(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165575
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/097 20060101AFI20241121BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20241121BHJP
G03G 9/09 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G03G9/097 372
G03G9/097 374
G03G9/097 365
G03G9/087 325
G03G9/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081867
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】和田 統
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500AA06
2H500AA08
2H500AA09
2H500AA10
2H500CA03
2H500CA05
2H500CA29
2H500CA30
2H500CA33
2H500CB06
2H500CB09
2H500CB11
2H500EA11C
2H500EA13C
2H500EA42C
2H500EA44C
2H500EA52C
2H500EA60D
2H500EA62D
(57)【要約】
【課題】昇華転写法による染色に用いた場合に、摩擦に対する染色堅牢度に優れた被染色物を得られるトナーを提供する。
【解決手段】トナー粒子の表面に外添剤が付着したトナーであって、トナー粒子は結着樹脂と昇華性染料と第1のワックスとを含む。外添剤は、第2のワックスの微粒子表面を無機微粒子で被覆した離型剤を含む。第2のワックスの融点は120℃以上150℃以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー粒子の表面に外添剤が付着したトナーであって、
前記トナー粒子は、結着樹脂と昇華性染料と第1のワックスとを含み、
前記外添剤は、第2のワックスの微粒子表面を無機微粒子で被覆した離型剤を含み、
前記第2のワックスの融点は、120℃以上150℃以下であることを特徴とするトナー。
【請求項2】
請求項1に記載のトナーであって、
前記結着樹脂は、スチレンアクリル樹脂であることを特徴とするトナー。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のトナーであって、
前記第1のワックスの融点は、70℃以上110℃以下であることを特徴とするトナー。
【請求項4】
請求項3に記載のトナーであって、
前記第1のワックスは、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びフィッシャートロプシュワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするトナー。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のトナーであって、
前記第2のワックスは、ポリプロピレンワックスであることを特徴とするトナー。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のトナーであって、
前記第2のワックスの微粒子のメジアン径は、0.4μm以上1.0μm以下であることを特徴とするトナー。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のトナーであって、
前記無機微粒子は、カオリン、タルク及びステアリン酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするトナー。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載のトナーであって、
前記無機微粒子による前記第2のワックスの微粒子表面の被覆率は、60%以上90%以下であることを特徴とするトナー。
【請求項9】
請求項1又は請求項2に記載のトナーであって、
前記第2のワックスの含有量は、前記トナー粒子100質量部に対して0.7質量部以上1.4質量部以下であることを特徴とするトナー。
【請求項10】
請求項1又は請求項2に記載のトナーであって、
前記昇華性染料の含有量をX、前記第1及び第2のワックスの含有量の合計をYとすると、質量比X/Yが0.5以上2.5以下であることを特徴とするトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、昇華転写法を用いた染色方法(以下、昇華転写染色方法ともいう)に好適なトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット方式を用いた昇華転写染色方法が広く普及している。この方法は、インクジェットプリンタによって昇華性染料を含有するインクを中間記録媒体上に画像形成し、その中間記録媒体と布帛等の被染色物とを重ね合わせて加熱し、染料の昇華性を利用して染色する方法である。
【0003】
この方法によれば、従来の捺染方法の最大の問題である製版工程を省略できるため、多品種を少量ずつ生産するのが可能となったこと(多品種少量生産化)に加えて、納期の短縮も可能となった(短納期化)。さらに、この方法によれば、パソコン上で作成した電子ファイルデータを使用できるので、デザインの作成や変更を容易に行うことができる。
【0004】
しかし、インクジェット方式を用いた昇華転写染色方法が抱える問題として、インクジェットプリンタは中間記録媒体への印刷に時間がかかることや、印刷した中間記録媒体は水分を含んでいるため乾燥工程が必要になることが挙げられる。したがって、従来の捺染方法に比べると生産効率は大幅に向上したが、更なる工程の簡素化や生産の効率化には課題がある。
【0005】
これに対して、電子写真方式を用いる昇華転写染色方法は、中間記録媒体への画像形成が迅速で行われ、中間記録媒体の乾燥を行う必要もないため、各種工程を簡素化することができる方法として注目されている。
【0006】
しかしながら、昇華性染料を含有した乾式トナーで中間記録媒体に画像形成を行い、樹脂板や布帛等の被染色物と重ね合わせて昇華転写を行う場合、昇華転写工程での熱プレス処理では約200℃の高温に加熱する(
図3~
図4参照)ので、トナーの結着樹脂(バインダー樹脂)が再溶融して布帛に貼り付き、溶融したトナーの一部が被染色物表面に残ってしまうことがある。また、昇華転写工程後に被染色物から中間記録媒体を剥離させるときに、昇華性染料が残留したトナーの破片が被染色物(布帛の繊維等)に付着してしまうことがある(
