(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165321
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】誘導加熱調理器
(51)【国際特許分類】
H05B 6/12 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
H05B6/12 308
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081430
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000176866
【氏名又は名称】三菱電機ホーム機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 早紀
(72)【発明者】
【氏名】文屋 潤
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄一郎
【テーマコード(参考)】
3K151
【Fターム(参考)】
3K151BA01
(57)【要約】
【課題】加熱効率の低下を抑制することができる誘導加熱調理器を提供することを目的とする。
【解決手段】誘導加熱調理器は、被加熱物が載置される天板と、天板の下方に配置され、被加熱物を加熱する加熱部と、を備え、加熱部は、渦巻き状に巻回された加熱コイルを有し、加熱コイルの一部は、コイル損失を低減させるコイル損失低減部であり、コイル損失低減部は、加熱コイルの一周分のコイル線であるターンの上下方向の積層数又は径方向のターン間距離が、加熱コイルのコイル損失低減部以外の部分と異なるものである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物が載置される天板と、
前記天板の下方に配置され、前記被加熱物を加熱する加熱部と、を備え、
前記加熱部は、渦巻き状に巻回された加熱コイルを有し、
前記加熱コイルの一部は、コイル損失を低減させるコイル損失低減部であり、
前記コイル損失低減部は、前記加熱コイルの一周分のコイル線であるターンの上下方向の積層数又は径方向のターン間距離が、前記加熱コイルの前記コイル損失低減部以外の部分と異なるものである誘導加熱調理器。
【請求項2】
前記加熱コイルは、少なくとも最内周のターンを含む内周部と、少なくとも最外周のターンを含む外周部と、前記内周部及び前記外周部の間の中間部と、を有し、
前記コイル損失低減部は、前記内周部、又は前記内周部及び前記外周部であり、
前記コイル損失低減部の前記積層数は、前記コイル損失低減部以外の部分の前記積層数よりも少ない請求項1に記載の誘導加熱調理器。
【請求項3】
前記外周部の前記積層数は、前記内周部の前記積層数よりも多く、且つ前記中間部の前記積層数よりも少ない請求項2に記載の誘導加熱調理器。
【請求項4】
前記コイル損失低減部の最上層は、前記上下方向において前記コイル損失低減部以外の部分の最上層と同じ位置にある請求項2又は3に記載の誘導加熱調理器。
【請求項5】
前記加熱コイルは、同心円に配置された複数のコイル部からなり、
前記コイル損失低減部は、複数の前記コイル部のうち、ターン数が最も多いコイル部であり、
前記コイル損失低減部の前記ターン間距離は、前記コイル損失低減部以外の部分の前記ターン間距離よりも大きい請求項1に記載の誘導加熱調理器。
【請求項6】
前記コイル損失低減部は、前記コイル損失低減部以外の部分よりも外周側に配置されている請求項5に記載の誘導加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加熱コイルを備える誘導加熱調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被加熱物を載置する天板の下方に加熱コイルを備えた誘導加熱調理器が知られている。加熱コイルは、渦巻き状に巻回されたコイル線からなり、インバータ回路から供給される高周波電流により高周波磁界を発生させる。また、加熱コイルの下方に、加熱コイルから発生する磁束を吸収するためのフェライトを設けることも知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の加熱コイルでは、複数回連続して巻かれたコイル線の各々で発生する磁束の合成により、加熱コイルの周囲を周回するように大きな磁束が流れる。これにより、加熱コイルの内周又は外周付近に磁束が鎖交し、コイル損失の一つである渦電流損が発生する。このようなコイル損失が発生すると、誘導加熱調理器の加熱部における加熱効率が低下してしまう。