(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165532
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】空気調和機、制御装置、空気調和システム、サーモ制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
F24F 11/64 20180101AFI20241121BHJP
F24F 11/86 20180101ALI20241121BHJP
F24F 11/70 20180101ALI20241121BHJP
F24F 110/10 20180101ALN20241121BHJP
F24F 140/00 20180101ALN20241121BHJP
【FI】
F24F11/64
F24F11/86
F24F11/70
F24F110:10
F24F140:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081809
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100181618
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 良平
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】海津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】瀬光 孝之
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260AB02
3L260BA02
3L260BA24
3L260CA12
3L260CA25
3L260CA28
3L260CB04
3L260CB22
3L260CB63
3L260CB68
3L260EA03
3L260EA07
3L260EA19
3L260EA22
3L260FA04
3L260FB02
(57)【要約】
【課題】ショートサイクル発生時においてユーザの快適性の低下を抑制する。
【解決手段】空気調和機は、運転に係る運転データを取得するデータ取得部210と、ショートサイクルが発生している場合、運転データに基づいて空調対象の部屋におけるユーザの居住域の空気温度である居住域温度を取得する居住域温度取得部211と、取得された居住域温度が設定温度より大きくなると、室外機3に対して、サーモオンからサーモオフへの切替えを指令するサーモオフ指令部212とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気調和機であって、
前記空気調和機の運転に係る運転データを取得するデータ取得手段と、
前記運転データに基づいて空調対象の部屋におけるユーザの居住域の空気温度である居住域温度を取得する居住域温度取得手段と、
前記取得された居住域温度に基づいてサーモオンからサーモオフへの切替え制御を実行するサーモ制御手段と、を備える、
空気調和機。
【請求項2】
前記居住域温度取得手段は、前記運転データと、前記部屋の特徴である居室特徴とに基づいて居住域温度を取得する、
請求項1に記載の空気調和機。
【請求項3】
前記居室特徴には、前記部屋の天井高が含まれる、
請求項2に記載の空気調和機。
【請求項4】
前記居住域温度取得手段は、直近の予め定めた時間において、サーモオフからサーモオンへの切り替わりが予め定めた回数以上発生している場合に前記居住域温度を取得する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の空気調和機。
【請求項5】
前記居住域温度取得手段は、直近の予め定めた時間における吸込温度の履歴に基づいて天井温度を推定し、前記居室特徴から天井温度と居住域温度との推定される差分値である温度オフセットを取得し、前記推定した天井温度と、前記取得した温度オフセットとに基づいて前記居住域温度を推定する、
請求項2又は3に記載の空気調和機。
【請求項6】
前記居住域温度取得手段は、前記吸込温度の履歴から吸込温度の極小点を抽出し、抽出した極小点に対する予め定めた統計処理によって前記天井温度を推定する、
請求項5に記載の空気調和機。
【請求項7】
前記居住域温度を推論するための学習済モデルを記憶する学習済モデル記憶手段をさらに備え、
前記居住域温度取得手段は、前記取得された運転データと、前記居室特徴と、前記学習済モデルとに基づいて前記居住域温度を推論する、
請求項2又は3に記載の空気調和機。
【請求項8】
空気調和機の運転に係る運転データを取得するデータ取得手段と、
前記運転データに基づいて空調対象の部屋におけるユーザの居住域の空気温度である居住域温度を取得する居住域温度取得手段と、
前記取得された居住域温度に基づいて前記空気調和機に対するサーモオンからサーモオフへの切替え制御を実行するサーモ制御手段と、を備える、
制御装置。
【請求項9】
空気調和機と、制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記空気調和機の運転に係る運転データを取得するデータ取得手段と、
前記運転データに基づいて空調対象の部屋におけるユーザの居住域の空気温度である居住域温度を取得する居住域温度取得手段と、
前記取得された居住域温度に基づいて前記空気調和機に対するサーモオンからサーモオフへの切替え制御を実行するサーモ制御手段と、を備える、
空気調和システム。
【請求項10】
データ取得手段が、空気調和機の運転に係る運転データを取得し、
居住域温度取得手段が、前記運転データに基づいて空調対象の部屋におけるユーザの居住域の空気温度である居住域温度を取得し、
サーモ制御手段が、前記取得された居住域温度に基づいてサーモオンからサーモオフへの切替え制御を実行する、
サーモ制御方法。
【請求項11】
コンピュータを、
空気調和機の運転に係る運転データを取得するデータ取得手段、
前記運転データに基づいて空調対象の部屋におけるユーザの居住域の空気温度である居住域温度を取得する居住域温度取得手段、
