(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165540
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
B60L15/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081818
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】國吉 房貴
(72)【発明者】
【氏名】田村 健太
(72)【発明者】
【氏名】古賀 敏之
(72)【発明者】
【氏名】稲積 祐敦
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125EE08
5H125EE61
(57)【要約】
【課題】システムが大型化、複雑化することを抑制しつつ、車両が凹凸やうねりのある路面を走行する際に駆動伝達機構で生じるトルク振動を抑制する。
【解決手段】回転電機と回転電機の駆動力を車輪に伝達する駆動伝達機構とを備えた車両を制御する車両用制御装置は、回転電機の回転速度ωmgを検出する回転速度検出部と、学習期間に検出された回転速度ωmgの検出値の集合である回転速度検出値群に基づく機械学習により、駆動伝達機構を伝わるトルクの将来の値を予測するトルク予測部と、トルク予測値Tdsに示されたトルク振動とは逆位相のトルクを回転電機に出力させる制振制御を行う回転電機制御部とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機と前記回転電機の駆動力を車輪に伝達する駆動伝達機構とを備えた車両を制御する車両用制御装置であって、
前記回転電機の回転速度を検出する回転速度検出部と、
予め定められた学習期間に前記回転速度検出部により検出された前記回転速度の検出値の集合である回転速度検出値群に基づく機械学習により、前記駆動伝達機構を伝わるトルクの将来の値を予測するトルク予測部と、
前記トルク予測部により予測されたトルク予測値に基づいて、前記トルク予測値に示されたトルク振動とは逆位相のトルクを前記回転電機に出力させる制振制御を行う回転電機制御部と、を備える車両用制御装置。
【請求項2】
前記トルク予測値に基づいて、前記駆動伝達機構を伝わるトルクの振動が共振のピークに到達する前に、前記駆動伝達機構の将来の共振の発生を予測する共振予測部を更に備え、
前記回転電機制御部は、前記共振予測部により将来の共振の発生が予測された場合に、前記制振制御を行う、請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記回転電機制御部は、前記トルク予測値に示されたトルク振動の振幅が、予め定められた第1しきい値を超える場合に、前記制振制御を開始し、前記トルク予測値に示されたトルク振動の振幅が、前記第1しきい値より低い、予め定められた第2しきい値以下となる場合に、前記制振制御を終了する、請求項1又は2に記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機と回転電機の駆動力を車輪に伝達する駆動伝達機構とを備えた車両を制御する車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、波状路等のように凹凸やうねりのある路面を車両が走行する場合、車両用駆動装置によって駆動される車輪(駆動輪)が接地と浮き上がりとを繰り返すことで当該車輪に周期的な回転変動が生じ、車両用駆動装置と車輪との間で駆動力を伝達する駆動伝達機構に機械的な負荷が生じることがある。このような負荷は、周期的な回転変動に起因する「ねじれ共振」として知られている。共振が発生していることをセンサ等で検出した時点では、ねじれ共振の振幅が大きくなり、駆動伝達機構に掛かる負荷も大きくなってしまう。そこで、駆動伝達機構におけるねじれ共振に起因するトルクを推定して、当該トルクを低減させる回避処理を行うことが提案されている。
【0003】
