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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165386
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】遮熱性生地
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/48 20060101AFI20241121BHJP
   D06M 11/32 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
D06M11/48
D06M11/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081536
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 文人
(72)【発明者】
【氏名】寺田 暁
(72)【発明者】
【氏名】蛭名 亮太
(72)【発明者】
【氏名】横山 遥大
【テーマコード(参考)】
4L031
【Fターム(参考)】
4L031AA18
4L031AB32
4L031BA09
(57)【要約】
【課題】遮熱性を有し、かつ、意匠の自由度が損なわれない、遮熱性生地を提供すること。
【解決手段】タングステン系赤外線吸収性顔料を含み、開口率が20%以上50%以下である、遮熱性生地。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン系赤外線吸収性顔料を含み、開口率が20%以上50%以下である、遮熱性生地。
【請求項2】
前記開口率が30%以上40%以下である、請求項1に記載の遮熱性生地。
【請求項3】
前記遮熱性生地が、前記タングステン系赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されている生地の片面又は両面に、前記タングステン系赤外線吸収性顔料が付着した構成を有する、請求項1に記載の遮熱性生地。
【請求項4】
前記遮熱性生地が、前記タングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維から構成されている生地である、請求項1に記載の遮熱性生地。
【請求項5】
前記遮熱性生地が、前記タングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維及び前記タングステン系赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されている生地である、請求項1に記載の遮熱性生地。
【請求項6】
前記タングステン系赤外線吸収性顔料の含有量が、前記遮熱性生地の全質量を100質量%としたときに、0.05質量%以上5.0質量%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の遮熱性生地。
【請求項7】
前記タングステン系赤外線吸収性顔料が、
一般式(1):M
{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIからなる群から選ばれる1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}
で表される複合タングステン酸化物、又は、
一般式(2):W
{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}
で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物、
から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の遮熱性生地。
【請求項8】
メッシュ生地である、請求項1~5のいずれか一項に記載の遮熱性生地。
性生地。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の遮熱性生地を含む、衣類。
【請求項10】
表地及び裏地から構成される部分を有する衣類であって、
前記表地が、請求項1~5のいずれか一項に記載の遮熱性生地から構成されており、
前記裏地が、前記遮熱性生地以外の生地から構成されている、
衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱性生地に関する。詳しくは、赤外線が照射されたときの温度上昇を抑制し得る生地に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば夏季の暑さを緩和するために、衣服等に用いられる布帛に遮熱性を付与する技術が知られている。例えば、特許文献1では、基布上に酸化チタンを含む樹脂層が積層された赤外線反射性の遮熱性布帛が提案されている。
【0003】
一方で、特許文献2では、特定のタングステン系酸化物を含有させた赤外線吸収繊維が提案されている。特許文献2には、この赤外線吸収繊維は、赤外線を吸収して保温効果を示すとともに、これに含有されるタングステン系酸化物は、可視光線を透過させ、色目が透明に近いので、繊維製品の意匠性を損なうことがないと説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-200039号公報
