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特開2024-165236燃料性状推定装置および燃料噴射制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165236
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】燃料性状推定装置および燃料噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20241121BHJP
   F02D 41/06 20060101ALI20241121BHJP
   F02D 41/12 20060101ALI20241121BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
F02D45/00 369
F02D41/06
F02D41/12
F02D41/34
F02D45/00 364A
F02D45/00 360Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081208
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】筒井 優斗
(72)【発明者】
【氏名】高木 章宏
(72)【発明者】
【氏名】河内 隆史
(72)【発明者】
【氏名】深澤 俊晴
(72)【発明者】
【氏名】大坪 康彦
【テーマコード(参考)】
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G301HA02
3G301KA05
3G301KA26
3G301MA18
3G301PB02Z
3G301PD11Z
3G384AA03
3G384BA11
3G384CA03
3G384CA21
3G384FA21Z
3G384FA45Z
(57)【要約】
【課題】燃料タンクに給油された燃料の蒸留性状を精度よく検出する。
【解決手段】燃料タンクに燃料が給油されると、燃料の密度ρfを取得し(S10)、燃料のセタン価Cnを取得する(S11)。そして、密度ρfとセタン価Cnに基づいて、T50推定マップから、T50(蒸留性状)を算出する(S12)。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮自己着火式の内燃機関の燃料タンクに蓄えられた燃料の性状を推定する燃料性状推定装置であって、
前記燃料の密度を検出する密度検出部と、
前記燃料のセタン価を検出するセタン価検出部と、
前記密度と前記セタン価に基づいて、前記燃料の蒸留性状を推定する蒸留性状推定部と、を備える、燃料性状推定装置。
【請求項2】
前記蒸留性状推定部は、
前記密度と前記セタン価をパラメータとしたマップから、前記蒸留性状を求める、請求項1に記載の燃料性状推定装置。
【請求項3】
前記セタン価検出部は、
前記内燃機関の燃料噴射の停止が行われているとき、検出用燃料噴射を実行し、
前記検出用燃料噴射によって発生するトルクの指標値であるトルク相当量を求め、
前記トルク相当量に基づいて、前記セタン価を検出する、請求項2に記載の燃料性状推定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料性状推定装置を備えた内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
前記蒸留性状が設定範囲外であり、かつ、前記内燃機関の排気温度が閾値より低いとき、前記排気温度が上昇するよう燃料噴射の制御パラメータを制御する、燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記制御パラメータは、燃料噴射時期である、請求項4に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記制御パラメータは、多段噴射の噴射パターンである、請求項4に記載の燃料噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料性状推定装置および燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2016-166591号公報(特許文献1)には、燃料の性状ばらつきが存在する場合にも適正なる燃焼制御を実現することができるディーゼルエンジンの制御装置が、開示されている。