特開2023-18375号公報には、学習済みモデルとして、時系列データを時間軸に沿った推移の情報を保持したまま取り扱うことのできる長期短期記憶ニューラルネットワークを用いてねじれ共振に起因するトルクを推定する制御装置(システムコントロールユニット(100))が開示されている(背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。この制御装置は、駆動伝達機構に過大な負荷が作用すると判定した場合に、当該トルクを低減する回避処理を実行する。回避処理は、車輪の駆動力源(当該文献では第2モータジェネレータ)のトルクを低減させることで、車両用駆動装置で発生するトルクを低減させることによって実現される。また、トルク値の推定のための入力データ(X)には、車輪速センサにより検出された4輪それぞれの回転速度、駆動力源の回転速度、車両の前後方向の加速度、駆動力源のトルク指令値、アクセル操作量、車速が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の文献に開示された制御装置では、駆動伝達機構のトルク値を推定するために多くの種類の入力データを必要とする。これら多くの種類のデータを取得するためには、種々のセンサも必要となる。また、アクセル操作量を取得するための機構の追加も必要となる場合がある。このため、センサ等のコストが増加し、システムも複雑化する傾向がある。また、上記の文献に開示された制御装置では、駆動力源のトルクを低減させること、つまりトルクを制限することによって回避処理が実行されるが、車両が減速中の場合に駆動力源のトルクを制限することは車両の安定性を欠くことになる場合があり、好ましくはない。
【0006】
上記背景に鑑みて、システムが大型化、複雑化することを抑制しつつ、車両が凹凸やうねりのある路面を走行する際に駆動伝達機構で生じるトルク振動を抑制する技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑みた車両用制御装置は、回転電機と前記回転電機の駆動力を車輪に伝達する駆動伝達機構とを備えた車両を制御する車両用制御装置であって、前記回転電機の回転速度を検出する回転速度検出部と、予め定められた学習期間に前記回転速度検出部により検出された前記回転速度の検出値の集合である回転速度検出値群に基づく機械学習により、前記駆動伝達機構を伝わるトルクの将来の値を予測するトルク予測部と、前記トルク予測部により予測されたトルク予測値に基づいて、前記トルク予測値に示されたトルク振動とは逆位相のトルクを前記回転電機に出力させる制振制御を行う回転電機制御部と、を備える。
【0008】
本構成によれば、回転電機の回転速度の検出値を用いた機械学習により、駆動力源のトルクの情報を用いずに、駆動伝達機構を伝わるトルクの将来の値を予測することができる。そのため、車両用制御装置の構成の簡素化を図り易い。また、本構成によれば、駆動伝達機構のトルク予測値に基づいて、駆動伝達機構に伝わるトルク振動とは逆位相のトルクを回転電機に出力させる制振制御を行うため、回転電機が減速トルク(負トルク)を出力している場合であっても、車両の走行安定性を低減させることなく、制振制御を行うことができる。即ち、本構成によれば、システムが大型化、複雑化することを抑制しつつ、車両が凹凸やうねりのある路面を走行する際に駆動伝達機構で生じるトルク振動を抑制することができる。
【0009】
車両用制御装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】車両用駆動装置の一例を模式的に示すスケルトン図
【
図2】回転電機制御システムの一例を模式的に示すブロック図
【
図4】過去の回転速度から将来の駆動伝達機構のトルクを予測する概念図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、車両用制御装置の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は車両用制御装置50(
図2、
図6等参照)が制御対象とする車両用駆動装置90を模式的に示している。車両用制御装置50は、ロータ11及びステータ12を備えた回転電機10と、回転電機10の駆動力を車輪Wに伝達する駆動伝達機構40とを備えた車両100(
