(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165235
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】建造物表面被覆方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/62 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
E04B1/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081207
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】523182290
【氏名又は名称】株式会社新倉
(71)【出願人】
【識別番号】504021404
【氏名又は名称】東洋化建株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151367
【弁理士】
【氏名又は名称】柴 大介
(72)【発明者】
【氏名】新倉 均
(72)【発明者】
【氏名】吉田 法之
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DH12
2E001EA01
2E001FA04
2E001FA18
2E001FA29
2E001FA30
2E001GA23
2E001GA26
2E001GA51
2E001HA14
2E001HB01
2E001HD11
2E001LA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、建造物(1)の表面(2)が湿潤し易い環境下に置かれる場合に、当該表面の耐久性を向上するために、当該表面を被覆樹脂材(4)だけで被覆する簡易な建造物表面被覆方法を提供し、当該物表面被覆方法で被覆された表面を有する建造物を提供することを課題とする。
【解決手段】建造物(1)の表面(2)を被覆樹脂材(4)で被覆する建造物表面被覆方法であって、
前記被覆樹脂材(4)が前記表面を被覆した状態で、前記被覆樹脂材(4)と前記表面の間に結合材(3)が配置され、前記結合材(3)が前記被覆樹脂材(4)と前記表面の対向する面に接して(但し、前記結合材(3)が前記被覆樹脂材(4)を貫通しないように)固定する建造物表面被覆方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の表面を被覆樹脂材で被覆する建造物表面被覆方法であって、
前記被覆樹脂材が前記表面を被覆した状態で、前記被覆樹脂材と前記表面の間に結合材が配置され、前記結合材が前記被覆樹脂材と前記表面の対向する面に接して、かつ前記結合材が前記被覆樹脂材を貫通しないように固定する建造物表面被覆方法。
【請求項2】
請求項1記載の建造物表面被覆方法で建造物の表面の少なくとも一部が被覆樹脂材で被覆された建造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物(1)の表面(2)を被覆樹脂材(4)で被覆する建造物表面被覆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物(1)の表面(2)は外気に晒される場合が多いが、晒される外気環境によっては、建造物(1)の表面(2)(例えば、下水道の管壁、温泉地域の排水路の管壁、地下鉄構内の壁面、屋上の床面、コンクリート打設数日後のコンクリート壁面など)が湿潤し易く、表面材そのものの腐食や表面にカビなどが繁殖し易い状態になる。
【0003】
従来、建造物(1)の表面(2)が湿潤し易い環境下に置かれる場合、建造物(1)の表面(2)の耐久性を向上するために、当該表面を繊維強化樹脂(FRP)のような被覆樹脂材(4)を介在させてモルタルやタイルパネルで被覆することが試みられている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-189834号公報
