IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社森機械製作所の特許一覧

<>
  • 特開-貝養殖籠を洗浄する方法及び装置 図1
  • 特開-貝養殖籠を洗浄する方法及び装置 図2
  • 特開-貝養殖籠を洗浄する方法及び装置 図3
  • 特開-貝養殖籠を洗浄する方法及び装置 図4
  • 特開-貝養殖籠を洗浄する方法及び装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165294
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】貝養殖籠を洗浄する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/60 20170101AFI20241121BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
A01K61/60 324
B08B3/02 D
B08B3/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081375
(22)【出願日】2023-05-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年5年13日のサロマ湖における試験の実施
(71)【出願人】
【識別番号】300021002
【氏名又は名称】株式会社森機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】弁理士法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】森 光典
【テーマコード(参考)】
2B104
3B201
【Fターム(参考)】
2B104AA22
2B104CG12
3B201AA46
3B201AB07
3B201AB35
3B201BB22
3B201BB43
3B201BB92
(57)【要約】
【課題】 ホタテ貝を入れたままの状態で、不安定な構造のザブトン籠を起立させて保持し、洗浄のための高圧水をホタテ貝に当てることなくザブトン籠を洗浄する方法及び装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 貝養殖籠は、四角形の枠体に網を張設した底面と三角形状の4つの側面網とを四角錐形状となるように構成され、底面のいずれかの角と四角錐の頂点とを結ぶ稜線の少なくとも1つに貝出口が設けられる。本方法は、貝が入った貝養殖籠を起立させる起立工程と、貝養殖籠に付着した異物を除去する第1の除去工程とを含む。第1の除去行程においては、貝養殖籠を起立させることにより貝を貝養殖籠の内部で下部に溜めた状態で、貝養殖籠の側方から貝が存在しない部分に向かって洗浄水を噴射する。貝養殖籠は、貝出口が上部に位置する姿勢で起立させることが好ましい。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
四角形状の枠体に網を張設した底面と三角形状の4つの側面網とを四角錐形状となるように構成し、底面の角と四角錐の頂点とを結ぶ稜線の少なくとも1つに貝出口を設けた貝養殖籠を、内部に貝を入れたまま洗浄する方法であって、
貝が入った貝養殖籠を起立させる起立工程と、
起立させることにより貝を貝養殖籠の内部で下部に溜めた状態で、貝養殖籠の側方から貝が存在しない部分に向かって洗浄水を噴射することによって、貝養殖籠に付着した異物を除去する第1の除去工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記第1の除去工程の後に、起立させた貝養殖籠を回転させる回転工程と、
回転させた貝養殖籠の側方から、貝が存在しない部分に向かって洗浄水を噴射することによって、貝養殖籠に付着した異物を除去する第2の除去工程と
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
貝出口が上部に位置する姿勢で貝養殖籠を起立させる、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
貝養殖籠を側方から支持することによって、洗浄水が噴射されている貝養殖籠の揺動を抑制する、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも貝養殖籠の貝出口を含む部分に向かって洗浄水が噴射される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項6】
貝養殖籠は、複数の籠が互いにロープで連結された一連養殖籠であり、
前記一連養殖籠を海中から船上に引き上げる引上工程と、