図6参照)。その結果、染色により形成した画像の摩擦に対する堅牢度が悪化するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、トナーの離型性を確保するために、トナー粒子中には離型剤が添加されている(
図2参照)。トナー粒子中に添加する離型剤を増量すると、中間記録媒体に付着させたトナーの樹脂までもが被染色物側へと移行する現象(樹脂移行、
図6参照)は抑制でき、被染色物の摩擦に対する堅牢度は良化する一方、昇華性染料のブリードアウトが悪化するという問題がある。そのため、昇華性染料のブリードアウトの抑制(トナーの耐熱保存性の確保)と、布帛等の被染色物への樹脂移行の抑制(被染色物の摩擦に対する堅牢度の確保)との両立は困難であるという問題があった。
【0009】
本開示のトナーは斯かる事情に鑑みて見出されたものであり、昇華転写法による染色において、中間記録媒体に形成されたトナー層と被染色物とが強固に貼り付くことがなく、、摩擦に対する染色堅牢度に優れた被染色物を得られるトナーの提供を主たる目的とする。また、そのうえで、染色濃度が十分で、透明度が高く、品質が良好な画像を被染色物に対して形成できるトナーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本開示のトナーは、トナー粒子の表面に外添剤が付着したトナーであって、前記トナー粒子は結着樹脂と昇華性染料と第1のワックスとを含み、前記外添剤は第2のワックスの微粒子表面を無機微粒子で被覆した離型剤を含み、前記第2のワックスの融点は120℃以上150℃以下であることを特徴とする。
【0011】
上記のトナーにあっては、前記結着樹脂はスチレンアクリル樹脂であることが好ましい。
【0012】
上記のトナーにあっては、前記第1のワックスの融点は70℃以上110℃以下であることが好ましい。
【0013】
上記のトナーにあっては、前記第1のワックスは、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びフィッシャートロプシュワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
上記のトナーにあっては、前記第2のワックスはポリプロピレンワックスであることが好ましい。
【0015】
上記のトナーにあっては、前記第2のワックスの微粒子のメジアン径は、0.4μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
【0016】
上記のトナーにあっては、前記無機微粒子は、カオリン、タルク及びステアリン酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
上記のトナーにあっては、前記無機微粒子による前記第2のワックスの微粒子表面の被覆率は、60%以上90%以下であることが好ましい。
【0018】
上記のトナーにあっては、前記第2のワックスの含有量は、前記トナー粒子100質量部に対して0.7質量部以上1.4質量部以下であることが好ましい。
【0019】
上記のトナーにあっては、前記昇華性染料の含有量をX、前記第1及び第2のワックスの含有量の合計をYとすると、質量比X/Yが0.5以上2.5以下であることが好ましい。
【0020】
なお、本明細書において、「外添」とはトナー粒子表面に添加(付着)されていることを意味し、「内添」とはトナー粒子内部に添加されていることを意味する。
【0021】
なお、特許文献1には、トナー粒子に離型性を付与するために外添される体積平均粒径0.4~1.6μmのワックスと、このワックスの表面に付着した体積平均粒径0.032~0.128μmの非磁性粒子とを有するトナーが開示されているが、このトナーは昇華性染料を含むものではない。そのため、昇華性染料を含むものである本開示のトナーが備える構成に関して、特許文献1には何ら開示されていない。
【発明の効果】
【0022】
本開示のトナーによれば、摩擦に対する染色堅牢度に優れた被染色物を得られる等、優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態に係るトナーを模式的に例示した断面図である。
【
図2】従来のトナーを模式的に例示した断面図である。
【
図3】中間記録媒体としての普通紙に対して、トナー層を定着させた状態を模式的に例示する断面図である。
【
図4】昇華転写工程の様子を模式的に例示する断面図である。
【
図5】昇華転写工程を経て、布帛に対して樹脂移行が起こった様子を例示した断面図である。
【
図6】本実施形態に係るトナーを用いた場合には、昇華転写工程を経ても布帛に対する樹脂移行が抑制させている様子を例示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示のトナーについて詳述する。
【0025】
1.トナー粒子(トナーコア)、結着樹脂
本実施形態に係るトナー粒子は、
図1に例示するように、結着樹脂と、昇華性染料、離型剤等の内添剤とを含む構成であり、内添剤は結着樹脂中に分散している。トナー粒子の表面には外添剤が付着している。さらに必要に応じて、本開示に係る効果を損なわない範囲において、任意成分を含有していてもよい。トナー粒子の平均一次粒子径は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、4μm以上8μm以下が挙げられる。
【0026】
<結着樹脂>
トナー粒子の結着樹脂としては、ポリエステル樹脂、スチレンアクリル樹脂等が挙げられる。ポリエステル樹脂は低温定着性に優れている。スチレンアクリル樹脂は昇華転写効率がよく、布帛等の被染色物に対して高濃度の画像を形成することができる。本実施形態に係るトナー粒子は、結着樹脂としてスチレンアクリル樹脂を含むことが好ましい。本開示のトナーによれば、結着樹脂としてスチレンアクリル樹脂を用いることで高濃度の画像を形成できるトナー構成とした場合にあっても、摩擦に対する染色堅牢度に優れた被染色物を得ることができる。
【0027】
結着樹脂に用いられるポリエステル樹脂は、通常、2価のアルコール成分及び3価以上の多価アルコール成分から選ばれる1種以上と、2価のカルボン酸及び3価以上の多価カルボン酸から選ばれる1種以上とを、公知の方法により、エステル化反応又はエステル交換反応を介して重縮合反応させることにより得られる。
【0028】
縮重合反応における条件は、モノマー成分の反応性により適宜設定すればよく、また重合体が好適な物性になった時点で反応を終了させればよい。例えば、反応温度は170~250℃程度、反応圧力は5mmHg~常圧程度である。
【0029】
