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特開2024-165360樹脂組成物、樹脂シート、プリプレグ、樹脂基板、積層基板
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  • 特開-樹脂組成物、樹脂シート、プリプレグ、樹脂基板、積層基板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165360
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂シート、プリプレグ、樹脂基板、積層基板
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241121BHJP
   C08K 3/105 20180101ALI20241121BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20241121BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20241121BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20241121BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/105
C08K3/38
C08L63/00 C
C08J5/24 CFC
H05K1/03 630H
H05K1/03 610R
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081502
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】石井 浩之
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】山下 正晃
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和彦
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB09
4F072AB28
4F072AD14
4F072AD28
4F072AD31
4F072AF03
4F072AF04
4F072AF05
4F072AG03
4F072AG17
4F072AG19
4F072AH02
4F072AH24
4F072AJ22
4F072AK14
4F072AL13
4J002CC021
4J002CC181
4J002CD001
4J002CD031
4J002CF211
4J002CM021
4J002CM041
4J002DE076
4J002DE077
4J002DE107
4J002DE147
4J002DE236
4J002DK008
4J002FD201
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD208
(57)【要約】
【課題】優れた成形性を有し、かつ熱伝導性およびドリル加工性の良好な硬化物が得られる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂と無機充填剤とを含有し、無機充填剤が、MgOとMgCOのいずれか一方または両方からなる平均粒子径(D50)16~45μmの大径無機粒子(A)と、一次粒子のアスペクト比が1~3である平均粒子径(D50)2~15μmの小径無機粒子(B)とを含み、熱硬化性樹脂に対する無機充填剤の割合が45~65Vol%であり、大径無機粒子(A)に対する小径無機粒子(B)の割合が体積比で1:0.1~1:0.67である樹脂組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と無機充填剤とを含有し、
前記無機充填剤が、MgOとMgCOのいずれか一方または両方からなる平均粒子径(D50)16~45μmの大径無機粒子(A)と、一次粒子のアスペクト比が1~3である平均粒子径(D50)2~15μmの小径無機粒子(B)とを含み、
前記熱硬化性樹脂に対する前記無機充填剤の割合が45~65Vol%であり、
前記大径無機粒子(A)に対する前記小径無機粒子(B)の割合が体積比で1:0.1~1:0.67であることを特徴とする、樹脂組成物。
【請求項2】
前記大径無機粒子(A)の平均粒子径(D50)が20~30μmであり、
前記小径無機粒子(B)の平均粒子径(D50)が4~10μmである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記大径無機粒子(A)に対する前記小径無機粒子(B)の割合が体積比で1:0.25~1:0.50である、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記小径無機粒子(B)が、Al、ZnAl、MgAl、ベーマイト、MgCOから選ばれるいずれか1種または2種以上からなる、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機充填剤が、一次粒子のアスペクト比が3超であるBNからなる粒子(C)を含み、
前記無機充填剤に対する前記BNからなる粒子(C)の割合が8~15Vol%である、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂が、メソゲン骨格を含む硬化物が得られるエポキシ樹脂である、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物が、シート状に成形されたものであることを特徴とする、樹脂シート。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物が、繊維状の基材に含侵されたものであることを特徴とする、プリプレグ。
【請求項9】
請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物の硬化物を含むことを特徴とする、樹脂基板。
【請求項10】
樹脂含有層と、樹脂含有層の表面に積層された金属箔とを有し、
前記樹脂含有層が請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物の硬化物を含むことを特徴とする、積層基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、これを用いた樹脂シート、プリプレグ、樹脂基板、積層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用部品などの高温環境下で使用される部品においても、各種の電子部品が広く用いられるようになってきている。このため、電子部品に用いられる樹脂基板の熱的特性に関して、研究および開発が盛んに行われている。具体的には、樹脂基板の熱伝導性を向上させて、樹脂基板の放熱性を高めるために、樹脂基板の材料として、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの無機粒子を含む樹脂組成物を用いることが提案されている。
