(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165444
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】杭打機の制御装置
(51)【国際特許分類】
E02D 7/14 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
E02D7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081656
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】楠本 統章
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 瞭
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050CB02
2D050EE01
2D050EE14
2D050EE29
2D050FF04
2D050FF05
(57)【要約】
【課題】杭打機の運転状態に応じた最適時に転倒警告を発することが可能な制御装置を提供する。
【解決手段】上部旋回体にクローラ式の下部走行体を走行させる操作がなされる運転室が設置され、該運転室に設けられた走行操作装置の操作を受けて下部走行体の走行を制御する杭打機の制御装置41において、杭打機の運動状態及び姿勢変化を計測する慣性計測装置(IMU)43と、杭打機の重心位置を含む設計情報を記憶する記憶部42と、慣性計測装置で取得した計測情報及び前記設計情報に基づいて転倒モーメント、あるいは、クローラの接地反力を算出し、杭打機が転倒するおそれの有無を判定する転倒判定部44と、転倒判定部により転倒のおそれ有りと判定された場合に転倒警告を発生させる警告発生部45とを有している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のクローラを備えた下部走行体及び該下部走行体の上部に旋回可能に設けられた上部旋回体からなるベースマシンと、前記上部旋回体の前部に起伏可能に設けられたリーダと、該リーダを前記上部旋回体の後部から支持する左右一対のバックステーと、前記リーダの前面に沿って昇降可能に設けられたオーガとを備え、
前記上部旋回体に前記下部走行体を走行させる操作がなされる運転室が設置され、該運転室に設けられた走行操作装置の操作を受けて前記下部走行体の走行を制御する杭打機の制御装置において、
前記杭打機の運動状態及び姿勢変化を計測する慣性計測装置と、
前記杭打機の重心位置を含む設計情報を記憶する記憶部と、
前記慣性計測装置で取得した計測情報及び前記設計情報に基づいて転倒モーメントを算出し、前記杭打機が転倒するおそれの有無を判定する転倒判定部と、
前記転倒判定部により転倒のおそれ有りと判定された場合に転倒警告を発生させる警告発生部と、を有していることを特徴とする杭打機の制御装置。
【請求項2】
左右一対のクローラを備えた下部走行体及び該下部走行体の上部に旋回可能に設けられた上部旋回体からなるベースマシンと、前記上部旋回体の前部に起伏可能に設けられたリーダと、該リーダを前記上部旋回体の後部から支持する左右一対のバックステーと、前記リーダの前面に沿って昇降可能に設けられたオーガとを備え、
前記上部旋回体に前記下部走行体を走行させる操作がなされる運転室が設置され、該運転室に設けられた走行操作装置の操作を受けて前記下部走行体の走行を制御する杭打機の制御装置において、
前記杭打機の運動状態及び姿勢変化を計測する慣性計測装置と、
前記杭打機の重心位置を含む設計情報を記憶する記憶部と、
前記慣性計測装置で取得した計測情報及び前記設計情報に基づいて前記クローラの接地反力を算出し、前記杭打機が転倒するおそれの有無を判定する転倒判定部と、
前記転倒判定部により転倒のおそれ有りと判定された場合に転倒警告を発生させる警告発生部と、を有していることを特徴とする杭打機の制御装置。
【請求項3】
前記慣性計測装置は、前記下部走行体に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の杭打機の制御装置。
【請求項4】
前記転倒判定部により転倒のおそれ有りと判定された場合に前記左右一対のクローラを異なる向きあるいは異なる速度で駆動して旋回走行させる走行制御部を有していることを特徴とする請求項1又は2記載の杭打機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭打機の制御装置に関し、詳しくは、大型杭打機の転倒防止対策として、転倒判定に基づいて警告を発する杭打機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
