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特開2024-165468乾燥イオン交換樹脂製造充填設備および乾燥イオン交換樹脂の充填方法
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  • 特開-乾燥イオン交換樹脂製造充填設備および乾燥イオン交換樹脂の充填方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165468
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】乾燥イオン交換樹脂製造充填設備および乾燥イオン交換樹脂の充填方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 47/00 20170101AFI20241121BHJP
   B01J 39/18 20170101ALI20241121BHJP
   B01J 41/12 20170101ALI20241121BHJP
   B01J 45/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B01J47/00
B01J39/18
B01J41/12
B01J45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081696
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】似内 夕佳里
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智子
(57)【要約】
【課題】乾燥樹脂の充填作業における大気から乾燥樹脂への水分吸着を抑制することができ、かつ、大規模スケールで行う作業にも適用可能な乾燥樹脂の充填方法を実施することができる乾燥イオン交換樹脂製造充填設備を提供する。
【解決手段】イオン交換樹脂を乾燥して、含水率が低減された乾燥イオン交換樹脂を得るための乾燥設備と、前記乾燥イオン交換樹脂を容器に充填する充填作業を行うための充填設備および前記充填作業を行う環境における静電気を除去するための静電気除去設備を備える充填エリアと、を有する乾燥イオン交換樹脂製造充填設備。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換樹脂を乾燥して、含水率が低減された乾燥イオン交換樹脂を得るための乾燥設備と、
前記乾燥イオン交換樹脂を容器に充填する充填作業を行うための充填設備および前記充填作業を行う環境における静電気を除去するための静電気除去設備を備える充填エリアと、
を有する乾燥イオン交換樹脂製造充填設備。
【請求項2】
前記充填エリア内の湿度が45%以下、かつ温度が30℃以下である、請求項1に記載の乾燥イオン交換樹脂製造充填設備。
【請求項3】
前記容器に充填された乾燥イオン交換樹脂の含水率が15%以下である、請求項1に記載の乾燥イオン交換樹脂製造充填設備。
【請求項4】
前記イオン交換樹脂が、弱塩基性アニオン交換樹脂、カチオン交換樹脂およびキレート樹脂からなる群より選択される、請求項1に記載の乾燥イオン交換樹脂製造充填設備。
【請求項5】
前記乾燥設備が前記充填エリア内に設けられている、請求項1~4のいずれか一項に記載の乾燥イオン交換樹脂製造充填設備。
【請求項6】
乾燥設備を用いてイオン交換樹脂を乾燥して、含水率が低減された乾燥イオン交換樹脂を得る乾燥工程と、
充填エリアにおいて、前記乾燥イオン交換樹脂を容器に充填する充填作業を行う充填工程と、
を有する、乾燥イオン交換樹脂の充填方法であって、
前記充填エリア内の湿度が45%以下、かつ温度が30℃以下であることを特徴とする、乾燥イオン交換樹脂の充填方法。
【請求項7】
前記充填エリアにおいて、静電気除去設備を用いて前記充填作業を行う環境における静電気を除去する静電気除去工程をさらに有する、請求項6に記載の乾燥イオン交換樹脂の充填方法。
【請求項8】
前記充填作業が、前記乾燥イオン交換樹脂を前記乾燥設備から抜き出した後、1時間以内に完了する、請求項6に記載の乾燥イオン交換樹脂の充填方法。
【請求項9】
前記充填工程において前記容器に充填された乾燥イオン交換樹脂の含水率が15%以下である、請求項6に記載の乾燥イオン交換樹脂の充填方法。
【請求項10】
