(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165255
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/14 20060101AFI20241121BHJP
B60W 40/072 20120101ALI20241121BHJP
【FI】
B60W30/14
B60W40/072
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081288
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒寄 剛
(72)【発明者】
【氏名】高橋 絢也
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BB27
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CE04
3D241CE05
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB12Z
3D241DC43Z
(57)【要約】
【課題】乗員の身体的乗り心地を向上させることができる車両制御装置を提供する。
【解決手段】車両制御装置(1、91、121)の一態様は、自動運転車両が走行する目標軌道情報、地図情報などに基づいた視認限界距離を取得し、目標軌道情報から旋回曲率、目標軌道情報及び視認限界距離から乗員の視認性を算出した後、自動運転車両の前後加速度を演算する装置であって、軌道取得部(11、92、122)、視認限界距離取得部(12、94、123)、旋回曲率演算部(13、95、124)、視認性演算部(14、96、125)、前後加速度演算部(15、97、127)を備える。前後加速度演算部(15、97、127)は、前記曲率情報の変化率、前記視認性情報の変化率、前記車両運動情報を用いて自動運転車両に指令する前後加速度を演算する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行する目標軌道情報を取得する軌道取得部と、
視認限界距離を取得する視認限界距離取得部と、
前記目標軌道情報と自車情報を用いて旋回曲率を演算する旋回曲率演算部と、
前記目標軌道情報と前記視認限界距離を用いて乗員視認性を演算する視認性演算部と、
前記旋回曲率と前記乗員視認性を用いて前記車両の前後加速度を演算する前後加速度演算部と、を備えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記前後加速度演算部は、前記旋回曲率の変化率と速度の積に基づいて演算される第1前後加速度指令値と、前記乗員視認性の変化率と速度の積に基づいて演算される第2前後加速度指令値に基づいて前後加速度指令値を演算することを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御装置において、
前記前後加速度演算部は、前記旋回曲率の変化率が正かつ前記乗員視認性の変化率が負の場合において減速指令値を前記車両の前後加速度として出力し、前記旋回曲率の変化率が負かつ前記乗員視認性の変化率が正の場合において加速指令値を前記車両の前後加速度として出力することを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両制御装置において、
前記前後加速度演算部は、前記旋回曲率の変化率が負かつ前記乗員視認性の変化率が0の場合において、加速指令値を抑制することを特徴とする車両制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載の車両制御装置において、
前記前後加速度演算部は、前方注視点における前記旋回曲率の変化及び前記乗員視認性の変化に基づいて前記車両の前後加速度を演算することを特徴とする車両制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記乗員視認性は、視認可能な道路面積とすることを特徴とする車両制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記車両の周辺環境に存在する移動体情報を取得する移動体情報取得部をさらに備え、
前記視認性演算部は、前記目標軌道情報と前記視認限界距離と前記移動体情報を用いて前記乗員視認性を演算することを特徴とする車両制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の車両制御装置において、
