(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165256
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】打ち抜き加工方法
(51)【国際特許分類】
B21D 28/16 20060101AFI20241121BHJP
B21D 28/24 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B21D28/16
B21D28/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081289
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一田 剛
(72)【発明者】
【氏名】鍵谷 二朗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 剛士
【テーマコード(参考)】
4E048
【Fターム(参考)】
4E048BA04
4E048GA06
(57)【要約】
【課題】打ち抜き加工により板材に穿孔する際に孔の裏面側の周縁におけるバリ等の発生及び/又は残存を低減すると共に孔の表面側及び裏面側の周縁に面取りを形成する。
【解決手段】基端側から先端側へ向かうにつれて内側に傾斜する環状の第1斜面及び第2斜面が各々の先端面に突設された第1ダイ及び第2ダイを板材の表面及び裏面にそれぞれ押し付けて環状の第1傾斜部及び第2傾斜部を板材の表面及び裏面にそれぞれ形成し、板材の表面において第1傾斜部によって囲まれる領域をパンチによって押圧して板材の一部を打ち抜く。第2工程においてパンチによって押圧する方向への投影図において、第1工程において第1斜面の先端によって囲まれる第1領域の全体が第2斜面の先端によって囲まれる第2領域に含まれ、少なくともパンチの第2工程において板材の表面よりも押圧方向に進行する部分の全体が第1領域と重なるか又は第1領域に含まれるようにする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材の所定の部位をパンチによって押圧して穿孔する打ち抜き加工方法であって、
基端側から先端側へ向かうにつれて内側に向かって傾斜する環状の斜面である第1斜面が先端面に突設された第1ダイを前記板材の表面に押し付けて前記第1斜面に対応する環状の形状を有する部分である第1傾斜部を含む凹部である第1凹部を前記板材の前記表面に形成すると共に、基端側から先端側へ向かうにつれて内側に向かって傾斜する環状の斜面である第2斜面が先端面に突設された第2ダイを前記板材の裏面に押し付けて前記第2斜面に対応する環状の形状を有する部分である第2傾斜部を含む環状の凹部である第2凹部を前記板材の前記裏面に形成する工程である第1工程と、
前記板材の前記表面において前記第1凹部に含まれる前記第1傾斜部によって囲まれる領域の少なくとも一部を前記パンチによって押圧して前記板材の一部を打ち抜く工程である第2工程と、
を含み、
前記第2工程において前記パンチによって前記板材を押圧する方向である押圧方向への投影図である第1投影図において、
前記第1工程において前記第1斜面の前記先端側の端部である第1端部によって囲まれる領域である第1領域の全体が前記第2斜面の前記先端側の端部である第2端部によって囲まれる領域である第2領域に含まれ、
少なくとも前記パンチの前記第2工程において前記板材の前記表面よりも前記押圧方向に進行する部分に対応する領域であるパンチ領域の全体が前記第1領域と重なるか又は前記第1領域に含まれる、
打ち抜き加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載された打ち抜き加工方法であって、
前記第1領域及び前記第2領域の共通の中心軸である第1軸を含む平面による断面である第1断面において、前記第1端部及び前記第2端部を通る直線である第1直線と前記第1軸とがなす角度が7度以上であり且つ12度以下であり、
前記第1投影図において、前記第1領域及び前記第2領域が前記第1軸の周りに回転対称であり且つ互いに相似な形状を有する、
打ち抜き加工方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された打ち抜き加工方法であって、
前記第1ダイにおいて、基端側から先端側へ向かうにつれて外側に向かって傾斜し且つ前記第1端部において前記第1斜面に隣接する環状の斜面である第3斜面が前記先端面に突設されており、
前記第2ダイにおいて、基端側から先端側へ向かうにつれて外側に向かって傾斜し且つ前記第2端部において前記第2斜面に隣接する環状の斜面である第4斜面が前記先端面に突設されている、
打ち抜き加工方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載された打ち抜き加工方法であって、
前記第1ダイにおいて、前記第1斜面を側面とし前記第1端部によって画定される前記押圧方向に垂直な平面を上底とする錐台状の凸部が前記先端面に突設されており、
前記第2ダイにおいて、前記先端面に開口する凹部である第3凹部が前記第2端部よりも内側に設けられている、
打ち抜き加工方法。
【請求項5】
請求項4に記載された打ち抜き加工方法であって、
前記第2ダイにおいて、基端側から先端側へ向かうにつれて外側に向かって傾斜し且つ前記第2端部において前記第2斜面に隣接する環状の斜面である第4斜面が前記先端面における前記第2端部と前記第3凹部との間に突設されている、
打ち抜き加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打ち抜き加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1(特公昭63-15048号公報)及び特許文献2(特許第3413140号公報)には、所定の形状を有する板状の製品(板部材)(例えば、丸い小板等)をプレス加工により板状の素材(板材)から打ち抜く加工である「打ち抜き加工」において、V字状の溝(V字溝)を板材に予め付けておき、次の工程において当該溝の内側の部分を打ち抜く技術が開示されている。これらの技術によれば、実質的に打ち抜く距離(打ち抜かれる板厚)が短くなるので、例えば、打ち抜き荷重を低減したり板部材の端面に占める破断面の割合を少なくしたりすることができるとされている。
