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特開2024-165471能動騒音低減装置、移動体装置、及び、能動騒音低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165471
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】能動騒音低減装置、移動体装置、及び、能動騒音低減方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20241121BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G10K11/178 120
B60R11/02 S
B60R11/02 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081702
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】322003857
【氏名又は名称】パナソニックオートモーティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】上野 庄太郎
【テーマコード(参考)】
3D020
5D061
【Fターム(参考)】
3D020BA10
3D020BA11
3D020BB01
3D020BC01
3D020BE03
5D061FF02
(57)【要約】
【課題】騒音低減性能の向上を図ることができる能動騒音低減装置を提供する。
【解決手段】能動騒音低減装置10は、エンジン54の回転数に対応する第1周波数を有する第1基準信号を生成する基準信号生成部12と、マイクロフォン53から出力される誤差信号に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を第1基準信号に適用することによりキャンセル音の出力に用いられるキャンセル信号を出力する適応フィルタ13と、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときに、基準信号生成部12に第1周波数を補正した第2周波数を有する第2基準信号を生成させることで、適応フィルタ13から第2基準信号に基づくキャンセル信号を出力させる周波数制御部11とを備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体装置内のスピーカ及びマイクロフォンが設けられた空間において、前記移動体装置が備える動力源の回転によって生じる騒音を、前記スピーカからキャンセル音を出力することにより低減する能動騒音低減装置であって、
前記動力源の回転数に対応する第1周波数を有する第1基準信号を生成する基準信号生成部と、
前記マイクロフォンから出力される誤差信号に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を前記第1基準信号に適用することにより前記キャンセル音の出力に用いられるキャンセル信号を出力する適応フィルタと、
前記動力源の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときに、前記基準信号生成部に前記第1周波数を補正した第2周波数を有する第2基準信号を生成させることで、前記適応フィルタから前記第2基準信号に基づくキャンセル信号を出力させる周波数制御部とを備える
能動騒音低減装置。
【請求項2】
前記周波数制御部は、前記動力源の始動タイミングを起点とする一定期間の間、前記動力源の回転数の変動量が前記所定値を超えると判定する
請求項1に記載の能動騒音低減装置。
【請求項3】
前記周波数制御部は、前記一定期間において、前記動力源の回転数の変動量が大きいほど、前記第1周波数を前記第2周波数に補正するための補正量を大きくする
請求項2に記載の能動騒音低減装置。
【請求項4】
前記周波数制御部は、前記動力源の回転数の変動量を算出することにより、前記動力源の回転数の変動量が前記所定値を超えるか否かを判定する
請求項1に記載の能動騒音低減装置。
【請求項5】
前記周波数制御部は、前記動力源の回転数の変動量が前記所定値を超えると判定された場合、前記動力源の回転数の変動量が大きいほど、前記第1周波数を前記第2周波数に補正するための補正量を大きくする
請求項4に記載の能動騒音低減装置。
【請求項6】
さらに、更新速度に関するパラメータを含む更新式を使用して前記フィルタ係数を更新する更新部を備え、
前記周波数制御部は、前記動力源の回転数の変動量が前記所定値を超えると判定したときに、前記動力源の回転数の変動量が前記所定値以下であると判定したときよりも前記フィルタ係数の更新速度が速くなるように、前記パラメータを変更する
請求項1に記載の能動騒音低減装置。
【請求項7】
前記周波数制御部は、前記動力源の回転数の変動量が前記所定値を超えると判定したときに、前記動力源の回転数の変動量が大きいほど、前記フィルタ係数の更新速度が速くなるように前記パラメータを変更する
請求項6に記載の能動騒音低減装置。
【請求項8】
さらに、
前記適応フィルタが出力する前記キャンセル信号にゲイン係数を乗算する帰還フィルタと、
前記誤差信号、及び、前記ゲイン係数が乗算された前記キャンセル信号に基づいて、前記フィルタ係数を更新する更新部とを備え、
前記周波数制御部は、前記動力源の回転数の変動量が前記所定値を超えると判定したときに、前記ゲイン係数を、前記動力源の回転数の変動量が前記所定値以下であると判定したときよりも大きい値に変更する
請求項1に記載の能動騒音低減装置。
【請求項9】
前記周波数制御部は、前記動力源の回転数の変動量が前記所定値を超えると判定したときに、前記動力源の回転数の変動量が大きいほど、前記ゲイン係数を大きい値に変更する
請求項8に記載の能動騒音低減装置。
【請求項10】
前記周波数制御部は、前記動力源の回転数の変動量が前記所定値を超えると判定し、かつ、前記空間の環境が所定の要件を満たすと判定したときに、前記基準信号生成部に前記第2基準信号を生成させることで、前記適応フィルタから前記第2基準信号に基づくキャンセル信号を出力させる
請求項1に記載の能動騒音低減装置。
【請求項11】
さらに、前記第1周波数を前記第2周波数に補正するときの補正値が記憶された記憶部を備え、
前記記憶部に記憶された前記補正値は、前記能動騒音低減装置が外部装置にアクセスすることでアップデート可能である
請求項1に記載の能動騒音低減装置。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の能動騒音低減装置と、
前記スピーカと、
前記マイクロフォンとを備える
移動体装置。
【請求項13】
コンピュータによって実行される能動騒音低減方法であって、
前記能動騒音低減方法は、
移動体装置内のスピーカ及びマイクロフォンが設けられた空間において、前記移動体装置が備える動力源の回転によって生じる騒音を、前記スピーカからキャンセル音を出力することにより低減する方法であり、
前記動力源の回転数に対応する第1周波数を有する第1基準信号を生成するステップと、
前記マイクロフォンから出力される誤差信号に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を前記第1基準信号に適用することにより前記キャンセル音の出力に用いられるキャンセル信号を出力するステップと、
前記動力源の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときに、前記第1周波数を補正した第2周波数を有する第2基準信号を生成し、前記第2基準信号に基づくキャンセル信号を出力するステップとを含む