図4参照)を制御する。本実施形態では、駆動伝達機構40が減速機として機能する遊星歯車機構20と、回転電機10からの駆動力を一対のドライブシャフトDSを介して一対の車輪Wに分配する差動歯車機構30とを備える形態を例示している。しかし、駆動伝達機構40は、差動歯車機構30を備えることなく、回転電機10の駆動力が1つの車輪Wに伝達される形態であってもよい。また、駆動伝達機構40は、歯車機構を備えることなく、ドライブシャフトDSなどの伝達部材によって回転電機10と車輪Wとが直接連結される形態であってもよい。
【0012】
本実施形態では、遊星歯車機構20が、ロータ11と一体的に回転するサンギヤ21と、ケース等の非回転部材に固定されたリングギヤ23と、差動歯車機構30の入力要素(例えば不図示の差動入力ギヤ)と一体的に回転するキャリヤ22と、キャリヤ22に回転自在に支持されてサンギヤ21及びリングギヤ23に噛み合うピニオンギヤ24とを備える形態を例示している。ここでは、簡単に構成例を示すためにシングルピニオン型の機構を例示しているが、ダブルピンピニオン型や、その他の複合的な機構により遊星歯車機構20が構成されていてもよい。また、ここでは、遊星歯車機構20が減速機として機能する形態を例示しているが、増速機であってもよい。また、ここでは固定変速段を有する減速機を例示したが、クラッチ、ブレーキ等の係合装置を備えて複数の変速段を有する減速機や増速機であってもよいし、減速及び増速が可能な変速機であってもよい。
【0013】
また、ここでは、回転電機10、遊星歯車機構20、差動歯車機構30、ドライブシャフトDSが同一の回転軸上に配置された1軸構成の車両用駆動装置90を例示しているが、例えば、駆動伝達機構40がカウンタギヤ機構等の平行軸歯車機構を備える場合には、車両用駆動装置90が2軸構成や3軸構成であってもよい。
【0014】
車輪Wの駆動力源として機能する回転電機10は、
図2に示すように、インバータ回路60を介して、二次電池やキャパシタ等の蓄電装置により構成された直流電源70と電気的に接続されている。回転電機10は、直流電源70から電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、車輪Wの側から動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。回転電機10は、直流電源70に蓄えられた電力により力行して駆動力を発生すると共に、車輪Wの側から伝達される駆動力により発電して直流電源70を充電する。
【0015】
回転電機10は、回転電機10の目標トルクに基づいて、回転電機制御部3(
図6参照)により駆動制御される。回転電機制御部3は、複数のスイッチング素子により構成されたインバータ回路60をスイッチング制御して、インバータ回路60に直流と複数相(本実施形態では3相)の交流との間で電力を変換させる。インバータ回路60は、複数のスイッチング素子を有して構成される。公知であるので図示は省略するが、インバータ回路60は、直流の正極側の上段側スイッチング素子と負極側の下段側スイッチング素子との直列回路により構成された交流1相分のアームを複数組(ここでは3組)備えている。それぞれのスイッチング素子には、負極から正極へ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向としてフリーホイールダイオードが備えられている。スイッチング素子には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やSiC-MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)やSiC-SIT(SiC - Static Induction Transistor)、GaN-MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)などのパワー半導体素子を適用すると好適である。
【0016】
図2及び
図6に示すように、回転電機制御部3はフィードバック演算部7を備え、ロータ11の回転位置(永久磁石の磁極位置)、ロータ11の回転速度、及び3相各相のステータコイル13を流れる電流に基づいて、例えば公知のベクトル制御法により電流フィードバック制御を行ってインバータ回路60を介して回転電機10を駆動制御する。ロータ11の回転位置はレゾルバや誘導性位置センサ(Inductive Position Sensor)などの回転センサ51により検出される。回転センサ51はロータ11の回転速度も検出する。ステータコイル13を流れる電流は、電流センサ52によって検出される。電流センサ52は、例えばインバータ回路60とステータコイル13とを接続するバスバーなどの動力線の近傍に設置された非接触型電流センサであると好適である。