【0003】
特に顕著な効果を得ようとする場合は、板材の表面に加えて裏面にもV字溝を設け且つV字溝に関連する部分のディメンションを規定することも行われている。
【0004】
例えば特許文献3(特許第6448482号公報)に記載された発明は、ワークの表面及び裏面に設けられた溝部の最深部間の長さ(破断面の長さ=溝部が形成されたワークの最薄部における板厚)及びワークにおける溝部の最深部より外側の幅(スクラップ部分の幅等を規定している。これによれば、得ようとする成形品である打ち抜き部材(丸板)の外周面(端面)における破断面を最小限にして外周面を円滑化することができるとされている。
【0005】
また、特許文献4(特開2022-143918号公報)に記載された発明は、板材の元板厚と最薄部板厚と溝底長さとを規定することにより、打ち抜き部材(丸板)の外周面における剪断面を最大化(破断面を最小化)して、外周面を円滑化することを企図している。
【0006】
しかしながら、これらは何れも、被打ち抜き側部材(板材の溝より内周側の、板部材として板材から打ち抜かれる部分)の外周面(端面)の円滑化を目的としており、非打ち抜き側部材(板材の溝より外周側の、板部材が打ち抜かれた後に残る部分)の孔の内周面については何ら考慮されていない。
【0007】
一方、プレス加工(パンチ)によって1つ以上の孔を板材に穿孔して、多孔品(例えばパンチングメタル等)を得る必要がある場合がある。この場合は、被打ち抜き側部材と非打ち抜き側部材とが上述した場合とは逆になる。即ち、板材の溝より外周側の、板部材が打ち抜かれた後に残る部分が製品となるため、例えば当該部分に穿孔された孔の周縁(打ち抜き加工における裏面側)にバリ等の欠陥が存在すると、例えば当該欠陥を潰したり切削除去したりする追加工が必要となる。従って、斯かる製品の生産効率を高める観点からは、非打ち抜き側部材に穿孔された孔の周縁におけるバリ等の欠陥を排除することが好ましい。
【0008】
更に、打ち抜き加工における裏面側のバリの排除に加えて、非打ち抜き側部材に穿孔された孔の打ち抜き加工における表面側及び裏面側の周縁に面取り(傾斜した周縁部)を形成する必要がある場合もある。
【0009】
即ち、当該技術分野においては、打ち抜き加工により板材に孔を穿孔する際に孔の裏面側の周縁におけるバリ等の発生及び/又は残存を低減すると共に孔の表面側及び裏面側の周縁に面取りを形成することが可能な技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭63-15048号公報
【特許文献2】特許第3413140号公報
【特許文献3】特許第6448482号公報
【特許文献4】特開2022-143918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、当該技術分野においては、打ち抜き加工により板材に孔を穿孔する際に孔の裏面側の周縁におけるバリ等の発生及び/又は残存を低減すると共に孔の表面側及び裏面側の周縁に面取りを形成することが可能な技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題に鑑み、本発明者は、鋭意研究の結果、板材の所定の部位をパンチによって押圧して穿孔する前に、穿孔する領域を囲む環状の第1傾斜部を含む凹部を板材の表面に形成すると共に第1傾斜部よりも大きい環状の第2傾斜部を含む凹部を板材の裏面に形成しておき、第1傾斜部によって囲まれる領域をパンチによって押圧することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0013】
具体的には、本発明に係る打ち抜き加工(以降、「本発明方法」と称呼される場合がある。)は、板材の所定の部位をパンチによって押圧して穿孔する打ち抜き加工方法である。
【0014】
本発明方法は以下に列挙する第1工程及び第2工程を含む。
第1工程は、第1斜面が先端面に突設された第1ダイを板材の表面に押し付けて板材の表面に第1凹部を形成すると共に、第2斜面が先端面に突設された第2ダイを板材の裏面に押し付けて板材の裏面に第2凹部を形成する工程である。第1斜面とは、基端側から先端側へ向かうにつれて内側に向かって傾斜する環状の斜面である。第1凹部とは、第1斜面に対応する環状の形状を有する部分である第1傾斜部を含む凹部である。第2斜面とは、基端側から先端側へ向かうにつれて内側に向かって傾斜する環状の斜面である。第2凹部とは、第2斜面に対応する環状の形状を有する部分である第2傾斜部を含む環状の凹部である。
第2工程は、板材の表面において第1傾斜部によって囲まれる領域の少なくとも一部をパンチによって押圧して板材の一部を打ち抜く工程である。
【0015】
更に、本発明方法は、以下に列挙する第1要件及び第2要件を満足する。
第1要件は、第1投影図において、第1工程において第1斜面の先端側の端部である第1端部によって囲まれる領域である第1領域の全体が第2斜面の先端側の端部である第2端部によって囲まれる領域である第2領域に含まれることである。第1投影図とは、第2工程においてパンチによって板材を押圧する方向である押圧方向への投影図である。
第2要件は、第1投影図において、少なくともパンチの第2工程において板材の表面よりも押圧方向に進行する部分に対応する領域であるパンチ領域の全体が第1領域と重なるか又は第1領域に含まれることである。
【発明の効果】
【0016】