【0003】
特許文献1には、織布または不織布基材に、無機充填剤を含有する熱硬化性樹脂組成物を含浸させて得られたプリプレグが記載されている。特許文献1には、無機充填剤として、ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子および酸化マグネシウムを用いることが記載されている。また、特許文献1には、プリプレグを積層して成形することにより得られた積層板の表面に、金属箔が張られてなる金属箔張積層板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-97158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の樹脂組成物は、優れた成形性を有し、かつ熱伝導性およびドリル加工性の良好な硬化物が得られるものではなかった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた成形性を有し、かつ熱伝導性およびドリル加工性の良好な硬化物が得られる樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の樹脂組成物がシート状に成形されてなる樹脂シート、本発明の樹脂組成物が繊維状の基材に含侵されたプリプレグを提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、本発明の樹脂組成物の硬化物を含み、ボイドおよびフローマークの形成が抑制された表面を有し、かつ熱伝導性およびドリル加工性の良好な樹脂基板を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、本発明の樹脂組成物の硬化物を含む樹脂含有層と、樹脂含有層の表面に積層された金属箔とを有し、樹脂含有層が、ボイドおよびフローマークの形成が抑制された表面を有し、金属箔との密着性に優れ、熱伝導性が良好なものであって、ドリル加工性の良好な積層基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と無機充填剤とを含有し、前記無機充填剤が、MgOとMgCOのいずれか一方または両方からなる平均粒子径(D50)16~45μmの大径無機粒子(A)と、一次粒子のアスペクト比が1~3である平均粒子径(D50)2~15μmの小径無機粒子(B)とを含み、前記熱硬化性樹脂に対する前記無機充填剤の割合が45~65Vol%であり、前記大径無機粒子(A)に対する前記小径無機粒子(B)の割合が体積比で1:0.1~1:0.67である、樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、MgOとMgCOのいずれか一方または両方からなる平均粒子径(D50)16~45μmの大径無機粒子(A)と、一次粒子のアスペクト比が1~3である平均粒子径(D50)2~15μmの小径無機粒子(B)とを、特定の割合で含有する無機充填剤を、熱硬化性樹脂に対して特定の割合で含有する。このため、本発明の樹脂組成物は、優れた成形性を有し、かつ熱伝導性およびドリル加工性の良好な硬化物が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の樹脂シートの一例を示した概略断面図である。
図2図2は、本発明のプリプレグの一例を示した概略断面図である。
図3図3は、本発明の樹脂基板の一例を示した概略断面図である。
図4図4は、本発明の樹脂基板の他の一例を示した概略断面図である。
図5図5は、本発明の積層基板の一例を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、以下に示すように、鋭意研究を重ねた。
一般に、樹脂含有層と、樹脂含有層の表面に積層された金属箔とを有する積層基板は、以下に示す方法を用いて製造される。まず、シート状とされた繊維状の基材に樹脂組成物を含侵させてプリプレグとする。次に、プリプレグ上に金属箔を積層して積層体とする。その後、積層体を加熱加圧して成形するとともに、プリプレグに含侵された樹脂組成物を硬化させる。
【0011】
しかしながら、従来の無機充填剤を含有する樹脂組成物を含侵させたプリプレグを用いて、上記の方法により、樹脂含有層と、樹脂含有層の表面に積層された金属箔とを有する積層基板の樹脂含有層を形成した場合、樹脂含有層の表面にボイドおよび/またはフローマークが生じたり、金属箔と樹脂含有層との密着性が十分に得られなかったりすることがあり、問題となっていた。
【0012】
これは、従来のプリプレグの成形性が不十分であるためである。より詳細には、プリプレグに含侵された無機充填剤を含有する樹脂組成物の、上記積層体を加熱加圧した際における流動性が不十分であることによるものである。したがって、上記の問題を解決するには、プリプレグの材料として使用する無機充填剤を含有する樹脂組成物として、加熱成形する際の流動性が良好なものを用いる必要がある。
【0013】
加熱成形する際の流動性が良好な樹脂組成物として、無機充填剤の含有量の少ない樹脂組成物を用いることが考えられる。しかしながら、樹脂組成物に含まれる無機充填剤の含有量を少なくすると、硬化物の熱伝導性が不十分となる。
【0014】
また、樹脂組成物の硬化物からなる樹脂含有層と、樹脂含有層の表面に積層された金属箔とを有する従来の積層基板は、ドリルを用いて穴あけ加工すると、少ない加工数で穴あけ加工による金属箔のバリの高さが高くなってしまう。このため、頻繁にドリルの刃を交換しなければならなかった。この不都合は、樹脂含有層を穴あけ加工することによって、ドリルの刃が容易に摩耗されて劣化することにより生じる。このことから、ドリルの刃が摩耗しにくいドリル加工性の良好な硬化物を形成できる樹脂組成物が要求されている。
【0015】
硬化物のドリル加工性を改善する方法として、モース硬度の低い材料からなる平均粒子径の大きい粒子を、樹脂組成物の無機充填剤として使用することが考えられる。しかし、無機充填剤として平均粒子径の大きい粒子を含む樹脂組成物は、加熱成形する際の流動性が十分に得られないため、成形性が不十分となる。
【0016】
そこで、本発明者らは、樹脂含有層と、樹脂含有層の表面に積層された金属箔とを有する積層基板の樹脂含有層の材料として使用できる樹脂組成物に含まれる無機充填剤に着目し、鋭意研究を重ねた。
その結果、MgOとMgCOのいずれか一方または両方からなる平均粒子径(D50)16~45μmの大径無機粒子(A)と、一次粒子のアスペクト比が1~3である平均粒子径(D50)2~15μmの小径無機粒子(B)とを、体積比((A):(B))で1:0.1~1:0.67の割合で含有する無機充填剤を、熱硬化性樹脂に対して45~65Vol%の割合で含有する樹脂組成物を用いればよいことを見出した。
【0017】
すなわち、上記の樹脂組成物は、熱硬化性樹脂に対する無機充填剤の割合が適正であって、無機充填剤が、熱伝導率が高く、モース硬度の低いMgOとMgCOのいずれか一方または両方からなる平均粒子径の大きい大径無機粒子(A)を十分に含む。このため、上記の樹脂組成物を硬化させることにより、良好な熱伝導性を有し、穴あけ加工してもドリルの刃が摩耗されにくいドリル加工性に優れる硬化物が得られる。