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するものであり、加熱効率の低下を抑制することができる誘導加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る誘導加熱調理器は、被加熱物が載置される天板と、天板の下方に配置され、被加熱物を加熱する加熱部と、を備え、加熱部は、渦巻き状に巻回された加熱コイルを有し、加熱コイルの一部は、コイル損失を低減させるコイル損失低減部であり、コイル損失低減部は、加熱コイルの一周分のコイル線であるターンの上下方向の積層数又は径方向のターン間距離が、加熱コイルのコイル損失低減部以外の部分と異なるものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示における誘導加熱調理器によれば、加熱コイルの一部をコイル損失低減部とすることで、加熱コイルにおけるコイル損失を低減することができ、加熱部における加熱効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る誘導加熱調理器の概略構成図である。
【
図2】実施の形態1に係る加熱部の概略構成を示す図である。
【
図3】実施の形態1に係る加熱部の断面模式図である。
【
図4】実施の形態1に係る加熱部における磁束の流れを説明するための図である。
【
図5】実施の形態1の変形例に係る加熱部の断面模式図である。
【
図6】実施の形態2に係る加熱部の断面模式図である。
【
図7】実施の形態2に係る加熱部における磁束の流れを説明するための図である。
【
図8】実施の形態2の変形例に係る加熱部の断面模式図である。
【
図9】実施の形態3に係る加熱部の断面模式図である。
【
図10】実施の形態3の変形例に係る加熱部の断面模式図である。
【
図11】実施の形態4に係る加熱部の概略構成を示す図である。
【
図12】実施の形態4に係る加熱部の断面模式図である。
【
図13】実施の形態4に係る加熱部における磁束の流れを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る誘導加熱調理器の実施の形態を、図面を参照して説明する。本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、本開示は、以下の各実施の形態に示す構成のうち、組合せ可能な構成のあらゆる組合せを含むものである。また、図面に示す誘導加熱調理器は、本開示の技術思想が適用される機器の一例を示すものであり、図面に示された態様によって本開示の適用機器が限定されるものではない。また、以下の説明において、理解を容易にするために方向を表す用語(例えば「右」、「左」、「前」、「後」など)を適宜用いるが、これらは説明のためのものであって、本開示を限定するものではない。また、各図において、同一の符号を付したものは、同一の又はこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。なお、各図面では、各構成部材の相対的な寸法関係又は形状等が実際のものとは異なる場合がある。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る誘導加熱調理器100の概略構成図である。誘導加熱調理器100は、鍋又はフライパン等の被加熱物200が載置される天板1と、天板1の下方に設けられた概ね箱形の筐体2とを有する。
図1では、筐体2の内部構造を説明するため、天板1を筐体2から取り外し、且つ筐体2の一部を切り欠いた状態を示している。
【0011】
天板1は、耐熱性ガラス又はセラミック等の非金属材料で構成される。天板1には、被加熱物200が載置される領域である加熱口10が設けられている。
図1では、円形の3つの加熱口10が設けられた例を示しているが、加熱口10の形状及び数は、図示の例に限定されない。
【0012】
また、天板1には、ユーザによる操作入力を受け付ける操作部3と、情報を表示する表示部4とが設けられている。操作部3は、誘導加熱調理器100の加熱温度又は加熱時間等の加熱条件、及び加熱開始又は停止等の動作指示に関する入力を受け付けるタッチパネルなどの入力装置である。
図1では、天板1に操作部3が設けられた例を示すが、天板1に加えて又は替えて、筐体2の前面に操作部3が設けられていてもよい。
【0013】
表示部4は、加熱口10での加熱の有無、設定温度及び加熱モード、タイマー、並びにユーザに対する注意情報等を表示する。表示部4は、液晶ディスプレイ、LED(Light Emitting Diode)、又はこれらの組み合わせにより構成される。
図1では、天板1に表示部4が設けられた例を示すが、天板1に加えて又は替えて、筐体2の前面に表示部4が設けられていてもよい。
【0014】
天板1の下方であって、筐体2の内部には、天板1の上に載置される被加熱物200を加熱する加熱部5と、加熱部5に高周波電流を供給するインバータ回路6と、加熱部5による加熱及びその停止を制御する制御装置7とが設けられている。
