(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165546
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】電気圧力鍋の制御方法
(51)【国際特許分類】
A47J 27/00 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
A47J27/00 109G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081825
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003702
【氏名又は名称】タイガー魔法瓶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 真矢子
【テーマコード(参考)】
4B055
【Fターム(参考)】
4B055AA08
4B055BA12
4B055BA52
4B055CD02
4B055CD08
4B055GB01
4B055GB25
4B055GB48
4B055GD03
(57)【要約】
【課題】本発明は、加圧状態下、調理物を沸騰温度近傍の温度で維持できる電気圧力鍋の制御方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る電気圧力鍋10の制御方法は、圧力鍋本体20に収容された内釜30と、1周期を複数区間に分けた数に対する通電時間の総数をタクト数とし、前記タクト数を変えることで前記内釜を加熱する加熱手段14と、前記内釜の温度を測定する温度センサー15と、前記内釜内を調圧する調圧ユニット70であって、前記内釜内の圧力が所定値以下の場合は前記内釜内を気密に塞ぎ、前記内釜内の圧力が所定値を越えると前記内釜を大気開放する調圧ユニットと、を具えた電気圧力鍋の制御方法であって、前記調圧ユニットにより前記内釜内を気密に塞いだ状態で、前記温度センサーが沸騰温度より高い所定の温度範囲を検知すると、前記加熱手段の前記タクト数を制御して、前記内釜の加熱を調整する加圧加熱工程を有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力鍋本体に収容された内釜と、
1周期を複数区間に分けた数に対する通電時間の総数をタクト数とし、前記タクト数を変えることで前記内釜を加熱する加熱手段と、
前記内釜の温度を測定する温度センサーと、
前記内釜内を調圧する調圧ユニットであって、前記内釜内が所定の圧力以下の場合は前記内釜内を気密に塞ぎ、前記内釜内が前記所定の圧力を越えると前記内釜を大気開放する調圧ユニットと、
を具えた電気圧力鍋の制御方法であって、
前記調圧ユニットにより前記内釜内を気密に塞いだ状態で、前記温度センサーが沸騰温度より高い所定の温度範囲を検知すると、前記加熱手段の前記タクト数を制御して、前記内釜の加熱を調整する加圧加熱工程を有する、
電気圧力鍋の制御方法。
【請求項2】
前記加圧加熱工程は、所定の時間が経過すると、前記タクト数を段階的に減じる制御を行なう、
請求項1に記載の電気圧力鍋の制御方法。
【請求項3】
前記加圧加熱工程は、前記温度センサーが前記所定の温度範囲を超える温度を検知すると、前記温度が前記所定の温度範囲に戻るまで、前記加熱手段をオフとする、
請求項2に記載の電気圧力鍋の制御方法。
【請求項4】
前記加圧加熱工程の後、前記タクト数をさらに減じる、又は、前記タクト数をゼロとする減圧工程を有する、
請求項3に記載の電気圧力鍋の制御方法。
【請求項5】
前記加圧加熱工程の前に、前記加熱手段の前記タクト数が前記加圧加熱工程よりも大きい昇温工程を有する、
請求項4に記載の電気圧力鍋の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内釜内を加圧した状態で加圧加熱調理を行なうことのできる電気圧力鍋に関するものであり、より具体的には、加圧状態下、調理物を沸騰温度近傍の温度で維持できる電気圧力鍋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炊飯器の調理コースでは、ヒーターを温度センサーの検知値で制御(温調制御)しており、ヒーターによる昇温によって沸騰温度近傍であることが検知されると、その後は沸騰温度近傍でヒーターの温調制御が行なわれている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