2価のアルコール成分としては、例えば、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.0)-ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のジオール類;ビスフェノールA;ビスフェノールAのプロピレン付加物;ビスフェノールAのエチレン付加物;水素添加ビスフェノールA等が挙げられる。
【0030】
3価以上の多価アルコール成分としては、例えば、ソルビトール、1,2,3,6-ヘキサンテトロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、スクロース(蔗糖)、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられる。
【0031】
本実施形態に係るトナーにおいては、上記の2価のアルコール成分及び3価以上の多価アルコール成分のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
2価のカルボン酸として、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、n-ドデセニルコハク酸、n-ドデシルコハク酸、n-オクチルコハク酸、イソオクテニルコハク酸、イソオクチルコハク酸、及びこれらの酸無水物、低級アルキルエステル等が挙げられる。
【0033】
3価以上の多価カルボン酸としては、例えば、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,2,5-ベンゼントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,3-ジカルボキシル-2-メチル-2-メチレンカルボキシプロパン、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、エンポール三量体酸、及びこれらの酸無水物、低級アルキルエステル等が挙げられる。
【0034】
本実施形態に係るトナーにおいては、上記の2価のカルボン酸及び3価以上の多価カルボン酸のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
スチレンアクリル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、スチレン系単量体と、単官能(メタ)アクリル系単量体とを重合して得られる樹脂が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の両方を包含する概念である。
【0036】
前記のスチレン系単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、4,α-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ペンチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-ヘプチルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デカニルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、p-フェニルスチレン、3,4-ジシクロシルスチレン等が挙げられる。本実施形態に係るトナーにあっては、これらのなかでもスチレンが好適である。
【0037】
本実施形態に係るトナーにおいては、上記のスチレン系単量体のうち、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
前記の単官能(メタ)アクリル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-オクタデシル、α-クロロアクリル酸メチル、α-クロロアクリル酸エチル等のアクリル系単量体;
メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸n-シクロヘキシル、メタクリル酸n-ドデシル、メタクリル酸n-トリデシル、メタクリル酸n-オクタデシル等のメタクリル系単量体;
等が挙げられる。本実施形態に係るトナーにあっては、これらのなかでも、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert-ブチルが好適であり、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ブチルが特に好適である。
【0039】
本実施形態に係るトナーにおいては、上記の単官能(メタ)アクリル系単量体のうち、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
本実施形態に係るトナーの結着樹脂としては、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上110℃以下のスチレンアクリル樹脂を使用することができる。スチレンアクリル樹脂のガラス転移温度は52℃以上68℃以下であるのが好ましく、55℃以上65℃以下であるのがより好ましい。
【0041】
本実施形態に係るトナー粒子中の結着樹脂の含有量は、目的に応じて適宜選択することができるが、通常60質量%以上99%質量%以下であり、65質量%以上95質量%以下であることが好ましい。結着樹脂の含有量が上記下限未満の場合、トナー中の染料の分散不良が起こり、トナーの電気特性の低下を招くおそれがある。結着樹脂の含有量が上記上限を超える場合、染色濃度の低下が発生するおそれがある。
【0042】
<昇華性染料>
本実施形態に係るトナー粒子は、昇華性染料を含む。昇華性染料としては、特に限定されないが、昇華転写適性のある染料が好ましい。
【0043】
「昇華転写適性のある染料」とは、「乾熱処理に対する染色堅ろう度試験方法〔JIS L 0879:2005〕(平成17年1月20日改定、財団法人日本規格協会発行)」における、感熱処理試験(C法)汚染(ポリエステル)の試験結果が、通常3~4級以下、好ましくは3級以下の染料を意味する。そのような染料のうち、公知の染料としては、例えば、以下の染料が挙げられる。
【0044】
イエロー染料としては、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、39、51、54、60、71、86;C.I.ソルベントイエロー114、163等が挙げられる。
【0045】
オレンジ染料としては、C.I.ディスパースオレンジ1、1:1、5、20、25、25:1、33、56、76等が挙げられる。
【0046】
ブラウン染料としては、C.I.ディスパースブラウン2等が挙げられる。
【0047】
レッド染料としては、C.I.ディスパースレッド11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240;C.I.バットレッド41等が挙げられる。
