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  • 特開-ボールねじの落下防止装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165330
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ボールねじの落下防止装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20241121BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
F16H25/22 J
F16H25/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081443
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100222243
【弁理士】
【氏名又は名称】庄野 友彬
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦士
(72)【発明者】
【氏名】河合 弘太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 拓也
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB22
3J062BA21
3J062CD22
3J062CD80
(57)【要約】
【課題】
ボールの喪失に伴ってねじ軸とナット部材の螺合状態が意図せずして解除されてしまった場合であっても、ナット部材がねじ軸の軸方向へ落下するのを確実に防止することが可能なボールねじの落下防止装置を提供する。
【解決手段】
ねじ軸の外周面に面した制動面を有すると共に、当該制動面には前記ねじ軸の転動溝に遊嵌する係合凸部が形成されたブレーキシューと、ナット部材の軸方向端面に装着されると共に前記ブレーキシューを収容するガイド溝が形成されたハウジング部材と、を備え、前記ガイド溝は前記ねじ軸と前記ナット部材の軸方向への相対的変位に応じて前記ブレーキシューを当該ガイド溝の内部で初期位置又は制動位置に設定する傾斜面を含み、前記ブレーキシユーが前記ガイド溝内で前記初期位置から前記制動位置に変位すると、当該ブレーキシューが前記ねじ軸に向けて押圧され、前記制動面が前記ねじ軸に圧接する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじにおけるナット部材の落下防止装置であって、
前記ボールねじは、ボールの転動溝が螺旋状に形成されたねじ軸と、前記転動溝を転動する多数ボールを介して前記ねじ軸に螺合したナット部材と、を備え、
前記落下防止装置は、
前記ねじ軸の外周面に面した制動面を有すると共に、当該制動面には前記ねじ軸の転動溝に遊嵌する係合凸部が形成されたブレーキシューと、
前記ナット部材の軸方向端面に設けられると共に前記ブレーキシューを収容するガイド溝が形成されたハウジング部材と、を備え、
前記ガイド溝は前記ねじ軸と前記ナット部材の軸方向への相対的変位に応じて前記ブレーキシューを当該ガイド溝の内部で初期位置又は制動位置に設定する傾斜面を含み、
前記ブレーキシユーが前記ガイド溝内で前記初期位置から前記制動位置に変位すると、当該ブレーキシューが前記ねじ軸に向けて押圧され、前記制動面が前記ねじ軸に圧接することを特徴とする落下防止装置。
【請求項2】
前記ハウジング部材は前記ナット部材と一体に設けられて、前記ガイド溝が前記ナット部材の軸方向端部に形成されていることを特徴とする請求項1記載の落下防止装置。
【請求項3】
前記ブレーキシューは前記ねじ軸が挿通される貫通孔を有してリング状に形成されると共に、少なくとも周方向の一か所には当該リングを分断するスリットが形成されていることを特徴とする請求項1記載の落下防止装置。
【請求項4】
前記ブレーキシューを初期位置に仮保持する抑え部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載の落下防止装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールを介してねじ軸とナット部材が螺合したボールねじにおいて、ボール喪失時にナット部材がねじ軸に沿って落下するのを自動的に制動する落下防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは回転運動と直線運動を相互に変換することが可能な機械要素であり、各種工作機械、搬送装置、産業用ロボット等において、サーボモータが発生する回転運動を直線運動に変換する目的で多用されている。前記ボールねじは多数のボールを介してねじ軸と円筒状のナット部材が互いに螺合したものであり、前記ねじ軸の外周面には前記ボールが転走する螺旋状の転動溝が所定のリードで形成されている。