この特許文献1では、燃料の動粘度を取得し、動粘度に基づいて、燃料の蒸留性状を算出する。そして、蒸留性状に基づいて、燃料噴射弁から噴射される燃料の燃焼に関する燃焼制御を実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-166591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、菜種油や廃食用油を原料としたバイオディーゼル燃料を軽油に混合したバイオ燃料混合軽油が、圧縮自己着火式の内燃機関(ディーゼルエンジン)の燃料として用いられている。脱炭素社会に向けて、今後、カーボンニュートラルで環境負荷の少ないバイオ燃料や合成燃料(e-fuel)等、多種多様な燃料への対応が望まれる。
【0005】
多種多様な燃料では、その燃料性状も異なる。このため、燃料タンクに給油される燃料が多種多様であっても、その燃料の蒸留性状を精度よく検出されることが望まれる。
【0006】
本開示の目的は、燃料タンクに給油された燃料の蒸留性状を精度よく検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示の燃料性状推定装置は、圧縮自己着火式の内燃機関の燃料タンクに蓄えられた燃料の性状を推定する燃料性状推定装置である。燃料性状推定装置は、燃料の密度を検出する密度検出部と、燃料のセタン価を検出するセタン価検出部と、密度とセタン価に基づいて、燃料の蒸留性状を推定する蒸留性状推定部と、を備える。
【0008】
この構成によれば、燃料の蒸留性状を、密度とセタン価に基づいて推定するので、燃料タンクに給油される燃料が多種多様であっても、蒸留性状を比較的精度よく推定できる。
【0009】
(2)上記(1)において、蒸留性状推定部は、密度とセタン価をパラメータとしたマップから、蒸留性状を求めるようにしてもよい。
【0010】
この構成によれば、蒸留性状を、密度とセタン価をパラメータとしたマップから求めるので、多種多様な燃料が新たに現れても、実験等による適合等により、マップを更新、書き換えることによって、比較的容易に蒸留性状を精度よく推定することができる。
【0011】
(3)上記(1)、(2)において、セタン価検出部は、内燃機関の燃料噴射の停止が行われているとき、検出用燃料噴射を実行し、検出用燃料噴射によって発生するトルクの指標値であるトルク相当量を求め、トルク相当量に基づいてセタン価を検出するようにしてもよい。
【0012】
この構成によれば、検出用燃料噴射によって発生するトルクの指標値であるトルク相当量に基づいてセタン価を検出するので、内燃機関の作動中にセタン価を検出することができ、好適に、蒸留性状を推定することが可能になる。
【0013】
(4)本開示の燃料噴射制御装置は、上記(1)~(3)の燃料性状推定装置を備えた内燃機関の燃料噴射制御装置である。燃料噴射制御装置は、蒸留性状が設定範囲外であり、かつ、内燃機関の排気温度が閾値より低いとき、排気温度が上昇するよう燃料噴射の制御パラメータを制御する。
【0014】
内燃機関の燃料噴射制御装置は、基準となる燃料の燃料性状に合わせて燃料噴射制御の適合を行う場合が多い。多種多様の燃料では、燃料性状が大きく異なる場合がある。特に、基準となる燃料に対して蒸留性状が異なると、排気温度が低下する場合がある。排気通路に排気浄化触媒を備えている場合、排気温度の低下によって、浄化性能が低下する懸念がある。
【0015】
この構成によれば、燃料噴射制御装置は、蒸留性状が設定範囲外であり、かつ、内燃機関の排気温度が閾値より低いとき、排気温度が上昇するよう燃料噴射の制御パラメータを制御する。精度よく検出された蒸留性状が設定範囲外にあり、かつ、排気温度が閾値より低いときには、排気温度の低下が蒸留性状の相違に起因する蓋然性が高いので、蒸留性状によって排気温度が低下する場合に、排気温度を上昇することができる。
【0016】
(5)上記(4)において、制御パラメータは燃料噴射時期であってよい。
【0017】
この構成によれば、燃料噴射時期を制御することにより、排気温度を上昇することができる。
【0018】
(6)上記(4)において、制御パラメータは多段噴射の噴射パターンであってよい。
【0019】
この構成によれば、噴射パターンを制御することにより、排気温度を上昇することができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、燃料タンクに給油された燃料の蒸留性状を精度よく検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施の形態に係る内燃機関の全体構成を概略的に示す図である。
