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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165486
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】インバータ装置及びモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241121BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20241121BHJP
   H02P 23/06 20160101ALI20241121BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02P27/08
H02P23/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081733
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】李 東昇
(72)【発明者】
【氏名】関口 学
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505CC01
5H505EE48
5H505EE50
5H505EE55
5H505HA10
5H505HB01
5H505LL22
5H505LL24
5H505MM06
5H770AA02
5H770BA01
5H770CA01
5H770CA03
5H770CA05
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA02
5H770EA21
5H770EA27
5H770GA11
5H770HA02Y
5H770HA02Z
5H770HA03W
5H770HA07Z
(57)【要約】
【課題】、インバータ回路の発熱と温度上昇のバラツキを抑制することができるインバータ装置等を提供する。
【解決手段】インバータ装置100は、三相電圧指令とキャリア信号を比較してPWM信号を生成するプロセッサ(制御器8)を備える。プロセッサは、同期PWM制御の6Nパルスモード(Nは1,2,3,…)で、直流電力を三相交流電力へ変換するインバータ回路2を制御する場合に、三相電圧指令の1周期の所定区間(1/3区間:120°)において、3相のうちいずれかを固定相として、インバータ回路2の固定相の上アーム素子をオンし、固定相の下アーム素子をオフする上貼り付け2相変調方式と、インバータ回路2の固定相の下アーム素子をオンし、固定相の上アーム素子をオフする下貼り付け2相変調方式と、を周期的に切り替える。プロセッサは、当該切り替えのタイミングにおいてキャリア信号の位相を反転する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相電圧指令とキャリア信号を比較してPWM信号を生成するプロセッサを備え、前記プロセッサは、同期PWM制御の6Nパルスモード(Nは1,2,3,…)で、直流電力を三相交流電力へ変換するインバータ回路を制御する場合に、
前記三相電圧指令の1周期の所定区間において、3相のうちいずれかを固定相として、
前記インバータ回路の固定相の上アーム素子をオンし、固定相の下アーム素子をオフする上貼り付け2相変調方式と、
前記インバータ回路の固定相の下アーム素子をオンし、固定相の上アーム素子をオフする下貼り付け2相変調方式と、を周期的に切り替え、
当該切り替えのタイミングにおいて前記キャリア信号の位相を反転する
ことを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインバータ装置であって、
前記プロセッサは、
前記切り替えのタイミングをまたぐ期間に、前記三相電圧指令の周期の1/(4N)倍の周期のキャリア波を挿入することにより、前記キャリア信号の位相を反転することを特徴とするインバータ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のインバータ装置であって、
前記キャリア信号は、三角波で構成され、
前記プロセッサは、
前記切り替えのタイミングに、前記三角波の山と谷を反転することにより、前記キャリア信号の位相を反転することを特徴とするインバータ装置。
【請求項4】
請求項1に記載のインバータ装置であって、
前記プロセッサは、
