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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001655
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
B60H1/22 651A
B60H1/22 651Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100454
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 宣伯
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211AA10
3L211AA11
3L211BA32
3L211DA21
3L211DA43
3L211DA45
3L211DA47
3L211DA48
3L211GA34
3L211GA43
3L211GA44
(57)【要約】
【課題】冷媒回路を熱源として、熱媒体回路を流れる熱媒体を介して車室内空気の温調を行う車両用空調装置において、少ない電力消費で効果的な除湿暖房を行えるようにする。
【解決手段】冷媒回路と、冷媒回路の放熱で加熱された高温熱媒体を流す高温熱媒体流路と冷媒回路の吸熱で冷却された低温熱媒体を流す低温熱媒体流路を有する熱媒体回路と、熱媒体回路に設けられる空気熱媒体熱交換器である第1熱交換器を車室内に供給する空気流路の上流側に配置し、空気熱媒体熱交換器である第2熱交換器を空気流路の下流側に配置した空調ユニットを備える車両用空調装置であって、熱媒体回路は、低温熱媒体流路を流れる低温熱媒体を第1熱交換器に流すと共に、高温熱媒体流路を流れる高温熱媒体を第2熱交換器に流し、且つ、高温熱媒体流路を流れる高温熱媒体を蓄熱流路に流す流路切替手段を備えることを特徴とする車両用空調装置を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒回路と、
前記冷媒回路の放熱で加熱された高温熱媒体を流す高温熱媒体流路と前記冷媒回路の吸熱で冷却された低温熱媒体を流す低温熱媒体流路を有する熱媒体回路と、
前記熱媒体回路に設けられる空気熱媒体熱交換器である第1熱交換器を車室内に供給する空気流路の上流側に配置し、前記空気熱媒体熱交換器である第2熱交換器を前記空気流路の下流側に配置した空調ユニットを備える車両用空調装置であって、
前記熱媒体回路は、前記低温熱媒体流路を流れる低温熱媒体を前記第1熱交換器に流すと共に、前記高温熱媒体流路を流れる高温熱媒体を前記第2熱交換器に流し、且つ、前記高温熱媒体流路を流れる高温熱媒体を蓄熱流路に流す流路切替手段を備えることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記蓄熱流路は、車載発熱機器との熱交換を行うことを特徴とする請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記流路切替手段は、前記高温熱媒体流路を流れる熱媒体を乗員に対する個別空調を行う個別空調用熱交換器に流すことを特徴とする請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記流路切替手段は、流路切替弁と前記流路切替弁を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記蓄熱流路への切替時に、前記冷媒回路の出力を低下させることを特徴とする請求項1記載の車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン廃熱が利用できない或いは利用が制限される電動車両(EV(Electric Vehicles)、HV(Hybrid Vehicles)、PHV(Plug-in Hybrid Vehicles)を含む)の車両用空調装置は、ヒートポンプを構成する冷媒回路を熱源として用いている。また、冷媒回路の冷媒と車室内の空気とを直接熱交換するのではなく、水などの熱媒体を介して車室内空気の温調を行うことがなされており、その際、暖房時には冷媒回路の放熱で高温になった熱媒体を空調装置の加熱器に流し、冷房時には冷媒回路の吸熱で低温になった熱媒体を空調装置の冷却器に流す熱媒体回路が用いられている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-123829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用の空調は、車室内空間の快適性を確保するだけでなく、ウインドシールドの曇りを晴らすなど、除湿機能による視認性確保が求められる。このため、車両用空調において、除湿暖房の機能は視認性確保を実現する上で重要な機能になる。
