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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165292
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】環境配慮型地盤改良材
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/02 20060101AFI20241121BHJP
   C09K 17/12 20060101ALI20241121BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C09K17/02 P
C09K17/12 P
E02D3/12 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081372
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】390036515
【氏名又は名称】株式会社鴻池組
(71)【出願人】
【識別番号】390028093
【氏名又は名称】東曹産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和成
(72)【発明者】
【氏名】大山 将
(72)【発明者】
【氏名】三宅 真司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 満
(72)【発明者】
【氏名】小山 孝
(72)【発明者】
【氏名】後藤 宇
(72)【発明者】
【氏名】内川 裕也
(72)【発明者】
【氏名】竹中 夏子
(72)【発明者】
【氏名】金高 鉄次
(72)【発明者】
【氏名】利田 靖治
【テーマコード(参考)】
2D040
4H026
【Fターム(参考)】
2D040CA02
2D040CA04
4H026CA02
4H026CA03
4H026CA05
4H026CB03
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】瞬時に増粘させて圧送時のブリーディングや材料分離を低減しつつ、可使時間を長時間持続できるとともに、ポンプ圧送時の圧力が5MPa以上(5~7MPa)に上昇し、加圧脱水量が増加しても、配管が閉塞を起こすことのない環境配慮型地盤改良材を提供すること。
【解決手段】骨材、高炉スラグ微粉末、珪酸ソーダ及び水を少なくとも含有し、セメントを含有せず、5MPa以上の圧力でポンプ圧送して使用される、以下(1)~(2)の条件を満たす環境配慮型地盤改良材。
(1)初期配合の骨材ペースト比が100vol%未満かつ7MPa加圧脱水後の骨材ペースト比が80vol%未満であること
(2)7MPa加圧ブリーディング試験の最終脱水率が15%未満であること
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材、高炉スラグ微粉末、珪酸ソーダ及び水を少なくとも含有し、セメントを含有せず、5MPa以上の圧力でポンプ圧送して使用される環境配慮型地盤改良材であって、以下(1)~(2)の条件を満たす環境配慮型地盤改良材。
(1)初期配合の骨材ペースト比が100vol%未満かつ7MPa加圧脱水後の骨材ペースト比が80vol%未満であること
(2)7MPa加圧ブリーディング試験の最終脱水率が15%未満であること
【請求項2】
さらに、以下(3)の条件を満たす請求項1に記載の環境配慮型地盤改良材。
(3)0.5時間後ベーンせん断強さが6.8kN/m未満であること
【請求項3】
前記環境配慮型地盤改良材1m当たりのCO排出量が-350~100kgである請求項1又は2に記載の環境配慮型地盤改良材。
【請求項4】
前記環境配慮型地盤改良材が、さらに、不活性フィラーを含有してなり、該不活性フィラーが、水酸化カルシウム水溶液と二酸化炭素とを原料に製造された軽質炭酸カルシウムからなる請求項1又は2に記載の環境配慮型地盤改良材。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の環境配慮型地盤改良材が、さらにポンプ圧送性の改善のための混和剤を含有する請求項1又は2に記載の環境配慮型地盤改良材。
【請求項6】