本発明方法においては、上述したように、板材の所定の部位をパンチによって押圧して穿孔する前に、穿孔する領域を囲む環状の第1傾斜部を含む凹部を板材の表面に形成すると共に第1傾斜部よりも広い環状の第2傾斜部を含む凹部を板材の裏面に形成しておき、第1傾斜部によって囲まれる領域をパンチによって押圧する。このような打ち抜き加工における破断面は打ち抜き方向に向かってテーパ状に広がるので、第1凹部の最深部(第1端部に対応)から第2凹部の最深部(第2端部に対応)へと破断面を連続的に形成させることができる。その結果、チギレ等に起因するバリの発生を低減することができる。即ち、打ち抜き加工により板材に孔を穿孔する際に孔の裏面側の周縁におけるバリ等の発生を低減することができる。また、第1凹部に含まれる環状の第1傾斜部及び第2凹部に含まれる環状の第2傾斜部により、孔の表面側及び裏面側の周縁に面取りを形成することができる。
【0017】
即ち、本発明方法によれば、打ち抜き加工により板材に孔を穿孔する際に孔の裏面側の周縁におけるバリ等の発生及び/又は残存を低減すると共に孔の表面側及び裏面側の周縁に面取りを形成することができる。
【0018】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】打ち抜き加工方法によって複数の孔が穿孔された板材からなる製品の構成の一例を示す模式的な斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る打ち抜き加工方法(第1方法)に含まれる各工程の流れを例示するフローチャートである。
【
図3】第1方法に含まれる第1工程及び第2工程の完了時における各部材の形状及び位置関係を例示する模式的な断面図である。
【
図4】第1方法における第1領域及び第2領域の第1投影図における形状の幾つかの例を示す模式図である。
【
図5】本発明の第3実施形態に係る打ち抜き加工方法(第3方法)に含まれる第1工程の実行に伴って形成される隆起部の形状及び隆起部の形成に伴って生ずる問題を例示する模式的な断面図である。
【
図6】本発明の第3実施形態に係る打ち抜き加工方法(第4方法)において用いられる第1ダイ及び第2ダイの構成の一例を示す模式図である。
【
図7】第4方法において用いられる第1ダイ及び第2ダイの構成の一例を示す模式的な断面図(a)並びに第4方法に含まれる第2工程においてスクラップが打ち抜かれる様子を示す模式的な断面図(b)及び(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
《第1実施形態》
以下、本発明の第1実施形態に係る側壁部の形成方法(以降、「第1方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0021】
〈構成〉
第1方法は、板材の所定の部位をパンチによって押圧して穿孔する打ち抜き加工方法である。
図1は、打ち抜き加工方法によって複数の孔が穿孔された板材からなる製品の構成の一例を示す模式的な斜視図である。
図1に例示する製品200は、天板部210及び天板部210の端部から略直角に立設された側壁部(フランジ部)220を備え、天板部210には複数の孔230が穿孔されている。但し、第1方法によって1つ以上の孔が穿孔されてなる製品において、側壁部は必須の構成要素ではない。板材を構成する材料は、パンチによって押圧することにより穿孔することが可能である限り、特に限定されない。斯かる材料の具体例としては、例えば、ステンレス鋼、銅及びアルミニウム等の金属並びにこれらの金属を含む合金等を挙げることができる。
【0022】
第1方法は以下に列挙する第1工程及び第2工程を含む。尚、第1方法によって達成される効果を実質的に損ねない限りにおいて、第1工程の前、第2工程の後、及び/又は第1工程と第2工程との間に他の工程を第1方法が更に含んでもよい。
図2は、第1方法に含まれる各工程の流れを例示するフローチャートである。
図3は、第1方法に含まれる第1工程及び第2工程の完了時における各部材の形状及び位置関係を例示する模式的な断面図である。尚、
図3の(b)には、板材の所定の部位を押圧して穿孔するパンチの軸AXよりも図面に向かって左側の部分のみが描かれているが、軸AXよりも右側の部分も同様である。
【0023】
図2に例示するフローチャートのステップS10において実行される第1工程は、
図3の(a)に例示するように、第1斜面S1が先端面T1に突設された第1ダイD1を板材PMの表面に押し付けて板材PMの表面に第1凹部C1を形成すると共に、第2斜面S2が先端面T2に突設された第2ダイD2を板材PMの裏面に押し付けて板材PMの裏面に第2凹部C2を形成する工程である。
【0024】
第1斜面S1は、基端側(即ち、第1ダイD1の先端面T1側)から先端側へ向かうにつれて内側(即ち、軸AX側)に向かって傾斜する環状の斜面である。
図3の(a)に示す例においては第1斜面S1が全域に亘って一定の角度にて直線的に傾斜しているが、第1斜面S1の傾斜角度は必ずしも全域に亘って一定である必要は無く、途中で連続的又は不連続的に傾斜角度が変化してもよい。
【0025】
第1凹部C1は、上述したように第1ダイD1の先端面T1に突設された第1斜面S1が板材PMの表面に押し付けられることによって板材PMの表面に形成される。従って、第1凹部C1は、第1斜面S1に対応する環状の形状を有する部分である第1傾斜部を含む凹部である。尚、
図1に例示する第1凹部C1は、第1斜面S1に対応する環状の形状を有する部分である第1傾斜部を含み且つ全体として環状の形状を有する凹部である。しかしながら、他の実施形態に関する説明において後述するように、第1凹部C1は、第1斜面S1に対応する環状の形状を有する部分である第1傾斜部を含む限り、必ずしも全体として環状の形状を有する必要は無い。
【0026】
第2斜面S2は、基端側(即ち、第2ダイD2の先端面T2側)から先端側へ向かうにつれて内側(即ち、軸AX側)に向かって傾斜する環状の斜面である。
図3の(a)に示す例においては第2斜面S2が全域に亘って一定の角度にて直線的に傾斜しているが、第2斜面S2の傾斜角度は必ずしも全域に亘って一定である必要は無く、途中で連続的又は不連続的に傾斜角度が変化してもよい。