前記切り替えのタイミングをまたぐ期間に、前記三相電圧指令の周期の1/(12N)倍の周期のキャリア波を挿入することにより、前記キャリア信号の位相を反転することを特徴とするインバータ装置。
【請求項5】
請求項1に記載のインバータ装置であって、
前記プロセッサは、
前記切り替えのタイミングをまたぐ期間に、前記三相電圧指令の周期の5/(24N)倍の周期のキャリア波を2周期分挿入することにより、前記キャリア信号の位相を反転することを特徴とするインバータ装置。
【請求項6】
請求項1に記載のインバータ装置であって、
前記プロセッサは、
前記切り替えのタイミングをまたぐ期間に、前記三相電圧指令の周期の1/(8N)倍の周期のキャリア波を2周期分挿入することにより、前記キャリア信号の位相を反転することを特徴とするインバータ装置。
【請求項7】
請求項2又は請求項5に記載のインバータ装置であって、
前記プロセッサは、
前記三相電圧指令の周期の1/(4N)倍の周期もしくは5/(24N)倍の周期のキャリア波を挿入する期間の全部もしくは一部において、三相変調方式を採用することを特徴とするインバータ装置。
【請求項8】
請求項1に記載のインバータ装置であって、
前記プロセッサは、
前記上アーム素子及び前記下アーム素子の温度上昇時定数に基づいて、前記切り替えの周期を、0.1秒~30秒の範囲に設定することを特徴とするインバータ装置。
【請求項9】
請求項1に記載のインバータ装置であって、
前記プロセッサは、
前記切り替えのタイミングをまたぐ期間に、前記キャリア信号の周期と異なる周期を有する三角波で構成され、前記切り替えのタイミングに前記三角波の山又は谷が位置し、かつ前記切り替えのタイミングの前後で対称となるキャリア波を挿入することを特徴とするインバータ装置。
【請求項10】
請求項1に記載のインバータ装置を含むモータ制御装置であって、
前記インバータ装置を用いて、モータの力行又は回生が行われる
ことを特徴とするモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置及びモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直流を交流に変換するインバータ装置は、電源系統連結インバータ、無停電電源装置(UPS)、交流モータの駆動装置などに広く利用されている。
【0003】
このようなインバータ装置では、各パワー素子のPWM制御方式としては、一般的な三相変調方式と、所定の区間で一相分の素子のオンオフ状態を固定して、残った二相分の素子だけを動作させる二相変調方式がある。この二相変調方式は、三相変調方式に比べて、素子のオンオフ動作回数が少ないため、スイッチング損失が小さいという利点がある。
【0004】
また、電気鉄道車両や電気自動車など電動車両のモータ駆動装置に、キャリア波の位相を変調波と同期させて、変調波の1周期に固定個数のキャリア波を設ける同期PWM制御方式が知られている。
【0005】
特許文献1は、三相変調方式と二相変調方式を交互に使用することにより、騒音低減とスイッチング損失低減する方法を開示している。
【0006】
また、特許文献2は、一相分の素子のオンオフ状態を上アーム素子がオン・下アーム素子がオフに固定する方式と上アーム素子がオフ・下アーム素子がオンに固定する方式を交互に使用することにより、スイッチング素子の最高温度を従来より低減可能な二相変調方式を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021‐197825号公報
【特許文献2】特許第4158715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
同期PWM制御において、変調波の1周期のキャリア波の個数Pn(キャリア波周波数fcと変調波周波数f1の比:Pn=fc/f1、以下、「パルス数」と呼ぶ)は、一般的に、対称性を保つために、3の倍数かつ奇数を選定する(例:3、9,15)ことが多い。ただし、電流の対称性が許容範囲内であれば、6、12、18など偶数も使われている。
【0009】
しかし、6、12、18など偶数のパルス数を使う場合、変調波の前半周期と後半周期のPWMパルスが非対称になって、一相分の素子のオンオフ状態を固定する区間が60°の二相変調方式を使う場合、素子のオンオフ回数の低減効果が薄い。一方、一相分の素子のオンオフ状態を固定する区間が120°の二相変調方式を使って、キャリア波の位相を適切に調整すれば、素子のオンオフ回数は三相変調方式の2/3になることができるが、インバータの上アーム素子と下アーム素子の通流の非対称が発生してしまい、上アーム素子と下アーム素子の損失(発熱)が不均等になるなど課題がある。
