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特開2024-165437インドシアニングリーン誘導体を有する共重合体、光増感剤、医薬組成物、および、その製造方法
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  • 特開-インドシアニングリーン誘導体を有する共重合体、光増感剤、医薬組成物、および、その製造方法 図1
  • 特開-インドシアニングリーン誘導体を有する共重合体、光増感剤、医薬組成物、および、その製造方法 図2
  • 特開-インドシアニングリーン誘導体を有する共重合体、光増感剤、医薬組成物、および、その製造方法 図3
  • 特開-インドシアニングリーン誘導体を有する共重合体、光増感剤、医薬組成物、および、その製造方法 図4
  • 特開-インドシアニングリーン誘導体を有する共重合体、光増感剤、医薬組成物、および、その製造方法 図5
  • 特開-インドシアニングリーン誘導体を有する共重合体、光増感剤、医薬組成物、および、その製造方法 図6
  • 特開-インドシアニングリーン誘導体を有する共重合体、光増感剤、医薬組成物、および、その製造方法 図7
  • 特開-インドシアニングリーン誘導体を有する共重合体、光増感剤、医薬組成物、および、その製造方法 図8
  • 特開-インドシアニングリーン誘導体を有する共重合体、光増感剤、医薬組成物、および、その製造方法 図9
  • 特開-インドシアニングリーン誘導体を有する共重合体、光増感剤、医薬組成物、および、その製造方法 図10
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165437
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】インドシアニングリーン誘導体を有する共重合体、光増感剤、医薬組成物、および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/00 20060101AFI20241121BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/787 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C08F220/00
A61P35/00
A61K31/787
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081647
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉冨 徹
(72)【発明者】
【氏名】陳 国平
(72)【発明者】
【氏名】川添 直輝
(72)【発明者】
【氏名】松井 裕史
(72)【発明者】
【氏名】藤原 彩織
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 梓
(72)【発明者】
【氏名】星 葵
【テーマコード(参考)】
4C086
4J100
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086FA03
4C086FA06
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC80
4J100AL08P
4J100AM21Q
4J100BA29Q
4J100BA32P
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100HA61
4J100HC63
4J100HC71
4J100HE12
4J100JA51
(57)【要約】      (修正有)
【課題】光温熱療法において光増感剤として使用可能な新規共重合体を提供する。
【解決手段】以下の式(I)で示される繰り返し単位と式(II)で示される繰り返し単位とを含む共重合体である。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)で示される繰り返し単位と式(II)で示される繰り返し単位とを含む共重合体。
【化1】

(式(I)または(II)中、
及びRは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表し、
、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基、または式:R-C(=O)-(式中、Rは、OH基、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシル基、または無置換若しくは置換アミノ基を表す)の基を表し、
及びLは、それぞれ独立して、OまたはNHであり、
及びLは、2価の基であり、
Zは、式(III)または式(IV)で表され、
【化2】

Xは、アニオンを表す。)
【請求項2】
前記L及びLは、それぞれ独立して、炭素数1~5の二価の直鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数3~5の二価の分岐状脂肪族炭化水素基、炭素数5~10の二価の環状脂肪族炭化水素基、炭素数5~10の二価の芳香族炭化水素基、-O-、-S-、-N(R)-(式中、Rは、水素原子、または炭素数1~12の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表す)、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-O-C(=O)-NH-、-S(=O)-、-S(=O)-O-、-S(=O)-、-S(=O)-O-、-CH=N-、またはこれらを組み合わせた基である、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
前記共重合体の全繰り返し単位数に対する、式(II)で表される繰り返し単位数の割合が、1~50%である、請求項1に記載の共重合体。
【請求項4】
式(I)で示される繰り返し単位数に対する式(II)で表される繰り返し単位数の比((II)/(I))が、1/1000~1/2である、請求項1に記載の共重合体。
【請求項5】
式(II)で表される構成単位を、1または2つ有する、請求項1に記載の共重合体。
【請求項6】
及びRは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1~3の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表し、
、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~3の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表し、
は、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレンを表し、
は、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレンを表す、
請求項1に記載の共重合体。
【請求項7】
、R、R及びRは、-CHを表し、
は、-O-を表し、
は、-NH-を表し、
は、-CH-CH-を表し、
は、-CH-CH-CH-を表し、
Xは、Clを表し、
Zは、式(III)で表される、
【化3】

請求項6に記載の共重合体。
【請求項8】
分子量(MW)は、1000~100000である、請求項1に記載の共重合体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の共重合体を含む、光温熱療法用の光増感剤。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の共重合体を含む、医薬組成物。
【請求項11】
癌治療のための請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
光温熱療法により癌を治療するための請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記光温熱療法は、前記医薬組成物を対象の標的部位に投与後、前記対象の標的部位に近赤外線を照射することにより実施される、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記近赤外線を、単回照射する、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか一項に記載の共重合体を製造する方法であって、
以下の式(IA)及び式(IIA)の化合物であって、
【化4】

、R、R、R、L、L、L、L及びXは請求項1~8のいずれか一項に定義される通りである、化合物を重合する工程、及び
前記重合する工程によって得られた重合体をインドシアニングリーンまたはCypateと反応させる工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四級アンモニウムカチオンを有する繰り返し単位と、インドシアニングリーンまたはインドシアニングリーン誘導体を有する繰り返し単位とを含む共重合体、それを含む光温熱療法用の光増感剤、ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光温熱療法は、光を吸収し発熱する物質を腫瘍組織に局在させ、当該物質に光を照射して腫瘍を加温することで抗腫瘍効果を得る、がん治療方法である。腫瘍を加温することで、腫瘍細胞のアポトーシスが誘導され、腫瘍細胞の薬剤耐性や免疫などの性質が変化することが知られており、光温熱療法は、このような特性を利用してがん細胞を死滅させるものである。
【0003】
インドシアニングリーン(ICG)は、臨床的に安全性が確認されている近赤外(NIR)色素であり、乳癌のセンチネルリンパ節の同定等で臨床でも広く使用されている。800nm付近の波長の光を吸収し発熱する特徴を有しており、この特性を利用して、近年ではICGの光温熱療法への利用が試みられている。ICGを用いる光温熱療法は、一般的に、ICGを局所投与した後レーザーを投与部位に複数回照射するプロトコールで実施されるが、抗腫瘍効果は高くないのが現状であり、少ないNIR照射回数で十分な治療効果が得られる光温熱療法に対するニーズが存在する。
【0004】
これに対して、カチオン脂質である1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)を組み込んだリポソームにインドシアニングリーンを静電気的に吸着させることで、ICGの光学特性が向上し、光温熱療法におけるICGの有効性が改善することが示されている(非特許文献1)。
しかし、このリポソームに吸着させたICGでは、生体内投与後、迅速にリポソームから漏れ出すといった問題がある。
【0005】
ところで、本発明者らは、四級アンモニウムカチオンを有する繰り返し単位と、ポルフィリン化合物またはその塩を有する繰り返し単位とを含む共重合体を含む光増感剤が、腫瘍組織内に局所的に長期間残存することを見出し、この特性を利用して、腫瘍組織のマーキング剤または光線力学的治療法における光増感剤として使用することを提案している(特許文献1)。この共重合体を光線力学的治療法で利用する場合、光増感剤を腫瘍組織に局所的に投与した後は、比較的長期間にわたって追加の投与なしで、赤色可視光を繰り返し照射するだけで、腫瘍組織の増大を抑制することができるものである。もっとも、この報告は、四級アンモニウムカチオンを有する共重合体とすることで、ポルフィリン化合物の光学特性を変えたり、共重合体の細胞内取り込みや細胞内分布の挙動を変えることを教示するものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Miranda,Dyego,et al.“Indocyanine green binds to DOTAP liposomes for enhanced optical properties and tumor photoablation.”Biomaterials science 7.8(2019):3158-3164.
