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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016530
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】操舵演算装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240131BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118732
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】辻井 俊介
(72)【発明者】
【氏名】林 毓鋒
(72)【発明者】
【氏名】板本 英則
(72)【発明者】
【氏名】玉泉 晴天
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232DA03
3D232DA15
3D232DA63
3D232DC10
3D232DC33
3D232DC34
3D232EB11
3D232EC23
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB19
3D333CC15
3D333CC18
(57)【要約】
【課題】チルト角を検出するセンサを必須とすることなく、第1折れ角および第2折れ角を算出できる操舵演算装置を提供する。
【解決手段】PU52は、回転角度θmに基づきピニオン軸22の回転角度を算出する。PU52は、上位ECU80との通信を介して操舵角θhを取得する。PU52は、操舵角θhおよびピニオン角を入力として、第1折れ角および第2折れ角を推定する。第1折れ角は、コラム軸14の軸方向と中間軸18の軸方向とのなす角度である。第2折れ角は、中間軸18の軸方向とピニオン軸22の軸方向とのなす角度である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵装置の状態量を演算する操舵演算装置であって、
前記操舵装置は、ステアリングホイール、入力軸、中間軸、出力軸、第1カルダンジョイント、第2カルダンジョイントおよび転舵輪を備え、
前記入力軸は前記ステアリングホイールに連結されており、
前記第1カルダンジョイントは、前記入力軸および前記中間軸を連結する部材であり、
前記第2カルダンジョイントは、前記中間軸および前記出力軸を連結する部材であり、
前記転舵輪には、前記ステアリングホイールに入力される操舵トルクが、前記入力軸、前記中間軸、および前記出力軸を介して伝達され、
操舵角変数取得処理、出力軸角度変数取得処理、およびジョイント角変数算出処理を実行するように構成され、
前記操舵角変数取得処理は、前記ステアリングホイールの回転角度を示す変数である操舵角変数の値を取得する処理であり、
前記出力軸角度変数取得処理は、前記出力軸の回転角度を示す変数である出力軸角度変数の値を取得する処理であり、
前記ジョイント角変数算出処理は、前記操舵角変数の値と、前記出力軸角度変数の値とを入力として、ジョイント角変数の値を算出する処理であり、
前記ジョイント角変数は、前記入力軸の軸方向と前記出力軸の軸方向とのなす角度を定める変数である操舵演算装置。
【請求項2】
前記ジョイント角変数は、前記入力軸と前記中間軸とのなす角度を定める第1折れ角と、前記出力軸と前記中間軸とのなす角度を定める第2折れ角と、を含む請求項1記載の操舵演算装置。
【請求項3】
前記ジョイント角変数は、前記第1折れ角および前記第2折れ角に加えて、さらに、差角変数を含み、
前記差角変数は、第1平面および第2平面のなす角度に応じた変数であり、
前記第1平面は、前記入力軸の軸方向および前記中間軸の軸方向に平行な平面であり、
前記第2平面は、前記出力軸の軸方向および前記中間軸の軸方向に平行な平面である請求項2記載の操舵演算装置。
【請求項4】
前記操舵角変数取得処理は、前記操舵角変数の互いに異なる複数の値を取得する処理を含み、
前記出力軸角度変数取得処理は、前記操舵角変数の前記複数の値のそれぞれに同期した前記出力軸角度変数の値を取得する処理を含み、
前記ジョイント角変数算出処理は、前記操舵角変数の前記複数の値と該複数の値のそれぞれに同期した前記出力軸角度変数の値とを入力として前記ジョイント角変数の値を算出する処理である請求項1記載の操舵演算装置。
【請求項5】