温調制御では、スープのように水分を多く含む調理物であれば好適に調理を行なうことができる。しかしながら、水気の少ない調理物やとろみの多い調理物を加圧下で調理する電気圧力鍋では、内釜の熱が調理物に伝わり難い一方、温度センサーの検知値は上がり易くなる。このため、ヒーターが早く切れ、結果として調理物への加熱が少なくなって、上手く煮えず、生煮えとなってしまうことがある。
【0005】
また、調理が後半に差し掛かると、調理物は柔らかくなり、この状態で加熱しすぎると、煮崩れが発生する。このため、通常、調理の後半では沸騰温度よりも温度を下げた温調制御を行なうが、温度センサーのばらつきにより想定よりも加熱しすぎることがあり、煮崩れが発生してしまうことがあった。
【0006】
本発明の目的は、加圧状態下、調理物を沸騰温度近傍の温度で維持できる電気圧力鍋の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電気圧力鍋の制御方法は、
圧力鍋本体に収容された内釜と、
1周期を複数区間に分けた数に対する通電時間の総数をタクト数とし、前記タクト数を変えることで前記内釜を加熱する加熱手段と、
前記内釜の温度を測定する温度センサーと、
前記内釜内を調圧する調圧ユニットであって、前記内釜内が所定の圧力以下の場合は前記内釜内を気密に塞ぎ、前記内釜内が前記所定の圧力を越えると前記内釜を大気開放する調圧ユニットと、
を具えた電気圧力鍋の制御方法であって、
前記調圧ユニットにより前記内釜内を気密に塞いだ状態で、前記温度センサーが沸騰温度より高い所定の温度範囲を検知すると、前記加熱手段の前記タクト数を制御して、前記内釜の加熱を調整する加圧加熱工程を有する。
【0008】
前記加圧加熱工程は、所定の時間が経過すると、前記タクト数を段階的に減じる制御とすることができる。
【0009】
前記加圧加熱工程は、前記温度センサーが前記所定の温度範囲を超える温度を検知すると、前記温度が前記所定の温度範囲に戻るまで、前記加熱手段をオフとする制御とすることができる。
【0010】
前記加圧加熱工程の後、前記タクト数をさらに減じる、又は、前記タクト数をゼロとする減圧工程を有することができる。
【0011】
前記加圧加熱工程の前に、前記加熱手段の前記タクト数が前記加圧加熱工程よりも大きい昇温工程を有することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気圧力鍋の制御方法によれば、沸騰温度よりも高い所定の温度範囲で、加熱手段のタクト数を制御する加圧加熱工程を有することによって、加圧下、調理物を沸騰温度近傍の温度で維持することができる。従って、水分が少ない、或いは、とろみの多い調理物のように、温度センサーの検知値が上がりやすい調理物であっても、生煮えを防止できる。また、タクト数を制御することで、温度センサーのばらつきに関係なく、調理を行なうことができる。とくに、温度センサーが所定の温度範囲を越える温度を検知すると、加熱手段をオフにすることで、水の入れ忘れなどによる空焚きや、調理物の焦げ付きを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る電気圧力鍋の斜視図である。
【
図2】
図2は、電気圧力鍋の蓋体を開いた状態を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1の線A-Aを含む鉛直面で断面し、矢印方向に見た断面図である。
【
図4】
図4は、
図1の線B-Bを含む鉛直面で断面し、矢印方向に見た断面図であって、加圧検知機構の近傍を拡大して示す図である。
【
図5】
図5は、内蓋に配置される圧力調整ユニットの分解図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る温度センサーの温度とヒーターのオン・オフを示すタイミングチャートである。
【
図7】
図7は、水分の多い調理物であるスープを調理した際の温度センサーの温度とヒーターのオン・オフを示すタイミングチャートである。
