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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165259
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】消火剤放射システム、及び消火方法
(51)【国際特許分類】
   A62C 31/24 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
A62C31/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081296
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000192073
【氏名又は名称】株式会社モリタホールディングス
(71)【出願人】
【識別番号】591078712
【氏名又は名称】消防庁長官
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】廖 赤虹
(72)【発明者】
【氏名】松島 至俊
(72)【発明者】
【氏名】大室 健
(72)【発明者】
【氏名】金川 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山野 光一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 直久
(72)【発明者】
【氏名】内藤 浩由
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 優太
(72)【発明者】
【氏名】天野 久徳
【テーマコード(参考)】
2E189
【Fターム(参考)】
2E189DB07
2E189KC01
(57)【要約】
【課題】消防隊員が火熱や爆風による被害を受けずに火災区画内部へ有効に消火剤を放射することのできる消火剤放射システム、及びその消火剤放射システムを用いた消火方法を提供する。
【解決手段】消火剤放射システムは、ノズル11から消火剤を放射する可搬式の放水銃10と、消火剤を放水銃10に供給する消火剤供給装置20と、放水銃10を建築物の開口βの周縁に固定する放水銃固定具40と、放水銃10の放射方向を変える放射方向変更機構50と、放射方向変更機構50の操作に用いる遠隔操作器60とを備え、放水銃固定具40は、一つの直線状部材41Aからなるか、又は複数の直線状部材41Aを互いの向きが90度異なるように組み合わされてなり、放水銃10が取り付けられる受け具41と、受け具41に回転自在に設けられ開口βの周縁を挟持する挟持具42とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に取り付けられたノズルから消火剤を放射する可搬式の放水銃と、
前記消火剤を前記放水銃に消防ホースを通じて供給する消火剤供給装置と、
前記放水銃を建築物の開口の周縁に固定する放水銃固定具と、
前記放水銃の放射方向を変える放射方向変更機構と、
前記放水銃から離れた位置での前記放射方向変更機構の操作に用いる遠隔操作器と、を備え、
前記放水銃固定具は、
一つの直線状部材からなるか、又は複数の直線状部材を互いの向きが90度異なるように組み合わされてなり、前記放水銃が取り付けられる受け具と、
前記受け具に回転自在に設けられ前記開口の周縁を挟持する挟持具と、を有することを特徴とする消火剤放射システム。
【請求項2】
前記放射方向変更機構は、前記放水銃の銃身に設けられ回転軸の向きが互いに異なる第一のスイベルジョイント及び第二のスイベルジョイントと、
前記第一のスイベルジョイント及び前記第二のスイベルジョイントを回転させる水圧シリンダー又は電気駆動制御部と、を有し、
前記第一のスイベルジョイントの回転により前記放水銃の放射左右方向が調整され、前記第二のスイベルジョイントの回転により前記放水銃の放射上下方向が調整されることを特徴とする請求項1に記載の消火剤放射システム。
【請求項3】
前記放水銃固定具の前記挟持具は、回転させることで、前記受け具に重なる収納位置と、前記受け具から突出した使用位置とに変更可能であり、
前記挟持具を前記使用位置に回転させた状態にて前記開口の前記周縁を挟持することで、前記放水銃が前記開口の位置に固定されることを特徴とする請求項1に記載の消火剤放射システム。
【請求項4】
前記放水銃固定具には、前記消火剤を放射する際の反動により前記放水銃固定具が挟持位置からずれることを防止する位置ずれ防止材が回転自在に設けられ、
前記位置ずれ防止材の回転は、前記挟持具の回転と連動していることを特徴とする請求項3に記載の消火剤放射システム。
【請求項5】
前記消火剤供給装置は、前記消火剤として水、泡、及び気液混相流のいずれかを選択可能であることを特徴とする請求項1に記載の消火剤放射システム。
【請求項6】
前記気液混相流は、水と空気を水:空気=1:15~1:20の比率で混合してなり、前記放水銃から0.5MPa以上の圧力で放射されることを特徴とする請求項5に記載の消火剤放射システム。
【請求項7】
請求項5に記載の消火剤放射システムを用いた消火方法であって、
火災が発生している建築物の開口の周縁に前記放水銃固定具を係合させることにより前記放水銃を前記ノズルが前記建築物の内部を向いた状態で前記開口の位置に固定し、
火盛期の燃焼に対して、
前記消火剤供給装置から前記放水銃に気液混相流を供給し、
前記遠隔操作器を用いて前記放射方向変更機構を操作して前記ノズルを前記建築物の天井に向け、前記放水銃から前記気液混相流を所定時間放射した後、
前記消火剤供給装置から前記放水銃に水又は泡を供給し、
前記遠隔操作器を用いて放射方向変更機構を操作して前記ノズルを火点に向け、前記放水銃から前記水又は前記泡を放射することを特徴とする消火方法。
【請求項8】
