(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165419
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】状態量計測装置、状態量計測方法及び状態量計測プログラム
(51)【国際特許分類】
G01D 5/353 20060101AFI20241121BHJP
G01K 11/322 20210101ALI20241121BHJP
【FI】
G01D5/353 B
G01K11/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081605
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】十川 貴行
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 直樹
(72)【発明者】
【氏名】平 陽兵
(72)【発明者】
【氏名】今井 道男
(72)【発明者】
【氏名】岡本 圭司
【テーマコード(参考)】
2F056
2F103
【Fターム(参考)】
2F056CA01
2F103CA07
2F103EB02
2F103EB12
2F103EC09
2F103ED11
2F103FA02
(57)【要約】
【課題】光ファイバケーブルを利用してえる計測状態量の正確性、信頼性をさらに高める。
【解決手段】状態量計測装置は、第nのレイリー状態量を算出するとともに、第nのブリルアン状態量を算出する要素状態量算出部422と、第nのレイリー差分状態量を算出するとともに、第nのブリルアン差分状態量を算出する差分状態量算出部423と、第nの評価値を算出する評価値算出部424と、積上げ状態量を算出する積上げ状態量算出部425と、を備える。積上げ状態量算出部425は、第nの評価値を用いて第n-1の積上げ状態量に第nのレイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nのブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象物に設けられる光ファイバケーブルと、前記光ファイバケーブルに計測光を入射する光源部と、前記光源部が入射した計測光に応じた後方散乱光に関する光強度情報を得る受光部と、を有し、前記計測対象物におけるひずみ又は温度を示す計測状態量を得る状態量計測装置であって、
第nの光強度情報(nは1以上の整数)を取得する動作によって得た第nの前記光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報を利用して第nのレイリー状態量を算出するとともに、第nの前記光強度情報に含まれたブリルアン後方散乱光に基づく情報を利用して第nのブリルアン状態量を算出する要素状態量算出部と、
第nの前記レイリー状態量から第n-1の前記レイリー状態量へ変化したときの変化量である第nのレイリー差分状態量を算出するとともに、第nの前記ブリルアン状態量から第n-1の前記ブリルアン状態量に変化したときの変化量である第nのブリルアン差分状態量を算出する差分状態量算出部と、
第nの前記光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報と、基準となる前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報と、の相対的な関係を示す第nの評価値を算出する評価値算出部と、
第1の前記光強度情報を取得する動作から第nの前記光強度情報を取得する動作までに前記計測対象物における前記状態量の変化を示す値である前記計測状態量を算出する積上げ状態量算出部と、を備え、
前記積上げ状態量算出部は、第nの前記評価値を用いて第n-1の前記積上げ状態量に第nの前記レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の前記積上げ状態量に第nの前記ブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する、状態量計測装置。
【請求項2】
前記要素状態量算出部は、前記レイリー状態量として、所定レイリー状態量及び都度レイリー状態量を算出し、前記所定レイリー状態量は、第n-kの前記光強度情報(kは2以上の整数)に含まれた前記レイリー後方散乱光を基準として得たものであり、前記都度レイリー状態量は、第n-1の前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を基準として得たものであり、
前記差分状態量算出部は、前記レイリー差分状態量として、所定レイリー差分状態量及び都度レイリー差分状態量を算出し、前記所定レイリー差分状態量は、第nの前記所定レイリー状態量から第n-1の前記所定レイリー状態量を減算して得られるものであり、前記都度レイリー差分状態量は、第nの前記都度レイリー状態量から第n-1の前記都度レイリー状態量を減算して得られるものであり、
前記評価値算出部は、前記評価値として、所定評価値及び都度評価値を算出し、前記所定評価値は、第nの前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報として、第n-kの前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものであり、前記都度評価値は、第nの前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報として、第n-1の前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものであり、
前記積上げ状態量算出部は、第nの前記所定評価値及び第nの前記都度評価値を用いて、第n-1の前記積上げ状態量に第nの前記所定レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の前記積上げ状態量に第nの前記都度レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の前記積上げ状態量に第nの前記ブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する、請求項1に記載の状態量計測装置。
【請求項3】
前記要素状態量算出部は、前記レイリー状態量として、所定レイリー状態量及び都度レイリー状態量を算出し、前記所定レイリー状態量は、第n-kの前記光強度情報(kは2以上の整数)に含まれた前記レイリー後方散乱光を基準として得たものであり、前記都度レイリー状態量は、第n-1の前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を基準として得たものであり、
前記差分状態量算出部は、前記レイリー差分状態量として、所定レイリー差分状態量及び都度レイリー差分状態量を算出し、前記所定レイリー差分状態量は、第nの前記所定レイリー状態量から第n-1の前記所定レイリー状態量を減算して得られるものであり、前記都度レイリー差分状態量は、第nの前記都度レイリー状態量から第n-1の前記都度レイリー状態量を減算して得られるものであり、
前記評価値算出部は、前記評価値として所定評価値及び都度評価値を算出し、前記所定評価値は、第nの前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報として、第n-kの前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものであり、前記都度評価値は、第nの前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報として、第n-1の前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものであり、
前記積上げ状態量算出部は、第nの前記所定評価値、第nの前記都度評価値及び第nのブリルアン状態量を用いて、第n-1の前記積上げ状態量に第nの前記所定レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の前記積上げ状態量に第nの前記都度レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の前記積上げ状態量に第nの前記ブリルアン差分状態量を加算する動作と、第n-1の前記積上げ状態量に補間演算によって得る第nの補正ブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する、請求項1に記載の状態量計測装置。
【請求項4】
前記要素状態量算出部は、前記レイリー状態量として、所定レイリー状態量及び都度レイリー状態量を算出し、前記所定レイリー状態量は、第n-kの前記光強度情報(kは2以上の整数)に含まれた前記レイリー後方散乱光を基準として得たものであり、前記都度レイリー状態量は、第n-1の前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を基準として得たものであり、
前記差分状態量算出部は、前記レイリー差分状態量として、平均所定レイリー差分状態量及び平均都度レイリー差分状態量を算出するともに前記ブリルアン差分状態量として平均ブリルアン差分状態量を算出し、前記平均所定レイリー差分状態量は、前記光ファイバに設定された複数の計測点ごとに得た第nの前記所定レイリー状態量と第n-1の前記所定レイリー状態量との差分の平均値であり、前記平均都度レイリー差分状態量は、前記光ファイバに設定された複数の計測点ごとに得た第nの前記都度レイリー状態量と第n-1の前記都度レイリー状態量との差分の平均値であり、前記平均ブリルアン差分状態量は、前記光ファイバに設定された複数の計測点ごとに得た第nの前記ブリルアン差分状態量の平均値であり、
前記評価値算出部は、前記評価値として、所定評価値及び都度評価値を算出し、前記所定評価値は、第nの前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報として、第n-kの前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものであり、前記都度評価値は、第nの前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報として、第n-1の前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものであり、
前記積上げ状態量算出部は、第nの前記所定評価値及び第nの前記都度評価値を用いて、第n-1の平均積上げ状態量に第nの前記平均所定レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の前記平均積上げ状態量に第nの前記平均都度レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の前記平均積上げ状態量に第nの前記平均ブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する、請求項1に記載の状態量計測装置。
【請求項5】
計測対象物に設けられる光ファイバケーブルと、前記光ファイバケーブルに計測光を入射する光源部と、前記光源部が入射した計測光に応じた後方散乱光に関する光強度情報を得る受光部と、を有する状態量計測装置を用いて、前記計測対象物におけるひずみ又は温度を示す計測状態量を得る状態量計測方法であって、
