(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165361
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】液体処理方法及び液体処理装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/03 20060101AFI20241121BHJP
A61L 2/23 20060101ALI20241121BHJP
A01P 3/00 20060101ALN20241121BHJP
A01N 63/10 20200101ALN20241121BHJP
【FI】
A61L2/03
A61L2/23
A01P3/00
A01N63/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081503
(22)【出願日】2023-05-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 集会名:マテリアルライフ学会「第33回研究発表会,特別講演会」、開催日:令和4年7月21日 集会名:修士公聴会、開催日:令和5年2月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 集会名:マテリアルライフ学会「第33回研究発表会,特別講演会」、開催日:令和4年7月21日 集会名:修士公聴会、開催日:令和5年2月9日
(71)【出願人】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】谷田 育宏
(72)【発明者】
【氏名】大澤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】池永 訓昭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮一
(72)【発明者】
【氏名】吉村 治
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 慶輔
(72)【発明者】
【氏名】大澤 敏
【テーマコード(参考)】
4C058
4H011
【Fターム(参考)】
4C058AA20
4C058BB02
4C058BB07
4C058BB10
4C058JJ02
4C058JJ30
4H011AA02
4H011AA03
4H011BB23
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】安全で高い抗菌効果を長期間に亘って得られる液体処理方法及び排水処理装置を提供する。
【解決手段】本発明の液体処理装置1は、微生物を含む液体に対して、空気をバブリングさせて供給すると共にパルス放電を行う水中気泡パルス放電処理部10と、水中気泡パルス放電処理部を通過した液体に対してプロタミンを供給するプロタミン供給部20を備える。水中気泡パルス放電による短時間での殺菌処理とその放電処理に耐える天然由来抗菌物質のプロタミンを併用することで、迅速かつ長期的に殺菌効果を得られる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を含む液体に対して、空気をバブリングさせて供給すると共にパルス放電を行う水中気泡パルス放電処理を施すステップと、
前記水中気泡パルス放電処理を施した前記液体に対してプロタミンを供給するステップとを備えることを特徴とする液体処理方法。
【請求項2】
微生物を含む液体に対して、空気をバブリングさせて供給すると共にパルス放電を行う水中気泡パルス放電処理部と、
前記水中気泡パルス放電処理部を通過した前記液体に対してプロタミンを供給するプロタミン供給部とを備えることを特徴とする液体処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全で高い抗菌効果を長期間に亘って得られる液体処理方法及び液体処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を含む液体、例えば工業廃水の抗菌技術として例えば次亜塩素酸ナトリウムや過酢酸を作用させる方法、グルタルアルデヒドやフタラール等のアルデヒド類を作用させる方法等が知られている。
しかし、これらの方法に用いる薬剤は毒性が高く、皮膚刺激性や強い臭気を有する。そのため保護具の着用が必要になる等の課題があり、継続的利用の観点から汎用性が高い方法とは言えなかった。
また、放電プラズマを用いる方法や(特許文献1及び2参照。)、4-ヒドロキシ安息香酸エステルとプロタミン類とを含む組成物を用いる方法(特許文献3参照。)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-107754号公報
【特許文献2】特開2001-252665号公報
【特許文献3】特開2022-012860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来技術によっても必ずしも十分な抗菌効果を得られるとは言えなかった。特に抗菌処理を施した直後は生菌数が激減するものの、残存した微生物が再繁殖したり、外部から微生物が混入したりする結果、一定時間経過後は細菌が急激に増殖してしまうという問題は未だ解消されていない。