前記高炉スラグ微粉末の粉末度が、3500~5000cm/gである請求項1又は2に記載の環境配慮型地盤改良材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO排出量が少なく、環境負荷が小さい環境配慮型地盤改良材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤改良を目的として、打設時には十分な流動性を有し、脱水できる土壌又は脱水できない土壌中であっても、打設後、掘削や矢板の打込みなどに支障のない適度な強度を発現するために種々の材料が提案され、実用化されている(例えば、特許文献1~6参照。)。
【0003】
しかしながら、現在実用化されている材料には、以下の問題があった。
・セメントスラリー、水ガラスとセメントを主剤とするケミカルグラウト材(LW液:Labiles Wasserglas)は、ブリーディングや材料分離が大きいため、配管圧送時に配管が閉塞するリスクがあり、使用時には体積、密度などの物性が変化するため目的物の性能が確保しにくい。
・セメントベントナイト液は、高い材料分離抵抗性を得るために多量のベントナイトを添加する必要があり、費用がかさむ。
・ブリーディングや材料分離を抑制するために単位セメント量を多くすると、可使時間が短くなり、また、強度が必要以上に大きくなる。
・ブロック式改良、壁状改良、格子状改良を行う機械撹拌工法において、数日後にラップ施工を行う場合は、セメント系固化材に遅延剤を添加する。しかしながら、遅延剤添加量が過剰の場合は硬化不良が生じる。他方、遅延剤の添加量不足や、天候不順や施工トラブル等によってラップ施工の時期が大幅に遅れる場合は、先行改良部の強度増加により接合箇所が施工不良となる。
・セメントを使用する材料は、CO排出量が多いため、環境負荷が大きい。
・スラグ粉末は潜在水硬性を有するため、セメントの一部又は全てをスラグ粉末に置き換えることによって、化学抵抗性や耐海水性を高めたり、CO排出量の抑制を図ることができる。しかしながら、スラグ粉末の比率が多くなると、ブリーディングや材料分離の増加、硬化遅延、強度発現遅延が顕著になる。強度発現促進のためのアルカリ刺激剤として水ガラスが用いられているが、従来の使用方法では、フロック状の不均一ゲルが生成されないため、ブリーディングや材料分離を抑制することができない。また、セメントの全てをスラグ粉末に置き換えても、カーボンニュートラル達成への寄与度は小さい。
【0004】
ちなみに、上記特許文献1~6に開示された発明には、以下の問題があった。
特許文献1の粘着性グラウトは、セメントを使用するため、可使時間を長時間持続できない。
特許文献2の地盤改良用固化材は、添加順序や添加撹拌方法が明確でなく、粘度調整もできない。
特許文献3の流動化砂は、消石灰を多量に混合するため、CO排出量が多い。また、砂は天然資源を使用するため、サステナビリティに課題がある。
特許文献4のジオポリマーは、アルカリ溶液を20~60体積%の水で予め希釈しており、フロック状の不均一ゲルが生成されないため、圧送時のブリーディングや材料分離が大きくなる。
特許文献5~6のスラリーは、セメントを混合するため、CO排出量が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6034530号公報
【特許文献2】特許第6968132号公報
【特許文献3】特開2021-25289号公報
【特許文献4】特許第6005408号公報
【特許文献5】特許第5590702号公報
【特許文献6】特許第6955967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の地盤改良を目的とした材料が有する問題点に鑑み、本件出願人らは、先に、瞬時に増粘させて圧送時のブリーディングや材料分離を低減しつつ、可使時間を長時間持続できる増粘性スラグモルタル及びその製造方法を提案している(特願2023-2071参照。)。
【0007】
本件出願人らの提案に係る増粘性スラグモルタルは、上記従来の地盤改良を目的とした材料が有する問題点を解消できるものであるが、その用途である種々の地盤改良工法のうち、例えば、流動材を地中に圧入する静的締固め工法(流動材圧入静的締固め工法)の施工時において、(1)圧送距離が長い場合、(2)吐出量を増大させた場合、(3)地盤に圧入して締め固める場合等には、流動材の吐出圧力が上昇することで凝集や加圧脱水が促進され、その結果、配管が閉塞して圧送不可となるおそれがあった。
この場合、混和剤を加えることによってポンパビリティを改善することができるが、ポンプ圧送時の圧力が5MPa以上(5~7MPa)に上昇すると加圧脱水量が増加することで、依然として、配管が閉塞して圧送不可となるおそれがあった。