【特許文献2】特開2006-132042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術によると、酸化チタンを含む樹脂層の赤外線の反射率がさほど高いものではないため、得られる遮熱性布帛の遮熱性が不十分である。また、酸化チタンは白色を呈するため、繊維製品の意匠性が制限される。
【0006】
一方、特許文献2の赤外線吸収繊維は、含有されるタングステン系酸化物の色目が透明に近いので、繊維製品の意匠性の自由度を損なうことはない。しかし、特許文献2の技術は、保温効果を示す繊維製品への適用を前提としており、遮熱用途には使用できない。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものである。本発明の目的は、遮熱性を有し、かつ、意匠の自由度が損なわれない、遮熱性生地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のとおりである。
【0009】
《態様1》タングステン系赤外線吸収性顔料を含み、開口率が20%以上50%以下である、遮熱性生地。
《態様2》前記開口率が30%以上40%以下である、態様1に記載の遮熱性生地。
《態様3》前記遮熱性生地が、前記タングステン系赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されている生地の片面又は両面に、前記タングステン系赤外線吸収性顔料が付着した構成を有する、態様1に記載の遮熱性生地。
《態様4》前記遮熱性生地が、前記タングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維から構成されている生地である、態様1に記載の遮熱性生地。
《態様5》前記遮熱性生地が、前記タングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維及び前記タングステン系赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されている生地である、態様1に記載の遮熱性生地。
《態様6》前記タングステン系赤外線吸収性顔料の含有量が、前記遮熱性生地の全質量を100質量%としたときに、0.05質量%以上5.0質量%以下である、態様1~5のいずれか一項に記載の遮熱性生地。
《態様7》前記タングステン系赤外線吸収性顔料が、
一般式(1):M
{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIからなる群から選ばれる1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}
で表される複合タングステン酸化物、又は、
一般式(2):W
{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}
で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物、
から選ばれる1種又は2種以上である、態様1~5のいずれか一項に記載の遮熱性生地。
《態様8》メッシュ生地である、態様1~5のいずれか一項に記載の遮熱性生地。
《態様9》態様1~5のいずれか一項に記載の遮熱性生地を含む、衣類。
《態様10》表地及び裏地から構成される部分を有する衣類であって、
前記表地が、態様1~5のいずれか一項に記載の遮熱性生地から構成されており、
前記裏地が、前記遮熱性生地以外の生地から構成されている、
衣類。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、遮熱性を有しながら、意匠の自由度が損なわれない、生地が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の遮熱性生地は、タングステン系赤外線吸収性顔料を含み、開口率が20%以上50%以下の生地である。
【0012】
本発明の遮熱性生地では、生地に含まれるタングステン系赤外線吸収性顔料が赤外線を吸収したうえで、吸収した赤外線による熱を、生地の開口部から外部に逃がすことにより、遮熱性が発現すると考えられる。ただし、本発明は、特定の理論に拘束されない。
【0013】
《生地の形態等》
本発明の遮熱性生地は、生地の厚み方向に貫通する孔(空間)を有し、開口率が20%以上50%以下である。開口率がこの範囲であれば、遮熱性が好適に発現する。
【0014】
理論に拘束されないが、開口率が高いほど、タングステン系赤外線吸収性顔料が吸収した赤外線による熱を効果的に逃がすことができる。この観点から、本発明の遮熱性生地の開口率は、20%以上であり、25%以上、30%以上、又は35%以上であってもよい。
【0015】
一方、開口率が低いほど、生地の実質部分が多くなるので、タングステン系赤外線吸収性顔料の赤外線吸収効果が有効に発現する。この観点から、本発明の遮熱性生地の開口率は、50%以下であり、45%以下、40%以下、35%以下であってもよい。
【0016】
本発明の遮熱性生地における、生地の厚み方向に貫通する孔の形状は任意である。孔の形状は、円、楕円、扇形、多角形、星形多角形(五芒星、六芒星等)、ルーローの多角形等、及びこれらの組合せ等から選択されてよい。
【0017】