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2023/013175号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、光温熱療法において光増感剤として使用した際に、優れた抗腫瘍活性を有する、共重合体およびその製造方法、ならびにその共重合体を含む光温熱療法用の光増感剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成すべく、ICGをそのまま投与する従来の光温熱療法で治療効果が低い原因を探求し、ICG単体では、周囲の温度上昇率が大きくないことに加え、細胞内への取り込み量は多くなく細胞内では細胞全体に拡散していた。また、ICGをそのまま投与する従来の光温熱療法では、実際、アポトーシスが然程誘導されていないことも確認した。
そこで、これらの特性を改善すべく検討を重ね、四級アンモニウムカチオンとインドシアニングリーンとの共重合体を用いてこれらの特性を調べたところ、周囲の温度上昇率が増大するとともに、細胞内への取り込み量が増大し、細胞内ではエンドソーム内に局在しているという興味深い知見を得た。また、アポトーシスが照射直後から誘導され、がん細胞殺傷効果が大幅に改善されることを確認した。
【0010】
本発明は、このような知見に基づくものであり、以下の共重合体およびその製造方法、ならびにその共重合体を含む光温熱療法用の光増感剤を提供する。
[1] 以下の式(I)で示される繰り返し単位と式(II)で示される繰り返し単位とを含む共重合体。
【化1】

(式(I)または(II)中、
及びRは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表し、
、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基、または式:R-C(=O)-(式中、Rは、OH基、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシル基、または無置換若しくは置換アミノ基を表す)の基を表し、
及びLは、それぞれ独立して、OまたはNHであり、
及びLは、2価の基であり、
Zは、式(III)または式(IV)で表され、
【化2】

Xは、アニオンを表す。)
[2] 前記L及びLは、それぞれ独立して、炭素数1~5の二価の直鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数3~5の二価の分岐状脂肪族炭化水素基、炭素数5~10の二価の環状脂肪族炭化水素基、炭素数5~10の二価の芳香族炭化水素基、-O-、-S-、-N(R)-(式中、Rは、水素原子、または炭素数1~12の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表す)、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-O-C(=O)-NH-、-S(=O)-、-S(=O)-O-、-S(=O)-、-S(=O)-O-、-CH=N-、またはこれらを組み合わせた基である、[1]に記載の共重合体。
[3] 前記共重合体の全繰り返し単位数に対する、式(II)で表される繰り返し単位数の割合が、1~50%である、[1]または[2]に記載の共重合体。
[4] 式(I)で示される繰り返し単位数に対する式(II)で表される繰り返し単位数の比((II)/(I))が、1/1000~1/2である、[1]~[3]のいずれかに記載の共重合体。
[5] 式(II)で表される構成単位を、1または2つ有する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の共重合体。
[6] R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1~3の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表し、
、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~3の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表し、
は、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレンを表し、
は、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレンを表す、
[1]~[5]のいずれか一項に記載の共重合体。
[7] R 、R、R及びRは、-CHを表し、
は、-O-を表し、
は、-NH-を表し、
は、-CH-CH-を表し、
は、-CH-CH-CH-を表し、
Xは、Clを表し、
Zは、式(III)で表される、
【化3】

[6]に記載の共重合体。
[8] 分子量(MW)は、1000~100000である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の共重合体。
[9] [1]~[8]のいずれか一項に記載の共重合体を含む、光温熱療法用の光増感剤。
[10] [1]~[8]のいずれか一項に記載の共重合体を含む、医薬組成物。
[11] 癌治療のための[10]に記載の医薬組成物。
[12] 光温熱療法により癌を治療するための[11]に記載の医薬組成物。
[13] 前記光温熱療法は、前記医薬組成物を対象の標的部位に投与後、前記対象の標的部位に近赤外線を照射することにより実施される、[12]に記載の医薬組成物。
[14] 前記近赤外線を、単回照射する、[13]に記載の医薬組成物。
[15] [9]に記載の光増感剤を対象の標的部位に投与すること、および前記対象の標的部位に所定の波長(例えば、680nm~820nmの波長)のレーザー光を照射することを含む、光温熱療法。
[16]癌治療のための、[15]に記載の光温熱療法。
[17] [1]~[8]のいずれか一項に記載の共重合体の、光温熱療法用の光増感剤を調製するための使用。
[18] [9]に記載の光増感剤の、光温熱療法用医薬を調製するための使用。
[19] 前記医薬は、癌治療用である[18]に記載の使用。
[20] [1]~[8]のいずれか一項に記載の共重合体を製造する方法であって、
以下の式(IA)及び式(IIA)の化合物であって、
【化4】

、R、R、R、L、L、L、L及びXは[1]~[8]のいずれか一項に定義される通りである、化合物を重合する工程、及び
