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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165362
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】電力測定装置及び電力測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 21/00 20060101AFI20241121BHJP
   G01R 35/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G01R21/00 R
G01R35/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081505
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000227205
【氏名又は名称】NECプラットフォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181135
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】小澤 鐘史
(57)【要約】
【課題】クランプ式電流センサが規定の精度で電流を測定できるか検証可能な電力測定装置を提供する。
【解決手段】メイン発電装置とサブ発電装置とを負荷を介して電気的に接続する接続経路における負荷よりもメイン発電装置側の経路部分に設けられ、該経路部分に流れる電流を検出するメイン側電流センサと、接続経路における負荷よりもサブ発電装置側の経路部分に設けられ、該経路部分に流れる電流を検出するサブ側電流センサと、接続経路に設けられた電圧センサと、を備え、メイン側電流センサ及びサブ側電流センサが、クランプ部を有するクランプ式電流センサであり、規定の精度にて電流を測定できるか自己診断機能を有する電力測定装置を提供する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メイン発電装置とサブ発電装置とを負荷を介して電気的に接続する接続経路における前記負荷よりも前記メイン発電装置側の経路部分に設けられ、該経路部分に流れる電流を検出するメイン側電流センサと、
前記接続経路における前記負荷よりも前記サブ発電装置側の経路部分に設けられ、該経路部分に流れる電流を検出するサブ側電流センサと、
前記接続経路に設けられた電圧センサと、を備え、
前記メイン側電流センサ及び前記サブ側電流センサが、クランプ部を有するクランプ式電流センサであり、規定の精度にて電流を測定できるか自己診断機能を有すること
を特徴とする電力測定装置。
【請求項2】
前記メイン側電流センサ及び前記サブ側電流センサのクランプ部の開閉状態、及び、前記電圧センサが電圧線に取り付けられたか否かを検出する検出手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電力測定装置。
【請求項3】
前記メイン側電流センサ及び前記サブ側電流センサが、前記クランプ部に巻き付けられた自己診断用巻線と、自己診断用巻線に定電流を通電するための定電流回路と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電力測定装置。
【請求項4】
制御部を備え、
該制御部が、前記メイン側電流センサによって検出された電流と、前記電圧センサによる検出結果に基づいて、前記メイン発電装置から前記負荷に供給される供給電力値を算出するとともに、
前記サブ側電流センサによって検出された電流と、前記電圧センサによる検出結果に基づいて、前記サブ発電装置から出力される発電電力値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の電力測定装置。
【請求項5】
前記供給電力値と、前記発電電力値とを、それぞれ、算出に利用した前記電圧センサによる検出結果と前記電流とが検出された時間を表す時間情報に関連付けられた態様で記憶する記憶部と、
前記供給電力値および前記発電電力値を利用して、前記供給電力値の正負符号が適正でないことを検知した場合に、前記供給電力値の正負符号が逆の符号となるように制御する符号制御部と、
前記供給電力値の正負符号が適正でないことが検知された場合に、測定開始日時から前記正負符号が適正でないことが検知されるまでの期間に亘って前記記憶部に書き込まれた前記供給電力値の正負符号を逆の符号に変更する補正部と、
を備えることを特徴とする請求項4に記載の電力測定装置。
【請求項6】
メイン発電装置とサブ発電装置とを負荷を介して電気的に接続する接続経路における前記負荷よりも前記メイン発電装置側の経路部分に設けられ、該経路部分に流れる電流を検出するメイン側電流センサと、
