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特開2024-165479情報処理装置、情報処理方法およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165479
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20241121BHJP
   G08G 1/01 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G08G1/00 C
G08G1/01 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081719
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140958
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100137888
【弁理士】
【氏名又は名称】大山 夏子
(74)【代理人】
【識別番号】100190942
【弁理士】
【氏名又は名称】風間 竜司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴大
(72)【発明者】
【氏名】松平 正樹
(72)【発明者】
【氏名】岡野 謙悟
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
5H181DD04
5H181FF10
5H181MC13
(57)【要約】
【課題】より精度よく交通流を予測することを可能とする技術が提供されることが望まれる。
【解決手段】道路を構成する複数のセルのうちの対象セルの第1の時刻における第1の交通流特性に基づいて、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じているか否かを判定する判定部と、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じていると判定されたか否かに基づいて、前記対象セルの前記第1の時刻より後の第2の時刻における第2の交通流特性の予測アルゴリズムを決定し、決定した前記予測アルゴリズムにより前記第2の交通流特性を予測する予測部と、を備える、情報処理装置が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路を構成する複数のセルのうちの対象セルの第1の時刻における第1の交通流特性に基づいて、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じているか否かを判定する判定部と、
前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じていると判定されたか否かに基づいて、前記対象セルの前記第1の時刻より後の第2の時刻における第2の交通流特性の予測アルゴリズムを決定し、決定した前記予測アルゴリズムにより前記第2の交通流特性を予測する予測部と、
を備える、情報処理装置。
【請求項2】
前記予測部は、
前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じていると判定された場合には、前記予測アルゴリズムとして第1の予測アルゴリズムを決定し、
前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じていないと判定された場合には、前記予測アルゴリズムとして第1の予測アルゴリズムとは異なる第2の予測アルゴリズムを決定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記道路において発生したイベント情報に基づいて、前記第1の交通流特性に影響を与える所定のイベントが発生しているか否かを判定し、前記所定のイベントが発生している場合に、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じているか否かを判定する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記所定のイベントが発生していない場合に、前記予測アルゴリズムとして前記第2の予測アルゴリズムを決定する、
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じていないと判定した場合に、前記複数のセルのうち前記第1の時刻において渋滞が生じている1または複数の渋滞セルを基準とした所定の範囲内に前記対象セルが属するか否かを判定し、
前記予測部は、前記対象セルが前記所定の範囲に属する場合に、前記予測アルゴリズムとして前記第1の予測アルゴリズムを決定する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記予測部は、前記対象セルが前記所定の範囲に属さない場合に、前記予測アルゴリズムとして前記第2の予測アルゴリズムを決定する、
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記情報処理装置は、
前記対象セルを基準とした上流セルから前記対象セルを基準とした下流セルまでの各セルの第3の時刻における交通密度と、前記第3の時刻より後の第4の時刻における前記対象セルの交通密度との組み合わせをパターンとして取得する第1の学習部を備え、
前記第1の予測アルゴリズムは、
前記上流セルから前記下流セルまでの各セルの前記第1の時刻における交通密度と、前記パターンとに基づいて、前記第2の交通流特性を予測するアルゴリズムである、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記情報処理装置は、
所定の地点間の第3の時刻を基準として取得される所定の時間分の交通密度に基づく複数の平均交通密度を算出し、前記複数の平均交通密度における前記複数の平均交通密度それぞれのパーセンタイル値を算出するとともに、前記第3の時刻における前記対象セルの複数の交通密度に基づいて、前記複数の交通密度における前記複数の交通密度それぞれのパーセンタイル値を算出する第2の学習部を備え、
前記第2の予測アルゴリズムは、
前記所定の地点間の前記第1の時刻を基準として取得される第1の時間分の交通密度に基づいて、第1の平均交通密度を算出し、前記第1の平均交通密度と、前記複数の平均交通密度と、前記複数の平均交通密度それぞれのパーセンタイル値と、前記複数の交通密度それぞれのパーセンタイル値とに基づいて、前記第2の交通流特性を予測するアルゴリズムである、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記第1の交通流特性は、第1の交通密度であり、
前記判定部は、前記第1の交通密度が閾値以上であるか否かにより、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じているか否かを判定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記第1の交通流特性は、前記対象セルを走行する車両の第1の速度であり、
前記判定部は、前記第1の速度が閾値以下であるか否かにより、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じているか否かを判定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記第2の交通流特性は、第2の交通密度である、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項12】
道路を構成する複数のセルのうちの対象セルの第1の時刻における第1の交通流特性に基づいて、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じているか否かを判定することと、
前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じていると判定されたか否かに基づいて、前記対象セルの前記第1の時刻より後の第2の時刻における第2の交通流特性の予測アルゴリズムを決定し、決定した前記予測アルゴリズムにより前記第2の交通流特性を予測することと、
を含む、コンピュータにより実行される情報処理方法。
【請求項13】
コンピュータを、
道路を構成する複数のセルのうちの対象セルの第1の時刻における第1の交通流特性に基づいて、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じているか否かを判定する判定部と、
前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じていると判定されたか否かに基づいて、前記対象セルの前記第1の時刻より後の第2の時刻における第2の交通流特性の予測アルゴリズムを決定し、決定した前記予測アルゴリズムにより前記第2の交通流特性を予測する予測部と、
を備える情報処理装置として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、センサによって収集されたセンサデータに基づいて交通流をシミュレーションする技術として様々な技術が知られている。センサには、アンテナなども含まれ得る。
【0003】
交通流をシミュレーションする技術の例としては、特許文献1の段落0017~0019および段落0026~0037などに、過去の旅行時間統計データから旅行時間実測データの時間変動の傾向と時間変動の傾向が類似するデータを選択し、選択したデータに基づいて、将来の旅行時間を算出する技術が開示されている。
【0004】
また、交通流をシミュレーションする技術の他の例としては、特許文献2の段落0016~0017および段落0030~0037などに、突発事象(例えば、交通事故または交通規制など)が生じた地点を含む区間を予測対象区間とする技術が開示されている。かかる技術では、単位長さを各々が有する複数のブロックに予測対象区間が分割され、蓄積した過去の交通密度と交通量とから各ブロックの交通密度が算出される。そして、交通密度を車両速度に変換することと、車両速度から旅行時間を算出することが可能であるため、各ブロックの旅行時間の加算によって、予測対象区間の旅行時間が算出され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-196238号公報
【特許文献2】特開2007-219633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1に記載された技術は、渋滞発生箇所がボトルネック部(例えば、道路の幅が急に狭くなっている箇所)などに限定される場合などには有効であると考えられる。しかし、突発事象が原因となって生じる渋滞のように、渋滞発生時刻または渋滞発生箇所が限定されない場合も想定され得る。かかる場合に、特許文献1に記載された技術では、過去の旅行時間統計データの中に旅行時間実測データと類似するデータが少ないため、将来の交通流の予測精度が向上しない可能性がある。
【0007】
また、特許文献2に記載された技術は、突発事象が生じた地点を含む予測対象区間に適用される予測方式が一律に変更される。しかし、突発事象による渋滞流部分と渋滞流部分以外の自由流部分とでは交通流の時間変化の傾向が異なる。さらに言えば、渋滞流部分の上流に位置する自由流部分と渋滞流部分の下流に位置する自由流部分とでも、交通流の時間変化の傾向は異なる。そのため、予測対象区間に適用される予測方式が一律に同じ予測方式に変更されてしまうと、将来の交通流の予測精度が向上しない可能性がある。
【0008】