【特許文献1】特開2013-032620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、建造物(1)の表面(2)が湿潤し易い環境下に置かれる場合に、当該表面を繊維強化樹脂(FRP)を介在させてモルタルやタイルパネルで被覆することは、被覆構成が複雑になり被覆工程が増えることになる。
【0006】
本発明は、建造物(1)の表面(2)が湿潤し易い環境下に置かれる場合に、当該表面の耐久性を向上するために、当該表面を被覆樹脂材(4)だけで被覆する簡易な建造物表面被覆方法を提供し、当該物表面被覆方法で被覆された表面を有する建造物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
〔1〕建造物の表面を被覆樹脂材で被覆する建造物表面被覆方法であって、
前記被覆樹脂材が前記表面を被覆した状態で、前記被覆樹脂材と前記表面の間に結合材が配置され、前記結合材が前記被覆樹脂材と前記表面の対向する面に接して、かつ前記結合材が前記被覆樹脂材を貫通しないように固定する建造物表面被覆方法(以下「本発明1」ともいう)、並びに、
〔2〕前項〔1〕記載の建造物表面被覆方法で建造物の表面の少なくとも一部が被覆樹脂材で被覆された建造物(以下「本発明2」ともいう)に関する(以下、本発明1及び2をまとめて「本発明」ともいう)。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、建造物(1)の表面(2)が湿潤し易い環境下に置かれる場合に、当該表面の耐久性を向上するために、当該表面を被覆樹脂材(4)だけで被覆する簡易な建造物表面被覆方法を提供し、当該物表面被覆方法で被覆された表面を有する建造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】建築物(1)(表面近傍だけを図示している)の表面(2)に、態様3-1~3-6のスティック状結合体(3)を接触し内部に挿入させた状態の、建築物(1)とスティック状結合体(3)の垂直断面図である。 態様3-1:両先端が平らなスティック状結合体(3-1)である。 態様3-2:表面(2)に接触も内部に挿入もしていない端部がテーパー形状のスティック状結合体(3-2)である。 態様3-3:表面(2)に接触も内部に挿入もしていない端部がアンカー形状のスティック状結合体(3-3)である。 態様3-4:表面(2)に接触も内部に挿入もしていない端部がテーパー形状で、表面(2)に接触し内部に挿入させた端部がアンカー形状のスティック状結合体(3-4)である。 態様3-5:スティック状結合材(3)の円換算断面直径よりも大きな円換算断面直径を有するプレート(3-5p)をスティック状結合材(3)の端部に固定したスティック状結合体(3-5)である。プレート(3-5p)が表面(2)に固定される。 態様3-6:スティック状結合材(3)が表面(2)と角度θをなして傾けて接触し挿入させた状態。態様3-1~3-5は、θ=90°の場合である。
【
図2】表面(2)近傍での表面(2)に平行な断面の上面図。スティック状結合材が、ほぼ等間隔dで配置されている。
【
図3】スティック状結合体が態様3-6で配置され固定されている表面(2)を被覆樹脂材(4)であるFRPで被覆した状態の、建築物(1)、スティック状結合体(3-6)及び被覆樹脂材(4)であるFRPの垂直断面図である。FRPは、表面(2)上に熱硬化性樹脂1を好適厚みに塗工して熱硬化性樹脂層1(4-1)を形成し、塗工した熱硬化性樹脂層1(4-1)上に繊維ネット1(4-2)を敷設し、その上から熱硬化性樹脂2を好適厚みに塗工して熱硬化性樹脂層2(4-3)を形成する。FRP中に包埋されたスティック状結合体(3-6)の先端は繊維ネット1(4-2)内部に到達しているが、FRPを貫通し外部には露出していいない。
【
図4-1】表面(2)上に、スティック状結合材(3)の円換算断面直径よりも幅広の紐(3-7N)で構成されるネット(3-7)であって、ネットの両面の紐上にスティック状結合材(3-7S)の一端が固定され配置されている状態の、表面(2)近傍での表面(2)に平行な断面の上面図。スティック状結合材が、ほぼ等間隔dで配置されている。
【
図4-2】
図4-1の状態のスティック状結合体(3-7S)がネット(3-7)と共に配置され固定されている表面(2)を被覆樹脂材(4)であるFRPで被覆した状態の、建築物(1)、ネット(3-7)、スティック状結合体(3-7S)及び被覆樹脂材(4)であるFRPの垂直断面図である。FRPの構成は