前記取得された居住域温度に基づいて前記空気調和機に対するサーモオンからサーモオフへの切替え制御を実行するサーモ制御手段、として機能させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気調和機、制御装置、空気調和システム、サーモ制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、暖房期の空気調和機において、室内機から出た暖気を吸込口から吸い込むことで、室内が十分温まる前に室外機の運転が停止(すなわち、サーモオフ)に切り替わってしまうショートサイクルという現象が知られている。ショートサイクルは、オフィスビルのフロア等、複数の室内機が設置されている空間において、他の室内機からの暖気を吸込んでしまうことがその発生要因の1つとして挙げられるが、家庭用の空気調和機のように室内機が1台の場合であっても、吹き出す空気の風向、風量によって発生することが知られている。
【0003】
ショートサイクルが発生すると、暖気が居住域(すなわち、人の活動空間)に送られる前にサーモオフとなるため、居住域の室温が設定温度まで上昇せず、居住者が寒く感じてしまうという問題がある。また、一般に、ショートサイクルが発生すると、空気調和機は、サーモオンとサーモフを繰り返す運転、いわゆる発停運転の頻度が高くなる。
【0004】
発停運転の回数の増加を抑制することを目的とした技術として、例えば、特許文献1に記載の空気調和機では、暖房運転時にサーモオンに復帰した場合、室内温度が短時間で設定温度を上回らないようにするため、ユーザが手動で設定可能な回転数よりも低い回転数で室内ファンを回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、風量を抑えて熱交換した場合、暖気が空気調和機の室内機周辺に留まってしまうことになり、結果として室内の居住域が暖まる前にサーモオフに切り替わってしまい、ユーザの快適性が低下する。
【0007】
したがって、ショートサイクル発生時においてユーザの快適性の低下を抑制するための新たな技術の提案が望まれているのが実情である。
【0008】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ショートサイクル発生時においてユーザの快適性の低下を抑制することが可能な空気調和機、制御装置、空気調和システム、サーモ制御方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本開示に係る空気調和機は、
空気調和機であって、
前記空気調和機の運転に係る運転データを取得するデータ取得手段と、
前記運転データに基づいて空調対象の部屋におけるユーザの居住域の空気温度である居住域温度を取得する居住域温度取得手段と、
前記取得された居住域温度に基づいてサーモオンからサーモオフへの切替え制御を実行するサーモ制御手段と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、ショートサイクル発生時においてユーザの快適性の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1における空気調和機のハードウェア構成を示す図
【
図2】実施の形態1における室内機が備える制御基板のハードウェア構成を示すブロック図
【
図3】実施の形態1における室内機が備える制御基板の機能構成を示すブロック図
【
図4】実施の形態1における運転データの一例を示す図
【
図5】実施の形態1において、(a)ショートサイクルが発生している可能性が低いケースと(b)ショートサイクルが発生している可能性が高いケースのそれぞれにおける、吸込温度、推定される居住域温度及びサーモ状態の時間変化の一例を示す図
【
図6】実施の形態1において、天井高と温度オフセットとの関係を示す表
【
図7】実施の形態1におけるサーモオフ制御処理の手順を示すフローチャート
【
図8】実施の形態2における空気調和機のハードウェア構成を示す図
【
図9】実施の形態2における室内機が備える制御基板の機能構成を示すブロック図
【
図10】実施の形態2における学習装置の機能構成を示すブロック図
【
図11】実施の形態2におけるニューラルネットワークの一例を示す図
【
図12】実施の形態2におけるショートサイクルが発生している可能性が高い状態の傾向とショートサイクルが発生している可能性が低い状態の傾向の一例を示す図
【
図13】実施の形態2における天井高の影響を示す図
【
図14】実施の形態2におけるサーモオフ制御処理の手順を示すフローチャート
【
図15】実施の形態2の変形例におけるニューラルネットワークの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1における空気調和機1のハードウェア構成を示す図である。空気調和機1は、本開示に係る空気調和機の一例であり、住宅、オフィスビル、商業施設、公共施設等の建物における室内の空気調和を行う。空気調和機1は、R32等のHFC(ハイドロフルオロカーボン)、R290等の自然冷媒を冷媒として用いたヒートポンプ式の空調装置であり、いわゆるルームエアコンである。空気調和機1は、室内に設置される室内機2と、室外に設置される室外機3と、リモコン4とを備える。室内機2と室外機3は、冷媒を循環させるための冷媒配管5を介して接続される。また、室内機2と室外機3は、電源線と通信線とを含むケーブル6を介して電気的に接続される。
【0014】
室内機2は、制御基板20と、室内熱交換器21と、室内ファン22と、空気温度センサ23とを備える。室外機3は、制御基板30と、圧縮機31と、四方弁32と、室外熱交換器33と、膨張弁34と、室外ファン35と、空気温度センサ36とを備える。室内機2における室内熱交換器21と、室外機3における、圧縮機31、四方弁32、室外熱交換器33及び膨張弁34とは、冷媒配管5により環状に接続される。これにより、冷媒回路(冷凍サイクルともいう。)が構成される。
【0015】
<室内機2>
室内機2において、制御基板20は、本開示に係る制御装置の一例である。