能動騒音低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、騒音を能動的に低減する能動騒音低減装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンパルスが急激に変化した場合でも適応ノッチフィルタから出力される異常音をユーザーが聞くことのない能動騒音低減装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-036061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、騒音低減性能の向上を図ることができる能動騒音低減装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る能動騒音低減装置は、移動体装置内のスピーカ及びマイクロフォンが設けられた空間において、前記移動体装置が備える動力源の回転によって生じる騒音を、前記スピーカからキャンセル音を出力することにより低減する能動騒音低減装置であって、前記動力源の回転数に対応する第1周波数を有する第1基準信号を生成する基準信号生成部と、前記マイクロフォンから出力される誤差信号に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を前記第1基準信号に適用することにより前記キャンセル音の出力に用いられるキャンセル信号を出力する適応フィルタと、前記動力源の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときに、前記基準信号生成部に前記第1周波数を補正した第2周波数を有する第2基準信号を生成させることで、前記適応フィルタから前記第2基準信号に基づくキャンセル信号を出力させる周波数制御部とを備える。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様に係る能動騒音低減装置は、騒音低減性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、SANアルゴリズムに対応する能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。
図2図2は、SANアルゴリズムにおける騒音信号とキャンセル信号との関係を示す図である。
図3図3は、SAN Filtered-x LMSアルゴリズムに対応する能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。
図4図4は、SAN Filtered-x LMSアルゴリズムにおける騒音とキャンセル音との関係を示す図である。
図5図5は、実施の形態に係る能動騒音低減装置を備える車両の模式図である。
図6図6は、実施の形態に係る能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。
図7図7は、実施の形態に係る能動騒音低減装置の動作例1のフローチャートである。
図8図8は、エンジンの回転数が急変動する場合の騒音低減特性を示す図である。
図9図9は、補正方法1を説明するための図である。
図10図10は、補正方法2を説明するための図である。
図11図11は、実施の形態に係る能動騒音低減装置の動作例2のフローチャートである。
図12図12は、帰還フィルタを備える能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。
図13図13は、帰還フィルタの追加による騒音低減特性の広帯域化を概念的に示す図である。
図14図14は、実施の形態に係る能動騒音低減装置の動作例3のフローチャートである。
図15図15は、実施の形態に係る能動騒音低減装置の動作例4のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0009】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化される場合がある。
【0010】
(実施の形態)
[発明の基礎となった知見]
自動車等の車室内の空間において生じる狭帯域の騒音を低減するために、単一周波数の騒音を低減することができる適応フィルタを用いた能動騒音低減装置が実用化されている。しかしながら、このような能動騒音低減装置においては、騒音の周波数が想定している周波数から1Hzずれると十分に騒音を低減することが難しいという課題がある。
【0011】
このような課題に対し、以下の実施の形態では、SAN Filtered-x LMSアルゴリズムをベースとして、騒音低減性能が向上された能動騒音低減装置について説明する。なお、SANは、Single frequency Adaptive Notch filterの略であり、LMSは、Least Mean Squareの略である。
【0012】
[SANアルゴリズムを用いた騒音信号低減方法]
実施の形態に係る能動騒音低減装置の説明の前に、SANアルゴリズムを用いた騒音信号低減方法、及び、SAN Filtered-x LMSアルゴリズムを用いた騒音低減方法について説明する。
【0013】
まず、SANアルゴリズムを用いた騒音信号低減方法について説明する。図1は、SANアルゴリズムに対応する能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。図2は、SANアルゴリズムにおける騒音信号(騒音の正弦波信号)とキャンセル信号との関係を示す図である。なお、以下のSANアルゴリズムを用いた騒音信号低減方法においては、騒音信号は、単一周波数の正弦波信号であるとして説明される。
【0014】
図1及び図2中のnは0以上の整数であり、離散時間系におけるサンプリングナンバーを示す。低減すべき騒音信号の周波数をf[Hz]とすると、正規化角周波数ω[rad]は、以下の[式1]のように表現される。
【0015】
ω=2πf=2πf/f [式1]
【0016】
[式1]において、T[sec]はサンプリング周期であり、f[Hz]はサンプリング周波数である。正規化角周波数ωを用いることで離散時間を表すnTをnで表す。
【0017】
騒音の正弦波信号n(n)は、正規化角周波数ω、振幅R、位相θ[rad]を用いて以下の[式2]のように表現される。
【0018】
(n)=Rsin(ωn+θ) [式2]
【0019】
(n)を低減するためにキャンセル信号を生成する。キャンセル信号y(n)は、n(n)と同振幅かつ逆位相になるため、以下の[式3]のように表現される。
【0020】
y(n)=Rsin{ωn+(θ-π)}
=A(n)sin(ωn)+B(n)cos(ωn) [式3]
【0021】
A(n)及びB(n)は適応フィルタのフィルタ係数である。キャンセル信号y(n)の振幅Rは、A(n)+B(n)の平方根で表され、位相(θ-π)はB(n)/A(n)の逆正接(arctangent)で表される。よって、適応フィルタのフィルタ係数A(n)及びB(n)の大きさを変えれば、キャンセル信号の振幅が変わり、適応フィルタのフィルタ係数A(n)及びB(n)の比を変えれば、キャンセル信号の位相が変わる。
【0022】
ここで、適応フィルタのフィルタ係数A(n)及びB(n)は、LMSアルゴリズムにより、e(n)が最小になるように最適化される。e(n)は、騒音信号とキャンセル信号との干渉によって生じる誤差信号である。これにより、騒音信号が低減される。
【0023】
[SAN Filtered-x LMSアルゴリズムを用いた騒音低減方法]
次に、SAN Filtered-x LMSアルゴリズムを用いた騒音低減方法について説明する。図3は、SAN Filtered-x LMSアルゴリズムに対応する能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。図4は、SAN Filtered-x LMSアルゴリズムにおける騒音とキャンセル音との関係を示す図である。なお、以下のSAN Filtered-x LMSアルゴリズムを用いた騒音低減方法の説明においては、騒音は、エンジンこもり音であるとして説明が行われる。エンジンこもり音は、瞬間的には単一周波数の正弦波に近い騒音である。
【0024】
キャンセル信号は、スピーカ、車室空間、及び、マイクロフォンを伝搬し能動騒音低減装置に入力される。この伝達経路を音響伝達関数C(z)で表す。zはz変換を意味する。SAN Filtered-x LMSアルゴリズムは、上記SANアルゴリズムをベースとして、さらに音響伝達関数C(z)を考慮したアルゴリズムである。
【0025】