【0005】
前述した従来技術のように、冷媒回路と熱媒体回路を用いる空調装置では、HVAC(Heating, ventilation, and air conditioning)ユニットの風上側の熱交換器(冷却器)に冷媒回路の吸熱で冷却された低温熱媒体を流しながら、HVACユニットの風下側の熱交換器(加熱器)に冷媒回路の放熱で加熱された高温熱媒体を流すことで、除湿暖房を行うことになる。
【0006】
これによると、除湿暖房を行っている間は常時圧縮機を動作させる冷媒回路の作動が不可欠になるが、電動車両においては、空調装置の作動による電力消費が航続可能距離の減少に直結するので、室内温度をそれほど高くする必要が無い状況においては、できる限り少ない電力消費で除湿暖房を行うことが求められる。
【0007】
本発明は、このような事情に対処することを課題としている。すなわち、冷媒回路を熱源として、熱媒体回路を流れる熱媒体を介して車室内空気の温調を行う車両用空調装置において、少ない電力消費で効果的な除湿暖房を行えるようにすること、が本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明の一態様は、以下の構成を具備する。
すなわち、本発明の一態様に係る車両用空調装置は、冷媒回路と、前記冷媒回路の放熱で加熱された高温熱媒体を流す高温熱媒体流路と前記冷媒回路の吸熱で冷却された低温熱媒体を流す低温熱媒体流路を有する熱媒体回路と、前記熱媒体回路に設けられる空気熱媒体熱交換器である第1熱交換器を車室内に供給する空気流路の上流側に配置し、前記空気熱媒体熱交換器である第2熱交換器を前記空気流路の下流側に配置した空調ユニットを備える車両用空調装置であって、前記熱媒体回路は、前記低温熱媒体流路を流れる低温熱媒体を前記第1熱交換器に流すと共に、前記高温熱媒体流路を流れる高温熱媒体を前記第2熱交換器に流し、且つ、前記高温熱媒体流路を流れる高温熱媒体を蓄熱流路に流す流路切り替え手段を備える。
【発明の効果】
【0009】
このような特徴を備えた本発明の車両用空調装置によると、冷媒回路を熱源として、熱媒体回路を流れる熱媒体を介して車室内空気の温調を行う車両用空調装置において、少ない電力消費で効果的な除湿暖房を行えるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の概略構成を示す説明図である。
図2】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の制御部の概略構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る車両用空調装置における除湿暖房運転に係る第1モード実行時の熱媒体の流れを示す説明図である。
図4】本発明の実施形態に係る車両用空調装置における除湿暖房運転に係る第2モード実行時の熱媒体の流れを示す説明図である。
図5】本発明の実施形態に係る車両用空調装置における除湿暖房運転に係る第3モード実行時の熱媒体の流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0012】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る車両用空調装置1は、熱源となる冷媒回路Rと、冷媒との熱交換によって温度管理された熱媒体を循環させる熱媒体回路10と、熱媒体回路10を循環する熱媒体と熱交換することにより温度調節された空気を車室内に供給する空調ユニット80及び個別空調ユニット90と、を備えている。
【0013】
図1に示す例では、冷媒回路Rは、圧縮機11、凝縮器12、膨張弁13、蒸発器14及びアキュームレータ15が順次冷媒配管で接続されて構成され、冷媒を循環させる閉回路である。この他、冷媒回路Rは、例えば、凝縮器12の下流にレシーバを備えるような回路であってもよい。
【0014】
熱媒体回路10は、高温熱媒体流路20、低温熱媒体流路30、蓄熱流路40、室外流路50、空調流路70、タンク55、流路切替部としての第1流路切替部V1、第2流路切替部V2及び第3流路切替部V3を含んで構成されている。
【0015】
高温熱媒体流路20は、冷媒回路Rにおける凝縮器12と一体になって、熱媒体-冷媒の熱交換を行う高温熱交換器21(加熱部)を備えており、第1ポンプP1によって圧送された熱媒体が、高温熱交換器21を通過する間に冷媒回路Rにおける凝縮器12での冷媒の放熱で高温になって循環する。
【0016】