そこで、より精度よく交通流を予測することを可能とする技術が提供されることが望まれる。より具体的に、突発事象による渋滞が発生しても、交通流特性に応じて渋滞が生じているかを判定し、渋滞が生じている場合に交通流の予測方式を変更することにより、より精度よく交通流を予測することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、道路を構成する複数のセルのうちの対象セルの第1の時刻における第1の交通流特性に基づいて、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じているか否かを判定する判定部と、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じていると判定されたか否かに基づいて、前記対象セルの前記第1の時刻より後の第2の時刻における第2の交通流特性の予測アルゴリズムを決定し、決定した前記予測アルゴリズムにより前記第2の交通流特性を予測する予測部と、を備える、情報処理装置が提供される。
【0010】
なお、前記第2の交通流特性の予測には、機械学習によって得られた学習済みモデルデータが用いられてもよい。
【0011】
前記予測部は、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じていると判定された場合には、前記予測アルゴリズムとして第1の予測アルゴリズムを決定し、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じていないと判定された場合には、前記予測アルゴリズムとして第1の予測アルゴリズムとは異なる第2の予測アルゴリズムを決定してもよい。
【0012】
前記判定部は、前記道路において発生したイベント情報に基づいて、前記第1の交通流特性に影響を与える所定のイベントが発生しているか否かを判定し、前記所定のイベントが発生している場合に、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じているか否かを判定してもよい。
【0013】
前記判定部は、前記所定のイベントが発生していない場合に、前記予測アルゴリズムとして前記第2の予測アルゴリズムを決定してもよい。
【0014】
前記判定部は、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じていないと判定した場合に、前記複数のセルのうち前記第1の時刻において渋滞が生じている1または複数の渋滞セルを基準とした所定の範囲内に前記対象セルが属するか否かを判定し、前記予測部は、前記対象セルが前記所定の範囲に属する場合に、前記予測アルゴリズムとして前記第1の予測アルゴリズムを決定してもよい。
【0015】
前記予測部は、前記対象セルが前記所定の範囲に属さない場合に、前記予測アルゴリズムとして前記第2の予測アルゴリズムを決定してもよい。
【0016】
前記情報処理装置は、前記対象セルを基準とした上流セルから前記対象セルを基準とした下流セルまでの各セルの第3の時刻における交通密度と、前記第3の時刻より後の第4の時刻における前記対象セルの交通密度との組み合わせをパターンとして取得する第1の学習部を備え、前記第1の予測アルゴリズムは、前記上流セルから前記下流セルまでの各セルの前記第1の時刻における交通密度と、前記パターンとに基づいて、前記第2の交通流特性を予測するアルゴリズムであってもよい。
【0017】
前記情報処理装置は、所定の地点間の第3の時刻を基準として取得される所定の時間分の交通密度に基づく複数の平均交通密度を算出し、前記複数の平均交通密度における前記複数の平均交通密度それぞれのパーセンタイル値を算出するとともに、前記第3の時刻における前記対象セルの複数の交通密度に基づいて、前記複数の交通密度における前記複数の交通密度それぞれのパーセンタイル値を算出する第2の学習部を備え、前記第2の予測アルゴリズムは、前記所定の地点間の前記第1の時刻を基準として取得される第1の時間分の交通密度に基づいて、第1の平均交通密度を算出し、前記第1の平均交通密度と、前記複数の平均交通密度と、前記複数の平均交通密度それぞれのパーセンタイル値と、前記複数の交通密度それぞれのパーセンタイル値とに基づいて、前記第2の交通流特性を予測するアルゴリズムであってもよい。
【0018】
前記第1の交通流特性は、第1の交通密度であり、前記判定部は、前記第1の交通密度が閾値以上であるか否かにより、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じているか否かを判定してもよい。
【0019】
前記第1の交通流特性は、前記対象セルを走行する車両の第1の速度であり、前記判定部は、前記第1の速度が閾値以下であるか否かにより、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じているか否かを判定してもよい。
【0020】
前記第2の交通流特性は、第2の交通密度であってもよい。
【0021】
また、上記課題を解決するために本発明の別の観点によれば、道路を構成する複数のセルのうちの対象セルの第1の時刻における第1の交通流特性に基づいて、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じているか否かを判定することと、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じていると判定されたか否かに基づいて、前記対象セルの前記第1の時刻より後の第2の時刻における第2の交通流特性の予測アルゴリズムを決定し、決定した前記予測アルゴリズムにより前記第2の交通流特性を予測することと、を含む、コンピュータにより実行される情報処理方法が提供される。
【0022】
また、上記課題を解決するために本発明の別の観点によれば、コンピュータを、道路を構成する複数のセルのうちの対象セルの第1の時刻における第1の交通流特性に基づいて、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じているか否かを判定する判定部と、前記第1の時刻における前記対象セルに渋滞が生じていると判定されたか否かに基づいて、前記対象セルの前記第1の時刻より後の第2の時刻における第2の交通流特性の予測アルゴリズムを決定し、決定した前記予測アルゴリズムにより前記第2の交通流特性を予測する予測部と、を備える情報処理装置として機能させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明によれば、より精度よく交通流を予測することを可能とする技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る交通流予測装置1の機能構成例を示す図である。
図2】学習部141の詳細な構成例を示す図である。
図3】推論部142の詳細な構成例を示す図である。
図4】マスタデータ記憶部126によって記憶されるマスタデータの例を示す図である。
図5】学習パラメータ記憶部127によって記憶される学習パラメータの例を示す図である。
図6】フリーフローデータ記憶部123によって記憶されるフリーフローデータの例を示す図である。
図7】プローブデータ記憶部122によって記憶されるプローブデータの例を示す図である。
図8】交通密度(K)と速度(V)との組とKV関係式とを示す図である。
図9】学習パラメータ記憶部127に保存されるKVパラメータの構成例を示す図である。
図10】KVパラメータ作成部1411によって実行されるKVパラメータ作成処理の例を示すフローチャートである。
図11】推定地点に到達した車両の計測地点における通過時刻の算出例を説明するための図である。
図12】計測地点における交通量から推定地点における交通量を算出する例を説明するための図である。
図13】交通密度算出部1412によって実行される交通密度算出処理の例を示すフローチャートである。
図14】学習に用いられる交通密度データを模式的に示した図である。
図15】パーセンタイル学習の概要を説明するための図である。
図16】学習モデルデータ730の例としての平均交通密度パーセンタイルデータ731の例を示す図である。
図17】学習モデルデータ730の例としてのメッシュ交通密度パーセンタイルデータ732の例を示す図である。
図18】パーセンタイル学習部1414によるパーセンタイル学習の動作の例を示すフローチャートである。
図19】交通密度パターン学習の概要を説明するための図である。
図20】交通密度パターンと対象セルの次時刻交通密度とが対応付けられたパターンの例を示す図である。
図21】交通密度パターン学習部1413による交通密度パターン学習の動作の例を示すフローチャートである。
図22】予測対象の交通密度および速度を模式的に示した図である。
図23】パーセンタイル予測の適用範囲とパターンマッチ予測の適用範囲が模式的に表された図である。
図24】本発明の実施形態に係るパーセンタイル予測部1424によるパーセンタイル予測の動作の例を示すフローチャートである。
図25】本発明の実施形態に係るパターンマッチ予測部1423によるパターンマッチ予測の動作の例を示すフローチャートである。
図26】推論部142によって実行される交通流予測処理の例を示すフローチャートである。
図27】本発明の実施形態の変形例に係る推論部142による交通流の予測動作の例を示すフローチャートである。
図28】本発明の実施形態に係る交通流予測による予測結果と、比較例に係る交通流予測による予測結果とを比較して示す図である。
図29】本発明の実施形態に係る交通流予測装置1の例としての情報処理装置900のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0026】
(1.実施形態の詳細)
以下では、本発明の実施形態の詳細について説明する。
【0027】
(1-1.交通流予測装置の構成)
まず、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1の構成例について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1の機能構成例を示す図である。なお、交通流予測装置1は、情報処理装置の例に該当し得る。
【0028】
図1を参照すると、道路上を走行する車両の例として、車両M1~M3が示されている。さらに、図1を参照すると、奥側の車線を、車両M1と車両M2とが走行しており(車両M2に続いて車両M1が走行しており)、手前側の車線を、奥側の車線の車両M1および車両M2とは逆向きに車両M3が走行している。このように、本発明の実施形態では、道路が複数車線によって構成される場合を主に想定するが、道路は1つの車線によって構成されていてもよい。車両M1~M3それぞれは、車載器を搭載している。なお、車線は、「レーン」とも換言され得る。
【0029】
交通流予測装置1は、イベント情報入力部150を備える。また、交通流予測装置1は、イベント情報記憶部120と、走行履歴データ記憶部121と、プローブデータ記憶部122と、フリーフローデータ記憶部123と、交通量データ記憶部124と、交通密度データ記憶部125と、マスタデータ記憶部126と、学習パラメータ記憶部127と、予測結果記憶部128とを備える。
【0030】
また、交通流予測装置1は、統計処理部131と、交通量算出部133と、処理部140とを備える。処理部140は、学習部141と、推論部142とを備える。
【0031】
図2は、学習部141の詳細な構成例を示す図である。図2に示されるように、学習部141は、KVパラメータ作成部1411と、交通密度算出部1412と、交通密度パターン学習部1413と、パーセンタイル学習部1414とを備える。学習部141が備えるこれらのブロックは、学習段階において主に動作する。学習部141が備えるこれらのブロックの詳細な機能については、後に説明する。
【0032】