図3および図4において、模擬伝達関数C (z)は、音響伝達関数C(z)を模擬した伝達関数(フィルタ)である。n(n)は、周波数f[Hz]のマイクロフォンの位置におけるエンジンこもり音である。c(n)は、C(z)の離散時間nのインパルス応答である。c(n)*y(n)は、マイクロフォンの位置におけるキャンセル音を表し、*は畳み込み演算子を意味する。なお、実際にエンジンこもり音を低減するときには、畳み込み演算は、連続時間の積分であるが、以下では離散時間の積和演算であるとして説明される。
【0026】
SAN Filtered-x LMSアルゴリズムに基づく騒音低減方法においては、下記(1)~(5)の処理が繰り返し実行されることにより、フィルタ係数A(n)及びB(n)が最適値に収束される。
【0027】
(1)エンジンの回転周波数を示す信号に基づいて、エンジンこもり音n(n)の周波数f[Hz]を検出する。
【0028】
(2)f[Hz]の周波数を有する、正弦波x(n)及び余弦波x(n)を生成し、係数A(n)とB(n)を乗じて加算し、[式4]に示すキャンセル信号y(n)を生成する。
【0029】
y(n)=A(n)x(n)+B(n)x(n) [式4]
【0030】
(3)キャンセル信号y(n)に基づいてスピーカからキャンセル音を出力する。マイクロフォンの位置において、キャンセル音c(n)*y(n)とエンジンこもり音n(n)が干渉して生じる残留音(誤差信号)e(n)をマイクロフォンによって検出する。
【0031】
(4)C (z)で正弦波x(n)及び余弦波x(n)のそれぞれをフィルタリングすることにより、正弦波r(n)及び余弦波r(n)を生成する。
【0032】
(5)[式5]及び[式6]に示すLMS更新式に基づいて、フィルタ係数A(n)及びB(n)を更新する。なお、μは1サンプリング当たりのフィルタ係数A(n)及びB(n)の更新量(更新速度)を決定するステップサイズパラメータである。
【0033】
A(n+1)=A(n)-μr(n)e(n)[式5]
B(n+1)=B(n)-μr(n)e(n)[式6]
【0034】
ここで、エンジンこもり音について補足する。エンジンこもり音とは、エンジンの吸気、圧縮、爆発、及び、排気の過程の中で爆発による振動および排気騒音が車両のシャーシ等を通じて伝搬し、車室内の空間に発生する騒音である。例えば、エンジンが4気筒4サイクルのエンジンである場合、シャフトが2回転すれば4つのシリンダ全てで爆発が生じ、1回転あたり2回の爆発が生じる。そうすると、エンジンの回転数の2倍の周波数成分を持つ騒音が生じる。この騒音は、エンジン回転の2次のこもり音(2次成分)などと言われ、2次成分の騒音レベルは他の成分に比べて大きいことから問題となりやすい。また、2次成分だけでなく、高調波成分も問題となる場合がある。
【0035】
エンジンが6気筒エンジンである場合は3次成分の騒音レベルが大きく、3気筒エンジンの場合は1.5次成分の騒音レベルが大きい。つまり、ダウンサイジングによりエンジンの気筒数を削減すると、支配的になるエンジンこもり音の周波数はより低くなる。
【0036】
[能動騒音低減装置の構成]
次に、実施の形態に係る能動騒音低減装置の構成について説明する。図5は、実施の形態に係る能動騒音低減装置を備える車両の模式図である。図6は、実施の形態に係る能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。
【0037】
図5に示されるように、能動騒音低減装置10は、車両50に搭載され、車室内の空間51における騒音を低減する。車両50は、ガソリン車であってもよいし、ハイブリッド車であってもよい。ここでのハイブリッド車には、シリーズ方式、パラレル方式、及び、スプリット方式のハイブリッド車が含まれる。また、ここでのハイブリッド車には、プラグインハイブリッド車が含まれる。
【0038】
空間51には、スピーカ52及びマイクロフォン53が設置される。なお、図5及び図6では、説明の簡略化のために、スピーカ52及びマイクロフォン53が1組のみ示されているが、実際には、空間51には複数組のスピーカ52及びマイクロフォン53が設定され、騒音の低減には、複数組のスピーカ52及びマイクロフォン53が用いられる。
【0039】
また、車両50は、エンジン54と、エンジン制御部55と、ECU(Electronic Control Unit)56とを備える。
【0040】
エンジン54は、車両50の動力源であって、かつ、空間51の騒音源となる駆動装置である。エンジン54は、例えば、空間51とは別の空間内に配置される。エンジン54は、具体的には、車両50のボンネット内に形成された空間に設置される。
【0041】
エンジン制御部55は、車両50の運転者のアクセル操作等に基づいて、エンジン54を制御(駆動)する。また、エンジン制御部55は、エンジン54の回転数(周波数)に応じたパルス信号(エンジンパルス信号)を能動騒音低減装置10へ出力する。パルス信号の周波数は、例えば、エンジン54の回転数(周波数)に比例する。パルス信号は、具体的には、いわゆるタコパルスなどのアナログ信号である。
【0042】
ECU56は、車両50の電子制御を行うコンピュータである。ECUは、エンジン54の回転数(周波数)を示すデジタル信号を能動騒音低減装置10へ出力する。また、ECU56は、イグニッションの点火信号、アクセル開度を示す信号、車速を示す信号、エンジントルクを示す信号、車両50のギアの状態を示す信号、及び、車両50の加速度を示す信号などを能動騒音低減装置10へ出力する。また、ECU56は、車両50の窓の開閉状態を示す信号、車両50のドアの開閉状態を示す信号、車両50が備えるエアーコンディショナの風量を示す信号、車両50内の温度(空間51の温度)を示す信号、及び、車両50の外の温度を示す信号などを能動騒音低減装置10へ出力する。
【0043】
なお、ECU56と能動騒音低減装置10とは、CAN(Controller Area Network)を通じて通信を行う。
【0044】
能動騒音低減装置10は、スピーカ52から出力されるキャンセル音によってマイクロフォン53が設置された位置における騒音を低減する能動型の騒音低減装置である。能動騒音低減装置10は、例えば、マイクロコントローラやDSP(Digital Signal Processor)などのマイクロプロセッサ、及び、記憶部(メモリ)によって実現される。
【0045】
図6に示されるように、能動騒音低減装置10は、具体的には、周波数制御部11と、基準信号生成部12と、適応フィルタ13と、補正部14と、更新部15とを備える。基準信号生成部12は、正弦波生成部12a、及び、余弦波生成部12bを含み、適応フィルタ13は、適応フィルタ13a、適応フィルタ13b、及び、加算部13cを含む。補正部14は、補正部14a、及び、補正部14bを含み、更新部15は、更新部15a、及び、更新部15bを含む。これらの構成要素の機能は、例えば、DSPなどのマイクロプロセッサが記憶部に記憶されたコンピュータプログラムを実行することによって実現される。
【0046】
周波数制御部11は、エンジン54の回転数を示す信号(エンジン制御部55が出力するアナログ信号、または、ECU56が出力するデジタル信号)を取得し、取得した信号に基づいて、エンジンこもり音の(瞬間的な)周波数を検出(算出)する。エンジンこもり音の周波数f[Hz]と、エンジンの回転数RPM[rpm]と、エンジンこもり音の次数ORDの関係は、以下の[式7]で表される。[式7]は、言い換えれば、エンジンの回転数に対応する第1周波数を検出するための式である。
【0047】
=(RPM)(ORD)/60[式7]
【0048】
また、周波数制御部11は、エンジン54の回転数が急変動すると判定したときに、騒音低減性能を向上するための信号処理を行う。この信号処理には、エンジン制御部55及びECU56から提供される各種信号が用いられる。この信号処理の詳細については後述する。
【0049】
正弦波生成部12aは、周波数制御部11によって検出された周波数の正弦波を、基準信号x(n)として出力する。nは0以上の整数であり、離散時間系におけるサンプリングナンバーを示す。基準信号x(n)は、適応フィルタ13a、補正部14a、及び、更新部15aに出力される。
【0050】
余弦波生成部12bは、周波数制御部11によって検出された周波数の余弦波を、基準信号x(n)として出力する。基準信号x(n)は、適応フィルタ13b、補正部14b、及び、更新部15bに出力される。
【0051】