低温熱媒体流路30は、冷媒回路Rにおける蒸発器14と一体になって、熱媒体-冷媒の熱交換を行う低温熱交換器31(冷却部)を備えており、第2ポンプP2によって圧送された熱媒体が、低温熱交換器31を通過する間に冷媒回路Rにおける蒸発器14での冷媒の吸熱で低温になって循環する。
【0017】
蓄熱流路40は、熱媒体と熱交換を行うと共に熱媒体の熱を蓄熱する複数の蓄熱部を含んでいる。蓄熱流路40に設けられる蓄熱部として、電動車両におけるバッテリの温調を行うバッテリ用熱交換器41、走行用モータの温調を行うモータ用熱交換器42、インバータの温調を行うインバータ用熱交換器43、及び、パワーコントロールユニットの温調を行うPCU用熱交換器44等の駆動に伴って発熱を生じる車載機器に設けられる熱交換器を適用することができる。これにより、蓄熱した熱媒体の熱や、各車載機器から生じる熱を空調に利用することができる。蓄熱流路40において熱媒体は第3ポンプP3によって圧送され、バッテリ用熱交換器41、モータ用熱交換器42、インバータ用熱交換器43、及び、PCU用熱交換器44を通過する。
【0018】
蓄熱流路40では、バッテリ用熱交換器41を含む第1蓄熱流路401と、モータ用熱交換器42、インバータ用熱交換器43及びPCU用熱交換器44を含む第2蓄熱流路402とが、第2流路切替部V2を介して接続されている。また、第1蓄熱流路401及び第2蓄熱流路402は、第2流路切替部V2を制御することで、互いに独立した流路又は接続した流路とすることができる。
【0019】
室外流路50は、外気との熱交換を行う室外熱交換器45を含んでいる。
空調流路70は、空調ユニット80に配備され熱媒体と車室内に送風される空気との熱交換を行う第1熱交換器81及び第2熱交換器82と、個別空調ユニット90に配備され熱媒体と各シート毎に送風される空気との熱交換を行う第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92とを含んでいる。
【0020】
このように、車両用空調装置1において、熱媒体回路10の各流路、すなわち、高温熱媒体流路20、低温熱媒体流路30、蓄熱流路40、室外流路50及び空調流路70が、流路切替部としての第1流路切替部V1、第2流路切替部V2及び第3流路切替部V3を介して接続されている。これらの第1流路切替部V1、第2流路切替部V2及び第3流路切替部V3を後述する制御部100により制御することで、各流路の接続状態を切り替えて、互いに独立した流路又は一部が接続した流路とすることができる。
【0021】
タンク55は、流入口52を介して第1流路切替部V1と第3流路切替部V3との間に、流入口54を介して第3流路切替部V3とモータ用熱交換器42との間に、流出口53を介して第2流路切替部V2と第2ポンプP2との間にそれぞれ接続されている。
第1流路切替部V1と第3流路切替部V3との間には、流入口52に接続される接続部28が設けられている。第3流路切替部V3とモータ用熱交換器42との間には、流入口54に接続される接続部48が設けられている。第2流路切替部V2と第2ポンプP2との間には、流出口53に接続される接続部38が設けられている。
【0022】
また、接続部28からタンク55の流入口52に至る経路において、流入口52の近傍にリリーフ弁57が設けられている。同様に、接続部48からタンク55の流入口54に至る経路において、流入口54の近傍にリリーフ弁58が設けられている。
【0023】
これにより、高温熱媒体が循環する流路において、高温熱媒体の温度の上昇により熱媒体が膨張し、高温熱媒体が循環する流路の回路容量に対して熱媒体量が大きくなった場合に、リリーフ弁57又はリリーフ弁58が開状態となり、高温熱媒体が循環する流路から熱媒体が流入口52又は流入口54を介してタンク55に流入する。
【0024】
一方、低温熱媒体が循環する流路において、低温熱媒体の温度が低下して熱媒体が収縮すると、低温熱媒体が循環する流路の回路容量に対して熱媒体の容量が小さくなるので、タンク55に貯留した熱媒体が流出口53から流出し、接続部38を介して低温熱媒体が循環する流路に流入する。
【0025】
なお、熱媒体回路10を循環する熱媒体としては、添加剤が入っていない水或いは不凍性剤や防腐剤等の添加剤が混合された水、更には油等の液熱媒体などを採用することができる。
【0026】
空調ユニット80は、空気(外気又は内気)を空調ユニット80に吸い込む吸込口83と、吸込口83から吸い込まれた空気を空気流通路84に送風する送風機87と、空気流通路84内に設けられ熱媒体回路10を循環する熱媒体が流れる第1熱交換器81及び第2熱交換器82と、第1熱交換器81を通過した後の空気流通路84内の空気を第2熱交換器82に通風させる割合を調整するエアミックスダンパ89を備えている。