図2に示すように、制御基板20は、ハードウェア構成として、通信インタフェース200と、CPU(Central Processing Unit)201と、ROM(Read-Only Memory)202と、RAM(Random-Access Memory)203と、補助記憶装置204とを備える。これらの構成部は、バス205を介して相互に接続される。
【0016】
通信インタフェース200は、室内機2の構成部(室内ファン22、空気温度センサ23等)と通信するためのインタフェースと、ケーブル6を介して室外機3と通信するためのインタフェースと、リモコン4と無線通信するためのインタフェースとを含んで構成される。なお、室内機2は、リモコン4と有線通信する構成であってもよい。
【0017】
CPU201は、室内機2の動作を統括的に制御する。CPU201によって実現される制御基板20の機能の詳細については後述する。ROM202は、複数のファームウェア及びこれらのファームウェアの実行時に使用されるデータを記憶する。RAM203は、CPU201の作業領域として使用される。
【0018】
補助記憶装置204は、例えば、EPROM(Erasable Programmable Read-Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、フラッシュメモリ等の読み書き可能な不揮発性の半導体メモリで構成される。補助記憶装置204には、空調制御に係るプログラム(以下「空調制御プログラム」という。)と、空調制御プログラムの実行時に使用されるデータとが記憶される。
【0019】
室内機2は、上記の空調制御プログラム又は空調制御プログラムを更新するための更新プログラムを他の装置から通信により取得することが可能である。また、これらのプログラムは、CD-ROM(Compact Disc Read-Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc)、光磁気ディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid-State Drive)、メモリカード等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して配布することも可能である。室内機2は、そのような記録媒体が自身に直接又は間接的に装着されると、当該記録媒体から空調制御プログラム又は更新プログラムを読み出して自身にインストールすることも可能である。
【0020】
図1に戻り、室内熱交換器21は、室内ファン22によって吸い込まれた室内の空気と室外機3からの冷媒との熱交換を行う。室内熱交換器21は、暖房運転の場合、凝縮器として機能し、冷房運転の場合、蒸発器として機能する。室内ファン22は、例えばクロスフローファンであり、室内の空気を吸い込むとともに、室内熱交換器21によって熱交換された空気を室内に送り出す。室内ファン22(より詳細には、室内ファン22のファンモータ)は、図示しない通信線を介して制御基板20と通信可能に接続され、制御基板20からの指令に従って回転数を変更する。
【0021】
空気温度センサ23は、室内ファン22によって吸い込まれた室内の空気の温度を計測する。空気温度センサ23は、図示しない通信線を介して制御基板20と通信可能に接続され、計測した空気温度を示す信号を制御基板20に出力する。以下、空気温度センサ23によって計測される空気温度を吸込温度という。
【0022】
<室外機3>
室外機3において、制御基板30は、いずれも図示しないが、通信インタフェースと、CPUと、ROMと、RAMと、補助記憶装置とを備える。通信インタフェースは、室外機3の構成部(圧縮機31、四方弁32、膨張弁34、室外ファン35、空気温度センサ36等)と通信するためのインタフェースと、ケーブル6を介して室内機2と通信するためのインタフェースとを含んで構成される。
【0023】
CPUは、室外機3の動作を統括的に制御する。ROMは、複数のファームウェア及びこれらのファームウェアの実行時に使用されるデータを記憶する。RAMは、CPUの作業領域として使用される。補助記憶装置は、例えば、EPROM、EEPROM、フラッシュメモリ等の読み書き可能な不揮発性の半導体メモリで構成される。補助記憶装置には、室外機3の動作を制御するためのプログラムと、かかるプログラムの実行時に使用されるデータとが記憶される。
【0024】
圧縮機31は、冷媒を圧縮する。詳細には、圧縮機31は、低温且つ低圧の冷媒を圧縮し、高圧且つ高温となった冷媒を四方弁32に吐出する。圧縮機31は、駆動周波数に応じて回転数を変化させることができるインバータ回路を備える。圧縮機31は、図示しない通信線を介して制御基板30と通信可能に接続され、制御基板30からの指令に従って駆動周波数、すなわち、回転数を変更する。
【0025】
四方弁32は、冷媒の循環方向を切り替えるための部品である。冷房運転の場合、四方弁32の状態は、
図1の実線で示すようになる。これにより、圧縮機31、四方弁32、室外熱交換器33、膨張弁34及び室内熱交換器21の順序で冷媒が循環する。暖房運転の場合、四方弁32の状態は、
図1の破線で示すようになる。これにより、圧縮機31、四方弁32、室内熱交換器21、膨張弁34及び室外熱交換器33の順序で冷媒が循環する。四方弁32は、図示しない通信線を介して制御基板30と通信可能に接続され、制御基板30からの指令に従って冷媒の循環方向を切り替える。
【0026】
室外熱交換器33は、室外ファン35によって吸い込まれた屋外の空気(すなわち、外気)と冷媒との熱交換を行う。室外熱交換器33は、暖房運転の場合、蒸発器として機能し、冷房運転の場合、凝縮器として機能する。膨張弁34は、冷媒配管5を流れる冷媒を減圧して膨張させる。膨張弁34は、例えば、ステッピングモータ(図示せず)によって絞りの開度を調整可能な電磁膨張弁である。膨張弁34は、図示しない通信線を介して制御基板30と通信可能に接続され、制御基板30からの指令に従って開度を変更して冷媒の圧力を調整する。
【0027】
