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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165323
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】排砂装置および排砂方法
(51)【国際特許分類】
   E02F 3/92 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
E02F3/92 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081432
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】カナデビア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】田村 大樹
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】外山 正幸
(57)【要約】
【課題】排砂装置における排砂効率を向上する。
【解決手段】排砂装置1は、水底に配置され、堆積土砂9を吸引する吸引部5と、吸引部5に接続され、吸引された土砂を所定の排出位置まで輸送する輸送管6と、吸引部5により堆積土砂9を吸引する際に、吸引部5を所定の進行方向A1に移動する移動部3とを備える。吸引部5において進行方向A1の前側を向く前方面522が、下側から上側に向かって進行方向A1の前側に傾斜する傾斜面523を含む。吸引部5の底面513および傾斜面523のそれぞれに、堆積土砂9の吸引孔510,520が設けられる。これにより、排砂装置1における排砂効率を向上することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底に堆積した堆積土砂を前記水底から除去する排砂装置であって、
水底に配置され、堆積土砂を吸引する吸引部と、
前記吸引部に接続され、吸引された土砂を所定の排出位置まで輸送する輸送管と、
前記吸引部により堆積土砂を吸引する際に、前記吸引部を所定の進行方向に移動する移動部と、
を備え、
前記吸引部において前記進行方向の前側を向く前方面が、下側から上側に向かって前記進行方向の前側に傾斜する傾斜面を含み、
前記吸引部の底面および前記傾斜面のそれぞれに、堆積土砂の吸引孔が設けられる排砂装置。
【請求項2】
請求項1に記載の排砂装置であって、
前記吸引部が、
前記吸引孔が設けられる前記底面を含む本体部と、
前記本体部に対して前記進行方向の前側に接続され、前記傾斜面を含む前方部と、
を備え、
前記吸引部において、前記傾斜面の傾斜角が前記前方部と異なる他の前方部が、前記前方部と交換可能である排砂装置。
【請求項3】
請求項1に記載の排砂装置であって、
浮体と、
前記浮体に接続され、前記吸引部を支持する支持部と、
をさらに備え、
前記移動部が、前記浮体を移動することにより前記吸引部を前記進行方向に移動し、
前記吸引部の前記進行方向への移動時において、前記支持部により前記吸引部の姿勢が一定に保たれる排砂装置。
【請求項4】
請求項1に記載の排砂装置であって、
それぞれが前記吸引部および前記輸送管を含み、前記進行方向に垂直な方向に沿って配列される複数の吸引ユニットと、
前記複数の吸引ユニットが接続される浮体と、
を備え、
前記移動部が、前記浮体を移動することにより前記複数の吸引ユニットの前記吸引部を前記進行方向に移動する排砂装置。
【請求項5】
水底に堆積した堆積土砂を前記水底から除去する排砂方法であって、
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の排砂装置の前記吸引部により堆積土砂を吸引する工程と、
前記移動部により前記吸引部を前記進行方向に移動する工程と、
を備え、
前記吸引部における前記傾斜面の傾斜角が、堆積土砂の安息角に近似する排砂方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底に堆積した堆積土砂を当該水底から除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダム湖等の貯水池の水底に堆積した堆積土砂を当該水底から除去する排砂作業が行われており、排砂作業に用いられる装置も提案されている。例えば、特許文献1では、水中堆積物流送用の吸引パイプが開示されている。当該パイプは、両端が開口した可撓性を有する管材から形成され、一端が、水の取り入れ口である取水口に、他端が、吐出口側の接続端となっている。両端の中間部には折返し部が形成され、折返し部のある管材の下部が切り欠かれるとともに、柔軟性を有するシート部材が接着される。当該シート部材には複数の底面吸引孔が管材内と連通して設けられ、折返し部の先端部分にあたる管材の側面部分には、側面吸引孔が管材内と連通して設けられる。
