不図示の掃気ポートから燃焼室17にガスが導入される。
【0042】
また、燃焼によってピストン21が往復運動をすると、ピストン21とともにピストン棒22が上下方向に往復運動をする。これにより、ピストン棒22に連結されたクロスヘッド25が、上下方向に往復運動をする。このクロスヘッド25は、連接棒24の回動を許容するようになっており、クロスヘッド25との接続部位を支点として、連接棒24を回動させる。そして、連接棒24の下端部に接続されるクランク27がクランク運動し、そのクランク運動に応じてクランクシャフト23が回転する。こうして、クランクシャフト23は、ピストン21の往復運動を回転運動に変換し、プロペラ軸とともに船舶のプロペラを回転させる。これにより、船舶が推進する。
【0043】
(2)ガス供給系統3
図3に示すように、ガス供給系統3は、ガス供給モジュール31と、ガス供給路32と、ガスゲート弁(Gas Gate Valve:GGV)6と、ガスパイプ39と、を備えている。
【0044】
このうち、ガス供給モジュール31は、水素タンク31aと、ガスバルブトレイン(Gas Valve Train:GVT)31bと、を有している。
【0045】
水素タンク31aは、水素ガスを貯留する。水素タンク31aに貯留された水素ガスは、不図示のポンプが作動することで、同じく不図示の調温機構によって適温に調整された上、GVT31bに供給される。
【0046】
GVT31bは、種々の配管(不図示)と、各配管を開閉する電磁弁(不図示)と、を有している。GVT31bの各電磁弁は、コントローラ100と電気的に接続されており、コントローラ100から入力される制御信号にしたがって作動する。このGVT31bは、ガスパイプ39を介してガス供給路32と接続されている。GVT31bが各電磁弁を開閉することで、ガス供給路32、ひいては各ガス噴射弁5への水素ガスの供給が制御される。
【0047】
ガス供給路32は、ガス噴射弁5に接続されており、そのガス噴射弁5に水素ガスを供給する。特に、本実施形態に係るガス供給路32は、図3に示すようにシリンダカバー15の内部に区画されており、ガスパイプ39の下流端部と、ガス噴射弁5の側部に開口したガス導入口(不図示)と、を中継して接続する。
【0048】
ガスゲート弁6は、作動油の油圧に応じて作動することで、ガス噴射弁5への水素ガスの供給を制御する。ガスゲート弁6は、ガス供給路32における中途の部位に配置されており、その部位を開閉する。ガスゲート弁6の構成及び配置の詳細は、後述する。ガスゲート弁6は、シリンダ16毎に1つずつ設けられるようになっている。
【0049】
(3)油圧系統4
図3に示すように、油圧系統4は、作動油供給源41と、作動油供給路42と、を有している。この油圧系統4は、ガス噴射弁5及びガスゲート弁6に接続されており、各弁を作動させるための油圧を制御するように構成されている。以下、ガス噴射弁5及びガスゲート弁6の接続構造のうち、ガスゲート弁6に関する構成のみを説明する。
【0050】
作動油供給源41は、シリンダ16の外部に配置されており、油タンク、油ポンプ等によって構成されている。この作動油供給源41は、前述の油圧を生じる作動油を、作動油供給路42を通じて供給する。
【0051】
作動油供給路42は、ガスゲート弁6に接続されており、そのガスゲート弁6に作動油を供給する。特に、本実施形態に係る作動油供給路42は、図3に示すようにシリンダカバー15の内部に区画されており、作動油供給源41と、ガスゲート弁6の外面に開口した作動油の流入口68aと、を接続する(流入口68aについては、図6及び図7等を参照)。
【0052】
<シリンダカバーの周辺構成>
そして、本実施形態に係るエンジン1では、ガスゲート弁6の配置及び内部構造に、シリンダカバー15に関連した特徴的な工夫が施されている。
【0053】
以下、本実施形態に係るシリンダカバー15及びガスゲート弁6について詳細に説明する。なお、以下の説明は、複数のシリンダ16の各々において共通である。
【0054】
(1)シリンダカバー15の具体的構成
図4は、シリンダカバー15の周辺構成を例示する斜視図であり、図5は、シリンダカバー15の周辺構成を例示する平面図であり、図6は、図5のA-A断面図である。
【0055】