前記視認性演算部は、前記移動体情報が前記視認限界距離に影響を与える場合は前記移動体情報との相対速度関係を用いて前記乗員視認性を調整することを特徴とする車両制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記旋回曲率と前記乗員視認性を用いて前記車両の走行速度を演算する走行速度演算部をさらに備え、
前記前後加速度演算部は、前記走行速度に基づいて前記車両の前後加速度を演算することを特徴とする車両制御装置。
【請求項10】
請求項2に記載の車両制御装置において、
前記前後加速度演算部は、前記旋回曲率の変化率が正かつ前記乗員視認性の変化率が負の場合において前記車両の前後加速度として出力する減速指令値を、前記旋回曲率の変化率が正かつ前記乗員視認性の変化率が0の場合において前記車両の前後加速度として出力する減速指令値よりも大きくすることを特徴とする車両制御装置。
【請求項11】
請求項2に記載の車両制御装置において、
前記前後加速度演算部は、前記旋回曲率の変化率が負かつ前記乗員視認性の変化率が負の場合において、前記乗員視認性の変化率に応じた減速指令値を前記車両の前後加速度として出力することを特徴とする車両制御装置。
【請求項12】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記視認限界距離は、地図情報、外界センサの認識情報、又は、外部装置との通信情報から取得されることを特徴とする車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動運転車両の車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車におけるADAS(先進運転支援システム)及び自動運転関連技術の開発が、近年、急速に進められており、快適な移動を提供する必要がある。快適な移動を提供するためには車両前後方向、横方向などの車両運動のみならず乗員の視認情報を考慮した制御が必要となる。乗員の視認情報を考慮した車両制御に関する手法として、車両の走行制御装置(特許文献1参照)、車両制御装置(特許文献2参照)がある。
【0003】
特許文献1に記載の車両の走行制御装置は、車線区画線データ、道路に沿って存在するガードレール、縁石等の側壁データ、車両等の立体物データ等を自車両からの相対的な位置を算出することで旋回方向内側の路端を算出し、カーブの見通し情報を算出する。自動運転制御によるカーブ通過時の目標車速とカーブの見通し情報の関係に基づいて車速補正値を算出することで車速を調整し、カーブ中でもドライバのフィーリングに合致した適切な車速でカーブを走行することが可能となる。
【0004】
特許文献2に記載の車両制御装置は、カメラ画像に基づいて現在走行している車線を規定する二つの区画線を特定し、将来情報(将来曲率)に基づいて車両が進入しつつある曲線路を安定して走行することを可能にするための目標加速度を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-171027号公報
【特許文献2】特開2020-069956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の車両の走行制御装置においては、自車両がカーブを通過する際の旋回半径に基づいて目標速度を演算しており、自動運転車両が実際に走行する軌道の曲率情報に基づいて目標車速を演算しておらず、実際の走行に適した車速が演算されていない可能性がある。また、目標車速と車速補正値を用いることで車速を調整しており、加速度を調整していないことから、乗員の乗り心地を悪化させてしまうことがある。
【0007】
特許文献2に記載の車両制御装置は、カメラ情報で検知された将来曲率に基づいて加減速を実施しており、カメラ情報が取得できない状況においては適切な加減速を実現することができない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、乗員の身体的乗り心地を向上させることができる車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両制御装置の一態様は、車両が走行する目標軌道情報を取得する軌道取得部と、視認限界距離を取得する視認限界距離取得部と、前記目標軌道情報と自車情報を用いて旋回曲率を演算する旋回曲率演算部と、前記目標軌道情報と前記視認限界距離を用いて乗員視認性を演算する視認性演算部と、前記旋回曲率と前記乗員視認性を用いて前記車両の前後加速度を演算する前後加速度演算部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生成軌道情報及び乗員が視認する道路形状に基づいた車両の加減速を実施することで、乗員の身体的乗り心地を向上させることが可能となる。