前記接続経路における前記負荷よりも前記サブ発電装置側の経路部分に設けられ、該経路部分に流れる電流を検出するサブ側電流センサと、
前記接続経路に設けられた電圧センサと、を備えた電力測定装置による電力測定方法であって、
クランプ部を有するクランプ式電流センサである前記メイン側電流センサ及び前記サブ側電流センサが、規定の精度にて電流を測定できるか自己診断する自己診断工程を有する
ことを特徴とする電力測定方法。
【請求項7】
前記メイン側電流センサ及び前記サブ側電流センサのクランプ部の開閉状態、及び、前記電圧センサが電圧線に取り付けられたか否かを検出する検出工程を有し、
該検出工程の後に自己診断工程を行う、
ことを特徴とする請求項6に記載の電力測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力測定装置及び電力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭用発電装置の普及等に伴い、各種電力消費装置(以下、単に「負荷」ということがある)に電力を供給する方法として、商用電源からの電力の供給と、発電装置からの電力の供給の2つが併用されることがよく行われている。
【0003】
また、発電装置からの電力については、負荷での電力の消費に留まらず、商用電源に電力が供給され、これが売電電力として電力会社に販売されることも一般に行われるようになっている。
【0004】
このような場合、商用電源から負荷に向かって供給される電力を買電電力として計測し、発電装置から商用電源に供給される電力を売電電力として計測する電力測定装置が必要となる。特許文献1には、このような電力測定装置に関連する技術が開示されている。
【0005】
図11は、特許文献1に記載されたシステムを示すブロック図である(特許文献1の図2。但し符号は変更した)。
図11に示すように、特許文献1に記載された電力測定装置は、商用電源924の電力計測をする供給電力算出部937と、発電装置922の発電電力を計測する発電電力算出部938と、供給電力算出部937の計測電力と発電電力算出部938の計測電力を比較して符号制御を行う符号制御部939と、主幹相電力データの符号変更を行う制御部940と、電力データを記憶する記憶部941から構成される。
【0006】
このような構成を有する特許文献1に記載された電力測定装置は、電流センサ又は電圧センサの取り付け不具合に起因して主幹相電力データの符号変更が必要と判断された場合、過去に遡って主幹相電力データの符号を反転させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-102653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この関連技術では、クランプ式電流センサを用いているところ、クランプ式電流センサは、2つの分割コアの嵌合面が隙間なく密着していない場合、クランプ式電流センサを取り付ける電圧線に流れる電流により、電流センサのコアに発生する磁束が嵌合面の隙間から漏れてしまい、規定の精度で電流を測定することができない。
【0009】
したがって、この関連技術では、クランプ式電流センサを電圧線に取り付けてから電力測定までの間に、クランプ式電流センサが規定の精度で電流を測定できるか検証がなされていないため、正しく電流を検出できていなくても気づかないという不都合がある。
【0010】
本発明は、上述の課題を解決する電力測定装置及び電力測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、メイン発電装置とサブ発電装置とを負荷を介して電気的に接続する接続経路における前記負荷よりも前記メイン発電装置側の経路部分に設けられ、該経路部分に流れる電流を検出するメイン側電流センサと、前記接続経路における前記負荷よりも前記サブ発電装置側の経路部分に設けられ、該経路部分に流れる電流を検出するサブ側電流センサと、前記接続経路に設けられた電圧センサと、を備え、前記メイン側電流センサ及び前記サブ側電流センサが、クランプ部を有するクランプ式電流センサであり、規定の精度にて電流を測定できるか自己診断機能を有することを特徴とする電力測定装置である。
【0012】