前記イオン交換樹脂が、弱塩基性アニオン交換樹脂、カチオン交換樹脂およびキレート樹脂からなる群より選択される、請求項6~9のいずれか一項に記載の乾燥イオン交換樹脂の充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥イオン交換樹脂製造充填設備および乾燥イオン交換樹脂の充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥イオン交換樹脂の調製においては、乾燥設備において含水率を低減した乾燥イオン交換樹脂(以下、「乾燥樹脂」ともいう)を、前記乾燥設備から抜き出し、保管容器へ移送し、充填する作業を行う間に、大気からの水分の吸着(吸湿)によって樹脂の含水率が上昇するという課題があった。特に、季節や天気の影響等により、上記作業を行う工場内の湿度や温度が上昇する場合は、乾燥樹脂と接触する大気中の水分濃度が高くなり、乾燥樹脂が水分を吸着しやすくなる。一方で、乾燥樹脂は静電気により帯電しやすく、その影響により、樹脂の周囲への飛散や、樹脂への金属、微粒子、およびほこり等の混入が起こりやすいという課題があった。そのため、乾燥樹脂を充填する作業や含水率の測定を行う環境における水分汚染を抑制する方法や、前記環境における静電気の影響を軽減する方法が必要とされている。
【0003】
特許文献1には、乾燥状態のイオン交換樹脂をカートリッジ容器に移す工程における金属や微粒子等の付着による樹脂の汚染を防止するため、カートリッジ容器に充填したイオン交換樹脂を、前記カートリッジ容器ごと乾燥する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/123718号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法によれば、樹脂を予めカートリッジ容器に充填した後に乾燥を行うため、乾燥後の樹脂を容器へ充填する作業における汚染を回避することが可能である。しかしながら、特許文献1に記載の方法は、乾燥設備内に収容できるサイズの容器を用いることを前提とするものである。すなわち、特許文献1に記載の方法は、カートリッジサイズのような小規模スケールで行う作業を対象とする技術であり、数十kgレベルの大規模スケールで行う作業を想定した技術ではない。
【0006】
したがって、本発明は、乾燥樹脂の充填作業における大気から乾燥樹脂への水分吸着を抑制することができ、かつ、大規模スケールで行う作業にも適用可能な乾燥樹脂の充填方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記乾燥樹脂の充填方法を実施することができる乾燥イオン交換樹脂製造充填設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、イオン交換樹脂を乾燥して、含水率が低減された乾燥イオン交換樹脂を得るための乾燥設備と、前記乾燥イオン交換樹脂を容器に充填する充填作業を行うための充填設備および前記充填作業を行う環境における静電気を除去するための静電気除去設備を備える充填エリアと、を有する乾燥イオン交換樹脂製造充填設備である。
【0008】
また本発明は、乾燥設備を用いてイオン交換樹脂を乾燥して、含水率が低減された乾燥イオン交換樹脂を得る乾燥工程と、充填エリアにおいて、前記乾燥イオン交換樹脂を容器に充填する充填作業を行う充填工程と、を有する、乾燥イオン交換樹脂の充填方法であって、前記充填エリア内の湿度が45%以下、かつ温度が30℃以下であることを特徴とする乾燥イオン交換樹脂の充填方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乾燥樹脂の充填作業における大気から乾燥樹脂への水分吸着を抑制することができ、かつ、大規模スケールで行う作業にも適用可能な乾燥樹脂の充填方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記乾燥樹脂の充填方法を実施することが可能な乾燥イオン交換樹脂製造充填設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一態様に係る乾燥イオン交換樹脂製造充填設備および乾燥イオン交換樹脂の充填方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<乾燥イオン交換樹脂製造充填設備>
