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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165516
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ダンパ装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/53 20060101AFI20241121BHJP
   F16F 9/12 20060101ALI20241121BHJP
   F16F 9/46 20060101ALI20241121BHJP
   B60G 13/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
F16F9/53
F16F9/12
F16F9/46
B60G13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081774
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 義仁
(72)【発明者】
【氏名】釜田 忍
(72)【発明者】
【氏名】西出 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】兼重 宙
(72)【発明者】
【氏名】花嶋 幸博
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】谷藤 潤一
(72)【発明者】
【氏名】町田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】成澤 拓哉
【テーマコード(参考)】
3D301
3J069
【Fターム(参考)】
3D301DA35
3J069AA41
3J069DD25
3J069DD50
3J069EE35
(57)【要約】
【課題】特別な制御を行わずに、コイルが作り出す残留磁束を解消し、ダンパ装置に生じる残留減衰力を継続的に解消するダンパ装置を提供する。
【解決手段】磁界により見かけ上の粘度を調整可能な機能性流体を封入したダンパ本体と、ダンパ本体に対して軸方向にスライド自在なシャフトとを備え、シャフトの外周には、軸方向に延びる螺旋状のねじ溝とを備え、ダンパは、静止体と、回転体とを備え、静止体は、磁界を発生する電磁部を備え、電磁部は、軸中心に線材が巻回されるコイルと、コイルを収容する磁路形成部材と、永久磁石とを備え、磁路形成部材は、機能性流体を充填する筒状空間を有し、永久磁石は、磁路形成部材の内部であって磁界による磁路上に配置され、回転体は、ねじ溝と螺合する回転係合部と、軸方向に円筒状に延びる回転円筒部とを備え、回転円筒部は、磁路形成部材と隙間を形成した状態で筒状空間に挿入される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界により見かけ上の粘度を調整可能な機能性流体を封入したダンパ本体と、
前記ダンパ本体に対して軸方向にスライド自在なシャフトとを備え、
前記シャフトの外周には、軸方向に延びる螺旋状のねじ溝とを備え、
前記ダンパ本体は、静止体と、回転体とを備え、
前記静止体は、前記磁界を発生する電磁部を備え、
前記電磁部は、軸中心に線材が巻回されるコイルと、前記コイルを収容する磁路形成部材と、永久磁石とを備え、
前記磁路形成部材は、前記機能性流体を充填する筒状空間を有し、
前記永久磁石は、前記磁路形成部材の内部であって前記磁界による磁路上に配置され、
前記回転体は、前記ねじ溝と螺合する回転係合部と、軸方向に円筒状に延びる回転円筒部とを備え、
前記回転円筒部は、前記磁路形成部材と隙間を形成した状態で前記筒状空間に挿入されることを特徴とするダンパ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のダンパ装置において、
前記永久磁石は、前記永久磁石の磁束が前記磁路の磁束を打ち消す向きに配置されることを特徴とするダンパ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のダンパ装置において、
前記永久磁石は、前記コイルと同軸の環状に配置されることを特徴とするダンパ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のダンパ装置において、
