(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165308
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20241121BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20241121BHJP
F16C 35/077 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/06
F16C35/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081408
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】甲藤 智
(72)【発明者】
【氏名】石橋 豊
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA01
3J117CA06
3J117DA01
3J117DA02
3J117DB10
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA70
3J701DA16
3J701EA73
3J701EA78
3J701FA11
3J701FA35
(57)【要約】
【課題】ハウジングと外輪の端面との間において電気的な絶縁を確保しつつ、外輪にクリープが発生するのを抑制することができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】転がり軸受1は、内輪2と、径方向における外側の外周面32、及び軸方向における一方の側の第1端面33を有する外輪3と、内輪2と外輪3との間に配置された複数の転動体4と、軸方向における一方の側の表面6aを有し、外輪3の第1端面33上において周方向に延在している環状の第1絶縁部材6と、を備える。周方向における第1絶縁部材6の表面6aの静止摩擦係数は、周方向における外輪3の第1端面33の静止摩擦係数よりも大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、
径方向における外側の外周面、及び軸方向における一方の側の端面を有する外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の転動体と、
前記軸方向における前記一方の側の第1表面を有し、前記外輪の前記端面上において周方向に延在している環状の第1絶縁部材と、を備え、
前記周方向における前記第1絶縁部材の前記第1表面の静止摩擦係数は、前記周方向における前記外輪の前記端面の静止摩擦係数よりも大きい、転がり軸受。
【請求項2】
前記第1絶縁部材は、前記軸方向から見た場合に前記外輪の前記端面に含まれている、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記第1絶縁部材は、前記外輪の前記端面に接着されている、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記第1絶縁部材は、絶縁ペーパーによって形成されたシート状の部材である、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記径方向における前記外側の第2表面を有し、前記外輪の前記外周面上において前記周方向に延在している環状の第2絶縁部材を更に備え、
前記周方向における前記第2絶縁部材の前記第2表面の静止摩擦係数は、前記周方向における前記外輪の前記外周面の静止摩擦係数よりも大きい、請求項1に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
電食の発生を抑制するためにハウジングと外輪とを電気的に絶縁するように構成された転がり軸受として、径方向における外側の外周面、及び軸方向における一方の側の端面を有する外輪と、外輪の端面を覆う絶縁ワッシャと、を備える転がり軸受が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述したような転がり軸受では、外輪にクリープが発生し、転がり軸受及び/又はハウジングに摩耗等の不具合が発生するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、ハウジングと外輪の端面との間において電気的な絶縁を確保しつつ、外輪にクリープが発生するのを抑制することができる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の転がり軸受は、[1]「内輪と、径方向における外側の外周面、及び軸方向における一方の側の端面を有する外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の転動体と、前記軸方向における前記一方の側の第1表面を有し、前記外輪の前記端面上において周方向に延在している環状の第1絶縁部材と、を備え、前記周方向における前記第1絶縁部材の前記第1表面の静止摩擦係数は、前記周方向における前記外輪の前記端面の静止摩擦係数よりも大きい、転がり軸受」である。