図3と同じである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《本発明1》
〔建造物の表面〕
本発明における建造物(1)の表面(2)は、例えば、
下水道の管壁表面や、温泉地域の排水路の管壁表面のように、表面が接触する空間の湿度が高いために当該表面が湿潤しやすい環境におかれた表面、
地下鉄構内の壁面のように、地中の水分が当該表面にまで滲出し易い環境におかれた表面、
コンクリート打設数日後のコンクリート壁面のように塊状物全体に水分が分布して当該塊状物の表面に水分が浸潤し易い状態の表面、
コンクリート建造物の地下室のコンクリート製の側壁表面、天井表面、床表面のように、室内全体が低温で表面近傍が湿潤し易い環境に置かれた表面、
コンクリート建造物の屋上の床表面のように、常時外気と接触し降雨・降雪等で表面が湿潤状態に置かれる表面等の、表面が湿潤し易い表面が、本発明の効果を好適に奏する。
【0011】
建造物(1)の表面(2)の材質は、
コンクリート等の水硬性組成物の養生過程にある硬化体及び養生過程を経過後の硬化体、ガラス、陶器、ファインセラミックス等の無機物を加熱処理し焼き固めた焼結体(一般にセラミックスと呼ばれる)、プラスチック、木材等が本発明の効果を好適に奏する。
【0012】
〔被覆樹脂材〕
本発明における被覆樹脂材(4)は、建造物(1)の表面(2)を被覆して、当該建造物の使用環境において、建造物(1)の表面(2)が湿潤した際の当該表面の劣化を抑制でき、例えば、表面上での歩行、運送用キャリアの操作ができ、家具などの固体物が接触しても破損しない程度の強度を有するものであればよい。
【0013】
本発明における被覆樹脂材(4)は、例えば、繊維ネット、樹脂フィルム、繊維強化樹脂(FRP(Fiber Reinforced Plastics))等であることが好ましく、樹脂フィルム及び/又は繊維強化樹脂であることがより好ましく、繊維強化樹脂であることが更に好ましい。
【0014】
繊維ネットとしては、ナイロン等の従来から使用される汎用被覆樹脂材用繊維;帝人テクノプロダクツ社「テクノーラ」「トワロン」(以上、登録商標)、東レ・デュポン社「ケブラー」(登録商標)等のパラ系アラミド繊維;東洋紡社「ダイニーマ」(登録商標)等の超高分子量ポリエチレン繊維;クラレ社「ベクトラン」(登録商標)等のポリアリレート繊維;及び東洋紡社「ザイロン」(登録商標)等のPBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサザール)繊維;東レ社「トレカ」(登録商標)、東邦テナックス社「テナックス」(登録商標)、三菱レイヨン社「パイロフィル」(登録商標)等の炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の繊維で構成されるネットが好ましい。
【0015】
樹脂フィルムとしては、ポリエチレン、変性ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリプロピレン、ポリブテン、ポリエステル、ビニルエステル、ポリ塩化ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エポキシ被覆樹脂材(4)、フッ素被覆樹脂材(4)、熱可塑性エラストマー、シリコーンゴム、ポリイミド等のエンジニアプラスチックを、所望の強度に応じで厚みと延伸条件等の製造条件を調整してフィルム化したものが使用できる。
【0016】
樹脂フィルムの市販品としては、東レ社「ルミラー」(登録商標)等の二軸延伸ポリエステルフィルム、帝人デュポンフィルム社「テイジンテトロンフィルム」「メリネックス」「マイラー」「テフレックス」(以上、登録商標)等のPETフィルム;帝人デュポンフィルム社「テオネックス」(登録商標)等のPEN(ポリエチレンナフタレート)フィルムが挙げられる。
【0017】
繊維強化樹脂としては、繊維ネット及び被覆樹脂材用フィルムで挙げられた好適な繊維又はガラス繊維を練り込んでフィルム化する、又はこれらの繊維をネット化したシートを骨格基材として、ネット化したシートに、例えば光又は熱で硬化する、例えばアクリレート系、エポキシ系等の硬化性樹脂を含浸・硬化して形成されたものが好ましい。
