(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165251
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】フォールトツリー簡素化方法、フォールトツリー簡素化装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20241121BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081282
(22)【出願日】2023-05-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】平井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】塩屋 亮平
(72)【発明者】
【氏名】網谷 達輝
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC15
(57)【要約】
【課題】フォールトツリーを簡素化する方法を提供する。
【解決手段】フォールトツリー簡素化方法は、フォールトツリーの構造に基づいて、同じANDゲートに接続する2つの基事象のペアを抽出するステップと、前記ペアのうち少なくとも一つが、前記ペア以外の基事象と共通する故障原因を共有するかどうかを判定するステップと、前記ペアに関連する他の基事象が同じANDゲートに接続しているかどうかを判定するステップと、前記ペアに関連する他の基事象が同じ前記ANDゲートに接続している場合、前記ペアを1つの基事象に統合するステップと、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォールトツリーの構造に基づいて、同じANDゲートに接続する2つの基事象のペアを抽出するステップと、
前記ペアのうち少なくとも一つが、前記ペア以外の基事象と共通する故障原因を共有するかどうかを判定するステップと、
前記ペアの両方に、前記故障原因を共有する他の前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第3の基事象として、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じANDゲートに接続しているかどうかを判定し、前記ペアの一方のみに前記故障原因を共有する前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と発生確率が等しい他の前記基事象を第3の基事象として、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じANDゲートに接続しているかどうかを判定するステップと、
前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じ前記ANDゲートに接続している場合、前記ペアを1つの基事象に統合するステップと、
を有するフォールトツリー簡素化方法。
【請求項2】
前記故障原因を共有するかどうかを判定するステップにおいて、前記ペアの両方に前記故障原因を共有する前記基事象が見つかった場合であって、前記ペアが前記故障原因を共有しない場合、
前記ペアの一方とx個の前記第2の基事象とが第1の前記故障原因を共有し、前記ペアの他方と前記x個の前記第3の基事象とが第2の前記故障原因を共有するとした場合に、
前記ANDゲートに接続しているかどうかを判定するステップでは、前記第2の基事象のそれぞれが、重複なく前記第3の基事象のうちの一つと同じANDゲートに接続するかどうかを判定し、
前記統合するステップでは、前記ペアに加え、前記同じANDゲートに接続する前記第2の基事象と前記第3の基事象を統合し、
yが1~xの値を取るとしたときに全ての前記yについて、前記ペアの一方と前記第2の基事象のうちの前記y個が発生する確率と、前記ペアの他方と前記第3の基事象のうちの前記y個が発生する確率と、を乗じた値が、統合後の前記基事象のうちの前記y個が発生する確率と等しくなること、が成立するように、統合後の前記基事象の発生確率を設定する、
請求項1に記載のフォールトツリー簡素化方法。
【請求項3】
前記統合するステップでは、
前記ペアの一方と前記第2の基事象のうちの前記y個が発生する確率を、第1の前記故障原因に係る所定のCCF(Common Cause Failure)ファクターに基づいて計算し、
前記ペアの他方と前記第3の基事象のうちの前記y個が発生する確率を、第2の前記故障原因に係る所定の前記CCFファクターに基づいて計算する、
請求項2に記載のフォールトツリー簡素化方法。
【請求項4】
前記ペアが前記故障原因を共有する場合、又は、前記ペアの両方に前記故障原因を共有する基事象が存在しない場合、
前記統合するステップでは、前記基事象のペアを統合し、前記ペアの一方が発生する確率と、前記ペアの他方が発生する確率と、を乗じた値を、統合後の前記基事象の発生確率に設定する、
請求項1又は2に記載のフォールトツリー簡素化方法。
【請求項5】
前記故障原因を共有するかどうかを判定するステップにおいて、前記ペアの一方のみに前記故障原因を共有する基事象が存在する場合、
前記ペアの一方とx個の前記第2の基事象とが第1の前記故障原因を共有し、前記ペアの他方と前記x個の前記第3の基事象の発生確率が全て第1発生確率である場合、
前記ANDゲートに接続しているかどうかを判定するステップでは、前記第2の基事象のそれぞれが、重複なく前記第3の基事象のうちの一つと同じANDゲートに接続するかどうかを判定し、
前記統合するステップでは、前記ペアに加え、前記同じANDゲートに接続する前記第2の基事象と前記第3の基事象を統合し、