【0003】
前記ナット部材には前記多数のボールが配列された無限循環路が形成されており、個々のボールは前記ねじ軸と前記ナット部材との相対的な回転に伴って前記無限循環路を転動する。この無限循環路はナット部材に対して循環パイプやデフレクタ等の循環部品を装着することによって構成されている。前記循環部品は前記ナット部材に対して強固に固定されているが、例えば外力などによって前記循環部品が破損又は脱落すると、前記多数のボールが前記無限循環路から抜け落ちて、前記ねじ軸と前記ナット部材の螺合が解かれてしまう懸念があった。その際、ねじ軸が鉛直方向に沿って配置されていると、前記ナット部材がこれに固定された機械装置と一緒に前記ねじ軸に沿って落下してしまい、予期せぬ事故に繋がる虞があった。
【0004】
このような事故の発生を未然に防ぐ手段として、特許文献1は前記ナット部材の軸方向端面に装着する制動リングを開示している。この制動リングは、先端が前記ねじ軸のねじ溝に所定の間隙を保って挿入される係止ポールと、前記ねじ軸のランドに所定の間隙を保って対向する係止面とを備えている。仮に、多数のボールの喪失によって前記ねじ軸と前記ナット部材の螺合が解かれ、当該ナット部材がねじ軸に沿って落下しそうになると、前記係止ポールの先端が雄ねじ溝に接触することで、当該ナット部材がねじ軸の半径方向へわずかに移動することになる。これにより、前記制動リングの係止面が前記ねじ軸のランドに圧接し、前記ナット部材の落下が未然に防止されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-015213
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の制動リングでは、前記ねじ軸の回転に伴って前記係止ポールが雄ねじ溝の内部を移動してしまうと、前記係止面がねじ軸のランドに圧接していても、前記ナット部材が当該ねじ軸に沿って落下してしまう懸念があった。
【0007】
また、前記ナット部材に対して前記ねじ軸との隙間を密封する接触式シール部材が装着されている場合には、前記係止ポールが雄ねじ溝に接触したとしても、前記ナット部材がねじ軸の半径方向へわずかにしか変位せず、結果として前記係止面とねじ軸のランドの接触面圧が十分に発生しないので、ナット部材の落下を防止できない懸念もあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、ボールの喪失に伴ってねじ軸とナット部材の螺合状態が意図せずして解除されてしまった場合であっても、ナット部材がねじ軸の軸方向へ落下するのを確実に防止することが可能なボールねじの落下防止装置を提供することにある。
【0009】
本発明が適用されるボールねじは、ボールの転動溝が螺旋状に形成されたねじ軸と、前記転動溝を転動する多数のボールを介して前記ねじ軸に螺合したナット部材と、を備えている。本発明の落下防止装置は前記ナット部材が前記ねじ軸に沿って意図せずして落下するのを防止するものであり、前記ねじ軸の外周面に面した制動面を有すると共に、当該制動面には前記ねじ軸の転動溝に遊嵌する係合凸部が形成されたブレーキシューと、前記ナット部材の軸方向端面に設けられると共に前記ブレーキシューを収容するガイド溝が形成されたハウジング部材と、を備えている。また、前記ガイド溝は前記ねじ軸と前記ナット部材の軸方向への相対的変位に応じて前記ブレーキシューを当該ガイド溝の内部で初期位置又は制動位置に設定する傾斜面を含み、前記ブレーキシユーが前記ガイド溝内で前記初期位置から前記制動位置に変位すると、当該ブレーキシューが前記ねじ軸に向けて押圧され、前記制動面が前記ねじ軸に圧接するように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
このような本発明によれば、ボールの喪失に伴って前記ナット部材が自重によって前記ねじ軸の軸方向へ落下しそうになると、前記ブレーキシューの制動面に設けられた係合凸部が前記ねじ軸の転動溝と干渉し、当該ブレーキシューが前記ハウジング部材のガイド溝の内部で初期位置から制動位置へ変位し、これに伴ってブレーキシューの制動面が前記ねじ軸に圧接する。すなわち、前記ナット部材が意図せずしてねじ軸の軸方向へ落下しそうになると、前記ブレーキシューが前記ねじ軸を締め付け、これによってナット部材の落下を自動的に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の落下防止装置を適用可能なボールねじの一例を示す斜視図である。
図2】本発明を適用した落下防止装置の一例を示す断面図であって、ブレーキシューが初期位置に設定されている状態を示している。
