(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165424
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】四塩化チタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/02 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
C01G23/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081618
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 享
(72)【発明者】
【氏名】副 浩二
(57)【要約】
【課題】四塩化チタンの製造中、炉内における液体四塩化チタン供給パイプの突起部の損耗を抑制して、流動層に液体四塩化チタンを比較的長期間にわたって供給することができる四塩化チタンの製造方法を提供する。
【解決手段】四塩化チタンの製造方法であって、炉内に突き出た突起部121を有する液体四塩化チタン供給パイプ120を炉頂部112に備えた塩化炉100を用い、チタン鉱石とコークスと塩素ガスとを含む流動層160を形成し、四塩化チタンガスを生成する塩化工程を含み、液体四塩化チタン供給パイプ120の突起部121の外表面125は、セラミックスの被覆層122を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内に突き出た突起部を有する液体四塩化チタン供給パイプを炉頂部に備えた塩化炉を用い、チタン鉱石とコークスと塩素ガスとを含む流動層を形成し、四塩化チタンガスを生成する塩化工程を含み、
前記液体四塩化チタン供給パイプの前記突起部の外表面は、セラミックスの被覆層を有する、四塩化チタンの製造方法。
【請求項2】
前記塩化工程は、前記流動層に向かって液体四塩化チタンを供給する温度制御ステップを有する、請求項1に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項3】
前記セラミックスは、アルミナ、窒化ケイ素、ジルコニア及び炭化ケイ素から選ばれる1種以上を80質量%以上含む、請求項1又は2に記載の四塩化チタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四塩化チタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
四塩化チタンは、スポンジ状の固体金属チタン(以下、「スポンジチタン」と称する。)の製造原料のみならず、酸化チタンや触媒あるいは医薬の分野に幅広く利用されている。四塩化チタンは、コークスと、酸化チタンを含有するチタン鉱石と、塩素ガスとを高温にて反応させることにより製造されている。
【0003】
四塩化チタンの生成は、耐火物構造の塩化炉内にてチタン鉱石とコークスを含む原料を塩素ガスで流動化した流動層で行われる。四塩化チタンを生成する塩化反応は、発熱反応であるために、四塩化チタンの製造量を増やすほど流動層の温度は高くなってしまい、四塩化チタンの製造効率が低下することがある。そのため、四塩化チタンの生成では、流動層の温度制御が重要である。なお、流動層内温度が所望の反応温度に達した後は外部からの加熱は不要となり、自発的に反応が進行する。上記塩化炉内の分散盤上ではチタン鉱石やコークスを含む原料が塩素ガスにより流動化されており、チタン鉱石やコークス等のキャリーオーバーがあるため、概して塩化炉の内部は高温下で激しい摩耗環境にも曝されている。このような環境下において、流動層の温度を制御する技術としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。
【0004】
特許文献1には、「チタン鉱石の塩素化反応により四塩化チタンを製造する塩化炉における温度制御方法であって、上記塩化炉内に保持されたチタン鉱石およびコークスに対して上記塩化炉底部から塩素ガスを供給してこれらの流動層を形成し、上記塩化炉頂部から上記流動層に対して液体四塩化チタンを供給し、上記液体四塩化チタンは、上記塩化炉頂部から上記流動層まで連続した液柱状であることを特徴とする塩化炉の温度制御方法。」が開示されている(特許文献1の請求項1参照)。また、温度制御するための四塩化チタンの供給手段としては、塩化炉の頂部に設けた四塩化チタン供給ノズルから流動層に向けて四塩化チタンを供給することが開示されている(特許文献1の段落0033参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、塩化炉では、四塩化チタンを長期間製造すると、炉頂部に付着物が堆積する。この付着物は、未反応のチタン鉱石やコークス、チタン鉱石中のチタン以外の金属成分を含有する金属塩化物等の混合物と考えられる。