図3は、推論部142の詳細な構成例を示す図である。図3に示されるように、推論部142は、判定部1421と、予測部1422とを備える。また、予測部1422は、パターンマッチ予測部1423と、パーセンタイル予測部1424とを備える。推論部142が備えるこれらのブロックは、推論段階において主に動作する。推論部142が備えるこれらのブロックの詳細な機能については、後に説明する。
【0033】
走行履歴データ記憶部121には、プローブアンテナ112が接続されており、フリーフローデータ記憶部123には、フリーフローアンテナ114が接続されている。
【0034】
統計処理部131と、交通量算出部133と、処理部140とは、CPU(Central Processing Unit)またはGPU(Graphics Processing Unit)などの演算装置を含み、ROM(Read Only Memory)により記憶されているプログラムが演算装置によりRAMに展開されて実行されることにより、その機能が実現され得る。このとき、当該プログラムを記録した、コンピュータに読み取り可能な記録媒体も提供され得る。
【0035】
あるいは、統計処理部131と、交通量算出部133と、処理部140とは、専用のハードウェアにより構成されていてもよいし、複数のハードウェアの組み合わせにより構成されてもよい。演算装置による演算に必要なデータは、図示しない記憶部によって適宜記憶される。
【0036】
走行履歴データ記憶部121と、プローブデータ記憶部122と、フリーフローデータ記憶部123と、交通量データ記憶部124と、交通密度データ記憶部125と、マスタデータ記憶部126と、学習パラメータ記憶部127と、予測結果記憶部128とは、図示しない記憶部によって実現される。かかる記憶部は、RAM(Random Access Memory)、ハードディスクドライブまたはフラッシュメモリなどのメモリによって構成されてよい。
【0037】
(マスタデータ記憶部126)
マスタデータ記憶部126は、各種のマスタデータをあらかじめ記憶している。マスタデータは、交通流予測装置1にユーザから入力されて交通流予測装置1によって管理されるデータである。ここで、図4を参照しながら、マスタデータの例について説明する。
【0038】
図4は、マスタデータ記憶部126によって記憶されるマスタデータの例を示す図である。図4に示されるように、マスタデータ記憶部126は、走行履歴時間幅611、走行履歴区間幅612、シミュレーション実行時間間隔621、シミュレーション実行セル幅622、混雑流判定速度641および渋滞波伝搬速度645それぞれをマスタデータの例として記憶している。これらのマスタデータの詳細については、後に説明する。
【0039】
(学習パラメータ記憶部127)
学習パラメータ記憶部127は、各種の学習パラメータを記憶し得る。学習パラメータは、学習によって得られるパラメータであり、学習段階において学習パラメータ記憶部127に記憶される。また、推論段階において学習パラメータ記憶部127から取得される。ここで、図5を参照しながら、学習パラメータ記憶部127によって記憶される学習パラメータの例について説明する。
【0040】
図5は、学習パラメータ記憶部127によって記憶される学習パラメータの例を示す図である。図5に示されるように、学習パラメータ記憶部127は、KVパラメータ710、交通密度パターン720および学習モデルデータ730それぞれを学習パラメータの例として記憶し得る。これらの学習パラメータの詳細については、後に説明する。
【0041】
(イベント情報入力部150)
イベント情報入力部150は、道路上に突発事象(以下、「イベント」とも言う)が生じるイベント発生時刻およびイベント発生箇所をイベント情報としてユーザから受け付ける。ここで、イベントの種類は限定されない。例えば、イベントは、道路における地点に渋滞を生じさせる可能性がある何らかの突発的な事象でよく、交通事故、交通規制、路上障害物の存在、または、工事の予定などであってもよい。
【0042】
例えば、イベント情報入力部150は、マウスまたはキーボードなどといった入力デバイスによって構成されてよい。しかし、イベント情報入力部150は、他の入力デバイスによって構成されてもよい。例えば、イベント情報入力部150は、タッチパネルまたはボタンなどによって構成されてもよい。
【0043】
例えば、道路の起点「A地点」と、道路の起点「A地点」からの距離「24km」とがイベント発生箇所としてユーザから入力されたと仮定する。また、シミュレーション実行セル幅622が「200m」であると仮定する。セルは、道路が論理的に複数のブロックに等間隔に分割された場合における各々のブロックに該当し、シミュレーション実行セル幅622は、1つのセルの幅である。このとき、道路の起点「A地点」から(24km/200m=)120番目のセルが、イベント発生箇所として指定される。
【0044】
イベント情報入力部150によってユーザから受け付けられたイベント情報は、イベント情報記憶部120に出力される。
【0045】
なお、イベント情報入力部150は、所定の格納場所(例えば、イベント情報を含んだWebページなど)からイベント情報を取得してもよい。あるいは、イベント情報入力部150は、交通量データ記憶部124に記憶されている交通量データと、プローブデータ記憶部122に記憶されているプローブデータとに基づいて、イベントが生じているか否かを、時刻ごと、かつ、セルごとに推定してもよい。
【0046】
(イベント情報記憶部120)
イベント情報記憶部120は、イベント情報入力部150から出力されたイベント情報を記憶する。
【0047】
(フリーフローアンテナ114)
フリーフローアンテナ114は、道路上の各位置を走行する車両の検出を行う車両検出部の一例として機能する。すなわち、本発明の実施形態では、車両検出部が、フリーフローアンテナ114を含む場合を主に想定する。これによって、既に構築されているETC(Electronic Toll Collection)システムのETCフリーフローアンテナが車両検出部として用いられ得るため、新たに車両検出部を設ける必要がない。しかし、フリーフローアンテナ114の代わりに、他の車両検出部(例えば、車両感知器、赤外線センサまたは超音波センサなど)が用いられてもよい。
【0048】
より詳細には、フリーフローアンテナ114は、車両に搭載された車載器との間の通信によって車両から車両の識別情報(車両ID)を受信することによって車両をリアルタイムに検出する。本発明の実施形態では、車載器の例として、ETC車載器が用いられる場合を主に想定する。なお、フリーフローアンテナ114は、複数のバージョンのETC車載器に対応している場合が想定される一方、後に説明するプローブアンテナ112は、特定のバージョンのETC車載器にしか対応していない場合が想定される。すなわち、フリーフローアンテナ114は、プローブアンテナ112よりも、より多くの車両を検出し得る。
【0049】
なお、フリーフローアンテナ114によって車両が検出される道路上の「各位置」は、車両検出部によって検出可能な車両の位置であれば、特に限定されない。以下では、フリーフローアンテナ114によって車両が検出され得る道路上の各位置を、単に「フリーフローアンテナ位置」と言う場合がある。
【0050】
フリーフローアンテナ114は、車両に搭載された車載器との間の通信によって車両IDを受信することによって車両をリアルタイムに検出すると、車両の検出結果(以下、「フリーフローデータ」とも言う。)をフリーフローデータ記憶部123にリアルタイムに出力する。そして、フリーフローアンテナ114からフリーフローデータ記憶部123にリアルタイムに出力された車両の検出結果は、交通量算出部133によって、リアルタイムに利用され得る。
【0051】
ここで、「リアルタイム」は、フリーフローアンテナ位置に車両が到達してから道路上の交通状態が変化してしまう前までの短時間のいずれかのタイミングを意味し得る。このタイミングに車両が検出されれば、道路上の交通状態が変化してしまう前に、車両が検出された時点の交通状態に応じた何らかの措置が講じられ得る。
【0052】
(フリーフローデータ記憶部123)
図6は、フリーフローデータ記憶部123によって記憶されるフリーフローデータの例を示す図である。フリーフローデータは、フリーフローアンテナ位置を走行する車両の検出結果に該当する。図6に示されるように、フリーフローデータは、「車両ID」と「通過時刻」とが対応付けられてなる。「車両ID」は、フリーフローアンテナ114と車両に搭載された車載器との間の通信によって車両からフリーフローアンテナ114によって受信された車両の識別情報である。「通過時刻」は、フリーフローアンテナ114によって車両から車両IDが受信された時刻であり、フリーフローアンテナ位置を車両が通過した時刻に相当し得る。
【0053】
(交通量算出部133)
交通量算出部133は、フリーフローデータをフリーフローデータ記憶部123から取得する。そして、交通量算出部133は、フリーフローデータ(車両IDおよび通過時刻)に基づいて、あらかじめ設定された単位時間あたりにフリーフローアンテナ位置を通過した車両の数(換言すると、フリーフローアンテナ114によって単位時間あたりに検出された車両IDの数)を、フリーフローアンテナ位置の交通量として算出する。交通量算出部133による交通量の算出は、単位時間ごとに繰り返し行われればよい。
【0054】
なお、フリーフローアンテナ位置を通過した全部の車両に、フリーフローアンテナ114と通信可能な車載器が搭載されているとは限らない。そのため、フリーフローアンテナ114によってフリーフローアンテナ位置を通過した全部の車両が検出されるとは限らない。したがって、フリーフローアンテナ114と通信可能な車載器が搭載された車両の、(フリーフローアンテナ114と通信可能な車載器が搭載されていない車両を含んだ)車両全体に対する割合を「車載器搭載割合」としてあらかじめ設定し、フリーフローアンテナ114によって検出された車両の数を「検出車両数」とした場合、交通量算出部133は、下記の式(1)によって、フリーフローアンテナ位置の交通量をより高精度に推定するのが望ましい。
【0055】
(交通量の推定値)=(検出車両数)÷(車載器搭載割合)・・・(1)
【0056】
しかし、フリーフローアンテナ114と通信可能な車載器が十分に普及している場合などには、かかる推定は省略されてもよい。交通量算出部133によって推定された交通量と、その交通量に対応する時間の終端である計測時刻と、その交通量に対応するフリーフローアンテナ位置とは、交通量データとして交通量が推定される度に交通量データ記憶部124に出力される。
【0057】
(交通量データ記憶部124)
交通量データ記憶部124は、交通量算出部133から出力された交通量データを記憶する。
【0058】
(プローブアンテナ112)
プローブアンテナ112は、車両の走行履歴データを取得する走行履歴データ取得部の一例として機能する。すなわち、本発明の実施形態では、走行履歴データ取得部が、プローブアンテナ112を含む場合を主に想定する。これによって、既に構築されているETCシステムのETCプローブアンテナが走行履歴データ取得部として用いられ得るため、新たに走行履歴データ取得部を設ける必要がない。しかし、プローブアンテナ112の代わりに、他の走行履歴データ取得部(例えば、携帯基地局など)が用いられてもよい。
【0059】
より詳細に、プローブアンテナ112は、車両に搭載された車載器との間の通信によって車両から走行履歴データを取得すると、取得した走行履歴データを走行履歴データ記憶部121に出力する。
【0060】
(走行履歴データ記憶部121)
走行履歴データ記憶部121は、プローブアンテナ112から出力された走行履歴データを記憶する。走行履歴データ記憶部121によって記憶されている走行履歴データは、統計処理部131によって利用され得る。
【0061】