前記永久磁石は、隣り合う前記永久磁石と隙間を介して複数配置されることを特徴とするダンパ装置。
【請求項5】
請求項3に記載のダンパ装置において、
前記永久磁石は、前記回転円筒部の内径側に配置されることを特徴とするダンパ装置
【請求項6】
請求項1に記載のダンパ装置において、
移動体の車輪にサスペンション装置として取付けられることを特徴とするダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気粘性流体等の機能性流体を用いたダンパであって、ダンパケースと回転体との間に機能性流体を介在させ、電磁コイルによって減衰力を制御可能とする回転ダンパが知られている。このようなダンパは、電磁コイルに直流電流を印加することによりダンパケース内に磁界を生じさせ、機能性流体中の強磁性体粒子等がダンパケースと回転体との間に鎖状のクラスターを形成して、このクラスターのせん断抵抗により減衰力を生じさせる。
【0003】
このようなダンパでは、電磁コイルに対する電流の制御によって減衰力の調整やオンオフが可能となる。例えば、特許文献1に示すように、直流電源からの直流電圧によって電磁コイルが発生する磁束に応じて減衰力を生じさせる機能性流体を封入したダンパの制御装置であって、前記電磁コイルに交流電圧を印加するための交流電源と、前記交流電源を制御して前記電磁コイルに対する前記交流電圧として定常波交流電圧を所定周期継続した後に漸次減衰する減衰波交流電圧を印加させる電圧制御部と、を備えることを特徴とするダンパの制御装置が知られている。
【0004】
このようなダンパの制御装置によれば、電磁コイルを通電していないオフ時の残留磁束の影響による減衰力(以下、「残留減衰力」と称する)が生じても、定常波交流電圧と減衰波交流電圧とにより、機能性流体が形成する鎖状クラスターを破壊することができ、残留減衰力を除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-128056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のダンパの制御装置を自動車等のショックアブソーバーに用いようとすると、ダンパに振動が入力される度に残留減衰力が発生し、路面の凹凸が目まぐるしく変化するような場面では、交流電圧の制御が煩雑になり、連続的な振動の入力に対して残留減衰力を除去するのが困難であるという課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、コイルが作り出す残留磁束とは逆向きの磁束を永久磁石によって作り出すことで残留磁束を打ち消し、残留減衰力を継続的に解消することができるダンパ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明に係るダンパ装置は、磁界により見かけ上の粘度を調整可能な機能性流体を封入したダンパ本体と、前記ダンパ本体に対して軸方向にスライド自在なシャフトとを備え、前記シャフトの外周には、軸方向に延びる螺旋状のねじ溝とを備え、前記ダンパ本体は、静止体と、回転体とを備え、前記静止体は、前記磁界を発生する電磁部を備え、前記電磁部は、軸中心に線材が巻回されるコイルと、前記コイルを収容する磁路形成部材と、永久磁石とを備え、前記磁路形成部材は、前記機能性流体を充填する筒状空間を有し、前記永久磁石は、前記磁路形成部材の内部であって前記磁界による磁路上に配置され、前記回転体は、前記ねじ溝と螺合する回転係合部と、軸方向に円筒状に延びる回転円筒部とを備え、前記回転円筒部は、前記磁路形成部材と隙間を形成した状態で前記筒状空間に挿入されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るダンパ装置によれば、特別な制御を行わずに、コイルが作り出す残留磁束を解消し、ダンパ装置に生じる残留減衰力を継続的に解消することができる。また、例えば、本発明に係るダンパ装置を自動車等のショックアブソーバーに用いた場合、路面の凹凸が目まぐるしく変化し、ダンパ装置に振動が入力される度に残留減衰力が発生するような場面であっても、煩雑な交流電圧の制御を必要とせず、連続的な振動の入力に対して容易に残留減衰力を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るダンパ装置を示す断面図。
図2図1におけるA-A断面図。