前記気液混相流を構成する水と空気との比率を水:空気=1:15~1:20とし、前記天井に向けて前記放水銃から前記気液混相流を放射するときの放射圧力を0.5MPa以上に設定することを特徴とする請求項7に記載の消火方法。
【請求項9】
前記天井に向けて前記放水銃から前記気液混相流を放射するときの流量を、その後に火点に向けて前記放水銃から前記水又は前記泡を放射するときの流量よりも小さくすることを特徴とする請求項7に記載の消火方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倉庫やスーパーマーケット等の建築物にて発生した火災の消火に用いる消火剤放射システム、及び当該消火剤放射システムを利用した消火方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大型の倉庫等火災が立て続けに発生している。倉庫等の建築物は風雨が内部へ吹き込まないように造られているので、屋根や外壁が大きく破損しない限り、外部からの放水は建築物内に届かない。そのため、建築物内で発生した火災(建物火災)に対しては、消防隊員が内部に進入しなければ効率的な消火活動は難しく、内部へ進入できない場合は、少なくとも火災が発生している区画の開口(非常用進入口や、他の扉や窓等)から放水して出来るだけ広範囲に内部への放水を行う必要がある。このようなことにより、倉庫等火災に対する消火活動は困難を極め、鎮火までに長い時間を要し死傷者が出てしまうこともある。
【0003】
ここで、特許文献1には、方位角および/または仰角を可変し得る放水銃を回線内蔵型ホースを介してポンプ車に接続し、回線内蔵型ホースの途中に放水銃の方位角および/または仰角の制御を行なう中間制御部を設け、中間制御部と放水銃との電気的接続をホース内の回線を介して行うようにした放水銃の遠隔操作装置が開示されている。
また、特許文献2には、油圧、あるいはガス圧を受けてノズルを旋回駆動させる旋回駆動用アクチュエータと、油圧、あるいはガス圧を受けてノズルを俯仰駆動させる俯仰駆動用アクチュエータと、旋回駆動量検出器と、俯仰駆動量検出器と、操作手段の旋回操作量を検出して電気信号を出力する旋回操作量検出器と、操作手段の俯仰操作量を検出して電気信号を出力する俯仰操作量検出器と、補正旋回駆動信号を旋回駆動用アクチュエータに出力する旋回駆動制御手段と、補正俯仰駆動信号を俯仰駆動用アクチュエータに出力する俯仰駆動制御手段とを備えた遠隔操作型放水銃が開示されている。
また、特許文献3には、放水銃の俯仰及び旋回を、消火用水の圧力を利用し、かつ遠隔操縦にて行うようにしてなる放水銃の遠隔操縦装置が開示されている。
また、特許文献4には、空気圧により操作部から遠距離にある駆動部のアクチュエータを作動させる放水銃の空気圧回路の応答性を向上させた、放水銃における空気圧遠隔操作装置が開示されている。
また、特許文献5には、放水ノズル及び固定装置で構成され、固定装置は台座と水バッグを有しており、台座の内側に取り付けた水バッグが放水ノズルからの水圧で脹らむことにより、窓枠などを挟み付けて固定する構造の放水ノズル用水圧固定装置が開示されている。
また、特許文献6には、下枠又は同下枠下の壁部を屋外側と屋内側との間で挟圧する挟持機構を備え、建屋の外側から窓の下枠に懸垂させて配設し、下端より供給した水をノズルより窓外方向へ噴射拡散させ、屋内に立ちこめた煙を窓を介して屋外へ排出させる煙除去装置が開示されている。
また、非特許文献1には、大規模火災の消火を想定して試作した水圧制御の遠隔操作式放水銃が開示され、当該遠隔操作式放水銃は、2本の水圧シリンダーを含む本体と、遠隔操作のためのコントロールバルブ及びホースリールを含む操作台と、放水銃本体からコントロールバルブに送達される加圧水が流れる1本のホースと、旋回用と起伏用の2本のシリンダーに所要の圧力を伝える2本のホースを備えている。
また、非特許文献2には、キャタピラ車にぎ装し放水角度を電動機によって遠隔操作できる大型放水銃と、俯仰旋回動作を手動及び電動で遠隔操作できる小型放水銃が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平01-265978号公報
【特許文献2】特公平06-034838号公報
【特許文献3】特開昭52-061398号公報
【特許文献4】特公昭56-008624号公報
【特許文献5】実公平07-056040号公報
【特許文献6】特開2020-185143号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】輪千正,外2名,“遠隔操作式放水銃の研究試作”,消防科学研究所報,2号(昭和40年),インターネット<URL:https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp-gijyutuka/shyohou2/02/02-09.pdf>
【非特許文献2】斎藤正巳,外2名,“電動遠隔操作による放水銃の開発について”,消防科学研究所報,16号(昭和54年),インターネット<URL:https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp-gijyutuka/shyohou2/16/16-07.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、倉庫等火災に対しては建築物の内部又は開口から放水することが望ましい。しかし、建築物内の火災区画には濃煙と熱気が充満しているため、消防隊員が火災区画内へ進入して消火活動を実施することは困難である。また、火災区画内の燃焼状況の変化や放水による水蒸気膨張により炎や爆風が開口から噴き出す恐れがあるため、開口近傍での放水活動も危険を伴う。
よって、現状の消火活動においては、火熱や爆風による放水隊員への被害を避けるため、建築物からある程度離れた場所より開口に向けて放水している。しかし、建築物の開口は数が少なく面積も小さいため、離れた場所からの放水では散水できる領域が限定され消火剤が火元に届かず、消火効率が高いとは言い難い。