孔は、遮熱性生地の面上で、均一に配置されていることが好ましい。定量的には、遮光性生地の任意の領域の開口率と、この領域と重複しない他の領域の開口率との差が、例えば、5パーセントポイント以下、3パーセントポイント以下、又は2パーセントポイント以下であることをいう。この場合、開口率を比較する2つの領域の大きは、それぞれ、10個以上の孔を含むものとしてよい。
【0018】
本発明の遮熱性生地は、タングステン系赤外線吸収性顔料を含み、上記の開口率にて孔を有している限り、どのような形態であってもよい。本発明の遮熱性生地は、例えば、孔を開けた生地、レース生地、メッシュ生地、開孔不織布等であってよい。
【0019】
孔を開けた生地は、孔を有さない生地に穿孔したもの、小さな孔を有する生地に大きな孔を穿ったもの等であってよい。レース生地とは、孔が透かし模様を形成している生地を意味し、ニードルレース、ケミカルレース、フィレレース、ボビンレース等を含む概念である。
【0020】
本明細書において、メッシュ生地とは、網目状に織られた透かしのある織物、又は網目状に編まれた透かしのある編物をいい、ダブルラッセル、オーガンジー、チュール等を含む概念である。
【0021】
本発明の遮熱性生地を構成する繊維材料は任意であり、天然繊維、合成繊維、再生繊維、半合成繊維等から選択される1種又は2種以上の材料から構成される生地であってよい。
【0022】
天然繊維としては、例えば、コットン(綿)、リネン(麻)、シルク(絹)、ウール等を;
合成繊維としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ウレタン等を;
再生繊維としては、例えば、キュプラ、レーヨン等を;
半合成繊維としては、例えば、アセテート、トリアセテート等を:
を、それぞれ挙げることができる。
【0023】
生地は、織物、編物、不織布等のいずれであってもよい。生地の作製に用いられる糸は、モノフィラメント若しくはマルチフィラメント、又はこれらの組合せ等から選択されるいずれであってもよい。
【0024】
《タングステン系赤外線吸収性顔料》
本発明の遮熱性生地に含まれるタングステン系赤外線吸収性顔料は、可視光線下の色目が透明に近く、かつ、赤外線吸収能が高いものであってよい。
【0025】
本発明におけるタングステン系赤外線吸収性顔料は、例えば、
一般式(1):M
{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIからなる群から選ばれる1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}
で表される複合タングステン酸化物、又は、
一般式(2):W
{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}
で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物、
から選ばれる1種又は2種以上であってよい。
【0026】
このようなタングステン系赤外線吸収性顔料は、例えば、特開2005-187323号公報に説明されている、複合タングステン酸化物又はマグネリ相を有するタングステン酸化物の製法によって製造されてよい。
【0027】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物には、元素Mが添加されている。このため、一般式(1)におけるz/y=3.0の場合も含めて、自由電子が生成され、近赤外光波長領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1,000nm付近の近赤外線を吸収する材料として有効である。元素Mは、近赤外線吸収性材料としての光学特性及び耐候性を向上させる観点から、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、及びSnからなる群から選ばれる1種類以上であってよい。
【0028】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、シランカップリング剤で処理されていてもよい。シランカップリング剤処理することによって、近赤外線吸収性及び可視光波長領域における透明性を高めることができる。
【0029】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0より大きいことにより、十分な量の自由電子が生成され、近赤外線吸収効果を十分に発揮することができる。なお、元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加して近赤外線吸収効果は上昇するが、通常は、x/yの値が1程度で飽和する。x/yの値が1以下である場合には、顔料含有層中における不純物相の生成を防ぐことが可能となる。
【0030】
x/yの値は、0.001以上、0.2以上、又は0.30以上であってもよく、0.85以下、0.5以下、又は0.35以下であってもよい。x/yの値は、特に、0.33とすることができる。
【0031】
一般式(1)及び(2)において、z/yの値は、酸素量の制御の水準を示す。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物において、z/yの値が2.2≦z/y≦3.0の関係を満たす場合には、一般式(2)で表されるタングステン酸化物と同じ酸素制御機構が働くことに加えて、z/y=3.0の場合でさえも、元素Mの添加による自由電子の供給がある。一般式(1)において、z/yの値は、2.45≦z/y≦3.0の関係を満たすようにしてもよい。