洗浄後の前記一連養殖籠を船上から海中に落下させる落下工程と
をさらに含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項7】
四角形状の枠体に網を張設した底面と三角形状の4つの側面網とを四角錐形状となるように構成し、底面の角と四角錐の頂点とを結ぶ稜線の少なくとも1つに貝出口を設けた貝養殖籠を、内部に貝を入れたまま洗浄する装置であって、
貝が入った貝養殖籠を搬送する搬送部と、
搬送される貝養殖籠を起立した状態に維持するための主支持部と、
起立させることにより貝を貝養殖籠の内部で下部に溜めた状態で、貝養殖籠の側方から貝が存在しない部分に向かって洗浄水を噴射する第1の噴射部と
を備える装置。
【請求項8】
前記第1の噴射部の後に、起立させた貝養殖籠を回転させる回転部と、
回転させた貝養殖籠の側方から、貝が存在しない部分に向かって洗浄水を噴射する第2の噴射部と
をさらに備える、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
貝出口が上部に位置する姿勢で貝養殖籠を起立させて用いられる、請求項7又は請求項8に記載の装置。
【請求項10】
洗浄水が噴射されている貝養殖籠の揺動を抑制する補助支持部をさらに備える、請求項7又は請求項8に記載の装置。
【請求項11】
少なくとも貝養殖籠の貝出口を含む部分に向かって洗浄水が噴射される、請求項7又は請求項8に記載の装置。
【請求項12】
海中から船上に引き上げた貝養殖籠を載置する籠載せ台と、
洗浄後の貝養殖籠を船上から海中に落下させる籠排出台と
をさらに備える装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝養殖籠の洗浄に関し、より具体的には、特にザブトン籠を起立させた状態で洗浄するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホタテ貝の養殖においては、ザブトン、籠丸籠、ポケット籠などといった種々の養殖籠が用いられる。養殖籠は、ホタテ貝の生育段階に応じて、形や大きさ、網目のサイズが異なるものが用いられる。養殖籠には、海藻や、カキ、フジツボなどといった他の生物などの異物が付着する。養殖籠に異物が付着すると、通水性を阻害するため、ホタテ貝への酸素や餌の供給に悪影響を与えるおそれがある。したがって、養殖籠に付着した異物を定期的に除去することが必要であり、そのために、必要に応じて、陸上又は船上で養殖籠の洗浄が行われる。
【0003】
ホタテ貝の養殖に用いられることが多い、通称ザブトン籠1が図1に示される。ザブトン籠1は、典型的には四角形状の枠体に網を張設した底面12と、その上部外周を三角形状の4つの側面網で覆って形成された側面13とによって構成された四角錐形状の複数の籠14が、それらの籠14の各々の頂部と底面12の中央部とが互いに吊下用ロープ15で連結されたものである。ザブトン籠1は、典型的には、底面12の一辺が35cmの籠14を、50cmの間隔を空けて吊下用ロープ15によって縦に10~20個が連結されたものが、一連養殖籠として用いられる。籠14の各々に、ホタテ貝Sが入っている。各々の籠14の底面の角と四角錐の頂点とを結ぶ稜線の少なくとも1つに、ホタテ貝Sをとり出すための貝出口16が設けられている。
【0004】
ザブトン籠の洗浄は、ザブトン籠を引き上げた船上で、ホタテ貝を入れたまま海水を散水することによって行うことが効率的であり、小型船でも行うことができることが望ましい。船上でザブトン籠を洗浄する装置として、例えば、特許文献1に記載された技術が提案されている。しかし、特許文献1の技術は、ホタテ貝が入ったままのザブトン籠の全体を洗浄する技術であり、ホタテ貝を避けて洗浄することができるものではない。この技術では、ザブトン籠をできる限り水平に保ち、ザブトン籠内部のホタテ貝に洗浄水を垂直に噴射するようにノズルが配置されており、ホタテ貝が割れない程度の低水圧でザブトン籠を洗浄する。
【0005】
このように従来技術においては、ザブトン籠を平らに保ち、同じくホタテ貝も水平な状態で貝殻の隙間からの洗浄水の浸入を防ぎながら洗浄する必要があり、したがって、従来技術は、直径約7センチ以上の比較的大型のホタテ貝への利用に限定される場合がある。この大きさ以下の小型のホタテ貝に対してこうした従来技術を利用すると、ホタテ貝がザブトン籠の中で躍って立ち上がるため、二枚の貝殻の隙間から洗浄水がホタテ貝の内部に浸入し、その結果、ホタテ貝が洗浄後に斃死する恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-136331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の課題に鑑み、本発明は、ホタテ貝を入れたままの状態で、不安定な構造のザブトン籠を起立させて保持し、洗浄のための高圧水をホタテ貝に当てることなくザブトン籠を洗浄する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、貝養殖籠を、内部に貝を入れたまま洗浄する方法を提供する。