【0007】
上記[1]に記載の転がり軸受では、周方向に延在している環状の第1絶縁部材が外輪の端面上に配置されている。これにより、ハウジングと外輪の端面との間において電気的な絶縁を確保することができる。更に、上記[1]に記載の転がり軸受では、周方向における第1絶縁部材の第1表面の静止摩擦係数が、周方向における外輪の端面の静止摩擦係数よりも大きい。これにより、第1絶縁部材の第1表面をハウジングの表面に接触させれば、外輪の端面をハウジングの表面に接触させる場合に比べ、外輪にクリープが発生するのを抑制することができる。よって、上記[1]に記載の転がり軸受によれば、ハウジングと外輪の端面との間において電気的な絶縁を確保しつつ、外輪にクリープが発生するのを抑制することができる。
【0008】
本発明の転がり軸受は、[2]「前記第1絶縁部材は、前記軸方向から見た場合に前記外輪の前記端面に含まれている、上記[1]に記載の転がり軸受」であってもよい。当該[2]に記載の転がり軸受によれば、ハウジングの表面に接触させられた第1絶縁部材の第1表面に作用する力を安定化させることができるため、外輪にクリープが発生するのをより確実に抑制することができる。
【0009】
本発明の転がり軸受は、[3]「前記第1絶縁部材は、前記外輪の前記端面に接着されている、上記[1]又は[2]に記載の転がり軸受」であってもよい。当該[3]に記載の転がり軸受によれば、外輪の端面と第1絶縁部材との間において滑りが発生するのを抑制することができる。
【0010】
本発明の転がり軸受は、[4]「前記第1絶縁部材は、絶縁ペーパーによって形成されたシート状の部材である、上記[1]~[3]いずれか一つに記載の転がり軸受」であってもよい。当該[4]に記載の転がり軸受によれば、電気的な絶縁性、及び第1表面の静止摩擦係数を十分に確保することができる。
【0011】
本発明の転がり軸受は、[5]「前記径方向における前記外側の第2表面を有し、前記外輪の前記外周面上において前記周方向に延在している環状の第2絶縁部材を更に備え、前記周方向における前記第2絶縁部材の前記第2表面の静止摩擦係数は、前記周方向における前記外輪の前記外周面の静止摩擦係数よりも大きい、上記[1]~[4]いずれか一つに記載の転がり軸受」であってもよい。当該[5]に記載の転がり軸受によれば、ハウジングと外輪の外周面との間において電気的な絶縁を確保しつつ、外輪にクリープが発生するのをより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ハウジングと外輪の端面との間において電気的な絶縁を確保しつつ、外輪にクリープが発生するのを抑制することができる転がり軸受を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図1に示される転がり軸受を備える軸受装置の一部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[転がり軸受の構成]
【0015】
図1に示されるように、転がり軸受1は、内輪2と、外輪3と、複数の転動体4と、保持器5と、第1絶縁部材6と、第2絶縁部材7と、を備えている。以下、転がり軸受1の中心線Aに平行な方向を軸方向といい、中心線Aに垂直な方向を径方向といい、中心線Aに平行な方向から見た場合に中心線Aを中心とする円周に沿った方向を周方向という。
【0016】
内輪2は、外周面21、内周面22、第1端面23、第2端面24、第1面取り面25及び第2面取り面26を有している。外周面21は、径方向における外側の周面である。内周面22は、径方向における内側の周面である。第1端面23は、軸方向における一方の側の端面である。第2端面24は、軸方向における他方の側の端面である。第1面取り面25は、内周面22と第1端面23との間のR面取り面である。第2面取り面26は、内周面22と第2端面24との間のR面取り面である。外周面21には、軌道面21aが形成されている。内周面22は、例えば、軸(図示省略)と嵌め合わされる。
【0017】
外輪3は、径方向において内輪2の外側に配置されている。外輪3は、内周面31、外周面32、第1端面33、第2端面34、第1面取り面35及び第2面取り面36を有している。内周面31は、径方向における内側の周面である。外周面32は、径方向における外側の周面である。第1端面33は、軸方向における一方の側の端面である。第2端面34は、軸方向における他方の側の端面である。第1面取り面35は、外周面32と第1端面33との間のR面取り面である。第2面取り面36は、外周面32と第2端面34との間のR面取り面である。内周面31には、軌道面31aが形成されている。外周面32は、例えば、ハウジング(図示省略)と嵌め合わされる。