図4図5に示すように、シリンダカバー15は、前後方向及び左右方向に沿って平坦な上面15aを有する厚板状の金属ブロックによって形成されている。このシリンダカバー15は、複数(図例では6つ)のカバー締結孔15bと、複数(図例では4つ)の排気弁締結孔15cと、を有している。複数のカバー締結孔15b及び排気弁締結孔15cは、いずれも前記上面15aに開口している。
【0056】
また、シリンダカバー15の中央部には、ピストン21の中心軸Opと同軸の貫通孔15dが形成されている。この貫通孔15dは、円形状の横断面を有しており、シリンダカバー15を厚み方向に貫通している。
【0057】
ここで、複数のカバー締結孔15bには、シリンダカバー15をシリンダライナ14に締結するための締結具(例えばボルト)が挿入される。複数のカバー締結孔15bは、前記中心軸Opまわりの周方向に沿って、等間隔で配置されている。各カバー締結孔15bは、シリンダカバー15を厚み方向(上下方向)に貫通している。
【0058】
一方、複数の排気弁締結孔15cには、排気弁18をシリンダカバー15に締結するための締結具(例えばボルト)が挿入される。複数の排気弁締結孔15cは、前記周方向に沿って、等間隔で配置されている。各排気弁締結孔15cは、前記中心軸Opに直交する径方向において、各カバー締結孔15bの内側(径方向内側)かつ、貫通孔15dの外側(径方向外側)に配置されている。
【0059】
また、シリンダカバー15は、左右方向において非対称な形状を有している。具体的に、シリンダカバー15は、左右方向の一側(右側)に突出した半円部151と、左右方向の他側(左側)に突出したフランジ部152と、を有している。半円部151は、半円状にカーブした右側面を有している。その右側面における半円の中心軸(円弧の中心)は、ピストン軸Opと略一致している。
【0060】
一方、フランジ部152は、前記径方向において、複数のカバー締結孔15bの外側に突出している。複数のカバー締結孔15b及び複数の排気弁締結孔15cは、前記半円部151に開口している。
【0061】
また、図4図6等に示すように、シリンダカバー15にはまた、ガスゲート弁6が挿入される挿入孔15eが設けられている。この挿入孔15eは、前記径方向においては、複数のカバー締結孔15b及び排気弁締結孔15cの外側に配置されている。
【0062】
詳しくは、本実施形態に係る挿入孔15eは、前述のフランジ部152に開口している。この挿入孔15eは、シリンダカバー15の上面15aに対して垂直に延びている。
【0063】
したがって、この挿入孔15eに挿入されるガスゲート弁6は、径方向において複数のカバー締結孔15b及び排気弁締結孔15cの外側に配置されているとともに、シリンダカバー15の上面aに対し、垂直に挿入されることになる。
【0064】
そして、ガスゲート弁6よって開閉されるガス供給路32は、図5に破線で示すように、フランジ部152及び半円部151の内部に区画されている。このガス供給路32は、フランジ部152におけるガスゲート弁6の挿入部分を起点として2つの流路32a,32bに分岐して、それぞれ、半円部151に向かって延びている。
【0065】
(2)ガスゲート弁6の詳細
図7は、ガスゲート弁6の構成を例示する縦断面図である。図8は、図7におけるエア抜き弁67a周辺の構成を例示する部分拡大図である。また、図9は、第1油路68と第2油路69との交差部を例示する縦断面図である。図10は、図7における先端周辺の構成を例示する部分拡大図である。
【0066】
図7に示すように、ガスゲート弁6は、筒状の弁箱60と、その弁箱60に収容されて該弁箱60の中心軸に沿って上下動する弁軸64と、を備えている。このガスゲート弁6は、弁軸64を付勢力に抗して開弁させることで、その先端に設けたガス流入口63cとガス流出口63dとを連通させて、水素ガスを流通させるように構成されている。また、弁箱60は、その少なくとも一部(後述の第1及び第2外周面63a,63b)が、シリンダカバー15の上面aに挿入されるようになっている。なお、本実施形態では、弁箱60の中心軸は、弁軸64の中心軸(下記バルブ軸Ov)に一致する。
【0067】
なお、以下の説明においては、ピストン軸Opを基準とした種々の定義に代えて、図7等に例示される弁軸64の中心軸(以下、「バルブ軸」ともいう)Ovに沿う方向を「バルブ軸方向」又は単に「軸方向」と呼称する。そして、このバルブ軸Ovから放射状に延びる方向を「径方向」とし、バルブ軸Ovを中心とした時計回り方向および反時計回り方向を「周方向」とする。