また、建築物内に大量の収納物や貯蔵物等が置かれている場合は、それらが放水を遮る障害になると共に死角が増えるため、火災区画の奥や死角にある燃焼物に放水が届かず、消火に長時間を要してしまう。防火区画は一時間以上の耐火性能を有する構造であることが法定されているが、火災が一時間以上続くと高温により区画が破壊され、隣接する区画に火災が拡大する恐れがある。このため、大空間内に散水の障害となる収納物や貯蔵物等が置かれた大型の倉庫等で発生した火災を迅速に鎮火して延焼拡大を防ぐ燃焼抑制手段が求められている。
【0007】
ここで、特許文献1~4、及び非特許文献1~2においては、火災が発生した区画に設けられている開口に放水銃を位置させることは想定されていない。
また、特許文献5に記載の放水ノズル用水圧固定装置は、窓枠などに放水ノズルを固定することができるが、水バッグを膨らませて用いる構造であるため、衝撃等により水バッグが破損すると放水ノズルの固定がずれてしまう可能性がある。また、消火剤の種類の切替えや、放射方向を遠隔操作により切替えることは想定されていない。
また、特許文献6に記載の煙除去装置は、水を噴射拡散させるノズルを窓枠に固定するものであるが、当該ノズルは屋内を陰圧とするために建屋の外側へ向けて放水するものであり、大流量の消火剤を建屋の内側へ向けて放水するものでは無い。
そこで本発明は、消防隊員が火熱や爆風による被害を受けずに火災区画内部へ有効に消火剤を放射することのできる消火剤放射システム、及びその消火剤放射システムを用いた消火方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の本発明の消火剤放射システムは、先端に取り付けられたノズル11から消火剤を放射する可搬式の放水銃10と、消火剤を放水銃10に消防ホース30を通じて供給する消火剤供給装置20と、放水銃10を建築物の開口βの周縁に固定する放水銃固定具40と、放水銃10の放射方向を変える放射方向変更機構50と、放水銃10から離れた位置での放射方向変更機構50の操作に用いる遠隔操作器60とを備え、放水銃固定具40は、一つの直線状部材41Aからなるか、又は複数の直線状部材41Aを互いの向きが90度異なるように組み合わされてなり、放水銃10が取り付けられる受け具41と、受け具41に回転自在に設けられ開口βの周縁を挟持する挟持具42とを有することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の消火剤放射システムにおいて、放射方向変更機構50は、放水銃10の銃身12に設けられ回転軸の向きが互いに異なる第一のスイベルジョイント51及び第二のスイベルジョイント52と、第一のスイベルジョイント51及び第二のスイベルジョイント52を回転させる水圧シリンダー53又は電気駆動制御部80とを有し、第一のスイベルジョイント51の回転により放水銃10の放射左右方向が調整され、第二のスイベルジョイント52の回転により放水銃10の放射上下方向が調整されることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1に記載の消火剤放射システムにおいて、放水銃固定具40の挟持具42は、回転させることで、受け具41に重なる収納位置と、受け具41から突出した使用位置とに変更可能であり、挟持具42を使用位置に回転させた状態にて開口βの周縁を挟持することで、放水銃10が開口βの位置に固定されることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の消火剤放射システムにおいて、放水銃固定具40には、消火剤を放射する際の反動により放水銃固定具40が挟持位置からずれることを防止する位置ずれ防止材43が回転自在に設けられ、位置ずれ防止材43の回転は、挟持具42の回転と連動していることを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項1に記載の消火剤放射システムにおいて、消火剤供給装置20は、消火剤として水、泡、及び気液混相流のいずれかを選択可能であることを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項5に記載の消火剤放射システムにおいて、気液混相流は、水と空気を水:空気=1:15~1:20の比率で混合してなり、放水銃10から0.5MPa以上の圧力で放射されることを特徴とする。
請求項7記載の本発明の消火方法は、請求項5に記載の消火剤放射システムを用いた消火方法であって、火災が発生している建築物の開口βの周縁に放水銃固定具40を係合させることにより放水銃10をノズル11が建築物の内部を向いた状態で開口βの位置に固定し、火盛期の燃焼に対して、消火剤供給装置20から放水銃10に気液混相流を供給し、遠隔操作器60を用いて放射方向変更機構50を操作してノズル11を建築物の天井に向け、放水銃10から気液混相流を所定時間放射した後、消火剤供給装置20から放水銃10に水又は泡を供給し、遠隔操作器60を用いて放射方向変更機構50を操作してノズル11を火点に向け、放水銃10から水又は泡を放射することを特徴とする。
請求項8記載の本発明は、請求項7に記載の消火方法において、気液混相流を構成する水と空気との比率を水:空気=1:15~1:20とし、天井に向けて放水銃10から気液混相流を放射するときの放射圧力を0.5MPa以上に設定することを特徴とする。
請求項9記載の本発明は、請求項7に記載の消火方法において、天井に向けて放水銃10から気液混相流を放射するときの流量を、その後に火点に向けて放水銃10から水又は泡を放射するときの流量よりも小さくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、倉庫等火災に対して安全かつ効率的な消火を実現する消火剤放射システム、及びその消火剤放射システムを用いた消火方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施例による水圧駆動式の消火剤放射システムの構成図
