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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165415
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】電動機制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/12 20160101AFI20241121BHJP
   H02P 6/28 20160101ALI20241121BHJP
【FI】
H02P21/12
H02P6/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081598
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】日本キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】柴山 武至
(72)【発明者】
【氏名】内山 嘉隆
【テーマコード(参考)】
5H505
5H560
【Fターム(参考)】
5H505AA06
5H505BB04
5H505DD03
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505LL14
5H505LL22
5H560AA02
5H560BB04
5H560BB12
5H560BB17
5H560DA14
5H560DB12
5H560DC12
5H560EB01
5H560RR01
5H560TT15
5H560UA05
5H560UA06
5H560XA02
5H560XA04
5H560XA12
5H560XA13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】キャリアに三角波のみを使用して、磁極位置推定のSN比を十分に確保しつつ、騒音を抑制できる電動機制御装置を提供する。
【解決手段】3相のPWM信号パターンを生成するPWM信号生成部、電流検出素子に発生した信号とPWM信号パターンとに基づき相電流を検出する電流検出部、2相のそれぞれ2回検出した電流値の差を電流変化量として出力する電流変化量検出部、電流変化量に基づき磁極位置を推定する磁極位置推定部を備え、PWM信号生成部は三角波を搬送波とし、電流検出部がPWM信号の搬送波周期内の4点のタイミングで2相の電流をそれぞれ2回検出できるように3相のPWM信号パターンを生成し、インバータ部の出力電圧のセクタ毎に変化する各相デューティ比の大小関係にて、最大相は搬送波周期の任意の位相を基準として進み側又は遅れ側の一方向に、中間相は搬送波周期の任意の位相を基準として最大相とは逆方向にシフトさせる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相ブリッジ接続された複数のスイッチング素子を所定のPWM信号パターンに従いオンオフ制御することで、直流を3相交流に変換する電動機を駆動するインバータ回路と、
このインバータ部の電流値に対応する信号を発生する電流検出素子と、
前記電動機の磁極位置に追従するように3相のPWM信号パターンを生成するPWM信号生成部と、
前記電流検出素子に発生した信号と前記PWM信号パターンとに基づいて、前記電動機の相電流を検出する電流検出部と、
3相のうち2相のそれぞれについて、2回検出した電流値の差を電流変化量として出力する電流変化量検出部と、
前記電流変化量に基づいて、前記電動機の磁極位置を推定する磁極位置推定部とを備え、
前記PWM信号生成部は、三角波を搬送波として使用し、
前記電流検出部が、前記PWM信号の搬送波周期内における4点のタイミングで、2相の電流をそれぞれ2回検出できるように3相のPWM信号パターンを生成し、
前記3相のPWM信号のうち、前記インバータ部の出力電圧のセクタ毎に変化する各相デューティ比の大小関係において、デューティ比が最大となる最大相については、前記搬送波周期の任意の位相を基準として進み側又は遅れ側の一方向に、デューティ比が中間となる中間相については、前記搬送波周期の任意の位相を基準として前記最大相とは逆方向にシフトさせる第1のシフト方法を実行する電動機制御装置。
【請求項2】
前記PWM信号生成部は、前記第1のシフト方法によりシフトさせた3相のPWM信号のうち、少なくとも1相のPWM信号について、前記セクタの前回値のパルスシフト方向と、前記セクタの今回値のパルスシフト方向とが等しくなるようにPWM信号を生成する請求項1記載の電動機制御装置。
【請求項3】
前記電流検出素子は、前記インバータ回路の直流側に接続され、
前記PWM信号生成部は、前記3相のPWM信号のうち、前記セクタ毎に変化するデューティ比の大小関係において、最大及び中間相を、前記搬送波周期の任意の位相を基準として進み側又は遅れ側の一方向にシフトさせる第2のシフト方法が実行可能であり、
前記PWM信号生成部は、制御周期毎に、前記第1のシフト方法と前記第2のシフト方法とを交互に実行する請求項1又は2記載の電動機制御装置。
【請求項4】
前記PWM信号生成部は、前記第2のシフト方法について、前記3相のPWM信号のうち、前記セクタ毎に変化するデューティ相の大小関係において、前記最大相のシフト量を前記中間相のシフト量よりも大きく設定する請求項3記載の電動機制御装置。
【請求項5】
前記電流検出素子に発生した信号を増幅して、前記電流変化量検出部に出力する増幅器を備える請求項1又は2記載の電動機制御装置。