【0027】
第2凹部C2は、上述したように第2ダイD2の先端面T2に突設された第2斜面S2が板材PMの裏面に押し付けられることによって板材PMの裏面に形成される。従って、第2凹部C2は、第2斜面S2に対応する環状の形状を有する部分である第2傾斜部を含む環状の凹部である。
【0028】
第2工程は、板材PMの表面において第1凹部C1に含まれる環状の第1傾斜部によって囲まれる領域の少なくとも一部をパンチP1によって押圧して板材PMの一部を打ち抜く工程である。
図3の(b)に示す例においては、板材PMにおいて穿孔しようとする領域の外側に隣接する部分を、板材PMの表面側に配設された第1保持部材H1(例えば、パッド)と板材PMの裏面側に配設された第2保持部材H2(例えば、ダイ)との間に挟持する。そして、板材PMの表面において第1凹部C1に含まれる環状の第1傾斜部によって囲まれる領域の少なくとも一部をパンチP1によって板材PMの表面側から裏面側にむかって押圧して(図中に示す黒塗りの矢印を参照)板材PMの一部をスクラップSCとして打ち抜く。
【0029】
尚、第1工程において第1ダイD1を板材PMの表面に押し付けたり第2工程においてパンチP1によって板材PMの一部を打ち抜いたりするための駆動機構は、例えば板材PMを構成する材料の性質(例えば、機械的強度及び硬度等)及び板材PMの厚さ並びに板材PMに穿孔する孔の形状及び大きさ等に応じて、当該技術分野において周知の種々の駆動機構の中から適宜選択することができる。典型的には、例えば油圧式プレス機等のプレス機が駆動機構として採用される。
【0030】
更に、第1方法は、以下に列挙する第1要件及び第2要件を満足する。
【0031】
第1要件は、板材PMの表面において第1凹部C1に含まれる環状の第1傾斜部によって囲まれる領域よりも板材PMの裏面において環状の第2凹部C2に含まれる環状の第2傾斜部によって囲まれる領域の方が大きいことである。より詳しくは、第1要件は、第1投影図において、第1工程において第1斜面S1の先端側の端部である第1端部E1(
図3の(a)において白抜きの丸印によって示す)によって囲まれる領域である第1領域の全体が第2斜面S2の先端側の端部である第2端部E2(
図3の(a)において黒塗りの丸印によって示す)によって囲まれる領域である第2領域に含まれることである。尚、第1投影図とは、第2工程においてパンチによって板材を押圧する方向である押圧方向への投影図である。例えば、第1投影図は、
図3に示す軸AXに垂直な平面への垂直投影図である。
【0032】
図4は、第1方法における第1領域及び第2領域の第1投影図における形状の幾つかの例を示す模式図である。
図4において、破線は第1端部E1の第1投影図における位置を、実線は第2端部E2の第1投影図における位置を、それぞれ表す。即ち、破線E1によって囲まれる図形は第1投影図における第1領域の形状を、実線E2によって囲まれる図形は第1投影図における第2領域の形状を、それぞれ表す。
【0033】
図4の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び(f)は、第1領域及び第2領域の第1投影図における形状が円形、楕円形、正方形、長方形、正六角形及びU字状である場合をそれぞれ例示している。第1領域及び第2領域の第1投影図における形状は、第1領域の全体が第2領域に含まれる限り、これらの例に限定されない。尚、
図4においては第1投影図における第1領域及び第2領域の各々の形状を判り易く示すことを目的として第1領域と第2領域との大きさの差異が強調されており、第1投影図における第1領域及び第2領域の実際の形状を正確に示すものではない。
【0034】
第2要件は、第2工程においてパンチP1によって押圧して板材PMの一部を打ち抜く過程において板材PMの表面よりも奥まで入り込むパンチP1の部分が板材PMに穿孔される孔を通過することが可能であることである。より詳しくは、第2要件は、第1投影図において、少なくともパンチの第2工程において板材の表面よりも押圧方向に進行する部分に対応する領域であるパンチ領域の全体が第1領域と重なるか又は第1領域に含まれることである。即ち、第2要件は、第2工程においてパンチP1によって押圧して板材PMの一部を打ち抜く過程において板材PMの表面よりも奥まで入り込むパンチP1の部分全体の第1投影図における形状が、
図4において破線E1によって囲まれる領域である第1領域と重なるか又は第1領域に含まれることである。
【0035】
〈効果〉
第1方法においては、上述したように、板材PMの所定の部位をパンチP1によって押圧して穿孔する前に、穿孔する領域を囲む環状の第1凹部C1を板材PMの表面に形成すると共に第1凹部C1よりも広い環状の第2凹部C2を板材PMの裏面に形成しておく。その後、第1凹部C1に含まれる環状の第1傾斜部によって囲まれる領域をパンチP1によって押圧する。このような打ち抜き加工における破断面は、例えば
図3の(a)において第1端部E1(白抜きの丸印)から第2端部E2(黒塗りの丸印)へと向かう破線によって描かれた矢印によって例示するように、打ち抜き方向(軸AX方向における下向き)に向かってテーパ状に広がる。従って、第1凹部C1の最深部(第1端部E1に対応)から第2凹部C2の最深部(第2端部E2に対応)へと破断面を連続的に形成させることができる。その結果、チギレ等に起因するバリの発生を低減することができる。即ち、打ち抜き加工により板材PMに孔を穿孔する際に孔の裏面側の周縁におけるバリ等の発生を低減することができる。また、第1凹部C1に含まれる環状の第1傾斜部及び第2凹部C2に含まれる環状の第2傾斜部により、孔の表面側の周縁に面取りを形成することができる。
【0036】
即ち、第1方法によれば、打ち抜き加工により板材に孔を穿孔する際に孔の裏面側の周縁におけるバリ等の発生及び/又は残存を低減すると共に孔の表面側の周縁に面取りを形成することができる。
【0037】
《第2実施形態》