【0010】
本発明の目的は、インバータ回路の発熱と温度上昇のバラツキを抑制することができるインバータ装置及びモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の一例のインバータ装置は、三相電圧指令とキャリア信号を比較してPWM信号を生成するプロセッサを備え、前記プロセッサは、同期PWM制御の6Nパルスモード(Nは1,2,3,…)で、直流電力を三相交流電力へ変換するインバータ回路を制御する場合に、前記三相電圧指令の1周期の所定区間において、3相のうちいずれかを固定相として、前記インバータ回路の固定相の上アーム素子をオンし、固定相の下アーム素子をオフする上貼り付け2相変調方式と、前記インバータ回路の固定相の下アーム素子をオンし、固定相の上アーム素子をオフする下貼り付け2相変調方式と、を周期的に切り替え、当該切り替えのタイミングにおいて前記キャリア信号の位相を反転する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インバータ回路の発熱と温度上昇のバラツキを抑制することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態によるインバータ装置の全体構成図である。
図2】第1の実施形態によるインバータ装置における制御器の内部構成図である。
図3】第1の実施形態による制御器におけるPWM制御器の内部構成図である。
図4A】同期PWMの三相変調方式の波形図である。
図4B】同期PWMの60°二相変調方式の波形図である。
図4C】同期PWMの上貼り付け二相変調方式の波形図である。
図4D】同期PWMの下貼り付け二相変調方式の波形図である。
図5A】三相変調方式に関し、キャリア波、U相変調波、U相上アーム素子のPWM波形、U相上アーム素子電流波形、U相下アーム素子電流波形を示す波形図である。
図5B】60°二相変調方式に関し、キャリア波、U相変調波、U相上アーム素子のPWM波形、U相上アーム素子電流波形、U相下アーム素子電流波形を示す波形図である。
図5C】上貼り付け二相変調方式に関し、キャリア波、U相変調波、U相上アーム素子のPWM波形、U相上アーム素子電流波形、U相下アーム素子電流波形を示す波形図である。
図5D】下貼り付け二相変調方式に関し、キャリア波、U相変調波、U相上アーム素子のPWM波形、U相上アーム素子電流波形、U相下アーム素子電流波形を示す波形図である。
図6】キャリア波位相を反転する簡単な処理の説明図である。
図7】キャリア波位相を反転する簡単な処理の別の説明図である。
図8】変調波の周期の1/4倍の周期のキャリア波を挿入することでキャリア波位相を反転する処理の説明図である。
図9】変調波の周期の1/12倍の周期のキャリア波を挿入することでキャリア波位相を反転する処理の説明図である。
図10】変調波の周期の1/8倍の周期のキャリア波を挿入することでキャリア波位相を反転する処理の説明図である。
図11】変調波の周期の5/24倍の周期のキャリア波を挿入することでキャリア波位相を反転する処理の説明図である。
図12】キャリア波の周期が長い区間の前半に三相変調モードを挿入する処理の説明図である。
図13】キャリア波の周期が長い区間の後半に三相変調モードを挿入する処理の説明図である。
図14】キャリア波の周期が長い区間の全体に三相変調モードを挿入する処理の説明図である。
図15図8図12に示す対策を採用する際の変調波とキャリア波を示す波形図である。
図16】第2の実施形態によるモータ駆動装置(モータ制御装置)の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1~第2実施形態について、図面を参照しながら説明するが、本発明の実施形態は、以下に説明する具体的な実施形態に限定されるものではない。なお、図面において、同一符号は、同一または相当部分を示すものとする。
【0015】
(第1の実施形態)
以下、図1図15を参照しながら、本発明の第1の実施形態によるインバータ装置100およびその制御方法について説明する。なお、図1図15に示した第1の実施形態は、図1に示すモータ駆動装置以外に、太陽光発電設備や蓄電池向けの系統連系インバータ装置などにも対応するものである。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態によるインバータ装置100と、このインバータ装置を用いて、直流電源1から交流に変換してモータ3を駆動するモータ駆動装置の全体構成を示す。図1に示すインバータ装置100は、その直流側で直流電源1に接続され、交流側でモータ3に接続されている。