【0011】
本発明に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1における車両制御装置の構成を説明する図である。
【
図2】実施例1におけるカーブ区間を含む道路形状の一部を説明する図である。
【
図3】実施例1において、車両制御装置の動作例を説明するフローチャートである。
【
図4】実施例1において、目標軌道が自車中心から生成されている場合の視認性に関して説明する図である。
【
図5】実施例1において、視認性変化がない場合における前後加速度のプロファイルの一例を説明する図である。
【
図6】実施例1において、視認性変化がある場合における前後加速度のプロファイルの一例を説明する図である。
【
図7】実施例1において、連続カーブを走行する場合における前後加速度のプロファイルの一例を説明する図である。
【
図8】実施例1において、第2前方注視点を説明する図である。
【
図9】実施例2における車両制御装置の構成を説明する図である。
【
図10】実施例2において、カーブ区間に対向車両が存在する場合の動作例を説明する図である。
【
図11】実施例2において、車両制御装置の動作例を説明するフローチャートである。
【
図12】実施例3における車両制御装置の構成を説明する図である。
【
図13】実施例3における、車両制御装置の動作例を説明するフローチャートである。
【
図14】実施例3における、前後加速度のプロファイルの一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施例について図面を参照して説明する。
【0014】
[実施例1]
実施例1においては、自動運転車両がカーブを走行する環境において、
図1が示す車両制御装置の動作に関して
図2~
図8を用いて説明する。
【0015】
自動運転車両は、周辺環境を認識可能な外界センサ、車両センサ及び自動運転システムを有している。
【0016】
外界センサは、例えば、単眼カメラ、ステレオカメラ、レーザレーダ、ミリ波レーダ、超音波センサ、赤外線センサなどを含む。
【0017】
車両センサは、自動運転車両の状態を検知するセンサである。車両センサは、例えば、車輪速センサ、加速度センサ、角速度センサ、全球衛星測位システム(GNSS)の端末などを含む。
【0018】
自動運転システムでは、周辺環境認識、自己位置推定、軌道計画、車両制御を実施し、自動運転を実現するものとする。自動運転車両は一つの車両制御装置を搭載しているものとし、ブレーキ制御装置、駆動制御装置、操舵制御装置、サスペンション制御装置などに指令信号を出力することで自動運転を実現するものとする。
【0019】
車両制御装置は、例えばハードウェアとしてCPU(Central Processing Unit)やメモリなどを備えたコンピュータシステムとして構成される。このハードウェアが車両制御プログラムを実行することにより、本実施例の車両制御装置1は、
図1に示すように、軌道取得部11、視認限界距離取得部12、旋回曲率演算部13、視認性演算部14、前後加速度演算部15、の機能が実現する。このハードウェアの一部または全部については、専用の装置、汎用の機械学習マシン、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、PLD(programmable logic device)などで代替してもよい。
【0020】
本実施例においては、
図2に示すようなカーブ区間を自動運転車両が走行することを考える。カーブ区間は、直線区間(曲率0)、緩和曲線区間である曲率単調変化区間(横加速度変化)、曲率一定区間(定常旋回)を持つ。
【0021】
本実施例の車両制御装置1は、
図3のフローチャートに示すように、ステップS31において目標軌道を取得し(軌道取得部11)、ステップS32に進む。ここで目標軌道とは、自動運転車両が使用している高精度地図情報に内包されているレーン中心線情報の点列あるいは自動運転車両が搭載している自動運転システムの軌道計画部内で演算された点列(局所軌道)のことを指す。なお、ここで局所軌道は、自車中心から生成されるものとする。
【0022】
局所軌道は点列で表現するものではなく、走行可能領域として与えてもよい。例えば、左右の路端情報を与えることで走行可能領域を表現することができる。