【請求項6】
前記電流検出素子に発生した信号を増幅して、前記電流変化量検出部に出力する増幅器を備える請求項3記載の電動機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インバータ回路により駆動される電動機の各相電流に基づいて、電動機の磁極位置を推定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ロータに永久磁石を用いた永久磁石電動機、DCブラシレスモータを適切に制御するために磁極位置の検出が行われている。磁極位置の検出とは、電動機の電気角座標上の位置である電気角位相を検出することである。磁極位置の検出には、ロータリーエンコーダやレゾルバ、ホール素子等の位置センサを用いる方法もある。しかし、コストや構造上の制約の点から、位置センサを設けることができない場合もある。例えば、冷凍サイクル用の圧縮機モータの場合には、密閉容器からなる圧縮機の内部の冷媒充填空間内に電動機が内蔵されるため、位置センサを取付けることができない。
【0003】
そこで、位置センサを用いずに、電流や電圧情報から磁極位置を推定する手法がある。このような手法には、例えば、誘起電圧利用型と、インダクタンス利用型とがある。誘起電圧利用型は、電動機の速度に比例する誘起電圧を電動機への入力電圧及び電流より演算し、この誘起電圧に基づいて磁極位置を推定する手法である。この手法は、電動機の回転により発生する誘起電圧が、磁極位置である電動機の電気角に応じて変化することを利用している。
【0004】
誘起電圧利用型は、電動機の回転数が高い高速領域では十分な精度が得られる。しかし、回転数が低い低速領域では、誘起電圧の振幅が小さくなるか発生しないため、停止時や低速時には正確な推定ができない。
一方、インダクタンス利用型は、電動機のインダクタンスを電流や電圧情報から算出し、磁極位置を推定する手法である。この手法は、電動機のインダクタンスが、電動機の電気角に応じて2倍の周期で変化することを利用している。インダクタンス利用型の推定方法として、例えば、駆動周波数に関係しないセンシングのための交流電圧信号を電動機に印加し、電圧と電流の関係から磁極位置を推定する方法が幾つか提案されている。
【0005】
このようにしてインダクタンスを求めるために印加する交流電圧信号の周波数は、キャリア周波数以下の数100Hz~数kHz程度であるが、人の可聴域に電動機の電流リップル周波数が入るため騒音が増加してしまう。
この問題に対処するため、特許文献1では、3相のPWM信号パターンのうち1相については、搬送波周期の任意の位相を基準として遅れ側、進み側の双方向にデューティを増減させ、他の1相については搬送波周期の任意の位相を基準として遅れ側、進み側の一方向にデューティを増減させ、残りの1相については搬送波周期の任意の位相を基準として前記方向とは逆方向にデューティを増減させることで、高調波電流振幅を発生させ、騒音を抑制しながら磁極位置を推定する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-126565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように3相のPWM信号パターンを生成する方法では、搬送波周期内における固定された4点のタイミングで3相の電流をそれぞれ2回検出してそれらの差分値を求め、電流変化量に基づいて電動機の推定磁極位置を求める。よって、この方法は、突極比が小さい、又はインダクタンスが大きいという電動機の電気的特性に依存することなく、ゼロ速度を含む極低速領域においても、位置センサレス方式により推定磁極位置を精度良く求めることが可能で、様々な電動機に容易に適用できるという利点がある。
【0008】
しかしながら、3相のPWM信号を生成する処理では、各相で異なる波形のキャリアを使用することで各相のパルスを伸長させる方向を変更している。例えば、V相キャリアは三角波であり、U相キャリアは下降する鋸歯状波であり、W相キャリアはU相に対して逆相となる上昇する鋸歯状波である。そして、これらの位相は、U相キャリアの振幅レベルが最小となり、V相キャリアの振幅レベルが最大、W相キャリアの振幅レベルが最大となる位相が一致するように出力される。
【0009】
このため、実用化を想定すると、各相についてこれらのキャリアを生成可能なマイコンを使用する必要がある。これが、既存システムのソフトウェアを更新する必要や、製品開発時にマイコンを選定する際に制約となり、様々なシステムに対して汎用的に適用することを困難にしている。
【0010】
そこで、キャリアに三角波のみを使用して、磁極位置推定のSN比を十分に確保しつつ、騒音を抑制できる電動機制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態の電動機制御装置によれば、3相ブリッジ接続された複数のスイッチング素子を所定のPWM信号パターンに従いオンオフ制御することで、直流を3相交流に変換する電動機を駆動するインバータ回路と、
このインバータ部の電流値に対応する信号を発生する電流検出素子と、
前記電動機の磁極位置に追従するように3相のPWM信号パターンを生成するPWM信号生成部と、
前記電流検出素子に発生した信号と前記PWM信号パターンとに基づいて、前記電動機の相電流を検出する電流検出部と、
3相のうち2相のそれぞれについて、2回検出した電流値の差を電流変化量として出力する電流変化量検出部と、
前記電流変化量に基づいて、前記電動機の磁極位置を推定する磁極位置推定部とを備え、
