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特開2024-165433アンモニアの分解又は合成反応に用いられる触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165433
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】アンモニアの分解又は合成反応に用いられる触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/78 20060101AFI20241121BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20241121BHJP
   C01C 1/02 20060101ALI20241121BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20241121BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B01J23/78 M
C01B3/04 B
C01C1/02 A
B01J37/08
B01J37/02 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081637
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山下 大輔
(72)【発明者】
【氏名】堤 裕司
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA04C
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BA05C
4G169BB04C
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB06C
4G169BC13A
4G169BC13B
4G169BC13C
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC66C
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC67C
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BC68C
4G169CB81
4G169CB82
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB30
(57)【要約】
【課題】 高価な貴金属類や希土類元素を使用することなく、アンモニア分解反応や合成反応において高い触媒活性を発揮する触媒を提供する。
【解決手段】 チタン、バリウム及びジルコニウムを構成元素として含む複合酸化物(A)を含む担体上にニッケル、鉄、コバルト及びこれらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が担持された構造を有し、アンモニアの分解又は合成反応に用いられる、触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン、バリウム及びジルコニウムを構成元素として含む複合酸化物(A)を含む担体上にニッケル、鉄、コバルト及びこれらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が担持された構造を有し、アンモニアの分解又は合成反応に用いられる、触媒。
【請求項2】
前記複合酸化物(A)は、下記式(1);
BaTiZr1-x3-δ (1)
(式中、xは、0.05≦x≦0.9の数を表す。δは酸素欠損量を表す。)
で表される化合物である、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の触媒を製造する方法であって、
該製造方法は、チタン、バリウム、ジルコニウムを構成元素として含む複合酸化物(A)を含む担体に対してニッケル、鉄、コバルト及びこれらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を担持する工程と、該担持工程で得られた担持物を焼成する工程とを含む、触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の触媒を用いてアンモニアを分解する工程を含む水素の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の触媒を用いてアンモニアを合成する工程を含むアンモニアの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアの分解又は合成反応に用いられる触媒に関する。より詳しくは、水素の製造等に有用なアンモニアの分解反応又はアンモニアの合成反応に用いられる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは、古くから化学肥料等の原料として生産されており、また体積あたりの水素密度が高い特徴から、近年は将来の水素社会実現へ向けた有望な水素キャリアとしても注目されている。アンモニアから水素を取り出す方法として電気分解、接触分解等がある。一般的なアンモニア分解法として用いられる熱触媒接触分解反応は吸熱反応であり、600℃以上の高温で進行することが知られている。