第nの光強度情報(nは1以上の整数)を取得する動作によって得た第nの前記光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報を利用して第nのレイリー状態量を算出するとともに、第nの前記光強度情報に含まれたブリルアン後方散乱光に基づく情報を利用して第nのブリルアン状態量を算出するステップと、
第nの前記レイリー状態量から第n-1の前記レイリー状態量へ変化したときの変化量である第nのレイリー差分状態量を算出するとともに、第nの前記ブリルアン状態量から第n-1の前記ブリルアン状態量に変化したときの変化量である第nのブリルアン差分状態量を算出するステップと、
第nの前記光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報と、基準となる前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報と、の相対的な関係を示す第nの評価値を算出するステップと、
第1の前記光強度情報を取得する動作から第nの前記光強度情報を取得する動作までに前記計測対象物における前記状態量の変化を示す値である前記計測状態量を算出するステップと、を有し、
前記計測状態量を算出するステップは、第nの前記評価値を用いて第n-1の前記積上げ状態量に第nの前記レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の前記積上げ状態量に第nの前記ブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する、状態量計測方法。
【請求項6】
計測対象物に設けられる光ファイバケーブルと、前記光ファイバケーブルに計測光を入射する光源部と、前記光源部が入射した計測光に応じた後方散乱光に関する光強度情報を得る受光部と、を有する状態量計測装置を用いて、前記計測対象物におけるひずみ又は温度を示す計測状態量を得る状態量計測プログラムであって、
コンピュータを、
第nの光強度情報(nは1以上の整数)を取得する動作によって得た第nの前記光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報を利用して第nのレイリー状態量を算出するとともに、第nの前記光強度情報に含まれたブリルアン後方散乱光に基づく情報を利用して第nのブリルアン状態量を算出する要素状態量算出部、
第nの前記レイリー状態量から第n-1の前記レイリー状態量へ変化したときの変化量である第nのレイリー差分状態量を算出するとともに、第nの前記ブリルアン状態量から第n-1の前記ブリルアン状態量に変化したときの変化量である第nのブリルアン差分状態量を算出する差分状態量算出部、
第nの前記光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報と、基準となる前記光強度情報に含まれた前記レイリー後方散乱光を示す情報と、の相対的な関係を示す第nの評価値を算出する評価値算出部、及び、
第1の前記光強度情報を取得する動作から第nの前記光強度情報を取得する動作までに前記計測対象物における前記状態量の変化を示す値である前記計測状態量を算出する積上げ状態量算出部、として機能させ、
前記積上げ状態量算出部は、第nの前記評価値を用いて第n-1の前記積上げ状態量に第nの前記レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の前記積上げ状態量に第nの前記ブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する、状態量計測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態量計測装置、状態量計測方法及び状態量計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバケーブルを用いて計測対象物の状態量を計測する技術が知られている。計測対象物の状態を示す量として、ひずみや温度が例示できる。ひずみの変化や温度の変化が生じた光ファイバケーブルに計測光を入射すると、ひずみの変化や温度の変化が生じた位置において散乱光が生じる。散乱光には、いくつかの態様がある。
【0003】
散乱光のひとつに、レイリー後方散乱光がある。レイリー後方散乱光をスペクトル解析すると、レイリースペクトルと称される情報を得ることができる。計測によって得たレイリースペクトルを基準となるレイリースペクトルとを比較することによって、基準となるレイリースペクトルから計測によって得たレイリースペクトルの間における相互相関のピーク周波数を得ることができる。この相互相関のピーク周波数は、ひずみの変化量や温度の変化量に対応する。従って、ピーク周波数に変換係数を乗ずることによりひずみや温度を評価することができる(特許文献1参照)。
【0004】
レイリー後方散乱光を用いる計測では、基準となるレイリースペクトルを逐次更新しながらひずみや温度を評価することがある。一例として、基準となるレイリースペクトルとして、24時間ごとに更新されるレイリースペクトルを採用することがある。別の例として、基準となるレイリースペクトルとして、前回の計測によって得たレイリースペクトルを採用することもある。基準となるレイリースペクトルと計測によって得たレイリースペクトルとを用いて算出した値を積上げることにより、ひずみや温度を得ることができる。
【0005】
光ファイバケーブルの内部で生じる散乱光には、上記のレイリー後方散乱光の他に、ブリルアン後方散乱光がある。ブリルアン後方散乱光をスペクトル解析すると、ブリルアンスペクトルを得ることができる。光ファイバケーブルに生じるひずみの変化や温度の変化に応じて、山状のブリルアンスペクトルにおけるピーク周波数がシフトする。初期ピーク周波数に対する周波数のシフト量に変換係数を乗ずることによってひずみや温度を評価することができる(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4441624号
【特許文献2】特許第6647420号
【特許文献3】特開2021-196239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レイリー後方散乱光を用いた計測は、計測誤差が小さいという特徴を有する。例えば、状態量がひずみである場合、計測誤差は±1μ程度である。しかし、基準となるレイリースペクトルと計測によって得たレイリースペクトルとの差異が大きくなる(掃引周波数:300GHzの場合において概ねひずみは300μ以上)と、相互相関が不良となって評価することができない。一方、ブリルアン後方散乱光を用いた計測は、計測誤差が比較的大きい。例えば、状態量がひずみである場合、計測誤差は±50μ程度である。しかし、ブリルアンスペクトルのピーク周波数が掃引周波数の範囲に属すればひずみや温度の評価が可能である。例えば、ブリルアン後方散乱光を用いたひずみの計測では、±40000μ程度の大きなひずみの評価も可能である。
【0008】
そこで、ひずみや温度の変化量の大きさに応じて、レイリー後方散乱光を用いた計測とブリルアン後方散乱光を用いた計測とを使い分けることが考えられる。例えば、構造物のモニタリングに光ファイバによる計測を適用することを想定する。日変動や季節変動等の緩慢なひずみの変化や温度の変化に対しては、計測精度の高いレイリ―計測の結果を採用する。一方、地震などの外力の変化に起因して、大きなひずみの変化が想定される場合には、大ひずみでも計測可能なブリルアン計測を採用する。各位置の計測点においてレイリー計測とブリルアン計測のどちらを採用するべきかは計測されるタイミングによって変わってくる。
【0009】
特許文献3は、光ファイバケーブルを利用したひずみ計測の正確性、信頼性を高める技術を開示する。特許文献3に開示されたひずみ計測装置、ひずみ計測方法及びひずみ計測プログラムは、本件発明者らによるものである。特許文献3は、レイリー計測を短時間でn回の計測を行い、それらの差分を閾値にレイリーによる計測結果とブリルアンによる計測結果を切り替える手法を開示する。
【0010】
しかし、当該技術分野では、光ファイバケーブルを利用したひずみや温度に例示される状態量の正確性及び信頼性をさらに高めることが望まれていた。
【0011】
本発明は、正確性及び信頼性の高い状態量を得ることが可能な状態量計測装置、状態量計測方法及び状態量計測プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一形態は、計測対象物に設けられる光ファイバケーブルと、光ファイバケーブルに計測光を入射する光源部と、光源部が入射した計測光に応じた後方散乱光に関する光強度情報を得る受光部と、を有し、計測対象物におけるひずみ又は温度を示す計測状態量を得る状態量計測装置であって、第nの光強度情報(nは1以上の整数)を取得する動作によって得た第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報を利用して第nのレイリー状態量を算出するとともに、第nの光強度情報に含まれたブリルアン後方散乱光に基づく情報を利用して第nのブリルアン状態量を算出する要素状態量算出部と、第nのレイリー状態量から第n-1のレイリー状態量へ変化したときの変化量である第nのレイリー差分状態量を算出するとともに、第nのブリルアン状態量から第n-1のブリルアン状態量に変化したときの変化量である第nのブリルアン差分状態量を算出する差分状態量算出部と、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、の相対的な関係を示す第nの評価値を算出する評価値算出部と、第1の光強度情報を取得する動作から第nの光強度情報を取得する動作までに計測対象物における状態量の変化を示す値である計測状態量を算出する積上げ状態量算出部と、を備える。積上げ状態量算出部は、第nの評価値を用いて第n-1の積上げ状態量に第nのレイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nのブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する。
【0013】
状態量計測装置は、第n-1であるときの要素状態量から第nであるときまでの要素状態量の差分を積上げる演算によって、計測状態量を得る。ここで、積上げる演算において、状態量計測装置は、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報と第n-1の光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報との相対的な関係を示す評価値を用いて、レイリー差分状態量又はブリルアン差分状態量のいずれかを選択する。従って、適切な差分状態量が選択される。その結果、積上げ演算に用いられる値がレイリー計測に基づく値とブリルアン計測に基づく値とで複数回の切り替えが生じたとしても、適切な差分状態量が選択されるために、データの連続性を保つことができる。従って、正確性及び信頼性の高い計測状態量を得ることができる。
【0014】