【0032】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、六方晶の結晶構造を含むか、又は六方晶の結晶構造からなることが好ましい。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物が、六方晶の結晶構造を有する場合には、顔料の可視光波長領域の透過が大きくなり、かつ近赤外光波長領域の吸収が大きくなる。そして、元素Mの陽イオンは、六方晶の空隙に配置されて存在する。
【0033】
一般には、元素Mとしてイオン半径の大きなものを添加したときに、六方晶が形成される。具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Fe等のイオン半径の大きい元素を添加したときに、六方晶が形成され易い。しかしながら、一般式(1)で表される複合タングステン酸化物における元素Mは、これらの元素に限定されるものではなく、WO単位で形成される六角形の空隙に、添加元素Mが存在していればよい。
【0034】
六方晶の結晶構造を有する一般式(1)で表される複合タングステン酸化物が、均一な結晶構造を有する場合には、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下とすることができ、0.30以上0.35以下とすることができ、特に0.33とすることができる。x/yの値が0.33となると、添加元素Mが、実質的に全ての六角形の空隙に配置されると考えられる。
【0035】
また、六方晶以外では、正方晶又は立方晶のタングステンブロンズであってもよい。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、結晶構造によって、近赤外光波長領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶、正方晶、六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光波長領域の吸収が少ないのは、六方晶、正方晶、立方晶の順である。このため、可視光波長領域の光をより透過して、近赤外光波長領域の光をより吸収したい用途とする場合には、六方晶のタングステンブロンズを用いてもよい。
【0036】
一般式(2)で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物において、z/yの値が2.45≦z/y≦2.999の関係を満たす組成比を有する所謂「マグネリ相」は、安定性が高く、近赤外光波長領域の吸収特性が高い顔料となる。
【0037】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物及び一般式(2)で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物は、近赤外光波長領域、特に波長1,000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調が青色系から緑色系となる場合がある。
【0038】
タングステン系赤外線吸収性顔料の粒子径は、本発明の遮熱性生地の使用目的に応じて適宜に設定されてよい。
【0039】
タングステン系赤外線吸収性顔料の粒子径が、体積平均で2,000nm以下であれば、可視光波長領域における透過率(反射率)のピークと、近赤外光波長領域における吸収とのボトムの差が大きくなり、可視光波長領域の透明性を有する印刷部分が得られる。タングステン系赤外線吸収性顔料の粒子径が、200nm以下、100nm以下、50nm以下、又は30nm以下であれば、粒子による可視光の散乱を少なくすることができ、可視光波長領域における透明性の高い遮熱性生地が得られる。
【0040】
一方、タングステン系赤外線吸収性顔料の粒子径を、1nm以上、3nm以上、5nm以上、10nm以上又は20nm以上であれば、工業的な製造が容易となるとともに、十分に高い赤外線吸収性が得られる。
【0041】
タングステン系赤外線吸収性顔料の粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡によって測定されてよい。
【0042】
本発明の遮熱性生地におけるタングステン系赤外線吸収性顔料の含有量は、効果的な赤外線吸収効果を確保する観点から、遮熱性生地の全質量を100質量%としたときに、例えば、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、1.2質量%以上、又は1.5質量%以上であってよい。一方で、タングステン系赤外線吸収性顔料の含有量を過度に多くしても、生地の遮熱効果が無制限に上昇するものではない。この観点から、タングステン系赤外線吸収性顔料の含有量は、遮熱性生地の全質量を100質量%としたときに、例えば、5.0質量%以下、4.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、又は1.5質量%以下であってよい。
【0043】
《生地の構成》
本発明の遮熱性生地は、タングステン系赤外線吸収性顔料を含む。本発明の遮熱性生地がタングステン系赤外線吸収性顔料を含む構成は、生地が所望の遮熱効果を発揮し得る限り、任意である。