【0048】
バイオレット染料としては、C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、57等が挙げられる。
【0049】
ブルー染料としては、C.I.ディスパースブルー19、26、26:1、35、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359、360;C.I.ソルベントブルー3、63、83、105、111等が挙げられる。
【0050】
本実施形態に係るトナーにおいては、上記の染料のうち、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の染料を組み合わせることで、元の染料とは全く異なる色相を得ることも可能である。例えば、ブルー染料を主体として、イエロー染料及びレッド染料を適宜配合することにより、ブラック染料とすることができる。また、2種以上の染料を組み合わせることで、ブルー、イエロー、オレンジ、レッド、バイオレット又はブラック等の色調をより好みの色調に微調整することや、中間色を得ることが可能である。
【0051】
本実施形態に係るトナー粒子中の昇華性染料の含有量は、目的に応じて適宜選択することができるが、通常1質量%以上40質量%以下であり、2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。トナー粒子中の昇華性染料の含有量が上記下限未満の場合、染色濃度の低下が発生するおそれがある。トナー粒子中の昇華性染料の含有量が上記上限を超える場合、トナー中での染料の分散不良が起こり、トナーの電気特性の低下を招くおそれがある。
【0052】
<帯電制御剤>
本実施形態に係るトナー粒子は、帯電制御剤を含有していてもよい。帯電制御剤としては、当該技術分野で常用される正電荷制御用及び負電荷制御用の電荷制御剤を用いることができる。
【0053】
正電荷制御用の電荷制御剤としては、例えば、ニグロシン染料、塩基性染料、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩、アミノピリン、ピリミジン化合物、多核ポリアミノ化合物、アミノシラン、ニグロシン染料及びその誘導体、トリフェニルメタン誘導体、グアニジン塩、アミジン塩等が挙げられる。
【0054】
負電荷制御用の電荷制御剤としては、例えば、オイルブラック、スピロンブラック等の油溶性染料、含金属アゾ化合物、アゾ錯体染料、ナフテン酸金属塩、サリチル酸及びその誘導体の金属錯体や金属塩(金属はクロム、亜鉛、ジルコニウム等)、ホウ素化合物、脂肪酸石鹸、長鎖アルキルカルボン酸塩、樹脂酸石鹸等が挙げられる。
【0055】
本実施形態に係るトナーにおいては、上記の電荷制御剤のうち、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
本実施形態に係るトナーにおける帯電制御剤の含有量は、特に限定されないが、結着樹脂100質量部に対して0.5質量部以上3.0質量部以下であることが好ましく、1質量部以上2質量部以下であることがより好ましい。帯電制御剤の含有量が上記範囲内であることで、トナーの各種物性を損なうことなしに、高い画像濃度及び良好な画質を有する画像を形成できる。換算すれば、トナー粒子中の帯電制御剤の含有量は、0.5質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0057】
<トナー粒子中の離型剤(第1のワックス)>
本実施形態に係るトナー粒子は、離型剤として、トナー粒子中に第1のワックスを含む。換言すると、第1のワックスは内添のワックスである。第1のワックスとしては、電子写真分野で用いられるワックスを使用でき、例えば、パラフィンワックス及びその誘導体等の石油系ワックス;フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス及びその誘導体等の炭化水素系ワックス;カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス等が挙げられる。これらのワックスは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
これらのワックスのなかでも、第1のワックスは、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びフィッシャートロプシュワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。例えば、この3種のワックスとエステルワックスとを比較すると、この3種のワックスの方がエステルワックスよりも昇華転写効率がよいため好ましい。これは、エステルワックスでは、エステル基に起因して昇華転写効率が若干悪化するためであると考えられる。また、この3種のワックスとポリプロピレンワックスとを比較すると、ポリプロピレンワックスをトナー粒子に内添する場合には、トナーの定着温度を上げる必要が生じ、普通紙等の中間記録媒体に対するトナー定着時に昇華性染料も一部昇華してしまい、機内汚染が発生するおそれがある。また、昇華転写工程に至るまでに昇華性染料が減少していることから布帛等の被染色物に対する染色濃度の不足が発生するおそれがある。そのため、ポリプロピレンワックスよりも上記3種のワックスの方が好ましい。
【0059】
第1のワックスの融点は、70℃以上110℃以下であることが好ましく、75℃以上105℃以下であることがより好ましい。当該融点が上記下限未満の場合、ストレスに対するトナーの耐性が低くなり、感光体フィルミングが発生しやすくなるおそれがある。当該融点が上記上限を超える場合、低温オフセットが発生しやすくなるおそれがある。
【0060】
トナー粒子中の第1のワックスの含有量は特に限定されないが、0.5質量%以上10質量%以下であるのが好ましい。当該含有量が上記下限未満の場合、トナーの離型性が不足してオフセットが発生しやすくなるおそれがある。当該含有量が上記上限を超える場合、トナーの耐熱保存性が不足するおそれがある。
【0061】
2.外添剤
<ワックス外添剤>
本実施形態に係るトナーは、トナー粒子の表面に外添剤が付着しており、この外添剤は、第2のワックスの微粒子表面を無機微粒子で被覆した離型剤を含む。したがって、第2のワックスは外添のワックスである。なお、本明細書において、「第2のワックスの微粒子表面を無機微粒子で被覆した離型剤」のことを「ワックス外添剤」とも呼ぶ。
【0062】
本実施形態に係るトナーにあっては、第2のワックスの融点は120℃以上150℃以下であり、より好ましくは130℃以上140℃以下である。