適応フィルタ13aは、正弦波生成部12aから出力される基準信号x(n)にフィルタ係数A(n)を乗算する。フィルタ係数A(n)は、更新部15aによって逐次更新される。フィルタ係数A(n)が乗算された基準信号x(n)であるキャンセル信号A(n)x(n)は、加算部13cに出力される。
【0052】
適応フィルタ13bは、余弦波生成部12bから出力される基準信号x(n)にフィルタ係数B(n)を乗算する。フィルタ係数B(n)は、更新部15bによって逐次更新される。フィルタ係数B(n)が乗算された基準信号x(n)であるキャンセル信号B(n)x(n)は、加算部13cに出力される。
【0053】
加算部13cは、適応フィルタ13aから出力されるキャンセル信号A(n)x(n)と、適応フィルタ13bから出力されるキャンセル信号B(n)x(n)とを加算することによりキャンセル信号y(n)を生成する。加算部13cは、生成したキャンセル信号y(n)を、スピーカ52へ出力する。
【0054】
補正部14aは、基準信号x(n)を模擬伝達関数C^(z)を用いて補正(フィルタリング)した補正後の基準信号r(n)を生成する。生成された補正後の基準信号r(n)は、更新部15aに出力される。
【0055】
なお、模擬伝達関数C^(z)は、スピーカ52の位置からマイクロフォン53の位置までの音響伝達関数C(z)を模擬した伝達関数である。模擬伝達関数C^(z)は、具体的には、周波数ごとのゲイン及び位相(位相遅れ)である。模擬伝達関数C^(z)は、例えば、あらかじめ空間において周波数ごとに実測され、能動騒音低減装置10が備える記憶部(図示せず)に記憶される。つまり、この記憶部には、周波数と、当該周波数の信号を補正するためのゲイン及び位相が記憶される。
【0056】
補正部14bは、基準信号x(n)を模擬伝達関数C^(z)を用いて補正(フィルタリング)した補正後の基準信号r(n)を生成する。生成された補正後の基準信号r(n)は、更新部15bに出力される。
【0057】
更新部15aは、補正部14aから取得した補正後の基準信号r(n)、及び、マイクロフォン53によって出力される誤差信号e(n)に基づいて、フィルタ係数A(n)を算出し、算出したフィルタ係数A(n)を適応フィルタ13aに出力する。また、更新部15aは、フィルタ係数A(n)を上記[式5]を使用して逐次更新する。つまり、更新部15aは、ステップサイズパラメータμ(更新速度に関するパラメータ)を含む更新式を使用してフィルタ係数A(n)を更新する。
【0058】
更新部15bは、補正部14bから取得した補正後の基準信号r(n)、及び、マイクロフォン53によって出力される誤差信号e(n)に基づいて、フィルタ係数B(n)を算出し、算出したフィルタ係数B(n)を適応フィルタ13bに出力する。また、更新部15bは、フィルタ係数B(n)を上記[式6]を使用して逐次更新する。つまり、更新部15bは、ステップサイズパラメータμを含む更新式を使用してフィルタ係数B(n)を更新する。
【0059】
[動作例1]
能動騒音低減装置10においては、車室内の空間51に発生する騒音(エンジンこもり音)の周波数と、エンジン54の回転数を示す信号から検出(算出)されるエンジン54の回転数に対応する第1周波数とがずれると、十分に騒音を低減することが難しいという課題がある。
【0060】
この周波数のずれは、エンジン54の回転数が急変動するときに大きくなる。つまり、周波数のずれは、エンジンの始動時、車両50の急加速時、及び、車両50の急減速時などの場面で発生する。ある程度の周波数のずれは、適応フィルタによるフィルタ係数の更新により補正されるが、エンジン54の回転数が急変動する場合は、フィルタ係数の更新だけでは周波数のずれを補正しきれない。最悪の場合には、キャンセル音で騒音を低減することができないだけでなく、キャンセル音自体が異音として聞こえてしまう。
【0061】
いわゆるハイブリッド車の普及にともない、エンジンの回転数が急変動する場面は増えており、特にエンジン始動時におけるエンジンの回転数の大きな変化に対して十分に騒音を低減できないことは、空間51の静粛性を向上させるために解決すべき課題である。
【0062】
そこで、能動騒音低減装置10は、エンジンの回転数が急変動するときには、上記[式7]に基づいて検出されるエンジンの回転数に対応する周波数(以下、第1周波数とも記載される)を補正(オフセット)することで周波数のずれを低減し、騒音低減性能を向上する。以下、このような動作例1について説明する。図7は、能動騒音低減装置10の動作例1のフローチャートである。
【0063】
まず、周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量(変化率)が所定値を超えるか否かの判定を行う(S11)。所定値は、例えば、500rpm/secであるが、経験的または実験的に適宜定められればよい。
【0064】
周波数制御部11は、例えば、エンジン54の始動タイミングを起点とする一定期間において、エンジンの回転数の変動量が所定値を超えると判定する。周波数制御部11は、例えば、ECUからイグニッションの点火信号を取得し、点火信号を取得したタイミングを起点とする一定期間をエンジンの回転数の変動量が所定値を超える期間であると判定することができる。
【0065】
また、周波数制御部11は、実際にエンジン54の回転数の変動量を算出し、エンジンの回転数の変動量が所定値を超えるか否かの判定を行ってもよい。周波数制御部11は、例えば、エンジン54の回転数を示す信号(エンジン制御部55が出力するアナログ信号、または、ECU56が出力するデジタル信号)を取得することで、エンジン54の回転数の変動量を算出することができる。周波数制御部11は、エンジンの回転数を示す信号に加えて、ECU56が出力する、アクセル開度を示す信号、車速を示す信号、エンジントルクを示す信号、車両50のギアの状態を示す信号、及び、車両50の加速度を示す信号の少なくとも1つを用いて、エンジンの回転数の変動量が所定値を超えるか否かを判定(予測)してもよい。
【0066】
周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えないと判定したときには(S11でNo)、第1周波数を有する第1基準信号に基づくキャンセル信号を適応フィルタ13から出力する(S12)。つまり、能動騒音低減装置10は、通常の騒音低減処理を行う。具体的には、周波数制御部11は、上記[式7]に基づいてエンジン54の回転数に対応する第1周波数を検出し、基準信号生成部12(正弦波生成部12a及び余弦波生成部12b)に、第1周波数を有する第1基準信号を生成させる。これにより、適応フィルタ13から第1基準信号に基づくキャンセル信号が出力される。
【0067】
一方、周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときには(S11でYes)、上記[式7]に基づいて定まる第1周波数を第2周波数に補正し(S13)、第2周波数を有する第2基準信号に基づくキャンセル信号を適応フィルタ13から出力する(S14)。具体的には、周波数制御部11は、基準信号生成部12に、第2周波数を有する第2基準信号を生成させる。これにより、適応フィルタ13から第2基準信号に基づくキャンセル信号が出力される。
【0068】
ステップS11においてエンジン54の回転数が増加する方向に変動している場合には、ステップS13においては、第1周波数に0より大きい補正値を加算することで第1周波数が第2周波数に補正される。ステップS11においてエンジン54の回転数が減少する方向に変動している場合には、ステップS13においては、第1周波数に0より小さい補正値を加算することで第1周波数が第2周波数に補正される。
【0069】
図8は、エンジン54の回転数が急変動する(具体的には、急増する)場合の騒音低減特性を示す図である。図8の(a)は、エンジン54の回転数の変動を示すグラフであり、縦軸は回転数を示し、横軸は時間を示す。図8の(b)は、図8の(a)のようにエンジン54の回転数が変動したときの騒音低減特性を示し、縦軸は音圧レベルを示し、横軸は時間を示す。
【0070】