前記PWM信号生成部は、三角波を搬送波として使用し、
前記電流検出部が、前記PWM信号の搬送波周期内における4点のタイミングで、2相の電流をそれぞれ2回検出できるように3相のPWM信号パターンを生成し、
前記3相のPWM信号のうち、前記インバータ部の出力電圧のセクタ毎に変化する各相デューティ比の大小関係において、デューティ比が最大となる最大相については、前記搬送波周期の任意の位相を基準として進み側又は遅れ側の一方向に、デューティ比が中間となる中間相については、前記搬送波周期の任意の位相を基準として前記最大相とは逆方向にシフトさせる第1のシフト方法を実行する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態であり、電動機制御装置の構成を示す機能ブロック図
図2】電流検出器の具体構成例を示す図(その1)
図3】電流検出器の具体構成例を示す図(その2)
図4】PWM生成部の内部構成を示す機能ブロック図
図5】一般的な三角波比較法により生成される3相のPWM信号パルス及びモータ電流を示す図
図6】第1実施形態において位相がシフトされた3相のPWM信号パルス及びモータ電流を示す図
図7】位相をシフトする前の3相のデューティ指令値を示す図
図8】位相をシフトした後の3相のデューティ指令値を示す図
図9】電気角1周期における三角波キャリアとセクタ毎の各相パルス、電流検出タイミングを示す図
図10】電圧ベクトルV0~V7とセクタ0~5との関係を示す図
図11】互いに120度の位相差を有し、直流オフセット量が等しい3つの電流変化量が得られるセクタ毎の電流検出パターンを示す図(その1)
図12】互いに120度の位相差を有し、直流オフセット量が等しい3つの電流変化量が得られるセクタ毎の電流検出パターンを示す図(その2)
図13】永久磁石電動機に対し、本実施形態によるPWM信号パターンを印加した場合の電流変化量、出力電圧のセクタ、3相ゲート信号、及び電流検出タイミングを示す図
図14】セクタ0の場合におけるベクトル制御の処理内容を示すタイミングチャート
図15図14に示す処理(7)~(9)に対応するフローチャート(その1)
図16図14に示す処理(7)~(9)に対応するフローチャート(その2)
図17図14に示す処理(10)に対応するフローチャート
図18】制御周期内における電流検出タイミングT1~T4を示す図
図19】第2実施形態であり、パルスシフト方式を示すタイミングチャート
図20】第3実施形態であり、電流検出器の具体構成例を示す図
図21】第1のシフト方法と、第2のシフト方法とを示すタイミングチャート
図22】第1のシフト方法と、第2のシフト方法とを交互に切り換えて実行する場合を示すタイミングチャート
図23図22に示す処理に対応するフローチャート(その1)
図24図22に示す処理に対応するフローチャート(その2)
図25】制御周期内における電流検出タイミングT1~T4を示す図
図26】第4実施形態であり、電動機制御装置の構成を示す機能ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の電動機制御装置を含むシステムの構成を示す機能ブロック図である。速度制御部1は、入力される速度指令値ωrefと、磁極位置推定部10より得られる推定速度ωとの差分についてPI制御又はPID制御を行うことで、インバータ部5から電動機6へのq軸の電流指令値Iqrefを生成する。また、速度制御部1は、弱め界磁制御のためのd軸の電流指令値Idrefを、直流電圧VDCとdq軸の電圧振幅Vdqとについて、例えば同様に両者の差をPI制御等して生成する。
【0014】
電流制御部2は、電流指令値Iqref及びIdrefと、3相→dq座標変換部9より与えられるd軸電流Id、q軸電流Iqとの差分についてPI制御又はPID制御を行うことにより、d軸の電圧指令値Vd、q軸の電圧指令値Vqを生成する。3相→dq座標変換部9は、磁極位置推定部10により推定された磁極位置θに基づいて、電流検出器7を介して相電流及び電流変化量検出部8により検出された検出電流値Iu_detect、Iv_detect及びIw_detectを、dq軸電流Id及びIqに変換する。dq→3相座標変換部3は、前記磁極位置θに基づいて、d軸及びq軸電圧指令値Vd及びVqを、3相電圧指令値Vu、Vv及びVwに変換する。磁極位置推定部10は、後述する原理により、相電流及び電流変化量検出部7で検出された互いに120度の位相差を有する3つの電流変化量dIx_Vn,dIx_Vm及びdIy_Vm(x,y=u,v,w:n,m=1,3,5)に基づいて磁極位置θを推定する。
【0015】
PWM生成部4は、3相電圧指令値Vu、Vv及びVwに基づいて3相ハイ側及びロウ側のPWM信号U±,V±及びW±を生成し、インバータ部5にゲート駆動信号を出力する。インバータ部5は、供給された直流電源と与えられたゲート駆動信号に基づいて、電動機6を駆動する3相交流電圧を発生させる。PWM生成部4、インバータ部5の構成の詳細については、後述する。
【0016】
電流検出素子に相当する電流検出器7は、電動機6に流れる各相電流を検出し、その検出結果に応じた信号をするもので、例えば、シャント抵抗やCT(Current Trans)を用いることができる。電流検出器7は、図2に示すように、CTを用いてインバータ部5の出力部に直列に設置される場合と、図3に示すように、シャント抵抗を用いてインバータ部5の下側スイッチング素子と直流電源の下側との間に設置される場合がある。相電流及び電流変化量検出部8は、PWM生成部4より得られる、PWMキャリアの搬送波周期に同期した電流検出タイミング信号に基づいて、電流検出器7に発生する各相電流信号をA/D変換して検出する。この相電流の検出処理の詳細も後述する。