【0018】
被覆樹脂材(4)の厚みは、所望の強度を達成するように調整されるが、耐震性の観点から、0.1~20mmが好ましく、1~15mmがより好ましく、2~10mmが更に好ましい。
【0019】
〔結合材〕
本発明における結合材(3)は、被覆樹脂材(4)が建造物(1)の表面(2)を被覆した状態で、被覆樹脂材(4)と建造物(1)の表面(2)の間に配置して、配置された結合材(3)が、被覆樹脂材(4)と建造物(1)の表面(2)の対向する面に接して(但し、結合材(3)が被覆樹脂材(4)を貫通しないように)固定するために使用される(
図3)。
【0020】
(1)結合材が棒状のスティックである場合
本発明における結合材(3)は、例えば、金属、セラミックス、プラスチック等の被覆樹脂材(4)よりも硬い材質の棒状のスティックであってよく(
図1)、スティック状結合材(3-1~3-6)は、被覆樹脂材(4)及び建造物(1)の表面(2)の固定の安定性の観点から、
長さが1.0~30.0cmであることが好ましく、5.0~25.0cmであることがより好ましく、10.0~20.0cmであることが更に好ましく、12.0~15.0cmであることが更に好ましく、円換算断面直径が0.1~5.0cmであることが好ましく、0.2~4.0cmであることがより好ましく、0.3~3.0cmであることが更に好ましく、0.5~2.0cmであることが更に好ましく、0.7~1.5cmであることが更に好ましい。
【0021】
なお、円換算断面直径とは、スティック状結合材(3)の長さ方向に対して垂直な断面の面積を有する円の直径をいう。
【0022】
スティック状結合材(3)は、被覆樹脂材(4)及び建造物(1)の表面(2)への挿入性と固定の安定性の観点から、少なくとも一方の先端が先細形状(以下「テーパー形状」ともいう)であってよく、被覆樹脂材(4)と建造物(1)の表面(2)の間に配置したときに、被覆樹脂材(4)側にスティック状結合材(3)のテーパー形状側を接触・挿入させ、他端側を建造物(1)の表面(2)側になるように配置してもよい(
図1の3-2,3-4)。
【0023】
スティック状結合材(3)は、被覆樹脂材(4)及び建造物(1)の表面(2)への挿入性と固定の安定性の観点から、少なくとも一方の先端部分が他方の先端に向けて円換算断面直径が末広がりに大きくなる形状(以下「アンカー形状」ともいう)であってよく(
図1の3-3,3-4)、被覆樹脂材(4)と建造物(1)の表面(2)の間に配置したときに、被覆樹脂材(4)側にスティック状結合材(3)のアンカー形状側を接触・挿入させ(
図1の3-3)、他端側を建造物(1)の表面(2)側になるように配置してもよい。
【0024】
(工程1-1)
本発明1は、被覆樹脂材(4)で建造物(1)の表面(2)を被覆する前に、建造物(1)の表面(2)に、スティック状結合材(3)を固定する工程1-1を有することが好ましい。
【0025】
建造物(1)の表面(2)にスティック状結合材(3)を固定する際に、スティック状結合材(3)を建造物(1)の表面(2)に垂直に固定しても、建造物(1)の表面(2)に対して傾けてもよい(
図1)。
【0026】
建造物(1)の表面(2)にスティック状結合材(3)を固定する際に、スティック状結合材(3)と建造物(1)の表面(2)のなす角度は、0°<θ≦90°である角度θと90°<180°-θ≦180°である角度〔180°-θ〕とが一対で同じ傾き状態を表現するが(
図1の3-6)、以下では、0°<θ≦90°である角度θで代表させる。
【0027】
スティック状結合材(3)と建造物(1)の表面(2)のなす角度は、スティック状結合材(3)が建造物(1)の表面(2)と被覆樹脂材とに挿入された際の、被覆状態の固定お安定性の観点から、好ましくは0°<θ≦90°、より好ましくは15°<θ≦80°、更に好ましくは20°<θ≦70°、更に好ましくは30°<θ≦60°、更に好ましくは35°<θ≦50°である(
図1の3-6)。
【0028】
建造物(1)の表面(2)へのスティック状結合材(3)の固定は、建造物(1)の表面(2)が柔らかい場合は、スティック状結合材(3)を突き入れて挿入し、そのまま固定できてもよい。