【0027】
空調ユニット80では、吸込口83から空気流通路84に導入された空気を第1熱交換器81のみ、又は、第1熱交換器81及び第2熱交換器82の双方に通風させ、第1熱交換器81及び第2熱交換器82において熱媒体と熱交換することで温調された空気を車室内に送風する。
【0028】
個別空調ユニット90は、熱媒体回路10を循環する熱媒体が流れる第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92と、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92への熱媒体の流入を制御すると共に流量調整が可能な三方弁95(流量調整部)と、を備え、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92の何れか一方又は双方を通過する空気を車室内に送風する。
【0029】
第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92は、それぞれ別個独立の吸込口から導入され、送風機によって送風された空気が流通する空気流通路に設けられている。
【0030】
このように、車両用空調装置1において、熱媒体回路10の各流路、すなわち、高温熱媒体流路20、低温熱媒体流路30、蓄熱流路40、室外流路50及び空調流路70が、流路切替部としての第1流路切替部V1、第2流路切替部V2及び第3流路切替部V3を介して接続されている。これらの第1流路切替部V1、第2流路切替部V2及び第3流路切替部V3を後述する制御部100により制御することで、各流路の接続状態を切り替えて、互いに独立した流路又は一部が接続した流路とすることができる。
【0031】
つまり、熱媒体回路10の高温熱媒体流路20及び低温熱媒体流路30が、空調目的や目標空調温度に応じて蓄熱流路40、室外流路50及び空調流路70のいずれかに接続され、接続された流路に熱媒体が流れるように、制御部100により第1流路切替部V1、第2流路切替部V2、第3流路切替部V3及び三方弁85,95の制御が行われる。
【0032】
これにより、高温熱媒体流路20又は低温熱媒体流路30の一方又は両方において温調された熱媒体が、第1流路切替部V1、第2流路切替部V2、第3流路切替部V3及び三方弁85,95を経由して第1熱交換器81、第2熱交換器82、第1個別熱交換器91又は第2個別熱交換器92のうち接続された熱交換器に流入し、車室内の空調が行われる。
【0033】
図2に、車両用空調装置1の制御を司る制御部100の概略構成を示す。なお、図2において、本実施形態に係る車両用空調装置1による動作に直接関係しない構成については図示及び説明を適宜省略している。
【0034】
制御部100は、走行用モータ、インバータ、パワーコントロールユニットの駆動制御やバッテリの充放電制御を含む車両全般の制御を司る車両コントローラ(ECU)200に車両通信バスを介して接続され、情報の送受信を行う。制御部100及び車両コントローラ200には何れもプロセッサを備えたコンピュータの一例としてのマイクロコンピュータを適用することができる。
【0035】
制御部100には、次の各センサや機器が接続され、これらの各センサ等の出力が入力される。すなわち、制御部100には、高温熱交換器21に流入して凝縮器12によって加熱された熱媒体の温度を検出する温度センサTC21、低温熱交換器31に流入して蒸発器14によって冷却された熱媒体の温度を検出する温度センサTC31、空調ユニット80の第1熱交換器81及び第2熱交換器82に流入する熱媒体の温度を検出する温度センサTC80、個別空調ユニット90の第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92に流入する熱媒体の温度を検出する温度センサTC90、バッテリの温度を検出するバッテリ温度センサTC41(バッテリ自体の温度、バッテリ用熱交換器41に流入又は流出する熱媒体の温度のうち、いずれかの温度)、モータの温度を検出するモータ温度センサTC42(モータ自体の温度、モータ用熱交換器42に流入又は流出する熱媒体の温度のうち、いずれかの温度)、インバータの温度を検出するインバータ温度センサTC43(インバータ自体の温度、インバータ用熱交換器43に流入又は流出する熱媒体の温度のうち、いずれかの温度)、及び、パワーコントロールユニットの温度を検出するPCU温度センサTC44(PCU自体の温度、PCU用熱交換器44に流入又は流出する熱媒体の温度のうち、いずれかの温度)、が接続されている。
【0036】