【0017】
インバータ部5は、図2及び図3に示すように、複数のスイッチング素子が3相ブリッジ接続され、これらのスイッチング素子がPWM信号パターンに従ってオンオフ制御されることで、直流を3相交流に変換する。インバータ部5は、ダイオードが並列に接続されたスイッチング素子である一対の単位セルが直列に接続され、一方のセルが直流電源11から見て正側、他方のセルが負側となっている。スイッチング素子としては、MOSFET、IGBT、パワートランジスタ、SiC、GaN等のワイドギャップ半導体等を使用することができる。
【0018】
一対の単位セルは、3相に対応した3つが直流電源11に並列に接続されている。以下、正側の単位セルを上アーム、負側の単位セルを下アームとする。また、「上アーム」を「正側のアーム」、「下アーム」を「負側のアーム」と読み替えても同義である。さらに、上アームと下アームとの接続点はインバータ部5の各相出力端子となり、DCブラシレスモータからなる電動機6に接続されている。
【0019】
電流検出器7にCTを用いると、スイッチング素子のオンオフ状態の影響を受けずに電流を検出できる。電流検出器7にシャント抵抗を用いると、スイッチング素子のオンオフ状態の影響を受け、下アームのスイッチング素子がオンの時に電流を検出できる。以降では、CTよりも制約があるシャント抵抗を用いた電流検出を例に説明する。
【0020】
PWM生成部4は、図4に示すように、デューティ生成部12及びパルス形成部13を有している。デューティ生成部12は、3相電圧指令値Vu、Vv及びVw及び直流電源の電圧値VDCに基づいて、各相PWM信号のパルス幅の割合であるデューティ比を決定する。パルス形成部13は、各相のデューティ比に基づいて、インバータ部5のスイッチング素子を駆動するゲート駆動信号として、各相のPWM信号パターンを生成する。このPWM生成部4の処理の詳細についても後述する。以上が電動機制御装置14を構成している。
【0021】
次に、本実施形態の作用について説明する。相電流及び電流変化量検出部8は、入力される電流検出タイミング信号に基づいて、電流検出器7が出力する各相電流信号を、1搬送波周期内で2種の電圧ベクトルが発生している期間にそれぞれ2回検出する。つまり、各相電流信号を、1搬送波周期内で4回検出する。1つの電圧ベクトルの区間に1相分、他の1つの電圧ベクトルの区間に上記の1相分と他の1相分の合計2相分の検出を行うため、相単位での検出回数は、図9に示すように合計6となる。尚、電流信号を検出する相は、電圧ベクトルで区分されるセクタによって異なる。
【0022】
相電流及び電流変化量検出部8は、1つの電圧ベクトルVnの区間で検出した1相分xの2つの電流変化量dIx_Vn、他の1つの電圧ベクトルVmの区間で検出した2相分x、yの2つの電流変化量dIx_Vm、dIy_Vmを求めて、磁極位置推定部10に出力する。ここで、x、yは電流信号の検出相であるu、v、wの何れか、n、mは電圧ベクトル1、3、5の何れかである。また、相電流及び電流変化量検出部8は、3相電流の総和はゼロであることから、2相分の電流信号に基づき3相の電流信号Iu_detect、Iv_detect及びIw_detectを求めて3相→dq座標変換部9に出力する。2相分の電流信号は、搬送波一周期内の6回の検出の何れか、例えば2相分の電流信号を検出する電圧ベクトルの区間の最初の検出値を使用する。
【0023】
磁極位置推定部10は、互いに120度の位相差を有する3つの電流変化量を用いて推定磁極位置θを演算する。また、3相→dq座標変換部9は、上記推定磁極位置θにより検出電流値Iu_detect、Iv_detect及びIw_detectをdq軸電流Id、Iqに変換し、電流制御部2に出力する。
【0024】
ここで、上記のようなパルス生成処理、電流検出処理及びこれを前提とした磁極位置推定処理の詳細を、図5から図18を参照して説明する。
[パルス生成処理]
先ず、PWM生成部4によるパルス生成処理について説明する。例えば、3相電圧指令値Vu、Vv及びVwがゼロで、3相のPWM信号パターンの各デューティが一律50%である場合、一般的な三角波比較法によるデューティ生成では、図5に示すような3相の信号パルスが得られる。この場合、各相パルスの発生基準位相とパルス幅が同一なので、インバータ部5のスイッチングは全相オン又は全相オフ状態に対応する。したがって、PWM制御の周期の1周期の全区間において、電動機6の各相端子間には電圧が印加されず、各相電流はゼロである。このような状態では、高周波電流振幅となる電流リップルが生じないため、電流検出に基づくインダクタンスを利用した磁極位置検出ができない。
【0025】
本実施形態では、3相電圧指令値Vu、Vv及びVwがゼロで、3相のPWM信号パターンの各デューティが一律50%である場合、図5とは異なり、各相パルスの発生位相を以下のようにシフトさせることで、電動機6にPWM制御の1周期において、搬送波周期成分の電圧が印加され、磁極位置検出が可能な高周波電流リップルが生じる。先ず、3相のPWM信号パターンについて、デューティ比が最大となる最大相、最小となる最小相、これらの中間となる中間相を判別する。尚、3相電圧指令値Vu、Vv及びVwがゼロで、3相のPWM信号パターンの各デューティが一律50%である場合でも、例えば電動機6の起動時において、セクタは初期値に設定されている。
【0026】