図3】ブレーキシューを示す斜視図である。
図4】本発明を適用した落下防止装置の一例を示す断面図であって、ブレーキシューが制動位置に変位した状態を示している。
図5】ブレーキシューを初期位置に仮保持する抑え部材の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を用いながら本発明のボールねじの落下防止装置を詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明を適用可能なボールねじの一例を示すものである。このボールねじ1は、外周面にボールの転動溝20が所定のリードで螺旋状に形成されたねじ軸2と、多数のボール3を介して前記ねじ軸2の周囲に螺合する円筒状のナット部材4とから構成されている。また、前記ナット部材4は前記ボール3の無限循環路を備えている。前記ボール3は前記ねじ軸2とナット部材4との間に介在しており、例えば前記ねじ軸2を前記ナット部材4に対して回転させることにより、当該ナット部材4が前記ねじ軸2の軸方向へ移動し、又は前記ナット部材4を前記ねじ軸2に対して回転させることにより、当該ねじ軸2が前記ナット部材4の軸方向へ移動する。
【0014】
前記ナット部材4は前記ねじ軸2が挿通される貫通孔を有して略円筒状に形成されている。前記ナット部材4の軸方向の一端には当該ナット部材4を他の機械装置に固定するためのフランジ部40が設けられている。また、前記ナット部材4の貫通孔の両端にはシール部材41が設けられて、前記ねじ軸2と前記ナット部材4との隙間を外部から密封している。
【0015】
前記ナット部材4の内周面には前記ねじ軸2の転動溝20と同一のリードを有する螺旋状の負荷転動溝が形成されている。前記ねじ軸2の転動溝20と前記ナット部材4の負荷転動溝は互いに向かい合ってボール3の負荷通路を構成しており、ボール5は前記ねじ軸2と前記ナット部材3との間に作用する荷重を負荷しながら前記負荷通路内を螺旋状に転動する。
【0016】
また、前記ナット部材4にはボール3の循環部材としてのリターンパイプ42が装着されている。前記リターンパイプ42の内部にはボール3の無負荷通路が設けられており、かかる無負荷通路は前記ねじ軸2の周囲における負荷通路の数巻き分を跨いで、かかる負荷通路の両端を互いに連結している。従って、前記リターンパイプ42をナット部材4に装着すると、前記負荷通路の両端が前記無負荷通路によって連結されて、ボール3の無限循環路が一回路形成される。図1に示すボールねじ1の例では前記ナット部材4に四基のリターンパイプ42が装着されているので、前記ナット部材4はボール3の無限循環路を四回路備えていることになる。
【0017】
図2は本発明を適用したボールねじの落下防止装置の一実施形態を示す図である。この落下防止装置5は前記ナット部材4の軸方向の端面に装着して使用され、前記ねじ軸2の軸方向が鉛直方向に合致している場合に、意図せずして前記ナット部材4が当該ねじ軸2の軸方向へ落下するのを防止する。
【0018】
この落下防止装置5は、前記ねじ軸2の外周面に面した制動面を有するブレーキシュー6と、前記ナット部材4の軸方向端面に装着されると共に前記ブレーキシュー6を収容するガイド溝70が形成されたハウジング部材7と、を備えている。尚、前記ハウジング部材7のガイド溝70に収容された前記ブレーキシュー6を明示するため、図2においては前記ハウジング部材7が前記ねじ軸2の軸心を含む面で切断した断面図として示されている。
【0019】
図3は前記ブレーキシュー6の一例を示す斜視図である。このブレーキシュー6は前記ねじ軸2が挿通する貫通孔を有してリング状に形成されており、内周面は当該ねじ軸を囲む前記制動面60が形成されている。この制動面60は前記ねじ軸2の転動溝20に挿入される係合凸部61を有している。また、リング状に形成された前記ブレーキシュー6の周方向の一か所には当該ブレーキシュー6を周方向に関して分断するスリット62が形成されており、当該スリット62を形成する対向面の間には隙間が設けられている。更に、前記ブレーキシュー6の外周面63はテーパー状に形成されており、軸方向の両端面のそれぞれの直径がわずかに異なったものとなっている。
【0020】
図3に示したブレーキシュー6はその外周面に対して半径方向の外力が作用していない状態にあり、前記スリット62を形成する対向面の間に隙間が存在している。このように前記ブレーキシュー6の外周面63に対して半径方向の外力が作用していない状態では、前記制動面60とねじ軸2は接触しておらず、両者の間にはわずかな隙間が存在している。
【0021】