【0018】
しかも、この樹脂組成物は、無機充填剤として、一次粒子のアスペクト比および平均粒子径の小さい小径無機粒子(B)を十分に含む。このため、熱硬化性樹脂に対する無機充填剤の割合が適正であって、無機充填剤が平均粒子径の大きい大径無機粒子(A)を含むものであっても、加熱成形する際に十分な流動性が得られ、成形性に優れる。
【0019】
さらに、本発明者らは、この樹脂組成物を繊維状の基材に含侵させたプリプレグ上に、金属箔を積層して加熱加圧する方法により、樹脂含有層と、樹脂含有層の表面に積層された金属箔とを有する積層基板を製造し、樹脂含有層が、ボイドおよびフローマークの形成が抑制された表面を有し、金属箔との密着性に優れること、ドリルを用いて穴あけ加工した際に生じる金属箔のバリが抑制されることを確認するとともに、この樹脂組成物の硬化物の熱伝導性が良好であることを確認し、本発明を想到した。
【0020】
本発明は以下の態様を含む。
[1] 熱硬化性樹脂と無機充填剤とを含有し、
前記無機充填剤が、MgOとMgCOのいずれか一方または両方からなる平均粒子径(D50)16~45μmの大径無機粒子(A)と、一次粒子のアスペクト比が1~3である平均粒子径(D50)2~15μmの小径無機粒子(B)とを含み、
前記熱硬化性樹脂に対する前記無機充填剤の割合が45~65Vol%であり、
前記大径無機粒子(A)に対する前記小径無機粒子(B)の割合が体積比で1:0.1~1:0.67であることを特徴とする、樹脂組成物。
【0021】
[2] 前記大径無機粒子(A)の平均粒子径(D50)が20~30μmであり、
前記小径無機粒子(B)の平均粒子径(D50)が4~10μmである、[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記大径無機粒子(A)に対する前記小径無機粒子(B)の割合が体積比で1:0.25~1:0.50である、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
【0022】
[4] 前記小径無機粒子(B)が、Al、ZnAl、MgAl、ベーマイト、MgCOから選ばれるいずれか1種または2種以上からなる、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] 前記無機充填剤が、一次粒子のアスペクト比が3超であるBNからなる粒子(C)を含み、
前記無機充填剤に対する前記BNからなる粒子(C)の割合が8~15Vol%である、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0023】
[6] 前記熱硬化性樹脂が、メソゲン骨格を含む硬化物が得られるエポキシ樹脂である[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0024】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物が、シート状に成形されたものであることを特徴とする、樹脂シート。
[8] [1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物が、繊維状の基材に含侵されたものであることを特徴とする、プリプレグ。
【0025】
[9] [1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物を含むことを特徴とする、樹脂基板。
[10] 樹脂含有層と、樹脂含有層の表面に積層された金属箔とを有し、
前記樹脂含有層が[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物を含むことを特徴とする、積層基板。
【0026】
以下、本発明の樹脂組成物、樹脂シート、プリプレグ、樹脂基板、積層基板について、詳細に説明する。
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と無機充填剤とを含有する。
(無機充填剤)
本実施形態の樹脂組成物に含まれる無機充填剤は、大径無機粒子(A)と小径無機粒子(B)とを含む。
【0027】
大径無機粒子(A)は、MgOとMgCOのいずれか一方または両方からなる平均粒子径(D50)16~45μmのものである。大径無機粒子(A)は、1種の粒子のみからなるものであってもよいし、材料および/または平均粒子径(D50)の異なる複数種の粒子を含むものであってもよい。
【0028】
大径無機粒子(A)の材料として使用されるMgOおよびMgCOは、熱伝導率が高い。また、MgO(モース硬度6)およびMgCO(モース硬度3.5)はモース硬度が低い材料である。しかも、大径無機粒子(A)は、平均粒子径(D50)が16μm以上である平均粒子径の十分に大きい粒子である。このため、大径無機粒子(A)は、樹脂組成物の硬化物の熱伝導性およびドリル加工性を効果的に向上させる。樹脂組成物の硬化物が、より一層の熱伝導性およびドリル加工性の良好なものとなるため、大径無機粒子(A)の平均粒子径(D50)は、20μm以上であることが好ましい。
【0029】
これに対し、大径無機粒子(A)が、MgOとMgCOのいずれか一方または両方からなるものではなく、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ;モース硬度9)、窒化珪素(モース硬度8)などのモース硬度が8以上であるモース硬度の高い材料からなるものである場合、ドリル加工性が十分に得られない。
【0030】
また、大径無機粒子(A)の平均粒子径(D50)が45μm以下であるため、十分な流動性を有し、成形性に優れる樹脂組成物となる。大径無機粒子(A)の平均粒子径(D50)は、より良好な流動性を有する樹脂組成物となるため、30μm以下であることが好ましい。
【0031】
小径無機粒子(B)は、一次粒子のアスペクト比が1~3である平均粒子径(D50)2~15μmのものである。小径無機粒子(B)は、1種の粒子のみからなるものであってもよいし、材料、一次粒子のアスペクト比、平均粒子径(D50)のうち、いずれか一種または2種以上が異なる複数種の粒子を含むものであってもよい。
【0032】
小径無機粒子(B)は、一次粒子のアスペクト比が1~3である平均粒子径(D50)15μm以下のものである。すなわち、小径無機粒子(B)は、一次粒子のアスペクト比が小さく、大径無機粒子(A)と比較して平均粒子径の小さいものである。このため、流動性が良好で、成形性に優れる樹脂組成物となる。しかも、小径無機粒子(B)は、平均粒子径(D50)が2μm以上であるため、小径無機粒子(B)の比表面積が大きすぎることにより、流動性に支障を来すことがない。小径無機粒子(B)の平均粒子径(D50)は、樹脂組成物の流動性がより一層良好なものとなるため、4~10μmであることが好ましい。
【0033】
また、小径無機粒子(B)の一次粒子のアスペクト比が3以下であるため、十分な流動性を確保することができ、優れた成形性を有する樹脂組成物となる。小径無機粒子(B)の一次粒子のアスペクト比は、2.2以下であることが好ましく、より良好な流動性を有する樹脂組成物となるため、1に近いほど好ましい。
