(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165242
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】木質積層材の製造方法及び木質積層材
(51)【国際特許分類】
B27D 1/04 20060101AFI20241121BHJP
B27K 3/15 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B27D1/04 A
B27D1/04 C
B27K3/15 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081264
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】591059685
【氏名又は名称】南海プライウッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 広志
(72)【発明者】
【氏名】島 聡
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 亮平
(72)【発明者】
【氏名】ファンデルポール ヨアヒム
【テーマコード(参考)】
2B200
2B230
【Fターム(参考)】
2B200AA01
2B200AA07
2B200BA04
2B200BA09
2B200BA18
2B200CA09
2B200CA12
2B200CA13
2B200DA10
2B200DA11
2B200DA12
2B200DA14
2B200EA02
2B200EA03
2B200EA06
2B200EB02
2B200EB07
2B200EC11
2B200EC18
2B200EF05
2B200EF14
2B200FA31
2B200GA16
2B200HB03
2B200HB08
2B230AA30
2B230BA03
2B230BA17
2B230CB25
2B230DA02
2B230EB02
2B230EB04
2B230EB05
2B230EB12
2B230EB13
2B230EB28
2B230EB29
2B230EC02
(57)【要約】
【課題】早生樹を主原料としながら、強度及び硬度が高い、木質積層材の製造方法及び木質積層材を提供する。
【解決手段】木質積層材1の製造方法は、(a)水溶性樹脂を含む含浸剤、及び、水を混合して含浸液を調合し、単板及び含浸液を含浸タンクに入れるステップと、(b)ステップ(a)の後、含浸タンク内を減圧するステップと、(c)ステップ(b)の後、含浸タンク内を加圧するステップと、(d)ステップ(c)の後、含浸タンクから単板を取り出し、取り出した単板を、含水率が10[%]以下になるまで乾燥させるステップと、(e)ステップ(a)~ステップ(d)を経て得られた樹脂含浸単板3を複数枚積み重ねて、積層体を形成するステップと、(f)積層体に対して、圧力条件0.49[MPa]~1.49[MPa]、温度条件100[℃]~160[℃]の設定でホットプレスを行うステップと、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
早生樹からなる単板を複数枚積み重ねてなる木質積層材の製造方法であって、
(a)水溶性樹脂を含む含浸剤、及び、水を混合して含浸液を調合し、前記単板及び前記含浸液を含浸タンクに入れるステップと、
(b)前記ステップ(a)の後、前記含浸タンク内を減圧するステップと、
(c)前記ステップ(b)の後、前記含浸タンク内を加圧するステップと、
(d)前記ステップ(c)の後、前記含浸タンクから前記単板を取り出し、取り出した前記単板を、含水率が10[%]以下になるまで乾燥させるステップと、
(e)前記ステップ(a)~前記ステップ(d)を経て得られた樹脂含浸単板を複数枚積み重ねて、積層体を形成するステップと、
(f)前記積層体に対して、圧力条件0.49[MPa]~1.49[MPa]、温度条件100[℃]~160[℃]の設定でホットプレスを行うステップと、
を含むことを特徴とする木質積層材の製造方法。
【請求項2】
前記ステップ(e)において、前記樹脂含浸単板と他の前記樹脂含浸単板の間に、接着剤を塗布して前記積層体を形成し、
前記ステップ(e)の後、且つ、前記ステップ(f)の前に、前記積層体に対して、コールドプレスを行う