前記重合する工程によって得られた重合体をインドシアニングリーンまたはCypateと反応させる工程を含む、上記方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の共重合体は、インドシアニングリーンと比べて、光を照射した際の温度上昇率が増強され、さらに、四級アンモニウムカチオンを有する構成単位に由来する正電荷を利用して、細胞膜上の負電荷を有する多糖などに静電的に接着したのち、エンドソーム内に取り込まれ、エンドソーム内に局在化するという特性により、光温熱療法において光増感剤として使用した際にインドシアニングリーンと比較して優れた抗腫瘍活性を有する。理論に拘泥するものではないが、優れた抗腫瘍活性を発揮するメカニズムとしては、本発明の共重合体の細胞膜への接着、及びエンドソーム内への局在時にレーザー照射することにより、細胞膜近傍の温度が急激に上がることにより、細胞膜の不安定化をもたらし、通常細胞膜の内側に存在するホスファチジルセリンが外部に露出することにより、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導すると考えられる。腫瘍細胞のホスファチジルセリンの露出は、eat meシグナルとして、マクロファージに認識され、マクロファージが貪食することより、腫瘍サイズが縮小する。一方、インドシアニングリーンは、細胞内によく取り込まれるが、細胞質内に分布するため、レーザー照射による温度上昇は生じるものの、ホスファチジルセリンの外部露出の誘導効率が低い。このように、本発明の共重合体は、迅速かつ顕著にアポトーシスを誘導するため、長期間にわたり繰り返し近赤外線を照射する必要がなく、より患者の負担の少ない治療を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で得られた共重合体PMETAC-co-PAPMAAとPMETAC-co-PAPMAA(ICG)をゲルろ過クロマトグラフィーカラムと示差屈折率計を用いて検出したクロマトグラムを示す。横軸は、溶出時間を示す。
図2】実施例1で得られた共重合体PMETAC-co-PAPMAA(ICG)の薄層クロマトグラフィー(励起光760nm、検出波長820nm)による分析結果を示す。
図3】実施例2の光増感剤、比較例1の光増感剤及びPBS(コントロール)に、近赤外レーザー(波長:808nm、強度:1.0W/cm)を5分間照射したときの、各溶液の温度の経時変化を示す。
図4】実施例2の光増感剤又は比較例1の光増感剤をマウス乳がん細胞(4T-1細胞)に添加した時の、PMETAC-co-PAPMAA(ICG)又はICGの細胞内局在性を分析した結果を示す。細胞核はDAPIを用いて染色し、エンドソームとリソソームはLisotracke greenを用いて染色し、共焦点顕微鏡を用いて観察した。赤色がICGを表し、青色が染色した細胞核を表し、緑色が染色したエンドソームおよびリソソームを表す。
図5】実施例2の光増感剤又は比較例1の光増感剤をマウス乳がん細胞(4T-1細胞)に添加した時の、PMETAC-co-PAPMAA(ICG)又はICGの細胞内取り込み量を示す。細胞内取り込み量は、ICGの蛍光強度を測定し、PMETAC-co-PAPMAA(ICG)又はICGの細胞内へ取り込まれた割合を算出した値を意味する。
図6】実施例2の光増感剤、比較例1の光増感剤又はPBS(コントロール)をマウス乳がん細胞(4T-1細胞)に添加して、近赤外レーザー(808nm,1.0W/cm)を10分間照射した場合及び近赤外レーザーを照射しなかった場合の細胞生存率を示す。
図7】実施例2の光増感剤、比較例1の光増感剤又はPBS(コントロール)をマウス乳がん細胞(4T-1細胞)に添加し、近赤外レーザーを照射しなかった場合、近赤外レーザー(808nm,1.0W/cm)照射直後、近赤外レーザー(808nm,1.0W/cm)照射後3時間における、生細胞、初期アポトーシス細胞、後期アポトーシス及びネクローシス細胞を、蛍光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。生細胞、初期アポトーシス細胞、並びに後期アポトーシス及びネクローシス細胞は、アポトーシス・ネクローシス染色試薬キットで染色し、それぞれ、青色、緑色、赤色で示される。
図8】実施例2の光増感剤又は比較例2の光増感剤をマウス乳がん細胞(4T-1細胞)に添加し、近赤外レーザーを照射しなかった場合、及び近赤外レーザーを照射した場合における、生細胞、初期アポトーシス細胞、後期アポトーシス及びネクローシス細胞を、蛍光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。生細胞、初期アポトーシス細胞、並びに後期アポトーシス及びネクローシス細胞は、アポトーシス・ネクローシス染色試薬キットで染色し、それぞれ、青色、緑色、赤色で示される。
図9】実施例2の光増感剤、比較例1の光増感剤又はPBS(コントロール)を、マウス乳癌細胞株(4T-1細胞)を皮下注射して作製した4T-1担癌マウスの腫瘍部位へ投与後、腫瘍部位に近赤外レーザー(808nm,1.0W/cm)を15分間照射した際の腫瘍内温度の経時変化を示す。
図10】実施例2の光増感剤、比較例1の光増感剤又はPBS(コントロール)を、マウス乳癌細胞株(4T-1細胞)を注射した4T-1担癌マウスの腫瘍部位へ投与後、(A)腫瘍部位に赤外レーザーを照射しなかった場合、(B)腫瘍部位に15分間近赤外レーザーを単回照射した場合の、腫瘍体積の経日変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
<本発明の共重合体>
本発明の共重合体(単に「共重合体」と称することもある)は、少なくとも以下の式(I)で示される繰り返し単位および式(II)で示される繰り返し単位を含む。
【化5】

(式(I)または(II)中、
及びRは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表し、
、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基、または式:R-C(=O)-(式中、Rは、OH基、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシル基、または無置換若しくは置換アミノ基を表す)の基を表し、
及びLは、それぞれ独立して、OまたはNHであり、
及びLは、2価の基であり、
Zは、式(III)または式(IV):
【化6】

で表され、
Xは、アニオンを表す。)
【0014】
及びRは、好ましくは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1~3の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表し、より好ましくは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1~3の直鎖アルキル基を表す。