図8の(b)には、能動騒音低減装置10がオフである場合(OFF)と、基準信号の周波数が第1周波数のまま、通常の騒音低減処理が行われた場合(ON(比較例))と、基準信号の周波数を第2周波数に補正した上で騒音低減処理が行われた場合(ON(実施例))の各場合の騒音低減特性が図示されている。図8の(b)に示されるように、実施例は、エンジン54の回転数が急増する期間においても騒音を十分に低減できる。
【0071】
このように、能動騒音低減装置10は、エンジンの回転数が急変動すると判定したときに第1周波数を第2周波数に補正することで周波数のずれを低減する。これにより、適応フィルタの適応速度が向上するため、キャンセル音を騒音の周波数の変化に追従させることができる。つまり、能動騒音低減装置10は、騒音低減性能を向上することができる。
【0072】
なお、基準信号の周波数を補正する手法は、適応フィルタの分解能がハードウェアの制約、または、ソフトウェアの制約を受ける場合に特に有用である。
【0073】
[補正方法1]
以下、ステップS13の周波数の補正方法の具体例について説明する。まず、エンジン54の始動タイミングを起点とする一定期間における補正方法について説明する。図9は、エンジン54の始動タイミングを起点とする一定期間における補正方法(以下、補正方法1とも記載される)を説明するための図である。図9の縦軸はエンジン54の回転数を示し、図9の横軸は時間を示す。
【0074】
周波数制御部11は、エンジン54の始動タイミングを0としたときの時刻t(言い換えれば、経過時間)に応じて、以下の4つの式に基づいて第2周波数を算出する。
【0075】
第2周波数=第1周波数+A(0≦t<t1)
第2周波数=第1周波数+B(t1≦t<t2)
第2周波数=第1周波数+C(t2≦t<t3)
第2周波数=第1周波数+D(t3≦t)
【0076】
A、B、C、及び、Dは、補正値であり、いずれも正の値となるが、Dは0であってもよい。補正量(補正値の絶対値)は、例えば、エンジン54の回転数の変動量(変動値の絶対値)が大きい区間ほど、大きくなるように定められる。補正値は、能動騒音低減装置10の設計者等により、経験的または実験的に適宜定められればよい。
【0077】
能動騒音低減装置10が備える記憶部には、上記の4つの式に相当する、経過時間と補正値とを対応付けた補正値マップが記憶され、周波数制御部11は、補正値マップを参照する(読みだす)ことで第1周波数を第2周波数に補正することができる。
【0078】
なお、図9はエンジン54の回転数が急増する場合(変動値が正である場合)の補正方法を示しているが、エンジン54の回転数が急減する場合(変動値が負である場合)の補正方法も同様である。ただし、エンジン54の回転数が急減する場合には、補正値は負の値となる。エンジン54の回転数が急減する場合には、騒音自体が小さくなることから、周波数を補正する処理が行われなくてもよい。
【0079】
このように、能動騒音低減装置10は、エンジン54の始動タイミングなどの所定の基準タイミングからの経過時間に応じて補正値を決定することができる。
【0080】
[補正方法2]
次に、実際にエンジン54の回転数の変動量(変動値)を算出する場合の補正方法について説明する。図10は、エンジン54の回転数の変動量を算出する場合の補正方法(以下、補正方法2とも記載される)を説明するための図である。図10の縦軸は、エンジン54の回転数を示し、図10の横軸は時間を示す。
【0081】
周波数制御部11は、期間Tごとにエンジンの回転数の変動値を算出し、期間T(n)(nは0以上の整数)におけるエンジン54の回転数の変動値に基づいて、期間T(n)の次の期間T(n+1)の補正値を決定する。図10に示されるように、エンジン54の回転数が急増する場合には、補正値は、正の値となる。補正量(補正値の絶対値)は、例えば、エンジン54の回転数の変動量(変動値の絶対値)が大きいときほど、大きくなるように定められる。補正値は、能動騒音低減装置10の設計者等により、経験的または実験的に適宜定められればよい。期間T(n)においてエンジン54の回転数の変動量が所定値以下である場合には、期間T(n+1)における補正値は0となる。期間T(n)の長さは、一定であるが、変更可能であってもよい。
【0082】
能動騒音低減装置10が備える記憶部には、エンジン54の回転数の変動値と補正値とを対応付けた補正値マップが記憶され、周波数制御部11は、補正値マップを参照する(読みだす)ことで第1周波数を第2周波数に補正することができる。
【0083】
なお、図10はエンジン54の回転数が急増する場合(変動値が正である場合)の補正方法を示しているが、エンジン54の回転数が急減する場合(変動値が負である場合)の補正方法も同様である。ただし、エンジン54の回転数が急減する場合には、補正値は負の値となる。エンジン54の回転数が急減する場合には、騒音自体が小さくなることから、周波数を補正する処理が行われなくてもよい。
【0084】
このように、能動騒音低減装置10は、期間Tごとにエンジンの回転数の変動量を算出し、期間T(n)におけるエンジン54の回転数の変動量に基づいて、期間T(n+1)の補正値を決定することができる。
【0085】
なお、能動騒音低減装置10は、補正方法1及び補正方法2の一方のみを実行することができる装置として実現されてもよいし、補正方法1及び補正方法2の両方を実行することができる装置として実現されてもよい。
【0086】
例えば、能動騒音低減装置10は、エンジン54の始動時、アイドリングストップ時、及び、エンジン54の回転数が定点から定点へと変化するときには、補正方法1を使用し、車両50の急加速時、急減速時、及び、シフトチェンジ時には補正方法2を使用する、というように、補正方法1及び補正方法2を併用してもよい。エンジン54の回転数が定点から定点へと変化するときとは、具体的には、エンジン54によってバッテリを充電する、シリーズ方式のハイブリッド車において、エンジン54の回転数が所定の第1回転数から所定の第2回転数に変動するとき(つまり、バッテリの充電速度が変更されるとき)などである。
【0087】
[動作例2]
能動騒音低減装置10は、基準信号の周波数の補正に加えて、ステップサイズパラメータμを変更してもよい。図11は、このような能動騒音低減装置10の動作例2のフローチャートである。
【0088】
ステップS11~ステップS12の処理は、動作例1と同様である。周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときには(S11でYes)、上記[式7]に基づいて定まる第1周波数を第2周波数に補正する(S13)。ステップS13の処理は、動作例1と同様である。
【0089】
また、周波数制御部11は、上記[式5]及び[式6]のステップサイズパラメータμを変更する(S15)。周波数制御部11は、ステップサイズパラメータμの値をステップS12において使用するステップサイズパラメータμの値よりも大きい値に変更する。つまり、周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値以下であると判定したときのステップサイズパラメータμよりもフィルタ係数の更新速度が速くなるように、ステップサイズパラメータμを変更する。
【0090】
その後、周波数制御部11は、第2周波数を有する第2基準信号に基づくキャンセル信号を適応フィルタ13から出力する(S16)。ここで、適応フィルタ13のフィルタ係数は、ステップサイズパラメータμが変更された後の更新式に基づいて更新される。
【0091】
このように、能動騒音低減装置10は、エンジンの回転数が急変動すると判定したときに第1周波数を第2周波数に補正し、かつ、ステップサイズパラメータμの値を通常よりも大きい値に変更する。これにより、適応フィルタ13の適応速度が向上するため、キャンセル音を騒音の周波数の変化に追従させることができる。つまり、能動騒音低減装置10は、騒音低減性能を向上することができる。
【0092】
なお、周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときに、エンジン54の回転数の変動量が大きいほど、フィルタ係数の更新速度が速くなるようにステップサイズパラメータμを変更してもよい。
【0093】