杭打機は、安定度を5度以上確保することが法令で定められているが、転倒角度を実測して確認するのが困難であるから、計算で求めた安定度の使用が認められている。転倒角度は、杭打機全体の重心と走行体の接地端で作られる転倒支点との位置関係から求められ、通常は、杭打機の前方への転倒角度が最も小さな角度となる。したがって、設計上、前方への転倒角度が5度未満である場合には、安定度が不足しているものと判断できる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような安定度計算は、走行や振動を何ら考慮しない静的状態でなされる計算方法である。しかし、実際は、杭打機に作用する加速度(並進加速度、遠心加速度、上下振動加速度など)によって慣性力の影響が現れ、特に、重心位置が高く、重量がある大型杭打機では、たとえ安定度を満足する傾斜姿勢でも、運転動作の停止状態や発進状態から傾斜が進行して転倒に至るおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、杭打機の運転状態に応じた最適時に転倒警告を発することが可能な制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の杭打機の制御装置は、左右一対のクローラを備えた下部走行体及び該下部走行体の上部に旋回可能に設けられた上部旋回体からなるベースマシンと、前記上部旋回体の前部に起伏可能に設けられたリーダと、該リーダを前記上部旋回体の後部から支持する左右一対のバックステーと、前記リーダの前面に沿って昇降可能に設けられたオーガとを備え、前記上部旋回体に前記下部走行体を走行させる操作がなされる運転室が設置され、該運転室に設けられた走行操作装置の操作を受けて前記下部走行体の走行を制御する杭打機の制御装置において、前記杭打機の運動状態及び姿勢変化を計測する慣性計測装置と、前記杭打機の重心位置を含む設計情報を記憶する記憶部と、前記慣性計測装置で取得した計測情報及び前記設計情報に基づいて転倒モーメントを算出し、前記杭打機が転倒するおそれの有無を判定する転倒判定部と、前記転倒判定部により転倒のおそれ有りと判定された場合に転倒警告を発生させる警告発生部と、を有していることを特徴としている。
【0007】
また、左右一対のクローラを備えた下部走行体及び該下部走行体の上部に旋回可能に設けられた上部旋回体からなるベースマシンと、前記上部旋回体の前部に起伏可能に設けられたリーダと、該リーダを前記上部旋回体の後部から支持する左右一対のバックステーと、前記リーダの前面に沿って昇降可能に設けられたオーガとを備え、前記上部旋回体に前記下部走行体を走行させる操作がなされる運転室が設置され、該運転室に設けられた走行操作装置の操作を受けて前記下部走行体の走行を制御する杭打機の制御装置において、前記杭打機の運動状態及び姿勢変化を計測する慣性計測装置と、前記杭打機の重心位置を含む設計情報を記憶する記憶部と、前記慣性計測装置で取得した計測情報及び前記設計情報に基づいて前記クローラの接地反力を算出し、前記杭打機が転倒するおそれの有無を判定する転倒判定部と、前記転倒判定部により転倒のおそれ有りと判定された場合に転倒警告を発生させる警告発生部と、を有していることを特徴としている。
【0008】
さらに、前記慣性計測装置は、前記下部走行体に設けられていることを特徴としている。加えて、前記転倒判定部により転倒のおそれ有りと判定された場合に前記左右一対のクローラを異なる向きあるいは異なる速度で駆動して旋回走行させる走行制御部を有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の杭打機の制御装置によれば、慣性計測装置で取得した計測情報を転倒判定のための条件として用いる転倒判定部と、該転倒判定部により転倒のおそれ有りと判定された場合に転倒警告を発生させる警告発生部とを有しているので、下部走行体の急加速あるいは急減速などに起因した慣性力の影響を考慮して転倒判定を精度よく行うことができる。すなわち、杭打機の運転状態に応じた最適時に転倒警告を発することが可能となり、特に、重心位置が高く、重量がある大型杭打機の安全な運用に資するものとなる。また、転倒するおそれがある場面とそうでない場面との切り分けを明確にして転倒判定を行えることから、従来では抑えていた走行系の能力を最大限発揮した状態で、目的地へと杭打機を迅速かつ安全に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の杭打機の制御装置を適用した一形態例を示す杭打機の側面図である。
【
図4】同じく慣性計測装置の設置構造を示す図である。
【
図5】同じく慣性計測装置の設置構造の変形例を示す図である。
【
図6】同じく転倒モーメント及びクローラの接地反力を算出するための計算モデルを示す図である。
【
図7】同じく慣性計測装置を転倒支点に設置した場合における転倒モーメント及びクローラの接地反力を算出するための計算モデルを示す図である。
【
図9】同じく慣性計測装置の設置位置の変更に応じて転倒モーメント及びクローラの接地反力を算出するための計算モデルを示す図である。
【
図10】同じく転倒判定方法(モーメント判定処理)のフローチャートである。
【
図11】同じく転倒判定方法(反力判定処理)のフローチャートである。
【
図12】同じく警告表示の表示画面を示す図である。
【
図13】同じくトラクションコントロール機能(走行駆動制御)における制御値と時間との関係を示すグラフである。
【
図14】同じく転倒回避機能(旋回走行駆動制御)の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1乃至