また、本発明は、メイン発電装置とサブ発電装置とを負荷を介して電気的に接続する接続経路における前記負荷よりも前記メイン発電装置側の経路部分に設けられ、該経路部分に流れる電流を検出するメイン側電流センサと、前記接続経路における前記負荷よりも前記サブ発電装置側の経路部分に設けられ、該経路部分に流れる電流を検出するサブ側電流センサと、前記接続経路に設けられた電圧センサと、を備えた電力測定装置による電力測定方法であって、クランプ部を有するクランプ式電流センサである前記メイン側電流センサ及び前記サブ側電流センサが、規定の精度にて電流を測定できるか自己診断する自己診断工程を有することを特徴とする電力測定方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、クランプ式電流センサが規定の精度で電流を測定できるか検証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態の電力測定装置の構成を表す図である。
図2】本発明の第1の実施形態の極性制御回路を示す図である。
図3】本発明の第1の実施形態の電流センサを示す図である。
図4】本発明の第1の実施形態の電力測定方法を示すフロー図である。
図5】本発明の第1の実施形態の電力測定方法を示すフロー図である。
図6】本発明の第1の実施形態の電力測定方法を示すフロー図である。
図7】本発明の第1の実施形態の電力測定方法の具体例を示す図である。
図8】本発明の第1の実施形態において電力値の正負の符号を反転する条件について説明する図である。
図9】本発明の第2の実施形態の電力測定装置を示す構成図である。
図10】本発明の第2の実施形態の電力測定方法を示すフロー図である。
図11】関連技術の電力測定装置の構成を表す図である。
図12】本発明の最小構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施形態]
<電力測定装置>
本発明の第1の実施形態の電力測定装置1の最小構成は、図12に示すように、メイン発電装置2とサブ発電装置3とを負荷4を介して電気的に接続する接続経路5における負荷4よりもメイン発電装置2側の経路部分に設けられ、経路部分に流れる電流を検出するメイン側電流センサ6と、接続経路5における負荷4よりもサブ発電装置3側の経路部分に設けられ、経路部分に流れる電流を検出するサブ側電流センサ7と、接続経路5に設けられた電圧センサ8と、を備えている。
また、メイン側電流センサ6及びサブ側電流センサ7が、クランプ部を有するクランプ式電流センサであり、規定の精度にて電流を測定できるか自己診断機能を有する。
【0016】
以下、本実施形態に係る電力測定装置について詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の電力測定装置10は、商用電源20(メイン発電装置)と、自家発電装置24(サブ発電装置)と、商用電源20及び自家発電装置24により供給される電力を測定する電力測定部21とから構成されている。
【0017】
商用電源20は、電力会社から一般家庭や企業等(以下、「需要家」とも言う。)に電力を供給する電源であり、第1の電圧線28(以下、「L1線28」とも言う。)、第2の電圧線30(以下、「L2線30」とも言う。)および中性線29(以下、「N線29」とも言う。)を使用した単相3線方式で電力を供給する。
【0018】
自家発電装置24は、需要家に設けられる装置であり、太陽光発電装置等により発電された電力を供給する装置である。
自家発電装置24には、電力測定部21を介してL1線28、中性線29、およびL2線30が接続されている。
【0019】
需要家において電力を消費する各種機器は負荷部70として、商用電源20と自家発電装置24を電気的に接続する経路上に設けられている。
負荷部70は、L1線28と中性線29との間に接続された負荷機器25と、L2線28とN線29との間に接続された負荷機器26と、L1線28とL2線30との間に接続された負荷機器27とを含む。
【0020】
また、負荷部70は、後述する電流センサ40、電流センサ41、電圧センサ43、電圧センサ44よりも、自家発電装置24側に設けられており、電流センサ42よりも商用電源20側に設けられている。
【0021】
電力測定部21は、商用電源20との接続を開閉する主幹ブレーカ22と、自家発電装置24との接続を開閉する分岐ブレーカ23と、センサ部80と、演算部90と、L1線の極性制御回路52と、L2線の極性制御回路53と、制御部54と、記憶部55と、定電流回路100とから構成される。
【0022】
主幹ブレーカ22は、商用電源20とセンサ部80との間に設けられている。また、分岐ブレーカ23は、負荷部70と自家発電装置24との間に設けられている。
センサ部80は、電流センサ40と、電流センサ41と、電流センサ42と、電圧センサ43と、電圧センサ44とを備えている。
【0023】
電流センサ40は、商用電源20と負荷部70とを接続するL1線28を流れる電流を測定する。
また、電流センサ40は、電流センサ40のクランプ部の開閉状態を、L1線の極性制御回路52と、L2線の極性制御回路53と、制御部54とに伝える手段を有する。
また、電流センサ40は、定電流回路100からの自己診断用の定電流が流れる自己診断用巻線101を有する。自己診断の詳細については後述する。