図3】本発明の実施形態に係るダンパ装置の入力電流と減衰力を示すグラフ。
図4】本発明の実施形態に係るダンパ装置の永久磁石の配置の一例を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るダンパ装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るダンパ装置を示す断面図であり、図2は、図1におけるA-A断面図であり、図3は、本発明の実施形態に係るダンパ装置の入力電流と減衰力を示すグラフであり、図4は、本発明の実施形態に係るダンパ装置の永久磁石の配置の一例を示す部分断面図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係るダンパ装置Dは、略円筒形のダンパ本体1と、ダンパ本体1に対して軸方向にスライド自在なシャフト2を備える。
【0014】
シャフト2は、ダンパ本体1と同軸に配置され、一方の端部がダンパ本体1の内部に位置し、他方の端部がダンパ本体1の外部に突き出すように配置される。
【0015】
シャフト2の外周には、後述する回転係合部60と螺合するねじ溝2aが形成される。また、シャフト2の外周には、後述する直動係合部20と係合するガイド溝2bが形成されると好適である。
【0016】
ダンパ本体1は、静止体3と、静止体3と同軸に配置される回転体4を備える。回転体4は、静止体3の内部であって、静止体3と軸回りに相対回転自在となるように配置される。回転体4は、一例として、図1に示すように、スラストベアリング5を介して静止体3に保持される。
【0017】
静止体3は、図示しない電源装置による電圧の印加により磁路を形成可能な電磁部10を備える。また、静止体3は、シャフト2を軸方向にガイドする直動係合部20を備えると好適である。
【0018】
電磁部10は、図1に示すように、コイル11と、磁路形成部材12とを備える。
【0019】
コイル11は、導電性を有する線材を軸中心に巻回することにより形成される。コイル11は、図示しない電源装置と線材とが電気的に接続されることにより、印加される電圧に応じてコイル11の周囲に磁界を生じさせる。コイル11は、一例として、樹脂材料等で構成される筒状のボビンに線材を巻回して構成しても構わない。また、コイル11の軸中心には、後述するヨーク13の筒状部13bを挿通可能とする貫通孔11aが形成される。
【0020】
磁路形成部材12は、図1に示すように、ヨーク13及びカバー14を備える。ヨーク13及びカバー14は、例えば、鉄系材料のような磁性材料により構成される。
【0021】
磁路形成部材12は、コイル11への通電に伴う磁界によって、ヨーク13及びカバー14を介して磁束ループを形成する。本明細書において、このようにコイル11が形成する磁束ループの通り道を磁路M1と定義する。なお、磁路形成部材12に形成される磁路M1の磁力は、コイル11による磁界の強さによって決定される。このため、コイル11は、要求される磁路M1の磁力に応じて、巻回される線材の巻き数が設定される。
【0022】
ヨーク13は、軸方向に延びる筒状部13bと、筒状部13bの一方の端部から径方向外側に延出する鍔部13cを有する。ヨーク13は、筒状部13bをコイル11の貫通孔11aに挿通させ、鍔部13cをコイル11の一方の端面に当接させて、コイル11を保持する。また、筒状部13bは、軸中心に貫通する貫通孔13aを有する。貫通孔13aは、シャフト2の外径よりも大きな孔径に形成され、シャフト2を挿通する。
【0023】
ヨーク13は、図1に示すように、磁路M1の通り道上であって、後述する回転体4の回転円筒部50の内側となる位置に、複数の永久磁石15を備える。
【0024】
永久磁石15は、図1及び図2に示すように、軸方向に延びる平板状の磁石であって、ヨーク13の外周面13dに沿って環状に配置される。永久磁石15は、その磁束の方向がコイル11による磁路M1の向きと反対となるように配置され、ヨーク13及びカバー14を介して磁束ループを発生させる。すなわち、永久磁石15は、コイル11による磁路M1を打ち消す方向に磁束ループを発生させる。本明細書において、永久磁石15による磁束ループの通り道を磁路M2と定義する。
【0025】
また、隣り合う永久磁石15同士の間には、図2に示すように、所定の隙間Gが形成されると好適である。隙間Gを通過する磁路M1は、永久磁石15による磁路M2によって磁束が遮られることがない。
【0026】