図14は、本発明を大型の杭打機に適用した一形態例を示すもので、杭打機11は、
図1に示すように、走行装置として左右一対のクローラ12を備えた下部走行体13と、該下部走行体13の上部に旋回可能に設けられた上部旋回体14とからなるベースマシン15と、該上部旋回体14の前部に複数のリーダ部材16aを互いに着脱可能に連結して起伏可能に設けられたリーダ16と、該リーダ16を上部旋回体14の後部から支持するとともに、下端部に設けられたバックステーシリンダ17aの伸縮動作によってリーダ16を傾動させる左右一対のバックステー17と、上部旋回体14の前後左右にそれぞれ設けられたジャッキ装置18とを備えている。さらに、上部旋回体14には、運転室14aや機器室14b、ガントリ14c、カウンタウエイト14dや複数のウインチ(図示せず)などが設置されており、リーダ16の前面には、オーガスクリュー(施工部材)19を回転駆動するオーガ20がリーダ16に沿って昇降可能に設けられている。
【0012】
クローラ12は、
図2や
図4などに示すように、クローラガイド部材として、下部走行体13のセンタフレーム21両側にそれぞれ配置されるサイドフレーム22の前後両端部にそれぞれ設けられた駆動輪(後輪)23及び従動輪(前輪)24と、該駆動輪23と従動輪24との間のサイドフレーム22の上部及び下部にそれぞれ設けられた複数の上部転輪25、上部ガイド26及び下部転輪27とを備えており、複数のクローラシュー28を連結して駆動輪23、従動輪24、上部転輪25、上部ガイド26及び下部転輪27とに無端状に掛け回されている。
【0013】
運転室14a内には、走行や旋回、ウインチ、オーガ20などの操作を行うための複数の操作レバーや操作ペダル、押しボタンスイッチやディスプレイなどの機器が、操作性を考慮して運転席の近傍に集約的に配置されており、さらに、これらの機器と電気的に接続されて、データ処理や判定などの各種演算処理を行うコントローラ(各部を機能させるCPU)を中心に構成された制御装置が設けられている。また、機器室14b内には、制御装置によって制御されるエンジンや油圧回路が設けられている。
【0014】
制御装置41は、
図3に示すように、主に、各種制御プログラムや杭打機11の転倒判定を行うための設計情報(調整値)などを記憶したFLASH ROM、処理中のデータを一時的に記憶するRAMなどで構成される記憶部42と、杭打機11の運動状態及び姿勢変化を計測するための慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)43と、該慣性計測装置43で取得した計測情報及び前記設計情報に基づいて各種計算を行い、杭打機11が転倒するおそれの有無を判定する転倒判定部44と、該44転倒判定部により転倒のおそれ有りと判定された場合に転倒警告を発生させる警告発生部45と、オペレータが制御プログラムの処理結果などを確認したり、データ入力などを行ったりするタッチパネル式のディスプレイ46とを有している。また、制御装置41には、慣性計測装置43からの信号に加えて、杭打機11の動作状態を検出する各種センサから信号が入力される。センサには、例えば、上部旋回体14に設けられた障害物センサ47や、リーダ16に設けられたリーダ傾斜センサ48などが挙げられる。
【0015】
さらに、制御装置41は、制御方式(モード)の一つとして、走行操作装置である操作レバー49の傾動操作によって下部走行体13の走行をオペレータが手動で制御する通常走行モードと、施工計画情報と車体位置情報とに基づいて設定された移動経路を倣いながら、施工位置(杭の埋設予定位置)に向かうように下部走行体13の走行を自動で制御する杭埋設位置誘導モードとを選択的に実行可能になっている。
【0016】
制御装置41による下部走行体13の自動制御は、運転室14a内に設けられた切替スイッチ50を操作することによって行われる。具体的には、走行操作装置である操作ペダル51を踏み込んでモードを切り替え可能な状態とし、切替スイッチ50を操作して自動運転を選択する。これにより、モード切替部52では通常走行モードから杭埋設位置誘導モードに切り替える処理が行われる。そして、操作ペダル51から足を離して安全装置を解除すると、杭埋設位置誘導モードが実行され、走行制御部53によって生成された制御信号を受けて、エンジンコントローラ54や、可変容量型油圧ポンプ55、制御バルブ56による油圧の制御が行われる。こうして、左右の走行用油圧モータ57,58及び減速機(図示せず)を介して駆動力が左右の駆動輪23に伝達されることにより、クローラ12が駆動される。
【0017】
こうして、杭打機11は、設定された移動経路を倣いながら、杭の埋設予定位置に向かうようにして、下部走行体13の走行が制御される。具体的には、走行制御部53によって左右のクローラ12の回転方向及び回転速度を調節することで、前進又は後進の直進走行(左右のクローラを同一速度で駆動させる走行)、スラローム旋回走行(左右のクローラを同一方向に異なる速度で駆動させて走行方向を変える走行)、ピボット旋回走行(片側のクローラを停止させた状態で反対側のクローラを駆動させて旋回させる走行)及びスピン旋回走行(左右のクローラを逆方向に駆動して旋回させる走行)を行わせるように制
