(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165512
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/195 20210101AFI20241121BHJP
H01M 50/188 20210101ALI20241121BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241121BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20241121BHJP
【FI】
H01M50/195
H01M50/188
H01M10/052
H01M10/0568
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081770
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友紀
(72)【発明者】
【氏名】内田 陽三
(72)【発明者】
【氏名】江原 強
(72)【発明者】
【氏名】土屋 詔一
(72)【発明者】
【氏名】浅井 正孝
(72)【発明者】
【氏名】立山 望美
(72)【発明者】
【氏名】浅野 剛史
(72)【発明者】
【氏名】内村 将大
(72)【発明者】
【氏名】松本 繁
(72)【発明者】
【氏名】永野 泰章
【テーマコード(参考)】
5H011
5H029
【Fターム(参考)】
5H011AA02
5H011AA09
5H011FF04
5H011GG02
5H011HH02
5H011HH09
5H011HH12
5H011KK02
5H029AJ12
5H029AJ13
5H029AM03
5H029AM07
5H029DJ03
5H029EJ06
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】フッ素を含む非水電解液を用いていても樹脂部材の劣化が加速されないリチウムイオン電池を提供すること。
【解決手段】本開示技術の電池1は、ケース2と、ケース2の内部に収容された電極体3および電解液と、ケースに固定されるとともにケース2の内部に露出する内部露出面11を有する樹脂部材10とを有するリチウムイオン電池であって、電解液は、フッ素を含む非水電解液であり、樹脂部材10は、シリコン酸化物を主体とし第2族元素が添加されているガラスで形成されたガラスフィラーを含むものであり、ガラスフィラーの成分元素におけるシリコンに対する第2族元素の原子数比が0.12%以上65%以下であるものである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、前記ケースの内部に収容された電極体および電解液と、前記ケースに固定されるとともに前記ケースの内部に露出する内部露出面を有する樹脂部材とを有するリチウムイオン電池であって、
前記電解液は、フッ素を含む非水電解液であり、
前記樹脂部材は、シリコン酸化物を主体とし第2族元素が添加されているガラスで形成されたガラスフィラーを含むものであり、
前記ガラスフィラーの成分元素におけるシリコンに対する前記第2族元素の原子数比が0.12%以上65%以下であるリチウムイオン電池。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン電池であって、
前記第2族元素の少なくとも一部がマグネシウムであり、
前記ガラスフィラーの成分元素におけるシリコンに対するマグネシウムの質量比が0.1%以上25%以下であるリチウムイオン電池。
【請求項3】
請求項1に記載のリチウムイオン電池であって、
前記第2族元素の少なくとも一部がカルシウムであり、
前記ガラスフィラーの成分元素におけるシリコンに対するカルシウムの質量比が0.17%以上81%以下であるリチウムイオン電池。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載のリチウムイオン電池であって、
前記ケースの内部で前記電極体に接続されるとともに前記ケースを貫通して設けられており部分的に前記ケースの外部に露出している端子部材を有し、
前記樹脂部材は、前記ケースと前記端子部材とを絶縁するものであるリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示技術は、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池においては、ケースの内部に電極体および電解液が収容されている。このような電池におけるケースの一部には、端子部材の設置その他の目的のために樹脂部材が固定される。樹脂部材の一部分はケースの内部に露出する内部露出面である。樹脂部材として、ガラスフィラーを添加したものを用いることができる。このようなフィラー入り樹脂として例えば、特許文献1に記載されているものを用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の電池における電解液として、フッ素を含む非水電解液が用いられることがある。その場合、フィラー入り樹脂が劣化してしまうことがある。フィラー入り樹脂の劣化が起こるのは、非水電解液に水分が混入した場合である。非水電解液中のフッ素と混入した水分との反応によりフッ化水素が生成するためである。フッ化水素はガラスを溶解させるので、ガラスフィラーが溶解して失われてしまうのである。