以下、本発明の第2実施形態に係る側壁部の形成方法(以降、「第2方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0038】
前述したように、第1方法においては、板材PMの所定の部位をパンチP1によって押圧して穿孔する前に、穿孔する領域を囲む環状の第1凹部C1を板材PMの表面に形成すると共に第1凹部C1よりも広い環状の第2凹部C2を板材PMの裏面に形成しておく。これにより、第1凹部C1に含まれる環状の第1傾斜部によって囲まれる領域をパンチP1によって押圧する打ち抜き加工において、第1凹部C1の最深部(第1端部E1に対応)から第2凹部C2の最深部(第2端部E2に対応)へと破断面を連続的に形成させることができる(
図3の(a)において破線によって描かれた矢印を参照)。その結果、チギレ等に起因するバリの発生を低減することができる。
【0039】
上記のような打ち抜き加工において打ち抜き方向(
図3に示した例においては軸AX方向における下向き)に向かってテーパ状に広がる破断面の打ち抜き方向に対する角度は、例えば板材PMを構成する材料の性質(例えば、機械的強度及び硬度等)及び板材PMの厚さ、板材PMに穿孔する孔の形状及び大きさ並びに打ち抜き加工におけるパンチの速度等によって異なる。
【0040】
しかしながら、本発明者は、本発明に係る打ち抜き加工方法(本発明方法)においては第1領域と第2領域との共通の軸である第1軸を含む平面による断面において第1端部及び第2端部を通る直線と第1軸とがなす角度が所定の範囲にある場合に、第1凹部C1の最深部(第1端部E1に対応)から第2凹部C2の最深部(第2端部E2に対応)へと繋がる破断面をより確実に形成させることができることを見出した。
【0041】
〈構成〉
そこで、第2方法は、前述した第1方法であって、以下に列挙する第3要件及び第4要件を更に満足する。
【0042】
第3要件は、第1領域及び第2領域の共通の中心軸である第1軸を含む平面による断面である第1断面において、第1端部及び第2端部を通る直線である第1直線と第1軸とがなす角度が7度以上であり且つ12度以下であることである。
【0043】
例えば、第1方法に関する説明において参照した
図3に示した例においては、第1端部E1及び第2端部E2を通る直線である第1直線が破線によって描かれている。また、第1領域及び第2領域の共通の軸である第1軸は一点鎖線によって描かれたパンチの軸AXに一致している。尚、
図3に示した例においては、第1方法に含まれる第1工程及び第2工程の完了時における各部材の形状及び位置関係を判り易く例示することを目的として、第1直線(破線)と第1軸(一点鎖線)とがなす角度θが大きく描かれている。しかしながら、この角度θを7度以上であり且つ12度以下とすることにより、板材PMの表面において第1凹部C1に含まれる環状の第1傾斜部によって囲まれる領域をパンチP1によって打ち抜く第2工程において、第1凹部C1の最深部(第1端部E1に対応)から第2凹部C2の最深部(第2端部E2に対応)へと繋がる破断面をより確実に形成させることができる。
【0044】
ところで、例えば、第2工程において穿孔される孔の周縁部における変形及び/又は歪み等を低減する観点からは、パンチP1によって打ち抜かれるスクラップSCの形状に対応する第1領域の形状が中心軸(第1軸)の周りに回転対称であることが好ましい。従って、第2領域の形状もまた中心軸(第1軸)の周りに回転対称であることが好ましい。即ち、第1領域及び第2領域の形状は同軸状の回転対称であることが好ましい。
【0045】
更に、上述した第1直線(破線)と第1軸(一点鎖線)とがなす角度θが第1領域及び第2領域の全周に亘って上述した所定の範囲にあるためには、第1領域の形状と第2領域の形状とが互いに相似であることが好ましい。
【0046】
そこで、第4要件は、第1投影図において、第1領域及び第2領域が第1軸の周りに回転対称であり且つ互いに相似な形状を有することである。
【0047】
例えば第1方法に関する説明において参照した
図4に示した例においては、(a)乃至(e)に例示した(破線E1によって囲まれた)第1領域及び(実線E2によって囲まれた)第2領域の共通の軸である第1軸(図中に示すX印を参照)の周りに回転対称であり且つ互いに相似な形状を有する。即ち、これらの第1領域及び第2領域は第4要件を満足している。一方、
図4の(f)に例示した第1領域及び第2領域は回転対称ではなく且つ互いに相似な形状を有していない。即ち、(f)に例示した第1領域及び第2領域は第4要件を満足していない。
【0048】
〈効果〉
第2方法においては、上述したように、第1断面において第1端部及び第2端部を通る直線である第1直線と第1領域及び第2領域の共通の軸である第1軸とがなす角度が7度以上であり且つ12度以下である(第3要件を満足する)。これにより、板材の表面において第1凹部に含まれる第1傾斜部によって囲まれる領域をパンチによって打ち抜く第2工程において、第1凹部の最深部から第2凹部の最深部へと繋がる破断面をより確実に形成させることができる。
【0049】
また、第1投影図において第1領域及び第2領域が第1軸の周りに回転対称であり且つ互いに相似な形状を有する(第4要件を満足する)。これにより、第2工程において穿孔される孔の周縁部における変形及び/又は歪み等を低減すると共に、第1直線(破線)と第1軸(一点鎖線)とがなす角度を第1領域及び第2領域の全周に亘って上述した所定の範囲に収めることができる。
【0050】
《第3実施形態》
以下、本発明の第3実施形態に係る側壁部の形成方法(以降、「第3方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0051】
本発明の第1実施形態に係る側壁部の形成方法(第1方法)に含まれる第1工程は、
図3の(a)を参照しながら説明したように、第1斜面S1が先端面T1に突設された第1ダイD1を板材PMの表面に押し付けて板材PMの表面に第1凹部C1を形成すると共に、第2斜面S2が先端面T2に突設された第2ダイD2を板材PMの裏面に押し付けて板材PMの裏面に第2凹部C2を形成する工程である。