ことを特徴とする請求項1に記載の木質積層材の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(e)において、前記樹脂含浸単板と他の前記樹脂含浸単板の間に、接着剤を介して、前記樹脂を含浸させていない非含浸単板を積み重ねて前記積層体を形成し、
前記ステップ(e)の後、且つ、前記ステップ(f)の前に、前記積層体に対して、コールドプレスを行う
ことを特徴とする請求項1に記載の木質積層材の製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(a)の前に、前記単板を、含水率が10[%]以下になるまで乾燥させる
ことを特徴とする請求項1に記載の木質積層材の製造方法。
【請求項5】
前記含浸剤は、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂のいずれか1つ、または、これら2以上の組み合わせを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の木質積層材の製造方法。
【請求項6】
前記早生樹は、ファルカタ、ジャボン、バルサのいずれか1つである
ことを特徴とする請求項1に記載の木質積層材の製造方法。
【請求項7】
早生樹からなる単板に水溶性樹脂を含浸させて得られた樹脂含浸単板を複数枚積み重ねてなり、
密度が、0.4[g/cm3]~0.8[g/cm3]である
ことを特徴とする木質積層材。
【請求項8】
前記水溶性樹脂は、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂のいずれか1つ、または、これら2以上の組み合わせを含む
ことを特徴とする請求項7に記載の木質積層材。
【請求項9】
前記早生樹は、ファルカタ、ジャボン、バルサのいずれか1つである
ことを特徴とする請求項7に記載の木質積層材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質積層材の製造方法及び木質積層材に関する。
【背景技術】
【0002】
家具等を製作するための木材として、ファルカタ等の早生樹を用いた木材が知られている。ファルカタは、東南アジアに生育するマメ科の植物であり、早生樹とも呼ばれるように、6~7年で伐採可能になるほど、成長が早いという特徴を有している。ただし、早生樹を用いた木材は、柔らかいため、強度が低く、用途が限られてしまう、という課題が存在していた。
【0003】
木材の強度を上げるため、例えば、特許文献1のように、木材に樹脂を含浸させることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
早生樹の特徴を生かすため、早生樹を主原料としながら、強度及び硬度が高い、木質積層材を提供するニーズが存在する。
【0006】
本発明の目的は、早生樹を主原料としながら、強度及び硬度が高い、木質積層材の製造方法及び木質積層材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の木質積層材の製造方法は、早生樹からなる単板を複数枚積み重ねてなる木質積層材の製造方法に関するものである。本発明の木質積層材の製造方法は、(a)水溶性樹脂を含む含浸剤、及び、水を混合して含浸液を調合し、前記単板及び前記含浸液を含浸タンクに入れるステップと、(b)前記ステップ(a)の後、前記単板を前記含浸タンクに入れて前記含浸タンク内を減圧するステップと、(c)前記ステップ(b)の後、前記含浸タンク内を加圧するステップと、(d)前記ステップ(c)の後、前記含浸タンクから前記単板を取り出し、取り出した前記単板を、含水率が10[%]以下になるまで乾燥させるステップと、(e)前記ステップ(a)~前記ステップ(d)を経て得られた樹脂含浸単板を複数枚積み重ねて、積層体を形成するステップと、(f)前記積層体に対して、圧力条件0.49[MPa]~1.49[MPa]、温度条件100[℃]~160[℃]の設定でホットプレスを行うステップと、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の木質積層材は、早生樹からなる単板に水溶性樹脂を含浸させて得られた樹脂含浸単板を複数枚積み重ねてなり、密度が、0.4[g/cm3]~0.8[g/cm3]であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このようにすることで、早生樹を主原料としながら、強度及び硬度が高い、木質積層材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】第1の実施の形態の木質積層材の製造方法のステップを示すフローチャートである。