【0023】
ステップS32においては視認限界距離を取得し(視認限界距離取得部12)、ステップS33に進む。ここで視認限界距離とは、レーン中心線上の所定位置から乗員が目視可能な限界距離のことを指している。例えば、
図2においては、自動運転車両21の視認限界距離は直線(1点鎖線)の距離dで表される。この距離は乗員の乗車位置によって異なるため、乗車位置に応じて変更するものとする。
【0024】
この距離は予め、地図に埋め込まれた情報、外界センサを活用して演算された情報、外部の(外部装置である)管制センタと通信して得られた情報などを取得するものとする。
【0025】
例えばカメラを活用する場合においては、カメラの画角内に表示されている路面情報を抽出することで視認限界距離を算出することである。また、ステレオカメラ、レーザレーダ、ミリ波レーダなどを活用して点群情報を取得することで、路面情報を抽出して視認限界距離を演算することも可能である。
【0026】
視認限界距離は勾配も考慮して算出してもよい。例えば、登り勾配においては視認限界距離が勾配角度に応じて短くなるものとする。同様に下り勾配においては視認性限界距離が勾配角度に応じて長くなるものとする。
【0027】
視認限界距離は時間や天候も考慮して算出してもよい。例えば、夜間や雨天などの悪天候時においては乗員の視認性が悪くなると考えられるため、視認限界距離を通常時より短く設定する。
【0028】
また、外界センサから得られた点群情報と自動運転車両が所有している点群地図をマッチングすることで白線情報や路肩情報を取得でき、それらの情報を活用することで視認限界距離を算出することも可能である。マッチング手法としてはICP(Iterative Closest Point)やNDT(Normal Distribution Transform)などの一般的な点群マッチング手法を用いてマッチング箇所を演算する。
【0029】
ステップS33では、前記目標軌道情報及び車両位置、姿勢、速度などの車両運動情報(自車情報)を用いて自動運転車両が走行する軌道の旋回曲率を演算し(旋回曲率演算部13)、ステップS34へ進む。
【0030】
前記目標軌道がレーン中心線である場合は、自車最近傍点を基準点として抽出し、基準点から所定距離内の旋回曲率を演算する。所定距離は例えば、予め定められた前方注視距離あるいは前方注視時間に基づいて決定される。
【0031】
前記目標軌道が前記局所軌道の場合は、軌道端点までの旋回曲率を演算する。旋回曲率の演算方法は、点列の角度差から演算する手法、スプライン補間など曲線近似を実施して演算する手法など複数あることが知られているが、本実施例では旋回曲率の演算方法は問わないものとする。
【0032】
ステップS34においては、前記旋回曲率の変化があるかを判定し、旋回曲率の変化がある場合はステップS35へ進み、旋回曲率の変化がない場合においては処理を終了する。十分大きなカーブ路においては、微小な旋回曲率変化しか生じないため、旋回曲率変化がないものとして扱うこととする。
【0033】
ステップS35においては、前記視認限界距離及び上記目標軌道に基づいて乗員の視認性を演算し(視認性演算部14)、ステップS36へ進む。前記目標軌道がレーン中心線である場合は、前記視認限界距離を前記視認性とする。前記目標軌道が局所軌道の場合、前記視認限界距離及び局所軌道上の各点における車両の目標姿勢角から視認可能な道路領域(面積)を算出し、視認可能な道路領域(面積)を前記視認性として活用する。
【0034】
例えば
図4のように、自動運転車両21が一度レーン中心に戻った後、旋回を開始するような局所軌道41が生成されたとする。この場合においては、自動運転車両21が一度旋回外側を向くことで、レーン中心を走行している場合と比較して視認可能領域a41が小さくなる。自動運転車両21が再度レーン中心を走行する場合、視認可能領域は増加し、旋回を開始した場合は再度視認可能領域が減少する。
【0035】
ステップS36においては、前記視認性の変化があるかを判定し、変化がない場合はステップS37へ、変化がある場合においてはステップS38へ進む。十分大きなカーブ路においては、微小な視認性変化しか生じないため、視認性変化がないものとして扱うこととする。
【0036】
ステップS37においては、旋回曲率変化のみに応じて前後加速度を演算し、前後加速度指令値として出力する(前後加速度演算部15)。
図5に示すように、旋回曲率が増加する場合においては減速指令値(負の前後加速度指令値)、一定の場合は加減速指令値なし、減少する場合においては加速指令値(正の前後加速度指令値)を出力する。減速(あるいは加速)指令値(前後加速度指令値)の大きさは、旋回曲率の変化率(1階微分)と速度の積にゲインをかけたものから決定される。