【0017】
インバータ装置100は、インバータ回路2と、インバータ回路2の直流側の正極/負極間に接続されたコンデンサ4と、正極/負極間の直流電圧を検出する電圧検出器5と、交流電流を検出する電流センサ6u、6v、6wと、モータの回転子位置を検出する位置センサ7と、インバータ回路2のパルス幅変調(以下、PWM(Pulse Width Modulation)とする)制御を行う制御器8(プロセッサ)とを含み構成されている。
【0018】
制御器8は、電圧検出器5、電流センサ6u、6v、6wと位置センサ7からの検出信号に基づいて、インバータ回路2の各半導体スイッチング素子をスイッチング(オン・オフ)制御するためのPWM信号を生成する。制御器8としては、マイクロコンピュータやDSP(Digital Signal Processor)などの演算処理装置が用いられ得る。制御器8は、また、サンプリングホールド回路およびA/D(Analog/Digital)変換部を備えており、入力される各電圧・電流・位置の検出信号がデジタル信号に変換される。
【0019】
以下、図2を参照しながら、制御器8の内部構成の一例を説明する。図2は、インバータ装置100における制御器8の内部構成を示す。制御器8は、上述した演算処理装置が所定のプログラムを実行することで、インバータ回路2に対するPWM信号を生成するように動作する。
【0020】
制御器8は、図2に示すように、電流指令演算器10と、電圧制御器11と、2軸/3相変換器12と、変調波演算器13と、PWM制御器14と、3相/2軸変換器15と、を含み構成される。
【0021】
電流指令演算器10は、外部からの指令(速度もしくはトルク等)に従って、dq軸座標の電流指令id*とiq*を生成して電圧制御器11へ出力する。
【0022】
電圧制御器11(電圧指令演算器)は、d軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*と、3相/2軸変換器15で求められたd軸電流検出値idおよびq軸電流検出値iqとの誤差を無くすように、d軸電圧指令値vd*及びq軸電圧指令値vq*を演算する。この電圧指令演算には公知技術を採用することができ、詳細な説明は省略する。
【0023】
また、図2の2軸/3相変換器12は、d軸電圧指令値vd*およびq軸電圧指令値vq*と、回転位置信号(θd)とを用い、3相電圧指令値(v ,v ,v )を算出して変調波演算器13へ出力する。
【0024】
変調波演算器13(変調波換算器)は、三相電圧指令値(v ,v ,v )を、直流電圧検出信号Edcを用いて正規化し、変調波信号(m,m,m)に変換する。
【0025】
三相電流検出信号(iu,iv,iw)は、3相/2軸変換器15に入力される。3相/2軸変換器15は、三相電流検出信号(iu,iv,iw)と回転位置信号(θd)とを用い、d軸電流idとq軸電流iqを演算する。
【0026】
PWM制御器14におけるPWM制御の方式としては、例えば、マイクロコンピュータの内蔵機能を用いて、三角波のキャリア波信号を生成し、各レジスタの出力と比較して、出力信号のレベルを制御する、いわゆる三角波比較方式を採用する。
【0027】
図3は、PWM制御器14の内部を示す構成図である。PWM制御器14では、マイクロコンピュータのタイマ機能を用いて、キャリア波発生器23で、三角波のキャリア波信号を発生させるとともに、山(上に凸部分の頂点)・谷(下に凸部分の頂点)のタイミングを示す山・谷信号を生成する。変調波演算器13が出力する三相変調波指令値m,m,mは、バッファレジスタ20に入力され、山・谷信号に従って、キャリア波の山または谷の時点で、比較用レジスタ21へ転送される。比較器22は、比較用レジスタ21の出力(変調波信号)と、キャリア波発生器23で発生されたキャリア波信号と比較を比較し、PWM信号を生成する。また、同期PWM制御器25は、電圧位相演算24からの電圧位相(θv)と回転位置信号(θd)とを用い、キャリア波の周期(Tc)を算出して、キャリア波と変調波との同期を実現する。この同期PWM制御には公知技術を採用することができ、詳細な説明は省略する。
【0028】