【0003】
また、特許文献2では、水底堆積物の除去・清掃装置が開示されており、当該装置は、推進機による位置制御機能を有する浮体と、浮体に取り付けられてスラリー状の水底堆積物を吸引搬出可能な除去装置とを備え、当該除去装置には、吸込み口の上下方向位置調整手段が設けられる。特許文献3では、排砂方法が開示されており、堆積土砂にシート状部材が敷設され、シート状部材の中心に排砂管が接続される。貯水池内に浮かべられた台船より排砂管の吸引口と堆積土砂との間に隙間が形成されるように排砂管が吊り下げられ、排砂管による吸引でシート状部材と堆積土砂との間に水流を発生させて堆積土砂の表面が排砂される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5305439号公報
【特許文献2】特開平10-60942号公報
【特許文献3】特許第4082269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、広大な貯水池では、排砂作業に長時間を要してしまう。したがって、排砂効率を向上することが可能な排砂装置が求められている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、排砂装置における排砂効率を向上することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、水底に堆積した堆積土砂を前記水底から除去する排砂装置であって、水底に配置され、堆積土砂を吸引する吸引部と、前記吸引部に接続され、吸引された土砂を所定の排出位置まで輸送する輸送管と、前記吸引部により堆積土砂を吸引する際に、前記吸引部を所定の進行方向に移動する移動部とを備え、前記吸引部において前記進行方向の前側を向く前方面が、下側から上側に向かって前記進行方向の前側に傾斜する傾斜面を含み、前記吸引部の底面および前記傾斜面のそれぞれに、堆積土砂の吸引孔が設けられる。
【0008】
本発明の態様2は、態様1の排砂装置であって、前記吸引部が、前記吸引孔が設けられる前記底面を含む本体部と、前記本体部に対して前記進行方向の前側に接続され、前記傾斜面を含む前方部とを備え、前記吸引部において、前記傾斜面の傾斜角が前記前方部と異なる他の前方部が、前記前方部と交換可能である。
【0009】
本発明の態様3は、態様1(態様1または2であってもよい。)の排砂装置であって、浮体と、前記浮体に接続され、前記吸引部を支持する支持部とをさらに備え、前記移動部が、前記浮体を移動することにより前記吸引部を前記進行方向に移動し、前記吸引部の前記進行方向への移動時において、前記支持部により前記吸引部の姿勢が一定に保たれる。
【0010】
本発明の態様4は、態様1(態様1または2であってもよい。)の排砂装置であって、それぞれが前記吸引部および前記輸送管を含み、前記進行方向に垂直な方向に沿って配列される複数の吸引ユニットと、前記複数の吸引ユニットが接続される浮体とを備え、前記移動部が、前記浮体を移動することにより前記複数の吸引ユニットの前記吸引部を前記進行方向に移動する。
【0011】
本発明の態様5は、水底に堆積した堆積土砂を前記水底から除去する排砂方法であって、態様1ないし4のいずれか1つの排砂装置の前記吸引部により堆積土砂を吸引する工程と、前記移動部により前記吸引部を前記進行方向に移動する工程とを備え、前記吸引部における前記傾斜面の傾斜角が、堆積土砂の安息角に近似する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、排砂装置における排砂効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】排砂装置の構成を示す図である。
図2】排砂装置を用いた排砂作業の流れを示す図である。
図3A】排砂作業を説明するための図である。
図3B】排砂作業を説明するための図である。
図3C】排砂作業を説明するための図である。