なお、走行履歴データは、走行履歴区間幅612(例えば、100m)にて規定された道路上の区間(キロポスト間)ごと、かつ、走行履歴時間幅611(例えば、1分間)ごとに走行した各車両の速度と、プローブアンテナ112によって速度が収集された時刻である収集時刻とを含む。
【0062】
(統計処理部131)
統計処理部131は、走行履歴データ記憶部121から走行履歴データを取得し、走行履歴データに対して統計処理を施し、統計処理後の走行履歴データをプローブデータとしてプローブデータ記憶部122に出力する。そして、統計処理部131からプローブデータ記憶部122に出力されたプローブデータは、学習部141によって主に利用され得る。
【0063】
例えば、統計処理部131は、道路上の区間(キロポスト間)ごと、かつ、走行履歴時間幅611ごとに、走行した1または複数の車両の速度に対して所定の統計処理(例えば、平均化処理など)を施す。これによって、道路上の各区間における走行履歴時間幅611ごとの車両速度の統計量が得られる。なお、平均化処理の例としては、調和平均を取る処理などが挙げられる。
【0064】
(プローブデータ記憶部122)
図7は、プローブデータ記憶部122によって記憶されるプローブデータの例を示す図である。図7に示されるように、プローブデータは、「通過時刻」と「キロポスト」と「速度」と「収集時刻」とが対応付けられてなる。
【0065】
「通過時刻」は、道路の起点からの距離標(キロポスト)を車両が通過した時間の終端時刻である。例えば、「通過時刻:2019年01月01日10時24分」は、距離標(キロポスト)を車両が通過した時間の終端時刻が「2019年01月01日10時24分」であることを示す。「キロポスト」は、道路の起点からの距離標である。
【0066】
「速度」は、道路上の各区間(キロポスト間)を走行履歴時間幅611(通過時刻間)ごとに走行した1または複数の車両速度の統計量(例えば、平均速度)である。例えば、「速度:80km/h」は、「キロポスト:100」から「キロポスト:100.1」までを、「通過時刻:2019年01月01日10時23分」から「2019年01月01日10時24分」までに走行した1または複数の車両の速度の統計量である。
【0067】
「収集時刻」は、プローブアンテナ112によって車両の速度が収集された時刻である。
【0068】
(KVパラメータ作成部1411)
KVパラメータ作成部1411は、所定期間ごとに、プローブデータ記憶部122からフリーフローアンテナ位置ごとの所定期間分の速度および通過時刻を取得する。さらに、KVパラメータ作成部1411は、所定期間ごとに、交通量データ記憶部124からフリーフローアンテナ位置ごとの所定期間分の交通量データ(交通量および計測時刻)を取得する。
【0069】
KVパラメータ作成部1411は、所定期間分の交通量および計測時刻と、当該所定期間分の速度および通過時刻とに基づいて、機械学習により交通密度(K)と速度(V)との対応関係(以下の例では、近似式)を示すパラメータをフリーフローアンテナ位置ごとに作成する。
【0070】
より詳細には、KVパラメータ作成部1411は、同一の時刻および同一のフリーフローアンテナ位置に対応する交通量(Q)と速度(V)とを対応付ける。そして、KVパラメータ作成部1411は、下記の式(2)によって、対応付けられた交通量(Q)および速度(V)ごとに、交通密度(K)を算出する。
【0071】
K=Q×1/(V×60)・・・(2)
【0072】
ただし、Kは、交通密度(台/km)を示し、Qは、交通量(台/分)を示し、Vは、速度(km/時間)を示す。KVパラメータ作成部1411は、対応する交通密度(K)と速度(V)との組を所定の関係で近似し、近似によって得られた近似式(KV関係式)のパラメータをKVパラメータとして作成する。
【0073】
ここでは、KVパラメータ作成部1411が、渋滞流に対応する近似式のパラメータを作成する場合を想定する。より詳細に、KVパラメータ作成部1411は、混雑流判定速度641(例えば、高速道では55km/hなど)以下の速度(V)とその速度(V)に対応する交通密度(K)との組を所定の関係で近似することによって、渋滞流に対応するKV関係式のパラメータを作成する。例えば、渋滞流に対応するKV関係式は、下記の式(3)によって表現される指数関数であってよい。
【0074】
V=a×exp(-b×K)・・・(3)
【0075】
ただし、Kは、交通密度(台/km)を示し、Vは、速度(km/時間)を示し、aおよびbは、KVパラメータである。なお、本明細書において、混雑流は、渋滞流に包含される概念として使用されており、渋滞流の中でも速度がある値より大きい状態を意味し得る。
【0076】
図8は、交通密度(K)と速度(V)との組とKV関係式とを示す図である。図8に示された例において、横軸は、交通密度(K)を示しており、縦軸は、速度(V)を示している。かかるKV図において、交通密度(K)と速度(V)とが対応付けられた各組が、各点としてプロットされている。また、図8を参照すると、これらの組を近似して得られるKV関係式を示す指数関数が示されている。
【0077】
KVパラメータ作成部1411は、作成したKVパラメータを、KVパラメータ710として学習パラメータ記憶部127に保存する。なお、典型的には、所定期間は、1カ月であってよい。しかし、所定期間は、1カ月に限定されない。例えば、所定期間は、1日であってもよい。
【0078】
図9は、学習パラメータ記憶部127に保存されるKVパラメータの構成例を示す図である。図9に示されるように、KVパラメータは、「パラメータa」および「パラメータb」を含む。さらに、「パラメータa」および「パラメータb」は、道路形状および車線数などにより異なることが想定されるため、車両検知位置ごと(フリーフローアンテナ位置ごと)に作成されるのが望ましい。
【0079】
そこで、図9に示されるように、「パラメータa」および「パラメータb」には、「路線コード」および「車両検知位置ID」が対応付けられているのが望ましい。なお、「路線コード」は、路線(起点から終点までの道路)を識別するためのコードである。車両検知位置IDは、フリーフローアンテナ位置を識別するためのコードである。
【0080】
また、学習パラメータ記憶部127には、車線数に応じた標準的なKVパラメータがさらに記憶されていてもよい。例えば、フリーフローアンテナ位置の車線数が取得されれば、その車線数に応じた標準的なKVパラメータが、そのフリーフローアンテナ位置に対応するKVパラメータの初期値として用いられてもよい。
【0081】
図10は、KVパラメータ作成部1411によって実行されるKVパラメータ作成処理の例を示すフローチャートである。まず、KVパラメータ作成部1411は、プローブデータ記憶部122に記憶されているプローブデータからフリーフローアンテナ位置ごとの所定期間分の速度および通過時刻を取得する(S11)。また、KVパラメータ作成部1411は、交通量データ記憶部124からフリーフローアンテナ位置ごとの所定期間分の交通量データ(交通量および計測時刻)を取得する(S12)。
【0082】
KVパラメータ作成部1411は、同一の時刻および同一のフリーフローアンテナ位置に対応する交通量(Q)と速度(V)とを対応付ける。そして、KVパラメータ作成部1411は、対応付けられた交通量(Q)および速度(V)ごとに、交通密度(K)を算出する(S13)。
【0083】
KVパラメータ作成部1411は、交通密度(K)と速度(V)との関係を示すKV関係式のパラメータを機械学習により作成する(S14)。より詳細に、KVパラメータ作成部1411は、対応する交通密度(K)と速度(V)との組を所定の関係(例えば、指数関数など)で近似し、近似によって得られたKV関係式のパラメータをKVパラメータとして作成する。ここでは、KVパラメータ作成部1411は、渋滞流に対応する近似式のパラメータを作成する場合を想定する。
【0084】
KVパラメータ作成部1411は、作成したKVパラメータをKVパラメータ710として、学習パラメータ記憶部127に保存する(S15)。
【0085】
(交通密度算出部1412)
交通密度算出部1412は、あらかじめ設定されたシミュレーション実行時間間隔621(例えば、5分間隔など)で、交通密度の算出に用いたプローブデータの前回の取得時刻よりも後の時刻に記憶された、区間ごとの速度および通過時刻をプローブデータ記憶部122から取得する。また、交通密度算出部1412は、シミュレーション実行時間間隔621で、交通密度の算出に用いた交通量データの前回の取得時刻よりも後の時刻に記憶された、フリーフローアンテナ位置ごとの交通量データ(交通量および計測時刻)を交通量データ記憶部124から取得する。
【0086】
交通密度算出部1412は、少なくとも速度に基づく交通密度の算出を区間ごとに行う。ここで、各区間における交通密度は、具体的にどのようにして算出されてもよい。
【0087】
例えば、交通密度算出部1412は、学習パラメータ記憶部127からKVパラメータを取得し、道路上のある対象区間における交通密度を、その対象区間における速度と、KVパラメータによって規定されるKV関係式とに基づいて算出してもよい。
【0088】
より詳細に、交通密度算出部1412は、渋滞流である区間、すなわち、速度が混雑流判定速度641(閾値)以下である対象区間における交通密度を、その対象区間における速度とKV関係式とに基づいて算出してもよい。
【0089】
また、交通密度算出部1412は、道路上の対象区間に応じた地点を推定地点とし、対象区間における交通密度を、推定地点における交通量および対象区間における速度に基づいて算出してもよい。例えば、推定地点は、対象区間の起点などであってよい。
【0090】
より詳細に、交通密度算出部1412は、速度が混雑流判定速度641を上回る対象区間における交通密度を、推定地点における交通量および対象区間における速度に基づいて算出してもよい。例えば、交通密度算出部1412は、推定地点における交通量を、交通量算出部133によって算出された計測地点における交通量と、計測地点からその対象区間までの区間ごとの速度とに基づいて算出し得る。例えば、計測地点は、対象区間から上流のフリーフローアンテナ位置(例えば、対象区間から最も近い上流のフリーフローアンテナ位置など)であってよい。
【0091】
図11および図12を参照しながら、推定地点における交通量および対象区間における速度に基づいて対象区間における交通密度を算出する手法の例について説明する。
【0092】
図11は、推定地点に到達した車両の計測地点における通過時刻の算出例を説明するための図である。図11に示された例において、横軸は、道路上における距離(右方向が道路の下流方向)を示し、縦軸は、時刻(下方向が時間の経過方向)を示す。プローブデータにおける区間(キロポスト間)および単位時間(すなわち、通過時刻から当該通過時刻の直前の通過時刻までの時間)に対応する速度が、その区間および単位時間に対応する矩形(時空間範囲)内の色の濃さによって示されている。この例では、矩形内の色が濃いほど速度が低くなっている。
【0093】
交通密度算出部1412は、それぞれの区間および単位時間に対応する速度に基づいて、推定地点および推定地点における通過時刻から、上流および過去に向かって計測地点までの軌跡を算出する。より詳細に、交通密度算出部1412は、推定地点および推定地点における時刻から、それぞれの区間および単位時間に対応する速度に応じた傾きの直線によって矩形内を移動し、矩形の境界においては隣接し合う矩形間を移動するように軌跡を算出する。
【0094】
これによって、交通密度算出部1412は、軌跡が到達した計測地点における時刻を、計測地点における通過時刻として得ることができる。図11を参照すると、2台の車両の軌跡が描かれている。ここで、2台の車両の推定地点への到達時刻間における交通量と、その2台の車両の計測地点における通過時刻間における交通量とは一致すると見なされ得る。
