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特開2024-165537電力系統安定化システム及び電力系統安定化方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165537
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】電力系統安定化システム及び電力系統安定化方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20241121BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J13/00 301J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081814
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】桐原 健太
(72)【発明者】
【氏名】板井 準
(72)【発明者】
【氏名】今井 秀岳
(72)【発明者】
【氏名】黒田 英佑
(72)【発明者】
【氏名】山崎 潤
(72)【発明者】
【氏名】谷津 昌洋
(72)【発明者】
【氏名】丹宗 浩志
(72)【発明者】
【氏名】上野 真太郎
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064BA02
5G064DA01
5G066AA03
5G066AD01
5G066AE01
5G066AE03
5G066AE07
5G066AE09
(57)【要約】
【課題】電力系統の規模が大きい場合でも電力系統の安定化を図ることが可能な電力系統安定化システム等を提供する。
【解決手段】電力系統のモデルである電力系統モデルと、電力系統の状態を示す電力系統状態と、電力系統で想定されるイベントのリストであるイベントケースと、に基づいて、電力系統で予防制御を行う際の制約条件のリストである制約条件リストを生成する処理部を備え、処理部は、制約条件のスクリーニングを行うか否かの基準となる制約スクリーニングパラメータと、スクリーニング済みの制約条件のリストであるスクリーニング済制約リストと、を含む情報を表示部16に表示させる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統のモデルである電力系統モデルと、前記電力系統の状態を示す電力系統状態と、前記電力系統で想定されるイベントのリストであるイベントリストと、に基づいて、前記電力系統で予防制御を行う際の制約条件のリストである制約条件リストを生成する処理部を備え、
前記処理部は、前記制約条件のスクリーニングを行うか否かの基準となる制約スクリーニングパラメータと、スクリーニング済みの前記制約条件のリストであるスクリーニング済制約リストと、を含む情報を表示装置に表示させる、電力系統安定化システム。
【請求項2】
前記電力系統で所定のイベントが発生したと仮定した場合において、当該電力系統のそれぞれの送電線の送電電力が所定の潮流制約の値以下になることを示す制約条件が、前記制約条件リストに含まれること
を特徴とする請求項1に記載の電力系統安定化システム。
【請求項3】
前記処理部は、複数の前記制約条件のそれぞれが多項式で表される場合において、所定の前記多項式に含まれる係数の全てについて、当該係数の絶対値又は当該係数の二乗の値が前記制約スクリーニングパラメータ以下であるとき、当該多項式で表される制約条件をスクリーニングすること
を特徴とする請求項1に記載の電力系統安定化システム。
【請求項4】
前記処理部は、前記スクリーニング済制約リストを作成する際に前記制約条件リストからスクリーニングした一つ又は複数の制約条件のうち、ユーザによる入力部の操作で指定された所定の制約条件を再有効化すること
を特徴とする請求項1に記載の電力系統安定化システム。
【請求項5】
前記処理部は、前記電力系統モデルと、前記電力系統状態と、前記イベントリストと、前記スクリーニング済制約リストと、所定のコスト関数と、に基づいて、前記予防制御を行う際の制御量を算出し、
前記コスト関数は、前記電力系統に含まれる機器の制御量の絶対値を最小化するように設定されること
を特徴とする請求項1に記載の電力系統安定化システム。
【請求項6】
前記制約条件が遵守されない場合に所定のペナルティを付与する形式で前記制約条件リストが作成されること
を特徴とする請求項1に記載の電力系統安定化システム。
【請求項7】
前記処理部は、前記予防制御を行う際の計算時間、及び、前記制約条件の遵守率である制約遵守率のうちの少なくとも一つを前記表示装置に表示させること
を特徴とする請求項1に記載の電力系統安定化システム。
【請求項8】
前記処理部は、前記制約条件リストに含まれる制約条件の数、及び、前記スクリーニング済制約リストに含まれる制約条件の数を前記表示装置に表示させること
を特徴とする請求項1に記載の電力系統安定化システム。
【請求項9】
前記処理部は、大きさが異なる複数の前記制約スクリーニングパラメータのそれぞれについて、当該制約スクリーニングパラメータを用いた場合に前記予防制御を行う際の計算時間、及び、前記制約条件の遵守率である制約遵守率のうちの少なくとも一つを前記表示装置に表示させること
を特徴とする請求項1に記載の電力系統安定化システム。
【請求項10】
前記処理部は、前記予防制御を行う際の計算時間、及び、前記制約条件の遵守率である制約遵守率に関するユーザの方針を示すスクリーニングパラメータ決定プレファレンスに基づいて、前記制約スクリーニングパラメータの提案値を算出し、当該提案値を前記表示装置に表示させること
を特徴とする請求項1に記載の電力系統安定化システム。
【請求項11】
電力系統のモデルである電力系統モデルと、前記電力系統の状態を示す電力系統状態と、前記電力系統で想定されるイベントのリストであるイベントリストと、に基づいて、前記電力系統で予防制御を行う際の制約条件のリストである制約条件リストを生成する制約条件リスト生成処理と、
前記制約条件のスクリーニングを行うか否かの基準となる制約スクリーニングパラメータと、スクリーニング済みの前記制約条件のリストであるスクリーニング済制約リストと、を含む情報を表示装置に表示させる表示処理と、を含む、電力系統安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力系統安定化システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギの発電設備が増加しつつある。再生可能エネルギの発電設備では、天候や風況の変化に伴って発電電力が変動するため、電力系統の送電線で過負荷が生じやすくなる。このような送電線の過負荷を解消するための技術として、電力系統安定化システム(SPS:Special Protection Schemes)が提案されている。
【0003】
また、電力系統で不具合が連鎖的に波及することを抑制するための技術として、予防制御(Preventive Control)や制約付き最適潮流計算(SCOPF:Security Constrained Optimal Power Flow)といったものが知られている。例えば、予防制御では、送電線等の監視対象と、想定される故障ケースの数と、の組合せの数が多いほど制約条件の数も多くなるため、計算時間が膨大になる。そこで、予防制御等の計算時間を短縮するための技術として、例えば、特許文献1~3や非特許文献1,2に記載の技術が提案されている。
【0004】
すなわち、特許文献1には、SCOPFを凸最適化問題として定義し、スパース行列を活用した最適化ソルバー(ADMM:Alternating Direction Method of Multipliers)を用いることが記載されている。
また、特許文献2には、スイッチングを含めたOPF(optimal power flow)において凸緩和を行い、さらに偏微分を行うことで計算の高速化を図ることが記載されている。
また、特許文献3には、凸緩和や問題分割によってSCOPFの高速化を図ることが記載されている。
【0005】
非特許文献1には、SCOPFにおけるアンブレラ制約を特定し、それ以外をスクリーニングすることで問題規模を縮小することが記載されている。