【0037】
また、直接横加加速度から減速(あるいは加速)指令値(前後加速度指令値)の大きさを決定してもよい。推定横加加速度は、車両センサにより取得された横加速度情報を時間微分することで算出してもよい。あるいは車両センサから取得されたヨーレート情報を活用して推定横加加速度などを算出してもよい。
【0038】
図5に示す場合においては、旋回曲率が増加する場合に初めて減速を開始するが、旋回曲率が増加することが予め分かっている場合は、事前に減速を開始してもよい。具体的には、前方注視点(第1前方注視点)の曲率変化に応じて前後加速度指令値を演算してもよい。この時移動効率を考慮して前方注視点は自動運転車両の近傍であることが望ましい。
【0039】
なお、旋回開始時の走行速度が十分小さく、大きな横加速度が発生しないと予測される場合においては、減速を実施する必要は必ずしもない。
【0040】
ステップS38においては、旋回曲率変化及び視認性変化に応じて前後加速度を演算し、前後加速度指令値として出力する(前後加速度演算部15)。
【0041】
図6に示すように、旋回曲率が増加かつ視認性が減少する場合においては、それぞれの変化率と車速に基づいた減速度を算出し、その総和を減速指令値として出力する。すなわち、減速指令値は、前記旋回曲率の変化率と速度の積に基づいて演算される前後加速度指令値と、前記視認性の変化率と速度の積に基づいて演算される前後加速度指令値を算出し、その総和に基づいて出力(演算)される。
【0042】
視認性変化がない場合の前後加速度指令値(
図6の点線)と比較した場合、大きな減速指令値が出力され、走行速度が低減される。視認性が減少することが予め分かっている場合においては、事前に減速を開始してもよい。
【0043】
具体的には上述した第1前方注視点を活用することで事前減速が実現可能となる。これにより、乗員が視認する道路形状が限定的になる場合においても、自動運転車両は十分に減速しており、乗員に恐怖感を与えることを抑制可能となる。
【0044】
旋回曲率が減少している場合かつ視認性変化が生じない場合においては、旋回曲率部分から演算される加速度演算(旋回曲率変化に応じた加速指令値)を抑制する(遅らせる)。また、旋回曲率が減少かつ視認性も減少している場合においては、視認性変化に応じた減速指令値をそのまま前後加速度指令値として出力する。これにより、乗員が視認する道路形状が限定的な場合における加速を抑制し、乗員に恐怖感を与えることを抑制可能となる。
【0045】
旋回曲率が減少している場合かつ視認性が増加している場合においては、旋回曲率部分から(前記旋回曲率の変化率と速度の積に基づいて)演算される加速度演算及び視認性部分から(前記視認性の変化率と速度の積に基づいて)演算される加速度演算の総和を加速指令値として出力する。乗員の視認可能な道路形状が開けていくタイミングに応じて車両が加速することで、乗員の乗り心地向上に貢献可能となる。
【0046】
また、加速時においても減速時同様、第1前方注視点における旋回曲率の変化及び視認性の変化を活用して事前加速を実施してもよい。
【0047】
図6に示すように、旋回曲率の減少及び視認性の増加がなくなり、それぞれが一定値になった場合においても、加速抑制を行っていた時間に応じて引き続き加速指令値を出力する。
【0048】
自動運転車両が連続するカーブ区間を走行する際の動作の一例に関して
図7を用いて説明する。
【0049】
第1カーブ区間に進入する場合においては、旋回曲率が増加かつ視認性が減少することから減速指令値を出力する。
【0050】
第1カーブ区間を離脱する場合においては、旋回曲率が減少かつ視認性が増加することで加速指令値を前後加速度とするが、再びカーブ区間に進入することが予見されるため、加速指令値を抑制する。例えば、
図7において、旋回曲率変化と視認性変化に応じた前後加速度指令値の総和は破線で表されたものとなるが、ゲインをかけることで実線の前後加速度指令値を出力するものとなる。
【0051】
ゲインは、第2カーブ区間入口における旋回曲率変化及び視認性変化に基づいて算出される。具体的には、
図8に示すように、自動運転車両21に対して第1前方注視点81より遠方の第2前方注視点82を設定する。第2前方注視点82における旋回曲率変化及び視認性変化からゲインを算出する。
【0052】
第2カーブ区間に進入する場合においては、旋回曲率が増加かつ視認性が減少することより、減速指令値が演算される。第2前方注視点を活用し、第1カーブ区間の離脱における加速度を抑制した場合においては、自動運転車両の車速が既に低減されているため、大きな減速を伴う必要がない。