パルス生成処理の一例を図6に示す。図6では、PWMキャリアは三角波で、当該三角波の振幅最小値であるボトムを周期の中心位相としている。この例では、U相が最大相、V相が中間相、W相が最小相と仮定して、セクタの初期値がセクタ0時の各相上側スイッチング素子のゲート信号と、各相電流の波形とを示している。そして、最大相については、搬送波周期の任意の位相を基準として進み側もしくは遅れ側の一方向にシフトさせ、中間相については、搬送波周期の任意の位相を基準として最大相とは逆方向にシフトさせ、最小相についてはシフトさせない。尚、以下ではデューティ比を、単に「デューティ」と称する場合がある。
【0027】
3相全てのパルスは、前記中心位相を基準位相とする。U相パルスについては、U相パルスのみが発生する区間が生じるまで、図中右側である進み側にパルスの位相をシフトする。また、V相パルスについては、V相パルスのみが発生する区間が生じるまで、図中左側である遅れ側にパルスの位相をシフトする。この時、キャリア半周期毎にデューティ比の設定値を調整して、位相シフト前のパルス幅と位相シフト後のパルス幅は等しくする。
【0028】
U相パルスのみが発生する区間(6)は、U相とW相のパルス幅差が、電流変化量の検出期間と、W相のスイッチング素子がオン状態に変化した際の電流脈動の影響を無視できる一定期間;電流検出マスク期間との合計値となるように、U相パルスをシフトさせて設定する。同様に、V相パルスのみが発生する区間(2)は、V相とW相のパルス幅差が、電流変化量の検出期間と、V相のスイッチング素子がオン状態に変化した際の電流検出マスク期間との合計値となるように、V相パルスの位相をシフトさせて設定する。
【0029】
この場合、電動機6の各相端子間の電圧を考えると、図6に示す1周期内は6つの区間(1)~(6)に分けられる。区間(1)及び(4)は全相オン又は全相オフで、図5と同様に電動機6の各相端子間に電圧が印加されず、各相電流は変化しない。区間(2)ではV相のみがオンしているので電圧ベクトルはV3(010)(図10参照)であり、V→UW相間に直流電圧VDCが印加され、V相電流は電動機6のインダクタンスによる傾きで増加する。この時、U、W相端子には負電圧が印加されるので、U相電流、W相電流は減少する。
【0030】
これと同様に、区間(3)では電圧ベクトルV4(011)(図10参照)が与えられ、区間(5)では電圧ベクトルV6(101)(図10参照)が与えられ、区間(6)では電圧ベクトルV1(100)(図10参照)が与えられて電流が流れる。区間(1)~(6)を合計すると、各相デューティ比が一律50%であれば、各相電流の増加減少の結果として3相とも平均電流はゼロとなり、図5に示すPWM信号パターンと同様の相電流となるが、各相にキャリア周波数の電流リップルが生じる点が相違する。つまり、3相PWM信号のパルスの発生位相を図6に示すようにシフトさせることで、3相電流の平均値は変えずに、キャリア周波数の高周波電流振幅を与えることができる。
【0031】
次に、図6に示すパターンでPWM信号パルスを発生させる作用について、図7から図9を参照して説明する。dq→3相座標変換部3で決定された3相電圧指令値Vu、Vv、Vwは、検出した直流電圧値からデューティ生成部12により各相のデューティ値Du、Dv、Dwに変換される。各相デューティDu、Dv、Dwは、パルス形成部13に与えられ、搬送波とのレベルが比較されて3相のPWM信号が生成される。また、3相のPWM信号を反転させた下アーム側の信号も生成されて、必要に応じてデッドタイムが付加された後、各相のPWM信号U±、V±、W±がインバータ部5に出力される。
【0032】
本実施形態では、3相共通の三角波キャリアを使用し、セクタ毎(図9参照)に変化するデューティ比の大小関係において、最大相は、搬送波周期の任意の位相を基準として進み側もしくは遅れ側の一方向に、中間相については、搬送波周期の任意の位相を基準として最大相とは逆方向にシフトさせる。パルス形成部13では、各相デューティDu、Dv、Dwと各相キャリアとのレベルをそれぞれ比較して、(デューティ)>(キャリア)となる期間にハイレベルパルスを出力する。
【0033】
その結果、図8に示すように、セクタ0の場合、三角波キャリアのボトムを周期の基準位相として、U相のPWM信号パルスU+は、基準位相から図中右側である進み方向側にパルスがシフトする。V相のPWM信号パルスV+は、基準位相から図中左側である遅れ方向側にパルスがシフトする。W相のPWM信号パルスW+はシフトしない。
【0034】
[電流検出処理]
次に、相電流及び電流変化量検出部8による電流検出処理を説明する。相電流及び電流変化量検出部8は、PWM生成部4から電流検出タイミング信号が与えられており、電流検出タイミング信号に従い、3相の電流を検出する。この検出タイミングは、上記の通り、PWM信号のキャリア、搬送波1周期内において、各相デューティ幅差と電流変化量の検出期間と電流検出マスク期間とに基づいて算出された4点のタイミングであって、2種類の電圧ベクトル期間において、それぞれ相電流を2回検出するように設定される。
【0035】
図9に、電気角1周期における三角波キャリアとセクタ毎の各相パルス、電流検出タイミングを示し、図10に、電圧ベクトルV0からV7とセクタ0から5の関係を示す。電流検出は、搬送波1周期内で、3相電流を検出するタイミングT1、T2、T3、T4の信号が与えられて4回行う。例えば、三角波キャリアのカウント値の最大値からダウンカウントを開始して、カウント値がゼロに達する以前の期間内にタイミングT1,T2を設定し、カウント値がゼロに達してアップカウントに転じた後、カウント値が最大値に達する以前の期間内にタイミングT3,T4を設定する。
