(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165358
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】防汚性を有したパイル布帛、及び、そのパイル布帛の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 11/79 20060101AFI20241121BHJP
D06M 15/507 20060101ALI20241121BHJP
D06M 15/277 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
D06M11/79
D06M15/507
D06M15/277
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081500
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】510045438
【氏名又は名称】アウンデ紡織株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150153
【弁理士】
【氏名又は名称】堀家 和博
(74)【代理人】
【識別番号】100081891
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】大原 弘平
(72)【発明者】
【氏名】田村 浩和
(72)【発明者】
【氏名】大石 貴之
(72)【発明者】
【氏名】福井 竜也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】薗田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】菊池 善基
(72)【発明者】
【氏名】藤原 達郎
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AA18
4L031AB31
4L031BA20
4L031DA19
4L033AA07
4L033AB04
4L033AC03
4L033AC04
4L033CA22
4L033CA45
(57)【要約】
【課題】パイル布帛の繊維表面にケイ素系微粒子が露出しているケイ素露出部と、ケイ素系微粒子をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部を設ける等で「乾燥・湿潤両方の汚れに対する防汚性の向上」などを実現する。
【解決手段】パイル布帛1は、パイル2に難燃性繊維を、基布3に非難燃性繊維を用い、繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子が露出しているケイ素露出部4と、ケイ素系微粒子をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部5等を有する。パイル布帛1の製造方法は、パイル布帛1にバインダ樹脂及びケイ素系微粒子の混合液を付与して乾燥させ、ケイ素露出部4を設けるケイ素付着工程P1と、その後に、フッ素系撥水撥油剤を付与して、フッ素被覆部5を設けるフッ素被覆工程P2等を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイル(2)が基布(3)から立設したパイル布帛であって、
前記パイル(2)には難燃性繊維が用いられ、
前記基布(3)には非難燃性繊維が用いられ、
前記難燃性繊維及び非難燃性繊維の繊維表面において、
前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子が露出しているケイ素露出部(4)と、
前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部(5)を有していることを特徴とするパイル布帛。
【請求項2】
パイル(2)が基布(3)から立設したパイル布帛であって、
前記パイル(2)及び基布(3)には非難燃性繊維が用いられ、
前記非難燃性繊維の繊維表面において、
前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子が露出しているケイ素露出部(4)と、
前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着した難燃剤が露出している難燃露出部(4’)と、
前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部(5)と、
前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着した難燃剤をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部(5’)を有していることを特徴とするパイル布帛。
【請求項3】
前記繊維表面において、当該繊維表面が露出している繊維露出部(6)も有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のパイル布帛。
【請求項4】
前記基布(3)の基布裏面に、少なくともウレタン系樹脂及び難燃剤を混合した混合物がコーティングされたバックコート部(10)を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のパイル布帛。
【請求項5】
前記ケイ素系微粒子の付着量は、0.8g/m2以上4.5g/m2以下であり、
前記バインダ樹脂の付着量は、0.3g/m2以上1.7g/m2以下であり、
前記フッ素系撥水撥油剤の付着量は、0.5g/m2以上2.9g/m2以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のパイル布帛。
【請求項6】
パイル(2)が基布(3)から立設したパイル布帛の製造方法であって、
前記パイル(2)には難燃性繊維が用いられ、
前記基布(3)には非難燃性繊維が用いられ、
前記パイル布帛に対して、少なくともバインダ樹脂及びケイ素系微粒子が混合された混合物を付与した後に、当該パイル布帛を乾燥させて、前記難燃性繊維及び非難燃性繊維の繊維表面において、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子が露出しているケイ素露出部(4)を設けるケイ素付与工程(P1)と、
前記ケイ素付与工程(P1)の後に、前記パイル布帛に対して、フッ素系撥水撥油剤を付与して、前記難燃性繊維及び非難燃性繊維の繊維表面において、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部(5)を設けるフッ素被覆工程(P2)を備えていることを特徴とするパイル布帛の製造方法。
【請求項7】
パイル(2)が基布(3)から立設したパイル布帛の製造方法であって、
前記パイル(2)及び基布(3)には非難燃性繊維が用いられ、
前記パイル布帛に対して、少なくともバインダ樹脂、ケイ素系微粒子及び難燃剤が混合された混合物を付与した後に、当該パイル布帛を乾燥させて、前記非難燃性繊維の繊維表面において、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子が露出しているケイ素露出部(4)と、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着した難燃剤が露出している難燃露出部(4’)を設けるケイ素・難燃付与工程(P1’)と、
前記ケイ素・難燃付与工程(P1’)の後に、前記パイル布帛に対して、フッ素系撥水撥油剤を付与して、前記非難燃性繊維の繊維表面において、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部(5)と、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着した難燃剤をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部(5’)を設けるフッ素被覆工程(P2’)を備えていることを特徴とするパイル布帛の製造方法。
【請求項8】
前記ケイ素付与工程(P1)又はケイ素・難燃付与工程(P1’)における混合物の付与は、所定温度の雰囲気下で行われ、
前記フッ素被覆工程(P2、P2’)における混合物の付与は、前記所定温度より高い温度の雰囲気下で行われることを特徴とする請求項6又は7に記載のパイル布帛の製造方法。
【請求項9】
前記ケイ素付与工程(P1)又はケイ素・難燃付与工程(P1’)、及び、フッ素被覆工程(P2、P2’)における混合物の付与は、所定温度の雰囲気下で行われ、
前記フッ素被覆工程(P2、P2’)の後に、前記所定温度より高い温度の雰囲気下で、前記基布(3)の基布裏面に対して、少なくともウレタン系樹脂及び難燃剤を混合した混合物がコーティングされたバックコート部(10)を設けるバックコート工程(P3)を備えていることを特徴とする請求項6又は7に記載のパイル布帛の製造方法。
【請求項10】
前記ケイ素系微粒子の付与量は、0.8g/m2以上4.5g/m2以下であり、
前記バインダ樹脂の付与量は、0.3g/m2以上1.7g/m2以下であり、
前記フッ素系撥水撥油剤の付与量は、0.5g/m2以上2.9g/m2以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載のパイル布帛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性を有したパイル布帛、及び、そのパイル布帛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両等の輸送機器内装用に適用される機能性布地も知られている(特許文献1)。
この機能性布地は、繊維表面にフッ素系ポリマー皮膜を形成せしめて成る。
【0003】
又、従来、列車などの車両内装材として、座席シート等の様々な部位に用いられる防汚性車両内装材用布帛が知られている(特許文献2)。
この防汚性車両内装材用布帛は、ポリエステル繊維布帛の繊維表面に、オルガノポリシロキサン微粒子からなる防汚剤、バインダー樹脂および平滑剤が付着してなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-110069号公報
【特許文献2】特開2011-168905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された機能性布地は、謂わば、撥水撥油剤で表面処理を行っていることから、当然、水性汚れや油性汚れなどに対する防汚性は有しているものの、黒ずみや土などの乾燥した汚れ(乾燥汚れ)に対しては、逆に当該汚れを吸着し易くなる問題があった。
又、特許文献2に記載された防汚性車両内装材用布帛は、黒ずみ(ブラックカーボン)や土などの乾燥汚れに対しての防汚性は有しているものの、撥水性能や撥油性能を有しておらず、水性汚れや油性汚れなどの湿った汚れ(湿潤汚れ)に対する防汚性が十分ではなかった。
【0006】
本発明は、このような点に鑑み、パイル布帛の繊維表面にケイ素系微粒子が露出しているケイ素露出部と、ケイ素系微粒子をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部を設ける等によって、「乾燥・湿潤両方の汚れに対する防汚性の向上」などを実現するパイル布帛、及び、そのパイル布帛の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るパイル布帛1は、パイル2が基布3から立設したパイル布帛であって、前記パイル2には難燃性繊維が用いられ、前記基布3には非難燃性繊維が用いられ、前記難燃性繊維及び非難燃性繊維の繊維表面において、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子が露出しているケイ素露出部4と、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部5を有していることを第1の特徴とする。
【0008】
本発明に係るパイル布帛1の第2の特徴は、パイル2が基布3から立設したパイル布帛であって、前記パイル2及び基布3には非難燃性繊維が用いられ、前記非難燃性繊維の繊維表面において、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子が露出しているケイ素露出部4と、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着した難燃剤が露出している難燃露出部4’と、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部5と、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着した難燃剤をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部5’を有している点にある。
【0009】
本発明に係るパイル布帛1の第3の特徴は、上記第1又は2の特徴に加えて、前記繊維表面において、当該繊維表面が露出している繊維露出部6も有している点にある。
【0010】
