(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165432
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】整流構造
(51)【国際特許分類】
E02B 5/00 20060101AFI20241121BHJP
E03F 5/04 20060101ALI20241121BHJP
F16L 55/00 20060101ALI20241121BHJP
F16L 41/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
E02B5/00 Z
E03F5/04 A
F16L55/00 G
F16L41/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081636
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】永野 雄一
【テーマコード(参考)】
2D063
3H019
3H025
【Fターム(参考)】
2D063CA25
3H019BA01
3H019BB04
3H019BD05
3H025BA25
3H025BB02
(57)【要約】
【課題】流路の合流部において、容易に設置でき、且つ効率的に溢流を抑制できる整流構造を提供する。
【解決手段】第一流路11に対して第二流路12が合流する合流部2に設けられる整流構造1であって、第二流路12の第一流路11に対する合流角度Aは、82~90度であり、合流角度Aを二等分する平面に沿って整流板20が配置されている。整流板20の高さ寸法は、第二流路12の深さ寸法と同等であり、整流板20の張出寸法は、第二流路12の幅寸法と同等である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一流路に対して第二流路が合流する合流部に設けられる整流構造であって、
前記第二流路の前記第一流路に対する合流角度は、82~90度であり、
前記合流角度を二等分する平面に沿って整流板が配置されている
ことを特徴とする整流構造。
【請求項2】
前記整流板の高さ寸法は、前記第二流路の深さ寸法と同等であり、
前記整流板の張出寸法は、前記第二流路の幅寸法と同等である。
ことを特徴とする請求項1に記載の整流構造。
【請求項3】
前記整流板は、板厚方向に貫通する複数の開口部を備えている
ことを特徴とする請求項1に記載の整流構造。
【請求項4】
前記開口部は、矩形形状を呈し、市松模様状に配置されている
ことを特徴とする請求項3に記載の整流構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整流構造に関する。
【背景技術】
【0002】
排水路などの水路では、溢流を抑制するための整流装置が設けられている(例えば特許文献1参照)。特許文献1の整流装置は、水路の底面に対して平行に、且つ上下に所定の間隔をあけて設置される複数の水平板と、複数の水平板に垂直に、且つ水流方向に沿って配置された垂直板とを備えている。この整粒装置によれば、局所的な液面上昇を抑制し、溢流、浸水被害の発生を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の整流装置では、複数の水平板と垂直板を組み合わせて構成されており、さらに、流路の形状に合わせて板材を成形する必要があるで、製造および設置に多くの手間と費用を要するといった問題があった。特に、流路の合流部に整流装置を設けようとした場合、構成が非常に複雑となってしまう。
このような観点から、本発明は、流路の合流部において、容易に設置でき、且つ効率的に溢流を抑制できる整流構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するための本発明は、第一流路に対して第二流路が合流する合流部に設けられる整流構造であって、前記第二流路の前記第一流路に対する合流角度は、82~90度であり、前記合流角度を二等分する平面に沿って整流板が配置されていることを特徴とする整流構造である。
本発明の整流構造によれば、整流板が一枚であるので、容易に設置できる。また、第一流路および第二流路の流水が整流板の両面側からそれぞれ好適な角度で当たるので、効率的に溢流を抑制できる。
【0006】
本発明の整流構造においては、前記整流板の高さ寸法は、前記第二流路の深さ寸法と同等であり、前記整流板の張出寸法は、前記第二流路の幅寸法と同等であるものが好ましい。このような構成によれば、より一層、溢流を抑制できる。
本発明の整流構造においては、前記整流板は、板厚方向に貫通する複数の開口部を備えているものが好ましい。このような構成によれば、第一流路からの流水と第二流路からの流水が開口部で衝突して流れの向きが溢れる方向から変化するとともに、流れのエネルギーが低減されるので、効率的に溢流を抑制できる。