また、ブレーキシュー6の外周面63に対して半径方向の外力を作用させると、前記ブレーキシュー6はわずかに変形して前記スリット62の隙間が排除され、当該ブレーキシュー6の直径は小さくなる。これにより、前記ブレーキシュー6の制動面60がねじ軸2に圧接し、両者の間に大きな摩擦力が作用することになる。尚、前記ブレーキシュー6は、外周面63に対して半径方向の外力を作用させた際に、弾性変形して前記ねじ軸2に圧接するものであっても良いし、塑性変形して前記ねじ軸2に圧接するものであっても良い。弾性変形して前記ねじ軸2に圧接するブレーキシュー6は前記外力を除去すると、元の形状に復元して前記スリット62の隙間が再び生じることになる。
【0022】
一方、前記ハウジング部材7は前記ナット部材4の軸方向端面にねじ止め等で装着される。前記ガイド溝70は前記ハウジング部材7の中央に前記ねじ軸2を囲むようにしてリング状に存在している。図2に示すように、前記ガイド溝70の内周面、すなわち前記ねじ軸2の外周面と対向する環状面は、鉛直上方に向けて窄まったテーパー状の傾斜面71として形成されており、その形状は前記ブレーキシュー6の外周面63と合致している。
【0023】
前記ブレーキシュー6は前記ハウジング部材7のガイド溝70に対して鉛直方向の下方から挿入されており、当該ブレーキシュー6が前記ガイド溝70から離脱するのを防止するため、前記ハウジング部材7にはストッパーリング72が取り付けられている。このストッパーリング72は前記ねじ軸2と干渉しないリング状に形成され、前記ガイド溝70の内部に前記ブレーキシュー6を封じ込めている。
【0024】
前記ねじ軸2の軸方向に沿った前記ガイド溝70の高さHは同一方向における前記ブレーキシュー6の厚さdよりも大きく設定されている。このため、前記ブレーキシューは前記ガイド溝70の内部で前記ねじ軸2の軸方向へ自在に変位可能である。図2は前記ブレーキシューが前記ガイド溝70内で最下端の初期位置に設定されている様子を示している。また、図4は前記ブレーキシュー6が前記ガイド溝70内で初期位置よりも上方の制動位置に設定されている様子を示している。前記ブレーキシュー6に対して何ら外力が作用していない状態では、当該ブレーキシュー6は自重によって前記ガイド溝70内の最下端位置である初期位置に存在している。
【0025】
仮に、何らかの原因で循環部材としての前記リターンパイプ42が前記ナット部材4から脱落すると、ボール3が無限循環路から抜け落ちてしまい、前記ねじ軸2と前記ナット部材4の螺合状態が意図せずして解除されてしまう懸念がある。その場合に、前記ねじ軸2の軸方向が鉛直方向に合致していると、前記ナット部材4がねじ軸2に沿って下方に落下する。
【0026】
前記ブレーキシュー6の制動面60に設けられている係合凸部61は前記ねじ軸2の転動溝20に挿入されているので、前記ナット部材4が前記ねじ軸2に対して下方に落下して両者の間に相対的な変位が発生すると、前記係合凸部61が前記ねじ軸2の転動溝20と干渉し、ブレーキシュー6は前記ガイド溝70の内部で上方へ変位することになる。すなわち、前記ブレーキシュー6は前記ナット部材4の落下に伴って前記ガイド溝70の内部で初期位置から制動位置へ変位する。
【0027】
前述の如く、前記ねじ軸2の外周面と対向する前記ガイド溝70の傾斜面71は鉛直上方に向けて窄まったテーパー状に形成されており、その形状は前記ブレーキシュー6の外周面63と合致している。このため、前記ブレーキシュー6が前記ガイド溝70内を初期位置から制動位置へ上昇するのに伴い、当該ブレーキシュー6の外周面63は前記傾斜面71によって半径方向内側へ向けて押圧される。その結果、前記ブレーキシュー6は弾性変形して前記スリット62の隙間が排除され、当該ブレーキシュー6がねじ軸2を締め付けて、前記制動面60がねじ軸2に圧接することになる。つまり、前記ブレーキシュー6がガイド溝70内を上方へ変位することによって、当該ブレーキシュー6と前記ねじ軸2との間に大きな摩擦力が作用する。また、前記ブレーキシュー6の係合凸部61はねじ軸2の転動溝20に挿入されていることから、当該ブレーキシュー6が前記ねじ軸2を締め付けると、前記係合凸部61がねじ軸2の転動溝20に対して緊密に嵌合することになる。
【0028】
このように、本発明を適用したボールねじ1の落下防止装置では、ボール3の喪失に伴って前記ナット部材4が前記ねじ軸2に沿って鉛直下方へわずかに落下して、両者の間に相対的な変位が生じると、前記ハウジング部材7のガイド溝70内で前記ブレーキシュー6が即座に初期位置から制動位置へ変位し、それに伴って当該ブレーキシュー6がねじ軸2を締め付けるので、前記ナット部材4の落下を未然に防ぐことが可能である。
【0029】