一方、制御部100の出力には、膨張弁13、第1ポンプP1、第2ポンプP2、第3ポンプP3、第1流路切替部V1、第2流路切替部V2、第3流路切替部V3、三方弁85,95、送風機87及びエアミックスダンパ89が接続されている。そして、制御部100は各センサの出力と空調操作部300にて入力された設定、車両コントローラ200からの情報に基づいてこれらを制御する。
【0037】
以下、このように構成された車両用空調装置1による動作について説明する。本実施形態に係る車両用空調装置1では、例えば、空調ユニット80又は個別空調ユニット90を用いた暖房モード、冷房モード及び除湿モード、車載機器の冷却又は暖機を含む温調モードなどの様々な動作モードを実行することができる。
【0038】
上記した各種動作モードの実行時において、車両用空調装置1の冷媒回路Rでは、制御部100により圧縮機11の回転数等を適宜制御しながら、凝縮器12の放熱と蒸発器14の吸熱を利用して車室内に供給される空気を目標温度又は湿度に調整し、車室内の空調を行う。冷媒回路Rにおいて、冷媒は、次のように循環する。
【0039】
すなわち、圧縮機11から吐出された高圧のガス冷媒は、凝縮器12において高温熱交換器21を通過する熱媒体と熱交換することにより放熱して液化凝縮し、高圧の液冷媒となる。凝縮器12から流出した高圧液冷媒は、膨張弁13によって減圧されて膨張し、低圧冷媒となり、蒸発器14に流入する。蒸発器14に流入した低圧冷媒は、蒸発器14において低温熱交換器31を通過する熱媒体と熱交換することにより蒸発し、ガス冷媒となって蒸発器14を流出し、アキュームレータ15を介して圧縮機11へ戻る。
【0040】
本実施形態にかかる車両用空調装置では、車室内を除湿しながら暖房する場合において、熱媒体回路10における各流路の接続状態が互いに異なる複数種類の除湿暖房モードをそれぞれ実行可能となっている。これらの複数の除湿暖房モードは、車両用空調装置の動作状況、車両の走行状況に応じ、制御部100によって、第1流路切替部V1、第2流路切替部V2、第3流路切替部V3、及び三方弁85,95を制御することで、熱媒体回路10の各流路の接続状態を切り替えて実行される。
【0041】
以下、複数の除湿暖房モードのうち、第1モード、第2モード、及び第3モードの3種類についてそれぞれ図3から図5を用いて説明する。各図において、高温の熱媒体が循環する配管を黒色の実線で示し、低温の熱媒体が循環する配管を一点鎖線で示し、高温と低温との間の中温の熱媒体が循環する配管を灰色の実線で示している。
【0042】
(1)第1モード
第1モードは、蓄熱流路40のバッテリ用熱交換器41、モータ用熱交換器42、インバータ用熱交換器43、及び、PCU用熱交換器44に蓄熱された熱を利用して第2熱交換器82によって車室内の暖房を、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92によってシート毎の暖房を行うと共に、室外熱交換器45を吸熱源として第1熱交換器81によって車室内の除湿を行う除湿暖房モードである。
【0043】
第1モードにおいて、制御部100は、高温熱媒体流路20を流れる高温熱媒体を、空調流路70の第2熱交換器82、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92に流れるように、低温熱媒体流路30を流れる低温熱媒体を空調流路70の第1熱交換器81に流れるように第1流路切替部V1及び三方弁85,95を制御する。
また、制御部100は、高温熱媒体流路20を流れる高温熱媒体を蓄熱流路40に流れるように、低温熱媒体流路30を流れる低温熱媒体を室外流路50の室外熱交換器45に流れるように第2流路切替部V2を制御する。
【0044】
図3に第1モードにおける熱媒体の流れを示す。
図3に示すように、第1モードの実行時において、熱媒体は以下のように循環する。
高温熱媒体流路20の高温熱交換器21において凝縮器12を通過する冷媒と熱交換して加熱された熱媒体は、第1流路切替部V1を経由して三方弁85に流入する。三方弁85に流入した熱媒体は、一部が第2熱交換器82に流れ、残りが三方弁95に向かって流れる。
【0045】
第2熱交換器82に流入した熱媒体は、空気流通路84を通過する空気と熱交換した後に、合流部72に流れる。三方弁95に流入した熱媒体は、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92に流れるように分流され、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92において空気流通路(不図示)を通過する空気とそれぞれ熱交換し、合流部71において合流した後に、合流部72に流れる。