近年、燃料電池への適用を見据え、より低温で高活性を示す触媒開発が盛んに行われている。
【0003】
アンモニア分解触媒の活性金属として、ルテニウム、コバルト、ニッケル、鉄等が知られている(例えば非特許文献1及び2参照)。中でも、ルテニウム触媒は低温で高活性を示すことが知られており、特許文献1には、アンモニアまたはアンモニア含有ガスを無機質担体にルテニウムを担持させてなる触媒と加熱下に接触させて、該アンモニアを窒素及び水素に分解することを特徴とするアンモニアの分解方法が開示されている。
【0004】
しかし、貴金属であるルテニウムはコバルトやニッケル、鉄と比較してコストが高いため、ルテニウムの使用量を低減する技術も検討されており、例えば特許文献2には、平均粒径1nm~50nmの超微粒子粉末を所要形状に成形した担体に、ルテニウムおよび促進剤を担持してなることを特徴とするアンモニア分解触媒が開示されている。また、特許文献3には、ルテニウム及び希土類酸化物が、希土類酸化物以外の金属酸化物からなる担体に担持され、前記希土類酸化物の含有量が0.1~30.0質量%である、アンモニア分解触媒が開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、ニッケル、コバルト及び鉄から選ばれる1 種以上の元素(A)、ストロンチウム及びバリウムから選ばれる1種以上の元素(B)、並びにランタンとセリウムとを除いたランタノイドから選ばれる1 種以上の元素(C)を含み、かつ元素(B)を、元素(B)の酸化物換算で0.1質量%~15質量%の範囲で含有する触媒(X)に、アンモニアを含有する原料ガスを接触させる工程を有する水素の製造方法が開示されている。さらに、これらに対し、非特許文献3では、貴金属を使用しない触媒として、SrZrOやBaZrOなどのペロブスカイト型酸化物にNiを担持させた触媒についてのアンモニア分解活性が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-84910号公報
【特許文献2】特開2011-78888号公報
【特許文献3】国際公開第2019/188219号
【特許文献4】特開2016-203052号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H ムロヤマ(H Muroyama) 他3名、アプライド カタリシス エイ:ジェネラル(Applied Catalysis A:General),2012年,第433巻,p119-124
【非特許文献2】L ワン(L Wang) 他4名、ケミカル コミュニケーションズ(Chemical Communications)、2013年、第49巻、p3787-3789
【非特許文献3】K オオクラ(K Okura) 他4名、RSCアドバンシーズ(RSC Advances)、2018年、第8巻、p32102-32110
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のとおり、従来種々のアンモニア分解触媒が開発されており、ルテニウムの使用量を低減するために助触媒として希土類元素を用いる技術等が検討されている。しかし、希土類元素は高価であって、鉱石の産出国に偏りがあり、コストや安定的な供給の点で問題がある。また、従来検討されている貴金属類や希土類元素を用いないものについてはアンモニア分解反応や合成反応の触媒活性において充分ではなかった。したがって、貴金属類や希土類元素を使用することなく、アンモニア分解反応や合成反応において高い触媒活性を発揮する触媒が求められていた。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高価な貴金属類や希土類元素を使用することなく、アンモニア分解反応や合成反応において高い触媒活性を発揮する触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、アンモニアの分解又は合成反応に用いられる触媒について種々検討したところ、チタン、バリウム及びジルコニウムを構成元素として含む複合酸化物(A)を含む担体にニッケル及び/又はその酸化物を担持させることにより、高価な貴金属類や希土類元素を使用することなく高いアンモニア分解活性を発揮する触媒となることを見いだした。また、上記触媒は、アンモニア分解反応の逆反応であるアンモニア合成反応に対しても高い活性を発揮する触媒となることを見いだした。このように、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0011】
本発明は、以下の触媒等を包含する。
〔1〕チタン、バリウム及びジルコニウムを構成元素として含む複合酸化物(A)を含む担体上にニッケル、鉄、コバルト及びこれらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が担持された構造を有し、アンモニアの分解又は合成反応に用いられる、触媒。
〔2〕上記複合酸化物(A)は、下記式(1);
BaTiZr1-x3-δ (1)