上記の状態量計測装置の要素状態量算出部は、レイリー状態量として、所定レイリー状態量及び都度レイリー状態量を算出し、所定レイリー状態量は、第n-kの光強度情報(kは2以上の整数)に含まれたレイリー後方散乱光を基準として得たものであり、都度レイリー状態量は、第n-1の光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を基準として得たものであり、差分状態量算出部は、レイリー差分状態量として、所定レイリー差分状態量及び都度レイリー差分状態量を算出する。所定レイリー差分状態量は、第nの所定レイリー状態量から第n-1の所定レイリー状態量を減算して得られるものであり、都度レイリー差分状態量は、第nの都度レイリー状態量から第n-1の都度レイリー状態量を減算して得られるものである。評価値算出部は、評価値として、所定評価値及び都度評価値を算出し、所定評価値は、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報として、第n-kの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものであり、都度評価値は、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報として、第n-1の光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものである。積上げ状態量算出部は、第nの所定評価値及び第nの都度評価値を用いて、第n-1の積上げ状態量に第nの所定レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nの都度レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nのブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択してもよい。
【0015】
上記の構成によれば、積上げ状態量に加算する値として、レイリー計測の結果である所定レイリー差分状態量又は都度レイリー差分状態量を選択することができる。その結果、積上げ演算において精度の高いレイリー計測の結果が採用される割合が増加する。従って、正確性及び信頼性をさらに高めることができる。
【0016】
上記の状態量計測装置の要素状態量算出部は、レイリー状態量として、所定レイリー状態量及び都度レイリー状態量を算出し、所定レイリー状態量は、第n-kの光強度情報(kは2以上の整数)に含まれたレイリー後方散乱光を基準として得たものであり、都度レイリー状態量は、第n-1の光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を基準として得たものである。差分状態量算出部は、レイリー差分状態量として、所定レイリー差分状態量及び都度レイリー差分状態量を算出し、所定レイリー差分状態量は、第nの所定レイリー状態量から第n-1の所定レイリー状態量を減算して得られるものであり、都度レイリー差分状態量は、第nの都度レイリー状態量から第n-1の都度レイリー状態量を減算して得られるものである。評価値算出部は、評価値として所定評価値及び都度評価値を算出し、所定評価値は、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報として、第n-kの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものであり、都度評価値は、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報として、第n-1の光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものである。積上げ状態量算出部は、第nの所定評価値、第nの都度評価値及び第nのブリルアン状態量を用いて、第n-1の積上げ状態量に第nの所定レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nの都度レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nのブリルアン差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に補間演算によって得る第nの補正ブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択してもよい。
【0017】
上記の構成では、有意なノイズを含むブリルアン差分状態量を積上げ演算の対象から除外することができる。従って、計測状態量の正確性及び信頼性をさらに高めることができる。
【0018】
上記の状態量計測装置の要素状態量算出部は、レイリー状態量として、所定レイリー状態量及び都度レイリー状態量を算出し、所定レイリー状態量は、第n-kの光強度情報(kは2以上の整数)に含まれたレイリー後方散乱光を基準として得たものであり、都度レイリー状態量は、第n-1の光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を基準として得たものである。差分状態量算出部は、レイリー差分状態量として、平均所定レイリー差分状態量及び平均都度レイリー差分状態量を算出するともにブリルアン差分状態量として平均ブリルアン差分状態量を算出し、平均所定レイリー差分状態量は、光ファイバに設定された複数の計測点ごとに得た第nの所定レイリー状態量と第n-1の所定レイリー状態量との差分の平均値であり、平均都度レイリー差分状態量は、光ファイバに設定された複数の計測点ごとに得た第nの都度レイリー状態量と第n-1の都度レイリー状態量との差分の平均値であり、平均ブリルアン差分状態量は、光ファイバに設定された複数の計測点ごとに得た第nのブリルアン差分状態量の平均値である。評価値算出部は、評価値として、所定評価値及び都度評価値を算出し、所定評価値は、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報として、第n-kの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものであり、都度評価値は、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報として、第n-1の光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものである。積上げ状態量算出部は、第nの所定評価値及び第nの都度評価値を用いて、第n-1の平均積上げ状態量に第nの平均所定レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の平均積上げ状態量に第nの平均都度レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の平均積上げ状態量に第nの平均ブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択してもよい。
【0019】
上記の構成では、光ファイバケーブルにおいて複数の計測点を含む区間ごとに平均化された計測状態量を得ることができる。
【0020】
本発明の別の形態は、計測対象物に設けられる光ファイバケーブルと、光ファイバケーブルに計測光を入射する光源部と、光源部が入射した計測光に応じた後方散乱光に関する光強度情報を得る受光部と、を有する状態量計測装置を用いて、計測対象物におけるひずみ又は温度を示す計測状態量を得る状態量計測方法である。状態量計測方法は、第nの光強度情報(nは1以上の整数)を取得する動作によって得た第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報を利用して第nのレイリー状態量を算出するとともに、第nの光強度情報に含まれたブリルアン後方散乱光に基づく情報を利用して第nのブリルアン状態量を算出するステップと、第nのレイリー状態量から第n-1のレイリー状態量へ変化したときの変化量である第nのレイリー差分状態量を算出するとともに、第nのブリルアン状態量から第n-1のブリルアン状態量に変化したときの変化量である第nのブリルアン差分状態量を算出するステップと、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、の相対的な関係を示す第nの評価値を算出するステップと、第1の光強度情報を取得する動作から第nの光強度情報を取得する動作までに計測対象物における状態量の変化を示す値である計測状態量を算出するステップと、を有する。計測状態量を算出するステップは、第nの評価値を用いて第n-1の積上げ状態量に第nのレイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nのブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択してもよい。
【0021】
状態量計測方法によっても、状態量計測装置と同様に正確性及び信頼性の高い状態量を得ることができる。
【0022】
本発明のさらに別の形態は、計測対象物に設けられる光ファイバケーブルと、光ファイバケーブルに計測光を入射する光源部と、光源部が入射した計測光に応じた後方散乱光に関する光強度情報を得る受光部と、を有する状態量計測装置を用いて、計測対象物におけるひずみ又は温度を示す計測状態量を得る状態量計測プログラムである。状態量計測プログラムは、コンピュータを、第nの光強度情報(nは1以上の整数)を取得する動作によって得た第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報を利用して第nのレイリー状態量を算出するとともに、第nの光強度情報に含まれたブリルアン後方散乱光に基づく情報を利用して第nのブリルアン状態量を算出する要素状態量算出部、第nのレイリー状態量から第n-1のレイリー状態量へ変化したときの変化量である第nのレイリー差分状態量を算出するとともに、第nのブリルアン状態量から第n-1のブリルアン状態量に変化したときの変化量である第nのブリルアン差分状態量を算出する差分状態量算出部、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、の相対的な関係を示す第nの評価値を算出する評価値算出部、及び第1の光強度情報を取得する動作から第nの光強度情報を取得する動作までに計測対象物における状態量の変化を示す値である計測状態量を算出する積上げ状態量算出部、として機能させる。積上げ状態量算出部は、第nの評価値を用いて第n-1の積上げ状態量に第nのレイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nのブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する。
【0023】
状態量計測プログラムによっても、状態量計測装置と同様に正確性及び信頼性の高い計測状態量を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の状態量計測装置、状態量計測方法及び状態量計測プログラムによれば、正確性及び信頼性の高い計測状態量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る状態量計測装置が適用される様子を概略的に示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す状態量計測装置の構成を示す図である。
【
図3】
図3(a)は、レイリー後方散乱光及びブリルアン後方散乱光を含む後方散乱光を説明するためのグラフである。