【0024】
電流センサ41は、商用電源20と負荷部70とを接続するL2線を流れる電流を測定する。
また、電流センサ40は、電流センサ40のクランプ部の開閉状態をL1線の極性制御回路52と、L2線の極性制御回路53と、制御部54とに伝える手段を有する。
また、電流センサ40は、定電流回路100からの自己診断用の定電流が流れる自己診断用巻線101を有する。
【0025】
電流センサ42は、自家発電装置24と負荷部70とを接続するL1線28を流れる電流を測定する。
また、電流センサ42は、電流センサのクランプ部の開閉状態をL1線の極性制御回路52と、L2線の極性制御回路53と、制御部54とに伝える手段を有する。
また、電流センサ42は、定電流回路100からの自己診断用の定電流を流れる自己診断用巻線101を有する。
【0026】
電圧センサ43は、商用電源20と負荷部70との間に設けられL1線28とN線29との間の電圧を測定する。
また、電圧センサ43は、電圧線(L1線28及びN線29)の取付け有無の状態をL1線の極性制御回路52と、L2線の極性制御回路53と、制御部54とに伝える手段を有する。
【0027】
電圧センサ44は、商用電源20と負荷部70との間に設けられL2線30とN線29との間の電圧を測定する。
また、電圧センサ44は、電圧線(N線29及びL2線30)の取付け有無の状態をL1線の極性制御回路52と、L2線の極性制御回路53と、制御部54とに伝える手段を有する。
【0028】
次に、L1線の極性制御回路52と、L2線の極性制御回路53の回路構成について、図2を参照して説明する。
極性制御回路52、53は、フリップフロップ回路32と、比較器31とを備えている。
【0029】
比較器31は、主幹相電力の絶対値と発電相電力とを比較し、主幹相電力値の絶対値が発電相電力値よりも大きくなった場合に超過信号を出力する。なお、主幹相電力の絶対値が発電相電力値よりも大きくなった場合を基準とする理由については、後述する。
【0030】
フリップフロップ回路32は、信号入力部であるセット部Sおよびリセット部Rと、出力部Qとを備えている。この図2の例では、セット部Sは、比較器31の出力部に電気的に接続されている。リセット部Rは、電流センサ40、41、42に接続されている。
【0031】
フリップフロップ回路32は、比較器31から超過信号がセット部Sに入力された以降は、出力部Qから符号反転信号を継続的に出力し、リセット部Rに制御信号が加えられると、符号反転信号の出力を停止する。
【0032】
次に、電流センサ40、41、42の電流測定と自己診断に関する構成の詳細について図3を用いて説明する。
電流センサ40、41、42の自己診断用巻線101は、クランプ式の電流センサ40、41、42が測定可能な電流まで増幅できるように、コア9に必要回数が巻かれている。ここで、この自己診断用巻線101の巻き数をT回とすると、コア9を貫通する電流Iaと自己診断用の定電流Ibとの関係は、以下となる。
【0033】
【数1】
【0034】
ここで、クランプ式の電流センサ40、41、42は、2つの半円状のコア9と、片方のコア9に巻かれた自己診断用巻線101と、もう片方のコア9に巻かれた測定用巻線102から構成される。
自己診断用巻線101は、定電流回路100に接続される。測定用巻線102は、演算部90に接続されている。
【0035】
制御部54は、演算部90と、主幹ブレーカ22と、分岐ブレーカ23と、定電流回路100とに接続されている。
演算部90は、L1主幹相演算器48と、L2主幹相演算器49と、L1発電相演算器50と、L2発電相演算器51を備えている。
【0036】
L1主幹相演算器48は、電流センサ40で測定される電流と、電圧センサ43で測定される電圧と、それら電流と電圧から算出される電力の演算をする。
L2主幹相演算器49は、電流センサ41で測定される電流と、電圧センサ44で測定される電圧と、それら電流と電圧から算出される電力の演算をする。
【0037】
L1発電相演算器50は、電流センサ42で測定される電流と、電圧センサ43で測定される電圧と、それら電流と電圧から算出される電力の演算をする。
L2発電相演算器51は、電流センサ42で測定される電流と、電圧センサ44で測定される電圧と、それら電流と電圧から算出される電力の演算をする。
【0038】
ここで、電流センサ40、41、42について自己診断をする際には、まず、制御部54が、電流センサ40、41、42を取り付けた電圧線のブレーカ(主幹ブレーカ22及び分岐ブレーカ23)を遮断する。
【0039】
そして、制御部54の指示に基づいて、定電流回路100が、自己診断用の定電流の生成を開始する。
この自己診断用の定電流Ibが、クランプ式の電流センサ40、41、42のコア9に巻かれた自己診断用巻線101を流れることで、コア9を貫通する電流Iaを発生させる。