【0017】
ところで、
図4に示すように、波状路等のように凹凸やうねりのある路面Rを車両100が走行する場合、車両用駆動装置90によって駆動される車輪Wが接地と浮き上がりとを繰り返すことで車輪Wに周期的な回転変動が生じ、車両用駆動装置90と車輪Wとの間で駆動力を伝達する駆動伝達機構40に機械的な負荷が生じることがある。このような負荷は、周期的な回転変動に起因する「ねじれ共振」として知られている。このような共振はセンサを用いて検出することも可能である。しかし、共振が発生していることをセンサ等で検出した時点では、ねじれ共振の振幅が大きくなり、駆動伝達機構40に掛かる負荷も大きくなってしまう。そこで、車両用制御装置50が、駆動伝達機構40におけるねじれ共振に起因するトルクを推定して、当該トルクを低減させる回避処理を行うと好適である。本実施形態の車両用制御装置50は、システムが大型化、複雑化することを抑制しつつ、車両100が凹凸やうねりのある路面Rを走行する場合に生じるトルク振動を抑制するように構成されている。尚、以下の説明においては、駆動伝達機構40で共振により発生するトルクであり、上記のように回避すべきトルクのことを「共振トルク」と称する場合がある。
【0018】
車両用制御装置50は、回転電機10の回転速度ωmg(
図3、
図4、
図6参照)を検出する回転速度検出部(回転センサ51)と、予め定められた学習期間T1に回転センサ51により検出された回転速度ωmgの検出値の集合である回転速度検出値群に基づく機械学習により、駆動伝達機構40を伝わるトルクの将来の値を予測するトルク予測部1とを備える。また、上述したように、車両用制御装置50は、回転電機制御部3を備えており、回転電機制御部3は、トルク予測部1により予測されたトルク予測値Tds(
図3、
図4、
図6参照)に基づいて、トルク予測値Tdsに示されたトルク振動とは逆位相のトルクを回転電機10に出力させる制振制御を行う。
【0019】
即ち、車両用制御装置50は、回転電機10の回転速度ωmgの検出値を用いた機械学習により、トルクを検出したり、トルク指令値を用いたりせずに、駆動伝達機構40を伝わるトルクの将来の値(トルク予測値Tds)を予測する。そのため、車両用制御装置50の構成の簡素化を図り易い。また、回転電機10が減速トルク(負トルク)を出力している場合に、制振のために例えばトルクの出力を制限すると、車両100の走行安定性を低減させてしまう場合があるが、本実施形態では、トルク予測値Tdsに基づいて、駆動伝達機構40に伝わるトルク振動とは逆位相のトルクを回転電機10に出力させるように制振制御を行う。従って、本実施形態では、車両用制御装置50は、車両100の走行安定性を低減させることなく、制振制御を行うことができる。
【0020】
尚、回転速度検出部が検出する回転電機10の回転速度ωmgは、本実施形態のようにロータ11の回転が直接検出される形態であってもよいが、ロータ11の回転に同期し、ロータ11の回転速度に比例した回転速度で回転する回転部材、例えばサンギヤ21、キャリヤ22、差動歯車機構30の差動入力部材の回転速度であってもよい。但し、回転電機10をフィードバック制御する上では、一般的に、ロータ11や、ロータ11に連結されてロータ11と一体的に回転するロータ軸(符号なし)の回転が回転センサ51によって検出される。従って、このような回転センサ51を回転速度検出部とすることによってセンサを追加することなく、制振制御を行うための回転速度検出部を設けることができる。
【0021】
尚、回転速度検出値群に対応して、トルク予測値Tdsについても、
図4に示す予測期間T2におけるトルク予測値Tdsのように複数の値の集合であってもよい。或いは、単一の値として推定されるトルク予測値Tdsが時間経過に伴って複数回繰り返して演算され、複数のトルク予測値Tdsを含むトルク予測値群が形成されてもよい。即ち、「トルク予測値Tds」と称した場合には、単一の値の場合も、集合(群)の場合も含む。