図4に示すように、昇華転写工程においては200℃~210℃程度に加熱(熱プレス)が行われることから、昇華転写時の離型性を確保するために上記範囲内の融点を有するワックスを用いることが好ましい。また、第2のワックスの融点は、昇華転写工程における熱プレス温度から50℃~80℃低いことが好ましい。上記範囲の融点を有するワックスを使用することで、昇華転写時の樹脂移行(
図6に示す現象)を抑制することができ、
図5に示すように樹脂移行が抑制された被染色物が得られ、換言すると、摩擦に対する染色堅牢度に優れた被染色物を得られる。
【0063】
上記範囲内の融点を有するワックスとしては、ポリプロピレンワックス、アミドワックス等が代表的であるが、本実施形態に係るトナーにあっては、第2のワックスとしてポリプロピレンワックスを使用することが好ましい。アミドワックスのアミド基はポジ(+)帯電性を有するため、帯電不良からカブリが発生するおそれがある。
【0064】
ワックス外添剤において、第2のワックスの微粒子は、メジアン径が0.4μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.6μm以上0.8μm以下であることがより好ましい。当該メジアン径が上記下限未満の場合、被染色物の摩擦に対する堅牢度の向上効果が得られないおそれがある。その理由は、第2のワックスの微粒子の分散径が小さいと溶融粘度が低いため、昇華転写時にトナーの樹脂移行を防ぎきれないためである。当該メジアン径が上記上限を超える場合、トナーの流動性が悪化することで、現像量が低下するおそれがある。
【0065】
ワックス外添剤において、第2のワックスの微粒子表面を被覆する無機微粒子は、カオリン、タルク及びステアリン酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの無機微粒子が好ましい理由としては、カオリンやタルクのように平板結晶構造を有する無機微粒子(層状あるいは扁平状である無機微粒子)は、シリカ、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム等のように球状又は立方体状の無機微粒子よりも、感光体ドラムへの付着力が低くなるためという理由が挙げられる。また、外添剤に一般に用いられることが多いシリカ、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム等はトナーの帯電性への影響も大きいため、なるべく帯電性への影響を少なくできる無機微粒子がよいためという理由が挙げられる。
【0066】
ワックス外添剤において、無機微粒子による第2のワックスの微粒子表面の被覆率は、60%以上90%以下であることが好ましく、65%以上80%以下であることがより好ましい。当該被覆率が上記下限未満の場合、第2のワックスは融点が高いためトナーの耐熱保存性には問題はないが、トナーの流動性不足を誘発して現像量が低下するおそれがある。当該被覆率が上記上限を超える場合、無機微粒子がトナーの帯電性に影響して帯電不良が発生し、現像量にまで影響を及ぼすおそれがある。
【0067】
本実施形態に係るトナーにおいて、第2のワックスの含有量は、トナー粒子100質量部に対して0.7質量部以上1.4質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以上1.3質量部以下であることがより好ましい。第2のワックスの含有量が上記下限未満の場合、トナーの帯電不足による現像不良が発生するおそれがある。第2のワックスの含有量が上記上限を超える場合、トナーの流動性不足による現像不良が発生するおそれがある。
【0068】
本実施形態に係るトナーにおける昇華性染料の含有量をX、第1及び第2のワックスの含有量の合計をYとすると、質量比X/Yは0.5以上2.5以下であることが好ましく、1.5以上2.2以下であることがより好ましい。X/Yが上記下限未満の場合、布帛等の被染色物に対して十分な画像濃度で染色することができないおそれがある。X/Yが上記上限を超える場合、昇華性染料のブリードアウトが発生して、トナーの耐熱保存性が悪化するおそれがある。
【0069】
<その他の外添剤>
本実施形態に係るトナーは、上記のワックス外添剤の他の外添剤を含んでいてもよい。外添剤が担う機能としては、トナーの粉体流動性、摩擦帯電性、耐熱保存性、クリーニング特性を高める機能、感光体表面の摩耗特性を制御する機能等が挙げられる。
【0070】
上記のワックス外添剤の他の外添剤としては、例えば、平均粒径が5nm以上200nm以下のシリカ、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子が挙げられる。これらの無機微粒子の表面に、シランカップリング剤、チタンカップリング剤又はシリコーンオイルで表面処理を施すことで疎水性を付与した無機微粒子が、高湿下において電気抵抗や帯電量の低下が少なくなるためより好適である。
【0071】
外添剤の含有量は、トナー粒子100質量部に対して0.2質量部以上5質量部以下であることが好ましい。外添剤の含有量が上記下限未満の場合、流動性が向上する効果を付与することが難しくなる。外添剤の含有量が上記上限を超える場合、定着性が低下するおそれがある。
【0072】
トナー粒子に対する外添剤の添加方法としては、トナー粒子と外添剤とをヘンシェルミキサー等の気流混合機で混合する方法が挙げられる。
【0073】
本実施形態に係るトナーは、そのまま一成分現像剤として使用してもよく、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。
【0074】
3.トナーの製造方法
本実施形態に係るトナーの製造方法は、結着樹脂、離型剤及び昇華性染料を含むトナー材料を混練することにより混練物を生成する混練工程S1と、混練工程S1にて生成した混練物を粉砕してトナー粒子を生成する粉砕工程S2とを含む。さらに、本実施形態に係るトナーの製造方法は、粉砕工程S2にて生成したトナー粒子を分級する分級工程S3と、分級工程S3にて分級した分級後のトナー粒子に外添剤を添加する外添工程S4とを含む。
【0075】
また、外添工程S4の前には、ワックス外添剤を製造する工程として、第2のワックス微粒子を調製する「ワックスの微粉砕工程」S11と、無機微粒子により第2のワックス微粒子表面を被覆する「無機微粒子による被覆工程」S12と、当該被覆工程S12で得たワックススラリーを乾燥させてワックス外添剤を得る「乾燥工程」S13とを含む。
【0076】
混練工程S1では、トナー材料となる結着樹脂、離型剤、昇華性染料等を、ヘンシェルミキサー等の混合機で混合したのち、混練機を用いてこれらを混練して混練物を得る。
【0077】
混合は乾式であることが好ましく、混合機には、当該技術分野で常用される公知の装置を使用できる。例えば、ヘンシェルミキサー(商品名、日本コークス工業株式会社製)、スーパーミキサ(商品名、株式会社カワタ製)、メカノミル(商品名、岡田精工株式会社製)等のヘンシェルタイプの混合装置、オングミル(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)、コスモシステム(商品名、川崎重工業株式会社製)等といった混合機が挙げられる。