貝養殖籠は、四角形の枠体に網を張設した底面と三角形状の4つの側面網とを四角錐形状となるように構成され、底面のいずれかの角と四角錐の頂点とを結ぶ稜線の少なくとも1つに、貝出口が設けられる。本方法は、貝が入った貝養殖籠を起立させる起立工程と、貝養殖籠に付着した異物を除去する第1の除去工程とを含む。第1の除去工程においては、貝養殖籠を起立させることにより貝を貝養殖籠の内部で下部に溜めた状態で、貝養殖籠の側方から貝が存在しない部分に向かって洗浄水を噴射する。貝養殖籠は、貝出口が上部に位置する姿勢で起立させることが好ましい。
【0009】
本方法は、第1の除去工程の後に、起立させた貝養殖籠を回転させる回転工程と、回転させた貝養殖籠の側方から、貝が存在しない部分に向かって洗浄水を噴射することによって、貝養殖籠に付着した異物を除去する第2の除去工程とをさらに含むこともできる。
【0010】
一実施形態においては、第1の除去工程、又は、第1及び第2の除去工程で、貝養殖籠を側方から支持することによって、洗浄水が噴射されている貝養殖籠の揺動を抑制することが好ましい。洗浄水は、少なくとも貝出口を含む部分に向かって噴射されることが好ましい。
【0011】
一実施形態においては、貝養殖籠は、複数の籠が互いにロープで連結された一連養殖籠であり、本方法は、一連養殖籠を海中から船上に引き上げる引上工程と、洗浄後の一連養殖籠を船上から海中に落下させる落下工程とをさらに含むことが好ましい。
【0012】
本発明は、貝養殖籠を、内部に貝を入れたまま洗浄する装置をさらに提供する。本装置は、貝が入った貝養殖籠を搬送する搬送部と、搬送される貝養殖籠を起立した状態に維持するための主支持部と、起立させることにより貝を貝養殖籠の内部で下部に溜めた状態で、貝養殖籠の側方から貝が存在しない部分に向かって洗浄水を噴射する第1の噴射部とを備える。本装置は、貝出口が上部に位置する姿勢で貝養殖籠を起立させて用いられることが好ましい。
【0013】
本装置は、第1の噴射部の後に、起立させた貝養殖籠を回転させる回転部と、回転させた貝養殖籠の側方から、貝が存在しない部分に向かって洗浄水を噴射する第2の噴射部とをさらに備えることもできる。
【0014】
一実施形態においては、本装置は、洗浄水が噴射されている貝養殖籠の揺動を抑制する補助支持部をさらに備えることが好ましい。洗浄水は、少なくとも貝出口を含む部分に向かって噴射されることが好ましい。
【0015】
一実施形態においては、本装置は、海中から船上に引き上げた貝養殖籠を載置する籠載せ台と、洗浄後の貝養殖籠を船上から海中に落下させる籠排出台とをさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、不安定なザブトン籠を起立した状態に維持し、ホタテ貝を守りながらザブトン籠を効果的に洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ホタテ貝の養殖に用いられるザブトン籠を示す図である。
図2】本発明の一実施形態による、ザブトン籠を洗浄する装置の分解斜視図である。
図3図2に示すザブトン籠を洗浄する装置の、ケースを除いて表した斜視図である。
図4図2の装置を用いてザブトン籠を洗浄している状態を示す模式的な斜視図である。
図5図2の装置において、洗浄後の各々の籠が方向を転換する状態を示す模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【0019】
(本発明の実施形態の概要)
本発明の一実施形態に係る、内部にホタテ貝Sを入れたままザブトン籠1を洗浄する方法及び装置においては、ホタテ貝Sが入ったままのザブトン籠1の各々の籠14を起立させた状態で保持し、籠14の下部11にホタテ貝Sを集めることによって、高圧の洗浄水を内部のホタテ貝Sに直接当てることなく安全にザブトン籠1を洗浄する。籠14が起立した状態とは、籠14の底面12と水平面との間に角度を設けた姿勢で籠14を配置した状態をいい、籠14の底面12と水平面との間の角度は、45°~90°であることが好ましく、80°~90°であることがより好ましい。
【0020】