【0015】
、R及びRは、好ましくは、それぞれ独立して、炭素数1~3の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または炭素数5~6のシクロアルキル基、炭素数7~8のアラルキル基、または式R-C(=O)-の基(式中、Rは、OH基、炭素数1~3の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~3の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシル基、または無置換アミノ基を表す)を表す。R、R及びRは、より好ましくは、それぞれ独立して、炭素数1~3の直鎖アルキル基を表す。
【0016】
は、好ましくはOである。また、Lは、好ましくはNHである。
【0017】
及びLは、好ましくは、それぞれ独立して、炭素数1~5の二価の直鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数3~5の二価の分岐状脂肪族炭化水素基、炭素数5~10の二価の環状脂肪族炭化水素基、炭素数5~10の二価の芳香族炭化水素基、-O-、-S-、-N(R)-(式中、Rは、水素原子、または炭素数1~12の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表す)、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-O-C(=O)-NH-、-S(=O)-、-S(=O)-O-、-S(=O)-、-S(=O)-O-、-CH=N-、またはこれらを組み合わせた基であり、より好ましくは、それぞれ独立して、炭素数1~5の二価の直鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数3~5の二価の分岐状脂肪族炭化水素基、炭素数5~6の二価の環状脂肪族炭化水素基、炭素数5~6の二価の芳香族炭化水素基、-O-、-S-、-N(R)-(式中、Rは、水素原子、または炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表す)、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-O-C(=O)-NH-、-S(=O)-、-S(=O)-O-、-S(=O)-、-S(=O)-O-、-CH=N-、またはこれらを組み合わせた基である。LおよびLは、さらに好ましくは、それぞれ独立して、炭素数1~5の二価の直鎖状脂肪族炭化水素基、または炭素数3~5の二価の分岐状脂肪族炭化水素基であり、特に好ましくは、炭素数1~3の二価の直鎖状脂肪族炭化水素基である。
【0018】
Zは、好ましくは、以下の式(III)で表される。
【化7】
【0019】
によって表されるアニオンとしては、無機アニオンおよび有機アニオンが挙げられ、無機アニオンとしては、例えば、フッ素アニオン、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオン、ヒドロキシアニオン等が例示でき、有機アニオンとしては、例えば、炭素数1~4のアルコキシアニオン、カルボキシアニオン、炭素数2~5のアルキルカルボキシアニオン、炭酸水素アニオン等が例示できる。
【0020】
共重合体は、式(I)および式(II)以外の繰り返し単位を有してよく、例えば、式(II)中のZがHである繰り返し単位を含んでもよい。
また、共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体(ジブロック、トリブロック、又はマルチブロック)のいずれであってもよい。
【0021】
共重合体中の式(II)で表される繰り返し単位数は、共重合体を光増感剤として利用した際に、共重合体間の凝集を低減する点から所定の範囲とすることが好ましい。具体的には、共重合体の全繰り返し単位の合計数に対する、式(II)で表される繰り返し単位数の割合が、0.01~50%であることが好ましく、1~50%であることがより好ましく、1~30%であることがなおさらに好ましく、2~20%であることが特に好ましい。
【0022】
式(II)で示される繰り返し単位数と式(I)で表される繰り返し単位数との比((II)/(I))は、同様の点から、1/100000~1/1であることが好ましく、1/1000~1/1であることがより好ましく、1/100~1/2であることがさらに好ましく、1/70~1/10であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明の好ましい実施形態による共重合体は、共重合体中に式(II)で表される繰り返し単位を1~10個有し、より好ましい実施形態による共重合体は、1~5個有し、更に好ましい実施形態による共重合体は、1または2つ有する。共重合体中のインドシアニングリーン部位の数が多くなると、共重合体が疎水性となり凝集し、光照射時の温度上昇率が低下する。
【0024】
ここで、本願明細書において、共重合体の全繰り返し単位の合計数に対する、式(II)で表される繰り返し単位数の割合、ならびに式(II)で示される繰り返し単位数と式(I)で表される繰り返し単位数との比((II)/(I))は、H NMR法によって決定される。より具体的には、共重合体を重メタノール、もしくは重水に溶解し、H NMRを測定し、側鎖由来のプロトンの積分値を分析することにより、上記割合を算定する。
【0025】
共重合体は、分子量(MW)について特に制限はなく、例えば、300~1000000の分子量(MW)を有し得る。もっとも、共重合体の分子量は、水溶性、粘度等の特性に影響を及ぼし得る要因の1つであるので、光増感剤としての利用を考慮すると、1000~100000が好ましく、5000~70000がより好ましい。
本願明細書において使用する場合、「分子量」は、特に断らない限り、重量平均分子量(Mw)をいう。また、重量平均分子量(Mw)、および数平均分子量(Mn)とも、本願明細書においては、以下の条件でゲルろ過クロマトグラフィーによって測定される値を意味する。
測定装置:Shimadzu 20AD
カラム:TSK gel G3000PW and G5000PW columns
溶離液:0.5 M 酢酸水溶液(20mM tetramethylammonium hydroxide pentahydrate含有)
標準物質:ポリエチレングリコール
流速:0.5mL/min
【0026】
<本発明の共重合体の製造方法>
本発明の共重合体は、
反応工程1:式(IA)及び式(IIA)
【化8】