カバー14は、図1に示すように、軸方向に延びる筒状の部材であって、内側にコイル11及びヨーク13の筒状部13bを収容する。また、カバー14の一方の端面は、ヨーク13の鍔部13cに当接する。このため、コイル11による磁路M1及び永久磁石15による磁路M2は、切断されることなくループ状の磁束が確保される。
【0027】
カバー14の内周面14aと、ヨーク13の筒状部13bの外周面13dとの間には、筒状空間16が形成され、筒状空間16には機能性流体Fが充填される。
【0028】
機能性流体Fは、一例として、油等の液体中に鉄粉等の強磁性体粒子を分散した磁性流体(Magnetic Fluid)や、MR流体と称される磁気粘性流体(Magneto Rheological Fluid)を用いることができる。機能性流体Fは、磁界を受けていないときは、一般的な作動油と同様の挙動を示し、外部から磁界が加えられたときは、液体中に均一に分散していた強磁性体粒子が磁界の方向に沿って連結し、鎖状のクラスターを形成する。このクラスターは、流れに対して抵抗するため、機能性流体Fの見かけ上の粘度を高めることができる。このような磁界による粘性の変化は可逆的であり、磁界を除くことにより元の状態に戻すことができる。また、磁界の強さを変更することにより粘度変化の程度を調整することができる。
【0029】
直動係合部20は、シャフト2を軸方向に沿って移動可能に支持する。直動係合部20は、一例として、シャフト2のガイド溝2bに対応する負荷転走溝22が形成されている。
【0030】
直動係合部20は、シャフト2に形成されたガイド溝2bと負荷転走溝22の間を転走する複数のボール21を介してシャフト2に取り付けられる。シャフト2は、直動係合部20に対して、負荷転走溝22の軸方向に沿って有限循環可能に組み付けられている。
【0031】
また、直動係合部20には、軸方向に沿って図示しない無負荷転走路を有し、無負荷転走路の両端部は、負荷転走溝22と連絡しており、これによってボール21が直動係合部20内を無限循環するように構成されていても構わない。なお、無限循環の方式として、無負荷転走路を有する方式について説明を行ったが、無限循環の方式はこれに限定されず、種々の循環方式を採用することが可能であり、例えば、直動係合部20の端部に取り付けるエンドプレートに循環構造を持たせても構わない。
【0032】
回転体4は、シャフト2に対して軸回りに回転可能にガイドする回転係合部60と、静止体3の筒状空間16に挿入される回転円筒部50を有する。
【0033】
回転係合部60は、例えば、シャフト2のねじ溝2aに対応する負荷転走溝62を有する。
【0034】
回転係合部60は、ねじ溝2aと負荷転走溝62の間を転走する複数のボール61を介してシャフト2に対して軸方向に移動可能に取り付けられている。また、回転係合部60は、図示しないリターンピースを有している。
【0035】
リターンピースは、シャフト2のねじ溝2aを数巻分だけ飛び越えるように回転係合部60に固定されており、かかるリターンピースの端部によってシャフト2のねじ溝2aから掬い上げられたボール61が、リターンピース内を転走して数巻分前のねじ溝2aに送りこまれ、これによってボール61が回転係合部60内を無限循環するように構成されている。なお、無限循環の方式として、リターンピースを用いる方式について説明を行ったが、無限循環の方式はリターンピースに限らず、種々の循環方式を採用することが可能であり、例えば、回転係合部60の軸方向端部に取り付けるエンドプレートに循環構造を持たせても構わないし、デフレクタを用いて、ボール61を所定の巻き数分戻す方式を採用しても構わない。
【0036】
回転円筒部50は、例えば、鉄系材料のような磁性材料により構成され、軸方向に延びる薄肉の円筒状に形成される。回転円筒部50は、機能性流体Fが充填された筒状空間16に挿入され、回転円筒部50の内周面50aはヨーク13の外周面13dと、回転円筒部50の外周面50bはカバー14の内周面14aと、それぞれ隙間を持って対向する。本明細書において、内周面50aと外周面13dとの隙間を隙間S1、外周面50bと内周面14aとの隙間を隙間S2と定義する。隙間S1及び隙間S2には機能性流体Fが介在している。
【0037】
ヨーク13の他方の端部及びカバー14の他方の端部には、図1に示すように、隙間S1及び隙間S2を塞ぐオイルシール31が取り付けられると好適である。このようなオイルシール31により、筒状空間16に充填された機能性流体Fが外部空間に漏れ出すことを防止することができる。