【0029】
建造物(1)の表面(2)へのスティック状結合材(3)の固定は、建造物(1)の表面(2)が柔らかくなければ、建造物(1)の表面(2)にスティック状結合材(3)を収納できる円換算断面直径と同程度の穿孔を設けて、スティック状結合材(3)を当該穿孔に挿入して固定することができ、さらに、当該穿孔と挿入したスティック状結合材(3)の隙間を例えば接着剤のような樹脂で包埋して固定状態を強化してもよい。
【0030】
建造物(1)の表面(2)へのスティック状結合材(3)の固定は、スティック状結合材(3)の一方の端に、スティック状結合材(3)の円換算断面直径よりも大きな円換算断面直径を有するプレート(3-5p)を固定し(又は、予め、スティック状結合材(3)とプレート(3-5p)を一体成型して製造してもよい)(
図1の3-5)、当該プレート(3-5p)の裏面を、例えば接着剤又は粘着剤を介して建造物(1)の表面(2)に固定してもよい(
図1の3-5)。
【0031】
建造物(1)の表面(2)へのスティック状結合材(3)の固定は、建造物(1)の表面(2)と被覆樹脂材(4)との固定の安定性の観点から、被覆した建造物(1)の表面(2)の適当な領域内に、適当な間隔dで複数本固定することが好ましい(
図2)。
【0032】
なお、着目する結合材の固定位置を中心とする円と、当該円が他の結合材を通過するときの当該円の半径のうち、最小の半径を着目した結合材と再隣接の結合材との間隔dという。
【0033】
被覆樹脂材(4)を被覆する建造物(1)の表面(2)が、例えば、人がその上で作業をする床表面であれば、建造物(1)の表面(2)の被覆領域の全域に、スティック状結合材(3)を、好ましくは10~200cm、より好ましくは20~150cm、更に好ましくは30~100cm、更に好ましくは35~80cm、更に好ましくは40~60cmの間隔dで固定する(
図2)。
【0034】
(工程1-2)
本発明1は、スティック状結合材(3)の一端を固定した建造物(1)の表面(2)を、被覆樹脂材(4)で被覆する際に、建造物(1)の表面(2)に固定されていないスティック状結合材(3)の他端を、被覆樹脂材(4)に接触・挿入して固定する工程1-2を有することが好ましい(
図3)。
【0035】
建造物(1)の表面(2)に固定されていないスティック状結合材(3)の他端を、被覆樹脂材(4)に固定する場合、
被覆樹脂材(4)が柔らかいか、被覆樹脂材(4)がネット状の態様で隙間が多ければ、スティック状結合材(3)を突き刺して挿入し、そのまま固定できてもよく(例えば
図2(a)参照)、当該挿入したスティック状結合材(3)の挿入部分周囲を接着剤のような硬化性樹脂で包埋してもよい。
【0036】
建造物(1)の表面(2)が柔らかくなく、表面(2)内に隙間が十分になければ、被覆樹脂材(4)にスティック状結合材(3)を収納できる程度の円換算断面直径の穿孔を設けて、スティック状結合材(3)を当該穿孔に挿入して固定することができ、さらに、当該穿孔と挿入したスティック状結合材(3)と当該穿孔の隙間を、例えば接着剤のような硬化性樹脂で包埋してもよい。
【0037】
建造物(1)の表面(2)に固定されていないスティック状結合材(3)の端を、スティック状結合材(3)を被覆樹脂材(4)に挿入して固定する場合、被覆樹脂材(4)の強度維持の観点から、スティック状結合材(3)が被覆樹脂材(4)を貫通しないように、被覆樹脂材(4)の厚みを考慮して、スティック状結合材(3)の長さを調整したり、スティック状結合材(3)の挿入角度を調整するために、角度θを調整することが好ましい。
【0038】
(2)結合材がその他の形態である場合
(2-1)結合材(3)は、スティック状結合材(3)の円換算断面直径よりも幅広の紐で構成されるネット(3-7)であって、少なくともネットの片面の紐上にスティック状結合材(3)の一端が固定されている形態であってよく、ネットの両面の紐上にスティック状結合材(3)の一端が固定されている形態であってもよい(
図4-1、
図4-2)。
【0039】
ネットの片面とスティック状結合材(3)のなす角度θ
1又はネットの両面の紐上にスティック状結合材(3)の一端が固定されている形態であっては角度θ