【0068】
径方向は、前述のバルブ軸方向に直交する。また、径方向においてバルブ軸Ovに近接する一側を「内側」とし、バルブ軸Ovから離間する他側を「外側」とする場合もある。
【0069】
また、前述したように、本実施形態に係るガスゲート弁6は、シリンダカバー15の上面aに対し、垂直に挿入されるようになっている。そのため、バルブ軸Ovを基準とした軸方向(バルブ軸方向)は、上下方向に略一致することになる。以下、バルブ軸方向を単に「上下方向」ともいう。
【0070】
そこで、以下の記載では、バルブ軸方向(上下方向)におけるガスゲート弁6の先端側(同方向におけるガス流入口63c及びガス流出口63d側であって、図7図10の紙面下側)を単に「下側」又は「先端側」とする場合がある。
【0071】
同様に、前記バルブ軸方向におけるガス噴射弁5の基端側(同方向におけるガス流入口63c及びガス流出口63d側の反対側であって、図7図10の紙面上側)を単に「上側」又は「基端側」とする場合もある。
【0072】
具体的に、本実施形態に係るガスゲート弁6は、前述の弁箱60及び弁軸64に加え、付勢部材65と、摺接部66と、栓状体67と、第1油路68及び第2油路69と、油室S1と、エア室S2と、シール室S3と、を備えている。なお、ここでいう栓状体67は、エア抜き弁67a、ストッパ67b及び逆止弁67cの総称である。
【0073】
このうち、弁箱60は、バルブ軸方向の上端側から順に、第1ボディ部61と、第2ボディ部62と、第3ボディ部63と、を有している。また、弁箱60は、弁軸64の上下動に応じて開閉し、水素ガスを流通させるガス流通口(ガス流入口63c)と、弁箱60の外周面(後述の第2外周面63b)に開口し、ガス流通口としてのガス流入口63cに連通する第2のガス流通口(ガス流出口63d)と、ガス流出口63dをシールするシール部材(第3及び第4シール部材73,74)と、をさらに有している。
【0074】
図7に示すように、第1ボディ部61は、上下方向に沿って延びる円筒状に形成されている。第1ボディ部61には、第2油路69及びエア室S2が区画されており、後者のエア室S2には、下方から順にストッパ67b及びエア抜き弁67aが挿入されている。
【0075】
図7に示すように、第2ボディ部62は、その上端側と基端側を開口させた中空の略筒状に形成されている。この第2ボディ部62には、弁軸64の基端部と、摺接部66とが挿入されている。第2ボディ部62には、油室S1と、第1油路68の上端側部分と、が区画されている。
【0076】
図7に示すように、第3ボディ部63は、その上端側と下端側を開口させた中空の略筒状に形成されている。この第3ボディ部63には、弁軸64における基端部以外の部位と、付勢部材65とが挿入されている。第3ボディ部63には、シール室S3と、第1油路68の下端側部分と、が区画されている。
【0077】
第3ボディ部63の下端部には、ガス流入口63cが開口している。このガス流入口63cは、第3ボディ部63を中空の筒とみなしたときの、下端側の開口部に相当する。
【0078】
第3ボディ部63の下端部には、バルブ軸Ovに対して直交する方向に延びる水素ガスのガス流出口63dも開口している。このガス流出口63dは、第3ボディ部63の内部空間(中空部分)に至るまで延びており、その内部空間を介して前記ガス流入口63cに連通している。
【0079】
ガス流入口63cは、弁軸64の上下動に応じて開閉する。例えば、図7に示す状態では、ガス流入口63cは弁軸64の下端部64aによって閉塞されている。この状態では、水素ガスの流通は遮断されることになる。そして、図7に示す状態から弁軸64が下降してガス流入口63cが開放されると、開放されたガス流入口63cから水素ガスが流入する。ガス流入口63cから流入した水素ガスは、第3ボディ部63の内部空間を通過してガス流出口63dから流出することになる。この状態では、水素ガスの流通は許容されることになる。このように、ガスゲート弁6は、水素ガスの流通を遮断又は許容する“ゲート”として機能することになる。
【0080】
図7に示すように、ガス流入口63c及びガス流出口63dは、第3ボディ部63の下端側に形成されており、付勢部材65の収容スペースは、第3ボディ部63の上端側に区画されている。前述のシール室S3は、上下方向において、ガス流入口63c及びガス流出口63dと、付勢部材65の収容スペースとの間に位置している。