【
図8】
図8は、水分の少ない調理物であるハンバーグを調理した際の温度センサーの温度とヒーターのオン・オフを示すタイミングチャートである。
【
図9】
図9は、水を入れ忘れて鶏肉のみを調理した際の温度センサーの温度とヒーターのオン・オフを示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の制御方法を実現する電気圧力鍋10の一実施形態について、まず、図面を参照しながら構造説明を行ない、その後に制御方法について説明を行なう。
【0015】
電気圧力鍋10は、
図1、
図2に示すように、圧力鍋本体20の上部に蓋体40を開閉可能に装着して構成される。圧力鍋本体20の内部には、
図2に示すように内釜30が収容される。
【0016】
圧力鍋10には、
図1に示すように、圧力鍋本体20の前面に調理メニューや現在時刻、炊き上がり時刻などを表示する表示部12と、圧力鍋10の各種操作を行なう操作スイッチ13を具える。なお、表示部12や操作スイッチ13は蓋体40に配置することもでき、これらの形状、大きさは図示の実施形態に限定されるものではない。たとえば、操作スイッチ13は押圧スイッチ付きのダイヤルであるが、タッチ式等であってもよい。
【0017】
蓋体40は、
図3に示すように、後端が圧力鍋本体20にヒンジ接続22されている。蓋体40の前端には、蓋体40を開閉するための開閉用レバー41が配備されている。蓋体40は、開閉用レバー41と連動する爪片41a(
図2、
図4参照)によって圧力鍋本体20に係止されており、開閉用レバー41を後方に押し込むことで、この係止が解除されて、
図2に示すように蓋体40が開き動作する。
【0018】
蓋体40の上面には、
図1に示すように、中央に電気圧力鍋10を加圧モードと非加圧モードで切り替える加圧ユニット60の加圧操作ボタン61、加圧操作ボタン61の左斜め前には内釜30内が加圧されている状態で突出する加圧検知ピン91が配置されている。
【0019】
また、蓋体40の上面には、加圧操作ボタン61の後方側に、内釜30内の蒸気を放出する蒸気孔42が開設されている。
【0020】
電気圧力鍋10の内部構成を
図3に示す。圧力鍋本体20には上面に開口部21を有する凹状の凹みが形成されており、調理物が投入される内釜30が着脱可能に収容される。内釜30の周囲には、内釜30を加熱する加熱手段としてヒーター14を内装しており、蓋体40で開口部21を塞いだ状態で内釜30を加熱することで、内釜30内に投入された調理物の加熱調理、加熱加圧調理、加圧調理、又は、保温などを行なう。ヒーター14は、通電のオンにより加熱し、通電のオフにより加熱を止めるヒーター、たとえばシーズヒーターを用いることができる。
【0021】
圧力鍋本体20には、内釜30の下方に、内釜30の底面の温度を測定する温度センサー15が配置されている。
【0022】
上記した表示部12、操作スイッチ13、ヒーター14、温度センサー15などは、圧力鍋本体20の適所、
図3では表示部12の背面側に配置された制御部11に電気的に接続される。制御部11は、圧力鍋10を所定のプログラムに沿って作動させるマイコン制御ユニットやメモリ、タイマー、カウンター等を具え、ヒーター14等を制御する。
【0023】
蓋体40について説明すると、蓋体40は、
図2に示すように、内釜30を気密に塞ぐ内蓋44を具える。内蓋44は、蓋体40に着脱可能とすることができ、外周には内釜30と気密に密着するパッキンゴム45が装着されている。
【0024】
内蓋44には、
図3、
図5に示すように、圧力調整ユニット50が配置される。圧力調整ユニット50は、内蓋44に貫通開設された中央に排気口46と調圧ユニット用孔47、安全弁ユニット用孔48の上部に配置される。圧力調整ユニット50は、排気口46を開閉する加圧弁64を含む加圧ユニット60と、調圧ユニット用孔47の上部に配置された調圧ユニット70、安全弁ユニット用孔48の上部に配置された安全弁ユニット80を含む。これらの一部は、空気通路43を構成するケーシング52,53に収容される。ケーシング52,53はシール54により気密に連結される。
【0025】
排気口46は、