前記操舵角変数取得処理が取得対象とする前記複数の値は、前記操舵角変数の絶対値の最小値と前記絶対値の最大値との差が所定値以上となる値を含む請求項4記載の操舵演算装置。
【請求項6】
関係規定データを記憶する記憶装置を備え、
前記関係規定データは、関係式を規定するデータであり、
前記関係式は、前記操舵角変数の値、前記出力軸角度変数の値、および前記ジョイント角変数の値の関係を定める式であり、
前記ジョイント角変数算出処理は、前記関係式に前記操舵角変数の互いに異なる複数の値および該複数の値のそれぞれに同期した前記出力軸角度変数の値を入力することによって最小2乗法によって前記ジョイント角変数の値を算出する処理を含む請求項4記載の操舵演算装置。
【請求項7】
前記操舵装置は、前記転舵輪を転舵させる動力を生成するアクチュエータを備え、
操作処理、および反映処理を実行するように構成され、
前記操作処理は、前記ステアリングホイールの操作に応じて前記アクチュエータを操作する処理であり、
前記反映処理は、前記ジョイント角変数の値を前記アクチュエータの操作に反映させる処理である請求項1記載の操舵演算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵演算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、ステアリングホイールの回転動力が、3つの軸を介して操舵輪に伝達される装置が記載されている。ここで、3つの軸は、2つのカルダンジョイントによって、連結されている。そしてこの装置では、チルト角センサの検出値に基づき、カルダンジョイントの折れ角を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-49992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記折れ角の推定手法では、チルト角センサを備えない場合には、折れ角の推定ができない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.操舵装置の状態量を演算する操舵演算装置であって、前記操舵装置は、ステアリングホイール、入力軸、中間軸、出力軸、第1カルダンジョイント、第2カルダンジョイントおよび転舵輪を備え、前記入力軸は前記ステアリングホイールに連結されており、前記第1カルダンジョイントは、前記入力軸および前記中間軸を連結する部材であり、前記第2カルダンジョイントは、前記中間軸および前記出力軸を連結する部材であり、前記転舵輪には、前記ステアリングホイールに入力される操舵トルクが、前記入力軸、前記中間軸、および前記出力軸を介して伝達され、操舵角変数取得処理、出力軸角度変数取得処理、およびジョイント角変数算出処理を実行するように構成され、前記操舵角変数取得処理は、前記ステアリングホイールの回転角度を示す変数である操舵角変数の値を取得する処理であり、前記出力軸角度変数取得処理は、前記出力軸の回転角度を示す変数である出力軸角度変数の値を取得する処理であり、前記ジョイント角変数算出処理は、前記操舵角変数の値と、前記出力軸角度変数の値とを入力として、ジョイント角変数の値を算出する処理であり、前記ジョイント角変数は、前記入力軸の軸方向と前記出力軸の軸方向とのなす角度を定める変数である操舵演算装置である。
【0006】
出力軸の回転角度と操舵角との関係が、入力軸および中間軸間の折れ角と、中間軸および出力軸間の折れ角と、に依存することから、出力軸の回転角度と操舵角とによって、上記一対の折れ角を把握することができる。上記構成では、この点に鑑み、操舵角変数の値と出力軸角度変数の値とを入力としてジョイント角変数の値を算出することができる。そのため、チルト角を検出するセンサを必須とすることなく、ジョイント角変数の値を算出できる。
【0007】
2.前記ジョイント角変数は、前記入力軸と前記中間軸とのなす角度を定める第1折れ角と、前記出力軸と前記中間軸とのなす角度を定める第2折れ角と、を含む上記1記載の操舵演算装置である。
【0008】
上記構成では、第1折れ角と第2折れ角とを単一の変数の値として定量化する場合と比較して、第1折れ角と第2折れ角とに関するより詳細な情報を取得できる。
3.前記ジョイント角変数は、前記第1折れ角および前記第2折れ角に加えて、さらに、差角変数を含み、前記差角変数は、第1平面および第2平面のなす角度に応じた変数であり、前記第1平面は、前記入力軸の軸方向および前記中間軸の軸方向に平行な平面であり、前記第2平面は、前記出力軸の軸方向および前記中間軸の軸方向に平行な平面である上記2記載の操舵演算装置である。