【0053】
第1カーブ区間離脱時及び第2カーブ区間進入時における基準前後加速度指令値(旋回曲率変化及び視認性変化から求まる値)を時間積分し、基準車速変化量を演算する。第1カーブ区間離脱時において、実際に出力された前後加速度指令値(第2前方注視点に基づいて演算されたゲインをかけた指令値)を時間積分し、実車速変化量を演算する。基準車速変化量及び実車速変化量の差分に基づいて、第2カーブ区間進入時の前後加速度指令値(減速指令値)を抑制する。
【0054】
例えば、
図7の場合においては、第1カーブ区間出口及び第2カーブ区間入口の旋回曲率変化率及び視認性変化率が等しいため、第1カーブ区間出口で使用されたゲインを第2カーブ区間入口でも採用することにより、減速指令値を抑制する。
【0055】
なお、上記の説明において、旋回曲率が増加する場合、旋回曲率が減少する場合、視認性が増加する場合、視認性が減少する場合、視認性変化が生じない場合はそれぞれ、旋回曲率の変化率が正の場合、旋回曲率の変化率が負の場合、視認性の変化率が正の場合、視認性の変化率が負の場合、視認性の変化率が0の場合と同義である。
【0056】
以上のことから、実施例1に記載の車両制御装置1を活用することで、生成軌道情報及び乗員が視認する道路形状に基づいた車両の加減速を実施することで、乗員の身体的乗り心地を向上させることが可能となる。
【0057】
[実施例2]
実施例2においては、対向車両が存在する場合における車両制御装置の動作に関して
図9~
図11を用いて説明する。
【0058】
実施例1と同様、自動運転車両は、周辺環境を認識可能な外界センサ、車両センサ及び自動運転システムを有しているものとする。
【0059】
本実施例の車両制御装置91は車両制御プログラムを実行することにより、
図9に示すように、軌道取得部92、移動体情報取得部93、視認限界距離取得部94、旋回曲率演算部95、視認性演算部96、前後加速度演算部97、の機能が実現する。
【0060】
本実施例においては、
図10に示すようなカーブ区間を自動運転車両が走行することを考える。カーブ区間は、直線区間(曲率0)、緩和曲線区間である曲率単調変化区間(横加速度変化)、曲率一定区間(定常旋回)を持ち、旋回内側に対向車両が存在する。
【0061】
本実施例の車両制御装置91は、
図11のフローチャートに示すように、ステップS111において目標軌道を取得し(軌道取得部92)、ステップS112に進む。実施例1と同様、目標軌道は、レーン中心線情報の点列あるいは自動運転システムの軌道計画部内で演算された点列のどちらでもよい。
【0062】
ステップS112においては、視認限界距離を取得し(視認限界距離取得部94)、ステップS113に進む。ここで対向車両が旋回内側に存在する場合においては、対向車両後方の道路形状が認識されないため、視認限界距離は、対向車両が存在しない場合と比較して短くなる。カメラなどの外界センサを活用して視認限界距離を演算する場合においてもオクルージョンが発生し、同様のことが言える。
【0063】
ステップS113においては、移動体情報を取得し(移動体情報取得部93)、ステップS114に進む。移動体情報は、自動運転システムの周辺環境認識機能により出力される情報あるいは外部の管制システムにより通知される他車両情報を活用することを想定する。
【0064】
ステップS114では、前記目標軌道情報及び車両位置、姿勢、速度などの車両運動情報(自車情報)を用いて自動運転車両が走行する軌道の旋回曲率を演算し(旋回曲率演算部95)、ステップS115へ進む。
【0065】
ステップS115においては、前記旋回曲率の変化があるかを判定し、旋回曲率の変化がある場合はステップS116へ進み、旋回曲率の変化がない場合においては処理を終了する。十分大きなカーブ路においては、微小な旋回曲率変化しか生じないため、旋回曲率変化がないものとして扱うこととする。
【0066】
ステップS116においては、前記視認限界距離及び前記目標軌道に基づいて乗員の視認性を演算し(視認性演算部96)、ステップS117へ進む。
【0067】
ステップS117においては、移動体情報が前記視認性に影響を与えているかを判断し、影響がある場合はステップS118へ進み、影響がない場合はステップS119へ進む。例えば、
図10に示すように自動運転車両101の旋回内側に対向車両102が存在する場合においては、視認性が一時的に悪くなっていることから影響ありと判定する。
【0068】