図3に示すように、加圧操作ボタン61の下方に形成され、蓋体40内に形成された空気通路43を通じて、蒸気孔42と接続されている。排気口46は、内蓋44に設けられた加圧弁64により下側から閉塞可能となっている。加圧弁64は、加圧ユニット60の一部を構成し、加圧弁付勢バネ65により排気口46を塞ぐ上方向に付勢されている。また、加圧弁64は、同じく加圧ユニット60を構成するノックカム構造62の加圧操作ボタン61に当接している。ノックカム構造62には、加圧操作ボタン61を上向きに付勢する加圧操作ボタン付勢手段63を具え、加圧操作ボタン61を上位置と下位置間で上下に往復動させる。このノックカム構造62については公知の構成を採用できるため、詳細な構造説明は省略する。そして、ユーザーが加圧操作ボタン61を押し込むことで、加圧操作ボタン61は下移動し、加圧弁64を押し下げて排気口46を開き、
図3に示すように加圧操作ボタン61を再び押し込むことで、加圧操作ボタン61は上移動し、加圧弁付勢バネ65によって加圧弁64は上方向に付勢されて排気口46を塞ぐ。
【0026】
すなわち、加圧ユニット60は、ユーザーの操作によって、排気口46の開閉を制御するユニットであり、ユーザーが内釜30内を加圧した加圧モードでの調理を希望する場合には、加圧操作ボタン61を操作して加圧弁64で排気口46を塞ぐ。また、内釜30内を加圧しない非加圧モードでの調理を希望する場合には加圧操作ボタン61を操作して排気口46を開けばよい。加圧モードと非加圧モードは、加圧操作ボタン61の状態を視認することで認識できる。具体的には、
図1及び
図3に示すように、加圧操作ボタン61が蓋体40から飛び出している場合には、加圧モード、加圧操作ボタン61が蓋体40に対してフラットな場合には非加圧モードである。
【0027】
また、調圧ユニット70は、蓋体40内の空気通路43内に配置される。調圧ユニット70は、
図5に示す調圧ボール71と、調圧ボール71の直下に開設された調圧用孔(図示せず)を含む。調圧ボール71は、たとえば鋼球であり、椀状の載置面72上に配置される。また、調圧用孔は椀状の載置面72の中央に開設され、調圧ユニット用孔47内で内釜30に向けて開口している。内釜30内が所定の圧力以下(たとえば、所定の圧力は1.1気圧~1.2気圧程度とすることができる。)の場合、調圧ボール71は載置面72の中央に位置して調圧用孔を塞ぐ。そして、内釜30内が所定の圧力を超えると、調圧用孔から加わる空気圧によって調圧ボール71が載置面72上で転動し、調圧用孔を開いて、内釜30内の空気(蒸気を含む)を空気通路43に放出する。放出された空気は、蒸気孔42から大気放出される。一方、空気の放出によって内釜30内が所定の圧力以下になると、調圧ボール71が載置面72を転動し、再び調圧用孔を塞ぐ。
【0028】
安全弁ユニット80は、加圧ユニット60を加圧モードとして加熱調理を行なっている間に、内釜30内が所定の圧力を超えても調圧ユニット70の不具合により内釜30内の調圧が行なわれないときに作動する。安全弁ユニット80は、安全弁81と安全弁81の直下に開設された安全弁用孔(図示せず)を具える。安全弁81は、安全弁付勢手段82によって安全弁用孔に向けて付勢されている。そして、内釜30内が安全弁81の作動する圧力に達すると、安全弁付勢手段82の付勢力に抗して安全弁81が持ち上げられ、安全弁用孔が開放して、内釜30内の空気を放出する。
【0029】
図5中、符号51は、内蓋44の下面側に配置され、調圧用孔や安全弁用孔に、内釜30内の調理物、たとえば、細かく刻まれた野菜などが侵入して、これら孔が詰まることを防止するカバーである。
【0030】
本実施形態の圧力鍋10は、視覚的に内釜30内が加圧状態にあるかどうかを知ることができる加圧判別ユニット90を配置している。加圧判別ユニット90は、たとえば、
図4に示すように、内釜30が加圧状態にあると、蓋体40から上向きに飛び出す加圧検知ピン91(突出状態を符号91aで示す)を含む構成とすることができる。
【0031】
加圧検知ピン91は、蓋体40内で上下に往復移動可能に配置される。加圧検知ピン91は、蓋体40に対して検知ピン付勢手段92により下向きに付勢される一方、下端は下面が開口した蛇腹状の加圧検知用パッキン93と係合している。内蓋44には、蓋体40に装着したときに加圧検知用パッキン93と連通する加圧検知用孔49が開設されている。