各々の籠14は、起立した状態のときに、上部に貝出口16が位置するように姿勢を定めることが好ましい。ザブトン籠1は、図1に示されるように、四角錐形状の複数の籠14を吊下用ロープ15で次々に繋いだものであり、海中に吊り下げたときには各々の籠14が互いに干渉しない構造を有する。したがって、ザブトン籠1は、各々の籠14を個別に起立させることが可能である。これにより、籠14を起立させて順次搬送体に載せ、貝出口16を上部に向けることは容易である。籠14を起立させた状態にすることによって、ホタテ貝Sは、籠14の内部で下部11に溜まることになる。また、吊下用ロープ15を張ることなく籠14を起立させることによって、4つの側面網からなる側面13は、潰れた状態となる。
【0021】
起立した状態の籠14は、必要な圧力に加圧された洗浄水によって洗浄される。洗浄水は、起立した状態の籠14の側方から籠14に向かって、すなわち、底面12及び潰れた状態の側面13に向かって、噴射される。洗浄水は、起立した状態の籠14の貝が存在しない部分に噴射される。それにより、内部のホタテ貝Sに洗浄水が当たることがなく、ホタテ貝Sの損傷や内部への浸水を防止することができる。
【0022】
(ザブトン籠を洗浄する装置の構成)
図2は、本発明の一実施形態によるザブトン籠を洗浄する装置2(以下、単に装置2という)の分解斜視図である。また、図3は、ケース80を除く装置2の斜視図である。図2は、籠14の搬送方向下流側からみた図であり、図3は、籠14の搬送方向上流側からみた図である。装置2は、フレーム20に支持される搬送部30と、洗浄部40と、ガイド部50と、異物排出部60と、駆動部(図示せず)と、ケース80とを備える。装置2は、さらに、洗浄前のザブトン籠1の少なくとも一部の籠14を載せておくための籠載せ台90と、洗浄後のザブトン籠1の少なくとも一部の籠14を載せるための籠排出台95とをさらに備えることが好ましい。装置2が船上で使用される場合には、籠載せ台90は、船上に置かれたザブトン籠1又は海中から引き上げられたザブトン籠1の少なくとも一部の籠14を載せておくために適した形状とすることができ、籠排出台95は、洗浄部40で洗浄された後の籠14を一旦受けて、その後、船上又は海に排出するために適した形状とすることができる。
【0023】
搬送部30は、回転軸が互いに平行になるように水平方向に並置されたローラ31、32と、ローラ31、32の間に張設されたコンベア33とを有する。ローラの一方、例えば、ローラ31は、駆動部のモータから伝達部を介して伝達された動力によって回転し、コンベア33は、ローラ31の回転に伴ってローラ31とローラ32との間で移動する。なお、図面においては、図が煩雑にならないように、周知技術である駆動部、モータ及び伝達部は示されていない。例えば、駆動部として、モータをケース80の上に設け、モータからケース80の内部又は外部を経由して一方のローラ31に連結されたチェーンやベルトによって、ローラ31を回転させることができる。ザブトン籠1の各々の籠14は、移動するコンベア33の上に起立した状態で載置され、起立した状態を維持したまま搬送される。搬送速度は、洗浄の進行に応じて適宜変更可能であることが好ましい。
【0024】
コンベア33は、限定されるものではないが、籠14から除去された異物が洗浄水とともに下方の異物排出部60に落下するように、網目状であることが好ましい(図2及び図3においては、図面が煩雑にならないように、コンベア33の一部のみを網として表している)。網目のサイズは、異物を通過させることができるものであれば、限定されるものではない。コンベア33の材質は、限定されるものではないが、洗浄水及び海水に対して耐性を有するものであることが好ましく、例えば、ステンレスや樹脂などを適宜用いることができる。コンベア33の幅は、ホタテ貝Sが溜まったときの籠14の下部11の幅より広ければよい。コンベア33の表面には、すべり止めを設けることが好ましい。
【0025】
搬送部30のコンベア33の少なくとも一部を覆うようにケース80が設けられる。コンベア33の少なくとも一部は、洗浄部に対応する位置である。これにより、洗浄水が周囲に飛散することを防止することができる。必要に応じて、ケース80は、コンベア33の全体を覆うように設けてもよい。ケース80は、各々の籠14が内部に入る入口81と、洗浄後の籠14が排出される出口82とを有する。コンベア33は、入口81から出口82に向かって移動し、起立した状態でコンベア33に載置された籠14を入口81から出口82まで搬送することができる。
【0026】
ケース80の内部には、籠14に洗浄水を噴射する洗浄部40が収容される。洗浄部40は、2つの洗浄ユニット41、42を有することが好ましい。洗浄ユニット41は、ケース80の一方の内壁83に配置され、洗浄ユニット42は、ケース80の他方の内壁84に配置される。洗浄ユニット41、42には、図示されないホースを介して、洗浄水が供給される。このように、籠14の搬送方向左右に洗浄ユニット41、42を配置することによって、籠14の底面12と側面13とを同時に洗浄することができる。
【0027】