【0078】
混練機には、当該技術分野で常用される公知の装置を使用でき、例えば、二軸押出機、三本ロール、ラボブラストミル等の一般的な混練機が挙げられる。具体的には、例えば、TEM-100B(商品名、東芝機械株式会社製)、PCM-65/87、PCM-30(以上いずれも商品名、株式会社池貝製)等の一軸又は二軸のエクストルーダ、ニーデックス(商品名、日本コークス工業株式会社製)等のオープンロール方式の混練機が挙げられる。これらのなかでも、オープンロール方式の混練機は、混練時のシェアが強くトナー材料を高分散できる点で好ましい。
【0079】
粉砕工程S2では、混練工程S1で得られた混練物を、粉砕機を用いて微粉砕する。粉砕機としては、当該技術分野で常用される公知の装置を使用でき、例えば、超音速ジェット気流を利用して粉砕するジェット式粉砕機、高速で回転する回転子(ロータ)と固定子(ライナ)との間に形成される空間に固化物を導入して粉砕する衝撃式粉砕機が挙げられる。
【0080】
分級工程S3では、粉砕工程S2で得られた微粉砕物であるトナー粒子を、分級機を用いて分級する。分級には、当該技術分野で常用される公知の装置を使用できる。旋回式風力分級機(ロータリー式風力分級機)のように、遠心力及び風力により過粉砕されたトナー粒子を除去できる分級機が好適である。
【0081】
外添工程S4では、分級工程S3で得られたトナー粒子と、ワックス外添剤と、任意の外添剤として疎水性シリカ微粒子とを混合機を用いて混合することによって、トナー粒子に外添剤を付着させる。混合機には、当該技術分野で常用される公知の装置を使用できる。例えば、ヘンシェルミキサー(商品名、日本コークス工業株式会社製)、スーパーミキサ(商品名、株式会社カワタ製)、メカノミル(商品名、岡田精工株式会社製)等のヘンシェルタイプの混合装置、オングミル(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)、コスモシステム(商品名、川崎重工業株式会社製)等といった混合機が挙げられる。
【0082】
以下の、ワックスの微粉砕工程S11から乾燥工程S13までは、ワックス外添剤を製造する工程であるため、上記の外添工程S4よりも前に行われる。
【0083】
ワックスの微粉砕工程S11では、ビーズミルを用いて微粉砕化されたワックススラリーを得る。微粉砕化装置としては当該技術分野で常用される公知の装置を使用できる。本実施形態においては、ビーズミル処理として乾式と湿式のいずれを採用してもよいが、湿式ビーズミル処理を採用することが望ましい。この場合の溶媒としては、水のほか、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒を用いることができる。用いる装置としては、例えば、湿式ビーズミル・ラボスター(商品名、アシザワ・ファインテック株式会社製)が挙げられる。
【0084】
無機微粒子による被覆工程S12では、ワックスの微粉砕工程S11で得たワックススラリーに無機微粒子を添加して懸濁することにより、ワックスの微粒子表面を無機微粒子で被覆したワックススラリーを得る。用いる懸濁装置としては、当該技術分野で常用される公知の装置を使用でき、例えば、アルミエアーモーター竪型撹拌機(ベルヌーイ流撹拌体BEAG E型、日東金属工業株式会社製)が挙げられる。
【0085】
乾燥工程S13では、無機微粒子による被覆工程S12で得たワックススラリーを連続乾燥することにより、ワックス外添剤(ワックスの微粒子表面を無機微粒子で被覆した離型剤)を得る。用いる乾燥装置としては、例えば、フラッシュジェットドライヤー(商品名、株式会社セイシン企業製)が挙げられる。
【0086】
4.二成分現像剤
二成分現像を行う場合、本実施形態に係るトナーとキャリアとを混合することにより、二成分現像剤を調製する。トナーとキャリアとを混合する混合装置としては、例えば、V型混合機(商品名:V-5、株式会社徳寿工作所製)等の粉体混合装置が挙げられる。
【0087】
トナーとキャリアとの配合比としては、例えば、質量比で10:90~5:95の範囲内であることが好ましい。キャリアとしては、当該技術分野において通常使用されるキャリアを使用することができる。また、コートキャリアを使用することも可能である。
【実施例0088】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本開示のトナー及びその製造方法を具体的に説明する。まず、各種測定方法及び評価方法について説明する。
【0089】
1.測定・評価方法
<ワックスの融点の測定>
示差熱分析測定法(DSC法)により測定される、トナーを構成するワックスの吸収熱量ピークの温度を融点とした。常温常湿下で示差熱分析測定装置DSC8230(株式会社リガク製)を用いて、測定用試料10mgを昇温速度10℃/分で20℃から150℃まで加熱する、ASTM D3418-82に準じた測定を行った。
【0090】
<評価項目1:感光体フィルミングの評価>
実施例及び比較例のトナーを、現像装置を有する市販複写機(商品名:MX-5111FN、シャープ株式会社製)に充填し、A4用紙に印字率1%の所定のプリントパターンを高温高湿環境下(温度28℃、湿度80%)で連続印字した。5000枚連続印字後に感光体及びベタ画像を目視で観察することで、感光体フィルミングの評価を行った。
【0091】
感光体フィルミングの評価基準は以下のとおりである。
◎(優秀):感光体上にフィルミングの発生がなく、全く問題がない。
○(良好):感光体上に細かい傷があるがフィルミングの発生はなく、画像にも問題がない。
△(可) :感光体上に若干フィルミングが発生しているが、画像には問題がない。
×(不可):感光体上に多くのフィルミングが発生しており、画像にも問題がある。
【0092】
<評価項目2:低温オフセットの評価>
実施例及び比較例のトナーを、市販複写機(商品名:MX-5111FN、シャープ株式会社製)に充填し、縦20mm、横50mmの長方形のベタ画像を有するA4テスト原稿を、記録用紙(商品名:PPC用紙SF-4AM3、シャープ株式会社製)に印刷して、この記録用紙上における低温オフセットの発生の有無を調べた。この際、ベタ画像部のトナーの付着量を0.5mg/cm2、定着ローラの温度を135℃となるように設定した。なお、低温オフセットとは、トナーが、定着時に記録用紙に定着せず、定着ローラに付着したまま定着ローラが一周した後に、記録用紙に再付着することである。
【0093】
低温オフセットの評価基準は以下のとおりである。
○(良好) :記録用紙へのトナーの再付着は全く確認されなかった。
△(やや良好):記録用紙へのトナーの再付着がやや確認されたものの、その再付着画像の反射濃度(ID)は0.1未満であった。