【0008】
本発明は、上記本件出願人らの提案に係る増粘性スラグモルタルが有する、従来の地盤改良を目的とした材料が有する問題点を解決するための、瞬時に増粘させて圧送時のブリーディングや材料分離を低減しつつ、可使時間を長時間持続できるという利点を享有しながら、ポンプ圧送時の圧力が5MPa以上(5~7MPa)に上昇し、加圧脱水量が増加しても、配管が閉塞を起こすことのない環境配慮型地盤改良材を提供することを第1の目的とする。
【0009】
また、本発明は、CO排出量の抑制を図ることができる環境配慮型地盤改良材を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第1の目的を達成するため、本発明の環境配慮型地盤改良材は、骨材、高炉スラグ微粉末、珪酸ソーダ及び水を少なくとも含有し、セメントを含有せず、5MPa以上の圧力でポンプ圧送して使用される環境配慮型地盤改良材であって、以下(1)~(2)の条件を満たす環境配慮型地盤改良材。
(1)初期配合の骨材ペースト比が100vol%未満かつ7MPa加圧脱水後の骨材ペースト比が80vol%未満であること
(2)7MPa加圧ブリーディング試験の最終脱水率が15%未満であること
【0011】
この場合において、さらに、以下(3)の条件を満たす請求項1に記載の環境配慮型地盤改良材。
(3)0.5時間後ベーンせん断強さが6.8kN/m未満であること
【0012】
また、上記第2の目的を達成するため、前記環境配慮型地盤改良材1m当たりのCO排出量が-350~100kgであることができる。
【0013】
また、前記環境配慮型地盤改良材が、さらに、不活性フィラーを含有してなり、該不活性フィラーが、水酸化カルシウム水溶液と二酸化炭素とを原料に製造された軽質炭酸カルシウムからなることができる。
【0014】
また、前記環境配慮型地盤改良材が、さらにポンプ圧送性の改善のための混和剤を含有することができる。
【0015】
また、前記高炉スラグ微粉末の粉末度が、3500~5000cm/gであることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の環境配慮型地盤改良材によれば、瞬時に増粘させて圧送時のブリーディングや材料分離を低減しつつ、可使時間を長時間持続できるという利点を享有しながら、ポンプ圧送時の圧力が5MPa以上(5~7MPa)に上昇し、加圧脱水量が増加しても、配管が閉塞を起こすことのないため、地盤改良を目的とした各種工法に広く用いることができる。
【0017】
また、用途に合わせて、必要に応じて、ポンプ圧送性の改善のための混和剤を含有するようにすることができ、これにより、ポンプ圧送性を一層改善することができる。
【0018】
また、本発明の環境配慮型地盤改良材によれば、環境配慮型地盤改良材1m当たりのCO排出量が-350~100kgであり、特に、環境配慮型地盤改良材が、さらに、不活性フィラーを含有してなり、該不活性フィラーが、水酸化カルシウム水溶液と二酸化炭素とを原料に製造された軽質炭酸カルシウムを使用することにより、CO排出量の抑制を図ることができ、環境負荷低減に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の環境配慮型地盤改良材の実施の形態を説明する。
【0020】
本発明の環境配慮型地盤改良材は、骨材、高炉スラグ微粉末、珪酸ソーダ及び水を少なくとも含有し、セメントを含有せず、5MPa以上の圧力でポンプ圧送して使用される環境配慮型地盤改良材である。
【0021】
そこで、まず、本発明の環境配慮型地盤改良材の構成材料について説明する。
表1に、本発明の環境配慮型地盤改良材について行った性状試験に使用する材料を示す(以下、本明細書において、材料を表1中の記号で記載する場合がある。)。
【0022】
【表1】
【0023】
[骨材]
環境配慮型地盤改良材の母材となる骨材には、未利用資源である砕石スクリーニングスや砕石粉、副産物であるコンクリートスラッジ破砕骨材や高炉スラグ細骨材などを用いることができ、天然資源不使用により、サステナビリティに貢献することができる。
高炉スラグ細骨材は、潜在水硬性を有しており、長期的な強度増加を図ることができる。
【0024】
[スラグ粉末]
高炉スラグ微粉末は石膏添加品(無水石膏(Anhydrite)と二水石膏(Gypsum)を予め高炉スラグ微粉末にプレミックスしたもの)を用いた。
高炉スラグ微粉末は、比表面積3500~5000cm/gのものが経済性に優れ調達が容易であるが、これに限定されず、比表面積5000~12000cm/gのものも水ガラスとの反応性は同等以上であるため、これを使用しても同等以上の性能が得られる。