図3(b)は、コンピュータによって処理される光情報を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、コンピュータのハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、状態量計測装置によって実行される第1実施形態の状態量計測方法の処理を概略的に示す図である。
【
図7】
図7は、状態量計測装置によって実行される第2実施形態の状態量計測方法の処理を概略的に示す図である。
【
図8】
図8は、状態量計測装置によって実行される第3実施形態の状態量計測方法の処理を概略的に示す図である。
【
図9】
図9は、計測対象物のひび割れを評価するために計測対象物に配置された光ファイバケーブルを示す。
【
図10】
図10は、状態量計測装置によって実行される第4実施形態の状態量計測方法の処理を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0027】
<状態量算出装置>
図1に示すように、状態量計測装置1は、計測対象物9の状態量を計測する。計測対象物9の状態量とは、計測対象物9のひずみ及び/又は温度を含む。以下の説明では、計測対象物9のひずみ及び/又は温度をまとめて「計測対象物9の状態量」と称する。「計測対象物9の状態量」は、「計測対象物9のひずみ」と読み替えることもできるし、「計測対象物9の状態量」は「計測対象物9の温度」と読み替えることもできる。計測対象物9は、例えば、建物の基礎杭といった固定構造物などが挙げられるが、主に、インフラストラクチャ(infrastructure)である。例えば、道路や鉄道、上下水道、発電所・電力網、通信網、港湾、空港、灌漑・治水施設などの公共的・公益的な設備や施設、構造物であり、主に、コンクリート構造物である。コンクリート構造物は、鉄筋コンクリート造、鉄骨コンクリート造を含む。そして、状態量計測装置1は、計測対象物9に恒常的に配置されて、計測対象物9に生じる状態量を継続的に得るものであってもよい。状態量計測装置1は、計測のタイミングごとに計測対象物9に一時的に取り付けられて、計測後に取り外されるものであってもよい。
【0028】
状態量計測装置1は、光ファイバケーブル2を有する。所定長の光ファイバケーブル2は、計測対象物9に取り付けられている。そうすると、計測対象物9が所定の状態量によって示される状態となったとき、光ファイバケーブル2も計測対象物9の状態量によって示される状態に対応する状態となる。状態量計測装置1は、この光ファイバケーブル2に発生した状態量を計測する。つまり、状態量計測装置1は、光ファイバケーブル2の状態量を得ることにより、計測対象物9における状態量を得る。
【0029】
図2に示すように、状態量計測装置1は、光ファイバケーブル2と、光処理ユニット3と、状態量算出装置4と、を有する。光処理ユニット3は、光ファイバケーブル2に計測光を入射する。さらに、光処理ユニット3は、光ファイバケーブル2から出射される後方散乱光の光強度を得る。状態量算出装置4は、光処理ユニット3が得た後方散乱光の光強度を利用して、状態量に関する情報を得る。状態量に関する情報は、状態量に対応する位置と、状態量の大きさと、を含む。以下の説明において、状態量に関する情報は、単に「状態量情報」と称する。また、所定の状態量の状態となった位置は、単に「状態量位置」と称する。同様に、状態量の大きさは、単に「状態量」と称する。
【0030】
光処理ユニット3は、光源部31と、光サーキュレータ32と、受光部33と、を有する。
【0031】
光源部31は、状態量を計測するための計測光を発生し、当該計測光を光ファイバケーブル2に入射する。計測光の発生源として、例えば、レーザダイオードを利用してもよい。計測光は、例えばパルス光である。光源部31は、当該パルス光を所定の周期で繰り返し入射する。光源部31は、状態量算出装置4から提供される制御信号に基づいて動作する。つまり、光源部31は、外部から提供される制御信号に応じて単にパルス光を発生させるだけの構成であってもよい。なお、光源部31は、計測光を発生させる構成に加えて、外部から提供される制御信号を必要とすることなく、制御ユニット(後述する光源制御部41)を備える構成であってもよい。
【0032】
光サーキュレータ32は、光源部31、光ファイバケーブル2及び受光部33にそれぞれ接続されている。光サーキュレータ32は、光源部31が発生した計測光を光ファイバケーブル2に入射する。また、光サーキュレータ32は、光ファイバケーブル2から出射された後方散乱光を受光部33に出力する。
【0033】
受光部33は、光サーキュレータ32が出射した後方散乱光を受光する。具体的には、受光部33は、ある時間における後方散乱光について、周波数ごとの強度(スペクトル)を得る。このような強度が得られる構成であれば、受光部33の具体的な構成は特に限定されない。例えば、後方散乱光を分光器によって分光し、分光された光成分ごとに光強度を得てもよい。また、受光感度の周波数帯域が異なる複数のフォトダイオードによって、光強度を得てもよい。受光部33が出力する情報は、さらに、経時的な要素も含む。具体的には、光ファイバケーブル2に計測光が入射された後に、受光部33が受ける後方散乱光の周波数成分について、経時的な変化を得る。
【0034】
ここで、
図3(a)を参照しながら、後方散乱光、レイリー散乱に基づく光(以下、「レイリー後方散乱光」と称する)及びブリルアン散乱に基づく光(以下、「ブリルアン後方散乱光」と称する)について説明する。後方散乱光は、互いに周波数が異なる光成分を含む。これらの光成分は、周波数ごとに光強度が異なる。
図3(a)において、横軸は光の周波数を示す。縦軸は、光強度を示す。グラフG3aは、計測光が有する光強度を示す。グラフG3bは、あるタイミングで取得された光強度情報の一例である。グラフG3cは、グラフG3bとは別のタイミングで取得された光強度情報の一例である。
【0035】
光ファイバケーブル2に計測光を入射したとき、光ファイバケーブル2において種々の散乱光が生じる。散乱光のひとつに、レイリー後方散乱光がある。レイリー後方散乱光は、光の波長よりも短い大きさを有する粒子に起因して生じる。レイリー後方散乱光は、透明な液体や固体中でも生じる。基本的にレイリー後方散乱光の周波数(RF)は、計測光の周波数(MF)と同じであるが、圧力、温度、ひずみなどに例示される状態量に応じて周波数が変化することもある。レイリー後方散乱光の光強度は、計測光の光強度より低くなる。従って、この光強度の変化を利用すれば、光ファイバケーブル2における状態量の大きさを得ることができる。レイリー後方散乱光の光強度は、後述するブリルアン後方散乱光の光強度よりも強い。従って、レイリー後方散乱光を用いた計測は、精度がよく、光のロスに強い。一方、観測量や固有の屈折率に応じた光強度のパターンは、ひずみや温度に例示される状態量とは直接の関係性を持たない。
【0036】
また、別の散乱光として、ブリルアン後方散乱光がある。ブリルアン後方散乱光は、計測光に応じて生じた音響フォノンが発生させる屈折率の周期的変調(回折格子)に起因する。回折格子は、音速で移動する。グラフG3bにおいて、ピークBPa、BPbは、ブリルアン後方散乱光に対応する光強度と周波数(BFa、BFb)と、を示す。反射時にドップラーシフト(周波数変化)が発生する。この周波数のシフト量は、圧力、温度、ひずみなどに例示される状態量に応じて変化する。つまり、ブリルアン後方散乱光の周波数は、計測光の周波数(MF)と一致しない。例えば、周波数のシフト量は、計測光の周波数(MF)とブリルアン周波数との周波数差として扱ってよい。ブリルアン後方散乱光の周波数は、光ファイバケーブル2の状態(例えば、ひずみや温度)に応じて、高くなったり低くなったりする。従って、ブリルアン後方散乱光の周波数を利用すれば、光ファイバケーブル2における状態量の大きさを得ることができる。ブリルアン後方散乱光の光強度は、レイリー後方散乱光の光強度よりも弱い。従って、ブリルアン後方散乱光を用いた計測の精度は、レイリー後方散乱光を用いた計測の精度より低くなり、光のロスに弱い。一方、観測量(例えば、強度ピークの周波数)は、ひずみや温度と直接の関係性を有する。
【0037】
図3(b)は、受光部33が得る情報を概略的に示す。光源部31がひとつの計測光を光ファイバケーブル2に入射したとき、
図3(b)に示すような情報が得られる。第1の軸A1は、後方散乱光の周波数を示す。第2の軸A2は、後方散乱光の周波数成分ごとの光強度を示す。この第1の軸A1及び第2の軸A2によって示される情報は、光強度情報である。第3の軸A3は、光ファイバケーブル2に計測光を入射したタイミングを基準とした経過時間を示す。後方散乱光は、光ファイバケーブル2における所定の位置で生じた散乱光である。例えば、計測光が入射された光ファイバケーブル2の端部の近傍で生じた散乱光は、光ファイバケーブル2に計測光を入射してから短い時間で受光される(グラフG4a参照)。一方、計測光が入射された光ファイバケーブル2の端部から遠い位置で生じた散乱光は、光ファイバケーブル2に計測光を入射してから長い時間の経過後に受光される(グラフG4d参照)。つまり、第3の軸A3は、経過時間を示すと同時に、光ファイバケーブル2における位置である。そうすると、グラフG4aは、光ファイバケーブル2の計測点P(1)で生じた後方散乱光の光強度を示す。同様に、グラフG4bは光ファイバケーブル2の計測点P(2)で生じた後方散乱光の光強度を示すものであり、グラフG4cは光ファイバケーブル2の計測点P(3)で生じた後方散乱光の光強度を示すものであり、グラフG4dは光ファイバケーブル2の計測点P(4)で生じた後方散乱光の光強度を示す。
【0038】
状態量算出装置4は、受光部33から出力される後方散乱光の強度に関するデータを用いて、状態量情報を得る。例えば、状態量算出装置4は、光ファイバケーブル2の場所ごとに状態量の大きさを示したグラフを出力する。状態量算出装置4は、所定の時間が経過するごとに光強度情報を得る動作を実行する。例えば、状態量算出装置4は、所定期間の間にN回の光強度情報を得る動作を実行する。第n-1回目の光強度情報を得る動作から、第n回目の光強度情報を得る動作までに間に、計測対象物9に生じる状態量が変化したと仮定する。この状態量の変化量(差分状態量)は、第n-1回目の光強度情報と第n回目の光強度情報の差分により得ることができる。この差分とは、第n-1回目の光強度情報が示す値より第n回目の光強度情報が示す値が大きいこと(増加分)と、第n-1回目の光強度情報が示す値より第n回目の光強度情報が示す値が小さいこと(減少分)と、を含む。そして、第1回目の光強度情報を得る動作を開始したときから、第N回目の光強度情報を得る動作を実行するまでに生じた状態量の変化は、差分状態量の総和として得ることができる。状態量算出装置4は、第n回目の光強度情報が示す要素状態量を算出する動作と、第n回目の光強度情報が示す要素状態量から第n-1回目の光強度情報が示す要素状態量を減算して差分状態量を得る動作と、第n-1回目の積上げ状態量に第n回目の差分状態量を加算することによって第n回目の積上げ状態量(計測状態量)を得る動作と、を繰り返す。
【0039】
状態量算出装置4は、光処理ユニット3の制御と、光強度情報から状態量情報を算出する処理と、を実行するコンピュータ40である。
【0040】
状態量算出装置4の一般的なハードウェア構成を
図4に示す。状態量算出装置4は、オペレーティングシステムやアプリケーション・プログラムなどを実行するプロセッサ101と、ROM及びRAMで構成される主記憶部102と、ハードディスクやフラッシュメモリなどで構成される補助記憶部103と、ネットワークカードあるいは無線通信モジュールで構成される通信制御部104と、キーボードやマウスなどの入力装置105と、ディスプレイやプリンタなどの出力装置106とを備える。