【0034】
小径無機粒子(B)の材料は、大径無機粒子(A)と同じであってもよいし、異なっていてもよい。小径無機粒子(B)は、平均粒子径(D50)が15μm以下である平均粒子径の小さいものである。このため、小径無機粒子(B)が、モース硬度の高い材料からなるものであっても、ドリル加工性の良好な硬化物の得られる樹脂組成物となる。
【0035】
小径無機粒子(B)は、Al、ZnAl、MgAl、ベーマイト、MgCOから選ばれるいずれか1種または2種以上からなることが好ましい。これらの材料からなる粒子は、熱伝導率が高いため、より一層放熱性の良好な硬化物を形成できる樹脂組成物となるためである。
【0036】
無機充填剤に含まれる大径無機粒子(A)に対する小径無機粒子(B)の割合((A):(B))は、体積比で1:0.1~1:0.67である。このため、大径無機粒子(A)と小径無機粒子(B)とを含むことによる相乗効果が十分に得られる。上記の割合((A):(B))は、体積比で1:0.25~1:0.50であることが好ましい。大径無機粒子(A)と小径無機粒子(B)とを含むことによる相乗効果が、より一層顕著となるためである。
【0037】
本実施形態の樹脂組成物に含まれる無機充填剤は、必要に応じて、大径無機粒子(A)と小径無機粒子(B)の他に、一次粒子のアスペクト比が3超であるBNからなる粒子(C)を含んでいてもよい。具体的には、例えば、一次粒子のアスペクト比が3超であるBNからなる粒子(C)として、一次粒子のアスペクト比が3.1~10.0であって、平均粒子径(D50)が5μm~50μmであるものを用いることができる。無機充填剤が、上記のBNからなる粒子(C)を含む場合、BNの熱伝導率が高く、平均粒子径(D50)が適正なものであるため、成形性に支障を来すことなく、より一層熱伝導性の高い硬化物を形成できる樹脂組成物となる。
【0038】
無機充填剤がBNからなる粒子(C)を含む場合、無機充填剤に対するBNからなる粒子(C)の割合は8~15Vol%であることが好ましく、9~13Vol%であることがより好ましい。上記のBNからなる粒子(C)の割合が8Vol%以上であると、上記のBNからなる粒子(C)を含むことによる樹脂組成物の硬化物の熱伝導性を高くする効果が顕著となる。上記のBNからなる粒子(C)の割合が15Vol%以下であると、無機充填剤中に含まれる大径無機粒子(A)および小径無機粒子(B)の含有量を十分に確保でき、大径無機粒子(A)と小径無機粒子(B)とを含むことによる相乗効果が得られやすく、好ましい。
【0039】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、トリアジン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、及びこれら樹脂の変性樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1種のみ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0040】
熱硬化性樹脂としては、耐熱性の良好な硬化物が得られるため、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及びトリアジン樹脂から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの中でも特に、樹脂組成物を金属箔に接して硬化させることにより、金属箔との密着性に優れる硬化物を形成できるため、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂は、1種のみ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
エポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基(-CO)を含むプレポリマーである主剤(エポキシ樹脂)と、主剤の有するエポキシ基と反応する硬化剤とを含み、加熱することにより主剤と硬化剤とが反応して熱硬化するものを用いる。
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合、樹脂組成物に含まれる主剤は、硬化剤などと反応していないプレポリマーの状態で存在していてもよいし、主剤の有するエポキシ基が硬化剤などと反応することにより部分的に架橋した状態で存在していてもよい。
【0042】
エポキシ樹脂としては、メソゲン骨格を含む硬化物が得られるものであることが好ましい。メソゲン骨格を含む硬化物は、隣接する分子同士において、メソゲン骨格に由来するベンゼン環同士が重なった状態で配置されたものとなりやすく、隣接するベンゼン環との距離が小さいものとなる。これにより、硬化物中における分子の格子振動が散乱しにくく、熱伝導率の高いものとなるためである。
【0043】
「メソゲン骨格」とは、2つ以上のベンゼン環を含み、剛直性および配向性を有する原子団の総称である。具体的には、メソゲン骨格は、例えば、2つ以上のベンゼン環を含み、ベンゼン環同士が単結合および非単結合のうちのいずれかを介して結合された骨格である。メソゲン骨格は、ベンゼン環同士の結合の種類として、単結合だけを含んでいてもよいし、非単結合だけを含んでいてもよいし、単結合および非単結合の双方を含んでいてもよい。非単結合の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。メソゲン骨格が、3つ以上のベンゼン環が結合される場合、その結合の方向性は、特に限定されない。すなわち、3つ以上のベンゼン環は、直線状となるように結合されていてもよいし、途中で折れ曲がるように結合されていてもよいし、2つ以上の方向に分岐するように結合されていてもよい。
【0044】
「非単結合」とは、1または2以上の構成元素を含むとともに、1または2以上の多重結合を含む2価の基の総称である。具体的には、非単結合は、例えば、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)および水素(H)などの構成元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。また、非単結合は、多重結合として、二重結合および三重結合のうちの一方または双方を含んでいる。
【0045】
メソゲン骨格の具体例としては、ビフェニルおよびターフェニルなどが挙げられる。ターフェニルは、o-ターフェニルでもよいし、m-ターフェニルでもよいし、p-ターフェニルでもよい。
メソゲン骨格を含む硬化物が得られるエポキシ樹脂において、硬化物の有するメソゲン骨格は、エポキシ樹脂の主剤に由来するものであってもよいし、硬化剤に由来するものであってもよい。
【0046】
「主剤」
主剤としてのエポキシ樹脂は、分子中に1つ以上のエポキシ基(-CO)を含む化合物である。主剤としてのエポキシ樹脂の種類は、特に限定されないが、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂および長鎖脂肪族型エポキシ樹脂などが挙げられる。主剤としてのエポキシ樹脂は、例えば、難燃性エポキシ樹脂、ヒダントイン系エポキシ樹脂およびイソシアヌレート系エポキシ樹脂などであってもよい。