図2】同放水銃の一例を示す図
図3】同電気駆動式の消火剤放射システムの構成図
図4】同放水銃を建築物の開口の周縁に取り付けた状態を示す図
図5】同放水銃固定具の一部を示す写真
図6】同放水銃固定具の一部を示す斜視図
図7】同非展開状態の放水銃固定具を示す図
図8】放水銃から建築物の開口までの距離と放水銃の放水可能角度との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の実施の形態による消火剤放射システムは、先端に取り付けられたノズルから消火剤を放射する可搬式の放水銃と、消火剤を放水銃に消防ホースを通じて供給する消火剤供給装置と、放水銃を建築物の開口の周縁に固定する放水銃固定具と、放水銃の放射方向を変える放射方向変更機構と、放水銃から離れた位置での放射方向変更機構の操作に用いる遠隔操作器とを備え、放水銃固定具は、一つの直線状部材からなるか、又は複数の直線状部材を互いの向きが90度異なるように組み合わされてなり、放水銃が取り付けられる受け具と、受け具に回転自在に設けられ開口の周縁を挟持する挟持具とを有するものである。
本実施の形態によれば、火災が発生している建築物の開口に放水銃を固定できるため、離れた場所から開口へ向けて消火剤を放射する場合よりも放射可能角度が大きくなり、建築物の内部へ向けて消火剤を効率よく散水することができる。また、挟持具が回転可能であることで、開口の周縁のうちどの箇所を挟むかの選択の幅を広げることができる。
【0012】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による消火剤放射システムにおいて、放射方向変更機構は、放水銃の銃身に設けられ回転軸の向きが互いに異なる第一のスイベルジョイント及び第二のスイベルジョイントと、第一のスイベルジョイント及び第二のスイベルジョイントを回転させる水圧シリンダー又は電気駆動制御部とを有し、第一のスイベルジョイントの回転により放水銃の放射左右方向が調整され、第二のスイベルジョイントの回転により放水銃の放射上下方向が調整されるものである。
本実施の形態によれば、左右と上下の放射方向を銃身の回転により調整することができる。
【0013】
本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態による消火剤放射システムにおいて、放水銃固定具の挟持具は、回転させることで、受け具に重なる収納位置と、受け具から突出した使用位置とに変更可能であり、挟持具を使用位置に回転させた状態にて開口の周縁を挟持することで、放水銃が開口の位置に固定されるものである。
本実施の形態によれば、挟持具は回転させて突出量の少ない収納位置にすることが可能であるため、収納時には放水銃固定具をコンパクトにすることができる。
【0014】
本発明の第4の実施の形態は、第3の実施の形態による消火剤放射システムにおいて、放水銃固定具には、消火剤を放射する際の反動により放水銃固定具が挟持位置からずれることを防止する位置ずれ防止材が回転自在に設けられ、位置ずれ防止材の回転は、挟持具の回転と連動しているものである。
本実施の形態によれば、建築物内へ向けて放水する際の放水銃の放水反動力により受け具が外側に大きく動いてしまうことを位置ずれ防止材で抑制し、放水銃が開口に固定された状態を維持することができる。また、収納位置から使用位置への変更又はその逆を、位置ずれ防止材と挟持具で同時に行えるため、別々に回転させるよりも手間を減らすことができる。
【0015】
本発明の第5の実施の形態は、第1の実施の形態による消火剤放射システムにおいて、消火剤供給装置は、消火剤として水、泡、及び気液混相流のいずれかを選択可能としたものである。
本実施の形態によれば、消火剤を水、泡、及び気液混相流から選択できるため、火災状況に応じて消火剤の種類を使い分けることができる。
【0016】
本発明の第6の実施の形態は、第5の実施の形態による消火剤放射システムにおいて、気液混相流は、水と空気を水:空気=1:15~1:20の比率で混合してなり、放水銃から0.5MPa以上の圧力で放射されるものである。
本実施の形態によれば、消火剤を微細な液滴として霧状に放射することができるため、消火剤は気流に追随して区画の奥まで流れ、また短時間で気化して水蒸気となる。
【0017】
本発明の第7の実施の形態による消火方法は、第5の実施の形態による消火剤放射システムを用いた消火方法であって、火災が発生している建築物の開口の周縁に放水銃固定具を係合させることにより放水銃をノズルが建築物の内部を向いた状態で開口の位置に固定し、火盛期の燃焼に対して、消火剤供給装置から放水銃に気液混相流を供給し、遠隔操作器を用いて放射方向変更機構を操作してノズルを建築物の天井に向け、放水銃から気液混相流を所定時間放射した後、消火剤供給装置から放水銃に水又は泡を供給し、遠隔操作器を用いて放射方向変更機構を操作してノズルを火点に向け、放水銃から水又は泡を放射するものである。
本実施の形態によれば、気液混相流を放射することにより、区画内に水蒸気を大量に発生させて燃焼を迅速に抑制することができる。また、特に天井付近には床付近よりも温度が高い高温層が形成されるため、火盛期において先ずは天井に向けて放水することにより、区画の破損を効果的に抑制できる。また、その後に火点に向けて水又は泡を放射することにより、燃焼物を冷却して完全消火することができる。
【0018】
本発明の第8の実施の形態は、第7の実施の形態による消火方法において、気液混相流を構成する水と空気との比率を水:空気=1:15~1:20とし、天井に向けて放水銃から気液混相流を放射するときの放射圧力を0.5MPa以上に設定するものである。
本実施の形態によれば、消火剤を微細な液滴として霧状に放射することができるため、消火剤は気流に追随して区画の奥まで流れ、また短時間で気化して水蒸気となる。
【0019】