図2】ECUで実行される蒸留性状算出制御の処理の一例を示すフローチャートである。
図3】セタン価算出処理の一例を示すフローチャートである。
図4】メモリに格納されているT50算出マップである。
図5】ECUによって実行される燃料噴射の蒸留性状補正ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図6】T50に応じて、噴射時期および噴射パターンを補正(変更)する例を示す図である。
図7】(A)~(D)は、密度ρf、セタン価Cn、およびT50の関係(相関)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0023】
図1は、本実施の形態に係る内燃機関の全体構成を概略的に示す図である。図1を参照して、エンジン(内燃機関)1は、排気浄化装置70を備えた圧縮着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)である。エンジン1は、たとえば、車両の駆動源として用いられる。エンジン1は、エンジン本体10のシリンダ(気筒)12に形成された燃焼室に、燃料噴射弁(インジェクター)14から燃料を噴射し、圧縮自着火を行う内燃機関である。本実施の形態において、エンジン1は4気筒である。エンジン1の吸気通路20には、エアクリーナ22、インタークーラ24、および吸気絞り弁(ディーゼルスロットル弁)26が設けられており、エアクリーナ22で異物が除去された新気(空気)は、ターボ過給器30のコンプレッサ32で過給(圧縮)され、インタークーラ24で冷却されて、吸気マニホールド28に供給され、吸気ポートから各燃焼室に供給される。
【0024】
燃料タンク40には、給油された燃料が蓄えられる。燃料タンク40内の燃料は、フィードポンプ41によって高圧燃料ポンプ42へ供給され、高圧燃料ポンプ42から吐出された高圧の燃料が燃料通路43を介してコモンレール44に圧送される。コモンレール44に蓄えられた高圧の燃料が、インジェクタ14から燃焼室(筒内)に噴射される。
【0025】
燃焼室から排出される排気(排ガス)は、排気マニホールド50に集められ、排気通路52を介して、外気に放出される。また、排気の一部は、EGR(Exhaust Gas Recirculation)通路60を介して、吸気マニホールド28に還流される。EGR通路60には、EGRクーラ62とEGR弁64が設けられる。
【0026】
排気通路52には、ターボ過給器30のタービン34が設けられ、タービン34の下流に、排気浄化装置70として、酸化触媒71、DPF(Diesel Particulate Filter)72、選択還元触媒(以下、SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒とも称する)73、および酸化触媒74が設けられている。酸化触媒71は、排ガスに含まれるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、SOF(Soluble Organic Fraction:可溶性有機成分)を酸化して、浄化する。また、酸化触媒71は、DPF72に捕集したパティキュレート・マター(PM)を燃焼除去する際に、ポスト噴射等によって供給されたHCを燃焼(酸化)して排ガス温度を上昇させる。
【0027】
DPF72の下流の排気通路52には、SCR触媒73が配置されている。SCR触媒73は、たとえば、セラミック担体に銅(Cu)イオン交換ゼオライトを触媒として担持したものであり、アンモニア(NH3)を還元剤として用いることにより、高いNOx浄化率を示すものである。還元剤として利用するアンモニアは、SCR触媒73の上流の排気通路52に供給した尿素水を加水分解および熱分解することにより生成する。SCR触媒73の上流の排気通路には、尿素添加弁(尿素水噴射インジェクター)80が設けられ、尿素水タンク81からポンプ82によって圧送される尿素水を、尿素添加弁80から、SCR触媒73の上流の排気通路52に噴射する。
【0028】
SCR触媒73の下流の排気通路52には、酸化触媒74が設けられており、SCR触媒73から排出された(スリップした)アンモニアを酸化して浄化する。
【0029】