【0047】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂などが挙げられる。
ノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびフェノールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0048】
これらの中でも、主剤としてのエポキシ樹脂は、分子中にメソゲン骨格を有する化合物であることが好ましい。樹脂組成物を硬化させることにより、メソゲン骨格を含む硬化物が得られるためである。
【0049】
主剤としてのエポキシ樹脂としては、市販されているものを用いてもよい。具体的には、例えば、三菱ケミカル株式会社製YX-4000HK(ビフェニルエポキシ)、新日鉄住金化学株式会社製YH434L(四官能ポリグリシジルアミン、エポキシ当量122g/eq)、三菱化学株式会社製YL-6121H(テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂50%、4,4’-ビフェノール型エポキシ50%混合物、エポキシ当量175g/eq)、日本化薬株式会社製BREN105(臭素化多官能エポキシ樹脂、エポキシ当量271g/eq)、DIC株式会社製830-S(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量173g/eq)、新日鉄住金化学株式会社製FX289Z(リン変性エポキシ樹脂、エポキシ当量225g/eq)などが挙げられる。
【0050】
「硬化剤」
硬化剤としては、主剤の有するエポキシ基と反応する基を有する化合物を、1種または2種以上用いることができる。具体的には、硬化剤として、例えば、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、及びメルカプタン系硬化剤等の重付加型硬化剤、イミダゾール等の触媒型硬化剤等を用いることができる。これらの硬化剤の中でも、耐熱性の良好な硬化物が得られる観点から、アミン系硬化剤及びフェノール系硬化剤から選ばれる少なくとも1種類を用いることが好ましく、樹脂組成物の保存安定性の観点から、フェノール系硬化剤を用いることがより好ましい。硬化剤として、分子中にメソゲン骨格を有する化合物を用いてもよい。
【0051】
酸無水物系硬化剤としては、通常用いられるものを特に制限なく用いることができ、市販されているものを用いてもよい。酸無水物系硬化剤としては、例えば、3-メチル1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、4-メチル1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0052】
アミン系硬化剤としては、通常用いられるものを特に制限なく用いることができ、市販されているものを用いてもよい。アミン系硬化剤としては、硬化性の観点から、2以上の官能基を有する多官能硬化剤を用いることが好ましく、熱伝導性の良好な硬化物が得られる観点から、剛直な骨格を有する多官能硬化剤を用いることがより好ましい。
【0053】
2官能のアミン系硬化剤としては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメトキシビフェニル、4,4’-ジアミノフェニルベンゾエート、1,5-ジアミノナフタレン、1,3-ジアミノナフタレン、1,4-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン等が挙げられる。これらの中でも、熱伝導率の良好な硬化物が得られる観点から、硬化剤として、4,4’-ジアミノジフェニルメタン及び1,5-ジアミノナフタレンから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、1,5-ジアミノナフタレンを用いることがより好ましい。
【0054】
フェノール系硬化剤としては、通常用いられるものを特に制限なく用いることができ、市販されているものを用いてもよい。フェノール系硬化剤としては、低分子フェノール化合物を用いてもよいし、低分子フェノール化合物をノボラック化したフェノール樹脂を用いてもよい。
【0055】
低分子フェノール化合物としては、例えば、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等の単官能のもの、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン等の2官能のもの、さらに、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、1,3,5-トリヒドロキシベンゼン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン等の3官能のものなどを使用できる。また、これら低分子フェノール化合物をメチレン鎖等で連結してノボラック化した、フェノールノボラック樹脂を硬化剤として用いてもよい。
【0056】
フェノール系硬化剤としては、熱伝導性、耐熱性、溶剤溶解性の良好な硬化物が得られるため、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼンまたはビフェニレン骨格を含むフェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0057】
樹脂組成物に含まれる硬化剤の含有量は、主剤および硬化剤の種類などに応じて適宜決定でき、特に制限されない。
例えば、硬化剤としてアミン系硬化剤を含む場合、アミン系硬化剤の活性水素の当量(アミン当量)と、主剤としてのエポキシ樹脂のエポキシ当量との比(アミン当量/エポキシ当量)が0.5~2となることが好ましく、0.8~1.2となることがより好ましい。
【0058】
また、硬化剤としてフェノール系硬化剤を含む場合、フェノール性水酸基の活性水素の当量(フェノール性水酸基当量)と、主剤としてのエポキシ樹脂のエポキシ当量との比(フェノール性水酸基当量/エポキシ当量)が0.5~2となることが好ましく、0.8~1.2となることがより好ましい。
【0059】
「硬化促進剤」
硬化剤としてフェノール系硬化剤を用いる場合、必要に応じて硬化促進剤を併用してもよい。硬化促進剤の種類は特に限定されるものではなく、硬化反応の速度および反応温度、樹脂組成物の保管性などの観点から、適切なものを適宜選択できる。
硬化促進剤としては、具体的には、イミダゾール系化合物、有機リン系化合物、第3級アミン、及び第4級アンモニウム塩などが挙げられる。硬化促進剤は、1種のみ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0060】
樹脂組成物が硬化促進剤を含む場合、樹脂組成物中の硬化促進剤の含有量は、硬化促進剤の種類などに応じて適宜決定でき、特に制限されない。樹脂組成物中の硬化促進剤の含有量は、成形性の観点から、例えば、主剤と硬化剤の合計質量の0.5質量%~1.5質量%であることが好ましく、0.5質量%~1質量%であることがより好ましく、0.75質量%~1質量%であることがさらに好ましい。