【0052】
第1ダイD1の先端面T1における第1斜面S1及び第2ダイD2の先端面T2における第2斜面S2よりも内側(中心側)の構成は、上記第1工程の実行により板材PMの表面及び裏面に第1凹部C1及び第2凹部C2をそれぞれ形成することが可能である限り、特に限定されない。しかしながら、板材PMの表面及び裏面に第1凹部C1及び第2凹部C2を確実に形成する観点からは、第1斜面S1の先端側の端部である第1端部E1及び第2斜面S2の先端側の端部である第2端部E2によって環状の稜線が構成された環状山のような突起が第1ダイD1の先端面T1及び第2ダイD2の先端面T2にそれぞれ形成されていることが好ましい。
【0053】
〈構成〉
そこで、第3方法は、前述した第1方法又は第2方法であって、以下に列挙する第5要件及び第6要件を更に満足する。
【0054】
第5要件は、第1ダイD1の先端面T1において、環状の第1斜面S1の内側(中心側)に隣接して基端側(即ち、第1ダイD1の先端面T1側)から先端側の端部である第1端部E1へ向かうにつれて外側(即ち、軸AXとは反対側)に向かって傾斜する環状の斜面が形成されていることである。換言すれば、第5要件は、
図3の(a)に例示するように、第1ダイD1において、基端側から先端側へ向かうにつれて外側に向かって傾斜し且つ第1端部E1において第1斜面S1に隣接する環状の斜面である第3斜面S3が先端面T1に突設されていることである。
【0055】
一方、第6要件は、上記第5要件と同様に、第2ダイD2の先端面T2において、環状の第2斜面S2の内側(中心側)に隣接して基端側(即ち、第2ダイD2の先端面T2側)から先端側の端部である第2端部E2へ向かうにつれて外側(即ち、軸AXとは反対側)に向かって傾斜する環状の斜面が形成されていることである。換言すれば、第6要件は、
図3の(a)に例示するように、第2ダイD2において、基端側から先端側へ向かうにつれて外側に向かって傾斜し且つ第2端部E2において第2斜面S2に隣接する環状の斜面である第4斜面S4が先端面T2に突設されていることである。
【0056】
上記のような構成により、第1斜面S1の先端側の端部である第1端部E1及び第2斜面S2の先端側の端部である第2端部E2によって環状の稜線が構成された環状山のような突起が第1ダイの先端面及び第2ダイの先端面にそれぞれ形成される。但し、斯かる環状山のような形状を有する突起において第1端部E1及び第2端部E2によって構成される環状の稜線は、必ずしも鋭利な稜線である必要は無い。即ち、板材PMの表面及び裏面に第1凹部C1及び第2凹部C2をそれぞれ形成することが可能である限り、これらの稜線は、例えば、後述する本発明の第4実施形態に係る側壁部の形成方法に関する説明において参照する
図5の(a)に例示するように、ある程度の幅を有する緩やかな稜線であってもよい。
【0057】
また、
図3の(a)に示す例においては、第3斜面S3及び第4斜面S4の傾斜角度が何れも途中で不連続的に変化している。しかしながら、第3斜面S3及び/又は第4斜面S4の傾斜角度が途中で連続的に変化してもよく、或いは第3斜面S3及び/又は第4斜面S4の傾斜角度が全域に亘って一定であってもよい。
【0058】
〈効果〉
第3方法においては、上述したように、基端側から先端側へ向かうにつれて外側に向かって傾斜し且つ第1端部において第1斜面に隣接する環状の斜面である第3斜面及び基端側から先端側へ向かうにつれて外側に向かって傾斜し且つ第2端部において第2斜面に隣接する環状の斜面である第4斜面が第1ダイ及び第2ダイの先端面にそれぞれ突設されている。即ち、第1斜面の先端側の端部である第1端部及び第2斜面の先端側の端部である第2端部によって環状の稜線が構成された環状山のような突起が第1ダイの先端面及び第2ダイの先端面にそれぞれ形成されている。
【0059】
第3方法に含まれる第1工程おいては、第1ダイの先端面及び第2ダイの先端面が斯かる構成を有することにより、板材の表面及び裏面に第1凹部及び第2凹部を確実に形成することができる。その結果、第3方法によれば、打ち抜き加工により板材に孔を穿孔する際に孔の裏面側の周縁におけるバリ等の発生及び/又は残存をより確実に低減すると共に孔の表面側及び裏面側の周縁に面取りをより確実に形成することができる。
【0060】
《第4実施形態》
以下、本発明の第4実施形態に係る側壁部の形成方法(以降、「第4方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0061】
前述したように、本発明の第3実施形態に係る側壁部の形成方法(第3方法)においては、第1斜面の先端側の端部である第1端部及び第2斜面の先端側の端部である第2端部によって環状の稜線が構成された環状山のような突起が第1ダイの先端面及び第2ダイの先端面にそれぞれ形成されている。その結果、第3方法によれば、打ち抜き加工により板材に孔を穿孔する際に孔の裏面側の周縁におけるバリ等の発生及び/又は残存をより確実に低減すると共に孔の表面側及び裏面側の周縁に面取りをより確実に形成することができる。
【0062】
ところで、
図3の(a)において細かい斜線によるハッチングが施された部分によって例示するように、第1工程おいて第1ダイ及び第2ダイの先端面に形成された環状の突起を板材に押し付けることにより板材の表面及び裏面に第1凹部及び第2凹部を形成する際には、第1凹部及び第2凹部となる部分に存在した板材の材料が塑性流動により環状の突起の内側に移動して隆起した部分(以降、単に「隆起部」と称呼される場合がある。)が形成される。
【0063】
図5は、第3方法に含まれる第1工程の実行に伴って形成される隆起部の形状及び隆起部の形成に伴って生ずる問題を例示する模式的な断面図である。尚、
図5の(a)においては、隆起部の形状を判り易く例示することを目的として、板材の隆起部以外の部分は省略されている。