1と、ネットの他の面とスティック状結合材(3)のなす角度θ
2とは、好ましくは0°<θ
1、θ
2≦90°、より好ましくは15°<θ
1、θ
2≦80°、更に好ましくは20°<θ
1、θ
2≦70°、更に好ましくは30°<θ
1、θ
2≦60°、更に好ましくは35°<θ
1、θ
2≦50°であり、角度θ
1と角度θ
2とは同一でも異なっていてもよい(
図4-2)。
【0040】
この場合、例えば、ネットのスティック状結合材(3)の一端が固定されている面の反対面を建造物(1)の表面(2)に接着剤等の硬化性樹脂を介して固定させ、被覆樹脂材(4)でネットのスティック状結合材(3)の一端が固定されている面上を被覆し、被覆樹脂材(4)にスティック状結合材(3)を挿入させて被覆樹脂材(4)と建造物(1)の表面(2)を固定してよい。
【0041】
(2-2)結合材(3)は、スティック状結合材(3)の円換算断面直径よりも幅広の紐で構成されるネットであって、ネットの両面の紐上にスティック状結合材(3)の一端が固定されている形態であってよい。
【0042】
この場合、例えば、ネットの片面で建造物(1)の表面(2)上を被覆し、建造物(1)の表面(2)に当該片面のスティック状結合材(3)を挿入して、必要であれば接着剤等の硬化性樹脂を挿入箇所に包埋して固定し、被覆樹脂材(4)で建造物(1)の表面(2)上に固定されたネットのもう一方の面上を被覆し、被覆樹脂材(4)に当該面状に固定されたスティック状結合材(3)を挿入させて被覆樹脂材(4)と建造物(1)の表面(2)を固定してよい。
【0043】
(2-3)結合材(3)は、ネットであって、ネットの片面で建造物(1)の表面(2)上を被覆し、さらに被覆樹脂材(4)でネットのもう一方の面上を被覆する(被覆する順序が逆でもよい)。この場合、建造物(1)の表面(2)上とネットを構成する紐の接触部分は、紐と同程度の幅の溝が形成されていてもよい。
【0044】
この場合、建造物(1)の表面(2)上とネットを構成する紐の接触部分を接着剤等の硬化性樹脂で固定し、被覆樹脂材(4)の表面にネットを構成する紐の接触部分を埋設させて(必要であれば接触部分を接着剤等の硬化性樹脂で固定して)、ネットを介して被覆樹脂材(4)と建造物(1)の表面(2)を固定してよい。
【0045】
〔被覆樹脂材の被覆態様〕
被覆樹脂材(4)として、予めシート状に成型したシート状被覆樹脂材(4)を使用して、シート状被覆樹脂を結合材(3)を介して建造物(1)の表面(2)を被覆して被覆樹脂材(4)と建造物(1)の表面(2)を固定してよい。
【0046】
被覆樹脂材(4)は、結合材(3)が固定された建造物(1)の表面(2)上を、被覆樹脂材(4)を構成する硬化前の樹脂で塗工して硬化させて、結合材(3)が固定された建造物(1)の表面(2)上を被覆してもよい(硬化前の複数の種類の樹脂を積層して塗工して硬化させて複層の被覆樹脂材(4)を形成させてもよい)。
【0047】
この場合、建造物(1)の表面(2)上に固定された結合材(3)は、塗工された硬化前の樹脂中に包埋されて、結果として、結合材(3)が被覆樹脂材(4)を貫通することなく被覆樹脂材(4)中に挿入された状態になる。
【0048】
被覆樹脂材(4)がFRPである場合、FRPの固定性の観点から、FRP中に挿入されたスティック状結合材(3)の先端が、FRPを構成する繊維ネット(4-2)に到達するような挿入状態にすることが好ましい。
【0049】
結合材(3)がスティック状結合材(3)である場合は、以上の工程(1-1)及び工程(1-2)によって、
結合材(3)がその他の形態である場合は、被覆樹脂材(4)を建造物(1)の表面(2)に結合材(3)を介して被覆して、被覆樹脂材(4)と建造物(1)の表面(2)とを固定することによって、被覆樹脂材(4)と建造物(1)の表面(2)の間に配置した結合材(3)が、被覆樹脂材(4)と建造物(1)の表面(2)の対向する面を固定するため、被覆樹脂材(4)で被覆した建造物(1)の表面(2)が湿潤しても、被覆樹脂材(4)が建造物(1)の表面(2)から剥離したり、ズレたりすることを抑制でき、建造物(1)の表面(2)の耐久性向上効果の低下を抑制することができる。
【0050】