【0015】
加熱部5は、加熱口10の下方に配置され、インバータ回路6から供給された高周波電流によって磁束を発生し、磁束によって加熱口10に載置された被加熱物200を誘導加熱する。
図1では、3つの加熱口10に対応して3つの加熱部5が設けられているが、2つ以下又は4つ以上の加熱部5が設けられてもよい。加熱部5の構成については、後ほど詳述する。
【0016】
インバータ回路6は、交流電源を直流に変換する整流回路を含み、直流から高周波電流を生成して加熱部5に供給する。インバータ回路6は、ハーフブリッジインバータ、フルブリッジインバータ、又は一石電圧共振インバータ等、公知の回路であり、IGBT又はMOSFETなどのスイッチング素子で構成される。
【0017】
制御装置7は、その機能を実現する回路デバイスなどのハードウェア、又はマイコン等の演算装置とその上で実行されるソフトウェアとで構成される。制御装置7は、操作部3の操作により入力された設定内容に基づいて、インバータ回路6を制御し、加熱部5による加熱を実施する。
【0018】
次に、実施の形態1の誘導加熱調理器100における加熱部5の構成について説明する。
図2は、実施の形態1に係る加熱部5の概略構成を示す図である。なお、
図2及び以降の図面に示される座標軸において、Z軸は誘導加熱調理器100の上下方向を示し、X軸は誘導加熱調理器100の左右方向を示し、Y軸は誘導加熱調理器100の前後方向を示す。
図2に示すように、加熱部5は、加熱コイル51と、フェライト52と、シールド部材53と、を備える。
【0019】
加熱コイル51は、インバータ回路6から供給される高周波電流により磁界を発生させる。加熱コイル51は、銅線又はアルミ線などのコイル線が渦巻き状に巻かれて構成される。以下の説明において、渦巻き状に巻かれたコイル線のうち、加熱コイル51の中心を渦巻きの中心とした際の一周分のコイル線を「ターン」と称する。つまり、加熱コイル51は、連続する複数のターンによって構成される。また、
図2では、加熱コイル51は、内周側から外周側に向かって一定の間隔で巻かれた分割面のないシングルコイルとなっているが、加熱コイル51の形状は、図示の例に限定されない。
【0020】
フェライト52は、加熱コイル51の下方に配置され、加熱コイル51から発生する磁束を吸収して磁路を形成する。
図2に示すように、加熱部5は、加熱コイル51の径方向に沿って放射状に配置された複数のフェライト52を備えている。なお、
図2では、加熱部5は8本のフェライト52を備えているが、フェライト52の本数は図示の例に限定されない。フェライト52は、直方体の棒形状を有し、長辺の長さは、加熱コイル51の最内周から最外周までの長さよりも長くなっている。なお、フェライト52の形状は、直方体に限定されるものではなく、例えば、三角柱形状であってもよい。もしくは、フェライト52は、棒状の基部の上面に突起が設けられた形状であってもよい。また、フェライト52の長辺の長さは、加熱コイルの最内周から最外周までの長さ以下であってもよい。
【0021】
シールド部材53は、加熱コイル51の外周を囲むように設けられている。シールド部材53は、アルミニウムなどの非磁性金属で構成され、加熱コイル51から発生した磁束の漏洩による磁性金属の誤加熱、又は制御装置7のノイズの発生を防止する。
【0022】
図3は、実施の形態1に係る加熱部5の断面模式図である。
図3では、XZ平面によって加熱部5を切断した場合の断面の一部と、加熱部5の上方に配置された天板1及び被加熱物200の断面とを模式的に示している。
図3に示すように、加熱コイル51は、径方向の内周側に配置された内周部511と、外周側に配置された外周部513と、内周部511と外周部513との間に配置された中間部512とからなる。加熱コイル51の径方向に連続して並ぶ複数のターンのうち、内周部511は少なくとも最内周のターンを含み、外周部513は少なくとも最外周のターンを含み、中間部512は最内周及び最外周以外のターンを含む。なお、内周部511、中間部512、及び外周部513は何れも1ターン以上であればよく、ターン数は図示の例に限定されない。
【0023】
中間部512におけるターンは、上下方向に2層以上積層される。また内周部511及び外周部513におけるターンは、上下方向に1層以上積層される。ただし、内周部511及び外周部513におけるターンの上下方向の積層数は、中間部512におけるターンの上下方向の積層数よりも少ないものとする。このとき、積層されたターンのうち、最も被加熱物200に近い最上層のターンを1層目、1層目の直下に配置されるターンを2層目と称する。
図3に示すように、内周部511及び外周部513の1層目の上下方向の位置は、中間部512の1層目と2層目との中間の位置と等しくなるように配置される。なお、