【0041】
後述する状態量算出装置4の各機能要素は、プロセッサ101又は主記憶部102の上に所定のソフトウェア(状態量計測プログラム400)を読み込ませ、プロセッサ101の制御の下で通信制御部104や入力装置105、出力装置106などを動作させ、主記憶部102又は補助記憶部103におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。処理に必要なデータやデータベースは主記憶部102又は補助記憶部103内に格納される。
【0042】
再び
図2を参照しながら、状態量算出装置4についてさらに詳細に説明する。状態量算出装置4は、機能的構成要素として、光源制御部41と、状態量情報算出部42と、記憶部43と、を有する。
【0043】
<光源制御部>
光源制御部41は、光源部31に提供する制御信号を生成する。制御信号は、例えば、計測光のパルス周期、計測光を光ファイバケーブル2へ入射するタイミングなどの情報を含む。また、これらの制御信号は、状態量算出装置4を構成するその他の要素にも提供される。
【0044】
<記憶部>
記憶部43は、光強度情報と当該光強度情報が取得された時間と関連付けて、保存する。記憶部43は、第1回目の計測で得た光強度情報から、第N回目の計測で得た光強度情報を保存する。記憶部43は、n回目(1<n<N)の計測で得た光強度情報(以下「光強度情報(n)」と示す)と、n-1回目の計測で得た光強度情報(以下「光強度情報(n-1)」と示す)と、を保存する。記憶部43は、後述する要素状態量算出部422、差分状態量算出部423及び積上げ状態量算出部425の算出結果を保存する。さらに、記憶部43は、要素状態量算出部422、差分状態量算出部423及び積上げ状態量算出部425の求めに応じて、要求された内容の情報を要求先に与える。
【0045】
<状態量算出部>
状態量算出装置4は、記憶部43の情報を利用して、状態量情報を算出する。この処理は、状態量情報算出部42により実現される。状態量情報の出力先は何ら限定されない。例えば、状態量算出装置4は算出結果を画像、図形、又はテキストでモニタに表示してもよいし、メモリやデータベースなどの記憶装置に格納してもよいし、通信ネットワーク経由で他のコンピュータシステムに送信してもよい。
【0046】
状態量情報算出部42は、位置算出部421と、要素状態量算出部422と、差分状態量算出部423と、評価値算出部424と、積上げ状態量算出部425と、状態量情報生成部426と、状態量情報表示部427と、を有する。
【0047】
<位置算出部>
位置算出部421は、光強度情報が光ファイバケーブル2におけるどの計測点Pの情報であるかを特定する。この処理には、計測光が入射された時間と光強度情報に関連付けられている時間を利用する。計測光が入射された時間と光強度情報に関連付けられている時間との時間差を算出する。そして、この時間差と光の速度とを用いることにより、光強度情報に関連付けられている時間が位置情報に換算される。そして、位置算出部421は、光強度情報と位置情報とを関連付けて、記憶部43に記憶させる。
【0048】
<要素状態量算出部>
要素状態量算出部422は、光強度情報(n)及び光強度情報(n-1)を受ける。光強度情報(n)及び光強度情報(n-1)は、記憶部43から受けてもよい。要素状態量算出部422は、光強度情報を利用して要素状態量を算出する。要素状態量算出部422は、要素状態量としてレイリー状態量と、ブリルアン状態量と、を算出する。要素状態量算出部422は、レイリー状態量算出部422aと、ブリルアン状態量算出部422bと、を有する。要素状態量算出部422は、要素状態量を記憶部43に与える。
【0049】
レイリー状態量算出部422aは、光強度情報を利用してレイリー状態量を算出する。レイリー状態量の変化は、基本的にレイリー後方散乱光の周波数には影響を及ぼさないが、レイリー後方散乱光の光強度に影響を及ぼす。光強度の変化は、例えば、光強度情報に示すグラフ形状の変化として現れる。
【0050】
例えば、計測光と同じ周波数における強度ピークの値が小さくなる。そして、この状態量の変化とレイリー後方散乱光の強度変化との関係は、相対的である。例えば、光ファイバケーブル2のある位置における、ある時間の光強度情報が得られたとする。この場合に、光強度情報から計測光と同じ周波数における強度ピークの値を得ることができる。しかし、このひとつの強度ピークの値から、レイリー状態量を算出することはできない。そこで、レイリー状態量算出部422aは、光強度情報の相対値を用いてレイリー状態量を算出する。
【0051】
例えば、レイリー状態量算出部422aは、n回目の計測において、k回目(1<k<n)の計測で得た光強度情報(以下「光強度情報(k)」と示す)と、n回目の計測で得た光強度情報(以下「光強度情報(n)」と示す)と、の相対的な関係を評価する。相対的な関係とは、光強度情報(k)が示すグラフ形状が、n回目の計測においてどの程度変化したかを示すものとしてよい。グラフ形状の変化の評価は、例えば、光強度情報においてレイリー後方散乱光に起因する強度ピークの変化量(差分)としてもよい。レイリー状態量算出部422aは、強度ピークの差分を用いて、レイリー状態量を算出する。
【0052】
ここで、kは、任意の固定値としてもよいし、所定の条件に従う変動値であってもよい。k回目(1<k<n)の計測で得た光強度情報は、いわゆる参照データである。例えば、k回目(1<k<n)の計測で得た光強度情報は、所定の時刻(例えば、午前9時)に得られた光強度情報であってよい。この場合には、24時間が経過するごとに光強度情報(k)が更新される。また、光強度情報(k)は、前回の計測(n-1)で得た光強度情報(n-1)であってもよい。つまり、n回目の計測において、n-1回目の計測で得た光強度情報と、n回目の計測で得た光強度情報と、の相対的な関係を評価するものとしてもよい。
【0053】
ブリルアン状態量算出部422bは、光強度情報を利用してブリルアン状態量を算出する。光強度情報は、周波数ごとの光強度を示す。ブリルアン後方散乱光の周波数は、計測光の周波数から相対的に変化しているので、計測光の周波数より高い周波数と、低い周波数とに、ブリルアン後方散乱光に起因するピークが現れる。
【0054】
ブリルアン状態量算出部422bは、計測光の周波数(以下「計測光周波数」と称する)を得る。この計測光周波数は、光源制御部41の制御信号から得てもよい。また、計測光周波数は、予め記憶部43に記憶されている所定値を用いてもよい。例えば、計測光周波数は、光源部31に用いられているレーザダイオードの仕様に基づいてもよい。また、計測光周波数は、光強度情報から得てもよい。光強度情報において、もっとも高い強度ピークを示す周波数を計測光周波数としてもよい。そして、ブリルアン状態量算出部422bは、ブリルアン後方散乱光に基づいて生じた強度ピークを探索し、当該強度ピークを示す周波数をブリルアン後方散乱光の周波数(以下「ブリルアン周波数」と称する)を得る。そして、ブリルアン状態量算出部422bは、この計測光周波数とブリルアン周波数との差分を算出し、当該差分をブリルアン状態量に換算する。
【0055】
なお、ブリルアン状態量算出部422bが行う処理は、上記の処理内容に限定されない。光強度情報からブリルアン状態量が算出できる手法であれば、適宜利用することが可能である。例えば、ブリルアン状態量とブリルアン周波数との関係は、所定の関係を有する。つまり、ブリルアン周波数が既知であればブリルアン状態量を算出することができる。ブリルアン状態量とレイリー後方散乱光の強度とが相対的な関係であったのに対し、ブリルアン状態量とブリルアン周波数とは絶対的な関係である。つまり、あるブリルアン周波数を得ることができれば、当該ブリルアン周波数をブリルアン状態量に変換することも可能である。
【0056】
<差分状態量算出部>
差分状態量算出部423は、要素状態量(n)及び要素状態量(n-1)を受ける。要素状態量(n)及び要素状態量(n-1)は、記憶部43から受けてもよい。差分状態量算出部423は、差分状態量(n)を算出する。差分状態量算出部423は、差分状態量(n)を記憶部43に与える。
【0057】
差分状態量は、レイリー差分状態量と、ブリルアン差分状態量と、を含む。差分状態量算出部423は、レイリー差分状態量算出部423aと、ブリルアン差分状態量算出部423bと、を有する。レイリー差分状態量算出部423aは、レイリー状態量(n)からレイリー状態量(n-1)を減算することによりレイリー差分状態量(n)を得る。ブリルアン差分状態量算出部423bは、ブリルアン状態量(n)からブリルアン状態量(n-1)を減算することによりブリルアン差分状態量(n)を得る。
【0058】
<評価値算出部>
評価値算出部424は、光強度情報(n)と光強度情報(n-1)とを受ける。評価値算出部424は、相関係数を算出する。評価値算出部424は、相関係数を記憶部43に与える。評価値算出部424は、光強度情報(n-1)のグラフ形状と、光強度情報(n)のグラフ形状と、の相対的な関係を示す評価値として相関係数を得る。例えば、光強度情報(n-1)のグラフ形状を基準として、光強度情報(n)のグラフ形状をX軸(周波数)に沿って移動させ、その都度相関係数を算出する。そうすると複数の相関係数が算出される。そして、複数の相関係数において、最大の相関係数を相対的な関係を示す値として採用してよい。
【0059】
相関係数は、状態量情報の算出に用いる値としてレイリー差分状態量及びブリルアン差分状態量のいずれを用いるかの判断に利用される。すでに述べたように、状態量算出装置4は、積上げ状態量を算出するときに、レイリー差分状態量及びブリルアン差分状態量のいずれか一方を選択する。レイリー状態量の精度がブリルアン状態量の精度より高いので、基本的には、積上げる値として、レイリー差分状態量を採用する。しかし、レイリー差分状態量を得るためのレイリー状態量は、光強度情報が示すグラフ形状の相対的な関係に基づいている。そうすると、グラフ形状の相対的な関係が適切に評価できない場合(例えば、相関係数が小さい場合)には、レイリー状態量の信頼性が低くなる。この場合には、積上げる値として、レイリー差分状態量よりもブリルアン差分状態量を採用する方が好ましい。そこで、レイリー差分状態量を採用してよいか否かを評価する基準として、相関係数を用いる。
【0060】
レイリー後方散乱光は、ブリルアン後方散乱光と比較すると光強度が強い。従って、レイリー後方散乱光に基づく状態量は、ブリルアン後方散乱光に基づく状態量よりもノイズ耐性に強い。しかし、上述したようにレイリー状態量算出部422aでは、光強度情報が示すグラフ形状の変化に基づいてレイリー状態量を算出する。レイリー状態量(n-1)からレイリー状態量(n)への変化量が大きい場合には、光強度情報(n-1)のグラフ形状から光強度情報(n)のグラフ形状への形状変化も大きくなる。そうすると、グラフ形状の変化の評価精度が低下する場合がある。評価精度の低下は、例えば、相関係数の低下によって知ることができる。
【0061】
一方、上述したようにブリルアン状態量算出部422bでは、光強度情報が示すブリルアン周波数に基づいてブリルアン状態量を算出する。このブリルアン周波数は、ブリルアン状態量と所定の関係を有しており、ブリルアン状態量の変化量が大きくなってもその関係は変わらない。
【0062】