また、特許文献1に記載されているように、流動層に液体四塩化チタンを供給して流動層の温度を制御するため、炉頂部に設けられ炉内に突き出るように配置された突起部を有する液体四塩化チタン供給パイプを備えた塩化炉では、その操業に伴い液体四塩化チタン供給パイプが損耗して短くなることがある。この理由は必ずしも定かではないが、塩素ガスによって液体四塩化チタン供給パイプの突起部が腐食したこと、液体四塩化チタン供給パイプの突起部の外表面がチタン鉱石やコークスの繰り返しの衝突によって摩耗したこと、等が考えられる。
以上を踏まえ、
図1に示すように、塩化炉500の炉頂部512では、液体四塩化チタン供給パイプ520の突起部521が、上記の付着物の堆積層DM内に埋もれ、流動層に液体四塩化チタンを供給できなくなることがある。この場合、流動層の高温化を抑えるため、四塩化チタンの生産量を減らすこと等が必要になる。
【0007】
また、炉頂部における付着物の堆積層DMは、炉内で生成された四塩化チタンガスを回収するための四塩化チタンガス回収パイプ570の炉頂部512側の開口を閉塞させることもある。これは、液体四塩化チタン供給パイプ520の突起部521が堆積層DMに埋もれると液体四塩化チタンが堆積層DMの表面を伝って流れてしまうことに由来すると考えられる。さらに説明すると、炉頂部512で成長した堆積層DMの表面を伝って液体四塩化チタンが流れると堆積層DMの表面が付着物を吸着しやすくなり、さらに表面が冷却されて堆積層DMの成長が促され、これらが続くと炉頂部512において炉内に向けて厚い堆積層DMが形成されて四塩化チタンガス回収パイプ570の炉頂部512側の開口を閉塞させると考えられる。
【0008】
このような流動層への液体四塩化チタンの供給不良に基づく不具合の発生を抑制するため、特許文献1に記載の技術を改良することが望まれる。
【0009】
そこで、本発明の一実施形態においては、四塩化チタンの製造中、炉内における液体四塩化チタン供給パイプの突起部の損耗を抑制して、流動層に液体四塩化チタンを比較的長期間にわたって供給することができる四塩化チタンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討した結果、塩化工程において用いる塩化炉の炉頂部に備わる液体四塩化チタン供給パイプであって、炉内に突き出た突起部の外表面はセラミックスの被覆層を有することで、前記突起部の損耗を抑制して、炉内の流動層に液体四塩化チタンを比較的長期間にわたって供給できることを見出した。本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下に例示される。
[1]
炉内に突き出た突起部を有する液体四塩化チタン供給パイプを炉頂部に備えた塩化炉を用い、チタン鉱石とコークスと塩素ガスとを含む流動層を形成し、四塩化チタンガスを生成する塩化工程を含み、
前記液体四塩化チタン供給パイプの前記突起部の外表面は、セラミックスの被覆層を有する、四塩化チタンの製造方法。
[2]
前記塩化工程は、前記流動層に向かって液体四塩化チタンを供給する温度制御ステップを有する、[1]の四塩化チタンの製造方法。
[3]
前記セラミックスは、アルミナ、窒化ケイ素、ジルコニア及び炭化ケイ素から選ばれる1種以上を80質量%以上含む、[1]又は[2]の四塩化チタンの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態においては、四塩化チタンの製造中、炉内における液体四塩化チタン供給パイプの突起部の損耗を抑制して、流動層に液体四塩化チタンを比較的長期間にわたって供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】従来の四塩化チタンの製造方法において塩化炉の炉頂部で発生する堆積層を説明するための模式的な部分拡大図である。
【