【0044】
本発明の遮熱性生地の構成としては、例えば、以下の構成が挙げられる。
タングステン系赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されている生地の片面又は両面に、タングステン系赤外線吸収性顔料が付着した構成を有する、遮熱性生地(第1の遮熱性生地);
タングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維から構成されている、遮熱性生地(第2の遮熱性生地);
タングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維及びタングステン系赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されている、遮熱性生地(第3の遮熱性生地);
等。
【0045】
〈第1の遮熱性生地〉
第1の遮熱性生地は、タングステン系赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されている生地の片面又は両面に、タングステン系赤外線吸収性顔料が付着した構成を有する、遮熱性生地である。
【0046】
タングステン系赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されている生地は、タングステン系赤外線吸収性顔料を含まないこと以外は、本発明の遮熱性生地と同じ形態及び組成を有していてよい。したがって、この生地は、生地の厚み方向に貫通する孔(空間)を有し、その開口率が20%以上50%以下である。また、この生地は、天然繊維、合成繊維、再生繊維、半合成繊維等から選択される1種又は2種以上の材料から構成される生地であってよい。
【0047】
第1の遮熱性生地は、例えば、タングステン系赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されている生地の片面又は両面に、タングステン系赤外線吸収性顔料を含む塗工液を塗布することにより、製造されてよい。
【0048】
ここで使用される塗工液は、タングステン系赤外線吸収性顔料を含み、溶媒、分散剤、バインダー樹脂、着色剤、フィラー等から選ばれる任意成分を含んでいてよい。
【0049】
塗工液中のタングステン系赤外線吸収性顔料の含有量は、塗工液の質量を基準として、例えば、0.1質量%以上、0.5質量%以上、又は1.0質量%以上であってよく、例えば、10.0質量%以下、5.0質量%以下、3.0質量%以下、12.0質量%以下、又は1.0質量%以下であってよい。
【0050】
溶媒は、タングステン系赤外線吸収性顔料を分散し、塗工液に含まれる他の成分を溶解又は分散し得るものであってよい。
【0051】
溶媒としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;ノルマルヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いてよい。
【0052】
塗工液の溶媒は、例えば、水と、水溶性有機溶媒とから構成される混合溶媒であってよい。
【0053】
塗工液中の溶媒の含有量は、塗工液の全質量を基準として、例えば、70質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよく、99質量%以下、98質量%以下、97質量%以下、96質量%以下、又は95質量%以下であってよい。
【0054】
分散剤は、塗工液中のタングステン系赤外線吸収性顔料の分散性を高めるために、塗工液に配合されてよい。本発明における分散剤としては、例えば、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の官能基を有している化合物を使用してよい。
【0055】
塗工液中の分散剤の含有量は、タングステン系赤外線吸収性顔料100質量部に対して、例えば、50質量部以上、100質量部以上、200質量部以上、又は300質量部以上であってよく、例えば、1,000質量部以下、800質量部以下、又は500質量部以下であってよい。
【0056】
バインダー樹脂は、公知の塗料に含まれるバインダー樹脂、例えば、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等から適宜に選択して使用してよい。
【0057】
塗工液の塗布は、例えば、スプレー塗布、フレキソ印刷、活版印刷、オフセット印刷、凹版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、含浸による塗布等の適宜の方法によって行われてよい。
【0058】
〈第2の遮熱性生地〉
第2の遮熱性生地は、タングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維から構成されている遮熱性生地である。
【0059】
第2の遮熱性生地は、タングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維から構成されているとの要件を満たすこと以外は、本発明の遮熱性生地と同じ形態であってよい。したがって、第2の遮熱性生地は、生地の厚み方向に貫通する孔(空間)を有し、その開口率が20%以上50%以下である。
【0060】