【0095】
図12は、計測地点における交通量から推定地点における交通量を算出する例を説明するための図である。図12を参照すると、推定地点への到達時刻間における交通量Qと、計測地点における通過時刻間における交通量Q’とが示されている。ここで、計測地点における通過時刻間における交通量は、交通量データ記憶部124に保存されている。したがって、交通密度算出部1412は、交通量データ記憶部124から計測地点における通過時刻間における交通量Q’を取得し得る。
【0096】
交通密度算出部1412は、計測地点における通過時刻間における交通量Q’から、推定地点への到達時刻差と計測地点における通過時刻差との比によって、推定地点における交通量を算出し得る。例えば、計測地点における通過時刻差をt1とし、推定地点への到達時刻差をt2とすると、交通密度算出部1412は、計測地点における通過時刻間における交通量Q’に対して、t1/t2を乗じることによって、推定地点における交通量Qを算出し得る。以下では、このように計測地点における交通量Q’から推定地点における交通量Qを算出する手法を「車両追跡」による交通量算出手法とも言う。
【0097】
図13は、交通密度算出部1412によって実行される交通密度算出処理の例を示すフローチャートである。まず、交通密度算出部1412は、あらかじめ設定されたシミュレーション実行時間間隔621で、交通密度の算出に用いたプローブデータの前回の取得時刻よりも後の時刻に記憶されたプローブデータ(区間ごとの速度および通過時刻)をプローブデータ記憶部122から取得する(S21)。
【0098】
また、交通密度算出部1412は、シミュレーション実行時間間隔621に、交通密度の算出に用いた交通量データの前回の取得時刻よりも後の時刻に記憶された、フリーフローアンテナ位置ごとの交通量データ(交通量および計測時刻)を交通量データ記憶部124から取得する(S22)。交通密度算出部1412は、対象区間の速度が渋滞流の速度、すなわち、混雑流判定速度641以下の速度であるかを判定する(S23)。
【0099】
交通密度算出部1412は、対象区間の速度が渋滞流の速度(すなわち、混雑流判定速度641以下である速度)である場合(S23において「YES」)、その対象区間における速度とKV関係式とに基づいてその対象区間における交通密度を算出する(S24)。
【0100】
一方、交通密度算出部1412は、対象区間の速度が自由流の速度(すなわち、混雑流判定速度641を上回る速度)である場合(S23において「NO」)、車両追跡により計測地点における交通量を算出し、算出した計測地点における交通量と、計測地点からその対象区間までの区間ごとの速度とに基づいて、その対象区間における交通密度を算出する(S25)。交通密度算出部1412は、交通量の計測時刻と区間と交通密度とが対応付けられた交通密度データを、交通密度データ記憶部125に出力する。
【0101】
(交通密度データ記憶部125)
交通密度データ記憶部125は、交通密度算出部1412から出力された交通密度データを記憶する。
【0102】
(学習用の交通密度)
上記のようにして、時刻と区間と交通密度とが対応付けられた交通密度データが記憶される。以下の学習においては、時刻とセルと交通密度とが対応付けられた交通密度データが用いられる。
【0103】
ここで、区間の幅は、走行履歴区間幅612に規定されている。一方、セルの幅は、シミュレーション実行セル幅622に規定されている。
【0104】
セルの幅は、区間の幅と同じであってもよいし、区間の幅と異なっていてもよい。例えば、区間の幅が100mであるのに対し、セルの幅は500mなどであってもよい。この例のように、セルの幅が、区間の幅と異なる場合には、学習部141は、セルに属する複数の区間を特定し、当該複数の区間それぞれに対応する交通密度に対する統計処理を施し、統計処理後の交通密度を、セルに対応する交通密度として取得してもよい。
【0105】
区間に対応する時間間隔は、走行履歴時間幅611に規定されている。一方、セルに対応する時間間隔は、シミュレーション実行時間間隔621に規定されている。
【0106】
セルに対応する時間間隔は、区間に対応する時間間隔と同じであってもよいし、区間に対応する時間間隔と異なっていてもよい。例えば、区間に対応する時間間隔が1分であるのに対し、セルに対応する時間間隔は5分などであってもよい。この例のように、セルに対応する時間間隔が、区間に対応する時間間隔と異なる場合には、学習部141は、セルに対応する時間に属する、区間に対応する時間を特定し、特定した時間に対応する交通密度に対して統計処理を施し、統計処理後の交通密度を、セルに対応する時間の交通密度として取得してもよい。
【0107】
図14は、学習に用いられる交通密度データを模式的に示した図である。図14を参照すると、道路の上流側から下流側に向けて、セル1~nが示されている。セル1の上流端は、道路の起点であり、セルnの下流端は、道路の終点である。iは、1≦i≦Nを満たす任意の整数であり、セルiは、対象セルである。Δtは、セルに対応する時間間隔である。mは、1以上の整数である。
【0108】
また、図14を参照すると、時刻tにおける、セル1~nの交通密度K(t)~K(t)(台/km)が示されている。例えば、時刻tは、現在時刻であってよいが、時刻tは、現在時刻に限定されない。同様に、時刻t-Δtにおける、セル1~nの交通密度K(t-Δt)~K(t-Δt)が示され、時刻t-mΔtにおける、セル1~nの交通密度K(t-mΔt)~K(t-mΔt)が示されている。
【0109】
学習部141による学習においては、時刻t~t-mΔtと、セル1~Nと、交通密度Kとが対応付けられた交通密度データが用いられる。学習部141による学習の例としては、パーセンタイル学習部1414によるパーセンタイル学習と、交通密度パターン学習部1413による交通密度パターン学習とが挙げられる。以下では、このようなパーセンタイル学習と、交通密度パターン学習とについて説明する。
【0110】
(パーセンタイル学習部1414)
パーセンタイル学習部1414は、第2の学習部の例として機能し、パーセンタイル学習を行う。ここで、図15図17を参照しながら、パーセンタイル学習の概要について説明する。
【0111】
図15は、パーセンタイル学習の概要を説明するための図である。図15を参照すると、時刻と起点からの距離とに対応する速度が、時刻と起点からの距離とに対応する矩形領域の色の濃さによって示されている。起点からの距離は、セルに該当し得る。なお、以下においては、時刻と起点からの距離とに対応する矩形領域(時空間範囲)を「メッシュ」とも言う。
【0112】
例えば、パーセンタイル学習によれば、起点からの距離C1における交通密度の時間変化G1が、学習モデルデータ730の例として、学習パラメータ記憶部127に記憶される。同様に、起点からの距離C2における交通密度の時間変化G2が、学習モデルデータ730の例として、学習パラメータ記憶部127に記憶され、起点からの距離C3における交通密度の時間変化G3が、学習モデルデータ730の例として、学習パラメータ記憶部127に記憶される。
【0113】
図16は、学習モデルデータ730の例としての平均交通密度パーセンタイルデータ731の例を示す図である。図16に示されるように、平均交通密度パーセンタイルデータ731は、「地点間」と「時刻」と「平均交通密度」と「平均交通密度学習パーセンタイル値」とが対応付けられて構成される。平均交通密度パーセンタイルデータ731に含まれるこれらの各項目については、図18を参照しながら説明する。
【0114】
図17は、学習モデルデータ730の例としてのメッシュ交通密度パーセンタイルデータ732の例を示す図である。図17に示されるように、メッシュ交通密度パーセンタイルデータ732は、「セル」と「時刻」と「交通密度」と「メッシュ交通密度学習パーセンタイル値」とが対応付けられて構成される。メッシュ交通密度パーセンタイルデータ732に含まれるこれらの各項目については、図18を参照しながら説明する。
【0115】
図18は、パーセンタイル学習部1414によるパーセンタイル学習の動作の例を示すフローチャートである。図18を参照しながら、パーセンタイル学習部1414によるパーセンタイル学習の動作の例について説明する。
【0116】
まず、パーセンタイル学習部1414は、あらかじめ設定された学習時刻に現在時刻(第3の時刻)が達すると、交通密度データ記憶部125から、現在時刻を基準とした所定の対象時間分の交通密度データを、新規の交通密度データとして取得する(S31)。新規の交通密度データは、まだ学習に用いられていない交通密度データである。なお、基準となる第3の時刻は、現在時刻でなくてもよい。基準となる第3の時刻は、過去の時刻であってもよい。
【0117】
例えば、学習時刻は、毎週月曜日の2時であってもよい。このとき、所定の対象時間は、1週間であってよい。しかし、学習時刻および所定の対象時間それぞれの具体的な値は限定されない。また、以下では、現在時刻を基準とした所定の対象時間が、現在時刻から所定の対象時間だけ遡った時刻を開始時点とし、現在時刻を終了時点とした時間である場合を主に想定する。しかし、現在時刻を基準とした所定の対象時間は、かかる時間に限定されない。
【0118】
パーセンタイル学習部1414は、交通密度データ記憶部125から取得した新規の交通密度データに基づいて、あらかじめ設定された二つの地点間ごとのあらかじめ設定された処理対象時間幅の平均交通密度を、あらかじめ設定された処理時間間隔で算出する(S32)。パーセンタイル学習部1414は、平均交通密度の算出に用いられた交通密度に対応する「地点間」および「時刻」と、平均交通密度とを対応付けて学習パラメータ記憶部127に記憶させる。
【0119】
例えば、地点間は、二つのインターチェンジ間であってもよい。しかし、二つの地点間は、かかる例に限定されない。また、処理対象時間幅は、計測時刻から所定の時間幅(例えば、30分など)だけ遡った時刻から計測時刻までの時間幅であってもよい。しかし、処理対象時間幅は、かかる例に限定されない。また、処理時間間隔は、5分間隔であってもよい。しかし、処理時間間隔は、かかる例に限定されない。
【0120】
なお、平均交通密度パーセンタイルデータ731(図16)では、「地点間」に、平均交通密度の算出に用いられた交通密度に対応するセルの例として、対象セルiが属する「セルh~j」が記録されている。また、「時刻」に、平均交通密度の算出に用いられた交通密度に対応する時間の例として、現在時刻tが記録されている。また、「平均交通密度」に、「32台/km」「40台/km」が記録されている。
【0121】
パーセンタイル学習部1414は、地点間が同一、かつ、時間が同一、かつ、当該時間が属する日の種類が同一である平均交通密度が同じグループになるように平均交通密度を分類する。日の種類は、曜日であってもよいし、曜日属性(例えば、平日、休前日、3連休初日など)であってもよい。そして、パーセンタイル学習部1414は、グループごとに、平均交通密度の全体に対する各々の平均交通密度のパーセンタイル値(以下、「平均交通密度学習パーセンタイル値」とも言う。)を算出する(S34)。
【0122】
より具体的に、パーセンタイル学習部1414は、グループごとに、平均交通密度の全体を平均交通密度の小さい順に並び替える。そして、パーセンタイル学習部1414は、グループごとに、各々の平均交通密度に対して、平均交通密度の小さい順に平均交通密度学習パーセンタイル値を割り当てる。例えば、最も小さい平均交通密度に対しては、0パーセンタイル値、最も大きい平均交通密度に対しては、100パーセンタイル値、中央値を取る平均交通密度に対しては、50パーセンタイル値が割り当てられる。
【0123】
パーセンタイル学習部1414は、地点間と時刻と平均交通密度とに平均交通密度学習パーセンタイル値を対応付けて、学習パラメータ記憶部127に記憶させる(S35)。