【0032】
検知ピン付勢手段92の付勢力は、内釜30が所定の圧力(たとえば1.01~1.05気圧)となったときに、加圧検知ピン91が上方に移動可能な程度に調整されている。
【0033】
そして、内蓋44を蓋体40に装着し、蓋体40を閉じた状態で、内釜30内が加圧されると、加圧検知用パッキン93内の圧力も高まる。その結果、検知ピン付勢手段92の付勢力に抗して加圧検知用パッキン93は蛇腹部分が上向きに膨らみ、加圧検知ピン91は上向き押し上げられて、蓋体40から突出する(
図4に点線91aで示す)。すなわち、ユーザーは、蓋体40から加圧検知ピン91が突出している場合には、内釜30内が高圧であることを目視により確認できる。
【0034】
なお、加圧検知ピン91が突出した状態で蓋体40を開くと、蓋体40が圧縮された空気によって勢いよく開いてしまう虞れがあり、蒸気等の吹き出しや、内蓋44に付着した水滴が飛散してしまうことがある。このため、蓋体40の開閉は、加圧検知ピン91が下がってから行なうことが望ましい。
【0035】
<電気圧力鍋10の使用方法>
上記構成の圧力鍋10は、内釜30には、ユーザーが所望する調理物を投入し、
図2に示すように、圧力鍋本体20に内釜30を収容する。また、蓋体40の内側に内蓋44を装着し、
図1に示すように、蓋体40を閉じる。
【0036】
<加圧ユニット60の加圧モード・非加圧モードの切替操作>
加圧ユニット60は、蓋体40が閉じた状態で、加圧操作ボタン61を操作することで、
図3に示すように加圧弁64が排気口46を塞ぐ加圧モードと、加圧弁64が排気口46を開放する非加圧モードを切り替えることができる。加圧モードで調理を所望する場合には、加圧操作ボタン61を操作して加圧弁64で排気口46を塞ぐ。加圧モードでは、加圧操作ボタン61は
図1に示すように蓋体40から飛び出す。また、内釜30内を加圧しない非加圧モードでの調理を希望する場合には加圧操作ボタン61を操作して排気口46を開く。この場合は、加圧操作ボタン61が蓋体40に対して飛び出さないフラットな位置にある。
【0037】
<電気圧力鍋10の制御方法>
電気圧力鍋10は、上記した加圧モードか非加圧モードをユーザーが加圧操作ボタン61の操作により決定し、当該モードに応じた調理メニューを選択し、予め制御部11に記憶された調理プログラムに従ってヒーター14への通電をオン・オフ制御することで調理が行なわれる。
【0038】
ユーザーの加圧操作ボタン61の操作により、内蓋44の排気口46が加圧弁64で閉じられることで、内釜30内は気密に保持される。内釜30が加圧モードである場合には、たとえば、制御部11は、表示部12に「圧力中」などの表示を行ない、加圧モードであることをユーザーに知らせることができる。また、制御部11は、加圧モードでは、加圧可能な調理メニューを表示部12に表示できる。たとえば、加圧可能な調理メニューは、非加圧モードの場合よりもヒーター14の火力を抑えて吹きこぼれを抑えた調理メニューを挙げることができる。以下、この調理メニューを「加圧加熱調理メニュー」と称する。
【0039】
なお、ユーザーが非加圧モードの調理メニューを選択したにも拘わらず、加圧モードである場合には加圧操作ボタン61を操作して、非加圧モードとするよう警告や注意を表示部12に表示し、または、調理を開始しないなどの制御を行なうことができる。
【0040】
本発明の加熱加圧調理の一実施形態として、上記した「加圧加熱調理メニュー」における制御方法について説明を行なう。
図6は、加圧加熱調理メニュー実行時のヒーター14のオン・オフ状態と、温度センサー15の測定値との関係を示すタイミングチャートである。加圧加熱調理メニューでは、たとえば豚の角煮を調理できる。以下では、説明をわかりやすくするために、具体的な数値を適宜示して説明を行なうが、これら数値は一例であり、本発明を限定するものではない。
【0041】
加圧加熱調理メニューは、昇温工程、加熱加圧工程及び減圧工程を有する。加圧加熱調理メニューの設定調理時間はユーザー設定により最大2時間(7200秒)とすることができ、設定された調理時間経過時に調理が完了するようにしている。たとえば、ユーザー設定により調理時間を90分と設定した場合には、90分後に調理が完了する。