【0005】
本開示技術の課題とするところは、フッ素を含む非水電解液を用いていても樹脂部材の劣化が加速されないリチウムイオン電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示技術の一態様におけるリチウムイオン電池は、ケースと、ケースの内部に収容された電極体および電解液と、ケースに固定されるとともにケースの内部に露出する内部露出面を有する樹脂部材とを有する電池であって、電解液は、フッ素を含む非水電解液であり、樹脂部材は、シリコン酸化物を主体とし第2族元素が添加されているガラスで形成されたガラスフィラーを含むものであり、ガラスフィラーの成分元素におけるシリコンに対する第2族元素の原子数比が0.12%以上65%以下のものである。
【0007】
上記態様におけるリチウムイオン電池では、樹脂部材にガラスフィラーが配合されていることにより、その線膨張係数および弾性率が調整されている。このため、樹脂部材の線膨張係数および弾性率を、ケースの線膨張係数および弾性率に近いものとすることができる。一方、電解液に水分が混入すると、電解液中のフッ素と水との反応により生成したフッ化水素が、ガラスフィラーを溶解しようとする。しかしガラスフィラーに添加されている第2族元素がこの溶解を抑制する。このため、水分が混入しても樹脂部材の特性が維持される。
【0008】
上記態様のリチウムイオン電池ではさらに、第2族元素の少なくとも一部がマグネシウムであり、ガラスフィラーの成分元素におけるシリコンに対するマグネシウムの質量比が0.1%以上25%以下であることとすることができる。第2族元素としてマグネシウムを用いると、フッ化水素によるガラスフィラーの溶解を抑止する効果がより高い。
【0009】
上記態様のリチウムイオン電池であるいは、第2族元素の少なくとも一部がカルシウムであり、ガラスフィラーの成分元素におけるシリコンに対するカルシウムの質量比が0.17%以上81%以下であることとすることもできる。第2族元素がカルシウムであっても、フッ化水素によるガラスフィラーの溶解を抑止する効果はある。
【0010】
上記のいずれかの態様のリチウムイオン電池ではまた、ケースの内部で電極体に接続されるとともにケースを貫通して設けられており部分的にケースの外部に露出している端子部材を有し、樹脂部材は、ケースと端子部材とを絶縁するものであることとすることができる。このようになっていると、ケースと端子部材との間での樹脂部材による絶縁性能および密閉性能が長期間にわたり維持される。
【発明の効果】
【0011】
本開示技術によれば、フッ素を含む非水電解液を用いていても樹脂部材の劣化が加速されないリチウムイオン電池が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図1の一部分を拡大して示す部分拡大図である。
【
図3】電解液への浸漬によりガラスフィラーの腐食が起こった最大深さを示すグラフである。
【
図4】電解液への浸漬による樹脂部材の弾性率の変化を示すグラフである。
【
図5】電解液への浸漬によるフッ素の侵入深さと温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本形態は、
図1および
図2に示す電池1として本開示技術を具体化したものである。電池1は、ケース2に電極体3を収容したものである。ケース2は、電池1の外観をなす外装部材である。本形態ではケース2は金属(例えばアルミ)製であることとする。ケース2は、箱体4と蓋体5とにより構成されている。電極体3は、正負の電極板を積層したものである。
【0014】
ケース2には、電極体3ばかりでなく電解液6も収容されている。電解液6は、ケース2の内部空間に液状のものとして存在しているだけではなく、電極体3の中にも染みこんでいる。電池1はさらに、端子部材7を備えている。端子部材7は、ケース2を貫通して設けられている。端子部材7は、部分的にケース2の外部に露出している。端子部材7のうちケース2の内側の部分は、電極体3に接続されている。端子部材7のうちケース2の外側の部分は、外部端子8に接続されている。電池1は、正極用と負極用との2つの端子部材7および2つの外部端子8を有している。端子部材7および外部端子8の材質は、アルミまたは銅である。
【0015】