ステップS118においては、自車移動速度及び移動体移動速度(換言すれば、自車と移動体の相対速度)を考慮し、視認性の値を調整する(視認性演算部96)。例えば、
図10においては、自動運転車両101が直線領域を走行している際に、対向車両102が曲率単調増加区間を走行しているとする。数秒後においては、自動運転車両101と対向車両102が直線領域においてすれ違うと考えられ、乗員の視認性は再び向上する。このことから最初に演算された視認性の値より大きな値を視認性として設定する。
【0069】
ステップS119においては、前記視認性の変化があるかを判定し、変化がない場合はステップS120へ、変化がある場合においてはステップS121へ進む。十分大きなカーブ路においては、微小な視認性変化しか生じないため、視認性変化がないものとして扱うこととする。
【0070】
ステップS120、ステップS121における前後加速度演算方法は、実施例1のステップS37、ステップS38と同様のものとする。
【0071】
以上のことから、実施例2に記載の車両制御装置91を活用することで、旋回内側に対向車両が存在する状況においても、乗員の身体的乗り心地を向上させることが可能となる。
【0072】
[実施例3]
実施例3においては、
図12が示す車両制御装置の動作に関して
図13、
図14を用いて説明する。
【0073】
実施例1、2と同様、自動運転車両は、周辺環境を認識可能な外界センサ、車両センサ及び自動運転システムを有しているものとする。
【0074】
本実施例の車両制御装置121は車両制御プログラムを実行することにより、
図12に示すように、軌道取得部122、視認限界距離取得部123、旋回曲率演算部124、視認性演算部125、走行速度演算部126、前後加速度演算部127、の機能が実現する。
【0075】
本実施例の車両制御装置121は、
図13のフローチャートに示すように、ステップS131では目標軌道を取得し(軌道取得部122)、ステップS132に進む。
【0076】
ステップS132においては、視認限界距離を取得し(視認限界距離取得部123)、ステップS133に進む。
【0077】
ステップS133では、前記目標軌道情報及び車両運動情報(自車情報)を用いて走行軌道の旋回曲率を演算し(旋回曲率演算部124)、ステップS134へ進む。
【0078】
ステップS134においては、前記目標軌道及び前記視認限界距離に基づいて乗員の視認性を演算し(視認性演算部125)、ステップS135へ進む。
【0079】
ステップS135においては、前記旋回曲率と前記視認性に応じて目標走行速度を演算し(走行速度演算部126)、ステップS136へ進む。
【0080】
例えば、前記旋回曲率と前記視認性に応じて速度が決定されるルックアップテーブルを用いることで目標走行速度を演算することが可能である。ルックアップテーブルの入力として前記旋回曲率の変化率及び前記視認性の変化率を採用してもよい。ルックアップテーブルを活用することにより、
図14に示すような目標速度が演算される。例えば旋回曲率が増加している場合においても、視認性が増加すれば、目標速度は高く設定される。
【0081】
また、前記旋回曲率(あるいは旋回曲率の変化率)と前記視認性(あるいは視認性の変化率)に応じた目標速度をそれぞれ算出し、走行速度が低いものを目標走行速度として演算してもよい。
【0082】
ステップS136では、前記目標走行速度に応じて車両の前後加速度を演算する(前後加速度演算部127)。目標走行速度の時系列変化に着目し、不要な加減速度を抑制するように演算する。例えば、
図14に示すように、目標速度が一度大きくなった後、再度小さくなる場合においては、加速と減速を繰り返すのではなく、減速のみを実施するようにする。
【0083】
以上のことから、実施例3に記載の車両制御装置121は、旋回曲率情報と視認性情報に基づいた最適な速度で走行することが可能となり、乗員の身体的乗り心地を向上させることが可能となる。
【0084】
[まとめ]
以上説明したように、実施例1の車両制御装置1は、車両が走行する目標軌道情報を取得する軌道取得部11と、視認限界距離を取得する視認限界距離取得部12と、前記目標軌道情報と自車情報を用いて旋回曲率を演算する旋回曲率演算部13と、前記目標軌道情報と前記視認限界距離を用いて乗員視認性を演算する視認性演算部14と、前記旋回曲率と前記乗員視認性を用いて前記車両の前後加速度を演算する前後加速度演算部15と、を備える。
【0085】
前記前後加速度演算部15は、前記旋回曲率の変化率と速度の積に基づいて演算される第1前後加速度指令値と、前記乗員視認性の変化率と速度の積に基づいて演算される第2前後加速度指令値に基づいて前後加速度指令値を演算する。