(式中、R 、R、R、R、L、L、L、L及びXは、式(I)または(II)に関して述べた定義と同じであり、それぞれの好ましい、およびより好ましい(さらに好ましい等も同様である)選択肢も前述の通りである。)
の化合物を重合する工程、及び
反応工程2:反応工程1によって得られた重合体(以下では、中間重合体ということがある)をインドシアニングリーンまたはインドシアニングリーン誘導体と反応させる工程
を含む、方法により製造される。
インドシアニングリーン誘導体としては、例えば、Cypateなどを挙げることができ、MedChemExpress社からから入手可能である。
インドシアニングリーンは以下の式(IIIA)を有し、Cypateは以下の式(IVA)を有する。
【化9】
【0027】
反応工程1
式(IA)及び式(IIA)の化合物の重合反応は、式(IA)及び式(IIA)の化合物と、熱重合開始剤と、溶媒との混合物を反応させることで行う。また、この重合反応は、例えば、70℃、窒素下等の不活性雰囲気下、20時間で行うことができる。式(IA)の化合物に対する式(IIA)の化合物の混合比((IIA)/(IA))は、予定する、繰り返し単位(I)の全繰り返し単位に対する比、ならびに繰り返し単位(I)および(II)間の構成比に応じて調整することが好ましいが、通常は、1/1000~1/2の範囲とすることができる。また、インドシアニングリーンまたはインドシアニングリーン誘導体が結合した後の共重合体の疎水性を考慮して1/200~1/50の範囲とすることが好ましい。また、ランダム共重合体、交互共重合体、およびブロック共重合体といった構造制御は、共重合体の製造において一般的に知られる方法で実施すればよい。
熱重合開始剤としては、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)など水溶性ラジカル発生剤を挙げることができる。溶媒としては、水、エタノール、または水・エタノール混合溶媒などを挙げることができる。
式(IA)及び式(IIA)の化合物は、市販の化合物を利用することができ、例えば、シグマアルドリッチ社、または東京化成工業株式会社から入手可能である。
【0028】
所望の分子量分布の共重合体を得たい場合には、反応工程1で合成された重合体を、所望の分子量分布に応じて、分画分子量1000~100000の透析膜を用いて透析により精製してもよい。
【0029】
反応工程2
反応工程1によって得られた重合体とインドシアニングリーンまたはインドシアニングリーン誘導体とを反応させることで、重合体中の式(IIA)の化合物に由来する繰り返し単位のアミノ基にインドシアニングリーンまたはインドシアニングリーン誘導体を導入することができる。中間重合体へのインドシアニングリーンまたはインドシアニングリーン誘導体の導入は、例えば、中間重合体と、インドシアニングリーンまたはインドシアニングリーン誘導体と、縮合剤との混合物を、pH6~8の緩衝液中で、1~24時間反応させることで行うことができる。中間重合体とインドシアニングリーンまたはインドシアニングリーン誘導体の混合比は、予定するインドシアニングリーンまたはインドシアニングリーン誘導体の導入量に応じて調整することが好ましいが、通常一級アミノ基1モルに対して、インドシアニングリーンまたはインドシアニングリーン誘導体が2~20倍のモル数となる量とすることができ、製造コストの点から、2~5倍のモル数となる量とすることが好ましい。縮合剤としては、N-ヒドロキシコハク酸イミド、水溶性カルボジイミド塩酸塩などを挙げることができる。
【0030】
<本発明の共重合体の用途>
本発明の共重合体は、光温熱療法における光増感剤として使用することができ、目的の組織(例えば癌組織)に光温熱療法を実施する際に使用することができる。従って、本発明は、一の実施形態において、本発明の共重合体を含む光温熱療法用の光増感剤を提供する。また、本発明は、一の実施形態において、本発明の共重合体を含む医薬組成物、とりわけ癌治療のための医薬組成物を提供する。好ましい実施形態においては、共重合体を純水、生理食塩水、緩衝液等に溶解した溶液を光増感剤または医薬組成物とすることができる。また、一の実施形態において、共重合体を含有するリポソームを光増感剤または医薬組成物とすることもできる。光増感剤または医薬組成物は、負電荷を有していなければ各種添加剤を含んでもよい。溶液中の共重合体の濃度は、通常0.1mg/mL~100mg/mLとすればよく、1mg/mL~10mg/mLとすることが好ましい。
【0031】
このような溶液は、目的の組織(例えば癌組織)に局所的に注入され、次いで、目的の組織に所定の波長(例えば、680nm~820nmの波長)のレーザー光(通常、近赤外光)を照射し、これにより本発明の共重合体に光化学反応を引き起こして熱を発生させ、加温により生じる種々の作用を通じてがん細胞を死に至らせることができる。
本発明の共重合体を含む増感剤または医薬組成物の目的組織への注入方法は特に制限はなく周知・慣用方法でよい。
【0032】
本発明の共重合体を用いた光温熱療法によるがんの治療では、後述する実施例で実証する通り、目的の組織へレーザー光を単回照射した場合でも十分な治療効果を得られるため、必要最低限度で照射回数を決定することが好ましい。もっとも、患者の症状に応じて複数回照射してもよい。目的の組織へのレーザー光の照射時間は、特に制限されないが、通常、約10分以上であればよく、約15~20分であることが好ましい。またレーザー照射により、腫瘍近傍の温度が上がり、血流の上昇や細胞内への抗がん剤の取り込みが促進されるため、抗がん剤との併用も可能である。抗がん剤の種類として、例えば、
・抗悪性腫瘍薬(アルキル化薬):
イホスファミド(ifosfamide)、
シクロホスファミド水和物(cyclophosphamide hydrate)、
ブスルファン(busulfan)、
メルファラン(melphalan)、
ニムスチン塩酸塩(nimustine hydrochloride)、
ラニムスチン(ranimustine)、
ダカルバジン(dacarbazine)、
テモゾロミド(temozolomide)、および
プロカルバジン塩酸塩(procarbazine hydrochloride)、
・代謝拮抗薬:
ペメトレキセドナトリウム水和物(pemetrexed sodium hydrate)、
メトトレキサート(methotrexate)、
エノシタビン(enocitabine)、
カペシタビン(capecitabine)、
ゲムシタビン塩酸塩(gemcitabine hydrochloride)、
シタラビン(cytarabine)、
シタラビン オクホスファード水和物(cytarabine ocfosphate hydrate)、
テガフール(tegafur)、