【0022】
また、回転速度ωmgからトルク予測値Tdsを演算するに際しては、1つの態様として、過去の回転速度ωmgから将来の回転速度ωmgを予測し、当該将来の回転速度ωmgから将来のトルク予測値Tdsを演算することができる。例えばトルク予測部1は、回転速度検出値群に基づいて、回転電機10の回転速度ωmgの将来の値を予測する回転速度予測部(到達振動予測部ということもできる)を備える。また、トルク予測部1は、回転速度予測部により予測された回転速度ωmgの将来の値である回転速度予測値を、駆動伝達機構40を伝わるトルクの将来の値であるトルク予測値Tdsに変換する変換部を備える。回転速度からトルクへと物理量の次元(ドメイン)を変換するため、当該変換部をドメイン変換部と称してもよい。
【0023】
また、車両用制御装置50は、さらに、トルク予測値Tdsに基づいて、駆動伝達機構40を伝わるトルクの振動が共振のピークに到達する前に、駆動伝達機構40の将来の共振の発生を予測する共振予測部2を備えている。回転電機制御部3は、共振予測部2により将来の共振の発生が予測された場合に、制振制御を行うと好適である。この場合、トルク予測値Tdsに基づいて駆動伝達機構40を伝わるトルクの振動が共振のピークに到達する前に制振制御を実施することができる。従って、駆動伝達機構40に過大なトルクが作用することを回避し易い。
【0024】
また、回転電機制御部3は、トルク予測値Tdsに示されたトルク振動の振幅が、予め定められた第1しきい値を超える場合に、制振制御を開始し、トルク予測値Tdsに示されたトルク振動の振幅が、第1しきい値より低い、予め定められた第2しきい値以下となる場合に、制振制御を終了すると好適である。この場合、不必要な制振制御を行わないことで、演算処理負荷の軽減、他の制御との干渉の低減を図ることができる。
【0025】
尚、制振制御が実行されていない状態で、トルク振動の振幅が、第1しきい値を超えない場合には、当然ながら制振制御は開始されない。つまり、回転電機制御部3は、将来、トルクの共振がないと判定している状態では、制振制御を実行しない。
【0026】
以下、ロータ11の回転速度ωmgからトルク予測値Tdsを求める具体的な構成について説明する。
図3は、本実施形態における制振制御の基本的な技術思想、体系(scheme)を示している。即ち、回転電機制御部3は、回転電機10のロータ11の回転速度ωmgよりドライブシャフトDSのトルク波形であるトルク予測値Tdsを予測し、トルク予測値Tdsに基づいて生成された共振制御信号を用いて回転電機10を制御することによって制振制御を実現する。
【0027】
本実施形態では、車両用制御装置50は、回転電機10の回転速度ωmgの値“xt”が時間ステップ“t∈[0,T-1]”で入力されたとき、τステップ先のドライブシャフトDSのトルク予測値Tdsの値(下記式(1))を時間ステップ“t∈[0,Tmax]”で出力するモデルを学習する。
【0028】
【0029】
尚、“T”と“T
max”とは、それぞれ予測開始点(
図4における時刻t1)と予測終了点とを示す。ねじれ共振が発生する場合には、特定の時間区間において極端に大きな振幅が観測されるため、ここではねじれ共振予測に「分位点回帰」を採用している。各分位点の予測は下記式(2)のように表される。
【0030】
【0031】
式(2)の左辺は、τステップ先の推定されたq番目の分位点が時間tで観測されたことを示している。右辺のfq(・)は予測モデルを示している。
【0032】
予測モデルの構造としては、例えば、再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)、時間畳み込みニューラルネットワーク(TCN:Temporal Convolutional Network)、マルチヘッド注意機構(multi-head attention)等を含むと好適である。例えば、1つの態様として、車両用制御装置50は、入力系列がもつ特徴を抽出するため、再帰的な特徴と時間畳み込みによる特徴をそれぞれ抽出して特徴ペアをつくり、その間の注意を計算し、さらにネットワーク出力にゲート構造(特徴抽出のための機構)を設けることで重要な特徴を抽出する機能を備えると好適である。