【0081】
シール室S3は、弁箱60の内部に区画されており、第3ボディ部63の外周面に形成された開口部63eに通じている(開口部63eについては、図10を参照)。シール室S3は、開口部63eを介して外部から供給されるシール油によって、弁箱60の内壁と弁軸64の外壁との間をシールする。
【0082】
弁軸64は、コイルバネ等からなる付勢部材65によって、上方向に付勢されている。弁軸64の基端部には、摺接部66が取り付けられている。この摺接部66は、その開口部を下方に向けた有底円筒状の部材として形成されており、弁軸64の基端部に挿入されている。摺接部66は、弁箱60の内壁(特に第2ボディ部62の内周面)に摺接するとともに、油室S1を区画する内壁部の一部として機能する。図7に示すように、本実施形態に係るガス流入口63cは、摺接部66と、シール室S3と、を介して油室S1に通じている。
【0083】
油室S1は、弁軸64の作動に際して作動油が供給される。油室S1内の油圧が高まることで、付勢部材65の付勢力に抗して弁軸64を下降させることができる。この油室S1は、図7図8及び図9に示すように、上下方向においては第1ボディ部61と第2ボディ部62との境界部に配置されている。
【0084】
特に本実施形態に係る油室S1は、第1ボディ部61における下端部付近の部位によって区画される天井面と、第2ボディ部62の内壁によって区画される側面と、摺接部66における上端側の端面によって区画される底面と、によって構成されている。
【0085】
エア室S2は、後述の第2油路69を介して油室S1に接続されている。このエア室S2は、エア抜き弁67aによって閉塞されている。エア室S2は、油室S1及び第1油路68からエア(気泡)が送り込まれるスペースである。エア室S2に送り込まれたエア(気泡)は、中空のストッパ67bを介してエア抜き弁67aに送り込まれるようになっており、そのエア抜き弁67aから外部(エンジン1の外部)に排出されるようになっている。
【0086】
特に、本実施形態に係るエア室S2は、第1ボディ部61の内部に区画されており、図7に示すように、上下方向においては油室S1の上方に配置されているとともに、径方向においては油室S1の外側に配置されている。
【0087】
第1油路68は、弁箱60内に区画されており、図3及び図6等に示すように、作動油供給路42をエア室S2に接続している。第1油路68は、作動油供給路42から供給された作動油を、エア室S2及び第2油路69を介して油室S1に送り込む通路として機能する。
【0088】
詳しくは、本実施形態に係る第1油路68は、作動油供給路42に接続される作動油の流入口68aを有している(図7等を参照)。この流入口68aは、第3ボディ部63の外面に開口している。流入口68aは、下方に向かって開口している。第1油路68は、第3ボディ部63、第2ボディ部62及び第1ボディ部61を貫くように延びており、流入口68aからエア室S2に向かって、上下方向に沿って直線状に延びている(図7図9の直線L1を参照)。
【0089】
ここで、第1油路68の上端付近の部位(第1油路68において第1ボディ部61に設けられた部位)に着目すると、図9に示すように、第1ボディ部61には、これを上下方向に貫く貫通孔61a,61b,61cが設けられている。
【0090】
この貫通孔は、下側から順に、第1油路68を区画する第1貫通孔61aと、第1油路68の上端部及びエア室S2を区画する第2貫通孔61bと、エア抜き弁67aの挿入スペースを区画する第3貫通孔61cと、に分類することができる。
【0091】
第2貫通孔61bは、第1貫通孔61aよりも大径である。第3貫通孔61cは、第2貫通孔61bよりも大径である。第1貫通孔61aと、第2貫通孔61bの一部とには逆止弁67cが挿入されており、第2貫通孔61bの他部によってエア室S2が区画されている。第3貫通孔61cにはエア抜き弁67aとストッパ67bが挿入されている。エア室S2は、逆止弁67cと、エア抜き弁67aとストッパ67bと、の間に区画されるスペースとみなすこともできる。逆止弁67cをエア室S2の底面とみなし、エア抜き弁67aとストッパ67bとがエア室S2の天井部Scを構成しているとみなすこともできる(天井部Scについては、図9の鎖線を参照)。
【0092】