御される。
【0018】
ここで、モード切替部52は、埋設位置誘導モードを実行しているときに、操作レバー49の傾動操作や、操作ペダル51の踏み込み操作による操作信号を受けることで、杭埋設位置誘導モードから通常走行モードへの切り替えを行う。これにより、必要時に、オペレータの主観的な意志決定に基づいて杭打機11の移動経路を選択することが可能になっている。
【0019】
また、制御装置41は、通常走行モード及び杭埋設位置誘導モードの機能的価値を高める制御方式の一つとして、リーダ傾斜センサ48の検出結果に基づいて、リーダ16を鉛直状態に保持するようにバックステーシリンダ17aの伸縮動作を自動で制御するリーダ鉛直度保持モードを実行可能になっている。リーダ鉛直度保持モードは、通常走行モードが選択されているときには、切替スイッチ50の操作でオペレータの任意の選択により指定して実行され、杭埋設位置誘導モードが選択されているときにはオペレータの選択の有無にかかわらず実行されるようになっており、傾斜制御部59によって生成された制御信号を受けて、制御バルブ60による油圧の制御が行われる。こうして、バックステーシリンダ17aの伸縮動作を受けてバックステー17による押し引きがなされることにより、リーダ16の前後左右の振れが修正されて鉛直度が保持される。
【0020】
ところで、杭打機11の走行運転を行うと、リーダ16や車体の慣性力の影響が現れ、特に、重心位置が高く、重量がある大型杭打機では、たとえ安定度を満足する傾斜姿勢でも、運転動作の停止状態や発進状態から傾斜が進行して転倒に至るおそれがある。そこで、制御装置41には、転倒判定部44及び警告発生部45を機能させて、転倒のおそれをオペレータに注意喚起することが可能な転倒判定プログラムが実装されている。
【0021】
転倒判定に用いられる各種パラメータのうち、慣性計測装置(IMU)43で取得される計測情報は、杭打機11の並進運動や回転運動、傾斜に関する情報であって、車体の前後方向傾斜及び左右方向傾斜を検知する2軸傾斜センサ又は加速度センサ、あるいは、加速度センサと角加速度センサ(ジャイロセンサ)とを一体化した多軸慣性センサからの検出信号とされる。
【0022】
このような慣性計測装置43は、防水や防塵の点でカバー体に収容され、例えば、
図4に示すように、下部走行体13のセンタフレーム21において、旋回中心PVを挟んで前方側と後方側(後方側は図示せず)に2つ設置されている。実施形態では、センタフレーム21の前後壁面にブラケット61を介して設置されているが、旋回中心PVに対応した位置に1つ設置されてもよく、また、検出精度をより高めた変形例として、
図5に示すように、杭打機11の前後方向の転倒支点上方、すなわち、左右のクローラ12の駆動輪(後輪)23及び従動輪(前輪)24の輪軸に対応する位置であって、サイドフレーム22の内側(右前以外の3箇所は図示せず)にそれぞれ対応して4つ設置されてもよい。なお、複数のセンサ値から一つの代表値を決定するための方法は、例えば、既知の数学的な方法を採用することができる。
【0023】
以下では、杭打機11の転倒判定処理を、
図6乃至
図14を参照しながら説明する。ここで、説明の理解を容易にするために、
図6に示される計算モデルでは、傾斜面(スロープ)において杭打機の前進方向(
図6の右方向)に下り傾斜した姿勢から、後進方向の加速度運動(例えば急発進)又は前進方向の減速度運動(例えば急停止)をした状態と定義する。このとき、傾斜方向に加速度(減速度)と逆向きの慣性力(mxツードット)が作用し、この慣性力によって杭打機の荷重移動が生じている。そして、このような場合に、前輪と後輪の接地荷重(クローラ接地荷重)の配分が加速度(減速度)に応じて動的荷重配分に変化する。これを、力のつり合いを考慮して、以下の数1の式(1)、(2)から、転倒モーメントM及び後輪の反力Rを算出し、あらかじめ設定されている基準値と比較することで、杭打機が転倒するおそれがあるか否かを判定する。
【0024】
【0025】
ここで、安定度αは、杭打機の水平状態(傾斜角度が0度の状態)における鉛直方向の直線と、重心G及び転倒支点P間を結ぶ直線l(小文字l(エル))とのなす角度である。この安定度αが転倒モーメントMの逆向き(正の方向)の安定方向に寄与している状態では、杭打機は、通常、転倒するおそれがない。一方、車体傾斜角度θの増加に従って安定度αの寄与が少なくなった場合には、たとえθ=αとしたバランス状態でも、実態は車体の加速度(xツードット)が加わり、転倒モーメントMが車体の転倒を促す方向(負の方向)に働く。したがって、杭打機の見かけ上転倒に至らない傾斜姿勢でも、加速度(減速度)を考慮することで、設定基準に基づいて転倒するおそれがあると判断できるようになる。
【0026】
また、前輪と後輪の接地荷重の配分が加速度(減速度)に応じて動的荷重配分に変化することから、後輪の反力Rが低下した場合には、設定基準に基づいて転倒するおそれがあると判断できるようになる。ここで、上述の転倒モーメントM及び転倒支点P周りの回転運動を足し合わせ、前後支点間距離となるホイールベース(lwheelbase)の長さを考慮することで、一方の支点反力である後輪の反力Rが求められる。回転運動は、運動方程式に基づいて、転倒支点P周りの慣性モーメントI0と車体の水平面に対する角加速度(ηツードット)との積で表される。この場合、角加速度は慣性計測装置(IMU)43で取得した角速度を時間微分して使用される。
【0027】
転倒支点Pで上記回転の慣性力を測定可能であることを利用すると、転倒支点Pに設置した慣性計測装置(IMU)の計測する加速度、車体角度、車体角速度、車体加速度は、下記の数2のとおりである(
図7及び
図8も参照)。
【0028】
【0029】
これらを前記数1の式(1)、(2)へ代入して整理すると、下記の数3の式(5)、(6)のように、転倒支点Pに設置した慣性計測装置(IMU)の計測するパラメータから転倒モーメントM及び後輪の反力Rを算出することができる。
【0030】
【0031】
なお、慣性計測装置(IMU)の位置は転倒支点Pに対して剛体接続しているとみなせる位置(例えば、下部走行体13のフレーム21,22各部に設置されたIMU’の位置)であれば任意でよい(
図9も参照)。その際は、それぞれ下記の数2’の式(3’)、(4’)を式(1)、(2)へ代入した、式(5’)、(6’)で算出することができる。
【0032】
【0033】
【0034】
設定基準は、転倒モーメントMに基づく転倒判定(以下、モーメント判定と称する)及び後輪の反力Rに基づく転倒判定(以下、反力判定と称する)のいずれの方法においても安全率が加味され、例えば、転倒に至る上限値100%が定められると、転倒モーメントMの増加過程で、80%以上、85%以上、90%以上と、警告を発する閾値が設定される。すなわち、モーメント判定では転倒モーメントMの値の増加率となる。一方、反力判定では後輪の反力Rの値の減少率となる。なお、モーメント判定及び反力判定は、それぞれ単独でなされる場合や、より正確でロバストな制御系を得るために両者を組み合わせて使用する場合などが考えられる。
【0035】
ここで、
図10に示されるフローチャートに基づいて、杭打機11のモーメント判定処理を説明する。まず、転倒判定部44において、慣性計測装置(IMU)43の計測情報として加速度及び傾斜角が、記憶部42から質量及び安定度などの設計情報がそれぞれ取得される(ステップSA1)。設計情報には、主要諸元に代表される各部寸法の他に、リーダ16の長さやオーガスクリュー19の長さ、カウンタウエイト14dの質量などから求められた杭打機全体の重心位置(総合重心位置)、安定度、基準値(判定値)などが含まれている。
【0036】
次いで、計算式(数1等)から、転倒モーメントMを算出し(ステップSA2)、基準値と比較することにより、杭打機11が転倒するおそれがあるか否かを判定する(ステップSA3)。このとき、転倒のおそれ有りと判定された場合に、警告発生部45において、後述する警告作動(表示・音)が行われる(ステップSA4)。
【0037】
また、反力判定処理を行う場合には、
図11のフローチャートに示されるように、転倒判定部44において、慣性計測装置(IMU)43の計測情報として加速度、角速度及び傾斜角が、記憶部42から質量及び安定度などの設計情報がそれぞれ取得される(ステップSB1)。次いで、慣性計測装置43で取得された角速度を時間微分することによって角加速度を求め(ステップSB2)、計算式(数1等)から、後輪の反力Rを算出し(ステップSB3)、基準値と比較することにより、杭打機11が転倒するおそれがあるか否かを判定する(ステップSB4)。このとき、転倒のおそれ有りと判定された場合に、警告発生部45において、警告作動(表示・音)が行われる(ステップSB5)。
【0038】
図12は、警告作動の一例を示すものである。例えば、杭打機11のモーメント判定処理が行われている場合に、増加した転倒モーメントMの値が上限値の80%に達すると、
図12(A)に示すように、ディスプレイ46の表示画面46aには警告レベル(転倒の危険度)1の表示として、杭打機平面アイコン62と、その上に付された重心Gと、該重心Gを中心に前後左右方向に先端が延びた矢印形状63とからなる警告画像が表示される。矢印形状63は、転倒モーメントの大きさを表しており、警告レベルに応じて大きさ及び表示色が変化する。なお、ディスプレイ46は前記警告作動専用であってもよいし、既知の周囲監視の機能を兼ねてもよい。
【0039】
転倒モーメントMが上限値の85%に達すると、
図12(B)に示すように、警告レベル1から警告レベル2の表示に移行され、矢印形状63は、全体として大きく変化し、表示色についても警告レベル1では青色だったものが黄色へと変化する。また、警告レベル2では、運転室14a内に設置されたブザー(図示せず)が間欠的に鳴動する(例えば、ピピッ!!・ピピッ!!)。
【0040】
そして、転倒モーメントMが上限値の90%に達すると、
図12(C)に示すように、警告レベル2から警告レベル3の表示に移行され、矢印形状63は、全体として更に大きく変化し、表示色についても黄色から赤色へと変化する。また、警告レベル3では、運転室14a内のブザーが連続的に鳴動し(例えば、ピ!!!!!!!)、加えて運転室14a外に設置されたスピーカ(図示せず)からも連続的な警告音が大音量で発せられ、オペレータだけでなく杭打機11の周囲にいる者に対しても警告を行うように構成されている。このようにして、急発進や急停止などで杭打機11が不安定な状態(転倒のおそれがある状態)に置かれた場合でも、警告発生部45によって、いち早く警告作動がなされる。
【0041】
ここで、
図3に示すように、制御装置41は、通信部64との接続によって制御プログラムや、施工計画情報である施工計画データなどのダウンロードが可能に構成されている。施工計画データは、施工現場の位置や土質などを調べて作成された施工計画書に基づいて、あらかじめ、事務所内のコンピュータに入力されるもので、杭番号の他、該杭番号に紐付けられた深度やフィード速度、回転数、セメントミルク流量などの各種の施工目標値が含まれる。施工計画データの入力作業は、施工図面と対比して杭位置データを入力することによって行われ、具体的には、杭の埋設予定位置を、座標上の原点からの相対的位置(距離)として二次元座標で指定することになる。また、各杭番号には、杭の埋設順序を考慮して、埋設位置に杭打機11が近づく際の進入角度が関連付けられている。そして、作成された施工計画データは、施工現場の住所の位置情報や施工する杭打機11の号機情報、設計情報などが付加されて、ネットワーク65上のデータサーバ66にアップロードされる。また、施工計画データに基づいて実施される工法、例えば、既製杭工法、場所打ち杭工法又は地盤改良工法のための施工管理プログラムや、該施工管理プログラムの設定パラメータのデータも作成され、同様にして、データサーバ66へアップロードされる。
【0042】
車体位置情報は、周知のGNSS(Global Navigation Satellite System)技術を用いて取得され、例えば、杭打機11の上部旋回体14の前後端部に互いに離して設けられた第1受信部67及び第2受信部68を備え、GNSS衛星からの電波を受信しながら、杭打機11の走行や旋回などに伴って変化するアンテナの位置情報を取得する。制御装置41では、2本のアンテナの位置関係から、演算によって上部旋回体14の位置及び向きを求め、さらには慣性計測装置43及びリーダ傾斜センサ48のそれぞれで取得した傾斜情報(姿勢)を加味して、地面におけるオーガスクリュー19の中心軸の位置、すなわち、杭芯位置Cの特定を行う(
図2)。そして、設定された移動経路を倣いながら、杭の埋設予定位置に向かうとともに、杭芯位置合わせを行うように、つまり杭芯位置Cを杭の埋設予定位置に一致させるように下部走行体13の走行が制御される。
【0043】
ここで、杭埋設位置誘導モードによる杭打機11の自動運転について説明する。まず、大型の杭打機では、輸送車の積載質量制限があるため、構成部品であるリーダ16やオーガ20、カウンタウエイト14dなどを上部旋回体14から分離して別々に輸送し、現場でこれらを組み立てて使用している。施工現場に杭打機11が搬入されると、例えば、リーダ16は、複数のリーダ部材16a同士が連結されて、上部旋回体14の前部に起伏可能に装着される。ここで、リーダ傾斜センサ48がリーダ16の下部に取り付けられるとともに、リーダ傾斜センサ48及び制御装置41間の配線接続がなされる。
【0044】
杭打機11の組み立てが完了し、エンジンを始動して、制御装置41の電源が投入されると、基本プログラムの起動実行後に、慣性計測装置43や各種センサの状態が監視される。ここで、制御装置41の起動直後は、通常走行モードに設定されているが、配線接続に不良が生じている状態では、杭埋設位置誘導モードへの切り替えが規制される。配線状態のチェックが正常に行われると、第1受信部67及び第2受信部68で杭打機11の現在の車体位置情報が取得されるとともに、演算によって杭芯位置Cの特定がなされる。また、杭打機11が存在する施工現場に対応して、施工計画データのダウンロードが自動的に行われて、各杭番号の位置情報や設計情報などの各種情報が取得される。
【0045】
また、基本プログラムの起動実行後に転倒判定プログラムも実行され、図示は省略するが、杭打機11の各部に組み込まれた荷重検出手段(例えばロードセル)の検出結果に基づいて杭打機11の重心に関する設計情報との整合性がチェックされる。例えば、リーダ16の質量に不整合が起こると、その旨がディスプレイ46の表示画面46aに表示される(例えば「リーダ質量がオーバーしています。リーダを確認してください。」)。これにより、オペレータは走行運転を行う前に杭打機11の重量バランスに変動が生じた場合の対応ができるようになる。こうした場合の対応としては、例えば、安全確認を行った上で、タッチパネル操作によってリーダ質量の値を実機に近づける修正を行う。これにより、工法毎にリーダ16の長さが変更される場合でも、転倒判定プログラムの重心位置、安定度などの修正が容易に行えることから、迅速性が求められる現場の運用に適したものとなる。
【0046】
ここで、操作ペダル51を踏み込んでモードを切り替え可能な状態とし、切替スイッチ50を操作して自動運転を選択すると、通常走行モードから杭埋設位置誘導モードに切り替えられる。そして、操作ペダル51から足を離して安全装置を解除することにより、杭埋設位置誘導モードが実行される。
【0047】
自動運転が開始されると、最初の杭番号の杭位置データと車体位置データとに基づいて、杭番号に関連付けられた進入角度で杭位置に近づくように杭の埋設予定位置に向かう最短移動経路が設定され、この最短移動経路を倣うようにして左右のクローラ12が駆動される。すなわち、制御装置41は、杭打機11の移動に伴って変化する車体位置情報を更新させながら、設定された最短移動経路で、杭の埋設予定位置に向かうように下部走行体13の走行を制御する。
【0048】
ところで、施工現場は、一般に、盛土によって地形や土質が変化していたり、地盤改良材を製造するプラントや各種資材などの置き場が設けられていたり、さらには、作業員や他の建設機械といった移動する障害物も数多く存在する。そこで、障害物センサ47によって車体周囲に存在する障害物の位置を、例えば、作業員の位置を検出し、その検出結果に基づいて、杭埋設位置誘導モードは、最短移動経路を作業員を回避するための新たな迂回移動経路として再設定する経路補正処理がなされて実行される。これにより、杭打機11は、緩やかなスラローム旋回走行によって走行速度を一定に保ちながら杭の埋設予定位置に向かう。
【0049】
また、杭埋設位置誘導モードの実行中は、基本的には、オペレータによる操作を必要としないが、ディスプレイ46の表示画面46aに表示された車載カメラの画像情報(車体周囲の状況)などに基づいて、必要時に、手動操作による走行が可能になっている。この場合、操作レバー49の傾動操作や、操作ペダル51の踏み込み操作が行われることで、杭埋設位置誘導モードから通常走行モードに切り替えられる。これにより、オペレータの任意の操作がなされることで、通常の走行が行えるようになる。
【0050】
ところで、自動運転技術を採用する場合、上述のように、実行中の制御を無効としてオペレータが走行に関与できることが望ましいが、特に、重心位置が高く、重量がある大型杭打機11では、車体の挙動を安全な方向へ強制的に制御できると、自動運転技術を信頼性の高い次元に到達させることができる。そこで、制御装置41には、付加機能として、トラクションコントロール機能(走行駆動制御)及び転倒回避機能(旋回走行駆動制御)が備えられている。これら2つの機能は転倒判定プログラムに付加して、それぞれ単独で、あるいは組み合わせて実行させることができる。
【0051】
トラクションコントロール機能は、急な加減速が発生しないように、杭打機11の下部走行体13においてクローラ12の駆動力を制限するための制御である。例えば、
図13に示すように、走行用油圧モータ57,58の回転を制御する制御値が定められ、制動を掛ける場合、走行制御部53は、運転者の要求する駆動力(本来制御値)を基準とし、時間t1~t2において制限時レートに基づいて駆動力を低下させることで制動を掛け、時間t2~t3において制限された駆動力を保持し、時間t3~t4において復帰時レートに基づいて駆動力を通常制御値まで復帰させる。制御値には制御バルブ56の制御電流などが挙げられ、減速時だけでなく加速時も同様の制御が行えるように構成されている。また、制限時と復帰時とでレート(単位時間あたりの制御値の変化量)を異ならせることができる。
【0052】
クローラ走行に与えられる減速度は、以下の表1~表5の各種スレッシュホールド(閾値)を定めたマップから参照されてもよい。表1では、車速が大きいと減速度は大きくなり、両者は比例関係にある。表2では、警告レベル(転倒の危険度)が大きいと減速度は大きくなる。なお、減速度が大きくなるにつれて転倒方向に働く力(慣性力)も大きくなることから、減速度の大きさは、停止動作を開始してから車体が安定状態を獲得するまでの走行距離(例えば制動距離)との関係を考慮して十分余裕のある大きさに設定されている。また、表3に示すように、制限値は、その最大値MAXが機種固有の値として設定され、さらに、最大警告レベル(例えばレベル3)において、緊急停止のために0(ゼロ)に設定することができる。表4は、互いに対応する制限時レート(Δ12)及び復帰時レート(Δ34)を表している。表5は、警告レベルが1以上から0(ゼロ)に復帰する際に、復帰開始までの一定の遅延時間を設けている。この場合、Δ23を参照し、設定時間経過後、復帰レートへ移行する。ただし、例えば、警告レベル2から3へと上がった場合は、警告レベルが0(ゼロ)となるまで、最大レベルのタイマー(Δt3)で制御する。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
転倒回避機能は、転倒のおそれがある場合に安定方向に働く力を作用させるように、左右のクローラ12の回転方向及び回転速度を調節するための制御である。例えば、警告レベル3を超えて転倒モーメントMが上限値に迫り、このまま放置すれば車体傾斜が進行してしまうような緊急性の高い状態で実行される。
【0059】
具体的には、
図14に示すように、警告発生部45にて警告表示・警告音を発した状態で(
図12)、走行制御部53は、障害物センサ47などの情報から車体周囲に障害物がなく安全であると判断した場合に、左右のクローラ12を異なる向きあるいは異なる速度で駆動してスピン旋回走行、ピボット旋回走行などを行わせる。これにより、
図14の太い実線の直線矢印で表した前方への転倒の危険が生じた場合に、重心Gの後方側に旋回中心(図示せず)を置きながら、太い実線の曲線矢印で表した旋回方向の速度成分(旋回成分)と所定の減速度とが与えられ、その結果、太い点線の直線矢印で表した減速方向の速度成分が車体に作用する。こうして、前方に対する速度成分の占める割合が減少して車体傾斜の進行が抑えられ、車体安定状態を獲得することができる。
【0060】
このように、本発明の杭打機11の制御装置41によれば、慣性計測装置43で取得した計測情報を転倒判定のための条件として用いる転倒判定部44と、該転倒判定部44により転倒のおそれ有りと判定された場合に転倒警告を発生させる警告発生部45とを有しているので、下部走行体13の急加速あるいは急減速などに起因した慣性力の影響を考慮して転倒判定を精度よく行うことができる。すなわち、杭打機11の運転状態に応じた最適時に転倒警告を発することが可能となり、特に、重心位置が高く、重量がある大型杭打機11の安全な運用に資するものとなる。また、転倒するおそれがある場面とそうでない場面との切り分けを明確にして転倒判定を行えることから、従来では抑えていた走行系の能力を最大限発揮した状態で、目的地へと杭打機11を迅速かつ安全に移動させることができる。
【0061】
また、慣性計測装置43を下部走行体13に設けているので、杭打機11の可動部に生じるガタ付きやエンジンの振動による影響を最小限に抑えた高精度な転倒判定が行えるようになる。さらに、慣性計測装置43を下部走行体13における転倒支点Pの上方に設けることで、その効果が一層顕著なものとなるが、これに加えて、サイドフレーム22の内側に設けることで、現場で運用する際に他所に接触させて破損に至るような不具合を防止することができ、耐久性の向上にも寄与するものである。
【0062】
また、転倒判定部44により転倒のおそれ有りと判定された場合に左右一対のクローラ12を異なる向きあるいは異なる速度で駆動して旋回走行させる走行制御部53を有しているので、車体の挙動を安全な方向へ強制的に制御できるようになる。すなわち、停止させるとかえって不安定になる状態であっても、停止させずにその不安定な状態を脱し、車体を安定状態へと導くことができる。
【0063】
なお、本発明は、前記形態例に限定されるものではなく、転倒判定プログラムは、既存の施工管理装置に付加(アドオン)する形式と付設の専用コントローラに実装される形式とのいずれにおいて用いられてもよい。また、設計情報は、あらかじめ記憶した情報だけでなく、特許文献1記載の方法で求められる安定度のような、実機に基づいて算出した情報を使用することができる。さらに、制御対象の杭打機の仕様は任意であり、走行状態だけでなくジャッキ装置を接地した施工状態にも用いることができる。加えて、必ずしも警告表示及び警告音を併用する必要はなく、例えば、警告音(音声を含む)のみを用いることとしてもよい。また、基準値(判定値)を用いた任意の値の判定は、あらかじめ装置に生じる誤差を解析し、基準値を中心として誤差範囲を含めた所定範囲を判定に用いてもよい。
【0064】
さらに、通常走行モードは、杭埋設位置誘導モードに対応して表現上便宜的に設定されるモードであって、従来からこの種の走行操作装置として周知の油圧パイロットによる切替方式を用いることができる。一方、電気信号による切替方式を前提に警告表示を行う構成とすれば、実施形態で述べた各種機能の適用(制御介入)を可能にした発展構成が得られ、杭打機の自動運転の実用化に向けた検討、開発に有用である。こうした検討がなされる場合には、路面状態の影響を受けやすいクローラ走行の特殊性を考慮し、実験的に最適な制御値を得ることができる。
【0065】
また、各種モードの切り替え手順は任意で設定することができ、走行操作装置には2本レバーや1本レバー(ジョイスティック)が含まれることは勿論、ブレーキペダルやアクセルペダルなど、踏み込んで操作するものも含まれる。さらに、傾斜センサや、障害物センサなどは一般的な検出手段として用いられている各種機器を利用することができ、設置数も任意である。加えて、慣性計測装置も同様にして市販品を用いることができ、これを上部旋回体に設置することで回路構成の簡素化を図ってもよい。
【符号の説明】
【0066】
11…杭打機、12…クローラ、13…下部走行体、14…上部旋回体、14a…運転室、14b…機器室、14c…ガントリ、14d…カウンタウエイト、14e…ウインチ、15…ベースマシン、16…リーダ、16a…リーダ部材、17…バックステー、17a…バックステーシリンダ、18…ジャッキ装置、19…オーガスクリュー、20…オーガ、21…センタフレーム、22…サイドフレーム、23…駆動輪、24…従動輪、25…上部転輪、26…上部ガイド、27…下部転輪、28…クローラシュー、41…制御装置、42…記憶部、43…慣性計測装置、44…転倒判定部、45…警告発生部、46…ディスプレイ、46a…表示画面、47…障害物センサ、48…リーダ傾斜センサ、49…操作レバー、50…切替スイッチ、51…操作ペダル、52…モード切替部、53…走行制御部、54…エンジンコントローラ、55…可変容量型油圧ポンプ、56…制御バルブ、57,58…走行用油圧モータ、59…傾斜制御部、60…制御バルブ、61…ブラケット、62…杭打機平面アイコン、63…矢印形状、64…通信部、65…ネットワーク、66…データサーバ、67…第1受信部、68…第2受信部