テガフール・ウラシル(tegafur・uracil)、
テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(tegafur・gimeracil oteracil potassium)、
ドキシフルリジン(doxifluridine)、
フルオロウラシル(fluorouracil)、
クラドリビン(cladribine)、
ネララビン(nelarabine)、
フルダラビンリン酸エステル(fludarabine phosphate)、
メルカプトプリン水和物(mercaptopurine hydrate)、および
ヒドロキシカルバミド(hydroxycarbamide)、
・抗癌性抗生物質:
アクラルビシン塩酸塩(aclarubicin hydrochloride)、
アムルビシン塩酸塩(amrubicin hydrochloride)、
イダルビシン塩酸塩(idarubicin hydrochloride)、
エピルビシン塩酸塩(epirubicin hydrochloride)、
ダウノルビシン塩酸塩(daunorubicin hydrochloride)、
ドキソルビシン塩酸塩(doxorubicin hydrochloride)、
ピラルビシン塩酸塩(pirarubicin hydrochloride)、
ミトキサントロン塩酸塩(mitoxantrone hydrochloride)、
ブレオマイシン塩酸塩(bleomycin hydrochloride)、
ペプロマイシン硫酸塩(peplomycine sulfate)、
アクチノマイシンD(actinomycine D)、
ジノスタチンスチマラマー(zinostatin stimalamer)、および
マイトマイシンC(mitomycin C)、
・DNAトポイソメラーゼ阻害薬:
イリノテカン塩酸塩水和物(irinotecan hydrochloride hydrate)、
エトポシド(etoposide)、
ソブゾキサン(sobuzoxane)および
ノギテカン塩酸塩(nogitecan hydrochloride)、
・白金製剤:
オキサリプラチン(oxaliplatin)、
カルボプラチン(carboplatin)、
シスプラチン(cisplatin)、
ネダプラチン(nedaplatin)、および
ジアミノシクロヘキサン白金(II)(diaminocyclohexane platinum (II))、
・タキソ環類:
ドセタキセル水和物(docetaxel hydrate)、および
パクリタキセル(paclitaxel)、
・ビンカ・アルカロイド:
ビノレルビン酒石酸塩(vinorelbine ditartrate)、
ビンクリスチン硫酸塩(vincristine sufate)、
ビンデシン硫酸塩(vindesine sulfate)、および
ビンブラスチン硫酸塩(vinblastine sulfate)、
・多発性骨髄腫治療薬:
サリドマイド(thalidomide)、
・分子標的治療薬:
ゲムツズマブオゾガマイシン(gemtuzumab ozogamicin)、
セツキシマブ(cetuximab)、
トラスツズマブ(trastuzumab)、
リツキシマブ(rituximab)、
イマチニブメシル酸塩(imatinib mesilate)、
エルロチニブ塩酸塩(erlotinib hydrochloride)、
ゲフィチニブ(gefitinib)、
ダサチニブ水和物(dasatinib hydrate)、
ニロチニブ塩酸塩水和物(nilotinib hydrochloride hydrate)、
スニチニブリンゴ酸塩(sunitinib malate)、
ソラフェニブトシル酸塩(sorafenib tosirate)、
ラパチニブトシル酸塩水和物(lapatinib tosilate hydrate)、
ベバシズマブ(bevacizumab)および
ボルテゾミブ(bortezomib)、
・急性前骨髄球性白血病治療薬:
タミバロテン(tamibarotene)、
トレチノイン(tretinoin)、および
三酸化ヒ素(arsenic trioxide)、
・アロマターゼ阻害薬:
アナストロゾール(anastrozole)、
エキセメスタン(exemestane)、および
レトロゾール(letrozole)、
・抗エストロゲン剤:
タモキシフェンクエン酸塩(tamoxifen citrate)、および
トレミフェンクエン酸塩(toremifene citrate)、
・抗アンドロゲン剤:
ビカルタルド(bicalutamide)、および
フルタミド(flutamide)、
・エストロゲン剤:
エストラムスチンリン酸エステルナトリウム水和物
(estramustine phosphate sodium hydrate)、
・黄体ホルモン:
メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(medroxyprogesterone acetate)
・LH-RHアゴニスト:
ゴセレリン酢酸塩(goserelin acetate)および
リュープロレリン酢酸塩(leuprorelin acetate)、
・抗乳腺腫瘍薬:
メピチオスタン(mepitiostane)
・インターフェロンγ製剤:
インターフェロンガンマ-1a(innterferon gamma-1a)、
・インターロイキン‐2製剤:
セルモロイキン(celmoleukin)、および
テセロイキン(teceleukin)、
・抗悪性腫瘍功酵素剤:
L-アスパラギナーゼ(L-asparaginase)、
・その他の腫瘍用薬:
アセグラトン(aceglatone)、
ウベニメクス(ubenimex)、
塩化ストロンチウム(strontium(89Sr) chloride)、
かわらたけ多糖体製剤(obtained from coriolus versicolor)、
シゾフィラン(sizofiran)、
ペントスタチン(pentostatin)、および
ホリナートカルシウム(calcium folinate)、ならびに
・溶連菌抽出物:
レボホリナートカルシウム(levofolinate calcium)、
レンチナン(lentinan)、
タラポルフィンナトリウム(talaporfin sodium)、および
ポルフィマーナトリウム(porfimer sodium)
を挙げることができる。これらのうち、好ましい抗がん剤としてドキソルビシン塩酸塩を挙げることができる。
【0033】