【0061】
本実施形態の樹脂組成物において、熱硬化性樹脂に対する無機充填剤の割合は、45~65Vol%である。例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合、樹脂組成物中に含まれる熱硬化性樹脂の体積には、主剤および硬化剤の体積のみが含まれ、必要に応じて使用される硬化促進剤の体積は含まれない。
【0062】
本実施形態の樹脂組成物では、熱硬化性樹脂に対する無機充填剤の割合が45Vol%以上であるので、樹脂組成物の硬化物が、熱伝導性の良好なものとなる。熱硬化性樹脂に対する無機充填剤の割合は、樹脂組成物の硬化物が、より一層熱伝導性の良好なものとなるため、50Vol%以上であることが好ましい。また、熱硬化性樹脂に対する無機充填剤の割合が65Vol%以下であるので、十分な流動性を有し、成形性に優れる樹脂組成物となる。熱硬化性樹脂に対する無機充填剤の割合は、より良好な流動性を有する樹脂組成物となるため、60Vol%以下であることが好ましい。
【0063】
(その他の成分)
本実施形態の樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と無機充填剤の他に、必要に応じて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、エラストマー、分散剤、有機溶剤等が挙げられる。
【0064】
シランカップリング剤は、無機充填剤の表面とその周りを取り囲む熱硬化性樹脂との間で共有結合を形成する役割(バインダ剤に相当)を果たし、硬化物中の熱を効率良く伝達する。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、市販のものを使用してもよい。シランカップリング剤は、1種単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。具体的には、シランカップリング剤として、末端に、アミノ基、メルカプト基、ウレイド基、又は水酸基を有するものを用いることが好ましい。これらのシランカップリング剤は、熱硬化性樹脂との相溶性が良好であり、しかも、熱硬化性樹脂と無機充填剤との界面での熱伝導欠損を低減できるためである。なお、シランカップリング剤が硬化剤としても機能する場合には、本実施形態における硬化剤に含まれる。
【0065】
エラストマーとしては、例えば、アクリル樹脂を用いることができる。具体的には、エラストマーとして、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルから誘導されるホモポリマーまたはコポリマーを用いることができる。
【0066】
分散剤としては、味の素ファインテック株式会社製アジスパーシリーズ、楠本化成株式会社製HIPLAADシリーズ、株式会社花王製ホモゲノールシリーズ等を用いることができる。分散剤は1種単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0067】
有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、アミド系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ニトリル系溶剤等が挙げられる。具体的には、例えば、ジオキソラン、メチルイソブチルケトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、スルホラン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等を用いることができる。有機溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0068】
「製造方法」
本実施形態の樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、無機充填剤と、必要に応じて含有されるその他の成分とを、公知の方法により混合する方法により製造できる。
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合、以下に示す方法により製造できる。まず、熱硬化性樹脂に含まれる成分として、主剤と、硬化剤と、必要に応じて用いられる硬化促進剤とを用意する。その後、熱硬化性樹脂に含まれる各成分と、無機充填剤と、必要に応じて含有されるその他の成分とを、公知の方法により混合する。これらの各成分を混合する順番は特に限定されるものではなく、例えば、熱硬化性樹脂に含まれる硬化剤以外の全ての成分を混合して混合物とし、得られた混合物に硬化剤を添加して混合する方法により樹脂組成物を製造してもよい。この方法を用いる場合、例えば、熱硬化性樹脂に含まれる硬化剤以外の全ての成分を含む混合物と、硬化剤とを別々に保管しておき、樹脂組成物を使用する直前に、上記混合物と硬化剤とを混合してもよい。
【0069】
本実施形態の樹脂組成物は、MgOとMgCOのいずれか一方または両方からなる平均粒子径(D50)16~45μmの大径無機粒子(A)と、一次粒子のアスペクト比が1~3である平均粒子径(D50)2~15μmの小径無機粒子(B)とを、特定の割合で含有する無機充填剤を、熱硬化性樹脂に対して特定の割合で含有する。このため、本実施形態の樹脂組成物は、優れた成形性を有し、かつ熱伝導性およびドリル加工性の良好な硬化物が得られるものである。よって、本実施形態の樹脂組成物は、樹脂シート、プリプレグ、樹脂基板、積層基板の樹脂含有層の材料として好適である。
【0070】
以下、本実施形態の樹脂シート、プリプレグ、樹脂基板、積層基板について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。したがって、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。
【0071】
[樹脂シート]
図1は、本発明の樹脂シートの一例を示した概略断面図である。図1に示す樹脂シート10は、上述した本実施形態の樹脂組成物が、シート状に成形されたものである。樹脂シート10を形成している樹脂組成物は、半硬化状態(Bステージ状態)とされていてもよい。
【0072】
図1に示す樹脂シート10は、公知の方法を用いて製造できる。
例えば、本実施形態の樹脂シート10は、本実施形態の樹脂組成物を剥離可能な基材上に塗布して乾燥させ、必要に応じて半硬化させた後、基材から剥離する方法により形成できる。
樹脂組成物を塗布する方法、塗布した樹脂組成物を乾燥させる方法、および半硬化させる方法としては、公知の方法を用いることができ、樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂の種類、樹脂シート10の厚みなどに応じて適宜決定できる。
【0073】
図1に示す樹脂シート10は、上述した本実施形態の樹脂組成物が、シート状に成形されたものである。このため、本実施形態の樹脂シート10は、優れた成形性を有し、かつ熱伝導性およびドリル加工性の良好な硬化物が得られるものである。