また、この落下防止装置5では、前記ブレーキシュー6が前記ガイド溝70内を鉛直方向へ変位した際に前記ねじ軸2をその中心に向けて締め付け、それによって当該ブレーキシュー6の制動面60がねじ軸2に圧接するので、前記ナット部材4が前記ねじ軸2に対してわずかに落下を生じれば、ブレーキシュー6とねじ軸2との間に大きな接触面圧が生じる。このため、前記ねじ軸2に対してナット部材4が回転を生じてしまった場合でも、前記ブレーキシュー6とねじ軸2との間に大きな摩擦力を発生させて、前記ナット部材4の落下を防ぐことが可能である。
【0030】
更に、本発明を適用した落下防止装置5は、前記ガイド溝70の初期位置に設定されたブレーキシュー6の制動面60がねじ軸2と微小な隙間を介して対向しており、当該ブレーキシューがあたかもねじ軸2に対するラビリンスシールとして機能する。従って、この落下防止装置5をボールねじ1のシール部材と兼用することも可能である。もっとも、前記ナット部材4と前記ねじ軸2の間の密封性を高めたい場合には、この落下防止装置5のハウジング部材7と前記ナット部材4との間に他のシール装置を介在させることも可能である。
【0031】
ここで、前記ブレーキシュー6は前記ねじ軸2に圧接した際に当該ねじ軸2との間に十分な摩擦力を発揮するものであればよく、鉄、アルミニウム、銅、黄銅などの金属材料や、エンジニアリングプラスチック、セラミック、ゴム等の非金属材料といった、任意の材料から成形することが可能である。また、前記制動面60には前記ねじ軸との摩擦力を高めるための表面加工、コーティング加工等を施しても良い。
【0032】
ボールねじ1の通常の使用状態においては、前記ブレーキシュー6と前記ねじ軸2との間にはわずかに隙間が形成されており、前記ナット部材4が前記ねじ軸2に沿って落下しない限り、当該ブレーキシュー6がガイド溝70内の初期位置から制動位置へ変位することはない。但し、前記ハウジング部材7や前記ブレーキシュー6の加工誤差等から、前記ブレーキシュー6と前記ねじ軸2が僅かに接触してしまうと、当該ブレーキシュー6がねじ軸2の回転に連れ回されて前記ガイド溝70内を初期位置から制動位置へ変位してしまう懸念もある。
【0033】
図3に示したリング状のブレーキシュー6の場合、前記ガイド溝70の内部で初期位置に設定された当該ブレーキシュー6が容易には半径方向の内側へ変形しないものであれば、前記スリット62の隙間を維持して当該ブレーキシュー6と前記ねじ軸2との接触を防止することができる。例えば、前記ブレーキシュー6を半径方向内側へ僅かに弾性変形させた状態で前記ガイド溝70内に収容し、当該ブレーキシューの外周面が初期位置において前記ガイド溝の傾斜面71に圧接するようにしてもよい。また、リング状のブレーキシュー6のスリット62を形成する対向面の間に、当該ブレーキシシュー6の周方向に延びる薄肉の接続壁を形成し、当該ブレーキシュー6が初期位置から制動位置へ移動する際には前記接続壁が変形して前記スリット62の隙間が排除されるように構成してもよい。
【0034】
更に、前記ナット部材4の意図しない落下時のみ前記ブレーキシュー6が初期位置から制動位置へ変位するよう、当該ブレーキシュー6を前記ガイド溝70内で初期位置に仮保持する抑え部材を設けてもよい。この仮保持部材は、例えば、図5に示すように、リング状の板バネ8を前記ブレーキシュー6に重ねて前記ガイド溝70内に配置し、当該ブレーキシュー6を制動位置から初期位置の方向へ付勢する構成とすることができる。また、前記ガイド溝70内に前記ブレーキシュー6の変位方向に沿ってスタッドを立設する一方、前記ブレーキュー6には前記スタッドの先端が挿入される有底穴を設け、前記ナット部材4がねじ軸2に沿って落下した場合にのみ前記スタッドが前記ブレーキシュー6の有底穴を突き破って、ブレーキシュー6が初期位置から制動位置へ変位可能とすることもできる。
【0035】
前記ブレーキシュー6は図3に示すリング状のものに限られず、前記ガイド溝70の内部で前記ねじ軸2に向けて変位し、前記ねじ軸2を周囲から締め付けて、当該ブレーキシュー6と前記ねじ軸2との間に大きな摩擦力を発生させるものであれば、その形状は適宜設計変更可能である。例えば、前記ねじ軸2の周方向に沿って複数のブレーキシューを配置し、これらブレーキシューがガイド溝70内で初期位置から制動位置へ変位し、協働して前記ねじ軸2を締め付けるものであっても良い。
【0036】
また、図を用いて説明した本発明の実施形態では前記ハウジング部材7が前記ナット部材4と別部材として形成され、当該ハウジング部材7を前記ナット部材4の軸方向端面に装着していたが、当該ハウジング部材7を前記ナット部材4と一体に設けても差し支えない。その場合には、前記ガイド溝70を前記ナット部材4の軸方向端部に直接形成し、かかるガイド溝70に前記ブレーキシュー6を収容することになる。
【符号の説明】
【0037】
1…ボールねじ、2…ねじ軸、3…ボール、4…ナット部材、5…落下防止装置、6…ブレーキシュー、7…ハウジング部材、70…ガイド溝、71…傾斜面
図1
図2
図3
図4
図5