本発明の第9の実施の形態は、第7の実施の形態による消火方法において、天井に向けて放水銃から気液混相流を放射するときの流量を、その後に火点に向けて放水銃から水又は泡を放射するときの流量よりも小さくするものである。
本実施の形態によれば、効率よく消火作業を行うことができる。
【実施例0020】
以下、本発明の一実施例による消火剤放射システム及び消火方法について説明する。
図1は放水銃を水圧で駆動する水圧駆動式とした消火剤放射システムの構成図、図2は放水銃の一例を示す図である。
水圧駆動式の消火剤放射システムは、先端に取り付けられたノズル11から消火剤を放射する可搬式の放水銃10と、消防車1に搭載され放水銃10に消火剤を供給する消火剤供給装置20と、一端が放水銃10に接続され他端が消火剤供給装置20に接続された消防ホース30と、建築物の開口の周縁と係合して放水銃10を開口の位置に固定する放水銃固定具40と、放水銃10の放射方向を変える放射方向変更機構50と、消防隊員が放水銃10から離れた位置での放射方向変更機構50の操作に用いる遠隔操作器60を備える。
消火剤供給装置20は、水ポンプとコンプレッサと消火薬剤容器を有しており、放水銃10へ供給する消火剤の種類を水、泡、及び気液混相流のいずれかに切替えることができる。消火剤の種類が選択可能であることで、火災状況に応じて水による棒状消火、泡による棒状消火、及び気液混相流による噴霧消火等、消火剤の種類と放射形態を使い分けて消火効率を向上させることができる。なお、消防車1に搭載しているコンプレッサを粉末消火剤が入っているタンクに接続すれば、粉末消火剤をノズル11から放射することも可能である。
【0021】
放射方向変更機構50は、放水銃10の銃身12に設けられ回転軸の向きが互いに異なる第一のスイベルジョイント51及び第二のスイベルジョイント52と、第一のスイベルジョイント51及び第二のスイベルジョイント52を回転させる水圧シリンダー53と、水圧シリンダー53の作動制御に用いる切替弁54と、水圧シリンダー53と切替弁54とを繋ぎ作動用流体が流れる送水管55を備える。水圧シリンダー53は放水銃10に取り付けられ、切替弁54は放水銃10から十分に離して配置される。
放水銃10は、旋回と俯仰(起伏)の2自由度を有し、第一のスイベルジョイント51の回転により放射左右方向が調整され、第二のスイベルジョイント52の回転により放射上下方向が調整される。すなわち、第一のスイベルジョイント51が旋回用回転部として機能し、第二のスイベルジョイント52が俯仰用回転部として機能することにより、放水銃10の左右と上下の放射方向を銃身12の回転により調整することができる。
水圧シリンダー53は、ピストンの往復動によって第一のスイベルジョイント51を左右(水平方向)に回転させる第一のシリンダー53Aと、ピストンの往復動によって第二のスイベルジョイント52を上下(鉛直方向)に回転させる第二のシリンダー53Bと、ピストンの往復動によって放水銃10の放射流量を変える第三のシリンダー53Cの三つが設けられている。
送水管55を流れる作動用流体は、切替弁54を介して外部から供給される流体であり、水圧シリンダー53の作動に用いられる。
切替弁54には、作動用流体として用いる流体(圧力水)が消防車1から制御水供給管70を通じて供給される。切替弁54は例えば電磁弁であり、消防隊員が持つコントローラ等の遠隔操作器60から送信された信号に基づいて開閉し、作動用流体の供給と不供給との切り替えにより水圧シリンダー53の作動を制御する。なお、切替弁54は、消防隊員が直接操作できる手動弁とすることもでき、この場合は切替弁54としての手動弁が遠隔操作器60を兼ねる。
このように水圧駆動式の消火剤放射システムにおける放射方向変更機構50は、放水銃10の方向転換や放射流量の調節を水圧を利用して行うため、高温や多量の水にさらされる過酷な火災環境下において、熱対策や防水対策を厳重に施さなくとも使用することができる。
【0022】
また、消火剤放射システムは、放水銃10を電気で駆動する電気駆動式とすることもできる。図3に電気駆動式の消火剤放射システムの構成図を示す。
電気駆動式の消火剤放射システムは、先端に取り付けられたノズル11から消火剤を放射する可搬式の放水銃10と、消防車1に搭載され放水銃10に消火剤を供給する消火剤供給装置20と、一端が放水銃10に接続され他端が消火剤供給装置20に接続された消防ホース30と、建築物の開口の周縁と係合して放水銃10を開口の位置に固定する放水銃固定具40と、ノズル11の放射方向又は放射形態を電気を利用した遠隔操作により切替える放射方向変更機構50と、消防隊員が放水銃10から離れた位置での放射方向変更機構50の操作に用いる遠隔操作器60を備える。
を備える。
【0023】
放射方向変更機構50は、放水銃10の銃身12に設けられ回転軸の向きが互いに異なる第一のスイベルジョイント51及び第二のスイベルジョイント52と(図2参照)、電気駆動制御部80を備える。電気駆動制御部80は、リモコン等の遠隔操作器60と有線又は無線で接続されている。
電気駆動制御部80は、第一のスイベルジョイント51と第二のスイベルジョイント52のそれぞれに接続したシャフトと、そのシャフトを駆動する電動モーターと、電動モーター用制御盤を有し、第一のスイベルジョイント51を左右(水平方向)に回転させ、第二のスイベルジョイント52を上下(鉛直方向)に回転させる。
放水銃10は、水圧駆動式の消火剤放射システムと同様に、旋回と俯仰(起伏)の2自由度を有し、第一のスイベルジョイント51の回転により放射左右方向が調整され、第二のスイベルジョイント52の回転により放射上下方向が調整される。
【0024】
上記した水圧駆動式又は電気駆動式の消火剤放射システムにおいて、気液混相流は、例えば水と空気を混合することにより生成する。この気液混相流は、混合比率が水:空気=1:15~1:20であり、放水銃10から放射する際の放射圧力が0.5MPa以上であることが好ましい。なお、放射圧力の上限は、空気を供給する空気圧縮機の圧力上限にもよるが、例えば0.9MPaとする。