図3では、中間部512の積層数を2層、内周部511と外周部513の積層数を1層としているが、各積層数は図示の例に限定されない。
【0024】
次に、
図4を用いて、実施の形態1の加熱コイル51により得られる効果を説明する。
図4は、実施の形態1に係る加熱部5における磁束の流れを説明するための図である。
図4では、加熱部5に発生する磁束の流れの一部を破線矢印で示している。加熱コイル51に高周波電流が流れると、加熱コイル51の各ターンの周囲に磁束が発生する。各ターンで発生した磁束の合成磁束は、加熱コイル51の周囲を周回する。このとき、水平方向の磁束は被加熱物200の底面、及び加熱コイル51の下部に配置されたフェライト52の内部を通過する。このため、連続して並ぶターンの内周部511、及び外周部513に鎖交する磁束は、中間部512に鎖交する磁束と比較して多くなる。
【0025】
ここで、上記のように、実施の形態1では、磁束が集中しやすい、連続するターンの内周部511及び外周部513の積層数を中間部512の積層数よりも少なくすることで、大きな磁束が鎖交するターン数を減少させている。これにより、加熱コイル51で発生する渦電流を低減することができる。また、起磁力は電流値とターン数の積算(アンペアターン)で決まる。そのため、鎖交磁束が少ない中間部512の積層数を内周部511及び外周部513に比べて増やすことで、加熱部5全体のターン数を増やすことができ、任意の電力を入力する場合の電流値を減らすことができる。これにより、加熱部5におけるコイル損失を低減させることができる。
【0026】
以上のように、実施の形態1では、加熱コイル51のうち、内周部511及び外周部513の上下方向のターンの積層数を中間部512よりも少なくすることで、内周部511及び外周部513がコイル損失を低減するコイル損失低減部として機能する。これにより、大きな磁束が鎖交する内周部511及び外周部513において、渦電流損を低下させることができる。また中間部512の積層数を内周部511及び外周部513よりも多くすることで、加熱部5全体のターン数は増加するため、任意の電力を入力する場合の電流値が減少しコイル損失を低下させることができる。これにより、誘導加熱調理器100における加熱コイル51の温度の上昇、及び加熱部5の加熱効率の低下を抑制することができる。
【0027】
なお、加熱コイル51の構成は、
図4の例に限定されるものではなく、変形が可能である。
図5は、実施の形態1の変形例に係る加熱部5の断面模式図である。
図5に示すように、積層数の少ない内周部511及び外周部513の1層目と、積層数の多い中間部512の1層目との上下方向の位置が等しくなるように配置してもよい。言い換えると、コイル損失低減部として機能する内周部511及び外周部513の最上層は、コイル損失低減部以外の部分である中間部512の最上層と上下方向において同じ位置に配置されてもよい。さらに言い換えると、コイル損失低減部として機能する内周部511及び外周部513の最上層から天板1までの距離は、コイル損失低減部以外の部分である中間部512の最上層から天板1までの距離と同じであってもよい。各部の積層数は図示の例に限定されず、内周部511又は外周部513が2層以上積層される場合は、2層目も同様に、中間部512の2層目と上下方向の位置が等しくなるように配置され、以降の層も同様に配置される。
【0028】
実施の形態1の変形例によると、積層数が少ない内周部511及び外周部513のターンの位置が被加熱物200に近づき、被加熱物200に鎖交する磁束が増加する。そのため、被加熱物200に任意の電力を入力する場合のコイル電流が減少し、コイル損失を低減させることができる。これにより、加熱部5の加熱効率の低下を抑制することができる。
【0029】
実施の形態2.
実施の形態2について説明する。実施の形態2の誘導加熱調理器100は、加熱部5Aの構成において、実施の形態1と相違する。実施の形態2に係る誘導加熱調理器100のその他の構成は実施の形態1と同じである。以下、実施の形態1と構成の異なる点について説明し、実施の形態1と同様の構成については説明を省略する。
【0030】
図6は、実施の形態2に係る加熱部5Aの断面模式図である。
図6では、XZ平面によって加熱部5Aを切断した場合の断面の一部と、加熱部5Aの上方に配置された天板1及び被加熱物200の断面とを模式的に示している。
図6に示すように、実施の形態2の加熱部5Aの加熱コイル51Aは、実施の形態1と同様に、内周部511、中間部512、及び外周部513を有する。
【0031】
また、実施の形態2では、中間部512及び外周部513のターンは上下方向に2層以上積層され、内周部511のターンは上下方向に1層以上積層される。ただし、内周部511におけるターンの上下方向の積層数は、中間部512及び外周部513におけるターンの上下方向の積層数よりも少ないものとする。