【0009】
出力軸の回転角度と操舵角との関係は、入力軸および中間軸間の折れ角と、中間軸および出力軸間の折れ角と、に加えて、上記なす角度にも依存する。これは、出力軸の回転角度と操舵角とによって、上記なす角度を把握することができることを意味する。したがって、上記構成では、差角変数の値を算出できる。
【0010】
4.前記操舵角変数取得処理は、前記操舵角変数の互いに異なる複数の値を取得する処理を含み、前記出力軸角度変数取得処理は、前記操舵角変数の前記複数の値のそれぞれに同期した前記出力軸角度変数の値を取得する処理を含み、前記ジョイント角変数算出処理は、前記操舵角変数の前記複数の値と該複数の値のそれぞれに同期した前記出力軸角度変数の値とを入力として前記ジョイント角変数の値を算出する処理である上記1~3のいずれか1つに記載の操舵演算装置である。
【0011】
上記構成では、ジョイント角変数の値に応じて、出力軸の回転角度と操舵角との関係が変化する。そして、操舵角が様々な値を取るときの出力軸の回転角度には、出力軸の回転角度と操舵角との関係についての詳細な情報が含まれる。そのため、上記構成では、操舵角変数の複数の値を用いてジョイント角変数の値を算出することにより、上記関係についての詳細な情報に基づきジョイント角変数の値を算出できる。
【0012】
5.前記操舵角変数取得処理が取得対象とする前記複数の値は、前記操舵角変数の絶対値の最小値と前記絶対値の最大値との差が所定値以上となる値を含む上記4記載の操舵演算装置である。
【0013】
操舵角の絶対値の最大値と最小値との差が大きい場合には、小さい場合よりも、出力軸の回転角度と操舵角との関係についてのジョイント角変数の値を特定するうえでより有益な情報を得ることができる。そのため、上記構成では、所定値の設定によって、ジョイント角変数の値を算出する精度を高めることができる。
【0014】
6.関係規定データを記憶する記憶装置を備え、前記関係規定データは、関係式を規定するデータであり、前記関係式は、前記操舵角変数の値、前記出力軸角度変数の値、および前記ジョイント角変数の値の関係を定める式であり、前記ジョイント角変数算出処理は、前記関係式に前記操舵角変数の互いに異なる複数の値および該複数の値のそれぞれに同期した前記出力軸角度変数の値を入力することによって最小2乗法によって前記ジョイント角変数の値を算出する処理を含む上記4または5記載の操舵演算装置である。
【0015】
操舵角と出力軸の回転角度とジョイント角変数の値とには、物理的な関係式が成立する。そのため上記構成では、関係式のうちのジョイント角変数の値を未知数として、最小2乗法にてジョイント角変数の値を算出できる。
【0016】
7.前記操舵装置は、前記転舵輪を転舵させる動力を生成するアクチュエータを備え、操作処理、および反映処理を実行するように構成され、前記操作処理は、前記ステアリングホイールの操作に応じて前記アクチュエータを操作する処理であり、前記反映処理は、前記ジョイント角変数の値を前記アクチュエータの操作に反映させる処理である上記1~6のいずれか1つに記載の操舵演算装置である。
【0017】
ジョイント角変数の値によって、操舵角と出力軸の回転角度との関係と、操舵トルクと出力軸に加わるトルクとの関係とが変化する。そのため、ジョイント角変数の値を加味せずに、ステアリングホイールの操作に応じてアクチュエータを操作する場合、ジョイント角変数の値によっては、アクチュエータの操作が適切な操作とならない懸念がある。そこで、上記構成では、ジョイント角変数の値を操作処理に反映させることによって、操作処理をより適切な処理とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態にかかる操舵制御システムの構成を示す図である。
図2】同実施形態にかかる第1カルダンジョイントの構成を示す図である。
図3】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理を示すブロック図である。
図4】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図5】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図6】同実施形態にかかるチルト角の算出処理に用いる座標を定義する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、操舵演算装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