一方、第2油路69は、弁箱60内に区画されており、図3図8及び図9等に示すように、エア室S2を油室S1に接続している。第2油路69は、作動油供給路42から第1油路68に供給された作動油を、エア室S2を介して油室S1に送り込む通路として機能する。
【0093】
そして、本実施形態に係る第2油路69は、油室S1とエア室S2とを結ぶように斜めに延びる直線状に形成されている。第2油路69は、上方に向かうにしたがって、径方向の外側に向かって斜めかつ直線状に延びている。言い換えると、第2油路69の中心軸線L2は、図9に示すように、その中途の部位で折れ曲がることなく、第2油路69の上流端部69aと下流端部69bとを結ぶ一の直線をなす。なお、ここでいう中心軸線L2とは、第2油路69の横断面(特に、作動油の流れ方向に直交する横断面)に対して垂直に延びかつ、該横断面の中央部を通過する直線を意味している。また、ここでいう「上流」及び「下流」なる語は、それぞれ、作動油供給源41から油室S1に向かう方向を基準とした上流及び下流を意味している。
【0094】
具体的に、第2油路69の上流端部69aは、エア室S2に接続される。この上流端部69aは、第2貫通孔61bの内壁に開口している。上流端部69aの開口は、上下方向に延びる長円状に形成されるようになっている。また、第2油路69の下流端部69bは、油室S1に接続される。この下流端部69bは、第1ボディ部61における下側の端面付近に開口している。
【0095】
また、図9に示したように、第2油路69は、その中心軸線L2をエア室S2側に延長したときに、延長後の該中心軸線L2と、前述のように定義された該エア室S2の天井部Scとが交わるように構成されている。
【0096】
ここで、図6に戻ると、第3ボディ部63における下端側の外周面63a,63bは、基端側の外周面に比して縮径されている。この縮径させた部分が、シリンダカバー15の挿入孔15eに挿入されるようになっている。
【0097】
詳しくは、弁箱60の外周面(特に、第3ボディ部63の外周面)は、上下方向に沿って延びる第1外周面63aと、第1外周面63aより下方に配置され、該第1外周面63aよりも小径かつ上下方向に沿って延びる第2外周面63bと、を有している。シール室S3に通じる前述の開口部63eは、第1外周面63aに開口している。ガス流出口63dは、第2外周面63bに開口している。
【0098】
一方、図6に示すように、前記挿入孔15eの内周面は、第1外周面63aに内接する第1内周面15fと、第1内周面15fよりも下方に配置され、該第1内周面15fよりも小径かつ第2外周面63bに内接する第2内周面15gと、を有している。
【0099】
また、図10に示すように、第1外周面63aには、該第1外周面63aに沿って周方向に延びる第1溝部60a及び第2溝部60bが設けられている。前記開口部63eは、第1溝部60aと第2溝部60bとの間に開口している。第1溝部60aに取り付けられる第1シール部材71と、第2溝部60bに取り付けられる第2シール部材72とによって、第1外周面63aと第1内周面15fとの間がシールされる。
【0100】
一方、図10に示すように、第2外周面63bには、該第2外周面63bに沿って周方向に延びる第3溝部60c及び第4溝部60dが設けられている。前記ガス流出口63dは、第3溝部60cと第4溝部60dとの間に開口している。第3溝部60cに取り付けられる第3シール部材73と、第4溝部60dに取り付けられる第4シール部材74とによって、第2外周面63bと第2内周面15gとの間がシールされる。言い換えると、本実施形態に係る第3及び第4シール部材73,74は、第2外周面63bと第2内周面15gとの間に挟持されるように、第2外周面63bに装着されている。
【0101】
<第2油路69の形状等の意義>
以上説明したように、本実施形態によると、図3等に示すようにガスゲート弁6をシリンダカバー15に挿入したことで、ガスゲート弁6の油室S1を、効率よく揺らすことができる。これにより、油室S1からのエア(気泡)の排出を促すことができる。そして、油室S1から延びる第2油路69は、図9等に示すように、その中途の部位で折れ曲がることなく、エア室S2に向かってストレートに延びるように形成されている。このように第2油路69を直線状に形成したことで、油室S1から排出されたエアは、第2油路69の中途の部位に留まることなく、スムースにエア室S2まで到達することになる。このように、ガスゲート弁6のレイアウトと、そのガスゲート弁6の内部構造に工夫を凝らしたこととが相まって、ガスゲート弁6の油室S1内に溜まったエアを、効率よく外部に排出させることができる。