【
図5A】第1の実施の形態の木質積層材から切り出して作成した試験片の側面の写真である。
【
図6】第2及び第3の実施の形態の木質積層材の製造方法のステップを示すフローチャートである。
【
図7A】第2の実施の形態の木質積層材から切り出して作成した試験片の側面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の木質積層材の製造方法及び木質積層材の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、本明細書において数値範囲を示す「○○~××」とは、別途記載が無い限り、その下限値(「○○」)や上限値(「××」)を含む概念である。すなわち、正確には「○○以上××以下」を意味する。また、本明細書において、数値は、製造誤差等の若干のばらつき等によって発生する誤差を含むものである。
【0012】
<木質積層材>
本実施の形態の木質積層材の製造方法で製造する木質積層材1は、
図1に示すように、単板(樹脂含浸単板)3を複数枚(
図1に示した例では、単板3A~3Eの5枚)積み重ねてなるものである。単板(樹脂含浸単板)3は、原材料として、早生樹を用いており、後述の方法により、水溶性樹脂を含浸させてある(なお、実施の形態によっては、樹脂を含浸させていない単板(非含浸単板)を一部に用いる場合もある)。「早生樹」とは、植林後5~15年程の比較的短期間で伐採・収穫が可能となる樹種のことであり、ファルカタ、ジャボン、バルサ等を含む。本例では、単板3は、具体的には、原材料として、「ファルカタ」を用いている。「ファルカタ」は、東南アジアに生育するマメ科の植物であり、早生樹の一種である。
【0013】
本明細書では、木質積層材1は、
図2及び
図3に示す、合板、LVL、LVBを含むものである。
【0014】
「合板」とは、
図2に示すように、ロータリーレース、スライサその他の切削機械により切削した単板(心板にあっては小角材を含む。)3枚以上を主としてその繊維方向を互いにほぼ直角にして、接着したものである。合板は、日本では、日本農林規格(JAS規格)にも定義されている。
【0015】
「LVL」は、「Laminated Veneer Lumber」の頭文字をとったものであり、「単板積層材」とも言う。「LVL」とは、
図3に示すように、ロータリーレース、スライサその他の切削機械によって切削した単板を主としてその繊維方向を互いにほぼ平行にして積層接着した木材、及び、繊維方向が直交する単板を用いた場合にあっては,直交する単板の合計厚さが製品の厚さの30%未満であり、且つ、当該単板の枚数の構成比が30%以下である木材である。LVLは、日本では、日本農林規格(JAS規格)にも定義されている。
【0016】
「LVB」は、「Laminated Veneer Board」の頭文字をとったものである。本明細書では、「LVB」は、上記LVLの規格の「直交する単板の合計厚さが製品の厚さの30%未満であり、且つ、当該単板の枚数の構成比が30%以下である木材」の範囲を超える木材とする。
【0017】
本実施の形態の木質積層材1は、後述のように、密度が0.4[g/cm3]~0.8[g/cm3]であり、従来の早生樹を用いた木材(例えば、ファルカタを用いたファルカタ材)よりも強度及び硬度が高いものである。
【0018】
<製造方法>
[第1の実施の形態]
図4は、第1の実施の形態の木質積層材の製造方法のステップを示すフローチャートである。
【0019】
まず、ファルカタを、ロータリーレース、スライサその他の切削機械により切削し、厚さ0.5[mm]~5.0[mm]の単板に加工する(ステップST1)。単板の大きさは、様々な大きさにすることが可能であるが、本実施の形態では、例えば、920[mm]×1840[mm]や1220[mm]×2440[mm]の大型の単板に加工している。
【0020】
次に、得られた単板を、含水率が10[%]以下になるまで乾燥させる(ステップST2)。ステップST2では、単板を人工乾燥装置(KD)やプレスドライヤに投入し、60[℃]~180[℃]の温度条件下で、単板の含水率が10[%]以下になるまで乾燥させる。
【0021】
なお、ステップST2は、単板の含水率が10[%]以下の場合は不要である。また、ステップST2は、省略することも可能である。
【0022】