本発明の共重合体を用いた光温熱療法による治療の対象となるがんは、特に制限はないが、例えば、腹膜播種がん、肺がん、腺がん、扁平上皮がん、腺扁平上皮がん、未分化がん、大細胞がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、中皮腫、皮膚がん、皮膚T細胞リンパ腫、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、膣がん、頸部がん、頭頸部がん、子宮がん、子宮頸がん、肝臓がん、胆のうがん、胆管がん、腎臓がん、膵臓がん、結腸がん、大腸がん、直腸がん、小腸がん、胃がん、食道がん、精巣がん、卵巣がん、脳腫瘍等の固形がん、並びに骨組織、軟骨組織、脂肪組織、筋組織、血管組織及び造血組織のがんの他、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫、軟部組織肉腫などの肉腫や、膠芽腫、多形性膠芽腫、肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽腫などの芽腫等が挙げられる。
【0034】
本発明の共重合体は、インドシアニングリーンまたはインドシアニングリーン誘導体を有する繰り返し単位に由来して、近赤外光の照射により、目的の組織(例えば腫瘍組織)を変性・壊死させる。
本発明の共重合体は、インドシアニングリーンと比べて、光を照射した際の温度上昇率が増強されている。さらに、インドシアニングリーンは細胞内で拡散し主に細胞質基質に分布するのに対して、本発明の共重合体は、エンドソームへ局在化する。これら特性が、本発明の共重合体を光温熱療法において光増感剤として使用した際に、インドシアニングリーンと比較して、より治療効果が大きな光温熱療法を実施できる一因であると考えられる。
【実施例0035】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
1.ポリカチオン含有インドシアニングリーン誘導体の製造
(実施例1)
[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロライド(METAC)とN-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド(APMAA)の共重合体(PMETAC-co-PAPMAA)をフリーラジカル重合によって合成し、次いで、共重合体中のAPMAAの一級アミノ基にNHS-インドシアニングリーンを反応させて、共重合体にインドシアニングリーンを導入し、[PMETAC-co-PAPMAA(ICG)]を得た。
【化10】

具体的には、まず、熱重合開始剤として4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(ACVA、シグマアルドリッチ社製)を10mg、APMAA(シグマアルドリッチ社製)を50mg、METAC(シグマアルドリッチ社製)を200mgおよび水・エタノールの混合溶媒を2mLフラスコに加え、窒素バブリング後、窒素下で20時間、70℃で重合を行った(上記、反応工程1)。その後、分画分子量3500の透析膜を用いて純水に対する透析によって精製を行い、精製物を凍結乾燥して、白い粉末の共重合体(PMETAC-co-PAPMAA)を回収した。得られた共重合体の分子量を、下記条件で、ゲル濾過クロマトグラフィーにより測定した結果、数平均分子量(Mn)は23,500、重量平均分子量(Mw)は54,500、分子量分布Mn/Mwは、2.3であった。
測定装置:Shimadzu 20AD
カラム:TSK gel G3000PW and G5000PW columns
溶離液:0.5 M 酢酸水溶液(20mM tetramethylammonium hydroxide pentahydrate含有)
標準物質:ポリエチレングリコール
流速:0.5mL/min
【0037】
次に、80mgの共重合体に、6.2mgのICG NHSエステル(NHS-ICG、フナコシ株式会社製)、23.0mgのN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS、富士フィルム和光純薬株式会社製)、31.0mgの水溶性カルボジイミド塩酸塩(WSCD・HCl、ペプチド研究所社製)を加え、2mLの100mMのリン酸バッファー(pH7.0)中で20時間、室温で反応させた(上記反応工程2)。その後、純水に対して透析を行うことによって、溶媒を水に置換し、液体窒素を用いて、溶液を凍結させ、凍結乾燥を行うことによって、[PMETAC-co-PAPMAA(ICG)]の緑色の粉末(73mg)を回収した。
図2は、NHS-ICG及びPMETAC-co-PAPMAA(ICG)の薄層クロマトグラフィー(励起光760nm、検出波長820nm)による分析結果示す。ICG-NHSは、Rf値が0.79と0.51の位置にICG由来の蛍光が確認された。これらスポットは、ICG-NHSのスポットとNHS基が脱離したICGのスポットと考えられる。一方、PMETAC-co-PAPMAA(ICG)のスポットは、Rf値0.0(原点)のみに確認することができることから、PMETAC-co-PAPMAA分子中にICGが導入され、精製により未反応の低分子ICGが除去できたことが確認された。PMETAC-co-PAPMAA(ICG)の中に含まれるICG量は、メタノールに溶解したのち、760nmの吸光度を測定することにより求めたところ、2.5mg/mL(45μM)のPMETAC-co-PAPMAA(ICG)中のICG濃度は、10μg/mL(13μM)であった。この結果は、ICGが導入されていないPMETAC-co-PAPMAA分子が含まれているものの、PMETAC-co-PAPMAA(ICG)共重合体一分子中に含まれるICG量が1個程度であることを示す。
【0038】
2.温度上昇試験
(実施例2)
実施例1で得られたPMETAC-co-PAPMAA(ICG)をリン酸緩衝液(pH7.4)で溶解して、2.5mg/ml(ICG換算値で13μM)の水溶液を調製し、光増感剤とした。
(比較例1)
ICG(東京化成工業株式会社製)をリン酸緩衝液(PBS)(pH7.4)で溶解して、13μMのICG溶液を調製し、比較対象の光増感剤として用いた。
【0039】
100μLの実施例2の光増感剤、比較例1の光増感剤及びPBSを、それぞれ白色の96ウエルプレートに入れ、近赤外レーザー(波長:808nm、強度:1.0W/cm)を5分間照射し、各溶液の温度変化をサーモカメラ(FLIR、C5)を用いて測定した。
実施例2及び比較例1の光増感剤に含まれるICGの量は同じであるが、光を5分間照射後、実施例2では温度が約43℃まで上昇したのに対して、比較例1では約37℃だった。PMETAC-co-PAPMAA(ICG)のほうがICGより光照射後の温度上昇率が高いことが示された。
【0040】
3.細胞内取り込み試験