【0033】
図5は、駆動伝達機構40で共振により発生し、回避すべきトルクである共振トルクを予測する手順を模式的に示している。第1ステップ#1は、入力ステップであり、回転電機10の回転速度ωmgを取得する。第2ステップ#2は、点予測ステップであり、再帰型ニューラルネットワーク、時間畳み込みニューラルネットワークにより未来予測を行う。再帰型ニューラルネットワークはクロスドメン(回転速度ωmgとトルク予測値Tdsとの間)の予測性能を高くすることに課題がある。また、時間畳み込みニューラルネットワークは、同一ドメインでの長期予測性能を高くすることに課題がある。再帰型ニューラルネットワーク、時間畳み込みニューラルネットワークを併用することによって適切な点予測が実現し易い。
【0034】
第3ステップ#3は共振検出ステップである。
図6に示すように、本実施形態では、車両用制御装置50は、トルク予測値Tdsに基づいて、駆動伝達機構40を伝わるトルクの振動が共振のピークに到達する前に、駆動伝達機構40の将来の共振の発生を予測する共振予測部2を備えている。本実施形態では、共振予測部2は、トルク予測値Tdsに示されたトルク振動の振幅が第1しきい値を超える場合に、共振が将来発生すると予測する。
【0035】
第4ステップ#4は、共振トルクとは逆位相のトルクを回転電機10に出力させるための信号(例えば指令値、共振トルクの抑制信号)をフィードバック演算部7に出力する出力ステップである。制振制御では、トルク振動とは逆位相のトルクを回転電機10に出力させるが共振の振幅が小さい場合には、制振制御は特に必要ではない。従って、回転電機制御部3は、共振予測部2により将来の共振の発生が予測された場合に、制振制御を行うと好適である。この場合、共振制御の要否を判定するための制御値が必要である。発明者らの実験やシミュレーションによれば、車両100の特性変化の頑強性が、回転速度ωmgに基づく制御値に比べてトルク予測値Tdsに基づく制御値の方が高くなることが確認された。即ち、発明者らにより、当該制御値が回転電機10の回転速度ωmgに基づいて設定される場合に比べて、当該制御値がドライブシャフトDSのトルク予測値Tdsに基づいて設定される場合の方が、共振制御の要否を決定する上で適切であることが確認された。
【0036】
回転電機制御部3は、トルク予測値Tdsに示されたトルク振動の振幅が第1しきい値を超える場合に制振制御を開始し、トルク予測値Tdsに示されたトルク振動の振幅が第2しきい値以下となる場合に制振制御を終了する。ここで、“第1しきい値>第2しきい値”である。
図6に示すように、本実施形態では、回転電機制御部3は、制御値演算部4を備えている。制御値演算部4は、制振制御の要否を判定すると共に、トルク振動の振幅に基づいて制振制御のための逆位相のトルクを生成するための制御値を演算する。
【0037】
また、回転電機制御部3は、トルク予測値Tdsに基づいて振動を抑制するための抑制信号(トルク振動とは逆位相のトルク)を生成する抑制信号生成部5を備えている。第4ステップ#4では、抑制信号生成部5により生成された逆位相のトルクがフィードバック演算部7に出力される。回転電機制御部3(制御値演算部4、抑制信号生成部5)は、共振予測部2により予測されたトルク振動の振幅が第1しきい値を超える場合に制振制御を開始する。制振制御を開始した後は、回転電機制御部3は、トルク予測値Tdsに示されたトルク振動の振幅が第2しきい値以下となると制振制御を終了する。
【0038】
フィードバック演算部7は、ロータ11の回転位置、ロータ11の回転速度、及び3相各相のステータコイル13を流れる電流に基づく電流フィードバック制御により設定されるトルクに、当該逆位相のトルクを重畳したトルクを出力するように回転電機10を駆動制御する。制振制御が実行されない場合には、フィードバック演算部7は、当該逆位相のトルクを重畳することなく、回転位置、回転速度、電流に基づいて設定されるトルクを出力するように回転電機10を駆動制御する。
【符号の説明】
【0039】
1:トルク予測部、2:共振予測部、3:回転電機制御部、10:回転電機、40:駆動伝達機構、50:車両用制御装置、51:回転センサ(回転速度検出部)、100:車両、T1:学習期間、Tds:トルク予測値、W:車輪、ωmg:回転速度