本発明の整流構造においては、前記開口部は、矩形形状を呈し、市松模様状に配置されているものが好ましい。このような構成によれば、開口部がバランスよく配置されるので、より一層、溢流を抑制できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の整流構造によれば、流路の合流部において、容易に設置でき、且つ効率的に溢流を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第一流路と第二流路との合流状態を示した斜視図である。
【
図2】本発明の第一の実施形態に係る整流構造を示した要部斜視図である。
【
図3】本発明の第一の実施形態に係る整流構造を示した要部平面図である。
【
図4】本発明の第二の実施形態に係る整流構造を示した要部斜視図である。
【
図5】本発明の第二の実施形態に係る整流構造の整流板を示した正面図である。
【
図6】流路の合流角度、整流板の形状ごとの溢流量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第一の実施形態に係る整流構造について、添付した図面を参照しながら説明する。本実施形態では、流路が、道路の排水等に用いられるU字溝である場合を例に挙げて説明する。なお、流路はU字溝に限定されるものではない。
図1は第一流路と第二流路との合流状態を示した斜視図、
図2は本発明の第一の実施形態に係る整流構造を示した要部斜視図、
図3は、本発明の第一の実施形態に係る整流構造を示した要部平面図である。
【0010】
図1に示すように、第一の本実施形態に係る整流構造1は、道路に設けられた2つの排水溝が合流する合流部2において流水の溢流を抑制する構造である。整流構造1は、第一流路11に対して第二流路12が合流する合流部2に設けられている。第一流路11は、道路の長手方向に沿って延在するとともに傾斜しており、
図1では直線状に形成され図中右下側が下流側となるように配置されている。第二流路12は、道路の短手方向(車幅方向)に沿って延在するとともに傾斜しており、
図1では直線状に形成され図中右上側(合流部2側)が下流側となるように配置されている。
図2および
図3にも示すように、本発明では、第二流路12の第一流路11に対する合流角度A(
図3参照)は、82~90度(本実施形態では90度)である。第一流路11の側面には、合流用の切欠き部13が形成されており、第二流路12の下流側端部が、第一流路11の切欠き部13の周縁部に当接している。
合流部2には、整流板20が設けられている。整流板20は、矩形形状を呈する板材であって、例えば鋼板にて構成されている。整流板20の高さ寸法は、第二流路12の深さ寸法と同等であり、整流板20の張出寸法(横幅寸法)は、第二流路12の幅寸法と同等である。整流板20の基端部は、第一流路11と第二流路12との合流部2の上流側角部に接続されている。整流板20は、合流角度Aを二等分する平面に沿って配置されている。つまり、整流板20は、第一流路11の水流方向に対して合流角度Aの半分A/2(本実施形態では45度)で傾斜するとともに、第二流路12の水流方向に対して合流角度Aの半分A/2(本実施形態では45度)で傾斜している。整流板20の底面は、第一流路11の底面に当接している。整流板20の上面は、第一流路11および第二流路12の頂面と面一になっている。
【0011】
次に、第二実施形態に係る整流構造5について、
図4および
図5を参照しながら説明する。第二実施形態の整流構造5は、整流板25の形状が前記実施形態と異なる。第二流路12の第一流路11に対する合流角度Aや、整流板25の配置角度は、前記実施形態と同様である。
図4は本発明の第二の実施形態に係る整流構造を示した要部斜視図、
図5は本発明の第二の実施形態に係る整流構造の整流板を示した正面図である。
図4に示すように、第二実施形態の整流板25の外周形状は、前記実施形態の整流板20と同様である。整流板25の高さ寸法は、第二流路12の深さ寸法と同等であり、整流板25の張出寸法(横幅寸法)は、第二流路12の幅寸法と同等である。
【0012】
図5にも示すように、整流板25は、板厚方向に貫通する複数の開口部26を備えている。開口部26は、矩形形状を呈しており、市松模様状に配置されている。具体的には、開口部26は、上下左右に所定の間隔をあけて複数個所に形成されている。つまり、整流板25では、開口部26と板状部27とが上下左右に交互に配置されている。開口部26の高さ寸法は、整流板25の高さ寸法を三等分した寸法と略同等であり、開口部26の横幅寸法は、整流板25の横幅寸法を三等分した寸法と略同等である。
以下では、本実施形態のように、開口部26の高さ寸法および横幅寸法が、整流板25の寸法を三等分している場合を、「分割数3」の整流板という。つまり、等分する分割の数を分割数という。
整流板25は、例えば金属製の格子状に形成された枠状フレームに鋼板を取り付けて形成されている。鋼板を取り付けた部分が板状部27となり、鋼板を取り付けていない枠状フレームの枠の内側が開口部26となる。なお、整流板25の構成は、前記構成に限定されるものではなく、他の構成であってもよい。
