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  • 特開-シミュレーションプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165409
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】シミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
G05B23/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081587
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇佐川 順之
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA23
3C223BA01
3C223BB17
3C223CC01
3C223EB03
3C223FF33
3C223FF35
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH03
3C223HH08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】脱調する可能性が高い制御を行っていないかを可視化できるシミュレーションプログラムを提供する。
【解決手段】コンピュータ1は、制御部2と、記憶部3と、操作部4と、表示部5と、を備える。制御部2は、記憶部3に記憶されているシミュレーションプログラムP1を実行することで、シミュレーションを実行し、シミュレーション結果を表示部5に表示させる。記憶部3は、シミュレーションプログラムP1と、定数データD1を記憶し、コンピュータに、モータ制御システムの動作をシミュレーションさせる。モータ制御システムは、モータと、モータを駆動するモータドライバと、を含み、定数データD1は、モータの定数と、モータドライバの定数と、を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、モータ制御システムの動作をシミュレーションさせるように構成されているシミュレーションプログラムであって、
前記コンピュータに、前記モータ制御システムの脱調しやすさを示す脱調指数を表示させるための表示信号を生成させるように構成されている、シミュレーションプログラム。
【請求項2】
前記モータ制御システムは、モータのステータコイルで発生する誘起電圧に基づいてロータの回転位置を検出するように構成されている、請求項1に記載のシミュレーションプログラム。
【請求項3】
前記表示信号は、前記モータ制御システムの動作のシミュレーション結果と前記脱調指数とを同一画面に表示させるための信号である、請求項1に記載のシミュレーションプログラム。
【請求項4】
前記表示信号は、前記脱調指数をグラフ表示させるための信号である、請求項1~3のいずれか一項に記載のシミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書中に開示されている発明は、シミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
モータの挙動のうち、「脱調」という現象がある。「脱調」とは、モータの回転を制御する制御信号に対して実際のモータの回転が追従できなくなってモータが制御不能となることである。
【0003】
モータ制御システムの定数の設定によって、概ね実機と同様のシミュレーションが可能となる。したがって、シミュレーションでも脱調したことが判別できる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-223569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、シミュレーションでは脱調しない限界近くでモータ制御システムが動作している場合、シミュレーションでは脱調していないが、実機では脱調してしまうことがある。
【0006】
例えば、モータ目標回転速度V0を図1に示すように設定した場合に、シミュレーションにおいて脱調が発生してモータ回転速度V1が図1に示すようにモータ目標回転速度V0に追従できなければ、モータ制御システムの定数の修正が試みられる。例えば、モータ回転加速度が制限される修正が試みられ、モータ目標回転速度V0が図2に示すようにモータ目標回転速度V0’に修正されると、シミュレーションにおいて脱調が発生しなくなり、モータ回転速度V1が図2に示すようにモータ目標回転速度V0’に追従する。しかしながら、モータ目標回転速度V0’で実機が動作するときに実機が脱調してしまうことがある。なお、図1及び図2の各グラフにおいて、横軸は時間を示しており、縦軸は回転速度を示している。
【0007】
上記のようなシミュレーションでの動作と実機での動作との齟齬を無くすには、実機に近いシミュレーションモデルを構築する必要がある。
【0008】
ところが、実機に近いシミュレーションモデルを構築する場合、計測しにくい数値、動的に変化する数値など(例えば温度により変化するような粘性係数、完全に二乗に比例していない風損係数など)の設定が必要となり、手軽に大まかに現実世界の挙動をコンピュータ内で確認できるというシミュレーションの利点が損なわれる。
【0009】