【0005】
本発明は、上記のような問題を考慮して、安全で高い抗菌効果を長期間に亘って得られる液体処理方法及び排水処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液体処理方法は、微生物を含む液体に対して、空気をバブリングさせて供給すると共にパルス放電を行う水中気泡パルス放電処理を施すステップと、前記水中気泡パルス放電処理を施した前記液体に対してプロタミンを供給するステップとを備えることを特徴とする。
本発明の液体処理装置は、微生物を含む液体に対して、空気をバブリングさせて供給すると共にパルス放電を行う水中気泡パルス放電処理部と、前記水中気泡パルス放電処理部を通過した前記液体に対してプロタミンを供給するプロタミン供給部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
水中気泡パルス放電による短時間での殺菌処理とその放電処理に耐える天然由来抗菌物質のプロタミンを併用することで、迅速かつ長期的に殺菌効果を得られる。サケやニシン等の白子から抽出される低分子量の強塩基性タンパク質であるプロタミンは種々の天然由来抗菌物質の中でも殺菌効果が高く、食品添加物にも指定される安全性の高い抗菌物質である。水中気泡パルス放電処理とプロタミンの併用で環境調和型の液体処理技術を提供できる。
水中気泡パルス放電処理とプロタミンの併用は、微生物の繁殖が想定される貯水タンクでの迅速且つ長期的な殺菌効果が維持される。特に、排水を再利用する際に実施することで、まず放電処理により生菌数を未処理と比較して1/1000以下に減少させ、更に、処理を逃れて生存する微生物に対して、液中に溶解したプロタミンの強力な殺菌効果により、微生物の再繁殖を長期間に亘って防ぐことができる。
本発明の液体処理方法及び液体処理装置は業務用洗濯機、食洗器、温泉施設等で使用する水の抗菌処理に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】水中気泡パルス放電処理部の構造を示す正面図
【
図3】水中気泡パルス放電処理とプロタミン含有錠剤の併用による排水浄化システムの一例を示す図
【
図4】水中気泡パルス放電処理時間に対する模擬排水中の生菌数を示すグラフ
【
図5】水中気泡パルス放電処理後の模擬排水の回復培養による細菌の増殖を示すグラフ
【
図7】各天然由来抗菌物質水溶液の電気伝導率を示す表
【
図8】水中気泡パルス放電処理された12.5ppm濃度プロタミン水溶液の抗菌性を示す表
【
図9】プロタミン12.5ppm含有模擬排水の水中気泡パルス放電処理後の回復培養による細菌の増殖を示すグラフ
【
図10】水中気泡パルス放電処理との併用を想定した各天然由来抗菌物質の性能評価を示す表
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の液体処理装置及び液体処理方法の実施の形態について説明する。
図1に示すように液体処理装置1は水中気泡パルス放電処理部10とプロタミン供給部20を少なくとも備えており、排水浄化システムの一部を構成する。
水中気泡パルス放電処理部10は微生物を含む液体に対して空気をバブリングさせて供給すると共にパルス放電を行う部位である。
【0010】
図2に示すように水中気泡パルス放電処理部10は気泡放電発生装置11、流体制御装置12、パルス電源13、電圧・電流測定装置14等を備える。
気泡放電発生装置は容器(図示略)、5対の針電極15及び散気装置16で構成される。容器には微生物を含む液体が入っている。空気を液体中にバブリングさせながら流してパルス電源13を用いて針電極15に電圧を印可して液体中でパルス放電させる。パルス放電の際に水や酸素から各種活性種( Oラジカル, OHラジカル, H
2O
2, O
3 )が生成されるほか、放電による電子衝突、紫外線の発生、衝撃波の発生などの複数要因により液体中の微生物に対する殺菌効果を得られる。
【0011】
プロタミン供給部20は水中気泡パルス放電処理部10を通過した液体に対してプロタミンを供給する部位である。プロタミンはサケ目、ニシン目、タラ目、スズキ目、コイ目およびチョウザメ目からなる群から選択される魚類精巣成分の抽出物である。プロタミンを含有した錠剤を液体の流路やタンク内に投入して徐放させるのが好ましい。
【0012】
図1に示すように液体(例えば水)は導入口30から水中気泡パルス放電処理部10に至り、水中気泡パルス放電処理を施された後、流路31を通過してプロタミン供給部20に至り、流路32を通って水中気泡パルス放電処理部10に戻る。再使用を繰り返した液体は適当なタイミングで排出口33から排出される。なお、プロタミン供給部20に導入した液体が流路32から水中気泡パルス放電処理部10に至り、流路31を通過してプロタミン供給部20に戻る仕組みでもよい。
【0013】
図3に液体処理システムを適用した連続洗濯機40を示す。
連続洗濯機40ではまず汚れた洗濯物を洗濯槽41に入れて洗濯する(洗濯工程)。洗濯後の洗濯槽41内の水は廃棄する。次にすすぎ槽42で洗濯物をすすぎ(すすぎ工程)、脱水槽43で脱水する(脱水工程)。すすぎ工程及び脱水工程で使用した水は微生物を含んでおり、複数のタンク44に一時的に貯留されながら流路45を通過して洗濯槽41に戻る。タンク44内にプロタミンを含有した錠剤46を入れて水中にプロタミンを徐放させると共に流路45中で水中気泡パルス放電処理部10にてパルス放電処理を施す。