【0038】
次に、このようなダンパ装置Dの動作例について説明を行う。
【0039】
本実施形態に係るダンパ装置Dは、一例として、自動車等のショックアブソーバーに用いることができる。この場合、ダンパ装置Dは、ダンパ本体1が車体側、シャフト2が車輪側となるように取り付けられ、ダンパ装置Dの軸方向が上下方向となるように配置される。
【0040】
ダンパ装置Dを装着した車両が路面の凹凸を通過する場合、車輪側に取り付けられたシャフト2は、車体側に取り付けられたダンパ本体1に対して軸方向にスライドする。このとき、シャフト2は、ガイド溝2bが直動係合部20と係合しているため、ダンパ本体1に対して回転不能にスライドすることができる。また、シャフト2は、ヨーク13の貫通孔13aに挿通するように配置されているため、ダンパ本体1の内部において干渉することなくスライド可能となる。
【0041】
シャフト2は、ねじ溝2aが回転係合部60と係合しているため、軸方向へのスライドに伴って、回転体4を軸回りに回転させる。回転体4は、スラストベアリング5を介して静止体3に取り付けられているため、静止体3に対して軸方向には移動せず同軸に回転する。
【0042】
回転体4は、上述の通り、機能性流体Fが充填された筒状空間16に挿入される回転円筒部50を備える。このため、回転円筒部50は、回転体4の回転に伴って機能性流体Fの中で回転する。
【0043】
このとき、コイル11に電流を入力すると、発生する磁界によって磁路M1が形成される。また、磁路M1は、隙間S1及び隙間S2を通過する。隙間S1及び隙間S2には、機能性流体Fが充填されているため、磁路M1に応じて機能性流体F内に分散していた強磁性体粒子が磁束の方向に沿って連結し、鎖状のクラスターが形成される。
【0044】
このようなクラスターが形成された状態で、回転円筒部50が機能性流体Fの中で回転すると、隙間S1及び隙間S2に形成されたクラスターによってせん断抵抗が生じる。すなわち、本実施形態に係るダンパ装置Dによれば、コイル11への入力電流の制御により、機能性流体Fの見かけ上の粘度を調整し、必要に応じた減衰特性を得ることができる。
【0045】
次に、本実施形態に係るダンパ装置Dの減衰力をゼロにする場合について説明を行う。
【0046】
一般に、コイルへの電流の入力によって磁界を発生させた場合、電流をオフとなるように制御しても、コイルの周囲にはループ状の磁束が残留することが知られている。これは、磁路を形成する部品が着磁されることによるものである。このため、従来のダンパ装置によれば、コイルに入力される電流をオフにしても、機能性流体内には残留磁束によるクラスターが残存し、ダンパ装置の減衰力をゼロとすることができない。
【0047】
本実施形態に係るダンパ装置Dは、コイル11が発生させる磁路M1の通り道上に、永久磁石15が配置される。また、永久磁石15は、磁路M2の磁束の方向が磁路M1とは反対向きとなるよう配置されている。したがって、本実施形態に係るダンパ装置Dによれば、永久磁石15による磁路M2がコイル11による磁路M1の残留磁束を打ち消し、コイル11に入力される電流をオフにすることにより、ダンパ装置Dの減衰力をゼロにすることができる。
【0048】
また、永久磁石15は、図2に示すように、隣り合う永久磁石15の間に隙間Gを空けて環状に配置されている。隙間Gを通過する磁路M1は、永久磁石15による磁路M2に遮られることがない。このため、ダンパ装置Dは、コイル11による磁路M1とは逆向きの磁路M2を発生させる永久磁石15を有するが、コイル11へ入力する電流の制御により、任意の減衰力を得ることができる。
【0049】
このように、本実施形態に係るダンパ装置Dによれば、特別な制御を行わずに、コイル11による残留磁束を解消し、ダンパ装置Dに生じる残留減衰力を継続的に解消することができる。
【0050】
なお、残留磁束による磁界の強さは、基本的には一定であるため、コイル11へ入力する電流をオフにすると、所定の磁力の磁束ループを発生させる永久磁石15により、上記のようにダンパ装置Dの減衰力をゼロにすることができる。一方で、残留磁束による磁界の強さが想定よりも小さい場合、コイル11へ入力する電流をオフにすると、永久磁石15による磁界によって減衰力が生じてしまう場合がある。
【0051】