【0046】
合流部72において合流した熱媒体は、第1流路切替部V1及び第2流路切替部V2を経由して蓄熱流路40に流入する。蓄熱流路40に流入した熱媒体は、第3ポンプP3により圧送されてバッテリ用熱交換器41に流れ、第2流路切替部V2を経由して、PCU用熱交換器44、インバータ用熱交換器43及びモータ用熱交換器42に順次流入し、第3流路切替部V3を経由して、高温熱媒体流路20に戻り、第1ポンプP1により高温熱交換器21に圧送される循環を繰り返す。
【0047】
一方、低温熱媒体流路30の低温熱交換器31において蒸発器14を通過する冷媒と熱交換して冷却された熱媒体は、第1流路切替部V1を経由して空調流路70の第1熱交換器81に流入し、空気流通路84を通過する空気と熱交換した後に、第1流路切替部V1、第3流路切替部V3及び第2流路切替部V2を経由して室外流路50に流入する。室外流路50に流入した熱媒体は、室外熱交換器45を通過する過程において外気と熱交換し再び第2流路切替部V2を経由して低温熱媒体流路30に戻り、第2ポンプP2により低温熱交換器31に圧送される循環を繰り返す。
【0048】
このようにすることで、車両用空調装置1において、第2熱交換器82、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92によって車室内に供給される空気を加熱して暖房に用いることができるとともに、第1熱交換器81によって車室内に供給される空気の除湿を行うことができる。
【0049】
上述した第1モードは、主に、車両用空調装置1が起動から所定時間経過して車室内が安定した状態である場合に実行される。第1モードのように、高温熱媒体流路20を流れる高温熱媒体を蓄熱流路40にも循環させることで、蓄熱流路40に含まれるバッテリ用熱交換器41、PCU用熱交換器44、インバータ用熱交換器43、及びモータ用熱交換器42を順に通過することで各機器において生じた熱又は蓄熱されていた熱と、蓄熱流路を流れる熱媒体自体に蓄熱された熱を利用して車室内の除湿暖房を継続することができる。
【0050】
このため、圧縮機11の出力を低下させて(例えば、間欠的に作動させる、回転数を低下させる、一時的に作動を停止させる等)車両用空調装置1による消費電力を抑制することができる。つまり、冷媒回路Rを熱源として、熱媒体回路を流れる熱媒体を介して車室内空気の温調を行う車両用空調装置において、少ない電力消費で効果的な除湿暖房を行えるようにすることができる。
【0051】
(2)第2モード
第2モードは、蓄熱流路40のモータ用熱交換器42、インバータ用熱交換器43、及び、PCU用熱交換器44に蓄熱された熱を利用して第2熱交換器82によって車室内の暖房を、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92によってシート毎の暖房を行うと共に、バッテリ用熱交換器41を吸熱源として第1熱交換器81によって車室内の除湿を行う除湿暖房モードである。
【0052】
第2モードにおいて、制御部100は、高温熱媒体流路20を流れる高温熱媒体を、空調流路70の第2熱交換器82、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92に流れるように、低温熱媒体流路30を流れる低温熱媒体を空調流路70の第1熱交換器81に流れるように第1流路切替部V1及び三方弁85,95を制御する。また、制御部100は、高温熱媒体流路20を流れる高温熱媒体を、第2蓄熱流路402のモータ用熱交換器42、インバータ用熱交換器43、及び、PCU用熱交換器44と室外流路50の室外熱交換器45に流れるように、低温熱媒体流路30を流れる低温熱媒体を第1蓄熱流路401のバッテリ用熱交換器41に流れるように第2流路切替部V2を制御する。
【0053】
図4に第2モードにおける熱媒体の流れを示す。
図4に示すように、第2モードの実行時において、熱媒体は以下のように循環する。
高温熱媒体流路20の高温熱交換器21において凝縮器12を通過する冷媒と熱交換して加熱された熱媒体は、第1流路切替部V1を経由して三方弁85に流入する。三方弁85に流入した熱媒体は、一部が第2熱交換器82に流れ、残りが三方弁95に向かって流れる。
【0054】
第2熱交換器82に流入した熱媒体は、空気流通路84を通過する空気と熱交換した後に、合流部72に流れる。三方弁95に流入した熱媒体は、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92に流れるように分流され、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92において空気流通路(不図示)を通過する空気とそれぞれ熱交換し、合流部71において合流した後に、合流部72に流れる。