(式中、xは、0.05≦x≦0.9の数を表す。δは酸素欠損量を表す。)で表される化合物である、上記〔1〕に記載の触媒。
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕に記載の触媒を製造する方法であって、該製造方法は、チタン、バリウム、ジルコニウムを構成元素として含む複合酸化物(A)を含む担体に対してニッケル、鉄、コバルト及びこれらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を担持する工程と、該担持工程で得られた担持物を焼成する工程とを含む、触媒の製造方法。
〔4〕上記〔1〕又は〔2〕に記載の触媒を用いてアンモニアを分解する工程を含む水素の製造方法。
〔5〕上記〔1〕又は〔2〕に記載の触媒を用いてアンモニアを合成する工程を含むアンモニアの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の触媒は、上述の構成よりなり、貴金属類や希土類元素を使用することなく、アンモニア分解反応や合成反応において高い触媒活性を発揮するため、水素の製造やアンモニアの製造等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0014】
1.アンモニアの分解又は合成反応に用いられる触媒
本発明の触媒は、チタン、バリウム及びジルコニウムを構成元素として含む複合酸化物(A)を含む担体上にニッケル、鉄、コバルト及びこれらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が担持された構造を有し、アンモニアの分解又は合成反応に用いられる。
本明細書中、「担持」とは、担持される化合物が担体の表面に支持されていることをいう。担体の表面に担持される化合物が部分的に付着している場合もあるが、層が形成される場合もある。
上記触媒における担体が上記チタン、バリウム及びジルコニウムを構成元素として含む複合酸化物(A)を含むことで、これら3元素の複合酸化物とすることで、電子的相互作用が変化することや、酸素欠損や単位格子の歪が生じることでアンモニア、水素、窒素が吸着しやすくなることが、触媒活性の向上に寄与しているものと考えられる。
また、本発明の触媒は、上記の構造を有することにより、反応温度を下げた状態でも、触媒活性を発揮することができる。
【0015】
上記複合酸化物(A)におけるチタン、バリウム及びジルコニウムの比率は特に制限されないが、バリウムに対するチタン及びジルコニウムの割合(モル比)は、それぞれ0.1~0.9であることが好ましい。
上記複合酸化物(A)は、下記式(1);
BaTiZr1-x3-δ (1)
(式中、xは、0.05≦x≦0.9の数を表す。δは酸素欠損量を表す。)で表される化合物であることが好ましい。
上記xは、0.05~0.9の数であり、好ましくは0.05~0.8であり、より好ましくは0.08~0.3であり、更に好ましくは0.1~0.2である。上記式(1)におけるδは酸素欠損量を表し、組成や温度、雰囲気等によって異なる値をとるが、0~1の範囲の値である。
【0016】
上記複合酸化物(A)の結晶構造としては特に制限されず、ペロブスカイト型、蛍石型、スピネル型等が挙げられるが、ペロブスカイト型が好ましい。
【0017】
上記触媒におけるニッケル及び/又はその酸化物の担持量は、触媒全体100重量部に対して、ニッケル金属元素換算で1~60重量部であることが好ましい。このような担持量であると、より触媒活性の高い触媒とすることができる。ニッケル及び/又はその酸化物の担持量は、より好ましくは10~50重量部であり、更に好ましくは30~45重量部である。
上記触媒における鉄及び/又はその酸化物の担持量として好ましくは鉄金属元素換算で1~60重量部であり、より好ましくは10~50重量部であり、更に好ましくは30~45重量部である。
上記触媒におけるコバルト及び/又はその酸化物の担持量として好ましくはコバルト金属元素換算で1~60重量部であり、より好ましくは10~50重量部であり、更に好ましくは30~45重量部である。
上記触媒におけるニッケル、鉄、コバルト及びこれらの酸化物を組み合わせて使用する場合、合計の担持量として好ましくは触媒全体100重量部に対して、ニッケル、鉄、コバルト金属元素換算で1~60重量部であり、より好ましくは10~50重量部であり、更に好ましくは30~45重量部である。
【0018】
上記触媒の形態は特に制限されず、粉体のまま触媒として用いてもよいが、成形触媒として用いることが好ましい。
成形触媒としては、粉体触媒を加圧・圧縮した凝集塊や、この凝集塊を適当な粒径に破砕した圧縮成形体、粉体触媒を打錠機により一定の形状に圧縮固形化した打錠成形体、粉体触媒を球状担体にコーティング、又は転動造粒した球状成形体、粉体触媒をハニカム担体にコーティングしたハニカム成形体、粉体触媒にバインダーを加え混練・押出した押出成形体等が挙げられる。
【0019】
上記成形触媒は、賦孔剤を加えて成形し、焼成処理を施すことにより細孔を形成させてもよい。賦孔剤としては、焼成処理により容易に除去されるカルボキシメチルセルロース、ポリスチレン等が挙げられる
【0020】
2.触媒の製造方法