図4A~4Dは、同期PWMの6パルスモード(キャリア波周波数fcと変調波周波数f1の比=6)における異なる変調方式に対応するキャリア波30と三相変調波(U相変調波31、V相変調波32、W相変調波33)の波形である。図4Aの波形は、一般的な三相変調方式を用いた場合の波形である。図4Bの波形は、一相分の素子のオンオフ状態を固定する区間が60°の二相変調方式(以下、「60°二相変調方式」と呼ぶ)を用いた場合の波形である。図4Cの波形は、一相分の素子のオンオフ状態を上アーム素子がオン・下アーム素子がオフに固定する区間が120°の二相変調方式(以下、「上貼り付け二相変調方式)と呼ぶ)を用いた場合の波形である。図4Dの波形は、一相分の素子のオンオフ状態を上アーム素子がオフ・下アーム素子がオンに固定する区間が120°の二相変調方式(以下、「下貼り付け二相変調方式)と呼ぶ)を用いた場合の波形である。また、素子のスイッチング動作回数を低減するために、図4C図4Dに示すキャリア波の位相と変調波位相は逆に設定している。具体的には、図4Cの時間軸0.4454sのU相変調波31の立ち上がりエッジに対応するキャリア波が山に対して、図4Dの時間軸0.54665sのU相変調波31の立ち上がりエッジに対応するキャリア波は谷になっている。
【0029】
図5A~5Dには、図4A~4Dに示す異なる変調方式に対応するキャリア波30と、U相変調波31と、U相上アーム素子のPWM波形34(U相PWM信号)と、U相上アーム素子電流波形35と、U相下アーム素子電流波形36を示す。また、図5A~5Dに示していないが、U相下アーム素子のPWM波形は、上アーム素子のPWM波形34を反転した波形である。また、三相対称性により、V相とW相の素子に対応するPWM波形は、U相のPWM波形と同じ形であり、正負120°ずれている。
【0030】
図5A~5Dに示す異なる変調方式に対応するU相下アーム素子のPWM波形34から分かるように、変調波1周期に対応するPWMパルス数は、図5Aの三相変調方式の場合は6個、図5Bの60°二相変調方式の場合は5個であり、一方、図5Cの上貼り付け二相変調と図5Dの下貼り付け二相変調の場合は4個である。即ち、三相変調方式に対して、図5Bの60°二相変調方式のパルス数は1回だけ低減する。一方、図5C図5Dの二相変調方式のパルス数は、図5Bの60°二相変調方式よりさらに1回低減できる。
【0031】
しかし、図5A~5Dに示すU相上アーム素子電流波形35及びU相下アーム素子電流波形36の時間平均値は、図5A図5Bの場合、ほぼ同じであるが、図5C図5Dの場合、明らかに異なる。即ち、上貼り付け二相変調方式の場合、上アーム素子の電流が大きくて、下貼り付け二相変調方式の場合、下アーム素子の電流が大きい。このような素子の通流電流の不均等により、素子の損失(発熱)が異なり、素子の温度上昇のバラツキが発生する。
【0032】
本発明では、図5C図5Dの変調方式を定期的(周期的)に切替することにより、上アーム素子と下アーム素子の電流の均等化を図って、素子の温度上昇のバラツキを抑制する。また、温度上昇の時定数が数秒程度なので、上貼り付け二相変調方式と下貼り付け二相変調方式の切替周期は1秒間~30秒間でも構わない。
【0033】
また、図5C図5Dの変調方式の切替に合わせて、前述したように、キャリア波の位相を反転する処理が必要である。
【0034】
以下では、キャリア波位相を反転する処理の方法を説明する。
【0035】
簡単な処理方法としては、図6図7に示すように、切替時点で、キャリア波の山と谷を転換する方法がある。しかし、このような方法では、切替時点で、各相のPWM波形が同時に変化することがあるため、電流ショック(急変化)が発生する。
【0036】
電流ショック(急変化)を抑制する方法として、図8図11に示すように、切替前後のキャリア波周期を調整してキャリア波位相を反転する。
【0037】
また、電流リップルを更に低減するために、図8に示すキャリア波周期の調整方法を採用する場合、キャリア波の周期が長い区間では、図12図14に示すように、三相変調モードを挿入する。図15には、図8図12に示す対策を採用する際の変調波とキャリア波の波形の一例を示す。
【0038】
上述した実施形態では、同期PWM制御の6パルスモードで、上貼り付け2相変調方式と、下貼り付け2相変調方式を採用し、さらに、周期的に二つの変調方式を切り替え、素子のオンオフ動作回数を低減しながら、各素子の通流を均等化することにより、素子の温度バラツキを抑止し、変調方法切替時の電流変動を抑制することを実現できる。
【0039】
また、この実施形態では、同期PWM制御の6パルスモードを中心に説明したが、同様な対策は、12パルスモードや18パルスモードなど6N(Nは1,2,3,…)パルスモードにも有効である。
【0040】
第1の実施形態の主な特徴は、次のようにまとめることもできる。
【0041】