【0036】
相電流及び電流変化量検出部8は、このように検出タイミングを設定し、T1とT2の検出電流の差分値を求めることで、セクタ0の場合は電流変化量dIw_V3を演算する。同様に、T3とT4の検出電流の差分値を求めることで、電流変化量dIv_V1、dIw_V1を演算する。尚、差分時間T2-T1とT4-T3とは等しく設定する。図11及び図12は、互いに120度の位相差を有し、直流オフセット量が等しい3つの電流変化量が得られるセクタ毎の電流検出パターンを示しており、セクタの変化に併せて検出電流相を設定する。
【0037】
[磁極位置推定処理]
さらに、磁極位置推定部10による磁極位置の推定処理を説明する。図13は、一例として埋め込み磁石型永久磁石電動機に対し、本実施形態によるPWM信号パターンを印加した場合の電流変化量と、出力電圧のセクタと、3相ゲート信号、電流検出タイミングを示している。各電流変化量は、電気角1周期に対して2倍の2θに応じて変化しており、突極性を持つ電動機については、当該電動機の磁極位置を示す情報を含んでいる。このため、上記のように求めた3つの電流変化量から、セクタ0の場合は、以下の式により3相/2相変換を行い、逆正接演算を行うことで推定値であるθを求めることができる。
【0038】
【数1】
【0039】
ここで、(2)式より求めた推定位置θは、2θから分周したものであるため、原理的に±180°の誤差を持つ。したがって、電動機6を駆動する前の停止状態において上記のどちらかを判定するためには、初期位置を同定するアルゴリズムが必要となる。これについては、従来の公知技術である磁気飽和の特性を用いた方式にて判定を行う。本公知技術については、例えば下記の文献などの手法がある。
電気学会論文誌D(産業応用部門誌)Vol.125(2005),No.3「パルス電圧を用いた表面磁石同期モータの初期回転位置推定法」,山本修,荒隆裕
そして、推定位置を制御周期で時間微分することで推定速度ωを求める。
【0040】
[デューティ設定方法と電流検出タイミングの詳細]
図14に、セクタ0の場合におけるベクトル制御のタイミングチャートを示す。ベクトル制御は、図中に示す(1)~(10)の一連の処理によるもので、これらは図1に示した制御ブロック図に対応している。尚、(1)~(10)は図中の丸数字に対応する。以下では「今回の制御周期」を基準として説明する。(1)電流・直流電圧検出では、前回の制御周期の検出値を演算し、その後、キャリア周期の前半で(2)~(6)の順に、キャリア周期の後半で(7)~(9)の順に処理を実行する。
【0041】
(8)PWM出力設定(前半)及び(9)検出タイミング設定では、次回の制御周期のPWMパルスのデューティと電流検出タイミングとが演算される。今回の制御周期のエンドで、次回の制御周期のキャリア前半のPWMパルスを設定すると共に、次回の制御周期の電流・直流電圧検出タイミングを設定する。そして、次回の制御周期のキャリア前半では、時系列で最後の処理となる(10)PWM出力設定(後半)の処理を実行し、次回の制御周期のセンタで、次回の制御周期のキャリア後半のPWMパルスを設定する。
【0042】
(7)~(10)の処理については、図15及び図16のフローチャートで説明する。なお、(7)デューティ演算の処理の前半は、ベクトル制御の3相変調による3相デューティ演算処理で一般的であるため説明を省略する。図15は、(7)のデューティ演算の処理の後半と(8)及び(9)の処理に対応している。先ず、直前の(7)の処理の前半で得られた3相デューティを用いて、デューティ中間相と最小相、及びデューティ最大相と中間相のパルス幅差を(3)式で演算する(S1)。なお、デューティ最大相、中間相、最小相はセクタ毎に変化する。
パルス幅差1=(デューティ中間相-デューティ最小相)/2
パルス幅差2=(デューティ最大相-デューティ中間相)/2 …(3)
【0043】
次に、デューティ中間相のパルスの位相シフト量を(4)式で演算する(S2)。
デューティ中間相のパルスシフト量=パルスシフト量設定値+パルス幅差2 …(4)
ここで、パルスシフト量設定値は、図18に示すように、インバータ部5におけるスイッチングによる電流脈動の影響を考慮して設けた電流検出のマスク期間と、検出期間と残り期間との合計である。
【0044】
次に、デューティ最大相のパルスシフト量を演算する(S3)。パルス幅差1とパルス幅差2との合計値がパルスシフト量設定値以下の場合は、デューティ最大相のパルスシフト量を(5)式で求め、そうでない場合、位相シフト量はゼロとする。
デューティ最大相のパルスシフト量
=パルスシフト量設定値-(パルス幅差1+パルス幅差2) …(5)
【0045】
デューティ最大相をシフトさせると、最初に求めたデューティ中間相のシフト量にも影響が及ぶため、再計算する(S4)。パルス幅差1とパルス幅差2との合計値がデューティ最大相のパルスシフト量以下の場合、デューティ最小相との関係を考慮する必要があり、デューティ中間相のパルスシフト量は(6)式で再計算する。
デューティ中間相のパルスシフト量=パルスシフト量設定値-パルス幅差1 …(6)
上記の合計値が最大相のパルスシフト量を超えていれば、デューティ最大相をシフトさせた分だけデューティ中間相のパルスシフト量を減らす必要があるため、(7)式で再計算する。
デューティ中間相のパルスシフト量
=デューティ中間相のパルスシフト量-デューティ最大相のパルスシフト量 …(7)
尚、デューティ最小相はパルスシフトを行わない。
【0046】