蓋体5には、端子部材7を貫通させる貫通孔9が形成されている。電池1はさらに、樹脂部材10を有している。樹脂部材10は、ケース2に固定されて設けられている。ケース2において樹脂部材10が固定されている位置は、貫通孔9における蓋体5と端子部材7との間の位置である。樹脂部材10の役割は、ケース2の内部空間と外部空間との分離と、ケース2と端子部材7との絶縁との2つである。樹脂部材10は、ケース2の内部に露出する内部露出面11を有している。
【0016】
本形態の電池1における電解液6について述べる。本形態では電解液6として、フッ素を含む非水電解液を用いている。本形態の電解液6における溶媒、電解質として使用可能なものには、次のようなものが挙げられる。
溶媒:エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジエチル等の極性有機溶媒電解質:六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のフッ素含有塩
【0017】
本形態の電池1における樹脂部材10について述べる。本形態の樹脂部材10は、基材樹脂にガラスフィラーを配合した複合材である。ガラスフィラーを配合する目的は、樹脂部材10の線膨張係数および弾性率の調整である。線膨張係数の調整とは、樹脂部材10の線膨張係数を低下させることである。蓋体5、端子部材7といった金属部品の線膨張係数の程度に近づけるためである。弾性率の調整とは、樹脂部材10の弾性率を上昇させることである。いずれも、電池1における樹脂部材10の密閉性能の耐久性向上に資することである。
【0018】
本形態の樹脂部材10の基材樹脂として使用できる樹脂種は、特に限定されるものではないが、耐熱性、機械的強度に優れたものが好ましい。例えば、ポリフェニレンスルファイド樹脂(以下、PPS樹脂)、ポリフェニレンオキサイド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられる。
【0019】
本形態の樹脂部材10のガラスフィラーは、ガラスで形成された微小片である。形状は短繊維状もしくは粒状である。本形態におけるガラスフィラーに用いるガラスは、シリコン酸化物(二酸化シリコン等)を主体としつつ、それに第2族元素(特にマグネシウムまたはカルシウム)を添加したものである。添加された第2族元素は、ガラス中では酸化状態になっていると考えられる。ガラスにはまた、生産性向上のためのアルミニウム、耐酸性向上のためのチタンおよび鉄が、いずれも酸化状態で少量含まれていることがある。
【0020】
本形態でガラスフィラーに第2族元素を添加することの意義は、樹脂部材10の耐久性の向上である。本形態では前述のように、電解液6の電解質として、フッ素含有塩を用いている。このため電解液6中には、フッ素が、例えば六フッ化リン酸イオン等の形で含有されている。
【0021】
一方で電池1の製造過程で、環境中の水蒸気に由来してケース2の内部にある程度の水分が混入することがある。電池1の使用過程でも、ケース2の密閉性が緩い場合には外部から内部へ水分が侵入することがある。このため、電解液6が非水溶媒ベースのものであっても、水分が全く存在しないとは必ずしも言えない。
【0022】
電解液6に水分が混入していることにより、電解液6中のフッ素が水分子から水素を奪ってフッ化水素を生成する。フッ化水素の生成は、樹脂部材10の本来想定された耐久性能を阻害する要因である。なぜなら、ガラスは、一般的には化学的安定性の高い化合物であるが、フッ化水素には分解されてしまうからである。このため、電解液6中で生成したフッ化水素が樹脂部材10の内部露出面11に触れると、樹脂部材10中のガラスフィラーがフッ化水素により攻撃される。樹脂部材10からガラスフィラーが溶出していくことにより、樹脂部材10の線膨張係数および弾性率は、本来の基材樹脂の線膨張係数および弾性率に近づいていくことになる。こうして、樹脂部材10が想定よりも早期に劣化してしまうこととなる。
【0023】
しかし本形態では、ガラスフィラーに添加されている第2族元素が、フッ化水素によるガラスの溶解を防止する。フッ化水素は、第2族元素をシリコン酸化物よりも優先的に攻撃するからである。つまり第2族元素は、フッ化水素をトラップして、シリコン酸化物をフッ化水素による攻撃から守るのである。第2族元素自身は、フッ化水素をトラップすることにより、フッ化物となる。また、このとき水が生成される。
【0024】
このため、第2族元素が存在することによって、フッ化水素によるガラスの溶解が抑制される。これにより、樹脂部材10の本来想定された耐久性能が維持される。このため本形態の電池1では、仮にケース2内に水分が侵入したとしても、そのことによる樹脂部材10の耐久性能低下がほとんどない。したがって本形態では、樹脂部材10による蓋体5と端子部材7との間の絶縁性および密閉性が長期間にわたり維持される。
【0025】