ECU(Electronic Control Unit)100は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)からなるメモリ102、各種信号を入出力するための入出力ポート(図示せず)等を含み、メモリ102に記憶された情報、各種センサからの情報に基づいて所定の演算処理を実行し、インジェクタ14、吸気絞り弁26、EGR弁64、等を制御するとともに、燃料タンク40内の燃料の蒸留性状を推定する。ECU100は、本開示の「燃料性状推定装置」および「燃料噴射制御装置」の一例に相当する。
【0030】
ECU100に入力される各種センサとしては、たとえば、クランク角センサ111、カムポジションセンサ112、吸入空気量センサ113、アクセル開度センサ114、冷却水温センサ115、密度センサ116、排気温度センサ117、等、である。
【0031】
クランク角センサ111は、エンジン1のクランク角CAを検出する。ECU100は、クランク角CAに基づいて、エンジン1の回転速度NEを算出する。カムポジションセンサ112は、吸気カムシャフトおよび/または排気カムシャフトのカム位置(回転位置)CPを検出する。ECU100は、クランク角CAおよびカム位置CPに基づいて、気筒判別(たとえば、吸気行程にある気筒の判別)を行う。
【0032】
吸入空気量センサ113は、吸入空気量Gaを検出する。アクセル開度センサ114は、アクセルペダルの踏込量であるアクセル開度APを検出する。冷却水温センサ115は、冷却水(クーラント)の温度である冷却水温THWを検出する。密度センサ116は、燃料タンク40に蓄えられた燃料の密度ρfを検出する。密度センサ116は、たとえば、固有振動周期測定法によって燃料の密度を検出するものであってよく、放射線式密度計であってもよい。排気温度センサ117は、酸化触媒71の上流側の排気温度Etを検出する。なお、ECU100には、車速SPD、過給圧BP、コモンレール圧Pc、等、図示されてない各種センサの信号が入力される。
【0033】
ECU100は、アクセル開度APと回転速度NEとから燃料噴射量を算出し、あるいは、アクセル開度APと車速SPDによって設定された要求トルクTQrから総燃料噴射量Qfを算出する。また、エンジン1の運転状態に基づいて、多段噴射(たとえば、パイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射、アフター噴射、およびポスト噴射)の噴射パターンを設定し、各噴射の噴射量および噴射時期を制御する。
【0034】
ECU100は、燃料タンク40に蓄えられ、インジェクタ14から噴射される燃料の蒸留性状を推定する。推定する蒸留性状(蒸留特性)は、たとえば、「10%留出温度[℃](T10)」、「50%留出温度[℃](T50)」、「90%留出温度[℃](T90)」等であってよく、本実施の形態では、T50(50%留出温度)を推定する。
【0035】
図2は、ECU100で実行される蒸留性状算出制御の処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、燃料タンク40に燃料が給油されたあと、たとえば、車両が所定距離走行し、給油した燃料と給油前の燃料とが攪拌されたあとに、実行される。なお、給油が行われたことは、燃料レベルゲージによって検出された燃料量が所定量以上増加したことをもって判定してよい。また、このフローチャートは、給油が長期間行われない場合、所定期間毎(たとえば、4週間毎)に実行されてもよい。
【0036】
ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10では、密度センサ116の検出信号から、燃料タンク10内の燃料(インジェクタ14から噴射される燃料)の密度ρfを取得する。この処理は、本開示の「密度検出部」の一例に相当する。
【0037】
続くS11では、燃料のセタン価Cnを取得する。S11の処理は、サブルーチンとして処理される。図3は、セタン価算出処理の一例を示すフローチャートである。本実施の形態では、インジェクタ14からの燃料噴射が停止しているとき、セタン価検出用の燃料噴射を実行し、この検出用燃料噴射によって発生するトルク相当量に基づいてセタン価Cnを算出する。この算出方法は、たとえば、特開2019-183694号公報、特開2021-21351号公報、等において公知であるので、その概要を説明する。なお、S11の処理が、本開示の「セタン価検出部」の一例に相当する。
【0038】
図3を参照して、S20では、セタン価算出処理の実行条件が成立しているか否かを判定する。たとえば、エンジン1の暖機完了後(冷却水温THW≧暖機完了判定温度)に、インジェクタ14からの燃料噴射が停止しており(燃料カット中)、かつ、回転速度NEが所定範囲にあるとき、実行条件が成立していると判定する。S20において、否定判定されたときは、今回のルーチンを終了し、肯定判定されたとき、S21へ進む。