次に、水溶性樹脂を含む含浸剤、及び、水を混合して含浸液を調合し、単板及び含浸液を含浸タンクに入れる(ステップST3(ステップ(a)))。本実施の形態では、含浸剤は、水溶性樹脂であって、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂のいずれか1つ、または、これら2以上の組み合わせを含むものである。フェノール樹脂は、低分子フェノール樹脂を含む。水は、水道水でもよいが、蒸留水等、精製水であってもよい。含浸液は、水に対する含浸剤の濃度を、5[重量%]~50[重量%]程度としたものである。含浸タンクは、加圧ポンプ及び真空ポンプにより、タンク内を、加圧及び減圧することが可能なものである。
【0023】
次に、含浸タンク内を減圧する(ステップST4(ステップ(b)))。減圧度は、大気圧(標準気圧)に対して、-0.01[MPa]~-0.1[MPa]程度である。減圧により、含浸タンク内は、真空状態となる。例えば、減圧時間は、10[分]~180[分]程度である。
【0024】
次に、含浸タンク内を加圧する(ステップST5(ステップ(c)))。加圧度は、大気圧(標準気圧)に対して+0.1[MPa]~+2.0[MPa]程度である。例えば、加圧時間は、10[分]~300[分]程度である。
【0025】
次に、含浸タンクから単板を取り出し、取り出した単板を、含水率が10[%]以下になるまで乾燥させる(ステップST6(ステップ(d))。ステップST6では、取り出した単板を、人工乾燥装置(KD)やプレスドライヤに投入し、60[℃]~180[℃]の温度条件下で、単板の含水率が10[%]以下になるまで乾燥させる。これにより得られる単板を、本明細書では、特に、「樹脂含浸単板」(3)という。
【0026】
続いて、樹脂含浸単板3を複数枚積み重ねて、積層体を形成する(ステップST7(ステップ(e)))。積層体は、所望の木質積層材1(合板、LVL、LVB)によって、樹脂含浸単板3の繊維方向を変えて、積み重ねたものである。
【0027】
そして、得られた積層体に対して、ホットプレスを行う(ステップST8(ステップ(f)))。ホットプレスは、ホットプレス機により、圧力条件0.49[MPa]~1.49[MPa](5[kgf/cm2]~15[kgf/cm2])、温度条件100[℃]~160[℃]の設定で行う。プレス時間は、1[mm]厚あたり、1[分]~2[分]程度である。なお、圧力条件は、1[kgf/cm2]=0.098[MPa]で換算している。
【0028】
以上を経て、木質積層材1が得られる。得られた木質積層材1は、所望の製品サイズに合わせてカット及び調厚(サンダー等を用いた厚みの調整及び表面の平滑化)される。
【0029】
図5Aは、木質積層材1から切り出して作成した試験片の側面の写真であり、
図5Bは、
図5Aの一部を拡大した拡大写真である。従来の早生樹を用いた木材(例えば、ファルカタを用いたファルカタ材)は、複数の単板を積み重ねて積層体を形成する際、単板と他の単板を接着するため、単板と他の単板の間に接着剤(積層間接着剤)を塗布している。これに対して、上述のように、木質積層材1は、樹脂含浸単板3と他の樹脂含浸単板3の間に接着剤を塗布せずに、積層体を形成している(ステップST7(ステップ(e))。そのため、
図5A及び
図5Bの写真に示すように、樹脂含浸単板3と他の樹脂含浸単板3の間には、接着剤層が存在しない。
【0030】
[木質積層材の特性(計測・試験)]
本実施の形態の木質積層材1の特性を示すため、以下の計測・試験を行い、実施例(LVL)(以下、「実施例」)と、複数のファルカタからなる単板を積み重ねてなる従来のファルカタ材(LVL)(以下、「従来品」)の比較を行った。
【0031】
(1)密度
実施例と、従来品の密度を比較した。
発明者らが計測したところ、従来品の密度は、0.2[g/cm3]~0.4[g/cm3]の範囲内であった。これに対して、実施例の密度は、0.4[g/cm3]~0.8[g/cm3]であった。実施例は、従来品に比べて、密度が向上していることが明らかとなった。
【0032】
(2)木ねじ保持力試験(JIS A 5905)
実施例と、従来品に対して、木ねじ保持力試験(JIS A 5905)を行った。
木ねじ保持力試験は、径2.7[mm]、長さ16[mm](試験機材の制約上、発明者らが使用した物は長さ20[mm])の木ねじを2箇所、垂直にねじ込み、試験片を固定して木ねじを垂直に引き抜き、要する最大荷重をそれぞれ測定し、その2箇所の平均値をもって木ねじ保持力とする試験である。試験片の大きさは幅50[mm]、長さ100[mm]とし、引抜荷重速度は約2[mm/min]とする。