yが1~xの値を取るとしたときに全ての前記yについて、前記ペアの一方と前記第2の基事象のうちの前記y個が発生する確率と、前記ペアの他方と前記第3の基事象のうちの前記y個が発生する確率と、を乗じた値が、統合後の前記基事象のうちの前記y個が発生する確率と等しくなること、が成立するように、統合後の前記基事象の発生確率を設定し、前記ペアの他方と前記第3の基事象のうちの前記y個が発生する確率を、第1発生確率のy乗で計算する
請求項1又は2に記載のフォールトツリー簡素化方法。
【請求項6】
前記抽出するステップで、前記ペアが抽出できなくなるまで、
前記抽出するステップと、
前記故障原因を共有するかどうかを判定するステップ、
前記ANDゲートに接続しているかどうかを判定するステップと、
前記統合するステップと、
を繰り返し実行する、請求項1又は2に記載のフォールトツリー簡素化方法。
【請求項7】
フォールトツリーの構造に基づいて、同じANDゲートに接続する2つの基事象のペアを抽出する手段と、
前記ペアのうち少なくとも一つが、前記ペア以外の基事象と共通する故障原因を共有するかどうかを判定する手段と、
前記ペアの両方に、前記故障原因を共有する他の前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第3の基事象として、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じANDゲートに接続しているかどうかを判定し、前記ペアの一方のみに前記故障原因を共有する前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と発生確率が等しい他の前記基事象を第3の基事象として、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じANDゲートに接続しているかどうかを判定する手段と、
前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じ前記ANDゲートに接続している場合、前記ペアを1つの基事象に統合する手段と、
を有するフォールトツリー簡素化装置。
【請求項8】
コンピュータに、
フォールトツリーの構造に基づいて、同じANDゲートに接続する2つの基事象のペアを抽出するステップと、
前記ペアのうち少なくとも一つが、前記ペア以外の基事象と共通する故障原因を共有するかどうかを判定するステップと、
前記ペアの両方に、前記故障原因を共有する他の前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第3の基事象として、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じANDゲートに接続しているかどうかを判定し、前記ペアの一方のみに前記故障原因を共有する前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と発生確率が等しい他の前記基事象を第3の基事象として、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じANDゲートに接続しているかどうかを判定するステップと、
前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じ前記ANDゲートに接続している場合、前記ペアを1つの基事象に統合するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フォールトツリー簡素化方法、フォールトツリー簡素化装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントのリスク評価に確率論的リスク評価(Probabilistic Risk Assessment:PRA)が用いられる(例えば、特許文献1)。PRAでは、プラントの系統図から機器等を網羅的に抽出し、抽出した機器等の故障モードの検討を行って、フォールトツリーやイベントツリーを作成する。
【0003】
フォールトツリー解析は、システムの信頼性を評価する手法として広く利用されている。評価したいシステムの失敗要因となる事象(基事象と呼ぶ。)を網羅的に抽出し、主にORゲートとANDゲートに関連する基事象を設定することで、事象の発生確率の加算(ORゲートの場合)と乗算(ANDゲートの場合)により、トップゲートの失敗確率を算出する。ORゲートは直下に接続する基事象の「いずれか一つが発生した場合に発生する事象」、ANDゲートは直下に接続する基事象の「全てが発生した場合に発生する事象」を表す。
【0004】
フォールトツリー(以下、FTと記載する場合がある)の一例として、FT100を
図1に示す。FT100のトップゲートは、「緩和策1の失敗」である。トップゲートの下部に接続されている記号がANDゲートで、ANDゲートに接続される「機器A/Bの故障」と「機器Cの故障」の両方が起こると「緩和策1の失敗」が発生することを示している。緩和策1とは、原子力プラントで異常が発生したときに、重大な事故に至らないように、事象の進展を食い止めるために行われる措置や機器のことである。「機器A/Bの故障」の下部に接続される記号がORゲートで、ORゲートに接続される「機器Aの故障」と「機器Bの故障」の何れかが起こると、「機器A/Bの故障」が発生することを示している。「機器Aの故障」、「機器Bの故障」、「機器Cの故障」が基事象で、基事象は、それ以上細かい単位に分解できない故障や失敗の事象を示している。トップゲートと基事象の中間に位置する「機器A/Bの故障」を中間ゲートと呼ぶ。
図1のFTは、「機器Aの故障」と「機器Bの故障」の何れかが生じ、且つ、機器Cの故障が生じると、緩和策1に失敗することを表している。
【0005】