【0124】
平均交通密度パーセンタイルデータ731(図16)では、「平均交通密度」=「32台/km」に対応する「平均交通密度学習パーセンタイル値」の例として、「32台/km」のパーセンタイル値「41」が記録されている。また、「平均交通密度」=「40台/km」に対応する「平均交通密度学習パーセンタイル値」の例として、「40台/km」のパーセンタイル値「42」が記録されている。
【0125】
さらに、パーセンタイル学習部1414は、交通密度データ記憶部125から取得した新規の交通密度データに基づいて、各々の交通密度(第1の交通密度)を、セルが同一、かつ、時刻が属する日の種類が同一である交通密度が同じグループになるように分類する。そして、パーセンタイル学習部1414は、グループごとに、交通密度の全体に対する各々の交通密度のパーセンタイル値(以下、「メッシュ交通密度学習パーセンタイル値」とも言う。)を算出する(S36)。
【0126】
パーセンタイル学習部1414は、地点間と時刻と平均交通密度と平均交通密度学習パーセンタイル値とに、セルとメッシュ交通密度学習パーセンタイル値とを対応付けて、学習パラメータ記憶部127に記憶させる。
【0127】
メッシュ交通密度パーセンタイルデータ732(図17)では、「交通密度」=「34台/km」に対応する「メッシュ交通密度学習パーセンタイル値」の例として、「34台/km」のパーセンタイル値「38」が記録されている。また、「交通密度」=「38台/km」に対応する「メッシュ交通密度学習パーセンタイル値」の例として、「38台/km」のパーセンタイル値「40」が記録されている。
【0128】
(交通密度パターン学習部1413)
交通密度パターン学習部1413は、第1の学習部の例として機能し、交通密度パターン学習を行う。ここで、図19図20を参照しながら、交通密度パターン学習の概要について説明する。
【0129】
図19は、交通密度パターン学習の概要を説明するための図である。図19を参照すると、図15と同様に、時刻と起点からの距離とに対応する速度が、時刻と起点からの距離とに対応する矩形領域の色の濃さによって示されている。起点からの距離は、セルに該当し得る。
【0130】
例えば、交通密度パターン学習によれば、ある時刻における、あるセルの2つ上流のセルの交通密度h11から、当該時刻における当該セルの4つ下流のセルの交通密度h17までの複数の交通密度によって構成される交通密度パターンと、当該時刻の次時刻における当該セルの交通密度h23とが対応付けられたパターンH1が、学習パラメータ記憶部127に記憶される。
【0131】
同様に、交通密度パターン学習によれば、他の時刻における他のセルの2つ上流のセルの交通密度から、当該時刻における当該セルの4つ下流のセルの交通密度までの複数の交通密度によって構成される交通密度パターンと、当該時刻の次時刻における当該セルの交通密度とが対応付けられたパターンH2~H4が、学習パラメータ記憶部127に記憶される。
【0132】
なお、図19に示された例では、交通密度パターン(交通密度h11~h17)が7つのセルに対応する交通密度を含んで構成されている。しかし、交通密度パターンが含む交通密度の数は、7つに限定されない。
【0133】
図20は、交通密度パターンと対象セルの次時刻交通密度とが対応付けられたパターンの例を示す図である。図20に示されるように、学習パラメータ記憶部127に記憶されるパターンは、セルの次時刻交通密度と、交通密度パターン(当該セルの2つ上流のセルの交通密度から、当該セルの4つ下流のセルの交通密度までの複数の交通密度)とが対応付けられて構成される。このようなパターンの詳細については、図21を参照しながら説明する。
【0134】
図21は、交通密度パターン学習部1413による交通密度パターン学習の動作の例を示すフローチャートである。図21を参照しながら、交通密度パターン学習部1413による交通密度パターン学習の動作の例について説明する。
【0135】
まず、交通密度パターン学習部1413は、あらかじめ設定された学習時刻に現在時刻(第3の時刻)が達すると、交通密度データ記憶部125から、現在時刻を基準とした所定の対象時間分の交通密度データを、新規の交通密度データとして取得する(S41)。新規の交通密度データは、まだ学習に用いられていない交通密度データである。なお、基準となる第3の時刻は、現在時刻でなくてもよい。基準となる第3の時刻は、過去の時刻であってもよい。
【0136】
続いて、交通密度パターン学習部1413は、取得した交通密度に基づいて、時刻ごと、かつ、セルごとに、対象セルの上流セルを特定する(S42)。より具体的に、交通密度パターン学習部1413は、対象セルから上流に向かって順に、車両が各セルにおける平均速度で各々のシミュレーション実行セル幅622を走行したと仮定した場合における所要時間を算出し、所要時間の合計を算出し、当該合計があらかじめ設定された時間幅に達するセルを上流セルとして特定する。このとき、対象セルから上流セルまでの距離の上限値(例えば、1km)が設定されてもよい。
【0137】
また、交通密度パターン学習部1413は、あらかじめ設定された渋滞波伝搬速度(例えば、18km/h)で、車両があらかじめ設定されたシミュレーション実行時間間隔621だけ走行したと仮定した場合における車両の走行距離を算出し、算出した走行距離に、あらかじめ設定された予測パターン下流側マージン(例えば、200m)を加算し、対象セルからの距離が、加算結果としての距離に該当するセルを下流セルとして特定する(S43)。
【0138】
交通密度パターン学習部1413は、上流セルから下流セルまでの交通密度を含んだ交通密度パターン720と、対象セルの次時刻(第4の時刻)の交通密度とを対応付けることにより、双方の関係を生成し、当該関係をパターンとして学習パラメータ記憶部127に記憶する(S44)。
【0139】
(予測対象の交通密度および速度)
上記のようにして、パーセンタイル学習によって学習モデルデータ730が生成され、交通密度パターン学習によって交通密度パターン720が生成される。推論部142は、これらの学習モデルデータ730および交通密度パターン720を用いた推論によって、現在時刻より後の時刻の交通密度および速度を予測し得る。
【0140】
図22は、予測対象の交通密度および速度を模式的に示した図である。図22を参照すると、学習に用いられる交通密度データを模式的に示した図(図14)と同様に、時刻tにおける、セル1~nの交通密度K(t)~K(t)(台/km)が示されている。例えば、時刻tは、現時刻であってよいが、時刻tは、現時刻に限定されない。
【0141】
同様に、時刻t+Δtにおける、セル1~nの交通密度K(t+Δt)~K(t+Δt)が示され、時刻t+MΔtにおける、セル1~nの交通密度K(t+MΔt)~K(t+MΔt)が示されている。
【0142】
推論部142による推論においては、時刻t+Δt~t+MΔt(第4の時刻)と、セル1~Nとに対応する、交通流特性が予測される。以下では、このような交通流特性の予測について説明する。なお、交通流特性の例としては、交通密度Kおよび速度Vの少なくとも一方が挙げられる。
【0143】
(推論部142による予測の概要)
続いて、推論部142による予測の概要について説明する。推論部142は、上記のようにして生成された、交通密度パターン720および学習モデルデータ730に基づいて、時刻t+Δt~t+MΔtと、セル1~Nとに対応する、交通流特性を予測する。
【0144】
より具体的に、判定部1421は、セル1~Nのうちの対象セルiの現在時刻における交通流特性(第1の交通流特性)に基づいて、現在時刻における対象セルiに渋滞が生じているか否かを判定する。
【0145】
予測部1422は、現在時刻における対象セルiに渋滞が生じていると判定されたか否かに基づいて、対象セルiの現在時刻より後の時刻t+Δt~t+MΔt(第2の時刻)における交通流特性(第2の交通流特性)の予測アルゴリズムを決定する。そして、予測部1422は、決定した予測アルゴリズムにより対象セルiの交通流特性を予測する。
【0146】
このような予測により、突発事象による渋滞が発生しても、交通流特性に応じて渋滞が生じているかが判定され得る。そして、渋滞が生じていると判定された場合に、交通流の予測アルゴリズムが変更される。これにより、より精度よく交通流を予測することが可能となる。また、予測部1422は、対象セルiをセル1~Nにおいて変化させながら予測を行うことにより、セル1~Nに対応する交通流特性が予測される。
【0147】
ここで、判定部1421による判定に用いられる交通流特性は、現在時刻における対象セルの交通密度(第1の交通密度)であってもよい。すなわち、判定部1421は、現在時刻における対象セルの交通密度が閾値以上であるか否かにより、現在時刻における対象セルに渋滞が生じているか否かを判定してもよい。
【0148】
しかし、以下の説明においては、判定部1421による判定に用いられる交通流特性が、現在時刻における対象セルに対応する速度(第1の速度)である例について主に説明する。すなわち、判定部1421は、現在時刻における対象セルに対応する速度が閾値以下であるか否かにより、現在時刻における対象セルに渋滞が生じているか否かを判定する。
【0149】
予測部1422によって予測される交通流特性(第2の交通流特性)は、交通密度(第2の交通密度)および速度(第2の速度)の少なくともいずれか一方を含んでもよい。
【0150】
現在時刻における対象セルに渋滞が生じていると判定された場合には、対象セルの交通流の変化が統計処理後のデータとマッチしない可能性がある。そのため、予測部1422は、かかる場合には、予測アルゴリズムとして、パターンマッチ予測部1423による、交通密度パターン720を用いた予測アルゴリズム(以下、「パターンマッチ予測」とも言う。)を決定するのがよい。パターンマッチ予測は、「第1の予測アルゴリズム」の例である。
【0151】
一方、現在時刻における対象セルに渋滞が生じていないと判定された場合には、対象セルの交通流の変化が統計処理後のデータとマッチする可能性がある。そのため、予測部1422は、かかる場合には、予測アルゴリズムとして、パーセンタイル予測部1424による、学習モデルデータ730を用いた予測アルゴリズム(以下、「パーセンタイル予測」とも言う。)を決定するのがよい。パーセンタイル予測は、「第1の予測アルゴリズム」とは異なる「第2の予測アルゴリズム」の例である。
【0152】
判定部1421は、現在時刻における対象セルに渋滞が生じていないと判定した場合に、現在時刻において渋滞が生じている1または複数の渋滞セルを特定し、渋滞セルを基準とした所定の範囲内に対象セルが属するか否かを判定する。この渋滞セルは、渋滞下流(渋滞区間の下流)、または、渋滞末尾(渋滞区間の末尾)に該当し得る。そして、予測部1422は、対象セルが所定の範囲に属する場合に、予測アルゴリズムとしてパターンマッチ予測を決定する。
【0153】
一方、予測部1422は、対象セルが所定の範囲に属さない場合に、予測アルゴリズムとしてパーセンタイル予測を決定する。これにより、渋滞区間、渋滞下流および渋滞末尾のいずれにも属さないセルには、パターンマッチ予測が適用され得る。
【0154】
図23は、パーセンタイル予測の適用範囲とパターンマッチ予測の適用範囲が模式的に表された図である。図23を参照すると、時刻および位置に対応する速度が示されている。時空間範囲の色が濃いほど、その時空間範囲の速度が小さい(交通密度が高い)ことを意味している。「対象時刻」は、現在時刻に該当し、「予測部分」は、交通流の予測対象部分に該当する。
【0155】
図23に示された例において、「イベントによる渋滞区間」は、「対象時刻」において、速度が混雑流判定速度641以下となってしまっているため、渋滞が生じていると判定される区間である。したがって、「イベントによる渋滞区間」には、パターンマッチ予測が適用される。
【0156】