【0039】
S21では、検出用燃料噴射を実行する。検出用燃料噴射は、所定燃料量のメイン噴射を、着火時期が基準着火時期になる噴射時期に噴射することによって実行される。
【0040】
続くS22では、検出用燃料噴射によって発生するトルクの指標値であるトルク相当量Teを求める。たとえば、検出用燃料噴射の実行に伴う回転速度NEの変動量の指標値である回転変動量ΣNEfを求める。回転速度NEは、一定周期で算出されており、回転速度NEを算出する度に、一定時間毎の回転速度NEの変化量ΔNEを算出し、今回算出した変化量ΔNEと前回算出した変化量ΔNEとの差NEfを算出する。そして、検出用燃料噴射の実行に伴い差NEfが正の値になってから0(ゼロ)に収束するまでの間、差NEfを積算した値を、回転変動量ΣNEfとして算出する。検出用燃料噴射を実行したときの回転速度NEである「基準NE」と回転変動量ΣNEfとを積算することにより、トルク相当量Teを算出する。なお、検出用燃料噴射による燃焼によって増加する回転速度NEの上昇量NErと「基準NE」とに基づいて、トルク相当量Teを算出するようにしてもよい。
【0041】
S23では、トルク相当量Teに基づいて、メモリ102に格納されている演算マップからセタン価Cnを求め、今回のルーチンを終了する。
【0042】
図2に戻り、S11でセタン価Cnを算出すると、S12へ進んで、密度ρfとセタン価Cnから、燃料タンク40に蓄えられた(インジェクタ14から噴射される)燃料の蒸留性状を算出する。本実施の形態では、蒸留性状として、T50(50%留出温度)を推定する。
【0043】
図4は、メモリ102に格納されているT50算出マップである。このマップは、予め実験等によって設定され、メモリ102に書き込まれて(記憶されて)いる。図4において、縦軸は密度ρfであり、横軸はセタン価Cnである。図中、「*」はT50の値であり、「-」はエラー領域(T50に相当する値がない領域)である。
【0044】
S12では、S10で取得した密度ρfとS11で取得したセタン価Cnに基づいて、図4のT50算出マップからT50を算出し、メモリ102に記憶されているT50を書き換え(更新し)、今回のルーチンを終了する。なお、図4(T50算出マップ)の格子間の値は、補間計算によって求めてよい。図4(T50算出マップ)の「-」(エラー領域)である場合は、メモリ102に記憶されているT50を書き換えることなく、今回のルーチンを終了する。なお、S12の処理が、本開示の「蒸留性状推定部」の一例に相当する。
【0045】
図5は、ECU100によって実行される燃料噴射の蒸留性状補正ルーチンの一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、エンジン1の暖機完了後に、所定期間毎に割り込み処理される。S30では、メモリ102から読み出したT50(蒸留特性)が、設定範囲外であるか否かを判定する。たとえば、「A≦T50≦B」を満たしていない場合、T50が設定範囲外であると判定する。「A」および「B」は、予め実験等で定められる。T50が設定範囲内であるときは、S30で否定判定され、今回のルーチンを終了する。
【0046】
T50が設定範囲外であり、S30で肯定判定されると、S31へ進み、排気温度センサ117で検出した排気温度Etが、閾値α以下であるか否かを判定する。閾値αは、予め実験等によって決定された固定値であってよく、また、エンジン1の運転状態(総燃料噴射量Qf、回転速度NE)に基づいて設定されるものであってよい。S31において、排気温度Etが閾値αより高いときには、否定判定され、今回のルーチンを終了する。排気温度Etが閾値α以下のときには、肯定判定されS32へ進む。
【0047】
S32では、T50に応じて、燃料噴射制御の補正を行う。たとえば、T50に応じて、燃料噴射時期、噴射パターンを補正(変更)する。図6は、T50に応じて、噴射時期および噴射パターンを補正(変更)する例を示す図である。図6において、破線は、補正前(通常制御)における燃料噴射を示しており、実線(網掛け)は、補正後の燃料噴射を示している。補正前は、「パイロット噴射」、「プレ噴射」、「メイン噴射」、および「アフター噴射」を実行している。補正後は、パイロット噴射を省略し、メイン噴射時期を進角するとともにアフター噴射時期を遅角している。これにより、排気温度Etが上昇する。なお、パイロット噴射を省略しているため、総燃料噴射量Qfが減量されるが、メイン噴射が進角されるため、出力トルクは、補正前後でほぼ等しくなっている。