また、周波数制御部11は、補正方法1のように、基準タイミングからの経過時間に応じてステップサイズパラメータμを変更してもよい。この場合、能動騒音低減装置10が備える記憶部には、経過時間とステップサイズパラメータμの補正値とを対応付けた補正値マップが記憶され、周波数制御部11は、補正値マップを参照する(読みだす)ことでステップサイズパラメータμを変更することができる。
【0094】
周波数制御部11は、補正方法2のように、期間Tごとにエンジンの回転数の変動量を算出し、期間T(n)におけるエンジン54の回転数の変動量に基づいて、期間T(n+1)のステップサイズパラメータμを決定してもよい。この場合、能動騒音低減装置10が備える記憶部には、エンジン54の回転数の変動量とステップサイズパラメータμの補正値とを対応付けた補正値マップが記憶され、周波数制御部11は、補正値マップを参照する(読みだす)ことでステップサイズパラメータμを変更することができる。
【0095】
[帰還フィルタを備える能動騒音低減装置]
能動騒音低減装置10は、さらに、帰還フィルタを備えてもよい。図12は、帰還フィルタを備える能動騒音低減装置10の機能構成を示すブロック図である。
【0096】
帰還フィルタ16は、加算部13cが出力するキャンセル信号y(n)にゲイン係数を乗算する。帰還フィルタ16は、キャンセル信号y(n)にゲイン係数αを乗算したキャンセル信号h(n)を、更新部15a及び更新部15bへ出力(フィードバック)する。
【0097】
以下、能動騒音低減装置10が帰還フィルタ16を備える場合の、フィルタ係数A(n)、及び、フィルタ係数B(n)を算出するためのLMS更新式について説明する。帰還フィルタ16は、キャンセル信号y(n)にゲイン係数αを乗じて出力信号h(n)を生成する。h(n)は[式4]を用いて以下の[式8]のように表現される。
【0098】
h(n)=αy(n)=α{A(n)x(n)+B(n)x(n)} [式8]
【0099】
[式5]、及び、[式6]に示されるLMS更新式は、[式8]を用いて、以下の[式9]及び、[式10]のように表現される。
【0100】
A(n+1)
=A(n)-μr(n)e(n)-μx(n)h(n)
=A(n)-μr(n)e(n)
-μx(n)α{A(n)x(n)+B(n)x(n)} [式9]
B(n+1)
=B(n)-μr(n)e(n)-μx(n)h(n)
=B(n)-μr(n)e(n)
-μx(n)α{A(n)x(n)+B(n)x(n)} [式10]
【0101】
上記[式9]、及び、[式10]に示されるように、ゲイン係数αは、フィルタ係数A(n)及びB(n)の更新速度を調整するための係数である。ゲイン係数αを乗算することは、マイクロフォン53の位置におけるキャンセル音c(n)*y(n)を数値演算的に発生させることと等価である。このため、ゲイン係数αの値により能動騒音低減装置10の安定性と騒音低減量を調整することができる。ゲイン係数αが0より大きければ、騒音低減特性の広帯域化を図ることができる。図13は、帰還フィルタ16の追加による騒音低減特性の広帯域化を概念的に示す図であり、図13の(a)が図6の機能構成を有する能動騒音低減装置10の騒音低減特性であり、図13の(b)が図12の機能構成を有する能動騒音低減装置10の騒音低減特性である。
【0102】
図13に示されるように、帰還フィルタ16によれば、騒音低減特性は広帯域化され、上述の周波数のずれが発生したとしても騒音を低減できる可能性が高まる。つまり、能動騒音低減装置10の安定性が向上する。なお、ゲイン係数αの値が大きいほど、能動騒音低減装置10の安定性が向上し、騒音低減特性の広帯域化を図ることができるが、騒音低減量は小さくなる。
【0103】
[動作例3]
帰還フィルタ16を備える能動騒音低減装置10は、基準信号の周波数の補正に加えて、ゲイン係数αを変更してもよい。図14は、このような能動騒音低減装置10の動作例3のフローチャートである。
【0104】
ステップS11~ステップS12の処理は、動作例1と同様である。周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときには(S11でYes)、上記[式7]に基づいて定まる第1周波数を第2周波数に補正する(S13)。ステップS13の処理は、動作例1と同様である。
【0105】
また、周波数制御部11は、上記[式9]及び[式10]のゲイン係数αを変更する(S17)。周波数制御部11は、ゲイン係数αの値をステップS12において使用するゲイン係数αの値よりも大きい値に変更する。つまり、周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときに、ゲイン係数αを、エンジン54の回転数の変動量が所定値以下であると判定したときよりも大きい値に変更する。
【0106】
その後、周波数制御部11は、第2周波数を有する第2基準信号に基づくキャンセル信号を適応フィルタ13から出力する(S18)。ここで、適応フィルタ13のフィルタ係数は、ゲイン係数αが変更された後の更新式に基づいて更新される。
【0107】
このように、能動騒音低減装置10は、エンジンの回転数が急変動すると判定したときに第1周波数を第2周波数に補正し、かつ、ゲイン係数αの値を通常よりも大きい値に変更する。これにより、適応フィルタの適応速度を向上しつつ、能動騒音低減装置10の安定性を向上することができる。つまり、能動騒音低減装置10は、騒音低減性能を向上することができる。
【0108】
なお、周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときに、エンジン54の回転数の変動量が大きいほど、ゲイン係数αの値を大きい値に変更してもよい。
【0109】
また、周波数制御部11は、補正方法1のように、基準タイミングからの経過時間に応じてゲイン係数αを変更してもよい。この場合、能動騒音低減装置10が備える記憶部には、経過時間とゲイン係数αの補正値とを対応付けた補正値マップが記憶され、周波数制御部11は、補正値マップを参照する(読みだす)ことでゲイン係数αを変更することができる。
【0110】
周波数制御部11は、補正方法2のように、期間Tごとにエンジンの回転数の変動量を算出し、期間T(n)におけるエンジン54の回転数の変動量に基づいて、期間T(n+1)のゲイン係数αを決定してもよい。この場合、能動騒音低減装置10が備える記憶部には、エンジン54の回転数の変動量とゲイン係数αの補正値とを対応付けた補正値マップが記憶され、周波数制御部11は、補正値マップを参照する(読みだす)ことでゲイン係数αを変更することができる。
【0111】
また、帰還フィルタ16を備える能動騒音低減装置10は、基準信号の周波数の補正に加えて、ステップサイズパラメータμ及びゲイン係数αを変更してもよい。つまり、動作例2及び動作例3は組み合わされてもよい。
【0112】
[動作例4]
ところで、空間51の音響伝達関数C(z)が想定していない状態である場合、及び、空間51においてエンジンこもり音以外の騒音が発生したことにより、騒音n(n)の状態が想定していない状態であるなど、空間51の環境の状態によっては、基準信号の周波数の補正を行っても騒音低減効果を向上することができない可能性がある。
【0113】
そこで、周波数制御部11は、空間51の環境が所定の要件を満たすか否かを判定してもよい。図15は、このような能動騒音低減装置10の動作例4のフローチャートである。
【0114】
ステップS11~ステップS12の処理は、動作例1と同様である。周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときには(S11でYes)、空間51の環境が所定の要件を満たすか否かを判定する(S19)。
【0115】
ステップS19において、周波数制御部11は、例えば、空間51の音響伝達関数C(z)が所定の要件を満たすか(想定内の状態であるか)否かを判定する。周波数制御部11は、例えば、以下の判定を行う。
【0116】
(1)車両50の窓が閉状態であるか否かの判定
(2)車両50のドアが閉状態であるか否かの判定
(3)空間51の温度が所定範囲内であるか否かの判定
(4)空間51の外の温度が所定範囲内であるか否かの判定
【0117】