図2】本発明に係る四塩化チタンの製造方法の一実施形態において用いる塩化炉の内部構造を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明は各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。なお、図面では、発明に含まれる実施形態等の理解を助けるため概略として示す部材もあり、図示された大きさや位置関係等については必ずしも正確でない場合がある。
また、本明細書において、「高さ方向」とは、塩化炉の鉛直方向(図示の場合では
図2に示す塩化炉100の上下方向)に平行な方向を意味する。
【0014】
[四塩化チタンの製造方法]
<塩化工程>
本発明に係る四塩化チタンの製造方法の一実施形態においては、
図2に示す構成を備える塩化炉100を使用するものであって、四塩化チタンガスを生成する塩化工程を含む。当該塩化炉100は、少なくとも、筒状(例えば、円筒状)である胴部111と、該胴部の上側に位置する炉頂部112と、該胴部の下側に位置する底部113とを有する塩化炉本体110と、該炉頂部112に設けられ炉内に突き出る突起部121を有する液体四塩化チタン供給パイプ120と、該底部113側に接続された塩素ガス供給パイプ130と、複数の塩素ガス流路(不図示)を有する分散盤140と、胴部111に接続され、原料として酸化チタンを含有するチタン鉱石及びコークスを供給するための原料供給パイプ150と、上記分散盤140上に形成されるチタン鉱石とコークスと塩素ガスとを含む流動層160と、炉頂部112側に接続され、該流動層160で生成された四塩化チタンガスを回収するための四塩化チタンガス回収パイプ170とを備える。そして、塩化工程において用いる液体四塩化チタン供給パイプ120の突起部121の外表面125は、セラミックスの被覆層を有する。なお、外表面125は、外周面126を少なくとも含み、さらに先端面127を含むこととしてよい。
さらに、塩化工程は、一例として、流動層160の温度を制御するため、該流動層160に向かって液体四塩化チタン供給パイプ120を介して液体四塩化チタンを供給する温度制御ステップを有することがある。
また、流動層160は、四塩化チタンの製造が開始されてから塩化炉本体110内で分散盤140上に形成される。流動層160は、操業時に形成される塩化炉100の構成である。
【0015】
一実施形態によれば、突起部121の外表面125がセラミックスで被覆された液体四塩化チタン供給パイプ120を用いているので、当該塩化工程において四塩化チタンを生成している間、液体四塩化チタン供給パイプ120の突起部121が塩素ガスによって腐食すること、液体四塩化チタン供給パイプ120の突起部121の外表面125がチタン鉱石やコークスの粒子の繰り返しの衝突によって摩耗すること等を抑制することができる。そのため、四塩化チタンの生成中、液体四塩化チタン供給パイプ120の突起部121が意図せずに短くなることを抑制できる。したがって、炉頂に付着物の堆積層が形成されたときに、液体四塩化チタン供給パイプ120の突起部121が堆積層内に埋もれるまで長い期間を要し、液体四塩化チタン供給パイプ120で流動層160に液体四塩化チタンを長期間にわたって供給することができる。
【0016】
ただし、液体四塩化チタン供給パイプ120の突起部121の損耗が抑制されても、塩化炉100で四塩化チタンを長期間製造している間に、炉頂部112側で付着物の堆積層が大きく成長すると、いずれは突起部121が堆積層内に埋没し得る。この場合、流動層160に向けて液体四塩化チタンを供給するため、液体四塩化チタン供給パイプ120の定期的な交換や、高さ方向での液体四塩化チタン供給パイプ120の突起部121の先端面127の位置の調整が必要となることもある。
【0017】
(液体四塩化チタン供給パイプ)
液体四塩化チタン供給パイプ120は、流動層160に液体四塩化チタンを供給する目的で使用される。ここで、良好な耐熱性を有し、高温時に強度を発揮できるという観点から、液体四塩化チタン供給パイプ120は、金属製であることが好ましく、中でもステンレス鋼製、ニッケル製またはニッケル合金製がより好ましい。ニッケルは、鉄と比べて、塩素ガスへの耐腐食性に優れている。
【0018】
(突起部)
突起部121は塩化炉本体110の内部に突き出た部分であり、通常はガスに晒される部分(いわゆるフリーボードに存在する部分)である。よって、炉頂部112に堆積層がなければ炉頂部112の天井側から突き出た部分であり、炉頂部112に堆積層があれば該堆積層から突き出た部分である。