本発明の触媒は、チタン、バリウム及びジルコニウムを構成元素として含む複合酸化物(A)を含む担体上にニッケル、鉄、コバルト及びこれらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を担持させることにより製造することができる。好ましくは、チタン、バリウム、ジルコニウムを構成元素として含む複合酸化物(A)を含む担体に対してニッケル、鉄、コバルト及びこれらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を担持する工程と、該担持工程で得られた担持物を焼成する工程とを行って製造することであり、上記担持工程と、焼成工程とを含む触媒の製造方法もまた本発明の1つである。
【0021】
上記触媒の製造方法において用いるチタン、バリウム、ジルコニウムを構成元素として含む複合酸化物(A)の製造方法は特に制限されず、通常用いられる方法により得ることができる。
具体的には、バリウム、チタン、ジルコニウムを含む化合物の混合物を水熱処理する方法や、固相反応により合成する方法などが挙げられる。
【0022】
上記担持工程に用いるニッケル原料としては、ニッケル元素を含むものであれば特に制限されないが、硝酸ニッケル(II)、塩化ニッケル、酸化ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、水酸化ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、炭酸ニッケル(II)、塩基性炭酸ニッケル(II)、硫化ニッケル(II)、テトラカルボニルニッケル(0)、過塩素酸ニッケル(II)等の化合物や、金属ニッケル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、硝酸ニッケル、塩化ニッケルが好ましい。
【0023】
上記担持工程に用いる鉄原料としては、鉄元素を含むものであれば特に制限されないが、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、酢酸鉄(II)、塩基性酢酸鉄(III)、炭酸鉄(II)、硫化鉄(II)、硫化鉄(III)、ペンタカルボニル鉄(0)、過塩素酸鉄(II)、過塩素酸鉄(III) 、金属鉄等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、硝酸鉄、塩化鉄が好ましい。
【0024】
上記担持工程に用いるコバルト原料としては、コバルト元素を含むものであれば特に制限されないが、硝酸コバルト(II)、塩化コバルト(II)、酸化コバルト(II)、硫酸コバルト(II)、水酸化コバルト(II)、酢酸コバルト(II)、炭酸コバルト(II)、塩基性炭酸コバルト(II)、硫化コバルト(II)、オクタカルボニルコバルト(0)、過塩素酸コバルト(II)、金属コバルト等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、硝酸コバルト、塩化コバルトが好ましい。
【0025】
上記担持工程では、上記担体と上記ニッケル原料、鉄原料及びコバルト原料からなる群より選択される少なくとも1種(以下、ニッケル種等ともいう。)とを混合することが好ましい。
上記担持工程は、乾式混合でも湿式混合でもよい。ニッケル、鉄、コバルト及びこれらの酸化物からなる群より選択される少なくとも1種をより充分に担体に担持させることができるため、湿式混合で行うことがより好ましい。
湿式混合に用いる溶媒としては、水、アルコール、ケトン、エーテル化合物等を使用することができ、水が好ましい。
【0026】
上記担体とニッケル種等の混合を溶媒を用いて行う場合、ニッケル種等を溶媒に溶解させ、ニッケル種等の溶液とした後に担体と混合することが好ましい。このようにすることで、ニッケル種等をより細かく担体表面に存在せしめることができ、ニッケル種等の有効表面積を大きくすることができる。
【0027】
上記担体に対してニッケル種等を担持する工程において、溶媒を使用する場合、焼成工程の前に溶媒を除去することが好ましい。これにより焼成工程を効率的に行うことができる。
溶媒を除去する方法は特に制限されないが、溶媒を蒸発させる方法が好ましく、混合物を加熱する方法が好ましい。加熱温度は、60~150℃が好ましく、より好ましくは80~130℃である。
また加熱時間は1~30時間であることが好ましい。より好ましくは、5~10時間である。
【0028】
上記担体に対するニッケル種等の担持物を焼成する工程において、焼成する温度は、100~1000℃であることが好ましい。より好ましくは、200~800℃である。更に好ましくは、200~700℃である。
また焼成する時間は、10~300分であることが好ましい。より好ましくは、30~180分である
【0029】
上記焼成は、大気雰囲気、還元雰囲気、不活性雰囲気、又は真空雰囲気下で行うことができる。還元雰囲気としては、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性ガス中に水素等の還元性ガスを、0を超え100vol%以下の割合で含む雰囲気を用いることができる。また、水素化ホウ素ナトリウム、水素化チタン等の水素化物や炭素、有機物等の還元性を有する物質を混合して焼成しても良い。
【0030】
3.水素の製造方法