さらに、「イベントによる渋滞区間」に加えて、「渋滞下流」および「渋滞末尾」もイベントの影響を受けていると判定される区間である。したがって、「渋滞下流」および「渋滞末尾」にも、パターンマッチ予測が適用される。その他の区間には、パーセンタイル予測が適用される。
【0157】
(パーセンタイル予測部1424)
図24は、本発明の実施形態に係るパーセンタイル予測部1424によるパーセンタイル予測の動作の例を示すフローチャートである。図24を参照しながら、本発明の実施形態に係るパーセンタイル予測部1424によるパーセンタイル予測の動作の例について説明する。
【0158】
まず、パーセンタイル予測部1424は、プローブデータ記憶部122から、現在時刻(第1の時刻)を基準とした所定の対象時間分(第1の時間分)のプローブデータを、最新のプローブデータとして取得する。さらに、パーセンタイル予測部1424は、交通量データ記憶部124から、現在時刻を基準とした所定の対象時間分の交通量データを、最新の交通量データとして取得する(S51)。なお、基準となる第1の時刻は、現在時刻でなくてもよい。基準となる第1の時刻は、過去の時刻であってもよい。
【0159】
例えば、所定の対象時間は、1時間であってよい。しかし、所定の対象時間それぞれの具体的な値は限定されない。また、以下では、現在時刻を基準とした所定の対象時間が、現在時刻から所定の対象時間だけ遡った時刻を開始時点とし、現在時刻を終了時点とした時間である場合を主に想定する。しかし、現在時刻を基準とした所定の対象時間は、かかる時間に限定されない。
【0160】
続いて、パーセンタイル予測部1424は、取得した最新のプローブデータおよび最新の交通量データに基づいて、あらかじめ設定された二つの地点間ごとの各セルの交通密度を算出する(S52)。なお、ここでの交通密度の算出に対しても、図13を参照しながら説明した、交通密度を算出する手法が適用され得る。
【0161】
続いて、パーセンタイル予測部1424は、現在時刻を基準とした所定の対象時間分の交通密度に基づいて、地点間ごとのあらかじめ設定された処理対象時間幅の平均交通密度(第1の平均交通密度)を算出する。本発明の実施形態においては、パーセンタイル予測部1424は、現在時刻に応じた処理対象時間幅の平均交通密度を算出する(S53)。
【0162】
例えば、処理対象時間幅は、現在時刻から所定の時間幅(例えば、30分など)だけ遡った時刻から現在時刻までの時間幅であってもよい。しかし、処理対象時間幅は、かかる例に限定されない。
【0163】
続いて、パーセンタイル予測部1424は、算出した平均交通密度と、学習パラメータ記憶部127によって記憶された、平均交通密度と、平均交通密度学習パーセンタイル値と、メッシュ交通密度学習パーセンタイル値とに基づいて、現在時刻より後の時刻の交通密度を予測する。
【0164】
例えば、パーセンタイル予測部1424は、基準時刻と一致する時刻に対応付けられ、平均交通密度を算出した地点間と同一の地点間に対応付けられた平均交通密度を、学習パラメータ記憶部127から取得する。
【0165】
あるいは、パーセンタイル予測部1424は、現在時刻と一致する時刻に対応付けられ、かつ、現在時刻が属する日の種類と同一の種類の日に属する時刻にさらに対応付けられた平均交通密度を、学習パラメータ記憶部127から取得してもよい。
【0166】
そして、パーセンタイル予測部1424は、算出した平均交通密度と、取得した平均交通密度とに基づく予測パーセンタイル値を得る(S54)。
【0167】
より具体的に、パーセンタイル予測部1424は、算出した平均交通密度に最も近い、取得した平均交通密度に対応付けられた平均交通密度学習パーセンタイル値を、予測パーセンタイル値として特定してもよい。
【0168】
あるいは、パーセンタイル予測部1424は、算出した平均交通密度よりも大きく、かつ、算出した平均交通密度に最も近い、取得した平均交通密度を上側の平均交通密度として算出してもよい。さらに、パーセンタイル予測部1424は、算出した平均交通密度よりも小さく、かつ、算出した平均交通密度に最も近い、取得した平均交通密度を下側の平均交通密度として算出してもよい。そして、パーセンタイル予測部1424は、上側の平均交通密度と下側の平均交通密度とに基づく線形補間により予測パーセンタイル値を算出してもよい。
【0169】
パーセンタイル予測部1424は、現在時刻から所定の設定時間後(例えば、2時間後など)までの、平均交通密度を算出した地点間と同一の地点間に対応付けられた、時刻とセルとメッシュ交通密度学習パーセンタイル値とを、学習パラメータ記憶部127から取得する。
【0170】
あるいは、パーセンタイル予測部1424は、現在時刻から所定の設定時間後(例えば、2時間後など)までの、平均交通密度を算出した地点間と同一の地点間に対応付けられ、かつ、現在時刻が属する日の種類と同一の種類の日に属する時刻に対応付けられた、時刻とセルとメッシュ交通密度学習パーセンタイル値とを、学習パラメータ記憶部127から取得してもよい。
【0171】
パーセンタイル予測部1424は、学習パラメータ記憶部127から取得した、時刻とセルとメッシュ交通密度学習パーセンタイル値とに基づいて、予測パーセンタイル値に応じたメッシュ交通密度学習パーセンタイル値を、シミュレーション実行セル幅のセルごとに、シミュレーション実行時間間隔で得る。
【0172】
例えば、パーセンタイル予測部1424は、予測パーセンタイル値に最も近いメッシュ交通密度学習パーセンタイル値を得てもよい。
【0173】
あるいは、パーセンタイル予測部1424は、予測パーセンタイル値よりも大きく、かつ、予測パーセンタイル値に最も近いメッシュ交通密度学習パーセンタイル値を、上側のメッシュ交通密度学習パーセンタイル値として算出してもよい。さらに、パーセンタイル予測部1424は、予測パーセンタイル値よりも小さく、かつ、予測パーセンタイル値に最も近いメッシュ交通密度学習パーセンタイル値を、下側のメッシュ交通密度学習パーセンタイル値として算出してもよい。そして、パーセンタイル予測部1424は、上側の平均交通密度と下側の平均交通密度とに基づく線形補間または調和平均による線形補間により予測パーセンタイル値を算出してもよい。
【0174】
パーセンタイル予測部1424は、このようにして得たメッシュ交通密度学習パーセンタイル値に対応付けられた交通密度を、シミュレーション実行セル幅のセルごと、かつ、シミュレーション実行時間間隔の予測交通密度として得る。
【0175】
また、パーセンタイル予測部1424は、予測交通密度に対応する予測速度を、シミュレーション実行セル幅のセルごと、かつ、シミュレーション実行時間間隔で算出し得る(S55)。例えば、パーセンタイル予測部1424は、予測交通密度に対応する予測速度を、上記の式(3)によって示されるKV関係式により算出してもよい。パーセンタイル予測部1424は、予測結果を予測結果記憶部128に出力する(S56)。
【0176】
(パターンマッチ予測部1423)
図25は、本発明の実施形態に係るパターンマッチ予測部1423によるパターンマッチ予測の動作の例を示すフローチャートである。図25を参照しながら、本発明の実施形態に係るパターンマッチ予測部1423によるパターンマッチ予測の動作の例について説明する。
【0177】
まず、パターンマッチ予測部1423は、プローブデータ記憶部122から、現在時刻(第1の時刻)を基準とした所定の対象時間分(第1の時間分)のプローブデータを、最新のプローブデータとして取得する。さらに、パターンマッチ予測部1423は、交通量データ記憶部124から、現在時刻を基準とした所定の対象時間分の交通量データを、最新の交通量データとして取得する(S61)。なお、基準となる第1の時刻は、現在時刻でなくてもよい。基準となる第1の時刻は、過去の時刻であってもよい。
【0178】
S42と同様の手法により、パターンマッチ予測部1423は、取得した最新のプローブデータおよび最新の交通量データに基づいて、あらかじめ設定された二つの地点間ごとの各セルの交通密度を算出する(S62)。なお、ここでの交通密度の算出に対しても、図13を参照しながら説明した、交通密度を算出する手法が適用され得る。
【0179】
続いて、パターンマッチ予測部1423は、算出した交通密度に基づいて、時刻ごと、かつ、セルごとに、対象セルの上流セルおよび下流セルを特定する(S63)。パターンマッチ予測部1423は、上流セルから下流セルまでの交通密度を含んだ交通密度パターンと、学習パラメータ記憶部127に記憶された交通密度パターンと、当該交通密度パターンと対応付けられた交通密度とに基づいて、対象セルの次時刻における交通密度を予測する。
【0180】
より具体的に、パターンマッチ予測部1423は、上流セルから下流セルまでの交通密度を含んだ交通密度パターンに類似した交通密度パターンを、学習パラメータ記憶部127から取得する(S64)。なお、パターンマッチ予測部1423は、交通密度パターン同士が類似しているか否かを、交通密度パターン同士の平均二乗誤差などによって算出される誤差が所定の誤差より小さいか否かにより判定してもよい。
【0181】
パターンマッチ予測部1423は、取得した交通密度パターンと対応付けられた交通密度を、対象セルの次時刻における交通密度として予測する(S65)。
【0182】
また、パターンマッチ予測部1423は、予測交通密度に対応する予測速度を、シミュレーション実行セル幅のセルごと、かつ、シミュレーション実行時間間隔で算出し得る(S66)。例えば、パターンマッチ予測部1423は、予測交通密度に対応する予測速度を、上記の式(3)によって示されるKV関係式により算出してもよい。
【0183】
あるいは、パターンマッチ予測部1423は、対象セルの次時刻における予測速度が混雑流判定速度641より大きい場合には、現在時刻における速度が混雑流判定速度641より大きい、対象セルの上流に位置するセルのうち、対象セルから最も近いセルの現在時刻における速度を、対象セルの次時刻における予測速度としてもよい。パターンマッチ予測部1423は、予測結果を予測結果記憶部128に出力する(S67)。
【0184】
(交通流予測処理)
図26は、推論部142によって実行される交通流予測処理の例を示すフローチャートである。図26を参照しながら、推論部142によって実行される交通流予測処理の例について説明する。なお、交通流予測処理は、過去の交通流から現在時刻より後の時刻における交通流を予測する処理である。推論部142は、現在の交通流特性に応じて、パーセンタイル予測とパターンマッチ予測との間で切り替えを行いながら予測を行う。
【0185】
まず、推論部142は、イベント情報記憶部120から、現在時刻および対象セルに対応するイベント情報の取得を試みる(S71)。例えば、イベントは、対象セルの交通流特性に影響を与える所定のイベントであってよい。推論部142は、イベント情報記憶部120から、現在時刻および対象セルに対応するイベント情報が取得されない場合には(S72において「NO」)、パーセンタイル予測部1424により、現在時刻から所定の設定時間後(例えば、2時間後など)までの予測すべき全時刻および全セルについてパーセンタイル予測を行う(S75)。
【0186】
一方、推論部142は、イベント情報記憶部120から、現在時刻および対象セルに対応するイベント情報が取得された場合には(S72において「YES」)、プローブデータ記憶部122に記憶されたプローブデータ(または予測結果記憶部128から)、現在時刻および対象セルに対応する速度を取得する(S73)。
【0187】
推論部142は、取得した速度が混雑流判定速度641以下の場合には(S74において「YES」)、パターンマッチ予測部1423により、次時刻における対象セルの交通密度および速度に対するパターンマッチ予測を行う(S76)。一方、推論部142は、取得した速度が混雑流判定速度641よりも大きい場合には(S74において「NO」)、パターンマッチ予測部1423により、次時刻における対象セルの交通密度および速度に対するパーセンタイル予測を行う(S77)。