【0025】
[不活性フィラー]
フィラーとして、軽質炭酸カルシウムを骨材や固化材の一部として置き換えて混合する。
軽質炭酸カルシウムは、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS:Carbon dioxide
Capture, Utilization and Storage)材料であり、排ガス由来のCOを副産物由来カルシウム源に固定化して製造される。地盤改良材の場合、COを炭酸カルシウムの形で鉱物化してから地盤改良の一環として地中に貯留するため、地下深くの貯留層に圧入する二酸化炭素回収・貯留技術(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)と比較して容易かつ安価に貯留できることが期待されるほか、地震等の外力により圧入したCOが貯留層外部に漏洩するなどの懸念がない利点がある。
なお、軽質炭酸カルシウムには、コンクリートスラッジ由来以外の軽質炭酸カルシウム、例えば、アセチレンガス製造時の副産物、製鉄時の副産物、廃コンクリート等をカルシウム源に用いることもできる。
性状試験に用いた軽質炭酸カルシウムの純度は98%であり、431kg-CO/tのCOが固定されている。この値から製造時のCO排出量50kg-CO/tを差し引くと、正味のCO排出原単位は、-431+50=381kg-CO/tとなる
【0026】
[珪酸ソーダ(アルカリ刺激剤)]
アルカリ刺激剤として添加する珪酸ソーダ(NaO・nSiO)と高炉スラグ微粉末に含まれる石膏との反応は以下のとおりである。
NaO・nSiO+CaSO → CaO・nSiO+2NaSO
ここで、ゲル化物の生成量は石膏量とNaO濃度に影響され、ゲル化物強度はSiOの量に影響される。SiO量を増やしてゲル化物強度を大きくすれば材料分離抵抗性が向上するが、地盤改良施工時のポンパビリティが低下する。
一方で、硬化反応は、高炉スラグ微粉末に含まれる金属イオンがアルカリ液(NaO)で溶け出しポリマー化が進行することによるが、SiO量が適量であってもNaO量が不足すると金属イオンの溶解が進まず、15~20℃程度の常温で硬化しない。
そこで、珪酸ソーダ(NaO・nSiO)のシリカナトリウムモル比(SiO/NaO)を2~3.1、酸化ナトリウム(NaO)濃度を9.2~14.5%の範囲で変化させて予備試験を行った。その結果、上記範囲において、ブリーディングを抑えつつ、可使時間を確保し、常温で強度発現することが確認できたが、SiO/NaO(モル比)=2.0、NaO濃度14.1~14.5%の珪酸ソーダが添加量を低減でき、経済的であるため、本試験に用いた。
【0027】
[混和剤]
数種類の混和剤を用いて予備試験を行った結果、界面活性剤を主成分とする2種の混和剤が少量添加で加圧脱水量の軽減に効果が高いと判明したため、本試験に用いた。
【0028】
次に、表2に、本発明の環境配慮型地盤改良材について行った性状試験の配合表を示す。
【0029】
【表2】
表2において、混和剤は水に対して外割りで添加した。
【0030】
混練りには、モルタルミキサー(マルイ社製モルタルミキサー(製品番号:MIC-362-1-01))を用いた。撹拌回転数は、自転140rpm、公転62rpmとした。モルタルミキサー内に骨材、高炉スラグ微粉末、軽質炭酸カルシウムを投入して撹拌・混合した後、水を投入して30秒撹拌した。さらに珪酸ソーダを添加して30秒撹拌した後、混和剤を添加して90秒撹拌した。混和剤無しの配合は、珪酸ソーダを添加して120秒撹拌した。ここで、珪酸ソーダを添加することにより、フロック状の不均一ゲルが生成されるが、撹拌することにより、フロック状の不均一ゲルを砕いて微細化しながらゲル化を促進するようにする。
混練り後に加圧ブリーディング試験、ポンプ圧送試験及びベーンせん断試験を行った。
なお、実施工用としては、例えば、北川鉄工所社製モルタルミキサー(製品名:WAシリーズ 強制二軸ミキサー)を使用することができる。
【0031】
液体粉体比(wt%)は、(WG+W)/(P+F)による値である。
骨材ペースト比(vol%)は、(S/ρ)/(P/ρ+F/ρ+WG/ρWG+W/ρ)による値である。
フィラー置換率(wt%)は、F/(S+P+F)による値である。
【0032】
[加圧ブリーディング試験]
加圧ブリーディング試験(土木学会コンクリート標準示方書JSCE-F 502)は、容器内試料上面の圧力3.5MPaで10分間加圧して脱水量を計測する。ただし、3分以上経過し脱水量が2ml/min以下になったら圧力を5MPaまでかけた後、圧力を解放する。