【0055】
合流部72において合流した熱媒体は、第1流路切替部V1及び第2流路切替部V2を経由して室外流路50に流れ、室外熱交換器45において外気と熱交換して第2流路切替部V2を経由して蓄熱流路40に流入する。蓄熱流路40の第2蓄熱流路402に流入した熱媒体は、PCU用熱交換器44、インバータ用熱交換器43及びモータ用熱交換器42に順次流入し、第3流路切替部V3を経由して、高温熱媒体流路20に戻り、第1ポンプP1により高温熱交換器21に圧送される循環を繰り返す。
【0056】
一方、低温熱媒体流路30の低温熱交換器31において蒸発器14を通過する冷媒と熱交換して冷却された熱媒体は、第1流路切替部V1を経由して空調流路70の第1熱交換器81に流入し、空気流通路84を通過する空気と熱交換する。第1熱交換器81を出た熱媒体は、第1流路切替部V1、第3流路切替部V3及び第2流路切替部V2を経由して蓄熱流路40の第1蓄熱流路401に流入し、第3ポンプP3により圧送されてバッテリ用熱交換器41に流れ、第2流路切替部V2を経由して低温熱媒体流路30に戻り、第2ポンプP2により低温熱交換器31に圧送される循環を繰り返す。
【0057】
このようにすることで、車両用空調装置1において、第2熱交換器82、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92によって車室内に供給される空気を加熱して暖房に用いることができるとともに、第1熱交換器81によって車室内に供給される空気の除湿を行うことができる。
【0058】
上述した第2モードは、主に、車両用空調装置1が起動から所定時間経過して車室内が安定した状態である場合に実行される。第2モードのように、高温熱媒体流路20を流れる高温熱媒体を蓄熱流路40の第2蓄熱流路402にも循環させることで、第2蓄熱流路402に含まれるPCU用熱交換器44、インバータ用熱交換器43、及びモータ用熱交換器42を順に通過することで各機器において生じた熱又は蓄熱されていた熱と、第2蓄熱流路402を流れる熱媒体自体に蓄熱された熱を利用して車室内の除湿暖房を継続することができる。なお、高温熱媒体の余剰熱は室外熱交換器45において放熱させることができる。
【0059】
このため、第2モードも、第1モードと同様に、圧縮機11の出力を低下させて(例えば、間欠的に作動させる、回転数を低下させる、一時的に作動を停止させる等)車両用空調装置1による消費電力を抑制することができる。つまり、冷媒回路Rを熱源として、熱媒体回路を流れる熱媒体を介して車室内空気の温調を行う車両用空調装置において、少ない電力消費で効果的な除湿暖房を行えるようにすることができる。
【0060】
(3)第3モード
第3モードは、高温熱交換器21において加熱された熱媒体を高温熱媒体流路20と空調流路70との間で循環させて第2熱交換器82によって車室内の暖房を、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92によってシート毎の暖房を行うと共に、室外熱交換器45を吸熱源として第1熱交換器81により車室内の除湿を行う除湿暖房モードである。また、蓄熱流路40内で熱媒体を循環させて、モータ用熱交換器42、インバータ用熱交換器43、及び、PCU用熱交換器44の廃熱によってバッテリ用熱交換器41を暖機する。
【0061】
第3モードにおいて、制御部100は、高温熱媒体流路20を流れる高温熱媒体を、空調流路70の第2熱交換器82、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92に流れるように、低温熱媒体流路30を流れる低温熱媒体を空調流路70の第1熱交換器81に流れるように第1流路切替部V1及び三方弁85,95を制御する。また、制御部100は、低温熱媒体流路30を流れる低温熱媒体を室外流路50の室外熱交換器45に流れるように、かつ、蓄熱流路40内を熱媒体が循環するように第2流路切替部V2を制御する。
【0062】
図5に第3モードにおける熱媒体の流れを示す。
図5に示すように、第3モードの実行時において、熱媒体は以下のように循環する。
高温熱媒体流路20の高温熱交換器21において凝縮器12を通過する冷媒と熱交換して加熱された熱媒体は、第1流路切替部V1を経由して三方弁85に流入する。三方弁85に流入した熱媒体は、一部が第2熱交換器82に流れ、残りが三方弁95に向かって流れる。
【0063】