多くのFTの処理計算プログラムでは、ORゲートに接続する複数の基事象を単一の基事象として扱うモジュール化処理を行い、FT計算の負荷を軽減している。しかし、ANDゲートについては、その論理的性質のためANDゲートに接続する基事象を単一の要素として扱うことが容易では無い。よって、ANDゲートが多いほど計算対象の要素数が多くなり、FTに基づく計算(例えば、トップゲートの発生確率の計算)に要する時間が長くなる傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原子力プラントは、大規模かつ複雑な制御・安全機能を有しており、様々な事故及び緩和策のパターンが考えられるため、FTの構造が巨大になり、それに伴い計算時間が長大化する傾向がある。計算時間の長大化は、異常発生時などに適時リスクを確認し、必要な安全対策を講じていく上で弊害となる。そこで、ANDゲートに着目して、計算精度を維持しつつFTの構造の簡素化し、計算速度の向上を図る技術を提供する。
【0008】
本開示は、上記課題を解決することができるフォールトツリー簡素化方法、フォールトツリー簡素化装置およびプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の評価対象のフォールトツリー簡素化方法は、フォールトツリーの構造に基づいて、同じANDゲートに接続する2つの基事象のペアを抽出するステップと、前記ペアのうち少なくとも一つが、前記ペア以外の基事象と共通する故障原因を共有するかどうかを判定するステップと、前記ペアの両方に、前記故障原因を共有する他の前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第3の基事象として、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じANDゲートに接続しているかどうかを判定し、前記ペアの一方のみに前記故障原因を共有する前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と発生確率が等しい他の前記基事象を第3の基事象として、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じANDゲートに接続しているかどうかを判定するステップと、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じ前記ANDゲートに接続している場合、前記ペアを1つの基事象に統合するステップと、を有する。
【0010】
また、本開示のフォールトツリー簡素化装置は、フォールトツリーの構造に基づいて、同じANDゲートに接続する2つの基事象のペアを抽出する手段と、前記ペアのうち少なくとも一つが、前記ペア以外の基事象と共通する故障原因を共有するかどうかを判定する手段と、前記ペアの両方に、前記故障原因を共有する他の前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第3の基事象として、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じANDゲートに接続しているかどうかを判定し、前記ペアの一方のみに前記故障原因を共有する前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と発生確率が等しい他の前記基事象を第3の基事象として、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じANDゲートに接続しているかどうかを判定する手段と、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じ前記ANDゲートに接続している場合、前記ペアを1つの基事象に統合する手段と、を有する。
【0011】
また、本開示のプログラムは、コンピュータに、フォールトツリーの構造に基づいて、同じANDゲートに接続する2つの基事象のペアを抽出するステップと、前記ペアのうち少なくとも一つが、前記ペア以外の基事象と共通する故障原因を共有するかどうかを判定するステップと、前記ペアの両方に、前記故障原因を共有する他の前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第3の基事象として、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じANDゲートに接続しているかどうかを判定し、前記ペアの一方のみに前記故障原因を共有する前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と発生確率が等しい他の前記基事象を第3の基事象として、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じANDゲートに接続しているかどうかを判定するステップと、前記第2の基事象と前記第3の基事象が同じ前記ANDゲートに接続している場合、前記ペアを1つの基事象に統合するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0012】
上述のフォールトツリー簡素化方法、フォールトツリー簡素化装置およびプログラムによれば、フォールトツリーの構造を、計算精度を維持しつつ、自動的に簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】実施形態のフォールトツリー簡素化装置の一例を示すブロック図である。
【
図3A】CCFを考慮する基事象の発生確率の一例を示す第1図である。
【
図3B】CCFを考慮する基事象の発生確率の一例を示す第2図である。
【
図3C】CCFを考慮する基事象の発生確率の一例を示す第3図である。
【
図4】実施形態の簡素化処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5A】
図3のステップS2について説明する第1図である。
【
図5B】
図3のステップS2について説明する第2図である。