このように、微生物を含む液体に対して、水中気泡パルス放電処理を施しながら液体に対してプロタミンを供給することで微生物の再繁殖を長期間に亘って防ぐことができる。
【実施例0014】
図4に水中気泡パルス放電処理時間に対する模擬排水(※1)中の生菌数の変化を示す。
※1 供試菌株には、実際の連続洗濯機槽内から検出されたグラム陰性菌のAquabacterium olei 、Acinetobacter haemolyticus 、グラム陽性菌のAcinetobacter haemolyticusを選定し、それぞれの分譲株を約5×10
4 count/mL に菌数を調整し1:1:1で混合したものを模擬排水として用いた。
【0015】
水中気泡パルス放電処理を2 min実施すると未処理に比べて生菌数が1/100減少した。5 min処理後は1/1000以下に減少したことから、十分な殺菌効果を有することが示された。その一方で、この状態で長期間貯水する場合、各タンク内にて残存する微生物の再繁殖や外部からの微生物の混入が想定される。そこで、水中気泡パルス放電処理された模擬排水に培地成分を含んだ滅菌水を1:1の比率で添加し、残存する菌の増殖を再現するための操作として30 ℃の条件で24 h回復培養した結果を
図5に示す。結果より、水中気泡パルス放電処理を5 min行った直後の模擬排水中の生菌数は検出下限以下(約30 CFU/mL)であったのに対し、回復操作後は10
7 CFU/mLまで増加することが分かった。このことから、菌の増殖を抑制するためには水中気泡パルス放電処理に加えて、何らかの抗菌物質を加えることが必要であると判断した。
【0016】
[水中気泡パルス放電処理に対するプロタミンの優位性]
図6に示すようにプロタミンはジピコリン酸(納豆菌)、アリルイソチオシアネート(ワサビ)等の代表的な天然由来抗菌物質の中で最も高い抗菌性を有しており、水との溶解性が高いため、プロタミンを水中気泡パルス放電処理と併用し得ると考えた。
次に、
図7に示すようにプロタミン水溶液とジピコリン酸水溶液の電気伝導率を調査した。ジピコリン酸水溶液は電気伝導率が高く、この水溶液を用いて水中気泡パルス放電処理を行った場合、27 kVまで印可電圧が低下し、放電率の低下を確認した。ジピコリン酸ではプラズマ出力の低下が懸念されるため、電気伝導率がより低いプロタミンの優位性が示された。
【0017】
[プロタミンの水中気泡パルス放電処理耐性の確認(抗菌性評価)]
供試菌株(※1)に対する12.5 ppm濃度に調製したプロタミンの水中気泡パルス放電処理時間における抗菌性評価の結果を
図8に示す。水中気泡パルス放電処理(※2)を5 min、10 minと行った場合は、培養(※3)後の菌の発育が認められないが、15 min間の処理では試験液に濁りが認められ、菌の発育が認められた。この結果から、プロタミンは水中気泡パルス放電処理を10 min間施しても抗菌性を維持できることが示された。
※2 印加電圧30 kV、パルス繰り返し周波数100 pps、ガス流量0.6 L/minの条件下で
図2に示した装置により、5 min、10 min、15 minの処理を行った。
※3 水中気泡パルス放電処理した25 ppm濃度プロタミン水溶液と通常の2倍濃度のミューラー・ヒントン液体培地(MHB培地)を1:1で溶解させ、最終濃度を12.5 ppmに調整した。試験管に※1で調整した菌液を接種し30 ℃, 140 rpm に設定した恒温振とう機で24 h 培養し、発育の有無を肉眼にて観察した。
【0018】
[水中気泡パルス放電処理とプロタミンの併用効果]
水中気泡パルス放電処理とプロタミンの併用効果を検証するために、プロタミン12.5 ppmを含む模擬排水を用いて水中気泡パルス放電処理を行った。方法は
図5に示す実験方法と同様に行い、異なるのは模擬排水に12.5 ppmのプロタミンを含有して水中気泡パルス放電処理を行ったことである。その結果を
図9に示す。
Controlは模擬排水(プロタミン12.5 ppm未含有、水中気泡パルス放電未処理)の回復培養後の生菌数とした。この結果から、水中気泡パルス放電処理未処理では回復培養後10
6 CFU/mLの細菌の増殖が確認された。一方で、水中気泡パルス放電処理を5 mim行った場合10
4 CFU/mLに増殖が抑制されることが分かった。水中気泡パルス放電処理された模擬排水に培地成分を含んだ滅菌水を1:1の比率で添加しているため、プロタミンの終濃度は6.25 ppm相当に薄められているにもかかわらず、細菌増殖抑制効果を示した。また、
図5に示すように、プロタミンを含まない模擬排水の場合は、水中気泡パルス放電処理5 min後の回復培養で10
7 CFU/mLであることから、水中気泡パルス放電処理とプロタミンを併用することで、菌の増殖を1/1000抑制することが認められた。水中気泡パルス放電処理による迅速で強力な殺菌効果とプロタミンの持続性のある抗菌効果が作用したものと示唆される。
【0019】
[総合評価]
図10に示すように、抗菌性、非導電性、非揮発性のいずれにおいてもプロタミンが優れている。さらには、プラズマ照射を受けた場合でも、抗菌効果を示したことから、プロタミンは水中気泡パルス放電処理との併用に適している。