図1を参照して、本発明の一態様に係る乾燥イオン交換樹脂製造充填設備について説明する。本発明の一態様に係る乾燥イオン交換樹脂製造充填設備は、乾燥前(含水率低減前)の湿潤状態のイオン交換樹脂(以下、「湿潤樹脂」ともいう)を乾燥して、含水率が低減された乾燥イオン交換樹脂を得るための乾燥設備と、前記乾燥イオン交換樹脂を容器に充填する充填作業を行うための充填設備と、を備える。該乾燥イオン交換樹脂製造充填設備は、さらに前記充填作業を行う環境における静電気を除去するための静電気除去設備を備えることが好ましく、少なくとも充填設備と静電気除去設備とが、充填エリア内に設けられていることが好ましい。本発明の一態様に係る乾燥イオン交換樹脂製造充填設備は、さらに、容器に充填した乾燥イオン交換樹脂の含水率を分析するための分析設備を有していてもよい。なお、図1は、乾燥設備が、充填設備および静電気除去設備と共に、充填エリア内に設けられている乾燥イオン交換樹脂製造充填設備の例を示すものであるが、後述するように、乾燥設備は、充填エリアとは異なる場所に設けられていてもよい。以下、本発明に係る乾燥イオン交換樹脂製造充填設備について詳細に説明する。
【0012】
[乾燥設備]
乾燥設備は、具体的には、イオン交換樹脂を乾燥するための乾燥機である。原料となる湿潤状態のイオン交換樹脂を乾燥機内で乾燥させることにより、含水率が低減された乾燥樹脂を得ることができる。なお、乾燥樹脂の原料である湿潤樹脂は、含水率(質量基準)が30%~75%のイオン交換樹脂である。
【0013】
(イオン交換樹脂)
本発明において、イオン交換樹脂は特に限定されるものではなく、公知のカチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂およびキレート樹脂からなる群より選択される1つ以上の樹脂を用いることができる。カチオン交換樹脂は、強酸性カチオン交換樹脂であってもよく、弱酸性カチオン交換樹脂であってもよい。また、アニオン交換樹脂は、強塩基性アニオン交換樹脂であってもよく、弱塩基性アニオン交換樹脂であってもよい。イオン交換樹脂の母体は、樹脂の有する細孔の径が小さく透明なゲル型および細孔の径が大きいマクロポアを有するマクロリテキュラー型(MR型)またはマクロポーラス型(ポーラス型、ハイポーラス型とも呼ばれる)のいずれであってもよいが、乾燥による膨潤収縮に強いマクロポーラス型が好ましい。
【0014】
上記イオン交換樹脂の中でも、特に強塩基性アニオン交換樹脂は熱に弱く、含水率を過度に低減すると官能基が脱離する場合がある。そのため、本発明において用いるイオン交換樹脂としては、弱塩基性アニオン交換樹脂、カチオン交換樹脂およびキレート樹脂からなる群より選択される樹脂が好適である。一方で、カチオン交換樹脂は耐熱性が高く、より低含水率となるまで乾燥することが可能であるが、その分、静電気を帯びやすい。そのため、カチオン交換樹脂は、本発明におけるイオン交換樹脂として用いた場合に、本発明の効果をより発揮しやすい樹脂である。
【0015】
(乾燥方法)
乾燥設備を用いた湿潤樹脂の乾燥方法は特に限定されず、加熱乾燥する方法、減圧乾燥する方法、不活性ガスや空気を用いて乾燥する方法、および急速冷凍後に真空乾燥する方法等を挙げることができる。これらの乾燥方法のうちの2つ以上を組み合わせてもよい。乾燥を経て得られる乾燥樹脂の含水率(質量基準)は、通常30%未満であり、25%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。なお、本発明において、イオン交換樹脂の含水率(質量基準)は、例えば、加熱乾燥式水分計(商品名:MX-50、(株)エー・アンド・デイ製)を用いて測定することができる。
【0016】
加熱下で乾燥を行う場合、加熱温度は、イオン交換樹脂の種類や量、目的の含水率等に応じて、適宜設定可能であり、例えば、30℃~120℃とすることができる。ただし、上述のように、アニオン交換樹脂(特に強塩基性アニオン交換樹脂)は熱に弱く、高い温度で乾燥すると劣化する場合がある。そのため、アニオン交換樹脂を用いる場合は、加熱温度を80℃以下とすることが好ましい。乾燥方法は、常圧乾燥または減圧乾燥が一般的であるが、低温での乾燥が可能な減圧乾燥が好ましい。乾燥時間は、適宜設定することができる。
【0017】
本発明に係る乾燥設備は限定されるものではなく、イオン交換樹脂を目的の含水率となるように乾燥することができる公知の乾燥機を、適宜選択して用いることができる。乾燥樹脂の充填作業における大気との接触を避ける観点からは、湿潤樹脂の充填口とは別に、充填口よりも開口部の狭い抜出口を有する乾燥設備が好適に用いられる。
【0018】