【0086】
これにより、実施例1の車両制御装置1は、生成軌道情報及び乗員が視認する道路形状に基づいた車両の加減速を実施することで、乗員の身体的乗り心地を向上させることが可能となる。
【0087】
また、実施例2の車両制御装置91は、車両が走行する目標軌道情報を取得する軌道取得部92と、視認限界距離を取得する視認限界距離取得部94と、前記車両の周辺環境に存在する移動体情報を取得する移動体情報取得部93と、前記目標軌道情報と自車情報を用いて旋回曲率を演算する旋回曲率演算部95と、前記目標軌道情報と前記視認限界距離と前記移動体情報を用いて乗員視認性を演算する視認性演算部96と、前記旋回曲率と前記乗員視認性を用いて前記車両の前後加速度を演算する前後加速度演算部97と、を備える。
【0088】
前記視認性演算部96は、前記移動体情報が前記視認限界距離に影響を与える場合は前記移動体情報との相対速度関係を用いて前記乗員視認性を調整する。
【0089】
これにより、実施例2の車両制御装置91は、旋回内側に対向車両が存在する状況においても、乗員の身体的乗り心地を向上させることが可能となる。
【0090】
また、実施例3の車両制御装置121は、車両が走行する目標軌道情報を取得する軌道取得部122と、視認限界距離を取得する視認限界距離取得部123と、前記目標軌道情報と自車情報を用いて旋回曲率を演算する旋回曲率演算部124と、前記目標軌道情報と前記視認限界距離を用いて乗員視認性を演算する視認性演算部125と、前記旋回曲率と前記乗員視認性を用いて前記車両の走行速度を演算する走行速度演算部126と、前記走行速度に基づいて前記車両の前後加速度を演算する前後加速度演算部127と、を備える。
【0091】
これにより、実施例3の車両制御装置121は、旋回曲率情報と視認性情報に基づいた最適な速度で走行することが可能となり、乗員の身体的乗り心地を向上させることが可能となる。
【0092】
換言すれば、実施例1~3の車両制御装置(1、91、121)の一態様は、自動運転車両が走行する目標軌道情報、地図情報などに基づいた視認限界距離を取得し、目標軌道情報から旋回曲率、目標軌道情報及び視認限界距離から乗員の視認性を算出した後、自動運転車両の前後加速度を演算する装置であって、軌道取得部(11、92、122)、視認限界距離取得部(12、94、123)、旋回曲率演算部(13、95、124)、視認性演算部(14、96、125)、前後加速度演算部(15、97、127)を備える。
【0093】
軌道取得部(11、92、122)は、高精度地図に埋め込まれたレーン中心線情報や自動運転システムに搭載されている軌道計画部で演算された目標軌道情報を取得する。
【0094】
視認限界距離取得部(12、94、123)は、地図情報に埋め込まれた視認限界距離や外界センサの認識情報に基づいて演算された視認限界距離を取得する。
【0095】
旋回曲率演算部(13、95、124)は、取得された前記目標軌道情報と自動運転車両の車両運動情報(位置、姿勢、速度等)に基づいて自動運転車両が走行する軌道の曲率連続値を演算する。
【0096】
視認性演算部(14、96、125)は、前記視認限界距離及び前記目標軌道情報に基づいて乗員の視認領域と視認領域がどのように変化するかを演算する。
【0097】
前後加速度演算部(15、97、127)は、前記曲率情報の変化率、前記視認性情報の変化率、前記車両運動情報を用いて自動運転車両に指令する前後加速度を演算する。
【0098】
本実施例1~3によれば、生成軌道情報及び乗員が視認する道路形状に基づいた車両の加減速を実施することで、乗員の身体的乗り心地を向上させることが可能となる。
【0099】
以上、図面を用いて本発明に係る車両制御装置の実施例を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【0100】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0101】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0102】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0103】
1、91、121 車両制御装置
11、92、122 軌道取得部
12、94、123 視認限界距離取得部
13、95、124 旋回曲率演算部
14、96、125 視認性演算部
15、97、127 前後加速度演算部
93 移動体情報取得部
126 走行速度演算部