【0033】
表1は、木ねじ保持力試験の結果をまとめた表である。なお、「試験条件」の「含浸剤濃度」の項目は、含浸液の濃度(水に対する含浸剤(本例では、低分子フェノール樹脂)の濃度)である。「プレス圧」の項目は、ステップST8のホットプレスの圧力条件である。「LVL構成」の「all含浸」は、積層体を構成している単板の全てが樹脂含浸単板であることを示しており、「含浸なし」は、積層体を構成している単板の全てが樹脂を含浸させていない非含浸単板であることを示している。「直交有無」の項目は、LVLを構成する単板の繊維方向である。「単板厚み」の項目は、積層体を構成している単板それぞれの厚み(切削機械により切削したステップST1時点での厚み)である。
【0034】
【表1】
従来品の平均強度(木ねじ保持力)は、48.82[kgf](約479[N])であったのに対して、実施例の平均強度は、57.94[kgf](約568[N])であった。木ねじ保持力試験の結果から、実施例の強度は、従来品の強度の約1.2倍となったことが明らかとなった。なお、上記では、1[kgf]=9.80665[N]で換算している。
【0035】
(3)吸放湿試験(JIS A 1437)
実施例と、従来品に対して、吸放湿試験(JIS A 1437)を行った。
吸放湿試験は、長さ100[mm]×幅100[mm](厚み寸法の指定なし)の試験片を恒温恒湿器に投入し、3つの温度湿度条件(フェーズ1:養生(温度20℃湿度60%)、フェーズ2:吸湿(温度40℃湿度90%)、フェーズ3:放湿(温度40℃湿度30%))で各7日間、合計21日間経過させ、取り出す。そして、フェーズ1終了時、フェーズ2終了時、フェーズ3終了時の所定の計測箇所をノギス及び厚み測定器で計測し、フェーズ1を基準としたフェーズ2、フェーズ3の寸法変化率を比較する試験である。
【0036】
表2は、吸放湿試験の結果をまとめた表である。なお、「試験条件」の各項目の意味合いは、木ねじ保持力試験の場合と同じである。
【0037】
【表2】
従来品の変化率及び実施例の変化率の平均は、試験結果まとめの通りとなった。吸放湿試験の結果から、実施例は、従来品の2倍以上の寸法安定性が得られたことが明らかとなった。
【0038】
(4)引きかき硬度試験(JAS規格)
実施例と、従来品に対して、引きかき硬度試験(JAS規格)を行った。
引きかき硬度試験には、引きかき硬度A試験と引きかき硬度B試験がある。引きかき硬度A試験は、装置にダイヤ針を使用し、200[g]の荷重を加え、試験片表面に長さ50[mm]の線状の傷を3本つけ、試験片表面の状態を顕微鏡によって目視観察する試験である(傷は繊維方向に対して、直行と平行それぞれつけ判定する)。引きかき硬度B試験は、装置にダイヤ針を使用し、100[g]の荷重を加え、試験片表面に長さ50[mm]の線状の傷を3本つけ、試験片表面の状態を顕微鏡によって目視観察する試験である(傷は繊維方向に対して、直行と平行それぞれつけ判定する)。
【0039】
表3は、引きかき硬度試験の結果をまとめた表である。
【0040】
【表3】
従来品は、いずれの場合にも、引きかき硬度A試験及び引きかき硬度B試験によって、傷がついた。これに対して、実施例は、引きかき硬度A試験では多少の傷がついたが、引きかき硬度B試験では傷はほとんどつかなかった。引きかき硬度試験の結果から、実施例は、従来品よりも硬度が高いことが明らかとなった。
【0041】
(5)2類浸せき剥離試験(JAS規格)
実施例に対して、2類浸せき剥離試験(JAS規格)を行った。
2類浸せき剥離試験は、一辺が75[mm]の正方形状の試験片を、70±3[℃]の温水中に2時間浸せきしたのち、60±3[℃]で3時間乾燥し、試験片に剥離が生じていないかを確認する試験である。
【0042】
表4は、2類浸せき剥離試験の結果をまとめた表である。
【0043】
【表4】
いずれの場合にも、剥離は確認できなかった。上述の通り、実施例では、樹脂含浸単板と樹脂含浸単板の間に接着剤を塗布せずに、積層体を形成しているが、JAS規格の基準値をクリアしていることが示された。
【0044】
以上(1)~(5)の計測・試験結果の通り、実施例は、JAS規格の基準値をクリアし、且つ、従来品に対して、優れた結果を示した。
【0045】
[作用]
以下、本実施の形態の木質積層材の製造方法及び木質積層材の作用を説明する。