図4】排砂装置の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る排砂装置1の構成を示す図である。排砂装置1は、ダム湖等の貯水池の水底に堆積した堆積土砂9を当該水底から除去する装置である。排砂装置1は、浮体2と、移動部3と、昇降支持部4と、吸引部5と、輸送管6とを備える。図1に示す浮体2は、薄板状であり、一例では、3m×2m×0.5mのサイズである。浮体2は、貨物自動車(トラック)等により運搬可能である。浮体2は、ポリウレタン等の樹脂により形成され、比較的軽量である。後述するように、浮体2は、昇降支持部4および吸引部5等を支持しつつ、貯水池の水面に浮かべられる。浮体2の形状およびサイズは様々に変更されてよく、浮体2の材料は樹脂以外であってもよい。
【0015】
移動部3は、例えば、船外機31を有する。船外機31は、浮体2の端部に取り付けられる。船外機31は、推進機構および舵を含み、船外機31を操作することにより、水面上において浮体2を所望の方向に移動可能である。後述するように、吸引部5により堆積土砂9を吸引する際には、移動部3は、図1中の矢印A1の方向(図1中の右方向であり、以下、「土砂吸引時の進行方向A1」、または、単に「進行方向A1」という。)に浮体2を移動する。
【0016】
昇降支持部4は、昇降部41と、支持部42とを備える。昇降部41は、例えば、ウインドラス等の巻き上げ機構であり、浮体2の上面21に取り付けられる。索状部材であるワイヤロープ411の一部が、昇降部41のドラムに保持される。昇降部41は、ワイヤロープ411の送り出しおよび巻き上げが可能である。浮体2には、上下方向に延びる貫通孔22が設けられ、昇降部41から送り出されたワイヤロープ411の部位は、貫通孔22を介して浮体2の下方に延び、水中に配置される。水中のワイヤロープ411の端部には、支持部42が接続される。昇降部41では、ワイヤロープ411以外のロープや、チェーン等の他の索状部材が用いられてもよい。
【0017】
支持部42は、例えば、吊り天秤であり、吸引部5を支持する。支持部42の一例は、一対の長尺部材および一対の連結部材により構成される矩形の枠状部421を有し、枠状部421の4個の角部のそれぞれが第1接続ロープ422(図1では、1本の第1接続ロープのみに符号422を付す。後述の第2接続ロープ423において同様。)によりワイヤロープ411の端部に接続される。吸引部5は、例えば、枠状部421の4個の角部からそれぞれ下方に延びる4本の第2接続ロープ423に接続され、4点で吊り下げられる。吸引部5が水底に接触することなく、水中に配置された状態では、支持部42により吸引部5の姿勢が一定に保たれる。図1の排砂装置1では、吸引部5の後述の底面513が略水平となる姿勢が、支持部42により保たれる。支持部42の構造は、様々に変更されてよく、3点または5点以上で吸引部5が吊り下げられてもよい。例えば、吸引部5が3点で吊り下げられる場合、枠状部421は三角形であり、吸引部5が5点で吊り下げられる場合、枠状部421は五角形である。第1および第2接続ロープ422,423は、ワイヤロープまたは他の索状部材である。
【0018】
吸引部5は、例えば、ステンレス鋼等の金属、または、樹脂等により形成される。吸引部5は、本体部51と、前方部52とを備える。本体部51は、例えば、上下方向の高さが比較的小さい直方体状である。本体部51において、一の側面511は、土砂吸引時の進行方向A1を向いており、前方部52は、本体部51の当該側面511(以下、「連結面511」という。)に接続される。換言すると、前方部52は、本体部51に対して進行方向A1の前側に接続される。本体部51および前方部52の内部には、進行方向A1に沿って延びる内部流路53が設けられる。本体部51において、水底に対向する底面513には、少なくとも1つの吸引孔510が設けられる。吸引孔510は、内部流路53に接続する。
【0019】
前方部52は、本体部51の連結面511と連結する面521(以下、「連結面521」という。)を有する。前方部52の高さは、本体部51の高さとほぼ同じである。また、土砂吸引時の進行方向A1および上下方向に垂直な方向(図1の紙面に垂直な方向であり、以下、「幅方向」という。)における前方部52の幅は、本体部51の幅とほぼ同じである。図1の例では、本体部51の連結面511の略全体が、前方部52の連結面521の略全体と接触する。例えば、本体部51において、連結面511の周囲にフランジ部が設けられ、前方部52において、連結面521の周囲にフランジ部が設けられる。そして、両フランジ部に設けられたボルト孔に挿入したボルトの締結により、本体部51と前方部52とが連結される。換言すると、当該ボルトを取り外すことにより、吸引部5では、前方部52が他の前方部52に交換可能である。
【0020】