【0040】
次に、電流センサ40、41、42のコア9を貫通する電流Iaによってコア9に磁束15が発生し、これによりコア9に巻かれた測定用巻線102にて検出された電流Icを、演算部90で電流値を計算する。
演算部90は自己診断で測定した電流値を制御部54に出力する。
【0041】
制御部54は自己診断で測定した電流値が、式1の電流Iaの規格値の許容範囲内であるか否かの判定を行い、規格値の許容範囲内の場合は、電流センサ40、41、42が規定の精度で電流を測定できると判断する。
【0042】
ところで、電力測定装置において、電流センサや電圧センサが誤った状態で取り付けられた場合、電力値の正負が逆転する現象が生じるが、本実施形態の電力測定装置では、誤った状態で取り付けられたことを自動的に判別し、必要に応じて、正負の符号を反転するようにしている。この正負の符号を反転する条件について、図8を用いて説明する。
【0043】
図8は、各主幹相電力値の符号を反転する各所定の条件を説明する図である。
なお、図8では、図1の各構成要素のうちの、符号を判定する所定の条件についての説明に関係しない構成要素は省略されている。
ここで、説明の便宜上、L1線28とN線29とを介して供給される電力を「L1相電力」と言い、L2線30とN線29とを介して供給される電力を「L2相電力」と言う。
【0044】
まず、L1相電力に関する所定の第1の条件について、以下に説明する。
図8に示すように、L1線28とN線29との間の電圧の電圧値をV1、L1線28に流れる電流の電流値をI1、L1線28から負荷機器25に流れる電流をIZa、L1線28から負荷機器27に流れる電流をIZc、L1線28から負荷部70に流れる電流をIZ1(=IZa+IZc)、自家発電装置24からL1線28(およびL2線30)に流れる発電電流をIPVとする。
【0045】
また、図8に示すI1の電流値を測定する電流センサ40およびIPVの電流値を測定する電流センサ42の取り付け向き(極性)は、それぞれ矢印で示された方向に取り付けられているものとする。
【0046】
したがって、電流センサ40で検出されるL1線28を流れる電流I1は、以下となる。
【0047】
【数2】
【0048】
よって、L1相電力の値であるL1主幹相電力値は、以下で表されることとなる。
【0049】
【数3】
【0050】
また、自家発電装置24から商用電源20に向う方向の電力の逆潮流を生じさせる余剰な電力は、自家発電装置24における発電電流(IPV)が負荷電流(IZ1)を上回った際(IZ1<IPV)に発生するので、式(2)のL1主幹相電力値は、以下のように負の値をとる負電力となる。
【0051】
【数4】
【0052】
また、自家発電装置24から商用電源20に逆潮流し得る電流の最大値は、発電電流(IPV)までとなるので、逆潮流によって発生し得る負電力の最大値は、自家発電装置24における発電相電力(IPV×V1)までとなる。
【0053】
よって、式(3)の右辺で表されるL1主幹相電力値(負電力)は、絶対値を用いて表すと|IZ1×V1-IPV×V1|<IPV×V1となり、逆潮流する電力(左辺)が、発電電力(右辺)を上回ることはない。
【0054】
一方で、電流センサまたは電圧センサの取り付け向きが逆であるとすると、以下の式となる。
【0055】
【数5】
【0056】
式(5)は、逆潮流する電力が、発電電力を上回ることを表し、実際には逆潮流する電力が発電電力を上回ることはないので、電流センサまたは電圧センサの取り付け向きが逆であると判断することができる。
【0057】
ここで、式(1)から、I1=IZ1-IPV、であるので、この式から電流IZ1は、以下のように表される。
【0058】
【数6】
【0059】
式(5)に、上述した式(6)を代入すると、以下のとおりとなる。
【0060】
【数7】
【0061】
以上から、式(7)が、L1相電力に関し、符号を逆転すべき条件といえる。
なお、上記では、L1相電力に関する所定の条件の求め方について説明したが、L2相電力に関する所定の条件についても同様にして求められ、以下のとおりとなる。
【0062】
【数8】
【0063】
すなわち、式(8)が、L2相電力に関し、符号を逆転すべき条件といえる。
【0064】
<電力測定方法>
【0065】
次に、本実施形態の電力測定方法について、図4、5,6のフローチャートを参照して説明する。
図4は、回路の動作を大まかに説明するフローチャートである。
図4のステップS1において、制御部54は、受信した制御信号に基づいて、それぞれの電流センサ40、41、42のクランプ部の開閉状態と、それぞれの電圧センサ43、44に対する電圧線(L1線28、N線29、L2線30)の取付け有無状態の判別を行う。
【0066】