「システム構成」
図1に示すように、操舵装置10は、運転者によってステアリングホイール12に入力される操舵トルクと、転舵アクチュエータ40の動力との協働で転舵輪36を転舵させる装置である。操舵装置10は、電動パワーステアリング装置である。以下では、右方向あるいは左方向へステアリングホイール12が操作された場合を「操舵」と称する。
【0020】
ステアリングホイール12は、コラム軸14に固定されている。コラム軸14は、第1カルダンジョイント16を介して中間軸18に機械的に連結されている。中間軸18は、周知の収縮可能な構成を有する。中間軸18の軸方向の2つの端部のうちの第1カルダンジョイント16に連結される端部とは逆側の端部は、第2カルダンジョイント20を介してピニオン軸22に連結されている。
【0021】
図2に、第1カルダンジョイント16の構成を示す。
第1カルダンジョイント16は、第1ヨーク16a、第2ヨーク16b、および十字軸16cを備える。十字軸16cは十字形状を有している。十字軸16cは、第1ヨーク16aおよび第2ヨーク16bを互いに回転可能に連結する。第1ヨーク16aは、コラム軸14の端部とボルトにより締結されている。なお、第1ヨーク16aをコラム軸14の端部と溶接してもよい。第2ヨーク16bは、中間軸18の端部と溶接により固定されている。
【0022】
なお、第2カルダンジョイント20の構成は、第1カルダンジョイント16の構成と同様であることから、その記載を省略する。
図1に戻り、ピニオン軸22は、ラック軸30と所定の交差角をもって配置されている。ラック軸30に形成されたラック歯30aとピニオン軸22に形成されたピニオン歯22aとが噛合されることでラックアンドピニオン機構32が構成されている。また、ラック軸30の両端には、タイロッド34が連結されている。タイロッド34の先端は、転舵輪36が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。ラックアンドピニオン機構32により、ステアリングホイール12の回転操作が、ラック軸30の軸方向への変位動作に変換される。この軸方向への変位動作がタイロッド34を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪36の転舵角が変更される。なお、転舵角は、転舵輪36であるタイヤの切れ角のことである。
【0023】
転舵アクチュエータ40は、駆動源であるアシストモータ42と、アシストモータ42のトルクを伝達する伝達機構44と、ボールねじ機構46とを備えている。ボールねじ機構46は、伝達機構44を介して伝達されたアシストモータ42のトルクをラック軸30が軸方向に変位する力に変換する。アシストモータ42は、一例として、3相のブラシレスモータである。アシストモータ42の端子には、インバータ60の出力電圧が印加される。
【0024】
制御装置50は、制御対象としての転舵輪36の制御量を制御すべくインバータ60を操作する。制御装置50は、制御量の制御のために、回転角センサ70によって検出されるアシストモータ42の回転角度θmを参照する。また、制御装置50は、インバータ60が出力する電流iu,iv,iwを参照する。なお、電流iu,iv,iwはインバータ60の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として把握されるものであってもよい。また、制御装置50は、トルクセンサ72によって検出されるステアリングホイール12に加わるトルクTrqを参照する。
【0025】
制御装置50は、PU52および記憶装置54を備えている。PU52は、CPU、GPU、およびTPU等の少なくとも1つを備えるソフトウェア処理装置である。
上位ECU80は、車両の制御に関する制御装置50よりも上位の指令を生成する電子制御装置である。上位ECU80は、舵角センサ82によって検出される操舵角θhを参照する。操舵角θhは、ステアリングホイール12の回転角である。換言すれば、コラム軸14の回転角である。
【0026】
制御装置50と上位ECU80とは、通信可能となっている。そして、制御装置50は、上位ECU80が取得した操舵角θhを受信可能である。ただし、操舵角θhのサンプリング周期は、回転角度θmのサンプリング周期よりも長い。
【0027】
「アシスト制御について」
図3に、制御装置50が実行する処理を示す。図3に示す処理は、記憶装置54に記憶されたアシスト制御プログラム54aを、PU52がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0028】