なお、建造物(1)の美観と強度の安定性の観点から、必要に応じて、被覆樹脂材の上を、さらにタイルやパネル等の板材で被覆したり、塗装したり、又は、フィルムでコートしたりしても構わない。
【0051】
〔被覆樹脂材がFRPである場合の好適態様〕
FRPは、通常、光又は熱で硬化する硬化性樹脂層(4-1,4-3)と繊維ネット(4-2)が積層して構成される。
【0052】
(1)繊維ネット
繊維ネット(4-2)は、例えば、以下のような態様が挙げられ、被覆対象表面の状態に応じて適宜選択又は組合わせて使用することができる。
【0053】
上述した好適繊維のステープル又はストランドが分散したウェブを結合剤(ポリビニルアルコール系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等)で接着固定した不織布(例えば、チョップドストランドマット、サーフェイスマット);
【0054】
上述した好適繊維のフィラメント、ステープル又はこれらの撚糸を(例えば縦横に)織り込んだ織布(例えば、ロービングクロス、ガラスクロス)。
【0055】
チョップドストランドマットは、300~700g/m2程度(厚み1mm程度)のストランドが分散した不織布で、成形し易く、被覆対象表面の形状に沿って変形し易いため、被覆樹脂材(4)の基材として好適に使用できる。
【0056】
ロービングクロスは、500~1000g/m2程度の厚手の織布で、被覆樹脂材(4)全体の強度を付与するために好適に使用できる。
【0057】
ガラスクロスは、50g超~500g未満/m2程度の薄手の織布で、被覆樹脂材(4)に強度と柔らかさを付与するために好適に使用できる。
【0058】
サーフェイスマットは、10~50g/m2程度の薄手の不織布で、繊維長が30mm以下、繊維径が、ガラス繊維では直径が約8~25μm程度、炭素繊維では4~15μm程度で、柔らかく表面が滑らかであるため、被覆樹脂材(4)の最外層に積層するのに好適に使用できる。
【0059】
(2)基本積層構成のFRPの施工例
被覆対象表面(結合材(3)が配置・固定された建造物(1)の表面(2))に、
熱硬化性樹脂1を、上述した好適厚みに塗工して熱硬化性樹脂層1(4-1)を形成し、
塗工した熱硬化性樹脂層1(4-1)上に繊維ネット1(4-2)を敷設し、
その上から熱硬化性樹脂2を、上述した好適厚みに塗工して熱硬化性樹脂層2(4-3)を形成し、
室温(好ましくは0~40℃、より好ましくは5~35℃、更に好ましくは10~30℃)で、好ましくは10~120分、より好ましくは20~90分、更に好ましくは30~60分養生して、繊維ネット(4-2)と硬化性樹脂を一体にして硬化させる(
図3、
図4-2)。
【0060】
(3)基本積層構成を組合わせたFRPの施工例
(a)被覆対象表面に熱硬化性樹脂1を上記の好適厚みで塗工し熱硬化性樹脂層1を形成し、
(b)熱硬化性樹脂1に繊維ネット1を敷設し、
(c)その上から熱硬化性樹脂2を上記の好適厚みで塗工して熱硬化性樹脂層2を形成し、
以下、熱硬化性樹脂kを塗工して形成する熱硬化性樹脂層k(k=2,3,・・・n(nは2以上の整数))に対して上記工程(b)(c)を施し、熱硬化性樹脂層k(k=2,3,・・・n)と繊維ネットkの積層体を形成し、上記好適温度で養生して熱硬化性樹脂層kを硬化させ、熱硬化性樹脂層kと繊維ネットkが一体になった複層の被覆樹脂材(4)を形成する。
【0061】
複層の被覆樹脂材(4)の施工では、例えば、下地処理をした被覆対象表面に熱硬化性樹脂層1/チョップドストランドマット層/熱硬化性樹脂層2/ロービングマット/熱硬化性樹脂層3/チョップドストランドマット層/硬化性樹脂層3/サーフェイスマット層の積層体を形成する態様が好ましい。
【0062】
《本発明2》
本発明2は、本発明1の建造物表面被覆方法で建造物(1)の表面(2)の少なくとも一部が被覆樹脂材(4)で被覆された建造物である。本発明2の建造物として、以下を例示することができる。
【0063】
本発明1の建造物表面被覆方法で少なくとも一部が被覆樹脂材(4)で被覆された、(被覆樹脂材(4)で被覆されていなければ)下水道の管壁表面や、温泉地域の排水路の管壁表面のように、表面が接触する空間の湿度が高いために当該表面が湿潤しやすい環境におかれた表面を有する下水道、排水路等の建造物;
【0064】