制御部54は、電流センサ40、41、42の開閉状態を判別した結果、クランプ部が全て閉状態あると判別し、且つ、電圧センサ43、44に対して電圧線が取付けられた状態であると判別した場合には、処理をステップS2に進める。
【0067】
一方で制御部54は、電流センサ40、41、42のクランプ部が開状態ものがあると判別し、または、電圧センサ43、44に対して電圧線が取付けられていないものがある状態であること判別した場合には、電流センサ40、41、42又は電圧センサ43、44の設置準備に不備が有ると判定して処理を終了する。
【0068】
即ち、制御部54は、電流センサ40、41、42全てについてクランプ部が開状態か否かを検知するとともに、電圧センサ43、44の電圧線(L1線28、N線29、L2線30)に対する取付け状態を全て検知し、いずれかの電流センサ40、41、42又は電圧センサ43、44の設置準備に不備が有ると判定した場合には、処理を終了する。
【0069】
次に、図4のステップS2では、電流センサ40、41、42が規定の精度で測定できるか自己診断を行う。自己診断の詳細な説明は図5のフローチャートを参照して説明する。
図5のステップSa1において、制御部54は、電流センサを取り付けた電圧線のブレーカ(主幹ブレーカ22及び分岐ブレーカ23)を遮断する。
【0070】
次に、ステップSa2において、定電流回路100は、制御部54の指示により自己診断用の定電流の生成を開始する。
自己診断用の定電流Ibは、クランプ式の電流センサ40、41、42のコア9に巻かれた自己診断用巻線101を流れることで、コア9を貫通する電流Iaを発生させる。
【0071】
ステップSa3において、電流センサ40、41、42のコア9を貫通する電流Iaによりコア9に磁束15が発生し、これによりコア9に巻かれた測定用巻線102にて検出された電流Icを、演算部90で電流値を計算する。
演算部90は自己診断で測定した電流値を制御部54に出力する。
【0072】
ステップSa4において、制御部54は、自己診断で測定した電流値が式1の電流Iaの規格値の許容範囲内であるか否かの判定を行い、規格値の許容範囲外の場合は、ステップSa54-1に進み、規格値の許容範囲内の場合は、ステップSa5に進む。
【0073】
ステップSa4-1では、制御部54の指示により定電流回路を停止し、制御部54は自己診断の結果(異常)を記憶部55に記録して自己診断を終了する。
【0074】
ステップSa5では、制御部54の指示により定電流回路を停止し、制御部54は自己診断の結果(正常)を記憶部55に記録して自己診断を終了する。
【0075】
次に、図4のステップS3において、制御部54が自己診断の結果を正常と判定した場合には、ステップS4に進む。一方で制御部54が自己診断の結果を異常と判定した場合には、電流センサ40、41、42の故障もしくは取り付けに不備が有ると判定して処理を終了する。
【0076】
図4のステップS4の詳細な説明は図6のフローチャートを参照して説明する。
図6のステップSb1において、制御部54は電力測定開始日時を記憶部55に書き込む。
【0077】
次に、ステップSb2において、制御部54は各演算器(L1主幹相演算器48、L2主幹相演算器49、L1発電相演算器50、L2発電相演算器51)から電圧周期分の平均電力値を受け取る。
【0078】
例えば、所定の電圧周期分を1周期とした場合、電圧センサ43および電流センサ40で測定される電圧および電流が50Hzの交流電圧および交流電流であるとすると、その電圧周期は20msとなる。そして、その電圧の1周期分の平均電力を制御部54はL1主幹相演算器48からL1主幹相電力値として受け取る。
【0079】
また、制御部54はL1主幹相演算器48からL1主幹相電力値を、例えば、上述した所定の電圧周期分に対応する所定の期間毎に順次受け取ることが可能である。他の演算器(L2主幹相演算器49、L1発電相演算器50、L2発電相演算器51)についても同様である。
【0080】
次に、ステップSb3では、制御部54は各演算器(L1主幹相演算器48、L2主幹相演算器49、L1発電相演算器50、L2発電相演算器51)からのそれらの電力値をそれぞれの日時情報に関連付けた様態で記憶部55に書き込む。
【0081】
次に、ステップSb4では、制御部54は、符号反転信号が出力されたか否かを判別する。
すなわち、演算器(L1主幹相演算器48、L2主幹相演算器49、L1発電相演算器50、L2発電相演算器51)が電力値を算出すると、極性制御回路52、53がそれら算出された電力値に基づいて、上述した符号反転の条件を満たしたか否かを判別し、符号反転信号の出力を開始するか判断する。
【0082】
極性制御回路52、53の判断によって符号反転信号の出力が開始されていない場合には、制御部54は、ステップSb4の判断動作後にステップSb2以降の動作を繰り返す。つまり、制御部54は、時々刻々と算出された電力値を記憶部55に書き込んでいく。