図1に示すインバータ装置100は、図4Aに示す三相電圧指令(U相変調波31、V相変調波32、W相変調波33)とキャリア信号(キャリア波30)を比較してPWM信号を生成するプロセッサ(制御器8)を備える。プロセッサ(制御器8)は、同期PWM制御の6Nパルスモード(Nは1,2,3,…)で、直流電力を三相交流電力へ変換するインバータ回路2を制御する場合に、三相電圧指令の1周期の所定区間(1/3区間:120°)において、3相のうちいずれかを固定相として、インバータ回路2の固定相の上アーム素子をオンし、固定相の下アーム素子をオフする上貼り付け2相変調方式(図5C)と、インバータ回路2の固定相の下アーム素子をオンし、固定相の上アーム素子をオフする下貼り付け2相変調方式(図5D)と、を周期的に切り替える。プロセッサ(制御器8)は、当該切り替えのタイミングにおいてキャリア信号の位相を反転する(図6図11)。
【0042】
三相電圧指令(三相変調波)の1周期に含まれるPWM信号のパルス数が減少することで、スイッチング損失が低減される。また、上貼り付け2相変調方式と下貼り付け2相変調方式を周期的に切り替えることで、上アーム素子と下アーム素子の電流が均等化される。その結果、インバータ回路2の発熱と温度上昇のバラツキを抑制することができる。
【0043】
プロセッサ(制御器8)は、例えば、切り替えのタイミングをまたぐ期間に、三相電圧指令(U相変調波31、V相変調波32、W相変調波33)の周期Tmの1/(4N)倍の周期Tcのキャリア波を挿入することにより、キャリア信号(キャリア波30)の位相を反転する。図8の例では、6パルスモードでTc=Tm/4のキャリア波を挿入しているが、6NパルスモードではTc=Tm/(4N)のキャリア波を挿入すればよい。
【0044】
切り替えのタイミングにキャリア波の山(ピーク値)が位置し、切り替えのタイミングの前後で対称となるTc=Tm/(4N)のキャリア波を挿入することで、切り替えのタイミングの電流の急激な変化を抑制しつつ位相を反転することができる。なお、挿入されるキャリア波の周期がキャリア信号(キャリア波30)の周期より長くなるにつれて、電流リップルが大きくなる。
【0045】
キャリア信号(キャリア波30)は、三角波で構成される。プロセッサ(制御器8)は、例えば、切り替えのタイミングに、三角波の山と谷を反転することにより、キャリア信号(キャリア波30)の位相を反転する(図6図7)。
【0046】
三角波の山と谷を反転することで、簡単に位相を反転することができる。
【0047】
プロセッサ(制御器8)は、例えば、切り替えのタイミングをまたぐ期間に、三相電圧指令(U相変調波31、V相変調波32、W相変調波33)の周期Tmの1/(12N)倍の周期Tcのキャリア波を挿入することにより、キャリア信号(キャリア波30)の位相を反転する。図9の例では、6パルスモードでTc=Tm/12のキャリア波を挿入しているが、6NパルスモードではTc=Tm/(12N)のキャリア波を挿入すればよい。
【0048】
切り替えのタイミングにキャリア波の山(ピーク値)が位置し、切り替えのタイミングの前後で対称となるTc=Tm/(12N)のキャリア波を挿入することで、切り替えのタイミングの電流の急激な変化を抑制しつつ位相を反転することができる。
【0049】
プロセッサ(制御器8)は、例えば、切り替えのタイミングをまたぐ期間に、三相電圧指令(U相変調波31、V相変調波32、W相変調波33)の周期Tmの5/(24N)倍の周期Tcのキャリア波を2周期分挿入することにより、キャリア信号(キャリア波30)の位相を反転する。図11の例では、6パルスモードでTc=Tm*5/24のキャリア波を挿入しているが、6NパルスモードではTc=Tm*5/(24N)のキャリア波を挿入すればよい。
【0050】
切り替えのタイミングにキャリア波の谷(ボトム値)が位置し、切り替えのタイミングの前後で対称となるTc=Tm*5/(24N)のキャリア波を2周期分挿入することで、切り替えのタイミングの電流の急激な変化を抑制しつつ位相を反転することができる。
【0051】
プロセッサ(制御器8)は、例えば、切り替えのタイミングをまたぐ期間に、三相電圧指令(U相変調波31、V相変調波32、W相変調波33)の周期Tmの1/(8N)倍の周期Tcのキャリア波を2周期分挿入することにより、キャリア信号(キャリア波30)の位相を反転する。図10の例では、6パルスモードでTc=Tm/8のキャリア波を挿入しているが、6NパルスモードではTc=Tm/(8N)のキャリア波を挿入すればよい。
【0052】