特に、計測対象物9が、コンクリート構造物であり、主に、インフラストラクチャ(infrastructure)である場合は、計測対象物9における状態量の大きさは外力の変化がなければ、気候変動による状態量変化のみでその値小さく、又は時間経過に伴う状態量の変化も小さい。このような場合には、レイリー状態量のほうが、実際の状態量に対して正確である場合が多い。
【0063】
<積上げ状態量算出部>
積上げ状態量算出部425は、積上げ状態量(n-1)と、相関係数(n)とを受ける。さらに、積上げ状態量算出部425は、レイリー差分状態量(n)及びブリルアン差分状態量(n)の少なくとも一方を受ける。積上げ状態量算出部425は、これらの値を記憶部43から受けてもよい。積上げ状態量算出部425は、積上げ状態量(n)を算出する。積上げ状態量算出部425は、積上げ状態量(n)を記憶部43に与える。
【0064】
積上げ状態量算出部425は、積上げ状態量(n-1)に加算する値として、基本的にレイリー差分状態量(n)を採用するものとし、レイリー差分状態量(n)が採用できないと判定される場合にはブリルアン差分状態量(n)を採用する。つまり、積上げ状態量算出部425は、レイリー差分状態量(n)を採用できるか否かを判定する。
【0065】
積上げ状態量算出部425は、判定部425aと積上げ演算部425bとを有する。判定部425aは、相関係数を用いて、レイリー差分状態量(n)を採用できるか否かを判定する。例えば、判定部425aは、相関係数と閾値とを比較する。判定部425aは、相関係数が閾値以上である場合に、レイリー差分状態量を採用できると判定する。判定部425aは、相関係数が閾値未満である場合に、レイリー差分状態量を採用できないと判定する。判定部425aは、「レイリー差分状態量を採用できる」という結果、又は、「レイリー差分状態量を採用できない」という結果を積上げ演算部425bに与える。
【0066】
なお、レイリー差分状態量(n)を採用できるか否かを判定するための評価値は、相関係数に限定されない。例えば、評価値として、レイリー差分状態量(n)を採用することもできる。例えば、レイリー差分状態量(n)が閾値以下であるときに、「レイリー差分状態量を採用できる」と判定し、レイリー差分状態量(n)が閾値より大きいときに、「レイリー差分状態量を採用できない」と判定してもよい。
【0067】
積上げ演算部425bは、判定部425aから与えられた2つの結果に基づいて、積上げ状態量(n-1)に対して、レイリー差分状態量(n)又はブリルアン差分状態量(n)のいずれか一方を加算する。積上げ演算部425bは、「レイリー差分状態量を採用できる」という結果が与えられたとき、積上げ状態量(n-1)に対して、レイリー差分状態量(n)を加算する。積上げ演算部425bは、「レイリー差分状態量を採用できない」という結果が与えられたとき、積上げ状態量(n-1)に対して、ブリルアン差分状態量(n)を加算する。加算により得た結果は、計測状態量である積上げ状態量(n)として、記憶部43に与えられる。
【0068】
<状態量情報生成部>
状態量情報生成部426は、状態量位置及び積上げ状態量(計測状態量)を受ける。状態量位置及び積上げ状態量は、記憶部43から受けてもよい。状態量情報生成部426は、状態量位置と、積上げ状態量算出部425が算出した積上げ状態量と、を関連付けて状態量情報を生成する。状態量情報生成部426は、状態量情報を記憶部43に与える。
【0069】
<状態量情報表示部>
出力装置106である状態量情報表示部427は、状態量位置、計測状態量を表示する。状態量情報表示部427は、計測者に対して計測状態量に関する情報を提示する。例えば、状態量情報表示部427は、ディスプレイに状態量位置、計測状態量を表示するものであってもよい。また、状態量情報表示部427は、プリンタであって状態量位置、計測状態量を印刷するものであってもよい。計測者は、状態量情報表示部427に表示される値により計測状態量を得る。
【0070】
<状態量計測方法>
以下、
図5及び
図6を参照しながら、状態量計測方法について説明する。状態量計測方法は、上述した状態量算出装置4によって実行される。
図5は、状態量計測方法の基本的な処理を示す。
図6は、さらに詳細な状態量計測方法の処理を示す。
【0071】
まず、参照データを設定する(S1)。この動作(S1)は、受光部33及び記憶部43によって実行される。
【0072】
次に、第n回目の計測を行う(S2)。この動作(S2)は、光源制御部41、光処理ユニット3及び記憶部43によって実行される。光源制御部41は、光源部31に対して制御信号を出力する。光処理ユニット3の光源部31は、制御信号に応じた計測光(パルス光)を光ファイバケーブル2に入射する。光処理ユニット3の受光部33は、計測光に起因して光ファイバケーブル2の内部で発生した後方散乱光を光サーキュレータ32を介して受ける。このS2において記憶部43は、光強度情報(n)として保存する。
【0073】
次に、計測点(p)における状態量情報を算出する(S3)。この動作(S3)は、状態量情報算出部42によって実行される。
【0074】
具体的には、
図6に示すように、まず、レイリー状態量及びブリルアン状態量を算出する(S31a)。この動作(S31a)は、要素状態量算出部422によって実行される。動作(S31a)では、24時間ごとに更新される参照データを用いてレイリー状態量を得る。24時間ごとに更新される参照データを用いて得た値をレイリー状態量(n、24)と記載する。次に、差分状態量を算出する(S31b)。この動作(S31b)は、差分状態量算出部423によって実行される。次に、相関係数を算出する(S31c)。この動作(S31c)は、評価値算出部424によって実行される。動作(S31c)では、24時間ごとに更新される参照データを用いて相関係数を得る。24時間ごとに更新される参照データを用いて得た値を、相関係数(n、24)と記載する。
【0075】
次に、相関係数(n、24)が閾値以上であるか否かを判定する(S31h)。この動作(S31h)は、判定部425aによって実行される。相関係数(n、24)が閾値以上である場合(S31h:YES)には、レイリー差分状態量(n、24)が選択される(S31g)。相関係数(n、24)が閾値以上でない場合(S31h:NO)には、ブリルアン差分状態量(n)が選択される(S31k)。そして、積上げ状態量を算出する(S31m)。この動作(S31m)は、積上げ演算部425bによって実行される。以上のS31a~S31mによって、状態量位置及び計測状態量(積上げ状態量)を含む状態量情報を算出する動作(S3)が実行される。
【0076】
再び
図5に示すように、状態量情報を算出する動作(S3)を実行したのちに、すべての計測点において状態量情報を算出したか否かを判定する(S4)。すべての計測点において状態量情報を算出していない場合(S4:NO)には、次の計測点(p+1)における状態量情報を算出する(S3)を実行する。すべての計測点において状態量情報を算出した場合(S4:YES)には、所定の時間が経過したか否かを判定する(S5)。所定の時間とは、例えば24時間である。所定の時間が経過したと判定された場合(S5:YES)には、参照データを更新する(S6)。そして、第n+1の光強度情報を得る(S2)。所定の時間が経過していない判定された場合(S5:NO)には、参照データを更新することなく、第n+1の光強度情報を得る(S2)。
【0077】
<作用効果>
状態量計測装置1は、第nの光強度情報(nは1以上の整数)を取得する動作によって得た第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報を利用して第nのレイリー状態量を算出するとともに、第nの光強度情報に含まれたブリルアン後方散乱光に基づく情報を利用して第nのブリルアン状態量を算出する要素状態量算出部422と、第nのレイリー状態量から第n-1のレイリー状態量を減算して得られる第nのレイリー差分状態量を算出するとともに、第nのブリルアン状態量から第n-1のブリルアン状態量を減算して得られる第nのブリルアン差分状態量を算出する差分状態量算出部423と、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、の相対的な関係を示す第nの評価値を算出する評価値算出部424と、第1の光強度情報を取得する動作から第nの光強度情報を取得する動作までに光ファイバケーブル2に生じた状態量の変化を示す値である積上げ状態量を算出する積上げ状態量算出部425と、を備える。積上げ状態量算出部425は、第nの評価値である第nの相関係数を用いて第n-1の積上げ状態量に第nのレイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nのブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する。
【0078】
換言すると、状態量計測装置1は、レイリ―計測とブリルアン計測の結果を状況に応じて切り替えて状態量を評価し、かつデータの連続性が確保される手法を実現する。状態量計測装置1は、レイリー状態量とブリルアン状態量を初期値とした要素状態量を算出する。これらの今回の要素状態量と前回の要素状態量との差分を得ることにより、差分状態量ΔXnを得る。また、状態量計測装置1は、レイリー計測において、対象データと参照データの相互相関を比較する際に、「データの確からしさ」を示す「相関係数」を算出する。相関係数は0~1の間の値を示す。相関係数が一定の値を下回ると相互相関不良となり、正しい計測結果を得ることができない。相互相関不良となる要因として、前述した参照データと対象データ間の状態量の差が一定以上になったこと、空間分解能(状態量の評価範囲)内における状態量分布の偏り、計測中の状態量変動(例:振動)が例示できる。状態量算出装置4は、この相関係数を閾値として、レイリー計測かブリルアン計測の差分状態量ΔXnのどちらかを採用する。状態量計測装置1は、採用された差分状態量ΔXnを積み上げることによって計測状態量を評価する。
【0079】
状態量計測方法は、第nの光強度情報(nは1以上の整数)を取得する動作によって得た第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報を利用して第nのレイリー状態量を算出するとともに、第nの光強度情報に含まれたブリルアン後方散乱光に基づく情報を利用して第nのブリルアン状態量を算出するステップ(S31a)と、第nのレイリー状態量から第n-1のレイリー状態量を減算して得られる第nのレイリー差分状態量を算出するとともに、第nのブリルアン状態量から第n-1のブリルアン状態量を減算して得られる第nのブリルアン差分状態量を算出するステップ(S31b)と、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、の相対的な関係を示す第nの相関係数を算出するステップ(S31c)と、第1の光強度情報を取得する動作から第nの光強度情報を取得する動作までに光ファイバケーブル2における状態量を示す値である積上げ状態量を算出するステップ(S31m)と、を有する。積上げ状態量を算出するステップ(S31h、S31g、S31k、S31m)では、第nの相関係数を用いて第n-1の積上げ状態量に第nのレイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nのブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する。
【0080】