また、非特許文献2には、SCOPFを応用した発電計画問題(UCP:Unit Commitment Problem)において、アンブレラ制約を高速に特定する手法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0378384号明細書
【特許文献2】米国特許第8775136号明細書
【特許文献3】国際公開第2011/112365号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A.J.Ardakani and F.Bouffard,“Identification of Umbrella Constraints in DC-Based Security-Constrained Optimal Power Flow”,IEEE Transactions on Power Systems,Nov.2013,vol.28,no.4,pp.3924-3934
【非特許文献2】A.J.Ardakani and F.Bouffard,“Acceleration of Umbrella Constraint Discovery in generation Scheduling Problems”,IEEE Transactions on Power Systems,July 2015,vol.30,no.4,pp.2100-2109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~3の記載の技術では、予防制御の計算方法を工夫することで計算の高速化を図るようにしているが、問題規模が縮小されないため、電力系統の規模が大きいほど計算時間が長くなる。したがって、特許文献1~3に記載の技術では、例えば、電力系統安定化システムの処理結果をオンラインで活用する(リアルタイムで電力系統に反映させる)といったことが困難になる。
【0009】
また、非特許文献1,2に記載の技術では、不要な制約を特定してスクリーニングすることで計算の高速化を図るようにしているが、不要な制約を特定するプロセスが煩雑であり、また、計算時間の短縮についても改善の余地がある。一般に電力系統の規模が大きいほど、予防制御に要する計算時間が長くなるため、さらなる改善が求められている。
【0010】
そこで、本開示は、電力系統の規模が大きい場合でも電力系統の安定化を図ることが可能な電力系統安定化システム等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するために、本開示に係る電力系統安定化システムは、電力系統のモデルである電力系統モデルと、前記電力系統の状態を示す電力系統状態と、前記電力系統で想定されるイベントのリストであるイベントリストと、に基づいて、前記電力系統で予防制御を行う際の制約条件のリストである制約条件リストを生成する処理部を備え、前記処理部は、前記制約条件のスクリーニングを行うか否かの基準となる制約スクリーニングパラメータと、スクリーニング済みの前記制約条件のリストであるスクリーニング済制約リストと、を含む情報を表示装置に表示させることとした。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、電力系統の規模が大きい場合でも電力系統の安定化を図ることが可能な電力系統安定化システム等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る電力系統安定化システムの対象である電力系統の例を示す構成図である。
図2A】第1実施形態に係る電力系統安定化システムにおいて、電力系統のイベントの例を示す説明図であり、発電機の出力が上昇又は低下した場合を示している。
図2B】第1実施形態に係る電力系統安定化システムにおいて、電力系統のイベントの別の例を示す説明図であり、送電線の遮断器が開放された場合を示している。
図2C】第1実施形態に係る電力系統安定化システムにおいて、電力系統のイベントの別の例を示す説明図であり、負荷の消費電力が上昇又は低下した場合を示している。
図3】第1実施形態に係る電力系統安定化システムのハードウェア構成を示す図である。
図4】第1実施形態に係る電力系統安定化システムが備える電力系統安定化装置の機能ブロック図である。
図5】第1実施形態に係る電力系統安定化システムのイベントケースDBの例を示す説明図である。
図6】第1実施形態に係る電力系統安定化システムの制約条件リストDBの例を示す説明図である。
図7】第1実施形態に係る電力系統安定化システムの予防制御DBの例を示す説明図である。
図8】第1実施形態に係る電力系統安定化システムの予防制御評価結果DBの例を示す説明図である。
図9】第1実施形態に係る電力系統安定化装置の処理部が実行する処理を示すフローチャートである。
図10】第1実施形態に係る電力系統安定化システムにおける制約条件のスクリーニングに関するフローチャートである。
図11】第1実施形態に係る電力系統安定化システムのスクリーニング済制約リストDBの例を示す説明図である。
図12】第1実施形態に係る電力系統安定化システムのスクリーニングによる計算時間の削減効果の例を示すシミュレーション結果である。
図13A】スクリーニングなしの場合の比較例のシミュレーション結果である。
図13B】第1実施形態の制御に基づくスクリーニングありの場合のシミュレーション結果である。
図14】第1実施形態に係る電力系統安定化システムの予防制御に関する処理の結果の表示例である。
図15】第2実施形態に係る電力系統安定化システムが備える電力系統安定化装置の機能ブロック図である。
図16】第2実施形態に係る電力系統安定化システムの制約スクリーニングパラメータ評価結果DBの例を示す説明図である。
図17】第2実施形態に係る電力系統安定化システムの制約スクリーニングパラメータ管理部の処理結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
≪第1実施形態≫
以下では、まず、電力系統GR1(図1参照)の構成や、電力系統GR1の不具合の例(図2A図2B図2C)について簡単に説明した後、電力系統安定化システム100(図3図4参照)について詳細に説明する。
【0015】
<電力系統の構成>
図1は、第1実施形態に係る電力系統安定化システムの対象である電力系統GR1の例を示す構成図である。
なお、図1では、電力系統GR1の構成を簡易的に示している。電力系統GR1は、発電機G1~G3の発電電力を母線B1~B8や送電線L1~L9を介して、負荷D1~D3に供給するシステムである。図1の例では、電力系統GR1は、発電機G1~G3と、母線B1~B8と、送電線L1~L9と、を含んで構成されている。
【0016】
発電機G1~G3は、発電を行う設備である。このような発電機G1~G3として、例えば、再生可能エネルギを利用して太陽光発電や風力発電を行う設備が挙げられる。なお、発電機G1~G3として、非再生可能エネルギを利用して火力発電や原子力発電を行う設備の発電機が含まれていてもよい。母線B1~B8は、変電所や配電所の主回路となる導体である。このような母線B1~B8として、例えば、銅帯や鋼帯やアルミ合金管が用いられる。送電線L1~L9は、発電機G1~G3から負荷D1~D3への送電等に用いられる電線である。なお、負荷D1~D3への配電に用いられる配電線も「送電線」に含まれるものとする。負荷D1~D3は、電力の需要側の機器である。
【0017】
電力系統GR1では、さまざまな要因で所定のイベントが発生することがある。ここで、「イベント」とは、電力系統GR1で生じ得る不具合のことを意味している。このようなイベントの例を、図2A図2Cを用いて説明する。
【0018】
図2Aは、電力系統GR1のイベントの例を示す説明図であり、発電機G1の出力が上昇又は低下した場合を示している。
例えば、図2Aに示す発電機G1が再生可能エネルギの発電設備であった場合、天候や風況の変化に伴って、発電機G1の出力(発電電力)が大幅に上昇又は低下することがある。図2Aの例では、発電機G1の出力が上昇又は低下したときの変化幅が+/-5[MW]になっている。このように発電機G1の出力が大幅に変化すると、送電線L1~L9の送電潮流や母線B1~B8の電圧が変化し、その影響が連鎖的に波及する可能性がある。
【0019】
図2Bは、電力系統GR1のイベントの別の例を示す説明図であり、送電線L3の遮断器が開放された場合を示している。