本発明に係るパイル布帛1の第4の特徴は、上記第1又は2の特徴に加えて、前記基布3の基布裏面に、少なくともウレタン系樹脂及び難燃剤を混合した混合物がコーティングされたバックコート部10を有している点にある。
【0011】
本発明に係るパイル布帛1の第5の特徴は、上記第1又は2の特徴に加えて、前記ケイ素系微粒子の付着量は、0.8g/m2以上4.5g/m2以下であり、前記バインダ樹脂の付着量は、0.3g/m2以上1.7g/m2以下であり、前記フッ素系撥水撥油剤の付着量は、0.5g/m2以上2.9g/m2以下である点にある。
【0012】
これらの特徴により、パイル2に難燃性繊維が用いられ、基布3に非難燃性繊維が用いられたパイル布帛1において、繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子が露出しているケイ素露出部4を設けることによって、特許文献1とは異なり、黒ずみ(ブラックカーボン)や土などの乾燥汚れが、繊維表面に吸着することを抑制できる。
これと同時に、パイル布帛1では、繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部5も設けていることによって、特許文献2とは異なり、パイル布帛1に撥水性能及び撥油性能も持たすことが出来、水性汚れや油性汚れなどの湿潤汚れに対する防汚性が向上する。
尚、パイル布帛1は、「防汚性を有したパイル布帛」であるとも言える。
又、パイル布帛1では、パイル2と基布3に非難燃性繊維が用い、繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子や難燃剤が露出しているケイ素露出部4や難燃露出部4’と、繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子や難燃剤をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部5、5’を設けても良い。
【0013】
更に、繊維表面などにおいて、繊維表面そのものが露出している部分6も設けることによって、パイル布帛1としての風合いの低下を抑制できる。
尚、特許文献1に記載の機能性布地において、繊維表面にフッ素系ポリマー皮膜を形成していることから、繊維表面に対して、フッ素系ポリマーを過剰に付着させることとなり、布地としての風合いが低下すると言える。
【0014】
その他、基布3の基布裏面に、少なくともウレタン系樹脂と難燃剤を混合した混合物をコーティングしたバックコート部10を設けることによって、パイル2の基布3からの抜止めが図れると共に、パイル布帛1としての難燃性も向上する。
その他、ケイ素系微粒子の付着量を、0.8g/m2以上4.5g/m2以下とし、バインダ樹脂の付着量を、0.3g/m2以上1.7g/m2以下とし、フッ素系撥水撥油剤の付着量を、0.5g/m2以上2.9g/m2以下としても良い。
【0015】
本発明に係るパイル布帛1の製造方法は、パイル2が基布3から立設したパイル布帛の製造方法であって、前記パイル2には難燃性繊維が用いられ、前記基布3には非難燃性繊維が用いられ、前記パイル布帛に対して、少なくともバインダ樹脂及びケイ素系微粒子が混合された混合物を付与した後に、当該パイル布帛を乾燥させて、前記難燃性繊維及び非難燃性繊維の繊維表面において、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子が露出しているケイ素露出部4を設けるケイ素付与工程P1と、前記ケイ素付与工程P1の後に、前記パイル布帛に対して、フッ素系撥水撥油剤を付与して、前記難燃性繊維及び非難燃性繊維の繊維表面において、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部5を設けるフッ素被覆工程P2を備えていることを第1の特徴とする。
【0016】
本発明に係るパイル布帛1の製造方法の第2の特徴は、パイル2が基布3から立設したパイル布帛の製造方法であって、前記パイル2及び基布3には非難燃性繊維が用いられ、前記パイル布帛に対して、少なくともバインダ樹脂、ケイ素系微粒子及び難燃剤が混合された混合物を付与した後に、当該パイル布帛を乾燥させて、前記非難燃性繊維の繊維表面において、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子が露出しているケイ素露出部4と、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着した難燃剤が露出している難燃露出部4’を設けるケイ素・難燃付与工程P1’と、前記ケイ素・難燃付与工程P1’の後に、前記パイル布帛に対して、フッ素系撥水撥油剤を付与して、前記非難燃性繊維の繊維表面において、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部5と、前記繊維表面にバインダ樹脂を介して付着した難燃剤をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部5’を設けるフッ素被覆工程P2’を備えている点にある。
【0017】
本発明に係るパイル布帛1の製造方法の第3の特徴は、上記第1又は2の特徴に加えて、前記ケイ素付与工程P1又はケイ素・難燃付与工程P1’における混合物の付与は、所定温度の雰囲気下で行われ、前記フッ素被覆工程P2、P2’における混合物の付与は、前記所定温度より高い温度の雰囲気下で行われる点にある。
【0018】
本発明に係るパイル布帛1の製造方法の第4の特徴は、上記第1又は2の特徴に加えて、前記ケイ素付与工程P1又はケイ素・難燃付与工程P1’、及び、フッ素被覆工程P2、P2’における混合物の付与は、所定温度の雰囲気下で行われ、前記フッ素被覆工程P2、P2’の後に、前記所定温度より高い温度の雰囲気下で、前記基布3の基布裏面に対して、少なくともウレタン系樹脂及び難燃剤を混合した混合物がコーティングされたバックコート部10を設けるバックコート工程P3を備えている点にある。
【0019】
本発明に係るパイル布帛1の製造方法の第5の特徴は、上記第1又は2の特徴に加えて、前記ケイ素系微粒子の付与量は、0.8g/m2以上4.5g/m2以下であり、前記バインダ樹脂の付与量は、0.3g/m2以上1.7g/m2以下であり、前記フッ素系撥水撥油剤の付与量は、0.5g/m2以上2.9g/m2以下である点にある。
【0020】
これらの特徴により、パイル2に難燃性繊維が用いられ、基布3に非難燃性繊維が用いられたパイル布帛1に、バインダ樹脂及びケイ素系微粒子が混合された混合物を付与した後に、パイル布帛1を乾燥させて、繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子が露出しているケイ素露出部4を設けるケイ素付与工程P1を備えることによって、特許文献1とは異なり、黒ずみ(ブラックカーボン)や土などの乾燥汚れが、繊維表面に吸着することを抑制できる。
これと共に、ケイ素付与工程P1の後に、パイル布帛1に、フッ素系撥水撥油剤を付与して、繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部5を設けるフッ素被覆工程P2も備えていることによって、特許文献2とは異なり、パイル布帛1に撥水性能及び撥油性能も持たすことが出来、水性汚れや油性汚れなどの湿潤汚れに対する防汚性が向上する。
尚、パイル布帛1の製造方法は、「防汚性を有したパイル布帛の製造方法」であるとも言える。
又、パイル布帛1の製造方法では、パイル2と基布3に非難燃性繊維が用いられたパイル布帛1に、バインダ樹脂、ケイ素系微粒子及び難燃剤が混合された混合物を付与した後に、パイル布帛1を乾燥させて、非難燃性繊維の繊維表面において、繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子や難燃剤が露出しているケイ素露出部4や難燃露出部4’を設けるケイ素・難燃付与工程P1’と、ケイ素・難燃付与工程P1’の後に、パイル布帛1に、フッ素系撥水撥油剤を付与して、繊維表面にバインダ樹脂を介して付着したケイ素系微粒子や難燃剤をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部5、5’を設けるフッ素被覆工程P2’を備えていても良い。
【0021】
更に、ケイ素付与工程P1又はケイ素・難燃付与工程P1’における混合物の付与は、所定温度の雰囲気下で行い、フッ素被覆工程P2、P2’における混合物の付与は、所定温度より高い温度の雰囲気下で行うことによって、フッ素被覆工程P2、P2’でフッ素系撥水撥油剤におけるフッ素の配向を促し、防汚性を高めることが出来る。
その他、フッ素被覆工程P2、P2’の後に、ケイ素付着工程P1又はケイ素・難燃剤付着工程P1’、及び、フッ素被覆工程P2、P2’における所定温度より高い温度の雰囲気下で、基布3の基布裏面に対して、少なくともウレタン系樹脂と難燃剤を混合した混合物をコーティングしたバックコート部10を設けるバックコート工程P3を備えることによって、バックコート工程P3でフッ素系撥水撥油剤におけるフッ素の配向を促して、撥水性能・撥油性能が向上すると同時に、フッ素被覆工程P2、P2’までの工程をバックコート工程P3の温度より低い温度で行うこととなり、当該バックコート工程P3においてはまだ、フッ素がそれほど配向していないため、基布3の基布裏面に対して、ウレタン系樹脂や難燃剤等の混合物を十分な量でコーティングすることが可能となる。これと共に、パイル2の基布3からの抜止めが図れると共に、パイル布帛1としての難燃性も向上する。
その他、ケイ素系微粒子の付与量を、0.8g/m2以上4.5g/m2以下とし、バインダ樹脂の付与量を、0.3g/m2以上1.7g/m2以下とし、フッ素系撥水撥油剤の付与量を、0.5g/m2以上2.9g/m2以下としても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るパイル布帛、及び、そのパイル布帛の製造方法によると、パイル布帛の繊維表面にケイ素系微粒子が露出しているケイ素露出部と、ケイ素系微粒子をフッ素系撥水撥油剤が被覆しているフッ素被覆部を設ける等によって、「乾燥・湿潤両方の汚れに対する防汚性の向上」などを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る第1実施形態のパイル布帛の断面を示す概要図である。
【
図2】本発明に係る第2実施形態のパイル布帛の断面を示す概要図である。
【
図3】本発明に係るパイル布帛の実施例1の断面を示し、(a)は図面代用写真であり、(b)は当該実施例1におけるケイ素のみの位置を点で示した画像であり、(c)は当該実施例1におけるフッ素のみの位置を点で示した画像であり、(d)は当該実施例1におけるケイ素とフッ素両方の位置を点で示した重ね合わせ画像である。
【
図4】本発明に係るパイル布帛の実施例2の断面を示し、(a)は図面代用写真であり、(b)は当該実施例2におけるケイ素のみの位置を点で示した画像であり、(c)は当該実施例2におけるフッ素のみの位置を点で示した画像であり、(d)は当該実施例2におけるケイ素とフッ素両方の位置を点で示した重ね合わせ画像である。
【
図5】本発明に係るパイル布帛の参考実施例1の断面を示し、(a)は図面代用写真であり、(b)は当該参考実施例1におけるケイ素のみの位置を点で示した画像であり、(c)は当該参考実施例1におけるフッ素のみの位置を点で示した画像であり、(d)は当該参考実施例1におけるケイ素とフッ素両方の位置を点で示した重ね合わせ画像である。
【
図6】本発明に係るパイル布帛の製造方法を示すフローチャートであって、(a)は第1実施形態を示し、(b)は第2実施形態を示し、(c)は第3実施形態を示し、(d)は第4実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<パイル布帛1の全体構成>
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1~5には、本発明に係るパイル布帛1が示されており、このパイル布帛1は、後述するパイル2と基布3を有している。
パイル布帛1は、後述するバックコート部10を有していても良い。
このようなパイル布帛1の「表面(布帛表面)1a」とは、鉄道車両等の内装材、シート(椅子)を覆うシートカバーなどに使用する時に露出する側の面であるとも言える。
逆に、パイル布帛1の「裏面(布帛裏面)1b」とは、鉄道車両等の内装材、シートなどに使用する時に露出しない側の面であるとも言える。
【0025】
パイル布帛1は、パイル2が基布3から立設しているのであれば、何れの構成でも良いが、例えば、経糸と緯糸を有したパイル織物や、経糸のみ又は緯糸のみを有したパイル編物、基布3にパイル2を植設(タフト)したタフトパイル布帛などであっても良い。
特に、パイル布帛1がパイル織物の場合、何れの構成でも構わないが、例えば、経糸及び緯糸を平織や綾織、朱子織などに織成した織地を基布3とし、この基布3と一緒に経方向又は緯方向にパイル糸を織成してパイル2を構成しても良い。
尚、パイル糸を経方向に織成するパイル織物を、経パイル織物とも言い、パイル糸を緯方向に織成するパイル織物を、緯パイル織物とも言う。
パイル布帛1がパイル編物の場合でも、何れの構成で構わないが、例えば、緯糸を編成したパイル編(平編の変化組織編である緯編の一種で、パイル立毛編、プラッシュ編とも言う)であっても良く、このパイル編は、地糸である緯糸にパイル糸を添え編みし、このパイル糸のシンカーループを拡大してパイル2が形成され、地糸の緯糸で編成される平編地が基布3となる。