【0083】
ここで、例えば、L1線の主幹相電力値の正負符号が負である場合に、極性制御回路52は、次に示す処理を実行する。
すなわち、L1線の主幹相電力値の絶対値がL1線の発電相電力値の絶対値よりも大きくなった場合(|I1×V1|>IPV×V1)には、極性制御回路52の比較器31から超過信号が出力される。これにより、L1線の極性制御回路52のフリップフロップ回路32から符号反転信号の出力が開始される。
【0084】
制御部54は、その符号反転信号の出力が開始されたことを検知すると(図6におけるステップSb4)、記憶部55から測定開始日時(図7における時間T3)の情報を読み出す。そして、制御部54は、測定開始日時T3から符号反転信号が出力されるまで(時間T3から時間T6まで)に亘って記憶部55に書き込まれたL1線の供給電力値の正負符号を逆の符号に変更する。
つまり、制御部54は、過去データを補正する(ステップSb5)。
【0085】
なお、符号反転信号の出力が開始されることにより、L1主幹相演算器48から出力される算出値の正負符号は逆の符号に変更された状態でもって出力されることから、記憶部55のデータ補正は行わなくてよい。
【0086】
次に、本実施形態の電力測定方法を用いて、実際に電力値のデータが補正される具体例を、図7を用いて説明する。
【0087】
通常、電力需要家により負荷機器25,26,27が使用中であれば、その負荷機器の動作状況により、商用電源20から供給を受ける電力量は変動する。また、系統連携された太陽光発電等の自家発電装置24は、天候により発電量が変化する。
【0088】
ここでは、電流センサ40は極性向きを逆にしてL1線28に取り付けられていたと仮定する。そして、電流センサ40、41、42の電流測定精度の自己診断結果が正常と判定した場合、電力の測定開始日時から電流センサ40の極性向きが補正されるまでの過去のL1主幹相電力値のデータの符号補正について説明する。
【0089】
図7を参照すると、時刻T1は電流センサ40、41、42のいずれかのクランプ部が開状態、または電圧センサ43、44に電圧線(L1線28、N線29、L2線30)が取り付けられていないことを検知して、演算部90は電力演算を行わない。
【0090】
時刻T2において、電流センサ40、41、42のクランプ部が全て閉じ、且つ電圧センサ43、44に電圧線(L1線28、N線29、L2線30)が取付けられた状態となったことを検知すると、極性リセット信号によりフリップフロップ回路32をリセットしてL1符号反転信号を初期化する。そして、電流センサ40、41、42の電流測定精度の自己診断を行う。
【0091】
時刻T3において、電流センサ40、41、42の電流測定精度の自己診断結果が正常と判定されたら、制御部54は記憶部55に電力の測定開始日時を書き込む。そして、電力測定を開始して、L1主幹相演算器48からの符号反転されない電力値がL1主幹相電力値として信号線58および制御部54を介して、L1符号反転信号が発生するまでのT3~T6の期間に渡り、記憶部55に記録される。
【0092】
時刻T6において主幹相電力の負電力値(-1500W)の絶対値が、発電相電力値(+500W)となり第一の所定の条件(|I1×V1|>IPV×V1)を満たして、極性制御回路52の比較器31から超過信号が発生する。この超過信号は、フリップフロップ回路32のセット端子に供給されてフリップフロップ回路32をセットする。
【0093】
フリップフロップ回路32の出力は、時刻T7でL1符号反転信号として、信号線57を介してL1主幹相演算器48および制御部54に送信される。L1符号反転信号を受けた主幹相演算器48は、同時刻のT7からの符号反転された電力値がL1主幹相電力値として信号線58と制御部54を介して記憶部55に記録される。
【0094】
時刻T7において、L1線の極性制御回路52からのL1符号反転信号を信号線57経由でして受信した制御部54は、受信日時を記憶部55に記録して、前回の電力測定開始日時T3から時刻T7までの期間の記憶部55に記録されている過去のL1主幹相電力値のデータの符号を反転する。
以上のようにして、本実施形態の電力測定方法に基づいて、実際に電力値のデータを補正する。
【0095】
本実施形態によれば、クランプ式の電流センサを用いてはいるものの、クランプ式電流センサが規定の精度で電流を測定できているか否か自己診断する機能を有している。これにより、クランプ式電流センサの取り付け不具合に起因して、正しく電力値を検出できないという状態を予め防止することができる。
例えば、図3に示すコア9の嵌合面14が隙間なく密着していない場合、コア9に発生する磁束15が嵌合面14から漏れるが、本実施形態はこれを見過ごさずに検知することができる。