本発明において、乾燥設備は、後述する充填設備や静電気除去設備とともに、充填エリア内に備えられていてもよく、充填エリアとは異なる場所に設けられていてもよい。
【0019】
[充填エリア]
本発明に係る充填エリアは、少なくとも、乾燥イオン交換樹脂を容器に充填する充填作業を行うための充填設備を備え、好ましくは、前記充填作業を行う環境における静電気を除去するための静電気除去設備をさらに備える。上述のとおり、さらに前記乾燥設備が充填エリア内に設けられていてもよい。なお、充填エリアは、一般的な部屋、すなわち四方を壁で囲まれた充填室であってもよく、室内をパーテーションやカーテン等の仕切りにより仕切ってなるスペース(区画)であってもよい。
【0020】
充填エリア内の湿度および温度は、適宜設定することができる。ただし、乾燥樹脂への水分汚染を抑制する観点から、充填エリア内は、湿度が45%以下、かつ温度が30℃以下となるように調整することが好ましい。湿度および温度の調整は、空調機を用いて行うことができる。充填エリア内の湿度は、45%以下の範囲において、低いほど好ましいが、管理のしやすさを考慮すると、15%以上であることが好ましい。また、充填エリア内の温度は、30℃以下の範囲において、低いほど好ましいが、実際の作業環境を考慮すれば、通常、10℃以上である。
【0021】
本発明において、充填エリア内の湿度および温度は、充填作業を行う環境、例えば、充填エリア内の、少なくとも乾燥設備の周囲または乾燥樹脂を充填する容器の周囲を含む1箇所あるいは複数箇所における温度および湿度を、温度計および湿度計を用いてそれぞれ測定し、得られた温度および湿度を、必要に応じて平均して求めた値である。乾燥設備の周囲を含む箇所としては、例えば乾燥設備から水平方向に1m以内、50cm以内、30cm以内の箇所が挙げられる。また、乾燥樹脂を充填する容器の周囲を含む箇所としては、例えば該容器の設置箇所から水平方向に1m以内、50cm以内、30cm以内の箇所が挙げられる。
【0022】
なお、本発明においては、少なくとも充填エリア内が、湿度が45%以下、かつ温度が30℃以下の環境であることが好ましい。すなわち、例えば、充填エリアを含む乾燥イオン交換樹脂製造充填設備内全体の湿度が45%以下、かつ温度が30℃以下であってもよい。
【0023】
(充填設備)
充填設備は、乾燥設備における乾燥を経て得られる乾燥樹脂を容器に充填する充填作業を行うための設備である。充填設備は、具体的には、乾燥機から抜き出した乾燥樹脂を、乾燥樹脂充填用の容器(以下、「充填用容器」ともいう)に充填する作業を行うための設備である。本発明においては、少なくとも、乾燥機から抜き出した乾燥樹脂の充填用容器への充填作業は、充填エリアにおいて行われる。
【0024】
乾燥樹脂の充填は、例えば、以下のようにして行われる。乾燥設備を用いてイオン交換樹脂の乾燥を行った後、乾燥設備内の乾燥樹脂を充填用容器へ移送、充填する。複数の充填用容器に分けて乾燥樹脂を充填する場合、各充填用容器への充填を、順次、実施すればよい。乾燥設備内の乾燥樹脂を直接充填用容器へ充填する場合、前記乾燥設備も充填エリア内に設けられることとなる。
なお、乾燥樹脂を充填した後の充填用容器から、さらに別の充填用容器へ乾燥樹脂を充填してもよい。この場合においても、一連の充填作業は、湿度が45%以下、かつ温度が30℃以下の環境下で行われることが好ましい。
【0025】
乾燥樹脂を充填用容器に充填する充填作業を行う際に、大気が積極的に循環することを抑制する観点から、充填作業を行う環境における風速を抑えることが好ましい。具体的に、充填エリア内の風速は0.5m/秒以下であることが好ましい。なお、本明細書において、充填エリア内の風速は、充填作業を行う環境、具体的には、充填エリア内の1箇所以上、好ましくは複数箇所における風速を、風速計を用いてそれぞれ測定し、得られた風速を、必要に応じて平均して求めた値である。風速を抑える方法としては、少なくとも充填エリア内にて、吹出し口の面積が大きい空調機や吹出し口が布製である空調機のような、風速の小さい空調機を使用する方法や、パーテーションまたはカーテンなどを用いて充填作業を行うスペースを仕切ることにより、空調機からの風が直接当たらないようにする方法が挙げられる。
【0026】
また、空気清浄度が確保されているクリーンルーム内で充填作業を行うことにより、乾燥樹脂への水分以外の不純物の吸着を防ぐことができるため、乾燥樹脂の精製性能をより向上させることができる。すなわち、本発明において、乾燥樹脂の充填作業を行う充填エリアは、クリーンルーム内に設けられていてもよく、充填エリア自体がクリーンルームであってもよい。また、乾燥イオン交換樹脂製造充填設備全体がクリーンルーム内に設けられていてもよい。