【
図6A】
図3のステップS4について説明する第1図である。
【
図6B】
図3のステップS4について説明する第2図である。
【
図7】
図3のステップS5について説明する図である。
【
図8A】
図3のステップS6について説明する第1図である。
【
図8B】
図3のステップS6について説明する第2図である。
【
図9A】
図3のステップS7について説明する第1図である。
【
図9B】
図3のステップS7について説明する第2図である。
【
図10】実施形態に係るフォールトツリー簡素化装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態>
以下、本実施形態のフォールトツリー簡素化方法について、
図1~
図10を参照して説明する。
(システム構成)
図2は、実施形態に係るフォールトツリー簡素化装置(以下、FT簡素化装置)の一例を示すブロック図である。FT簡素化装置10は、リスク評価の計算精度を維持しつつ、ANDゲートに接続する基事象を統合することにより、FTを自動的に簡素化する。
【0015】
FT簡素化装置10は、簡素化対象のFTなどの各種データを取得するデータ取得部11と、ユーザの操作を受け付ける入力受付部12と、FTの簡素化処理の実行制御を行う制御部13と、作成されたFT等を表示装置や電子ファイルとして出力する出力部14と、データ取得部11が取得したデータや処理中のデータを記憶する記憶部15と、を備える。制御部13は、FTに含まれるANDゲートに注目して統合対象の基事象を抽出する抽出部131と、抽出された基事象が統合可能かどうかを判定する判定部132と、統合可能と判定された基事象を統合する統合部133と、を備える。これらの機能部の詳細については、後に
図3A~
図9Bを用いて詳しく説明する。
【0016】
(共通原因故障)
ANDゲートに接続される基事象を統合する処理に先立ち、共通原因故障(CCF: Common Cause Failure)について説明する。CCFとは、特定の基事象が発生した際に、その基事象と共通する故障原因を有する他の基事象が同時に発生することをいう。例えば、原子力プラントにおいては、安全性向上のため冷却用のポンプ等を必要な台数の2倍設置している。これらのポンプは同じ機種の機器であり、同様の保守管理下にあるため、同じ要因(例:製造時の欠陥、施工不良)によって同時に故障する可能性があり、FT解析においても同時故障の可能性を考慮する必要がある。
【0017】
図3AにCCFを表現したベン図を示す。Q
T(A)及びQ
T(B)は、同じCCFグループに属する機器A及び機器Bそれぞれの故障確率の合計値である。同じCCFグループに属するとは、同じ故障原因を共有することを指し、以下では、同じCCFグループに属することを、CCFを考慮する関係にある、又は、CCFを共有する関係にある、のようにも記載する。それぞれの故障確率Q
T(A),Q
T(B)のうち、重複する領域であるQ
2は、機器A及び機器BにCCFが生じる確率である。Q
1は共通原因ではなく単一機器のみが故障する事象の確率である。なお、CCFを考慮する基事象は同じ発生確率を有する必要があり、かつ1つの基事象が複数のCCFに属することはないものとする。
【0018】
CCFの関係性は、同じCCFを考慮する機器数が増加しても同様に展開可能である。同じCCFグループに属する機器の数を、CCFグループ数という。
図3BにCCFグループ数が3の場合のベン図、
図3CにCCFグループ数が4の場合のベン図を示す。同じCCFグループに属する機器のうち、全ての機器が故障する場合、全てではないが複数の機器が故障する場合、単独機器が故障の場合で、それぞれ別々の確率値が与えられる。これらの確率値は、CCFファクターと呼ばれる係数により与えられる。CCFグループに属する機器が2つの場合は1種類のCCFファクター、3つの場合は2種類のCCFファクター、4つの場合は3種類のCCFファクターを用いて各事象の発生確率(Q
1、Q
2、Q
3、Q
4)が計算される。例えば、機器が2つの場合(
図3A)、Q
T(A)にCCFファクターを乗じることにより、Q
2が計算される。
【0019】
(動作)
上記を踏まえ、
図4を参照して、本実施形態のFTの簡素化処理について説明する。
図4は、実施形態の簡素化処理の一例を示すフローチャートである。
最初に、データ取得部11がFTデータとCCFデータを取得する(ステップS1)。FTデータとは、例えば、
図1で例示したFT100等の構造を記述したデータである。記述の形式はどのようなものであってもよい。CCFデータには、FTデータに含まれる基事象のうち、同じCCFグループに属する基事象を定義する情報が含まれている。
【0020】
次に抽出部131が、ステップS1で取得されたFTデータが示すFTの構造に基づいて、同じANDゲートに接続する2つの基事象のペアを抽出する(ステップS2)。抽出部131は、同じANDゲートに接続する2つの基事象(基事象ペアと称する。)をFT全体から抽出する。抽出された基事象ペアは統合の候補となる。例えば、
図5Aに例示するFT5Aの場合、ANDゲートに基事象「機器A1故障」と基事象「機器A2故障」が接続されている。抽出部131は、FT5Aから2つの基事象「機器A1故障」と「機器A2故障」を抽出する。また、同じANDゲートに3つ以上の基事象が接続している場合があるが、その場合、抽出部131は、任意の2つの基事象をペアとして抽出する。例えば、
図5Bに例示するFT5Bの場合、ANDゲートに基事象「機器A1故障」、「機器A2故障」、「機器A3故障」が接続されている。抽出部131は、これら3つの基事象のうち、任意の2つの基事象、例えば「機器A1故障」と「機器A2故障」を抽出する。
【0021】