【0102】
また、図9に示すように、第2油路69の中心軸線L2をエア室S2側に延長したときに、延長後の該中心軸線L2とエア室S2の天井部Scとを交わらせるように構成したことで、第2油路69に沿って流れたエアを、エア室S2の天井部Scへとスムースに導くことができる。その天井部Scをエア抜き弁67aによって構成することで、天井部Scに到達したエアを、より効率よく外部に排出させることができる。
【0103】
また、図7の直線L1等に示したように、第1油路68を、流入口68aからエア室S2に向かって直線状に延ばしたことで、第1油路68に流入したエアを、エア室S2へとスムースに導くことができる。これにより、油室S1内のエアばかりでなく、流入口68a等を通じてガスゲート弁6内に流入したエアをも、効率よく外部に排出することができるようになる。
【0104】
また、図7等に示したように、ガス流通口としてのガス流入口63cを、摺接部66とシール室S3とを介して油室S1に連通させたことで、ガス流入口63c等から流入したエアを、摺接部66及びシール室S3を介して油室S1へと導くとともに、その油室S1から第2油路69を介してエア室S2へと導くことができる。これにより、油室S1内のエアばかりでなく、ガス流入口63c等を通じてガスゲート弁6内に流入したエアをも、効率よく外部に排出することができるようになる。
【0105】
仮に、第1外周面63aと第2外周面63bを同径とし、第1内周面15fと第2内周面15gを同径としたような構成を考える。このような構成を採用すると、シリンダカバー15へのガスゲート弁6の挿入に際し、そのガスゲート弁6の第2外周面63bに装着されたシール部材(特に、第3及び第4シール部材73,74)は、第2内周面15g及び第1内周面15fの両方と擦れることになる。この場合、摩耗による第3及び第4シール部材73,74へのダメージが懸念される。
【0106】
これに対し、本実施形態によると、第1内周面15fは、第2内周面15gよりも大径とされている。したがって、シリンダカバー15へのガスゲート弁6の挿入に際し、ガスゲート弁6の第2外周面63bに装着された第3及び第4シール部材73,74と、第1内周面15fとの接触を抑制することができる。これにより、当該接触による第3及び第4シール部材73,74へのダメージを抑制することができる。また、第1内周面15fの大径化に併せて、第1外周面63aを第2外周面よりも大径とすることで、挿入孔15eの内周面15f,15gと、ガスゲート弁6の外周面63a,63bとの接触を保持することができる。このことは、ガスゲート弁6の位置決め、及び水素ガスのリークの抑制に資する。
【0107】
また、前述のように、ガスゲート弁6をシリンダカバー15に挿入することは、ガスゲート弁6を効率よく揺らす上で有効に作用する。しかしながら、ガスゲート弁6の挿入位置次第では、水素ガスの燃焼に起因してシリンダカバー15に伝わる熱によって、第1シール部材71~第4シール部材74がダメージを受ける可能性がある。
【0108】
これに対し、図4等に示したように、ガスゲート弁6をカバー締結孔15bの外側に挿入することで、ガスゲート弁6を効率よく揺らすことによるエアの排出と、熱によるダメージの抑制と、を両立することができる。
【符号の説明】
【0109】
1 エンジン(ガスエンジン)
14 シリンダライナ
15 シリンダカバー
15a シリンダカバーの上面
15b カバー締結孔(締結孔)
15e 挿入孔
15f 第1内周面
15g 第2内周面
16 シリンダ
21 ピストン
4 油圧系統
42 作動油供給路
5 ガス噴射弁
6 ガスゲート弁
60 弁箱
63 第3ボディ部
63a 第1外周面
63b 第2外周面
63c ガス流入口(ガス流通口)
63d ガス流出口(第2のガス流通口)
64 弁軸
66 摺接部
68 第1油路
68a 流入口(作動油の流入口)
69 第2油路
67a エア抜き弁
73 第3シール部材(シール部材)
74 第4シール部材(シール部材)
L2 第2油路の中心軸線
Op ピストンの中心軸
Ov ガスゲート弁の中心軸(弁箱の中心軸)
S1 油室
S2 エア室
S3 シール室
Sc 天井部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10