マウス乳がん細胞(4T-1細胞)をRPMI培地に懸濁し、ガラスボトムディッシュに4T-1細胞10000cellsを添加した。細胞を2日間培養し、ガラス表面上に接着させ、その後、培地180μLに対して、実施例2の光増感剤又は比較例1の光増感剤を20μL添加し、さらに1日間培養した。培養後、DAPI(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて細胞核を青色に染色し、Lysotracker green(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてエンドソーム、およびリソソーム内を緑色に染色した。共焦点顕微鏡(Leica、STELLARIS8)を用いて、PMETAC-co-PAPMAA(ICG)およびICGの細胞内局在を観察した。細胞内取り込み量は、RIPAバッファー(ナラカイテスク)を用いてセルライセートを調整し、ICGの蛍光強度を測定することにより測定した。
図4に示されるように、ICGは、細胞質全体に拡散するのに対して、PMETAC-co-PAPMAA(ICG)は、エンドソーム内に局在した。また、図5に示されるように、PMETAC-co-PAPMAA(ICG)の細胞内取り込み量は、ICGに比べ、1.3倍多かった。
【0041】
4.抗腫瘍活性試験
マウス乳がん細胞(4T-1細胞)をRPMI培地に懸濁し、滅菌済みの透明な96ウエルプレートに4T-1細胞1000cellsを添加した。細胞を1日間培養し、その後、培地95または90μLに対して、実施例2の光増感剤又は比較例1の光増感剤を5または10μL添加し、さらに1日間培養した。その後、近赤外レーザー(波長:808nm、強度:1.0W/cm)を10分間照射し、さらに1日間培養した。培養した細胞にWST-1試薬を添加し、細胞生存率を評価した。
PMETAC-co-PAPMAA(ICG)を添加し、近赤外レーザーを照射した場合、0.65μMの濃度ではがん細胞の生存率は約60%であり、1.3μMの濃度ではがん細胞の生存率は約40%であった。PMETAC-co-PAPMAA(ICG)は、ICGと比較して非常に優れた抗腫瘍活性を示した。
【0042】
5.アポトーシス・ネクローシス評価
(1)ICGとPMETAC-co-PAPMAA(ICG)の比較
マウス乳がん細胞(4T-1細胞)をRPMI培地に懸濁し、滅菌済みの透明な96ウエルプレートに4T-1細胞1000cellsを添加した。細胞を1日間培養し、その後、培地90μLに対して、実施例2の光増感剤又は比較例1の光増感剤を10μL添加し、さらに1日間培養した。その後、近赤外レーザー(波長:808nm、強度:1.0W/cm)を10分間照射した。細胞は、レーザー照射後0時間、および3時間に、アポトーシス・ネクローシス染色試薬キット(アブカム社製)を使用し、初期アポトーシス細胞を緑色、後期アポトーシス及びネクローシス細胞を赤色、生細胞を青色で染色し、蛍光顕微鏡(Keyence、BZ-X710)を用いて観察した。
図7に示されるように、ICGを添加し、レーザー照射した場合はアポトーシスがほとんど誘導されなかったのに対して、PMETAC-co-PAPMAA(ICG)を添加し、近赤外レーザーを照射した場合、アポトーシスが誘導された。
【0043】
(2)PMETAC-co-PAPMAA(HpD)とPMETAC-co-PAPMAA(ICG)の比較
(比較例2)
特許文献1に記載されるPMETAC-co-PAPMAA(HpD)をPBSに溶解して、濃度が5μMのPMETAC-co-PAPMAA(HpD)溶液を調製し、比較対象の光増感剤として用いた。
【0044】
マウス乳がん細胞(4T-1細胞)をRPMI培地に懸濁し、滅菌済みの透明な96ウエルプレートに4T-1細胞1000cellsを添加した。細胞を1日間培養し、その後、培地90μLに対して、実施例2の光増感剤又は比較例2の光増感剤を10μL添加し、さらに1日間培養した。その後、近赤外レーザー(波長:808nm、強度:1.0W/cm2)を10分間照射した。細胞は、レーザー照射後3時間に、アポトーシス・ネクローシス染色試薬キット(アブカム社製)を使用し、初期アポトーシス細胞を緑色、後期アポトーシス及びネクローシス細胞を赤色、生細胞を青色で染色し、蛍光顕微鏡(Keyence、BZ-X710)を用いて観察した。
図8に示されるように、実施例2の光増感剤を添加した場合、レーザー照射後3時間において、視野にあるすべてのがん細胞がアポトーシスを起こした(アポトーシス誘導率100%)。一方で、比較例2の光増感剤を添加した場合、一部のがん細胞しかアポトーシスを引き起こさなかった(アポトーシス誘導率16%)。
【0045】
6.担癌マウスを用いた抗腫瘍活性試験
マウス乳癌細胞株(4T-1細胞)をマウス背中皮下に注射後3日目に、コントロールとしてのPBS、比較例1の光増感剤又は実施例2の光増感剤100μLを、4T-1担癌マウスの癌組織近傍に皮下注射した。皮下注射後の4T-1担癌マウスに光温熱療法を行い、癌組織のサイズ(腫瘍サイズ)の経日的変化を調べた。詳細には、皮下注射後15分後に近赤外レーザー(波長:808nm、強度:1.0W/cm)を、15分間、担癌マウスの癌組織に照射した。その際の腫瘍内温度変化は、サーモカメラ(FLIR,C5)を用いて計測した。その後、ノギスを用いて、腫瘍サイズを13日目まで測定した。
図9は、PBS又は光増感剤を腫瘍部位へ投与後、腫瘍にレーザーを照射した時の腫瘍内温度を示している。上記の温度上昇試験と同様、PMETAC-co-PAPMAA(ICG)は、ICGと比較して、約2℃高い温度上昇が確認された。ICGを腫瘍部位へ投与後、レーザー照射をしても、腫瘍体積の増加はコントロールであるPBSと同程度であったが、PMETAC-co-PAPMAA(ICG)を投与しレーザーを照射した場合はコントロールやICGと比較して腫瘍体積の増加が大幅に抑制された。PMETAC-co-PAPMAA(ICG)は、非常に優れた抗腫瘍活性を有することが示された。 このメカニズムを細胞実験の結果と合わせて考察すると、本発明の共重合体を局所投与後、癌細胞の膜への接着、及びエンドソーム内への局在が生じ、レーザー照射することにより、ホスファチジルセリンの外部露出が生じ、マクロファージが活性化したことより、腫瘍サイズが縮小したと考えられる。一方、インドシアニングリーンは、局所投与後、細胞内によく取り込まれるものの、細胞質内に分布するため、レーザー照射によるホスファチジルセリンの外部露出が生じず、本発明の共重合体よりも低い抗腫瘍効果を示した可能性が高い。このように、本発明の共重合体は、迅速かつ顕著にアポトーシスが誘導するため、長期間にわたり繰り返し近赤外線を照射する必要がなく、より患者の負担の少ない治療を提供することができる。
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