なお、周波数制御部11は、(1)の判定を、車両50の窓の開閉状態を示す信号をECU56から取得することで実行することができ、(2)の判定を、車両50のドアの開閉状態を示す信号をECU56から取得することで実行することができる。周波数制御部11は、(3)の判定を、車両50内の温度(空間51の温度)を示す信号をECU56から取得することで実行することができ、(4)の判定を、車両50の外の温度を示す信号をECU56から取得することで実行することができる。
【0118】
また、ステップS19において、周波数制御部11は、空間51における騒音n(n)の状態が所定の要件を満たすか(想定内の状態であるか)否かを判定してもよい。周波数制御部11は、例えば、車両50が備えるエアーコンディショナの動作状態に基づいて、エアーコンディショナの風量が少ない(騒音n(n)への影響度が少ない)か否かを判定する。周波数制御部11は、この判定を、車両50が備えるエアーコンディショナの風量を示す信号をECU56から取得することで実行することができる。
【0119】
ステップS19においては、これらの判定の少なくとも1つが行われればよい。ステップS19において複数の判定が行われる場合には、全ての判定において所定の要件が満たされたことによってステップS19でYesに進んでもよいし、複数の判定のうち所定数以上の判定で所定の要件が満たされたことによってステップS19でYesに進んでもよい。
【0120】
周波数制御部11は、空間51の環境が所定の要件を満たさないと判定したときには、第1周波数を有する第1基準信号に基づくキャンセル信号を適応フィルタ13から出力する(S12)。つまり、能動騒音低減装置10は、通常の騒音低減処理を行う。
【0121】
一方、周波数制御部11は、空間51の環境が所定の要件を満たすと判定したときには、第1周波数を第2周波数に補正し(S13)、第2周波数を有する第2基準信号に基づくキャンセル信号を適応フィルタ13から出力する(S14)。
【0122】
このように、周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定し、かつ、空間51の環境が所定の要件を満たすと判定したときに、基準信号生成部12に第2基準信号を生成させることで、適応フィルタ13から第2基準信号に基づくキャンセル信号を出力させる。周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値以下であると判定したとき、及び、空間51の環境が所定の要件を満たさないと判定したときには、基準信号生成部12に第1基準信号を生成させることで、適応フィルタ13から第1基準信号に基づくキャンセル信号を出力させる。
【0123】
このような能動騒音低減装置10は、空間51が適切な環境かどうかを把握した上で第2基準信号に基づくキャンセル音(キャンセル信号)を出力することで、キャンセル音が異音となってしまうことを抑制することができる。
【0124】
なお、動作例4において、ステップS11の判定とステップS19の判定とは順序が入れ替えられてもよい。
【0125】
また、動作例4では、動作例1に、空間51の環境が所定の要件を満たすか否かの判定処理が追加された動作例について説明されたが、動作例2及び動作例3において、空間51の環境が所定の要件を満たすか否かの判定処理が追加されてもよい。
【0126】
[変形例]
上記実施の形態では、エンジンこもり音(エンジン54の回転と相関関係を有する騒音)を低減する例について説明されたが、能動騒音低減装置10は、例えば、プロペラシャフトの回転と相関関係を有する騒音を低減してもよい。また、能動騒音低減装置10は、エンジン54以外の動力源が作動することによって生じる騒音を低減してもよい。
【0127】
また、上記実施の形態では、エンジンこもり音などの騒音の1つの次数成分(例えば、2次成分)を低減する例について説明されたが、能動騒音低減装置10は、騒音の複数の次数成分(例えば、2次成分及び4次成分など)を同時に(並行して)低減してもよい。
【0128】
また、能動騒音低減装置10が備える記憶部に記憶される、補正値マップなどの情報は、能動騒音低減装置10がクラウドサーバなどの外部装置へアクセスすることでアップデート(修正及び追加)されてもよい。この場合、能動騒音低減装置10は、例えば、広域通信ネットワークを通じて外部装置と通信するための通信回路(通信モジュール)を備える。
【0129】
[効果等]
本明細書の開示内容から導き出される発明は、例えば以下のような発明である。以下、本明細書の開示内容から導き出される発明について、当該発明によって得られる効果等と合わせて説明する。
【0130】
発明1は、車両50内のスピーカ52及びマイクロフォン53が設けられた空間51において、車両50が備えるエンジン54の回転によって生じる騒音を、スピーカ52からキャンセル音を出力することにより低減する能動騒音低減装置10であって、エンジン54の回転数に対応する第1周波数を有する第1基準信号を生成する基準信号生成部12と、マイクロフォン53から出力される誤差信号に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を第1基準信号に適用することによりキャンセル音の出力に用いられるキャンセル信号を出力する適応フィルタ13と、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときに、基準信号生成部12に第1周波数を補正した第2周波数を有する第2基準信号を生成させることで、適応フィルタ13から第2基準信号に基づくキャンセル信号を出力させる周波数制御部11とを備える、能動騒音低減装置10である。車両50は、移動体装置の一例であり、エンジン54は、動力源の一例である。
【0131】
このような能動騒音低減装置10は、エンジン54の回転数が急変動すると判定したときに第1周波数を第2周波数に補正することで周波数のずれを低減し、適応フィルタ13の適応速度を向上することができる。よって、能動騒音低減装置10は、キャンセル音を騒音の周波数の変化に追従させることができる。つまり、能動騒音低減装置10は、騒音低減性能を向上することができる。
【0132】
発明2は、周波数制御部11は、エンジン54の始動タイミングを起点とする一定期間の間、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定する、発明1の能動騒音低減装置10である。
【0133】
このような能動騒音低減装置10は、エンジン54の始動タイミングを起点とする一定期間における騒音低減性能を向上することができる。
【0134】
発明3は、周波数制御部11は、一定期間において、エンジン54の回転数の変動量が大きいほど、第1周波数を第2周波数に補正するための補正量を大きくする、発明2の能動騒音低減装置10である。
【0135】
このような能動騒音低減装置10は、エンジン54の回転数の変動量に応じて補正を行うことで、エンジン54の始動タイミングを起点とする一定期間における騒音低減性能をさらに向上することができる。
【0136】
発明4は、周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量を算出することにより、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えるか否かを判定する、発明1~3のいずれかの能動騒音低減装置10である。
【0137】
このような能動騒音低減装置10は、エンジン54の回転数が急変動する期間における騒音低減性能を向上することができる。
【0138】
発明5は、周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定された場合、エンジン54の回転数の変動量が大きいほど、第1周波数を第2周波数に補正するための補正量を大きくする、発明4の能動騒音低減装置10である。
【0139】
このような能動騒音低減装置10は、エンジン54の回転数の変動量に応じて補正を行うことで、エンジン54の回転数が急変動する期間における騒音低減性能をさらに向上することができる。
【0140】
発明6は、さらに、更新速度に関するパラメータを含む更新式を使用してフィルタ係数を更新する更新部15を備え、周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときに、エンジン54の回転数の変動量が所定値以下であると判定したときよりもフィルタ係数の更新速度が速くなるように、パラメータを変更する、発明1~5のいずれかの能動騒音低減装置10である。パラメータは、例えば、ステップサイズパラメータμである。