【0026】
パイル布帛1の目付も、特に限定はないが、例えば、300g/m2以上900g/m2以下、好ましくは400g/m2以上800g/m2以下、更に好ましくは500g/m2以上700g/m2以下であっても良い。尚、本発明における目付や、付着量や付与量(g/m2)は、乾燥重量による値を意味する。
パイル布帛1の厚さは、何れの値でも良いが、例えば、1mm以上100mm以下、好ましくは1mm以上50mm以下、更に好ましくは2mm以上40mm以下であっても良い。
その他、パイル布帛1に使われる糸の密度も、何れの値でも良いが、パイル布帛1が上述した経パイル織物である場合には、パイル布帛1において経方向に織成されたパイル糸(パイル2)の密度は、例えば、50本/10cm以上260本/10cm以下、好ましくは60本/10cm以上240本/10cm以下、更に好ましくは70本/10cm以上220本/10cm以下(80本/10cm、90本/10cm、100本/10cmなど)でも良い。
又、パイル布帛1がパイル織物である場合には、その基布3を形成する緯糸の密度は、例えば、100本/10cm以上260本/10cm以下、好ましくは120本/10cm以上240本/10cm以下、更に好ましくは140本/10cm以上220本/10cm以下(160本/10cm、180本/10cm、200本/10cmなど)でも良い。
以下、パイル布帛1は、主にパイル織物(モケット)1であるとして述べる。
【0027】
<パイル布帛1の第1、2実施形態>
パイル布帛1の第1実施形態としては、後述するパイル2には難燃性繊維Sが用いられ、後述する基布3には非難燃性繊維S’が用いられていて、難燃性繊維S及び非難燃性繊維S’の繊維表面Sa、Sa’において、後述するケイ素露出部4とフッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5を有したものである(
図1参照)。
パイル布帛1の第2実施形態として、後述するパイル2及び基布3の両方には、非難燃性繊維S’が用いられていて、非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’において、後述するケイ素露出部4とフッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5だけでなく、難燃露出部4’とフッ素被覆部(フッ素による難燃被覆部)5’も有したものである(
図2参照)。
【0028】
<パイル2、基布3>
図1~5に示したように、パイル2は、上述したように、パイル糸等により形成され、基布3から立設するものである。
パイル2は、その先端を切断して毛羽状としたカットパイルであったり、隣接するパイル2同士でループを形成したループパイルの何れでも良い。
以下は、パイル2はカットパイルであるとして述べる。
パイル2のパイル長は、特に限定はないが、例えば、0.5mm以上10.0mm以下、好ましくは1.0mm以上8.0mm以下、更に好ましくは2.0mm以上6.0mm以下であっても良い。
パイル高さとは、パイル布帛1の基布3の表面からパイル2の先端までの高さを意味し、詳解すれば、パイル2が基布3に対して略直角(略90°)に立設(略直立)している(パイル2と基布3のなす角θが略90°である)場合には、パイル2のパイル長と略等しいとも言える。
又、パイル2が基布3に対して斜めに立設している(パイル2と基布3のなす角θが90°未満(例えば、80°や70°、60°、45°など)である)場合には、パイル高さは、パイル長×sinθに略等しくなる。
このようなパイル高さも、特に限定はないが、例えば、0.5mm以上10.0mm以下、好ましくは1.0mm以上8.0mm以下、更に好ましくは2.0mm以上6.0mm以下であっても良い。
【0029】
一方、基布3は、上述したように、経糸や緯糸から構成された織地や編地等であって、シート状となっている。
ここで、基布3の「表面(基布表面)3a」は、パイル布帛1を鉄道車両の内装品等を覆うなどに使用する時に露出する表面1aに近い面であるとも言え、この表面にパイル2が設けられている。
逆に、基布3の「裏面(基布裏面)3b」は、パイル布帛1を鉄道車両の内装品等を覆うなどに使用する時に露出しない裏面1bに近い面(パイル布帛1がバックコート部10を有さなければ、謂わば、パイル布帛1の裏面1bそのもの)であるとも言える。
基布3の厚さも、何れの値でも良いが、例えば、0.1mm以上2.0mm以下、好ましくは0.20mm以上1.5mm以下、更に好ましくは0.5mm以上1.0mm以下であっても良い。
【0030】
<難燃性繊維S、非難燃性繊維S’>
ここまで述べたパイル2、基布3に用いられる繊維としては、上述したように、難燃性繊維Sや、非難燃性繊維S’であって、難燃性繊維Sとは、例えば、難燃剤を含有した繊維であり、難燃性繊維Sにおける難燃剤は、後述するポリエステル樹脂などの素材に練り込まれた非ハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤などであったり、ポリエステル樹脂と共重合したリン系難燃剤であったり、後述する難燃剤などが練込み等によって含有されたものである。
一方、非難燃性繊維S’とは、難燃剤を含有していない繊維である。
尚、本発明において「繊維」とは、熱可塑性繊維であるポリエチレンテレフタレート(PET)繊維であったり、その他、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維などのエステル結合を有した繊維であったり、その他、ナイロン(ポリアミド)繊維、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系繊維、レーヨン繊維、キュプラ繊維、アセテート繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)を主成分とするアクリル繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維(ビニロン繊維)、ポリウレタン(PU)繊維などの合成繊維でも良く、その他、ガラス繊維、羊毛、絹などであり、これらを単独又は組み合わせて用いられても良く、これらの繊維を用いるパイル2や基布3の糸は、マルチフィラメント糸や、モノフィラメント糸であったり、スパン糸であっても構わない。
【0031】
本発明における「パイル2には、難燃性繊維Sが用いられる」、「基布3には、非難燃性繊維S’が用いられる」、「パイル2及び基布3には、非難燃性繊維S’が用いられる」とは、パイル2や基布3が、難燃性繊維Sや非難燃性繊維S’を1本のみを有する場合だけでなく、難燃性繊維Sや非難燃性繊維S’を複数本有する場合も含む。
又、パイル2や基布3を構成する繊維の繊度は、何れの値でも良いが、例えば、総繊度で、20dtex以上3000dtex以下であっても良く、パイル2や基布3を構成する繊維がマルチフィラメントの場合、その各フィラメントの単繊維繊度も、特に限定はないが、例えば、0.1dtex以上50.0dtex以下であっても構わない。
【0032】
<ケイ素露出部4>
図1~5に示したように、ケイ素露出部4は、パイル布帛1が第1実施形態である場合には、上述した難燃性繊維S及び非難燃性繊維S’の繊維表面Sa、Sa’において、その繊維表面Sa、Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着したケイ素系微粒子Kが露出している部分であり、パイル布帛1が第2実施形態である場合には、上述した非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’において、その繊維表面Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着したケイ素系微粒子Kが露出している部分である。
尚、本発明における「繊維表面Sa、Sa’において、その繊維表面Sa、Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着したケイ素系微粒子Kが露出している」とは、難燃性繊維Sの繊維表面Saと、非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’のそれぞれに対して、バインダ樹脂Bを介してケイ素系微粒子Kが付着していて、それらのケイ素系微粒子Kのケイ素表面が、後述するフッ素系撥水撥油剤Fに被覆されていないことを意味し、ケイ素とフッ素の位置を重ね合わせた
図3~5(d)中であれば、ケイ素のみが存在する位置(フッ素と重なっていないケイ素の位置)を、白点で表している。
ここまで述べたケイ素露出部4は、パイル布帛1のパイル2と基布3に用いられた繊維S、S’の繊維表面Sa、Sa’において、点在していたり、海島状の島部分であっても良い(
図3~5(b)、(d)参照)。
【0033】
<ケイ素系微粒子K>
ここで、ケイ素系微粒子Kは、石英、ガラス、珪砂、珪石などのシリカ(無水ケイ酸、ケイ酸、酸化シリコンとも言う)や水晶など、二酸化ケイ素(SiO2)等の形でケイ素(Si)を含む微粒子であったり、シリコーンなどのシロキサン結合(-Si-O-Si-)を有する化合物であっても良い。ケイ素系微粒子Kは、パイル布帛1のパイル2と基布3に用いられた各繊維S、S’の繊維表面Sa、Sa’に付着した際、当該繊維表面Sa、Sa’の隙間や凹みに入り込んだり、当該繊維表面Sa、Sa’を覆う等をして、黒ずみ(ブラックカーボン)や土などの乾燥汚れが、該繊維表面Sa、Sa’に付着することを抑制したり、もしこれらの乾燥汚れが付着しても当該繊維表面Sa、Sa’から簡単に落とせると言える。
ケイ素系微粒子Kの平均粒子径は、0.01μm以上2.00μm以下、好ましくは0.05μm以上1.50μm以下、更に好ましくは0.10μm以上1.00μm以下、であっても良い。
ケイ素系微粒子Kの付着量は、特に限定はないが、例えば、0.8g/m2以上4.5g/m2以下であっても良く、好ましくは1.0g/m2以上4.0g/m2以下、更に好ましくは1.5g/m2以上3.5g/m2以下であっても構わない。
【0034】
<バインダ樹脂B>
バインダ樹脂Bは、特に限定はないが、例えば、熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂であったり、その他、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂などのエステル結合を有した樹脂であったり、ポリアクリロニトリル(PAN)を主成分とするアクリル樹脂、ポリウレタン(PU)樹脂などであったり、その他、ナイロン(ポリアミド)樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂、レーヨン樹脂、キュプラ樹脂、アセテート樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂(ビニロン樹脂)などの合成樹脂でも良く、これらを単独又は組み合わせて用いられても良い。
バインダ樹脂Bの付着量は、特に限定はないが、例えば、0.3g/m2以上1.7g/m2以下であっても良く、好ましくは0.4g/m2以上1.5g/m2以下、更に好ましくは0.5g/m2以上1.3g/m2以下であっても構わない。
【0035】
<難燃露出部4’>
図2に示したように、難燃露出部4’は、パイル布帛1が第2実施形態である場合のみに、上述した非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’において、その繊維表面Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着した難燃剤Nが露出している部分である。
尚、本発明における「繊維表面Sa’において、その繊維表面Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着した難燃剤Nが露出している」とは、非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’に対して、バインダ樹脂Bを介して難燃剤Nが付着していて、その難燃剤Nの難燃表面が、後述するフッ素系撥水撥油剤Fに被覆されていないことを意味する。
【0036】
<難燃剤N>
難燃剤Nは、特に限定はないが、例えば、トリスジエチルホスフィン酸アルミニウムや、トリスメチルエチルホスフィン酸アルミニウム、トリスジフェニルホスフィン酸アルミニウム等のアルキルリン酸金属塩であったり、ポリリン酸アンモニウムや、リン酸エステル、トリス(1-クロロ-2-プロピル)リン酸塩などのリン系難燃剤であっても良く、その他、水酸化アルミニウムや、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物系難燃剤や、非ハロゲン系難燃剤などであっても構わない。
ここで、難燃剤Nは、粉砕されて、粒子形状であっても良く、その平均粒子径は、0.10μm以上1.60μm以下、好ましくは0.20μm以上1.20μm以下、更に好ましくは0.30μm以上1.00μm以下、であっても構わない。
難燃剤Nの付着量は、特に限定はないが、例えば、0.10g/m2以上1.00g/m2以下であっても良く、好ましくは0.15g/m2以上0.90g/m2以下、更に好ましくは0.20g/m2以上0.80g/m2以下であっても構わない。