ここで、圧力7MPaで圧送可能となる配合の検討においては試験圧力が低すぎるため、JSCE-F 502の試験方法は適さない。
そこで、JSCE-F 502に準拠しながら、以下の方法で加圧ブリーディング試験を行った。
・容器内試料上面の圧力5MPaで10分間加圧して脱水量を計測する。
・10分後、圧力7MPaまでかけ、脱水量を計測したのち圧力を解放する。
【0033】
[ポンプ圧送試験]
ポンプ圧送試験は、スクイズポンプ(岡三機工社製、型番:OPK-07M)を用いて、ポンプ吐出口にホース(5m)とその先端に内径16mmのSGP管を設置して圧力損失が生じるようにした。混練りした材料をホッパーに投入してポンプを稼働させ、SGP管の先端から吐出された材料をホッパーに戻して循環させた。ポンプの回転数を徐々に上げていき、圧送圧力が0.5MPaに達した段階でポンプ回転数を一定に保ち、圧力急上昇や閉塞などの異常がない場合はさらにポンプ回転数を上げていき、圧送圧力1MPaに達した段階でポンプ回転数を一定に保ち、圧力急上昇や閉塞などの異常が発生した場合はポンプを停止した。
【0034】
[ベーンせん断試験]
ベーンせん断試験は、地盤工学会基準JGS 1411-2012に準じ、測定最大トルク値より、ベーンせん断強さを算出した。ベーン寸法は、幅D=20mm×高さH=40mmとした。ポンパビリティの持続性評価のため、練り上がり直後並びに0.5、1、3及び24時間ごとに再撹拌を行った状態の試料でベーンせん断強さを測定した。
【0035】
[性状試験1]
No.1~No.3(比較例)及びNo.4(実施例)の配合にて材料を混練りし、圧力7MPaの加圧ブリーディング試験及びポンプ圧送試験を行った。その結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
表3から、骨材ペースト比が100vol%を超えるNo.1~No.3(比較例)は、60秒脱水率及び最終脱水率が共に低い値ではあるが、ポンプ圧送試験において圧送圧力1MPaで圧送不可となった。No.4(実施例)は60秒脱水率及び最終脱水率は最も大きい値であるが、ポンプ圧送試験において圧送圧力1MPaで圧送可能であった。骨
材ペースト比が100vol%を超えると、骨材リッチでありペーストが足りないため、わずかな加圧脱水が生じただけでホースが閉塞して圧送不可となるが、一方で骨材ペースト比が100vol%未満、つまりペーストリッチ配合であれば、多少の加圧脱水が生じたとしても骨材周囲に余剰ペーストが存在し続けるため、ポンパビリティが維持されることが分かった。
【0038】
[性状試験2]
性状試験1の結果を踏まえて、さらに、圧力7MPaの加圧ブリーディング試験及びポンプ圧送試験を行って、加圧脱水量の低減に寄与する配合条件を調べた。その結果を表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
表4から、液体粉体比が大きいNo.5~No.6(比較例)及びNo.7~No.9(実施例)は、No.10~No.25(実施例)と比較して相対的に加圧脱水量が大き
くなったが、混和剤の添加によって加圧脱水量の抑制効果が認められた。混和剤は、BT2がBT1より少ない添加量で加圧脱水量抑制効果が得られた。液体粉体比が180wt%程度以上においては、BT1の場合はW×0.25%以上、BT2の場合はW×0.1%以上添加する必要があることが分かった。
骨材にS3を用いたNo.12(実施例)、S4を用いたNo.15(実施例)は、混和剤を添加せずとも加圧脱水量が抑制され、特に、S4の方が加圧脱水量の抑制効果が高かった。骨材にS3又はS4を用いることによって、混和剤を添加しなくてもペーストリッチの状態が維持されるため、圧力7MPaにおいてポンパビリティが維持されるが、BT2をW×0.1%以上添加することによって、配管が閉塞するリスクが一層軽減されることが分かった。
初期配合から最終脱水量を減じて液体粉体比と骨材ペースト比を再計算した結果から、No.5(比較例)は、加圧脱水後において骨材ペースト比が100%を超えており骨材リッチとなるため、7MPa加圧時にポンパビリティが維持されない結果となった。No.6(比較例)は、加圧脱水後において骨材ペースト比が88.7%であり、100%を超えていないものの、骨材周囲に余剰ペーストが少ないため、7MPa加圧時にポンパビリティが維持されず、配管が閉塞するリスクがあるといえる。
【0041】
[性状試験3]