図5に例示するように、例えば板材PMを構成する材料の性質(例えば、塑性流動のし易さ等)及び板材PMの厚さ、板材PMに穿孔する孔の形状及び大きさ並びに第1ダイD1の先端面T1及び第2ダイD2の先端面T2に形成された環状の突起の高さ及び環状の突起の板材PMへの押し込み量等によっては、隆起部BP1及びBP2の頂面が凸状の曲面となる場合がある。
【0064】
例えば板材PMを構成する材料の性質(例えば、機械的強度、硬度及び塑性流動のし易さ等)及び板材PMに穿孔する孔の形状及び大きさ等に起因して第2工程におけるパンチP1による打ち抜き荷重が大きい場合は、第1凹部及び第2凹部の深さをより大きくする必要がある。このような場合においては特に上述したように隆起部BP1及びBP2の頂面が凸状の曲面となる傾向が強い。
【0065】
一方、前述したように、第2工程においては、板材PMの表面において第1凹部に含まれる環状の第1傾斜部によって囲まれる領域の少なくとも一部がパンチP1によって押圧されて板材PMの一部がスクラップSCとして打ち抜かれる。この際、上記のように板材PMの表面に形成された隆起部BP1の頂面が凸状の曲面となっていると、
図5の(b)に例示するように、パンチP1の頂面(先端面)と隆起部BP1の頂面との接触が面接触ではなく点接触になってしまう。その結果、スクラップSCが打ち抜かれる際に板材PMに穿孔される孔の周縁部において所謂「ダレ」が生じて、白抜きの矢印によって指し示すように、第2ダイD2の第2斜面S2によって形成された第2傾斜部に由来して孔の裏面側の周縁部に残るべき面取りが潰れてしまう場合がある。
【0066】
〈構成〉
【0067】
そこで、第4方法は、前述した第1方法又は第2方法であって、以下に列挙する第7要件及び第8要件を更に満足する。
【0068】
第7要件は、第1ダイにおいて、第1斜面を側面とし第1端部によって画定される押圧方向に垂直な平面を上底とする錐台状の凸部が先端面に突設されていることである。前述したように、第1領域及び第2領域の第1投影図における形状は、第1領域の全体が第2領域に含まれる限り特に限定されない。従って、第1ダイの先端面に突設される錐台状の凸部の上底及び下底の形状及び大きさもまた、第1方法又は第2方法の要件を満足する限り、特に限定されない。
【0069】
第8要件は、第2ダイにおいて、先端面に開口する凹部である第3凹部が第2端部よりも内側に設けられていることである。第3凹部の形状及び大きさは、第1工程おいて第1ダイの先端面に形成された錐台状の凸部及び第2ダイの先端面に形成された環状の突起が板材に押し付けられて板材の表面及び裏面に第1凹部及び第2凹部が形成されることに伴って塑性流動する板材の材料を収容することが可能である限り、特に限定されない。上記のように塑性流動する板材の材料を円滑に収容する観点からは、第3凹部の容積が当該材料の体積以上であることに加えて、第3凹部の開口部が第2ダイの先端面に形成された環状の突起の内側の部分において出来るだけ広い範囲に亘ることが好ましい。
【0070】
図6は、第4方法において用いられる第1ダイ及び第2ダイの構成の一例を示す模式図である。
図6の(a)は第1工程における第1ダイD1及び第2ダイD2の配置を例示する模式的な側面図であり、
図6の(b)は第1ダイD1の先端面T1に形成された第1凸部PP1の構成を例示する模式的な斜視図であり、
図6の(c)は第2ダイD2の先端面T2に形成された第2斜面S2及び第3凹部C3の構成を例示する模式的な斜視図である。また、
図7は、第4方法において用いられる第1ダイ及び第2ダイの構成の一例を示す模式的な断面図(a)並びに第4方法に含まれる第2工程においてスクラップが打ち抜かれる様子を示す模式的な断面図(b)及び(c)である。
【0071】
図6の(b)に例示する第1ダイD1においては、第1斜面S1を側面とし第1端部E1によって画定される押圧方向に垂直な平面を上底UBとする錐台状の第1凸部PP1が先端面T1に突設されている。即ち、
図6の(b)に例示する第1ダイD1は、上述した第7要件を満足している。尚、
図6の(b)に例示する第1凸部PP1は円形の上底UB及び下底を有する円錐台状の形状を有するが、錐台状の第1凸部PP1の上底UB及び下底の形状及び大きさは上述したように第1方法又は第2方法の要件を満足する限り特に限定されない。
【0072】
一方、
図6の(c)に例示する第2ダイD2においては、先端面T2に開口する凹部である第3凹部C3が第2端部E2よりも内側に設けられている。即ち、
図6の(c)に例示する第2ダイD2は、上述した第8要件を満足している。尚、
図6の(c)に例示する第3凹部C3は円形の横断面を有する円柱状の内部空間を有するが、第3凹部の形状及び大きさは上述したように第1工程において板材PMの表面及び裏面に第1凹部C1及び第2凹部C2が形成されることに伴って塑性流動する板材PMの材料を収容することが可能である限り特に限定されない。
【0073】
図7の(a)は、
図6の(a)において太い破線によって囲まれた部分の軸AXを含む平面による拡大断面図である。
図7の(a)からも明らかであるように、第4方法において用いられる第1ダイD1及び第2ダイD2は上述した第7要件及び第8要件をそれぞれ満足している。その結果、
図7の(b)に例示するように、第1工程において第1ダイD1が押し付けられた板材PMの表面には、第1ダイD1の先端面T1に形成された第1凸部PP1の形状に対応して押圧方向に垂直な底面を有する錐台状の凹みが第1凹部C1として形成される。一方、第1工程において第2ダイD2が押し付けられた板材PMの裏面には、第2ダイD2の先端面T2に形成された第2斜面S2に対応する環状の凹みである第2凹部C2が形成される。これに加えて、板材PMの裏面には、第1工程において板材PMの表面及び裏面に第1凹部C1及び第2凹部C2が形成されることに伴って塑性流動して第2ダイD2の第3凹部C3へと流れ込んだ板材PMの材料によって、第2凸部PP2が形成される。
【0074】
上記のように第4方法含まれる第1工程において形成される第1凹部C1は押圧方向に垂直な底面を有するので、