洗浄ユニット41は、対向して配置される洗浄ユニット42の方向に向かって洗浄水を噴射する3つのノズル41a、41b、41cを有し、洗浄ユニット42は、同様に洗浄ユニット41の方向に向かって洗浄水を噴射する3つのノズル42a、42b、42cを有する。洗浄ユニット41、42のノズルの数は、3つに限定されるものではなく、2つ又は4つ以上でもよい。3つのノズルは、それぞれ回転部から外方に延びる3つのパイプの先端に設けられ、外部から回転部とパイプとをこの順に介して供給される洗浄水を噴射することができる。洗浄ユニット41、42は、それぞれ、3つのノズル41a、41b、41c及びノズル42a、42b、42cからの洗浄水の噴射の反作用によって、回転部を中心として内壁83、84に平行な面内で回転する。別の実施形態においては、洗浄ユニット41、42は、洗浄水の反作用ではなく、モータによって回転するように構成することもできる。
【0028】
ノズル41a、41b、41c、42a、42b、42cから噴射される洗浄水の圧力は、必要に応じて適宜設定することができる。洗浄水の圧力は、例えば、ザブトン籠1の異物が泥や海草のみであれば3MPa以下でもよく、異物がホヤなどであれば4MPa以上であることが好ましい。
【0029】
洗浄ユニット41、42は、洗浄水を、コンベア33に載って移動する起立した状態の籠14の側方から、すなわち底面12の平面を横切る方向から、底面12及び潰れた状態の側面13の方向に向かって噴射する。回転する3つのノズル41a、41b、41cの最下点の位置は、噴射された洗浄水が、起立した状態の籠14の内部で下部11に溜まったホタテ貝Sに当たらない高さに設定される。回転する3つのノズル42a、42b、42cの最下点の位置も同様である。これにより、ホタテ貝Sの損傷や隙間からの洗浄水の浸入を防ぎながら、ザブトン籠1の異物を除去することができる。なお、回転する3つのノズル41a、41b、41cの最上点の位置は、起立した状態の籠14の最上部であることが好ましいが、さらにその上方であってもよい。3つのノズル42a、42b、42cも同様である。
【0030】
搬送部30の下方には、洗浄水の噴射によって籠14の各々から除去された異物を排出するための異物排出部60が設けられている。異物排出部60は、異物を受ける収集部61と、落下した異物が洗浄水とともに排出される排出口62を有する。
【0031】
籠14の各々は、コンベア33上で起立した状態を維持したまま搬送される。そのため、装置2は、コンベア33の上方にガイド部50を備える。ガイド部50は、籠14が起立した状態を維持するとともに、洗浄水が当たらないように籠14の少なくとも下部11をカバーすることができる、主ガイド51、52を有する。ガイド部50は、さらに、洗浄水が噴射されている貝養殖籠の揺動を抑制する補助ガイド53、54を有することが好ましい。
【0032】
主ガイド51、52は、装置2のケース80内部のいずれかの位置又はフレーム20のいずれかの位置に固定される。主ガイド51、52は、籠14がコンベア33上を移動する際に起立した状態を維持するように、籠14を側方から支持する機能を有しており、したがって、搬送部30の長さに対応する長さを有することが好ましい。
【0033】
主ガイド51、52はそれぞれ、籠14を支持する支持端51a、52aと、支持端51a、52aに連続するカバー51b、52bとを有する。支持端51a、52aは、籠14の各々の側方から底面12及び側面13に当接して籠14を支持し、起立した状態を維持する。支持端51a、52aは、籠14に当接しても籠14を損傷することがなく、かつ、籠14の搬送を妨げないように、表面が滑らかな金属の丸棒で形成されることが好ましい。
【0034】
支持端51aと52aとの間隔は、起立した状態の籠14に洗浄水が噴射されたときに、籠14が左右に大きく移動しない程度の間隔であることが好ましい。また、支持端51aと52aとの間隔は、多くの異物が付着して厚みが増した籠14でも搬送させることができる間隔であることが好ましい。支持端51a、52aの高さ方向の位置は、籠14の起立状態を維持することができ、かつ、支持端51a、52aより上に現れている籠14の部分ができるだけ多くなるように(すなわち、洗浄範囲ができるだけ大きくなるように)設定され、例えば、限定されるものではないが、起立した状態の籠14の中心と同じ高さか、又はそれより若干下になるように設定することが好ましい。
【0035】
カバー51b、52bは、支持端51a、52aをコンベア33の上方の適切な場所に位置させるとともに、少なくとも籠14のホタテ貝Sが溜まった下部11を覆うように、構成される。カバー51b、52bは、それぞれ、支持端51a、52aから水平に延びる上板と、上板の上端から下方に延びる縦板とを有する。縦板の下端からは、装置2に主ガイド51、52を固定する横板が延びている。縦板の高さは、支持端51a、52aを上述の場所に配置することができる高さである。このようにカバー51b、52bを構成することによって、噴射された洗浄水が、コンベア33上を移動する籠14の下部のホタテ貝Sが溜まった場所を直撃しないように、保護することができる。