【0018】
複数の転動体4は、内輪2と外輪3との間に配置されている。より具体的には、複数の転動体4は、内輪2の軌道面21aと外輪3の軌道面31aとの間に配置されている。本実施形態では、各転動体4は、ボールである。保持器5は、複数の転動体4を保持している。より具体的には、保持器5は、内輪2の軌道面21aと外輪3の軌道面31aとの間において各転動体4が転動自在となるように、複数の転動体4を保持している。
【0019】
第1絶縁部材6は、外輪3の第1端面33上において周方向に延在している環状の部材である。第1絶縁部材6は、軸方向における一方の側の表面(第1表面)6a、及び軸方向における他方の側の裏面6bを有している。第1絶縁部材6は、外輪3の第1端面33に接着されている。つまり、外輪3の第1端面33と第1絶縁部材6の裏面6bとの間には、接着層(図示省略)が配置されている。第1絶縁部材6は、軸方向から見た場合に外輪3の第1端面33に含まれている。第1絶縁部材6は、絶縁ペーパーによって形成されたシート状の部材である。周方向における第1絶縁部材6の表面6aの静止摩擦係数は、周方向における外輪3の第1端面33の静止摩擦係数よりも大きい。なお、絶縁ペーパーとは、変圧器、モータ等に使用される電気絶縁ペーパーである。
【0020】
第2絶縁部材7は、外輪3の外周面32上において周方向に延在している環状の部材である。第2絶縁部材7は、径方向における外側の表面(第2表面)7a、及び径方向における内側の裏面7bを有している。第2絶縁部材7は、外輪3の外周面32に接着されている。つまり、外輪3の外周面32と第2絶縁部材7の裏面7bとの間には、接着層(図示省略)が配置されている。第2絶縁部材7は、径方向から見た場合に外輪3の外周面32に含まれている。第2絶縁部材7は、絶縁ペーパーによって形成されたシート状の部材である。周方向における第2絶縁部材7の表面7aの静止摩擦係数は、周方向における外輪3の外周面32の静止摩擦係数よりも大きい。
[軸受装置の構成]
【0021】
上述した転がり軸受1を備える軸受装置の構成について説明する。
図2に示されるように、軸受装置10は、転がり軸受1と、ハウジング100と、軸300と、を備えている。転がり軸受1の内輪2は、軸300と嵌め合わされている。転がり軸受1の外輪3は、ハウジング100と嵌め合わされている。
【0022】
ハウジング100は、内周面101及び端面102を有している。内周面101は、周方向に平行な内周面であり、第2絶縁部材7を介して外輪3の外周面32と向かい合っている。端面102は、軸方向に垂直な端面であり、第1絶縁部材6を介して外輪3の第1端面33と向かい合っている。外輪3の第1面取り面35は、内周面101と端面102との間のハウジング100の隅部103から離間している。本実施形態では、隅部103は、内周面101と端面102との間のR面取り面である。中心線Aを含む断面において、隅部103の曲率半径は、第1面取り面35の曲率半径よりも小さい。
【0023】
ハウジング100には、ハウジング段差部104が形成されている。ハウジング段差部104は、端面102の内縁102aに沿って軸方向における一方の側に凹むように形成されている。本実施形態では、ハウジング段差部104は、端面102の内縁102aを開口縁として軸方向における他方の側に開口する凹部である。軸方向から見た場合に、端面102の内縁102aは、外輪3の第1端面33の内縁33aの外側に位置している。一例として、端面102の内縁102aは、第1絶縁部材6上に位置している。
[作用及び効果]
【0024】
以上説明したように、転がり軸受1では、周方向に延在している環状の第1絶縁部材6が外輪3の第1端面33上に配置されている。これにより、ハウジング100と外輪3の第1端面33との間において電気的な絶縁を確保することができる。更に、転がり軸受1では、周方向における第1絶縁部材6の表面6aの静止摩擦係数が、周方向における外輪3の第1端面33の静止摩擦係数よりも大きい。これにより、第1絶縁部材6の表面6aをハウジング100の端面102に接触させれば、外輪3の第1端面33をハウジング100の端面102に接触させる場合に比べ、外輪3にクリープが発生するのを抑制することができる。よって、転がり軸受1によれば、ハウジング100と外輪3の第1端面33との間において電気的な絶縁を確保しつつ、外輪3にクリープが発生するのを抑制することができる。
【0025】