例えば、送電線L3の遮断器(図示せず)が落雷に伴って開放されると、電力系統GR1の接続関係が変化し、その影響が連鎖的に波及する可能性がある。
【0020】
図2Cは、電力系統GR1のイベントの別の例を示す説明図であり、負荷D1の消費電力が上昇又は低下した場合を示している。
例えば、冬の寒い日や夏の暑い日に空調の消費電力が増加することに伴って、負荷D1の消費電力が大幅に増加することがある。図2Cの例では、負荷D1の消費電力が上昇又は低下したときの変化幅が+/-5[MW]になっている。
【0021】
電力系統GR1の送電線L1~L9を含む各機器は、電圧や送電潮流が所定範囲内で運用されることを前提に設計されている。仮に、電圧等が所定範囲を超えた場合、機器の破損を防止するために遮断器等の保護機器が動作して送電潮流が変化し、その影響が連鎖的に波及する可能性がある。
【0022】
そこで、第1実施形態では、電力系統安定化システム100(図3参照)が予防制御に基づく所定の対策を立案するようにしている。このような予防制御として、例えば、発電機G1~G3の出力の変更の他、各需要家へのデマンドレスポンスや、電力系統GR1の接続構成の変更といったものが挙げられる。これによって、送電線L1~L9の送電電力が、送電容量に基づく所定の閾値を超えないようにしている。以下では、予防制御の一例として、電力系統安定化システム100(図3参照)が発電機G1~G3の出力を変更する場合について説明する。
【0023】
図3は、電力系統安定化システム100のハードウェア構成を示す図である。
電力系統安定化システム100は、電力系統GR1の安定化を図るためのシステムである。図3に示すように、電力系統安定化システム100は、電力系統安定化装置10と、通信ネットワークN1と、計測器20と、制御端末30と、を含んで構成されている。
【0024】
なお、電力系統安定化装置10は、1台のコンピュータで構成されていてもよく、また、相互に通信可能な複数台のコンピュータ(サーバ等)で構成されていてもよい。また、電力系統安定化装置10の機能がクラウド上で実現されるようにしてもよい。電力系統安定化装置10は、計測器20の計測値等に基づいて所定の演算を行い、その演算結果に基づいて、制御端末30に所定の制御信号を送信するようになっている。
【0025】
図3に示すように、電力系統安定化装置10は、ハードウェア構成として、プログラムデータベース11と、データベース12と、メモリ13と、入力部14と、処理部15と、表示部16(表示装置)と、通信部17と、これらの各構成を接続するバス18と、を備えている。プログラムデータベース11には、所定の演算処理を行うためのプログラムが予め格納されている。別のデータベース12には、前記したプログラムの実行に用いられるデータや所定の演算結果が格納される。
【0026】
メモリ13には、各種のプログラムが実行する際にプログラムや演算結果が適宜に格納される。このようなメモリ13として、例えば、フラッシュメモリやRAM(Random Access Memory)が用いられる。入力部14は、ユーザの操作に基づいて、所定のデータを入力するものである。このような入力部14として、例えば、キーボードやマウス、スタイリス、マイクが用いられる。
【0027】
処理部15は、プログラムデータベース11に格納されたプログラムに基づいて、所定の演算処理を実行する。このような処理部15として、例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)の他、FPGA(Field Programmable Gate Array)やTPU(Tensor Processing Unit)といったものが用いられる。そして、処理部15がプログラムデータベース11のプログラムをメモリ13に展開して、所定の処理を行うようになっている。
【0028】
表示部16は、入力部14を介して入力されるデータや、処理部15の演算結果等を所定に表示する。このような表示部16として、例えば、ディスプレイが用いられる。なお、なお、タブレットやスマートフォンといった携帯端末(図示せず)が入力部14や表示部16として機能するようにしてもよい。
【0029】
通信部17は、計測器20から通信ネットワークN1を介して、所定の計測値のデータを受信したり、通信ネットワークN1を介して、制御端末30に所定の制御指令値を送信したりする機能を有している。計測器20は、電力系統GR1の所定箇所の物理量を計測するものである。このような計測器20として、例えば、SV/TMやPMU(Phasor Measurement Unit)が用いられる。また、前記した物理量として、例えば、電圧や電流、電圧位相、電流位相、周波数といったものが挙げられる。電力系統GR1における電圧や電流は、実効値として計測されてもよく、また、フェーザ形式や瞬時値で計測されてもよい。
【0030】
制御端末30は、電力系統安定化装置10から通信ネットワークN1を介して送信される制御信号に基づいて所定に制御される機器である。このような制御端末30として、例えば、リレーが用いられる。前記したリレーは、例えば、発電機G1~G3(図1参照)の出力を変更する際に用いられる。その他にも、変電所に設けられた変圧器(図示せず)の変圧比を変更したり、送電線L1~L9(図1参照)の遮断器(図示せず)を開閉したりする際にもリレー(つまり、制御端末30)が用いられる。なお、図3には、計測器20や制御端末30をひとつずつ図示しているが、実際には、多数の計測器20や制御端末30が電力系統GR1に設置されている。
【0031】
図4は、電力系統安定化装置10の機能ブロック図である。
図4に示す電力系統安定化装置10は、所定の入力データが格納されるデータベース(以下では「DB」と記載)として、電力系統モデルDB41と、電力系統状態DB42と、イベントリストDB43と、制約スクリーニングパラメータDB44と、コスト関数DB45と、を備えている。前記した入力データは、入力部14(図3参照)を介した操作で入力されてもよく、また、外部のサーバ等(図示せず)から通信ネットワークN1(図3参照)を介して取得されてもよい。
【0032】
また、電力系統安定化装置10は、処理部15(図3参照)の機能的な構成として、制約条件構築部46と、制約スクリーニング部47と、予防制御算出部48と、予防制御実行部49と、を備えている。なお、図4に示す表示部16は、図3を用いて説明した表示部16に対応している。
また、電力系統安定化装置10は、所定の出力データが格納されるデータベースとして、制約条件リストDB51と、スクリーニング済制約リストDB52と、予防制御DB53と、予防制御評価結果DB54と、を備えている。
【0033】
電力系統モデルDB41には、電力系統GR1(図1参照)のモデルである電力系統モデルのデータが格納されている。電力系統モデルには、電力系統GR1の構成要素や接続関係を示すデータの他、送電線L1~L9(図1参照)のインピーダンスや送電容量、負荷D1~D3(図1参照)の接続位置や、発電機G1~G3(図1参照)の出力の上下値・下限値といったデータが含まれている。
【0034】
電力系統状態DB42には、電力系統GR1(図1参照)の状態を示す電力系統状態のデータが格納されている。例えば、母線B1~B8(図1参照)における電圧や電圧位相の他、送電線L1~L9や変圧器(図示せず)における有効電力・無効電力、送電機器(遮断器:図示せず)の開閉状態といった電力系統状態のデータが電力系統状態DB42に格納されている。なお、電力系統GR1(図1参照)の状態の変化に伴って、電力系統状態も時々刻々と変化する。このような電力系統状態のデータとして、例えば、計測器20(図3参照)の計測値が用いられてもよく、また、シミュレーション用の仮想的なデータが用いられてもよい。
【0035】
イベントリストDB43には、電力系統GR1で想定されるイベントのリストが格納されている。このようなイベントの例として、前記したように、発電電力の増減(図2A参照)や電力系統GR1の接続関係の変化(図2B参照)の他、需要電力の増減(図2C参照)といったものが挙げられる。その他にも、例えば、電力系統GR1に含まれる送電線や通信線の故障といったものがイベントに含まれるようにしてもよい。
【0036】
図5は、イベントリストDB43の例を示す説明図である。