本発明の触媒は、アンモニアを分解して水素を製造する反応に好適に用いることができる。このような本発明の触媒を用いてアンモニアを分解する工程を含む水素の製造方法もまた、本発明の1つである。
上記水素を製造する方法は、アンモニアガスを上記触媒に供給して行う方法が好ましい。
【0031】
上記水素の製造方法において、上記アンモニアの分解工程の前に、上記触媒を還元処理する工程を含むことが好ましい。これにより複合酸化物(A)中に酸素欠損が発生し、アンモニアの分解工程においてアンモニアがより吸着しやすくなり、触媒活性がより高まる。
上記還元処理工程は、触媒中の複合酸化物(A)が還元される限り特に制限されないが、還元雰囲気で加熱することが好ましい。
上記還元処理工程に用いられる還元性ガスとしては、水素、一酸化炭素等が挙げられる。還元性ガスとして好ましくは水素である。
上記還元処理工程における加熱温度としては特に制限されないが、300~900℃であることが好ましい。より好ましくは400~800℃であり、更に好ましくは500~700℃である。
上記還元処理工程における加熱時間としては特に制限されないが、1~24時間であることが好ましい。より好ましくは2~12時間であり、更に好ましくは3~10時間である。
【0032】
アンモニアの分解反応における反応の温度は、300~700℃であることが好ましい。より好ましくは、400~600℃である。
また反応の圧力は、0.1~0.6MPaであることが好ましい。より好ましくは、0.1~0.3MPaである。
【0033】
4.アンモニアの製造方法
本発明の触媒は、水素と窒素を原料としてアンモニアを製造する反応に好適に用いることができる。このような本発明の触媒を用いてアンモニアを合成する工程を含むアンモニアの製造方法もまた、本発明の1つである。
【0034】
上記アンモニア合成工程は、水素と窒素とを反応させる限り特に制限されないが、反応の温度は、300~700℃であることが好ましい。より好ましくは400~600℃である。
また反応の圧力は、0.1~0.6MPaであることが好ましい。より好ましくは、0.1~0.3MPaである。
【実施例0035】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」とは「重量%」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0036】
<実施例1>
硝酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬社製)33.7gとイオン交換水50.0gを秤量してナスフラスコに入れ、攪拌した後、ペロブスカイト型ジルコン酸チタン酸バリウム(堺化学工業社製、商品名「BTZ-8020-01」)10.0gを秤量して前記ナスフラスコに入れ、30分間攪拌した。その後、乾燥して乾燥粉末1を得た。得られた乾燥粉末1をアルミナるつぼに入れ、大気中700℃まで昇温し、700℃で2時間保持した後、室温まで自然冷却して実施例1粉末を得た。
【0037】
<実施例2>
硝酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬社製)4.2gとイオン交換水50.0gを秤量してナスフラスコに入れ、攪拌した後、ペロブスカイト型ジルコン酸チタン酸バリウム(堺化学工業社製、商品名「BTZ-8020-01」)10.0gを秤量して前記ナスフラスコに入れ、30分間攪拌した。その後、乾燥して乾燥粉末2を得た。得られた乾燥粉末2をアルミナるつぼに入れ、大気中700℃まで昇温し、700℃で2時間保持した後、室温まで自然冷却して実施例2粉末を得た。
【0038】
<実施例3>
硝酸コバルト(II)六水和物(富士フイルム和光純薬社製)32.9gとイオン交換水50.0gを秤量してナスフラスコに入れ、攪拌した後、ペロブスカイト型ジルコン酸チタン酸バリウム(堺化学工業社製、商品名「BTZ-8020-01」)10.0gを秤量して前記ナスフラスコに入れ、30分間攪拌した。その後、乾燥して乾燥粉末3を得た。得られた乾燥粉末3をアルミナるつぼに入れ、大気中700℃まで昇温し、700℃で2時間保持した後、室温まで自然冷却して実施例3粉末を得た。
【0039】
<実施例4>
硝酸鉄(II)九水和物(富士フイルム和光純薬社製)30.5gとイオン交換水50.0gを秤量してナスフラスコに入れ、攪拌した後、ペロブスカイト型ジルコン酸チタン酸バリウム(堺化学工業社製、商品名「BTZ-8020-01」)10.0gを秤量して前記ナスフラスコに入れ、30分間攪拌した。その後、乾燥して乾燥粉末4を得た。得られた乾燥粉末4をアルミナるつぼに入れ、大気中700℃まで昇温し、700℃で4時間保持した後、室温まで自然冷却して実施例4粉末を得た。
【0040】
<実施例5>
硝酸鉄(II)九水和物(富士フイルム和光純薬社製)3.8gとイオン交換水25.0gを秤量してナスフラスコに入れ、攪拌した後、ペロブスカイト型ジルコン酸チタン酸バリウム(堺化学工業社製、商品名「BTZ-8020―01」)10.0gを秤量して前記ナスフラスコに入れ、30分間攪拌した。その後、乾燥して乾燥粉末5を得た。得られた乾燥粉末5をアルミナるつぼに入れ、大気中700℃まで昇温し、700℃で4時間保持した後、室温まで自然冷却して実施例5粉末を得た。
【0041】
<比較例1>