【0042】
各工程には、予め工程時間(後述する昇温工程1のみ最大工程時間としている)が設定されており、制御部11のタイマーにより工程時間がカウントされる。また、各工程(昇温工程1を除く)では、許容される温度の上限(以下「温調温度」という)が設定されており、ヒーター14で加熱中に、温度センサー15の検知値が温調温度を超えると、再び温調温度以下になるまでヒーター14をオフにするよう温調制御する。温調温度を設定することで、ヒーター14の過加熱による空焚きや調理物の焦げ付きを抑えることができる。温調温度は、以下の説明における各工程の所定の温度範囲の上限となる。
【0043】
加熱加圧調理では、制御部11は、ヒーター14(たとえばシーズヒーター)の通電に関し、1周期を複数区間に分けた数に対する通電時間の総数をタクト数とし、このタクト数を増減することで、加熱量を調整するようにしている。具体的実施形態として、1周期を16秒とし、1周期を16分割した1秒を1タクトする。すなわち、ヒーター14へのフル通電は16タクト(16/16秒)、非通電は0タクト(0/16秒)である。
【0044】
以下、各工程について詳述する。
【0045】
<昇温工程>
昇温工程は、
図6に示すように、内釜30を加熱し、内釜30内を所定の温度まで加熱する工程である。所定の温度とは、調理物の沸騰温度よりも高い温度であり、たとえば100℃~120℃である。温度センサー15は、内釜30の底面の温度を検知するため、調理物の温度よりも約0℃~20℃高い検知値となる。このため、調理物の沸騰温度よりも高い温度まで昇温させることで、調理物を沸騰温度近傍まで昇温させることができる。本昇温工程は、昇温工程1(昇温1)と昇温工程2(昇温2)に分けることができる。
【0046】
昇温1ではヒーター14にフル通電(16タクト)、或いは、フル通電に近い高タクトで通電を行なう。昇温1は、温度センサー15の検知値が予め得設定された温調温度(たとえば沸騰温度に近い99℃、図中点線C)に達するまで継続され、温調温度Cに達すると、昇温2に移行する温度移行で制御する。なお、昇温1は、最大工程時間が設定され、
図6では、昇温1は、たとえば780秒である。すなわち、最大780秒の間に、ヒーター14にフル通電を行なって、その間に温調温度Cに達すると、昇温2に移行する。この昇温1により、内釜30は一気に加熱され、沸騰温度近傍まで昇温される。本実施形態では、昇温1が780秒よりも短い時間で終了した場合、その残時間は後述する加圧工程5に加算して調整すればよい。
【0047】
続く昇温2は、工程時間と所定の温度範囲による温調制御を行なう。工程時間はたとえば300秒、温調温度C(所定の温度範囲の上限)は117℃である。昇温2では、ヒーター14への通電タクト数を、昇温1よりも低いタクト数、たとえば10タクト(10/16秒)とし、加熱量を少し弱める。これにより、すでに沸騰温度近くまで昇温している内釜30はさらに昇温する。
図6を参照すると、昇温2中に温度センサー15の検知値は、沸騰温度を超えていることがわかる。なお、昇温2は温調温度Cに達しても工程移行は行わず、所定の工程時間が経過するまで昇温2に滞在する。昇温2中に温度センサー15の検知値が温調温度Cを超えた場合には、ヒーター14への通電を止める。そして、内釜30の温度が所定の温度範囲に戻ると、ヒーター14への通電を再開する。これにより、空焚きや調理物の焦げ付きを防止できる。また、昇温2中に調理物中の液体が沸騰することで、内釜30内に蒸気が発生し、内釜30内が加圧される。内釜30内が加圧されると、加圧検知ピン91が蓋体40より突出する(
図4の符号91a)。内釜30の空気圧が、調圧ユニット70の所定の圧力(たとえば1.1気圧~1.2気圧)よりも小さければ、加圧が継続される。一方、内釜30内の空気圧が、調圧ユニット70の所定の圧力以上になると、調圧ボール71が転動して調圧用孔を開放し、蒸気は空気通路43を通り、蒸気孔42から大気放出される。従って、昇温工程中に内釜30内の空気圧が所定の圧力を越えない範囲で維持される。昇温2は、工程時間が経過することで終了する。
【0048】
<加圧工程>