前方部52は、土砂吸引時の進行方向A1の前側を向く面522(以下、「前方面522」という。)をさらに有する。前方面522には、下側から上側に向かって進行方向A1の前側に傾斜する傾斜面523が含まれる。換言すると、傾斜面523は、進行方向A1から斜め下を向く面である。以下の説明では、土砂吸引時の進行方向A1に対して傾斜面523がなす角度(すなわち、進行方向A1と傾斜面523とにより形成される最小の角度)を「傾斜角」という。後述するように、排砂装置1では、傾斜面523の傾斜角が異なる複数種類の前方部52が準備されている。図1の例では、前方面522のほぼ全体が、傾斜面523となっているが、傾斜面523は前方面522の一部であってもよい。例えば、前方面522における上側の端部(すなわち、進行方向A1における最も前側の部位)に、上下方向および幅方向に平行な面が設けられてもよい。傾斜面523には、少なくとも1つの吸引孔520が設けられる。吸引孔520は、内部流路53に接続する。
【0021】
本体部51において、連結面511とは反対側の側面512では、内部流路53が開口しており、内部流路53の開口部には、輸送管6の一端が接続される。輸送管6は、可撓性を有する管材であり、例えば、樹脂等により形成される。輸送管6は、貯水池の外側における所定の排出位置まで延びており、輸送管6の他端には、ポンプが接続される。ポンプの吸引動作により、内部流路53の圧力が、吸引部5の周囲の圧力よりも低くなり、吸引孔510,520を介して、水底の堆積土砂9および周囲の水が吸引される。吸引された土砂および水は、内部流路53および輸送管6を介して排出位置まで輸送されて排出される。図1の例では、輸送管6に複数のフロート61(図1では、1つのフロート61のみを図示している。)が取り付けられ、吸引部5と排出位置との間において輸送管6が水面に沿って支持されている。
【0022】
例えば、輸送管6の他端は、貯水池の水底よりも低い位置に配置されており、輸送管6の内部を水で満たした後、サイフォンの原理を利用して吸引部5から排出位置まで土砂および水が輸送されてもよい。また、吸引部5の内部において、内部流路53が平面視でU字状に設けられてもよい。当該吸引部5では、内部流路53の両端は、本体部51の側面512に開口しており、内部流路53の一方の開口部は、取水口となり、他方の開口部には、輸送管6が接続される。取水口にて取り込まれた水は、内部流路53を流れる。吸引孔510,520を介して取り込まれた土砂および水は、内部流路53を流れる水に混合され、輸送管6を介して排出位置まで輸送される。
【0023】
図2は、排砂装置1を用いた排砂作業の流れを示す図である。図3Aないし図3Cは、排砂作業を説明するための図である。まず、排砂作業が行われる貯水池において、水底に堆積した堆積土砂9の安息角が特定される(ステップS11)。例えば、堆積土砂9を採取して測定を行うことにより安息角が特定される。また、土砂の粒子の大きさや、形状等から安息角が特定されてもよい。
【0024】
続いて、本体部51に取り付けるべき前方部52が選択される。ここで、排砂装置1では、傾斜面523の傾斜角が異なる複数種類の前方部52が予め準備されており、特定された安息角に最も近似した傾斜角を有する前方部52が、選択される。そして、当該前方部52が本体部51に取り付けられる(ステップS12)。これにより、吸引部5の傾斜面523の傾斜角が、実際の堆積土砂9の安息角に近似する。傾斜面523の傾斜角と、堆積土砂9の安息角との角度差は、例えば、15°以内であり、好ましくは、10°以内であり、より好ましくは5°以内である。
【0025】
前方部52が本体部51に取り付けられて吸引部5が準備されると、昇降支持部4および吸引部5が取り付けられた浮体2が、移動部3により排砂開始位置まで移動する(ステップS13)。浮体2が排砂開始位置まで移動する際には、昇降部41によりワイヤロープ411がある程度巻き上げられており、支持部42および吸引部5は、水中にて浮体2の近くに配置される。ステップS13および後述のステップS14~S19の処理における排砂装置1の動作は、浮体2上のオペレータの操作により行われてもよく、浮体2から離れた位置にて排砂装置1を監視するオペレータの遠隔操作により行われてもよい。また、コンピュータ等が実現する制御部により、自動で行われてもよい。
【0026】
浮体2が排砂開始位置に到達すると、昇降部41によりワイヤロープ411が所定の長さだけ送り出される。これにより、図3Aに示すように、吸引部5が水底に接触する(ステップS14)。このとき、吸引部5に対して、輸送管6が土砂吸引時の進行方向A1の後側に配置されていることにより、前方部52が、本体部51に対して進行方向A1の前側に位置する状態が維持される(後述の進行方向A1への移動時において同様)。排砂装置1では、例えば、最も浮体2に近接するフロート61の位置が浮体2に対して固定されていてもよい。図3Aでは、水中のワイヤロープ411は緩んだ状態である。