これにより、消火剤を微細な液滴として霧状に放射することができるため、消火剤は気流に追随して区画の奥まで流れ、また短時間で気化して水蒸気となる。
【0025】
図4は放水銃を建築物の開口の周縁に取り付けた状態を示す図であり、図4(a)は正面図、図4(b)は側面図である。
上記した水圧駆動式又は電気駆動式の消火剤放射システムにおいて、放水銃固定具40は、放水銃10が取り付けられる受け具41と、受け具41に設けられた挟持具42、位置ずれ防止材43、支持材44、及び回転材45を備える。
建築物は例えばビルや倉庫、スーパーマーケット等である。建築物の外壁や内壁等の区画壁αには、非常用進入口ともなる窓や出入口等の開口βが設けられており、放水銃固定具40は、放水銃10を開口βの位置に固定するのに用いる。なお、開口βには窓ガラスや扉が設けられるが、図では省略している。
放水銃10は、先端に大流量の消火剤を放射可能なノズル11が取り付けられ、後端に消防ホース30が接続される。
【0026】
受け具41は、四本の直線状部材41Aを互いの向きが90度異なるように矩形枠状に組み合わせてなる。なお、受け具41は、一本の直線状部材41Aのみで構成したI字状、二本の直線状部材41Aで構成したL字状、三本の直線状部材41Aで構成したコ字状等とすることも可能である。直線状部材41Aとしては、例えば角パイプを用いることができる。
【0027】
挟持具42は、開口βの周縁にある区画壁α等を厚み方向に挟むのに用いる。挟持具42は複数設けることが好ましく、本実施例では受け具41の四隅それぞれに回転材45を介して回転自在に挟持具42を取り付けている。回転材45は、ボールプランジャ等を利用し所定の回転角度ごと(例えば0°,90°,180°,270°など)に保持できる構造としている。
挟持具42は、放水銃固定具40が開口βに設置された状態においては、受け具41から外方へ突出して、建築物の開口βの周縁にある区画壁α等を挟んでいる。挟持具42で建築物の非常用進入口等の開口βの周縁を挟むことにより、受け具41に取り付けられた放水銃10を開口βの位置に一時的に固定できる。
また、挟持具42が回転可能であることで、開口βの周縁のうちどの箇所を挟むかの選択の幅を広げることができる。下表1に、放水銃固定具40を開口βに固定する際の挟持具42の使用個数と挟持箇所の組合せ例を示す。
【表1】
表1に示すように、開口βの上下左右の周縁のうち二箇所以上を挟持することが望ましい。例えば図4(a)では、受け具41を開口βの一側方に寄せた配置とし、四つの挟持具42のうちの三つで開口βの下方二箇所と側方一箇所を挟んでおり、表1中のパターンIIに該当する。このように開口βの周縁の複数箇所を挟持具42で挟むことで、放水銃10が開口βの位置に固定された状態を安定して維持することができる。
【0028】
位置ずれ防止材43は、直線状部材41Aよりも十分長さの短いプレート等で構成され、受け具41の隅に回転材45を介して回転自在に取り付けられている。位置ずれ防止材43は、放水銃固定具40が開口βに設置された状態においては、受け具41から外方へ突出して、建築物の内側から開口βの周縁に当接する。これにより、建築物の中へ向けて放水する際に放水銃10の放水反動力により受け具41が建築物の外側に大きく動いてしまうことを位置ずれ防止材43で抑制し、放水銃10が開口βに固定された状態を維持することができる。
位置ずれ防止材43は複数設けることが好ましいが、すべての直線状部材41Aに設けなくてもよい。本実施例では、図4に示すように、放水銃10を取り付ける直線状部材41Aの両端にのみ位置ずれ防止材43を設けている。これにより、位置ずれ防止材43を設けることによる重量やコストを抑制しつつ、放水銃10を安定して保持し続けることができる。
【0029】
図5は放水銃固定具の一部を示す写真であり、図5(a)は斜め上方からの撮影写真、図5(b)は上方からの撮影写真である。
支持材44は、直線状部材41Aに一端がネジ等で固定されて直線状部材41Aに対して略垂直に突出しており、平らな底面は直線状部材41Aの底面と略面一となっている。支持材44の長さ(突出量)は、例えば約20cmとするなど、一般的に想定される開口βの厚みよりも十分に大きいものとする。また、本実施例においては、支持材44は直線状部材41Aに対して略垂直に接続されているが、直線状部材41Aに対して斜めに接続されることでも良い。但し、いずれの場合においても、支持材44の垂直方向の飛び出しが受け具41の厚みに対して十分に大きい必要がある。
支持材44は、開口βの厚み方向に沿い開口βの枠に底面が接して配置される。支持材44があることにより、放水銃10が取り付けられた放水銃固定具40を開口βの枠に配置したときの安定性が増すため、放水銃10を開口βの位置にスムーズに固定することができる。また、支持材44は、図5に示すように放水銃10を保持する役割も併せ持つことができる。
なお、支持材44はすべての直線状部材41Aに設けなくてもよい。本実施例では、四つの直線状部材41Aのうち放水銃10が配置される直線状部材41Aにのみ支持材44を設けている。これにより、支持材44を設けることによる重量やコストを抑制しつつ、放水銃10を安定して保持し続けることができる。
【0030】
図6は放水銃固定具の一部を示す斜視図であり、図4における放水銃固定具の左隅部分である。
挟持具42は、棒状の主体42Aと副体42Bを備えており、開口βの周縁にある区画壁α等を主体42Aと副体42Bにより挟持することができる。
【0031】
主体42Aは、開口βに対して略垂直となる垂直部分42Aaと、開口βに対して略平行となる平行部分42AbとによってL字型をなしており、平行部分42Abの先端には内側から区画壁αに当接する内当接部42Acが設けられている。内当接部42Acは、例えば矩形プレートであり、平行部分42Abよりも幅が大きい。