次に制御部13は、ステップS2で抽出された基事象のペアが存在するかどうかを判定する(ステップS3)。なお、ステップS3での判定は、前のループのステップS8にて既に統合可否を判定済みのペアを対象としない。基事象ペアが存在しない場合(ステップS3;No)、簡素化プロセスは終了となり、出力部14が、これまでの処理で簡素化されたFTを出力し(ステップS9)、
図4の処理フローを終了する。例えば、1回目のステップS3の処理で基事象ペアが1つも抽出されなかった場合、ステップS1で取得されたFTが簡素化されることなく出力される。
【0022】
基事象ペアが存在する場合(ステップS3;Yes)、判定部132が、基事象ペアのうち、少なくとも1つの基事象で、基事象ペア以外の基事象との間でCCFが考慮されているかどうかを判定する(ステップS4)。
図6AのFT6Aの場合、基事象「機器A1故障」と「機器B1故障」は同じCCFグループに属し、「機器A2故障」と「機器B2故障」は別の同じCCFグループに属している。なお、
図6Aの基事象「機器B1故障」は、便宜的に基事象「機器A1故障」の下方に記載してあるだけで、図示するように「機器B1故障」がFT構造上の「機器A1故障」の配下に存在するような関係にあることを意味しているわけではない。基事象「機器A2故障」と「機器B2故障」の関係についても同様であり、基事象「機器B1故障」と「機器B2故障」は、同じFT内の別の位置に存在している。このことは、後述する
図6B、
図8A、
図8B、
図9Aでも同様である。FT6Aの場合、基事象ペアのそれぞれについてCCFを考慮する関係にある基事象が、FT内に存在するため、ステップS4の判定はYesとなる。なお、どの基事象が同じCCFグループに属するかは、ステップS1で取得したCCFデータを参照することによって判断することができる。
【0023】
図6BのFT6Bの場合、基事象「機器A1故障」と「機器B1故障」は同じCCFグループに属している。基事象「機器A2故障」には、そのような関係にある基事象が存在しない。基事象ペアのうち一方で、CCFを考慮すべき関係にある基事象が存在するので、FT6Bの場合にも、ステップS4の判定はYesとなる。
【0024】
なお、ステップS1で抽出した基事象のペアが同じCCFグループに属する場合、ステップS4の判定はNoとなる。ステップS4の判定でNoとなるのは、基事象ペアの何れにもCCFを考慮する基事象が無い場合か、又は、基事象ペアが同じCCFを共有する場合である。このような関係にある基事象ペアは、比較的簡単に、単一の基事象に統合することができる。ステップS4の判定がNoの場合、統合部133は、基事象ペアそれぞれの確率値を乗算した確率値を有する単一の基事象を生成し、新たに生成した基事象で元の基事象ペアを置換する(ステップS5)。
図7に、FT構成のうちの統合前の基事象ペアの部分を示したFT7Aと、統合後の基事象を含むFT7Bの一例を示す。統合部133は、FT7Aの基事象「機器A1故障」と基事象「機器A2故障」を統合して、機器A1の故障と機器A2の故障の両方が生じることを意味する単一の基事象「機器A1-A2故障」を生成する。そして、統合部133は、ステップS1で取得したFTデータに対し、FT構造上の基事象「機器A1故障」と基事象「機器A2故障」を基事象「機器A1-A2故障」で置換する処理を行う。また、統合部133は、注目する基事象が接続するANDゲートをORゲートに置換する処理を行う。図示するように統合後の単一基事象の発生確率は、機器A1故障の発生確率(確率値)×機器A2故障の発生確率値(確率値)となる。このように、集約可能な基事象を統合して、正しい確率値を与えることで、基事象の数を減らすことができ、FT計算の負荷を軽減することができる。
【0025】
一方、ステップS4の判定がYesの場合(基事象ペアの少なくとも一方について他の基事象とのCCFを考慮する必要がある場合)、判定部132は、基事象ペアと同じCCFグループに属する他の基事象を探索し、探索された基事象が同一のANDゲートに接続しているかどうかを判定する(ステップS6)。また、判定部132は、CCFを考慮すべき他の基事象が無い基事象(
図6Bの「機器A2故障」)については、同じ発生確率の基事象が、探索された基事象と同一のANDゲートに接続しているかどうかを判定する。
【0026】
まず、
図6Aのように基事象ペアのそれぞれにCCFを考慮すべき他の基事象が存在する場合のステップS6の判定について、
図8Aを参照して説明する。ペアの両方の基事象が他の基事象とCCFを考慮する関係にある場合、それらの基事象同士が同一のANDゲートに接続しているかどうか判定する。同一のANDゲートとは、基事象ペアが接続しているANDゲートと同一ということではなく、探索された基事象ペア以外の基事象それぞれが接続しているANDゲートが同じであるという意味である。
図8Aの例では、基事象「機器A1故障」と「機器B1故障」、基事象「機器A2故障」と「機器B2故障」がそれぞれCCFの関係を有する。判定部132は、CCFデータを参照して選択された「機器B1故障」と「機器B2故障」について、今度は、FTデータに基づいてそれらの基事象がFT構造のどこにあるかを探索する。
図8Aに示す例は、探索の結果、「機器B1故障」と「機器B2故障」のペアは、「機器A1故障」と「機器A2故障」の基事象ペアと同様に、FTの何れかの位置において、同じANDゲート81に接続していることが判明した場合である。このような場合、ステップS6の判定はYesとなる。
【0027】
次に、
図6Bのように基事象ペアの一方のみにCCFを考慮すべき他の基事象が存在する場合の判定について、
図8Bを参照して説明する。基事象ペアの片方の基事象のみが他の基事象とCCFを考慮する関係にある場合、その基事象が、CCFを考慮しない基事象と同じ発生確率の基事象と同じANDゲートに接続しているかどうかを判定する。判定部132は、FTデータに基づいて、基事象ペアの一方とCCFを考慮する関係にある基事象の位FT構造上の置を探索し、当該基事象が接続するゲートがANDゲートであるかどうか、ANDゲートの場合には、ANDゲートに基事象ペアの他方と同じ発生確率を有する他の基事象が接続されているかどうかを確認する。