【0027】
続いて、輸送管6に設けられたポンプを駆動することにより、吸引部5による水底の堆積土砂9の吸引が開始される(ステップS15)。吸引の開始時には、主として底面513の吸引孔510(図1参照)により、吸引部5の下方の堆積土砂9が吸引される。傾斜面523の吸引孔520からも堆積土砂9が吸引されてよい。堆積土砂9の吸引による除去が進むに従って、吸引部5は下方に移動する。本処理例では、吸引部5が堆積土砂9を除去する深さの最下点が設定最下点として予め定められており、吸引部5が設定最下点まで到達すると、図3Bに示すように、ワイヤロープ411がピンと張った状態となり、吸引部5の位置が設定最下点で保たれる。換言すると、吸引部5の下方への移動が設定最下点で制限されるように、堆積土砂9の吸引の開始直前における、昇降部41によるワイヤロープ411の送り出し長さが決定されている。なお、ステップS14において、ワイヤロープ411が張った状態で吸引部5が水底に接触してもよい。この場合、ステップS15において、吸引部5が設定最下点に到達するまで、堆積土砂9の除去の進み具合に合わせて、昇降部41によりワイヤロープ411が送り出される。
【0028】
吸引部5が設定最下点に到達すると、移動部3により土砂吸引時の進行方向A1への浮体2の移動が開始される(ステップS16)。このとき、図3Bに示すように、吸引部5による堆積土砂9の除去により水底に谷部が形成されており、当該谷部の傾斜面91の傾斜角は、堆積土砂9の安息角にてほぼ一定となる。既述のように、吸引部5の傾斜面523の傾斜角は堆積土砂9の安息角に近似するため、当該谷部の傾斜面91と、吸引部5の傾斜面523との接触面積(接地面積)が大きくなる。これにより、傾斜面523の吸引孔520(図1参照)において、堆積土砂9を効率よく吸引することが可能となる。進行方向A1への浮体2の移動速度は緩やかであり、浮体2の移動により、吸引部5も進行方向A1に移動する。吸引部5では、底面513の吸引孔510からも堆積土砂9が吸引されてよい。図3Cでは、浮体2が排砂開始位置からある程度移動した状態を示している。
【0029】
浮体2が排砂終了位置まで到達すると、移動部3による浮体2の移動が停止される(ステップS17)。また、吸引部5による水底の堆積土砂9の吸引が停止される(ステップS18)。続いて、昇降部41のワイヤロープ411が巻き上げられ、支持部42および吸引部5が、浮体2の近くに配置された状態で、移動部3により、新たな排砂開始位置(例えば、幅方向において前回の排砂開始位置に隣接する位置)に浮体2が移動する(ステップS19,S13)。その後、ステップS14~S18の処理が繰り返される。上記ステップS13~S18の処理は、所定の領域の全体を吸引部5が通過するまで繰り返される(ステップS19)。
【0030】
以上に説明したように、排砂装置1は、水底に配置され、堆積土砂9を吸引する吸引部5と、吸引部5に接続され、吸引された土砂を所定の排出位置まで輸送する輸送管6と、吸引部5により堆積土砂9を吸引する際に、吸引部5を所定の進行方向A1に移動する移動部3とを備える。吸引部5において進行方向A1の前側を向く前方面522が、下側から上側に向かって進行方向A1の前側に傾斜する傾斜面523を含む。また、吸引部5の底面513および傾斜面523のそれぞれに、堆積土砂9の吸引孔510,520が設けられる。このような構造により、排砂装置1では、吸引孔510,520を用いて堆積土砂9を効率よく吸引することができ、単位時間当たりの堆積土砂9の吸引量(排砂量)を増加させる、すなわち、排砂効率を向上することができる。
【0031】
好ましくは、吸引部5が、吸引孔510が設けられる上記底面513を含む本体部51と、本体部51に対して進行方向A1の前側に接続され、上記傾斜面523を含む前方部52とを備える。また、吸引部5において、傾斜面523の傾斜角が当該前方部52と異なる他の前方部52が、前方部52と交換可能である。これにより、堆積土砂9の安息角に近似した傾斜角の傾斜面523を有する前方部52を利用して、排砂効率をより確実に向上することができる。
【0032】
ここで、上記浮体2を用いることなく、クレーンを用いて吸引部を水底に配置する比較例の排砂作業を想定する。比較例の排砂作業では、クレーンを搭載する自動車(すなわち、クレーン車)が必要となるため、排砂作業のコストが増大する。また、ダム湖等の貯水池は山奥に存在することが多く、クレーン車が当該貯水池近傍まで到達できない場合がある。さらに、クレーンにより吸引部を持ち上げて移動させている間は、吸引部により土砂を吸引することができない。