ここまで述べた難燃露出部4’も、パイル布帛1のパイル2と基布3に用いられた非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’において、点在していたり、海島状の島部分であっても良い。
【0037】
<フッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5>
図1~5に示したように、フッ素被覆部5は、パイル布帛1が第1実施形態である場合には、上述した難燃性繊維S及び非難燃性繊維S’の繊維表面Sa、Sa’において、その繊維表面Sa、Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着したケイ素系微粒子Kをフッ素系撥水撥油剤Fが被覆している部分であり、パイル布帛1が第2実施形態である場合には、上述した非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’において、その繊維表面Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着したケイ素系微粒子Kをフッ素系撥水撥油剤Fが被覆している部分であって、フッ素によるケイ素被覆部5であると言える。
尚、パイル布帛1が第1実施形態である場合の本発明における「繊維表面Sa、Sa’において、その繊維表面Sa、Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着したケイ素系微粒子Kをフッ素系撥水撥油剤Fが被覆している」とは、難燃性繊維Sの繊維表面Saと、非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’のそれぞれに対して、バインダ樹脂Bを介してケイ素系微粒子Kが付着していて、それらのケイ素系微粒子Kのケイ素表面の少なくとも一部が、後述するフッ素系撥水撥油剤Fに被覆されていることを意味し、ケイ素とフッ素の位置を重ね合わせた
図3~5(d)中であれば、ケイ素とフッ素が重なる位置を、グレーの点で表している。
又、パイル布帛1が第2実施形態である場合の本発明における「繊維表面Sa’において、その繊維表面Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着したケイ素系微粒子Kをフッ素系撥水撥油剤Fが被覆している」とは、非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’に対して、バインダ樹脂Bを介してケイ素系微粒子Kが付着していて、そのケイ素系微粒子Kのケイ素表面の少なくとも一部が、後述するフッ素系撥水撥油剤Fに被覆されていることを意味する。
ここまで述べたフッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5は、パイル布帛1のパイル2と基布3に用いられた繊維S、S’の繊維表面Sa、Sa’において、点在していたり、海島状の島部分であっても良い(
図3~5(c)、(d)参照)。
【0038】
<フッ素系撥水撥油剤F>
フッ素系撥水撥油剤Fは、例えば、炭素数が6以下(炭素数が6や4など)のパーフルオロアルキル基(CF3-(CF2)n-(nは正の整数)、アルキル鎖の水素原子を全てフッ素原子に置き換えた炭化フッ素アルキル基)を側鎖に有し、且つ、主鎖が、アクリレート(アクリル酸エステル)とメチルメタクリレート(メタクリル酸メチル、MMA)とのコポリマーであったり、メチルメタクリレート(メタクリル酸メチル、MMA)のポリマー(ポリメチルメタクリレート(PMMA))である樹脂など、パーフルオロアルキル基を有したフルオロカーボン樹脂組成物であったり、その他、公知のフッ素系撥水撥油剤や、これらの組合せであっても良い。
フッ素系撥水撥油剤Fの付着量は、特に限定はないが、例えば、0.5g/m2以上2.9g/m2以下であっても良く、好ましくは0.6g/m2以上2.6g/m2以下、更に好ましくは0.8g/m2以上2.4g/m2以下であっても構わない。
尚、本発明における「フッ素系撥水撥油剤Fの付着量」とは、繊維表面Sa、Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着したケイ素系微粒子Kを、被覆しているフッ素系撥水撥油剤F等の量を意味する。
又、ケイ素系微粒子Kとフッ素系撥水撥油剤Fの間の付着は、何れの手段によって行われていても良いが、例えば、フッ素系撥水撥油剤Fの主鎖が、ケイ素系微粒子Kに絡みついて付着されていたり、ケイ素系微粒子Kとフッ素系撥水撥油剤Fの間を所定のバインダ樹脂を介して付着する等であっても構わない。
【0039】
<フッ素被覆部(フッ素による難燃被覆部)5’>
図2に示したように、フッ素被覆部5’は、パイル布帛1が第2実施形態である場合のみに、上述した非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’において、その繊維表面Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着した難燃剤Nをフッ素系撥水撥油剤Fが被覆している部分であって、フッ素による難燃被覆部5’であると言える。
尚、本発明における「繊維表面Sa’において、その繊維表面Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着した難燃剤Nをフッ素系撥水撥油剤Fが被覆している」とは、非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’に対して、バインダ樹脂Bを介して難燃剤Nが付着していて、その難燃剤Nの難燃表面の少なくとも一部が、後述するフッ素系撥水撥油剤Fに被覆されていることを意味する。
フッ素による難燃被覆部5’におけるフッ素系撥水撥油剤Fの付着量の意味や値、難燃剤Nとフッ素系撥水撥油剤Fの間の付着については、フッ素によるケイ素被覆部5におけるフッ素系撥水撥油剤Fの付着量と同様である。
ここまで述べたフッ素被覆部(フッ素による難燃被覆部)5’も、パイル布帛1のパイル2と基布3に用いられた非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’において、点在していたり、海島状の島部分であっても良い。
【0040】
<繊維露出部6>
図1~5に示したように、繊維露出部6は、パイル布帛1が第1実施形態である場合には、上述した難燃性繊維S及び非難燃性繊維S’の繊維表面Sa、Sa’において、当該繊維表面Sa、Sa’が露出している部分であり、パイル布帛1が第2実施形態である場合には、上述した非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’において、その繊維表面Sa’が露出している部分である。
尚、パイル布帛1が第1実施形態である場合の本発明における「繊維表面Sa、Sa’において、当該繊維表面Sa、Sa’が露出している」とは、難燃性繊維Sの繊維表面Saと、非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’のそれぞれの少なくとも一部が、上述したケイ素系微粒子Kや、難燃剤N、フッ素系撥水撥油剤F等に被覆されていないことを意味し、ケイ素とフッ素の位置を重ね合わせた
図3~5(d)中であれば、ケイ素とフッ素の両方ともが存在していない位置を、何れの点(白点、グレーの点、黒点)も存在しないことで表している。
又、パイル布帛1が第2実施形態である場合の本発明における「繊維表面Sa’において、その繊維表面Sa’が露出している」とは、非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’の少なくとも一部が、上述したケイ素系微粒子Kや、難燃剤N、フッ素系撥水撥油剤F等に被覆されていないことを意味する。
【0041】
<バックコート部10>
図1~5に示したように、バックコート部10は、上述した基布3の基布裏面3bに、少なくともウレタン系樹脂、及び、上述した難燃剤Nを混合した混合物がコーティングされた部分であって、所定厚さの層状であっても良い。
コーティング部10における混合物には、上述したウレタン系樹脂と難燃剤N以外に、架橋剤だけが混合されていたり、架橋剤及び浸透剤が混合されていても良く、その他、上述したバインダ樹脂Bや、増粘剤(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等)、充填剤などが混合されていても構わない。
ここまで述べた各素材の割合(バックコート部10の混合物における各素材の質量%、乾燥重量)は、特に限定はないが、例えば、ウレタン系樹脂が40%以上50%以下で、難燃剤Nが50%以上60%以下であったり、架橋剤が1%以上5%以下で、浸透剤が1%以上5%以下であっても良い。
バックコート部10における混合物の付着量は、特に限定はないが、例えば、70g/m
2以上140g/m
2以下であっても良く、好ましくは75g/m
2以上130g/m
2以下、更に好ましくは80g/m
2以上120g/m
2以下であっても良い。
バックコート部10の厚さも、特に限定はないが、例えば、0.1mm以上10.0mm以下であっても良く、好ましくは0.5mm以上5.0mm以下、更に好ましくは1.0mm以上3.0mm以下であっても良い。
【0042】
<ウレタン系樹脂>
ウレタン系樹脂は、主鎖の繰返し単位中にウレタン結合(-NH・CO・O-)を有する重合体であって、2つ以上の水酸基を有するグリコール(ジオールなど)と、2つのイソシアネート基を有するジイソシアネートの重付加により合成され、ポリウレタン(PU)系樹脂とも呼ばれる。ウレタン系樹脂は、エステル結合(-COO-)を有していたり、エーテル結合(-O-)を有していても良く、その他、カルボキシ基や、アミノ基、ブロックイソシアネート基などの官能基を併用したり、発泡剤を加えてウレタンフォーム(発泡ポリウレタン)としても構わない。ウレタン系樹脂は、バックコート部10においては、謂わば、バインダとして、上述した難燃剤N等の混合物を、基布3の基布裏面3bに付着させても良い。
バックコート部10におけるウレタン系樹脂の付着量は、特に限定はないが、例えば、20g/m2以上100g/m2以下、好ましくは30g/m2以上80g/m2以下、更に好ましくは40g/m2以上60g/m2以下であっても良い。
バックコート部10における難燃剤Nの付着量は、特に限定はないが、例えば、30g/m2以上110g/m2以下、好ましくは40g/m2以上90g/m2以下、更に好ましくは50g/m2以上70g/m2以下であっても良い。
【0043】
<架橋剤>
架橋剤は、特に限定はないが、例えば、ブロックイソシアネート系架橋剤や、カルボジイミド系架橋剤であっても良く、その他、グリセリン、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールなどの多価アルコールであったり、エタノールアミンや、ポリエチレンポリアミン等のアミンであったり、又は、それらに少量のプロピレンオキサイドを付加したものであっても構わない。尚、ブロックイソシアネート系架橋剤は、常温では安定で加熱によって硬化するとも言え、カルボジイミド系架橋剤は、低温で架橋できるとも言える。
バックコート部10における架橋剤の付着量は、特に限定はないが、例えば、0.1g/m2以上6.0g/m2以下、好ましくは1.0g/m2以上5.0g/m2以下、更に好ましくは2.0g/m2以上4.0g/m2以下であっても良い。
【0044】
<浸透剤>
浸透剤は、特に限定はないが、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルや、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩であったり、その他、アルキルナフタレンスルホン酸ソーダや、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ、アルキルアリルエーテル、ジエタノールアミンなどであったり、アルキルナフタレンスルホン酸ソーダや、アルキル硫酸塩、金属セッケン、脂肪族アミンなどであっても良い。浸透剤は、基布3の基布裏面3bと混合物の接触角を低下させ、後述するバックコート工程P3等での濡れや浸透を促すものであるとも言える。
ここまで述べたパイル布帛1を製造する方法について、次に詳解する。
【0045】
<パイル布帛1の製造方法>
図6に示したように、上述したパイル布帛1の製造方法(以下、「当該製造方法」とも言う)は、後述するケイ素付与工程P1又はケイ素・難燃付与工程P1’と、後述するフッ素被覆工程P2、P2’を少なくとも備えている。
当該製造方法は、後述するバックコート工程P3などを備えていても良い。
ここで、当該製造方法において、ケイ素付与工程P1とフッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2を備えている場合は第1実施形態とし、ケイ素付与工程P1とフッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2とバックコート工程P3を備えている場合は第2実施形態とし、ケイ素・難燃付与工程P1’とフッ素被覆工程(フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2’を備えている場合は第3実施形態とし、ケイ素・難燃付与工程P1’とフッ素被覆工程(フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2’とバックコート工程P3を備えている場合は第4実施形態とする。
尚、当該製造方法は、工程P1、P2を備えた第1実施形態と、工程P1’、P2’を備えた第3実施形態は、謂わば、2段処理であるとも言え、工程P1、P2、P3を備えた第2実施形態と、工程P1’、P2’、P3を備えた第4実施形態は、謂わば、3段処理であるとも言える。
その他、当該製造方法の第1~4実施形態は、ケイ素付与工程P1やケイ素・難燃付与工程P1’の前に、後述するパイル布帛形成工程を備えていても良い。
【0046】
<ケイ素付与工程P1>
図6に示したように、ケイ素付与工程P1は、上述したパイル布帛1に対して、少なくとも上述したバインダ樹脂B、及び、上述したケイ素系微粒子Kが混合された混合物を付与した後に、当該パイル布帛1を乾燥させて、上述した難燃性繊維S及び非難燃性繊維S’の繊維表面Sa、Sa’において、繊維表面Sa、Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着したケイ素系微粒子Kが露出しているケイ素露出部4を設ける工程である。
このケイ素付与工程P1における混合物の付与は、所定温度の雰囲気下で行われても良い。尚、ケイ素付与工程P1における混合物の付与の「所定温度」は、例えば、120℃以上140℃以下(又は、120℃以上140℃未満)であっても良く、好ましくは125℃以上135℃以下であっても構わない。
【0047】
ここで、ケイ素付与工程P1における「付与」する手段は、特に限定はないが、例えば、パディング法(Dip-nip法)、浸漬法(Dipping法)、スプレー法、キスロール法、泡加工法、コーティング法、滴下法やプリント法であっても良い。
上述したもののうちパディング法を例に詳解すれば、このパディング法は、粉末状の混合物を、所定の濃度で、水等の分散媒に分散させた分散液、又は、水等の溶媒に溶解させた溶液に、難燃性繊維Sや非難燃性繊維S’で構成されたパイル布帛1を浸漬させた後に、浸漬させたパイル布帛1を、一対のマングル(パディングロール)の間を通して絞る。尚、混合物は、パイル布帛1に付与できるのであれば、粉末状としてから水等の分散媒に分散等をさせなくとも良い。又、「付与」する手段は、マングルで絞るパディング法でなくてなくとも、混合物を溶解させた溶液に、パイル布帛1を浸漬させるだけの浸漬法であっても良い。
ここで、ケイ素付与工程P1でパディング法や浸漬法等にて混合物を分散媒に分散させる等の際における、バインダ樹脂Bとケイ素系微粒子Kの混合物の濃度((混合物の重量/(混合物と、分散媒を合わせた分散液又は溶媒を合わせた溶液の重量))×100)は、何れの値でも良いが、例えば、0.1重量%以上12.0重量%以下、好ましくは1.0重量%以上10.0重量%以下、2.0重量%以上8.0重量%以下であっても良い。
尚、この場合におけるバインダ樹脂Bだけの濃度((バインダ樹脂Bの重量/(混合物と、分散媒を合わせた分散液又は溶媒を合わせた溶液の重量))×100)も、何れの値でも良いが、例えば、0.1重量%以上5.0重量%以下、好ましくは0.5重量%以上4.0重量%以下、1.0重量%以上3.0重量%以下であっても良い。
又、この場合におけるケイ素系微粒子Kだけの濃度((ケイ素系微粒子Kの重量/(混合物と、分散媒を合わせた分散液又は溶媒を合わせた溶液の重量))×100)も、何れの値でも良いが、例えば、0.1重量%以上7.0重量%以下、好ましくは0.5重量%以上6.0重量%以下、1.0重量%以上5.0重量%以下であっても良い。
更に、ケイ素付与工程P1では、水を分散媒とし、ケイ素系微粒子Kを水中に分散させたコロイド溶液を、このようなコロイダルシリカとして、用いることができる。
【0048】
その他、ケイ素付与工程P1における「乾燥」する手段も、特に限定はないが、例えば、パイル布帛1をピンテンターで張設した状態で、乾燥機によって、所定の乾燥温度、所定の乾燥時間で乾燥させても良い。
乾燥温度は、特に限定はないが、例えば、100℃以上200℃以下、好ましくは120℃以上180℃以下であっても良い。
乾燥時間も、特に限定はないが、例えば、0.1分(6秒)以上360.0分以下、好ましくは0.2分(12秒)以上10.0分以下、更に好ましくは0.3分(18秒)以上5.0分以下であっても良い。
その他、ケイ素付与工程P1における「乾燥」する手段は、自然乾燥、送風乾燥(風乾)などであっても良い。ケイ素付与工程P1における「乾燥」する手段が自然乾燥等である場合にも、その乾燥温度は、特に限定はないが、例えば、常温(約20℃等)であっても良く、その乾燥時間は、パイル布帛1から水分が蒸発するまで(例えば、24時間等)であっても構わない。
【0049】
ケイ素付与工程P1でのケイ素系微粒子Kの付与量(換言すれば、ケイ素付与工程P1で乾燥させた後におけるケイ素系微粒子Kの付着量)は、特に限定はないが、例えば、0.8g/m2以上4.5g/m2以下であっても良く、好ましくは1.0g/m2以上4.0g/m2以下、更に好ましくは1.5g/m2以上3.5g/m2以下であっても構わない。
ケイ素付与工程P1でのバインダ樹脂Bの付与量(換言すれば、ケイ素付与工程P1で乾燥させた後(ケイ素付与工程P1の後)におけるバインダ樹脂Bの付着量)は、特に限定はないが、例えば、0.3g/m2以上1.7g/m2以下であっても良く、好ましくは0.4g/m2以上1.5g/m2以下、更に好ましくは0.5g/m2以上1.3g/m2以下であっても構わない。
尚、ケイ素付与工程P1で乾燥させた後におけるケイ素系微粒子Kの付与量(付着量)は、上述したケイ素露出部4中のケイ素系微粒子Kの付与量(付着量)と、上述したフッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5中のケイ素系微粒子Kの付与量(付着量)を合計した値であるとも言える。
【0050】
<ケイ素・難燃付与工程P1’>
図6に示したように、ケイ素・難燃付与工程P1’は、上述したパイル布帛1に対して、少なくともバインダ樹脂B、ケイ素系微粒子K及び難燃剤Nが混合された混合物を付与した後に、当該パイル布帛1を乾燥させて、非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’において、繊維表面Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着したケイ素系微粒子Kが露出しているケイ素露出部4と、繊維表面Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着した難燃剤Nが露出している難燃露出部4’を設ける工程である。
このケイ素・難燃付与工程P1’における混合物の付与は、所定温度の雰囲気下で行われても良い。尚、ケイ素・難燃付与工程P1’における混合物の付与の「所定温度」も、例えば、120℃以上140℃以下(又は、120℃以上140℃未満)であっても良く、好ましくは125℃以上135℃以下であっても構わない。
【0051】
ここで、ケイ素・難燃付与工程P1’における「付与」する手段は、特に限定はないが、上述したパディング法などケイ素付与工程P1における「付与」する手段と、同様であっても良い。
ケイ素・難燃付与工程P1’でパディング法等にて混合物を分散媒に分散させる等の際における、バインダ樹脂Bとケイ素系微粒子Kと難燃剤Nの混合物の濃度は、何れの値でも良いが、例えば、0.1重量%以上13.0重量%以下、好ましくは1.0重量%以上11.0重量%以下、2.0重量%以上9.0重量%以下であっても良い。
尚、この場合におけるバインダ樹脂Bだけの濃度、ケイ素系微粒子Kだけの濃度の数値範囲、コロイダルシリカについても、ケイ素付与工程P1と同様であっても良い。
又、この場合における難燃剤Nだけの濃度((難燃剤Nの重量/(混合物と、分散媒を合わせた分散液又は溶媒を合わせた溶液の重量))×100)も、何れの値でも良いが、例えば、0.1重量%以上3.0重量%以下、好ましくは0.2重量%以上2.0重量%以下、0.3重量%以上1.0重量%以下であっても良い。
その他、ケイ素・難燃付与工程P1’における「乾燥」する手段や乾燥温度、乾燥時間等も、特に限定はないが、上述したケイ素付与工程P1における「乾燥」する手段や乾燥温度、乾燥時間等と、同様であっても良い。
【0052】
ケイ素・難燃付与工程P1’でのバインダ樹脂Bやケイ素系微粒子Kの付与量(換言すれば、ケイ素・難燃付与工程P1’で乾燥させた後(ケイ素・難燃付与工程P1’の後)におけるバインダ樹脂Bやケイ素系微粒子Kの付着量)は、特に限定はないが、上述したケイ素付与工程P1で乾燥させた後におけるバインダ樹脂Bやケイ素系微粒子Kの付着量と、同様であっても良い。
又、ケイ素・難燃付与工程P1’での難燃剤Nの付与量(換言すれば、ケイ素・難燃付与工程P1’で乾燥させた後(ケイ素・難燃付与工程P1’の後)における難燃剤Nの付着量)は、特に限定はないが、例えば、0.10g/m2以上1.00g/m2以下であっても良く、好ましくは0.15g/m2以上0.90g/m2以下、更に好ましくは0.20g/m2以上0.80g/m2以下であっても構わない。
尚、ケイ素・難燃付与工程P1’で乾燥させた後におけるケイ素系微粒子Kの付着量も、上述したケイ素露出部4中のケイ素系微粒子Kの付着量と、上述したフッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5中のケイ素系微粒子Kの付着量を合計した値であるとも言え、ケイ素・難燃付与工程P1’で乾燥させた後における難燃剤Nの付着量は、上述した難燃露出部4’中の難燃剤Nの付着量と、上述したフッ素被覆部(フッ素による難燃被覆部)5’中の難燃剤Nの付着量を合計した値であるとも言える。
【0053】
<フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2>
図6に示したように、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2は、上述したケイ素付与工程P1の後に、上述したパイル布帛1に対して、フッ素系撥水撥油剤Fを付与して、難燃性繊維S及び非難燃性繊維S’の繊維表面Sa、Sa’において、繊維表面Sa、Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着したケイ素系微粒子Kのケイ素表面の少なくとも一部をフッ素系撥水撥油剤Fが被覆しているフッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5を設ける工程である。
このフッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2における混合物の付与は、当該製造方法が第1実施形態である場合には、上述した所定温度より高い温度の雰囲気下で行われても良く、又、当該製造方法が第2実施形態である場合には、上述した所定温度で行われても構わない。
尚、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2における混合物の付与の「所定温度」も、例えば、120℃以上140℃以下(又は、120℃以上140℃未満)であっても良く、好ましくは125℃以上135℃以下であっても構わない。
又、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2における混合物の付与の「所定温度より高い温度」は、例えば、140℃以上160℃以下であっても良く、好ましくは145℃以上155℃以下であっても構わない。
【0054】
ここで、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2における「付与」する手段は、特に限定はないが、上述したパディング法(浸漬法)などケイ素付与工程P1における「付与」する手段と、同様であっても良い。
フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2でパディング法等にてフッ素系撥水撥油剤Fを分散媒に分散させる等の際における、フッ素系撥水撥油剤Fの濃度は、何れの値でも良いが、例えば、0.1重量%以上7.0重量%以下、好ましくは0.5重量%以上6.0重量%以下、1.0重量%以上5.0重量%以下であっても良い。
尚、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2においても、フッ素系撥水撥油剤Fを付与した後に、当該パイル布帛1を乾燥させても良く、この場合における「乾燥」する手段や乾燥温度、乾燥時間等も、特に限定はないが、上述したケイ素付与工程P1における「乾燥」する手段や乾燥温度、乾燥時間等と、同様であっても良い。
【0055】
フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2の後におけるフッ素系撥水撥油剤Fの付与量(謂わば、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2でのフッ素系撥水撥油剤Fの付着量)は、特に限定はないが、例えば、0.5g/m2以上2.9g/m2以下であっても良く、好ましくは0.6g/m2以上2.6g/m2以下、更に好ましくは0.8g/m2以上2.4g/m2以下であっても構わない。
尚、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2の後におけるフッ素系撥水撥油剤Fの付着量は、上述したフッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5中のフッ素系撥水撥油剤Fの付着量であるとも言える。
【0056】
<フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2’>
図6に示したように、フッ素被覆工程P2’は、上述したケイ素・難燃付与工程P1’の後に、上述したパイル布帛1に対して、フッ素系撥水撥油剤Fを付与して、非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’において、繊維表面Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着したケイ素系微粒子Kのケイ素表面の少なくとも一部をフッ素系撥水撥油剤Fが被覆しているフッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5と、繊維表面Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着した難燃剤Nの難燃表面の少なくとも一部をフッ素系撥水撥油剤Fが被覆しているフッ素被覆部(フッ素による難燃被覆部)5’を設ける工程である。
このフッ素被覆工程(フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2’における混合物の付与は、当該製造方法が第3実施形態である場合には、上述した所定温度より高い温度の雰囲気下で行われても良く、又、当該製造方法が第4実施形態である場合には、上述した所定温度で行われても構わない。
尚、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2’における混合物の付与の「所定温度」も、例えば、120℃以上140℃以下(又は、120℃以上140℃未満)であっても良く、好ましくは125℃以上135℃以下であっても構わない。
又、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2’における混合物の付与の「所定温度より高い温度」は、例えば、140℃以上160℃以下であっても良く、好ましくは145℃以上155℃以下であっても構わない。
【0057】
ここで、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2’における「付与」する手段は、特に限定はないが、上述したパディング法(浸漬法)などケイ素付与工程P1における「付与」する手段と、同様であっても良い。
フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2’でパディング法等にてフッ素系撥水撥油剤Fを分散媒に分散させる等の際における、フッ素系撥水撥油剤Fの濃度の数値範囲は、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2と同様であっても良い。
尚、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2’においても、フッ素系撥水撥油剤Fを付与した後に、当該パイル布帛1を乾燥させても良く、この場合における「乾燥」する手段や乾燥温度、乾燥時間等も、特に限定はないが、上述したケイ素付与工程P1における「乾燥」する手段や乾燥温度、乾燥時間等と、同様であっても良い。
【0058】
フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2’の後におけるフッ素系撥水撥油剤Fの付与量(謂わば、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2’でのフッ素系撥水撥油剤Fの付着量)の数値範囲は、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2と同様であっても良い。
尚、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2’の後におけるフッ素系撥水撥油剤Fの付着量は、上述したフッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5中のフッ素系撥水撥油剤Fの付着量と、フッ素被覆部(フッ素による難燃被覆部)5’中のフッ素系撥水撥油剤Fの付着量を合計した値であるとも言える。
【0059】
<バックコート工程P3>
図6に示したように、バックコート工程P3は、上述したフッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程、フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2、P2’の後に、上述した所定温度より高い温度の雰囲気下で、基布3の基布裏面3bに対して、少なくともウレタン系樹脂及び難燃剤Nを混合した混合物がコーティングされたバックコート部10を設ける工程である。
このバックコート工程P3における混合物のコーティングの「所定温度より高い温度」は、例えば、140℃以上160℃以下であっても良く、好ましくは145℃以上155℃以下であっても構わない。
【0060】
ここで、バックコート工程P3における「コーティング」する手段は、特に限定はないが、例えば、塗布であっても良く、塗布の具体的な手段としては、刷毛等による塗布や、スプレー塗布のほか、コンマ・ダイレクト法、グラビア・ダイレクト法、グラビア・リバース法、リバースロールコート法、エアーナイフコート法、キスコート法等を使用したり、薄膜コーター、ロールプリント加工機、インクジェットプリント加工機、ローターダンプニング等を用いても良い。その他、「コーティング」する手段は、キスロール法、泡加工法などであっても良い。
尚、バックコート工程P3で混合物をコーティングする際には、粉末状の混合物を、所定の濃度で、水等の分散媒に分散させた分散液、又は、水等の溶媒に溶解させた溶液を、基布3の基布裏面3bに対して、塗布等にてコーティングすることとなるが、この場合における、ウレタン系樹脂や難燃剤N、浸透剤、架橋剤、増粘剤の混合物の濃度((混合物の重量/(混合物と、分散媒を合わせた分散液又は溶媒を合わせた溶液の重量))×100)は、何れの値でも良いが、例えば、1重量%以上70重量%以下、好ましくは10重量%以上65重量%以下、20重量%以上60重量%以下であっても良い。
尚、この場合におけるウレタン系樹脂だけの濃度((ウレタン系樹脂の重量/(混合物と、分散媒を合わせた分散液又は溶媒を合わせた溶液の重量))×100)も、何れの値でも良いが、例えば、1重量%以上50重量%以下、好ましくは5重量%以上4.0重量%以下、10重量%以上30重量%以下であっても良い。
又、この場合における難燃剤Nだけの濃度((難燃剤Nの重量/(混合物と、分散媒を合わせた分散液又は溶媒を合わせた溶液の重量))×100)も、何れの値でも良いが、例えば、1重量%以上60重量%以下、好ましくは7重量%以上50重量%以下、15重量%以上40重量%以下であっても良い。
更に、この場合における浸透剤だけの濃度((浸透剤の重量/(混合物と、分散媒を合わせた分散液又は溶媒を合わせた溶液の重量))×100)も、何れの値でも良いが、例えば、0.1重量%以上3.0重量%以下、好ましくは0.2重量%以上2.0重量%以下、0.3重量%以上1.0重量%以下であっても良い。
その他、この場合における架橋剤だけの濃度((架橋剤の重量/(混合物と、分散媒を合わせた分散液又は溶媒を合わせた溶液の重量))×100)も、何れの値でも良いが、例えば、0.1重量%以上5.0重量%以下、好ましくは0.5重量%以上4.0重量%以下、1.0重量%以上3.0重量%以下であっても良い。
その他、この場合における増粘剤だけの濃度((増粘剤の重量/(混合物と、分散媒を合わせた分散液又は溶媒を合わせた溶液の重量))×100)も、何れの値でも良いが、例えば、0.01重量%以上0.30重量%以下、好ましくは0.02重量%以上0.20重量%以下、0.03重量%以上0.10重量%以下であっても良い。
尚、バックコート工程P3においても、混合物をコーティングした後に、当該パイル布帛1を乾燥させても良く、この場合における「乾燥」する手段や乾燥温度、乾燥時間等も、特に限定はないが、上述したケイ素付与工程P1における「乾燥」する手段や乾燥温度、乾燥時間等と、同様であっても良い。
【0061】
バックコート工程P3での混合物のコーティング量(換言すれば、バックコート工程P3の後における混合物の付着量)は、特に限定はないが、例えば、70g/m2以上140g/m2以下であっても良く、好ましくは75g/m2以上130g/m2以下、更に好ましくは80g/m2以上120g/m2以下であっても良い。
この場合のウレタン系樹脂だけの付与量(付着量)は、特に限定はないが、例えば、20g/m2以上100g/m2以下、好ましくは30g/m2以上80g/m2以下、更に好ましくは40g/m2以上60g/m2以下であっても良い。
又、この場合の難燃剤Nだけの付与量(付着量)は、特に限定はないが、例えば、30g/m2以上110g/m2以下、好ましくは40g/m2以上90g/m2以下、更に好ましくは50g/m2以上70g/m2以下であっても良い。
更に、この場合の架橋剤だけの付与量(付着量)は、特に限定はないが、例えば、0.1g/m2以上6.0g/m2以下、好ましくは1.0g/m2以上5.0g/m2以下、更に好ましくは2.0g/m2以上4.0g/m2以下であっても良い。
【0062】
<パイル布帛形成工程>
パイル布帛形成工程は、上述したケイ素付与工程P1やケイ素・難燃付与工程P1’の前に、パイル布帛を形成する工程である。
尚、上述したように、パイル布帛は、パイル織物である場合、パイル編物である場合、タフトパイル布帛である場合があるが、パイル布帛がパイル織物である場合には、パイル布帛形成工程は、パイル織物織成工程であると言え、パイル布帛がパイル編物である場合には、パイル布帛形成工程は、パイル編物編成工程であると言え、パイル布帛がタフトパイル布帛である場合には、パイル布帛形成工程は、タフトパイル布帛形成工程であると言える。
【0063】
ここで、パイル織物織成工程の場合、当該工程で織成されるパイル織物は、例えば、経糸と緯糸を平織や綾織、朱子織などに織成した一対の上織地と下織地の間を、これら上織地と下織地と一緒に経方向にパイル糸を連結糸として連結するように織成した後、連結糸を略中央にて切断する(センターカットする)しても良い。この結果、上織地又は下織地を基布3として、切断された連結糸(パイル糸)それぞれをパイル2とするパイル織物が2つ同時に出来、このような構成のパイル織物をモケット1とも言い、この場合、ダブルモケット織機(ジャガード織機やドビー織機等)によって織成される。その他、モケットは、上織地・下織地をパイル糸で連結して織成する代わりに、1枚の織地と一緒に、経方向にパイル糸を、緯方向に延びるワイヤに引っ掛けながら織成するモケットでも良く、この場合は、ワイヤモケット織機によって織成される。
又、パイル編物編成工程の場合、当該工程で編成されるパイル編物は、例えば、経糸を所定枚(例えば、3枚など)の筬を持つ編機で編成した編地(経編の一種で、デンビー編、トリコットとも言う)を基布3とし、この基布3の一方面か両面を起毛して形成された毛羽をパイル2としたものでも良い。
更に、タフトパイル布帛形成工程の場合、当該工程で形成されるタフトパイル布帛は、例えば、パイル2を基布3に所定間隔でタフト(植設)するタフト機で形成される。
【実施例0064】
ここからは、本発明に係るパイル布帛1の実施例1~5と、比較例1と、参考実施例1~3について言及する。
これらの実施例や比較例、参考実施例を用いて、後述する試験1、2を行う。尚、これらの実施例や比較例、参考実施例のうち、実施例1、2と参考実施例1については、断面の図面代用写真や、ケイ素やフッ素の位置を点で示した画像を、
図3~5に示す。
【0065】
<実施例1>
実施例1のパイル布帛1は、パイル2に難燃性繊維Sが用いられ、基布3に非難燃性繊維S’が用いられた第1実施形態のパイル布帛であって、パイル布帛形成工程(パイル織物織成工程)にて織成されたパイル織物(モケット)である。
このパイル織物に対して、ケイ素付与工程P1にて、バインダ樹脂Bとしてポリエステル樹脂及びケイ素系微粒子Kが混合された混合物に分散媒である水を合わせて分散させた分散液を、パディング法(Dip-Nip法)にて、130℃の雰囲気下で付与した後に、当該パイル織物を、ピンテンターで張設した状態で乾燥機によって150℃の乾燥温度で乾燥させて、ケイ素露出部4を設けた。尚、ケイ素付与工程P1におけるケイ素系微粒子Kは、コロイダルシリカとして用いていると言える。
ケイ素付与工程P1の後に、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2にて、当該パイル織物に対して、フッ素系撥水撥油剤Fに分散媒である水を合わせて分散させた分散液を、浸漬法(Dipping法)にて、130℃の雰囲気下で付与して、フッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5を設けた。
フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素被覆工程)P2の後に、バックコート工程P3にて、当該パイル織物の基布3の基布裏面3bに対して、少なくともウレタン系樹脂及び難燃剤Nとしてリン系難燃剤が混合された混合物に分散媒である水を合わせて分散させた分散液を、塗布にて、150℃の雰囲気下でコーティングして、コーティング部10を設けて、実施例1のパイル布帛1とした。
尚、実施例1のパイル布帛1は、ケイ素系微粒子Kの付着量が0.99g/m
2で、バインダ樹脂Bの付着量が0.38g/m
2で、フッ素系撥水撥油剤Fの付着量が0.64g/m
2であり、ウレタン系樹脂の付着量が48.40g/m
2で、難燃剤Nの付着量が61.60g/m
2である。
又、
図3に示したように、実施例1のパイル布帛1の断面において、ケイ素(ケイ素系微粒子K)の位置と、フッ素(フッ素系撥水撥油剤F)の位置は、互いにズレている部分と、重なっている部分が存在しており、特に、
図3(d)において、ケイ素のみが存在する白点の位置にケイ素露出部4が設けられ、ケイ素とフッ素が重なっているグレーの点の位置にフッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5が、少なくとも設けられていることがわかる。更に、
図3(b)~(d)において、ケイ素もフッ素も存在していない部分は、繊維露出部6を示すと言える。
【0066】
<実施例2>
実施例1のパイル布帛1において、ケイ素系微粒子Kの付着量を1.98g/m
2とし、バインダ樹脂Bの付着量を0.75g/m
2とし、フッ素系撥水撥油剤Fの付着量を1.28g/m
2とし、ウレタン系樹脂の付着量を50.60g/m
2とし、難燃剤Nの付着量を64.60g/m
2として、実施例2のパイル布帛1とした。
又、
図4に示したように、実施例3のパイル布帛1の断面においても、ケイ素の位置と、フッ素の位置は、互いにズレている部分と、重なっている部分が存在しており、特に、
図4(d)においても、ケイ素のみが存在する白点の位置にケイ素露出部4が設けられ、ケイ素とフッ素が重なっているグレーの点の位置にフッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5が、少なくとも設けられていることがわかる。更に、
図4(b)~(d)において、ケイ素もフッ素も存在していない部分は、繊維露出部6を示すと言える。
【0067】
<実施例3>
実施例1のパイル布帛1において、ケイ素系微粒子Kの付着量を3.96g/m2とし、バインダ樹脂Bの付着量を1.50g/m2とし、フッ素系撥水撥油剤Fの付着量を2.56g/m2とし、ウレタン系樹脂の付着量を46.20g/m2とし、難燃剤Nの付着量を58.80g/m2として、実施例3のパイル布帛1とした。
【0068】
<実施例4>
実施例4のパイル布帛1は、パイル2と基布3に非難燃性繊維S’が用いられた第2実施形態のパイル布帛であって、パイル布帛形成工程(パイル織物織成工程)にて織成されたパイル織物(モケット)である。
このパイル織物に対して、ケイ素・難燃付与工程P1’にて、バインダ樹脂Bとしてポリエステル樹脂、ケイ素系微粒子K及び難燃剤Nとしてリン系難燃剤が混合された混合物に分散媒である水を合わせて分散させた分散液を、パディング法(Dip-Nip法)にて、130℃の雰囲気下で付与した後に、当該パイル織物を、ピンテンターで張設した状態で乾燥機によって150℃の乾燥温度で乾燥させて、ケイ素露出部4と、難燃露出部4’を設けた。尚、ケイ素・難燃付与工程P1’におけるケイ素系微粒子Kも、コロイダルシリカとして用いていると言える。
ケイ素・難燃付与工程P1’の後に、フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2’にて、当該パイル織物に対して、フッ素系撥水撥油剤Fに分散媒である水を合わせて分散させた分散液を、浸漬法(Dipping法)にて、130℃の雰囲気下で付与して、フッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5と、フッ素被覆部(フッ素による難燃被覆部)5’を設けた。
フッ素被覆工程(フッ素によるケイ素・難燃被覆工程)P2’の後に、バックコート工程P3にて、当該パイル織物の基布3の基布裏面3bに対して、少なくともウレタン系樹脂、難燃剤Nとしてリン系難燃剤及び架橋剤としてブロックイソシアネート系架橋剤が混合された混合物に分散媒である水を合わせて分散させた分散液を、塗布にて、150℃の雰囲気下でコーティングして、コーティング部10を設けて、実施例4のパイル布帛1とした。
尚、実施例4のパイル布帛1は、ケイ素系微粒子Kの付着量が1.98g/m2で、バインダ樹脂Bの付着量が0.5g/m2で、難燃剤Nの付着量が0.35g/m2で、フッ素系撥水撥油剤Fの付着量が1.28g/m2であり、ウレタン系樹脂の付着量が51.90g/m2で、難燃剤Nの付着量が66.10g/m2で、架橋剤の付着量が3.15g/m2である。
【0069】
<実施例5>
実施例4のパイル布帛1において、ウレタン系樹脂の付着量を48.40g/m2とし、難燃剤Nの付着量を61.60g/m2とし、カルボジイミド系架橋剤とした架橋剤の付着量を2.93g/m2として、実施例5のパイル布帛1とした。
【0070】
<比較例1>
実施例1のパイル布帛1において、バインダ樹脂B、ケイ素系微粒子K及びフッ素系撥水撥油剤Fを、パイル2や基布3に付与せず、ウレタン系樹脂の付着量を48.40g/m2とし、難燃剤Nの付着量を61.60g/m2として、比較例1のパイル布帛とした。
【0071】
<参考実施例1>
実施例1のパイル布帛1において、ケイ素系微粒子Kの付着量を0.59g/m
2とし、バインダ樹脂Bの付着量を0.23g/m
2とし、フッ素系撥水撥油剤Fの付着量を0.38g/m
2とし、ウレタン系樹脂の付着量を49.30g/m
2とし、難燃剤Nの付着量を62.70g/m
2として、参考実施例1のパイル布帛1とした。
又、
図5に示したように、参考実施例1のパイル布帛1の断面においても、ケイ素の位置と、フッ素の位置は、互いにズレている部分と、重なっている部分が存在しており、特に、
図5(d)において、ケイ素のみが存在する白点の位置にケイ素露出部4が設けられ、ケイ素とフッ素が重なっているグレーの点の位置にフッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5が、少なくとも設けられていることがわかる。更に、
図5(b)~(d)において、ケイ素もフッ素も存在していない部分は、繊維露出部6を示すと言える。
【0072】
<参考実施例2>
実施例1のパイル布帛1において、ケイ素系微粒子Kの付着量を4.95g/m2とし、バインダ樹脂Bの付着量を1.88g/m2とし、フッ素系撥水撥油剤Fの付着量を3.20g/m2とし、ウレタン系樹脂の付着量を47.50g/m2とし、難燃剤Nの付着量を60.50g/m2として、参考実施例2のパイル布帛1とした。
【0073】
<参考実施例3>
実施例4のパイル布帛1において、難燃剤N及び架橋剤を、パイル2や基布3に付与せず)、ウレタン系樹脂の付着量を50.60g/m2とし、難燃剤Nの付着量を64.40g/m2として、参考実施例3のパイル布帛とした。
【0074】
ここまで述べた実施例1~5と、比較例1、参考実施例1~3における各素材の付着量、パイル2の素材を、後述の表1に示す。
【0075】
【0076】
<乾燥汚れに対する防汚性>
本発明におけるパイル布帛1の「乾燥汚れに対する防汚性」は、JIS-L-1919:2020のA-1法(密閉形円筒容器を用いる方法)の汚れにくさ試験に準じて測定される。
尚、本発明における「JIS-L-1919:2020のA-1法(密閉形円筒容器を用いる方法)の汚れにくさ試験に準じて測定される」とは、JIS-L-1919:2020のA-1法(密閉形円筒容器を用いる方法)の汚れにくさ試験に記載された通りに測定されることを含む以外に、当該A-1法の記載を準用して(、又は、一部を変更して)測定されることも含む。
このような乾燥汚れに対する防汚性は、JIS-L-1919:2020のA-1法(密閉形円筒容器を用いる方法)の汚れにくさ試験において、3.5級以上、好ましくは4級以上であっても良い。
【0077】
<湿潤汚れに対する防汚性>
本発明におけるパイル布帛1の「湿潤汚れに対する防汚性」は、撥水性能は、IPA撥水試験法を用いて測定され、撥油性能は、AATCC(The American Association of Textile Chemists and Colorists、アメリカ繊維化学技術・染色技術協会)-118を用いて測定される。
尚、IPA撥水試験法は、脱イオン水と、イソプロピルアルコール(IPA)との混合液を、実施例1~5、比較例1、参考実施例1~3に対して、以下に示す1,2,3,・・・の級の順に、約3mmの大きさの液滴で静かにパイル2側(パイル面上、パイル布帛1の表面1a上)に数滴(5、6滴)置き、30秒後の状態を観察して、滴状態が2~3滴保つことのできる最高の級の値で撥水性能を測定する。
<級> IPA/水 (単位:体積%)
1 2 /98
2 5 /95
3 10 /90
4 20 /80
5 30 /70
6 40 /60
7 50 /50
8 60 /40
9 70 /30
10 80 /20
11 90 /10
12 100/ 0
又、AATCC-118は、所定の薬品と特殊鉱物油との混合液を、実施例1~5、比較例1、参考実施例1~3に対して、以下に示す1,2,3,・・・の級の順に、約3mmの大きさの液滴で静かにパイル2側(パイル面上、パイル布帛1の表面1a上)に数滴(5、6滴)置き、30秒後の状態を観察して、滴状態が2~3滴保つことのできる最高の級の値で撥油性能を測定する。
<級> 薬品 /特殊鉱物油(単位:体積%) 表面張力(単位:dyne/cm)
0 0/100 サラダ油(綿実油) 33.0
1 0/100 ヌジョール(流動パラフィン) 32.8
2 n-ヘキサデカン 35/65 ヌジョール(流動パラフィン) 29.5
3 n-ヘキサデカン 100/0 27.7
4 n-テトラデカン 100/0 26.5
5 n-ドデカン 100/0 25.4
6 n-デカン 100/0 23.9
7 n-オクタン 100/0 21.7
8 n-ヘプタン 100/0 20.0
このような湿潤汚れに対する防汚性は、IPA撥水試験法において、6級以上、好ましくは8級以上、更に好ましくは10級以上であっても良く、AATCC-118において、2級以上、好ましくは4級以上、更に好ましくは5級以上であっても構わない。
【0078】
<試験1(防汚性試験)>
試験1では、<乾燥汚れに対する防汚性>については、JIS-L-1919:2020のA-1法(密閉形円筒容器を用いる方法)の汚れにくさ試験で、上述した実施例1~5、比較例1、参考実施例1、2のパイル布帛に対して、何もしない初期状態と、摩耗試験機による摩耗1000回・1500回・2500回の処理を施した状態と、洗濯試験機による洗濯3回の処理を施した状態について、当該A-1法にて求めた級の値を比較する。
又、試験1では、<湿潤汚れに対する防汚性>については、IPA撥水試験法とAATCC-118で、上述した実施例1~5、比較例1、参考実施例1、2のパイル布帛に対して、何もしない初期状態について、当該IPA撥水試験法とAATCC-118にて求めた級の値を比較し、上述した実施例2、4、比較例1のパイル布帛に対して、洗濯試験機による洗濯3回の処理を施した状態について、当該IPA撥水試験法とAATCC-118にて求めた級の値を比較する。
ここで、試験1における摩耗試験機による摩耗とは、JIS-L-1096:2010のA法(ユニバーサル形法)のA-1法(平面法)に準じた摩耗試験機による摩耗であり、試験1における洗濯試験機による洗濯とは、JIS-L-0844:2011のA-2号試験に準じた洗濯試験機による洗濯である。
尚、本発明における「JIS-L-1096:2010のA法(ユニバーサル形法)のA-1法(平面法)に準じた摩耗試験機による摩耗」とは、JIS-L-1096:2010におけるA法(ユニバーサル形法)のA-1法(平面法)に記載された通りの摩耗試験機による摩耗を含む以外に、当該A-1法の記載を準用した(、又は、一部を変更した)摩耗試験機による摩耗も含み、「JIS-L-0844:2011のA-2号試験に準じた洗濯試験機による洗濯」とは、JIS-L-0844:2011のA-2号試験に記載された通りの洗濯試験機による選択を含む以外に、当該A-2号試験の記載を準用した(、又は、一部を変更した)洗濯試験機による洗濯も含む。
この試験1の測定結果を、以下の表2に示す。
【0079】
【0080】
<試験1(防汚性試験)の評価>
表2で示されたように、比較例1は、繊維表面Sa、Sa’に、バインダ樹脂B、ケイ素系微粒子K及びフッ素系撥水撥油剤Fの何れもが付着しておらず、当該繊維表面Sa、Sa’において、ケイ素露出部4と、フッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5の何れも有していないため、初期状態か、摩擦や洗濯の処理等を施したかを問わず、<乾燥汚れに対する防汚性>については、3級であると同時に、<湿潤汚れに対する防汚性>については、IPA撥水試験法とAATCC-118共に0級であり、乾燥・湿潤何れの汚れに対する防汚性も十分でない。