図8Bの例では、「機器A1故障」と「機器B1故障」がCCFの関係を有するが、「機器A2故障」にはCCFを考慮する基事象が存在しない。また、基事象「機器B1故障」は、基事象「機器A2故障」と同じ発生確率の基事象「機器X故障」と同じANDゲート82に接続している。このような場合、ステップS6の判定はYesとなる。
【0028】
図8A、
図8Bを参照して説明した条件を満たさない場合(ステップS6;No)、計算結果に影響を与えないように基事象ペアを統合することが不可能であるため、判定部132は、ステップS2で抽出された基事象ペアは統合不可と判定する(ステップS8)。この場合、再度、ステップS2に戻り、ステップS2以降の処理が繰り返し実行される。なお、ステップS8実行後のステップS3では、ステップS8で既に統合可否を判定したペアについては除外して基事象ペアが存在するかどうかの判定を行う。
【0029】
ステップS6の判定がYesの場合、統合部133が、抽出された基事象ペア及びそれらとCCFの関係を有する基事象について、CCFの性質の違いを考慮した上で、単一基事象へ置換する処理を行う(ステップS7)。ステップS7の処理内容を
図9A、
図9Bに示す。
【0030】
図9Aに、基事象ペアのそれぞれにCCFを考慮すべき他の基事象が存在する場合の一例を示す。基事象「機器A1故障」と「機器A2故障」はステップS2で抽出された基事象ペア、「機器A1故障」と「機器B1故障」と「機器C1故障」はCCFグループ1に属し、「機器A2故障」と「機器B2故障」と「機器C2故障」はCCFグループ2に属している。「機器B1故障」と「機器B2故障」は同じANDゲートに接続し、「機器C1故障」と「機器C2故障」は同じANDゲートに接続しているため、ステップS6の判定はYesとなる。このような場合、ステップS7では、「機器A1故障」と「機器A2故障」を1つの基事象に統合し、「機器B1故障」と「機器B2故障」を1つの基事象に統合し、「機器C1故障」と「機器C2故障」を1つの基事象に統合する。
【0031】
「機器A1故障」と「機器A2故障」を統合する場合、「機器A1故障」について以下の通りパラメータを設定する。
QT1:基事象「機器A1故障」の発生確率の合計値(単独故障とCCF合計確率)
α1:基事象「機器A1故障」のCCFファクター(1種類目)
β1:基事象「機器A1故障」のCCFファクター(2種類目)
【0032】
同様に「機器A2故障」について、以下の通りパラメータを設定する。
QT2:基事象「機器A2故障」の発生確率の合計値(単独故障とCCF合計確率)
α2:基事象「機器A2故障」のCCFファクター(1種類目)
β2:基事象「機器A2故障」のCCFファクター(2種類目)
【0033】
また、「機器A1故障」および「機器A2故障」を統合した基事象のパラメータを以下の通り設定する。
Q´T:統合後の基事象の発生確率の合計値(単独故障とCCF合計確率)
α´:統合後の基事象のCCFファクター(1種類目)
β´:統合後の基事象のCCFファクター(2種類目)
【0034】
ここで、基事象の発生確率の合計とCCFファクターをパラメータとして、基事象の単独故障の確率を算出する関数をQ1、2機器故障の確率を算出する関数をQ2、3機器故障の確率を算出する関数をQ3とする。これらの確率の計算方法については、様々な公知の計算方法が提供されており、ここではその計算方法は問わないため、関数Q1、Q2、Q3とおく。
【0035】
本手法では、FTの簡素化により計算結果へ影響しないことを条件とするため、基事象の統合後は、その基事象の発生がもたらす影響が統合前と同様である必要がある。つまり、以下の関係が成立する必要がある。
Q1(QT1,α1,β1)×Q1(QT2,α2,β2)=Q1(Q´T,α´,β´)
Q2(QT1,α1,β1)×Q2(QT2,α2,β2)=Q2(Q´T,α´,β´)
Q3(QT1,α1,β1)×Q3(QT2,α2,β2)=Q3(Q´T,α´,β´)
【0036】
これらの連立方程式からQ´T,α´,β´の値を算出することができ、それを統合後の基事象の発生確率及びCCFファクターとして適用することで、ANDゲートに接続する基事象を簡素化しつつ計算結果の整合性を担保することが可能となる。統合部133は、連立方程式を解いてQ´T,α´,β´の値を算出する。そして、統合部133は、例えば、Q´T,α´,β´の値から関数Q1、Q2、Q3を使って、統合後の単独故障(機器A1,A2の同時故障)、2機器故障(機器A1,A2のセット、機器B1,B2のセット、機器C1,C2のセットのうち2セットの同時故障)、3機器故障(前述した3セットの同時故障)の確率を計算する。この例では、CCFグループ数=3としたが、CCFグループ数が変化したとしても同様にして、統合後の発生確率を計算することができる。
【0037】
図9Bに、FT構成のうちの統合前の基事象ペアを含むFT9Aと、統合後の基事象を含むFT9Bを示す。統合部133は、FT9Aの基事象「機器A1故障」と基事象「機器A2故障」を統合して、機器A1の故障と機器A2の故障の両方が生じることを意味する単一の基事象「機器A1-A2故障」を生成し、ステップS1で取得したFTデータに対し、FT構造上の基事象「機器A1故障」と基事象「機器A2故障」を基事象「機器A1-A2故障」で置換する処理を行う。さらに、統合部133は、上記の連立方程式を解いて求めた、Q´
T,α´,β´の値から単独故障、2機器故障、3機器故障の確率を計算し、計算した確率値を統合後の基事象「機器A1-A2故障」と対応付けて記録する。また、統合部133は、CCFを考慮する「機器B1故障」と「機器B2故障」のペア、「機器C1故障」と「機器C2故障」のペアについても同様に基事象の統合を行う。
【0038】