【0074】
[プリプレグ]
図2は、本発明のプリプレグの一例を示した概略断面図である。図2に示すプリプレグ20は、上述した本実施形態の樹脂組成物が、繊維状の基材30に含侵されたものである。プリプレグ20に含まれる樹脂組成物は、半硬化状態(Bステージ状態)とされていてもよい。
繊維状の基材30としては、公知のものを用いることができる。例えば、繊維状の基材30として、図2に示すように、ガラス繊維、炭素繊維などからなる縦糸31と横糸32とを編み込んだ織布、シート状とされたガラス繊維、炭素繊維からなる不織布などを用いることができる。
【0075】
図2に示すプリプレグ20は、公知の方法を用いて製造できる。
例えば、本実施形態のプリプレグ20は、本実施形態の樹脂組成物を、公知の方法により繊維状の基材30に含侵させて乾燥させ、必要に応じて樹脂組成物を半硬化させる方法により形成できる。
【0076】
図2に示すプリプレグ20は、上述した本実施形態の樹脂組成物が、繊維状の基材30に含侵されたものである。このため、本実施形態のプリプレグ20は、優れた成形性を有し、かつ熱伝導性およびドリル加工性の良好な硬化物が得られるものである。
【0077】
[樹脂基板]
本実施形態の樹脂基板は、上述した本実施形態の樹脂組成物の硬化物を含む。
本実施形態の樹脂基板は、例えば、図1に示す樹脂シート10または図2に示すプリプレグ20を硬化させた硬化物であってもよい。また、本実施形態の樹脂基板は、図3に示すように、図1に示す樹脂シート10を複数枚(図3では5枚)積層して積層体40とし、これを加熱加圧して成形されたものであってもよいし、図4に示すように、図2に示すプリプレグ20を複数枚(図4では5枚)積層して積層体50とし、これを加熱加圧して成形されたものであってもよい。
【0078】
本実施形態の樹脂基板は、例えば、図1に示す樹脂シート10または図2に示すプリプレグ20を、公知の方法により加熱加圧して成形するとともに、樹脂組成物を硬化させる方法により製造できる。本実施形態の樹脂基板は、図1に示す樹脂シート10および/または図2に示すプリプレグ20を複数枚積層して積層体とし、これを加熱加圧して成形するとともに、樹脂組成物を硬化させる方法により製造してもよい。この場合、積層する樹脂シート10および/またはプリプレグ20の枚数は、特に限定されるものではない。
樹脂組成物を硬化させる方法は、樹脂組成物に含まれる未硬化または半硬化状態の熱硬化性樹脂を硬化させることができる条件であればよく、樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂の種類、樹脂基板の厚みなどに応じて適宜決定できる。
【0079】
本実施形態の樹脂基板は、本実施形態の樹脂組成物の硬化物を含む。このため、本実施形態の樹脂基板は、ボイドおよびフローマークの形成が抑制された表面を有し、かつ熱伝導性およびドリル加工性が良好である。
【0080】
[積層基板]
図5は、本発明の積層基板の一例を示した概略断面図である。図5に示す積層基板70は、樹脂含有層60と、樹脂含有層60の表面に積層された金属箔61とを有する。本実施形態の積層基板70は、樹脂含有層60が、上述した本実施形態の樹脂組成物の硬化物を含む。
【0081】
図5に示す積層基板70を形成している金属箔61としては、例えば、金箔、銅箔、アルミニウム箔などを用いることができる。これらの金属箔61の中でも、熱伝導率が高く、放熱性の良好な積層基板となるため、銅箔を用いることが好ましい。また、金属箔61として、ニッケル、ニッケル-リン合金、ニッケル-スズ合金、ニッケル-鉄合金、鉛、鉛-スズ合金等からなる金属箔を中間層とし、この両表面に銅箔からなる層を設けた3層構造の複合箔を用いてもよいし、アルミニウム箔と銅箔とからなる2層構造の複合箔を用いてもよい。
【0082】
金属箔61としては、樹脂含有層60との対向面が表面処理されたものを用いてもよい。金属箔61の表面処理方法としては、従来の公知の方法を用いることができる。樹脂含有層60との対向面が表面処理された金属箔61を用いることにより、より一層、樹脂含有層60との密着性が良好な積層基板70となる。
金属箔61の厚みは、例えば、1μm~200μmとすることができ、金属箔61の材料および積層基板70の用途に応じて適宜選択できる。
【0083】
図5に示す積層基板70は、例えば、図1に示す樹脂シート10または図2に示すプリプレグ20の上に金属箔61を積層し、これを公知の方法により加熱加圧して成形するとともに、樹脂組成物を硬化させる方法により製造できる。図5に示す積層基板70は、図1に示す樹脂シート10および/または図2に示すプリプレグ20を複数枚積層して積層体とし、積層体上に金属箔61を積層してから加熱加圧することにより、成形するとともに樹脂組成物を硬化させる方法により製造してもよい。
【0084】
図5に示す積層基板70は、上述した本実施形態の樹脂組成物の硬化物を含む樹脂含有層60と、樹脂含有層60の表面に積層された金属箔61とを有する。このため、本実施形態の積層基板70は、ボイドおよびフローマークの形成が抑制された表面を有し、金属箔61との密着性に優れ、熱伝導性が良好な樹脂含有層60を有する。また、本実施形態の積層基板70は、ドリル加工性が良好であるため、ドリルを用いて穴あけ加工した際に生じる金属箔61のバリを抑制でき、ドリルの刃を頻繁に交換する必要がない。
【0085】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例0086】
「実施例1~24、比較例1~10」
表1に示す主剤と、硬化剤とを用意し、主剤であるエポキシ樹脂のエポキシ当量と、硬化剤中のフェノール性水酸基の活性水素の当量(フェノール性水酸基当量)との比(フェノール性水酸基当量/エポキシ当量)が1となるように混合して熱硬化性樹脂とし、有機溶剤であるジオキソランを、熱硬化性樹脂と無機充填剤との合計質量に対して15質量%添加して熱硬化性樹脂溶液を得た。
【0087】
表1中の「エポキシ樹脂A」「エポキシ樹脂B」「フェノール樹脂(ビフェニレン)」「3官能性フェノール樹脂」は、それぞれ以下に示す化合物である。
「エポキシ樹脂A」商品名:YX-4000HK(ビフェニルエポキシ)三菱ケミカル株式会社製
「エポキシ樹脂B」商品名:YH434L(4官能ポリグリシジルアミン、エポキシ当量122g/e)新日鉄住金化学株式会社製
「フェノール樹脂(ビフェニレン)」ビフェニレン骨格を含むフェノール樹脂、商品名:MEHC-7851シリーズ、明和化成社製
「3官能性フェノール樹脂」1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン
【0088】
【表1】
【0089】
表2に示す材料および平均粒子径(D50)からなる大径無機粒子(A)と、表2に示す材料、一次粒子のアスペクト比および平均粒子径(D50)からなる小径無機粒子(B)と、一次粒子のアスペクト比が5.0であり、平均粒子径(D50)が8μm、BET比表面積が3.5m/gであるBNからなる粒子(C)とを用意した。そして、表2に示す大径無機粒子(A)に対する小径無機粒子(B)の割合(A/B)およびBNからなる粒子(C)含有量(無機充填剤(A+B+C)中のCの含有量)となるように、大径無機粒子(A)と小径無機粒子(B)とBNからなる粒子(C)とを混合し、無機充填剤とした。