ピニオン角算出処理M10は、回転角度θmを入力としてピニオン軸22の回転角度であるピニオン角θpを算出する処理である。
操舵角算出処理M12は、ピニオン角θpを入力として操舵角θhを算出する処理である。操舵角算出処理M12は、図1に示す記憶装置54に記憶された関係規定データ54bを用いて操舵角θhを算出する処理である。関係規定データ54bは、下記の式(c1)にて規定される関係式を規定するデータを含む。この関係式は、ピニオン角θpを独立変数として操舵角θhを従属変数とする。
【0029】
【数1】
【0030】
ここで、第1カルダンジョイント16の折れ角α1、第2カルダンジョイント20の折れ角α2、および差角変数ψを用いた。第1カルダンジョイント16の折れ角α1は、コラム軸14の軸方向と中間軸18の軸方向とのなす角度である。また、第2カルダンジョイント20の折れ角α2は、中間軸18の軸方向とピニオン軸22の軸方向とのなす角度である。差角変数ψは、「90-ξ+ε」である。ここで、「ξ」は、コラム軸14の軸方向および中間軸18の軸方向の双方に平行な第1平面と、中間軸18の軸方向およびピニオン軸22の軸方向の双方に平行な第2平面と、のなす角度である。「ε」は、第1カルダンジョイント16の2つのヨークのうちの中間軸18側のヨークである第2ヨーク16bと、第2カルダンジョイント20の2つのヨークのうちの中間軸18側のヨークとの位相差である。ここでの位相差は中間軸18の軸方向周りの回転角のずれを示す。
【0031】
上記の式(c1)は、カルダンジョイントの一対のヨークの回転角度と折れ角との関係を規定する式を、第1カルダンジョイント16および第2カルダンジョイント20に適用することによって導出される。
【0032】
すなわち、以下の式(c2),(c3)の連立方程式を用いて導出される。
tanθ2=cosα1・tanθh …(c2)
tan(θp´)=cosα2・tan(θ2+ψ) …(c3)
なお、上記の「θ2」は、中間軸18の回転角度である。また、「θp´」は、ピニオン角θpの「θh」に対する位相差を示す。詳しくは、式(c2)と式(c3)とから、以下の式(c4)が求まる。
【0033】
θp‘
=arctan(tan[arctan{tan(θh)・cos(α1)}+ψ]・cos(α2))…(c4)
したがって、ピニオン角θpは、以下の式(c5)となる。
【0034】
θp=θp´-arctan{tan(ψ)・cos(α2)}…(c5)
式(c4)および式(c5)からθp´を消去することによって上記の式(c1)が導出される。
【0035】
補償トルク算出処理M20は、トルクTrqから重力の影響を除去することによって、操舵トルクThを算出する処理である。すなわち、ステアリングホイール12の回転中心は、ステアリングホイール12の重心とずれている。そのため、トルクセンサ72によって検出されるトルクTrqは、運転者がステアリングホイール12に入力するトルクと重力との合力となる。補償トルク算出処理M20は、トルクTrqに含まれる重力成分を除去することによって、操舵トルクThを算出する処理である。
【0036】
ここで、トルクTrqに寄与する重力の大きさは、操舵角θhに依存して周期的に変化する。そのため、補償トルク算出処理M20は、操舵角θhを入力として操舵トルクThを算出する処理となっている。
【0037】
ところで、コラム軸14は、図1に示す回転中心OTを中心として回転可能である。そしてこれにより、ステアリングホイール12の位置を調整可能である。ただし、回転中心OTを中心とする回転量であるチルト角θtlが変化すると、操舵角θhが同一であっても、トルクTrqに寄与する重力の大きさが変化する。そのため、補償トルク算出処理M20は、チルト角θtlを入力として操舵トルクThを算出する処理となっている。
【0038】
アシストトルク算出処理M22は、操舵トルクThを入力として、アシストトルクTaを算出する処理である。すなわち、アシストトルク算出処理M22は、アシストトルクTaの大きさを運転者の操舵の意思に応じた適切な大きさとすべく、操舵トルクThの大きさに応じてアシストトルクTaの大きさを変更する処理である。アシストトルク算出処理M22は、操舵トルクThの大きさが大きい場合のアシストトルクTaの大きさを操舵トルクThの大きさが小さい場合のアシストトルクTaの大きさ以上とする処理であってもよい。また、アシストトルク算出処理M22は、操舵トルクThの大きさが同じであっても、切り戻し時と切り込み時とでアシストトルクTaを異なる値に設定する処理であってもよい。