【0013】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った検証について、
図6を参照しながら説明する。
図6は、流路の合流角度、整流板の形状ごとの溢流量を示したグラフである。
検証は、流体解析ソフトである「OpenFOAM」(OpenCFD社製)を用いて、第一流路11と第二流路12との合流角度および整流板の形状を様々に変えて、流路からの溢流量を算出した。合流角度は、30度、50度、70度、80度、82度、84度、85度、90度の8種で設定した。整流板の形状は、整流板なし、通常の整流板(第一の実施形態の整流板20(開口部なし))、分割数2、分割数3(第二の実施形態の整流板25)、分割数4、分割数5の6種で設定した。流入流量は、0.0387m
3/sと設定した。これは、合流部2での流下水深が0.2mとなる値である。
【0014】
図6のグラフに示すように、全合流角度において、整流板なしよりも通常の整流板を設置した方が、溢流量は少なくなっている。これより整流板が有効に機能していることが分かる。この中でも特に、合流角度が82度、84度、85度で、整流板なしの場合の溢流量より整流板を設けた場合の溢流量が大きく減少しており、整流板の機能が大きく作用していることが分かる。
次に、通常の整流板を設置した場合と、開口部有りの整流板を設置した場合とを比較すると、合流角度が30度、50度、70度では、開口部有りの整流板の方が、溢流量は多くなっている。一方、合流角度が80度、82度、84度、85度、90度では、分割数2の整流板を設置した場合が、通常の整流板を設置した場合よりも溢流量は少なくなっている。また、合流角度が84度、85度、90度では、分割数3の整流板を設置した場合が、通常の整流板を設置した場合よりも溢流量は少なくなっている。
以上のことより、本発明の整流構造1,5による溢流量減少効果は、合流角度が80度以上の場合に発揮され、特に82度以上の場合に、効果が大きいことが分かる。また、整流板の分割数は2または3が好ましいことが分かる。なお、分割数が4,5と大きい整流板は、合流角度が90度の時に溢流量を減少することができる。
【0015】
続いて、溢流量が減少するメカニズムについて考察する。合流部における水流の解析を行った結果、整流板がない場合の方が整流板を設置した場合より、合流部の水路壁付近で水路外へ向かう流力ベクトルが多く発生していた。したがって、整流板がない場合に、溢流が発生し易い流れとなっている。特に、合流角度が82度以上でその傾向が大きくなった。
一方、通常の整流板を設置した場合と、開口部有りの整流板を設置した場合とを比較すると、開口部有りの整流板を設置した場合の方が、多くの水が水路壁に沿う方向に流れていることが分かった。これは、開口部において、第一流路11からの流水と第二流路12からの流水とが衝突することで、流れが溢れる方向から水路壁に沿う方向へ変化していることを示している。さらに、流水同士の衝突によって、流れの勢いが低減されることも推測できる。
【0016】
前記実施形態の整流構造1,5によれば、整流板20,25は、合流角度Aを二等分する平面に沿って配置されているので、整流板20,25は、第一流路11の水流方向および第二流路12の水流方向に対して一定以上の角度で傾斜する。これによって、第一流路11および第二流路12の流水が、整流板20,25の両面側からそれぞれ好適な角度で滑らかに当たる。したがって、流水の流れが下流側に円滑に誘導され、効率的に溢流を抑制することができる。また、設置される整流板20,25が一枚であるので、容易に設置でき、施工手間や費用を低減することができる。
また、整流板20,25は、第一流路11の頂面からはみ出さないので、路面上に露出しない。さらに、整流板20,25の両面側に適度な幅の流路が形成されるので、より一層、溢流を抑制できる。
【0017】
開口部26を備えた整流板25を設置した場合には、第一流路11の流水と第二流路12の流水同士を開口部26で衝突させることで、水流の向きを水路壁に添う方向に変化させることができるとともに、流れのエネルギーを低減できるので、より一層、溢流を抑制できる。
開口部26は、矩形形状を呈し、市松模様状に配置されているので、バランスよく配置され、流水のいずれの水深においても効率的に溢流を抑制できる。
【0018】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記実施形態では、開口部26は、矩形形状であるがこれに限定されるものではない。開口部の形状は、例えば、円形、楕円形あるいは多角形等の他の形状であってもよい。さらに、開口部の配置形状は、市松模様状に限定されるものではなく、例えば、スリット状の複数の開口部を互いに平行に配置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0019】
1 整流構造
2 合流部
11 第一流路
12 第二流路
20 整流板
25 整流板
26 開口部
A 合流角度