なお、特許文献1で開示されているモータドライバ評価ツールを用いた評価によって実機での確認が容易にはなる。しかしながら、特許文献1で開示されているモータドライバ評価ツールを用いた評価は手軽さの点でシミュレーションには及ばない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のシミュレーションプログラムは、コンピュータに、モータ制御システムの動作をシミュレーションさせるように構成されている。前記シミュレーションプログラムは、前記コンピュータに、前記モータ制御システムの脱調しやすさを示す脱調指数を表示させるための表示信号を生成させるように構成されている。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、脱調する可能性が高い制御を行っていないかを可視化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、モータ回転速度の時間推移のシミュレーション結果を示すグラフである。
図2図2は、モータ回転加速度が制限された場合におけるモータ回転速度の時間推移のシミュレーション結果を示すグラフである。
図3図3は、コンピュータの概略構成を示す図である。
図4図4は、コンピュータの概略動作を示すフローチャートである。
図5図5は、モータ回転速度のシミュレーション結果及び脱調指数の時間推移の第一表示例を示すグラフである。
図6図6は、モータ回転速度のシミュレーション結果及び脱調指数の時間推移の第二表示例を示す図である。
図7図7は、モータ回転速度のシミュレーション結果及び脱調指数の時間推移の第三表示例を示す図である。
図8図8は、モータ回転速度のシミュレーション結果及び脱調指数の時間推移の第四表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図3は、実施形態に係るコンピュータ1の概略構成を示す図である。コンピュータ1の代表例としてはパーソナルコンピュータが想定される。ただし、コンピュータ1は、パーソナルコンピュータに限定されることはなく、例えばサーバー、クラウドコンピュータ等であってもよい。
【0014】
コンピュータ1は、制御部2と、記憶部3と、操作部4と、表示部5と、を備える。
【0015】
制御部2は、例えばCPU(Central Processing Unit)によって構成される。制御部2が記憶部3に記憶されているシミュレーションプログラムP1を実行することで、シミュレーションが実行される。そして、制御部2の制御によって、シミュレーション結果が表示部5に表示される。
【0016】
記憶部3は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等によって構成される。記憶部3は、シミュレーションプログラムP1と、定数データD1を記憶する。シミュレーションプログラムP1は、コンピュータに、モータ制御システムの動作をシミュレーションさせるように構成されている。モータ制御システムは、モータと、モータを駆動するように構成されたモータドライバと、を含む。定数データD1は、モータの定数と、モータドライバの定数と、を含む。
【0017】
本実施形態では、モータ制御システムは、モータのステータコイルで発生する誘起電圧に基づいてロータの回転位置を検出するように構成されている。ただし、モータ制御システムは、ロータの回転位置を検出するセンサ(例えばホールセンサ等)を備える構成であっても構わない。モータ制御システムは、モータのステータコイルで発生する誘起電圧に基づいてロータの回転位置を検出するように構成されている場合、ロータの回転位置を検出するセンサを備える構成と比較して、モータの定数への依存性が強くなり、ロバスト性の劣化が懸念される。したがって、モータ制御システムがモータのステータコイルで発生する誘起電圧に基づいてロータの回転位置を検出するように構成されていれば、脱調する可能性が高い制御を行っていないかを可視化できるメリットが大きくなる。
【0018】
操作部4は、例えばキーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル等によって構成される。ユーザが操作部4を操作することによって、例えば定数データD1がコンピュータ1に入力される。定数データD1がコンピュータ1に入力されると、制御部2は定数データD1を記憶部3に記憶させる。
【0019】
表示部5は、例えば液晶表示装置等によって構成される。表示部5は、制御部2から出力される表示信号に基づく表示を行う。
【0020】
図4は、コンピュータ1の概略動作を示すフローチャートである。ユーザが操作部4に対してシミュレーションプログラムP1の起動を指示する操作を行うと、制御部2は、図4に示すフロー動作を開始し、記憶部3に記憶されているシミュレーションプログラムP1を起動させる。
【0021】
まず制御部2は、シミュレーションに必要な定数データD1の入力をユーザに促す表示を表示部5に表示させ、ユーザの操作部4に対する操作によって定数データD1が入力されると、定数データD1を記憶部3に記憶させる(ステップS1)。
【0022】
次に制御部2は、モータ制御システムの動作に関するシミュレーションを実行する(ステップS2)。制御部2は、シミュレーションを実行する際に、モータ制御システムの脱調しやすさを示す脱調指数を演算する。
【0023】