要するに、状態量計測方法は、レイリ―計測とブリルアン計測を併用した状態量算出工程において、レイリ―計測における相関係数を閾値として、レイリー計測かブリルアン計測の差分状態量のどちらかを採用するか判別し、採用された差分状態量を初期値した計測から積み上げることによって状態量を得る。
【0081】
状態量計測プログラム400は、コンピュータ40を、第nの光強度情報(nは1以上の整数)を取得する動作によって得た第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報を利用して第nのレイリー状態量を算出するとともに、第nの光強度情報に含まれたブリルアン後方散乱光に基づく情報を利用して第nのブリルアン状態量を算出する要素状態量算出部422、第nのレイリー状態量から第n-1のレイリー状態量を減算して得られる第nのレイリー差分状態量を算出するとともに、第nのブリルアン状態量から第n-1のブリルアン状態量を減算して得られる第nのブリルアン差分状態量を算出する差分状態量算出部423、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、の相対的な関係を示す第nの評価値を算出する評価値算出部424、及び、第1の光強度情報を取得する動作から第nの光強度情報を取得する動作までに光ファイバケーブル2における状態量を示す値である積上げ状態量を算出する積上げ状態量算出部425として機能させる。積上げ状態量算出部425は、第nの評価値を用いて第n-1の積上げ状態量に第nのレイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nのブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する。
【0082】
状態量算出装置4は、第n-1であるときの要素状態量から第nであるときの要素状態量の差分を積上げる演算によって、計測状態量を得る。ここで、積上げる演算において、状態量算出装置4は、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報と第n-1の光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光に基づく情報との相対的な関係を示す評価値である相関係数を用いて、レイリー差分状態量又はブリルアン差分状態量のいずれかを選択する。従って、適切な差分状態量が選択される。その結果、積上げ演算に用いられる値がレイリー計測に基づく値とブリルアン計測に基づく値とで複数の切り替えが生じたとしても、適切な差分状態量が選択されるために、データの連続性を保つことができる。従って、正確性及び信頼性の高い計測状態量を得ることができる。
【0083】
要するに、状態量算出装置4は、光ファイバケーブル2を用いた計測において、複数の手法から得られた計測結果を閾値を基に都度判定し、連続性を確保しながら要素状態量を評価することができる。
【0084】
[第2実施形態]
第1実施形態では、レイリー状態量を算出するときの参照データは、24時間ごとに更新される値を用いた。例えば、24時間ごとに更新される値を参照データとして得た所定レイリー状態量と、前回の計測(n-1)で得た値を参照データとして得た都度レイリー状態量と、のいずれかをn回目の光強度情報の処理ごとに選択する。
【0085】
つまり、レイリー計測では、参照データの更新間隔を任意に設定することができる。そのため、参照データの更新間隔が異なる複数のレイリー計測の結果による差分状態量を処理に加える方法も有効である。この手法によれば、レイリー計測が採用される割合が増加するため、より精度の高い計測状態量を取得できる。なお、以下の説明において、n回目の処理において、24時間ごとに更新された値である参照データを、「参照データ(n、24)」と記載し、n回目の処理において、前回の計測で得た値である参照データを、「参照データ(n、n-1)」と記載する。
【0086】
図7は、第2実施形態としての状態量情報を算出する動作(S3A)の処理を示す。
【0087】
まず、要素状態量を算出する(S32a)。この動作(S32a)では、参照データ(n、24)を用いて所定レイリー状態量を得るとともに参照データ(n、n-1)を用いて都度レイリー状態量を得る。参照データ(n、24)を用いて得た値を、所定レイリー状態量(n、24)と記載する。参照データ(n、n-1)を用いて得た値を、都度レイリー状態量(n、n-1)と記載する。さらに、ブリルアン状態量(n)を得る。
【0088】
次に、差分状態量を算出する(S32b)。この動作(S32b)では、所定レイリー差分状態量(n、24)と、都度レイリー差分状態量(n、n-1)と、ブリルアン差分状態量(n)と、を算出する。
【0089】
次に、相関係数を算出する(S32c)。この動作(S32c)では、参照データ(n、24)を用いて所定相関係数(所定評価値)を得るとともに参照データ(n、n-1)を用いて都度相関係数(都度評価値)を得る。参照データ(n、24)を用いて得た値を、所定相関係数(n、24)と記載する。参照データ(n、n-1)を用いて得た値を、都度相関係数(n、n-1)と記載する。
【0090】
次に、所定相関係数(n、24)が閾値以上であるか否かを判定する(S32h)。所定相関係数(n、24)が閾値以上である場合(S32h:YES)には、積上げ演算に用いる値として、所定レイリー差分状態量(n、24)を採用する(S32g)。所定相関係数(n、24)が閾値以上でない場合(S32h:NO)には、次の動作(S32h)に移行する。
【0091】
次に、都度相関係数(n、n-1)が閾値以上であるか否かを判定する(S32h)。都度相関係数(n、n-1)が閾値以上である場合(S32h:YES)には、積上げ演算に用いる値として、都度レイリー差分状態量(n、n-1)を採用する(S32i)。都度相関係数(n、n-1)が閾値以上でない場合(S32h:NO)には、積上げ演算に用いる値として、ブリルアン差分状態量(n)を採用する(S32k)。
【0092】
そして、選択された差分状態量を積上げ状態量(n-1)に加算することにより、積上げ状態量(n)(計測状態量)を得る(S32m)。
【0093】
<作用効果>
要素状態量算出部422は、レイリー状態量として、所定レイリー状態量及び都度レイリー状態量を算出する。所定レイリー状態量は、24時間ごとに更新される参照データを基準として得たものである。都度レイリー状態量は、前回の参照データを基準として得たものである。差分状態量算出部423は、レイリー差分状態量として、所定レイリー差分状態量及び都度レイリー差分状態量を算出する。所定レイリー差分状態量は、第nの所定レイリー状態量から第n-1の所定レイリー状態量を減算して得られるものである。都度レイリー差分状態量は、第nの都度レイリー状態量から第n-1の都度レイリー状態量を減算して得られるものである。評価値算出部424は、評価値として所定相関係数と、都度相関係数と、を算出する。所定相関係数は、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報として、24時間ごとに更新される参照データを用いて得たものである。都度相関係数は、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、前回の計測によって得た情報を用いて得たものである。積上げ状態量算出部425は、第nの所定相関係数及び第nの都度相関係数を用いて、第n-1の積上げ状態量に第nの所定レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nの都度レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nのブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する。
【0094】
上記の構成によれば、積上げ状態量に加算する値として、レイリー計測の結果である所定レイリー差分状態量又は都度レイリー差分状態量を選択することができる。その結果、積上げ演算においてレイリー計測の結果が採用される割合が増加する。従って、計測状態量の正確性及び信頼性をさらに高めることができる。
【0095】
このフローでは所定相関係数(n、24)を最初の判定(S32h)に用いている。この方法によれば、レイリー計測において前回リファレンスの結果(都度レイリー差分状態量(n、n-1))を積み上げていくことにより、1μ以下の小さなレイリー状態量が計測されなかったことが積み重なり最終的に大きな誤差となることを抑制できる。
【0096】
なお、第2実施形態の状態量情報を算出する動作(S3A)では、24時間ではなく所定の時間間隔(例えば、6時間、12時間など)に更新される値を参照データとして採用してもよい。また、状態量情報を算出する動作(S3A)では、互いに異なる2以上の参照データを利用して得た2以上のレイリー差分状態量(n)を積上げ演算に用いる値の候補としてもよい。さらに、レイリー計測においてこの参照データの更新方法に限らず任意の間隔で行ったものを判定フローに加えても良い。レイリー計測において3つ以上のパターンの参照データの更新間隔で判定フローを実施しても良い。
【0097】
[第3実施形態]
ところで、ブリルアン状態量は、計測誤差を超えるようなノイズを含むことがある。そこで、このノイズを考慮した処理を行ってもよい。
【0098】
図8は、ブリルアン状態量に含まれるノイズを考慮した処理(S3B)を示す。第2実施形態では、都度相関係数(n、n-1)が閾値以上でない場合(S32h:NO)には、ブリルアン状態量(n)をそのまま採用した(S32k)。第3実施形態では、都度相関係数(n、n-1)が閾値以上でない場合(S34h:NO)には、ブリルアン状態量(n)が許容範囲に収まっているか否かを判定する動作(S33j)と、ブリルアン状態量(n)が許容範囲に収まっていない場合には補正したブリルアン差分状態量を算出する動作(S33l)と、を含む処理を行う。そのほかの動作(S33a、S33b、S33c、S33f、S33g、S33h、S33i)は、第2実施形態の動作(S32a、S32b、S32c、S32f、S32g、S32h、S32i)と同じであるから詳細な説明は省略する。
【0099】
まず、ブリルアン状態量が許容範囲に収まっているか否かを判定する(S33j)。いま、光ファイバケーブル2におけるある位置(p)に対応する光強度情報を処理していることを仮定する。積上げ状態量算出部425は、第n回目の計測において位置(p-m)~位置(p-1)のブリルアン状態量及び位置(p+1)~位置(p+m)のブリルアン状態量の中央値を算出する。そして、積上げ状態量算出部425は、中央値に対して閾値を設定する。閾値は、中央絶対偏差(MAD、式(1)参照)の3倍としてよい(式(2)参照)。
【0100】
なお、閾値は、中央絶対偏差(MAD)に基づくものに限定されない。閾値として、例えば中央値±100マイクロなど絶対値を採用してもよい。閾値として、中央値±3σ(σ:標準偏差)を採用してもよい。
【0101】
【0102】
ブリルアン状態量が許容範囲に収まっていると判定された場合(S33j:YES)には、ブリルアン状態量(n)は有意なノイズを含まないものと推察できる。従って、積上げ処理に用いる値としてブリルアン状態量(n)を採用する。
【0103】
ブリルアン状態量(n)が許容範囲に収まっていないと判定された場合(S33j:NO)には、ブリルアン状態量(n)は有意なノイズを含むものと推察できる。従って、積上げ処理に用いる値として補正ブリルアン状態量を採用する。補正ブリルアン状態量を得る処理は、特に制限はない。例えば、計測点(p)のブリルアン状態量が有意なノイズを含むと推察される場合には、計測点(p)を挟む計測点(p-1)のブリルアン状態量及び計測点(p+1)のブリルアン状態量を用いた線形補間演算により補正ブリルアン状態量を得てもよい。