×(不可) :記録用紙へのトナーの再付着がはっきりと確認され、その再付着画像の反射濃度(ID)は0.1以上であった。
【0094】
<評価項目3:昇華転写効率の評価>
実施例及び比較例のトナーを、市販複写機(商品名:MX-5111FN、シャープ株式会社製)に充填し、縦20mm、横50mmの長方形のベタ画像を有するA4テスト原稿を、中間記録媒体としての記録用紙(商品名:PPC用紙SF-4AM3、シャープ株式会社製)に印刷した。この際、ベタ画像部のトナーの付着量を0.5mg/cm2、定着ローラの温度を135℃となるように設定した。
【0095】
上記二成分現像で得た中間記録媒体について、熱プレス処理による昇華転写前後の中間記録媒体の印刷出力100%にあたる部分に対して、分光光度計(商品名:スペクトロアイ、グレタグマクベス社製)を用いてマゼンタ色の染色濃度を測色した。転写前後の中間記録媒体に付着した染料濃度から、以下の式により昇華転写効率を算出した。
昇華転写効率=(転写後の染料濃度-転写前の染料濃度)/(転写前の染料濃度)×100%
【0096】
算出した昇華転写効率に基づいて、以下の基準で評価を行った。
◎(優秀):昇華転写効率が50%以上である。
○(良好):昇華転写効率が45%以上50%未満である。
△(可) :昇華転写効率が40%以上45%未満である。
×(不可):昇華転写効率が40%未満である。
【0097】
<評価項目4:カブリの評価>
白度計(商品名:ZE6000、日本電色工業株式会社製)を用いて、印刷前用紙の白色度と、印刷後用紙の非画像領域の白色度との差分を測定することにより、以下の基準によりカブリを評価した。
【0098】
◎(優秀):白色度の差分が0.5以下である。
○(良好):白色度の差分が0.5超1.0以下である。
△(可) :白色度の差分が1.0超1.5以下である。
×(不可):白色度の差分が1.5超である。
【0099】
<評価項目5:摩擦に対する染色堅牢度の評価>
実施例及び比較例のトナーを、市販複写機(商品名:MX-5111FN、シャープ株式会社製)に充填して中間記録媒体に画像形成を行った。この中間記録媒体と布帛とを重ね合わせてから熱プレス処理を行うことで、布帛を昇華転写染色した。具体的には、下記3種類の布帛に対して、180℃で35秒間という条件で熱プレス処理して昇華転写染色を行い、3種類の試験布を調製した。
布帛1:PETトロマット(ポリエステルの厚手の生地で、ハトメ穴加工及び袋縫い加工が施されている布)
布帛2:T/C混(ポリエステルと綿とを混紡した布)
布帛3:綿ブロート(綿生地の密度が高く、光沢がある平織り布)
【0100】
上記のようにして得られた各試験布に対して、JIS L0849に規定の方法に従い、II型(学振型)試験機を用いて摩擦に対する染色堅牢度試験を実施した。乾摩擦はJIS L0849に規定される乾燥試験、湿摩擦はJIS L0849に規定される湿潤試験に則って試験し、汚染グレースケールを用いて以下の基準で評価した。
【0101】
◎(優秀):染色堅牢度が4-5級以上である。
○(良好):染色堅牢度が4級である。
△(可) :染色堅牢度が3-4級である。
×(不可):染色堅牢度が3級以下である。
【0102】
<評価項目6:トナーの現像量の評価>
OPC(有機光導電体)の幅方向両端から3cmに位置する2箇所と幅方向中央部の1箇所との計3箇所に、1cm×1cmの正方形にカットした型紙をそれぞれ取り付け、Q/mメータ(商品名:210HS、Trek社製)を用いてOPC上のトナーを吸い取った。吸引したトナー量を吸引した面積で割ることにより算出される、OPC上の単位面積当たりのトナー量を、現像量とした。
【0103】
トナーの現像量の評価基準は以下のとおりである。
◎(優秀):現像量が0.2mg/cm2以上0.25mg/cm2未満である。
○(良好):現像量が0.25mg/cm2以上0.3mg/cm2未満である。
△(可) :現像量が0.3mg/cm2以上である。又は、現像量が0.2mg/cm2未満である。
【0104】
2.トナー及び二成分現像剤の製造
[実施例1]
<トナー粒子の製造工程>
トナー粒子(トナーコア)の作製には、以下のトナー材料を使用した。
【0105】
・結着樹脂
スチレンアクリル樹脂(商品名:CPR-190、三井化学株式会社製) 82.0質量%
・昇華性染料
Disperse Yellow 54(商品名:Plast Yellow 8040、有本化学工業株式会社) 3.0質量%
Disperse Red 60(商品名:Plast Red 8375-N、有本化学工業株式会社) 5.0質量%
Disperse Blue 56(商品名:KP Plast Blue BG、紀和化学工業株式会社) 5.0質量%
・帯電制御剤
サリチル酸系化合物(商品名:ボントロンE-84、オリヱント化学工業株式会社) 1.0質量%
・離型剤(第1のワックス)
ポリエチレンワックス(商品名:サンワックス161-P、三洋化成株式会社製) 4.0質量%
【0106】
気流混合機(ヘンシェルミキサー、型式:FM20C、日本コークス工業株式会社製)を用いて、上記の材料を5分間、前混合した後、二軸押出機(型式:PCM30型、株式会社池貝製)を用い、シリンダ設定温度110℃、バレル回転数200rpm、材料供給速度15kg/時間の条件で溶融混練して溶融混練物を得た。[混合・混練工程]
【0107】
得られた溶融混練物を、ドラムフレーカーで冷却させた後、カッティングミル(型式:VM-16、オリエント株式会社製)を用いて粗粉砕して粗粉砕品を得た。[粗粉砕工程]
【0108】
次いで、得られた粗粉砕品を、ジェット式粉砕機(型式:IDS-2、日本ニューマチック工業株式会社製)を用いて微粉砕し、微粉砕品を得た。[微粉砕工程]
【0109】
得られた微粉砕品を、エルボージェット分級機(型式:EJ-LABO、日鉄鉱業株式会社製)を用いて分級して、平均一次粒子径5.5μmのトナー粒子を得た[分級工程]。
【0110】
<ワックス外添剤の調製工程>
(1)ワックス分散液の調製
ビスコール660P(三洋化成株式会社製、融点136℃)を溶媒に分散してなる分散液を、以下のようにして調製した。
【0111】
このワックス粉末450gをイオン交換水1,050gに投入して得られた混合液に対し、湿式ビーズミル装置ラボスター(型式:LMZ06、アシザワ・ファインテック株式会社製)をアジテータ周速12m/s、処理時間25分の条件で使用して、ワックス微粒子を含む分散液(ワックススラリー)を得た。[ワックス微粉砕工程]
【0112】
(2)ワックスの粒度測定
得られた上記ワックススラリーにおける、ワックス微粒子の体積基準のメジアン径(D50)を、マイクロトラック(型式:UPA-150、日機装株式会社製)にて測定したところ、100nmであった。
【0113】
(3)無機微粒子によるワックス微粒子表面の被覆