図5の例では、イベントリストDB43において、イベントIDと、イベント名称と、イベント種別と、イベント詳細と、が対応付けられている。具体例を挙げると、イベントIDがAAA1のイベントでは、送電線L1(図1参照)の故障に伴って遮断器が開放された場合の送電線故障について特定されている。第1実施形態では、一例として、送電線故障を想定した場合の予防制御について説明するが、イベントの種類はこれに限定されるものではない。
【0037】
図4に示す制約スクリーニングパラメータDB44は、制約スクリーニングパラメータの値が格納されるデータベースである。ここで、「制約スクリーニングパラメータ」とは、所定の制約条件のスクリーニングを行うか否かの基準となる値である。また、「スクリーニング」とは、予防制御における不要な制約条件を省くことを意味している。第1実施形態では、ユーザによる入力部14(図3参照)を介した操作で、所定の制約スクリーニングパラメータが設定される場合について説明する。なお、制約スクリーニングパラメータは、固定値であってもよく、また、所定時間毎に適宜に変更されてもよい。
【0038】
図4に示すコスト関数DB45は、予防制御に用いられる所定のコスト関数が格納されたデータベースである。前記した「コスト関数」とは、例えば、発電機G1~G3(図1参照)の出力変化量の絶対値を最小限に抑えるといったものでもよく、また、金銭的なコストを抑えるといったものでもよい。なお、予防制御において、複数の制御量に重み付けを行う場合の重み係数等がコスト関数に含まれるようにしてもよい。
【0039】
制約条件構築部46は、電力系統モデルDB41と、電力系統状態DB42と、イベントリストDB43と、の各データに基づいて、制約条件リストDB51を構築する。例えば、制約条件構築部46は、それぞれのイベントに対して、電力系統モデルにおける各機器の電力系統状態(例えば、送電線L1~L9のそれぞれの送電電力)が所定の閾値を超えないように、制約条件のリストを生成する。
【0040】
制約条件リストDB51は、制約条件構築部46によって構築された制約条件のリストが格納されるデータベースである。以下では、電力系統GR1(図1参照)で予防制御が行われる際の制約条件のリストを「制約条件リスト」という。制約条件は、例えば、以下の式(1)のような数理最適化の形式で表される。
【0041】
【数1】
【0042】
なお、式(1)の冒頭の「s.t.」は、「subject to」の略であり、「~という条件に従う」ことを意味している。式(1)に含まれるAは、制約条件に用いられるM×Nの行列である。また、xは、要素としてN個の決定変数を含むベクトルである。例えば、電力系統GR1(図1参照)の予防制御において発電機G1~G3(図1参照)の出力が変更される場合には、発電機G1~G3の各出力に対応する複数の要素を含むようにベクトルxが設定される。
【0043】
式(1)に含まれるbは、M個の制約用ベクトルである。制約用ベクトルbは、例えば、送電線L1~L9(図1参照)のそれぞれの送電電力が所定値以下に抑えられるといった制約条件を表している。式(1)に含まれる不等号は、Axの演算結果であるベクトルのそれぞれの要素が、制約用ベクトルbの要素の値以下であることを表している。なお、式(1)では制約条件が等式制約の形式で表されているが、これに限定されるものではない。例えば、制約条件が不等式制約の形式で表されてもよく、また、非線形や非凸制約の形式で表されてもよい。
【0044】
図6は、制約条件リストDB51の例を示す説明図である。
図6の例では、制約条件リストDB51において、制約条件IDと、制約名称と、制約式と、が対応付けられている。例えば、制約条件IDがBBB1の制約条件として、送電線L1(図1参照)の故障が生じた場合でも、送電線L2(図1参照)の送電電力が所定値(送電容量に基づく閾値)を超えないようにするといった制約条件が設定されている。
【0045】
一般に送電線の数が多いほど、前記したMの値(制約条件の個数、行列Aの行の数)も大きくなる。電力系統の構成によっては、Mの値が数万や数十万になることもある。したがって、式(1)をそのまま計算しようとすると膨大な時間がかかる可能性がある。そこで、第1実施形態では、図4に示す制約スクリーニング部47が、行列Aに含まれる複数の制約条件のうちで不要なものを省略する(つまり、スクリーニングを行う)ことで、行列Aのサイズを小さくするようにしている。これによって、予防制御に要する計算時間が大幅に短縮されるため、電力系統の規模にかかわらずオンラインで(つまり、リアルタイムで)予防制御を行うことが可能になる。
【0046】
図4に示す制約スクリーニング部47は、制約スクリーニングパラメータDB44と、制約条件リストDB51と、の各データに基づいて、スクリーニング済制約リストDB52を生成する。スクリーニング済制約リストDB52は、スクリーニング済みの制約条件のリストであるスクリーニング済制約リストが格納されるデータベースである。つまり、式(1)の行列Aに含まれる複数の制約条件のうち、影響の少ないものが省かれた後の制約条件のリストが、スクリーニング済制約リストである。スクリーニング済制約リストは、例えば、以下の式(2)のような数理最適化の形式で表される。
【0047】
【数2】
【0048】
式(2)に含まれるA’は、制約条件に用いられるM’×Nの行列である。なお、行列A´は、式(1)に含まれる行列Aから不要な制約条件が省かれたものであるため、前記したM´の値は、Mの値よりも小さくなっている(M’<M)。式(2)に含まれるxは、その要素としてN個の決定変数を含むベクトルである。式(2)に含まれるb’は、M’個の制約用ベクトルである。式(2)で表されるスクリーニング済制約リストを用いることで、式(1)をそのまま用いる場合に比べて、予防制御を行う際の計算時間が大幅に短縮されるため、計算の高速化を図ることができる。
【0049】
図4に示す予防制御算出部48(処理部15:図3参照)は、電力系統モデルと、電力系統状態と、イベントリストと、スクリーニング済制約リストと、所定のコスト関数と、に基づいて、予防制御を行う際の制御量を算出する。すなわち、予防制御算出部48は、電力系統GR1(図1参照)の機器の制御量や制御後の状態量を算出し、その算出結果を予防制御DB53に格納する。また、予防制御算出部48は、予防制御の演算結果を評価し、その評価結果を予防制御評価結果DB54に格納する。
【0050】
前記したように、スクリーニング済みの行列A´は、スクリーニング前の行列Aに比べてサイズが小さくなっているため、予防制御の演算を短時間で行うことができる。したがて、数秒や数十秒や数分といった短い周期で電力系統GR1の予防制御をオンラインで(つまり、リアルタイムで)繰り返すことが可能になる。
【0051】
図7は、予防制御DB53の例を示す説明図である。
前記したように、予防制御DB53には、電力系統GR1(図1参照)の機器の制御量や、制御後の状態量といったデータが格納される。図7の例では、予防制御DB53において、制御IDと、制御対象と、制御量と、が対応付けられている。例えば、制御IDがCCC1の予防制御では、制御対象が発電機G1(図1参照)であり、制御量が+10[MW]になっている。つまり、予防制御として、発電機G1の出力を現状よりも10[MW]だけ上昇させることが示されている。
【0052】
図8は、予防制御評価結果DB54の例を示す説明図である。
前記したように、予防制御評価結果DB54には、予防制御に関する評価結果のデータが格納される。図8の例では、予防制御評価結果DB54において、評価結果IDと、イベント名称と、制御前最重篤過負荷率と、制御後最重篤過負荷率と、が対応付けられている。
【0053】
なお、図8における「最重篤過負荷率」とは、送電線L1~L9(図1参照)のうち、送電容量に対して送電電力が占める比率が最も高いものの負荷率である。また、「制御前最重篤過負荷率」とは、予防制御が行われる前の最重篤過負荷率である。「制御後最重篤過負荷率」とは、予防制御が行われた後の最重篤過負荷率である。例えば、評価結果IDがDDD1のものでは、送電線L1が故障した(つまり、過負荷になった)場合の制御前最重篤過負荷率が125%であり、制御後最重篤過負荷率が90%になっている。つまり、予防制御を行うことで、送電線L1~L9(図1参照)の送電電力が送電容量以下に抑えられている。
【0054】
図4に示す予防制御実行部49は、予防制御DB53のデータに基づいて、電力系統GR1(図1参照)の予防制御を実行する。すなわち、予防制御実行部49は、通信ネットワークN1(図3参照)を介して、制御端末30(図3参照)に所定の制御信号を送信する。これによって、発電機G1~G3の出力変更といった予防制御が適宜に実行される。
なお、デジタルシミュレータ(図示せず)における仮想的な制御端末(図示せず)に制御信号が出力されることで、予防制御が行われるようにしてもよい。
【0055】
また、予防制御の評価結果等を確認したユーザが表示部16(図4参照)の画面上の実行ボタン(図示せず)を押すことで、予防制御が開始されるようにしてもよい。制約条件リストDB51やスクリーニング済制約リストDB52の他、予防制御DB53や予防制御評価結果DB54といった各データベースのデータは、表示部16に所定に表示される。これによって、処理部15(図3参照)による処理の結果をユーザが確認できる。
【0056】
図9は、電力系統安定化装置の処理部が実行する処理を示すフローチャートである(適宜、図4も参照)。
ステップS101において処理部15は、制約条件構築部46によって、電力系統モデル、電力系統状態、及びイベントリストの各データを読み込む。つまり、処理部15は、電力系統モデルDB41、電力系統状態DB42、及びイベントリストDB43の各データを読み込む。
【0057】
ステップS102において処理部15は、制約条件構築部46によって、制約条件を構築する。例えば、処理部15は、数理最適化の形式(式(1)を参照)で表される制約条件リストを生成し、この制約条件リストを制約条件リストDB51に格納する。このように、処理部15は、電力系統モデルと、電力系統状態と、イベントリストと、に基づいて、制約条件リストを生成する(制約条件リスト生成処理)。
【0058】
ステップS103において処理部15は、制約スクリーニング部47によって、制約スクリーニングパラメータ等を読み込む。前記したように、制約スクリーニングパラメータとは、制約条件をスクリーニングするか否かの基準となる閾値であり、制約スクリーニングパラメータDB44に格納されている。
【0059】
ステップS104において処理部15は、制約スクリーニング部47によって、制約条件をスクリーニングする。つまり、処理部15は、行列A(式(1)を参照)に含まれる複数の制約条件のうち、影響の少ない制約条件を省くことで、サイズの小さな行列A´(式(2)を参照)を生成する。スクリーニング後の制約条件は、スクリーニング済制約リストDB52に格納される。
【0060】
なお、処理部15が、スクリーニング済制約リストを作成する際に制約条件リストからスクリーニングした一つ又は複数の制約条件のうち、ユーザによる入力部14(図3参照)の操作で指定された所定の制約条件を再有効化するようにしてもよい。これによって、ユーザが残したいと考えた制約条件をそのまま残す(又はスクリーニング後に復活させる)ことができるため、スクリーニングにおける設定の自由度が高められる。
【0061】
ステップS105において処理部15は、予防制御算出部48によって、コスト関数を読み込む。前記したように、コスト関数とは、予防制御を行う際の制御コストを含む所定の関数であり、コスト関数DB45に格納されている。
ステップS106において処理部15は、予防制御算出部48によって、予防制御の制御量等を算出する。
【0062】
ステップS107において処理部15は、予防制御実行部49によって、予防制御を実行する。このように予防制御が実行されることで、電力系統GR1(図1参照)の状態が所定に変化する。その結果、所定の送電線で故障が生じた場合に他の送電線が過負荷の状態になるといったことを抑制できる。ステップS107の処理を行った後、処理部15は一連の処理を終了する(END)。なお、図9に示す一連の処理が所定に繰り返されるようにしてもよい。また、図9に示すステップS101~S107の各処理の結果は、それぞれ、表示部16(図3参照)に所定に表示される。
【0063】
次に、図9のステップS102の処理(制約条件の構築)について詳細に説明する。
処理部15(図3参照)は、所定のイベントが発生した場合でも電力系統GR1の各状態量が所定の上限値以下で抑えられるように予防制御を行う。数理的には、以下の式(3)に示す関係が電力系統GR1(図1参照)で保たれるようにする。
【0064】
【数3】
【0065】
式(3)に含まれるG(x,y_0)は、電力系統GR1(図1参照)の状態y_0(直近の状態)に対して所定の予防制御xが行われた場合の、イベント発生後の状態を表す予測関数である。また、ベクトルgは、電力系統GR1(図1参照)における所定の状態量の上限値を含んでおり、電力系統モデルDB41(図4参照)のデータに基づいて生成される。このようなベクトルgとして、例えば、送電線L1~L9(図1参照)の送電電力の上限値が用いられてもよい。所定のイベントの発生を想定した場合の予測関数として、例えば、以下の関数が用いられる。
【0066】
【数4】
【0067】
なお、式(4)に含まれるP^line(「^」は、上付き文字であることを示す。)は、送電線k(つまり、図1の送電線L1~L9のうちの一つ)のベース断面における送電潮流であり、直近の送電線kの状態を表している。また、Ak,mは、1×N(Nは、決定変数の個数)のベクトルであり、予防制御が行われた後、所定のイベントが発生したときに送電線kの送電潮流が影響を受ける際の感度を表している。ΔPは、発電機g(つまり、図1の発電機G1~G3のうちの一つ)の出力変更量である。例えば、ΔPは、発電機G1(図1参照)の出力変更量を表している。P^line,ratingは、送電線kにおける潮流制約を表している。
【0068】
式(4)と式(3)との対応関係について説明すると、まず、式(4)において直近の送電線kの状態を表すP^lineは、式(3)のy_0に対応している。式(4)においてイベント発生時の送電潮流の感度を表すAk,mは、式(3)のG(x,y_0)に対応している。式(4)において発電機gの出力変更量を表すΔPは、式(3)の予防制御xに対応している。式(4)において送電線kの潮流制約を表すP^line,ratingは、式(3)のベクトルgに対応している。
【0069】
要するに、式(4)は、ある状態(P^line)から予防制御(ΔP)が行われた後、所定の送電線が故障した場合に、他の送電線kの送電電力が所定の潮流制約(P^line,rating)以下に抑えられることを表している。このように、電力系統GR1(図1参照)で所定のイベントが発生したと仮定した場合において、電力系統GR1のそれぞれの送電線L1~L9(図1参照)の送電電力が所定の潮流制約の値以下になることを示す制約条件が、制約条件リストに含まれている。
【0070】
前記したように、式(4)に含まれるAk,mは、1×N(Nは、決定変数の個数)のベクトルである。また、過負荷に伴う送電線の故障の組合せの数は、イベントの総数(=L:Lは送電線の本数)に等しくなるとともに、制約条件の数(M)にも等しくなる。これらの個々のイベントに対応するように、M個(=L個)のベクトルAk,mが存在している。このようなベクトルAk,mは、以下の式(5)で表される。
【0071】
【数5】
【0072】
なお、式(5)に含まれるaの下付きのkは、L本の送電線のうちの所定の送電線に対応している(1≦k≦L)。mは、M個のイベントのうちの所定のイベントに対応している(1≦m≦M)。nは、N個の決定変数に対応している(1≦n≦N)。また、M個のベクトルAk,mを行列で表したものが、式(1)の行列Aである。以下では、ベクトルAk,mの要素であるak,m,nを「係数」という。ベクトルAk,mは、電力系統モデルのPTDF(Power Transfer Distribution Factor)やLODF(Line Outage Distribution Factor)に基づいて、周知の方法で算出される。
【0073】
前記した式(4)の他に、予防制御の制約条件として、例えば、以下の式(6)で示すものが挙げられる。
【0074】
【数6】
【0075】
式(6)に含まれるΔPは、発電機gの出力変更量である。また、Nは、決定変数の個数(つまり、制御対象の個数)である。すなわち、式(6)は、制御対象において制御量を変更する際の変更量の総和を0にすることを表している。例えば、電力が正常に供給されている状態から発電機G1(図1参照)の出力を下げるのであれば、この出力低下分を補うように、残りの発電機G2,G3(図1参照)の出力の総和を上げるような制御が行われる。また、他の制約条件として、例えば、以下の式(7)に示すものが挙げられる。
【0076】
【数7】
【0077】
なお、式(7)に含まれるPmin^gは、発電機gの出力変更量の下限値である。また、Pmax^gは、発電機gの出力変更量の上限値である。つまり、式(7)は、予防制御の制御量を所定範囲内にすることを表している。式(4)や式(6)や式(7)の制約条件は、制約条件リストDB51(図4参照)に格納される。
次に、図9のステップS104の処理(制約条件のスクリーニング)について、図10を用いて詳細に説明する。
【0078】
図10は、制約条件のスクリーニングに関するフローチャートである。
なお、図9のステップS1041の処理に先立って、所定の制約条件が構築され(図9のS102)、さらに、制約スクリーニングパラメータ等のデータが読み込まれているものとする(図9のS103)。
ステップS1041において処理部15は、ベクトルAk,mの要素である係数ak,m,n(式(5)も参照)のうち、所定条件を満たすものを特定する。具体的には、処理部15は、以下の式(8)に示すように、その絶対値が制約スクリーニングパラメータε以下の係数ak,m,nを特定する。
【0079】
【数8】
【0080】
例えば、ベクトルAk,mの要素である係数ak,m,nにおいて、ak,m,n≒0であるものは、このak,m,nに対応する所定の送電線が受ける影響が小さい可能性が高いため、予防制御ではそれほど重要でないといえる。
【0081】
次に、ステップS1042において処理部15は、所定条件を満たす係数ak,m,nが含まれる制約条件を選択する。すなわち、処理部15は、その絶対値が制約スクリーニングパラメータε以下の係数ak,m,nが含まれる制約条件(つまり、M個のベクトルAk,mのうちの1つ)を選択する。
【0082】
次に、ステップS1043において処理部15は、全ての制約条件を確認済みであるか否かを判定する。すなわち、処理部15は、M個のベクトルAk,mの全てについて、スクリーニングの可否を確認したか否かを判定する。ステップS1043において、確認済みでない制約条件が存在する場合(S1043:No)、処理部15の処理はステップS1044に進む。
【0083】
ステップS1044において処理部15は、制約条件に係る全ての係数ak,m,nが所定条件を満たしているか否かを判定する。すなわち、処理部15は、ステップS1042で選択した制約条件に対応する所定のベクトルAk,mにおいて、その全ての係数ak,m,nが制約スクリーニングパラメータε以下であるか否かを判定する。ステップS1044において、制約条件に係る全ての係数ak,m,nが所定条件を満たしている場合(S1044:Yes)、処理部15の処理はステップS1045に進む。
【0084】
ステップS1045において処理部15は、制約条件をスクリーニングする。すなわち、処理部15は、ステップS1042で選択した制約条件に対応するベクトルAk,mの全ての係数ak,m,nの値をゼロに変更することで、この制約条件を省くようにする。言い換えると、処理部15は、複数の制約条件のそれぞれが多項式で表される場合において、所定の多項式に含まれる係数ak,m,nの全てについて、係数ak,m,nの絶対値(又は係数ak,m,nの二乗の値)が制約スクリーニングパラメータε以下であるとき、この多項式で表される制約条件をスクリーニングする。
【0085】
これによって、M個の制約式(ベクトルAk,m)のうち、電力系統GR1(図1参照)の予防制御において特に重要でない制約条件が省かれる。仮に、所定のイベントmが生じた場合でも、スクリーニング済みの係数ak,m,nに対応する送電線kはほとんど影響を受けない可能性が高いため、重要でない制約条件を省いても特に問題は生じない。
【0086】
このように制約条件をスクリーニングする(所定のベクトルAk,mを省く)ことで、M個のベクトルAk,mが行列化された行列A(式(1)を参照)の行の数を少なくして、行列A´式(式(2)を参照)にすることができる。つまり、予防制御を行う際の制約式の数を削減できるため、問題規模を小さくすることができる。その結果、予防制御を行う際の計算時間を大幅に短縮し、予防制御をオンラインで行うことが可能になる。図10のステップS1045の処理を行った後、処理部15の処理はステップS1042に戻る。
【0087】
また、ステップS1044において制約条件に係る係数ak,m,nのうちで所定条件を満たしていないものが存在する場合(S1044:No)、処理部15の処理はステップS1042に戻る。そして、ステップS1042では、絶対値が制約スクリーニングパラメータε以下の係数ak,m,nを含むような別の制約条件(ベクトルAk,m)が選択される。
【0088】
また、ステップS1043において全ての制約条件を確認済みである場合(S1043:Yes)、処理部15の処理はステップS1046に進む。
ステップS1046において処理部15は、スクリーニング済みの制約条件等を出力する。すなわち、処理部15は、スクリーニング済制約リストDB52(図4参照)を生成して、表示部16(図4参照)に表示させる。なお、スクリーニング済制約リストとは、以下の式(9)の条件を満たす制約式のリストである。つまり、その絶対値がスクリーニングパラメータεよりも大きい係数ak,m,nを含むような制約条件のリストが、スクリーニング済制約リストとして生成される。
【0089】
【数9】
【0090】
その他にも、例えば、制約スクリーニングパラメータεの値が表示部16(図4参照)に表示されるようにしてもよい。すなわち、処理部15は、制約スクリーニングパラメータεと、スクリーニング済制約リストと、を含む情報を表示部16(表示装置)に表示させる(表示処理)。これによって、制約スクリーニングパラメータεやスクリーニング済制約リストをユーザが確認できるため、予防制御の設定を行いやすくなる。ステップS1046の処理を行った後、処理部15は、制約条件のスクリーニング(図9のS104)に関する一連の処理を終了する(END)。
【0091】
図11は、スクリーニング済制約リストDB52の例を示す説明図である。
図11の例では、スクリーニング済制約リストDB52において、制約IDと、制約条件と、状態と、が対応付けられている。例えば、制約IDがEEE1のものでは、「Cont1」の制御量の変更が送電線L1(図1参照)に与える影響について、所定の制約条件が適用されている(Enabled)。また、制約IDがEEE2のものでは、「Cont2」の制御量の変更が送電線L1に与える影響についてスクリーニング行われることで、制約条件が適用されなくなっている(Disabled)。
【0092】
次に、図9のステップS105の処理(コスト関数の読込み)について説明する。
コスト関数は、例えば、以下の式(10)で表される。なお、式(10)に含まれるΔPは、電力系統GR1(図1参照)に含まれる発電機G1~G3(図1参照)等の機器の制御量を表している。つまり、電力系統GR1に含まれる機器の制御量の絶対値を最小化するようにコスト関数が設定されている。
【0093】
【数10】
【0094】
次に、図9のステップS106の処理(予防制御の制御量等の算出)について詳細に説明する。処理部15(図4参照)は、コスト関数DB45と、スクリーニング済制約リストDB52と、の各データを基づいて最適化モデルを生成することで、予防制御の制御量等を算出する。例えば、式(10)のコスト関数や、前記した式(6)や式(7)の他、以下の式(11)の制約式に基づいて、最適化モデルが生成されるようにしてもよい。
【0095】
【数11】
【0096】
なお、式(11)は、|ak,m,n|>εとなるような係数ak,m,nを含むスクリーニング済みの制約条件を用いて、前記した式(4)と同様の形式で最適化を行うことを表している。
また、別の方法として、制約条件が遵守されない場合に所定のペナルティを付与する形式で制約条件リストが作成されるようにしてもよい。このように、いわゆる解充足性が優先される場合には、前記した式(6)や式(7)の他、例えば、以下の式(12)、式(13)、及び式(14)の制約式が用いられる。
【0097】
【数12】
【0098】
式(12)に含まれるΔP^gは、発電機gの出力変更量である。また、λは、制約条件が遵守されない場合のペナルティの重み付けを表すペナルティ係数である。式(12)に含まれるg(・・・)は、かっこ内を変数とする制約条件(後記する式(14))が満たされた場合に、その値がゼロになるような関数である。また、ΔPは、所定の制御量である。式(12)に含まれるPslack^line,ratingは、g(・・・)の値がゼロに近づくように、送電線の潮流制約を所定に変化させることを表している。要するに、式(12)は、第1項のコスト関数を最小化しつつ、制約条件が遵守されない場合に所定のペナルティを課すことを表している。
【0099】
【数13】
【0100】
他の制約式である式(13)は、送電線の潮流制約を変化させる際(ΔPslack,j^line,rating)、その上限値・下限値に所定の緩和係数γを乗算することを表している。例えば、送電線の送電容量に基づく所定範囲から送電電力が外れないようにしたり、また、この所定範囲を多少は超えることをユーザが許容したりする際、緩和係数γの大きさが適宜に調整される。なお、緩和係数γの値が電力系統モデルに組み込まれるようにしてもよい。
【数14】
【0101】
他の制約式である式(14)は、発電機G1~G3(図1参照)の少なくとも一つの出力を変化させた場合において、所定の送電線で故障が発生した後の各送電線の状態が許容範囲内であれば、関数gの値をゼロにすることを表している。なお、式(14)に含まれるPTDF(Power Transfer Distribution Factor)は、ある送電線の送電電力を1[MW]だけ変化させた場合における他の送電線の潮流変化量を表す数値である。また、LODF(Line Outage Distribution Factor)は、ある送電線を切断した場合に、他の送電線に回り込む潮流変化量を表す数値である。式(14)に含まれるPi^lineは、電力系統の直近の状態を表している。
【0102】
また、図9のフローチャートでは省略しているが、予防制御の制御量等の算出に要する計算時間と、制約遵守率と、に基づいて、処理部15が予防制御の評価を行うようにしてもよい。前記した「制約遵守率」とは、制約条件の総数に対して、遵守された制約条件が占める比率である。また、制約条件が「遵守」されるとは、予防制御を行った後に所定のイベントが発生したとき、所定の状態量(例えば、各送電線の送電電力)が許容範囲に収まることを意味している。計算時間や制約遵守率を含む評価結果のデータは、予防制御評価結果DB54(図4参照)に格納される。
【0103】
図12は、スクリーニングによる計算時間の削減効果の例を示すシミュレーション結果である。
なお、図12のグラフの横軸は電力系統における母線数であり、縦軸は予防制御の制御量等の算出に要した計算時間である。図12にプロットされている複数の星印は、第1実施形態(スクリーニングあり)のシミュレーション結果を示している。また、図12にプロットされている複数の○印は、スクリーニングを行わなかった場合の比較例を示している。
【0104】
○印で示す比較例(スクリーニングなし)では、電力系統の母線数が多くなるにつれて計算量が急激に増加し、それに伴って計算時間も長くなっている。これに対して第1実施形態(クリーニングあり)では、不要な制約条件がスクリーニングされることで計算量が削減されるため、比較例に比べて計算時間が大幅に短縮されている。なお、電力系統が大規模になるほど、スクリーニングによる計算時間の削減効果が顕著になる傾向がある。
【0105】
図13Aは、スクリーニングなしの場合の比較例のシミュレーション結果である。
なお、図13Aの横軸は、それぞれのイベントに割り当てられたイベント番号である。また、図13Aの縦軸は、最重篤過負荷率である。ここで、「最重篤過負荷率」とは、前記したように、複数の送電線のうち、送電容量に対して送電電力が占める比率が最も高いものの負荷率である。図13Aでは、予防制御を行った場合のシミュレーション結果を○印で示している。また、予防制御を行わなかった場合のシミュレーション結果を×印で示している。
【0106】
なお、図13Aにおいて符号W1で示す箇所は太い線状に見えるが、実際には、横方向において非常に短い間隔で○印(予防制御を行った場合のデータ)がプロットされている。同様に、符号W2で示す箇所も太い線状に見えるが、実際には、横方向において非常に短い間隔で×印(予防制御を行わなかった場合のデータ)がプロットされている(図13Bの符号W1a,W2aも同様)。
図13Aに示す最重篤過負荷率が120%の破線T1は、最重篤過負荷率が許容範囲であるか否かの判定基準となる閾値であり、予め設定されている。最重篤過負荷率のデータが破線T1よりも上側にある場合には、制約条件が遵守されなかったとみなされる。
【0107】
図13Aに示すように、ほとんどのイベントでは、予防制御を行うことで最重篤過負荷率が120%以下に抑えられている。ただし、予防制御を行った場合でも、所定のイベント(データQ1に対応するイベント)では、最重篤過負荷率が120%を超えている。また、図13Aでは計算時間を示していないが、スクリーニングが行われない場合には計算時間が長くなるため、オンライン(つまり、リアルタイム)での予防制御は困難である。
【0108】
図13Bは、第1実施形態の制御に基づくスクリーニングありの場合のシミュレーション結果である。
図13Bの例では、比較例(図13A参照)とは異なり、予防制御を行うことで全てのイベントにおいて最重篤過負荷率が120%以下に抑えられている。このように、電力系統への影響が少ない不要な制約条件をスクリーニングすることで、予防制御の結果が改善されることが判明した。
【0109】
図14は、予防制御に関する処理の結果の表示例である。
図14の例では、電力系統モデル41aやスクリーニング済制約リスト52aや予防制御53aの他、制約スクリーニングパラメータ44aや予防制御評価結果54aが表示部16(図4参照)に表示されている。
【0110】
また、処理部15が、予防制御を行う際の計算時間、及び、制約条件の遵守率である制約遵守率のうちの少なくとも一つを表示部16(表示装置)に表示させるようにしてもよい。図14の例では、計算時間が20秒であり、制約遵守率が99%になっている。これによって、どの程度の計算時間を要し、また、どの程度の比率で制約条件が遵守されたのかをユーザが一目で把握できる。
【0111】
また、処理部15が、スクリーニング前の制約条件リストに含まれる制約条件の数、及び、スクリーニング済制約リストに含まれる制約条件の数を表示部16(表示装置)に表示させてもよい。このような制約条件の数の比較結果61aが表示されることで、スクリーニンによって制約条件がどの程度削減されたのかをユーザが把握できる。
【0112】
なお、図14に示す複数のデータのうちの一部が表示部16(図4参照)に表示されるようにしてもよい。また、電力系統モデル41aにおける所定の送電線の状態量といった他のデータが表示されるようにしてもよい。また、全ての内容を一画面で表示させる必要は特になく、表示画面上の所定のタブ(図示せず)の選択で表示内容が切り替わるようにしてもよい。
【0113】
<効果>
第1実施形態によれば、制約条件リストに含まれる多数の制約条件のうち、不要な制約条件を処理部15が数理的に特定して、スクリーニングを行うようにしている。これによって、予防制御を行う際の計算時間を大幅に削減できる。その結果、電力系統の規模の大きさに関わらず、予防制御をオンラインで(つまり、リアルタイムで)実行することが可能になる。したがって、電力系統の規模が大きい場合でも電力系統の安定化を図ることができる。
【0114】
≪第2実施形態≫
第2実施形態は、電力系統安定化装置10A(図15参照)が、スクリーニングパラメータ決定プレファレンスDB55(図15参照)を備える他、制約スクリーニングパラメータ管理部56(図15参照)や制約スクリーニングパラメータ評価結果DB57(図15参照)を備える点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0115】
図15は、第2実施形態に係る電力系統安定化システムが備える電力系統安定化装置10Aの機能ブロック図である。
電力系統安定化装置10Aは、第1実施形態で説明した各構成の他に、図15に示すスクリーニングパラメータ決定プレファレンスDB55と、制約スクリーニングパラメータ管理部56と、制約スクリーニングパラメータ評価結果DB57と、を備えている。
【0116】
スクリーニングパラメータ決定プレファレンスDB55には、スクリーニングパラメータ決定プレファレンスのデータが格納されている。ここで、「スクリーニングパラメータ決定プレファレンス」とは、予防制御を行う際の計算時間や制約遵守率に関するユーザの方針を示すデータである。例えば、予防制御に要する計算時間を所定時間以内にするといった方針や制約遵守率を所定値以上にするといった方針の他、制約遵守率よりも計算時間の方を優先させるといった方針が、スクリーニングパラメータ決定プレファレンスとして設定される。
【0117】
制約スクリーニングパラメータ管理部56は、スクリーニングパラメータ決定プレファレンスに基づいて、制約スクリーニングパラメータεを評価する。すなわち、制約スクリーニングパラメータ管理部56は、電力系統GR1(図1参照)の予防制御を行う際、所定の制約スクリーニングパラメータεを用いた場合の計算時間や制約遵守率を算出する。
【0118】
例えば、制約スクリーニングパラメータ管理部56は、大きさが異なる複数の制約スクリーニングパラメータεについて、前記した計算時間や制約遵守率を個別に算出し、その関係を特定する。なお、制約スクリーニングパラメータεと計算時間との関係や、制約スクリーニングパラメータεと制約遵守率との関係は、所定の数式やデータテーブルで表される。これらの関係を示すデータは、制約スクリーニングパラメータ評価結果DB57に格納される。
【0119】
図16は、制約スクリーニングパラメータ評価結果DB57の例を示す説明図である。
図16の例では、制約スクリーニングパラメータ評価結果DB57において、制約スクリーニングパラメータと、計算時間と、制約遵守率と、が対応付けられている。例えば、制約スクリーニングパラメータを1[%]とした場合には、計算時間が100[s]であり、制約遵守率が100[%]になっている。このように、大きさが異なる複数の制約スクリーニングパラメータに対して、計算時間や制約遵守率がそれぞれ算出される。
【0120】
図17は、制約スクリーニングパラメータ管理部の処理結果の例を示す図である。
図17の各グラフの横軸は、制約スクリーニングパラメータεの値である。また、図17の紙面上側のグラフの縦軸は、予防制御を行う際の計算時間である。図17の紙面下側のグラフの縦軸は、制約遵守率である。なお、図17にプロットされた各データにおいて、対象とする電力系統の構成は同一であるものとする。
【0121】
処理部15(図3参照)は、大きさが異なる複数の制約スクリーニングパラメータεのそれぞれについて、その制約スクリーニングパラメータεを用いた場合に予防制御を行う際の計算時間、及び、制約条件の遵守率である制約遵守率のうちの少なくとも一つを表示部16(表示装置:図3参照)に表示させる。これによって、制約スクリーニングパラメータεの大きさによって、計算時間や制約遵守率がどのように変化するかをユーザが把握できる。
【0122】
図17に示す「ユーザ設定値」とは、入力部14(図3参照)を介した操作でユーザが設定した制約スクリーニングパラメータεの値である。また、「システム提案値」とは、スクリーニングパラメータ決定プレファレンスに基づいて、制約スクリーニングパラメータ管理部56が提案した制約スクリーニングパラメータεの値である。制約スクリーニングパラメータ管理部56は、スクリーニングパラメータ決定プレファレンスの他、図17の各グラフに示す関係に基づいて、制約スクリーニングパラメータεのシステム提案値を算出する。
【0123】
このように、処理部15(図3参照)は、予防制御を行う際の計算時間、及び、制約条件の遵守率である制約遵守率に関するユーザの方針を示すスクリーニングパラメータ決定プレファレンスに基づいて、制約スクリーニングパラメータの提案値を算出する。そして、処理部15は、この提案値を表示部16(表示装置:図3参照)に表示させる。
【0124】
これによって、計算時間を短縮するといった方針や、制約遵守率の確保を優先させるといった方針が反映された制約スクリーニングパラメータεのシステム提案値をユーザが把握できる。なお、実際の予防制御の際には、スクリーニングパラメータεとして、システム提案値が用いられてもよく、また、ユーザ設定値が用いられてもよい。その他、システム提案値を参考にしつつ、入力部14を介した操作によって、ユーザが制約スクリーニングパラメータεを新たに設定するといったことも可能である。
【0125】
<効果>
第2実施形態によれば、所定のスクリーニングパラメータ決定プレファレンスに基づいて、制約スクリーニングパラメータεのシステム提案値が表示される。制約スクリーニングパラメータεは、制約条件のスクリーニングを左右する重要なパラメータであるため、システム提案値が提示されることで、ユーザが制約スクリーニングパラメータεを決める際の参考にすることができる。
【0126】
≪変形例≫
以上、本開示に係る電力系統安定化システム100や電力系統安定化方法について各実施形態で説明したが、これらの記載に限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、第1実施形態では、図9のステップS101~S107の処理が全て行われる場合について説明したが、これに限らない。すなわち、ユーザによる入力部14(図3参照)の操作に基づいて、所定のステップで処理が終了されるようにしてもよい。例えば、ステップS104において制約条件がスクリーニングされた段階で、一連の処理が終了されるようにしてもよい。この場合でも、例えば、スクリーニング済制約リストDB52を外部に提供することが可能である。なお、第2実施形態についても同様のことがいえる。
【0127】
また、第1実施形態では、図10のステップS1042において、絶対値が制約スクリーニングパラメータε以下の係数ak,m,nを含む制約条件を処理部15が選択する場合について説明したが、これに限らない。例えば、係数ak,m,nの絶対値に代えて、係数ak,m,nの二乗の値が用いられてもよい。すなわち、複数の制約条件のそれぞれが多項式で表される場合において、所定の多項式に含まれる係数ak,m,nの全てについて、この係数ak,m,nの二乗の値が制約スクリーニングパラメータε以下であるとき、この多項式で表される制約条件を処理部15がスクリーニングするようにしてもよい。
【0128】
また、電力系統安定化システム100の処理(電力系統安定化方法)が、コンピュータの所定のプログラムとして実行されるようにしてもよい。前記したプログラムは、通信線を介して提供できる他、CD-ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。
【0129】
また、本開示は、各実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、各実施形態は、本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0130】
また、前記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、前記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0131】
10,10A 電力系統安定化装置
11 プログラムデータベース
12 データベース
13 メモリ
14 入力部
15 処理部
16 表示部(表示装置)
17 通信部
18 バス
20 計測器
30 制御端末
41 電力系統モデルDB
42 電力系統状態DB
43 イベントリストDB
44 制約スクリーニングパラメータDB
45 コスト関数DB
46 制約条件構築部(処理部)
47 制約スクリーニング部(処理部)
48 予防制御算出部(処理部)
49 予防制御実行部(処理部)
51 制約条件リストDB
52 スクリーニング済制約リストDB
53 予防制御DB
54 予防制御評価結果DB
55 スクリーニングパラメータ決定プレファレンスDB
56 制約スクリーニングパラメータ管理部
57 制約スクリーニングパラメータ評価結果DB
100 電力系統安定化システム
B1,B2,B3,B4,B5,B6,B7,B8 母線
D1,D2,D3 負荷
G1,G2,G3 発電機(機器)
GR1 電力系統
L1,L2,L3,L4,L5,L6,L7,L8,L9 送電線
N1 通信ネットワーク
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17