図6では、中間部512及び外周部513の積層数を2層、内周部511の積層数を1層としているが、各積層数は図示の例に限定されない。
【0032】
次に、
図7を用いて、実施の形態2の加熱コイル51Aにより得られる効果を説明する。
図7は、実施の形態2に係る加熱部5Aにおける磁束の流れを説明するための図である。
図7は、加熱部5Aの上面視した図であり、加熱部5Aに発生する磁束の流れの一部を白抜きの破線矢印で示している。加熱コイル51Aの各ターンで発生した磁束の合成磁束は、加熱コイル51Aの周囲を周回する。これにより、
図7に示すように、加熱コイル51Aの外周側から中心方向に向かって磁束が集中し、加熱部5Aの中心側の磁束密度は外周側よりも高くなる。
【0033】
そこで、実施の形態2では、加熱部5Aの中で最も磁束密度が高くなる内周部511の積層数を中間部512及び外周部513の積層数よりも少なくすることで、大きな磁束が鎖交するターン数を減少させている。これにより、加熱コイル51Aで発生する渦電流が低下する。また、内周部511と比べて磁束密度が小さい中間部512及び外周部513の積層数を内周部511よりも多くすることで、加熱コイル51Aのターン数をさらに増やすことができ、任意の電力を入力する場合の電流値をさらに減らすことができる。これにより、加熱部5におけるコイル損失を低減させることができる。
【0034】
以上のように、実施の形態2では、加熱コイル51Aのうち、内周部511の上下方向のターンの積層数を中間部512及び外周部513よりも少なくすることで、内周部511がコイル損失を低減するコイル損失低減部として機能する。これにより、大きな磁束が鎖交する内周部511において、渦電流損を低下させることができる。また、中間部512及び外周部513の積層数を内周部511よりも多くすることで、加熱部5A全体のターン数は増加するため、任意の電力を入力する場合の電流値が減少しコイル損失を低減させることができる。これにより、誘導加熱調理器100における加熱コイル51Aの温度の上昇、及び加熱部5Aの加熱効率の低下を抑制することができる。
【0035】
なお、加熱コイル51Aの構成は、
図6の例に限定されるものではなく、変形が可能である。
図8は、実施の形態2の変形例に係る加熱部5Aの断面模式図である。
図8に示すように、積層数の少ない内周部511の1層目は、積層数の多い中間部512及び外周部513の1層目と、上下方向の位置が等しくなるように配置されてもよい。言い換えると、コイル損失低減部として機能する内周部511の最上層は、コイル損失低減部以外の部分である中間部512及び外周部513の最上層と上下方向において同じ位置に配置されてもよい。さらに言い換えると、コイル損失低減部として機能する内周部511の最上層から天板1までの距離は、コイル損失低減部以外の部分である中間部512及び外周部513の最上層から天板1までの距離と同じであってもよい。各部の積層数は図示の例に限定されず、内周部511が2層以上積層される場合は、2層目も同様に、中間部512及び外周部513の2層目と上下方向の位置が等しくなるように配置され、以降の層も同様に配置される。
【0036】
実施の形態2の変形例によると、積層数が少ない内周部511のターンの位置が被加熱物200に近づき、被加熱物200に鎖交する磁束が増加する。そのため、被加熱物200に任意の電力を入力する場合のコイル電流が減少し、コイル損失を低減させることができる。これにより、加熱部5Aの加熱効率の低下を抑制することができる。
【0037】
実施の形態3.
実施の形態3について説明する。実施の形態3の誘導加熱調理器100は、加熱部5Bの構成において、実施の形態1と相違する。実施の形態3に係る誘導加熱調理器100のその他の構成は実施の形態1と同じである。以下、実施の形態1と構成の異なる点について説明し、実施の形態1と同様の構成については説明を省略する。
【0038】
図9は、実施の形態3に係る加熱部5Bの断面模式図である。
図9では、XZ平面によって加熱部5Bを切断した場合の断面の一部と、加熱部5Bの上方に配置された天板1及び被加熱物200の断面とを模式的に示している。
図9に示すように、実施の形態3の加熱部5Bの加熱コイル51Bは、実施の形態1と同様に、内周部511、中間部512、及び外周部513を有する。
【0039】
また、実施の形態3では、内周部511のターンは上下方向に1層以上積層され、中間部512のターンは上下方向に3層以上積層され、外周部513のターンは上下方向に2層以上積層される。ただし、外周部513の積層数は、内周部511の積層数よりも多く、中間部512の積層数よりも少ないものとする。すなわち、各部の積層数の関係は、中間部512の積層数>外周部513の積層数>内周部511の積層数となっている。