以上より、デューティ最大相及び中間相のパルスシフト量が求められる。これらを用いて、キャリア前半及びキャリア後半のデューティを(8)式で演算する(S5、S6)。(8)式の右辺第2項の符号の正負によってパルスシフトの方向が変わるが、(8)式は、図9で定義されたパルスシフト方向の場合である。キャリア前半において、符号(-)はデューティが減少するので右方向にPWMパルスがシフトし、符号(+)はデューティが増加するので左方向にPWMパルスがシフトする。同様に、キャリア後半において、符号(+)はデューティが増加するので右方向にPWMパルスがシフトし、符号(-)はデューティが減少するので左方向にPWMパルスがシフトする。よって、(8)式において、キャリア前半とキャリア後半では、右辺第2項の符号の正負は逆になる。
【0047】
デューティ最大相(キャリア前半)
=デューティ最大相-デューティ最大相のパルスシフト量×2
デューティ中間相(キャリア前半)
=デューティ中間相+デューティ中間相のパルスシフト量×2
デューティ最大相(キャリア後半)
=デューティ最大相+デューティ最大相のパルスシフト量×2
デューティ中間相(キャリア後半)
=デューティ中間相-デューティ中間相のパルスシフト量×2 …(8)
ここまでが(7)のデューティ演算の処理である。
【0048】
続いて、(8)のPWM出力設定(前半)の処理で、最終的に三角波キャリアと比較するデューティ最大相及び中間相に、(7)で求めたデューティ最大相(キャリア前半)とデューティ中間相(キャリア前半)とを設定する(S7)。最小相はパルスシフトしないので、そのままである。そして、(9)の検出タイミング設定の処理で、図18に示す検出タイミングT1~T4を(9)式により設定する(S8)。
【0049】
T1=100%-(50%+デューティ中間相(キャリア前半)/2-検出マスク%
T2=100%-(T1-検出期間%)
T4=50%+デューティ最大相(キャリア後半)/2-残り期間%
T3=T4-検出期間% …(9)
尚、検出タイミングT1~T4はデューティ比(%)であり、「検出マスク%」や「検出期間%」等は、検出マスク時間、検出期間の長さに応じたデューティ比を示す。
【0050】
最後に、図17に示すように、(10)のPWM出力設定(後半)の処理で、最終的に三角波キャリアと比較するデューティ最大相及び中間相に、(7)で求めたデューティ最大相(キャリア後半)とデューティ中間相(キャリア後半)を設定する(S9)。
【0051】
以上のように本実施形態によれば、3相ブリッジ接続された複数のスイッチング素子を三角波キャリア比較により、セクタ毎に変化するデューティ比の大小関係において、最大デューティ相と中間デューティ相をお互いに逆方向にシフトさせたPWM信号パターンに従いオンオフ制御することで、直流を3相交流に変換するインバータ部5を介して電動機6を駆動する際に、PWM生成部4が、電動機6の磁極位置に追従するように3相のPWM信号パターンを生成する。
【0052】
そして、相電流及び電流変化量検出部8は、キャリア周期内における各相デューティ幅差と電流変化量の検出期間と電流検出マスク期間とに基づいて算出された4点のタイミングT1~T4で3相の電流をそれぞれ2回検出し、電流変化量を求める。磁極位置推定部10は、それらの電流変化量に基づいて電動機6の磁極位置θを推定する。特に、セクタ毎に変化する電圧ベクトルに応じて、磁極位置推定のための3つの電流変化量の検出ポイントをセクタ毎に切り替えるので、検出すべき2種の電圧ベクトルの領域を検出ポイントとすることができる。
【0053】
したがって、鋸歯状波と三角波とのキャリアの組み合わせを用いることなく、ゼロ速度を含む極低速領域においても、位置センサレス方式によって磁極位置θを精度良く推定することが可能になる。このため、本実施形態を様々なシステムに容易に適用することができる。
【0054】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態と同一部分は説明を省略し、異なる部分について以下に説明する。
第1実施形態は、図9に示すように、偶数セクタから奇数セクタへ移行する際に、デューティ最大相と中間相との両方が逆方向に位相シフトするため、同じ電圧ベクトルが連続して発生している。このため、電流リップルが大きくなってしまう。
【0055】
これに対して第2実施形態では、図19に示すように、破線で囲んだ部分を追加している。つまり、電気角2周期に亘ってPWMパルスの位相シフト方向を設定することで、セクタの切り替え時に同じ電圧ベクトルが連続して発生しないようにする。これにより、電流リップルを低減することができる。パルスの位相シフト方向は、(8)式の右辺第2項の符号を、図19に示すように、セクタの切り替えに応じて変更すれば良い。
【0056】
(第3実施形態)
第3実施形態は、図20に示すように、インバータ部5の直流側に挿入された、1つのシャント抵抗を使用する場合を示す。図21の上段に示すものは、PWMパルスのシフト方向は第1実施形態と同一であるが、磁極位置を推定するための電流検出相及び電流変化量の組み合わせは相違している。第1実施形態のように3つのシャント抵抗を使用する場合は、パルスがOFFの相の電流が検出可能で、第3実施形態のように1つのシャント抵抗を使用する場合は、パルスが一相だけON叉はOFFとなる相の電流のみが検出可能である。このため、第1実施形態と第3実施形態とでは、電圧ベクトルに対する電流検出相は異なり、また、図11に示す120度の位相差を有する電流変化量の組み合わせについても第3実施形態では異なる。
【0057】