昇温2が終了すると、加圧工程に移行する。加圧加熱工程では、ヒーター14への通電時間、すなわちタクト数を調整することで、内釜30を加圧状態で加熱する。加圧状態での加熱により、調理物の沸騰温度を上げることができ、短時間調理を実現できる。たとえば、水の場合、大気圧での沸騰温度が100℃であるのに対し、1.15気圧では沸騰温度は104℃になる。
【0049】
加圧工程は、温調制御を行いつつ、所定の工程時間の間、昇温工程よりも小さいタクト数でヒーター14を制御する。本実施形態では、加圧工程は、
図6に示す加圧工程1(加圧1)~加圧工程5(加圧5)としており、加圧1から加圧4に向けて順次タクト数を小さくしている(加圧4と加圧5は同じ)。具体的には、加圧1はタクト数が6(6/16秒)、加圧2はタクト数が5(5/16秒)、加圧3はタクト数が4(4/16秒)、加圧4、加圧5はタクト数が2(2/16秒)である。
【0050】
また、加圧工程の温調温度Cは、加圧1が117℃、加圧2~加圧4が113℃、加圧5が100℃である。
【0051】
加圧工程の各工程の設定時間は、
図6に示すように、加圧1~加圧3が600秒、加圧4が3600秒である。加圧5は、300秒に昇温1の残時間を加算した時間となる。
【0052】
なお、加圧工程中、温度センサー15の検知値が温調温度Cを超えた場合には、ヒーター14への通電を止める。そして、内釜30の温度が所定の温度範囲に戻ると、ヒーター14への通電を再開する。これにより、空焚きや調理物の焦げ付きを防止できる。また、加圧工程中に内釜30内の空気圧が、調圧ユニット70の所定の圧力(たとえば1.1気圧~1.2気圧)以上になると、調圧ユニット70が蒸気を大気放出し、内釜30内の空気圧が所定の圧力を越えない範囲で維持する。
【0053】
これにより、加圧加熱工程では、調理物を沸騰温度近傍の温度を維持しつつ、所定の圧力を超えない圧力が維持される。なお、調理物の沸騰温度近傍の温度とは、調理物の沸騰温度以下の温度で沸騰温度に近い温度を意味し、好ましくは沸騰温度より約0℃~10℃低い温度範囲、望ましくは沸騰温度より約0℃~5℃低い温度範囲である。調理物の沸騰温度自体は、調理物によって異なり、また、同じ調理物でも内釜30内の気圧によって異なる。
【0054】
本発明では、このように、加圧下、沸騰温度近傍の温度で調理物を維持することにより、水分が少なく、とろみの多い料理など、温度センサー15の検知値が上がりやすい調理物であっても、生煮えにならず、調理できる。また、加圧1~加圧5(加圧4と加圧5は同じ)の順で、タクト数を大きくして、単位時間当たりの加熱量を大きくしている。また、温調温度Cも同じか高く設定している。その結果、加圧工程の前半で十分な加熱加圧調理を行ない、後半で緩やかな加熱加圧調理を行なうことができる。これにより、前半で素早く加圧状態として、調理物の生煮えを抑えると共に、後半向けてタクト数を下げて、だんだん柔らかくなっていく調理物が煮崩れすることを防ぐことができる。
【0055】
加圧加熱工程では、昇温工程に比べて小さいタクト数によりヒーター14を制御しているから、内釜30が過加熱されることを防止できる。従って、温度センサー15の精度にばらつきがあっても、調理物を安定して仕上げることができる。
【0056】
加圧加熱工程では、加圧検知ピン91は蓋体40から突出(
図4の符号91a)しているため、内釜30が加圧状態にあることをユーザーは目視により確認できる。
【0057】
<減圧工程>
加圧工程が終了すると、減圧工程に移行する。減圧工程は、ヒーター14への通電時間(タクト数)を加圧工程よりもさらに減じ、或いは、ゼロとし、内釜30を温度低下させて、減圧を行なう。減圧を行なうことで、調理物への味の染み込みを促進し、調理終了後の調理物の味を向上させることができる。
【0058】
本実施形態では、減圧工程は、タクト数が1(1/16秒)の減圧工程1(減圧1)と、タクト数が0(0/16秒)の減圧工程2(減圧2)としている。減圧1の設定時間は、たとえば120秒、減圧2の設定時間は300秒である。
【0059】
減圧1において、タクト数を加圧工程よりも減ずることで、加熱量が抑えられ、