図9では、中間部512の積層数を3層、外周部513の積層数を2層、内周部511の積層数を1層としているが、各積層数は図示の例に限定されない。なお、積層されたターンのうち、最も被加熱物200に近い最上層のターンを1層目、1層目の直下に配置されるターンを2層目、2層目の直下に配置されるターンを3層目と称する。
【0040】
次に、実施の形態3の加熱コイル51Bにより得られる効果を説明する。
図4及び
図7を参照して説明したように、加熱コイル51Bの各ターンで発生した磁束の合成磁束は、加熱コイル51Bの周囲を周回する。これにより、加熱コイル51Bの外周側から中心方向に向かって磁束が集中し、加熱部5Bの中心側の磁束密度は外周側よりも高くなる。
【0041】
そこで、実施の形態3では、加熱部5Bの中で最も磁束密度が高くなる内周部511の積層数を中間部512及び外周部513の積層数よりも少なくすることで、大きな磁束が鎖交するターン数を減少させている。これにより、加熱コイル51Bで発生する渦電流損が低減する。また、内周部511と比べて磁束密度が小さい中間部512及び外周部513の積層数を内周部511よりも多くすることで、加熱部5B全体のターン数をさらに増やすことができ、任意の電力を入力する場合の電流値をさらに減らすことができる。これにより、加熱部5Bにおけるコイル損失を低減させることができる。
【0042】
以上のように、実施の形態3では、加熱コイル51Bのうち、内周部511の上下方向のターンの積層数を中間部512及び外周部513よりも少なくすることで、内周部511がコイル損失を低減するコイル損失低減部として機能する。これにより、大きな磁束が鎖交する内周部511において、渦電流損を減少させることができる。また、中間部512及び外周部513の積層数を内周部511よりも多くすることで、加熱部5B全体のターン数は増加するため、任意の電力を入力する場合の電流値が減少し、コイル損失を低減させることができる。これにより、誘導加熱調理器100における加熱コイル51Aの温度の上昇、及び加熱部5Aの加熱効率の低下を抑制することができる。
【0043】
なお、加熱コイル51Bの構成は、
図9の例に限定されるものではなく、変形が可能である。
図10は、実施の形態3の変形例に係る加熱部5Bの断面模式図である。
図10に示すように、内周部511、中間部512及び外周部513は、1層目の上下方向の位置が等しくなるように配置されてもよい。言い換えると、コイル損失低減部として機能する内周部511の最上層は、コイル損失低減部以外の部分である中間部512及び外周部513の最上層と上下方向において同じ位置に配置されてもよい。さらに言い換えると、コイル損失低減部として機能する内周部511の最上層から天板1までの距離は、コイル損失低減部以外の部分である中間部512及び外周部513の最上層から天板1までの距離と同じであってもよい。
【0044】
また、中間部512と外周部513は、2層目の上下方向の位置が等しくなるように配置される。各部の積層数は図示の例に限定されず、内周部511が2層以上積層される場合は、2層目も同様に、中間部512と外周部513の2層目と上下方向の位置が等しくなるように配置され、以降の層も同様に配置される。また外周部513が3層以上積層される場合は、3層目以降も同様に、中間部512の3層目と上下方向の位置が等しくなるように配置され、以降の層も同様に配置される。
【0045】
実施の形態3の変形例によると、内周部511と外周部513のターンの位置が被加熱物200に近づき、被加熱物200に鎖交する磁束が増加するため、被加熱物200に任意の電力を入力する場合のコイル電流が減少しコイル損失を低減させることができる。これにより、加熱部5Bの加熱効率の低下を抑制することができる。
【0046】
実施の形態4.
実施の形態4について説明する。実施の形態4の誘導加熱調理器100は、加熱部5Cの構成において、実施の形態1と相違する。実施の形態4に係る誘導加熱調理器100のその他の構成は実施の形態1と同じである。以下、実施の形態1と構成の異なる点について説明し、実施の形態1と同様の構成については説明を省略する。
【0047】
図11は、実施の形態4に係る加熱部5Cの概略構成を示す図である。
図11に示すように、実施の形態4の加熱部5Cは、加熱コイル51Cと、フェライト52と、シールド部材53と、を備える。フェライト52及びシールド部材53の構成は、実施の形態1と同じである。
【0048】
加熱コイル51Cは、同心円に配置された第1コイル部514と第2コイル部515とから構成される分割コイルである。第2コイル部515は、第1コイル部514よりも大きい直径を有し、第1コイル部514の外周側に、第1コイル部514と間隔を空けて配置される。なお、加熱コイル51Cの分割数は2以上であれば良く、図示の例に限定されない。第1コイル部514及び第2コイル部515は、それぞれ、銅線又はアルミ線などのコイル線が渦巻き状に巻かれて構成されている。すなわち、第1コイル部514と、第2コイル部515は、それぞれ連続する複数のターンによって構成されている。また、第1コイル部514の巻終わりと第2コイル部515の巻き始めとが繋がっている。