図21に示すセクタ0について説明すると、電圧ベクトルV1、V3に加えて、電圧ベクトルV2が必要になる。しかし、第1実施形態のパルス発生方法では、電圧ベクトルV1、V2、V3を1制御周期内で同時に発生させて、電流変化量を検出することは困難である。そこで、第3実施形態では、図21の下段に示すように、デューティ最大相と中間相とを同一方向に位相シフトする方法を加え、この方法と第1実施形態のパルス発生方法とを、制御周期毎に交互に行う。図21の上段に示すものを第1のシフト方法、同下段に示すものを第2のシフト方法とする。図22は、これら2つのシフト方法を組み合わせて発生させたPWMパルスをセクタ0の場合について示したもので、制御周期毎に電流検出相と電圧ベクトルを切り替えることで、2制御周期で磁極位置を推定するための電流変化量の組み合わせが検出可能になる。
【0058】
図14に示すベクトル制御の処理(7)~(9)について、1つのシャント抵抗を適用する場合は、デューティ最大相と中間相を同一方向に位相シフトする方法を加える必要がある。図23及び図24に示すフローチャートは、(7)のデューティ演算の処理の後半と、(8)及び(9)の処理とに対応している。ステップS1と同様の処理を行うと(S11)、デューティ中間相のパルスの位相シフト量を求める(S12)。
【0059】
位相を同一方向にシフトさせるため、シフト量は第1実施形態よりも大きくなることから、先にデューティ中間相の位相シフト量を演算してから、デューティ最大相の位相シフト量を演算する。デューティ中間相と最小相のパルス幅差1がパルスシフト量設定値以下の場合、デューティ中間相のパルスシフト量は(10)式で求め、パルス幅差1がパルスシフト量設定値を超える場合、位相シフト量はゼロである。
デューティ中間相のパルスシフト量=パルスシフト量設定値-パルス幅差1…(10)
デューティ中間相の位相シフトによって、デューティ最大相と中間相のパルス幅差2は変更されるため、(11)式で再計算して更新する(S13)。
パルス幅差2=パルス幅差2-デューティ中間相のパルスシフト量 …(11)
【0060】
次に、デューティ最大相のパルスシフト量を演算する(S14)。再計算したパルス幅差2がパルスシフト量設定値以下の場合、デューティ最大相のパルスシフト量は(12)式で求め、パルス幅差2がパルスシフト量設定値を超える場合、位相シフト量はゼロである。
デューティ最大相のパルスシフト量=パルスシフト量設定値-パルス幅差2…(12)
以上より、デューティ最大相及び中間相のパルスシフト量を求めることができる。
【0061】
次に、これらを用いて、キャリア前半及びキャリア後半のデューティを(13)式で演算する(S15,S16)。同一方向への位相シフトのため、次式の右辺第2項の符号の正負の組み合わせは(8)式と異なる。
デューティ最大相(キャリア前半)
=デューティ最大相-デューティ最大相のパルスシフト量×2
デューティ中間相(キャリア前半)
=デューティ中間相-デューティ中間相のパルスシフト量×2
デューティ最大相(キャリア後半)
=デューティ最大相+デューティ最大相のパルスシフト量×2
デューティ中間相(キャリア後半)
=デューティ中間相+デューティ中間相のパルスシフト量×2 …(13)
【0062】
ここまでが(7)のデューティ演算の処理である。続いて、ステップS7と同様の処理を行うと(S17)、(9)の検出タイミング設定の処理で、図24に示す検出タイミングT1~T4を(14)式により設定する(S18)。
T2=50%+デューティ中間相(キャリア後半) /2-残り期間%
T1=T2-検出期間%
T4=50%+デューティ最大相(キャリア後半)/2-残り期間%
T3=T4-検出期間% …(14)
【0063】
以上が、1つのシャント抵抗を使用する場合に追加する同一方向へのPWMパルスの位相シフト方法であり、図15及び図16と、図23及び図24で示すベクトル制御の(7)~(9)のフローチャートの処理を、制御周期毎に交互に切り替えれば良い。
【0064】
(第4実施形態)
図26に示すように、第4実施形態の電動機制御装置21では、第1実施形態の電動機制御装置14における相電流及び電流変化量検出部8の機能ブロックを、相電流検出部22と電流変化量検出部23とに分けている。そして、電流変化量検出部23には、電流検出器7の検出出力を、増幅器24U,24V及び24により増幅して入力している。増幅器24は、例えば動作電源電圧が5Vであれば、2.5Vのオフセット電圧を付与してゲイン「2」等にする。
【0065】
電流検出器7は、電動機6の全速度域における最大出力を考慮して仕様が決定されるため、電流検出範囲が広く、微小な電流変化量を検出する場合は分解能が低下する。電流変化量に基づく磁極位置検出は、主に電動機6の低速時に用いるため、電流変化量の検出範囲は、電動機6の起動時や低速域における最大出力を考慮して決定すれば良い。このことから、ベクトル制御に使用する電動機6の相電流については、電流検出器7の出力信号をそのまま使用し、磁極位置推定に使用する電流変化量は、検出分解能を向上させるため、電流検出器7の出力信号を増幅して使用する。これにより、システムが大容量化し、電流検出器7の検出範囲が広くなる場合でも、電流変化量に基づく磁極位置推定が実施し易くなる。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
図面中、1は速度制御部、2は電流制御部、4はPWM生成部、5はインバータ回路、6は電動機、7は電流検出器、8は電流変化量検出部、9は3相→dq座標変換部、10は磁極位置推定部、14は電動機制御装置を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26