第2の遮熱性生地を構成する、タングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維は、例えば、タングステン系赤外線吸収性顔料及び樹脂を含有する組成物を、溶融紡糸することによって、製造されてよい。
【0061】
ここで使用される組成物は、タングステン系赤外線吸収性顔料及び樹脂以外に、分散剤、着色剤、フィラー等を含んでいてもよい。
【0062】
組成物中のタングステン系赤外線吸収性顔料の含有量は、組成物の全質量を基準として、例えば、0.05質量%以上、0.07質量%以上、又は0.1質量%以上であってよく、例えば、5.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、1.0質量%以下、0.8質量%以下、0.5質量%以下、0.3質量%以下、又は0.20質量%以下であってよい。
【0063】
組成物中の樹脂は、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂等から選択される1種又は2種以上であってよい。樹脂は、ポリエステル系樹脂及びポリアミド樹脂から選択される1種又は2種以上を含むことが好ましく、特に、ポリエチレンテレフタレートホモポリマー、ポリエチレンテレフタレートコポリマー、及びナイロンから選択される1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0064】
組成物中の樹脂の含量は、組成物の全質量を基準として、例えば、75.0質量%以上99.5質量%以下であってよい。
【0065】
分散剤としては、第1の遮熱性生地を製造するための塗工液中に含まれる分散剤として上記に例示したものと同じものを使用することができる。タングステン系赤外線吸収性顔料の量に対する分散剤の使用量も、第1の遮熱性生地製造用の塗工液の場合と同じである。
【0066】
組成物は、タングステン系赤外線吸収性顔料、樹脂、及び分散剤、並びにその他の任意成分を、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ミキシングロール等のバッチ式混練機;二軸押出機、単軸押出機等の連続混練機;等を用いて、例えば、200℃以上300℃以下程度の温度で混練する方法により、調製されてよい。
【0067】
上記の組成物を溶融紡糸することにより、タングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維を得ることができる。溶融紡糸は、例えば、市販の溶融紡糸装置を用いて行われてよい。なお、組成物を調製するための混練と、溶融紡糸を行うための混練とは、一段階の工程として連続して行われてもよいし、別々の工程として別個に行われてもよい。
【0068】
第2の遮熱性生地を構成する繊維は、
タングステン系赤外線吸収性顔料を含むモノフィラメントであってよく、
タングステン系赤外線吸収性顔料を含むモノフィラメントの複数から構成されるマルチフィラメントであってよく、或いは、
タングステン系赤外線吸収性顔料を含むモノフィラメントと、タングステン系赤外線吸収性顔料を含まないモノフィラメントから構成されるマルチフィラメントであってよい。
【0069】
第2の遮熱性生地は、上記のような繊維の、織物、編物、不織布等であってよい。
【0070】
〈第3の遮熱性生地〉
第3の遮熱性生地は、タングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維及びタングステン系赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されている、遮熱性生地である。
【0071】
第3の遮熱性生地は、タングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維及びタングステン系赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されているとの要件を満たすこと以外は、本発明の遮熱性生地と同じ形態であってよい。したがって、第3の遮熱性生地は、生地の厚み方向に貫通する孔(空間)を有し、その開口率が20%以上50%以下である。
【0072】
第3の遮熱性生地におけるタングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維は、第2の遮熱性生地におけるタングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維を同様であってよい。
【0073】
第3の遮熱性生地におけるタングステン系赤外線吸収性顔料を含まない繊維は、任意の材料から構成されるモノフィラメント又はマルチフィラメントであってよい。この繊維は、天然繊維、合成繊維、再生繊維、半合成繊維等から選択される1種又は2種以上の材料から構成される繊維であってよい。
【0074】
第2の遮熱性生地は、上記のような、タングステン系赤外線吸収性顔料を含む繊維及びタングステン系赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されている、織物、不織布等であってよい。
【0075】
《衣類》
本発明の別の観点によると、上記に説明した本発明の遮熱性生地を含む、衣類が提供される。
【0076】
本発明の衣類は、本発明の遮熱性生地のみから構成されていてもよいし、本発明の遮熱性生地と、遮熱性生地以外の生地とから構成されていてもよい。