【0036】
主ガイド51、52の上方には、補助ガイド53、54が設けられることが好ましい。籠14が洗浄部40を通過するときには、噴射された洗浄水の水圧によって籠14の左右方向への揺動(いわゆる、籠の踊り)が大きくなり、籠14を損傷させる怖れがある。この揺動を抑制するために、補助ガイド53、54が設けられることが好ましい。補助ガイド53、54は、洗浄水の水圧による籠14の揺動を抑制する目的で設けられるため、少なくとも洗浄部40に対応する位置にあればよい。
【0037】
補助ガイド53、54は、主ガイド51、52の支持端51a、52aの上方に位置するように配置され、籠14に当接しても籠14を損傷することがなく、かつ、籠14に噴射される洗浄水が遮られないように、滑らかな細い丸棒で構成されることが好ましい。補助ガイド53と54との間隔は、洗浄水が噴射された籠14の揺動を抑制することができる間隔であれば限定されず、例えば、支持端51aと52aとの間と同じ間隔とすることができる。籠14が洗浄部40にスムーズに入るように、洗浄部40の上流側では、補助ガイド53と54との間隔は、上流側に向かうにつれて外方に拡開するようになっていることが好ましい。補助ガイド53、54の高さ方向の位置は、籠14の揺動を効果的に抑制できる位置であれば、特に限定されるものではなく、例えば、起立した籠14の中央部より上方に位置するように設定することができる。
【0038】
搬送部30の上流側には、籠載せ台90が搬送部30に隣接して設けられることが好ましい。籠載せ台90は、各々の籠14が起立した状態でコンベア33に受け渡されるようにするため一対のガイド91、92を有することが好ましい。ガイド91、92は、籠載せ台90の上面において籠載せ台90の幅方向に間隔を置いて配置された板状体で構成され、コンベア33から離れた位置からコンベア33に向かって、徐々に両者の間隔が狭くなるように構成される。コンベア33に籠14を受け渡す位置では、ガイド91、92の間隔は、主ガイド51、52の支持端51aと52aとの間隔と同じか、又はそれより若干狭い間隔とすることが好ましい。ガイド91、92の入り口側に作業者が籠14を置けば、上述のように構成されたガイド91、92によって、籠14は、斜めの姿勢からでも徐々に起立し、起立した状態で滞りなく連続的にコンベア33の上に供給される。また、ガイド91、92の間隔が広い部分に、起立した状態の複数の籠14を幅方向に並べて配置し、順次、コンベア33によって搬送されるようにしてもよい。
【0039】
搬送部30の下流側には、籠排出台95が搬送部30に隣接して設けられることが好ましい。籠排出台95は、ケース80の出口82に対向する位置に壁96を有することが好ましい。装置2は、小型船に搭載して使用できるように構成されることが好ましく、小型船に搭載して使用する場合には、海中から引き上げられたザブトン籠1の複数の籠14を籠載せ台90に載せて、順次洗浄し、洗浄し終えて籠排出台95に移動した複数の籠14を、そのまま連続的に海中に落下させることが好ましい。装置2は、搬送部30の長さ方向が小型船の前後方向に沿って船上に配置されることになるため、洗浄後の籠14は、ケース80の出口82から小型船の後方に向かって籠排出台95に排出される。したがって、出口82に対向する位置に壁96が設けられていることによって、小型船の後方に向かって排出された籠14を壁96に当て、方向を船の側方に向けて方向転換させ、そのまま海中に落下させることができる。籠排出台95は、籠14が海中に落下することを促進するため、船の側方に向かって下がり傾斜とすることが好ましい。籠排出台95の少なくとも表面は、籠14が滑りやすい材質で形成されることが好ましい。
【0040】
籠14の方向転換を補助するため、籠排出台95は、籠方向転換部97を有することが好ましい。籠方向転換部97は、その外表面に沿って籠14の方向を横方向に向けることを補助できるものであれば限定されない。本実施形態においては、籠方向転換部97は、ケース80の出口82に隣接する位置において籠排出台95の上面に配置された円筒体である。円筒体は、概ね籠14の底面12の一辺に対応する高さを有し、籠14が外表面に沿って滑らかに方向転換することができる直径を有する。
【0041】
籠方向転換部97は、円筒体に限定されるものではなく、円柱体であってもよく、又は、多角筒体若しくは多角柱体であってもよい。さらに、籠方向転換部97が円筒体の場合、外表面に接する籠14の移動とともに回転するように構成されていてもよい。