なお、ここでは、ステップS2で抽出した基事象ペアのそれぞれにCCFを考慮する基事象が存在する場合の統合について説明したが、ステップS2で抽出した基事象ペアの一方にのみCCFを考慮する基事象が存在する場合、例えば、
図9Aにおいて、「機器A2故障」にCCFを考慮する基事象が存在せず、「機器A2故障」の発生確率=「機器B2故障」の発生確率=「機器C2故障」の場合、機器A2についての2機器故障の発生確率はQ
T2の2乗で計算し、3機器故障の発生確率はQ
T2の3乗で計算する。つまり、以下の連立方程式が成立する。
Q
1(Q
T1,α
1,β
1)×Q
1(Q
T2,α
2,β
2)=Q
1(Q´
T,α´,β´)
Q
2(Q
T1,α
1,β
1)×(Q
T2)
2=Q
2(Q´
T,α´,β´)
Q
3(Q
T1,α
1,β
1)×(Q
T2)
3=Q
3(Q´
T,α´,β´)
【0039】
統合部133は、この連立方程式を解いて、Q´T,α´,β´を算出し、それらを統合後の基事象の発生確率及びCCFファクターとして適用する。同様に、統合部133は、「機器B1故障」と「機器B2故障」のペア、「機器C1故障」と「機器C2故障」のペアについても基事象の統合を行う。
【0040】
以上のような処理によって、ステップS6の判定がYesとなった場合でも、ANDゲートに接続する基事象を統合することができる。ステップS7の統合処理が終わると、ステップS2へ戻り、ステップS2にて基事象ペアが抽出されなくなるまで、ステップS2以降の処理が繰り返し行われる。ステップS2にて基事象ペアが抽出されなくなると、FTの簡素化処理を終了し、簡素化後のFTが出力される(ステップS9)。例えば、出力部14は、統合後の基事象に置換されたFTデータを電子ファイル等へ出力する。
【0041】
(効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、巨大かつ複雑なFTの構造を簡素化することで、FTに基づくリスク評価の計算負荷を軽減することができる。より具体的には、計算負荷の要因となっているANDゲートに対し、CCFの影響を考慮した基事象の統合が実行できるため、簡素化前後で計算結果への影響はなく、計算の高速化を達成することができる。なお、本実施形態の簡素化処理自体にも計算処理が発生するが、一度簡素化したFTは様々なプラントの計算に繰り返し利用することが可能であるため、長期的な観点からは、計算量及び計算時間の削減が可能である。
【0042】
上記の実施形態では、原子力プラントの信頼性評価に用いるFTを簡素化することとしたが、FT簡素化装置10の適用分野は、原子力プラントの信頼性評価に限定されず、FTを用いて信頼性評価を行う他の産業分野にも適用が可能である。
【0043】
図10は、実施形態に係るフォールトツリー簡素化装置のハードウェア構成の一例を示す図である。コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述のフォールトツリー簡素化装置10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0044】
なお、フォールトツリー簡素化装置10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0045】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0046】
<付記>
各実施形態に記載のフォールトツリー簡素化方法、フォールトツリー簡素化装置およびプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0047】
(1)第1の態様に係る評価対象のフォールトツリー簡素化方法は、フォールトツリーの構造に基づいて、同じANDゲートに接続する2つの基事象のペアを抽出するステップと、前記ペアのうち少なくとも一つが、前記ペア以外の基事象と共通する故障原因を共有するかどうかを判定するステップと、前記ペアの両方に、前記故障原因を共有する他の前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第3の基事象とした場合に、前記第2の基事象と第3の基事象が1つのANDゲートに接続しているかどうかを判定し、前記ペアの一方のみに前記故障原因を共有する前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と発生確率が等しい他の前記基事象を第3の基事象とした場合に、前記第2の基事象と第3の基事象が1つのANDゲートに接続しているかどうかを判定するステップと、前記ANDゲートに接続している場合、前記ペアを1つの基事象に統合するステップと、を有する。
これにより、フォールトツリーを自動的に簡素化することができる。
【0048】
(2)第2の態様に係る評価対象のフォールトツリー簡素化方法は、(1)のフォールトツリー簡素化方法であって、前記故障原因を共有するかどうかを判定するステップにおいて、前記ペアの両方に前記故障原因を共有する前記基事象が見つかった場合であって、前記ペアが前記故障原因を共有しない場合、前記ペアの一方とx個の前記第2の基事象とが第1の前記故障原因を共有し、前記ペアの他方と前記x個の前記第3の基事象とが第2の前記故障原因を共有するとした場合に、前記ANDゲートに接続しているかどうかを判定するステップでは、前記第2の基事象のそれぞれが、重複なく前記第3の基事象のうちの一つと同じANDゲートに接続するかどうかを判定し、前記統合するステップでは、前記ペアに加え、前記同じANDゲートに接続する前記第2の基事象と前記第3の基事象を統合し、yが1~xの値を取るとしたときに全ての前記yについて、前記ペアの一方と前記第2の基事象のうちの前記y個が発生する確率と、前記ペアの他方と前記第3の基事象のうちの前記y個が発生する確率と、を乗じた値が、統合後の前記基事象のうちの前記y個が発生する確率と等しくなること、が成立するように、統合後の前記基事象の発生確率を設定する。