これに対して、実施例1~3、参考実施例1、2は、繊維表面Sa、Sa’に、バインダ樹脂B、ケイ素系微粒子K及びフッ素系撥水撥油剤Fが付着しており、当該繊維表面Sa、Sa’において、ケイ素露出部4と、フッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5を有していて、又、実施例4、5は、繊維表面Sa’に、バインダ樹脂B、ケイ素系微粒子K、難燃剤N及びフッ素系撥水撥油剤Fが付着しており、当該繊維表面Sa’において、ケイ素露出部4と、フッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5と、難燃露出部4’と、フッ素被覆部(フッ素による難燃被覆部)5’を有しているため、初期状態か、摩擦や洗濯の処理等を施したかを問わず、<乾燥汚れに対する防汚性>については、3.5級以上であると同時に、<湿潤汚れに対する防汚性>については、IPA撥水試験法が7級以上であり、AATCC-118が4級以上であることがわかる。
従って、本発明のように、パイル布帛1の繊維表面Sa、Sa’において、ケイ素露出部4や、フッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5を設けたり、更に、難燃露出部4’や、フッ素被覆部(フッ素による難燃被覆部)5’を設けることによって、「乾燥・湿潤両方の汚れに対する防汚性の向上」が実現する。
尚、試験1において、参考実施例1と実施例1~3を比較した場合、参考実施例1は、ケイ素系微粒子Kの付着量が0.8g/m2未満で、バインダ樹脂Bの付着量が0.3g/m2未満で、フッ素系撥水撥油剤Fの付着量が0.5g/m2未満であるため、<乾燥汚れに対する防汚性>が3.5級で、<湿潤汚れに対する防汚性>は、IPA撥水試験法が9級で、AATCC-118が4級でしかないが、実施例1~3は、ケイ素系微粒子Kの付着量が0.8g/m2以上で、バインダ樹脂Bの付着量が0.3g/m2以上で、フッ素系撥水撥油剤Fの付着量が0.5g/m2以上であるため、<乾燥汚れに対する防汚性>は4級以上で、<湿潤汚れに対する防汚性>は、IPA撥水試験法が10級で、AATCC-118が5級となっている。
従って、ケイ素系微粒子Kの付着量を0.8g/m2以上とし、バインダ樹脂Bの付着量を0.3g/m2以上とし、フッ素系撥水撥油剤Fの付着量を0.5g/m2以上とすることによって、更なる「乾燥・湿潤両方の汚れに対する防汚性の向上」が図れる。
【0081】
<試験2(難燃性・パイル抜け・風合いの試験)>
試験2では、<難燃性>については、鉄道車両用材料燃焼性試験(一般社団法人日本鉄道車両機械技術協会、国土交通省の車両の技術基準の解説書に記載)で、上述した実施例1~5、比較例1、参考実施例1~3のパイル布帛に対して、アルコール燃焼中の炎が試験片の上端を超えるか、アルコール燃焼後の残炎・残じんの有無、炭化・変形が試験片の上端に達するか(達しない場合、数値の単位:mm)、合否判定を比較する。
試験2では、<パイル抜け>については、上述した実施例1~5、比較例1、参考実施例1、2のパイル布帛に対して、摩耗試験機による摩耗5000回の処理を施した後に、パイル抜けの有無を比較する。ここで、試験2における摩耗試験機による摩耗も、JIS-L-1096:2010のA法(ユニバーサル形法)のA-1法(平面法)に準じた摩耗試験機による摩耗である。
試験2では、<風合い>については、上述した実施例1~5、比較例1、参考実施例1~3に対して、目視と触手で判定する。
この試験2の測定結果を、以下の表3に示す。
【0082】
【0083】
<試験2(難燃性・パイル抜け・風合いの試験)の評価>
<難燃性>については、表3で示されたように、参考実施例3は、パイル2及び基布3には非難燃性繊維S’が用いられ(つまり、パイル2に難燃性繊維Sが用いられておらず)、非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’に難燃剤Nが付着していないため、アルコール燃焼中の炎が試験片の上端を超え、アルコール燃焼後の残炎・残じんが有り、炭化・変形が試験片の上端に達し、不合格の合否判定となっている。
これに対して、<難燃性>については、実施例1~3、参考実施例1、2等は、パイル2には難燃性繊維Sが用いられ、繊維表面Sa、Sa’に難燃剤Nが付着しており、又、実施例4、5は、パイル2及び基布3には非難燃性繊維S’が用いられ(つまり、パイル2に難燃性繊維Sが用いられていない)ものの、非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’に難燃剤Nが付着しているため、アルコール燃焼中の炎が試験片の上端を超えず、アルコール燃焼後の残炎・残じんが無く、炭化・変形が試験片の上端に達せず、生じた炭化・変形も60mm以下であり、合格の合否判定となっている。
従って、本発明のように、パイル2には難燃性繊維Sが用いられたり、繊維表面Sa、Sa’に難燃剤Nを付着させることによって、パイル布帛に難燃性を持たせることが出来る。
<パイル抜け>については、表3で示されたように、実施例1~5、参考実施例1、2等は、基布3の基布裏面3bに難燃剤N等を含むバックコート部10を有しているため、摩耗試験機による摩耗5000回の処理を施しても、パイル抜けが無い。
従って、難燃剤N等を含むバックコート部10を有することによって、パイル2の基布3からの抜止めが図れると共に、パイル布帛1としての難燃性も向上する。
<風合い>については、表3で示されたように、参考実施例2は、ケイ素系微粒子Kの付着量が4.50g/m2を超えた4.95g/m2であり、バインダ樹脂Bの付着量が1.70g/m2を超えた1.88g/m2であり、フッ素系撥水撥油剤Fの付着量が2.90g/m2を超えた3.20g/m2であるため、繊維表面Sa、Sa’に対して、ケイ素系微粒子Kやバインダ樹脂B、フッ素系撥水撥油剤Fが過剰に付着されていることとなり、パイル布帛としての風合いが低下し、判定は「×」となっている。
これに対して、<風合い>については、実施例1~5、参考実施例1、3等は、ケイ素系微粒子Kの付着量が4.50g/m2以下であり、バインダ樹脂Bの付着量が1.70g/m2以下であり、フッ素系撥水撥油剤Fの付着量が2.90g/m2以下であるため、パイル布帛1としての風合いの低下を抑制でき、判定は「○」となっている。
従って、ケイ素系微粒子Kの付着量が4.50g/m2以下とし、バインダ樹脂Bの付着量を1.70g/m2以下とし、フッ素系撥水撥油剤Fの付着量を2.90g/m2以下とすることによって、パイル布帛の風合いを保持できる。
この試験2の<風合い>と、上述した試験1をふまえれば、ケイ素系微粒子Kの付着量を0.8g/m2以上4.5g/m2以下とし、バインダ樹脂Bの付着量を0.3g/m2以上1.7g/m2以下とし、フッ素系撥水撥油剤Fの付着量を0.5g/m2以上2.9g/m2以下とすることによって、更なる「乾燥・湿潤両方の汚れに対する防汚性の向上」と「パイル布帛の風合い保持」を両立できる。
【0084】
<その他>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。パイル布帛1や、パイル布帛1の製造方法等の各構成又は全体の構造、形状、寸法などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することが出来る。
パイル布帛1は、バックコート部10を有していなくとも良い。
又、パイル布帛1は、後述するフッ素直付部7を有していても良い。
【0085】
<フッ素直付部7>
図1~5に示したように、フッ素直付部7は、パイル布帛1が第1実施形態である場合には、上述した難燃性繊維S及び非難燃性繊維S’の繊維表面Sa、Sa’において、その繊維表面Sa、Sa’に直接付着したフッ素系撥水撥油剤Fが露出している部分であり、パイル布帛1が第2実施形態である場合には、上述した非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’において、その繊維表面Sa’に直接付着したフッ素系撥水撥油剤Fが露出している部分であり、謂わば、フッ素露出部であるとも言える。
尚、本発明における「繊維表面Sa、Sa’において、その繊維表面Sa、Sa’に付着したフッ素系撥水撥油剤Fが露出している」とは、難燃性繊維Sの繊維表面Saと、非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’のそれぞれに対して、フッ素系撥水撥油剤Fが直接付着していて、それらのフッ素系撥水撥油剤Fのフッ素表面が、上述したケイ素系微粒子K等に被覆されていないことを意味し、又、本発明における「繊維表面Sa’において、その繊維表面Sa’に直接付着したフッ素系撥水撥油剤Fが露出している」とは、非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’に対して、フッ素系撥水撥油剤Fが直接付着していて、そのフッ素系撥水撥油剤Fのフッ素表面が、上述したケイ素系微粒子K等に被覆されていないことを意味しており、ケイ素とフッ素の位置を重ね合わせた
図3~5(d)中であれば、フッ素のみが存在する位置(ケイ素と重なっていないフッ素の位置)を、黒点で表している。
又、パイル布帛1がフッ素直付部7を有する場合、本発明における「フッ素系撥水撥油剤Fの付着量」とは、繊維表面Sa、Sa’にバインダ樹脂Bを介して付着したケイ素系微粒子Kを被覆しているフッ素系撥水撥油剤Fの量だけでなく、繊維表面Sa、Sa’に直接付着したフッ素系撥水撥油剤Fの量も合わせた量を意味する。
更に、ケイ素系微粒子Kと維表面Sa、Sa’の間の付着は、何れの手段によって行われていても良いが、例えば、フッ素系撥水撥油剤Fの主鎖が、ケイ素系微粒子Kに絡みついて付着されていたり、ケイ素系微粒子Kとフッ素系撥水撥油剤Fの間を所定のバインダ樹脂を介して付着する等であっても構わない。
ここまで述べたフッ素直付部7も、パイル布帛1のパイル2と基布3に用いられた繊維S、S’の繊維表面Sa、Sa’において、点在していたり、海島状の島部分であっても良い(
図3~5(b)、(d)参照)。
【0086】
その他、パイル布帛1は、上述した難燃性繊維S及び非難燃性繊維S’の繊維表面Sa、Sa’において、その繊維表面Sa、Sa’に直接付着したフッ素系撥水撥油剤Fをケイ素系微粒子Kが被覆している部分(謂わば、ケイ素によるフッ素被覆部)を有していないと言え、又、上述したケイ素によるフッ素被覆部を有さない他、上述した非難燃性繊維S’の繊維表面Sa’において、その繊維表面Sa’に直接付着したフッ素系撥水撥油剤Fを、バインダ樹脂Bを介する等して付着した難燃剤Nが被覆している部分(謂わば、難燃剤によるフッ素被覆部)も有していないと言える。
これは、先に、フッ素系撥水撥油剤Fが繊維表面Sa、Sa’に直接付着しており、当該フッ素系撥水撥油剤Fを、ケイ素系微粒子Kや難燃剤N、バインダ樹脂B等が被覆しようとしても、当該フッ素系撥水撥油剤Fが撥水性能や撥油性能を発揮して、当該フッ素系撥水撥油剤Fを被覆することが出来ないためとも言える。よって、ケイ素とフッ素の位置を重ね合わせた
図3~5(d)中におけるグレーの点は、上述したフッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5のみを示すと言える。
【0087】
パイル布帛1は、所望により、酸化チタン、炭酸カルシウム等の体質顔料やフィラー(充填材)を任意に添加したり、消臭剤、抗菌剤、防カビ剤、難燃剤、撥水剤、防汚剤、着色剤、香料、発泡剤、分散剤等を添加した素材を用いても良い。
パイル布帛1は、その色彩についても、黒色系、茶色系、青色系、白色系、赤色系、橙色系、黄色系、緑色系、紫色系など何れの色調でも良く、彩度や明度についても何れの値でも構わない。パイル布帛1の模様についても、無地や、花や草木などの植物の柄、動物の柄、幾何学模様、表面凹凸等による模様など何れでも良い。
【0088】
パイル布帛1の製造方法は、バックコート工程P3を備えない第1、3実施形態において、バインダ樹脂B及びケイ素系微粒子Kの混合物や、バインダ樹脂B、ケイ素系微粒子K及び難燃剤Nの混合物と、フッ素系撥水撥油剤Fを分けて、パイル布帛に付与するのではなくても良く、例えば、ケイ素露出部4や難燃露出部4’、フッ素被覆部(フッ素によるケイ素被覆部)5、フッ素被覆部(フッ素による難燃被覆部)5’が設けられるのであれば、バインダ樹脂B及びケイ素系微粒子Kの混合物等と、フッ素系撥水撥油剤Fを同時に付与しても(謂わば、1段処理)であっても構わない。
本発明に係るパイル布帛、及び、本発明に係るパイル布帛の製造方法により製造されたパイル布帛は、鉄道車両や、自動車(乗用車)、航空機、船舶等の乗り物の内部(室内)における内装材(内壁材、天井材、床材など)や椅子を覆うことが出来、特に、鉄道車両であれば、座席や椅子等を覆うものや、その他の内装材(内壁材、天井材、床材)として利用可能である。
この他、本発明に係るパイル布帛、及び、本発明に係るパイル布帛の製造方法により製造されたパイル布帛は、上述した鉄道車両等の乗り物の内部だけでなく、家屋やビル等の建物の内部における壁材や天井材、床材等の内装材、椅子やベッド等の家具類、照明器具などを覆う際に利用可能である他、更には、産業資材用途、靴や衣料などの生活資材用途などに利用しても良い。