主体42Aは受け具41を貫通しており、垂直部分42Aaの後端は受け具41の一方側に位置し、平行部分42Abは受け具41の他方側に位置する。ここで、受け具41の一方側とは建築物の外側に向けられる側であり、他方側とは建築物の内側に向けられる側である。
主体42Aの垂直部分42Aaは、受け具41に軸支されており、前後方向に移動(スライド)させることができる。
【0032】
副体42Bは、主体42Aと接続する棒状の主体接続部42Ba、ボルトのように螺旋状の溝が形成された隙間調節部42Bb、円板状の外当接部42Bc、及び隙間調節部42Bbの移動操作に用いる棒状のハンドル42Bdを備える。
主体接続部42Baは、主体42Aの垂直部分42Aaを通す孔を一端側に有し、隙間調節部42Bbを通す雌ねじ孔を他端側に有する。主体接続部42Baは、主体42Aに係合した状態で前後方向に移動(スライド)させることができる。主体接続部42Baの長さは、主体42Aの平行部分42Abの長さと略同一である。
隙間調節部42Bbは、主体接続部42Baの雌ねじ孔に螺合して通されており、主体42Aの垂直部分42Aaと略平行に前進又は後退させることができる。
外当接部42Bcは、隙間調節部42Bbよりも幅広であって隙間調節部42Bbの前端に設けられており、外側から区画壁αに当接する。外当接部42Bcは、主体42Aの内当接部42Acと対向した位置にある。
ハンドル42Bdは、隙間調節部42Bbの後端側に設けられた孔に通されている。ハンドル42Bdを回し隙間調節部42Bbを回転させることで、隙間調節部42Bbを前進又は後退させることができる。
なお、隙間調節部42Bbは、本実施例のように全体が前後に移動するものではなく、一部が前後にスライドする等の伸縮構造のものであってもよい。
【0033】
放水銃固定具40を開口βの周縁に設置する際は、主体42A側においては内当接部42Acを開口βの周縁にある区画壁αの内側に密接させ、副体42B側においてはハンドル42Bdを回して隙間調節部42Bbを前進させ外当接部42Bcを開口βの周縁にある区画壁αの外側に押し当てる。これにより、内当接部42Acと外当接部42Bcとで開口βの周縁の区画壁αを挟み込んだ状態となり、比較的幅が大きい内当接部42Acと外当接部42Bcが区画壁αに密接しているため、挟持状態を安定して維持することができる。
また、隙間調節部42Bbを前後に移動させることにより外当接部42Bcから区画壁αまでの距離(外当接部42Bcと内当接部42Acとの隙間)を変更できるため、当該距離を区画壁αの厚みに応じて迅速に調節し、外当接部42Bcを区画壁αに確実に押し当てることができる。
また、主体42Aや主体接続部42Baを、それぞれ前後方向に移動可能としていることで、開口βの周縁の区画壁αに対する受け具41の位置調節や、内当接部42Acと外当接部42Bcとの隙間調節等が容易となるため、放水銃10の固定作業を迅速に完了することができる。また収納時や持ち運び時においては、受け具41と挟持具42との位置を適切に調節して放水銃固定具40をコンパクトにすることができる。
【0034】
位置ずれ防止材43は、主体42Aの内当接部42Acと同じく受け具41の他方側に位置するが、主体42Aの内当接部42Acが開口βから少し離れた位置で区画壁αに当接するのに対し、開口βに比較的近い位置で区画壁αに当接するようになっている。
上記のように挟持具42と位置ずれ防止材43は、共通の回転材45を介して受け具41に取り付けられており、回転材45の回転軸を軸として所定の角度に回転させることで、下向きや横向き等に向きを変えることができる。これにより、開口βが矩形状である場合、各挟持具42は開口βの水平辺と鉛直辺のどちらでも挟むことが可能であることが可能な場面が増え、挟む箇所の選択の幅が広がるため、現場の状況に柔軟に対応して放水銃固定具40を迅速に設置することができる。
挟持具42の回転と位置ずれ防止材43の回転は連動しており、挟持具42を回転させると、それと同時に位置ずれ防止材43も同じ角度だけ回転する。これにより、収納位置から使用位置への変更動作又はその逆の動作を両部材同時に行えるため、別々に回転させるよりも手間を減らすことができる。
【0035】
図7は非展開状態の放水銃固定具を示す図である。
収納時や現場までの運搬時は、挟持具42及び位置ずれ防止材43を回転させて受け具41に重なる収納位置とすることで、放水銃固定具40を非展開状態とする。一方、区画壁αに設置するにあたっては、挟持具42及び位置ずれ防止材43を回転させて受け具41から外方へ突出した使用位置とすることで、放水銃固定具40を展開状態とする。
収納位置は、受け具41の外方への挟持具42及び位置ずれ防止材43の突出量が使用位置よりも小さくなる位置であり、本実施例では図7のように受け具41の矩形枠内に納まる位置としている。これにより、非展開状態における放水銃固定具40全体の大きさを展開状態よりもコンパクトにすることができる。このため、消防車1等における収納スペースに放水銃固定具40が占める割合を小さくすることができ、また、挟持具42及び位置ずれ防止材43が受け具41の枠内に収められていることで、持ち運び時などに挟持具42や位置ずれ防止材43が建屋等に接触して損傷する可能性を小さくできる。
【0036】
次に、消火剤放射システムを用いた消火方法について説明する。
火災現場に到着した消防隊員は、消防車1から放水銃10と放水銃固定具40を持ち出して火災が発生している建築物の開口(非常用進入口)βまで運び、開口βの周縁に放水銃固定具40を係合させて放水銃10を開口βの位置に固定する。このとき放水銃10のノズル11は、建築物内に突き出した状態とする。消防隊員は、開口βへの放水銃10の設置作業が完了次第、建築物から離れる。
開口βに設置された放水銃10は消防ホース30を介して消火剤供給装置20に接続されており、消火剤供給装置20から消火剤を供給することにより放水銃10から建築物内へ向けて消火剤が放射される。