CCFを考慮することにより、リスク評価の計算精度を維持しつつ、フォールトツリーの構造を簡素化することができる。
【0049】
(3)第3の態様に係るフォールトツリー簡素化方法は、(1)~(2)のフォールトツリー簡素化方法であって、前記統合するステップでは、前記ペアの一方と前記第2の基事象のうちの前記y個が発生する確率を、第1の前記故障原因に係る所定のCCF(Common Cause Failure)ファクターに基づいて計算し、前記ペアの他方と前記第3の基事象のうちの前記y個が発生する確率を、第2の前記故障原因に係る所定の前記CCFファクターに基づいて計算する。
CCFを考慮して基事象の発生確率を計算することで、計算精度を維持したまま、FTの構造を簡素化することができる。
【0050】
(4)第4の態様に係るフォールトツリー簡素化方法は、(1)~(3)のフォールトツリー簡素化方法であって、前記ペアが前記故障原因を共有する場合、又は、前記ペアの両方に前記故障原因を共有する基事象が存在しない場合、前記統合するステップでは、前記基事象のペアを統合し、前記ペアの一方が発生する確率と、前記ペアの他方が発生する確率と、を乗じた値を、統合後の前記基事象の発生確率に設定する。
これにより、単純な基事象の組合せ構成かどうかを判断し、フォールトツリーの構造を簡素化することができる。
【0051】
(5)第5の態様に係るフォールトツリー簡素化方法は、(1)~(4)のフォールトツリー簡素化方法であって、前記故障原因を共有するかどうかを判定するステップにおいて、前記ペアの一方のみに前記故障原因を共有する基事象が存在する場合、前記ペアの一方とx個の前記第2の基事象とが第1の前記故障原因を共有し、前記ペアの他方と前記x個の前記第3の基事象の発生確率が全て第1発生確率である場合、前記ANDゲートに接続しているかどうかを判定するステップでは、前記第2の基事象のそれぞれが、重複なく前記第3の基事象のうちの一つと同じANDゲートに接続するかどうかを判定し、前記統合するステップでは、前記ペアに加え、前記同じANDゲートに接続する前記第2の基事象と前記第3の基事象を統合し、yが1~xの値を取るとしたときに全ての前記yについて、前記ペアの一方と前記第2の基事象のうちの前記y個が発生する確率と、前記ペアの他方と前記第3の基事象のうちの前記y個が発生する確率と、を乗じた値が、統合後の前記基事象のうちの前記y個が発生する確率と等しくなること、が成立するように、統合後の前記基事象の発生確率を設定し、前記ペアの他方と前記第3の基事象のうちの前記y個が発生する確率を、第1発生確率のy乗で計算する。
CCFを考慮することにより、リスク評価の計算精度を維持しつつ、フォールトツリーの構造を簡素化することができる。
【0052】
(6)第6の態様に係るフォールトツリー簡素化方法は、(1)~(5)のフォールトツリー簡素化方法であって、前記抽出するステップで、前記ペアが抽出できなくなるまで、前記抽出するステップと、前記故障原因を共有するかどうかを判定するステップと、前記ANDゲートに接続しているかどうかを判定するステップと、前記統合するステップと、を繰り返し実行する。
これにより、統合対象の全ての基事象を洗い出し、フォールトツリーの構造を最大限簡素化することができる。
【0053】
(7)第7の態様に係るフォールトツリー簡素化装置10は、フォールトツリーの構造に基づいて、同じANDゲートに接続する2つの基事象のペアを抽出する手段と、前記ペアのうち少なくとも一つが、前記ペア以外の基事象と共通する故障原因を共有するかどうかを判定する手段と、前記ペアの両方に、前記故障原因を共有する他の前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第3の基事象とした場合に、前記第2の基事象と第3の基事象が1つのANDゲートに接続しているかどうかを判定し、前記ペアの一方のみに前記故障原因を共有する前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と発生確率が等しい他の前記基事象を第3の基事象とした場合に、前記第2の基事象と第3の基事象が1つのANDゲートに接続しているかどうかを判定する手段と、前記ANDゲートに接続している場合、前記ペアを1つの基事象に統合する手段と、を有する。
【0054】
(8)第8の態様に係るプログラムは、コンピュータ900に、フォールトツリーの構造に基づいて、同じANDゲートに接続する2つの基事象のペアを抽出するステップと、前記ペアのうち少なくとも一つが、前記ペア以外の基事象と共通する故障原因を共有するかどうかを判定するステップと、前記ペアの両方に、前記故障原因を共有する他の前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第3の基事象とした場合に、前記第2の基事象と第3の基事象が1つのANDゲートに接続しているかどうかを判定し、前記ペアの一方のみに前記故障原因を共有する前記基事象が存在する場合、前記ペアの一方と前記故障原因を共有する他の前記基事象を第2の基事象とし、前記ペアの他方と発生確率が等しい他の前記基事象を第3の基事象とした場合に、前記第2の基事象と第3の基事象が1つのANDゲートに接続しているかどうかを判定するステップと、前記ANDゲートに接続している場合、前記ペアを1つの基事象に統合するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0055】
10・・・フォールトツリー簡素化装置
11・・・データ取得部
12・・・入力受付部
13・・・制御部
131・・・抽出部
132・・・判定部
133・・・統合部
14・・・出力部
15・・・記憶部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース