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特開2024-165466四肢動物の生体信号処理方法、生体信号処理装置、生体信号処理システム、プログラム、および記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165466
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】四肢動物の生体信号処理方法、生体信号処理装置、生体信号処理システム、プログラム、および記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
A01K29/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081691
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小松 陽子
(57)【要約】
【課題】四肢動物が臥位であると推測される時間期間を特定し、当該時間期間における当該四肢動物の生体信号の処理を行うことを可能とする技術を提供することを目的とする。
【解決手段】この発明の一態様の四肢動物の生体信号処理方法は、四肢動物の生体信号と、前記四肢動物の動きに伴う加速度とを取得することと、前記加速度の値のばらつきの度合いを示す値が第1の閾値以下の第1の時間期間を特定することと、前記生体信号のうちの前記第1の時間期間における生体信号に基づいて出力を行うこととを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータおよび記憶媒体を備える装置が実行する四肢動物の生体信号処理方法であって、
四肢動物の生体信号と、前記四肢動物の動きに伴う加速度とを取得することと、
前記加速度の値のばらつきの度合いを示す値が第1の閾値以下の第1の時間期間を特定することと、
前記生体信号のうちの前記第1の時間期間における生体信号に基づいて出力を行うことと
を含む、生体信号処理方法。
【請求項2】
前記取得される加速度の値は、互いに交わるX軸、Y軸、およびZ軸それぞれの方向の加速度x、y、およびzのベクトル和の大きさに対応する、請求項1に記載の生体信号処理方法。
【請求項3】
前記加速度の値のばらつきの度合いを示す値は、標準偏差、変動係数、および分散のいずれかである、請求項1に記載の生体信号処理方法。
【請求項4】
前記第1の時間期間は、前記ばらつきの度合いを示す値が前記第1の閾値以下となる時点から第1の時間経過した時点以降に開始される時間期間である、請求項1に記載の生体信号処理方法。
【請求項5】
前記第1の時間期間より後の、前記ばらつきの度合いを示す値が第2の閾値以下の第2の時間期間を特定することをさらに含み、
前記出力は、前記生体信号のうちの前記第2の時間期間における生体信号にさらに基づいて行われる、
請求項1に記載の生体信号処理方法。
【請求項6】
前記第1の時間期間は、前記ばらつきの度合いを示す値が前記第1の閾値以下となる時点から第1の時間経過した時点以降に開始される時間期間であり、
前記第2の時間期間は、前記ばらつきの度合いを示す値が前記第2の閾値以下となる時点から第2の時間経過した時点以降に開始される時間期間である、
請求項5に記載の四肢動物の生体信号処理方法。
【請求項7】
請求項5に記載の生体信号処理方法であって、
前記生体信号が、拍動を示す信号を含み、
前記第1の時間期間における生体信号と、前記第2の時間期間における生体信号との各々について、拍動間隔の平均値、単位時間当たりの拍数、拍動間隔のばらつき、単位時間当たりの拍数のばらつき、HF、およびLF/HFのうちの少なくとも一つを算出し、下記式(c1)~式(c6)のうち少なくとも一つの式の大小関係が満足されるか否かを判定することをさらに含み、
前記出力は、下記式(c1)~式(c6)のうち少なくとも一つの式の大小関係が満足されると判定された場合に行われる、
生体信号処理方法。
前記第1の時間期間における拍動間隔の平均値>前記第2の時間期間における拍動間隔の平均値・・・(c1)
前記第1の時間期間での単位時間当たりの拍数<前記第2の時間期間での単位時間当たりの拍数・・・(c2)
前記第1の時間期間における拍動間隔のばらつき>前記第2の時間期間における拍動間隔のばらつき・・・(c3)
第1の時間期間での単位時間当たりの拍数のばらつき>第2の時間期間での単位時間当たりの拍数のばらつき・・・(c4)
前記第1の時間期間のHF>前記第2の時間期間のHF・・・(c5)
前記第1の時間期間のLF/HF<前記第2の時間期間のLF/HF・・・(c6)
但し、LFは、拍動間隔を周波数スペクトル変換することにより取得されるパワースペクトルを周波数Lf1からLf2まで定積分した値であり、HFは、前記パワースペクトルを周波数Hf1からHf2まで定積分した値であり、Hf1>Lf1、Hf2>Lf2である。
【請求項8】
前記拍動間隔の平均値は、心電信号において隣り合うR波とR波との間隔であるRRIの平均値である、請求項7に記載の生体信号処理方法。
【請求項9】
前記拍動間隔のばらつきは、SDNN、RMSSD、CVRR、NN50、およびpNN50のいずれかであり、
SDNNは、心電信号において隣り合うR波とR波との間隔であるRRIの標準偏差であり、
RMSSDは、連続して隣接するRRIの差の2乗の平均値の平方根であり、
CVRRは、SDNNの値をRRIの平均値で割って100を掛けた値であり、
NN50は、連続した隣接するRRIの差が50msを超える総数を示す値であり、
pNN50は、連続した隣接するRRIの差が50msを超える心拍の割合を示す値である、
請求項7に記載の生体信号処理方法。
【請求項10】
前記生体信号の取得は生体信号計測用衣類を用いて行われる、請求項1から9のいずれかに記載の生体信号処理方法。
【請求項11】
四肢動物の生体信号と、前記四肢動物の動きに伴う加速度とを取得する取得部と、
前記加速度の値のばらつきの度合いを示す値が第1の閾値以下の第1の時間期間を特定する第1時間期間特定部と、
前記生体信号のうちの前記第1の時間期間における生体信号に基づいて出力を行う出力部と
を備える、四肢動物の生体信号処理装置。
【請求項12】
請求項11に記載の生体信号処理装置と、
前記生体信号および/または前記加速度の取得に用いられる計測装置、ならびに、前記生体信号処理装置による出力に基づいて出力を行う出力装置、の少なくとも一方と
を具備する、生体信号処理システム。
【請求項13】
請求項11に記載の生体信号処理装置の各部による処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項14】
請求項11に記載の生体信号処理装置の各部による処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを記憶する、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四肢動物の生体信号処理方法、生体信号処理装置、生体信号処理システム、プログラム、および記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、動物の生体信号を測定するための技術が注目されている。例えば特許文献1では、分娩を監視すべき動物母体の心拍数を心拍計により測定し、測定された心拍数に基づいて、分娩以前の平時での該心拍数の変動域を超えた一過性の心拍数の減少を弁別して分娩直前信号を通知する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4487075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、生理反応として、心拍数は動作が少ないと少なくなり、動作が多くなると多くなる。したがって、監視のために心拍数を用いる場合、動物の動作を考慮しなければ誤った通知が行われてしまう。さらに、動物が立位である場合には、臥位である場合と比較して当該動物の心拍数が増加する。他の生体信号においても、動物の動作および姿勢の影響は同様に見られるものと考えられる。そこで、本発明は、四肢動物の動きに伴う加速度から、当該四肢動物が臥位であると推測される時間期間を特定し、当該時間期間における生体信号の処理を行うことを可能とする、四肢動物の生体信号処理方法、生体信号処理装置、生体信号処理システム、プログラム、および記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、以下の発明を含み得る。
[1] コンピュータおよび記憶媒体を備える装置が実行する四肢動物の生体信号処理方法であって、
四肢動物の生体信号と、前記四肢動物の動きに伴う加速度とを取得することと、
前記加速度の値のばらつきの度合いを示す値が第1の閾値以下の第1の時間期間を特定することと、
前記生体信号のうちの前記第1の時間期間における生体信号に基づいて出力を行うことと
を含む、生体信号処理方法。
[2] 前記取得される加速度の値は、互いに交わるX軸、Y軸、およびZ軸それぞれの方向の加速度x、y、およびzのベクトル和の大きさに対応する、[1]に記載の生体信号処理方法。
[3] 前記加速度の値のばらつきの度合いを示す値は、標準偏差、変動係数、および分散のいずれかである、[1]または[2]に記載の生体信号処理方法。
[4] 前記第1の時間期間は、前記ばらつきの度合いを示す値が前記第1の閾値以下となる時点から第1の時間経過した時点以降に開始される時間期間である、[1]から[3]のいずれかに記載の生体信号処理方法。
[5] 前記第1の時間期間より後の、前記ばらつきの度合いを示す値が第2の閾値以下の第2の時間期間を特定することをさらに含み、
前記出力は、前記生体信号のうちの前記第2の時間期間における生体信号にさらに基づいて行われる、
[1]から[4]のいずれかに記載の生体信号処理方法。
[6] 前記第1の時間期間は、前記ばらつきの度合いを示す値が前記第1の閾値以下となる時点から第1の時間経過した時点以降に開始される時間期間であり、
前記第2の時間期間は、前記ばらつきの度合いを示す値が前記第2の閾値以下となる時点から第2の時間経過した時点以降に開始される時間期間である、
[5]に記載の四肢動物の生体信号処理方法。
[7] [5]または[6]に記載の生体信号処理方法であって、
前記生体信号が、拍動を示す信号を含み、
前記第1の時間期間における生体信号と、前記第2の時間期間における生体信号との各々について、拍動間隔の平均値、単位時間当たりの拍数、拍動間隔のばらつき、単位時間当たりの拍数のばらつき、HF、およびLF/HFのうちの少なくとも一つを算出し、下記式(c1)~式(c6)のうち少なくとも一つの式の大小関係が満足されるか否かを判定することをさらに含み、
前記出力は、下記式(c1)~式(c6)のうち少なくとも一つの式の大小関係が満足されると判定された場合に行われる、
生体信号処理方法。
前記第1の時間期間における拍動間隔の平均値>前記第2の時間期間における拍動間隔の平均値・・・(c1)
前記第1の時間期間での単位時間当たりの拍数<前記第2の時間期間での単位時間当たりの拍数・・・(c2)
前記第1の時間期間における拍動間隔のばらつき>前記第2の時間期間における拍動間隔のばらつき・・・(c3)
第1の時間期間での単位時間当たりの拍数のばらつき>第2の時間期間での単位時間当たりの拍数のばらつき・・・(c4)
前記第1の時間期間のHF>前記第2の時間期間のHF・・・(c5)
前記第1の時間期間のLF/HF<前記第2の時間期間のLF/HF・・・(c6)
但し、LFは、拍動間隔を周波数スペクトル変換することにより取得されるパワースペクトルを周波数Lf1からLf2まで定積分した値であり、HFは、前記パワースペクトルを周波数Hf1からHf2まで定積分した値であり、Hf1>Lf1、Hf2>Lf2である。
[8] 前記拍動間隔の平均値は、心電信号において隣り合うR波とR波との間隔であるRRIの平均値である、[7]に記載の生体信号処理方法。
[9] 前記拍動間隔のばらつきは、SDNN、RMSSD、CVRR、NN50、およびpNN50のいずれかであり、
SDNNは、心電信号において隣り合うR波とR波との間隔であるRRIの標準偏差であり、
RMSSDは、連続して隣接するRRIの差の2乗の平均値の平方根であり、
CVRRは、SDNNの値をRRIの平均値で割って100を掛けた値であり、
NN50は、連続した隣接するRRIの差が50msを超える総数を示す値であり、
pNN50は、連続した隣接するRRIの差が50msを超える心拍の割合を示す値である、
[7]に記載の生体信号処理方法。
[10] 前記生体信号の取得は生体信号計測用衣類を用いて行われる、[1]から[9]のいずれかに記載の生体信号処理方法。
[11] 四肢動物の生体信号と、前記四肢動物の動きに伴う加速度とを取得する取得部と、
前記加速度の値のばらつきの度合いを示す値が第1の閾値以下の第1の時間期間を特定する第1時間期間特定部と、
前記生体信号のうちの前記第1の時間期間における生体信号に基づいて出力を行う出力部と
を備える、四肢動物の生体信号処理装置。
[12] [11]に記載の生体信号処理装置と、
前記生体信号および/または前記加速度の取得に用いられる計測装置、ならびに、前記生体信号処理装置による出力に基づいて出力を行う出力装置、の少なくとも一方と
を具備する、生体信号処理システム。
[13] [11]に記載の生体信号処理装置の各部による処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
[14] [11]に記載の生体信号処理装置の各部による処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを記憶する、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、四肢動物の動きに伴う加速度の値のばらつきの度合いを示す値が第1の閾値以下の第1の時間期間が特定され、当該第1の時間期間における生体信号に基づく出力が可能となる。特定される第1の時間期間では、当該四肢動物が臥位であると推測される。このため、四肢動物の動作および姿勢が当該四肢動物の生体信号に影響を及ぼしてしまうような時間期間の生体信号を排除して、当該四肢動物の生体信号に基づく出力を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1実施形態に係る生体信号処理装置を含む生体信号処理システムの構成の一例を示す。
図2図2は、第1実施形態に係る生体信号処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、第1実施形態に係る生体信号処理装置の制御部のソフトウェア構成の一例を示すブロック図である。
図4図4は、第1実施形態に係る生体信号処理装置により実行される動作の一例のフローチャートを示す。
図5図5は、第1実施形態に係る生体信号処理装置により実行される時間期間を特定する動作を説明するための例示的なグラフを示す。
図6図6は、第1実施形態に係る生体信号処理装置により実行される時間期間を特定する動作のより詳細な一例のフローチャートを示す。
図7図7は、第1実施形態に係る生体信号処理装置により実行される生体信号に基づいて出力を行う動作のより詳細な一例のフローチャートを示す。
図8図8は、LFおよびHFの算出方法の一例を説明するためのグラフを示す。
図9図9は、第1実施形態に係る生体信号処理装置により実行される或る条件式が満足されるか否かを判定する動作を説明するための例示的なグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照してこの発明に係る実施形態を説明する。
以下では、下記実施形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0009】
[第1実施形態]
(構成例)
(1)システム構成
図1は、第1実施形態に係る生体信号処理装置1を含む生体信号処理システムSYSの構成の一例を示す。当該システムSYSは、生体信号処理装置1に加えて、例えば、計測装置2および出力装置3を含む。
【0010】
計測装置2は、四肢動物に取り付けられる。計測装置2としては、加速度計に加え、生体信号の検出に用いられる心電計、心拍センサ、脈波センサ、呼吸数計測器、温度センサ、ならびに、電磁誘導、赤外線、または超音波の受信器、発振器等が挙げられる。呼吸数計測器は、例えば、呼吸により周長が変化する部位の長さの変化を検出する変位センサである。変位センサは、例えば、当該長さの変位により変化する抵抗または静電容量を検出するものである。図1では、計測装置2を便宜的に単一のブロックで表しているが、計測装置2として、例えば、加速度計と、上述したような生体信号の検出に用いられる各種機器との組み合わせが用いられる。当該生体信号の検出に用いられる各種機器としては、1種または2種以上が用いられてもよい。当該生体信号の検出に用いられる各種機器は、例えば、検出される電圧信号等の生体信号をアナログデジタル変換し、当該アナログデジタル変換後の信号を、通信ネットワークNWを介して外部装置に送信可能である。
【0011】
生体信号処理装置1は、例えば計測機器およびパーソナルコンピュータ等である。出力装置3は、例えば、スマートフォン、移動端末(例えばタブレット端末)、スマートウォッチ、ヘッドマウントディスプレイ、スマートグラス、スマートコンタクトレンズ、およびパーソナルコンピュータ等のような、音声出力、振動、および/または画面表示等の出力が可能な装置である。図1では、生体信号処理装置1と出力装置3とが通信ネットワークNWを介して接続される別個の装置であるものとして示されているが、本実施形態はこれに限定されない。生体信号処理装置1と出力装置3とを組み合わせたものが、単一の生体信号処理装置を構成していてもよい。例えば、生体信号処理装置1と出力装置3との組み合わせが、計測機器、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、移動端末(例えばタブレット端末)、スマートウォッチ、およびヘッドマウントディスプレイ等を構成していてもよい。同様に、計測装置2、生体信号処理装置1、および出力装置3のうちの2つ以上が、単一の生体信号処理装置を構成していてもよい。
【0012】
計測装置2は、通信ネットワークNWを介して、計測装置2が取り付けられた四肢動物の生体信号および加速度データを生体信号処理装置1に送信する。生体信号処理装置1は、当該生体信号および加速度データを受信する。当該加速度データの受信により、生体信号処理装置1は、上記四肢動物の動きに伴う加速度を取得する。これにより、生体信号処理装置1は、当該加速度に基づいて当該生体信号の処理を行う。
【0013】
生体信号処理装置1による加速度に基づく生体信号の処理について説明する。生体信号処理装置1は、後述するように、時間期間特定部112による制御の下、四肢動物の動きに伴う加速度の値のばらつきの度合いを示す値が閾値以下の時間期間を特定する。当該時間期間では、四肢動物が臥位であると推測される。生体信号処理装置1は、生体信号処理部113による制御の下、例えば、当該時間期間における生体信号を処理する。生体信号処理装置1は、当該処理の結果に基づくデータを、通信ネットワークNWを介して出力装置3に送信可能である。
【0014】
出力装置3は、上記生体信号の処理の結果に基づくデータを受信し、当該データに基づいて音声出力および/または画面表示等の出力を行う。これにより、例えば、四肢動物の分娩接近、および分娩開始等をユーザが知覚することが可能となる。図1では、出力装置3を便宜的に単一のブロックで表しているが、出力装置3として、上述したような装置のうちの1種のみが用いられてもよく、2種以上が用いられてもよい。
【0015】
(2)計測装置の構成例
計測装置2の一例には、生体信号計測用衣類がある。
当該生体信号計測用衣類は、ベルト等の帯状物や衣服等であることが好ましい。当該衣類は、胸部、腹部、脚部、頸部、および頭部から選ばれる1以上の部位を覆うものであることが好ましく、胸部および/または腹部を覆うものであることがより好ましく、胸部を覆うものであることがさらに好ましい。当該衣類は、洗濯可能であり、複数回使用する観点から、着脱可能な電子ユニットを備えていることが好ましい。
【0016】
生体信号計測用衣類は、生地と、当該生地の体表面側に設けられた電極と、配線と、電子機器接続部と、生体信号を計測する機器とを少なくとも備え、当該生地は、体周方向の一端部側に第1帯状部と、体周方向の他端部側に第2帯状部とを備えることが好ましい。
【0017】
生体信号計測用衣類は、少なくとも電極が形成されている領域において帯状本体部1cm当たりに対して該帯状本体部の厚み方向に5kgの荷重をかけたときに、厚みが10mm以上小さくなる四肢動物用の衣類であることが好ましい。電極が形成されている領域にクッション性があることで、四肢動物に着用させた場合に、電極の位置ずれが生じ難くなるため生体信号の測定精度が向上する。
【0018】
第1帯状部と第2帯状部は、四肢動物に生体信号計測用衣類を着用させる際に直接または間接に、互いに固定等できるようになっていればよい。例えば、第1帯状部と第2帯状部は、それぞれ第1連結部材、第2連結部材とを有することが好ましい。第1連結部材、第2連結部材として、マジックテープ(登録商標)、フリーマジックテープ(登録商標)等の面ファスナーや、バックル、フック、およびループ等が挙げられる。また、第1連結部材と第2連結部材は、例えば取り外し式ベルトを介して連結されていてもよい。これにより体周方向の長さを調節し易くすることができるため、生体信号計測用衣類の装着を容易とすることができる。
【0019】
生地は、第1帯状部および第2帯状部に加えて本体部を有しており、本体部では、第1帯状部と第2帯状部よりも前後方向の長さが大きい。本体部は、例えば第1帯状部に向かって前後方向の長さが短くなる第1テーパ部を有していてもよい。本体部は、第2帯状部に向かって前後方向の長さが短くなる第2テーパ部を有していてもよい。本体部が第1テーパ部および/または第2テーパ部を有することにより、生体信号計測用衣類の締め付けが容易となる。第1テーパ部および第2テーパ部の各々の形状として、外縁が後方向に向かって湾曲している湾曲形状、および、一定の角度で先細りになっているいわゆる線形テーパ形状等が挙げられる。本体部は、正方形、長方形等の矩形であってもよい。
【0020】
生地の体表面側には、例えば、第一絶縁層、導電層、および第二絶縁層が、当該生地から見て第一絶縁層、導電層、および第二絶縁層の順に設けられている。第二絶縁層は、導電層の一部が露出するように設けられている。
【0021】
電極は、第一絶縁層、導電層、および第二導電層を含む積層体のうち、導電層が露出している第一絶縁層および導電層を含む積層構造として定義できる。電極は、1つに限らず2つ以上、生地の体表面側に設けられていてもよい。
【0022】
生体信号計測用衣類がベルト状の場合、当該ベルト状の生体信号計測用衣類の体表面側は平均摩擦係数MIUが0.40以上である高摩擦部を有していることが好ましい。これによりベルト状の生体信号計測用衣類がずれ難くなる。当該衣類の生地の体表面側が高摩擦部を有していてもよく、第1帯状部、第2帯状部の体表面側が高摩擦部を有していてもよい。
【0023】
高摩擦部は、細繊維が露出している部分であることが好ましい。細繊維としては、マイクロファイバー、ナノファイバーが好ましく挙げられる。細繊維の単繊維径は、好ましくは8μm以下、より好ましくは1000nm以下、さらに好ましくは1000nm未満、さらにより好ましくは800nm以下、特に好ましくは750nm以下である。一方、単繊維径は、100nm以上であってもよく、300nm以上であってもよく、500nm以上であってもよい。
【0024】
ベルト状の生体信号計測用衣類の体表面側はさらに、平均摩擦係数MIUが0.40未満である低摩擦部を有していることが好ましい。これによりベルト状の生体信号計測用衣類の位置の調節が容易となる。当該衣類の生地の体表面側が低摩擦部を有していてもよく、第1帯状部、第2帯状部の体表面側が低摩擦部を有していてもよい。
【0025】
ベルト状の生体信号計測用衣類は、5%伸長時の引張強さが2.8N/cm以下であり、10%伸長時の引張強さが4.0N/cm以下であることが好ましい。引張強さが上記範囲であることにより、ベルトが伸長することができる。引張強さは、例えば以下の手順で測定することができる。先ず、引張試験機のチャック間の中心に生地の中心が位置し、且つチャック間距離が45cmとなるようにベルト状の生体信号計測用衣類をチャックで挟み、次いでロードセル1kN、引張速度100mm/分の条件で、体周方向に伸長させて、次いで2.25cm伸長時(5%伸長時)と4.5cm伸長時(10%伸長時)における荷重(N)をそれぞれ求める。さらに上記チャック間におけるベルト状の生体信号計測用衣類の平均幅で、荷重(N)を割って、5%伸長時の引張強さ(N/cm)、10%伸長時の引張強さ(N/cm)をそれぞれ求めることができる。
【0026】
生地の体表面側には、配線が設けられていることが好ましい。配線は、第一絶縁層、導電層、および第二絶縁層を含む積層体のうち、導電層が第二絶縁層に覆われている部分として定義できる。電極で取得された生体信号を、配線を介して伝達することができる。生体信号を伝達するための配線として、上記で定義したものに加え/上記で定義したものの代わりに、リード線が用いられるようにしてもよい。
【0027】
体表面側と第一絶縁層の間に接着層等の他の層が存在していてもよい。第一絶縁層と導電層との間にホットメルト層等の他の層が存在していてもよく、導電層と第二絶縁層との間にホットメルト層等の他の層が存在していてもよい。
【0028】
電子機器接続部は、第一絶縁層、導電層、および第二絶縁層を含む積層体のうち、導電層が第二絶縁層に覆われていない第一絶縁層および第一絶縁層を含む積層体として定義できる。電子機器接続部において、例えばスナップファスナー等のコネクタを介して、生地の体表面側とは反対側の表側面に電子機器を取り付けることができる。また、電子機器接続部の体表面側を覆うように保護層が形成されていてもよい。
【0029】
これら電極、第一絶縁層、導電層、第二絶縁層、配線等の詳細については、特開2020-100903号公報を参照することができる。
【0030】
(3)生体信号処理装置に係るハードウェア構成
図2は、第1実施形態に係る生体信号処理装置1のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0031】
生体信号処理装置1は、制御部11、プログラム記憶部12、データ記憶部13、入出力インタフェース(入出力I/F)14、およびバスBUSを含む。プログラム記憶部12、データ記憶部13、および入出力インタフェース14の各々は、バスBUSを介して制御部11に接続される。
【0032】
制御部11は、例えば、中央処理ユニット(Central Processing Unit:CPU)等のハードウェアプロセッサを有する。
【0033】
プログラム記憶部12は、記憶媒体として、例えば、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)等の随時書込みおよび読出しが可能な不揮発性メモリと、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリとを組み合わせたものである。プログラム記憶部12は、OS(Operating System)等のミドルウェアに加えて、本実施形態に係る各種制御処理の実行のために用いられるプログラムを格納する。プログラム記憶部12は、例えば、フラッシュメモリ等の補助記憶装置、CD-ROM、DVDディスク、およびUSBメモリ等の可搬型の記録媒体により実現されてもよい。
【0034】
データ記憶部13は、記憶媒体として、例えば、HDDまたはSSD等の随時書込みおよび読出しが可能な不揮発性メモリと、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリとを組み合わせたものである。データ記憶部13は、制御部11が有するハードウェアプロセッサの作業領域として使用され、データを一時的に保持し、バッファおよびキャッシュとして機能する。データ記憶部13は、例えば、フラッシュメモリ等の補助記憶装置、CD-ROM、DVDディスク、およびUSBメモリ等の可搬型の記録媒体により実現されてもよい。
【0035】
入出力インタフェース14は、制御部1による制御の下、通信ネットワークNWにより定義される通信プロトコルを使用して、外部装置との間で伝送されるデータの送受信を行う。入出力インタフェース14は、例えば有線LANまたは無線LANに対応するインタフェースにより構成される。
【0036】
(4)生体信号処理装置に係るソフトウェア構成
図3は、第1実施形態に係る生体信号処理装置1の制御部11のソフトウェア構成の一例を示すブロック図である。制御部11中に示される各種機能部は、一例にすぎず、図3に示されるように区別されている必要はない。単一のブロックとして示されている或る機能部が複数の単位に分割されて実現されてもよいし、異なる複数のブロックとして示されている機能部が或るまとまった単位で実現されてもよい。
【0037】
制御部11は、例えば、取得部111、時間期間特定部112、生体信号処理部113、および出力部114を含む。制御部11が含む各機能部の処理機能は、制御部11が、プログラム記憶部12に格納されるプログラムを、制御部11のハードウェアプロセッサに実行させることにより実現される。プログラム記憶部12に格納されるプログラムが用いられる場合の説明を行ったが、用いられるプログラムは、通信ネットワークNWを通して提供されるものであってもよい。
【0038】
入出力インタフェース14は、計測装置2から通信ネットワークNWを介して送信される生体信号および加速度データを受け取り、当該生体信号および加速度データを制御部11に入力する。入出力インタフェース14はまた、制御部11から出力されるデータを受け取り、制御部11からの指示にしたがって、当該データを出力装置3に通信ネットワークNWを介して送信する。
【0039】
データ記憶部13は、例えば、加速度データ記憶部131、生体信号記憶部132、時間期間記憶部133、および生体信号処理結果記憶部134を含む。これら各種記憶部は、生体信号処理装置1に含まれているものとして説明するが、これら記憶部のうち1つ以上が、例えばクラウドコンピューティング上等、生体信号処理装置1の外部に設けられていてもよい。
【0040】
加速度データ記憶部131は、加速度データを記憶する。生体信号記憶部132は、生体信号を記憶する。時間期間記憶部133は、時間期間特定部112による処理で特定される時間期間を記憶する。生体信号処理結果記憶部134は、生体信号処理部113による処理の結果のデータを記憶する。
【0041】
取得部111は、計測装置2により計測される生体信号および加速度データを入出力インタフェース14を介して取得し、当該加速度データを加速度データ記憶部131に記憶させ、当該生体信号を生体信号記憶部132に記憶させる処理を実行する。加速度データ記憶部131では、各加速度データアイテムがタイミング情報に対応付けられて記憶される。同様に、生体信号記憶部132では、生体信号がタイミング情報に対応付けられて記憶される。本明細書では、後述するように加速度データも生体信号の一例として説明される場合がある。この場合には、加速度データ記憶部131も生体信号記憶部132に含まれるものとみなすことができる。
【0042】
時間期間特定部112は、例えば、第1時間期間特定部1121および第2時間期間特定部1122を含む。
第1時間期間特定部1121は、加速度データ記憶部131から加速度データを読み出し、計測装置2が取り付けられた四肢動物の運動に伴う加速度の値のばらつきの度合いを示す値が第1の閾値以下の第1の時間期間を特定し、当該第1の時間期間を示すデータを時間期間記憶部133に記憶させる処理を実行する。第1の時間期間では、例えば、当該四肢動物が臥位であると推測される。
【0043】
第1の時間期間は、上記ばらつきの度合いを示す値が第1の閾値以下となる時点から第1の閾値以下である時間期間のうちの一部であっても全体であってもよい。例えば、上記ばらつきの度合いを示す値が第1の閾値以下となる時点から第1の閾値以下である時間期間のうちの、当該第1の閾値以下となる時点から第1の時間経過した時点以降に開始される時間期間が、第1の時間期間であってもよい。
【0044】
第2時間期間特定部1122は、上記ばらつきの度合いを示す値が第2の閾値以下の第2の時間期間を特定し、当該第2の時間期間を示すデータを時間期間記憶部133に記憶させる処理を実行する。第2の時間期間の始点は、例えば第1の時間期間の終点以降である。第2の時間期間においても、例えば、上記四肢動物が臥位であると推測される。第2の閾値は、第1の閾値と同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
第2の時間期間は、上記ばらつきの度合いを示す値が第2の閾値以下となる時点から第2の閾値以下である時間期間のうちの一部であっても全体であってもよい。例えば、上記ばらつきの度合いを示す値が第2の閾値以下となる時点から第2の閾値以下である時間期間のうちの、当該第2の閾値以下となる時点から第2の時間経過した時点以降に開始される時間期間が、第2の時間期間であってもよい。第2の時間は、上記第1の時間と同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
生体信号処理部113は、例えば、時間期間記憶部133に記憶される第1時間期間を示すデータを読み出し、さらに、第1時間期間のタイミング情報に対応付けられた生体信号のデータを生体信号記憶部132から読み出す処理を実行する。生体信号処理部113は、第1時間期間における生体信号を処理し、当該処理の結果のデータを生体信号処理結果記憶部134に記憶させる処理を実行してもよい。当該生体信号の処理では、例えば、後述する(i1)拍動間隔の平均値、(i2)単位時間当たりの拍数、(i3)拍動間隔のばらつき、(i4)単位時間当たりの拍数のばらつき、(i5)HF、(i6)LF/HF、(i7)加速度、(i8)角速度、(i9)単位時間当たりの呼吸数、(i10)外陰部間の距離、(i11)体表温度、および(i12)膣内温度(以下、便宜的に、それぞれ指標(i1)~(i12)とも称され得る。)のうちの少なくとも1つが算出され、生体信号処理結果記憶部134に記憶される。当該生体信号の処理では、指標(i1)~(i6)のうちの少なくとも1つが算出されてもよい。生体信号処理部113による処理では、適宜ノイズカット処理等が行われてもよい。ノイズカット処理は生体信号処理部113により行われるものに限定されない。
【0047】
生体信号処理部113は、時間期間記憶部133に記憶される第2時間期間を示すデータを読み出し、さらに、第2時間期間のタイミング情報に対応付けられた生体信号のデータを生体信号記憶部132から読み出す処理を実行してもよい。生体信号処理部113は、第2時間期間における生体信号を処理し、当該処理の結果のデータを生体信号処理結果記憶部134に記憶させる処理を実行してもよい。当該生体信号の処理では、上記で第1の時間期間における生体信号の処理について説明したのと同様の算出処理が行われてもよい。
【0048】
生体信号処理部113は、例えば判定部1131を含む。
判定部1131は、第1の時間期間および/または第2の時間期間における生体信号の処理の結果の上記データに基づいて例えば或る条件式が満足されるか否かを判定し、当該判定の結果のデータを生体信号処理結果記憶部134に記憶させる処理を実行する。判定部1131は、例えば、第1時間期間における生体信号の処理の結果のデータと、第2時間期間における生体信号の処理の結果のデータとが、1または2以上の条件式を満足するか否かを判定し、当該判定の結果のデータを生体信号処理結果記憶部134に記憶させる処理を実行してもよい。
【0049】
出力部114は、例えば、生体信号処理結果記憶部134に記憶される生体信号の処理の結果のデータを読み出し、当該処理の結果に基づくデータを、入出力インタフェース14を介して出力装置3に出力する処理を実行する。出力部114は、例えば、時間期間記憶部133に記憶される第1時間期間および/または第2時間期間について、第1時間期間および/または第2時間期間のタイミング情報に対応付けられた生体信号のデータを生体信号記憶部132から読み出し、当該読み出したデータを、入出力インタフェース14を介して出力装置3に出力する処理を実行してもよい。
【0050】
出力部114は、例えば、生体信号処理結果記憶部134に記憶される上記判定の結果のデータを読み出し、当該データに応じて通知信号を生成し、当該通知信号を、入出力インタフェース14を介して出力装置3に出力する処理を実行する。当該出力により、出力装置3による例えば通知信号に基づく、警告等に係る音声出力、振動、および/または画面表示等の出力が可能となる。
【0051】
このようにして、出力部114は、生体信号のうちの第1の時間期間および/または第2の時間期間における生体信号に基づいて出力を行う処理を実行することが可能である。
【0052】
(動作例)
以上のように構成された生体信号処理装置1の動作例を説明する。
(1)全体動作フロー
図4は、生体信号処理装置1により実行される動作の一例のフローチャートを示す。以下で説明する動作は一例に過ぎず、本実施形態に係る動作はこれに限定されるものではない。
【0053】
当該動作に先立ち、計測装置2が、計測装置2が取り付けられた四肢動物の生体信号および加速度データを計測する。計測装置2は、(図示しない)出力部による制御の下、当該生体信号および加速度データを、通信ネットワークNWを介して生体信号処理装置1に送信する。当該送信に応じて、図4のフローチャートに示される動作が開始される。
【0054】
生体信号処理装置1の制御部11は、取得部111による制御の下、四肢動物の加速度データおよび生体信号を取得する(ST01)。ST01の動作は、以降で説明する各STの動作が実行されている間に、その少なくとも一部が並行して実行されていてもよい。
【0055】
四肢動物は、家畜、または、愛玩動物等のペットであることが好ましい。より具体的には、四肢動物は、犬、猫、牛、馬、羊、豚、または山羊等であることがより好ましく、犬または牛であることがさらに好ましい。
【0056】
加速度データの計測には、四肢動物の体に取り付けられた加速度計が用いられる。当該加速度計は、例えば胴に取り付けられ、好ましくは胸腹部に取り付けられ、より好ましくは左側の胸腹部に取り付けられる。
【0057】
加速度計としては、一軸加速度計、二軸加速度計、および三軸加速度計等が用いられる。なかでも、二軸加速度計、三軸加速度計が用いられることが好ましく、三軸加速度計が用いられることがより好ましい。以下では、三軸加速度計が用いられる場合を例に挙げて説明するが、本実施形態はこれに限定されない。
加速度計として、圧電型加速度センサ、サーボ型加速度センサ、ひずみゲージ型加速度センサ、および半導体型加速度センサ等が使用されてもよく、圧電型加速度センサが使用されることが好ましい。加速度計としては、ユニオンツール株式会社製のmyBeat(登録商標)等が挙げられる。
【0058】
加速度計で取得される加速度は、例えば、四肢動物の動きに伴う加速度と四肢動物に作用する重力加速度との合成値である。当該合成値は、重力加速度の大きさg(=9.8m/s)に対する比で表されるものであってもよい(単位:無次元量)。
【0059】
四肢動物の動きに伴う加速度(以下、加速度Aとも称され得る。)の値は、例えば、三軸加速度計を用いて計測されるX軸、Y軸、およびZ軸方向それぞれの加速度x、y、およびzから算出される。X軸、Y軸、およびZ軸は互いに交わり、より好ましくは互いに直交する。加速度Aは、例えば、次に説明するように加速度x、y、およびzのベクトル和の大きさに対応する。
【0060】
より具体的には、加速度Aは、次の式(1)で表されるように、加速度x、y、およびzの大きさ(式(1)ではそれぞれx、y、およびzと示している。)それぞれを2乗した値の和(二乗和)の平方根から重力加速度の大きさg(=9.8m/s2)分として(g/g)=1を減じた値である。このような加速度Aでは、四肢動物の動きに伴う加速度のみが反映されるようになり得る。
式(1)において、四肢動物の動きがない場合、加速度x、y、およびzのベクトル和は重力加速度とほぼ同一であり、ゆえに加速度x、y、およびzの二乗和の値がほぼ1となることから、加速度Aは0に殆ど等しい値となる。他方、式(1)において、四肢動物の動きがある場合、加速度x、y、およびzのベクトル和の大きさが重力加速度の大きさよりも大きくなり、ゆえに加速度x、y、およびzの大きさの二乗和の値が1よりも大きくなることから、加速度Aは0よりも大きくなる。
【0061】
【数1】
【0062】
加速度Aは、例えば、三軸加速度計を用いて計測される加速度x、y、およびzの大きさそれぞれを2乗した値の和(二乗和)の平方根であってもよい。
【0063】
加速度計または計測装置2により、加速度Aが算出されてもよく、この場合、計測装置2は、加速度Aを生体信号処理装置1に送信してもよい。あるいは、計測装置2が加速度x、y、およびzを生体信号処理装置1に送信し、生体信号処理装置1の制御部11により加速度Aが算出されることにより加速度Aが取得されてもよい。このように生体信号処理装置1に送信される加速度に係るデータを、本明細書では総称して加速度データと称する。
【0064】
生体信号の例には、計測装置2が取り付けられた四肢動物の(i1)拍動間隔の平均値、(i2)単位時間当たりの拍数、(i3)拍動間隔のばらつき、(i4)単位時間当たりの拍数のばらつき、(i5)HF、(i6)LF/HF、(i7)加速度、(i8)角速度、(i9)単位時間当たりの呼吸数、(i10)外陰部間の距離、(i11)体表温度、および(i12)膣内温度(上述したように、それぞれ指標(i1)~(i12)とも称され得る。)、あるいは、これらの算出に用いられる、例えば拍動を示す信号等の何らかの他の信号がある。加速度、角速度等、および、加速度、角速度等の算出に用いられる信号も、生体に関する情報が示されるという点で、本明細書では生体信号の一例として説明される場合がある。
【0065】
続いて、制御部11は、時間期間特定部112による制御の下、加速度Aの値のばらつきの度合いを示す値が閾値以下の時間期間を特定する(ST02)。
【0066】
特定される時間期間は、例えば、当該ばらつきの度合いを示す値が当該閾値以下となる時点から当該閾値以下であり続ける時間が5分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、さらに好ましくは30分以上、さらに好ましくは1時間以上である時間期間から選択される。このように或る程度の長さの時間期間が特定されるようにすることにより、四肢動物が瞬間的に静止している時間期間が特定されないようにすることが可能である。上記特定される時間期間は、例えば1分以上、2時間以下、好ましくは2分以上、1時間以下、より好ましくは3分以上、50分以下、さらに好ましくは5分以上、30分以下である。
【0067】
或るタイミングに対応する上記ばらつきの度合いを示す値としては、例えば、当該タイミングを含む或る特定の期間における加速度Aの値から算出される(i)分散、(ii)標準偏差、および(iii)変動係数のいずれかが用いられる。当該特定の期間は、例えば1分以上、60分以下、好ましくは2分以上、30分以下、より好ましくは3分以上、15分以下、さらに好ましくは5分以上、10分以下である。例えば、このような特定の期間毎に、加速度Aの複数の値から、上記ばらつきの度合いを示す値が算出される。ばらつきの度合いを示す値の算出に用いられる特定の期間の長さは必ずしも一定でなくてもよい。
【0068】
上記特定される時間期間では、例えば、四肢動物が臥位であると推測される。例えば、上記ばらつきの度合いを示す値が上記閾値以下となる時点から当該閾値以下である時間期間のうちの、上記閾値以下となる時点から或る時間(以下、待機時間とも称され得る。)経過した時点以降に開始される時間期間が、特定される時間期間であってもよい。当該待機時間は、例えば1分以上、60分以下、好ましくは2分以上、30分以下、より好ましくは3分以上、15分以下、さらに好ましくは5分以上、10分以下である。これは、四肢動物が臥位となっても、しばらくは臥位となる以前の動作の影響が生体信号にみられることがあり、このような影響が見られる時間帯を、特定される時間期間から排除することを目的とする。
【0069】
(i)分散
分散としては、例えば、次に説明する分散sと分散Var[X]のいずれかが用いられる。
分散sは、上記特定の期間における加速度の値のばらつきの度合いを示し、以下の式(2)で表される。式(2)中、nは当該特定の期間内で求められている加速度Aの数を表し、xは当該特定の期間内で求められているi番目の加速度Aの値である。すなわち、分散sは、当該特定の期間内で求められている或る加速度Aの値と当該特定の期間内で求められている加速度Aの値の平均との差を2乗した値を各加速度Aについて算出して和をとり、nで割った値となる。
分散Var[X]は平均との差の二乗の期待値であるとした場合は、確率変数Xと平均μを用いて式(3)で表してもかまわない。
【0070】
【数2】
【0071】
【数3】
【0072】
(ii)標準偏差
標準偏差としては、例えば、次に説明する標準偏差sが用いられる。
標準偏差sは、上記特定の期間における加速度の値のばらつきの度合いを示し、具体的には以下の式(4)で表される。式(4)中、sは上述した分散sである。
【0073】
【数4】
【0074】
(iii)変動係数
変動係数としては、例えば、次に説明する変動係数CVが用いられる。
変動係数CVは、上記特定の期間における加速度の値のばらつきの度合いを示し、具体的には以下の式(5)で表される。式(5)中、sは上述した標準偏差sである。すなわち、変動係数CVは、標準偏差sを、上記特定の期間内で求められている加速度Aの値の平均で割った値となる。
【0075】
【数5】
【0076】
加速度Aの値のばらつきの度合いを示す値として、標準偏差sが用いられる場合、上記閾値は、例えば0.1以下、好ましくは0.06以下、より好ましくは0.03以下である。当該閾値は、好ましくは、0.001以上である。これらの数値範囲は、上述したように加速度Aを無次元量とした場合のものである。
【0077】
加速度Aの値のばらつきの度合いを示す値として、分散sまたは分散Var[X]が用いられる場合、上記閾値は、例えば0.01以下、好ましくは0.0036以下、より好ましくは0.0009以下である。当該閾値は、好ましくは、0.000001以上である。これらの数値範囲は、上述したように加速度Aを無次元量とした場合のものである。
【0078】
加速度Aの値のばらつきの度合いを示す値として、変動係数CVが用いられる場合、上記閾値は、例えば0.1以下、好ましくは0.06以下、より好ましくは0.03以下である。当該閾値は、好ましくは、0.001以上である。これらの数値範囲は、上述したように加速度Aを無次元量とした場合のものである。
【0079】
続いて、制御部11は、生体信号処理部113および/または出力部114による制御の下、上記特定された時間期間における生体信号に基づいて出力を行う(ST03)。より具体的には、制御部11は、生体信号処理部113による制御の下、上記特定された時間期間における生体信号を処理して、当該処理の結果のデータを出力してもよい。制御部11は、当該処理の結果に基づいて或る条件式が満足されるか否かを判定し、当該判定の結果のデータに基づく通知信号を生成し、当該通知信号を出力してもよい。
【0080】
図5は、ST02の時間期間を特定する動作を説明するための例示的なグラフを示す。当該グラフにおいて、縦軸は、上記ばらつきの度合いを示す値として用いられる標準偏差sの大きさを示し、横軸は時刻を示す。
加速度Aは、三軸加速度計を用いて計測される加速度x、y、およびzの大きさそれぞれを2乗した値の和(二乗和)の平方根として無次元量で算出されており、標準偏差sは上記特定の期間としての5分間毎に算出されている。加速度x、y、およびzは、互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸それぞれの方向の加速度である。当該グラフに示されるように、標準偏差sは5分毎にプロットされている。
【0081】
図5では、上記閾値(Thとして示されている。)として0.03が用いられる場合の例が示される。図5の例では、上記ばらつきの度合いを示す値が閾値としての0.03以下となる時点から当該閾値以下であり続ける時間期間として、時間期間TP1、時間期間TP2、時間期間TP3、時間期間TP4、時間期間TP5、時間期間TP6、および時間期間TP7が示される。例えば、ST02の動作において特定される時間期間が、上記ばらつきの度合いを示す値が上記閾値以下となる時点から当該閾値以下であり続ける時間が10分以上である時間期間から選択される場合、特定される時間期間は、時間期間TP1、時間期間TP3、時間期間TP4、時間期間TP5、時間期間TP6、および時間期間TP7から選択され得る一方で、時間期間TP2からは選択されない。ST02の動作では、例えば、時間期間TP1に含まれる10分間の時間期間が選択される。同様に、ST02の動作では、例えば、時間期間TP4に含まれる10分間の時間期間が選択されてもよい。
【0082】
次に、ST02の動作のより詳細を説明した後に、ST03の動作のより詳細を説明する。
図6は、生体信号処理装置1により実行されるST02の時間期間を特定する動作のより詳細な一例のフローチャートを示す。例えば、ST01の動作に応じて、図6のフローチャートに示される動作が開始される。
【0083】
制御部11は、第1時間期間特定部1121による制御の下、加速度Aの値のばらつきの度合いを示す値が第1の閾値以下の第1の時間期間を特定する(ST21)。第1の時間期間の特定の説明は、ST02の動作について説明した通りである。ST02の説明において、特定される時間期間を第1時間期間に置き換え、閾値を第1の閾値に置き換え、待機時間を第1の時間に置き換えた説明が成り立つ。図5の例では、例えば、第1の時間期間として、時間期間TP1に含まれる10分間の時間期間が選択される。
【0084】
続いて、制御部11は、第2時間期間特定部1122による制御の下、加速度Aの値のばらつきの度合いを示す値が第2の閾値以下の第2の時間期間を特定する(ST22)。第2の時間期間の始点は、例えば第1の時間期間の終点以降である。第2の時間期間の特定の説明は、ST02の動作について説明した通りである。ST02の説明において、特定される時間期間を第2時間期間に置き換え、閾値を第2の閾値に置き換え、待機時間を第2の時間に置き換えた説明が成り立つ。第2の閾値は、第1の閾値と同一であっても異なっていてもよい。第2の時間は、第1の時間と同一であっても異なっていてもよい。図5の例では、例えば、第2の時間期間として、時間期間TP4に含まれる10分間の時間期間が選択される。
【0085】
図7は、生体信号処理装置1により実行されるST03の生体信号に基づく出力の動作のより詳細な一例のフローチャートを示す。例えば、ST22の動作に応じて、図7のフローチャートに示される動作が開始される。
【0086】
制御部11は、生体信号処理部113による制御の下、第1の時間期間における生体信号を処理し、第2の時間期間における生体信号を処理する(ST31)。当該生体信号の処理では、第1の時間期間と第2の時間期間の各々について、例えば、指標(i1)~(i12)のうちの少なくとも1つが算出される。当該生体信号の処理では、指標(i1)~(i6)のうちの少なくとも1つが算出されてもよい。計測装置2において指標(i1)~(i12)のうちの少なくとも1つが計測または算出されている場合、計測装置2は、生体信号として、計測または算出されている指標(i1)~(i12)のうちの少なくとも1つを生体信号処理装置1に送信していてもよい。この場合、ST31の動作は適宜省略可能である。本明細書では、便宜的にST31の動作が行われたものとして、以下の説明を行う。
【0087】
制御部11は、判定部1131による制御の下、第1の時間期間における生体信号の処理の結果と、第2の時間期間における生体信号の処理の結果とに基づいて、或る条件式が満足されるか否かを判定する(ST32)。ST32の動作では、1または2以上の条件式が満足されるか否かが判定されてもよい。より詳細については以降で説明する。以降で説明するように、条件式が満足されるか否かには、例えば、四肢動物が健康異常であること、四肢動物に分娩の予兆があること、または四肢動物に投薬の影響があることが反映され得る。
【0088】
上記条件式が満足されると判定された場合、制御部11は、出力部114による制御の下、当該判定結果に基づいて通知信号を生成し、当該通知信号を出力装置3に出力する(ST33)。これにより、出力装置3において、例えば、四肢動物が健康異常であること、四肢動物に分娩の予兆があること、または四肢動物に投薬の影響があること等に係る、音声出力、振動、および/または画面表示等の出力が可能となる。
【0089】
上記条件式が満足されると判定されなかった場合、例えば、ST22の動作が再度実行され、続いてST31の動作、ST32の動作が再度実行される。
【0090】
以下、ST31の動作で算出される各指標について、ST32の動作で用いられ得る条件式の詳細を説明する。
(i1)拍動間隔の平均値
拍動間隔は、心臓の拍動に伴う電気信号を時系列で記録した心電信号において隣り合うR波とR波の間隔(以下、RRIまたはRR間隔とも称され得る。)であること、または、心拍信号としての脈波と脈波の間隔であることが好ましく、RR間隔であることがより好ましい。拍動間隔が、脈波と脈波の間隔である場合、心臓の脈動に伴って変化する血流量や血管の容積変化を時系列で記録した脈波のパルスのピークであるP波と次のP波までの間隔であるPP間隔であることがより好ましい。
【0091】
拍動間隔は、心拍を計測する心電計、心拍センサ等により計測することができる。心電計および心拍センサは、四肢動物の胸部および/または腹部に配置されることが好ましく、少なくとも胸部に配置されることが好ましい。拍動間隔は、脈波センサを使用して計測してもよい。脈波センサを使用して脈拍を計測する場合、四肢動物の耳等に、波長700~1200nmの近赤外線を照射してその反射量を接触または非接触で計測すればよい。
【0092】
第1の時間期間における拍動間隔の平均値>第2の時間期間における拍動間隔の平均値・・・(c1)(以下、条件式(c1)とも称され得る。)
が満足される場合、妊娠した四肢動物が、例えば分娩に伴う活動量を増やしている、陣痛を伴っていること等が推測され、四肢動物の分娩が近づいていることが推測される。あるいは、四肢動物の体調が悪化している、四肢動物に投薬の影響が強く出ていることが推測される。ST32の動作では、例えば、条件式(c1)が満足されているか否かが判定される。
【0093】
四肢動物が牛であり、拍動間隔としてRR間隔が用いられる場合、条件式(c1)の関係に加えて次の関係が満たされることにより、条件式(c1)を用いて四肢動物の状態を上述のように推測する精度が向上され得る。
第1の時間期間における拍動間隔の平均値が1200ms超、第2の時間期間における拍動間隔の平均値が1200ms以下を満たすことが好ましく、第1の時間期間における拍動間隔の平均値が1000ms超、第2の時間期間における拍動間隔の平均値が1000ms以下を満たすことがより好ましく、第1の時間期間における拍動間隔の平均値が800ms超、第2の時間期間における拍動間隔の平均値が800ms以下を満たすことがさらに好ましい。
【0094】
(i2)単位時間当たりの拍数
単位時間当たりの拍数は、単位時間当たりの心拍数または脈拍数であることが好ましく、単位時間当たりの心拍数であることがより好ましい。単位時間当たりの心拍数は、例えば上記RRIから算出することもできる。単位時間当たりの心拍数は、例えば、特定される時間期間内のRRI毎に60/(RRI×0.001)を算出して平均をとったものにより、または、60/{(特定される時間期間におけるRRIの平均値)×0.001}により算出される。あるいは、単位時間当たりの心拍数は、例えば、特定の期間毎に、上述したいずれかの式で単位時間当たりの心拍数を算出し、さらに、特定される時間期間内について、このように算出された単位時間当たりの心拍数の平均をとったものにより、算出される。単位時間当たりの心拍数の算出に用いられる特定の期間の長さは必ずしも一定でなくてもよい。
【0095】
単位時間当たりの心拍数は、心電信号の他の何かしらのピークに基づいて算出されるものであってもよい。例えば、四肢動物が牛である場合、(i1)で説明したR波の特定が難しいことがあるため、指標(i2)として、心電信号の他のピークに基づいて算出された単位時間当たりの心拍数が用いられることが好ましい。当該単位時間の心拍数は、例えば、RRIを用いる場合について説明したのと同様に算出される。
【0096】
第1の時間期間での単位時間当たりの拍数<第2の時間期間での単位時間当たりの拍数・・・(c2)(以下、条件式(c2)とも称され得る。)
が満足される場合、妊娠した四肢動物が例えば陣痛等を伴っていることが推測され、四肢動物の分娩が近づいていることが推測される。あるいは、四肢動物の体調が悪化している、四肢動物に投薬の影響が強く出ていることが推測される。ST32の動作では、例えば、条件式(c2)が満足されているか否かが判定される。
【0097】
四肢動物が牛であり、単位時間当たりの心拍数が用いられる場合、条件式(c2)の関係に加えて次の関係が満たされることにより、条件式(c2)を用いて四肢動物の状態を上述のように推測する精度が向上され得る。
上記単位時間が1分間である場合、第1の時間期間での単位時間当たりの拍数が70以下、第2の時間期間での単位時間当たりの拍数が70超を満たすことが好ましく、第1の時間期間での単位時間当たりの拍数が80以下、第2の時間期間での単位時間当たりの拍数が80超を満たすことがより好ましく、第1の時間期間での単位時間当たりの拍数が90以下、第2の時間期間での単位時間当たりの拍数が90超を満たすことがさらに好ましい。
【0098】
図9は、ST32の或る条件式が満足されるか否かを判定する動作を説明するための例示的なグラフを示す。図9の例は、図5の例に対応している。図9の(A)のグラフは、図5に示したグラフを拡大したものに相当する。
図9の例では、例えば、時間期間TP1から第1の時間期間が選択され、時間期間TP4から第2の時間期間が選択されたものとする。
図9の(B)のグラフでは、縦軸は、5分間についての単位時間としての1分間当たりの心拍数の大きさを5分毎のタイミングで示し、横軸は時刻を示す。
【0099】
例えば、第1の時間期間として、時間期間TP1のうち、時間期間TP1の始点から第1の時間としての5分経過した時点からの時間期間が特定され、条件式(c2)で用いられる第1の時間期間での単位時間当たりの拍数として、第1の時間期間に含まれる4つのプロットの心拍数の大きさの平均が算出される。さらに、例えば、第2の時間期間として、時間期間TP4のうち、時間期間TP4の始点から第2の時間としての5分経過した時点からの時間期間が特定され、条件式(c2)で用いられる第2の時間期間での単位時間当たりの拍数として、時間期間TP4に含まれる6つのプロットの心拍数の大きさの平均が算出される。図9の例では、このように算出された第1の時間期間および第2の時間期間それぞれでの単位時間当たりの拍数では条件式(c2)の大小関係は満足されない。その結果、例えば、ST33の動作に進むことなく、ST22の動作が再度実行される。
【0100】
(i3)拍動間隔のばらつき
拍動間隔のばらつきは、RRI等の時間間隔に係る情報を時間解析することにより求められる。
第1の時間期間における拍動間隔のばらつき>第2の時間期間における拍動間隔のばらつき・・・(c3)(以下、条件式(c3)とも称され得る。)
が満足される場合、副交感神経活動が低下し、交感神経活動が優勢となっており、妊娠した四肢動物の分娩が近づいていることが推測される。あるいは、四肢動物の体調が悪化している、四肢動物に投薬の影響が強く出ていることが推測される。ST32の動作では、例えば、条件式(c3)が満足されているか否かが判定される。
【0101】
拍動間隔のばらつきとして、SDNN、RMSSD、CVRR、NN50、およびpNN50のいずれかが用いられることが好ましい。
SDNNはRRIの標準偏差であり、RMSSDは、連続して隣接するRRIの差の2乗の平均値の平方根であり、CVRRは、SDNNの値をRRIの平均値で割って100を掛けた値であり、NN50は、連続した隣接するRRIの差が50msを超える総数を示す値であり、pNN50は、連続した隣接するRRIの差が50msを超える心拍の割合を示す値である。SDNNおよびCVRRは、自律神経活動の指標として見なされ得る。RMSSD、NN50、およびpNN50は、副交感神経活動の指標として見なされ得る。
【0102】
四肢動物が牛であり、拍動間隔のばらつきとしてSDNNが用いられる場合、条件式(c3)の関係に加えて次の関係が満たされることにより、条件式(c3)を用いて四肢動物の状態を上述のように推測する精度が向上され得る。
第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが40超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが40以下であることが好ましく、第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが140超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが140以下であることがより好ましく、第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが240超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが240以下であることがさらに好ましい。これらの数値範囲は、RRIの単位としてmsを用いた場合のものである。次に説明するRMSSDおよびCVRRについての数値範囲についても同様である。
【0103】
四肢動物が牛であり、拍動間隔のばらつきとしてRMSSDが用いられる場合、条件式(c3)の関係に加えて次の関係が満たされることにより、条件式(c3)を用いて四肢動物の状態を上述のように推測する精度が向上され得る。
第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが12超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが12以下であることが好ましく、第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが120超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが120以下であることがより好ましく、第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが140超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが140以下であることがさらに好ましい。
【0104】
四肢動物が牛であり、拍動間隔のばらつきとしてCVRRが用いられる場合、条件式(c3)の関係に加えて次の関係が満たされることにより、条件式(c3)を用いて四肢動物の状態を上述のように推測する精度が向上され得る。
第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが25超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが25以下であることが好ましく、第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが35超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが35以下であることがより好ましく、第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが45超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが45以下であることがさらに好ましい。
【0105】
四肢動物が牛であり、拍動間隔のばらつきとしてNN50が用いられる場合、条件式(c3)の関係に加えて次の関係が満たされることにより、条件式(c3)を用いて四肢動物の状態を上述のように推測する精度が向上され得る。
第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが30超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが30以下であることが好ましく、第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが45超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが45以下であることがより好ましく、第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが60超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが60以下であることがさらに好ましい。
【0106】
四肢動物が牛であり、拍動間隔のばらつきとしてpNN50が用いられる場合、条件式(c3)の関係に加えて次の関係が満たされることにより、条件式(c3)を用いて四肢動物の状態を上述のように推測する精度が向上され得る。
第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが80超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが80以下であることが好ましく、第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが90超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが90以下であることがより好ましく、第1の時間期間における拍動間隔のばらつきが100超、第2の時間期間における拍動間隔のばらつきが100以下であることがさらに好ましい。
【0107】
(i4)単位時間当たりの拍数のばらつき
例えば、指標(i2)に関して上記で説明したように、特定される時間期間内の複数のタイミングの各々について、当該タイミングを含む或る特定の期間について単位時間当たりの拍数が取得されている場合、これら単位時間当たりの拍数のばらつきの度合いを示す値(以下、単に、単位時間当たりの拍数のばらつきとも称され得る。)が算出可能である。当該ばらつきとしては、上記で加速度Aについて説明したのと同様に、例えば、分散、標準偏差、および変動係数のいずれかが用いられる。
第1の時間期間での単位時間当たりの拍数のばらつき>第2の時間期間での単位時間当たりの拍数のばらつき・・・(c4)(以下、条件式(c4)とも称され得る。)
が満足される場合、妊娠した四肢動物が例えば陣痛等を伴っていることが推測され、四肢動物の分娩が近づいていることが推測される。あるいは、四肢動物の体調が悪化している、四肢動物に投薬の影響が強く出ていることが推測される。ST32の動作では、例えば、条件式(c4)が満足されているか否かが判定されてもよい。
【0108】
(i5)HF、(i6)LF/HF
第1の時間期間のHF>第2の時間期間のHF・・・(c5)(以下、条件式(c5)とも称され得る。)、
第1の時間期間のLF/HF<第2の時間期間のLF/HF・・・(c6)(以下、条件式(c6)とも称され得る。)
が満足される場合、副交感神経活動が低下していること、および/または、交感神経活動が優勢になっていることにより、四肢動物の分娩が近づいていることが推測される。あるいは、四肢動物の体調が悪化している、四肢動物に投薬の影響が強く出ていることが推測される。ST32の動作では、例えば、条件式(c5)と条件式(c6)との少なくとも一方が満足されているか否かが判定されるが、条件式(c5)と条件式(c6)の一方だけではなく両方が満足されているか否かが判定されることが好ましい。
【0109】
HFは、呼吸からもたらされる副交感神経活動の指標とみなされてもよく、LFは、交感神経活動および副交感神経活動の指標とみなされてもよく、LF/HFは、交感神経活動の指標とみなされてもよい。HF、および/または、LF/HFを指標とすると、四肢動物がリラックスしているか、外因(例えば四肢動物が活動している環境、妊娠した四肢動物以外の生物(例えば人間))または内因(例えば分娩に関連する活動)の影響を受けて四肢動物がリラックスしていないかを推測することができる。
【0110】
HFおよびLFの詳細を次に説明する。
HFおよびLFは各々、例えば、RRIを周波数解析してパワースペクトルを計算し、所定の周波数領域のパワーを積分して求めることができる。LFは、拍動間隔を周波数スペクトル変換することにより取得されるパワースペクトルを周波数Lf1からLf2まで定積分した値であり、HFは、当該パワースペクトルを周波数Hf1からHf2まで定積分した値であり、Hf1>Lf1、Hf2>Lf2である。
【0111】
図8は、LFおよびHFの算出方法の一例を説明するためのグラフを示す。当該グラフにおいて、縦軸はパワースペクトル密度(単位:ms/Hz)の大きさを示し、横軸は周波数(単位:Hz)の大きさを示す。LFは、パワースペクトルF2を例えば0.04Hz(Lf1)から0.15Hz(Lf2)まで定積分した値であり、図8のグラフにおいて斜線によりハッチングがされている部分の面積である。HFは、パワースペクトルF2を例えば0.15Hz(Hf1)から0.40Hz(Hf2)まで定積分した値であり、図8のグラフにおいて縦線によりハッチングがされている部分の面積である。図8では、Lf2とHf1がいずれも0.15Hzと等しくなるように積分範囲を設定する場合の例を示したが、積分範囲は上記範囲に限定されない。
【0112】
f1<Hf1およびLf2<Hf2の関係を満たしていることが好ましく、さらにHf1≧Lf2の関係を満たしていることがより好ましい。またLFの積分範囲が0.0133~0.30Hzであり、且つHFの積分範囲が0.30~0.80Hzであってもよい。
LFの積分範囲は、少なくとも0.10Hzを含み、Lf1<0.10<Lf2であることが好ましい。Lf1は0.01~0.09Hzであることが好ましく、0.01~0.05Hzであることがより好ましい。Lf2は0.11~0.34Hzであることがより好ましい。HFの積分範囲は、少なくとも0.35Hzを含み、Hf1<0.35<Hf2であることが好ましい。Hf1は0.10~0.34Hzであることがより好ましい。Hf2は0.36~0.90Hzであることが好ましく、0.38~0.90Hzであることがより好ましい。
以上のLF、HFの算出に当たっては、国際公開第2016/031650号等を参照することができる。
【0113】
四肢動物が牛である場合、条件式(c5)の関係に加えて次の関係が満たされることにより、条件式(c5)を用いて四肢動物の状態を上述のように推測する精度が向上され得る。
第1の時間期間のHFが1000超、第2の時間期間のHFが1000以下であることが好ましく、第1の時間期間のHFが3000超、第2の時間期間のHFが3000以下であることがより好ましく、第1の時間期間のHFが5000超、第2の時間期間のHFが5000以下であることがさらに好ましい。これらの数値範囲でのHFの単位はmsである。
【0114】
四肢動物が牛である場合、条件式(c6)の関係に加えて次の関係が満たされることにより、条件式(c6)を用いて四肢動物の状態を上述のように推測する精度が向上され得る。
第1の時間期間のLF/HFが75以下、第2の時間期間のLF/HFが75超であることが好ましく、第1の時間期間のLF/HFが50以下、第2の時間期間のLF/HFが50超であることがより好ましく、第1の時間期間のLF/HFが25以下、第2の時間期間のLF/HFが25超であることがさらに好ましい。
【0115】
(i7)加速度、(i8)角速度
加速度は、上述した加速度Aであることが好ましい。加速度は、上述した加速度Aの平均であることがより好ましい。
角速度は、加速度データについて説明したのと同様に、例えば、加速度計等を含む計測装置2により計測できるか、計測装置2によって計測されるデータに基づいて算出可能な、四肢動物に係る角速度である。特定される時間期間内で角速度の値が複数計測または算出される場合、上記角速度は、計測または算出される角速度の値の平均であることがより好ましい。
第1の時間期間における加速度<第2の時間期間における加速度・・・(c7)(以下、条件式(c7)とも称され得る。)、
第1の時間期間における角速度<第2の時間期間における角速度・・・(c8)(以下、条件式(c8)とも称され得る。)
が満足される場合、四肢動物の活動量が増えており、四肢動物の分娩が近づいていることが推測される。あるいは、四肢動物の体調が悪化している、四肢動物に投薬の影響が強く出ていることが推測される。ST32の動作では、例えば、条件式(c7)と条件式(c8)との少なくとも一方が満足されているか否かが判定されるが、条件式(c7)と条件式(c8)の一方だけではなく両方が満足されているか否かが判定されることが好ましい。
【0116】
(i9)単位時間当たりの呼吸数
単位時間当たりの呼吸数は、1分当たりの呼吸回数として表されてもよい。呼吸数は、心電図およびパルスオキシメータ等を用いて計測すればよく、呼吸に伴う胸腹部の変位を計測するセンサを用いて計測されてもよい。
第1の時間期間での単位時間当たりの呼吸数<第2の時間期間での単位時間当たりの呼吸数・・・(c9)(以下、条件式(c9)とも称され得る。)
が満足される場合、四肢動物の呼吸が荒くなっており、四肢動物の分娩が近づいていることが推測される。あるいは、四肢動物の体調が悪化している、四肢動物に投薬の影響が強く出ていることが推測される。ST32の動作では、例えば、条件式(c9)が満足されているか否かが判定される。
【0117】
四肢動物が牛である場合、条件式(c9)の関係に加えて次の関係が満たされることにより、条件式(c9)を用いて四肢動物の状態を上述のように推測する精度が向上され得る。
上記単位時間が1分間である場合、第1の時間期間での単位時間当たりの呼吸数が35以下、第2の時間期間での単位時間当たりの呼吸数が35超であることが好ましく、第1の時間期間での単位時間当たりの呼吸数が38以下、第2の時間期間での単位時間当たりの呼吸数が38超であることがより好ましく、第1の時間期間での単位時間当たりの呼吸数が41以下、第2の時間期間での単位時間当たりの呼吸数が41超であることがさらに好ましい。
【0118】
(i10)外陰部間の距離
外陰部間の距離は、電磁誘導、赤外線、超音波等を用いて測定できるものであればよく、外陰部の一方および他方に各種の受信器および発振器を配置することにより、外陰部が開いたことを検知する方法を採用すればよい。受信器および発振器はそれぞれ、2つ以上を使用してもよい。なかでも、電磁誘導を用いた外陰部間の距離測定は、分娩直前に取り付けることが望ましく、継続的に取り付けて測定する場合には四肢動物の活動に伴い誤作動する虞があり、外陰部が開口すると作動しなくなることから、赤外線、超音波を使用して、外陰部間の距離を測定することが好ましい。特定される時間期間内で外陰部間の距離の値が複数測定される場合、上記外陰部間の距離は、測定される外陰部間の距離の値の平均であることがより好ましい。
第1の時間期間における外陰部間の距離<第2の時間期間における外陰部間の距離・・・(c10)(以下、条件式(c10)とも称され得る。)
が満足される場合、産道から胎児が出てきて外陰部が開口したことを意味し、四肢動物の分娩が開始したことが推測される。ST32の動作では、例えば、条件式(c10)が満足されているか否かが判定される。
【0119】
四肢動物が牛である場合、条件式(c10)の関係に加えて次の関係が満たされることにより、条件式(c10)を用いて四肢動物の状態を上述のように推測する精度が向上され得る。
第1の時間期間における外陰部間の距離が10cm以下であり、第2の時間期間における外陰部間の距離が10cm超であることが好ましく、第1の時間期間における外陰部間の距離が11cm以下であり、第2の時間期間における外陰部間の距離が11cm超であることよりが好ましく、第1の時間期間における外陰部間の距離が12cm以下であり、第2の時間期間における外陰部間の距離が12cm超であることがさらに好ましい。
【0120】
(i11)体表温度
体表温度は、鼓膜温度であることが好ましい。体表温度の測定に用いられる温度計は、金属酸化物、半導体のサーミスタからなる熱型赤外センサであってもよく、例えば、温度に応じて電気抵抗が変化することを利用するものである。特定される時間期間内で体表温度の値が複数測定される場合、上記体表温度は、測定される体表温度の値の平均であることがより好ましい。
第1の時間期間における体表温度>第2の時間期間における体表温度・・・(c11)(以下、条件式(c11)とも称され得る。)
が満足される場合、四肢動物の体表温度が低下して、四肢動物の分娩が近づいていることが推測される。あるいは、四肢動物の体調が悪化している、四肢動物に投薬の影響が強く出ていることが推測される。ST32の動作では、例えば、条件式(c11)が満足されているか否かが判定される。
【0121】
四肢動物が牛である場合、条件式(c11)の関係に加えて次の関係が満たされることにより、条件式(c11)を用いて四肢動物の状態を上述のように推測する精度が向上され得る。
第2の時間期間における体表温度が、第1の時間期間における体表温度よりも0.3~1.0℃低いことが好ましく、0.5~1.0℃低いことがより好ましい。
【0122】
(i12)膣内温度
特定される時間期間内で膣内温度の値が複数測定される場合、上記膣内温度は、測定される膣内温度の値の平均であることがより好ましい。
第1の時間期間における膣内温度>第2の時間期間における膣内温度・・・(c12)(以下、条件式(c12)とも称され得る。)
が満足される場合、四肢動物の膣内温度が低下して、四肢動物の分娩が近づいていることが推測される。ST32の動作では、例えば、条件式(c12)が満足されているか否かが判定される。
【0123】
四肢動物が牛である場合、条件式(c12)の関係に加えて次の関係が満たされることにより、条件式(c12)を用いて四肢動物の状態を上述のように推測する精度が向上され得る。
第2の時間期間における膣内温度が、第1の時間期間における膣内温度よりも0.3~1.0℃低いことが好ましく、0.4~1.0℃低いことがより好ましい。
【0124】
条件式(c1)~(c6)のうちの少なくとも1つが満足されることが好ましく、条件式(c1)~(c6)の2以上が満足されることがより好ましく、条件式(c1)~(c6)の4以上が満足されることがさらに好ましく、条件式(c1)~(c6)の全てが満足されることが最も好ましい。
【0125】
また、条件式(c1)~(c10)のうちの少なくとも1つが満足されることが好ましく、条件式(c1)~(c10)の2以上が満足されることがより好ましく、条件式(c1)~(c10)の4以上が満足されることがより好ましく、条件式(c1)~(c10)の6以上が満足されることがさらに好ましく、条件式(c1)~(c10)の8以上が満足されることがさらにより好ましく、条件式(c1)~(c10)の全てが満足されることが最も好ましい。
【0126】
また、条件式(c1)~(c12)のうちの少なくとも1つが満足されることが好ましく、条件式(c1)~(c12)の2以上が満足されることがより好ましく、条件式(c1)~(c12)の4以上が満足されることがより好ましく、条件式(c1)~(c12)の6以上が満足されることがさらに好ましく、条件式(c1)~(c12)の8以上が満足されることがさらにより好ましく、条件式(c1)~(c12)の10以上が満足されることが特に好ましく、条件式(c1)~(c12)の全てが満足されることが最も好ましい。
【0127】
四肢動物が牛または犬である場合、ST32の動作では、条件式(c2)と(c9)との少なくとも一方が用いられることが好ましく、条件式(c2)が用いられることがより好ましい。
【0128】
条件式(c1)、(c3)~(c8)のうちの少なくとも1つが満足されることが好ましく、条件式(c1)、(c3)~(c8)の2以上が満足されることがより好ましく、条件式(c1)、(c3)~(c8)の4以上が満足されることがさらに好ましく、条件式(c1)、(c3)~(c8)の全てが満足されることがさらにより好ましい。
【0129】
条件式(c2)、(c3)、および(c12)のうちの少なくとも1つが満足されることが好ましく、条件式(c2)、(c3)、および(c12)の2以上が満足されることがより好ましく、条件式(c2)および(c3)が満足されること、条件式(c2)および(c12)が満足されること、条件式(c3)および(c12)が満足されることがより好ましく、条件式(c2)、(c3)および(c12)が満足されることがさらに好ましい。
【0130】
上述したST32の動作では、例えば、条件式(c1)~(c12)のうちの少なくとも1つが満足されるか否かが判定され、当該少なくとも1つの条件式が満足されると判定された場合に、ST33の動作において、通知信号が生成され、当該通知信号が出力装置3に出力されてもよい。一方、上述したST32の動作において、上記で条件式(c1)~(c12)のうち満足されていることが好ましいと説明した組み合わせの任意のものに係る条件式がすべて満足されているか否かが判定され、満足されていると判定された場合に、ST33の動作において、通知信号が生成され、当該通知信号が出力装置3に出力されてもよい。このようにして、出力装置3において、例えば、妊娠している四肢動物の分娩接近、分娩開始等を知らせる警告等に係る音声出力、振動、および/または画面表示等の出力が可能となる、あるいは、四肢動物が健康異常であること、四肢動物に投薬の影響があることに係る、上述したような出力が可能となる。
【0131】
以上、生体信号処理装置1の動作例を詳細に説明したが、上記で説明した動作フローは一例に過ぎない。
例えば、生体信号処理装置1の制御部11は、時間期間特定部112による制御の下、加速度Aの値のばらつきの度合いを示す値が或る閾値以下の第3の時間期間を特定してもよい。第3の時間期間の始点は、例えば第2の時間期間の終点以降である。第2の時間期間と第3の時間期間は、連続していても連続していなくてもよい。第3の時間期間は、例えば5分以上、5時間以下、好ましくは10分以上、4時間以下、より好ましくは20分以上、3時間以下、さらに好ましくは30分以上、2時間以下である。第3の時間期間は、難産となる場合に設けられることが好ましく、陣痛開始後~胎児摘出までの期間であってもよい。第3の時間期間の特定に用いる閾値については、ST02の動作の説明において行った閾値についての説明が成り立つ。当該閾値は、第1の閾値および第2の閾値のいずれとも異なっていてもよく、第1の閾値および第2の閾値の少なくとも一方と同一であってもよい。
続いて、ST31の動作について説明したのと同様に、制御部11は、生体信号処理部113による制御の下、第3の時間期間における生体信号を処理してもよい。当該生体信号の処理では、例えば、前述した指標(i1)~(i12)のうちの少なくとも1つが算出される。指標(i1)~(i6)のうちの少なくとも1つが算出されてもよい。
第3時間期間についてのかかる指標をモニタリングしながら、異常な数値が発見されれば、四肢動物の母体および胎児に適切な処置を施すことが可能となる。
【0132】
(効果)
第1実施形態に係る生体信号処理装置1は、四肢動物の生体信号と、当該四肢動物の動きに伴う加速度Aとを取得し、加速度Aの値のばらつきの度合いを示す値が第1の閾値以下の第1の時間期間を特定する。加速度Aの値は、例えば、互いに交わるX軸、Y軸、およびZ軸それぞれの方向の加速度x、y、およびzのベクトル和の大きさに対応する。このように特定される第1の時間期間では、例えば、当該四肢動物が臥位であると推測される。
【0133】
例えば、人が立位の時に上下である方向の加速度を計測するようにすると、人が立位および座位の場合と比較して、人が臥位の場合に当該加速度の大きさは小さい。このため、当該加速度の大きさのみに基づいて人が臥位であることを推測することが可能である。一方、四肢動物が立位の場合と臥位の場合での姿勢の変化は人の場合と大きく異なるため、同様の方法で四肢動物が臥位であることを推測することは困難である。このため、四肢動物の姿勢の推測には、加速度として、例えば、互いに交わるX軸、Y軸、およびZ軸それぞれの方向の加速度x、y、およびzのベクトル和の大きさを用いることが好ましい。
【0134】
ここで、四肢動物が臥位となるときには、身体の左側を下にして臥位になる場合と、身体の右側を下にして臥位になる場合とがある。このような2種類の臥位の間では、上記加速度が異なる大きさで安定することがある。安定する大きさのうちの少なくとも一方が、四肢動物が立位の場合の加速度の大きさより大きいことがある。このため、上記加速度の大きさのみに基づいて四肢動物が臥位であることを推測することは困難である。一方、生体信号処理装置1によれば、加速度Aの値のばらつきの度合いを示す値が第1の閾値以下の第1の時間期間が特定される。四肢動物が上述した2種類の臥位のいずれであっても、加速度Aの値のばらつきの度合いを示す値は、四肢動物が立位の場合の加速度Aの値のばらつきの度合いを示す値より小さいことが考えられる。このため、このように特定される第1の時間期間では、四肢動物が臥位であると推測される精度が向上される。
上記では、横臥位(側臥位)を例に挙げて説明を行ったが、四肢動物の種類によっては、四肢動物は、例えば、背中を下とする仰臥位(背臥位)、および、腹を下とする伏臥位(腹臥位)の姿勢も取り得る。これらの臥位の場合も、上記加速度が他の臥位の場合とは異なる大きさで安定することがあるが、上述したのと同様に、加速度Aの値のばらつきの度合いを示す値は、立位の場合より小さいことが考えられる。このため、四肢動物が取り得る臥位の種類によらず、上述した効果が奏され得る。
【0135】
生体信号処理装置1は、上記生体信号のうちの上記第1の時間期間における生体信号に基づいて出力を行う。これにより、四肢動物の動作および姿勢が当該四肢動物の生体信号に影響を及ぼしてしまうような時間期間の生体信号を排除して、四肢動物が臥位であると推測される時間期間での当該四肢動物の生体信号に基づく出力が行われることになる。
【0136】
生体信号処理装置1は、例えば、上記第1の時間期間より後の、上記ばらつきの度合いを示す値が第2の閾値以下の第2の時間期間を特定する。生体信号処理装置1は、例えば、第1の時間期間における生体信号の処理の結果と、第2の時間期間における生体信号の処理の結果とに基づいて、或る条件式が満足されるか否かを判定する。条件式が満足されるか否かには、例えば、四肢動物が健康異常であること、四肢動物に分娩の予兆があること、四肢動物に投薬の影響があることが反映され得る。生体信号処理装置1は、上記判定結果に基づいて通知信号を生成し、上記出力として、当該通知信号を出力装置3に出力する。これにより、出力装置3において、例えば、四肢動物が健康異常であること、四肢動物に分娩の予兆があること、四肢動物に投薬の影響があること等に係る、音声出力、振動、および/または画面表示等の出力が可能となる。
【実施例0137】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0138】
先ず、以下の四肢動物の生体信号計測用衣類(ベルト)を作製した。
当該衣類は、四肢動物の胴体周りに配置される帯状本体部と、帯状本体部の肌側の面に形成された電極とを有し、帯状本体部は、電極形成領域において帯状本体部1cm2当たりに対して帯状本体部の厚み方向に5kgの荷重をかけたときに、厚みが10mm以上小さくなる発泡体(荷重をかけない時の厚み11~50mm、平均摩擦係数MIU0.40以上の摩擦部を有する)を有していた。
【0139】
次に、当該ベルト状の生体信号計測用衣類を、妊娠している黒毛和種の牛に装着させた。上記ベルトには、小型心拍計myBeat(登録商標)(ユニオンツール株式会社製)が装着されており、分娩予定牛の平均心拍数(上述した単位時間当たりの拍数に相当)と加速度を計測した。
【0140】
具体的には、分娩予定日の30日前の加速度の値のばらつきの標準偏差が0.03以下となった時点を第1時間期間の始点、当該始点から15分後を第1時間期間の終点とする、加速度の値のばらつきの標準偏差が0.03以下である第1の時間期間を特定した。ここでも加速度として上述した無次元量の値を用いた。第1の時間期間では、上記生体信号計測用衣類を装着させた牛が、身体の左側を下とする臥位だったことが確認できた。第1の時間期間における平均心拍数を算出したところ、平均心拍数が82bpmであった。
【0141】
上記第1の時間期間の終点の30日後、加速度の値のばらつきの標準偏差が0.03以下となった時点を第2の時間期間の始点、当該始点から10分後を第2の時間期間の終点とする、加速度の値のばらつきの標準偏差が0.03以下である第2の時間期間を特定した。第2の時間期間では、上記牛が、身体の右側を下側とする臥位だったことが確認できた。第2の時間期間における平均心拍数を算出したところ、平均心拍数が91bpmであった。この時、分娩の兆候がみられると推測し、監視を始めた結果、24時間以内に分娩が始まり安全な出産に至った。これにより、条件式(c2)の有用性が確認された。
【0142】
[第1変形例]
上記第1の実施形態では、加速度のばらつきの度合いを示す値が閾値以下の時間期間が特定されるものとして説明した。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。
上記で説明した条件に加え、加速度および/または角速度の値が別の閾値以下である条件を満たす時間期間が特定されるようにしてもよい。当該加速度としては、上述した加速度Aが用いられることが好ましい。これにより、四肢動物が臥位である時間期間が特定される精度が向上され得る。
【0143】
[第2変形例]
上述したように、身体の左側を下とする臥位と、身体の右側を下とする臥位とのような、異なる姿勢での臥位の間では、加速度が異なる値で安定することがある。例えば、第2の時間期間として、第1の時間期間の間と同じ姿勢での臥位に四肢動物があると推測される時間期間が特定されてもよい。これは、上記で説明した条件に加え、例えば、第2の時間期間の候補の時間期間での加速度と第1の時間期間での加速度との比較に基づいて実現され得る。例えば、第1の時間期間での加速度の平均値と、上記候補の時間期間での加速度の平均値との差が、或る範囲内にある場合に、当該候補の時間期間を第2の時間期間として特定してもよい。当該範囲は、例えば、複数種の臥位それぞれで安定する加速度に基づいて予め設定され得る。これにより、四肢動物が同じ姿勢での臥位にあると推測される、近い条件の2つの時間期間について、条件式が満足されるか否かが判定されることとなる。このため、条件式を用いることによる、四肢動物が健康異常であること、四肢動物に分娩の予兆があること、または四肢動物に投薬の影響があることの推測の精度が向上され得る。
【0144】
以上、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる
実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0145】
1…生体信号処理装置、11…制御部、111…取得部、112…時間期間特定部、1121…第1時間期間特定部、1122…第2時間期間特定部、113…生体信号処理部、1131…判定部、114…出力部、12…プログラム記憶部、13…データ記憶部、131…加速度データ記憶部、132…生体信号記憶部、133…時間期間記憶部、134…生体信号処理結果記憶部、14…入出力インタフェース、2…計測装置、3…出力装置、SYS…生体信号処理システム、NW…通信ネットワーク、BUS…バス。
図1
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