【0049】
以降の説明において、第1コイル部514と第2コイル部515との間の径方向の距離を「コイル部間距離」と称する。また、第1コイル部514及び第2コイル部515において、複数のターンのうち、隣接するターン間の径方向の距離を「ターン間距離」と称する。
【0050】
図12は、実施の形態4に係る加熱部5Cの断面模式図である。
図12では、XZ平面によって加熱部5Cを切断した場合の断面の一部と、加熱部5Cの上方に配置された天板1及び被加熱物200の断面とを模式的に示している。
図12に示すように、第1コイル部514と第2コイル部515とは、ターン数が異なっている。
図12の例では、第2コイル部515のターン数は、第1コイル部514のターン数よりも多くなっている。このとき、ターン数が多い第2コイル部515のターン間距離D2と、第1コイル部514のターン間距離D1との関係は、D2>D1となる。なお、
図12では、2つのコイル部で構成される分割コイルのうち、外周側の第2コイル部515のターン数が中心側の第1コイル部514のターン数より多い構成としているが、ターン数の大小関係は図示の例に限定されない。
【0051】
次に、
図13を用いて、実施の形態4の加熱コイル51Cにより得られる効果を説明する。
図13は、実施の形態4に係る加熱部5Cにおける磁束の流れを説明するための図である。
図13では、加熱部5Cで発生する磁束の流れの一部を破線矢印で示している。
図13に示すように、加熱コイル51Cの各ターンで発生した磁束の合成により、第1コイル部514と第2コイル部515のそれぞれの周囲を囲むように大きな磁束が流れる。このとき、起磁力はアンペアターンで決まるため、各コイル部を構成するターン数が多いほど各コイル部の周囲を流れる合成磁束は大きくなる。
【0052】
第1コイル部514で発生した合成磁束は、隣接する第2コイル部515に鎖交し、第2コイル部515のコイル線に渦電流が流れ、渦電流損を発生させる。また同様に、第2コイル部515で発生した合成磁束は、隣接する第1コイル部514に鎖交し、第1コイル部514のコイル線に渦電流が流れ、渦電流損を発生させる。このとき、第1コイル部514と第2コイル部515の間の距離が離れるほど鎖交する磁束は減少し発生する渦電流損が低下する。このため、コイル部間距離が大きくなるほど渦電流損が減少し、コイル損失が減少する。
【0053】
また、これと同時に、以下で説明する他の要因によるコイル損失も発生する。加熱コイル51Cに高周波電流が流れると、各ターンの周囲に磁束が発生する。この磁束が隣接するターンに鎖交すると、逆起電力が発生し、電流分布が偏る。これにより、見かけ上のコイル断面積が減少し、交流抵抗が増加する近接効果が発生する。このとき、各ターンの周囲に発生する磁束は、隣接するターンとの距離が離れるほど小さくなる。このため、ターン間距離が大きくなると近接効果が減少し、コイル損失が減少する。
【0054】
ここで、加熱部5Cのサイズを変えずに、第1コイル部514及び第2コイル部515のターン間距離を大きくした場合、コイル部間距離が減少する。この場合、ターン間距離の拡大による近接効果の減少と、隣接するコイル部で発生する合成磁束による渦電流損の増加とが同時に発生する。
【0055】
このとき、第1コイル部514及び第2コイル部515のうち、ターン数が少ない第1コイル部514では、ターン間距離を大きくすることによる近接効果低減に伴うコイル損失の減少よりも、第2コイル部515の合成磁束の鎖交による渦電流損の増加に伴うコイル損失増加のほうが大きくなる。
【0056】
一方、第1コイル部514及び第2コイル部515のうち、ターン数が多い第2コイル部515では、第1コイル部514の合成磁束の鎖交による渦電流損の増加に伴うコイル損失の増加よりも、ターン間距離を大きくすることによる近接効果低減に伴うコイル損失の減少のほうが大きくなる。
【0057】
そこで、上記のように、実施の形態4では、ターン数が少ない第1コイル部514のターン間距離D1をターン数が多い第2コイル部515のターン間距離D2より小さくしている。これにより、第1コイル部514及び第2コイル部515のコイル部間距離を維持し、ターン数が少ない第1コイル部514のコイル損失の増加を抑制する。加えて、ターン数の多い第2コイル部515の近接効果によるコイル損失を低減させることができ、加熱部5C全体として、コイル損失を低減させることができる。
【0058】