【0039】
操作信号出力処理M24は、アシストトルクTa、回転角度θmおよび電流iu,iv,iwを入力として、アシストモータ42のトルクをアシストトルクTaに制御するためのインバータ60の操作信号MSを生成して出力する処理である。なお、操作信号MSは、実際には、インバータ60の各スイッチング素子に対する操作信号である。
【0040】
「チルト角の推定について」
上記のようにチルト角θtlは変化する。チルト角θtlが変化する場合、第1折れ角α1、第2折れ角α2、および差角変数ψも変化する。そのため、本実施形態では、第1折れ角α1、第2折れ角α2、差角変数ψ、およびチルト角θtlは、仕様によって一義的に定まる値ではなく、運転者がチルト角θtlを変化させることによって変化する変数である。
【0041】
以下では、これら変数の推定処理について詳述する。
図4および図5に、上記推定処理の手順を示す。図4および図5に示す処理は、記憶装置54に記憶されたアシスト制御プログラム54aをPU52がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0042】
図4に示す一連の処理において、PU52は、まず更新フラグFが「1」であるか否かを判定する(S10)。更新フラグFは、「1」である場合に、上記変数の更新のための処理を実行していることを示す。更新フラグFは、「0」である場合に、上記変数の更新のための処理を実行していないことを示す。
【0043】
PU52は、更新フラグFが「0」であると判定する場合(S10:NO)、起動スイッチがオフ状態からオン状態に切り替わった時点であるか否かを判定する(S12)。起動スイッチは、車両を走行可能な状態とするスイッチである。たとえば、車両の推力生成装置が内燃機関のみの場合、起動スイッチは、イグニッションスイッチであってよい。また、車両の推力生成装置がモータを備える場合、起動スイッチは、モータとバッテリとの間の電気経路を開閉するスイッチであってよい。
【0044】
PU52は、起動スイッチがON状態に切り替わったと判定する場合(S12:YES)、更新フラグFに「1」を代入する(S14)。
PU52は、S10の処理において肯定判定する場合と、S14の処理を完了する場合と、には、ピニオン角θpを取得する(S16)。また、PU52は、上位ECU80との通信によって操舵角θhを取得する(S18)。そして、PU52は、記憶装置54に、ピニオン角θpおよび操舵角θhの組を保存する(S20)。ピニオン角θpと操舵角θhとは、同期したデータである。これは、たとえば、図5に示す一連の処理の周期を、操舵角θhの受信間隔とすることによって実現できる。
【0045】
次にPU52は、S20の処理によって記憶された操舵角θhの絶対値の極大値と極小値との差が所定値Δth以上であるか否かを判定する(S22)。PU52は、上記差が所定値Δth以上であると判定する場合(S22:YES)、最小2乗法によって、第1折れ角α1、第2折れ角α2、および差角変数ψを求める(S24)。
【0046】
すなわち、PU52は、S20の処理によって記憶したピニオン角θpおよび操舵角θhの組のそれぞれについて、上記の式(c1)の右辺にピニオン角θpを入れた値と操舵角θhとの差の2乗を算出する。そして、PU52は、差の2乗に関する、S20の処理によって記憶したピニオン角θpおよび操舵角θhの組の総和を最小とする、第1折れ角α1、第2折れ角α2、および差角変数ψを探索する。
【0047】
次にPU52は、関係規定データ54bによって規定されている、第1折れ角α1、第2折れ角α2、および差角変数ψを更新する(S26)。
次にPU52は、図6に示す点Aおよび点Bの座標を算出する(図5のS28)。
【0048】
図6には、コラム軸14の端部のうちのステアリングホイール12に連結される側の端部側における軸中心を、点Aとしている。また、点Bは、第1カルダンジョイント16の十字軸16cの中心である。点Cは、第2カルダンジョイント20の十字軸の中心である。また、点Dは、ピニオン軸22の回転中心軸上の1点である。点Dは、点Cとともに、ピニオン軸22に平行なベクトルを定義するために導入されている。
【0049】
上述したように中間軸18が伸縮することから、チルト角θtlが変化すると、点Bおよび点C間の距離が変化する。一方、点Bは、回転中心OTの周りに回転することから、回転中心OTと点Bとの距離は、チルト角θtlの変化によって変化しない。同様に、回転中心OTと点Aとの距離も変化しない。これらを考慮して、6個の連立方程式Eq1~Eq6を用いて6個の未知数である、点Aの座標(xa,ya,za)と、点Bの座標(xb,yb,zb)と、を算出する。