【0188】
なお、上記したように、速度が混雑流判定速度641以下であるか否かが判定される代わりに、交通密度が閾値以上であるか否かが判定されてもよい。また、パターンマッチ予測部1423により対象セルのパターンマッチ予測の結果としての予測速度が混雑流判定速度641以上である場合には、その対象セルに対応する速度がパーセンタイル予測部1424により再度予測され、再度の予測結果によって、パターンマッチ予測の結果が上書きされてもよい。
【0189】
推論部142は、予測すべき全時刻および全セルについての予測が終了していない場合には(S78において「NO」)、S73に戻って、予測未実施のセルについての速度を取得してS74以降の動作を再び行う。一方、推論部142は、予測すべき全時刻および全セルについての予測が終了した場合には(S78において「YES」)、交通流の予測を終了する。
【0190】
(予測結果記憶部128)
予測結果記憶部128は、予測部142(パターンマッチ予測部1423およびパーセンタイル予測部1424)から出力された予測結果を記憶する。
【0191】
以上、本発明の実施形態の詳細について説明した。
【0192】
(1-2.変形例)
続いて、本発明の実施形態の変形例について説明する。本発明の実施形態の変形例は、本発明の実施形態と比較して、推論部142が有する機能が異なる。したがって、以下では、本発明の実施形態の変形例に係る推論部142について説明する。
【0193】
(推論部142)
図27は、本発明の実施形態の変形例に係る推論部142による交通流の予測動作の例を示すフローチャートである。図27を参照しながら、本発明の実施形態の変形例に係る推論部142による推論の動作の例について説明する。
【0194】
ここで、図26に示されたフローチャートでは、対象セルに対応する速度に応じて予測アルゴリズムの切り替えが行われる。しかし、対象セルに対応する速度が混雑流判定速度より大きくても、対象セルの交通流の時間変動がイベントの影響により従来と異なる時間変動になる場合には、パターンマッチ予測部1423により予測が行われるのがよい。かかる変形例について、図27を参照しながら説明する。
【0195】
図27に示されるように、本発明の実施形態の変形例においても、推論部142によって、S71~S78が実行される。これらのS71~S78は、本発明の実施形態に係るS71~S78(図26)と同様に実行される。
【0196】
ただし、イベント発生区間において急激に交通流が規制されることにより、イベント発生区間の下流(渋滞下流)における自由流では、交通密度が極めて低くなり、渋滞下流における交通流の時間変動は、従来と異なる時間変動になる場合がある。あるいは、イベントが原因で生じた渋滞末尾における自由流では、渋滞の延伸または解消の影響を強く受けて、渋滞末尾における交通流の時間変動は、従来と異なる時間変動になる場合がある。
【0197】
そこで、判定部1421は、速度が混雑流判定速度641以下の場合には(S74において「NO」)、対象セルがイベントの影響を受けているか否かを判定する(S81)。そして、対象セルがイベントの影響を受けている場合には(S81において「YES」)、パターンマッチ予測部1423によるパターンマッチ予測(S76)に切り替えられる。一方、判定部1421は、対象セルがイベントの影響を受けていない場合には(S81において「NO」)、パーセンタイル予測部1424によるパーセンタイル予測(S77)が行われる。
【0198】
以上、本発明の実施形態の変形例について説明した。
【0199】
(1-3.効果)
以上に説明したように、本発明の実施形態およびその変形例によれば、走行履歴データと交通量データとに基づいて交通密度が算出され、算出された交通密度に基づいて、パーセンタイル学習および交通密度パターン学習が行われる。そして、交通流特性に応じてパーセンタイル予測とパターンマッチ予測との間で切り替えが行われる。これによって、交通事故または交通規制などの突発事象による渋滞が発生しても、精度よく交通流が予測され得る。
【0200】
図28は、本発明の実施形態に係る交通流予測による予測結果と、比較例に係る交通流予測による予測結果とを比較して示す図である。図28を参照しながら、本発明の実施形態に係る交通流予測と、比較例(イベントが生じたか否かによらずに同じ予測方式が適用される例)に係る交通流予測との間において、交通流の予測結果がどのように異なるかについて説明する。
【0201】
図28における「実測(拡大前)」は、イベントの発生が原因となって渋滞が生じた日の実測結果である。実測結果において、色が濃い時空間範囲ほど交通密度が高い時空間範囲であることを意味している。「実測(拡大後)」は、「実測(拡大前)」の点線枠R1で囲われた時空間範囲を拡大した結果である。
【0202】
「比較例による予測」は、比較例に係る交通流予測による予測結果のうち点線枠R1で囲われた時空間範囲に対応する範囲を拡大した結果である。
【0203】
「比較例による予測」においては、イベントが生じたか否かによらずにパターンマッチ予測が適用される。しかし、イベントが生じている位置の交通密度パターンと類似する過去の交通密度パターンが見つからない可能性があるため、イベントが生じている位置の交通流予測が難しい。例えば、「比較例による予測」によれば、渋滞流へ流入する自由流の正確な予測が難しく、渋滞流へ流入する交通流を正確に予測されないため、渋滞の延伸が正しく予測されない。
【0204】
なお、パーセンタイル予測のように過去データから統計的に予測する手法は、精度が低いため、イベントが生じたか否かによらずにパーセンタイル予測が適用される例は、比較例として図示していない。
【0205】
「本実施形態における予測」は、本発明の実施形態に係る交通流予測による予測結果のうち点線枠R1で囲われた時空間範囲に対応する範囲を拡大した結果である。「本実施形態における予測」では、パーセンタイル予測により渋滞流へ流入する自由流が精度良く予測されている。さらに、渋滞区間の予測のときにはパターンマッチ予測に切り替わることによって、イベント起因の渋滞が生じたとしても高精度な予測が可能となり、実測結果に近い予測結果が得られることが把握される。
【0206】
以上、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1およびその変形例が奏する効果について説明した。
【0207】
(2.ハードウェア構成例)
続いて、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1のハードウェア構成例について説明する。
【0208】
以下では、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1のハードウェア構成例として、情報処理装置900のハードウェア構成例について説明する。なお、以下に説明する情報処理装置900のハードウェア構成例は、交通流予測装置1のハードウェア構成の一例に過ぎない。したがって、交通流予測装置1のハードウェア構成は、以下に説明する情報処理装置900のハードウェア構成から不要な構成が削除されてもよいし、新たな構成が追加されてもよい。
【0209】
図29は、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1の例としての情報処理装置900のハードウェア構成を示す図である。情報処理装置900は、CPU(Central Processing Unit)901と、ROM(Read Only Memory)902と、RAM(Random Access Memory)903と、ホストバス904と、ブリッジ905と、外部バス906と、インタフェース907と、入力装置908と、出力装置909と、ストレージ装置910と、通信装置911と、を備える。
【0210】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、各種プログラムに従って情報処理装置900内の動作全般を制御する。また、CPU901は、マイクロプロセッサであってもよい。ROM902は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM903は、CPU901の実行において使用するプログラムや、その実行において適宜変化するパラメータ等を一時記憶する。これらはCPUバス等から構成されるホストバス904により相互に接続されている。
【0211】
ホストバス904は、ブリッジ905を介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バス等の外部バス906に接続されている。なお、必ずしもホストバス904、ブリッジ905および外部バス906を分離構成する必要はなく、1つのバスにこれらの機能を実装してもよい。
【0212】
入力装置908は、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、マイクロフォン、スイッチおよびレバー等ユーザが情報を入力するための入力手段と、ユーザによる入力に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路等から構成されている。情報処理装置900を操作するユーザは、この入力装置908を操作することにより、情報処理装置900に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0213】
出力装置909は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ装置、液晶ディスプレイ(LCD)装置、OLED(Organic Light Emitting Diode)装置、ランプ等の表示装置およびスピーカ等の音声出力装置を含む。
【0214】
ストレージ装置910は、データ格納用の装置である。ストレージ装置910は、記憶媒体、記憶媒体にデータを記録する記録装置、記憶媒体からデータを読み出す読出し装置および記憶媒体に記録されたデータを削除する削除装置等を含んでもよい。ストレージ装置910は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)で構成される。このストレージ装置910は、ハードディスクを駆動し、CPU901が実行するプログラムや各種データを格納する。
【0215】
通信装置911は、例えば、ネットワークに接続するための通信デバイス等で構成された通信インタフェースである。また、通信装置911は、無線通信または有線通信のどちらに対応してもよい。
【0216】
以上、本発明の実施形態に係る交通流予測装置1のハードウェア構成例について説明した。
【0217】
(3.まとめ)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0218】
1 交通流予測装置
112 プローブアンテナ
114 フリーフローアンテナ
120 イベント情報記憶部
121 走行履歴データ記憶部
122 プローブデータ記憶部
123 フリーフローデータ記憶部
124 交通量データ記憶部
125 交通密度データ記憶部
126 マスタデータ記憶部
127 学習パラメータ記憶部
128 予測結果記憶部
131 統計処理部
133 交通量算出部
140 処理部
141 学習部
1411 KVパラメータ作成部
1412 交通密度算出部
1413 交通密度パターン学習部
1414 パーセンタイル学習部
142 推論部
1421 判定部
1422 予測部
1423 パターンマッチ予測部
1424 パーセンタイル予測部
150 イベント情報入力部

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