転がり軸受1では、周方向に延在している環状の第2絶縁部材7が外輪3の外周面32上に配置されている。これにより、ハウジング100と外輪3の外周面32との間において電気的な絶縁を確保することができる。更に、転がり軸受1では、径方向における第2絶縁部材7の表面7aの静止摩擦係数が、周方向における外輪3の外周面32の静止摩擦係数よりも大きい。これにより、第2絶縁部材7の表面7aをハウジング100の内周面101に接触させれば、外輪3の外周面32をハウジング100の内周面101に接触させる場合に比べ、外輪3にクリープが発生するのを抑制することができる。よって、転がり軸受1によれば、ハウジング100と外輪3の外周面32との間において電気的な絶縁を確保しつつ、外輪3にクリープが発生するのをより確実に抑制することができる。
【0026】
転がり軸受1では、第1絶縁部材6が、軸方向から見た場合に外輪3の第1端面33に含まれている。これにより、ハウジング100の端面102に接触させられた第1絶縁部材6の表面6aに作用する力を安定化させることができるため、外輪3にクリープが発生するのをより確実に抑制することができる。
【0027】
転がり軸受1では、第2絶縁部材7が、径方向から見た場合に外輪3の外周面32に含まれている。これにより、ハウジング100の内周面101に接触させられた第2絶縁部材7の表面7aに作用する力を安定化させることができるため、外輪3にクリープが発生するのをより確実に抑制することができる。
【0028】
転がり軸受1では、第1絶縁部材6が、外輪3の第1端面33に接着されている。これにより、外輪3の第1端面33と第1絶縁部材6との間において滑りが発生するのを抑制することができる。
【0029】
転がり軸受1では、第2絶縁部材7が、外輪3の外周面32に接着されている。これにより、外輪3の外周面32と第2絶縁部材7との間において滑りが発生するのを抑制することができる。
【0030】
転がり軸受1では、第1絶縁部材6が、絶縁ペーパーによって形成されたシート状の部材である。これにより、第1絶縁部材6において、電気的な絶縁性、及び表面6aの静止摩擦係数を十分に確保することができる。
【0031】
転がり軸受1では、第2絶縁部材7が、絶縁ペーパーによって形成されたシート状の部材である。これにより、第2絶縁部材7において、電気的な絶縁性、及び表面7aの静止摩擦係数を十分に確保することができる。
【0032】
軸受装置10では、ハウジング100に、端面102の内縁102aに沿って軸方向における一方の側に凹むようにハウジング段差部104が形成されており、軸方向から見た場合に、端面102の内縁102aが、外輪3の第1端面33の内縁33aの外側に位置している。これにより、ハウジング100と外輪3との電気的な絶縁をより確実に確保することができる。
[変形例]
【0033】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、第1絶縁部材6は、外輪3の第1端面33に接着されていなくてもよい。同様に、第2絶縁部材7は、外輪3の外周面32に接着されていなくてもよい。なお、第1絶縁部材6が外輪3の第1端面33に接着されているか否かにかかわらず、第1絶縁部材6の周方向及び径方向への位置ずれを防止する爪、段差等が外輪3に設けられていてもよい。同様に、第2絶縁部材7が外輪3の外周面32に接着されているか否かにかかわらず、第2絶縁部材7の周方向及び軸方向への位置ずれを防止する爪、段差等が外輪3に設けられていてもよい。
【0034】
また、第1絶縁部材6は、軸方向から見た場合に外輪3の第1端面33に含まれていなくてもよく、第1絶縁部材6の少なくとも一部が、軸方向から見た場合に外輪3の第1端面33からはみ出していてもよい。同様に、第2絶縁部材7は、径方向から見た場合に外輪3の外周面32に含まれていなくてもよく、第2絶縁部材7の少なくとも一部が、径方向から見た場合に外輪3の外周面32からはみ出していてもよい。
【0035】
また、第1絶縁部材6は、絶縁ペーパーによって形成されたシート状の部材に限定されず、例えば、絶縁樹脂によって形成されたシート状又は板状の部材であってもよい。同様に、第2絶縁部材7は、絶縁ペーパーによって形成されたシート状の部材に限定されず、例えば、絶縁樹脂によって形成されたシート状又は板状の部材であってもよい。
【0036】
また、各転動体4は、ボール以外の転動体であってもよい。
【0037】
また、ハウジング100において、端面102の内縁102aは、軸方向から見た場合に、外輪3の第1端面33の内縁33aの内側に位置していてもよい。その場合には、第1絶縁部材6の表面6aの全体をハウジング100の端面102に接触させることができるため、外輪3にクリープが発生するのをより確実に抑制することができる。
【符号の説明】
【0038】
1…転がり軸受、2…内輪、3…外輪、4…転動体、32…外周面、33…第1端面(端面)、6…第1絶縁部材、6a…表面(第1表面)、7…第2絶縁部材、7a…表面(第2表面)。