以上のように、実施の形態4では、加熱コイル51Cが分割コイルである場合に、ターン数が多い第2コイル部515のターン間距離D2を、ターン数が少ない第1コイル部514のターン間距離D1よりも大きくする。これにより、第2コイル部515がコイル損失を低減するコイル損失低減部として機能し、ターン数の多い第2コイル部515の近接効果を低下させることができる。また、コイル部間距離を維持することで、ターン数が少ない第1コイル部514の、隣接する第2コイル部515の合成磁束による渦電流損を低下させることができる。これにより、誘導加熱調理器100における加熱コイル51Aの温度の上昇、及び加熱部5Aの加熱効率の低下を抑制することができる。
【0059】
また、実施の形態4では、ターン数が少ない第1コイル部514を加熱部5の中心側に配置し、ターン数が多い第2コイル部515を加熱部5の外周側に配置している。加熱コイル51Cの1ターン当たりの長さ(円周)は、加熱部5Cの外周側に配置されるほど長くなる。そのため、上記のような配置とすることで、第1コイル部514を外周側に、第2コイル部515を中心側に配置する場合よりも加熱コイル51Cを構成するコイル線の長さが増加する。加熱コイル51Cを構成するコイル線の長さが長くなるとコイルインダクタンスの増加に伴い発生する磁束が増加するため、任意の電力を被加熱物200に入力する場合のコイル電流を減らすことができる。これにより、コイル損失をさらに減少させることができる。
【0060】
なお、加熱コイル51Cが3以上のコイル部に分割される場合も、ターン数の大小とターン間距離の大小は対応するものとする。例えば、3分割の場合で、第1コイル部のターン数N1<第2コイル部のターン数N2<第3コイル部のターン数N3の場合、第1コイル部のターン間距離D1、第2コイル部のターン間距離D2、及び第3コイル部のターン間距離D3は、D1<D2<D3、D1=D2<D3、又はD1<D2=D3となる。
【0061】
以上が実施の形態の説明であるが、上記の実施の形態は変形及び組み合わせることが可能である。例えば、上記実施の形態及び変形例では、誘導加熱調理器100がキッチンカウンター等の厨房家具の中に設置されるビルトイン式である場合を例に説明したが、誘導加熱調理器100は、小型で可搬式のものであってもよい。
【0062】
また、実施の形態4の第1コイル部514及び第2コイル部515のそれぞれに実施の形態1~3の何れかの構成を適用してもよい。すなわち、第1コイル部514及び第2コイル部515の少なくとも何れか一方に、上下方向のターンの積層数が少ないコイル損失低減部を設けてもよい。
【0063】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0064】
(付記1)
被加熱物が載置される天板と、
前記天板の下方に配置され、前記被加熱物を加熱する加熱部と、を備え、
前記加熱部は、渦巻き状に巻回された加熱コイルを有し、
前記加熱コイルの一部は、コイル損失を低減させるコイル損失低減部であり、
前記コイル損失低減部は、前記加熱コイルの一周分のコイル線であるターンの上下方向の積層数又は径方向のターン間距離が、前記加熱コイルの前記コイル損失低減部以外の部分と異なるものである誘導加熱調理器。
(付記2)
前記加熱コイルは、少なくとも最内周のターンを含む内周部と、少なくとも最外周のターンを含む外周部と、前記内周部及び前記外周部の間の中間部と、を有し、
前記コイル損失低減部は、前記内周部、又は前記内周部及び前記外周部であり、
前記コイル損失低減部の前記積層数は、前記コイル損失低減部以外の部分の前記積層数よりも少ない付記1に記載の誘導加熱調理器。
(付記3)
前記外周部の前記積層数は、前記内周部の前記積層数よりも多く、且つ前記中間部の前記積層数よりも少ない付記2に記載の誘導加熱調理器。
(付記4)
前記コイル損失低減部の最上層は、前記上下方向において前記コイル損失低減部以外の部分の最上層と同じ位置にある付記1~3の何れか一つに記載の誘導加熱調理器。
(付記5)
前記加熱コイルは、同心円に配置された複数のコイル部からなり、
前記コイル損失低減部は、複数の前記コイル部のうち、ターン数が最も多いコイル部であり、
前記コイル損失低減部の前記ターン間距離は、前記コイル損失低減部以外の部分の前記ターン間距離よりも大きい付記1~3の何れか一つに記載の誘導加熱調理器。
(付記6)
前記コイル損失低減部は、前記コイル損失低減部以外の部分よりも外周側に配置されている付記1~5の何れか一つに記載の誘導加熱調理器。
【符号の説明】
【0065】
1 天板、2 筐体、3 操作部、4 表示部、5、5A、5B、5C 加熱部、6 インバータ回路、7 制御装置、10 加熱口、51、51A、51B、51C 加熱コイル、52 フェライト、53 シールド部材、100 誘導加熱調理器、200 被加熱物、511 内周部、512 中間部、513 外周部、514 第1コイル部、515 第2コイル部。