【0027】
乾燥樹脂を充填するための充填用容器は、特に限定されるものではなく、公知の容器を適宜選択して用いることができる。充填用容器はプラスチック製であることが好ましく、具体的には、PP(ポリプロピレン)ボトル、PE(ポリエチレン)ボトル、HDPE(高密度ポリエチレン)ボトル等が用いられる。充填用容器は、袋状であってもよい。保管時における乾燥樹脂への水分吸着を抑制する観点から、充填用容器が袋状である場合は、2重構造以上の複層構造を有し、エアーバリア性の高い袋を用いることが好ましい。また、充填用容器がボトル状である場合は、蓋の密閉性が高く、エアーバリア性の高いボトルを用いることが好ましい。
【0028】
本発明において、充填作業は、前記乾燥樹脂を前記乾燥設備から抜き出した後、1時間以内に完了するように実施することが好ましい。乾燥樹脂の充填作業を1時間以内に完了させることにより、作業中の大気から乾燥樹脂への水分吸着をより抑制することができる。また、充填設備において充填用容器に充填された後の乾燥樹脂の含水率(質量基準)は、25%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0029】
(静電気除去設備)
上述のように、乾燥樹脂は静電気により帯電しやすく、乾燥樹脂をそのまま充填用容器に充填した場合、樹脂の周囲への飛散や、樹脂への不純物の混入が起こりやすい。そのため、充填エリア内における乾燥樹脂の充填作業中に、静電気除去設備を用いて、充填作業を行う環境の静電気を除去する操作を行うことが好ましい。この操作を行うことにより、乾燥樹脂の周囲への飛散を抑制し、乾燥樹脂の収率を向上させることができる。また、乾燥樹脂の充填作業における金属や微粒子、ほこり等の不純物の混入を抑制することができる。
【0030】
静電気除去設備は、具体的には、イオナイザー(除電器)である。イオナイザーは、少なくとも、充填作業中、乾燥樹脂が大気と接触する間、使用することが好ましい。充填作業中は、作業の開始から完了まで、イオナイザーを使用することがより好ましい。具体的な静電気除去方法として、以下の方法を挙げることができるが、イオナイザーの効果が得られる方法であればよく、以下の方法に限定されるものではない。乾燥樹脂を充填する前の充填用容器の充填口周囲または全体に、イオナイザーを通過した大気を接触させる方法。イオナイザーを通過した大気を接触させながら、充填用容器に乾燥樹脂を移送、充填する方法。これらの方法の2つ以上を組み合わせてもよい。なお、充填用容器に充填した乾燥樹脂を用いて精製処理を行うにあたり、充填用容器から試験容器に乾燥樹脂を移す際や、精製処理に使用されずに充填用容器内に残った少量の乾燥樹脂を、より小さな容器に小分けする際など、充填用容器内の乾燥樹脂を別の対象に移送する際にイオナイザーを使用することも好ましい。
【0031】
イオナイザーを通過した大気を接触させる範囲は、少なくとも、移送先である充填用容器全体または移送する乾燥樹脂自体を含むことが好ましい。もちろん、充填作業を行う環境全体にイオナイザーを通過した大気を接触させることが特に好ましい。一例として、移送前の乾燥樹脂が充填された乾燥機の開口部(例えば抜出口)または全体と、乾燥樹脂を移送する先の充填用容器の充填口または全体と、その他充填作業を行うスペース全体と、を含む範囲にイオナイザーを通過した大気を接触させてもよい。なお、イオナイザーを使用する際は、必ずアースに接続し、作業者も静電気防止ストラップを使うなどして安全に配慮して作業を行う。また、充填エリアが有機溶媒等を扱う環境である場合は、防爆除電器を使うことが好ましい。
【0032】
[乾燥樹脂の保管]
上記のように、乾燥樹脂を充填用容器に充填した後は、樹脂使用時まで適切な環境下にて保管する。保管時の環境は、湿度が好ましくは45%以下、より好ましくは15%~45%、かつ温度が好ましくは30°以下、より好ましくは10℃~30℃である。
【0033】
[分析設備]
充填用容器に充填した乾燥樹脂について、品質管理のために含水率の分析を行う場合、該分析は、分析設備にて行われる。すなわち、本発明に係る乾燥イオン交換樹脂製造充填設備は、充填用容器に充填した乾燥樹脂の含水率の分析を行う分析設備を有していてもよい。含水率の分析は、乾燥樹脂を充填用容器に充填した後すぐに実施してもよく、充填用容器にて保管後、乾燥樹脂を使用する際に実施してもよい。含水率の分析を行う分析設備内の湿度は、好ましくは45%以下、より好ましくは15%~45%であり、温度は好ましくは30°以下、より好ましくは10℃~30℃である。また、分析作業時間は合計1時間以内であることが好ましい。分析設備は、前記充填エリア内に設けられていてもよく、上記温湿度環境を有するクリーンルーム内に設けられていてもよい。