【0050】
ここで方程式Eq1は、回転中心OTと点Aとの間の長さの2乗に関する方程式である。この長さの2乗は予め定められた固定値である。また、回転中心OTの座標(xO,yO,zO)も固定値である。
【0051】
方程式Eq2は、点Aおよび点Bが存在する平面を表現する方程式に、点Aの座標成分を代入した式である。同平面は、チルト角θtlの変化によっては変化しない。
方程式Eq3は、第1折れ角α1を用いて点Bから点Aへ進むベクトルと、点Bから点Cへ進むベクトルとの内積を表現した式である。
【0052】
方程式Eq4は、回転中心OTと点Bとの間の長さの2乗に関する方程式である。この長さの2乗は予め定められた固定値である。
方程式Eq5は、点Aおよび点Bが存在する平面を表現する方程式に、点Bの座標成分を代入した式である。
【0053】
方程式Eq6は、第2折れ角α2を用いて点Cから点Bへ進むベクトルと、点Cから点Dへ進むベクトルとの内積を表現した式である。
次にPU52は、S28の処理によって求めた座標成分を用いて、点Bから点Aに進むベクトルを算出する(S30)。
【0054】
そして、PU52は、チルト角θtlを算出する(S32)。チルト角θtlは、一例として、基準点B0から基準点A0へと進む方向に対する点Bから点Aに進む方向のなす角度として定量化される。基準点B0は点Bの基準点である。基準点A0は、点Aの基準点である。ステアリングホイール12が基準位置にある場合、点Aは、基準点A0に一致する。また、ステアリングホイール12が基準位置にある場合、点Bは、基準点B0に一致する。
【0055】
PU52は、基準点B0から基準点A0へと進むベクトルと、点Bから点Aに進むベクトルとの内積と、基準点B0および基準点A0間の距離と、点Bおよび点A間の距離とに基づき、チルト角θtlを算出する。
【0056】
そしてPU52は、更新フラグFに「0」を代入する(S34)。
なお、PU52は、S34の処理を完了する場合と、S12,S22の処理において否定判定する場合と、には、図4および図5に示す一連の処理を一旦終了する。
【0057】
「本実施形態の作用および効果」
PU52は、操舵角θhとピニオン角θpとの時系列データを用いて、上記の関係式(c1)に基づき、第1折れ角α1、第2折れ角α2および差角変数ψを推定する。そして、PU52は、第1折れ角α1、第2折れ角α2および差角変数ψを用いて点Aおよび点Bの座標成分を算出する。そして、PU52は、点Aおよび点Bの座標成分に基づき、チルト角θtlを算出する。そして、PU52は、チルト角θtlを用いることによって、トルクTrqに対する重力成分の影響を精度良く除去して操舵トルクThを把握できる。
【0058】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1~4]操舵演算装置は、制御装置50に対応する。入力軸は、コラム軸14に対応する。出力軸は、ピニオン軸22に対応する。操舵角変数取得処理は、S22の処理において肯定判定されるまで周期的に繰り返されるS18の処理に対応する。出力軸角度変数取得処理は、S22の処理において肯定判定されるまで周期的に繰り返されるS16の処理に対応する。ジョイント角変数算出処理は、S20~S24の処理に対応する。[5]S22の処理に対応する。[6]関係式は、上記の式(c1)に対応する。[7]操作処理は、操作信号出力処理M24に対応する。反映処理は、補償トルク算出処理M20に対応する。すなわち、補償トルク算出処理M20はチルト角θtlを入力とする。チルト角θtlは、第1折れ角α1、第2折れ角α2に依存する。したがって、第1折れ角α1および第2折れ角α2が変化することによって、チルト角θtlが変化しうる。チルト角θtlが変化すると、トルクTrqが同じであっても、操舵トルクThが変化する。そして、これにより、操作信号MSが変化する。すなわち、第1折れ角α1および第2折れ角α2の変化が操作信号MSに反映される。
【0059】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0060】
「出力軸角度変数取得処理について」
・出力軸角度変数取得処理としては、アシストモータ42の回転角度θmを入力として算出される値を取得する処理に限らない。たとえば、ピニオン軸22の回転角度を検出するセンサを備えることによって、その検出値を取得する処理としてもよい。またたとえば、ラック軸30の軸方向の変位量を検出するセンサを備えて、そのセンサの検出値を入力として算出される値を取得する処理であってもよい。
【0061】
「関係式について」
・関係式としては、ピニオン角θpを独立変数として且つ操舵角θhを出力変数とする式に限らない。たとえば、操舵角θhを独立変数として且つピニオン角θpを出力変数とする式であってもよい。関係式としては、関数形式の式となっていることも必須ではない。たとえばピニオン角θpおよび操舵角θhを用いた演算の値が「0」等の定数となる式であってもよい。
【0062】
「ジョイント角変数算出処理について」
・ジョイント角変数算出処理としては、関係式を用いた最小二乗法による処理に限らない。たとえば、操舵角θhおよびピニオン角θpを入力として、第1折れ角α1、第2折れ角α2、および差角変数ψを出力とする回帰モデルであってもよい。ここで、学習済みモデルとしての回帰モデルは、線形回帰モデルであってもよい。また回帰モデルは、ニューラルネットワークであってもよい。回帰モデルの学習は、操舵角θhおよびピニオン角θpと、それらに対応して計測された第1折れ角α1、第2折れ角および差角変数ψの値と、を訓練データとして実現できる。
【0063】
・中間軸18が位相差εを有しない構成の場合、または位相差εの公差が無視できる場合には、なす角度ξを推定対象となる差角変数としてもよい。
・中間軸18が位相差εを有しない構成の場合、または位相差εの公差が無視できる場合であって且つ、コラム軸14の軸方向と中間軸18の軸方向とピニオン軸22の軸方向とが1つの平面に平行な場合には、差角変数ψを推定しなくてもよい。
【0064】
「反映処理について」
・反映処理としては、補償トルク算出処理M20を含んだ処理に限らない。たとえば、アシストトルク算出処理M22において、操舵トルクTh、操舵角θhおよびチルト角θtlを入力としてアシストトルクTaを算出する処理を実現してもよい。その場合、アシストトルク算出処理M22によって反映処理を構成できる。
【0065】
・反映処理としては、操舵トルクThのうちの重力成分を補償する処理に限らない。たとえば、トルクセンサ72がピニオン軸22に加わるトルクを検出するセンサの場合、同センサの検出値をコラム軸14に加わるトルクである操舵トルクThに変換する処理であってもよい。これは、操舵トルクThとピニオン軸22に加わるトルクとの比率の操舵角θhへの依存性が第1折れ角α1および第2折れ角α2に応じて変化することに鑑みたものである。
【0066】
また、たとえば、操舵角θhに応じてアシストトルクTaを定める制御器を備える場合、反映処理にピニオン角θpに基づき操舵角を推定する処理を含めてもよい。
「操舵演算装置について」
・制御装置50としては、PU52と記憶装置54とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、操舵演算装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア処理回路や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、1または複数のソフトウェア処理回路および1または複数の専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路によって実行されればよい。
【0067】
「操舵装置について」
・アシストモータ42の回転軸とラック軸30とが平行に配置される構成に限らない。たとえば、ラックアンドピニオン機構32とは別に第2のラックアンドピニオン機構を備えて、同第2のラックアンドピニオン機構を介してアシストモータ42のトルクを付与してもよい。
【0068】
「その他」
・折れ角α1,α2が変化する要因としては、チルト角の変化に限らない。たとえばテレスコピック機能の利用が折れ角α1,α2が変化する要因となってもよい。
【符号の説明】
【0069】
10…操舵装置
12…ステアリングホイール
14…コラム軸
16…第1カルダンジョイント
16a…第1ヨーク
16b…第2ヨーク
16c…十字軸
18…中間軸
20…第2カルダンジョイント
22…ピニオン軸
22a…ピニオン歯
30…ラック軸
30a…ラック歯
32…ラックアンドピニオン機構
34…タイロッド
36…転舵輪
40…転舵アクチュエータ
42…アシストモータ
44…伝達機構
46…ボールねじ機構
50…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6