本実施の形態の木質積層材の製造方法では、含浸液に漬けた早生樹からなる単板を減圧(ステップST4)及び加圧(ステップST5)して、水溶性樹脂を含浸させて、樹脂含浸単板を得ている。そして、樹脂含浸単板3を複数枚積み重ねて、積層体を形成して(ステップST7)、ホットプレスを行っている(ステップST8)。本実施の形態の製造方法で製造した木質積層材1は、ホットプレスによる圧密化と、水溶性樹脂の硬化による寸法安定化(内部含浸)及び表面硬化(表面含浸)により、従来の早生樹を用いた木材に比べて、強度及び硬度が高い。
【0046】
また、樹脂含浸単板3に含浸された水溶性樹脂により、別途、単板と単板の間に接着剤を塗布することなく、JAS規格の基準値をクリアできる程度に、樹脂含浸単板3同士を強固に接着することが可能である。そのため、通常必要となる接着剤の塗布ステップ及びコールドプレスステップを省略することが可能である。
【0047】
含浸剤は、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂のいずれか1つ、または、これら2以上の組み合わせを含むものが好ましい。
【0048】
早生樹は、植林後5~15年程の比較的短期間で伐採・収穫が可能となる樹種のことである。特に樹種は限定しないが、例えば、ファルカタ、ジャボン、バルサが挙げられる。
【0049】
[第2の実施の形態]
図6は、第2の実施の形態の木質積層材の製造方法のステップを示すフローチャートである。
【0050】
第2の実施の形態の木質積層材の製造方法のステップは、第1の実施の形態の単板準備(ステップST1)から含浸後乾燥(ステップST6)までは共通であるが、積層体を形成する際に、樹脂含浸単板3と他の樹脂含浸単板3の間に、接着剤を塗布し(ステップST7-1)、コールドプレスを行う(ステップST7-2)点が異なる。すなわち、第2の実施の形態では、従来の早生樹を用いた木材の製造方法と同様に、単板と単板を接着する接着剤を塗布している。上述のように、第1の実施の形態では、積層間接着剤を不要としたが、第1の実施の形態で省略した接着剤の塗布ステップ及びコールドプレスステップを含めることで、より強固に、樹脂含浸単板3同士を接着することができる。
【0051】
接着剤の塗布ステップ(ステップST7-1)は、グルースプレッダにより行う。コールドプレスは、コールドプレス機により、常温下にて、圧力条件0.49[MPa]~0.98[MPa](5[kgf/cm2]~10[kgf/cm2])の設定で行う。
【0052】
図7Aは、第2の実施の形態の木質積層材1から切り出して作成した試験片の側面の写真であり、
図7Bは、
図7Aの一部を拡大した拡大写真である。
図7A及び
図7Bの写真に示すように、樹脂含浸単板3と樹脂含浸単板3の間に、接着剤層GLが存在する。
【0053】
第2の実施の形態の木質積層材1は、第1の実施の形態の木質積層材と同様、密度は、0.4[g/cm3]~0.8[g/cm3]を有している。また、第2の実施の形態の木質積層材1は、第1の実施の形態の木質積層材と同等の性能を有し、JAS規格の基準値をクリアし、且つ、従来品に対して、優れた結果を示すものである。
【0054】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態の木質積層材の製造方法は、第2の実施の形態の木質積層材の製造方法と同様のステップを経る。すなわち、第3の実施の形態の木質積層材の製造方法は、
図6のフローチャートに沿うものである。第2の実施の形態との違いは、ステップST7-1において、樹脂含浸単板3と他の樹脂含浸単板3の間に、接着剤を介して、樹脂を含浸させていない非含浸単板を積み重ねて積層体を形成する点である。なお、樹脂含浸単板3と他の樹脂含浸単板3の間に積み重ねる非含浸単板は、1枚でも良く、複数枚でも良い。これにより、第1の実施の形態の木質積層材1より強度が下がるが、製造コストを下げることができる。したがって、木質積層材に求める強度と、製造コストに応じて、第1の実施の形態と第3の実施の形態を使い分けることが可能となる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で変更が可能であるのは勿論である。
【0056】
例えば、上記の単板の厚み及び大きさ、減圧、加圧、ホットプレス等の設定条件等の数値は、一例に過ぎず、様々に設定可能である。
【0057】
また、上記では、単板の原材料としてファルカタを用いたが、ジャボン、バルサ等の他の早生樹を用いてもよいし、異なる樹種からなる単板を組み合わせてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0058】
1 木質積層材
3 樹脂含浸単板