【0034】
上述のように、乾燥樹脂の含水率の分析を行う場合においても、該分析作業を行う環境における静電気を除去するために静電気除去設備(イオナイザー)を用いることが好ましい。その場合、少なくとも乾燥樹脂が充填された充填用容器の充填口を含む範囲、好ましくは、該範囲を含む分析作業を行うスペース全体にイオナイザーを通過した大気を接触させることにより、静電気の影響をより軽減し、乾燥樹脂の周囲への飛散を防ぐことができる。
【0035】
<乾燥イオン交換樹脂の充填方法>
図1に示すように、本発明に係る乾燥イオン交換樹脂の充填方法は、以下の工程を含む。乾燥設備を用いてイオン交換樹脂を乾燥して、含水率が低減された乾燥イオン交換樹脂を得る乾燥工程(S1)。充填エリアにおいて、前記乾燥イオン交換樹脂を容器に充填する充填作業を行う充填工程(S2)。本発明に係る乾燥イオン交換樹脂の充填方法は、さらに、以下の工程を有していてもよい。前記充填エリアにおいて、静電気除去設備を用いて前記充填作業を行う環境における静電気を除去する静電気除去工程(S3)。前記充填工程において容器に充填した乾燥樹脂の含水率の分析を行う分析工程(S4)。
【0036】
本発明に係る乾燥イオン交換樹脂の充填方法において、前記充填エリア内の湿度は45%以下、かつ温度は30℃以下に調整することが好ましい。また、前記充填作業は、前記乾燥イオン交換樹脂を前記乾燥設備から抜き出した後、1時間以内に完了するように実施することが好ましい。
【0037】
前記乾燥工程は、上述の乾燥イオン交換樹脂製造充填設備に係る乾燥設備において、湿潤状態のイオン交換樹脂の乾燥を行う工程であり、詳細な説明は省略する。また、前記充填工程は、上述の充填設備において、乾燥樹脂を容器に充填する充填作業を行う工程であり、詳細な説明は省略する。また、前記静電気除去工程は、上述の静電気除去設備において、前記充填作業を行う環境における静電気を除去する工程であり、詳細な説明は省略する。さらに、前記分析工程は、上述の分析設備において、充填用容器に充填した乾燥樹脂の含水率の分析を行う工程であり、詳細な説明は省略する。上記各工程を含め、本発明に係る乾燥イオン交換樹脂の充填方法については、上述の乾燥イオン交換樹脂製造充填設備に係る説明を参照することができる。
【実施例0038】
各種乾燥樹脂を、温度や湿度の異なる環境下に静置した場合における含水率(質量基準)の変化を確認するために、以下の試験を行った。なお、以下の試験において、乾燥樹脂の静置時間は、乾燥樹脂の充填作業にかかる時間に相当する。また、以下の試験で用いた樹脂は、いずれもマクロポーラス型の樹脂である。
【0039】
<キレート樹脂>
[実施例1~5]
湿潤状態のキレート樹脂(含水率:63%)を、充填エリア内に設置された真空乾燥機(商品名:VOS-451SD、東京理化器械(株)製)を用いて50℃で7時間以上乾燥することにより、乾燥樹脂を得た。得られた乾燥樹脂について、加熱乾燥式水分計(商品名:MX-50、(株)エー・アンド・デイ製)を用いて含水率を測定したところ、5%以下であった。
上記乾燥樹脂30gをバットに量りとり、温度および湿度を、それぞれ表1に示すように調整した環境下に前記バットを静置した。温度および湿度は、それぞれ温度計(商品名:デジタル温度・湿度計、リズム時計工業(株)製)および湿度計(商品名:WATCH LOGGER KT-255U、株式会社藤田電機製作所製)を用いて、前記バットの静置箇所から水平方向に30cm離れた作業台の上の1箇所における温度および湿度を測定した。そして、所定時間経過後における各乾燥樹脂の含水率を測定し、以下の基準により評価した。結果を表1に示す。なお、上記樹脂の乾燥から含水率の測定までの一連の作業を行う環境(充填エリア)における風速は0.5m/秒以下であった。風速は、ベーン式風速計(商品名:testo416、(株)testo製)を用いて、前記バットの静置箇所から水平方向に30cm離れた作業台の上と、該作業台から、さらに水平方向に約2m(前記バットから約2.3m)離れた地点の合計2箇所の風速を測定し、その平均値とした。
(評価基準)
○:乾燥直後の含水率からの含水率上昇が0.5%以下である。