液体四塩化チタン供給パイプ120の突起部121の外表面125は、セラミックスで被覆されている。また、他の例として、液体四塩化チタン供給パイプ120の突起部121の内周面128は、セラミックスで被覆されることもあるが、内周面128は必ずしもセラミックスで被覆されることを要しない。
なお、液体四塩化チタン供給パイプ120は、液体四塩化チタンを供給している間、塩化炉本体110内で生じる四塩化チタンや二酸化炭素等の高温ガス、未反応のチタン鉱石やコークス等の原料、チタン鉱石中のチタン以外の金属成分を含有する塩化物等が、突起部121の内部に入り込みにくい。また、液体四塩化チタンの供給停止中、液体四塩化チタン供給パイプ120を介して炉内に窒素ガス等の防護用ガスを供給してもよい。この場合も、先述したように、塩化炉本体110内で生じる四塩化チタンや二酸化炭素等の高温ガス、未反応のチタン鉱石やコークス等の原料、チタン鉱石中のチタン以外の金属成分を含有する塩化物等が、液体四塩化チタン供給パイプ120の外部から内部に入り込みにくい。以上より、液体四塩化チタン供給パイプ120の突起部121の内周面128は必ずしもセラミックスで被覆されることを要しない。前記防護用ガスはガスとして回収される四塩化チタンを化学変化させないもの、塩化炉後段の回収設備で四塩化チタンと分離しやすいもの、であることが好ましい。
なお、この液体四塩化チタン供給パイプ120の突起部121の先端面127は、流動層160から離間していればよく、その先端面127の高さ位置は適宜設定可能である。
【0019】
(セラミックス)
セラミックスの被覆については公知の方法を適宜採用可能であるが、例えば溶射法が挙げられる。溶射法を採用した場合、液体四塩化チタン供給パイプ120の突起部121の外表面125に緻密かつ密着力の高いセラミックスの被覆層122を形成することが可能である。溶射法においては、液体四塩化チタン供給パイプ120の先端面127にセラミックス粉末を溶融した溶射物を投射したときに、突起部121の内周面128の一部(先端面127側の部分)にセラミックスの被覆層122が形成されることがある。なお、液体四塩化チタン供給パイプ120がセラミックス製である場合は、その表面全体がセラミックスであるため、セラミックスの被覆層を有するものとして扱う。また、セラミックス製の外側部材と液体四塩化チタン供給パイプ120とを螺合や嵌合等により結合することでも、前記セラミックスの被覆となる。
【0020】
また、セラミックスは各種の無機化合物から適宜選択可能である。コスト、耐摩耗性、耐腐食性及び耐熱性の観点から、酸化物系セラミックスを所定量含んでいることが好ましいが、例えば窒化アルミニウムや窒化ケイ素といった窒化物等の非酸化物系セラミックスでもよい。より具体的には、当該セラミックスは、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化ケイ素、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素及び炭化ケイ素から選択される1種以上を80質量%以上含んでいることが好ましい。より好ましくは、当該セラミックスは、アルミナ、窒化ケイ素、ジルコニア及び炭化ケイ素から選ばれる1種以上を80質量%以上含む。
【0021】
なお、セラミックスの被覆層122の厚みは、液体四塩化チタン供給パイプ120の厚みやその材質、突起部121の長さ等を鑑み、適宜設定可能である。
【0022】
(温度制御ステップ)
温度制御ステップは、流動層160の温度をより確実に制御する観点から、炉内の流動層160に向かって液体四塩化チタンを供給することが好ましい。なお、流動層の温度が過度に高くない場合は温度制御ステップを休止できる。すなわち、温度制御ステップは常に実施することを要しない。流動層160の温度を過度に高くしないことによって、セラミックスの被覆層122を有する液体四塩化チタン供給パイプ120は長さが短くなりにくく、これにより塩化炉の炉頂部112で堆積層が成長しても突起部121が保持されやすい。