【0048】
本実施の形態によれば、燃料の蒸留性状(T50)を、密度ρfとセタン価Cnに基づいて推定する(S12)ので、燃料タンク40に給油される燃料が多種多様であっても、蒸留性状(T50)を比較的精度よく推定できる。図7は、密度ρf、セタン価Cn、およびT50の関係(相関)を示す図である。図7における各関係(各相関)は、多種多様の燃料を用いてエンジン1を運転し、実験により求めたものである。図7(A)は、密度ρfとT50との関係をプロットしたものであり、図7(B)は、セタン価CnとT50の関係をプロットしたものである。図7(A)および(B)に示すように、密度ρfとT50の関係、セタン価CnとT50の関係は、比較的ブロード(大まか)である。
【0049】
図7は(C)は、X軸を密度ρf、Y軸をセタン価Cn、Z軸をT50とした、三次元マップであり、図7(A)および(B)の実験結果をプロットしたものである。図7(C)に示すように、T50と、密度ρfおよびセタン価Cnの関係(相関)は、シャープであり、密度ρfとセタン価Cnとに基づいて、T50を精度よく推定することができる。図7(D)は、密度ρfとセタン価Cnとに基づいて、図4のT50マップから求めたT50推定値とT50との関係(相関)を示している。図7(D)に示すように、燃料タンク40に給油される燃料が多種多様であっても、T50推定値はT50と強い相関があり、密度ρfとセタン価Cnに基づいて、T50を精度よく推定できる。
【0050】
上記実施の形態では、蒸留性状(T50)を、密度ρfとセタン価CnをパラメータとしたT50推定マップ(図4)から求めているので、多種多様な燃料が新たに現れても、実験等による適合等により、T50推定マップを更新、書き換えることによって、比較的容易にT50を精度よく推定することができる。なお、T50推定マップに代えて、あるいは、加えて、密度ρfとセタン価Cnを係数とした数式を作成し、この数式を用いて、T50を算出するようにしてもよい。
【0051】
上記実施の形態では、セタン価検出部(S11)において、検出用燃料噴射によって発生するトルクの指標値であるトルク相当量Teに基づいてセタン価Cnを検出しているので、エンジン1の作動中にセタン価Cnを検出することができ、好適に、T50を推定することが可能になる。
【0052】
上記実施の形態では、推定したT50が設定範囲外であり(S30で肯定判定)、かつ、排気温度Etが閾値α以下のとき(S31で肯定判定)、T50(蒸留性状)に応じた燃料噴射制御の補正を行っていた。しかし、T50が設定範囲外のとき、T50に応じた燃料噴射制御の補正を行ってもよい。燃料噴射制御の補正は、燃料噴射量を算出するための噴射量マップ、燃料噴射時期を算出するための噴射時期マップを、変更するものであってよい。また、DPF72の再生制御時には、アフター噴射に代えて、あるいは、加えてポスト噴射を実行し、T50が大きいほど(高いほど)、アフター噴射量を増量するようにしてもよい。
【0053】
上記実施の形態では、蒸留性状(蒸留特性)として、T50を推定しているが、「10%留出温度[℃](T10)」、「90%留出温度[℃](T90)」等、T50以外の蒸留性状であってよい。
【0054】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
1 エンジン、10 エンジン本体、12 シリンダ、14 インジェクタ、20 吸気通路、22 エアクリーナ、24 インタークーラ、26 吸気絞り弁、28 吸気マニホールド、30 ターボ過給器、32 コンプレッサ、34 タービン、40 燃料タンク、41 フィードポンプ、 42 高圧燃料ポンプ、43 燃料通路、44 コモンレール、50 排気マニホールド、52 排気通路、60 EGR通路、62 EGRクーラ、64 EGR弁、70 排気浄化装置、71 酸化触媒、72 DPF、73 選択還元触媒(SCR触媒)、74 酸化触媒、80 尿素添加弁、81 尿素タンク、82 ポンプ、100 ECU、101 CPU、102 メモリ、110 燃料噴射量算出部、 111 クランク角センサ、112 カムポジションセンサ、113 吸入空気量センサ、114 アクセル開度センサ、115 冷却水温センサ、116 密度センサ、117 排気温度センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7