【0141】
このような能動騒音低減装置10は、エンジン54の回転数の変動量が大きくなったときに、フィルタ係数の更新速度を速めることで騒音低減性能を向上することができる。
【0142】
発明7は、周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときに、エンジン54の回転数の変動量が大きいほど、フィルタ係数の更新速度が速くなるようにパラメータを変更する、発明6の能動騒音低減装置10である。
【0143】
このような能動騒音低減装置10は、エンジン54の回転数の変動量が大きくなったときに、エンジン54の回転数の変動量に応じてフィルタ係数の更新速度を速めることで騒音低減性能をさらに向上することができる。
【0144】
発明8は、さらに、適応フィルタ13が出力するキャンセル信号にゲイン係数を乗算する帰還フィルタ16と、誤差信号、及び、ゲイン係数αが乗算されたキャンセル信号に基づいて、フィルタ係数を更新する更新部15とを備え、周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときに、ゲイン係数αを、エンジン54の回転数の変動量が所定値以下であると判定したときよりも大きい値に変更する、発明1~7のいずれかの能動騒音低減装置10である。
【0145】
このような能動騒音低減装置10は、エンジン54の回転数の変動量が大きくなったときに、騒音低減特性を広帯域化することで騒音低減性能を安定化することができる。
【0146】
発明9は、周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときに、エンジン54の回転数の変動量が大きいほど、ゲイン係数αを大きい値に変更する、発明8の能動騒音低減装置10である。
【0147】
このような能動騒音低減装置10は、エンジン54の回転数の変動量が大きくなったときに、エンジン54の回転数の変動量に応じて騒音低減特性を広帯域化することで騒音低減性能をさらに安定化することができる。
【0148】
発明10は、周波数制御部11は、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定し、かつ、空間51の環境が所定の要件を満たすと判定したときに、基準信号生成部12に第2基準信号を生成させることで、適応フィルタ13から第2基準信号に基づくキャンセル信号を出力させる、発明1~9のいずれかの能動騒音低減装置10である。
【0149】
このような能動騒音低減装置10は、空間51が適切な環境かどうかを把握した上で第2基準信号に基づくキャンセル音(キャンセル信号)を出力することで、キャンセル音が異音となってしまうことを抑制することができる。
【0150】
発明11は、さらに、第1周波数を第2周波数に補正するときの補正値が記憶された記憶部を備え、記憶部に記憶された補正値は、能動騒音低減装置10が外部装置にアクセスすることでアップデート可能である、発明1~10のいずれかの能動騒音低減装置10である。
【0151】
このような能動騒音低減装置10は、第1周波数を第2周波数に補正するときの補正値を変更することができる。
【0152】
発明12は、発明1~11のいずれかの能動騒音低減装置10と、スピーカ52と、マイクロフォン53とを備える、移動体装置である。移動体装置は、例えば、車両50である。
【0153】
このような移動体装置は、騒音低減性能が向上された能動騒音低減装置10を備える移動体装置として有用である。
【0154】
発明13は、能動騒音低減装置10などのコンピュータによって実行される能動騒音低減方法であって、能動騒音低減方法は、車両50内のスピーカ52及びマイクロフォン53が設けられた空間51において、車両50が備えるエンジン54の回転によって生じる騒音を、スピーカ52からキャンセル音を出力することにより低減する方法であり、エンジン54の回転数に対応する第1周波数を有する第1基準信号を生成するステップと、マイクロフォン53から出力される誤差信号に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を第1基準信号に適用することによりキャンセル音の出力に用いられるキャンセル信号を出力するステップと、エンジン54の回転数の変動量が所定値を超えると判定したときに、第1周波数を補正した第2周波数を有する第2基準信号を生成し、第2基準信号に基づくキャンセル信号を出力するステップとを含む、能動騒音低減方法である。
【0155】
このような騒音低減方法は、エンジン54の回転数が急変動すると判定したときに第1周波数を第2周波数に補正することで周波数のずれを低減し、適応フィルタ13の適応速度を向上することができる。よって、能動騒音低減方法は、キャンセル音を騒音の周波数の変化に追従させることができる。つまり、能動騒音低減方法は、騒音低減性能を向上することができる。
【0156】
(その他の実施の形態)
以上、実施の形態について説明したが、本開示は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0157】
例えば、上記実施の形態に係る能動騒音低減装置は、車両以外の移動体装置に搭載されてもよい。移動体装置は、例えば、航空機または船舶であってもよい。また、本開示は、このような車両以外の移動体装置として実現されてもよい。
【0158】
また、上記実施の形態に係る能動騒音低減装置の構成は、一例である。例えば、能動騒音低減装置は、D/A変換器、ローパスフィルタ(LPF)、ハイパスフィルタ(HPF)、電力増幅器、または、A/D変換器などの構成要素を含んでもよい。
【0159】
また、上記実施の形態に係る能動騒音低減装置が行う処理は、一例である。例えば、上記実施の形態で説明された一部の処理が、デジタル信号処理ではなくアナログ信号処理によって実現されてもよい。
【0160】
また、例えば、上記実施の形態において、特定の処理部が実行する処理を別の処理部が実行してもよい。また、複数の処理の順序が変更されてもよいし、複数の処理が並行して実行されてもよい。
【0161】
また、本開示の全般的または具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの非一時的な記録媒体で実現されてもよい。また、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及びコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0162】
例えば、本開示は、能動騒音低減装置(DSP)などのコンピュータが実行する騒音低減方法として実現されてもよいし、能動騒音低減方法をコンピュータ(DSP)に実行させるためのプログラムとして実現されてもよい。また、本開示は、上記実施の形態に係る能動騒音低減装置と、スピーカ(出音装置)と、マイクロフォン(集音装置)とを備える騒音低減システムとして実現されてもよい。
【0163】
また、上記実施の形態において説明された能動騒音低減装置の動作における複数の処理の順序は一例である。複数の処理の順序は、変更されてもよいし、複数の処理は、並行して実行されてもよい。
【0164】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態、または、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本開示の能動騒音低減装置は、例えば、車室内の騒音を低減する装置として有用である。
【符号の説明】
【0166】
10 能動騒音低減装置
11 周波数制御部
12 基準信号生成部
12a 正弦波生成部
12b 余弦波生成部
13、13a、13b 適応フィルタ
13c 加算部
14、14a、14b 補正部
15、15a、15b 更新部
16 帰還フィルタ
50 車両(移動体装置)
51 空間
52 スピーカ
53 マイクロフォン
54 エンジン
55 エンジン制御部
56 ECU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15