具体的には、残留磁束による磁界の強さが想定よりも小さい場合には、図3に示すように、コイル11へ入力される電流がA点に示す一定の値を下回ると、永久磁石15による磁界の強さが、コイル11への電流入力により発生する磁界の強さ、もしくは残留磁束による磁界の強さよりも大きくなる。このとき、コイル11へ入力される電流をオフにしても、永久磁石15による磁界によってB点に示す減衰力が生じてしまう。
【0052】
このように残留磁束による磁界の強さが永久磁石15による磁界の強さよりも小さい場合には、コイル11へ入力される電流は、永久磁石15による磁界の強さと残留磁束による磁界の強さの差分の磁界の強さを発生させる電流値を基準として制御されると好適である。すなわち、ダンパ装置Dの減衰特性を決定する際、コイル11による減衰力と永久磁石15による減衰力の合計が最も低くなるA点における電流値を基準として、入力電流の制御を行うと好適である。
【0053】
次に、上記以外の本実施形態に係るダンパ装置Dが有する効果について説明を行う。
【0054】
一般に、機能性流体内に分散する強磁性体粒子は、重力の影響により、一定時間経過すると沈殿することが知られている。したがって、従来のダンパ装置においては、長時間コイルへ電流を入力せず、ダンパ装置を作動させていないような場合、機能性流体が充填される空間内の鉛直方向下部に強磁性体粒子が沈殿すると考えられる。
【0055】
また、永久磁石15を備えていない点を除いて本実施形態に係るダンパ装置Dと同様の構造を持つ従来のダンパ装置を長時間放置した後に起動させた場合、起動直後では減衰力が設定値よりも高くなり、起動後一定時間経過すると減衰力は設定値通りとなることが確認された。
【0056】
これは、従来のダンパ装置では、長時間放置されることにより、機能性流体F内の強磁性体粒子が筒状空間16の内部の高い残留磁場環境下でクラスタ密度が高まり、起動直後では機能性流体Fの見かけ上の粘度が高くなったものと考えられる。また、起動後一定時間経過し、機能性流体Fが筒状空間16内で十分に撹拌されると、強磁性体粒子は機能性流体F内に均一に分散されるため、筒状空間16内でクラスターが均一に形成され、機能性流体Fの見かけ上の粘度が設定値通りになったものと考えられる。
【0057】
永久磁石15を備える本実施形態に係るダンパ装置Dは、上述した従来のダンパ装置と異なり、長時間放置された場合であっても、起動直後から設定値通りの減衰力を得ることができるという効果が確認された。
【0058】
これは、本実施形態に係るダンパ装置Dは、永久磁石15を備えるため、コイルへ電流が入力されない状態であっても、機能性流体F内の強磁性体粒子がコイル11による磁路M1の残留磁束と永久磁石15による磁路M2によって適度に平均化された磁束密度下に倣って適度に分散しているためと考えられる。すなわち、本実施形態に係るダンパ装置Dは、永久磁石15によって、機能性流体F内の強磁性体粒子が沈殿するのを防止することができると考えられる。
【0059】
なお、上述した実施形態においては、機能性流体Fが充填される筒状空間16に挿入される回転円筒部50は、回転体4に一つのみ形成される場合について説明を行ったが、回転円筒部50は、要求されるダンパ装置Dの減衰力の大きさに応じて、回転体4に複数形成されても構わない。
【0060】
また、上述した実施形態においては、永久磁石15は、回転体4の回転円筒部50の内側のみに配置される場合について説明を行った。永久磁石15は、コイル11による磁路M1の通り道上に配置されればよく、例えば、図4(a)に示すように、回転円筒部50の内径側及び外径側に配置する場合、図4(b)に示すように、コイル11の内径側及び外径側に配置する場合、または、図4(c)に示すように、コイル11及び回転円筒部50と径方向に重畳しない位置に配置するような場合等であっても構わない。
【0061】
なお、上述した実施形態においては、ダンパ装置Dは、自動車等のショックアブソーバーに用いられる場合について説明を行ったが、本実施形態に係るダンパ装置Dは、これに限らず、小型モビリティや配送ロボット等の移動体に搭載されるサスペンション装置に用いられるものであっても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0062】
1 ダンパ本体, 2 シャフト, 2a ねじ溝, 3 静止体, 4 回転体, 10 電磁部, 11 コイル5, 12 磁路形成部材, 15 永久磁石, 16 筒状空間, 50 回転円筒部, 60 回転係合部, D ダンパ装置, F 機能性流体, M1 M2 磁路。
図1
図2
図3
図4