【0104】
<作用効果>
要素状態量算出部422は、レイリー状態量として、所定レイリー状態量及び都度レイリー状態量を算出する。所定レイリー状態量は、第n-kの光強度情報(kは2以上の整数)に含まれたレイリー後方散乱光を基準として得たものである。都度レイリー状態量は、第n-1の光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を基準として得たものである。差分状態量算出部423は、レイリー差分状態量として、所定レイリー差分状態量及び都度レイリー差分状態量を算出する。所定レイリー差分状態量は、第nの所定レイリー状態量から第n-1の所定レイリー状態量を減算して得られるものである。都度レイリー差分状態量は、第nの都度レイリー状態量から第n-1の都度レイリー状態量を減算して得られるものである。評価値算出部424は、評価値として所定相関係数と、都度相関係数と、を算出する。所定相関係数は、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報として、第n-kの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものである。都度相関係数は、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報として、第n-1の光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものであある。積上げ状態量算出部425は、第nの所定相関係数、第nの都度相関係数及び第nのブリルアン状態量を用いて、第n-1の積上げ状態量に第nの所定レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nの都度レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の積上げ状態量に第nのブリルアン差分状態量を加算する動作と、n-1の積上げ状態量に補間演算によって得る第nの補正ブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する。
【0105】
要するに、第3実施形態は、状態量算出工程にて、ブリルアン計測の結果を前後の複数の結果から中央値に基づく外れ値判定を行い、線形補間された結果を差分状態量として採用する手法を例示する。
【0106】
上記の構成では、有意なノイズを含むブリルアン差分状態量を積上げ演算の対象から除外することができる。従って、計測状態量の正確性及び信頼性をさらに高めることができる。
【0107】
[第4実施形態]
第1~第3実施形態では、光ファイバケーブル2に設定される計測点Pごとの状態量情報を得た。第4実施形態では、計測対象物9のひび割れの幅や目地の開きを計測する手法を示す。
【0108】
図9は、計測対象物9に配置された光ファイバケーブル2を示す。計測対象物9には、複数のひび割れ91が生じている。さらに計測対象物9には、ひとつのひび割れ91を挟むように固定点92が設定される。そして、光ファイバケーブル2は、固定点92において計測対象物9に対して固定される。このような光ファイバケーブル2の固定の態様を、間欠固定と称する。光ファイバケーブル2において、固定された点の間は、自由長部fである。そして、自由長部fには、複数の計測点Pが設定される。
【0109】
ひび割れ91が拡大すると、
図9に示すように自由長部fの複数の計測点Pでは、状態量(ひずみ)が一様になる状態量分布が得られる。自由長部fの平均状態量に自由長部fの長さを乗じることで自由長部fの伸びを得ることができる。自由長部fの伸びは、ひび割れ91の幅や目地の開きに相当する。
【0110】
以下、
図10に示すフローを参照しながら、自由長部fの平均状態量を得る方法について説明する。
【0111】
まず、自由長部fに対応する複数の状態量を算出する(S34a)。この動作(S34a)では、自由長部fに含まれる複数の計測点Pのそれぞれについて、所定レイリー状態量(n、24)及び都度レイリー状態量(n、n-1)を得る。同様に、自由長部fに含まれる複数の計測点Pのそれぞれについて、ブリルアン状態量(n)を得る。
【0112】
次に、自由長部fに対応する複数の差分状態量を算出する(S34b)。この動作(S34b)では、自由長部fに含まれる複数の計測点Pのそれぞれについて、所定レイリー差分状態量(n、24)及び都度レイリー差分状態量(n、n-1)を得る。同様に、自由長部fに含まれる複数の計測点Pのそれぞれについて、ブリルアン差分状態量(n)を得る。
【0113】
次に、差分状態量の平均値を算出する(S34c)。この動作(S34c)では、自由長部fに含まれる複数の計測点Pのそれぞれに対応する所定レイリー差分状態量(n、24)をすべて足し合わせて、計測点Pの数で除算する。その結果、自由長部fに対応する平均所定レイリー差分状態量(n、24)を得る。同様に、この動作(S34c)では、自由長部fに対応する平均都度レイリー差分状態量(n、n-1)と平均ブリルアン差分状態量(n)を得る。
【0114】
次に、相関係数を算出する(S34d)。この動作(S34d)では、自由長部fに含まれる複数の計測点Pのそれぞれについて所定相関係数(n、24)及び都度相関係数(n、n-1)を得る。
【0115】
次に、相関係数の平均値を算出する(S34e)。この動作(S34e)では、自由長部fに含まれる複数の計測点Pのそれぞれに対応する所定相関係数(n、24)をすべて足し合わせて、計測点Pの数で除算する。その結果、自由長部fに対応する平均所定相関係数(n、24)を得る。同様に、この動作(S34e)では、自由長部fに対応する平均都度相関係数(n、n-1)を得る。
【0116】
次に、平均所定相関係数(n、24)が閾値以上であるか否かを判定する(S34f)。平均所定相関係数(n、24)が閾値以上である場合(S34f:YES)には、積上げ演算に用いる値として、平均所定レイリー差分状態量(n、24)を採用する(S34g)。平均相関係数(n、24)が閾値以上でない場合(S34f:NO)には、次の動作(S34h)に移行する。
【0117】
次に、平均相関係数(n、n-1)が閾値以上であるか否かを判定する(S34h)。平均相関係数(n、n-1)が閾値以上である場合(S34h:YES)には、積上げ演算に用いる値として、平均都度レイリー差分状態量(n、n-1)を採用する(S34i)。都度相関係数(n、n-1)が閾値以上でない場合(S34h:NO)には、積上げ演算に用いる値として、平均ブリルアン差分状態量(n)を採用する(S34k)。
【0118】
そして、選択された平均差分状態量を平均積上げ状態量(n-1)に加算することにより、平均積上げ状態量(n、t)を得る(S34m)。
【0119】
<作用効果>
要素状態量算出部422は、レイリー状態量として、所定レイリー状態量及び都度レイリー状態量を算出し、所定レイリー状態量は、第n-kの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を基準として得たものである。都度レイリー状態量は、第n-1の光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を基準として得たものである。差分状態量算出部423は、レイリー差分状態量として、平均所定レイリー差分状態量及び平均都度レイリー差分状態量を算出するともにブリルアン差分状態量として平均ブリルアン差分状態量を算出する。平均所定レイリー差分状態量は、光ファイバに設定された複数の計測点ごとに得た第nの所定レイリー状態量から第n-1の所定レイリー状態量を減算して得られる値の平均値である。平均都度レイリー差分状態量は、光ファイバに設定された複数の計測点ごとに得た第nの都度レイリー状態量から第n-1の都度レイリー状態量を減算して得られる値の平均値であり、平均ブリルアン差分状態量は、光ファイバに設定された複数の計測点ごとに得た第nのブリルアン差分状態量の平均値である。評価値算出部424は、評価値として、所定相関係数と、都度相関係数と、を算出する。所定相関係数は、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報として、第n-kの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものである。都度相関係数は、第nの光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報と、基準となる光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報として、第n-1の光強度情報に含まれたレイリー後方散乱光を示す情報を用いて得たものである。積上げ状態量算出部425は、第nの所定相関係数及び第nの都度相関係数を用いて、第n-1の平均積上げ状態量に第nの平均所定レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の平均積上げ状態量に第nの平均都度レイリー差分状態量を加算する動作と、第n-1の平均積上げ状態量に第nの平均ブリルアン差分状態量を加算する動作と、のいずれかを選択する。
【0120】
要するに、第4実施形態は、状態量算出工程にて、自由長部の計測を対象とした場合、対象区間で中央値に基づく外れ値判定を行い、外れ値は非考慮とした差分状態量の平均値を算出し、閾値として対象区間の相関係数の平均値を用いる方法を例示する。
【0121】
上記の構成では、光ファイバケーブル2において複数の計測点を含む区間ごとに平均化された計測状態量を得ることができる。
【0122】
また、平均状態量で評価する場合は、まず、レイリー計測とブリルアン計測それぞれの自由長部の各計測点における差分状態量の中央値に基づく閾値を設定する。次に、閾値を超えた差分状態量はノイズ値とみなし平均化処理から外す。次に、算出した差分状態量の平均値を得る。そして、レイリー計測による差分状態量の平均値及びブリルアン計測による差分状態量の平均値の何れかを積上げ演算の値として選択する。
【0123】
さらに、この際にレイリー計測の判別に用いる相関係数は自由長部fの計測点の平均値としてもよい。その結果、レイリー計測において自由長部fの1点が計測不良だった場合にも、精度の高いレイリー計測が採用される割合が多くなる。また、ブリルアン計測の結果も誤差が小さくなることが期待できる。
【0124】
[変形例]
以上、状態量計測装置、状態量計測方法及び状態量計測プログラムの例示について説明した。状態量計測装置、状態量計測方法及び状態量計測プログラムは、上記の例示に限定されることなく様々な形態で実施してよい。
【0125】
本実施形態では、光ファイバケーブル2を用いて計測対象物9の状態量を計測する計測装置、計測方法、及び計測プログラムについて説明したが、光ファイバケーブル2を用いて計測対象物9の温度を計測することも可能である。
【符号の説明】
【0126】
1…状態量計測装置、2…光ファイバケーブル、3…光処理ユニット、31…光源部、33…受光部、4…状態量算出装置、40…コンピュータ、400…計測プログラム、422…要素状態量算出部、423…差分状態量算出部、424…評価値算出部、425…積上げ状態量算出部、9…計測対象物、P…計測点。