室外ファン35は、例えばプロペラファンであり、外気を吸い込むとともに、室外熱交換器33によって熱交換された空気を屋外に送り出す。室外ファン35(より詳細には、室外ファン35のファンモータ)は、図示しない通信線を介して制御基板30と通信可能に接続され、制御基板30からの指令に従って回転数を変更する。空気温度センサ36は、室外ファン35によって吸い込まれた外気の温度を計測する。空気温度センサ36は、図示しない通信線を介して制御基板30と通信可能に接続され、計測した外気温度を示す信号を制御基板30に出力する。
【0028】
<リモコン4>
リモコン4は、空調対象空間である部屋の壁に埋設して設置されたり、あるいは壁に掛けられた態様で設置され、当該部屋に居るユーザから空調に係る操作を受け付けるリモートコントローラである。リモコン4は、室内機2の制御基板20と無線により通信接続される。なお、リモコン4は、室内機2と有線通信する構成であってもよい。ユーザは、リモコン4を操作することで、空気調和機1に対して、例えば、空調運転と停止の切替え、運転モード(冷房、暖房等)の切替え、設定温度、設定湿度、風向、風速の変更等の指示を与えることができる。
【0029】
<制御基板20の機能構成>
続いて、室内機2が備える制御基板20の特徴的な機能について説明する。
図3に示すように、制御基板20は、特徴的な機能として、データ取得部210と、居住域温度取得部211と、サーモオフ指令部212と、室内ファン制御部213とを備える。これらの機能部は、制御基板20のCPU201が上述した空調制御プログラムを実行することで実現される。
【0030】
データ取得部210は、本開示に係るデータ取得手段の一例である。データ取得部210は、周期的に空気調和機1の運転に係るデータ(以下「運転データ」という。)を取得する。運転データには、室外機3(より詳細には、圧縮機31)の発停状態(以下「サーモ状態」という。)、運転モード、設定温度、吸込温度、風向、風速等が含まれる。データ取得部210は、取得した運転データにタイムスタンプ(例えば、現在の年月日及び時分)を付与し、時系列で分別してデータ記憶部220に保存する。データ記憶部220は、補助記憶装置204によって提供されるメモリ領域である。
図4に補助記憶装置204に記憶される運転データの一例を示す。
【0031】
居住域温度取得部211は、本開示に係る居住域温度取得手段の一例である。居住域温度取得部211は、暖房運転時のサーモオン状態において、空調対象空間である当該部屋における人の活動範囲(すなわち、居住域)の空気温度(以下「居住域温度」という。)を推定して取得する。具体的には、居住域温度取得部211は、ショートサイクルが発生している状態であると判定すると、現在の天井温度を推定するとともに、天井温度と居住域温度の推定される差分値(以下「温度オフセット」という。)を取得し、推定した天井温度と取得した温度オフセットとに基づいて現在の居住域温度を推定する。
【0032】
居住域温度取得部211は、直近の予め定めた時間において、サーモオフからサーモオンへの切り替わりが予め定めた回数以上発生している場合、ショートサイクルが発生している状態であると判定する。当該時間及び回数は、限定されるものではないが、本実施の形態では、それぞれ30分及び5回である。ここで、30分間で5回、サーモオフからサーモオンへの切り替わりが発生したということは、概ね10分間に3回程度、サーモオフからサーモオン又はサーモオンからサーモオフへの切替えが発生したことを意味する。ショートサイクルが発生していない状態では、通常、サーモオン又はサーモオフに切り替わった後、少なくとも10分程度は同じ状態が継続する。
【0033】
このため、サーモ状態が10分間に3回程度切り替わっている状態は、ショートサイクルが発生している状態であるとみなすことができる。
図5に、(a)ショートサイクルが発生している可能性が低いケースと(b)ショートサイクルが発生している可能性が高いケースのそれぞれにおける、吸込温度、推定される居住域温度及びサーモ状態の時間変化の一例を示す。
【0034】
居住域温度取得部211は、上記のようにして、ショートサイクルが発生している状態であると判定すると、直近の予め定めた時間の吸込温度の履歴に基づいて天井温度を推定する。当該時間は、限定されるものではないが、本実施の形態では30分である。ショートサイクルが発生している場合、室内機2の空気温度センサ23によって計測される吸込温度は、サーモオン時の暖気を吸い込んだ結果である暖気吸込温度と、サーモオフ時に暖まっていない空気を吸い込んだ結果である天井温度の2つの値を行き来して示すようになる。例えば、吸込温度が設定温度に達していない時、空気調和機1はサーモオンで運転するが、冷媒が十分に暖まっていない時はユーザに冷気が当たるのを避けるため風速を弱めに(即ち、風量を抑えて)運転する。
【0035】
その結果、室内機2は、自身から漏れ出た暖気を吸込口から吸い込んでしまい短期間で吸込温度が上昇する。この時の吸込温度は天井付近の実際の空気温度とは乖離した温度であり、これを暖気吸込温度と呼ぶ。一方、暖気を吸い込んで吸込温度が設定温度を上回った時点で空気調和機1は、サーモオフの運転に切り替える。サーモオフ時は室内機2から暖気が出ず、空気調和機1は、室内ファン22を微風よりも強い風速で動作させるため、室内機2の空気温度センサ23によって計測される吸込温度は実際の天井付近の室温を示すようになる。これを天井温度と呼ぶ。
【0036】
以上のように、暖房運転時の吸込温度には暖気吸込温度と天井温度が現れる。また、2つの温度の間は連続的に変化するため、実際には、計測される吸込温度は、暖気吸込温度と、暖気吸込度と天井温度の中間の温度と、天井温度とを連続的に推移する。居住域温度取得部211は、直近30分の吸込温度の履歴から吸込温度の極小点を抽出し、抽出した極小点に対する予め定めた統計処理によって天井温度を推定する。例えば、居住域温度取得部211は、抽出した極小点の平均値を現在の天井温度と推定する。
【0037】
居住域温度取得部211は、例えば、吸込温度X[1…n]について、前後の点との差分D[i]=X[i]-X[i-1]を算出する。さらに、居住域温度取得部211は、D[i]について、前後の値との積Q[i]=D[i]*D[i-1]を算出する。極値のQ[i]は負の値となる。また、極値についてD[i]>D[i-1]の場合は極小点となる。このようにして、居住域温度取得部211は、極小点を抽出することができる。