切り替えのタイミングにキャリア波の谷(ボトム値)が位置し、切り替えのタイミングの前後で対称となるTc=Tm/(8N)のキャリア波を2周期分挿入することで、切り替えのタイミングの電流の急激な変化を抑制しつつ位相を反転することができる。
【0053】
プロセッサ(制御器8)は、三相電圧指令(U相変調波31、V相変調波32、W相変調波33)の周期Tmの1/(4N)倍もしくは5/(24N)の周期Tcのキャリア波を挿入する期間の全部(図14)もしくは一部(図12図13)において、三相変調方式を採用する。
【0054】
キャリア波を挿入する期間に三相変調方式を採用することで、電流リップルを低減することができる。
【0055】
プロセッサ(制御器8)は、上アーム素子及び下アーム素子の温度上昇時定数に基づいて、切り替えの周期を、0.1秒~30秒の範囲に設定する(図15)。
【0056】
温度上昇時定数に基づいて切り替えの周期を設定することで、上アーム素子及び下アーム素子の温度上昇のバラツキを効率的に抑制することができる。
【0057】
プロセッサ(制御器8)は、切り替えのタイミングをまたぐ期間に、キャリア信号の周期と異なる周期を有する三角波で構成され、切り替えのタイミングに三角波の山又は谷が位置し、かつ切り替えのタイミングの前後で対称となるキャリア波を挿入する(図8図11)。
【0058】
切り替えのタイミングに三角波の山又は谷が位置し、切り替えのタイミングの前後で対称となるキャリア波を挿入することで、切り替えのタイミングの電流の急激な変化を抑制することができる。
【0059】
(第2の実施形態)
以下、図16を参照しながら、上述したインバータ装置を備える、第2の実施形態によるモータ駆動装置200(モータ制御装置)について説明する。
【0060】
図16は、第2の実施形態によるモータ駆動装置200の全体構成を示す図である。図16に示すように、モータ駆動装置200は、発電モータ用インバータ回路40、駆動モータ用インバータ回路41、双方向DC/DC変換器42、平滑コンデンサ43、直流電圧検出器44、電流センサ45と46、および制御器47(プロセッサ)を備えている。
【0061】
発電モータ用インバータ回路40には、発電用モータ52が接続されている。さらに発電用モータ52がエンジン50など外部動力源から駆動される。発電モータ用インバータ回路40は、発電用モータ52からの交流電圧を直流電圧に変換する。双方向DC/DC変換器42には、充放電ができる蓄電池53が接続されており、平滑コンデンサ43の直流電圧を調整する。ただし、平滑コンデンサ43の直流電圧を可変に調整する必要が無い場合、双方向DC/DC変換器42は省略しても構わない。
【0062】
駆動モータ用インバータ回路41は、平滑コンデンサ43の直流電圧を交流電圧に変換して出力し、車輪56を駆動するモータ54を駆動する。また、エンジン50と発電用モータ52及び、車輪軸とモータ54(駆動モータ)との間に、回転速度を転換するための変速機51と55を設けている。
【0063】
制御器47は、電流センサ45と46および直流電圧検出器44の出力に基づいて発電モータ用インバータ回路40、駆動モータ用インバータ回路41と双方向DC/DC変換器42を制御するPWM信号を生成する。なお、制御器47は、マイクロコンピュータ(汎用プロセッサ)もしくはDSP(デジタルシグナルプロセッサ)などの半導体演算素子を用いて実装することができる。
【0064】
第1の実施形態について説明した通り、制御器47には、図3のPWM制御器14と同様な構成を備えており、同期PWM制御を用いてPWM信号を生成する。
【0065】
以上説明したように、第2の実施形態によれば、各インバータ装置の制御に、同期PWM制御の6Nパルスモードで、上貼り付け2相変調方式と下貼り付け2相変調方式を採用し、さらに、周期的に二つの変調方式を切り替え、素子のオンオフ動作回数を低減しながら、各素子の通流を均等化することにより、素子の温度バラツキを抑止し、変調方法切替時の電流変動を抑制し、モータトルク脈動と直流電圧のリップルを低減することが実現できる。
【0066】
第2の実施形態の主な特徴は、次のようにまとめることもできる。
【0067】
モータ制御装置(モータ駆動装置200)は、第1の実施形態によるインバータ装置100Aを含む。本実施形態では、インバータ装置100Aを用いて、モータの力行(モータ54による車輪の駆動)又は回生(発電用モータ52による発電)が行われる。なお、制動時にモータ54により回生が行われても良い。
【0068】
これにより、インバータ回路(発電モータ用インバータ回路40、駆動モータ用インバータ回路41)の発熱と温度上昇のバラツキを抑制することができる。
【0069】