【0033】
これに対し、好ましい排砂装置1は、浮体2と、浮体2に接続され、吸引部5を支持する支持部42とをさらに備え、移動部3が、浮体2を移動することにより吸引部5を進行方向A1に移動する。このように、排砂装置1では、吸引部5が浮体2から吊り下げられ、浮体2と共に移動することにより、クレーンを用いることなく、吸引部5を水底の各位置に配置することができる。その結果、排砂作業のコストを削減するとともに、貯水池が山奥に存在する場合でも、排砂作業を行うことが可能である。また、吸引部5を上下移動させることなく、進行方向A1へ移動することにより、移動中も継続して水底の土砂を吸引することができる。さらに、吸引部5の進行方向A1への移動時において、支持部42により吸引部5の姿勢が一定に保たれる。これにより、傾斜面523と堆積土砂9の傾斜面91との接触面積が大きい状態を維持して、排砂効率をより確実に向上することができる。なお、吸引部5の構造や重量等によっては、支持部42が省略され、吸引部5がワイヤロープ411に直接接続されてもよい。
【0034】
排砂方法は、上記排砂装置1の吸引部5により堆積土砂9を吸引する工程と、移動部3により吸引部5を進行方向A1に移動する工程とを備える。また、吸引部5における傾斜面523の傾斜角が、堆積土砂9の安息角に近似する。これにより、排砂効率をより確実に向上することができる。
【0035】
図4は、排砂装置の他の例を示す図であり、土砂吸引時の進行方向A1における後側から前側を向いて見た排砂装置1aを示す。図4に示す排砂装置1aでは、吸引部5および輸送管6を含む構成を吸引ユニット50として、複数の吸引ユニット50が進行方向A1に垂直な幅方向に沿って配列される。図4の例では、複数の吸引ユニット50が幅方向に等間隔で並べられるが、排砂装置1aの設計によっては、不揃いの間隔で複数の吸引ユニット50が配列されてもよい。複数の吸引ユニット50の配列方向が、幅方向に対して傾斜してもよい。なお、平面視において、複数の吸引ユニット50および後述の浮体2の全体における重心は、浮体2の中央近傍に位置することが好ましい。
【0036】
また、排砂装置1aは、幅方向に長い浮体2を備え、複数の吸引ユニット50は、浮体2に接続される。実際には、複数の吸引ユニット50は、複数の昇降支持部4によりそれぞれ支持されており、複数の昇降支持部4の昇降部41は、浮体2の上面21において幅方向に配列される。浮体2には、移動部3(図示省略)が設けられ、吸引部5により堆積土砂9を吸引する際に移動部3が浮体2を移動することにより、複数の吸引ユニット50の吸引部5が進行方向A1に移動する。このように、複数の吸引ユニット50が配列された排砂装置1aでは、貯水池における排砂作業を効率よく行うことができる。
【0037】
上記排砂装置1,1aおよび排砂方法では様々な変形が可能である。
【0038】
排砂装置1では、浮体2を曳航する曳航船が用いられてもよい。この場合、当該曳航船が移動部3として捉えられる。排砂装置1の設計によっては、浮体2が省略され、スクリュープロペラを有する推進機構が、移動部3として吸引部5に取り付けられてもよい。
【0039】
吸引部5の傾斜面523は、必ずしも平面である必要はなく、曲面であってもよい。また、吸引部5において幅方向を向く側面に、傾斜面523と同様の傾斜面(すなわち、下側から上側に向かって幅方向の外側に傾斜する傾斜面)が設けられ、当該傾斜面に吸引孔が設けられてもよい。
【0040】
吸引部5において、本体部51および前方部52が一体的に設けられ、前方部52が交換不能であってもよい。また、吸引部5における傾斜面523の傾斜角が、堆積土砂9の安息角に近似していなくてもよい。排砂装置1では、吸引孔520が設けられる面が、下側から上側に向かって進行方向A1の前側に傾斜する傾斜面523であることにより、進行方向A1に垂直な面である場合に比べて、堆積土砂9を効率よく吸引することが可能である。
【0041】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0042】
1,1a 排砂装置
2 浮体
3 移動部
5 吸引部
6 輸送管
9 堆積土砂
42 支持部
50 吸引ユニット
51 本体部
513 底面
52 前方部
510,520 吸引孔
522 前方面
523 傾斜面
A1 進行方向
S11~S19 ステップ
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4