モータ制御システムでは、検出したロータの回転位置と、モータ目標回転速度から導出されるロータの目標回転位置との差Δθを求め、この差Δθがゼロになるようにモータドライバがモータを駆動することでモータ回転速度をモータ目標回転速度に近づけている。
本実施形態では、差Δθが一定値以上となる連続回数に応じた数値を脱調指数としている。脱調指数が大きいほど、モータ制御システムは脱調しやすくなる。
【0024】
例えば、差Δθが一定値α以上となる連続回数がβであるときの脱調指数をγとする場合、Δθが一定値α以上となる連続回数がN×βであるときの脱調指数はN×γとする。なお、差Δθが一定値α以上であるか否かは一定周期毎に確認される。
【0025】
差Δθの演算方法としては公知の方法が様々あるが、本実施形態では、モータ制御システムがベクトル制御を行うように構成されており、差Δθが下記の数式によって演算される。
【数1】
【0026】
本実施形態では、上述した通り、差Δθが一定値以上となる連続回数に応じた数値を脱調指数としているが、これはあくまで一例であって、脱調指数がモータ制御システムの脱調しやすさを示すものになるのであれば、脱調指数は差Δθが一定値以上となる連続回数に応じた数値以外であってもよい。
【0027】
次に制御部2は、脱調指数を表示させるための表示信号を生成して表示部5に出力する。より詳細には、制御部2は、モータ制御システムの動作のシミュレーション結果と脱調指数とを同一画面にグラフ表示させるための表示信号を生成して表示部5に出力する。そして、表示部5は、制御部2から出力される表示信号に基づく表示を行う。つまり、表示部5は、シミュレーション結果及び脱調指数を表示する(ステップS3)。ステップS3での表示が完了すると、コンピュータ1はシミュレーションプログラムP1に基づく動作を終了する。
【0028】
図5は、モータ回転速度のシミュレーション結果及び脱調指数の時間推移の第一表示例を示す図である。図6は、モータ回転速度のシミュレーション結果及び脱調指数の時間推移の第二表示例を示す図である。図7は、モータ回転速度のシミュレーション結果及び脱調指数の時間推移の第三表示例を示す図である。
【0029】
図5図7の各シミュレーション結果は、図2に同様に、モータ目標回転速度V0がモータ目標回転速度V0’に修正された条件でのシミュレーション結果である。
【0030】
図6では、図5よりもモータ回転加速度が厳しく制限されている。したがって、図6では、図5よりもモータ目標回転速度V0’の傾きの最大値が小さくなっている。その結果、図6では、図5よりも脱調指数SOE1が過渡的に大きくなる期間が短くなる。
【0031】
図7では、図6よりもモータ回転加速度が厳しく制限されている。したがって、図7では、図6よりもモータ目標回転速度V0’の傾きの最大値が小さくなっている。その結果、図7では、図5及び図6とは異なり、脱調指数SOE1が過渡的に大きくなる期間がゼロになる。
【0032】
本実施形態のように、脱調指数を表示させるための表示信号が生成されることによって、脱調する可能性が高い制御を行っていないかを可視化できる。また、モータ制御システムの動作のシミュレーション結果と脱調指数とが同一画面に表示されることで、モータ制御システムの動作と脱調する可能性との関連性をユーザが把握することが容易になる。さらに、脱調指数がグラフ表示されることで、脱調指数の時間推移(時間経過に伴う変化)をユーザが把握することが容易になる。
【0033】
なお、例えば図5に示す第一表示例の代わりに、図8に示す第四表示例の表示が行われてもよい。図8に示す第四表示例は、図5に示す第一表示例に脱調指標の数値、より詳細には脱調指標のワースト値の表示を追加したものである。図8に示す第四表示例とは異なり、脱調指標の数値は、脱調指数のグラフ表示と一緒に表示されなくてもよく、シミュレーション結果のグラフ表示及び脱調指数のグラフ表示と一緒に表示されなくてもよい。
【0034】
<付記>
上述の実施形態にて具体的構成例が示された本開示について付記を設ける。
【0035】
本開示のシミュレーションプログラム(P1)は、コンピュータ(1)に、モータ制御システムの動作をシミュレーションさせるように構成されているシミュレーションプログラムであって、前記コンピュータに、前記モータ制御システムの脱調しやすさを示す脱調指数を表示させるための表示信号を生成させるように構成されている構成(第1の構成)である。
【0036】
上記第1の構成のシミュレーションプログラムにおいて、前記モータ制御システムは、モータのステータコイルで発生する誘起電圧に基づいてロータの回転位置を検出するように構成されている構成(第2の構成)であってもよい。
【0037】
上記第1又は第2の構成のシミュレーションプログラムにおいて、前記表示信号は、前記モータ制御システムの動作のシミュレーション結果と前記脱調指数とを同一画面に表示させるための信号である構成(第3の構成)であってもよい。
【0038】
上記第1~第3いずれかの構成のシミュレーションプログラムにおいて、前記表示信号は、前記脱調指数をグラフ表示させるための信号である、構成(第4の構成)であってもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 コンピュータ
2 制御部
3 記憶部
4 操作部
5 表示部
D1 定数データ
SOE1 脱調指標
V0、V0’ モータ目標回転速度
V1 モータ回転速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8