得られた上記ワックススラリー1,500mLとタルク(ミクロエース SG-2000、日本タルク工業株式会社製)600gとをタンクに投入し、アルミエアーモーター撹拌機で900rpm、30分間撹拌して、無機微粒子によるワックス微粒子表面の被覆率が85%になるように混合した。[無機微粒子による被覆工程]
【0114】
(4)乾燥工程
上記(3)の工程を経たワックススラリーを、気流乾燥機(フラッシュジェットドライヤー、株式会社セイシン企業製)にて乾燥してワックス外添剤(第2のワックスを含む離型剤)を得た。乾燥の条件は、吹き込み温度を60℃、乾燥機の出口温度を30℃とし、上記ワックススラリーの供給速度は出口温度が30℃から外れない速度に調整した。[乾燥工程]
【0115】
<外添工程>
上記「トナー粒子の製造工程」で得たトナー粒子100質量部と、疎水性シリカ微粒子(商品名:フュームドシリカR976S、平均一次粒子径7nm、日本アエロジル株式会社製)1.0質量部と、上記「ワックス外添剤の調製工程」で得たワックス外添剤2.5質量部とを気流混合機(ヘンシェルミキサー、型式:FM20C、日本コークス工業株式会社製)に投入し、撹拌羽根先端部の最外周における周速度を40m/秒に設定し1分間撹拌混合して、実施例1のトナー(体積平均粒径5.9μm、変動係数24%)約2,000gを得た。[外添工程]
【0116】
<二成分現像剤の作製>
得られたトナーと、コートキャリア(シャープ株式会社製のMX-5111FN用純正キャリア)とを、トナー濃度が7質量%となるように、V型混合機(商品名:V-5、株式会社徳寿工作所製)にて20分間混合して二成分現像剤を作製した。
【0117】
[実施例2~28、比較例1~6]
ここで、表1に、実施例及び比較例にて使用したワックスの一覧を示す。また、表2に、実施例及び比較例において使用した、第1のワックス(内添したワックス)の種類、第2のワックス(ワックス外添剤として外添したワックス)の種類、及びワックス外添剤に用いた無機微粒子の種類等をまとめた一覧を示す。なお、表2における第2のワックスの添加量は、トナー粒子100質量部に対する添加量[質量部]である。
【0118】
第1のワックスの種類、第2のワックスの種類・添加量、無機微粒子の種類、及び無機微粒子による被覆率を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてトナー及び二成分現像剤を得た。
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
表3は、実施例及び比較例の評価結果を示したものである。この評価結果から明らかなように、トナー粒子の表面に外添剤が付着したトナーであって、前記トナー粒子は結着樹脂と昇華性染料と第1のワックスとを含み、前記外添剤は第2のワックスの微粒子表面を無機微粒子で被覆した離型剤(表2でいう「ワックス外添剤」)を含み、前記第2のワックスの融点が120℃以上150℃以下である実施例1~28のトナーは、昇華転写法による染色に用いた場合に、摩擦に対する染色堅牢度に優れるものであった。また、感光体フィルミング、低温オフセット及びカブリの発生を抑制でき、昇華転写効率にも優れるものであった。
【0123】
これに対して、これらの要件を満たさない比較例1~6は、少なくとも摩擦に対する染色堅牢度の評価において実施例に対して劣っていた。
【0124】
実施例2~6は、融点が異なるワックスを使用した例である。第1のワックスの融点が70℃以上110℃以下である実施例4,5は、当該融点が上記下限未満である実施例3よりも感光体フィルミングの評価に優れることがわかる。また、当該融点が上記上限を超える実施例6よりも低温オフセットの評価に優れることがわかる。また、第2のワックスの融点が120℃以上150℃以下の範囲内である実施例のなかでも、当該融点が130℃以上140℃以下の範囲内である実施例1は、最も摩擦に対する染色堅牢度の評価に優れ、その他の各種評価にも優れることがわかる。
【0125】
実施例7は、第2のワックスとしてアミドワックスを使用した例である。第2のワックスがポリプロピレンワックスである実施例2等は、第2のワックスがアミドワックスである実施例7よりも、カブリの評価に特に優れることがわかる。
【0126】
実施例4,8は、第1のワックスとしてエステルワックスを使用した例である。第1のワックスがパラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はフィッシャートロプシュワックスである実施例1,2,9等は、第1のワックスがエステルワックスである実施例4,8よりも、昇華転写効率の評価に特に優れることがわかる。
【0127】
実施例10~13は、第2のワックスの微粒子のメジアン径(ワックス外添剤におけるワックス微粒子の粒径)を変化させた例である。第2のワックスの微粒子のメジアン径が0.4μm以上である実施例11等は、当該メジアン径が0.4μm未満である実施例10よりも、低温オフセットの評価に特に優れることがわかる。また、第2のワックスの微粒子のメジアン径が1.0μm以下である実施例12等は、当該メジアン径が1.0μmを超える実施例13よりも、現像量の評価に特に優れることがわかる。
【0128】
実施例14~16は、ワックス外添剤が含む無機微粒子を変化させた例である。使用した無機微粒子がカオリン、タルク又はステアリン酸亜鉛である実施例1等は、無機微粒子が酸化チタン、シリカ又はチタン酸ストロンチウムである実施例14~16よりも、感光体フィルミング及びカブリの評価に特に優れることがわかる。
【0129】
実施例17~20は、ワックス外添剤における、無機微粒子による第2のワックス微粒子表面の被覆率を変化させた例である。当該被覆率が60%以上90%以下である実施例18,19は、当該被覆率が上記範囲外である実施例17,19よりも、現像量の評価に特に優れることがわかる。
【0130】
実施例21~24は、トナー粒子100質量部に対する第2のワックスの添加量を変化させた例である。第2のワックスの添加量がトナー粒子100質量部に対して0.7質量部以上1.4質量部以下である実施例22,23は、当該添加量が上記範囲外である実施例21,24よりも、現像量の評価に特に優れることがわかる。
【0131】
実施例25~28は、昇華性染料の含有量をX、第1及び第2のワックスの含有量の合計をYとしたときの質量比X/Yを変化させた例である。質量比X/Yが0.5未満である実施例25では、染色対象の布帛に対して十分な画像濃度を得ることができなかった。。質量比X/Yが2.5を超える実施例28では、染料のブリードアウトが発生し、トナーの耐久性が悪化した。
【0132】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本開示の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。