【0077】
本発明の衣類は、例えば、
表地及び裏地から構成される部分を有する衣類であって、
表地が、本発明の遮熱性生地から構成されており、
裏地が、遮熱性生地以外の生地から構成されている、
衣類であってよい。
【0078】
ここで、裏地の遮熱性生地以外の生地は、タングステン系赤外線吸収性顔料を含まない生地であってよい。この裏地は、タングステン系赤外線吸収性顔料を含まない生地との要件を満たすこと以外の構成は任意である。
【0079】
裏地は、生地の厚み方向に貫通する孔(空間)を有していてもよいし、このような孔を有していなくてもよい。裏地は、例えば、天然繊維、合成繊維、再生繊維、半合成繊維等から選択される1種又は2種以上の材料から構成される、織物、編物、不織布等であってよい。
【0080】
表地及び裏地から構成される部分を有する衣類において、表地及び裏地から構成される部分以外の部分の構成は、任意である。この部分は、例えば、遮熱性生地又は遮光性生地以外の生地から構成される、裏地を有さない部分であってよく、表地及び裏地の双方が遮熱性生地から構成される部分であってよく、表地及び裏地の双方が遮熱性生地以外の生地から構成される部分であってよい。
【0081】
本発明の衣類は、例えば、シャツ、ワイシャツ、ブラウス、ポロシャツ、Tシャツ、カットソー、チュニック、スウェットシャツ、シャツワンピース、パーカー、ベスト、ブルゾン、パンツ(ズボン)、ショートパンツ、スカート、帽子、バンダナ、手袋、靴下等であってよい。
【実施例0082】
《赤外線吸収性スプレー液の調製》
赤外線吸収性顔料として、CWO(登録商標)YMDS-174(住友金属鉱山(株)製)5.0質量%(セシウム酸化タングステン(Cs0.33WO)1.0質量%及び分散剤4.0質量%に相当)、溶媒として、メチルエチルケトン(MEK)19.7質量%及び水75.3質量%を混合して、赤外線吸収性スプレー液を調製した。
【0083】
《比較例1》
(1)赤外線吸収性メッシュ生地の作製
メッシュ生地として、ポリエステル製のメッシュ生地(市販の洗濯ネット、開口率52%)を用い、その片面に上記で得られた赤外線吸収性スプレー液を吹き付けた後、風乾して、赤外線吸収性メッシュ生地を作製した。この赤外線吸収性メッシュ生地中の赤外線吸収性顔料の含有量は、赤外線吸収性メッシュ生地の全質量を100質量%としたときに、0.7質量%であった。
【0084】
(2)遮熱性の評価
上記で得られた赤外線吸収性メッシュ生地について、以下の方法によって遮熱性の評価を行った。
【0085】
実験机上に発泡スチロール製のボードを載置し、ボード表面から所定の距離(ギャップ)を隔てて、スプレー液吹き付け面を上側にして、赤外線吸収性メッシュ生地を水平に保持した。生地の上側表面の温度を測定できる位置にサーモカメラを設置し、生地直下のボード表面上に熱電対を設置した。この状態で、生地面に対して斜め上方45°の角度から風速1.0m/分の風を当てながら、ボード表面から300mm上方から125Wのレフランプを点灯した。点灯から3分後の生地の上側表面の温度をサーモカメラにより、生地直下の温度を熱電対により、それぞれ測定した。
【0086】
赤外線吸収性メッシュ生地の代わりに、赤外線吸収性スプレー液を吹き付けていない同種のメッシュ生地を用いて、上記と同様の操作を行い、レフランプ点灯から3分後の生地の上側表面上の温度をサーモカメラにより、生地直下の温度を熱電対により、それぞれ測定した。
【0087】
生地の上側表面上、及び生地直下のボード表面上における、赤外線吸収性メッシュ生地と、赤外線吸収性スプレー液を吹き付けていない同種のメッシュ生地との温度差を調べ、その温度差を、赤外線吸収性顔料の効果として評価した。
【0088】
以上の一連の操作を、ボード表面からメッシュ生地までの距離(ギャップ)を、10mm及び15mmとして、それぞれ行った。
【0089】
結果を表1に示した。
【0090】
《実施例1~3、及び比較例2》
メッシュ生地として、表1に記載の生地をそれぞれ用いた他は、比較例1と同様にして、遮熱性の評価を行った。
【0091】
結果を表1に示した。
【0092】
なお、比較例2で用いた開口率0%の綿生地はメッシュ生地ではないが、表1では、「メッシュ生地」の欄に記載した。
【0093】
【表1】
【0094】
表1において、スプレー液吹き付け有無の温度差は、これが正の値であれば赤外線吸収性顔料によって発熱の効果が得られたことを示し、負の値であれば赤外線吸収性顔料によって遮熱の効果が得られたことを示す。
【0095】
実施例2のメッシュ生地の素材が「ナイロン/ポリウレタン」であるとは、ナイロン84質量%及びポリウレタン16質量%から構成される混紡糸を用いて作製された生地であることを示す。
【0096】
また、表1における「CeWO」は、セシウム酸化タングステンを示す。
【0097】
表1によると、開口率52%のメッシュ生地を用いた比較例1、及び開口率0%の生地を用いた比較例2では、生地への赤外線吸収性スプレー液の吹き付けにより、発熱効果のみが得られている。
【0098】
これに対して、開口率が20%以上50%以下のメッシュ生地を用いた実施例1~3では、生地への赤外線吸収性スプレー液の吹き付けにより、遮熱効果が見られた。特に、開口率が30%以上50%以下の実施例1及び2では、生地と温度測定箇所との距離が、10mmである場合及び15mmである場合の双方に遮熱効果がみられ、遮熱素材として有効であることが検証された。