なお、本発明の実施形態は、上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれ得る。例えば、上記した実施形態は、分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0070】
また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサ(演算処理装置)がそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0071】
本発明の実施形態は、以下の態様であってもよい。
【0072】
(1).直流電力を三相交流電力への電力変換を行うインバータ装置であって、三相電圧指令とキャリア信号を比較してPWM制御信号を生成するPWM制御部を備え、前記PWM制御部は、同期PWM制御の6Nパルスモード(Nは1,2,3,…)で、前記インバータ装置を制御する場合に、前記電圧指令の1周期の1/3区間において、前記3相のうちいずれかを固定相として、前記インバータ装置の固定相の上アーム素子をオンし、固定相の下アーム素子をオフする上貼り付け2相変調方式と、前記インバータ装置の固定相の下アーム素子をオンし、固定相の上アーム素子をオフする下貼り付け2相変調方式と、を周期的に切り替え、当該切り替えのタイミングにおいて前記キャリア信号の位相を反転する
特徴とするインバータ装置。
【0073】
(2).(1)において、前記2相変調方式切替時に、前記電圧指令の周期の1/(4N)倍のキャリア波を挿入することにより、キャリア信号の位相を反転することを特徴とする。
【0074】
(3).(1)において、キャリア波は三角波を使用して、前記2相変調方式切替時に、前記三角波の山と谷を反転することにより、キャリア信号の位相を反転することを特徴とする。
【0075】
(4).(1)において、前記2相変調方式切替時に、前記電圧指令の周期の1/(12N)倍のキャリア波を挿入することにより、キャリア信号の位相を反転することを特徴とする。
【0076】
(5).(1)において、前記2相変調方式切替時に、前記電圧指令の周期の5/(24N)倍のキャリア波を2周期分挿入することにより、キャリア信号の位相を反転することを特徴とする。
【0077】
(6).(1)において、前記2相変調方式切替時に、前記電圧指令の周期の1/(12N)倍のキャリア波を挿入することにより、キャリア信号の位相を反転することを特徴とする。
【0078】
(7).(1)と(2)及び(5)において、前記2相変調方式切替時に、前記電圧指令の周期の1/(4N)倍及び5/(24N)倍のキャリア波を挿入する区間の全部もしくは一部において、三相変調方式を採用することを特徴とする。
【0079】
(8).(1)~(7)において、前記上貼り付け2相変調方式と下貼り付け2相変調方式との切替周期は、素子の温度上昇時定数に基づいて、0.1s~30sの範囲に設定することを特徴とする。
【0080】
(9).(1)~(8)において、前記インバータ装置を用いて、モータを駆動することを特徴とするモータ駆動装置。
【0081】
(1)~(9)によれば、素子のオンオフ動作回数を低減しながら、各素子の通流を均等化することにより、素子の温度バラツキを抑止し、変調方法切替時の電流変動を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0082】
100…インバータ装置、1…直流電源、2…インバータ回路、3…モータ、4…コンデンサ、5…電圧検出器、6u、6v、6w…電流センサ、7…位置センサ、8…制御器、10…電流指令演算器、11…電圧制御器、12…2軸/3相変換器、13…変調波演算器、14…PWM制御器、15…3相/2軸変換器、20…バッファレジスタ、21…比較用レジスタ、22…比較器、23…キャリア波発生器、24…電圧位相演算、25…同期PWM制御器、30…キャリア波、31…U相変調波、32…V相変調波、33…W相変調波、34…U相PWM信号(PWM波形)、35…U相上アーム素子電流波形、36…U相下アーム素子電流波形、200…モータ駆動装置、40…発電モータ用インバータ回路、41…駆動モータ用インバータ回路、42…双方向DC/DC変換器、43…平滑コンデンサ、44…直流電圧検出器、45、46…電流センサ、47…制御器、50…エンジン、51、55…変速機、52…発電用モータ、53…蓄電池、54…駆動モータ(モータ)、56…車輪
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16