【0090】
その後、表2に示す無機充填剤含有量(熱硬化性樹脂に対する無機充填剤の割合)となるように、ボールミルを用いて熱硬化性樹脂溶液と無機充填剤とを混合した。以上の工程により、実施例1~24、比較例1~10の樹脂組成物を得た。
【0091】
【表2】
【0092】
(熱伝導率の測定)
このようにして得られた実施例1~24、比較例1~10の樹脂組成物の硬化物について、それぞれ以下に示す方法により、熱伝導性を調べた。
厚さ0.1mmのシート状とされたガラス繊維からなる基材に、樹脂組成物を含浸させて、100℃で15分間乾燥させることにより、厚さ0.1mmのプリプレグを作製した。得られたプリプレグを6枚重ねて積層体とし、温度200℃、圧力5MPaで60分間加熱加圧して、樹脂組成物を硬化させ、厚さ0.6mm樹脂基板を得た。得られた樹脂基板から直径10mmの円盤状の試験体を採取した。
【0093】
試験体の熱拡散係数α[m/s]を、熱拡散率測定装置(アルバック理工株式会社製)を用いてレーザーフラッシュ法により測定した。また、試験体の比熱Cp[J/(kg・K)]を、サファイアを標準サンプルとして示差熱分析(DSC)にて測定した。また、試験体の密度r(kg/m)を、アルキメデス法を用いて測定した。
そして、試験体の熱拡散係数αと比熱Cpと密度rとを乗じることにより、試験体の熱伝導率を算出した。その結果を表3に示す。
試験体の熱伝導率については、2.0W/m・K以上であるものを良好であると評価した。
【0094】
(ドリル加工性の評価)
実施例1~24、比較例1~10の樹脂組成物を用いて、それぞれ以下に示す方法により、積層基板を作成し、ドリル加工性を調べた。
厚み105μmの銅箔上に、熱伝導率の測定を行う際と同様にして作成したプリプレグを4枚重ね、その上に厚み70μmの銅箔を設置し、温度200℃、圧力5MPaで60分間加熱加圧して、樹脂組成物を硬化させ、厚さ0.9mm~1.0mmの積層基板を得た。
【0095】
得られた積層基板について、厚み105μmの銅箔側から、穴あけ加工機(商品名;ND-1V211、株式会社日立製作所製)を用いて、直径0.5mmの500個の穴を下記の条件で形成した。穴を形成する際に使用したドリルの刃は超硬ドリル(商品名;UC30MBW0.5x5:ユニオンツール社製)であり、切込量は9.9mm、ドリルの回転数は70,000rpm、切込速度は1.955m/minとした。
【0096】
積層基板に形成した500個の穴のうち、1個目、100個目、500個目に形成した各穴について、穴の断面をマイクロスコープにて観察し、厚み70μmの銅箔のバリ高さを測定した。その平均値を算出し、以下の基準により評価した。その結果を表3に示す。
(評価基準)
◎:5μm以下
○:5μm超、10μm以下
×:10μm超
【0097】
(成形性の評価)
実施例1~24、比較例1~10の樹脂組成物を用いて、それぞれドリル加工性の評価を行う際と同様にして積層基板を作成し、以下に示す方法により、成形性を調べた。
積層基板の厚み105μmの銅箔について、JISC6481「5.7引き剥がし強さ」に則り、ピール強度を測定した。
また、銅箔を剥離することにより露出した樹脂含有層の表面を目視により観察し、以下の基準により評価した。カスレとは、積層基板を作成するための加熱加圧時に、銅箔の表面に樹脂組成物が流入しなかったことに由来する状態(濡れていない状態)である。カスレがある箇所は、樹脂含有層と銅箔との密着性が不十分であり、積層基板から銅箔が剥離する原因となる。その結果を表3に示す。
【0098】
(評価基準)
○:下記(1)~(4)の条件を全て満たす。
×:下記(1)~(4)の条件のうちいずれか1つ以上を満たさない。
(1)銅箔のピール強度が1.0kN/m以上。
(2)銅箔を剥離することにより露出された樹脂含有層の表面にボイドがない。
(3)銅箔を剥離することにより露出された樹脂含有層の表面に樹状のフローマークがない。
(4)銅箔を剥離することにより露出された樹脂含有層の表面にカスレがない。
【0099】
【表3】
【0100】
表3に示すように、実施例1~24の樹脂組成物の硬化物は、いずれも熱伝導率が2.0W/m・K以上であり、熱伝導性が良好であった。
また、実施例1~24の樹脂組成物の積層基板は、いずれもドリル加工性の評価が○または◎であり、ドリルを用いて穴あけ加工した際に生じる金属箔のバリが抑制されたものであった。
また、実施例1~24の樹脂組成物の積層基板は、いずれも成形性の評価の評価が○であり、表面にボイドおよびフローマークがなく、金属箔との密着性に優れたものであった。
【0101】
特に、熱硬化性樹脂としてメソゲン骨格を含む硬化物が得られるエポキシ樹脂を含む実施例7、19、21、23の樹脂組成物の硬化物は、それぞれ、熱硬化性樹脂がメソゲン骨格を含む硬化物が得られるエポキシ樹脂でない実施例18、20、22、24の樹脂脂組成物の硬化物と比較して、熱伝導性が良好であった。
【0102】
これに対し、大径無機粒子(A)の平均粒子径(D50)が小さい無機充填剤を含む比較例1の樹脂組成物の硬化物は、熱伝導性が不十分であった。
また、大径無機粒子(A)の平均粒子径(D50)が大きすぎる無機充填剤を含む比較例2の樹脂組成物を用いた積層基板は、成形性が不十分であった。
【0103】
また、小径無機粒子(B)の平均粒子径(D50)が小さすぎる無機充填剤を含む樹脂組成物を用いた比較例3の積層基板は、成形性が不十分であった。
また、比較例3と同じく小径無機粒子(B)の平均粒子径(D50)が小さすぎる無機充填剤を含み、比較例3と比較して熱硬化性樹脂に対する無機充填剤の割合が少ない比較例4の樹脂組成物は、硬化物の熱伝導性が不十分であった。このことから、小径無機粒子(B)の平均粒子径(D50)が小さすぎる場合、熱硬化性樹脂に対する無機充填剤の割合を少なくして熱伝導性を犠牲にしなければ、十分な成形性が得られないことが分かった。
【0104】
また、小径無機粒子(B)の平均粒子径(D50)が大きい無機充填剤を含む樹脂組成物を用いた比較例5の積層基板は、ドリル加工性および成形性が不十分であった。
また、小径無機粒子(B)の一次粒子のアスペクト比が大きさすぎる無機充填剤を含む樹脂組成物を用いた比較例6の積層基板は、成形性が不十分であった。
【0105】
また、大径無機粒子(A)に対する小径無機粒子(B)の割合が少ない無機充填剤を含む樹脂組成物を用いた比較例7の積層基板は、成形性が不十分であった。
また、大径無機粒子(A)に対する小径無機粒子(B)の割合が多すぎる無機充填剤を含む樹脂組成物を用いた比較例8の積層基板は、ドリル加工性が不十分であった。
【0106】
また、熱硬化性樹脂に対する無機充填剤の割合が少ない樹脂組成物を用いた比較例9の樹脂組成物の硬化物は、熱伝導性が不十分であった。
また、熱硬化性樹脂に対する無機充填剤の割合が多すぎる樹脂組成物を用いた比較例10の積層基板は、成形性が不十分であった。
【符号の説明】
【0107】
10…樹脂シート、20…プリプレグ、30…基材、31…縦糸、32…横糸、40、50…積層体、60…樹脂含浸層、61…金属箔、70…積層基板。
図1
図2
図3
図4
図5