【0042】
(装置の別の実施形態)
図2及び図3に示される装置2は、洗浄部が1つのみの実施形態を示す。本発明の別の実施形態に係る装置においては、洗浄部を2つ以上とすることもできる。例えば洗浄部が2つの場合、図2及び図3に示される装置2における洗浄部40の後に、洗浄部40と同じ構成を有する別の洗浄部を配置する。この場合、最初の洗浄部と次の洗浄部との間に、各々の籠14を起立した状態のままで縦回転させる(すなわち、底面12に直交する軸線の周りに回転させる)ことができるように構成された回転部(図示せず)を備えることが好ましい。
【0043】
籠14の各々を縦回転させる角度は、最初の洗浄部では洗浄水が噴射されていない部分に、次の洗浄部で洗浄水が噴射されるようにする角度であることが好ましく、90°又は180°であることが好ましい。回転部においては、最初の洗浄部で籠14の上部に位置している貝出口16が、次の洗浄部でも依然として籠14の上部に位置するようにしながら、籠14の各々を90°回転させることがより好ましい。
【0044】
回転部において籠14を縦回転させる方法は、限定されるものではない。例えば、搬送されている途中の籠14の前方下端にストッパを当てる、及び/又は、籠14の後方上端を押し具などで搬送方向に押し付けることによって、籠14を縦回転させることができる。あるいは、籠14を搬送しながら、又は籠14を一旦停止させて、籠14のいずれかの位置を把持装置で把持し、籠14を回転させることもできる。
【0045】
洗浄部は、3つ以上とすることもできるが、装置が長くなりコストがかかること、洗浄効果はせいぜい2つの洗浄部で十分であることから、多くても2つとすることが好ましい。2つの洗浄部をそれぞれ別のケース80の内部に配置し、2つのケース80の間に回転部を配置することができるが、2つの洗浄ユニットとその間に設けられた回転部とを1つのケース80の内部に配置することもできる。
【0046】
図2及び図3に示される実施形態においては、洗浄ユニット41、42は、3つのノズルが回転する回転式洗浄ユニットが用いられているが、これに限定されるものではない。例えば、洗浄ユニット41、42の各々は、例えば、1つ又は複数のパイプの一端にノズルが設けられ、他端が装置2のいずれか適切な位置に回転可能に軸支されたスイング式洗浄ユニットとすることもできる。この洗浄ユニットでは、外部からの洗浄水が、装置2に軸支された他端とパイプとを介してノズルに供給される。この洗浄ユニットは、軸支された他端を回転中心として、パイプの一端側のノズルが円弧状に移動しながら洗浄水を噴射する。円弧状に移動するノズルの最下点の位置は、噴射された洗浄水が、起立した状態の籠14の内部で下部11に溜まったホタテ貝Sに当たらない高さに設定される。
【0047】
(ザブトン籠を洗浄する方法)
次に、装置2を用いてザブトン籠1を洗浄する方法を説明する。図4は、ザブトン籠1の各々の籠14を順次洗浄している状態を示す模式的な斜視図である。なお、この図では、籠排出台95は示されていない。
【0048】
まず、籠載せ台90に、海中からあらかじめ引き上げられて船上に置かれたザブトン籠1を載せるか、又は海中から引き上げられたザブトン籠1を直接載せることができる(引上工程)。籠載せ台90の大きさに応じて、ザブトン籠1のすべての籠14を載せるか、又は、一部の籠14を載せることができる。装置2が、一部の籠14を籠載せ台90の載せるように構成されている場合には、洗浄の進み方に応じて、作業者が適宜、残りの籠14を籠載せ台90に載せていく。
【0049】
貝が入った籠14を、底面12の一辺を下にして起立させ(起立工程)、そのように起立した状態の複数の籠14を、籠載せ台90の上で幅方向に重ねて配置する。籠載せ台90に設けられたガイド91、92は、搬送部30から遠い部分の間隔が広くなるように形成されており、幅方向に重ねた複数の籠14を、間隔が広い部分に配置することがより好ましい。籠14を起立させることによって、籠14の内部のホタテ貝Sは、籠14の下部11に溜まることになる。籠14は、洗浄中に貝が籠14から落下しないように、貝出口16が上部に位置する姿勢で起立させることが好ましい。
【0050】
作業者が、最初の籠14を、ガイド91、92の間からコンベア33上に載せる。載せられた最初の籠14は、コンベア33によってケース80の入口81の方向に搬送される。最初の籠14は、主ガイド51、52によって側方から支持されることによって、起立した状態を維持したまま搬送される。
【0051】