本発明1の建造物表面被覆方法で少なくとも一部が被覆樹脂材(4)で被覆された、(被覆樹脂材(4)で被覆されていなければ)地下鉄構内の壁面のように、地中の水分が当該表面にまで滲出し易い環境におかれた表面を有する、地下鉄のトンネルや地下鉄の駅の構内等の建造物;
【0065】
本発明1の建造物表面被覆方法で少なくとも一部が被覆樹脂材(4)で被覆された、(被覆樹脂材(4)で被覆されていなければ)コンクリート打設数日後のコンクリート壁面のように塊状物全体に水分が分布して当該塊状物の表面に水分が浸潤し易い状態の表面を有する建造物;
【0066】
本発明1の建造物表面被覆方法で少なくとも一部が被覆樹脂材(4)で被覆された、(被覆樹脂材(4)で被覆されていなければ)コンクリート建造物の地下室のコンクリート製の側壁表面、天井表面、床表面のように、室内全体が低温で表面近傍が湿潤し易い環境に置かれた表面を有する建造物;
【0067】
本発明1の建造物表面被覆方法で少なくとも一部が被覆樹脂材(4)で被覆された、(被覆樹脂材(4)で被覆されていなければ)コンクリート建造物や木造建造物の屋上の床表面のように、常時外気と接触し降雨・降雪等で表面が湿潤状態に置かれる表面等の、表面が湿潤し易い表面を有する建造物;
【0068】
本発明1の建造物表面被覆方法で少なくとも一部が被覆樹脂材(4)で被覆された、表面が硬質ウレタンフォーム等の主に石油を原料とした化学建材(いわゆる新建材)で形成され、直射日光、外気中の酸成分、水分によって劣化し易い表面を有する建造物。
【0069】
《施工態様例》
新築の鉄筋コンクリート製の6階建ビルディングの地階の床表面を本発明1の被覆方法を適用する場合について詳細に説明する。
【0070】
〔床とその表面〕
本発明1が対象とする床及びその表面は、以下の配合のコンクリートを混錬して、床の型枠に充填して後3日経過後の状態である。
【0071】
以下の施工では、上記の状態の床の表面部位に本発明1を適用したが、対象となる建造物(1)の表面(2)は、本発明1を適用する前に、必要に応じて、清掃、研磨、コンクリート製表面であればケレン等で不陸調整することが好ましい。
【0072】
〔コンクリート1m3の配合〕
細骨材:海砂・山砂・砕砂の混合細骨材、690kg
粗骨材:860kg
ポルトランドセメント:270kg
水:160kg(W/C=65)
減水剤:適量
【0073】
〔結合材〕
スティック状結合材(3):市販のFRP製の引き抜き材・ロッド(丸棒)を所定の長さに切断して使用した。
長さ:14.0cm
円換算断面直径:1.0cm
材質:FRP
【0074】
〔結合材の配置と固定〕
床を構成するコンクリートを型枠に充填3日後に、床の表面部位(200m2)に、間隔が50cmとなるように、先端近傍に樹脂パテを塗布したスティック状結合材(3)の先端を所定の角度になるように押し入れた(挿入深さ8.0cm、角度θ=40~45°)。
【0075】
〔被覆樹脂材〕
以下の工程を行い、スティック状結合材(3)が配置・固定された床の表面部位(200m2)を、FRPで構成される被覆樹脂材で被覆した。
(1)熱硬化性樹脂1を、厚み1.0mmに塗工して熱硬化性樹脂層1(4-1)を形成し、
(2)塗工した熱硬化性樹脂層1上に繊維ネット1(4-2)を敷設し、
(3)その上から熱硬化性樹脂2を、厚み1.0mmに塗工して熱硬化性樹脂層2(4-3)を形成し、
(4)室温(約10℃)で、2時間養生した。
【0076】
繊維ネット1(4-2)がガラス繊維で構成された、厚み約1.0mmの日東紡チョップドストランドマットでを使用した。
【符号の説明】
【0077】
1 建造物(表面(2)の近傍)
2 建造物(1)の表面
3 スティック状結合体
3-1 スティック状結合体
3-2 スティック状結合体
3-3 スティック状結合体
3-4 スティック状結合体
3-5 スティック状結合体
3-6 スティック状結合体
3-7 幅広の紐(3-7N)で構成されるネット
3-7N ネット(3-7)を構成する紐
3-7S 紐(3-7N)上に配置され固定されたスティック状結合体
4 被覆樹脂材
4-1 被覆樹脂材がFRPである場合の硬化性樹脂層
4-2 被覆樹脂材がFRPである場合の繊維ネット
4-3 被覆樹脂材がFRPである場合の硬化性樹脂層