【0096】
また、本実施形態では、更に、電流センサの閉状態且つ電圧センサに対する電圧線の取付け有状態を示す極性制御リセット信号を極性制御回路と制御部に送信する手段を有している。これにより、全ての電流センサを所望の電線に取付けた状態であることと電圧センサに所望の電圧線を取付けた状態であることを正しく検出することができる。
したがって、全ての電流センサを所望の電線に取付けた状態であること、電圧センサに所望の電圧線を取付けた状態であること、及び、全ての電流センサの電流精度の自己診断が正常判定であることの全てを満たした日時から、主幹相電力の計測に用いる電流センサの極性向きが補正されるまでに計測された主幹相電力値のデータの符号を補正することができる。
これにより、工事業者等による電流センサと電圧センサの取り付けミスによる測定を回避して、電力測定精度と過去の電力データ品質の信頼性を向上できる。
【0097】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、第1の実施形態と同様の部分については適宜説明を省略する。
【0098】
<電力測定装置>
本実施形態の電力測定装置10Aは、図9に示すように、制御部54に表示部110が設けられている。
表示部110は、クランプ部が開状態の電流センサ40、41、42がある場合は、その電流センサの箇所を表示する。また、電圧線(L1線28、N線29、L2線30)の取り付けられていない電圧センサ43、44がある場合は、その電圧センサの箇所を表示する。
【0099】
<電力測定方法>
次に、本実施形態の電力測定方法について説明する。
本実施形態の電力測定方法は、第1の実施形態の図4とほぼ同様ではあるが、図10に示すようにステップS1及びステップS3の後の処理に異なる部分がある。
【0100】
ステップS1において、電流センサ40、41、42のクランプ部が開状態、または電圧センサ43、44に対する電圧線(L1線28、N線29、L2線30)の取付けが無状態の場合、制御部54は、電流センサまたは電圧センサの取付け異常と判断する。
そして、取付け完了していない電流センサ40、41、42または電圧センサ43、44の箇所を表示部110に表示して電力需要家および工事業者に知らせる。
【0101】
また、図10のステップS3において、電流センサの電流測定精度の自己診断で異常と判断された場合、制御部54は、異常と判断した電流センサ40、41、42の箇所を表示部110に表示して電力需要家および工事業者に知らせる。
【0102】
本実施形態の電力測定装置及び電力測定方法によれば、表示部を備えているので、不具合が生じている電流センサ及び電圧センサの箇所を、電力需要家及び工事業者に速やかに適切に通知することができる。
【0103】
以上、本発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、上記実施形態では、L1およびL2の主幹相演算器と、L1およびL2の発電相演算器と、L1およびL2の極性制御回路をハードウェアにて構成しているが、これらを制御部54において、プログラム処理にて行ってもよい。この場合は、電流センサの極性制御に必要な機能をプログラム処理にすることにより、ハードウェアの規模を小さくできるという新たな効果を有する。
【符号の説明】
【0104】
1・・・電力測定装置、2・・・メイン発電装置、3・・・サブ発電装置、4・・・負荷、5・・・接続経路、6・・・メイン側電流センサ、7・・・サブ側電流センサ、8・・・電圧センサ、9・・・コア、10・・・電力測定装置、10A・・・電力測定装置、
14・・・嵌合面、15・・・磁束、20・・・商用電源、21・・・電力測定部、22・・・主幹ブレーカ、23・・・分岐ブレーカ、24・・・自家発電装置、25・・・負荷機器、26・・・負荷機器、27・・・負荷機器、28・・・第1の電圧線、
29・・・中性線、30・・・第2の電圧線、31・・・比較器、32・・・フリップフロップ回路、40・・・電流センサ、41・・・電流センサ、42・・・電流センサ、43・・・電圧センサ、44・・・電圧センサ、48・・・主幹相演算器、49・・・主幹相演算器、50・・・発電相演算器、51・・・発電相演算器、52・・・極性制御回路、53・・・極性制御回路、54・・・制御部、55・・・記憶部、57・・・信号線、58・・・信号線、70・・・負荷部、80・・・センサ部、90・・・演算部、
100・・・定電流回路、101・・・自己診断用巻線、102・・・測定用巻線、
110・・・表示部、922・・・発電装置、924・・・商用電源、937・・・供給電力算出部、938・・・発電電力算出部、939・・・符号制御部、940・・・制御部、941・・・記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12