硝酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬社製)33.7gとイオン交換水50.0gを秤量してナスフラスコに入れ、攪拌した後、ジルコン酸バリウム(株式会社高純度化学研究所製)10.0gを秤量して前記ナスフラスコに入れ、30分間攪拌した。その後、乾燥して乾燥粉末6を得た。得られた乾燥粉末6をアルミナるつぼに入れ、大気中700℃まで昇温し、700℃で2時間保持した後、室温まで自然冷却して比較例1粉末を得た。
【0042】
<比較例2>
硝酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬社製)33.7gとイオン交換水50.0gを秤量してナスフラスコに入れ、攪拌した後、チタン酸バリウム(堺化学工業社製、商品名「BT-01」)10.0gを秤量して前記ナスフラスコに入れ、30分間攪拌した。その後、乾燥して乾燥粉末7を得た。得られた乾燥粉末7をアルミナるつぼに入れ、大気中700℃まで昇温し、700℃で2時間保持した後、室温まで自然冷却して比較例2粉末を得た。
【0043】
<比較例3>
硝酸鉄(II)九水和物(富士フイルム和光純薬社製)3.8gとイオン交換水25.0gを秤量してナスフラスコに入れ、攪拌した後、チタン酸バリウム(堺化学工業社製、商品名「BT-01」)10.0gを秤量して前記ナスフラスコに入れ、30分間攪拌した。その後、乾燥して乾燥粉末8を得た。得られた乾燥粉末8をアルミナるつぼに入れ、大気中700℃まで昇温し、700℃で4時間保持した後、室温まで自然冷却して比較例3粉末を得た。
【0044】
<アンモニア分解活性評価>
実施例1、2、3、4、5及び比較例1、2、3の粉末1.0gをφ20mmの金型に入れ、加圧プレス機を用いて圧力30MPaでプレスし、得られたペレットを目開き600μm~1.4mmの篩に通して、篩の上の成形粉末を回収し、アンモニア分解活性評価用サンプルを得た。得られたアンモニア分解活性評価用サンプルをφ1cm、長さ38cmの石英管の中央に固定し、石英管を赤外炉にセットした。当該石英管に常圧で窒素200ml/分流通し、5分間保持した。次に、水素180ml/分流通しながら600℃まで120分間かけて昇温し、2時間保持した。その後、アンモニア100ml/分、窒素60ml/分の混合ガスを流通しながら、550℃まで15分間かけて降温し、15分間保持した。500℃まで15分間かけて降温し、15分間保持した。各温度保持中の生成ガスを攪拌状態にある0.3Mの硫酸水溶液中に吹込み、当該硫酸水溶液の300秒当たりの電気伝導率の変化を電気伝導率(装置名ポータブル電気伝導率計CM-31P、東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて測定し、15分の平均変化量を求め、予め測定した検量線からアンモニア分解率を算出した。
【0045】
<アンモニア合成活性評価>
実施例5及び比較例3の粉末1.0gをφ20mmの金型に入れ、加圧プレス機を用いて圧力30MPaでプレスし、得られたペレットを目開き600μm~1.4mmの篩に通して、篩の上の成形粉末を回収し、アンモニア合成活性評価用サンプルを得た。得られたアンモニア合成活性評価用サンプルをφ1cm、長さ38cmの石英管の中央に固定し、石英管を赤外炉にセットした。当該石英管に常圧で窒素200ml/分流通し、5分間保持した。次に、水素180ml/分流通しながら600℃まで120分間かけて昇温し、30分間保持した。その後、水素180ml/分、窒素60ml/分の混合ガスを流通しながら、600℃で30分間保持した。550℃まで20分間かけて降温し、30分間保持した。500℃まで20分間かけて降温し、30分間保持した。各温度保持中の生成ガスを攪拌状態にある2.0×10-6Mの硫酸水溶液中に吹込み、当該硫酸水溶液の300秒当たりの電気伝導率の変化を電気伝導率(装置名ポータブル電気伝導率計CM-31P、東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて測定し、30分の平均変化量を求め、予め測定した検量線からアンモニア生成濃度を算出した。
【0046】
【表1】
【表2】
【0047】
上記結果より、実施例1~5はチタン、バリウム及びジルコニウムを構成元素として含む複合酸化物(A)を含む担体を用いることにより、構成元素としてチタン又はジルコニウムを含まない担体を用いた比較例1~2よりもアンモニア分解活性が著しく向上した。
また、実施例1の複合酸化物(A)を含む担体では、比較例1及び2の触媒と比べて、低温での分解活性が著しく向上した。
更に、実施例2、5より、複合酸化物(A)を含む担体は、担持する金属種量を5重量部まで減少させても、40重量部担持させた比較例1及び2と同等若しくはそれ以上の分解活性があり、担持金属種重量当たりの触媒活性が飛躍的に向上していることが分かった。
また、実施例5はチタン、バリウム及びジルコニウムを構成元素として含む複合酸化物を含む担体を用いることにより、構成元素としてチタン又はジルコニウムを含まない担体を用いた比較例3よりもアンモニア合成活性が著しく向上した。
このように本発明の触媒は、貴金属類や希土類元素を使用することなく高いアンモニア分解又は合成活性を発揮することが明らかとなった。