ガラスフィラーにおける第2族元素の配合量は、その成分元素におけるシリコンに対する第2族元素の原子数比が0.12%以上65%以下であることが望ましい。これは、複数種類の第2族元素(例えばマグネシウムとカルシウム)を含む場合にはその合計としてのものである。第2族元素の配合量が足りないと、耐久性能向上の効果が不十分となる。第2族元素の配合量が過剰であると、短繊維状に成型しにくい等、ガラスの生産性低下の弊害がある。
【0026】
第2族元素の少なくとも一部がマグネシウムである場合、その配合量は、シリコンに対する質量比で0.1%以上25%以下であることが望ましい。また、第2族元素の少なくとも一部がカルシウムである場合、その配合量は、シリコンに対する質量比で0.17%以上81%以下であることが望ましい。
【0027】
本発明者らは本形態の樹脂部材10の耐久性を評価する試験を行ったので、その結果を説明する。ここで結果を説明する評価は、次の2通りである。
・耐久後の浸食深さ
・耐久前後での弾性率の変化
【0028】
次の2種類のフィラー入り樹脂をいずれも、厚さ1mmの板状の試料にしてこれらの試験に供した。
(実施例)
基材樹脂:PPS樹脂
ガラスフィラーの材質:マグネシウム配合(シリコンに対する質量比で1.9%~25%)
ガラスフィラーの形状:短繊維状(10μmφ × 0.3mm長)
(比較例)
基材樹脂:同上
ガラスフィラーの材質:第2族元素の配合なし
ガラスフィラーの形状:同上
【0029】
試験では、これらの樹脂部材の試料を、以下の条件で電解液に浸漬した。
電解液の溶媒の種類:エチレンカーボネートと炭酸ジエチルとの混合液(質量比1:1)電解質の種類、濃度:六フッ化リン酸リチウム、1モル/リットル
含水量:1200ppm(電池の使用開始後25年経過時に相当)
浸漬時の電解液の温度:25℃、65℃、80℃の3水準
浸漬時間:20日間
【0030】
耐久後の浸食深さの評価では、浸漬後の試料におけるガラスフィラーの腐食状況を評価した。具体的には、試料の断面において、ガラスフィラーの完全な消失が見られる表面からの最大深さを評価した。試料の表面は、樹脂部材10の内部露出面11に相当する面である。この評価は、試料の断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより行った。結果は
図3に示す通りであった。
図3では、浸漬後における腐食の最大深さ(縦軸)を、上記の3水準の浸漬時の温度ごとに、実施例と比較例とで対比しつつ示している。
【0031】
図3から次のことが言える。
・全体として、浸漬時の温度が高いほど、深い領域まで腐食が進む。
・いずれの温度条件でも、実施例の方が比較例よりも腐食の深さが小さい。なお、25℃で浸漬した実施例における腐食深さはゼロであった。
【0032】
このように
図3から、マグネシウムを配合した実施例では、マグネシウムを配合しない比較例と比較して、いずれの温度条件でも、ガラスフィラーの腐食が抑えられていることが分かる。これは、実施例に添加されているマグネシウムにより、フッ化水素によるガラスの溶解が抑制されたためであると解される。
【0033】
耐久前後での弾性率の変化の評価では、浸漬前の試料の弾性率に対して、浸漬後の試料の弾性率がどれほど低下しているかを評価した。そのため、浸漬前の試料、浸漬後の試料のそれぞれに対して弾性率を測定し、低下率を算出した。結果は
図4に示す通りであった。
図4における縦軸は、浸漬前の試料の弾性率を基準として、浸漬後の試料の弾性率の基準からの低下分の比率を負値で示すものである。
図4中で下へ行くほど、浸漬による弾性率の低下が著しいことを示す。
図4でも、3水準の浸漬時の温度ごとに、実施例と比較例とで対比しつつ結果を示している。
【0034】
図4から次のことが言える。
・全体として、浸漬時の温度が高いほど、浸漬による弾性率の低下の程度が大きい傾向がある。
・いずれの温度条件でも、実施例の方が比較例よりも弾性率の低下の程度が小さい。
【0035】
このように
図4から、マグネシウムを配合した実施例では、マグネシウムを配合しない比較例と比較して、いずれの温度条件でも、浸漬による弾性率の低下が抑えられていることが分かる。これは、実施例に添加されているマグネシウムにより、フッ化水素によるガラスの溶解が抑制されたためであると解される。つまり、比較例では浸漬によりガラスフィラーがかなり失われているのに対して、実施例では浸漬後でもガラスフィラーが相当に維持されているものと解される。
【0036】
本発明者らはまた、本形態の樹脂部材10の電解液への浸漬によるフッ素の侵入について、さらに試験を行った。この試験としては、表1の4通りの成分のガラスフィラーを含む樹脂を試料とした。試料の形状は前述のものと同じである。表1中の「質量%」の欄の各数値は、酸素等を含めたガラス全体の質量に対する各元素の質量比を示している。「質量比 (%)」の欄の各数値は、ガラス中におけるそれぞれの元素のみの相対的な質量比を示している。「原子数比 (%)」の欄の各数値は、質量比の値を各元素の原子量に基づき原子数比に換算したものである。