図7の(b)において太い実線によって示すように、第2工程においてはパンチP1の頂面(先端面)と第1凹部C1の底面との接触を点接触ではなく面接触とすることができる。従って、
図5の(b)に例示したように第2工程においてスクラップSCが打ち抜かれる際に板材PMに穿孔される孔の周縁部にダレが生じて第2ダイD2の第2斜面S2によって形成された第2傾斜部に由来して孔の裏面側の周縁部に残るべき面取りが潰れてしまう虞を低減することができる。その結果、
図7の(c)に例示するように、板材PMの裏面側の周縁におけるバリ等の発生及び/又は残存が低減され且つ表面側及び裏面側の周縁に面取りが形成された所期の形状を有する孔を板材PMに穿孔することができる。
【0075】
〈効果〉
第4方法においては、上述したように、第1斜面を側面とし第1端部によって画定される押圧方向に垂直な平面を上底とする錐台状の凸部が第1ダイの先端面に突設されていると共に、先端面に開口する凹部である第3凹部が第2ダイの先端面の第2端部よりも内側に設けられている。従って、第1工程における第1凹部及び第2凹部の形成に伴って塑性流動する板材を構成する材料を第3凹部に収容しつつ押圧方向に垂直な底面を有する錐台状の凹みを第1凹部として板材の表面に形成することができる。その結果、第4方法によれば、第2工程においてスクラップが打ち抜かれる際に板材に穿孔される孔の周縁部にダレが生じて孔の裏面側の周縁部に残るべき面取りが潰れてしまう虞を低減することができる。即ち、第4方法によれば、板材の裏面側の周縁におけるバリ等の発生及び/又は残存が低減され且つ表面側及び裏面側の周縁に面取りが形成された所期の形状を有する孔を板材に確実に穿孔することができる。
【0076】
《第5実施形態》
以下、本発明の第5実施形態に係る側壁部の形成方法(以降、「第5方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0077】
本発明の第3実施形態に係る側壁部の形成方法(第3方法)に関する説明において既に述べたように、板材の表面及び裏面に第1凹部及び第2凹部を確実に形成する観点からは、第1斜面の先端側の端部である第1端部及び第2斜面の先端側の端部である第2端部によって環状の稜線が構成された環状山のような突起が第1ダイの先端面及び第2ダイの先端面にそれぞれ形成されていることが好ましい。
【0078】
しかしながら、上述した第4方法においては、第1斜面を側面とし第1端部によって画定される押圧方向に垂直な平面を上底とする錐台状の凸部が第1ダイの先端面に突設される。従って、上述した第4方法においては、上記のような環状の稜線が構成された環状山のような突起を第1ダイの先端面に形成することはできない。
【0079】
一方、第2ダイの先端面には、先端面に開口する凹部である第3凹部が第2端部よりも内側に設けられる。この第3凹部は、前述したように、第1工程おいて第1ダイの先端面に形成された錐台状の凸部及び第2ダイの先端面に形成された環状の突起が板材に押し付けられて板材の表面及び裏面に第1凹部及び第2凹部が形成されることに伴って塑性流動する板材の材料を収容することを目的として設けられる。従って、第3凹部の形状及び大きさは、当該目的を達成することが可能である限り、特に限定されない。
【0080】
〈構成〉
そこで、第5方法は、前述した第4方法であって、以下に記載する第9要件を更に満足する。
【0081】
第9要件は、第2ダイにおいて、基端側から先端側へ向かうにつれて外側に向かって傾斜し且つ第2端部において第2斜面に隣接する環状の斜面である第4斜面が先端面における第2端部と第3凹部との間に突設されていることである。
【0082】
前述した第3方法に関する説明において参照した
図6の(c)及び
図7の(a)には、上記第4斜面が既に描かれている。即ち、
図6及び
図7に例示した第2ダイD2は、第9要件をも満足する第5方法において用いられる第2ダイでもある。具体的には、
図6の(c)及び
図7の(a)に例示するように、基端側から先端側へ向かうにつれて外側(即ち、軸AXとは反対側)に向かって傾斜し且つ第2端部E2において第2斜面S2に隣接する環状の斜面である第4斜面S4が先端面T2における第2端部E2と第3凹部C3との間に突設されている。
【0083】
即ち、第2ダイD2においては、第2斜面S2の先端側の端部である第2端部E2によって環状の稜線が構成された環状山のような突起が先端面T2に形成されているので、板材PMの裏面に第2凹部C2を確実に形成することができる。
【0084】
〈効果〉
第5方法においては、上述したように、第4方法において用いられる第1ダイと同様に第1斜面を側面とし第1端部によって画定される押圧方向に垂直な平面を上底とする錐台状の凸部が第1ダイの先端面に突設され、且つ、第3方法において用いられる第2ダイと同様に基端側から先端側へ向かうにつれて外側に向かって傾斜し且つ第2端部において第2斜面に隣接する環状の斜面である第4斜面が第2ダイの先端面における第2端部と第3凹部との間に突設されている。
【0085】
従って、第5方法によれば、前述した第4方法と同様に第2工程においてスクラップが打ち抜かれる際に板材に穿孔される孔の周縁部にダレが生じて孔の裏面側の周縁部に残るべき面取りが潰れてしまう虞を低減すると共に、前述した第3方法と同様に板材の裏面に第2凹部を確実に形成することができる。
【0086】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態につき、添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0087】
PM…板材
C1…第1凹部
C2…第2凹部
BP1,BP2…隆起部
PP2…第2凸部
D1…第1ダイ
T1…先端面
S1…第1斜面
E1…第1端部
S3…第3斜面
PP1…第1凸部
UB…上底
D2…第2ダイ
T2…先端面
S2…第2斜面
E2…第2端部
C3…第3凹部
S4…第4斜面
P1…パンチ
AX…軸
H1…第1保持素材
H2…第2保持素材
SC…スクラップ