図6のグラフに示すように、温度が緩やかに低下していく。なお、ヒーター14を作動させていることから、温調制御(温調温度C:100℃)を念のため実施しておく。温度が低下することで、内釜30内の空気圧も低下する。そして、減圧2により加熱を停止することで、温度がさらに低下し、また、これに伴い内釜30内の空気圧が低下する。加圧検知ピン91は、減圧2の途中で蓋体40内に埋没し、減圧が完了したことをユーザーは目視により確認できる。
【0060】
上記のように減圧が行なわれることで、内釜30内が減圧されて調理が終了し、ユーザーは蓋体40を開いてすぐに調理物を取り出すことができる。減圧が完了しているから、蓋体40を開いたときに、蒸気が勢いよく吹き出たり、調理物が空気圧により飛散したりすること等を防止できる。一般的な電気調理鍋では、調理完了後、減圧が完了するまで長時間待つ必要があるため、本発明は、ユーザーの利便性を可及的に向上できる。
【0061】
なお、減圧工程終了後は、必要に応じて、温度センサー15の検知値に基づき、ヒーター14をオン・オフする保温制御に移行する設定としてもよい。
【0062】
以上が、加圧加熱調理メニューとなる。
【0063】
なお、ユーザーの設定する加圧加熱調理メニューの設定調理時間が、2時間よりも短い場合には、たとえば、加圧工程中、加圧5の時間を短くすることで調整できる。減圧工程は、削減できないためである。加圧5をゼロとしても設定調理時間が調整できない場合には、加圧4、加圧3を順次短くすることで調整すればよい。
【0064】
図7は、調理物として水分の多いスープを調理する加圧加熱調理メニューのタイミングチャートである。設定調理時間を60分としている。昇温工程については、昇温1の設定時間(昇温1の温調温度Cに達するまでの時間)が約420秒(約7分)と
図6に比べて約360秒短縮される一方、減圧工程は、設定調理時間が短くなった結果、加圧工程は加圧5がゼロ、加圧4が約1200秒となった。各工程のヒーター14のタクト数は、
図6の表と同じである。スープは水分が多いから、加熱加圧工程でタクト数を変えても大きな温度変化は見られず、沸騰温度(約100℃)の前後で加熱が行なわれている推移していることがわかる。
【0065】
図8は、調理物として水分の少ないハンバーグを調理する加圧加熱調理メニューのタイミングチャートである。設定調理時間を40分としている。昇温工程については、昇温1の設定時間(昇温1の温調温度Cに達するまでの時間)が約240秒(約4分)と
図6、
図7に比べて調理物に水分が少ない分、大幅に短縮された。また、設定調理時間が短くなった結果、加圧工程は加圧4と加圧5がゼロ、加圧3が約240秒となった。各工程のヒーター14のタクト数は、
図6の表と同じである。ハンバーグは水分が少ないため温調制御では一気に加熱されて生煮えや焦げ付きが生じることがあるが、タクト数により加熱加圧工程を制御したことで、所定の温度範囲に調理物を維持でき、生煮えや焦げ付きを抑えて調理を行なうことができた。
【0066】
図9は、調理物として鶏肉の煮込みを行なうつもりが、水分を投入し忘れた場合の加圧加熱調理メニューのタイミングチャートである。設定調理時間を40分としている。昇温工程については、昇温1の設定時間(昇温1の温調温度Cに達するまでの時間)が約240秒(約4分)と
図6、
図7に比べて調理物に水分が少ない分、大幅に短縮された。また、設定調理時間が短くなった結果、加圧工程は加圧4と加圧5がゼロ、加圧3が約240秒となった。各工程のヒーター14のタクト数は、
図6の表と同じである。
図9を参照すると、水分を投入し忘れた結果、昇温2、加圧1~加圧3、減圧1の各工程で温調温度Cを越え、ヒーター14がオフになっている。これにより、たとえ、水分を投入し忘れた場合であっても、調理物の焦げ付きを抑えられたことがわかる。
【0067】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0068】
電気圧力鍋10の具体的構成については、上記実施形態に限るものではない。たとえば、調圧ユニット70を有する構成であれば、ユーザー操作により加圧モードと非加圧モードを切り替える加圧ユニット60がなくても構わない。
【符号の説明】
【0069】
10 電気圧力鍋
11 制御部
14 加熱手段(ヒーター)
15 温度センサー
20 圧力鍋本体
30 内釜
40 蓋体
50 圧力調整ユニット
60 加圧ユニット
70 調圧ユニット
80 安全弁ユニット
90 加圧判別ユニット