第2熱交換器82に流入した熱媒体は、空気流通路84を通過する空気と熱交換した後に、合流部72に流れる。三方弁95に流入した熱媒体は、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92に流れるように分流され、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92において空気流通路(不図示)を通過する空気とそれぞれ熱交換し、合流部71において合流した後に、合流部72に流れる。
【0064】
合流部72において合流した熱媒体は、第1流路切替部V1及び第3流路切替部V3を経由して、高温熱媒体流路20に戻り、第1ポンプP1により高温熱交換器21に圧送される循環を繰り返す。
【0065】
一方、低温熱媒体流路30の低温熱交換器31において蒸発器14を通過する冷媒と熱交換して冷却された熱媒体は、第1流路切替部V1を経由して空調流路70の第1熱交換器81に流入し、空気流通路84を通過する空気と熱交換する。第1熱交換器81を出た熱媒体は、第1流路切替部V1及び第2流路切替部V2を経由して室外流路50の室外熱交換器45に流入し、第2流路切替部V2を経由して低温熱媒体流路30に戻り、第2ポンプP2により低温熱交換器31に圧送される循環を繰り返す。
【0066】
なお、蓄熱流路40では、第1蓄熱流路401と第2蓄熱流路402との間で熱媒体が循環する。すなわち、熱媒体は、第3ポンプP3によって、バッテリ用熱交換器41を通過し、第2流路切替部V2を経由してPCU用熱交換器44、インバータ用熱交換器43、及びモータ用熱交換器42を順に通過して、第3流路切替部V3及び第2流路切替部V2を経由して第3ポンプP3に戻る循環を繰り返す。
【0067】
このようにすることで、車両用空調装置1において、第2熱交換器82、第1個別熱交換器91及び第2個別熱交換器92によって車室内に供給される空気を加熱して暖房に用いることができるとともに、第1熱交換器81によって車室内に供給される空気の除湿を行うことができる。また、車室内の除湿暖房と並行してバッテリの暖機を行うことができる。
【0068】
上述した第3モードは、主に、車両用空調装置1の起動直後であって、車室内を急速に除湿暖房する必要がある場合などに実行される。第1モード及び第2モードのように、車室内の状態がある程度安定している場合には、高温熱媒体流路20を流れる高温熱媒体及び低温熱媒体流路30を流れる低温熱媒体の状態もある程度安定した温度を維持していると推定される。しかしながら、車両用空調装置1の起動直後は、高温熱媒体流路20を流れる熱媒体に対する加熱が十分とはいい難く、熱媒体が所望の温度に到達するまでに時間を要する。同様に低温熱媒体流路30を流れる熱媒体に対する冷却が十分とはいい難く、熱媒体が所望の温度に到達するまでに時間を要する。
【0069】
このため、第3モードのように、熱媒体が循環する流路が短くなるようにすることで、高温熱交換器21又は低温熱交換器31において冷媒と熱交換する熱媒体量を少なくして、熱媒体が所望の温度に到達する時間を短縮させ、急速な除湿暖房を実現する。
【0070】
以上述べた如く、本実施形態にかかる車両用空調装置では、除湿暖房モードについて、熱媒体の循環経路が互いに異なる複数のモードを備え、車両用空調装置の動作状況、車両の走行状況に応じて、適宜切り替えながら除湿暖房を行う。これにより、車室内温度を急速に高くする場合には、第3モードを用いる一方、車室内が安定して、室内温度をそれほど高くする必要が無い状況においては、第1モード又は第2モードを用いて圧縮機11の出力を低下させることでできる限り少ない電力消費で除湿暖房を行う。
【0071】
したがって、本実施形態にかかる車両用空調装置によれば、冷媒回路Rを熱源として、熱媒体回路を流れる熱媒体を介して車室内空気の温調を行う車両用空調装置において、少ない電力消費で効果的な除湿暖房を行うことができる。
【0072】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1:車両用空調装置
10:熱媒体回路、11:圧縮機、12:凝縮器、13:膨張弁、14:蒸発器、15:アキュームレータ
20:高温熱媒体流路、21:高温熱交換器、30:低温熱媒体流路、31:低温熱交換器
40:蓄熱流路
41:バッテリ用熱交換器、42:モータ用熱交換器、43:インバータ用熱交換器、44:PCU用熱交換器、45:室外熱交換器、50:室外流路
55:タンク、70:空調流路
80:空調ユニット、81:第1熱交換器、82:第2熱交換器
85,95:三方弁
90:個別空調ユニット、91:第1個別熱交換器、92:第2個別熱交換器
R:冷媒回路
V1:第1流路切替部、V2:第2流路切替部、V3:第3流路切替部
図1
図2
図3
図4
図5