【0038】
また、居住域温度取得部211は、当該部屋の特徴(以下「居室特徴」という。)に対応した温度オフセットを取得する。居室特徴とは、天井温度と居住域温度との関係に影響を及ぼす当該部屋の特徴である。本実施の形態では居室特徴は、天井高(m)であり、予め居室特徴記憶部221に保存されている。居室特徴記憶部221は、補助記憶装置204によって提供されるメモリ領域である。
図6は、天井高(m)と温度オフセット(℃)との関係を示す表である。当該表を示すデータは、補助記憶装置204に予め保存されている。
【0039】
居住域温度取得部211は、居室特徴記憶部221から居室特徴(すなわち、天井高)を取得し、
図6の表を参照して当該天井高に対応する温度オフセット(℃)を取得する。例えば、天井高が2.5mの場合、温度オフセット(すなわち、天井温度と居住域温度の差分値)は、3.4℃となり、天井高が3mの場合、温度オフセットは3.8℃となる。そして、居住域温度取得部211は、推定した天井温度から取得した温度オフセットを差し引くことで、推定される現在の居住域温度を導出する(すなわち、居住域温度=天井温度-温度オフセット)。
【0040】
サーモオフ指令部212は、本開示に係るサーモ制御手段の一例である。サーモオフ指令部212は、ショートサイクルが発生していない場合、最新の吸込温度から温度オフセットを差し引いた温度が設定温度より大きくなると、室外機3(より詳細には、室外機3の制御基板30)に対して、サーモオンからサーモオフへの切替えを指令する。一方、ショートサイクルが発生している場合、サーモオフ指令部212は、居住域温度取得部211によって取得された居住域温度が設定温度より大きくなると、室外機3に対して、サーモオンからサーモオフへの切替えを指令する。
【0041】
室内ファン制御部213は、サーモオフ指令部212によって室外機3に対してサーモオフへの切替えが指令されると、室内ファン22のファンモータの出力が小さくなるように制御して室内ファン22の回転数を低減させる。
【0042】
<サーモオフ制御処理>
図7は、室内機2の制御基板20によって実行される、サーモオンからサーモオフへの切替えに係る制御処理(以下「サーモオフ制御処理」という。)の手順を示すフローチャートである。制御基板20は、暖房運転時において周期的に下記のサーモオフ制御処理を実行する。
【0043】
(ステップS100)
制御基板20は、最新の運転データを取得し、タイムスタンプを付与してデータ記憶部220に保存する。上述したように運転データには、サーモ状態、運転モード、設定温度、吸込温度、風向、風速等が含まれる。その後、制御基板20の処理は、ステップS101に遷移する。
【0044】
(ステップS101)
制御基板20は、現在のサーモ状態(すなわち、発停状態)がサーモオン状態か否かを判定する。現在のサーモ状態がサーモオン状態の場合(ステップS101;YES)、制御基板20の処理は、ステップS102に遷移する。一方、現在のサーモ状態がサーモオン状態でない、すなわち、サーモオフ状態の場合(ステップS101;NO)、制御基板20は、本周期でのサーモオフ制御処理を終了する。
【0045】
(ステップS102)
制御基板20は、データ記憶部220から直近の予め定めた時間におけるサーモ状態の履歴を読み出して取得する。当該時間に限定はないが、本実施の形態では30分とする。その後、制御基板20の処理は、ステップS103に遷移する。
【0046】
(ステップS103)
制御基板20は、居室特徴記憶部221から当該部屋の居室特徴を取得する。その後、制御基板20の処理は、ステップS104に遷移する。
【0047】
(ステップS104)
制御基板20は、取得した居室特徴に基づいて、天井温度と居住域温度との差分値である温度オフセットを取得する。その後、制御基板20の処理は、ステップS105に遷移する。
【0048】
(ステップS105)
制御基板20は、直近30分において、サーモオフからサーモオンへの切り替わりが5回数以上発生しているか否かを判定する。サーモオフからサーモオンへの切り替わりが5回以上発生している場合(ステップS105;YES)、制御基板20の処理は、ステップS106に遷移する。一方、サーモオフからサーモオンへの切り替わりが5回以上発生していない場合(ステップS105;NO)、制御基板20の処理は、ステップS110に遷移する。
【0049】
(ステップS106)
制御基板20は、データ記憶部220から直近30分の吸込温度の履歴を読み出して取得する。その後、制御基板20の処理は、ステップS107に遷移する。
【0050】
(ステップS107)
制御基板20は、上述したようにして、取得した直近30分の吸込温度の履歴に基づいて現在の天井温度を推定する。その後、制御基板20の処理は、ステップS108に遷移する。
【0051】
(ステップS108)
制御基板20は、推定した現在の天井温度とステップS104で取得した温度オフセットとに基づいて、現在の居住域温度を推定する。その後、制御基板20の処理は、ステップS109に遷移する。
【0052】
(ステップS109)
制御基板20は、推定した現在の居住域温度が設定温度より高いか否かを判定する。推定した居住域温度が設定温度より高い場合(ステップS109;YES)、制御基板20の処理は、ステップS111に遷移する。一方、取得した居住域温度が設定温度より高くない場合(ステップS109;NO)、制御基板20は、本周期でのサーモオフ制御処理を終了する。
【0053】
(ステップS110)
制御基板20は、最新の吸込温度からステップS104で取得した温度オフセットを差し引いた温度が設定温度より高いか否かを判定する。最新の吸込温度から温度オフセットを差し引いた温度が設定温度より高い場合(ステップS110;YES)、制御基板20の処理は、ステップS111に遷移する。一方、最新の吸込温度から温度オフセットを差し引いた温度が設定温度より高くない場合(ステップS110;NO)、制御基板20は、本周期でのサーモオフ制御処理を終了する。
【0054】
(ステップS111)
制御基板20は、室外機3に対して、サーモオンからサーモオフへの切替えを指令する。その後、制御基板20の処理は、ステップS112に遷移する。