表5に、練り上がり直後並びに0.5、1、3及び24時間ごとに再撹拌を行った状態の試料でベーンせん断強さを測定した結果を示す。表中の×は、ベーンせん断強さが6.8kN/m以上で測定範囲を上回ったため試験不能となったことを示す。
【0042】
【表5】
【0043】
表5から、ベーンせん断強さが6.8kN/m以上になると、流動性が著しく低下してポンパビリティが維持されないことが推測されるため、地盤改良施工中に配管が閉塞するリスクが極めて高いといえる。
骨材にS2を用いた配合のうち、液体粉体比が60%程度のNo.19~No.21(実施例)は、30分は流動性が維持され、1時間後には流動性が低下するため、30分以内に地盤改良の施工を完了する必要がある。施工完了から1時間後に工事車両を通行させ
る場合等において、No.19~No.21(実施例)は優位性が高い材料であるといえる。一方、骨材にS2を用いた配合で長時間(例えば、3時間以上)流動性を維持する必要がある場合は、No.10、No.16~No.18(実施例)のように、フィラー置換率20wt%程度以上において、液体粉体比80wt%程度以上とする。
骨材にS3を用いたNo.22~No.23(実施例)は、フィラー置換率20wt%程度以上において、液体粉体比が60%程度であっても3時間後もベーンせん断強さの変化が少なく、流動性が維持された。Fを添加せず、かつ液体粉体比87~89wt%のNo.16、No24~No.25(実施例)は、24時間後もベーンせん断強さは低い値を示しており、流動性が維持された。一方でP:FにおいてFの割合が大きくなるにつれて、ベーンせん断強さも大きくなる傾向がみられポンパビリティの維持時間が減少するものと考えられる。S3及びS4は、S2と比較してベーンせん断強さの変化が少なく、S4の方がより変化が少ない結果であった。
なお、骨材にS2を用いた配合の場合は、No.4(実施例)のように、フィラー置換率20wt%程度以上において、液体粉体比40wt%程度以上とする。
【0044】
[CO貯留量とCO排出量]
表6に、No.4、No.7~No.25(実施例)の一軸圧縮強さと、地盤改良工の施工によるCaCOとしてのCO貯留量及び地盤改良材のCO排出量を示す。ここで、CO貯留量は、Fの配合量にCO排出原単位を乗じた値である。CO排出量は、配合量に各材料のCO排出原単位を乗じて合計した値である。
【0045】
【表6】
【0046】
表6から、全ての実施例は、1MN/m以上(1~21.5MN/m)の一軸圧縮強さを発現しており、地盤改良を目的とした各種工法で要求される一軸圧縮強さに応じて、適宜使用することができる。ここで、地盤改良工事の現場と室内の強度比は、1/5~1程度とされており、一般的には1/3が使用される。したがって、本発明の環境配慮型地盤改良材を使用する場合の設計強度は、1MN/m×1/5≒0.2MN/m程度以上を適用することができる。
また、実施例のうちFを添加した場合のCO貯留量は、地盤改良工の施工時に環境配慮型地盤改良材を1m使用につき111~267kg-CO/mのCOとなる。
Fを添加しないNo.24~No.25(実施例)においても22kg-CO/mであり、従来のセメント系固化材を用いる地盤改良工に比べてCO排出量削減に寄与する。
【0047】
性状試験1~3から、本発明の環境配慮型地盤改良材は、以下の作用を奏するといえる。
・環境配慮型地盤改良材は、骨材、高炉スラグ微粉末、珪酸ソーダ及び水を少なくとも含有し、セメントを含有せず、ポンプ圧送による圧送圧力が5MPa以上(5~7MPa)の圧力で材料分離抵抗性を有して配管内で閉塞することなく地盤内に圧入できる。
・環境配慮型地盤改良材を混練りしてから地盤内に圧入するまでの所要時間に応じて、流動性維持時間を調整することができる。
・フィラーとして、軽質炭酸カルシウムを骨材や固化材の一部として置き換えて混合することで、排ガス由来のCOを炭酸カルシウムCaCOの形で鉱物化してから地盤改良の一環として地中に貯留することができる。
【0048】
以上、本発明の環境配慮型地盤改良材について、その実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の環境配慮型地盤改良材は、瞬時に増粘させて圧送時のブリーディングや材料分離を低減しつつ、可使時間を長時間持続できることに加えて、ポンプ圧送時の圧力が5MPa以上(5~7MPa)に上昇し、加圧脱水量が増加しても、配管が閉塞を起こすことがなく、また、CO排出量の抑制を図ることができることから、地盤改良を目的とした各種工法に広く用いることができる。