消火剤放射システムが水圧駆動式の場合は、消防隊員がコントローラ等の遠隔操作器60を用いて切替弁54を操作することにより、また消火剤放射システムが電気駆動式の場合は、消防隊員がリモコン等の遠隔操作器60を用いて電気駆動制御部80を操作することにより、放水銃10の放射方向や放射流量を調節する。このように構造物から離れた位置で放水銃10を遠隔操作できることで、消防隊員の安全を確保することができる。
【0037】
ここで、図8は放水銃から建築物の開口までの距離[m]と放水銃の放水可能角度(散水可能角度)[°]との関係を示す図、下表2は放水銃から建築物の開口までの距離[m]と放水銃による放水面積比率(散水面積比率)[%]との関係を示す表である。なお、表2の放水面積比率は、放水銃10から開口βまでの距離が0mのときを100%として表している。
図8に示す開口(非常用進入口)βの幅は、建築基準法施行令で定められている下限の0.75mである。この開口βに対して十分な放水射程を放水銃10が有し、また放水面積が放水角度と単純に比例すると仮定すれば、表2に示すように放水銃10から開口βまでの距離ごとの放水面積比率が得られる。
【表2】
【0038】
本実施例の消火剤放射システムは、放水銃10のノズル11を開口βよりも内側に位置させることができるため、図8に示すように、建築物の屋内へ放射するときの左右(水平)方向の放水可能角度を約180°とすることができ、また、上下(鉛直)方向の放水可能角度も大きくできる。
一方、従来のように放水銃が開口βから離れた位置にある場合は、左右方向の放水可能角度が、距離1mで約41°、距離3mで約14°、距離5mで約9°、距離10mで約4°であり、表2に示すように、放水面積比率は、距離が0mの場合と比べると、放水銃が開口βから1m離れただけでも約8割減少し、3m離れると9割以上減少することが分かる。また、建築物内に収納物や貯蔵物等が高く積み上げられている場合には、放水銃が開口βから離れると上下方向の放水可能角度も小さくなり、空間的にみると放水効率が更に低下する。
このように、本実施例の消火剤放射システムは、火災が発生している建築物の開口βに放水銃10を固定できることにより、離れた場所から開口βへ向けて消火剤を放射する場合よりも放射可能角度を大きくとれ、建築物の内部へ向けて消火剤を効率よく散水できるため、隣接区画に延焼する前に鎮火させる可能性を高めることができる。また、消防隊員は放水銃10を持って放射する必要が無く開口βから離れて放射方向等を操作できるため、火熱や爆風による被害を受けることなく消火活動を行うことができる。
【0039】
通常、建築物における火災時の燃焼は時間とともに成長し、初期/成長期→火盛期→終期という時間経過を辿る。倉庫等の建築物における防火区画は、一時間以上の耐火性能を有するように建築基準法施行令に規定されているが、火災による高温が一時間を超えて続くと、区画壁αや天井等が破損して隣接区画に延焼する可能性がある。
そこで、最も室内温度が高くなる火盛期の燃焼に対しては、以下の手順で放水する。
(1)消火剤供給装置20の消火剤種類切替手段を操作して、消火剤供給装置20から放水銃10に気液混相流が供給される状態とする。なお、気液混相流は気体と液体が混合された流体であって二流体とも呼ばれ、液体のみの一流体と比べて勢いが強い。
(2)放射方向変更機構50を遠隔操作して放水銃10の放射方向を建築物の天井に向け、放水銃10から気液混相流を所定時間放射する。これにより、火災区画内に水蒸気を大量に発生させ、燃焼を迅速に抑制することができる。また、特に天井付近には床付近よりも温度が高い高温層が形成されるため、火盛期において先ずは天井に向けて放水することにより、区画上方の破損を効果的に抑制できる。
(3)消火剤種類切替手段を操作して消火剤供給装置20から放水銃10に水又は泡が供給される状態とする。
(4)放射方向変更機構50を遠隔操作して放水銃10の放射方向を火点に向け、放水銃10から水又は泡を放射する。これにより、燃焼物を冷却して完全消火することができる。
【0040】
上記手順(2)で放水する消火剤としての気液混相流は、上述のように、水と空気とを、水:空気=1:15~1:20で混合したものであり、その気液混相流を放水銃10から放射圧力0.5MPa以上で天井に向けて放射することが好ましい。
また、上記手順(2)においては小流量の気液混相流を天井に向けて放射し、上記手順(4)においてはそれよりも大流量の水又は泡を火点に向けて放射することが好ましい。これにより、効率よく消火作業を行うことができる。
例えば、放水対象とする区画の面積が1500mで容積が約10000mとすると、燃焼を抑制できる水蒸気濃度は22%以上であることからして燃焼抑制に必要な水蒸気容積は約2200mとなる。そこで、先ずは蒸発しやすい気液混相流を180L/minの流量で10分間継続して天井に向けて放射することにより、水蒸気を大量に発生させて燃焼抑制濃度(水蒸気濃度22%以上)を達成し、火勢を弱めて高温による区画の破損を防止する。その後、完全消火すべく大流量の水又は圧縮空気泡を火点に向けて放射する。なお、大流量の水とは、例えば1000L/min以上である。また、圧縮空気泡は、例えば3000L/min以上の空気と500L/min以上の泡水溶液流量とを混合してなる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明による消火剤放射システム及び消火方法は、特に、開口(非常用進入口)の面積が少ない、内部空間が大きい、可燃物が多いといった特徴がある大型倉庫やスーパーマーケット等で発生した火災の消火に適している。
【符号の説明】
【0042】
10 放水銃
11 ノズル
12 銃身
20 消火剤供給装置
30 消防ホース
40 放水銃固定具
41 受け具
41A 直線状部材
42 挟持具
43 位置ずれ防止材
50 放射方向変更機構
51 第一のスイベルジョイント
52 第二のスイベルジョイント
53 水圧シリンダー
60 遠隔操作器
β 開口(非常用進入口)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8