【0055】
(ステップS112)
制御基板20は、室内ファン22のファンモータの出力が小さくなるように制御して室内ファン22の回転数を低減させる。その後、制御基板20は、本周期でのサーモオフ制御処理を終了する。
【0056】
なお、空気調和機1は、従来と同様の手法によってサーモ状態をサーモオフ状態からサーモオン状態に切り替える。
【0057】
以上説明したように、本実施の形態における空気調和機1では、室内機2の制御基板20は、暖房運転時におけるサーモオンからサーモオフへの切替え制御において、サーモ状態の切り替わりの頻度からショートサイクルが発生しているか否かを判定し、ショートサイクルが発生していないと判定した場合、吸込温度から温度オフセットを差し引いた温度が設定温度を超えている場合に室外機3に対してサーモオフを指令する。一方、ショートサイクルが発生していると判定した場合、制御基板20は、運転データと居室特徴とに基づいて、当該空調対象の部屋のユーザの活動空間である居住域温度を推定する。そして、制御基板20は、推定した居住域温度が設定温度を超えている場合に室外機3に対してサーモオフを指令する。
【0058】
このため、ショートサイクルの発生時において、室内の居住域が暖まる前にサーモオフに切り替わってしまうことを防止でき、ユーザの快適性の低下を抑制することが可能となる。
【0059】
(変形例1)
室内機2の制御基板20に替えて、室外機3の制御基板30、図示しないクラウドサーバ又は当該建物内に設置された図示しない宅内コントローラが、
図3で示される機能部を備え、
図7で示されるサーモオフ制御処理を実行してもよい。この場合、制御基板30、クラウドサーバ又は宅内コントローラが本開示に係る制御装置の一例となる。また、クラウドサーバ又は宅内コントローラが本開示に係る制御装置の一例となる場合、クラウドサーバ又は宅内コントローラと空気調和機1とを備える空気調和システムは、本開示に係る空気調和システムの一例となる。
【0060】
(変形例2)
居室特徴は、天井高に限定されず、例えば、自然換気回数、天井の形状、部屋の床面積又は容積、部屋の断熱性などであってもよい。
【0061】
(変形例3)
上記実施の形態では、暖房運転時におけるサーモオフ制御について説明したが、実施の形態1に係る技術思想は、冷房運転時におけるサーモオフ制御に適用することも可能である。
【0062】
(変形例4)
制御基板20の機能部(
図3参照)の全部又は一部が、専用のハードウェアで実現されるようにしてもよい。専用のハードウェアとは、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application-Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)又はこれらの組合せである。
【0063】
上記の各変形例に係る技術思想は、それぞれ単独で実現されてもよいし、適宜組み合わせることで実現されてもよい。
【0064】
(実施の形態2)
続いて、本開示の実施の形態2について説明する。なお、以下の説明において、実施の形態1と共通する構成要素等については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0065】
図8は、実施の形態2における空気調和機1Aのハードウェア構成を示す図である。空気調和機1Aは、本開示に係る空気調和機の一例であり、住宅、オフィスビル、商業施設、公共施設等の建物における室内の空気調和を行う。空気調和機1Aは、R32等のHFC、R290等の自然冷媒を冷媒として用いたヒートポンプ式の空調装置であり、いわゆるルームエアコンである。空気調和機1Aは、室内に設置される室内機2Aと、室外に設置される室外機3と、リモコン4とを備える。室内機2Aと室外機3は、冷媒を循環させるための冷媒配管5を介して接続される。また、室内機2Aと室外機3は、電源線と通信線とを含むケーブル6を介して電気的に接続される。
【0066】
空気調和機1Aのハードウェア構成は、室内機2に替えて室内機2Aを備える点で実施の形態1の空気調和機1(
図1参照)と相違し、その余の点で両者の構成は一致する。また、室内機2Aのハードウェア構成は、制御基板20に替えて制御基板20Aを備える点で実施の形態1の室内機2と相違し、その余の点で両者の構成は一致する。室内機2Aの制御基板20Aのハードウェア構成は、実施の形態1の制御基板20と同様である(
図2参照)。
【0067】
<制御基板20Aの機能構成>
制御基板20Aは、本開示に係る制御装置の一例である。
図9に示すように、制御基板20Aは、特徴的な機能として、データ取得部210と、居住域温度取得部211Aと、サーモオフ指令部212と、室内ファン制御部213とを備える。これらの機能部は、制御基板20AのCPU201が補助記憶装置204に記憶されている空調制御プログラムを実行することで実現される。制御基板20Aの機能構成は、居住域温度取得部211に替えて居住域温度取得部211Aを備える点で制御基板20と相違し、その余の点で両者の構成は一致する。
【0068】
居住域温度取得部211Aは、本開示に係る居住域温度取得手段の一例である。居住域温度取得部211Aは、暖房運転時のサーモオン状態において、空調対象空間である当該部屋の居住域温度を推論して取得する。居住域温度取得部211Aは、データ記憶部220に記憶される運転データ(すなわち、サーモ状態、運転モード、設定温度、吸込温度、風向及び風速)と、居室特徴記憶部221に記憶される居室特徴(すなわち、天井高)と、学習済モデル記憶部222に記憶される学習済モデルとに基づいて、現在の居住域温度を推論する。
【0069】
学習済モデル記憶部222は、本開示に係る学習済モデル記憶手段の一例である。学習済モデル記憶部222は、補助記憶装置204によって提供されるメモリ領域であり、予め学習により生成された、運転データと居室特徴とから現在の居住域温度を推論するための学習済モデルを記憶する。居住域温度取得部211Aは、当該学習済モデルに、運転データと居室特徴とを入力することで、これらの入力データから推論される居住域温度を取得する。詳細には、居住域温度取得部211Aは、サーモ状態の履歴と、最新の運転モード及び設定温度と、吸込温度の履歴と、最新の風向及び風速と、天井高とを当該学習済モデルに入力することで居住域温度を取得する。例えば、居住域温度取得部211Aは、サーモ状態及び吸込温度の履歴として、直近30分における2分毎のサーモ状態及び吸込温度を入力する。
【0070】
以下、本実施の形態における学習済モデルの生成について説明する。当該学習済モデルは、空気調和機1Aの出荷前に
図10に示す学習装置7によって生成される。学習装置7は、いずれも図示しないが、通信インタフェースと、CPUと、ROMと、RAMと、補助記憶装置とを備える。補助記憶装置は、読み書き可能な不揮発性の半導体メモリ、HDD等で構成される。読み書き可能な不揮発性の半導体メモリは、例えば、EPROM、EEPROM、フラッシュメモリ等である。補助記憶装置には、学習済モデルを生成するためのモデル生成プログラムと、モデル生成プログラムの実行時に使用されるデータとが記憶される。
【0071】
図10に示すように、学習装置7は、機能的には、データ取得部70と、モデル生成部71とを備える。これらの機能部は、学習装置7のCPUが補助記憶装置に記憶されている上記のモデル生成プログラムを実行することで実現される。
【0072】
データ取得部70は、運転データ(例えば、サーモ状態、運転モード、設定温度、吸込温度、風向、風速)及び居室特徴(例えば、天井高)を学習データとして取得し、当該学習データに対応する居住域温度を正解データとして取得する。データ取得部70は、運転データ及び居室特徴並びに居住域温度のセットを外部機器から取得してもよいし、予め学習装置7の補助記憶装置に記憶される運転データ及び居室特徴並びに居住域温度のセットを読み出して取得してもよい。データ取得部70は、取得した学習データ及び正解データをモデル生成部71に供給する。
【0073】
モデル生成部71は、学習データを入力とし、対応する正解データを出力するようにニューラルネットワークの機械学習を実施する。ニューラルネットワークは、入力データが入力される入力層と、出力データが出力される出力層と、少なくとも1つの中間層(隠れ層ともいう。)とによって構成され、各層は、複数のノードで構成される。入力層のノードの数は、入力データの数に対応し、出力層のノードの数は、出力データの数に対応する。
図11に、4層のニューラルネットワークの一例を示す。
【0074】
モデル生成部71は、入力層に入力データ(すなわち、運転データ及び居室特徴)が入力された際に出力層から出力される出力データが正解データ(すなわち、居住域温度)となるように、各層間の結合の重み(
図11に示す例では、入力層700と第1中間層701間の重みwijと、第1中間層701と第2中間層702間の重みwijと、第2中間層702と出力層703間の重みwij)を調整することで学習を実施し、学習済モデルを生成する。各層間の結合の重みの初期値及び各層の閾値の初期値は、テンプレートにより与えられてもよいし、オペレータの入力により与えられてもよい。
【0075】
図11において、サーモ状態(t-1)は、2分前のサーモ状態を示し、サーモ状態(t-N)は、2*N分前のサーモ状態を示す。同様に、吸込温度(t-1)は、2分前の吸込温度を示し、吸込温度(t-N)は、2*N分前の吸込温度を示す。なお、サーモ状態及び吸込温度の何分毎の履歴を採用するかについて限定はなく、直近30分においてサーモオフからサーモオンへの切り替わりが5回以上発生しているか否かを判定できる粒度の間隔であればよい。
【0076】
また、ニューラルネットワークは、
図12に示すようなショートサイクル発生の可能性が高い状態における傾向及びショートサイクル発生の可能性が低い状態の傾向と、
図13に示すような天井高(すなわち、居室特徴)の影響とを勘案して構築される。
【0077】
<サーモオフ制御処理>
図14は、室内機2Aの制御基板20Aによって実行されるサーモオフ制御処理の手順を示すフローチャートである。制御基板20Aは、暖房運転時において周期的に下記のサーモオフ制御処理を実行する。
【0078】
(ステップS200)
制御基板20Aは、最新の運転データを取得し、タイムスタンプを付与してデータ記憶部220に保存する。運転データには、サーモ状態(サーモオン又はサーモオフ)、運転モード(冷房、暖房等)、設定温度、吸込温度、風向、風速等が含まれる。その後、制御基板20Aの処理は、ステップS201に遷移する。
【0079】
(ステップS201)
制御基板20Aは、現在のサーモ状態がサーモオン状態か否かを判定する。現在のサーモ状態がサーモオン状態の場合(ステップS201;YES)。制御基板20Aの処理は、ステップS202に遷移する。一方、現在のサーモ状態がサーモオン状態でない、すなわち、サーモオフ状態の場合(ステップS201;NO)、制御基板20Aは、本周期でのサーモオフ制御処理を終了する。
【0080】
(ステップS202)
制御基板20Aは、居室特徴記憶部221から当該部屋の居室特徴を取得する。その後、制御基板20Aの処理は、ステップS203に遷移する。
【0081】
(ステップS203)
制御基板20Aは、運転データと居室特徴とを学習済モデルに入力することで、現在の居住域温度を推論する。具体的には、制御基板20Aは、運転データとして、直近30分における2分毎のサーモ状態の履歴と、最新の運転モード及び設定温度と、直近30分における2分毎の吸込温度の履歴と、最新の風向及び風速と、天井高とを学習済モデルに入力することで、現在の居住域温度を推論する。その後、制御基板20Aの処理は、ステップS204に遷移する。
【0082】
(ステップS204)
制御基板20Aは、推論した現在の居住域温度が設定温度より高いか否かを判定する。推論した居住域温度が設定温度より高い場合(ステップS204;YES)、制御基板20Aの処理は、ステップS205に遷移する。一方、推論した居住域温度が設定温度より高くない場合(ステップS204;NO)、制御基板20Aは、本周期でのサーモオフ制御処理を終了する。
【0083】
(ステップS205)
制御基板20Aは、室外機3に対して、サーモオンからサーモオフへの切替えを指令する。その後、制御基板20Aの処理は、ステップS206に遷移する。