籠14は吊下用ロープ15で連結されているため、2つ目以降の籠14は、コンベア33で搬送される最初の籠14に引っ張られて、順次、コンベア33の上に載る。このとき、ガイド91、92の出口(すなわち、主ガイド51、52に隣接する部分)の間隔は、主ガイド51と52との間隔と同じかそれより若干狭く設定されているため、2つ目以降の籠14もまた、起立した状態を保ちながらガイド91、92からコンベア33の上に移動することができる。2つ目以降の籠14も、最初の籠14と同様に、主ガイド51、52によって側方から支持されることによって、起立した状態を維持したまま搬送される。必要に応じて、籠14のコンベア33への移動を作業者が促すことによって、より滞りなく籠14の搬送が可能になる。
【0052】
コンベア33によって搬送される複数の籠14は、順番に入口81からケース80の内部に入る。ケース80の内部では、搬送される籠14の両側方に配置された回転する洗浄ユニット41、42から、籠14に向けて、加圧された洗浄水が噴射される。主ガイド51、52は、カバー51b、52bを有しており、カバー51b、52bは、搬送される籠14のホタテ貝Sが溜まっている下部11を覆うように構成されているため、洗浄ユニット41、42から噴射された洗浄水は、籠14の内部のホタテ貝Sを直撃することがない。したがって、装置2においては、従来技術と比較して、より高圧の洗浄水を籠14に噴射することができる。
【0053】
洗浄部40においては、加圧された洗浄水が、カバー51b、52bで覆われていない籠14の部分に直接噴射され、籠14に付着した異物を除去する(第1の除去工程)。カバー51b、52bで覆われていない籠14の部分は、ホタテ貝Sが存在しない部分である。好ましくは、貝出口16が起立した状態の籠14の上部に位置することによって、貝出口16を塞ぐように付着した異物を確実に除去することができ、洗浄中にホタテ貝Sが貝出口16から出ることもない。コンベア33の搬送速度と、洗浄ユニット41、42の回転速度とを適切に設定することによって、搬送される籠14の少なくとも上半分の全体にわたって、加圧された洗浄水を噴射することができる。なお、この場合、洗浄される籠14の範囲は、全体の半分程度であるが、この程度の洗浄ができれば、潮通りを改善することができる。
【0054】
起立した籠14の下半分のいずれかの位置を支持するように配置された主ガイド51、52のみでは、洗浄部40の洗浄の際に、籠14は、噴射された洗浄水の水圧の作用によって左右への揺動(いわゆる、籠の踊り)が大きくなる場合がある。補助ガイド53、54は、洗浄部40内で、主ガイド51、52の支持端51a、52aの上方において、搬送される籠14の左右に配置されて籠14を側方から支持するため、そうした揺動を抑制することができる。
【0055】
洗浄水の噴射によって籠14の各々から除去された異物は、搬送部30の下方に設けられた異物排出部60の収集部61に落下する。落下した異物は、流下した洗浄水とともに排出口62から排出される。2つの洗浄部が設けられた装置2の場合には、最初の洗浄部の後に設けられた回転部において、最初の洗浄部から排出された各々の籠14を起立した状態のままで縦回転させる(回転工程)。縦回転させた籠14は、次の洗浄部に入り、最初の洗浄部と同様に、洗浄ユニットによって噴射された洗浄水でさらに異物が除去される(第2の除去工程)。異物が除去された洗浄後の籠14は、ケース80の出口82から順次排出される。
【0056】
図5は、洗浄後の籠14が方向を転換する状態を示す模式的な斜視図である。この図では、籠載せ台90は示されていない。洗浄後の籠14は、出口82から籠排出台95に排出される。装置2が小型船に搭載される場合には、洗浄後の複数の籠14を、そのまま連続的に海中に落下させることが好ましい。出口82から排出された籠14は、籠排出台95において出口82に対向して配置された壁96によって方向が転換され、海中に落下させることができる(落下工程)。籠排出台95に籠方向転換部97が設けられる場合には、出口82から排出された洗浄後の籠14は、籠方向転換部97の外表面に沿ってより確実に方向を転換させることができる。籠排出台95の表面が滑りやすく構成されている場合には、最初の幾つかの籠14を海中に落とせば、それ以降の籠14は、最初のいくつかの籠14の重みで自然に落下する。
【符号の説明】
【0057】
1 ザブトン籠
12 底面
13 側面
14 籠
15 吊下用ロープ
16 貝出口
2 ザブトン籠を洗浄する装置
20 フレーム
30 搬送部
31、32 ローラ
33 コンベア
40 洗浄部
41、42 洗浄ユニット
41a、41b、41c ノズル
42a、42b、42c ノズル
50 ガイド部
51、52 主ガイド
51a、52a 支持端
51b、52b カバー
53、54 補助ガイド
60 異物排出部
61 収集部
62 排出口
80 ケース
81 入口
82 出口
83、84 内壁
90 籠載せ台
91、92 ガイド
95 籠排出台
96 壁
97 籠方向転換部
S ホタテ貝


図1
図2
図3
図4
図5