△:乾燥直後の含水率からの含水率上昇が0.5%超えである。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、実施例1および実施例3においては、湿度45%以下、かつ温度30℃以下の環境下で、作業時間を1時間以内とすることにより、含水率の上昇を0.5%以下と低く抑えることができた。一方、実施例1と同じ環境下であっても、作業時間を3時間とした実施例2においては、含水率の上昇が0.5%超えとなった。同様に、温度または湿度が高い環境下で試験した実施例4および5では、作業時間が1時間であっても、含水率の上昇が0.5%を超えとなった。以上のように、乾燥キレート樹脂の充填作業において、作業環境の湿度、温度、および作業時間を調整することにより、含水率の上昇を抑制する効果が得られることが分かった。なお、含水率評価が「△」である実施例においても、充填作業後の乾燥樹脂の含水率は10%以下であり、乾燥樹脂としては許容範囲内であった。
【0042】
<カチオン交換樹脂>
[実施例6~9]
湿潤状態の強酸性カチオン交換樹脂(含水率:54%)を、上記真空乾燥機を用いて、80℃で20時間以上乾燥することにより、乾燥樹脂を得た。得られた乾燥樹脂について、実施例1と同様に含水率を測定したところ、3%以下であった。
上記乾燥樹脂30gをバットに測りとり、温度および湿度(測定方法は実施例1と同様)を、それぞれ表2に示すように調整した環境下に前記バットを静置した。そして、所定時間経過後における各乾燥樹脂の含水率を測定し、以下の基準により評価した。結果を表2に示す。なお、上記樹脂の乾燥から含水率の測定までの一連の作業を行う環境における風速は、実施例1と同様、0.5m/秒以下であった。
(評価基準)
○:乾燥直後の含水率からの含水率上昇が2%以下である。
△:乾燥直後の含水率からの含水率上昇が2%超えである。
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示すように、実施例6においては、湿度45%以下、かつ温度30℃以下の環境下で、作業時間を1時間以内とすることにより、含水率の上昇を2%以下に抑えることができた。一方、実施例6と同じ環境下であっても、作業時間を3時間とした実施例7においては、含水率の上昇が2%超えとなった。また、温度または湿度が高い環境下で試験した実施例8および9では、作業時間が1時間であっても、含水率の上昇が2%超えとなった。なお、含水率評価が「△」である実施例においても、充填作業後の乾燥樹脂の含水率は10%以下であり、乾燥樹脂としては許容範囲内であった。含水率が低い乾燥カチオン交換樹脂は、特に大気中の水分を吸湿しやすいため、他のイオン交換樹脂と比較して、充填作業中における含水率の変化が大きくなることが予想される。しかし、本発明によれば、そのような乾燥カチオン交換樹脂の充填作業においても、作業環境の湿度、温度、および作業時間を調整することにより含水率上昇を抑制する効果が得られることが分かった。
【0045】
<アニオン交換樹脂>
[実施例10~12]
湿潤状態の弱塩基性アニオン交換樹脂(含水率:63%)を、上記真空乾燥機を用いて80℃で7時間以上乾燥することにより、乾燥樹脂を得た。得られた乾燥樹脂について、実施例1と同様に含水率を測定したところ、10%以下であった。
上記乾燥樹脂30gをバットに測りとり、温度および湿度(測定方法は実施例1と同様)を、それぞれ表3に示すように調整した環境下に前記バットを静置した。そして、所定時間経過後における各乾燥樹脂の含水率を測定し、以下の基準により評価した。結果を表3に示す。なお、上記樹脂の乾燥から含水率の測定までの一連の作業を行う環境における風速は、実施例1と同様、0.5m/秒以下であった。
(評価基準)
○:乾燥直後の含水率からの含水率上昇が0.5%以下である。
△:乾燥直後の含水率からの含水率上昇が0.5%超えである。
【0046】
【表3】
【0047】
表3に示すように、アニオン交換樹脂を用いた場合には、高温高湿環境下に1時間静置しても、含水率の上昇は0.5%以下と低い結果であった(実施例11)。アニオン交換樹脂は、乾燥直後の含水率が、キレート樹脂やカチオン交換樹脂と比較して高いため、大気中の水分の吸湿の影響が少なかったものと考えている。なお、高温高湿環境下に3時間静置した実施例12では、含水率上昇が0.5%超えとなったものの、充填作業後の乾燥樹脂の含水率は10%以下であり、乾燥樹脂としては許容範囲内であった。
【0048】
次に、乾燥樹脂の充填作業を行う際にイオナイザーを使用した場合の効果を確認するため、以下の試験を行った。