【0037】
【0038】
表1の4種類の試料のうち試料Aは、第2族元素としてカルシウムのみを含みマグネシウムを含まないものである。試料B~Dは、第2族元素としてマグネシウムとカルシウムとの両方を含むものである。そのうち試料Bは、カルシウムの配合量が質量比にて前述の望ましい範囲の上限近くにあり、かつ、マグネシウムとカルシウムとの合計での配合量が原子数比にて前述の望ましい範囲の上限近くにあるものである。試料Cは、マグネシウムの配合量が質量比にて前述の望ましい範囲の上限近くにあり、かつ、マグネシウムの配合量とカルシウムの配合量とが原子数比にてほぼ等しいものである。試料Dは、試料Cに比して、マグネシウムの配合量とカルシウムの配合量との原子数比での合計をほぼ等しくしつつ、マグネシウムの配合量を減らしてカルシウムの配合量を増やしたものである。
【0039】
これら4種類の試料を電解液に浸漬し、浸漬後における試料へのフッ素の侵入深さを測定した。各種類について複数個の試料を測定に供した。電解液としては前述の試験についての説明で述べたものと同じものを使用した。フッ素の侵入深さの測定には、X線元素分析装置付き走査型電子顕微鏡を用いた。すなわち、浸漬後の試料の断面を同電子顕微鏡で観察しつつ、X線元素分析装置によりフッ素の分布をマッピングして、フッ素の存在が検出される表面からの最大深さを測定した。これは、前述の「浸食深さ」とは異なる指標であり、一般に同一条件下では「浸食深さ」より大きい値となるものである。
【0040】
図5は、測定されたフッ素の侵入深さと浸漬時の電解液の温度との関係をグラフに示したものである。
図5の縦軸は侵入深さであり、下方ほど侵入が少なく電解液に対する耐性が優れていることを意味する。
図5の測定では、浸漬時の温度を、25℃、40℃、60℃、80℃の4水準とした。浸漬時間は20日とした。各温度水準および各試料種ごとに5個ずつの試料について浸漬およびその後の測定を行い、各試料における最大の侵入深さを記録した。
【0041】
図5から、浸漬時の温度が高いほどフッ素の侵入深さが大きい傾向があることが分かる。また、4種類の試料のうち、マグネシウムを含まない試料Aは、マグネシウムを含んでいる試料B~Dに比べて侵入深さが大きい傾向がある。これより、第2族元素の中でもマグネシウムは他の第2族元素よりさらに有効であると考えられる。ただし、第2族元素を全く含まないようなものは
図5の縦軸の範囲に収まらないほど深くフッ素が侵入するので、それに比べれば試料Aでもフッ素の侵入が抑制されていると言える。
【0042】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば、電解液6にフッ素を含んでいる電池1において、端子部材7を通す貫通孔9を封止する樹脂部材10として、第2族元素を添加したガラスフィラーを配合した複合材を用いている。これにより、電解液6に水分が混入することがあったとしてもそのことによる樹脂部材10の劣化が抑制されている。つまり、ガラスフィラーへの第2族元素の添加によって樹脂部材10の耐久性が向上しているのである。かくして、フッ素を含む非水電解液6を用いていても樹脂部材10の劣化が加速されないリチウムイオン電池1が実現されている。
【0043】
本実施の形態および実施例は単なる例示にすぎず、本開示技術を何ら限定するものではない。したがって本開示技術は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。例えば、前記形態では、本開示技術の適用対象である電池1として、
図1に示した扁平角形形状のものを挙げている。しかしこれに限らず、円筒形状等、他の外形の電池にも本開示技術の適用は可能である。
【0044】
また、前記形態では、本開示技術の適用箇所である樹脂部材10として、端子部材7と蓋体5との間を絶縁するものを挙げている。しかしこれに限らず、電池における他の場所の樹脂材に本開示技術を適用することもできる。他の場所の樹脂材としては例えば、注液口を樹脂材で封鎖する場合のその封鎖樹脂が挙げられる。また、ケース2のうち箱体4は絶縁物でもよいので、箱体4そのものを、本開示技術を適用した樹脂部材で構成することができる。また、円筒形状の電池の場合の円筒ケースと円形蓋との間のシール樹脂としても本開示技術の樹脂部材を使用することができる。
【0045】
前記形態では、ケース2の外側にて端子部材7と外部端子8とが接続されることとしている。しかし、端子部材7と外部端子8とが一体である構成であってもよい。ケース2の内側では、端子部材7の一端が直接に電極体3に接続される形に限らず、別の集電部材を介して間接的に接続される形であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 電池 6 電解液
2 ケース 7 端子部材
3 電極体 10 樹脂部材
4 箱体 11 内部露出面
5 蓋体