流動層160に液体四塩化チタンを供給するときは、流動層160の温度を制御しやすいので、流動層160の平面視で略中央部に液体の四塩化チタンを供給することが好ましい。流動層160の温度は図示省略の温度計等を使用して把握可能である。前記「略中央部」とは、流動層の形状と温度制御の観点から適宜設定可能である。例えば、塩化炉本体110の胴部111が円筒状である場合、流動層160の平面視形状は円形であるので、略中央部も円形として設定できる。この場合好ましくは、液体四塩化チタン供給パイプ120は、上記の円筒状胴部111の中心軸と略同心に配置される。その理由は、液体四塩化チタン供給パイプ120の設置および交換の作業負荷が小さい、所望部位に液体四塩化チタンの供給を継続しやすい、等である。ここで、前記略中央部の形状はあくまで液体四塩化チタンの供給部位の目安であり、流動層160の温度を適切に制御できる部位に液体四塩化チタンを供給することが重要である。
なお、略中央部の領域については、例えば以下の通りである。すなわち、平面視した時に流動層の重心と前記略中央部の重心とが重なり、略中央部の平面視した時の形状は円形、楕円形、または多角形等適宜選択可能である。さらに、平面視した流動層において取りうる前記重心を通る最長直線の1/2の長さを前記略中央部の重心を通る最長直線の長さとすることができる。
【0023】
また、塩化工程中、当該温度制御ステップは、流動層160の温度を適切に制御する観点から、液体四塩化チタンの供給及び停止を繰り返してもよい。
【0024】
また、液体四塩化チタンは、液体四塩化チタン供給パイプ120から流動層160に、例えば液柱状に供給することが好ましい。これにより、炉内で流動層160に到達する前における四塩化チタンの気化を効果的に抑制することができ、流動層160全体を効率的に冷却することが可能である。
なお、液体四塩化チタンは、流動層160を冷却できることを条件として、液体四塩化チタン供給パイプ120から流動層160に、例えば噴霧状に供給してもよい。
【0025】
本明細書の「液柱状に供給」とは、連続的な液体四塩化チタンの供給を意味し、その供給方向は必ずしも高さ方向に沿って真っ直ぐ乃至平行である必要はない。液体四塩化チタンを、鉛直方向に対して傾斜する向きで供給してもよい。また、炉頂部112から流動層160に向けて供給される途中で、液体四塩化チタンで形成される液柱の径が多少増減しても連続的に繋がっている限り、「液注状に供給」しているとみなされる。なお、供給時における液体四塩化チタンの形状は、液体四塩化チタン供給パイプ120内の背圧や突起部121の先端面127側の開口123の大きさで適宜調整可能である。
【0026】
液体四塩化チタンの供給量は、塩化炉100の構成又は流動層160の大きさ等に鑑み適宜設定可能であるが、好適な一例として3L/分以上かつ10L/分以下の範囲内である。なお、液体四塩化チタンの供給量が10L/分以下であれば、液体四塩化チタン供給パイプ120から供給された液体四塩化チタンが流動層160の下方に存在する分散盤140まで到達せずに、温度制御可能である。
【0027】
(液体四塩化チタン)
液体四塩化チタンは特に限定されるものではないが、例えば、塩化炉100の下流側に設けられた四塩化チタン回収設備(不図示)に備わる蒸発釜や精留塔から得たものを用いることができる。蒸発釜からはスラリーとして、精留塔ではその塔頂液及び/又は塔底液として、液体四塩化チタンを得ることができる。すなわち、製造コストを低減する観点から、後述する粗四塩化チタンや精製四塩化チタンとして回収されなかったものを流動層160に供給してよい。
【0028】
<塩化工程以降の工程について>
塩化炉から得た四塩化チタンガスは、通常、四塩化チタン回収設備に導かれ、分離や精製の処理に供される。当該四塩化チタン回収設備には、例えば、分離設備、蒸発釜、精留塔等が含まれる。例えば、塩化工程後、四塩化チタンガスを分離設備に導入し、未反応のチタン鉱石やコークス(いわゆる、キャリーオーバー)等の不純物を除去して液体である粗四塩化チタンを得る(粗四塩化チタン取得工程)。その後、蒸発釜で粗四塩化チタンを加熱し、精留塔により精製して精製四塩化チタンを得る(精製四塩化チタン取得工程)。
【実施例0029】
本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例及び比較例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための試験的な具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものではない。
【0030】
[実施例1]
(塩化炉の準備)