【0049】
[実施例13、14および参考例1]
実施例1で調製した乾燥樹脂40gを、充填用袋(商品名:ラミジップLZ-14、(株)生産日本社製)に充填する際に、それぞれ表4に示す条件にて充填作業を行った。
この際、充填用袋よりも大きなバケツを用意して、該充填用袋を予め該バケツ内に入れた状態で充填作業を行った。そして、乾燥樹脂の充填作業が完了した後、充填用袋の外側に付着した樹脂を水洗によりバケツ内に捕集して回収した。回収した樹脂について、元の乾燥樹脂と同等の含水率となるまで乾燥した後、乾燥後の樹脂量を測定した。具体的には、以下の操作を実施した。事前に質量を測定したガラス容器に、前記バケツ内に回収したキレート樹脂を移し、100℃で加熱乾燥を行った。乾燥後のガラス容器と回収したキレート樹脂との合計質量から、事前に測定したガラス容器の質量を差し引き、飛散した乾燥樹脂の質量を求めた。結果を表4に示す。なお、以上の充填作業は、実施例1と同一の温度および湿度環境下で行い、乾燥樹脂を乾燥機から抜き出した後、1時間以内に完了させた。イオナイザーは、除電ブロワーSJ-F300(商品名、(株)キーエンス製)を用いた。
【0050】
【表4】
【0051】
表4に示すとおり、イオナイザーを使用した実施例13および実施例14においては、乾燥樹脂の周囲への飛散は見られなかった。すなわち、充填用容器全体または充填する乾燥樹脂自体の静電気を低減することにより、樹脂の飛散を抑制できることが分かった。また、実施例13および実施例14で用いた条件を組み合わせて充填作業を行うことにより、さらに安定した効果が得られることも容易に予想することができる。
【0052】
一方で、イオナイザーを使用せずに充填作業を行った参考例1において周囲へ飛散した乾燥樹脂の飛散率は、充填用袋に移送した乾燥樹脂の総質量に対して0.2質量%であった。飛散量としては、1質量%以下とわずかではあるものの、周囲の環境への影響を考慮すると、飛散量はより低いことが好ましく、樹脂の飛散を抑制することが求められる。なお、上記飛散率(%)は、充填用袋に移送した乾燥樹脂の総質量(g)に対する飛散した乾燥樹脂の質量(g)の比を、パーセンテージで示した値である。
【0053】
本発明は、以下の構成を含む。
[構成1]
イオン交換樹脂を乾燥して、含水率が低減された乾燥イオン交換樹脂を得るための乾燥設備と、
前記乾燥イオン交換樹脂を容器に充填する充填作業を行うための充填設備および前記充填作業を行う環境における静電気を除去するための静電気除去設備を備える充填エリアと、
を有する乾燥イオン交換樹脂製造充填設備。
[構成2]
前記充填エリア内の湿度が45%以下、かつ温度が30℃以下である、構成1に記載の乾燥イオン交換樹脂製造充填設備。
[構成3]
前記容器に充填された乾燥イオン交換樹脂の含水率が15%以下である、構成1または2に記載の乾燥イオン交換樹脂製造充填設備。
[構成4]
前記イオン交換樹脂が、弱塩基性アニオン交換樹脂、カチオン交換樹脂およびキレート樹脂からなる群より選択される、構成1~3のいずれかに記載の乾燥イオン交換樹脂製造充填設備。
[構成5]
前記乾燥設備が前記充填エリア内に設けられている、構成1~4のいずれかに記載の乾燥イオン交換樹脂製造充填設備。
[構成6]
乾燥設備を用いてイオン交換樹脂を乾燥して、含水率が低減された乾燥イオン交換樹脂を得る乾燥工程と、
充填エリアにおいて、前記乾燥イオン交換樹脂を容器に充填する充填作業を行う充填工程と、
を有する、乾燥イオン交換樹脂の充填方法であって、
前記充填エリア内の湿度が45%以下、かつ温度が30℃以下であることを特徴とする、乾燥イオン交換樹脂の充填方法。
[構成7]
前記充填エリアにおいて、静電気除去設備を用いて前記充填作業を行う環境における静電気を除去する静電気除去工程をさらに有する、構成6に記載の乾燥イオン交換樹脂の充填方法。
[構成8]
前記充填作業が、前記乾燥イオン交換樹脂を前記乾燥設備から抜き出した後、1時間以内に完了する、構成6または7に記載の乾燥イオン交換樹脂の充填方法。
[構成9]
前記充填工程において前記容器に充填された乾燥イオン交換樹脂の含水率が15%以下である、構成6~8のいずれかに記載の乾燥イオン交換樹脂の充填方法。
[構成10]
前記イオン交換樹脂が、弱塩基性アニオン交換樹脂、カチオン交換樹脂およびキレート樹脂からなる群より選択される、構成6~9のいずれかに記載の乾燥イオン交換樹脂の充填方法。
【符号の説明】
【0054】
S1:乾燥工程
S2:充填工程
S3:静電気除去工程
S4:分析工程
図1