【0084】
(ステップS206)
制御基板20Aは、室内ファン22のファンモータの出力が小さくなるように制御して室内ファン22の回転数を低減させる。その後、制御基板20Aは、本周期でのサーモオフ制御処理を終了する。
【0085】
なお、空気調和機1Aは、従来と同様の手法によってサーモ状態をサーモオフ状態からサーモオン状態に切り替える。
【0086】
以上説明したように、本実施の形態における空気調和機1Aでは、室内機2Aの制御基板20Aは、暖房運転時におけるサーモオンからサーモオフへの切替え制御において、運転データと居室特徴とを、居住域温度を推論するための学習済モデルに入力することで居住域温度を推論する。そして、制御基板20Aは、推論した居住域温度が設定温度を超えている場合に室外機3に対してサーモオフを指令する。
【0087】
このため、ショートサイクルの発生時において、室内の居住域が暖まる前にサーモオフに切り替わってしまうことを防止でき、ユーザの快適性の低下を抑制することが可能となる。
【0088】
また、例えば、店舗などの物及び人の出入りにより外部との空気の入替えが頻繁に発生する建物、入院病棟などの人の密度や移動速度が大きくない建物といった用途が異なる建物毎に学習データと正解データを用意して個別に学習済みモデルを生成することで、建物の用途に応じた居住域温度の推論を精度よく行うことが可能となる。
【0089】
(変形例1)
室内機2Aの制御基板20Aに替えて、室外機3の制御基板30、図示しないクラウドサーバ又は当該建物内に設置された図示しない宅内コントローラが、
図9で示される機能部と学習済モデル記憶部222とを備え、
図14で示されるサーモオフ制御処理を実行してもよい。この場合、制御基板30、クラウドサーバ又は宅内コントローラが本開示に係る制御装置の一例となる。また、クラウドサーバ又は宅内コントローラが本開示に係る制御装置の一例となる場合、クラウドサーバ又は宅内コントローラと空気調和機1Aとを備える空気調和システムは、本開示に係る空気調和システムの一例となる。
【0090】
(変形例2)
居室特徴は、天井高に限定されず、例えば、自然換気回数、天井の形状、部屋の床面積又は容積、部屋の断熱性などであってもよい。
【0091】
(変形例3)
上記実施の形態では、4層のニューラルネットワークを例示したが、中間層の数に限定はなく、1つ以上であればよい。中間層の数は、推論値の精度を考慮して適宜設定することができる。
【0092】
(変形例4)
また、上記実施の形態のニューラルネットワークを、居住域温度に加え、ショートサイクルの発生有無を出力するように構成してもよい。この場合、ニューラルネットワークの学習時の正解データにショートサイクルの発生有無を追加し、同様の学習手順で各層の重みの学習を行えばよい。
【0093】
(変形例5)
上記実施の形態では、各層の各ノードがすべて結合している全結合型のニューラルネットワークを例示したが、再帰型ニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network)を採用してもよい。
図15は、再帰型ニューラルネットワークの一例である。本変形例の場合、入力層700には、時刻tの運転データが入力され、時刻tの中間層701の入力に、入力層700の出力値に加え、時刻t-1の中間層701の出力値が入力されるようにする。時刻t-Nについても同様に入力する。このように、再帰型ニューラルネットワークを使用することで、上記実施の形態と同様、過去時刻の運転データを加味した居住域温度の推論が可能となる。
【0094】
再帰型ニューラルネットワークを使用するメリットとして、下記のような点が挙げられる。
(1)サーモ状態と吸込温度のデータを入力層700に入力する際に過去データを読み出して時系列データを生成する工程が不要となる。
(2)入力層700を構成するノード数が全結合型に比べて少なくなり、学習済モデルを生成するための演算量や演算時間を抑えることができる。
【0095】
(変形例6)
上記実施の形態では、暖房運転時におけるサーモオフ制御について説明したが、実施の形態2に係る技術思想は、冷房運転時におけるサーモオフ制御に適用することも可能である。
【0096】
(変形例7)
制御基板20Aの機能部(
図9参照)の全部又は一部が、専用のハードウェアで実現されるようにしてもよい。また、学習装置7の機能部(
図10参照)の全部又は一部が、専用のハードウェアで実現されるようにしてもよい。専用のハードウェアとは、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、ASIC、FPGA又はこれらの組合せである。
【0097】
上記の各変形例に係る技術思想は、それぞれ単独で実現されてもよいし、適宜組み合わせることで実現されてもよい。
【0098】
本開示は、広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能である。また、上述した実施の形態は、本開示を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。つまり、本開示の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の開示の意義の範囲内で施される様々な変形が、本開示の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0099】
1,1A 空気調和機、2,2A 室内機、3 室外機、4 リモコン、5 冷媒配管、6 ケーブル、7 学習装置、20,20A,30 制御基板、21 室内熱交換器、22 室内ファン、23,36 空気温度センサ、31 圧縮機、32 四方弁、33 室外熱交換器、34 膨張弁、35 室外ファン、71 モデル生成部、200 通信インタフェース、201 CPU、202 ROM、203 RAM、204 補助記憶装置、205 バス、70,210 データ取得部、211,211A 居住域温度取得部、212 サーモオフ指令部、213 室内ファン制御部、220 データ記憶部、221 居室特徴記憶部、222 学習済モデル記憶部