Ni製のパイプの外表面125(外周面126および先端面127)にアルミナを溶射して被覆した液体四塩化チタン供給パイプ120を使用した。当該液体四塩化チタン供給パイプ120は塩化炉本体110に取り付けた際、突起部121の外表面125がセラミックスの被覆層122を有するものとなっていた。
【0031】
次に、突起部121の外表面125にセラミックスの被覆層122を有する液体四塩化チタン供給パイプ120を、炉頂部112の天井側から炉内に挿入したことで、
図2に示す構成を備える塩化炉100を準備した。なお、塩化炉100の四塩化チタンガス回収パイプ170には、分離設備、蒸発釜、精留塔の順に備えた公知の四塩化チタン回収設備を後段に接続した。なお、液体四塩化チタン供給パイプ120を介して供給する液体四塩化チタンは、蒸発釜からスラリーとして得られる四塩化チタンや精留塔の塔頂及び塔底から得られた四塩化チタンを使用した。
【0032】
(四塩化チタンの製造(塩化工程))
塩化炉100の原料供給パイプ150からチタン鉱石及びコークスを分散盤140上に供給し、塩素ガス供給パイプ130から塩素ガスを供給し、塩化炉100を操業した。操業中、流動層160内の温度を900℃以上かつ1200℃以下の範囲内に維持するために、液体四塩化チタン供給パイプ120から平面視したときの流動層160の略中央部に向かって液柱状となるように液体四塩化チタンを供給した(温度制御ステップ)。すなわち、流動層160の温度が上限側近傍となった場合は液体四塩化チタンを流動層160に供給して流動層160の温度を制御した。他方、上記温度範囲内で流動層160の温度が安定している間は液体四塩化チタンの供給を停止し、液体四塩化チタン供給パイプ120は少量の窒素ガスを流し、液体四塩化チタン供給パイプ120の内周面128の損耗を抑制した。なお、チタン鉱石及びコークスの投入量については、適宜調整した。
【0033】
そして、塩化炉100を計3基準備して、各塩化炉100の操業を3年実施した。このとき、塩化炉100の炉頂部112に堆積層が成長した後は3ヶ月に1回の頻度で液体四塩化チタン供給パイプ120を交換した。
【0034】
実施例1における塩化炉100の操業では、3基の塩化炉100はいずれも3年間操業でき、塩化炉100の寿命を全うした。
【0035】
[比較例1]
比較例1では、セラミックスで被覆されていない液体四塩化チタン供給パイプを用いて塩化炉の試験操業を実施したことと、液体四塩化チタン供給パイプの交換頻度について1ヶ月に1回にしたこと、2基の塩化炉を使用したこと以外、実施例1と同様にし、四塩化チタンの製造を実施した。すなわち、比較例1では、操業中において液体四塩化チタン供給パイプの損耗が激しいことが確認されたので、液体四塩化チタン供給パイプの交換頻度が高くなった。
【0036】
比較例1における塩化炉の操業では、2基の塩化炉のうち1基の塩化炉は3年間操業でき、塩化炉の寿命を全うした。その後、塩化炉の炉修において塩化炉内部を確認したところ、四塩化チタンガス回収パイプの下部において堆積物が付着していることが確認された。残り1基の塩化炉は寿命を全うせず、操業開始から約2年で塩化炉を止めることとなった。塩化炉を解体して確認したところ、四塩化チタンガス回収パイプの開口が閉塞する程に堆積層が成長していたことが確認された。
【0037】
[実施例の考察]
実施例1では、四塩化チタンの製造方法において、炉頂部に設けられ炉内に突き出た突起部を有する液体四塩化チタン供給パイプを備えた塩化炉を用い、塩化炉の炉内でチタン鉱石とコークスと塩素ガスとを含む流動層を形成し、四塩化チタンガスを生成させ、液体四塩化チタン供給パイプの突起部の外表面はセラミックスの被覆層を有したことで、炉内における液体四塩化チタン供給パイプの突起部の損耗を抑制して、流動層に液体四塩化チタンを比較的長期間にわたって供給することができた。また、このような四塩化チタンの製造方法は、生産効率の観点から有用であると推察される。
なお、比較例1では、四塩化チタンの製造方法において、液体四塩化チタン供給パイプの突起部の外表面は、セラミックスの被覆層を有していなかったことで、炉内における液体四塩化チタン供給パイプの突起部の損耗が激しかった。また、炉頂部で堆積層の成長が促されて寿命を全うできない塩化炉があった。塩化炉の炉内を外部から視認できないため推論となるが、寿命を全うできなかった塩化炉では損耗した液体四塩化チタン供給パイプから供給した液体四塩化チタンの一部が堆積層の表面を伝い流れ、これにより堆積層の成長が促進され、結果として四塩化チタンガス回収パイプの開口が閉塞する程に堆積層が成長したと考えられた。